特許第6294926号(P6294926)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 花王株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294926
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】顔料組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09B 67/20 20060101AFI20180305BHJP
   C09B 29/33 20060101ALI20180305BHJP
   C09D 11/38 20140101ALI20180305BHJP
   C09D 11/328 20140101ALI20180305BHJP
【FI】
   C09B67/20 A
   C09B67/20 F
   C09B29/33 A
   C09D11/38
   C09D11/328
【請求項の数】15
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2016-174013(P2016-174013)
(22)【出願日】2016年9月6日
(65)【公開番号】特開2017-75300(P2017-75300A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2017年10月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-202026(P2015-202026)
(32)【優先日】2015年10月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】阿部 秀一
(72)【発明者】
【氏名】小田 斉
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】成田 将之
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−177575(JP,A)
【文献】 特表2010−508426(JP,A)
【文献】 特開2008−063524(JP,A)
【文献】 特開2004−123866(JP,A)
【文献】 特表2003−524055(JP,A)
【文献】 特開平07−126545(JP,A)
【文献】 特開2016−023267(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 67/20
C09B 29/33
C09D 11/328
C09D 11/38
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
C.I.ピグメントイエロー74、及び下記式(I-1-1)又は(I-2-1)で表される化合物(I)を含有する原料顔料組成物を、酸化剤処理する工程を有し、処理後の顔料組成物中のC.I.ピグメントイエロー74の含有量に対する化合物(I)の含有量を1,200mg/kg以下にする、顔料組成物の製造方法。
【化1】
【請求項2】
酸化剤処理の温度が20℃以上95℃以下である、請求項1に記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項3】
酸化剤処理の時間が30分以上10時間以下である、請求項1又は2に記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項4】
酸化剤処理を撹拌翼による撹拌下で行い、その際の撹拌翼のせん断速度が10s−1以上100000s−1以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項5】
酸化剤処理後の顔料組成物中の化合物(I)の含有量が処理前の原料顔料組成物中の化合物(I)の含有量に対する残存率として、75%以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項6】
酸化剤処理後の顔料組成物中のC.I.ピグメントイエロー74の含有量に対する化合物(I)の含有量が、650mg/kg以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項7】
原料顔料組成物中のC.I.ピグメントイエロー74と化合物(I)の合計含有量が、0.1質量%以上30質量%以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項8】
C.I.ピグメントイエロー74が、m−ニトロ−o−アニシジンをジアゾ化してアセト酢酸−o−アニシダイドとカップリング反応させる方法によって得られるものである、請求項1〜7のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項9】
酸化剤処理が、過酸化物及び酸素酸又はその塩から選ばれる1種以上による処理である、請求項1〜のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項10】
酸化剤処理が、過酸化水素及び次亜塩素酸アルカリ金属塩から選ばれる1種以上による処理である、請求項に記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項11】
次亜塩素酸アルカリ金属塩が次亜塩素酸ナトリウムである、請求項10に記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項12】
C.I.ピグメントイエロー74、下記式(I-1-1)又は(I-2-1)で表される化合物(I)及び水を含有する原料顔料組成物を、過酸化水素処理する工程を有する、顔料組成物の製造方法。
【化2】
【請求項13】
過酸化水素処理を、過酸化水素水溶液を添加して行う、請求項12に記載の顔料組成物の製造方法。
【請求項14】
C.I.ピグメントイエロー74、及び下記式(I-1-1)又は(I-2-1)で表される化合物(I)を含有する原料顔料組成物を、酸化剤処理することにより、該原料顔料組成物中の下記式(I-1-1)又は(I-2-1)で表される化合物(I)の含有量を低減する方法。
【化3】
【請求項15】
請求項1〜13のいずれかに記載の方法で製造された顔料組成物をインクジェット記録用インクに配合し、インクジェット記録用インクの吐出不良を防止する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C.I.ピグメントイエロー74を含有する顔料組成物の製造方法、原料顔料組成物中の副生物の含有量を低減する方法、及びインクジェット記録用インクの吐出不良を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録媒体に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録媒体として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため、一般消費者向けの民生用印刷に留まらず、近年は、商業印刷、産業印刷分野に応用され始めている。このインクジェット記録方式に用いるイエローインクには、C.I.ピグメントイエロー74が広く用いられている。
【0003】
特許文献1には、ジスアゾ顔料スラリーに酸化剤を添加することにより、過剰のアセトアニリド類を酸化的に分解する低アミン含有率のジスアゾ顔料の製造方法が開示されている。
特許文献2には、不純物を含む水性顔料分散体をクロスフロー濾過により該不純物の少なくとも一部を除去して精製された水性顔料分散体の製造方法が開示されている。その実施例には、C.I.ピグメントイエロー74に対して膜精製(ウルトラ濾過)を行った実施例が記載されている。
また、特許文献3には、ピグメントイエロー19等の顔料をスルホン化し、次に該顔料を酸化して変性顔料を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−126545号公報
【特許文献2】特表2003−524055号公報
【特許文献3】特表2010−508426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1〜3の技術では、C.I.ピグメントイエロー74及びその周辺化合物を含有する顔料組成物について、長期間保存後の吐出性が未だ不十分であり、更に長期間保存後の吐出不良を改善することが要望されている。
出願人は、既に、C.I.ピグメントイエロー74(以下、「PY74」ともいう)と、インク組成物中1〜50mg/kgの下記式(I-1)又は(I-2)で表される化合物(I)(PY74の誘導体)とを含有するインク組成物が、吐出不良が発生しにくく、保存安定性及び発色性に優れていることを見出し、特許出願(特願2014−149870号)を行った。
【0006】
【化1】
【0007】
この特願2014−149870号において、PY74の存在下で化合物(I)の含有量を特定濃度以下とすると、PY74との相互作用により化合物(I)の結晶性が抑制され、インク組成物の保存安定性が向上し、吐出不良が発生しにくくなることを説明した。
ここで、本発明は、C.I.ピグメントイエロー74、及び化合物(I)を含有する原料顔料組成物から、化合物(I)の含有量を低減する顔料組成物の製造方法、原料顔料組成物中の化合物(I)を低減する方法、及びインクジェット記録用インクの吐出不良を防止する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、C.I.ピグメントイエロー74、及び化合物(I)を含有する原料顔料組成物を酸化剤処理することにより、該原料顔料組成物中の化合物(I)の含有量を効果的に低減できることを見出した。
すなわち、本発明は、次の[1]〜[4]を提供する。
[1]C.I.ピグメントイエロー74、及び下記式(I-1)又は(I-2)で表される化合物(I)を含有する原料顔料組成物を、酸化剤処理する工程を有し、処理後の顔料組成物中のC.I.ピグメントイエロー74の含有量に対する化合物(I)の含有量を1,200mg/kg以下にする、顔料組成物の製造方法。
[2]C.I.ピグメントイエロー74、前記式(I-1)又は(I-2)で表される化合物(I)及び水を含有する原料顔料組成物を、過酸化水素処理する工程を有する、顔料組成物の製造方法。
[3]C.I.ピグメントイエロー74、及び前記式(I-1)又は(I-2)で表される化合物(I)を含有する原料顔料組成物を、酸化剤処理することにより、該原料顔料組成物中の下記式(I-1)又は(I-2)で表される化合物(I)の含有量を低減する方法。
