【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、密閉構造、特に自動車窓ガラスの密閉構造を提供することにあり、この密閉構造は、個々の部材を耐久性があり安全に係止するために小さな力で済ませることができる。
【0008】
本発明の目的は、独立請求項1に従って達成される。好適な実施形態は従属請求項に記載されている。
【0009】
自動車窓ガラスを密閉する構造を形成する本発明による方法だけでなく、密閉構造の使用は、他の独立請求項に記載されている。
【0010】
本発明による車両窓ガラスの密閉構造は、少なくとも掛止溝を有する保持レールを備える。掛止溝は、ガイドレール及びバネ脚により形成され、かつ画定される。保持レールは窓ガラスに取り付けられる。保持レールの固定は、接着剤または接着テープで行なうことができる。本発明の任意の実施形態では、接着剤の接触面は、例えば保持レールをプライマー処理する、またはプラズマ処理することにより前処理することができる。保持レールは、窓ガラスと車体部材との間の接続部材として機能する。
【0011】
本発明による構造は更に、ガイド溝を有するカバー、特にウォーターボックスカバーを備え、ガイド溝は、掛止レール及び位置決めストッパにより形成される。ガイドレールは、ガイド溝内に配置されるとともに、掛止レールは掛止溝内で係合し、バネ脚は、掛止レールに掛止め接続される。
【0012】
本発明による構造は更に、バネ脚に配置される掛止フックを備え、掛止フックは、少なくとも、セクションごとに区切られる凸状湾曲係合ガイド面を有する。係合摺動端を有する係止部材は、掛止レールに配置される。係合ガイド面を有する掛止フック、及び係合摺動端を有する係止部材は、係合時に、係合摺動端が、係合ガイド面に沿って案内されて係合するように配置される。
【0013】
本発明による密閉構造の有利な実施形態では、掛止フックの係合ガイド面は、係合摺動端が、係合時に掛止フックの上を案内される領域全体に亘って略凸状に湾曲している。この場合、“substantially(略)”とは、75%超、好適には85%超、特に95%超を意味する。
【0014】
本発明による構造は更に、カバーの裏面の接触面とガイドレールとの間のガイド溝内でテンションを加えられるバネ部材を備える。
【0015】
本発明による密閉構造の有利な実施形態では、凸状湾曲係合ガイド面は、掛止フックのうちの係止部材に対向する遠位領域に配置される。この場合、“遠位”とは、掛止フックのうちの係合時に係止部材に最初に当たり、かつバネ脚と保持レールとの接続箇所から離れて配置される領域を意味する。
【0016】
先行技術による掛止フックは、従来、掛止フックの遠位領域に、別の表現をすると、適合係止部材に係合時に最初に当たる領域に、一定角度を有する傾斜面形態の係合ガイド面を有する。嵌合係止部材は、丸みを帯びた小半径の係合摺動端を有することにより、係合摺動端をガイド面に沿って導入するときに、力が最大になるのを、または圧力が最大になるのを回避している。掛止フックを導入して係止部材に係止させるために必要な力は、挿入方向と係合ガイド面の傾斜面とがなす楔角Φ(ファイ)に応じて変化し、この力は、楔角Φが大きくなるとともにより大きくなる。一定の角度を有する傾斜面形態の係合ガイド面は従って、バネ脚の偏位が大きくなると、挿入方向と傾斜面とがなす楔角Φが大きくなり、その結果、係合に必要な係合力が急激に大きくなるという不具合を有する。
【0017】
これとは異なり、本発明による掛止フックの係合ガイド面は、断面視で凸状に湾曲した輪郭を有する。本発明による凸状湾曲輪郭は確実に、先行技術による傾斜面形態の係合ガイドを挿入時に用いる結果としての楔角Φの増大を低減する、または回避する。別の表現をすると、本発明による凸状湾曲係合ガイド面を用いる場合、楔角Φは、例えば略一定のままであり、かつバネ脚の偏位とは無関係である。これは、カバーを保持レールに正確に掛止めすることができ、力をむやみに大きくしなくても済むという極めて大きな利点を有する。別の構成として、楔角Φ、従って係合力に、係合ガイド面の特定の凸状曲率により選択的に影響を与えることができ、この凸状曲率は、簡単な考察または実験により計算することができる。従って、係合ガイド面の曲率は、例えば係合段階の開始時に、係合段階の終了時に向かって必要になる係合力よりも大きい係合力が必要になるように実行することができる。別の構成として、係合ガイド面の曲率は、例えば係合段階の開始時に、係合段階の終了時に向かって必要になる係合力よりも小さい係合力が必要になって、更に顕著な係合の効果を触覚的に、または音響的に知覚することができるように実行することができる。
