特許第6294880号(P6294880)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6294880試料を観察し、化学種または生物学的種を検出または計量するための光学的方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294880
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】試料を観察し、化学種または生物学的種を検出または計量するための光学的方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/41 20060101AFI20180305BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20180305BHJP
   G01N 21/55 20140101ALI20180305BHJP
【FI】
   G01N21/41 101
   G01N21/27 Z
   G01N21/55
【請求項の数】29
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-523652(P2015-523652)
(86)(22)【出願日】2013年7月26日
(65)【公表番号】特表2015-522830(P2015-522830A)
(43)【公表日】2015年8月6日
(86)【国際出願番号】IB2013056153
(87)【国際公開番号】WO2014016813
(87)【国際公開日】20140130
【審査請求日】2016年7月4日
(31)【優先権主張番号】1257279
(32)【優先日】2012年7月26日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502205846
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク
(73)【特許権者】
【識別番号】511186675
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ デュ メーヌ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DU MAINE
(73)【特許権者】
【識別番号】515023154
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ デクス−マルセイユ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オセール ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】ルセイユ ルドヴィク
(72)【発明者】
【氏名】ゼラト ミリアン
(72)【発明者】
【氏名】ルマルシャン ファビアン
(72)【発明者】
【氏名】アムラ クロード
【審査官】 横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/112431(WO,A1)
【文献】 特開平06−265336(JP,A)
【文献】 特表2008−506098(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0194106(US,A1)
【文献】 特開2005−180921(JP,A)
【文献】 特開2007−248253(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/075578(WO,A1)
【文献】 仏国特許出願公開第02872910(FR,A1)
【文献】 国際公開第2006/013287(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0062422(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0106570(US,A1)
【文献】 国際公開第2003/083478(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第01496363(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/74
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料(EO)を観察するための方法であって、
a)0.001より大きいまたはこれに等しい虚部kを有する複素屈折率を有する、コントラスト増幅層と呼ばれる少なくとも1つの層(CA)が堆積された透明基板(ST)を備える試料支持体(SAC)を提供するステップと、
b)観察される前記試料を、前記支持体上の前記コントラスト増幅層の側に置くステップと、
c)前記試料に、前記基板を通し、偏光されない空間的インコヒーレントの、波長λまたは平均波長λの光ビーム(F)を照らすステップであって、前記光ビームは、20°より大きいまたはこれに等しい開口半角θを有する照明コーンを形成するように集束されるステップと、
d)前記試料を対物レンズ(LO)および前記基板を通して観察するステップと、含み、
前記コントラスト増幅層は、前記試料が前記支持体の不在の場合よりも高いコントラストで、前記波長λまたは前記平均波長λで観察されるように寸法調整され、方法。
【請求項2】
前記虚部kが、0.01より大きいまたはこれに等しい、請求項1に記載の試料を観察するための方法。
【請求項3】
前記コントラスト増幅層が、金属製である、請求項1または2に記載の試料を観察するための方法。
【請求項4】
前記照明コーンの開口半角が、20°から75°の間であり、
前記照明コーンの軸は、前記基板に対して垂直である、請求項1から3のいずれか一項に記載の試料を観察するための方法。
【請求項5】
前記照明コーンの開口半角が、30°から70°の間である、請求項4に記載の試料を観察するための方法。
【請求項6】
前記照明コーンの開口半角が、40°から65°の間である、請求項5に記載の試料を観察するための方法。
【請求項7】
前記対物レンズが、前記試料を照らしかつ観察するために使用される、請求項1からのいずれか一項に記載の試料を観察するための方法。
【請求項8】
前記コントラスト増幅層および前記試料が、水中または水溶液中に浸漬される、請求項1からのいずれか一項に記載の試料を観察するための方法。
【請求項9】
前記コントラスト増幅層が、厚さこう配を有する、請求項1からのいずれか一項に記載の試料を観察するための方法。