[4]前記[1]又は[2]に記載の方法で製造された顔料組成物をインクジェット記録用インクに配合し、インクジェット記録用インクの吐出不良を防止する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、C.I.ピグメントイエロー74、化合物(I)を含有する原料顔料組成物から、化合物(I)の含有量を効果的に低減する顔料組成物の製造方法、原料顔料組成物中の化合物(I)を効果的に低減する方法、及びインクジェット記録用インクの吐出不良を防止する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[顔料組成物の製造方法]
本発明の顔料組成物の製造方法は、PY74、及び前記式(I-1)又は(I-2)で表される化合物(I)を含有する原料顔料組成物(以下、「原料顔料組成物」ともいう)を酸化剤処理する工程を有し、処理後の顔料組成物中のC.I.ピグメントイエロー74の含有量に対する化合物(I)の含有量を1,200mg/kg以下にすることを特徴とする。
化合物(I)は、PY74の製造過程において副生するが、本発明によれば、原料顔料組成物を酸化剤処理することにより、PY74の顔料の粒径や色調等の物性を損なうことなく、原料顔料組成物中の化合物(I)の含有量を効果的に低減することができる。
化合物(I)は、PY74と同様に、極性溶媒への溶解性が低い化合物である。しかしながら、両化合物を極性溶媒に分散させた場合に、PY74に比べて化合物(I)の極性溶媒への溶解性が若干高いことが分かった。そこで、本発明の製造方法では、化合物(I)とPY74との極性溶媒に対する僅かな溶解性の差を利用して酸化剤処理を行うことにより、PY74の顔料の粒径や色調等の物性を損なうことなく、原料顔料組成物中の化合物(I)の含有量を効果的に低減することができると推定される。
【0011】
<C.I.ピグメントイエロー74>
本発明に用いられる原料顔料組成物はPY74を含有する。PY74は、下記式(II)で代表される化合物である。
【0012】
【化2】
【0013】
式(II)中、波線は、隣接する二重結合の幾何異性体がE体及びZ体から選ばれる1種以上であることを示す。
式(II)で表される化合物は、好ましくは下記式(II-1)で表される化合物、即ち、2−[(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)アゾ]−N−(2−メトキシフェニル)−3−オキソブタンアミドである。
【0014】
【化3】
【0015】
(PY74の製造方法)
PY74の製造方法としては、例えば、m−ニトロ−o−アニシジンをジアゾ化してアセト酢酸−o−アニシダイドとカップリング反応させる製造方法(A)が挙げられる。
このカップリング反応において、前記化合物(I)が副生する。
製造方法(A)は、好ましくは下記の工程(1)〜(3)を有する。
工程(1):m−ニトロ−o−アニシジンのジアゾ化反応により生成物Aを得る工程
工程(2):アセト酢酸−o−アニシダイド、水酸化ナトリウム及び水を混合した後、酢酸を添加し、その後、更に酢酸ナトリウムを添加して、生成物Bを得る工程
工程(3):前記工程(1)で得られた生成物Aと、前記工程(2)で得られた生成物Bを混合し、カップリング反応を行う工程
【0016】
工程(1)は、m−ニトロ−o−アニシジンのジアゾ化反応により生成物Aを得る工程であるが、工程(1)におけるジアゾ化反応は、例えば、m−ニトロ−o−アニシジンと、亜硝酸又はその塩とを酸性条件下で反応させることで行うことができる。
工程(2)は、アセト酢酸−o−アニシダイド、水酸化ナトリウム及び水を混合した後、酢酸を添加し、その後、さらに酢酸ナトリウムを添加して、生成物Bを得る工程であるが、酢酸と酢酸ナトリウムの使用量を調整することで、化合物(I)の副生量をある程度調整することはできる。しかし、これだけでは、化合物(I)の副生量を十分に低減することはできない。
工程(2)において使用する酢酸と酢酸ナトリウムの質量比(酢酸ナトリウム/酢酸)は、化合物(I)の副生を抑制する観点から、好ましくは87/13以上、より好ましくは88/12以上、更に好ましくは90/10以上であり、そして、生産性の観点から、好ましくは99/1以下、より好ましくは98/2以下、更に好ましくは96/4以下、より更に好ましくは95/5以下である。
工程(3)は、工程(1)で得られた生成物Aと、工程(2)で得られた生成物Bを混合し、カップリング反応を行う工程であるが、好ましくは工程(2)で得られた生成物Bに対して工程(1)で得られた生成物Aを添加する。
カップリング反応の温度は、好ましくは0℃以上であり、そして、好ましくは25℃以下、より好ましくは20℃以下、更に好ましくは15℃以下、より更に好ましくは10℃以下である。
工程(3)のカップリング反応後は、必要に応じて、生成物の結晶、粒子形状、粒子径等を所望の範囲に整える等の後処理を行うことができる。
【0017】
<化合物(I)>
本発明に用いられる原料顔料組成物は化合物(I)を含有する。化合物(I)は、下記式(I-1)又は(I-2)で表される化合物であり、PY74の製造過程において副生する。化合物(I)は、質量分析におけるマススペクトル(イオン化モード:ポジティブ)において、イオン質量m/イオン電荷zの比(m/z)345を示す化合物である。式(I-1)で表される化合物と、式(I-2)で表される化合物とは互変異性体の関係にある。
【0018】
【化4】
【0019】
式(I-1)及び(I-2)中、波線は、隣接する二重結合の幾何異性体がE体及びZ体から選ばれる1種以上であることを示す。
式(I-1)で表される化合物は、好ましくは下記式(I-1-1)で表される化合物であり、式(I-2)で表される化合物は、好ましくは下記式(I-2-1)で表される化合物、即ち、2−[(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)アゾ]−N−(2−メトキシフェニル)エタンアミドである。
【0020】
【化5】
【0021】
<水>
本発明の原料顔料組成物は、水を含有することができる。
本発明に用いる水としては水道水、イオン交換水、蒸留水等が挙げられるが、処理時における酸化剤の安定性保持の観点から、イオン交換水、蒸留水が好ましく、イオン交換水がより好ましい。
【0022】
<原料顔料組成物>
本発明の製造方法における原料顔料組成物としては、前述した製造方法(A)等により得られるPY74と水を含む原料顔料組成物(i)、市販のPY74を公知の方法で水と混合することにより得られる原料顔料組成物(ii)、及び市販のPY74を高分子分散剤により水に分散させた原料顔料組成物(iii)等が挙げられる。
【0023】
(原料顔料組成物(iii))
原料顔料組成物(iii)は、生産性の観点から、好ましくは、PY74、高分子分散剤、及び水を混合して分散機で分散処理することにより得ることができる。
原料顔料組成物(iii)は、高分子分散剤の他、必要に応じて、有機溶媒、界面活性剤、pH調整剤、その他各種添加剤を含有することができる。
高分子分散剤としては、合成高分子、天然高分子及びその誘導体が挙げられるが、顔料組成物をインクジェット記録用インク等に配合した場合のインク組成物の保存安定性を向上させ、吐出不良を防止する観点から、好ましくは合成高分子である。
合成高分子としては、インク組成物の保存安定性を向上させ、吐出不良を防止する観点から、疎水性基含有モノマー由来の構成単位と親水性基含有モノマー由来の構成単位を有する共重合体が好ましい。疎水性基含有モノマーとしては、スチレン等の芳香族ビニルモノマー、ベンジルメタクリレート等の(メタ)アクリレートモノマー、スチレンマクロマー等の疎水性モノマーが挙げられる。親水性基含有モノマーとしては、メトキシポリエチレングリコール(1〜30)メタクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートが挙げられる。また、共重合する他のモノマーとして、アクリル酸及びメタクリル酸等のカルボン酸モノマーが挙げられる。ここで、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及び/又はメタクリレートを示す。
【0024】
前記共重合体中における疎水性基含有モノマー由来の構成単位の含有量は、顔料の分散性を向上させる観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
前記共重合体中における親水性基含有モノマー由来の構成単位の含有量は、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
さらにカルボン酸モノマー由来の構成単位を含有する場合、前記共重合体中の該構成単位の含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
高分子分散剤の重量平均分子量は、顔料への吸着率を高くする観点から、好ましくは1,000以上、より好ましくは5,000以上、更に好ましくは10,000以上、より更に好ましくは30,000以上であり、そして、好ましくは200,000以下、より好ましく100,000以下、更に好ましくは80,000以下である。重量平均分子量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
上記合成高分子の市販品としては、インク組成物の保存安定性を向上させ、吐出不良を防止する観点から、スチレン/アクリル酸共重合体及びスチレン/メタクリル酸共重合体から選ばれる1種以上が好ましく、BASFジャパン株式会社製の「ジョンクリル」シリーズの「67」、「68」、「678」、「680」、「682」、「683」、「690」、「819」等が挙げられる。
【0025】
有機溶媒は、化合物(I)の含有量を低減する観点から、原料顔料組成物に含有されることが好ましい。有機溶媒としては、一価アルコール、多価アルコール、多価アルコールアルキルエーテル、多価アルコールアルキルエーテルアセテート、含窒素複素環化合物等が挙げられる。具体的には、グリセリン等の多価アルコールや、エチレングルコールイソプロピルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテルが好ましい。
また、有機溶媒は、後処理において溶媒を除去する際の操作性の観点から、ケトン系溶媒が好ましく、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンがより好ましく、メチルエチルケトンが更に好ましい。これらの有機溶媒は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0026】
界面活性剤としては、オルガノシロキサン系界面活性剤、アセチレングリコール等の非イオン性界面活性剤、及びリン酸エステル系界面活性剤等のアニオン性界面活性剤から選ばれる1種以上が挙げられる。
pH調整剤としては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、モルホリン等のアミン類、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩類、水酸化アンモニウム等の四級アンモニウム水酸化物等の水酸化物類、炭酸塩類、リン酸塩類等が挙げられる。 上記の有機溶媒、添加剤は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
