特許第6294883号(P6294883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6294883不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294883
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 27/14 20060101AFI20180305BHJP
   C07C 45/35 20060101ALI20180305BHJP
   C07C 47/22 20060101ALI20180305BHJP
   C07C 51/21 20060101ALI20180305BHJP
   C07C 57/05 20060101ALI20180305BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20180305BHJP
   B01J 23/887 20060101ALI20180305BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20180305BHJP
【FI】
   C07C27/14 A
   C07C45/35
   C07C47/22 A
   C07C51/21
   C07C57/05
   B01J35/02 P
   B01J23/887 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-527328(P2015-527328)
(86)(22)【出願日】2014年7月17日
(86)【国際出願番号】JP2014068994
(87)【国際公開番号】WO2015008815
(87)【国際公開日】20150122
【審査請求日】2017年2月8日
(31)【優先権主張番号】特願2013-149136(P2013-149136)
(32)【優先日】2013年7月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 佑太
(72)【発明者】
【氏名】倉上 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】白石 一男
【審査官】 天野 斉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−048817(JP,A)
【文献】 特開平09−202741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合金属酸化物触媒を充填した多管式酸化反応器を用いてアルケンを分子状酸素にて気相接触部分酸化することで対応するアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造する方法であって、
異なる組成の触媒を2種類以上用意し管軸方向に2層以上積み重ねて多層充填するときに、モリブデンに対するビスマスの成分量がガス入口側からガス出口側へ向かって少なくなるようにし、かつモリブデンに対する鉄の成分量がガス入口側からガス出口側へ向かって多くなるように触媒を充填し、
下記一般式(1)で表される化合物を含有し、下記一般式(1)で表される化合物を調合する工程において、モリブデン成分原料をモリブデン酸アンモニウムのみとし、溶解させる水の重量がモリブデン酸アンモニウム中に含まれるモリブデンの重量に対して8.5倍以下であり、かつビスマス成分原料を硝酸ビスマスのみとし、溶解させる硝酸水溶液の重量が硝酸ビスマス中に含まれるビスマスの重量に対して2.3倍以上であり、かつ硝酸ビスマスを溶解させる硝酸水溶液の硝酸濃度が10重量%以上である方法によって調製された、アクロレインおよび/またはアクリル酸製造用触媒が、管軸の最もガス出口側に少なくとも1層は充填されるアクロレインおよび/またはアクリル酸を製造する方法。
一般式(1)
Mo12BiFeCoNi
(式中、Xはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、セリウム(Ce)及びサマリウム(Sm)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Yはホウ素(B)、リン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Zはナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、(a)〜(g)は各成分の原子比率を表し、hは触媒成分の酸化度で決定される数値であり、a=0.80〜2.0、b=1〜2.5、c=3〜7、d=2〜3.5、e=0〜10、f=0〜10、g=0.01〜0.10であり、hは他の元素の酸化状態を満足させる数値で表記され、d/aが1.9以上3.2以下であり、かつd/gが29以上69以下であり、かつa/gが18以上35以下である。)
【請求項2】
複合金属酸化物触媒の形態が不活性な担持体の表面に触媒活性成分を担持した球状のコーティング触媒である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
