特許第6294961号(P6294961)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294961
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】自動車窓ガラスの密閉構造
(51)【国際特許分類】
   B60J 1/02 20060101AFI20180305BHJP
   B60J 10/76 20160101ALI20180305BHJP
【FI】
   B60J1/02 101N
   B60J10/76
【請求項の数】16
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-518524(P2016-518524)
(86)(22)【出願日】2014年6月16日
(65)【公表番号】特表2016-526501(P2016-526501A)
(43)【公表日】2016年9月5日
(86)【国際出願番号】EP2014062512
(87)【国際公開番号】WO2014206782
(87)【国際公開日】20141231
【審査請求日】2015年12月15日
(31)【優先権主張番号】13173768.6
(32)【優先日】2013年6月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ティメルマン,アルビン
【審査官】 田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−516638(JP,A)
【文献】 特表2015−506877(JP,A)
【文献】 特表2013−501672(JP,A)
【文献】 特開2013−086720(JP,A)
【文献】 特表2011−520694(JP,A)
【文献】 特表2003−532574(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/037354(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/177329(WO,A1)
【文献】 特開2002−331838(JP,A)
【文献】 特表平10−505561(JP,A)
【文献】 特表平10−507721(JP,A)
【文献】 特開平10−151999(JP,A)
【文献】 特表2011−508700(JP,A)
【文献】 特表2012−510927(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/02
B60J 10/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車窓ガラスの密閉構造であって、密閉構造は少なくとも
掛止溝(4)を有する保持レール(3)であって、掛止溝(4)が、ガイドレール(5)と、掛止フック(14)を有するバネ脚(6)とにより形成され、保持レール(3)が窓ガラス(1)に取り付けられる、保持レール(3)と、
ガイド溝(8)を有するカバー(7)であって、ガイド溝(8)が、係止部材(16)を有する掛止レール(9)と、位置決めストッパ(10)とにより形成される、カバー(7)と、
を有し、
ガイドレール(5)は、ガイド溝(8)内に配置され、掛止レール(9)は掛止溝(4)内で係合し、
掛止フック(14)は係止部材(16)に、掛止フック(14)の凸状湾曲係合ガイド面(17)が係止部材(16)の係合摺動端(18)に沿って案内されることにより掛止めされ、
バネ部材(11)は、カバー(7)の裏面の接触面(12)とガイドレール(5)との間のガイド溝(8)内でテンションを加えられ、
凸状湾曲係合ガイド面(17)は、1.5b〜5.0bの局所曲率半径rEFを有し、bは、掛止フック(14)の最大偏位であり、
バネ部材(11)は、掛止レール(9)を挿入している間に圧縮され且つ位置決めストッパ(10)に対して押圧され、バネ部材(11)は、ガイドレール(5)と一体となって、位置決めストッパ(10)と掛止レール(9)との間のカバー(7)の裏面の接触面(12)を密閉する、密閉構造。
【請求項2】
凸状湾曲係合ガイド面(17)が、掛止フック(14)のうちの係止部材(16)に対向する遠位領域に配置される、請求項1に記載の密閉構造。
【請求項3】
凸状湾曲係合ガイド面(17)が、2.0b〜4.0bの局所曲率半径rEFを有する、請求項1または2に記載の密閉構造。
【請求項4】
凸状湾曲係合ガイド面(17)の局所曲率半径が一定である、請求項1から3のいずれか一項に記載の密閉構造。
【請求項5】
係合摺動端(18)が、0.05b〜0.5bの局所曲率半径rEG、好ましくは0.2b〜0.4bの局所曲率半径rEGを有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の密閉構造。
【請求項6】
バネ脚(6)が変形可能である、または保持レール(3)に変形可能に接続され、掛止レール(9)は高剛性である、請求項1から5のいずれか一項に記載の密閉構造。
【請求項7】
係止部材(16)が、傾斜面の輪郭の第1セクション(19.1)と、凸状湾曲輪郭の第2セクション(19.2)と、を有する係止解除ガイド面(19)を有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の密閉構造。