(原料顔料組成物の組成)
原料顔料組成物中のPY74と化合物(I)の合計含有量(以下、「原料顔料含有量」ともいう)は、顔料組成物の生産性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、より更に好ましくは1質量%以上、より更に好ましくは2質量%以上、より更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは5質量%以上、より更に好ましくは8質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上、より更に好ましくは15質量%以上であり、そして、粘度の増加による顔料組成物の生産性の低下を防止する観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
【0028】
原料顔料組成物(i)及び(ii)の場合、原料顔料含有量は、顔料製造及び顔料組成物の生産性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、より更に好ましくは1質量%以上、より更に好ましくは2質量%以上であり、そして、顔料製造の生産性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
原料顔料組成物(iii)の場合、原料顔料含有量は、顔料組成物の生産性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、より更に好ましくは8質量%以上であり、そして、粘度の増加による顔料組成物の生産性の低下を防止する観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
原料顔料組成物中の水の含有量は、保存安定性の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上であり、そして、生産性の観点から、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下、更に好ましくは95質量%以下、より更に好ましくは90質量%以下である。
【0029】
原料顔料組成物(iii)の場合、原料顔料組成物中の高分子分散剤の含有量は、化合物(I)の含有量を低減する観点及び顔料組成物をインクジェット記録用インク等に配合した場合のインク組成物の保存安定性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、インク組成物の印字濃度の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは7質量%以下である。
必要に応じて用いる有機溶媒の含有量は、化合物(I)の含有量を低減する観点及びインク組成物の保存安定性の観点から、原料顔料組成物中、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは8質量%以上であり、また、インク組成物の印字濃度の観点から、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下、より更に好ましくは18質量%以下である。
必要に応じて用いる界面活性剤の含有量は、インク組成物の保存安定性の観点から、原料顔料組成物中、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、そして、インク組成物の印字濃度の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
原料顔料組成物(iii)の場合、原料顔料組成物中の水の含有量は、インク組成物の保存安定性の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上であり、そして、インク組成物の印字濃度の観点から、好ましくは99質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0030】
<酸化剤処理>
本発明の顔料組成物の製造方法においては、PY74、及び前記式(I-1)又は(I-2)で表される化合物(I)を含有する原料顔料組成物を酸化剤処理する。
酸化剤処理は、酸化剤を原料顔料組成物に添加して行うことができるが、酸化剤を水溶液として添加することもできる。
酸化剤としては、原料顔料組成物中の化合物(I)の含有量を効果的に低減する観点から、過酸化物、酸素酸又はその塩、ペルオキソ酸又はその塩、金属塩類、過マンガン酸又はその塩、クロム酸又はその塩、硝酸類、硫酸類等が挙げられるが、過酸化物、酸素酸又はその塩、ペルオキソ酸又はその塩、及び金属塩類から選ばれる1種以上が好ましい。
過酸化物としては、過酸化水素が挙げられる。
酸素酸又はその塩としては、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、次亜塩素酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
ペルオキソ酸又はその塩としては、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸又はそれらの塩等が挙げられる。
金属塩類としては、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、クエン酸鉄(III)、硫酸アンモニウム鉄(III)等が挙げられる。
上記の酸化剤の中でも、過酸化物、酸素酸又はその塩が好ましく、過酸化水素、次亜塩素酸アルカリ金属塩がより好ましく、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、及び次亜塩素酸リチウムから選ばれる1種以上が更に好ましく、経済性の点から、過酸化水素及び次亜塩素酸ナトリウムから選ばれる1種以上がより更に好ましい。
【0031】
(過酸化水素処理)
過酸化水素処理は過酸化水素を添加して行う。該過酸化水素は水溶液として添加してもよく、無機過酸化物のように水に溶解することで過酸化水素を発生させる固形物として添加してもよい。
過酸化水素処理した顔料組成物をそのままインクジェット用インク等に用いる場合には、不要な無機イオンを含有させず配合の自由度を高める観点から、過酸化水素水溶液、即ち過酸化水素水を添加することが好ましい。
また、生産性の観点から、過酸化水素水と炭酸ナトリウムをそれぞれ添加することも好ましく、無機過酸化物の固形物として添加することも好ましい。無機過酸化物の固形物は、好ましくはアルカリ金属の過炭酸塩及び過硼酸塩から選ばれる1種以上であり、より好ましくは過炭酸ナトリウム及び過硼酸ナトリウムから選ばれる1種以上であり、更に好ましくは過炭酸ナトリウムである。
なお、本明細書において、「過炭酸ナトリウム」とは、化学式2NaCO・3Hで表される炭酸ナトリウムと過酸化水素の付加化合物を意味し、「過硼酸ナトリウム」とは、化学式NaBO・H・3HOで表される硼酸ナトリウムと過酸化水素の付加化合物を意味する。
【0032】
以下、酸化剤処理として、主に過酸化水素処理について説明するが、次亜塩素酸アルカリ金属塩処理等の他の酸化剤処理においても、質量比(酸化剤添加量/原料顔料含有量)、酸化剤濃度、温度、圧力、時間、pH、撹拌条件、顔料の粒径、添加方法、添加剤、有機溶媒等の処理条件は、特に説明しない限り基本的に同じであるので、次亜塩素酸アルカリ金属塩処理等の他の酸化剤による個々の処理条件については重複記載を省略するが、過酸化水素処理と同様の処理条件が記載されているものとする。
【0033】
本発明においては、PY74の変色を防止する観点から、系内のpH上昇を抑制した処理条件で行うことが好ましい。該処理条件としては化合物(I)の分解反応を促進する観点から、処理時の系内に金属触媒、カタラーゼ、水酸化ナトリウム、有機過酸、過酸前駆体及び炭酸水素イオンから選ばれる1種以上を含有することが好ましく、炭酸水素イオンを含有することがより好ましい。この中では、顔料の変色を防止する観点から、炭酸水素イオンを含有することがより好ましい。処理時の系内に炭酸水素イオンを含有させるための方法としては、過炭酸ナトリウムを添加する方法、又は過酸化水素水溶液及び炭酸ナトリウムを添加する方法が好ましい。
【0034】
原料顔料組成物中のPY74と化合物(I)の合計含有量(原料顔料含有量)に対する過酸化水素添加量の質量比(過酸化水素添加量/原料顔料含有量)は、化合物(I)の分解促進の観点から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.01以上、より更に好ましくは0.012以上、より更に好ましくは0.015以上である。前記質量比は、場合により0.05以上、例えば0.1以上、0.3以上、又は0.5以上であってもよい。そして、PY74の変色を防止する観点から、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下、より更に好ましくは2以下、より更に好ましくは1.3以下である。さらに、原料顔料組成物(iii)の場合、過酸化水素処理した顔料組成物をそのままインクジェット用インク等に用いる場合には、原料顔料組成物(iii)中のPY74と化合物(I)の合計含有量(原料顔料含有量)に対する過酸化水素添加量の質量比(過酸化水素添加量/原料顔料含有量)は、残留する過酸化水素の量を抑制する観点から、より更に好ましくは0.8以下、より更に好ましくは0.1以下、より更に好ましくは0.05以下である。
過酸化水素水溶液として添加する場合、過酸化水素水溶液の濃度は、化合物(I)の分解促進の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、PY74の変色を防止する観点から、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0035】
過酸化水素処理時の系内の過酸化水素濃度は、化合物(I)の分解促進の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.02質量%以上、より更に好ましくは0.03質量%以上、より更に好ましくは0.04質量%以上である。前記過酸化水素濃度は、場合により0.1質量%以上、例えば2質量%以上であってもよい。そして、PY74の変色を防止する観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。さらに、過酸化水素処理した顔料組成物をそのままインクジェット用インク等に用いる場合には、過酸化水素処理時の系内の過酸化水素濃度は、残留する過酸化水素の量を抑制する観点から、より更に好ましくは2.5質量%以下、より更に好ましくは1質量%以下、より更に好ましくは0.5質量%以下である。
【0036】