多管式酸化反応器に供給される原料ガス中のアルケン負荷が、1時間あたり単位触媒体積に対し120倍以上(標準状態換算)である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
多管式酸化反応器に供給される原料ガス中のアルケン負荷が、1時間あたり単位触媒体積に対し140倍以上(標準状態換算)である請求項1からのいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
多管式酸化反応器に供給される原料ガス中のアルケン負荷が、1時間あたり単位触媒体積に対し160倍以上(標準状態換算)である請求項1からのいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
多管式酸化反応器に供給される原料ガス中に含まれるアルケン濃度が7.5体積%以下である請求項1からのいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
多管式酸化反応器に充填される全ての層の触媒が、不活性物質の物理混合による希釈をされていない無希釈である請求項1からのいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルケンを複合金属酸化物触媒の存在下に分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触部分酸化して対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレンを分子状酸素により気相接触部分酸化して、アクロレイン及びアクリル酸を工業的に製造する場合、種々の問題が生じる。その一つとして、複合金属酸化物触媒(以下、「触媒」と表記)がさらされる温度が高くなるにつれて触媒の劣化が加速することが知られている。また、過剰な酸化反応が促進されることで目的生成物収率が低下することも広く知られている。そこで、原料濃度や空間速度が高い高負荷の状況下にて、目的生成物の生産性を上げるためには、反応浴温度を上昇させ触媒の反応速度を高い水準で維持する必要があるものの、前述のとおり反応浴温度が高いと触媒寿命が短くなってしまう問題がある。さらにプロピレンなどの気相接触部分酸化は発熱反応であるため、触媒層に局所的な高温部(ホットスポット)が発生し、触媒劣化および収率低下が顕著になる。これらの課題に対し、従来技術ではさまざまな提案がなされている。例えば、特許文献1には、占有容積と焼成温度、および/またはアルカリ金属元素の種類および/または量とが異なる複数種の触媒を準備し多管式酸化反応器の管軸方向に原料ガス入口から出口に向かって活性が高くなるよう充填することでホットスポット温度を抑制する方法が記載されている。この方法は、高濃度の原料ガスを導入する入口側において活性を抑えた触媒を充填することで過剰な発熱を抑えることを目的としている。しかし、占有容積による活性調節では、反応管径によって触媒の占有容積の大きさが制限されるため十分な効果が得られない場合がある、もしくは触媒が均一に充填されないことで設計した反応場が実現されず十分な触媒性能が発揮されない可能性がある。また、特許文献2では、原料ガス入口側から出口側へ向かって触媒の担持量を多くして触媒活性に序列をつけることによって原料ガス入口側におけるホットスポット温度を抑制し、高活性な触媒が充填されている出口側においてはプロセス上必要とされる原料の転化率まで気相接触部分酸化反応を到達させるという方法が記載されている。しかしながら、低い担持量である原料ガス入口側の触媒は寿命が短く、一方で原料ガス出口側の触媒は活性成分量が多いため触媒活性成分の層が厚くなることで反応熱が触媒内に蓄熱され選択性が低下する課題がある。また特許文献3によれば、リング形状触媒を使用することで、ホットスポット温度を抑制し、高負荷の状況下における反応に対応できる方法が記載されている。しかし、リング形状触媒は、多管式酸化反応器へ充填するときに形状の特性上、均一に充填することが困難であり、また成型方法の特性上、機械的強度が低いために触媒が崩れたり粉化が発生し、反応管が詰まるだけでなく、触媒活性成分が抜け落ちてしまうことで触媒性能が十分に発揮されないことも大きな課題である。さらに、特許文献4では、各反応管内の触媒層を管軸方向に2層以上に分割して設けた反応帯に、ビスマスおよび鉄を変更した触媒を、原料ガス入口から出口に向かってビスマスおよび鉄の総量が少なくなるように充填することで、モリブデン成分の昇華を抑制して、長期にわたり安定して、かつ高収率でアクロレインおよびアクリル酸を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本国特開2001−226302号公報
【特許文献2】日本国特開平6−192144号公報
【特許文献3】日本国特表2007−511565号公報