【請求項8】
第1セクション(19.1)と係止解除方向とがなす掛止角γが、γ<arctan(1/μ)の関係を満たし、μは、掛止フック(14)と係止部材(16)との間の摩擦係数である、請求項7に記載の密閉構造。
【請求項9】
掛止角γが62°〜85°である、請求項7または8に記載の密閉構造。
【請求項10】
第2セクション(19.2)が、0.5b〜5.0bの局所曲率半径rAF、好ましくは1.0b〜3.0bの局所曲率半径rAFを有し、bは、掛止フック(14)の最大偏位である、請求項7から9のいずれか一項に記載の密閉構造。
【請求項11】
第2セクション(19.2)が、0.5b〜5.0bの一定の曲率半径rAF、好ましくは1.0b〜3.0bの一定の曲率半径rAFを有する、請求項7から9のいずれか一項に記載の密閉構造。
【請求項12】
第1セクション(19.1)の長さが、係止解除ガイド面(19)の長さの20%〜80%、好ましくは40%〜60%である、請求項1から11のいずれか一項に記載の密閉構造。
【請求項13】
バネ部材(11)が、断面視で1個の突縁部として形成され、ガイドレール(5)と一体となって、位置決めストッパ(10)と掛止レール(9)との間のカバー(7)の裏面の接触面(12)を密閉して支持する、請求項1から12のいずれか一項に記載の密閉構造。
【請求項14】
密閉構造を形成する方法であって、少なくとも
a.保持レール(3)を窓ガラス(1)に接着剤(2)で接着し、
b.保持レール(3)のガイドレール(5)をカバー(7)のガイド溝(8)内に配置し、
.ガイドレール(5)とカバー(7)の裏面の接触面(12)との間におけるガイドレール(5)のバネ部材(11)のテンション下で、カバー(7)の掛止レール(9)が掛止フック(14)を超えて掛止溝(4)内にあるように、カバー(7)は押圧され、掛止レール(9)の係止部材(16)の係合摺動端(18)が掛止フック(14)の凸状湾曲係合ガイド面(17)に沿って案内されるようにし、
d.カバー(7)を元の位置に、かつバネ部材(11)が弛緩する方向に移動させて、掛止フック(14)を掛止レール(9)の係止部材(16)に掛止めする、方法。
【請求項15】
請求項14に従って形成した密閉構造を係合解除する方法であって、少なくとも
a.掛止フック(14)の係止解除摺動端(20)を、係止部材(16)の係止解除ガイド面(19)の第1セクション(19.1)の傾斜面に沿って案内し、
b.係止解除摺動端(20)を、係止解除ガイド面(19)の第2セクション(19.2)の凸状湾曲輪郭に沿って案内する、方法。
【請求項16】
フロントウィンドウまたはリアウィンドウとして、好適にはフロントウィンドウのウォーターボックスカバーとして用いられる請求項1から13のいずれか一項に記載の密閉構造の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車窓ガラスの密閉構造、当該密閉構造を形成する方法、及び当該密閉構造の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車は普通、フロントウィンドウとエンジン本体との間の領域において、水分、走行により生じる気流、及び浸入してくる埃から保護されていなければならない。同時にフロントウィンドウと金属車体との間の移行領域は密閉されていなければならない。この移行領域では、またプラスチックからなるウォーターボックスもよく使用される。ウォーターボックスは、飛散する水の影響を受ける自動車部材を水分から保護する。ウォーターボックスカバーは、フロントウィンドウに溜まる水を排出することができる。しかしながら、原材料ガラス、種々のプラスチック、及び金属は、大きく異なる特性を有しているので、密閉処理を行なっているときには特別な注意を払う必要がある。安定した密閉状態を、特にウォーターボックスの重要な領域において可能とするために、ゴムガスケットのようなポリマー材料がよく使用される。フロントウィンドウの下端縁とウォーターボックスカバーとの間に配置される特殊なウォーターボックスシールがしばしばこの役割を果たす。ウォーターボックスシールは、安定であり、耐性が高く、更には取り付けが簡単でなければならない。ウォーターボックスシールは普通、押出成形法により、部材の上に適切な接着剤及び接着システムで固定することにより形成される。
【0003】
独国特許第19961706A1号明細書には、強固に取り付けられるフロントウィンドウを車体部材に、特にウォーターボックスに接合する構造が開示されている。この構造は、車両窓に固着する突縁部を有する成形帯状体を有する。この突縁部は、突縁部の裏面に、部材に接合する手段を有する。
【0004】
独国特許第102009026369A1号明細書には、自動車窓ガラスの密閉構造が開示されている。この密閉構造は、保持レールと、窓ガラスと、接続箇所を介して掛止レールに接続されるカバーと、を備える。保持レールは掛止溝を備え、この掛止溝はバネ脚及び支持本体と一体に形成される。カバーは、掛止レールを掛止溝内で係合させ、そしてバネ部材は、カバーの接触面と支持本体との間に配置される。自動車窓ガラスの他の密閉構造は、仏国特許第2966091A1号明細書、独国特許第102008050130A1号明細書、及び国際公開第2013/120671A1号明細書から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許発明第19961706号明細書
