特許第6294911号(P6294911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294911
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】量子結晶基板
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20180305BHJP
   G01N 33/553 20060101ALI20180305BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20180305BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20180305BHJP
【FI】
   G01N33/543 595
   G01N33/553
   B82Y40/00
   B82Y20/00
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-128252(P2016-128252)
(22)【出願日】2016年6月29日
(62)【分割の表示】特願2012-532985(P2012-532985)の分割
【原出願日】2011年9月6日
(65)【公開番号】特開2016-197114(P2016-197114A)
(43)【公開日】2016年11月24日
【審査請求日】2016年7月25日
(31)【優先権主張番号】特願2010-198555(P2010-198555)
(32)【優先日】2010年9月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】508139538
【氏名又は名称】有限会社マイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100091465
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 久夫
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 裕起
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 克之
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0166706(US,A1)
【文献】 特開2006−083450(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/010442(WO,A1)
【文献】 特開2008−281529(JP,A)
【文献】 特開2007−198933(JP,A)
【文献】 特開平07−146295(JP,A)
【文献】 特開2010−203973(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/065762(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B15/00−23/00
C01G1/00−23/08
G01N21/62−21/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀からなるプラズモン金属とチオ硫酸イオンからなる配位子とから形成されるチオ硫酸銀プラズモン金属錯体であって、前記プラズモン金属より電極電位が卑なる銅又は銅合金上に、両者の電極電位差によって、金属錯体量子結晶として電析され、プラズモン増強効果を有するプラズモン金属錯体を含むことを特徴とする量子結晶基板。
【請求項2】
前記プラズモン金属錯体量子結晶が100〜200nmの量子結晶である請求項1記載の量子結晶基板。
【請求項3】
前記プラズモン金属錯体結晶が抗体を含む請求項1又は2記載の量子結晶基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属錯体水溶液を用いて金属ナノクラスターの量子ドットを内包する金属錯体の量子結晶を製造する方法及びその用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属原子をナノレベルで形、大きさを制御し、ナノクラスターを形成した表面修飾ナノ粒子がナノテクノロジーにおける次世代の代表的な物質として注目を浴びている。ナノメートル領域で発現するであろう量子サイズ効果により新たな電子物性が設計されるためである。ここで、「ナノクラスター」とは、数個から数百個の原子・分子が集まってできる集合体で、その大きさは数ナノから数十ナノメータサイズである。これらは、分子より大きく、ナノ結晶よりは小さいといわれている。