【特許文献4】日本国特開2001−048817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルケンの気相接触部分酸化反応により対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造する方法は既に一部工業化されているものもあるが、さらなる触媒性能の改良およびその革新的な使用方法が求められている。多管式酸化反応器を使用してアルケンから対応する不飽和アルデヒドおよび/またはカルボン酸を多く製造しようとする際には、単位触媒体積に対するアルケンの供給負荷が高くなり(高負荷な反応とも表現される)、反応浴温度を上げる必要が生じる。これは結果的に触媒層内の温度を上げることになり、経時的な触媒活性および/または選択性の低下をもたらすことで目的生成物の収率が低下するため長期間の使用という観点で問題となる。触媒の活性向上は反応浴温度の低下、ランニングコストの低下、触媒の長寿命化を可能にし、目的生成物の収率向上は製造コストを大幅に低下させることが可能となる。また、この気相接触部分酸化反応に用いられる触媒の成型方法が打錠成型、押し出し成型、コーティング成型その他いかなる方法であっても機械的強度が結果的に低い場合には、触媒を多管式酸化反応器へ充填するときに触媒の粉化および触媒活性成分の剥離により多管式酸化反応器内が詰まり、異常な圧力上昇を招くことになる。つまり、触媒本来の優れた活性および選択性を発揮させるためには機械的強度の高い触媒が必要となる。さらに、反応浴温度を低下させるためには高活性な触媒が必要であるが、従来技術では触媒の高活性化によって大幅な選択性の低下が伴うため、高選択性を維持した高活性触媒を製造し、それらを効果的に組み合わせ目的生成物を製造する技術に課題がある。とりわけ、高活性な触媒は使用方法を十分に検討した上で使用しなければホットスポット温度が高くなり過ぎてしまい収率低下を引き起こし、さらには暴走反応を引き起こしかねない。したがって、本発明は、アクロレインおよび/またはアクリル酸、メタクロレインおよび/またはメタクリル酸を高負荷の状況下における反応であっても反応浴温度を低くすることが可能であり、有利に製造することが可能な技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、複合金属酸化物触媒を充填した多管式酸化反応器を用いてアルケンを分子状酸素にて気相接触部分酸化することで対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造する方法において、触媒の構成元素の中で重要であるビスマスと鉄の量に注目し鋭意検討を行った結果、異なる組成の触媒を2種類以上用意し管軸方向に2層以上積み重ねて多層充填するときに、モリブデンに対するビスマスの成分量がガス入口側からガス出口側へ向かって小さくなるようにし、かつモリブデンに対する鉄の成分量がガス入口側からガス出口側へ向かって大きくなるように触媒を充填することで、高活性な触媒の触媒性能が効果的に発揮され、原料ガス入口側の触媒は高選択性で長寿命となり、原料ガス出口側の触媒は著しく高活性になることで、高負荷な反応であっても反応浴温度を低く抑制でき、安定して目的生成物を高収率で得られる技術を見出し、この発明を完成させるに至った。なお、特許文献4では、モリブデン成分の飛散を抑制する目的で触媒層のガス入口から出口へ向かってビスマスと鉄の総量を減少させた触媒を順次充填する方法が記載されており、ビスマスの成分量を減少させるとともに鉄の成分量を同量にするか、または減少させる実施例が記載されている。本発明が掲げる課題を解決する手段としては、モリブデンに対するビスマスの成分量をガス入口から出口へ向かって減少させるとともに、モリブデンに対する鉄の成分量を増加させることが必要である。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)複合金属酸化物触媒を充填した多管式酸化反応器を用いてアルケンを分子状酸素にて気相接触部分酸化することで対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造する方法であって、異なる組成の触媒を2種類以上用意し管軸方向に2層以上積み重ねて多層充填するときに、モリブデンに対しビスマスの成分量がガス入口側からガス出口側へ向かって少なくなるようにし、かつモリブデンに対し鉄の成分量がガス入口側からガス出口側へ向かって多くなるように触媒を充填する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造する方法、
【0007】
(2)下記一般式(1)で表される化合物を含有し、下記一般式(1)で表される化合物を調合する工程において、モリブデン成分原料をモリブデン酸アンモニウムのみとし、溶解させる水の重量がモリブデン酸アンモニウム中に含まれるモリブデンの重量に対して8.5倍以下であり、かつビスマス成分原料を硝酸ビスマスのみとし、溶解させる硝酸水溶液の重量が硝酸ビスマス中に含まれるビスマスの重量に対して2.3倍以上であり、かつ硝酸ビスマスを溶解させる硝酸水溶液の硝酸濃度が10重量%以上である方法によって調製された、不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸製造用触媒が、管軸の最もガス出口側に少なくとも1層は充填される(1)記載の製造方法、
【0008】
一般式(1)
Mo12BiFeCoNi
【0009】