【請求項10】
前記コントラスト増幅層の前記厚さまたは局所的厚さが、少なくとも1つの照明波長に対して、前記照明コーン上に統合されたコントラストを最適化するように決定され、前記コントラストによって、前記コントラスト増幅層の前記厚さのバリエーションから構成された基準試料が観察される、請求項1からのいずれか一項に記載の試料を観察するための方法。
【請求項11】
前記コントラスト増幅層を寸法調整する事前ステップを含み、
前記事前ステップは、
−前記基準試料が観察されるコントラストを表す領域を、照明波長に対して正規化された前記層の前記厚さおよび前記照明ビームの前記開口半角θの関数として算出するステップと、
−前記開口半角θを表す軸に対してほぼ平行な配向を有する、前記領域の頂点または凹線を特定するステップと、
前記頂点または凹線に対応する、前記層の厚さの値、または値の範囲を特定するステップとを含み、
前記コントラスト増幅層の前記厚さまたは局所的厚さが、こうして特定された前記値に等しくまたは前記値の範囲内で選択される、請求項10に記載の試料を観察するための方法。
【請求項12】
前記試料支持体が、前記コントラスト増幅層の上方に、少なくとも1つの化学種または生物学的種(ECD)を結合させることができる官能基化層(CF)を有し、
前記方法が、前記官能基化層を、結合される前記化学種または生物学種の溶液と接触させるステップであって、その結果、前記化学種または生物学的種が、前記官能基化層の上方に、観察される前記試料を構成する層(CE)を形成するステップを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の試料を観察するための方法。
【請求項13】
前記または少なくとも1つの化学種または生物学的種が、吸水性であり、0.0001より大きいまたはこれに等しい虚部kを有する複素屈折率を有しており、または散乱性である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記官能基化層が、異なる化学種または生物学的種を結合させることができる複数のスポットの形態である、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記コントラスト層が、前記スポットに対応する位置においてのみ堆積される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記支持体が、前記スポットの外側に、前記溶液中に含まれたいかなる化学種または生物学的種の結合も防止する不動態化層を含む、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つの化学種または生物学的種を検出する、または定量的に決定するための方法であって、
a)少なくとも1つの化学種または生物学的種を結合させることができる少なくとも1つの官能基化層(CF)が堆積された透明基板(ST)を提供するステップと、
b)前記官能基化層を、金属ナノ粒子または吸収性もしくは散乱性のラベルで標識された化学種または生物学的種を含む少なくとも1つの溶液と接触させて置くステップであって、前記種が、前記官能基化層に、直接的、または1つまたは複数の他の化学種または生物学的種を用いて結合することができ、その結果、前記粒子は、連続的または非連続的な、金属製の、吸収性もしくは散乱性の層(CM)を形成する、ステップと、
c)少なくとも前記官能基化層および金属製の、吸収性または散乱性の層から構成された組立体に、前記基板を通して、偏光されない空間的インコヒーレントの、波長λまたは平均波長λの光ビーム(F)を照らすステップであって、前記光ビーム(F)が、20°より大きいまたはこれに等しい開口半角θを有する照明コーンを形成するように集束される、ステップと、
d)前記組立体を、対物レンズ(LO)および前記基板を通して、前記波長λまたは前記平均波長λで観察するステップと、を含む、方法。
【請求項18】
ステップb)中、前記官能基化層が、検出されるまたは定量的に決定される、金属ナノ粒子(NPM)または吸水性もしくは散乱性のラベルで標識された化学種または生物学的種(ECD)を含む溶液(S)と接触して置かれ、前記種は、前記官能基化層と結合し、それによって前記連続的または非連続的な金属層(CM)を形成することができる、請求項17に記載の少なくとも1つの化学種または生物学的種を検出する、または定量的に決定するための方法。
【請求項19】
前記ステップb)が、
b1)前記官能基化層を、検出されるまたは定量的に決定される化学種または生物学的種を含む第1の溶液(S1)と接触させて置き、それによって「中間」層(CI)を形成するサブステップと、
b2)前記中間層を、「補助的」化学種または生物学的種(ECA)を含む第2の溶液(S2)と接触させて置くサブステップであって、前記「補助的」化学種または生物学的種が、金属ナノ粒子または吸水性もしくは散乱性のラベルで標識され、前記中間層と結合し、それによって前記連続的または非連続的な、金属製の、吸水性もしくは散乱性の層(CM)を形成することができるサブステップとを含む、請求項17に記載の少なくとも1つの化学種または生物学的種を検出する、または定量的に決定するための方法。
【請求項20】
前記ステップb)が、
b1)前記官能基化層を、中間種(ECT)と呼ばれる化学種または生物学的種を含む第1の溶液(S1)と接触させて置くサブステップであって、前記第1の化学種または生物学的種が、金属ナノ粒子または吸水性もしくは散乱性のラベルで標識され、前記官能基化層と結合し、それによって前記連続的または非連続的な、金属製の、吸水性もしくは散乱性の層(CM)を形成することができる、サブステップと、
b2)前記官能基化層および前記金属性または吸収性もしくは散乱性の層を、検出されるまたは定量的に決定される前記化学種または生物学的種を含む第2の溶液(S2)と接触させて置くサブステップであって、前記第2の溶液が、前記中間種のものより大きい前記官能基化層との親和性を有し、その結果、前記中間種は変位され、前記金属性の、吸収性または散乱性の層は、少なくとも部分的に無くされるサブステップとを含む、請求項17に記載の少なくとも1つの化学種または生物学的種を検出する、または定量的に決定するための方法。
【請求項21】
前記ステップb)中、前記官能基化層が、定量的に決定される前記化学種または生物学的種、および前記競合の化学種または生物学的種(ECC)も含む溶液(S)と接触して置かれ、前記2つの種のうち1つは、金属ナノ粒子または吸収性もしくは散乱性のラベルで標識され、その結果、連続的または非連続的な金属製の、吸水性もしくは散乱性の層(CM)が得られ、その有効厚さは、前記競合の化学種または生物学的種の濃度と、定量的に決定される前記化学種または生物学的種のものとの間の比によって決まる、請求項17に記載の少なくとも1つの化学種または生物学的種を定量的に決定するための方法。