ナノクラスターは、原子・分子・バルク固体とは異なるユニークな機能を発揮する物質である。構成原子のサイズや数を制御することによって、様々な機能を発揮することから、相転移、結晶成長、化学反応、触媒作用などに対する新しい知見や発見が期待される。その一つが金属表面での表面プラズモン共鳴である。一般に金属中の電子は光との相互作用をしないが、金属ナノ粒子中の電子は特別な条件のもとで光と相互作用し、局在表面プラズモン共鳴を起こす。特に銀ナノ粒子について2連球の理論的考察では所定の粒子間距離において、波長400nm付近の電場増強度が大変高く、それ以下では、波長300nm付近にピークが存在すると考えられる。また、粒子径との関係は粒子径が大きくなるにつれてピークの位置が高くなり、また、ピークが長波長側にシフトし、粒子が大きくなるにつれてピーク幅が大きくなるので、広域の波長に対応する電場増強効果が期待できると考えられている。
【0003】
そこで、表面増強ラマン散乱(SERS)を測定する基板においては、現在、数十nm程度の大きさを持った銀や金等の貴金属の微粒子をガラス基板上に蓄積するため、蒸着法や溶液中で銀あるいは金のコロイド粒子を合成し、リジンやシアンで修飾したガラス基板上に固定する方法が提案されている(非特許文献1、2、3、特許文献1)が、基板の量産法としては蒸着法を採用しなければならない現状にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−61209号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S.Nie andS.R.Emory,Science.275,1102(1997)
【非特許文献2】K.C.Grabar,P.C.Smith,M.D.Musick,J.A.Davis,D.G.Walter,M.A.Jackson,A.P.Guthrie andM.J.Natan,J.Am.Chem,Soc.,118,1148(1996)
【非特許文献3】R.M.Bright,M.D.Musick and M.H.Natan,Langmuir,14,5695(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、蒸着法で形成された基板には試料を吸着させる機能がなく、試料を塗布乾燥して基板とするいわゆるdrop&dry法が採用されるが、即時検出が難しく、試料の劣化などを伴う欠点がある。その上、測定結果の再現性にかけるという最大の難点があり、SERS法の各種適用に大きな障壁となっている。
そこで、原点に帰って考えると、プラズモン現象における増強の大きさは金属表面における電磁場に関する吸着分子中に存在するさまざまな結合の位置及び配向を含む多数のパラメータに依存するといわれるので、SERS法における最適基板を提供し、再現性を確保するためにはSERS現象が生ずるメカニズムに関与する(i)入射光の局所的強度を増強する金属中の表面プラズモン共鳴の最適物理的状況の達成と(ii)金属表面とラマン活性分子との間の電荷移動錯体の形成及びその後の遷移という最適化学的状況の達成が必要であり、最適物理的状況の達成のためには、最適状態への粒子サイズ及び配列の制御が難しいものの、蒸着法の採用も可能であるが、蒸着法では同時に電荷移動錯体の形成という最適化学的状況を達成することができないという観点に達した。
【0007】
ところで、近年、ナノ粒子を構成要素とする2次元、3次元の人工的な粒子結晶の作成に兵庫県立大学木村博士が成功し、さらにSiクラスターを用いて世界で始めて4族元素のクラスター結晶を水溶液より作成することに成功したと報告している。この粒子の結晶はナノメートルの周期構造を持つ量子ドット結晶といえるものであり、21世紀に期待されるナノテクノロジーのキー物質となるものである。このような成果を踏まえて、鋭意研究の結果、本発明者らは蒸着法に代えて、金属錯体水溶液を用いて基板上に金属量子ドットを結晶化させることを目的として鋭意研究の結果、プラズモン金属が配位結合し、水溶液中で金属錯体を形成する場合、金属基板上に金属錯体結晶として析出すると、量子結晶となって、金属ナノクラスタが量子ドットを形成し、電荷移動錯体として機能するためか今までに見られない強いプラズモン増強効果が得られることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はかかる知見に基づいてなされたもので、金、銀、銅、ニッケル、亜鉛、アルミニウム又は白金から選ばれるプラズモン金属と配位子とからなるプラズモン金属錯体水溶液を用意し、プラズモン金属より電極電位が卑なる金属又は金属合金またはプラズモン金属より卑なる電極電位を持たせた金属からなる担体と接触させてプラズモン金属錯体を析出させ、プラズモン増強効果を有する量子結晶を前記金属担体上に配列することを特徴とする量子結晶の製造方法にある。