(式中、Xはマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、セリウム(Ce)及びサマリウム(Sm)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Yはホウ素(B)、リン(P)、砒素(As)、アンチモン(Sb)及びタングステン(W)からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Zはナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であり、(a)〜(g)は各成分の原子比率を表し、hは触媒成分の酸化度で決定される数値であり、a=0.80〜2.0、b=1〜2.5、c=3〜7、d=2〜3.5、e=0〜10、f=0〜10、g=0.01〜0.10であり、hは他の元素の酸化状態を満足させる数値で表記され、d/aが1.9以上3.2以下であり、かつd/gが29以上69以下であり、かつa/gが18以上35以下である。)
【0010】
(3)複合金属酸化物触媒の形態が不活性な担持体の表面に触媒活性成分を担持した球状のコーティング触媒である(1)または(2)記載の製造方法、
(4)多管式酸化反応器に供給される原料ガス中のアルケン負荷が、1時間あたり単位触媒体積に対し120倍以上(標準状態換算)である(1)から(3)のいずれか記載の製造方法、
(5)多管式酸化反応器に供給される原料ガス中のアルケン負荷が、1時間あたり単位触媒体積に対し140倍以上(標準状態換算)である(1)から(4)のいずれか記載の製造方法、
(6)多管式酸化反応器に供給される原料ガス中のアルケン負荷が、1時間あたり単位触媒体積に対し160倍以上(標準状態換算)である(1)から(5)のいずれか記載の製造方法、
(7)多管式酸化反応器に供給される原料ガス中に含まれるアルケン濃度が7.5体積%以下である(1)から(6)のいずれか記載の製造方法、
(8)多管式酸化反応器に充填される全ての層の触媒が、不活性物質の物理混合による希釈をされていない無希釈である(1)から(7)のいずれか記載の製造方法、
(9)(1)から(8)いずれか記載の製造方法によるアクロレインおよび/またはアクリル酸、メタクロレインおよび/またはメタクリル酸の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
高負荷な状況下の反応においても反応浴温度を低く抑えながら、アルケンから対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を安定して高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、複合金属酸化物触媒を充填した多管式酸化反応器を用いてアルケンを分子状酸素にて気相接触部分酸化することで対応する不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造する方法であって、異なる組成の触媒を2種類以上用意し管軸方向に2層以上積み重ねて多層充填するときに、モリブデンに対しビスマスの成分量がガス入口側からガス出口側へ向かって少なくなるようにし、かつモリブデンに対し鉄の成分量がガス入口側からガス出口側へ向かって多くなるように触媒を充填する。
【0013】
本発明で使用する触媒は、以下の工程を経ることで調製することが出来る。
工程a)調合
一般に触媒を構成する各元素の出発原料は、モリブデン成分原料としてはモリブデン酸アンモニウムを使用した場合に高性能触媒が得られる。特にモリブデン酸アンモニウムには、ジモリブデン酸アンモニウム、テトラモリブデン酸アンモニウム、ヘプタモリブデン酸アンモニウム等、複数種類の化合物が存在するが、その中でもヘプタモリブデン酸アンモニウムを使用した場合が最も好ましい。ビスマス成分原料としては硝酸ビスマスを使用した場合に高性能な触媒が得られる。鉄、コバルト、ニッケル及びその他の元素の原料としては通常は酸化物あるいは強熱することにより酸化物になり得る硝酸塩、炭酸塩、有機酸塩、水酸化物等又はそれらの混合物を用いることができる。例えば、鉄成分原料とコバルト成分原料及び/又はニッケル成分原料を所望の比率で10〜80℃の条件下にて水に溶解混合し、20〜90℃の条件下にて別途調合されたモリブデン成分原料およびZ成分原料水溶液もしくはスラリーと混合し、20〜90℃の条件下にて1時間程度加熱撹拌した後、ビスマス成分原料を溶解した水溶液と、必要に応じX成分原料、Y成分原料とを添加して触媒成分を含有する水溶液またはスラリーを得る。以降、両者をまとめて調合液(A)と称する。ここで、調合液(A)は必ずしもすべての触媒構成元素を含有する必要は無く、その一部の元素または一部の量を以降の工程で添加してもよい。また、調合液(A)を調合する際に各成分原料を溶解する水の量や、溶解のために硫酸や硝酸、塩酸、酒石酸、酢酸などの酸を加える場合には、原料が溶解するのに十分な水溶液中の酸濃度が例えば5重量%〜99重量%の範囲の中で適していないと調合液(A)の形態が粘土状の塊となる場合があり、これでは優れた触媒が得られない。