【請求項22】
前記照明コーンの前記開口半角が、20°から75°の間であり、前記コーンの軸が、前記基板に対して垂直である、請求項17から21のいずれか一項に記載の検出する、または定量的に決定するための方法。
【請求項23】
前記照明コーンの前記開口半角が、30°から70°の間である、請求項22に記載の検出する、または定量的に決定するための方法。
【請求項24】
前記照明コーンの前記開口半角が、40°から65°の間である、請求項23に記載の検出する、または定量的に決定するための方法。
【請求項25】
前記同じ対物レンズが、前記組立体を照らし、観察するために使用される、請求項17から24のいずれか一項に記載の検出する、または定量的に決定するための方法。
【請求項26】
前記官能基化層が、前記基板の表面上に置かれた複数のスポットの形態であり、異なる化学種または生物学的種を結合させることができる、請求項17から25のいずれか一項に記載の検出する、または定量的に決定するための方法。
【請求項27】
0.001より大きいまたはこれに等しい虚部kを有する複素屈折率を有するコントラスト増幅層と呼ばれるものが、前記基板と前記官能基化層の間に間置される、請求項17から26のいずれか一項に記載の検出する、または定量的に決定するための方法。
【請求項28】
前記虚部kが、0.01より大きいまたはこれに等しい、請求項27に記載の検出する、または定量的に決定するための方法。
【請求項29】
前記支持体が、前記スポットの外側に、前記溶液中に含まれたいかなる化学種または生物学的種の結合も防止する不動態化層を含む、請求項26から28のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を観察するための光学的方法に関し、化学種または生物学的種を検出し、定量的に決定するための光学的方法にも関する。これらの方法は、新規に発見された同じ原理に基づく。
【背景技術】
【0002】
本発明は、生物学(生体分子または微生物の検出、細胞培養の観察)、ナノ技術(ナノチューブなどのナノ物体の視覚化)、ミクロ電子工学、材料化学などのさまざまな技術分野に適用されることが可能である。これらの分野の一部では、これは、SPR(表面プラズモン共鳴)、LSPR(局在化SPR)、およびSERS(表面増感ラマン分光法)技術などの表面プラズモンに基づく従来の検出技術の代替策を構成することができる。これらの従来の技術の説明のために、M.E.Stewartらによる「Nanostructured Plasmonic Sensors」、Chem.Rev.2008年、108、494−521の記事、およびS.A.Meyerらによる「Combining Surface Plasmon Resonance(SPR) Spectroscopy with Surface−Enhanced Raman Scattering (SERS)」、Anal.Chem.2011年、83、2337−2344の記事に参照がなされ得る。
【0003】
これらの技術の限界は、たとえば、バイオチップの密度を増大させるのに有用である高い空間分解能を得ることが難しいという事実からなる。その理由は、これらの技術が、官能基化された金属層を使用し、この金属層は、平行になった、したがって集束されない光ビームによって照らされなければならず、さもなければかなりのコントラスト損失が存在するためである(S.A.Meyerらによる上述した記事を参照)。したがって、光学顕微鏡法下で従来のプラズモンセンサを照らし、観察することは可能でない。平行な照明ビームと共に使用される他のプラズモン画像化技術は、すべての場合において、数十ミクロンに限定される分解能を有する。たとえば、Charles T.Campbell、GibumKimの「SPR microscopy and its applications to high−throughput analyses of biomolecular binding events and their kinetics」、Biomaterials 28、(2007年)2380−2392を参照。
【0004】
特許文献の国際公開第2004/001399号パンフレット、ならびにD.AusserreおよびM.P.Valignatによる「Surface enhanced ellipsometric contrast(SEEC) basic theory and λ/4 multilayered solutions」、Optics Express、Vol.15,No.13、2007年、7月25日による記事は、「表面増強された偏光解析コントラスト」またはSEECとして知られている高コントラストの光学顕微鏡法技術を説明しており、これは図1に示される。この技術によれば、観察される試料EOは、通常は反射基板である基板SRと、反射防止層または多層構造CAとを備えるコントラスト増幅支持体SAC’上に堆積される。試料およびその支持体から構成された組立体は、偏光板Pによって線形に偏光された空間的インコヒーレント光ビームFによって照らされる。ビームFは環状でよく、いずれの場合も、これは、対物レンズLOによって支持体−試料組立体上に集束され、その伝搬軸は、前記支持体の表面に対して垂直である。環状ビームFの場合、光線は、支持体の法線と共に、θ最小からθ最大の間の入射角度を形成し、ビームが環状でない場合、θ最小→0°である。観察は、偏光分析器Aによって行われ、この偏光分析器Aは、通常、その偏光軸がビームFの偏光の方向に対して垂直であるように配向される(そのため、これは、偏光板Pおよび分析器Aが交差されると言われる)。有利には、対物レンズLOはまた、観察にも使用される。こうして、前記対物レンズならびに偏光板および分析器は、偏光式顕微鏡を形成する。
【0005】
反射防止層または多層構造CAは、支持体SAC’によって反射されて分析器Aを通過する光強度を最小限に抑えるように、または理想的には打ち消すように寸法調整される。通常は、透明である物体は、消光状態を妨げ、したがって、黒色背景上に発光形態として現れる。
【0006】
厳密に言えば、消光状態は、単一の入射角度θに対して満たされ、これは、θ最小=θ最大=θを有する環状照明に対応するが、明らかなことに、これらの状態下では、光強度はゼロ方向の傾向がある。最も現実的には、θ最大−θ最小の間隔は、約5°になるように選択され得る。変形形態として、上述した文献は、「円錐」照明(すなわち、θ最小=0°によって特徴付けられる非環状照明)に頼ることを可能にし、このときθ最大は、場合によっては20°または30°にも達する。この場合、支持体SAC’は、平均入射角度に基づいて寸法調整される。