【特許文献2】独国特許発明第102009026369号明細書
【特許文献3】仏国特許発明第2966091号明細書
【特許文献4】独国特許発明第102008050130号明細書
【特許文献5】国際公開第2013/120671号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
密閉構造の高い耐漏洩性、及び安定性を実現するために、特に完全に形状に合った係止部を実現するために、非常に高精度な製造が必要になる。製造される部材が、製造仕様からほんの僅かずれている場合、非常に大きな力が、これらの部材を係止するために必要とされることが多い。ずれによって異なるが、密閉状態が限られることさえある。高い係止力及び製造公差も、密閉構造の位置決め精度に悪い影響を及ぼし、取り付け作業を極めて難しくしてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、密閉構造、特に自動車窓ガラスの密閉構造を提供することにあり、この密閉構造は、個々の部材を耐久性があり安全に係止するために小さな力で済ませることができる。
【0008】
本発明の目的は、独立請求項1に従って達成される。好適な実施形態は従属請求項に記載されている。
【0009】
自動車窓ガラスを密閉する構造を形成する本発明による方法だけでなく、密閉構造の使用は、他の独立請求項に記載されている。
【0010】
本発明による車両窓ガラスの密閉構造は、少なくとも掛止溝を有する保持レールを備える。掛止溝は、ガイドレール及びバネ脚により形成され、かつ画定される。保持レールは窓ガラスに取り付けられる。保持レールの固定は、接着剤または接着テープで行なうことができる。本発明の任意の実施形態では、接着剤の接触面は、例えば保持レールをプライマー処理する、またはプラズマ処理することにより前処理することができる。保持レールは、窓ガラスと車体部材との間の接続部材として機能する。
【0011】
本発明による構造は更に、ガイド溝を有するカバー、特にウォーターボックスカバーを備え、ガイド溝は、掛止レール及び位置決めストッパにより形成される。ガイドレールは、ガイド溝内に配置されるとともに、掛止レールは掛止溝内で係合し、バネ脚は、掛止レールに掛止め接続される。
【0012】
本発明による構造は更に、バネ脚に配置される掛止フックを備え、掛止フックは、少なくとも、セクションごとに区切られる凸状湾曲係合ガイド面を有する。係合摺動端を有する係止部材は、掛止レールに配置される。係合ガイド面を有する掛止フック、及び係合摺動端を有する係止部材は、係合時に、係合摺動端が、係合ガイド面に沿って案内されて係合するように配置される。
【0013】
本発明による密閉構造の有利な実施形態では、掛止フックの係合ガイド面は、係合摺動端が、係合時に掛止フックの上を案内される領域全体に亘って略凸状に湾曲している。この場合、“substantially(略)”とは、75%超、好適には85%超、特に95%超を意味する。
【0014】
本発明による構造は更に、カバーの裏面の接触面とガイドレールとの間のガイド溝内でテンションを加えられるバネ部材を備える。
【0015】
本発明による密閉構造の有利な実施形態では、凸状湾曲係合ガイド面は、掛止フックのうちの係止部材に対向する遠位領域に配置される。この場合、“遠位”とは、掛止フックのうちの係合時に係止部材に最初に当たり、かつバネ脚と保持レールとの接続箇所から離れて配置される領域を意味する。
【0016】
先行技術による掛止フックは、従来、掛止フックの遠位領域に、別の表現をすると、適合係止部材に係合時に最初に当たる領域に、一定角度を有する傾斜面形態の係合ガイド面を有する。嵌合係止部材は、丸みを帯びた小半径の係合摺動端を有することにより、係合摺動端をガイド面に沿って導入するときに、力が最大になるのを、または圧力が最大になるのを回避している。掛止フックを導入して係止部材に係止させるために必要な力は、挿入方向と係合ガイド面の傾斜面とがなす楔角Φ(ファイ)に応じて変化し、この力は、楔角Φが大きくなるとともにより大きくなる。一定の角度を有する傾斜面形態の係合ガイド面は従って、バネ脚の偏位が大きくなると、挿入方向と傾斜面とがなす楔角Φが大きくなり、その結果、係合に必要な係合力が急激に大きくなるという不具合を有する。
【0017】
これとは異なり、本発明による掛止フックの係合ガイド面は、断面視で凸状に湾曲した輪郭を有する。本発明による凸状湾曲輪郭は確実に、先行技術による傾斜面形態の係合ガイドを挿入時に用いる結果としての楔角Φの増大を低減する、または回避する。別の表現をすると、本発明による凸状湾曲係合ガイド面を用いる場合、楔角Φは、例えば略一定のままであり、かつバネ脚の偏位とは無関係である。これは、カバーを保持レールに正確に掛止めすることができ、力をむやみに大きくしなくても済むという極めて大きな利点を有する。別の構成として、楔角Φ、従って係合力に、係合ガイド面の特定の凸状曲率により選択的に影響を与えることができ、この凸状曲率は、簡単な考察または実験により計算することができる。従って、係合ガイド面の曲率は、例えば係合段階の開始時に、係合段階の終了時に向かって必要になる係合力よりも大きい係合力が必要になるように実行することができる。別の構成として、係合ガイド面の曲率は、例えば係合段階の開始時に、係合段階の終了時に向かって必要になる係合力よりも小さい係合力が必要になって、更に顕著な係合の効果を触覚的に、または音響的に知覚することができるように実行することができる。