特にモリブデン成分原料を溶解させるにあたっては、モリブデン成分原料をモリブデン酸アンモニウムのみとし、溶解させる水の重量がモリブデン酸アンモニウム中に含まれるモリブデンの重量に対して8.5倍以下であり、かつビスマス成分原料を溶解させるにあたっては、ビスマス成分原料を硝酸ビスマスのみとし、溶解させる硝酸水溶液の重量が硝酸ビスマス中に含まれるビスマスの重量に対して2.3倍以上であり、かつ硝酸ビスマスを溶解させる硝酸水溶液の硝酸濃度が10重量%以上であることが好ましい。それによって得られる調合液(A)の形態としては水溶液またはスラリーであることが、優れた触媒が得られる点で好ましい。ここで、構成元素比としては、触媒主成分の一つであるビスマスと、活性に大きく影響を及ぼすニッケルおよびアルカリ金属の比率が重要であり、ビスマスに対するニッケルの比率であるd/aが1.9以上3.2以下であり、かつアルカリ金属に対するニッケルの比率であるd/gが29以上69以下であり、かつアルカリ金属に対するビスマスの比率であるa/gが18以上35以下であることが、活性および/または目的生成物の収率が高く、さらに高い機械的強度をも有する優れた触媒となるため、好ましい。
【0014】
工程b)乾燥
次いで上記で得られた調合液(A)を乾燥し、乾燥粉体とする。乾燥方法は、調合液(A)を完全に乾燥できる方法であれば特に制限はないが、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固等が挙げられる。これらのうち本発明においては、スラリーから短時間に粉体又は顆粒に乾燥することができる噴霧乾燥が特に好ましい。噴霧乾燥の乾燥温度はスラリーの濃度、送液速度等によって異なるが概ね乾燥機の出口における温度が70〜150℃である。また、この際得られる乾燥紛体の平均粒径が10〜700μmとなるよう乾燥するのが好ましい。こうして乾燥粉体(B)を得る。
【0015】
工程c)予備焼成
得られた乾燥紛体(B)は空気流通下で200℃から600℃で、好ましくは300℃から600℃で焼成することで触媒の成型性、機械的強度、触媒性能が向上する傾向がある。焼成時間は1時間から12時間が好ましい。こうして予備焼成紛体(C)を得る。
【0016】
工程d)成型
成型方法に特に制限はないが円柱状、リング状に成型する際には打錠成型機、押し出し成型機などを用いた方法が好ましい。さらに好ましくは、球状に成型する場合であり、成型機で予備焼成紛体(C)を球形に成型しても良いが、予備焼成紛体(C)(必要により成型助剤、強度向上剤を含む)を不活性なセラミック等の担体に担持させる方法が好ましい。ここで担持方法としては転動造粒法、遠心流動コーティング装置を用いる方法、ウォッシュコート方法等が広く知られており、予備焼成紛体(C)が担体に均一に担持できる方法であれば特に限定されないが、触媒の製造効率や調製される触媒の性能を考慮した場合、より好ましくは固定円筒容器の底部に、平らな、あるいは凹凸のある円盤を有する装置で、円盤を高速で回転させることにより、容器内にチャージされた担体を、担体自体の自転運動と公転運動により激しく撹拌させ、ここに予備焼成紛体(C)並びに必要により、成型助剤および/または強度向上剤、細孔形成剤を添加することにより粉体成分を担体に担持させる方法が好ましい。尚、担持に際して、バインダーを使用するのが好ましい。用いうるバインダーの具体例としては、水やエタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニルアルコール、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、エタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコールが好ましく、エチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等がより好ましい。グリセリン水溶液を適量使用することにより成型性が良好となり、機械的強度の高い、高性能触媒が得られ、具体的にはグリセリンの濃度5重量%以上の水溶液を使用した場合に特に高性能な触媒が得られる。これらバインダーの使用量は、予備焼成紛体(C)100重量部に対して通常2〜80重量部である。不活性担体は、通常2〜8mm程度のものを使用し、これに予備焼成紛体(C)を担持させるが、その担持率は触媒使用条件、たとえば反応原料の空間速度、原料濃度などの反応条件を考慮して決定されるものであるが、通常20重量%から80重量%である。ここで担持率は以下の式(3)で表記される。こうして成型体(D)を得る。
【0017】
式(3)
担持率(重量%)
=100×〔成型に使用した予備焼成紛体(C)の重量/(成型に使用した予備焼成紛体(C)の重量+成型に使用した不活性担体の重量+成型に使用した成型助剤と強度向上剤の重量)〕
【0018】
工程e)本焼成
成型体(D)は200〜600℃の温度で1〜12時間程度焼成することで触媒活性、有効収率が向上する傾向にある。焼成温度は400℃以上600℃以下が好ましく、500℃以上600℃以下がより好ましい。流通させるガスとしては空気が簡便で好ましいが、その他に不活性ガスとして窒素、二酸化炭素、還元雰囲気にするための窒素酸化物含有ガス、アンモニア含有ガス、水素ガスおよびそれらの混合物を使用することも可能である。こうして触媒(E)を得る。焼成温度を高くすることで適宜活性を抑制することができる。そのような触媒は、例えばホットスポットが発生するような原料ガス入口側で使用することができる。