【0007】
これらの状態下では、照明状態の選択は、妥協点となり、全体的に満足するものにはなり得ない。その理由は、
−環状照明は、実施が難しく、θ最大−θ最小の間隔が小さくなるほど一層弱くなる光強度を含むため、
−消光は、実際には単一の入射角度においてのみ得られるため、約20°またはそれ以上のθ最大を有する強収束の円錐照明の結果、コントラストは弱くなるため、
−弱収束円錐照明は、対物レンズの開口が小さく、それによって試料が観察される空間分解能を限定することを伴うため、である。
【0008】
SPR技術のように、SEEC方法は、生物学的または生物化学的分析に適用され得る。たとえば、支持体SAC’は、ペトリ皿の底部を構成することができ、この場合、観察は、通常、培養培地内の浸漬によって行われなければならないが、これは時には難しい。
【0009】
特許文献の国際公開第02/50513号パンフレットは、SEEC技術を、空間分解能による偏光解析測定の実施および生物学的センサの製作にも適用することを説明している。この場合もまた、高い空間分解能および満足のいくコントラストの両方を得ることは難しく、さらに、観察は、特に、生物学または生物化学学への適用に関して時には難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2004/001399号パンフレット
【特許文献2】国際公開第02/50513号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】M.E.Stewartらの「Nanostructured Plasmonic Sensors」、Chem.Rev.2008年、108,494−521
【非特許文献2】S.A.Meyerらの「Combining Surface Plasmon Resonance(SPR) Spectroscopy with Surface−Enhanced Raman Scattering(SERS)」、Anal.Chem.2011年,83,2337−2344
【非特許文献3】CharlesT.Campbell,GibumKimの「SPR microscopy and its applications to high−hroughput analyses of biomolecular binding events and their kinetics」、Biomaterials28、(2007年)2380−2392
【非特許文献4】D.AusserreおよびM.P.Valignatによる「Surface enhanced ellipsometric contrast(SEEC) basic theory and λ/4 multilayered solutions」、Optics Express,Vol.15,No.13、2007年、7月25日
【非特許文献5】Guangbin Wang、FuxiGanの「Optical parameters and absorption studies of azodye−doped polymerthin films on silicon」Materials Letters 43 2000年、6−10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上述した従来技術の欠点を改めることを目的とする。これを行うために、これは、本発明者によって新しく発見された効果に基づく。実際、後者は、薄い物体(通常はナノメートル厚さの層)が、透明基板と、金属製のまたはより一般的には吸収性のコーティングとを備える支持体上に堆積され、次いで、反転形状の顕微鏡下で(すなわち、基板を通した照明および観察によって)観察され、これは、コーティングの厚さの特定の値に対して、顕微鏡の開口数の、前記開口の幅広い範囲のバリエーションとは事実上無関係に、相対的に高いコントラストを生み出す。驚くべきことに、この効果は、偏光された光(互いに交差される偏光板および分析器を通した観察)下、および偏光されない光下の両方で認められる。偏光された光の使用は、特定の状態下では、コントラスの増大を可能にするが、偏光されない光の使用は、偏光板および分析器によって引き起こされた光の損失を回避し、方法の実施を簡易化し、より一様である画像を得ることを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明の手段は、試料を観察するための方法であって、
a)0.001より大きいまたはこれに等しい、好ましくは0.011より大きいまたはこれに等しい虚部kを有する複素屈折率を有する、コントラスト増幅層と呼ばれる少なくとも1つの層が堆積された透明基板を備える試料支持体を提供するステップと、
b)観察される試料を、前記支持体上の、前記コントラスト増幅層の側に置くステップと、
c)前記試料上に、前記基板を通し、偏光されたまたは偏光されない空間的インコヒーレント光ビームを方向付けるステップであって、空間的インコヒーレント光ビームは、20度(°)より大きいまたはこれに等しい開口半角θを有する照明コーンを形成するように集束される、ステップと、
d)前記試料を対物レンズおよび前記基板を通して観察するステップとを含み、
前記コントラスト増幅層は、前記試料が、前記支持体の不在の場合よりも高いコントラストで観察されるように寸法調整される、方法である。
【0014】
偏光された光下の、たとえば、互いに交差される偏光板と分析器の間の観察も可能である。
【0015】
観察は、裸眼またはCCDマトリクスなどの画像センサで実施され得る。試料の一部分によって反射された光強度だけが、(たとえばバイオチップタイプの用途などで)測定されなければならない場合、観察は、光電子増倍管または光ダイオードなどの光検出器を用いて実施され得る。
【0016】
そのようなプロセスのさまざまな実施形態によれば、
