【0021】
この発明によって得られる複合酸化物触媒を使用するアルケンの接触気相酸化反応は、原料ガス組成として1〜10容量%のアルケン、5〜18容量%の分子状酸素、0〜60容量%の水蒸気及び20〜70容量%の不活性ガス、例えば窒素、炭酸ガスなどからなる混合ガスを前記のようにして調製された触媒上に250〜450℃の温度範囲及び常圧〜10気圧の圧力下、アルケンの供給負荷を60〜200hr
−1の空間速度で導入することによって遂行されるが、本発明をより効果的に発揮するには100〜200hr
−1の空間速度とするのが好ましく、さらには120〜200hr
−1の空間速度で実行するのがより好ましい。工業プラントでの実用の際には、該プラントが通常運転される空間速度に対して、目的生産物の市況悪化などで生産調整のために触媒を交換することなく空間速度を落とすことが行われている。このとき、幅の広い空間速度に対応できる技術が求められる。この発明は、高負荷な反応に対応できるばかりではなく、比較的低い負荷でも発明の効果が発揮される点で優れている。また、高負荷な反応においては、原料濃度が高い場合には酸化反応による発熱が大きくなる傾向があることから、アルケンは7.5容量%以下がより好ましい。ここで、アルケン空間速度(SV
0)とは原料負荷を意味し、例えばアルケン空間速度(SV
0)100hr
−1で導入するとは、1時間あたり単位触媒体積の100倍(標準状態換算)のアルケンを供給し気相接触酸化反応を実行することである。本発明において、アルケンとは、その分子内脱水反応においてアルケンを生じるアルコール類、例えばターシャリーブタノールも含めたものとする。
【実施例】
【0022】
以下、具体例を挙げて実施例を示したが、本発明はその趣旨を逸脱しない限り実施例に限定されるものでは無い。
【0023】
触媒1
ヘプタモリブデン酸アンモニウム2000重量部を60℃に加温した純水7600重量部(モリブデンの重量に対し7.0倍の重量)に完全溶解させた。次に、硝酸カリウム9.2重量部を純水104.1重量部に溶解させて、上記溶液に加えた。次に、硝酸第二鉄686.4重量部、硝酸コバルト1428.8重量部及び硝酸ニッケル768.6重量部を60℃に加温した純水1528.4重量部に溶解させた。これらの溶液を、撹拌しながら徐々に混合した。続いて純水825.2重量部に硝酸(60重量%)198.2重量部を加えて硝酸濃度を12重量%とした硝酸水溶液(溶解させる硝酸ビスマス中のビスマスの重量に対し3.1倍の重量)に硝酸ビスマス778.4重量部を加え完全溶解させた溶液を上記溶液に加え、撹拌混合した。このスラリーをスプレードライ法にて乾燥し、得られた乾燥紛体を最高温度440℃で6時間予備焼成した。予備焼成紛体に対して5重量%分の結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして30重量%グリセリン溶液を用い、不活性の球状担体に、担持率が50重量%となるように球状に担持成型した。次に12時間後の温度が560℃となるよう焼成を行って、本発明の平均粒径5.2mmの球状触媒1を得た。仕込み原料から計算される触媒は、次の原子比率を有する複合金属酸化物であった。
d/a=1.6、d/g=29、a/g=18、
Mo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:1.7:1.8:5.2:2.8:0.096
【0024】
触媒2
ヘプタモリブデン酸アンモニウム2000重量部を60℃に加温した純水7600重量部(モリブデンの重量に対し7.0倍の重量)に完全溶解させた。次に、硝酸カリウム4.4重量部を純水50.1重量部に溶解させて、上記溶液に加えた。次に、硝酸第二鉄953.3重量部、硝酸コバルト1786.0重量部及び硝酸ニッケル713.7重量部を60℃に加温した純水1830.1重量部に溶解させた。これらの溶液を、撹拌しながら徐々に混合した。続いて純水534.0重量部に硝酸(60重量%)128.3重量部を加えて硝酸濃度を12重量%とした硝酸水溶液(溶解させる硝酸ビスマス中のビスマスの重量に対し3.1倍の重量)に硝酸ビスマス503.7重量部を加え完全溶解させた溶液を上記溶液に加え、撹拌混合した。このスラリーをスプレードライ法にて乾燥し、得られた乾燥紛体を最高温度440℃で6時間予備焼成した。予備焼成紛体に対して5重量%分の結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして30重量%グリセリン溶液を用い、不活性の球状担体に、担持率が50重量%となるように球状に担持成型した。次に12時間後の温度が520℃となるよう焼成を行って、本発明の平均粒径5.2mmの球状触媒2を得た。仕込み原料から計算される触媒は、次の原子比率を有する複合金属酸化物であった。