【0009】
プラズモン金属の錯体水溶液が金属基板上で析出凝集してSERS現象が生ずるメカニズムに関与する(i)入射光の局所的強度を増強する金属中の表面プラズモン共鳴の最適物理的状況を達成し、かつ(ii)金属表面とラマン活性分子との間の電荷移動錯体の形成という最適化学的状況を達成することができたことは、驚くべきことである。
【0010】
前記量子結晶を形成する担体としては各種用途に応じて金属基板、金属粒子、金属針、キャピラリー内金属膜が選ばれる。金属基板は例えばプラズモン金属が銀の場合、基板として銅、真鍮、リン青銅からなる銀より電極電位が卑なる金属が選ばれ、試料滴下が可能な基板(図7)が採用され、試料を水溶液状態で滴下してSERS検査を行うために利用される。金属粒子は太陽電池の光入射側の光透過を行わせる電極構成素材として利用する場合に使用される。金属針は温熱療法において利用するためのもので、患部に直接挿入してレーザ照射により患部をプラズモン効果による発熱により治療を行わせるものである。キャピラリーは試料をコンタミを少なくし、かつ少量の試料を吸引するキャピラリーを利用する測定法で活用するために用いられるもので、キャピラリー内に化学鍍金又は埋め込みにより担体として金属膜又は金属片を形成し、そこに本発明の量子結晶を形成して用いることができる。
【0011】
金属錯体は金属担体上に量子結晶がプラズモン金属のナノクラスターを内包して形成される(図2図3(a)及び(b)参照)。強いプラズモン増強効果からプラズモン金属が平均数ナノから十数ナノメートルのサイズのナノクラスター状態で凝集し、ナノサイズの量子ドットを形成し、規則的に間隔をおいて配列しているものと考えられ、その作用効果から(i)入射光の局所的強度を増強する金属中の表面プラズモン共鳴の最適物理的状況を備えるものと推測される。
【0012】
金属錯体が金属担体上で結晶するため、ナノクラスターを形成するプラズモン金属の少なくとも一部は金属担体上に金属として結合するとともに金属錯体としてプラズモン金属の少なくとも残部は配位子とイオン結合状態にあると考えられ、この金属錯体を形成するプラズモン金属は試料溶液の滴下によりイオン化して被検出試料を吸着するので、(ii)プラズモン金属表面とラマン活性分子との間の電荷移動錯体を形成し、その結果、水溶液状態で即時SERS検査が行うことができるものと推測される。
【0013】
本発明におけるプラズモン金属は金属担体上で各種配位子が配位して金属錯体を形成することができる。選択される配位子の種類は、水溶液中の金属錯体の安定度定数、配位子との錯体構造などが金属錯体の量子結晶を形成する重要なパラメータを考慮して決定されるが、少なくとも量子ドットを形成するプラズモン金属と配位子とが電荷移動錯体を形成することが肝要であり、現在のところ配位子としてアミノ酸イオン、アンモニアイオン、チオ硫酸(チオスルファト)イオン及び硝酸イオンは配位子として金属錯体を形成し、プラズモン金属の量子ドットに配位し、SERS法により検出されている。その結果、(i)入射光の局所的強度を増強する金属中の表面プラズモン共鳴の最適物理的状況と(ii)金属表面とラマン活性分子との間の電荷移動錯体の形成及びその後の遷移という最適化学的状況がプラズモン金属錯体の量子結晶により同時に達成されていると考えられ、試料の表面増強ラマン散乱(SERS)検出にはプラズモン金属粒子と電荷でイオン結合するのが望ましいという知見が得られた。
【0014】
前記プラズモン金属錯体を形成する上ではプラズモン金属として金、銀または銅が選ばれるのが好ましい。
【0015】
プラズモン金属錯体の水溶液は金属濃度で500ppmから5000ppm、特に500ppmから2000ppmの濃度が好ましい。銀の場合、所定量の塩化銀をアンモニア、チオ硫酸ナトリウムなどの水溶液に添加することにより調製することができる。金属錯体水溶液は金属担体上には通常電極電位差で金属錯体を析出凝集させて適切な金属ドット間隔を形成させるが、500ppm未満では適切ドット間隔を達成するのが不可能であるか時間がかかり過ぎるので不適当であり、2000ppm以上では適切ドット間隔を凝集で達成する時間が短く制御が困難になるという難点がある。水溶液中での金属錯体又はそのイオンの凝集が進行しないように測定結果を阻害しない範囲で分散剤が添加されると、金属錯体水溶液の保存性を高めることができる。
【0016】
銀ナノクラスター(10〜20nmでは銀原子が20個から40個集合していると考えられる)に対する分散剤のモル分率は銀原子量換算で1/50〜1/150であるのが適当である。チオスルファト銀錯体、銀アンミン錯体、硝酸銀錯体、銀アミノ酸錯体の銀換算で500〜2000ppmの水溶液で良好な局在プラズモン増強効果が得られる。
【0017】