【0018】
本発明による係合ガイド面の有利な実施形態では、凸状曲率は、1.5
*b〜5.0
*bの局所曲率半径r
EFを有し、好適には2.0
*b〜4.0
*bの局所曲率半径r
EFを有し、bは、係合段階における掛止フックの最大偏位である。この場合、“局所曲率半径”とは、凸状曲率が、異なる曲率半径を輪郭に沿った異なる箇所に有することができ、これらの曲率半径が、いずれの場合においても、上記指示範囲に収まっていることを意味する。本願発明者が調査して知見を得たものとして、この範囲の曲率半径により、より小さな係合力の働きにより、簡単に操作可能で信頼できる係合を可能にする。
【0019】
本発明による係合ガイド面の有利な実施形態では、凸状曲率は、1.5
*b〜5.0
*bの一定の曲率半径r
EF、好ましくは2.0
*b〜4.0
*bの一定の曲率半径r
EFを有し、bは、掛止フックの最大偏位である。本願発明者が調査して知見を得たものとして、曲率半径がこの範囲に収まると、より小さな係合力の働きにより、簡単に操作可能で信頼できる係合を可能にする。曲率半径が一定である結果、このようなガイド面は、設計及び形成するのが簡単である。
【0020】
本発明による密閉構造の有利な実施形態では、係合摺動端は、0.05
*b〜0.5
*bの曲率半径r
EG、好ましくは0.2
*b〜0.4
*bの曲率半径r
EGを有し、bは、掛止フックの最大偏位である。本願発明者が調査して知見を得たものとして、係合摺動端のこのような曲率半径は、係合摺動端及び係合ガイド面に加わる圧力が最大になるのを防止して、これらの箇所の材料を保護するために特に良く適合されている。
【0021】
本発明の有利な実施形態では、バネ部材は、カバーの裏面の接触面とガイドレールとの間のガイド溝内でテンションを加えられる。バネ部材は、断面視で単一の突縁部として形成され、好適には指の形状に、または舌の形状に形成される。ガイドレールと一体となって、バネ部材は、位置決めストッパと掛止レールとの間のカバーの裏面の接触面を、好適には完全に密閉すると同時に接触面を支持する。バネ部材は、好適には高比剛性を有する。バネ部材は、掛止溝を外気が侵入しないように密閉する。バネ部材は、掛止レールを挿入している間に圧縮され、かつ位置決めストッパに対して押圧される。ガイドレールと一体となって、バネ部材から、位置決めストッパと掛止レールとの間のカバーをセンタリングする。バネ脚及び掛止レールにより構成される係止構造を用いるセンタリング手法は、もはや必要ではない。従って、センタリングの役割から解放されたバネ脚は、非常に高い可撓性を有するように設計することができるので、ガイド溝の領域の製造公差を補償することができる。
【0022】
バネ部材は、好適にはエラストマー及び/又は熱可塑性エラストマーを含み、好適にはポリウレタン、ポリオレフィン、ポリスルフィド、ポリエポキシドを含み、更には天然ゴム、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴム、エチレンプロピレンジエンゴムのようなゴムを含み、更にはRTV(室温加硫)シリコーンゴム、HTV(高温加硫)シリコーンゴム、過酸化加硫シリコーンゴム、及び/又は付加加硫シリコーンゴム、ポリアクリレート、スチレン/ブタジエンブロックコポリマー(SBS)、及び/又はエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)のようなシリコーンを含む。
【0023】
バネ部材は、好適には(部分的)中空本体、多孔性中実本体として、または中実本体として形成される。バネ部材を異なる構造にすることにより、安定性、重量、及び弾性を更に変化させることができ、かつ制御することができる。
【0024】
バネ部材は、ショア硬度A40〜ショア硬度A90、好適にはショア硬度A50〜ショア硬度A75のショア硬度を有することが好ましい。本発明によるショア硬度により、接触面を可逆的に、かつ同時に強固に漏れを防止して密閉することができる。
【0025】