−前記増幅層は、金属性でよい。本発明によるコントラスト増幅層を生成するのに適し得る他の吸収性材料は、半導体、金属酸化物、金属および/または半導体の合金、染料が装填された誘電体(特に感光性ポリマーまたは樹脂)、高分子電解質(電荷に関連付けられた金属対イオンに因る)、蛍光性物質、ナノ粒子フィルム、これらの構成物の混合物からの形成された複合材料、特に吸収性ナノ粒子が装填された誘電体である。染料またはナノ粒子が装填された誘電体層の使用は、これが、kを、染料またはナノ粒子それぞれの濃度を調整することによって固定されたnに調製することを可能にするので、特に有利な選択肢を構成する。この点において、Guangbin Wang、FuxiGanの「Optical parameters and absorption studies of azo dye−doped polymer thin films on silicon」 Materials Letters 43 2000年、6−10を参照されたい。別の興味深いケースは、散乱による損失のために、散乱中心のサイズおよび密度を介して調整可能である有意のkを有する散乱媒体からなる。
【0017】
−前記照明コーンの開口半角は、20°から75°の間、好ましくは30°から70°の間、より好ましくは40°から65°の間になることができ、前記コーンの軸は、前記基板に対して垂直である。
【0018】
−前記対物レンズは、前記試料を照らし、観察するための両方に使用され得る。
【0019】
−前記コントラスト増幅層および前記試料は、水または水溶液に浸漬され得る。
【0020】
−前記コントラスト増幅層は、厚さこう配を有することができる。
【0021】
−前記コントラスト増幅層の厚さまたは局所的厚さは、照明の少なくとも1つの波長に対して、前記照明コーン上に統合されたコントラストを最適化するように決定されることが可能であり、このコントラストを用いて、前記コントラスト増幅層の厚さのバリエーションからなる基準試料が、観察される。
【0022】
−方法は、前記コントラスト増幅層を寸法調整する事前ステップであって、
−前記基準試料が観察されるコントラストを表す領域を、照明波長に対して正規化された前記層の厚さおよび照明ビームの開口半角θの関数として(通常はコンピュータを用いて)算出するステップと、
−前記領域の、前記開口半角θを表す軸に対してほぼ平行な配向を有する、頂点または凹線を特定するステップと、
−前記頂点または凹線に対応する、前記層の厚さの値、または値の範囲を特定するステップとを含み、
前記コントラスト増幅層の厚さまたは局所的厚さが、こうして特定された値に等しくまたはその値範囲内で選択される、事前ステップを含むことができる。
【0023】
凹線は、谷の底線として定義されることが想起される。
【0024】
−前記試料支持体は、前記コントラスト増幅層の上方に、少なくとも1つの化学種または生物学的種を結合させることができる官能基化層を有することができ、方法はまた、前記官能基化層を、結合される前記化学種または生物学的種の溶液に接触させるステップであって、その結果、前記化学種または生物学種が、前記官能基化層の上方に、観察される試料を構成する層を形成する、ステップも含む。コントラストは、前記化学種または生物学的種が、吸収性であり、0.0001より大きいまたはこれに等しい虚部kを有する複素屈折率を有する場合に、または散乱性である場合により良好である。官能基化層は、異なる化学種または生物学種を結合させることができる複数のスポットの形態でよく、この場合、前記コントラスト層が、前記スポットに対応する位置にのみ堆積されることおよび/または前記支持体が、前記スポットの外側に、前記溶液中に含まれたいかなる化学種または生物学的種の結合も防止する不動態化層を含むことが好ましい。
【0025】
−好ましくは、前記空間的インコヒーレント光ビームは、偏光されない。
【0026】
本発明の別の主題は、少なくとも1つの化学種または生物学的種を検出する、または定量的に決定するための方法であって、
a)少なくとも1つの化学種または生物学的種を結合させることができる少なくとも1つの官能基化層が堆積された透明基板を提供するステップと、
b)前記官能基化層を、金属ナノ粒子または吸収性ラベルで標識された(すなわち、任意選択では、少なくとも1つの照明波長に対して吸収性である)化学種または生物学的種を含む少なくとも1つの溶液と接触させて置くステップであって、前記種が、前記官能基化層に、直接的、または1つまたは複数の他の化学種または生物学的種を用いて結合することができ、その結果、前記粒子は、連続的または非連続的な、吸収性もしくは散乱性の金属層を形成する、ステップと、
c)少なくとも前記官能基化層および金属製の、吸収性または散乱性の層から構成された組立体上に、前記基板を通して、空間的インコヒーレント、好ましくは偏光されない光ビームを向けるステップであって、この光ビームが、20°より大きいまたはこれに等しい開口半角θを有する照明コーンを形成するように集束される、ステップと、
d)前記組立体を、対物レンズおよび前記基板を通して観察するステップとを含む方法である。
【0027】
吸水性または散乱性の金属層は、ここでは、コントラスト増幅層および試料層の両方として作用し、その存在または不在、および厚さのそのバリエーションまたは有効厚さは、比較的高いコントラストで視覚化され、それによって前記化学的種または生物学的種の存在を検出し、ならびに/またはその濃度を測定する(定量的決定)ことが可能になる。
【0028】
偏光された光下の、たとえば互いに交差される偏光板と分析器の間の観察もまた可能であり、層の寸法調整は、同じようにして実施されるが、通常は、異なる厚さの層を生じさせ、屈折率に関して異なる状態を伴う。同様に、照明光ビームを集束させず、および/または対物レンズを通した観察を実施しないことも可能であるが、その結果、空間分解能の損失を生み出す。
【0029】
そのような方法の第1の実施形態によれば、ステップ(b)中、前記官能基化層は、検出されるまたは定量的に決定される、金属ナノ粒子または吸水性もしくは散乱性のラベルで標識された化学種または生物学的種を含む溶液と接触して置かれ、前記種は、前記官能基化層と結合し、それによって前記連続的または非連続的な金属層を形成することができる。
【0030】
そのような方法の第2の実施形態によれば、前記ステップb)は、
b1)前記官能基化層を、検出されるまたは定量的に決定される化学種または生物学的種を含む第1の溶液と接触させて置き、それによって「中間」層を形成する、サブステップと、
b2)前記中間層を、「補助的」化学種または生物学的種を含む第2の溶液を含む第2の溶液と接触させて置くサブステップであって、「補助的」化学種または生物学的種が、金属ナノ粒子または吸水性ラベルで標識され、前記中間層と結合し、それによって前記連続的または非連続的な、吸収性もしくは散乱性の金属層を形成することができる、サブステップとを含む。
【0031】
そのような方法の第3の実施形態によれば、前記ステップb)は、