配位子として又は配位子の一部に代えて抗体を用いると金属プラズモン金属と荷電を介して吸着するためか、本発明を用いて抗原抗体反応を検出することができる(図6(a)(b)参照)。
【発明の効果】
【0018】
1)各種配位子と配位結合する金属であれば、金属担体上に金属ナノクラスターを内包する金属錯体を電位差を利用して還元して析出させることができ、金属錯体の量子結晶は内包する金属ナノクラスターが適正な量子サイズ、配列に制御されて形成され、最適物理的状態を達成する結果、望ましい量子効果を発揮することになる。特に金、銀、銅の金属ナノクラスターは量子ドットを形成し、表面プラズモン共鳴励起素子として有用な素子材料を提供することができる。
2)また、金属錯体は金属成分がイオン化しやすい状態にあり、(ii)イオン化金属表面にラマン活性分子が吸着して電荷移動錯体を形成するため、最適化学状態を達成し、再現性のよい結果を招来する。
3)金属錯体は電荷の調整によりタンパク質であるウイルス等を吸着しやすい電荷をもつことができ、例えば量子ドットにタンパク質アビジン又は生体物質ビオチンを結合させた量子ドットを合成し、タンパク検出に好適なSERS基板も形成させることができる。
4)金属錯体水溶液に抗体を分散させ、金属錯体ともに担体上に析出させると、抗体の選択により適切な抗原のみを吸着して抗原抗体反応を検出することができる。
5)金属針を担体として本発明の量子結晶を針先に形成すれば、患部に直接金属針を挿入してレーザ光を照射することによりプラズモン効果を利用して温熱療法を実施することができる。
【0019】
チオスルファト銀錯体はチオ硫酸(チオスルファト)イオンが配位して錯体を構成し、100〜200nmの板状結晶を形成し、優れた表面プラズモン共鳴励起・電場増強効果を示す。これはおそらく六方板状結晶中に銀ナノクラスターが量子ドットを形成している結果と推測される(図3(a)及び(b))。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明方法で調製されたSERS基板を用いて100nMの4,4‘−ビピリジンのラマン散乱スペクトルを測定した時のグラフであり、優れた表面プラズモン共鳴励起効果を示す。
図2】本発明方法で黄銅上に調製された銀錯体結晶が六方板状結晶を形成している状態を示す走査型電子顕微鏡写真(2万倍)である。
図3(a)】本発明方法でリン青銅上に調製された銀錯体結晶が量子ドットを形成している状態を示す走査型電子顕微鏡写真(5万倍)である。
図3(b)】本発明方法でリン青銅上に調製された銀錯体結晶が量子ドットを形成している状態を示す走査型電子顕微鏡写真(20万倍)である。
図4(a)】硝酸銀水溶液で銀錯体を形成したリン青銅基板上の純水のラマン散乱スペクトルを測定した時のグラフである。
図4(b)】硝酸銀水溶液で銀錯体を形成したリン青銅基板上の100nMの4,4‘−ビピリジンのラマン散乱スペクトルを測定した時のグラフである。
図5】チオスルファト銀水溶液でリン青銅基板上に形成した銀錯体でのローダミン6G 1μMのラマン散乱スペクトルを測定した時のグラフである。
図6(a)】チオスルファト銀水溶液に抗体を添加し、リン青銅基板上に形成した抗体のラマン散乱スペクトルを測定した時のグラフである。
図6(b)】図5(a)の基板上に抗原を滴下し、抗原−抗体のラマン散乱スペクトルを測定した時のグラフである。
図7】SERS基板の作成方法を示す工程説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明においては図7(a)〜(c)に示すように、ガラス又はプラスチック板1上に円形打ち抜き成形して皿上の0.1mm程度の薄い金属板2を貼り付けて製造することができる。この基板は金属部分2が皿状に形成されるので、上記分散液を滴下すると、液滴3となって盛り上がる(図7(b))。その後液滴を窒素ブロー等で吹き飛ばすと、金属錯体が析出して凝集域4が金属表面上に形成されて金属ナノクラスタを量子ドットとする測定基板が作成される(図7(c))。薄い金属板2に代え、金属膜を化学鍍金、蒸着により形成するようにしてもよい。
【実施例1】
【0022】