d/a=2.4、d/g=56、a/g=24、
Mo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:1.1:2.5:6.5:2.6:0.0461
【0025】
触媒3
ヘプタモリブデン酸アンモニウム2000重量部(モリブデンの重量に対し7.0倍の重量)を60℃に加温した純水7600重量部に完全溶解させた。次に、硝酸カリウム4.4重量部を純水50.1重量部に溶解させて、上記溶液に加えた。次に、硝酸第二鉄762.7重量部、硝酸コバルト1786.0重量部及び硝酸ニッケル823.5重量部を60℃に加温した純水1787.3重量部に溶解させた。これらの溶液を、撹拌しながら徐々に混合した。続いて純水485.5重量部に硝酸(60重量%)116.6重量部を加えて硝酸濃度を12重量%とした硝酸水溶液(溶解させる硝酸ビスマス中のビスマスの重量に対し3.1倍の重量)に硝酸ビスマス457.9重量部を加え完全溶解させた溶液を上記溶液に加え、撹拌混合した。このスラリーをスプレードライ法にて乾燥し、得られた乾燥紛体を最高温度440℃で6時間予備焼成した。予備焼成紛体に対して5重量%分の結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして30重量%グリセリン溶液を用い、不活性の球状担体に、担持率が50重量%となるように球状に担持成型した。次に12時間後の温度が520℃となるよう焼成を行って、本発明の平均粒径5.2mmの球状触媒3を得た。仕込み原料から計算される触媒は、次の原子比率を有する複合金属酸化物であった。
d/a=3.0、d/g=65、a/g=22、
Mo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:1.0:2.0:6.5:3.0:0.046
【0026】
触媒4
ヘプタモリブデン酸アンモニウム2000重量部(モリブデンの重量に対し7.0倍の重量)を60℃に加温した純水7600重量部に完全溶解させた。次に、硝酸カリウム9.2重量部を純水104.1重量部に溶解させて、上記溶液に加えた。次に、硝酸第二鉄877.1重量部、硝酸コバルト1373.9重量部及び硝酸ニッケル768.6重量部を60℃に加温した純水1600.4重量部に溶解させた。これらの溶液を、撹拌しながら徐々に混合した。続いて純水631.1重量部に硝酸(60重量%)151.6重量部を加えて硝酸濃度を12重量%とした硝酸水溶液(溶解させる硝酸ビスマス中のビスマスの重量に対し3.0倍の重量)に硝酸ビスマス595.3重量部を加え完全溶解させた溶液を上記溶液に加え、撹拌混合した。このスラリーをスプレードライ法にて乾燥し、得られた乾燥紛体を最高温度440℃で6時間予備焼成した。予備焼成紛体に対して5重量%分の結晶性セルロースを添加し、十分混合した後、転動造粒法にてバインダーとして30重量%グリセリン溶液を用い、不活性の球状担体に、担持率が50重量%となるように球状に担持成型した。次に12時間後の温度が530℃となるよう焼成を行って、本発明の平均粒径5.2mmの球状触媒4を得た。仕込み原料から計算される触媒は、次の原子比率を有する複合金属酸化物であった。
d/a=2.2、d/g=29、a/g=13、
Mo:Bi:Fe:Co:Ni:K=12:1.3:2.3:5.0:2.8:0.0964
【0027】
触媒5
触媒1における成型後の焼成工程温度のみを530℃と変更することで比較用の触媒5を得た。
【0028】
触媒6
触媒1における成型後の焼成工程温度のみを520℃と変更することで比較用の触媒6を得た。
【0029】
触媒7
触媒1における成型に使用する不活性な球状担体の直径を4.0mmとし、成型体の平均粒径を4.7mmとすることで本発明の触媒7を得た。
【0030】
触媒8
触媒3における成型に使用する不活性な球状担体の直径を4.0mmとし、成型体の平均粒径を4.7mmとし、さらには成型後の焼成工程温度を530℃と変更することで本発明の触媒8を得た。
【0031】
触媒9
触媒4における成型後の焼成工程温度のみを520℃と変更することで比較用の触媒9を得た。
【0032】
実施例1
触媒1および2を使用して、プロピレンの気相接触酸化反応を実施し、プロピレン転化率、アクロレイン収率、アクリル酸収率、有効収率に代表される触媒性能を求めた。外径3.2mmの熱電対保護管を設置した直径25.4mmのステンレス製反応管の原料ガス入口側に触媒1を充填長が1500mmとなるよう充填し、原料ガス出口側に上記触媒2を充填長が2000mmとなるよう充填した。原料ガスは反応管入口よりプロピレン7.4容量%、空気63.2容量%、水蒸気7.4容量%、窒素22.1容量%の混合ガスをプロピレン空間速度(SV