【0019】
触媒(E)の機械的強度は、触媒組成の原子比率によっても大きく影響され、すなわち原子比率を調節することにより生成される化合物の種類や同じ化合物でも結晶構造の相形態が異なることに影響を受ける。また調合工程や乾燥工程で生成される複合金属酸化物粒子の直径や粒子の幾何学的構造、その凝集形態が変化するため、複合金属酸化物中の化合物結晶の強度のようなミクロな物性や例えば予備焼成紛体の粒度分布のようなマクロな物性の変化によっても影響を受ける。各工程の調製方法だけでなく原子比率の影響も含めて総括された物性が最終的に調製される触媒の機械的強度を決定する。機械的強度を表す指標である磨損度は、株式会社林理化学製錠剤磨損度試験器で測定したデータを用い算出した。その測定は、触媒を25rpmで、10分間回転させた後、ふるいの目開きが1.70mmの標準ふるいでふるい、同ふるい上の触媒重量を測定し、式(4)で求めた。磨損度の値は小さいほど機械的強度が優れていると言える。おいては、磨損度が3重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1.5重量%以下であり、さらに好ましくは0.5重量%以下である。
【0020】
式(4)
磨損度(重量%)
=100×〔(触媒重量−ふるい上に残った触媒重量)/触媒重量〕
【0021】
この発明によって得られる複合酸化物触媒を使用するアルケンの接触気相酸化反応は、原料ガス組成として1〜10容量%のアルケン、5〜18容量%の分子状酸素、0〜60容量%の水蒸気及び20〜70容量%の不活性ガス、例えば窒素、炭酸ガスなどからなる混合ガスを前記のようにして調製された触媒上に250〜450℃の温度範囲及び常圧〜10気圧の圧力下、アルケンの供給負荷を60〜200hr−1の空間速度で導入することによって遂行されるが、本発明をより効果的に発揮するには100〜200hr−1の空間速度とするのが好ましく、さらには120〜200hr−1の空間速度で実行するのがより好ましい。工業プラントでの実用の際には、該プラントが通常運転される空間速度に対して、目的生産物の市況悪化などで生産調整のために触媒を交換することなく空間速度を落とすことが行われている。このとき、幅の広い空間速度に対応できる技術が求められる。この発明は、高負荷な反応に対応できるばかりではなく、比較的低い負荷でも発明の効果が発揮される点で優れている。また、高負荷な反応においては、原料濃度が高い場合には酸化反応による発熱が大きくなる傾向があることから、アルケンは7.5容量%以下がより好ましい。ここで、アルケン空間速度(SV)とは原料負荷を意味し、例えばアルケン空間速度(SV)100hr−1で導入するとは、1時間あたり単位触媒体積の100倍(標準状態換算)のアルケンを供給し気相接触酸化反応を実行することである。本発明において、アルケンとは、その分子内脱水反応においてアルケンを生じるアルコール類、例えばターシャリーブタノールも含めたものとする。
【実施例】
【0022】
以下、具体例を挙げて実施例を示したが、本発明はその趣旨を逸脱しない限り実施例に限定されるものでは無い。
【0023】
触媒1
ヘプタモリブデン酸アンモニウム2000重量部を60℃に加温した純水7600重量部(モリブデンの重量に対し7.0倍の重量)に完全溶解させた。次に、硝酸カリウム9.2重量部を純水104.1重量部に溶解させて、上記溶液に加えた。次に、硝酸第二鉄686.4重量部、硝酸コバルト1428.8重量部及び硝酸ニッケル768.6重量部を60℃に加温した純水1528.4重量部に溶解させた。これらの溶液を、撹拌しながら徐々に混合した。続いて純水825.2重量部に硝酸(60重量%)198.2重量部を加えて硝酸濃度を12重量%とした硝酸水溶液(溶解させる硝酸ビスマス中のビスマスの重量に対し3.1倍の重量)に硝酸ビスマス778.4重量部を加え完全溶解させた溶液を上記溶液に加え、撹拌混合した。このスラリーをスプレードライ法にて乾燥し、得られた乾燥紛体を最高温度440℃で6時間予備焼成した。予備焼成紛体に対して5重量%分の結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして30重量%グリセリン溶液を用い、不活性の球状担体に、担持率が50重量%となるように球状に担持成型した。次に12時間後の温度が560℃となるよう焼成を行って、本発明の平均粒径5.2mmの球状触媒1を得た。仕込み原料から計算される触媒は、次の原子比率を有する複合金属酸化物であった。
d/a=1.6、d/g=29、a/g=18、
Mo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:1.7:1.8:5.2:2.8:0.096
【0024】
触媒2