過酸化水素処理時の温度は、化合物(I)の分解促進の観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは50℃以上、より更に好ましくは60℃以上、より更に好ましくは70℃以上であり、そして、PY74の変色を防止する観点から、好ましくは95℃以下、より好ましくは93℃以下、更に好ましくは91℃以下であり、場合により90℃以下、例えば85℃以下であってもよい。
過酸化水素処理の時間は、化合物(I)の含有量を低減する観点から、好ましくは5分間以上、より好ましくは10分間以上、更に好ましくは20分間以上、より更に好ましくは30分間以上、より更に好ましくは40分間以上、より更に好ましくは50分間以上であり、そして、生産性を向上させる観点及びPY74の変色を防止する観点から、好ましくは10時間以下、より好ましくは8時間以下、更に好ましくは5時間以下、より更に好ましくは3時間以下、より更に好ましくは2時間以下である。
【0037】
過酸化水素処理時のpHは、化合物(I)の分解促進の観点、すなわち生産性の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上、より更に好ましくは7以上、より更に好ましくは8以上、より更に好ましくは9以上、より更に好ましくは10以上であり、そして、PY74の変色を防止する観点から、好ましくは13以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは9以下、より更に好ましくは8以下、より更に好ましくは7以下である。また、ステンレス槽を用いて過酸化水素処理を行う場合は、ステンレスの腐食防止の観点から、好ましくは5以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは7以上、より更に好ましくは8以上である。生産性観点からは、処理時のpHは、好ましくは8以上13以下、より好ましくは9以上12以下、更に好ましくは10以上12以下である。また、PY74の変色を防止する観点を重視して製造する観点からは、処理時のpHは、好ましくは3以上9以下、より好ましくは4以上8以下、更に好ましくは5以上7以下である。
【0038】
次亜塩素酸アルカリ金属塩、特に次亜塩素酸ナトリウムによる処理時のpHは、化合物(I)の分解促進の観点、すなわち生産性の観点から、好ましくは7以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは9以上であり、また、PY74の変色を防止する観点から、好ましくは12以下、より好ましくは11以下である。生産性及びPY74の変色を防止する観点から、処理時のpHは、好ましくは7以上12以下、より好ましくは8以上11以下、更に好ましくは9以上11以下である。
【0039】
過酸化水素処理中の撹拌は、凝集状態の顔料を解砕し該顔料の比表面積を増大させ、化合物(I)の分解を促進する観点から、高速解砕回転機器を用いることが好ましい。
高速解砕回転機器の撹拌翼の先端周速は、好ましくは0.3m/s以上、より好ましくは1.0m/s以上、更に好ましくは5.0m/s以上、より更に好ましくは10m/s以上であり、撹拌中の発泡を抑制する観点から、好ましくは100m/s以下、より好ましくは75m/s以下、更に好ましくは60m/s以下、より更に好ましくは50m/s以下である。
また、撹拌翼のせん断速度は、好ましくは10S−1以上、より好ましくは100S−1以上、更に好ましくは200S−1以上、より更に好ましくは1000S−1以上、より更に好ましくは10000S−1以上であり、撹拌中の発泡を抑制する観点から、好ましくは100000S−1以下、より好ましくは75000S−1以下、更に好ましくは60000S−1以下、より更に好ましくは50000S−1以下である。
【0040】
過酸化水素処理中の顔料の粒径は、凝集状態の顔料を解砕し、該顔料の比表面積を増大させ、化合物(I)の分解を促進する観点から、小さいことが好ましい。好ましい粒径の範囲は、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは15μm以下、より更に好ましくは10μm以下である。
【0041】
撹拌装置は、公知のものを使用することができる。例えば、ウルトラタラックス(IKA社製)、TKホモミクサー、TKパイプラインホモミクサー、TKフィルミックス(以上、プライミクス株式会社製)、クレアミックス(エム・テクニック株式会社製)、キャビトロン(ユーロテック社製)等のようなメディアレス撹拌機、ビスコミル(株式会社アイメックス製)、ウルトラアペックスミル(寿工業株式会社製)、スターミル(アシザワ・ファインテック株式会社製)、マイクロメディア(ビューラー社製)、スパイクミル(株式会社井上製作所製)等のメディア攪拌機、マイクロフルイダイザー(Microfluidics 社製)、アルティマイザー(株式会社スギノマシン製)、ナノマイザー(株式会社吉田機械製作所製)、NANO3000(株式会社美粒製)等の高圧衝撃式分散装置等が挙げられる。また、超音波分散装置も好ましく用いられる。
【0042】
過酸化水素の添加方法は、特に制限されないが、化合物(I)の分解促進の観点から、分割して添加することが好ましい。
過酸化水素処理時の圧力は、特に制限はなく、常圧付近で行うことができる。
本発明において、処理後に得られる顔料組成物から未反応の過酸化水素を除去する目的で、濾過及び水洗する工程を有することが好ましい。
さらに、アルカリ剤添加又は加熱処理によって過酸化水素を除去する工程を有してもよい。
【0043】
本発明において、過酸化水素処理時における過酸化水素の安定性を保持する観点から、さらに重金属捕捉剤を添加することができる。重金属捕捉剤としては、下記(1)〜(7)から選ばれる1種以上が好ましい。
(1)オルソリン酸塩、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、メタリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、フィチン酸塩等のリン酸塩。
(2)エタン−1,1−ジホスホン酸、エタン−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1−ヒドロキシ−1,1−ジホスホン酸及びその誘導体、エタンヒドロキシ−1,1,2−トリホスホン酸、エタン−1,2−ジカルボキシ−1,2−ジホスホン酸、メタンヒドロキシホスホン酸等のホスホン酸の塩。
(3)2−ホスホノブタン−1,2−ジカルボン酸、1−ホスホノブタン−2,3,4−トリカルボン酸、α−メチルホスホノコハク酸等のホスホノカルボン酸の塩。
(4)アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン等のアミノ酸の塩。
(5)ニトリロトリ酢酸塩、イミノジ酢酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、ジエチレントリアミン五酢酸塩、グリコールエーテルジアミン四酢酸塩、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸、トリエチレンテトラミン6酢酸塩、ジエンコル酸塩等のアミノポリ酢酸塩。
(6)ポリアクリル酸、アクリル酸/マレイン酸共重合物、ポリフマル酸、ポリマレイン酸、ポリ−α−ヒドロキシアクリル酸、ポリアセタールカルボン酸又はこれらの塩等の高分子電解質。
(7)ジグリコール酸、オキシジコハク酸、カルボキシメチルオキシコハク酸、クエン酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、リンゴ酸、グルコン酸、カルボキシメチル酒石酸、カルボキシメチルコハク酸等の有機カルボン酸の塩。
これらの中でも、(2)ホスホン酸の塩、(5)アミノポリ酢酸塩及び(7)有機カルボン酸の塩から選ばれる1種以上が好ましく、(5)アミノポリ酢酸塩がより好ましく、ジエチレントリアミン五酢酸塩が更に好ましい。
【0044】
本発明において、過酸化水素による化合物(I)を低減する効果を増強する観点から、さらにアスコルビン酸塩を添加することが好ましい。アスコルビン酸塩は、好ましくはアルカリ金属のアスコルビン酸塩であり、より好ましくはアスコルビン酸ナトリウム及びアスコルビン酸カリウムから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはアスコルビン酸ナトリウムである。
アスコルビン酸塩の添加量は、過酸化水素添加量に対するアスコルビン酸塩添加量の質量比(アスコルビン酸塩添加量/過酸化水素添加量)として、過酸化水素による化合物(I)を低減する効果を増強する観点から、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上、より更に好ましくは0.3以上、より更に好ましくは0.5以上であり、そして、好ましくは3以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2以下、より更に好ましくは1.5以下、より更に好ましくは1以下である。
【0045】
また、原料顔料組成物(iii)において、原料顔料組成物中に有機溶媒を含有する場合、例えばインクジェット記録用インクに用いる際の配合の自由度を高めるという観点から、有機溶媒を除去してもよい。
有機溶媒を除去する方法としては、例えば、加熱又は減圧下で有機溶媒を留去する方法、濾過等が挙げられ、生産性の観点から、加熱及び減圧下で有機溶媒を留去する方法が好ましい。加熱温度は、有機溶媒の種類にもよるが、生産性の観点から、好ましくは35℃以上、より好ましくは45℃以上、更に好ましくは55℃以上であり、そして、熱分解等を抑制する観点から、好ましくは85℃以下、より好ましくは75℃以下、更に好ましくは65℃以下である。得られた顔料組成物中の有機溶媒は実質的に除去されていることが好ましいが、本発明の目的を損なわない限り、残存していてもよい。残留有機溶媒の量は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下である。
また、有機溶媒を除去した後、必要に応じて水を添加し、固形分濃度を調整してもよい。有機溶媒除去後の顔料組成物の固形分濃度は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは12質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下である。
【0046】
(顔料組成物の組成)
本発明の製造方法により得られる顔料組成物は、上記の酸化剤処理、特に過酸化水素処理又は次亜塩素酸アルカリ金属塩処理により、処理後の顔料組成物中の化合物(I)の含有量を低減するが、PY74、化合物(I)及び水を含有する。顔料組成物をインクジェット記録用インク等に配合した場合に、インク組成物の保存安定性を向上させ、吐出不良を防止する観点から、処理後の顔料組成物中の化合物(I)の含有量は、処理前の原料顔料組成物中の化合物(I)の含有量に対する残存率として、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下、更に好ましくは70%以下、より更に好ましくは65%以下、より更に好ましくは60%以下、より更に好ましくは55%以下、より更に好ましくは50%以下である。また、顔料組成物の生産性を向上させる観点から、処理後の顔料組成物中の化合物(I)の含有量は、処理前の原料顔料組成物中の化合物(I)の含有量に対する残存率として、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは15%以上、より更に好ましくは18%以上、より更に好ましくは20%以上である。