0)165hr
−1で導入し、ガス出口側圧力を110kPaGに調節しプロピレンの気相接触部分酸化反応を実施した。反応が300時間程度経過した時の有効収率が最大となるときの結果を表1に示した。
【0033】
実施例2
実施例1において原料ガス出口側に、触媒2に代えて触媒3を充填した以外は同様にプロピレンの気相接触酸化反応を実施した。反応が300時間程度経過した時の有効収率が最大となるときの結果を表1に示した。
【0034】
比較例1
実施例1において触媒4の希釈三層充填へ変更した以外は同様にプロピレンの酸化反応を実施した。希釈三層充填は、ガス入口側からガス出口側へ上層、中層、下層へと触媒濃度が高くなるように充填された。上層は触媒重量が70重量%となるようシリカ、アルミナを主要成分とした、平均粒径5.2mmの不活性物質で希釈されたあと充填長が700mmとなるように充填され、次に中層は触媒重量が85重量%となるよう上記不活性物質で希釈されたあと充填長が500mmとなるように充填され、最後に下層は触媒重量を100重量%とし充填長は2300mmとなるよう充填された。反応が300時間程度経過した時の有効収率が最大となるときの結果を表1に示した。なお、触媒4を希釈せず充填し、反応した場合はホットスポット温度が高くなり過ぎてしまい、安定した反応状態の維持が困難であった。
【0035】
実施例3
実施例2においてプロピレン空間速度(SV
0)を120hr
−1へ変更し、ガス出口側圧力を70kPaGに変更した以外は同様にプロピレンの気相接触酸化反応を実施した。反応が300時間程度経過した時の有効収率が最大となるときの結果を表1に示した。
【0036】
比較例2
実施例3において触媒5と触媒6の希釈二層充填へ変更した以外は同様にプロピレンの酸化反応を実施した。希釈二層充填は、ガス入口側からガス出口側へ上層、下層へと触媒濃度が高くなるように充填された。上層は触媒重量が70重量%となるようシリカ、アルミナを主要成分とした、平均粒径5.2mmの不活性物質で希釈された触媒5を充填長が1500mmとなるように充填され、下層は触媒重量を100重量%とした触媒6を充填長は2000mmとなるよう充填された。反応が300時間程度経過した時の有効収率が最大となるときの結果を表1に示した。なお、触媒5を希釈せず充填し、反応した場合はホットスポット温度が高くなり過ぎてしまい、安定した反応状態の維持が困難であった。
【0037】
実施例4
触媒7および8を使用して、プロピレンの気相接触酸化反応を実施し、プロピレン転化率、アクロレイン収率、アクリル酸収率、有効収率を求めた。熱電対を設置した直径25.4mmのステンレス製反応管の原料ガス入口側に、触媒7は充填長が1500mmとなるよう充填され、原料ガス出口側に、触媒8は充填長が3000mmとなるよう充填された。原料ガスは反応管入口よりプロピレン7.2容量%、空気65.3容量%、水蒸気27.4容量%の混合ガスをプロピレン空間速度(SV
0)140hr
−1で導入し、ガス出口側圧力を90kPaGに調節しプロピレンの気相接触部分酸化反応を実施した。反応が300時間程度経過した時の有効収率が最大となるときの結果を表1に示した。
【0038】
比較例3
実施例4において触媒9の希釈二層充填へ変更した以外は同様にプロピレンの酸化反応を実施した。希釈二層充填は、ガス入口側からガス出口側へ上層、下層へと触媒濃度が高くなるように充填された。上層は触媒重量が70重量%となるようシリカ、アルミナを主要成分とした、平均粒径5.2mmの不活性物質で希釈された触媒9を充填長が1500mmとなるように充填され、下層は触媒重量を100重量%とした触媒9を充填長が3000mmとなるよう充填された。反応が300時間程度経過した時の有効収率が最大となるときの結果を表1に示した。なお、触媒9を希釈せず充填し、反応した場合はホットスポット温度が高くなり過ぎてしまい、安定した反応状態の維持が困難であった。
【0039】
【表1】
【0040】
このように、本発明の技術を用いることによって高負荷な反応であっても、最高反応温度を同程度に維持あるいは低く抑制することができ、かつ反応浴温度を低く抑制できることから、安定して高収率で目的生成物を得ることができる。
【0041】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本出願は、2013年7月18日付で出願された日本国特許出願(特願2013−149136)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。