ヘプタモリブデン酸アンモニウム2000重量部を60℃に加温した純水7600重量部(モリブデンの重量に対し7.0倍の重量)に完全溶解させた。次に、硝酸カリウム4.4重量部を純水50.1重量部に溶解させて、上記溶液に加えた。次に、硝酸第二鉄953.3重量部、硝酸コバルト1786.0重量部及び硝酸ニッケル713.7重量部を60℃に加温した純水1830.1重量部に溶解させた。これらの溶液を、撹拌しながら徐々に混合した。続いて純水534.0重量部に硝酸(60重量%)128.3重量部を加えて硝酸濃度を12重量%とした硝酸水溶液(溶解させる硝酸ビスマス中のビスマスの重量に対し3.1倍の重量)に硝酸ビスマス503.7重量部を加え完全溶解させた溶液を上記溶液に加え、撹拌混合した。このスラリーをスプレードライ法にて乾燥し、得られた乾燥紛体を最高温度440℃で6時間予備焼成した。予備焼成紛体に対して5重量%分の結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして30重量%グリセリン溶液を用い、不活性の球状担体に、担持率が50重量%となるように球状に担持成型した。次に12時間後の温度が520℃となるよう焼成を行って、本発明の平均粒径5.2mmの球状触媒2を得た。仕込み原料から計算される触媒は、次の原子比率を有する複合金属酸化物であった。
d/a=2.4、d/g=56、a/g=24、
Mo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:1.1:2.5:6.5:2.6:0.0461
【0025】
触媒3
ヘプタモリブデン酸アンモニウム2000重量部(モリブデンの重量に対し7.0倍の重量)を60℃に加温した純水7600重量部に完全溶解させた。次に、硝酸カリウム4.4重量部を純水50.1重量部に溶解させて、上記溶液に加えた。次に、硝酸第二鉄762.7重量部、硝酸コバルト1786.0重量部及び硝酸ニッケル823.5重量部を60℃に加温した純水1787.3重量部に溶解させた。これらの溶液を、撹拌しながら徐々に混合した。続いて純水485.5重量部に硝酸(60重量%)116.6重量部を加えて硝酸濃度を12重量%とした硝酸水溶液(溶解させる硝酸ビスマス中のビスマスの重量に対し3.1倍の重量)に硝酸ビスマス457.9重量部を加え完全溶解させた溶液を上記溶液に加え、撹拌混合した。このスラリーをスプレードライ法にて乾燥し、得られた乾燥紛体を最高温度440℃で6時間予備焼成した。予備焼成紛体に対して5重量%分の結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして30重量%グリセリン溶液を用い、不活性の球状担体に、担持率が50重量%となるように球状に担持成型した。次に12時間後の温度が520℃となるよう焼成を行って、本発明の平均粒径5.2mmの球状触媒3を得た。仕込み原料から計算される触媒は、次の原子比率を有する複合金属酸化物であった。
d/a=3.0、d/g=65、a/g=22、
Mo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:1.0:2.0:6.5:3.0:0.046
【0026】
触媒4
ヘプタモリブデン酸アンモニウム2000重量部(モリブデンの重量に対し7.0倍の重量)を60℃に加温した純水7600重量部に完全溶解させた。次に、硝酸カリウム9.2重量部を純水104.1重量部に溶解させて、上記溶液に加えた。次に、硝酸第二鉄877.1重量部、硝酸コバルト1373.9重量部及び硝酸ニッケル768.6重量部を60℃に加温した純水1600.4重量部に溶解させた。これらの溶液を、撹拌しながら徐々に混合した。続いて純水631.1重量部に硝酸(60重量%)151.6重量部を加えて硝酸濃度を12重量%とした硝酸水溶液(溶解させる硝酸ビスマス中のビスマスの重量に対し3.0倍の重量)に硝酸ビスマス595.3重量部を加え完全溶解させた溶液を上記溶液に加え、撹拌混合した。このスラリーをスプレードライ法にて乾燥し、得られた乾燥紛体を最高温度440℃で6時間予備焼成した。予備焼成紛体に対して5重量%分の結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして30重量%グリセリン溶液を用い、不活性の球状担体に、担持率が50重量%となるように球状に担持成型した。次に12時間後の温度が530℃となるよう焼成を行って、本発明の平均粒径5.2mmの球状触媒4を得た。仕込み原料から計算される触媒は、次の原子比率を有する複合金属酸化物であった。
d/a=2.2、d/g=29、a/g=13、
Mo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:1.3:2.3:5.0:2.8:0.0964
【0027】
触媒5
触媒1における成型後の焼成工程温度のみを530℃と変更することで比較用の触媒5を得た。
【0028】
触媒6
触媒1における成型後の焼成工程温度のみを520℃と変更することで比較用の触媒6を得た。
【0029】
触媒7
触媒1における成型に使用する不活性な球状担体の直径を4.0mmとし、成型体の平均粒径を4.7mmとすることで本発明の触媒7を得た。
【0030】
触媒8
触媒3における成型に使用する不活性な球状担体の直径を4.0mmとし、成型体の平均粒径を4.7mmとし、さらには成型後の焼成工程温度を530℃と変更することで本発明の触媒8を得た。
【0031】
触媒9