b1)前記官能基化層を、中間種と呼ばれる化学種または生物学的種を含む第1の溶液と接触させて置くサブステップであって、この化学種または生物学的種が、金属ナノ粒子または吸水性もしくは散乱性のラベルで標識され、前記官能基化層と結合し、それによって前記連続的または非連続的な、金属製のまたは吸水性の層を形成することができる、サブステップと、
b2)前記官能基化層および前記金属性または吸収性の層を、検出されるまたは定量的に決定される前記化学種または生物学的種を含む第2の溶液と接触させて置くサブステップであって、第2の溶液が、前記中間種のものより大きい前記官能基化層との親和性を有し、その結果、前記中間種は変位され、前記金属性の、吸収性または散乱性の層は、少なくとも部分的に無くされる、サブステップとを含む。
【0032】
そのような方法の第4の実施形態によれば、前記ステップb)中、前記官能基化層は、定量的に決定される化学種または生物学的種、および前記競合の化学種または生物学的種も含む溶液と接触して置かれ、2つの種のうち1つは、金属ナノ粒子または吸収性または散乱性のラベルで標識され、その結果、連続的または非連続的な金属製または吸収性の層が得られ、その有効屈折率および有効厚さは、前記競合の化学種または生物学的種の濃度と、定量的に決定される前記化学種または生物学的種のものとの間の比によって決まる。
【0033】
前記照明コーンの開口半角は、有利には、20°から75°の間、好ましくは30°から70°の間、好ましくは40°から65°の間でよく、前記コーンの軸は、前記基板に対して垂直である。
【0034】
同じ対物レンズが、前記試料を照らし、観察するために使用され得る。
【0035】
有利には、0.001より大きい、またはこれに等しい、好ましくは0.01より大きいまたはこれに等しい虚部kを有する複素屈折率を有する「コントラスト増幅」層が、前記基板と前記官能基化層の間に間置され得る。
【0036】
前記官能基化層は、前記基板の表面上に置かれた複数のスポットの形態でよく、異なる化学種または生物学的種(バイオチップ)を結合させることができる。対物レンズを通した観察により、特に濃いバイオチップを活用することが可能になる。有利には、前記支持体は、前記スポットの外側に、前記溶液中に含まれたいかなる化学種または生物学的種の結合も防止する不動態化層を含むことができる。
【0037】
−好ましくは、前記空間的インコヒーレント光ビームは、偏光されない。
【0038】
本発明の他の特性、詳細、および利点は、例としてあげられ、それぞれ以下に描写する付属の図を参照して、与えられた説明を読み取ることで明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】従来技術から知られているSEEC技術を示す、上記で説明した図である。
図2】本発明の1つの実施形態による、試料を観察するための方法を実施するための光学組立体を示す図である。
図3】本発明を実施するのに適した試料支持体の平面n−k内のコントラスト反転線の図である(nは、コントラスト増幅層の屈折率の実部であり、kはその虚部である)。
【図(4-1)-(4-56)】基準試料が観察されるコントラストを表す領域を、照明コーンの半角θ、および波長に対して正規化された、コントラスト増幅層の厚さe/λ(多色照明の場合、λは平均波長である)の関数として示す図であり、各々の図は、(n、k)対によって特徴付けられる異なる材料に対応する。
図5】平面n−k内の図4−1から図4−56の材料を位置特定する図である。
図6】さまざまな照明波長における、平面n−k内の金の層を位置特定する図である。
図7】厚さこう配を有するコントラスト増幅層を表す図である。
図8】官能基化されたコントラスト増幅層を表す図である。
図9】本発明による、少なくとも1つの化学種または生物学的種を検出し、または定量的に決定するための方法の第1の実施形態を示す図である。
図10】本発明による、少なくとも1つの化学種または生物学的種を検出し、または定量的に決定するための方法の第2の実施形態を示す図である。
図11】本発明による、少なくとも1つの化学種または生物学的種を検出し、または定量的に決定するための方法の第3の実施形態を示す図である。
図12】本発明による、少なくとも1つの化学種または生物学的種を検出し、または定量的に決定するための方法の第4の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
従来の反射防止層は、λ/4n(λは、真空内の光の波長であり、nは、実数であると推定される層の屈折率である)に等しい厚さと、関係(1)によって表わされる屈折率とを有し、この場合nは、層が堆積される基板の屈折率であり、nは、この層の上方にある媒体(たとえば空気)の屈折率である。指数nおよびnは、nのように実数であると考えられる。
【0041】
【0042】
反射防止層が堆積される基板は、コントラスト増幅支持体として使用され得るが、光学顕微鏡下の低コントラストの物体の観察にはあまり適していないことが判明している。SEEC技術は、反射抑制状態を改変し、それによって、これを偏光された光下の、偏光分析器を通した観察の場合に適合させるが、これは、上記で論じたように、この抑制を非常に部分的に克服することしか可能にしない。
【0043】
非常に幅広い範囲の照明光の入射角度において(したがって多数の開口数を備えた顕微鏡下で)満足のいくコントラスト増幅を得るために、本発明は、追加の自由度、すなわち吸水性または金属製の層の使用に伴う、屈折率の虚部kを活用することを提案する。
【0044】
薄い層CAの図2に示す場合が考慮され、この薄い層CAは、虚成分が小さくはない、たとえば0.001より大きい屈折率
を有し(正のkがそれによって吸収に対応する変換が、もたらされる)、実指数nを有するたとえばガラス製である透明基板ST上に堆積され、実指数nを有する周囲媒体MAたとえば空気または水中に浸漬される。非限定的な例として、金属製層の場合が、考慮される。透明材料(実指数)の小さい厚さ(ナノメートル)から構成された基準試料EOが、金属層上に置かれる。支持体SAC(基板および金属層)および試料から構成された組立体は、開口数n0・sinθを有する対物レンズLおよび基板を通して照らされ、観察される。任意選択で、油Hの滴が、対物レンズと周囲媒体の間、および周囲媒体と基板の間の寄生反射を最小限に抑えるために使用され得る。あるいは、基板の正面が、照明スペクトラム、または照明スペクトラムの有用部分を覆う反射防止処理で覆われてよい。
【0045】
従来の反射防止基板(k=0)の場合のように、試料が可視化されるコントラストは、主に複素指数および層の厚さによって決まり、より詳細には、厚さの関数として標識された極値を有する。この極値自体は、極限値をとり、層の複素指数
の実部および虚部が、関係(2)を満たすとすぐに符号を変更する。