【0047】
さらに、原料顔料組成物(iii)の場合、インク組成物の保存安定性を向上させ、吐出不良を防止する観点から、処理後の顔料組成物中の化合物(I)の含有量は、処理前の原料顔料組成物中の化合物(I)の含有量に対する残存率として、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下、更に好ましくは18%以下、より更に好ましくは12%以下、より更に好ましくは8%以下、より更に好ましくは5%以下である。
なお、過酸化水素処理時の温度が20℃以上95℃以下である場合の上記残存率の算出において、過酸化水素を用いずに行った熱処理後の顔料組成物中の化合物(I)の含有量は、処理前の原料顔料組成物中の化合物(I)の含有量と同じであるため、処理前の原料顔料組成物中の化合物(I)の含有量の値の代わりに、過酸化水素を用いずに行った熱処理後の顔料組成物中の化合物(I)の含有量の値を用いてもよい。原料顔料組成物及び処理後の顔料組成物の化合物(I)の含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0048】
過酸化水素処理後の顔料組成物中のPY74の含有量に対する化合物(I)の含有量は、顔料組成物をインクジェット用インク等に配合した場合に、インク組成物の保存安定性を向上し、吐出不良を防止する観点から、1,200mg/kg以下であり、好ましくは1,100mg/kg以下、より好ましくは1,000mg/kg以下、更に好ましくは850mg/kg以下、より更に好ましくは750mg/kg以下、より更に好ましくは650mg/kg以下である。また、顔料組成物の生産性を向上させる観点から、好ましくは80mg/kg以上、より好ましくは100mg/kg以上、更に好ましくは130mg/kg以上、より更に好ましくは150mg/kg以上、より更に好ましくは180mg/kg以上である。PY74の含有量に対する化合物(I)の含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、処理後の顔料組成物中のC.I.ピグメントイエロー74の含有量は、顔料の色調等の物性を損なわないようにする観点から、処理前の原料顔料組成物中のC.I.ピグメントイエロー74の含有量に対する残存率として、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、より更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上、最も好ましくは100%である。
【0049】
処理後の顔料組成物中のPY74と化合物(I)の合計含有量は、顔料組成物の生産性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、より更に好ましくは1質量%以上、より更に好ましくは2質量%以上、より更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは5質量%以上、より更に好ましくは8質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上、より更に好ましくは15質量%以上であり、そして、顔料組成物の生産性の低下を防止する観点から、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
【0050】
<色差の好ましい範囲>
顔料の発色性の観点から、過酸化水素処理による顔料の変色は小さい方が好ましく、実施例に示す過酸化水素処理前後の粉末状の顔料のL、a、b表色系における色差ΔEは、好ましくは6.0未満、より好ましくは4.5未満、更に好ましくは3.2未満、更により好ましくは2.8未満である。
【0051】
原料顔料組成物(iii)の場合、処理後の顔料組成物は、PY74、残存する化合物(I)及び水の他、さらに高分子分散剤を含有し、必要に応じて有機溶媒、界面活性剤、pH調整剤、及びその他の各種添加剤を含有するものであり、顔料であるPY74が水を主成分とする水系媒体に分散した水系顔料分散体として得られる。
処理後の顔料組成物中の高分子分散剤の含有量は、顔料組成物をインクジェット記録用インク等に配合した場合のインク組成物の保存安定性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、インク組成物の印字濃度の観点から、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは7質量%以下である。
原料顔料組成物(iii)の場合、処理後の原料顔料組成物中の水の含有量は、インク組成物の保存安定性の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、そして、インク組成物の印字濃度の観点から、好ましくは99質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは85質量%以下である。
【0052】
本発明は、C.I.ピグメントイエロー74、前記式(I-1)又は(I-2)で表される化合物(I)及び水を含有する原料顔料組成物を、過酸化水素処理する工程を有する、顔料組成物の製造方法をも提供する。該製造方法における製造条件は前述のとおりである。
過酸化水素処理する場合は、前述のとおり過酸化水素水溶液を添加して行うことができる。
【0053】
[化合物(I)の含有量を低減する方法]
本発明の化合物(I)の含有量を低減する方法は、PY74、及び化合物(I)を含有する原料顔料組成物を、酸化剤処理することにより、該原料顔料組成物中の化合物(I)の含有量を低減する方法である。
酸化剤処理の詳細は上記のとおりである。
[インクジェット記録用インクの吐出不良を防止する方法]
本発明のインクジェット記録用インクの吐出不良を防止する方法は、本発明の製造方法で製造された顔料組成物をインクジェット記録用インクに配合し、インクジェット記録用インクの吐出不良を防止する方法である。
顔料組成物の製造方法の詳細は上記のとおりである。また、顔料組成物をインクジェット記録用インクに配合する方法は常法による。
【0054】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の顔料組成物の製造方法及び化合物(I)の含有量を低減する方法を開示する。
<1> C.I.ピグメントイエロー74、及び下記式(I-1)又は(I-2)で表される化合物(I)を含有する原料顔料組成物を、酸化剤処理する工程を有し、処理後の顔料組成物中のC.I.ピグメントイエロー74の含有量に対する化合物(I)の含有量を1,200mg/kg以下にする、顔料組成物の製造方法。
【0055】
【化6】
【0056】
<2> 前記式(I-1)で表される化合物が下記式(I-1-1)で表される化合物であり、前記式(I-2)で表される化合物が下記式(I-2-1)で表される化合物である、前記<1>に記載の顔料組成物の製造方法。
【0057】
【化7】
【0058】
<3> C.I.ピグメントイエロー74が、m−ニトロ−o−アニシジンをジアゾ化してアセト酢酸−o−アニシダイドとカップリング反応させる方法によって得られるものである、前記<1>又は<2>に記載の顔料組成物の製造方法。
<4> 原料顔料組成物中のC.I.ピグメントイエロー74と化合物(I)の合計含有量が、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、より更に好ましくは1質量%以上、より更に好ましくは2質量%以上、より更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは5質量%以上、より更に好ましくは8質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上、より更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である、前記<1>〜<3>のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
<5> 原料顔料組成物中の水の含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上であり、そして、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下、更に好ましくは95質量%以下、より更に好ましくは90質量%以下である、前記<1>〜<4>のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
【0059】
<6> 原料顔料組成物が、前記<3>に記載のカップリング反応により得られるC.I.ピグメントイエロー74と水を含む原料顔料組成物(i)、C.I.ピグメントイエロー74を水と混合することにより得られる原料顔料組成物(ii)、又はC.I.ピグメントイエロー74を高分子分散剤により水に分散させた原料顔料組成物(iii)である、前記<3>〜<5>のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
<7> 高分子分散剤が合成高分子であり、該合成高分子が疎水性基含有モノマー由来の構成単位と親水性基含有モノマー由来の構成単位を有する共重合体である、前記<6>に記載の顔料組成物の製造方法。
<8> 原料顔料組成物が、前記<6>の原料顔料組成物(i)及び(ii)の場合、C.I.ピグメントイエロー74と化合物(I)の合計含有量が、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、より更に好ましくは1質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である、前記<6>又は<7>に記載の顔料組成物の製造方法。
<9> 原料顔料組成物が、前記<6>の原料顔料組成物(iii)の場合、C.I.ピグメントイエロー74と化合物(I)の合計含有量が、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、より更に好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である、前記<6>又は<7>に記載の顔料組成物の製造方法。
<10> 原料顔料組成物が、前記<6>の原料顔料組成物(iii)の場合、原料顔料組成物中の高分子分散剤の含有量が、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは7質量%以下である、前記<6>又は<7>に記載の顔料組成物の製造方法。