触媒4における成型後の焼成工程温度のみを520℃と変更することで比較用の触媒9を得た。
【0032】
実施例1
触媒1および2を使用して、プロピレンの気相接触酸化反応を実施し、プロピレン転化率、アクロレイン収率、アクリル酸収率、有効収率に代表される触媒性能を求めた。外径3.2mmの熱電対保護管を設置した直径25.4mmのステンレス製反応管の原料ガス入口側に触媒1を充填長が1500mmとなるよう充填し、原料ガス出口側に上記触媒2を充填長が2000mmとなるよう充填した。原料ガスは反応管入口よりプロピレン7.4容量%、空気63.2容量%、水蒸気7.4容量%、窒素22.1容量%の混合ガスをプロピレン空間速度(SV)165hr−1で導入し、ガス出口側圧力を110kPaGに調節しプロピレンの気相接触部分酸化反応を実施した。反応が300時間程度経過した時の有効収率が最大となるときの結果を表1に示した。
【0033】
実施例2
実施例1において原料ガス出口側に、触媒2に代えて触媒3を充填した以外は同様にプロピレンの気相接触酸化反応を実施した。反応が300時間程度経過した時の有効収率が最大となるときの結果を表1に示した。
【0034】
比較例1
実施例1において触媒4の希釈三層充填へ変更した以外は同様にプロピレンの酸化反応を実施した。希釈三層充填は、ガス入口側からガス出口側へ上層、中層、下層へと触媒濃度が高くなるように充填された。上層は触媒重量が70重量%となるようシリカ、アルミナを主要成分とした、平均粒径5.2mmの不活性物質で希釈されたあと充填長が700mmとなるように充填され、次に中層は触媒重量が85重量%となるよう上記不活性物質で希釈されたあと充填長が500mmとなるように充填され、最後に下層は触媒重量を100重量%とし充填長は2300mmとなるよう充填された。反応が300時間程度経過した時の有効収率が最大となるときの結果を表1に示した。なお、触媒4を希釈せず充填し、反応した場合はホットスポット温度が高くなり過ぎてしまい、安定した反応状態の維持が困難であった。
【0035】
実施例3
実施例2においてプロピレン空間速度(SV)を120hr−1へ変更し、ガス出口側圧力を70kPaGに変更した以外は同様にプロピレンの気相接触酸化反応を実施した。反応が300時間程度経過した時の有効収率が最大となるときの結果を表1に示した。
【0036】
比較例2
実施例3において触媒5と触媒6の希釈二層充填へ変更した以外は同様にプロピレンの酸化反応を実施した。希釈二層充填は、ガス入口側からガス出口側へ上層、下層へと触媒濃度が高くなるように充填された。上層は触媒重量が70重量%となるようシリカ、アルミナを主要成分とした、平均粒径5.2mmの不活性物質で希釈された触媒5を充填長が1500mmとなるように充填され、下層は触媒重量を100重量%とした触媒6を充填長は2000mmとなるよう充填された。反応が300時間程度経過した時の有効収率が最大となるときの結果を表1に示した。なお、触媒5を希釈せず充填し、反応した場合はホットスポット温度が高くなり過ぎてしまい、安定した反応状態の維持が困難であった。
【0037】
実施例4
触媒7および8を使用して、プロピレンの気相接触酸化反応を実施し、プロピレン転化率、アクロレイン収率、アクリル酸収率、有効収率を求めた。熱電対を設置した直径25.4mmのステンレス製反応管の原料ガス入口側に、触媒7は充填長が1500mmとなるよう充填され、原料ガス出口側に、触媒8は充填長が3000mmとなるよう充填された。原料ガスは反応管入口よりプロピレン7.2容量%、空気65.3容量%、水蒸気27.4容量%の混合ガスをプロピレン空間速度(SV)140hr−1で導入し、ガス出口側圧力を90kPaGに調節しプロピレンの気相接触部分酸化反応を実施した。反応が300時間程度経過した時の有効収率が最大となるときの結果を表1に示した。
【0038】
比較例3
実施例4において触媒9の希釈二層充填へ変更した以外は同様にプロピレンの酸化反応を実施した。希釈二層充填は、ガス入口側からガス出口側へ上層、下層へと触媒濃度が高くなるように充填された。上層は触媒重量が70重量%となるようシリカ、アルミナを主要成分とした、平均粒径5.2mmの不活性物質で希釈された触媒9を充填長が1500mmとなるように充填され、下層は触媒重量を100重量%とした触媒9を充填長が3000mmとなるよう充填された。反応が300時間程度経過した時の有効収率が最大となるときの結果を表1に示した。なお、触媒9を希釈せず充填し、反応した場合はホットスポット温度が高くなり過ぎてしまい、安定した反応状態の維持が困難であった。
【0039】
【表1】
【0040】
このように、本発明の技術を用いることによって高負荷な反応であっても、最高反応温度を同程度に維持あるいは低く抑制することができ、かつ反応浴温度を低く抑制できることから、安定して高収率で目的生成物を得ることができる。
【0041】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本出願は、2013年7月18日付で出願された日本国特許出願(特願2013−149136)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する工業プラントにおいて有用である。