本実施形態においては、常法によりチオ硫酸ナトリウム水溶液に塩化銀を溶解し、適度に純水で希釈して銀濃度500〜2000ppmとし、アミノ酸(L−アラニン)10〜20ppmを添加した銀ナノクラスター(銀錯体)水溶液(無色透明)を作成する。次いで、表面清浄な黄銅(Cu60;Sn40)基板上に、銀ナノクラスター水溶液1滴(10μL)ずつ間隔を置いて滴下し、3分後窒素ブローして水滴を飛散乾燥させ、表面プラズモン共鳴励起SERS基板を調製した。その基板上に形成された表面状態の走査型電子顕微鏡写真(2万倍)を図2に示す。100〜150nmの六方板状結晶が形成されているのが確認できる。また、リン青銅板上に形成した結晶を走査型電子顕微鏡写真(5万倍及び20万万倍)で見ると結晶内に多数のドットが形成されているのが確認できる(図3(a)(b)参照)。このようにして作成した3分凝集の表面プラズモン共鳴励起黄銅基板(図2)上で4,4‘−ビピリジンを10mM、1μM、100nMに純水で希釈して滴下し、株式会社パーキンエルマージャパン製造ラマンステイション400測定器を用い、785nmの波長のレーザ(分解能4.0cm−1、レーザ出力300mmW、スポットサイズ100μΦ)を励起光として用いて表面プラズモンの増強効果を測定した。100nMまでラマンスペクトルが確認できる(図1参照)。これは従来のポポニン博士が蒸着技術によって調製した基板を使用して確認した100μMのラマン散乱スペクトルに比して1000倍の増強効果が認められたということができ、真鍮基板上に形成された六方板状結晶中に銀ナノクラスターが量子ドットを形成している結果であると、推測することができる。
【実施例2】
【0023】
常法により硝酸銀の1000ppm(銀重量換算)の銀錯体溶液を調製し、リン青銅版上に滴下して3分後滴下溶液を窒素ガスを噴霧して凝集を停止させ、各基板に純水及び4,4‘−ビピリジンを100nMに純水で希釈して滴下し、株式会社ラムダビジョン社製ラマン分光器を用い、785nmの波長のレーザ(レーザ出力80mmW、スポットサイズ50μΦ)を励起光として用いて表面プラズモンの増強効果を測定した。100nMまでラマンスペクトルが確認できる(図4(a)及び(b)参照)。
【実施例3】
【0024】
被検出試料をローダミン6G(R6G)に代えた。アミノ酸を使用せず常法で調整したチオスルファト銀錯体水溶液1000ppmを用い、リン青銅板上に実施例1と同様にして測定基板を調製し、これにローダミン6G(R6G)水溶液を滴下して測定を行った結果、カイザー社製ラマン分光器で励起波長514nmのレーザを照射して1μMのラマンスペクトルを確認した(図5)。従来のポポニン博士が蒸着技術によって調製した基板を使用して確認したラマン散乱スペクトルでは100μMのラマンスペクトルを確認しているに過ぎないので100倍の増強効果が認められるということができる。
【実施例4】
【0025】
抗ヒトIgEモノクロール抗体(抗体濃度1.23mg/ml)(ミクリ免疫研究所株式会社製Lot.No.214−01−002:溶液PBS:0.09%アジ化ナトリウムを含む)を純水で10倍希釈し、アミノ酸を添加しないチオ硫酸銀1000ppm水溶液に容量1対1で混合し、リン青銅板上に実施例1と同様にして滴下してSERS測定基板を調製した。そこにヒトIgE抗原(抗体濃度1.70mg/ml:溶液PBS:0.09%アジ化ナトリウムを含む)を純水で10倍希釈し、実施例1と同様に滴下して測定を行った。カイザー社製ラマン分光器で励起波長514nmのレーザを照射して抗体を混ぜて形成した測定基板のラマンスペクトルを確認した後(図6(a))、抗原を滴下してラマンスペクトルを確認した(図6(b))。両者を比較すると1350cm−1付近にピークが現われた結果、抗原抗体反応が検出できることを確認した。
【比較例】
【0026】
実施例1で使用した銀ナノコロイド溶液に代えて5000ppmの銀ナノコロイド溶液(分散剤;2−ピロリドン100〜150ppm)を使用する以外は実施例1と同様に基板の調製を試みたが、銀ナノクラスターは基板上の何点かに固まって凝集し、表面プラズモン共鳴励起効果は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
したがって、本発明方法を利用することにより、金属錯体溶液から金属錯体の結晶析出と同時に金属ナノクラスタが析出し、ナノサイズの量子ドットを内包または表面に析出した金属錯体結晶が形成できる。本発明で調製される金属錯体結晶は水溶液から調製されたおそらく世界で初めてのナノサイズの錯体結晶であり、金属が金、銀、銅または白金である場合、蒸着等の物理的方法で形成したナノドットに比して1000倍という表面プラズモン共鳴励起効果が得られるので、SERS検出用基板、太陽電池の光電変換素子、近接場光学顕微鏡素子、温熱療法用金属針など表面プラズモン共鳴を利用する素子として有用である。なお、基板金属としてリン青銅、真鍮を使用したが、ナノクラスターの金属種に応じて各種金属板が使用される。ナノクラスターの金属より卑なる金属基板が好ましく、銀の場合は真鍮の外、銅板、リン青銅板が使用できる。基板は通常板状をなすが、粒子状、針状、キャピラリー状に形成し、この表面に金属錯体結晶を析出させ、金属ナノクラスターを内包する量子結晶を形成させるのが好ましい。
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4(a)】
図4(b)】
図5
図6(a)】
図6(b)】
図7