【0046】
−k=n (2)
【0047】
関係(2)は、複素屈折率を有する層の場合の関係(1)の一般化であると考えられ得る。
【0048】
およびnが固定されるとき、表面の反射性は、角度θ、λ(波長)、nおよびkによってのみ決まる。これは、(明確には、波長λを含まず、媒体の指数および角度のみを含む)フレネル係数および(比e/λを通してのみ含まれる)層の厚さeの関数として表されるため、無彩色基準物体のコントラストを、n、k、およびe/λの関数として算出することが可能であり、この算出は、すべての金属物およびすべての波長に対して有効である。したがって、金属物(またはより一般的には複素屈折率を有する材料)を変更することによって、層厚さを変更することによって、または波長を変更することによって作動点を調整することが可能である。
【0049】
図3では、単一の傾斜を有する直線は、状態k=nに対応する。直線の上方の、Mでマークされた領域は、金属製材料に対応し、一方で下方の、NMでマークされた領域は、非金属製材料に対応する。曲線ICは、公式(2)によって定義され、コントラスト反転状態に対応する。この曲線の上方(領域CN)では、コントラストは負であり、これは、試料が、明るい背景上に暗く現れることを意味し、下方(領域CP)では、コントラストは正であり、これは、試料が、暗い背景上に明るく現れることを意味する。曲線は、n=1.514およびn=1.33に対して算出されている。
【0050】
基準試料が観察されるコントラストを表す領域(図41−1から図41−56)を、θおよびe/λの関数として、曲線ICの両側にその近位に配置された複数の対(n、k)に対してプロットすることが有利であり、これは、図5に示される。図4−1から4−56では、これらの領域のほとんどが、角度θの代表軸にしたがって実質的に位置合わせされた谷部(負のコントラストの場合)または「畝部」(正のコントラストの場合)を有することが観察され得る。これは、臨界厚さ(e/λ)と呼ばれる、(畝部の頂点および谷部の底部、すなわち凹線に対応する)正規化された厚さe/λの定義された値に対して、コントラストは最大値を有し、この最大値は、この角度θが、定義された範囲(たいていは0°から40〜50°に及ぶ)内に維持される限り、この角度に依存せず、またはわずかしか依存しないことを意味する。これは、正規化された厚さの前記臨界値(e/λ)に対して、対物レンズを通した照明および観察が、たとえば、SEEC技術のようにコントラストの著しい損失を招かないことを意味する。値e/λは、照明コーン内に含まれる入射角度のすべてにおける統合されたコントラストを(絶対値で)最大限にする。コントラスト値は、10%以上から1000分の2〜3程度まで変動し得るが、これは依然として活用できる。図4−1から図4−56の場合、n=1.514およびn=1.33が選択され、これは、ガラス基板および水中の浸漬による観察に対応する。通常、臨界厚さは、基板の光学指数に伴って増大する。
【0051】
実験的に、臨界厚さ(e/λ)をコントラスト増幅層の指数の虚部にリンクさせる関係が、以下の形態(3)によって記述することができ、この場合、Cはここで考慮される例では0.01である定数である。依然として、所与の用途に対して、許容可能な開口数(頂点または凹線の長さ)とコントラスト(頂点の高さまたは谷部の深さ)との間の最適な妥協点を選択するために使用され得る、自由な寸法調整のパラメータnが存在する。実際、(n、k)の対がコントラスト反転線に近くなるほど、コントラストは、低開口において(または入射の所定の角度に対して)より高くなるが、これは、より迅速に対物レンズの開口数によって制限されなくなる。
【0052】
(e/λ)=C/k (3)
【0053】
頂点または凹線はまた、(互いに交差される偏光板と分析器の間、またはいずれの場合も、これらの間に角度を形成する)偏光された光下および特にk>nに対する観察の場合にも観察されるが、臨界厚さおよび屈折率を互いにリンクさせる状態は、偏光されない光下での観察の場合とは異なる。
【0054】
図7に示すように、厚さこう配を有するコントラスト増幅層を有する支持体を使用することが可能である。状態(3)は、少なくとも1つの照明波長に対して、支持体の所定領域内で満足され、これは、簡単な観察によって見出され得る。
【0055】
平面(n、k)内で移動するために、実際には多層によるものでもよく、それによって、設計者に大きい自由度を与えるコントラスト増幅層の組成、および/または通常はUV(λ=200nm)から近赤外線(λ=2nm)までの、システムの光学素子によって許可される範囲にわたって照明波長を調整することが可能である。UVおよび赤外線波長は、より良好なコントラスト、および適宜、探される種特有のコントラストを得るために、視覚化された分子の自然吸収帯を活用することを可能にするという利点を有する。例として、図6のAu曲線は、金の層に対するnおよびkの値を、範囲350〜750nm内で変動する照明波長の関数として示す。
【0056】
金は、生物学的センサのためのノルムを構成するため、この場合は特に興味深い。ナノ粒子からなる金フィルムの場合、これは、これが形成される粒子の濃度および密度を調整することによってnおよびkを調整することが可能であるため、特に有利である。
【0057】
説明してきた原理は、低コントラストの微小物体を観察することを可能にする。これはまた、化学種または生物学的種を検出しおよび/または定量的に決定するためのバイオチップを生成することも可能にする。たとえば、図8に示すように、官能基化層CFをコントラスト増幅層上に堆積することが可能である。官能基化層は溶液Sに接触させられ、この溶液は、たとえば、水性であり、検出される化学種または生物学的種ECDを含む。後者は、官能基化層によって結合され、観察される試料を構成する追加の薄い層CEを形成する。実際には、バイオチップの場合、複数の異なる官能基化スポットが、堆積され、異なる化学種または生物学的種を選択的に結合させることを可能にする。顕微鏡下、上記で説明した状態下でバイオチップを観察することにより、溶液中に実際に存在する種を容易に特定することが可能である。
【0058】
検出の感度は、結合された種がそれ自体、照明の有用な波長に対して少なくともわずかに光学的に吸収性である場合、たとえば、その指数の虚部が、0.0001より大きく、好ましくは0.001より大きく、好ましくは0.01より大きい場合に大幅に改良される。
【0059】
コントラストはまた、コントラスト増幅層が、前記スポットに対応する位置においてのみ堆積される場合に増大される。
【0060】