【0060】
<11> 酸化剤処理を酸化剤水溶液又は無機過酸化物の固形物を添加して行う、前記<1>〜<10>のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
<12> 無機過酸化物の固形物が、好ましくはアルカリ金属の過炭酸塩及び過硼酸塩から選ばれる1種以上であり、より好ましくは過炭酸ナトリウム及び過硼酸ナトリウムから選ばれる1種以上であり、更に好ましくは過炭酸ナトリウムである、前記<11>に記載の顔料組成物の製造方法。
<13> 酸化剤処理時の原料顔料組成物中のC.I.ピグメントイエロー74と化合物(I)の合計含有量(原料顔料含有量)に対する酸化剤添加量の質量比(酸化剤添加量/原料顔料含有量)が、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上、更に好ましくは0.01以上、より更に好ましくは0.012以上、より更に好ましくは0.015以上であり、場合により、0.05以上、0.1以上、0.3以上、又は0.5以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下、より更に好ましくは2以下、より更に好ましくは1.3以下である、前記<1>〜<12>のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
【0061】
<14> 酸化剤処理時の系内の酸化剤濃度が、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.1質量%以上、より更に好ましくは1質量%以上、より更に好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である、前記<1>〜<13>のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
<15> 酸化剤処理時の温度が、好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは50℃以上、より更に好ましくは60℃以上、より更に好ましくは70℃以上であり、そして、好ましくは95℃以下、より好ましくは93℃以下、更に好ましくは91℃以下であり、場合により90℃以下、例えば85℃以下である、前記<1>〜<14>のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
<16> 酸化剤処理の時間が、好ましくは5分間以上、より好ましくは10分間以上、更に好ましくは20分間以上、より更に好ましくは30分間以上、より更に好ましくは40分間以上、より更に好ましくは50分間以上であり、そして、好ましくは10時間以下、より好ましくは8時間以下、更に好ましくは5時間以下、より更に好ましくは3時間以下、より更に好ましくは2時間以下である、前記<1>〜<15>のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
<17> 酸化剤処理時のpHが、好ましくは3以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上、より更に好ましくは7以上、より更に好ましくは8以上、より更に好ましくは9以上、より更に好ましくは10以上であり、場合によっては、好ましくは5以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは7以上、より更に好ましくは8以上であり、そして、好ましくは13以下、より好ましくは12以下、更に好ましくは9以下、より更に好ましくは8以下、より更に好ましくは7以下である、前記<1>〜<16>のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
<18> 酸化剤処理中の撹拌翼のせん断速度が10s−1以上100000s−1以下である、前記<1>〜<17>のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
【0062】
<19> 過酸化水素処理時に、さらにアスコルビン酸塩を添加する、前記<1>〜<18>のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
<20> アスコルビン酸塩が、好ましくはアルカリ金属のアスコルビン酸塩であり、より好ましくはアスコルビン酸ナトリウム及びアスコルビン酸カリウムから選ばれる1種以上であり、更に好ましくはアスコルビン酸ナトリウムである、前記<19>に記載の顔料組成物の製造方法。
<21> アスコルビン酸塩の添加量が、過酸化水素添加量に対するアスコルビン酸塩添加量の質量比(アスコルビン酸塩添加量/過酸化水素添加量)として、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上、より更に好ましくは0.3以上、より更に好ましくは0.5以上であり、そして、好ましくは3以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2以下、より更に好ましくは1.5以下、より更に好ましくは1以下である、前記<19>又は<20>に記載の顔料組成物の製造方法。
<22> 酸化物処理が、好ましくは過酸化物及び酸素酸又はその塩から選ばれる1種以上による処理、より好ましくは過酸化水素及び次亜塩素酸アルカリ金属塩から選ばれる1種以上による処理、更に好ましくは過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、及び次亜塩素酸リチウムから選ばれる1種以上による処理、より更に好ましくは過酸化水素及び次亜塩素酸ナトリウムから選ばれる1種以上による処理である、<1>〜<21>のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
<23> 次亜塩素酸処理が、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、及び次亜塩素酸リチウムから選ばれる1種以上の次亜塩素酸アルカリ金属塩を添加して行う処理である、前記<22>に記載の顔料組成物の製造方法。
【0063】
<24> 処理後の顔料組成物中の化合物(I)の含有量が、処理前の原料顔料組成物中の化合物(I)の含有量に対する残存率として、好ましくは80%以下、より好ましくは75%以下、更に好ましくは70%以下、より更に好ましくは65%以下、より更に好ましくは60%以下、より更に好ましくは55%以下、より更に好ましくは50%以下であり、また、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、更に好ましくは15%以上、より更に好ましくは18%以上、より更に好ましくは20%以上である、前記<1>〜<23>のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
<25> 処理後の顔料組成物中のC.I.ピグメントイエロー74の含有量に対する化合物(I)の含有量が、好ましくは1,100mg/kg以下、より好ましくは1,000mg/kg以下、更に好ましくは850mg/kg以下、より更に好ましくは750mg/kg以下、より更に好ましくは650mg/kg以下であり、また、好ましくは80mg/kg以上、より好ましくは100mg/kg以上、更に好ましくは130mg/kg以上、より更に好ましくは150mg/kg以上、より更に好ましくは180mg/kg以上である、前記<1>〜<24>のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
<26> 処理後の顔料組成物中のC.I.ピグメントイエロー74の含有量が、処理前の原料顔料組成物中のC.I.ピグメントイエロー74の含有量に対する残存率として、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、より更に好ましくは98%以上、より更に好ましくは99%以上、最も好ましくは100%である、前記<1>〜<25>のいずれかに記載の顔料組成物の製造方法。
【0064】
<27> C.I.ピグメントイエロー74、前記式(I-1)又は(I-2)で表される化合物(I)及び水を含有する原料顔料組成物を、過酸化水素処理する工程を有する、顔料組成物の製造方法。
<28> 過酸化水素処理を、過酸化水素水溶液を添加して行う、前記<27>に記載の顔料組成物の製造方法。
<29> C.I.ピグメントイエロー74、及び前記式(I-1)又は(I-2)で表される化合物(I)を含有する原料顔料組成物を、酸化剤処理することにより、該原料顔料組成物中の前記式(I-1)又は(I-2)で表される化合物(I)の含有量を低減する方法。
<30> 処理後の顔料組成物中のC.I.ピグメントイエロー74の含有量に対する化合物(I)の含有量を、好ましくは1,200mg/kg以下、より好ましくは1,100mg/kg以下、更に好ましくは1,000mg/kg以下、より更に好ましくは850mg/kg以下、より更に好ましくは750mg/kg以下、より更に好ましくは650mg/kg以下とし、また、好ましくは80mg/kg以上、より好ましくは100mg/kg以上、更に好ましくは130mg/kg以上、より更に好ましくは150mg/kg以上、より更に好ましくは180mg/kg以上にする、前記<29>に記載の化合物(I)の含有量を低減する方法。
<31> 前記<1>〜<28>のいずれかに記載の方法で製造された顔料組成物。
<32> 前記<1>〜<28>のいずれかに記載の方法で製造された顔料組成物をインクジェット記録用インクに配合し、インクジェット記録用インクの吐出不良を防止する方法。
【実施例】
【0065】
<化合物(I)の定量>
(1)実施例1〜19及び比較例1の場合
過酸化水素処理前後の顔料組成物を、それぞれ減圧下40℃で24時間保持して水を除去して粉末状の顔料を得た。得られた粉末状の顔料を、テトラヒドロフラン(和光純薬工業株式会社製、高速液体クロマトグラフ用THF)に溶解し、10,000質量倍に希釈した後、0.45μmのフィルター(ポール社製「エキクロディスク13Cr」)で濾過した。
(2)実施例20〜31及び比較例2の場合
得られた顔料水系分散体である顔料組成物を、減圧下70℃で24時間保持して水を除去して粉末状の顔料と高分子分散剤である樹脂の混合物を得た。得られた混合物を、テトラヒドロフラン(和光純薬工業株式会社製、高速液体クロマトグラフ用THF)に溶解し、10,000質量倍に希釈した後、0.45μmのフィルター(ポール社製「エキクロディスク13Cr」)で濾過した。
【0066】
上記(1)及び(2)で得られた顔料を含むTHF溶液から、液体クロマトグラフ質量分析計(株式会社島津製作所製、LCMS−2020)を用いて以下の測定条件により質量分析を行い、化合物(I)(m/z 345)の量を定量した。なお、化合物(I)のリテンションタイムは2.8〜3.2minであった。