バネ部材は、2mm〜8mmの長さ、好適には3mm〜6mmの長さを有することが好ましい。この長さにより、バネ部材による最適な密閉作用、かつセンタリング作用ができる。仮に、より長い長さが選択されるとした場合、支持作用が、長さが短くなるとともに小さくなり、意図する公差の補償が、部分的に限定されてしまう。バネ部材は、フットプリントで、0.5mm〜3mm、特に好適には1mm〜2mmの直径を有することが好ましい。“フットプリント”とは、ガイドレールとのバネ部材の接触領域のゾーンを指している。バネ部材は、自由端で、0.2mm〜1.5mm、好適には0.5mm〜1mmの直径を有することが好ましい。特に、説明した寸法をショア硬度A40〜ショア硬度A90のバネ部材のショア硬度と組み合わせることにより、バネ部材による支持作用、密閉作用、特にセンタリング作用を同時に向上させることができる。
【0026】
保持レール及び/又はガイドレールは、補強インサートを含むことが好ましい。補強インサートは、保持レールの安定性を高めることができ、かつ安定性を細かく調整することができる。補強インサートは、金属、有機ポリマー、または複合材料を含むことが好ましい。
【0027】
保持レールは、窓ガラスに接着剤で接着されることが好ましい。接着剤により、窓ガラスを保持レールに、更には保持レールを介して取り付け部材に簡単に、安定して、耐久性よく固定することができる。接着剤は、アクリレート接着剤、メチルメタクリレート接着剤、シアノアクリレート接着剤、ポリエポキシド、シリコーン接着剤、及び/又はシリコーン硬化性ポリマー接着剤、及びこれまでに挙げた接着剤の混合物及び/又は共重合体を備える、または含むことが好ましい。窓ガラスまたは保持レールとの接着剤の接触面は、任意であるが、例えばプライマーで前処理するか、またはプラズマ処理で前処理することができる。
【0028】
接着剤は好適には、両面接着テープを含む。両面接着テープにより、窓ガラスを保持レールに迅速かつ正確に固定することができる。接着剤を硬化させる処理が普通、不要になる。接着剤を注入する処理を無くすこともできる。
【0029】
バネ脚は、金属インサートまたはプラスチックインサート、例えば金属箔または金属バネを含むことができる。バネ脚は好適には、金属インサートまたはプラスチックインサートを含まず、かつ当該バネ脚の可撓性を、バネ脚自体の材料に由来して得ることができる。金属インサートまたはプラスチックインサートを含まないバネ脚は、非常に簡単に形成することができる。
【0030】
変形力によって異なるが、取り付け部材と窓ガラスとの間の接続部は、可逆的に係止することができるか、または不可逆的に係止することができる。バネ脚は、変形可能であるか、または保持レールに変形可能に接続されることが好ましい。
【0031】
ガイドレールは、支持隆起部を有することが好ましく、この支持隆起部により、例えばガイドレールと掛止レールとの間の構造に起因する、または公差に起因するプラス/マイナス10°の角度偏差を許容できる。支持隆起部の正確な寸法は、ガイド溝のサイズ、及び与えられる角度偏差によって決定され、かつガイド溝に容易に合わせることができ、必要に応じて変えることができる。
【0032】
位置決めストッパは、掛止レールに対して0°(平行)〜45°の範囲の角度で配置されることが好ましい。従って、バネ部材の自由端をカバーの裏面、及び位置決めストッパにより形成される中空溝に確実に位置決めすることが達成される。更に、位置決めストッパのこの構造により、バネ部材による密閉作用、及び接触面上での安定性だけでなく、接触面への固定性が向上する。
【0033】
本発明による密閉構造の有利な実施形態では、係止部材の係止解除ガイド面は、傾斜面の輪郭を有する第1セクションと、凸状湾曲輪郭を有する第2セクションと、を有する。凸状湾曲輪郭は、接線方向に続いていることが好ましい。係止解除ガイド面は、係止部材のうちの掛止フックに対向する近位領域に配置され、“proximal(近位)”とはこの場合、カバーに対向していること、を意味する。
【0034】
本発明による第1セクションの有利な実施形態では、第1セクションの傾斜面と係止解除方向とがなす係止角γは、γ<arctan(1/μ
0)であり、μ
0は、掛止フックの材料と係止部材の材料との間の摩擦係数である。最大角arctan(1/μ
0)は、自己係止角を表わしており、自己係止角を超えると、係合している構造を損壊することなく係合解除することはできなくなる。
【0035】