好ましくは、スポットの外側には、前記水溶液中に含まれるいかなる化学種または生物学的種の結合も防止する不動態化層が、企図され得る。たとえば、金の場合にチオールで官能基化された、ポリエチレングリコール、フッ素化ポリマー、またはフッ素化アルキルが、たとえば使用され得る。この不動態化層は、スポットの生成後に蒸着によって堆積され得る。
【0061】
化学種または生物学的種を検出しまたは堆積させることが望まれる場合、官能基化層が設けられただけの基板を使用することも可能である。
【0062】
図9に示す第1の実施形態によれば、官能基化層は、検出されるまたは定量的に決定される化学種または生物学的種ECDを含む溶液と接触させられ、この化学種または生物学的種ECDは、金属ナノ粒子NPMで標識され、前記官能基化層と結合し、それによって金属層CMを形成することができる。この層は、実際には非連続的になり得るが、これは、ナノ粒子の直径のほんの一部でよい有効厚さ、および有効屈折率によって可視光の波長のスケール(数百ナノメ−トル)上で連続的に見える。観察は、上記で説明したやり方で実施され、こうして形成された金属層は、コントラスト増幅層および試料の両方としての役割を果たす。溶液と官能基化された層との間の所定の接触時間に関して、金属層の厚さは、化学種または生物学的種の内容物によって決まり、それによって、定量的決定を実施することを可能にする。
【0063】
変形形態として、金属ナノ粒子は、吸収性ラベル、たとえば蛍光性分子で置き換えられてよい(蛍光発光は、それ自体活用されないが、蛍光性分子は吸水性が強いことに留意されたい)。
【0064】
第1の実施形態の欠点は、これが、標識された化学種または生物学的種の検出のみを可能にすることである。以下の実施形態は、この欠点を有さない。
【0065】
第2の実施形態によれば(図10)、官能基化された層は、検出されるまたは定量的に決定される化学種または生物学的種を含む第1の溶液S1と接触して置かれ、それによって「中間」層CIを形成する。この中間層は、観察できない。これを露出させるために、これは、「補助的な」化学種または生物学的種ECAを含む第2の溶液S2に接触させられ、この「補助的な」化学種または生物学的種ECAは、金属ナノ粒子(または吸水性ラベル)で標識され、前記中間層と結合し、それによって金属製(または吸水性)の層CMを形成することができる。
【0066】
この技術は、検出される種が、官能基化層を満たすのに十分な量で存在し、他方では補助種が過剰に存在する場合に定量的になることができる。この場合、実際には、層CMの有効厚さおよび有効指数、したがって、観察される光信号の強度は、検出される種の濃度によって決まる。
【0067】
この第2の実施形態は、検出される化学種または生物学的種が、少なくとも2つの活性部位を有する場合にのみ使用可能であり、したがってこれは、たとえば、ハプテンには適用しない。加えて、これは、実施することが非常に複雑である。
【0068】
以下の実施形態は、この欠点を有さない。
【0069】
第3の実施形態によれば(図11)、官能基化された層は、中間種ECIと呼ばれる化学種または生物学的種を含む第1の溶液(S1)と接触して置かれ、この化学種または生物学的種は、金属ナノ粒子または吸水性ラベルで標識され、前記官能基化層と結合し、それによって前記連続的または非連続的な金属製または吸水性の層(CM)を形成することができる。次に、結果として生じた組立体は、検出されるまたは定量的に決定される化学種または生物学的種を含む、前記中間種のものより大きい前記官能基化層との親和性を有する第2の溶液(S2)と接触させられる。したがって、中間種は変位され、前記金属製または吸収性の層は、少なくとも部分的に無くされ、これは、光信号における低減によって反映される。この技術は、定量的ではなく定性的であり、したがって、定量的決定よりも検出に適している。この手法の利点は、その2つのステップを分離でき、支持体には、すでに形成された、化学的または生物学的センサとしてすぐに使用される層CMが設けられ得ることである。
【0070】
第4の実施形態(図12)によれば、前記官能基化層は、定量的に決定される化学種または生物学的種と、前記競合の化学種または生物学的種ECCも含む溶液Sと接触して置かれ、2つの種のうち1つ(好ましくは競合種)は、金属ナノ粒子または吸水性ラベルで標識される。したがって、金属製または吸水性の層CMが得られ、その有効厚さおよび有効屈折率は、前記競合の化学種または生物学的種の濃度と、定量的に決定される前記化学種または生物学的種のものとの間の比によって決まる。他の実施形態にように、信号は、この有効厚さおよび有効屈折率によって決まる。
【0071】
化学種または生物学的種は、たとえば、抗体、光源、タンパク質、微生物などでよい。
【0072】
金属製または吸収性である代わりに、ラベルは、散乱性ラベルでよい。実際、散乱の効果は、虚部を有する屈折率によって表され得ることが知られている。
【0073】
上記で説明した検出または定量的決定のための技術はまた、官能基化層が、上記で説明したようにコントラスト増幅層上に堆積される場合も適用する。官能基化された層、および適宜、コントラスト増幅層は、スポットとして構造化されてよく、これらのスポットの外側の表面は、上記で説明したように不動態化されてよい。
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図4-5】
図4-6】
図4-7】
図4-8】
図4-9】
図4-10】
図4-11】
図4-12】
図4-13】
図4-14】
図4-15】
図4-16】
図4-17】
図4-18】
図4-19】
図4-20】
図4-21】
図4-22】
図4-23】
図4-24】
図4-25】
図4-26】
図4-27】
図4-28】
図4-29】
図4-30】
図4-31】
図4-32】
図4-33】
図4-34】
図4-35】
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図4-37】
図4-38】
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図4-40】
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図4-42】
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図4-47】
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図4-54】
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図10
図11
図12