得られた化合物(I)の量から、顔料に対する化合物(I)の含有量(mg/kg)を求めた。
(測定条件)
・溶離液A:{ギ酸/ギ酸アンモニウム緩衝液pH3.0}:MeOH=10:90(25℃における体積比)
・溶離液B:メタノール:THF:ギ酸=10:90:0.1(25℃における体積比)(ギ酸、ギ酸アンモニウムは和光純薬工業株式会社製「特級」、メタノール、THFは和光純薬工業株式会社製「高速液体クロマトグラフ用」)
・グラジエント溶出条件:B0%(0min)−B0%(5min)−B100%(5.1min)−B100%(7min)−B0%(7.1min)−B0%(13min)
・カラム:一般財団法人化学物質評価研究機構製、L−Column2 ODS(2.1×150mm,5μm)
・検出 :MS(エレクトロスプレー法(ESI)、イオン化モード:ポジティブ)
・注入量:10μL
・定量法:以下の単離方法により得られた化合物(I)を用い、メタノールで溶解して濃度が0.1、0.5、1、5、10、50、100mg/kgの検量線用溶液を調製した。上記LCMS−2020を用いて上記条件により測定し、化合物(I)量を定量するための検量線を作成した。得られたピークから、上記検量線により化合物(I)の含有量を定量した。
【0067】
(化合物(I)の単離方法)
特願2014−149870号の段落〔0040〕に記載した化合物(I)の単離方法により、化合物(I)を単離した。
単離した化合物をMS−MS(サーモ・サイエンティフィックス社製、Q−Exactive、ポジティブモード)にて解析した結果、m/z 345([M+H]イオン:345.1194 C161754)を示し、さらにフラグメント解析により、前記式(I-1-1)又は式(I-2-1)で表される化合物であることが判明した。
検出された主なフラグメントは、以下のとおりであった。
[CONHCOCHイオン; 150.0551,
[NC(NO)(OCH)+H]イオン; 167.0452,
[COCH2NNC63(NO2)(OCH3)]イオン;222.0511
【0068】
<平均粒子径の測定>
水系顔料分散体である原料顔料組成物体及び過酸化水素処理後に得られる顔料組成物に関し、水系顔料分散体の平均粒子径の測定は、大塚電子株式会社のレーザー粒子解析システムELS−8000(キュムラント解析)で測定した。測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力する。測定濃度は、5×10-3重量%とする。
【0069】
<重量平均分子量の測定>
N,N−ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液を溶離液として、ゲル浸透クロマトグラフィー法〔東ソー株式会社製GPC装置(HLC−8120GPC)、東ソー株式会社製カラム(TSK−GEL、α−M×2本)、流速:1mL/min〕により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。
【0070】
<過酸化水素処理後の顔料の色差>
過酸化水素処理前後における顔料の変色を色彩色差計で調べた。色彩色差計はCR−400(コニカミノルタジャパン株式会社製)を用い、白色校正板(Y:86.7、x:0.3156、y:0.3228)を用いて校正を行った。その後、過酸化水素処理前の粉末状の顔料を微小シャーレ(コニカミノルタジャパン株式会社製)に約0.05g充填し、暗視野の条件で、L、a、b表色系における座標L、a、bを測定し、この値を色差の基準とした。
その後、過酸化水素処理を行い、<化合物(I)の定量>で得られた粉末状の顔料を、微小シャーレに0.05g充填し、暗視野の条件で座標L、a、bを測定した。
以上から、その差であるΔL、Δa、Δbによって定義される色差ΔEを、以下の式を用いて算出し、評価した。
ΔE=[(ΔL+(Δa+(Δb]0.5
【0071】
調製例1(原料顔料組成物の調製)
イエロー顔料としてPY74「Fast Yellow 7413−A」(山陽色素株式会社製)10質量部とイオン交換水90質量部を室温(25℃)にて混合し、φ32のディスパー翼を装着した高速乳化分散機「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)にて、回転数6400/分、30分間の条件で分散を行い、原料顔料組成物を調製した。
【0072】
実施例1
500mLのセパラブルフラスコに調製例1で得られた原料顔料組成物を30質量部、30質量%過酸化水素水溶液(シグマアルドリッチ社製)を10質量部(過酸化水素として3.0質量部)、イオン交換水を60質量部仕込み、5規定の水酸化ナトリウム水溶液を2.7質量部添加し、pHを11.0に調整した。系内の過酸化水素濃度は2.9質量%であった。その後、80℃に加熱し、撹拌しながら1時間保持した後、空冷で40℃まで冷却を行い、顔料組成物を得た。
顔料組成物中のPY74の1kg当たりの化合物(I)の含有量を、過酸化水素処理前の原料顔料組成物及び該処理後の顔料組成物において測定し、化合物(I)の残存率を算出した。結果を表1に示す。
【0073】
実施例2
実施例1において、過酸化水素処理温度を室温(25℃)とした以外は、実施例1と同様の方法で顔料組成物を得た。結果を表1に示す。
【0074】
調製例2(原料顔料組成物の調製)
イエロー顔料としてPY74(ファストイエロー74、大日精化工業株式会社製、商品名:FY840)10質量部とイオン交換水90質量部を室温(25℃)にて混合し、φ32のディスパー翼を装着した高速乳化分散機「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)にて、回転数6400/分、30分間の条件で分散を行い、原料顔料組成物を調製した。
【0075】
実施例3〜6
1Lのセパラブルフラスコ(SUS304)に調製例2で得られた原料顔料組成物を30質量部、イオン交換水を60質量部仕込み、表1に示すように無水炭酸ナトリウムを仕込み、pHを調整した。その後、30質量%過酸化水素水溶液(シグマアルドリッチ社製)を0.06質量部(過酸化水素として0.018質量部)仕込み、90℃に加熱した。翼直径6.5cmのアンカー翼で150回転/分(先端周速0.3m/s)で撹拌しながら1時間保持した後、30質量%過酸化水素水溶液を0.06質量部(過酸化水素として0.018質量部)仕込んだ。さらに撹拌しながら1時間保持した後(加熱開始から計2時間経過後)、30質量%過酸化水素水溶液(を0.06質量部(過酸化水素として0.018質量部)仕込んだ。さらに撹拌しながら1時間保持した後(加熱開始から計3時間経過後)、空冷で40℃まで冷却を行い、顔料組成物を得た。
顔料組成物中のPY74の1kg当たりの化合物(I)の含有量を、過酸化水素処理前の原料顔料組成物及び該処理後の顔料組成物において測定し、化合物(I)の残存率を算出した。結果を表1に示す。
【0076】
実施例7
実施例4において、過酸化水素処理温度を70℃とした以外は、実施例4と同様の方法で顔料組成物を得た。結果を表1に示す。
実施例8
実施例4において、過酸化水素処理温度を25℃とした以外は、実施例4と同様の方法で顔料組成物を得た。結果を表1に示す。
実施例9
実施例4において、過酸化水素濃度を10倍とした以外は、実施例4と同様の方法で顔料組成物を得た。結果を表1に示す。
【0077】
実施例10〜12
実施例4において、無水炭酸ナトリウムの代わりに5規定の水酸化ナトリウム水溶液を用いた以外は、実施例4と同様の方法で顔料組成物を得た。結果を表1に示す。
【0078】
実施例13〜14
3Lのセパラブルフラスコに調製例2で得られた原料顔料組成物を30質量部、イオン交換水を60質量部仕込み、表1に示すように無水炭酸ナトリウムを仕込み、pHを調整した。その後、30質量%過酸化水素水溶液(シグマアルドリッチ社製)を0.06質量部(過酸化水素として0.018質量部)仕込み、90℃に加熱した。φ32のディスパー翼を装着した高速乳化分散機「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)にて、回転数4000/分(先端周速6.9m/s、せん断速度138s-1)、又は8000/分(先端周速13.4m/s、せん断速度268s-1)の条件で撹拌しながら1時間保持した後、30質量%過酸化水素水溶液を0.06質量部(過酸化水素として0.018質量部)仕込んだ。さらに撹拌しながら1時間保持した後(加熱開始から計2時間経過後)、30質量%過酸化水素水溶液を0.06質量部(過酸化水素として0.018質量部)仕込んだ。さらに撹拌しながら1時間保持した後(加熱開始から計3時間経過後)、空冷で40℃まで冷却を行い、顔料組成物を得た。結果を表1及び表2に示す。
【0079】
実施例15
30Lのジャケット付き撹拌槽に調製例2で得られた原料顔料組成物を30質量部、イオン交換水を60質量部仕込み、表1に示すように無水炭酸ナトリウムを仕込み、pHを調整した。その後、30質量%過酸化水素水溶液(シグマアルドリッチ社製)を0.06質量部(過酸化水素として0.018質量部)仕込み、90℃に加熱した。その後、撹拌槽の底排弁からキャビトロン(ユーロテック社製)に通液し先端周速40m/s(せん断速度80000s-1)で解砕した。その後、撹拌槽に戻し循環運転を行った。加熱開始から1時間経過した後、30質量%過酸化水素水溶液を0.06質量部(過酸化水素として0.018質量部)仕込んだ。さらに撹拌しながら1時間保持した後(加熱開始から計2時間経過後)、30質量%過酸化水素水溶液を0.06質量部(過酸化水素として0.018質量部)仕込んだ。さらに撹拌しながら1時間保持した後(加熱開始から計3時間経過後)、空冷で40℃まで冷却を行い、顔料組成物を得た。結果を表1及び表2に示す。
【0080】
実施例16
1Lのセパラブルフラスコ(SUS304)に調製例2で得られた原料顔料組成物を30質量部、イオン交換水を60質量部仕込み、表1に示すように無水炭酸ナトリウムを仕込み、pHを調整した。その後、30質量%過酸化水素水溶液(シグマアルドリッチ社製)を0.18質量部(過酸化水素として0.054質量部)仕込み、90℃に加熱した。翼直径6.5cmのアンカー翼で150回転/分(先端周速0.3m/s)で撹拌しながら3時間保持した後、空冷で40℃まで冷却を行い、顔料組成物を得た。結果を表1に示す。
【0081】
実施例17〜18
1Lのセパラブルフラスコ(SUS304)に調製例2で得られた原料顔料組成物を30質量部、イオン交換水を60質量部仕込んだ。その後、4.5質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を0.4質量部(次亜塩素酸ナトリウムとして0.018質量部)仕込み、90℃に加熱した。翼直径6.5cmのアンカー翼で150回転/分(先端周速0.3m/s)で撹拌しながら1時間保持した後、4.5質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を0.4質量部(次亜塩素酸ナトリウムとして0.018質量部)仕込んだ。さらに撹拌しながら1時間保持した後(加熱開始から計2時間経過後)、4.5質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を0.4質量部(次亜塩素酸ナトリウムとして0.018質量部)仕込んだ。さらに撹拌しながら1時間保持した後(加熱開始から計3時間経過後)、空冷で40℃まで冷却を行い、顔料組成物を得た。結果を表1に示す。