本発明による係止解除ガイド面の有利な実施形態では、選択する材料によって異なるが、係止角γは、62°〜85°である。このような係止角により、確実な係止が可能になって、不意に解除されることがないように安全が確保される。同時に、係止解除力は、この値により小さく抑えられて、バネ脚、掛止フック、または係止部材が係止解除時に損壊されない。
【0036】
本発明による係止解除ガイド面の有利な実施形態では、第2セクションは、0.5
*b〜5.0
*bの局所曲率半径r
AF、好ましくは1.0
*b〜3.0
*bの局所曲率半径r
AFを有し、bは、掛止フックの最大偏位である。この場合、“local radius of curvature(局所曲率半径)”とは、凸状曲率が、異なる曲率半径を有することができ、これらの曲率半径が、輪郭に沿った異なる箇所で上記指示範囲に収まることを意味する。本願発明者が調査して知見を得たものとして、局所半径がこの範囲に収まった後、より小さな係止解除力の働きにより、簡単に操作可能で信頼できる係止解除を可能にする。
【0037】
本発明による密閉構造の有利な実施形態では、係止解除ガイド面の第2凸状湾曲セクションは、0.5
*b〜5.0
*bの一定の曲率半径r
AF、好ましくは1.0
*b〜3.0
*bの一定の曲率半径r
AFを有し、bは、掛止フックの最大偏位である。本願発明者が調査して知見を得たものとして、一定の曲率半径がこの範囲に収まると、より小さな係止解除力の働きにより、簡単に操作可能で信頼できる係止解除を可能にする。曲率半径が一定であるので、このような係止解除ガイド面は、寸法設定するのが簡単であり、かつ形成するのが簡単である。
【0038】
本発明による密閉構造の有利な実施形態では、掛止フックは、近位領域に、係止解除摺動端を有し、係止解除摺動端は、0.05
*b〜0.5
*bの曲率半径r
AG、好ましくは0.2
*b〜0.4
*bの曲率半径r
AGを有し、bは、掛止フックの最大偏位である。本願発明者が調査して知見を得たものとして、係止解除摺動端のこのような曲率半径は、係止解除摺動端及び係止解除ガイド面に加わる圧力が最大になるのを防止して、これらの箇所の材料を保護するために非常に良く適合されている。
【0039】
本発明による密閉構造の有利な実施形態では、傾斜面形態の第1セクションの長さは、係止解除ガイド面全体の長さの20%〜80%である。従って、凸状湾曲輪郭を有する第2セクションの長さは、係止解除ガイド面に沿って係止解除摺動端が案内されるときの当該係止解除ガイド面の全長から第1セクションの長さを差し引いた長さに相当する。第1セクションの長さは、係止解除ガイド面の長さの40%〜60%であることが好ましく、特に、約50%であることが好ましい。これは、一方において、掛止フック及び係止部材が確実に係止されて、不意に解除されることがないように安全が確保されるという非常に大きな利点を有する。他方においては、係止解除力は、第2セクションに達すると、バネ脚の撓みが大きくなるとともにさほど急激には大きくならないので、係止解除力は、曲率を持たない係止解除ガイド面の場合よりも小さくて済む。
【0040】
本発明は更に、密閉構造を形成する方法を備える。第1ステップでは、保持レールを窓ガラスに接着剤で接着する。次のステップでは、ガイドレールをカバーのガイド溝内に配置する。同時に、または続いて、掛止レールを有するカバーを、バネ部材がガイドレールとカバーの裏面の接触面との間でテンション下で掛止フックを超えて掛止溝に、掛止レールの係止部材の係合摺動端が掛止フックの凸状湾曲係合ガイド面に沿って案内される状態で圧入する。次のステップでは、カバーが、バネ部材の弛緩下で元に戻り、かつ掛止フックが掛止レールに係止する。
【0041】
本発明の別の態様は、本発明に従って形成される密閉構造を解除する方法を備え、少なくとも、掛止フックの係止解除摺動端を、係止部材の係止解除ガイド面の第1セクションの傾斜面に沿って案内し、次に係止解除摺動端を、凸状湾曲輪郭を有する係止解除ガイド面の第2セクションに沿って案内する。
【0042】
本発明は更に、フロントウィンドウまたはリアウィンドウとして、好適にはフロントウィンドウのウォーターボックスカバーとして、本発明による密閉構造の使用を含む。
【0043】
以下に、本発明について、図面を参照して詳細に説明する。これらの図面は、単なる模式図に過ぎず、縮尺通りにはなっていない。これらの図面は本発明を決して限定するものではない。