【0082】
実施例19
1Lのセパラブルフラスコ(SUS304)に調製例2で得られた原料顔料組成物を30質量部、イオン交換水を60質量部仕込んだ。その後、4.5質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を1.2質量部(次亜塩素酸ナトリウムとして0.054質量部)仕込み、90℃に加熱した。翼直径6.5cmのアンカー翼で150回転/分(先端周速0.3m/s)で撹拌しながら3時間保持した後、空冷で40℃まで冷却を行い、顔料組成物を得た。結果を表1に示す。
【0083】
比較例1
実施例1において、過酸化水素を添加せず、5規定の水酸化ナトリウム水溶液の添加量を表1に記載の量に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で顔料組成物を得た。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
なお、表1、2中の各記号は下記のとおりである。
*1:表中( )内の数値は原料顔料組成物中の含有量(質量%)を示す。
*2:原料顔料の含有量は、原料顔料組成物中のPY74と化合物(I)の合計含有量を示す。
*3:過酸化水素は30質量%過酸化水素水溶液として添加し、表中には過酸化水素添加量を示す。
*4:イオン交換水の添加量は、過酸化水素水溶液からの持ち込み分を含む。
*5:処理前の原料顔料組成物及び処理後の顔料組成物のPY74の1kg当たりの化合物(I)の含有量を示す。
*6:比較例1の処理後の化合物(I)の含有量に対する実施例1〜19のそれぞれの化合物(I)の含有量の比を求め、これを化合物(I)の残存率とした。
【0087】
表1から、実施例1〜19の顔料組成物は、比較例1の顔料組成物に比べて、化合物(I)の残存率が低く、化合物(I)の含有量が効果的に低減されたことが分かる。
なお、処理後のPY74含有量については、処理前と同じであることを別途確認している。
【0088】
製造例1(高分子分散剤の製造)
反応容器内に、メチルエチルケトン20質量部及び重合連鎖移動剤(2−メルカプトエタノール)0.03質量部、表3に示す各モノマーの10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行い、混合溶液を得た。
一方、滴下ロートに、表3に示すモノマーの残りの90%を仕込み、前記重合連鎖移動剤0.27質量部、メチルエチルケトン60質量部及びラジカル重合開始剤「V−65」(2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、和光純薬工業株式会社製)1.2質量部を入れて混合し、十分に窒素ガス置換を行い、混合溶液を得た。
窒素雰囲気下、反応容器内の混合溶液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合溶液を3時間かけて徐々に滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記ラジカル重合開始剤0.3質量部をメチルエチルケトン5質量部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、重量平均分子量62,000の高分子分散剤溶液を得た。結果を表3に示す。
【0089】
【表3】
【0090】
なお、表3に示す化合物の詳細は、以下のとおりである。
(b)スチレンマクロマー:「AS−6(S)」(東亜合成株式会社製)、数平均分子量:6000、重合性官能基:メタクロイルオキシ基、固形分濃度50%
(c)ポリエチレングリコールモノメタクリレート:「NKエステルEH−4E」(新中村化学工業株式会社製)、エチレンオキシド平均付加モル数=4、末端アルキル基:2−エチルへキシル基
【0091】
調製例3(原料顔料組成物の調製)
製造例1で得られた高分子分散剤溶液を減圧乾燥させて得られた樹脂25質量部をメチルエチルケトン50質量部に溶かし、その中に中和剤(5N水酸化ナトリウム溶液、和光純薬工業株式会社製 容量分析用)6.7質量部(中和度75%)及びイオン交換水250質量部を加えて塩生成基を中和し、これにさらにイエロー顔料としてPY74「Fast Yellow 7413−A」(山陽色素株式会社製)75質量部を加え、高速乳化分散機「T.K.ロボミックス」及び「T.K.ホモディスパー2.5型」(プライミクス株式会社製)を用いて回転数8,000/分で60分間分散した。さらに、マイクロフルイダイザー(Microfluidics 製)で150MPaの圧力で10パス分散処理を行い、原料顔料組成物を調製した。原料顔料組成物のpHは約12であった。
【0092】
調製例4〜7(原料顔料組成物の調製)
調製例3において、メチルエチルケトンの量及びイオン交換水の量を表4に示した量に代えた以外は、調製例3と同様にして、原料顔料組成物を調製した。
【0093】
実施例20
37%過酸化水素水溶液(和光純薬工業株式会社製試薬)0.272質量部(過酸化水素として0.100質量部)をイオン交換水40質量部(過酸化水素水溶液の水との合計量として40.17質量部)と混合し、調製例3で得られた原料顔料組成物406.7質量部に加えて60℃で6時間撹拌し、過酸化水素処理を行った。過酸化水素処理後の粗顔料組成物のpHは約9であった。
その後、イオン交換水250質量部を加えて攪拌した後、減圧下60℃でメチルエチルケトンを除去し、さらに一部の水を除去した後、イオン交換水を加えて固形分濃度を調整し、水系顔料分散体(固形分濃度25質量%)を得た。
得られた水系顔料分散体を、冷却遠心分離機「himacCR22G」及びロータ(R12A半径15.1cm)(日立工機株式会社製)を用い、同社製遠心沈降管500PAボトルに300g入れて、回転数12,000/分で遠心加速度24,300Gをかけ、この状態で6分間保持した後、上澄み液を分取した。分取した上澄み液を公称濾過精度5μmの表面濾過型フィルター(アセチルセルロース膜、外径:2.5cm、ザルトリウス社製)を取り付けた容量25mLの針なしシリンジ(テルモ株式会社製)で濾過した後、イオン交換水で希釈して固形分濃度が20質量%になるように調整し、実施例20の水系顔料分散体である顔料組成物を得た。
【0094】
実施例21〜23
実施例20において、過酸化水素の量が表4に示した量となるように37%過酸化水素水溶液の添加量を代えた以外は、実施例20と同様の方法で顔料組成物を得た。
【0095】
実施例24〜26
実施例20において、過酸化水素処理の処理温度及び過酸化水素の量を表4に示した温度及び量に代えた以外は、実施例20と同様の方法で顔料組成物を得た。
【0096】
実施例27〜30
実施例20において、調製例3で得られた原料顔料組成物をそれぞれ表4に示した調製例4〜7で得られた原料顔料組成物に代え、過酸化水素の量を表4に示した量に代えた以外は、実施例20と同様の方法で顔料組成物を得た。
【0097】
実施例31
実施例20において、過酸化水素処理でアスコルビン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製試薬)0.07部(質量比(アスコルビン酸塩添加量/過酸化水素添加量)として0.7)をさらに添加した以外は、実施例20と同様の方法で顔料組成物を得た。
【0098】
比較例2
過酸化水素を用いなかったこと以外は、実施例20と同様の方法で顔料組成物を得た。
【0099】
<インクジェット印字評価>
製造例2(インクの製造)
上記の実施例20〜31、比較例2で得られた顔料組成物25質量部を100mlのガラス製スクリュー管に量り取った。別途、100mlのポリプロピレン製ディスポーザブルカップにグリセリン7質量部、トリエチレングリコール7質量部、トリメチロールプロパン5質量部、アセチレノールE100(川研ファインケミカル株式会社製、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキシド10モル付加物)0.5質量部、及びイオン交換水55.5質量部を入れ、シリンダー型磁気回転子を入れてマグネィックスターラーで10分間混合し、インクを構成する液体成分を調製した。ディスポーザブルカップ内の調製した液体成分を顔料組成物25質量部が入ったガラス製スクリュー管に磁気回転子ごと投入して1時間撹拌し、公称濾過精度5μmの表面濾過型フィルター(アセチルセルロース製、外径:2.5cm、ザルトリウス社製)を取り付けた容量25mLのシリンジで濾過してインクジェット記録用水系インクを得た。
【0100】
(吐出性の評価)
上記で得られた水系インクについて、以下の方法により吐出性の評価を行った。
市販のインクジェットプリンター「EM930C」(セイコーエプソン株式会社製)を用いて、普通紙「4200」(ゼロックス社製)に10枚ベタ印字して、10枚目の印字状態を観察してスジの数を記録する。さらにこれを継続して合計100枚10回の記録した際のスジの数の合計量を吐出性の指標とする。スジの数が少ないほど、ノズルの閉塞等の不具合による不吐出現象の発生がなく、吐出性が良好であることを示す。
【0101】
【表4】
【0102】
なお、表4中の各記号は下記のとおりである。
*1:表中( )内の数値は原料顔料組成物中の含有量(質量%)を示す。
*2:原料顔料の含有量は、原料顔料組成物中のPY74と化合物(I)の合計含有量を示す。
*3:過酸化水素は37質量%過酸化水素水溶液として添加し、表中には過酸化水素添加量を示す。
*4:イオン交換水の添加量は、過酸化水素水溶液からの持ち込み分を含む。
*5:化合物(1)に該当する[M+H] イオン:345.1194 C161754における比較例2のピークの高さを100としたときの各実施例のピークの高さの相対値を化合物(I)の残存率とした。
【0103】
表4から、実施例20〜31の顔料組成物は、比較例2の顔料組成物に比べて、化合物(I)の残存率が低く、化合物(I)の含有量が効果的に低減されたことが分かる。また、インクジェット用インクに使用した場合に、実施例20〜31の顔料組成物は、比較例2の顔料組成物に比べて、吐出性が良好であることが分かる。また、実施例20〜31の顔料組成物は、比較例2の顔料組成物に比べて、過酸化水素処理前の顔料分散体の平均粒子径と過酸化水素処理後の顔料分散体の平均粒子径の差が小さく、高分子分散剤による顔料の分散性への過酸化水素処理による影響が少ないと考えられる。そのため、顔料組成物をインクジェット記録用インク等に配合した場合に、保存安定性が優れると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明の製造方法で得られる顔料組成物をインクジェット記録用インクに用いると、吐出不良が発生しにくく、保存安定性に優れるものとなる。