【0018】
本発明による係合ガイド面の有利な実施形態では、凸状曲率は、1.5b〜5.0bの局所曲率半径rEFを有し、好適には2.0b〜4.0bの局所曲率半径rEFを有し、bは、係合段階における掛止フックの最大偏位である。この場合、“局所曲率半径”とは、凸状曲率が、異なる曲率半径を輪郭に沿った異なる箇所に有することができ、これらの曲率半径が、いずれの場合においても、上記指示範囲に収まっていることを意味する。本願発明者が調査して知見を得たものとして、この範囲の曲率半径により、より小さな係合力の働きにより、簡単に操作可能で信頼できる係合を可能にする。
【0019】
本発明による係合ガイド面の有利な実施形態では、凸状曲率は、1.5b〜5.0bの一定の曲率半径rEF、好ましくは2.0b〜4.0bの一定の曲率半径rEFを有し、bは、掛止フックの最大偏位である。本願発明者が調査して知見を得たものとして、曲率半径がこの範囲に収まると、より小さな係合力の働きにより、簡単に操作可能で信頼できる係合を可能にする。曲率半径が一定である結果、このようなガイド面は、設計及び形成するのが簡単である。
【0020】
本発明による密閉構造の有利な実施形態では、係合摺動端は、0.05b〜0.5bの曲率半径rEG、好ましくは0.2b〜0.4bの曲率半径rEGを有し、bは、掛止フックの最大偏位である。本願発明者が調査して知見を得たものとして、係合摺動端のこのような曲率半径は、係合摺動端及び係合ガイド面に加わる圧力が最大になるのを防止して、これらの箇所の材料を保護するために特に良く適合されている。
【0021】
本発明の有利な実施形態では、バネ部材は、カバーの裏面の接触面とガイドレールとの間のガイド溝内でテンションを加えられる。バネ部材は、断面視で単一の突縁部として形成され、好適には指の形状に、または舌の形状に形成される。ガイドレールと一体となって、バネ部材は、位置決めストッパと掛止レールとの間のカバーの裏面の接触面を、好適には完全に密閉すると同時に接触面を支持する。バネ部材は、好適には高比剛性を有する。バネ部材は、掛止溝を外気が侵入しないように密閉する。バネ部材は、掛止レールを挿入している間に圧縮され、かつ位置決めストッパに対して押圧される。ガイドレールと一体となって、バネ部材から、位置決めストッパと掛止レールとの間のカバーをセンタリングする。バネ脚及び掛止レールにより構成される係止構造を用いるセンタリング手法は、もはや必要ではない。従って、センタリングの役割から解放されたバネ脚は、非常に高い可撓性を有するように設計することができるので、ガイド溝の領域の製造公差を補償することができる。
【0022】
バネ部材は、好適にはエラストマー及び/又は熱可塑性エラストマーを含み、好適にはポリウレタン、ポリオレフィン、ポリスルフィド、ポリエポキシドを含み、更には天然ゴム、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴム、エチレンプロピレンジエンゴムのようなゴムを含み、更にはRTV(室温加硫)シリコーンゴム、HTV(高温加硫)シリコーンゴム、過酸化加硫シリコーンゴム、及び/又は付加加硫シリコーンゴム、ポリアクリレート、スチレン/ブタジエンブロックコポリマー(SBS)、及び/又はエチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)のようなシリコーンを含む。
【0023】
バネ部材は、好適には(部分的)中空本体、多孔性中実本体として、または中実本体として形成される。バネ部材を異なる構造にすることにより、安定性、重量、及び弾性を更に変化させることができ、かつ制御することができる。
【0024】
バネ部材は、ショア硬度A40〜ショア硬度A90、好適にはショア硬度A50〜ショア硬度A75のショア硬度を有することが好ましい。本発明によるショア硬度により、接触面を可逆的に、かつ同時に強固に漏れを防止して密閉することができる。
【0025】
バネ部材は、2mm〜8mmの長さ、好適には3mm〜6mmの長さを有することが好ましい。この長さにより、バネ部材による最適な密閉作用、かつセンタリング作用ができる。仮に、より長い長さが選択されるとした場合、支持作用が、長さが短くなるとともに小さくなり、意図する公差の補償が、部分的に限定されてしまう。バネ部材は、フットプリントで、0.5mm〜3mm、特に好適には1mm〜2mmの直径を有することが好ましい。“フットプリント”とは、ガイドレールとのバネ部材の接触領域のゾーンを指している。バネ部材は、自由端で、0.2mm〜1.5mm、好適には0.5mm〜1mmの直径を有することが好ましい。特に、説明した寸法をショア硬度A40〜ショア硬度A90のバネ部材のショア硬度と組み合わせることにより、バネ部材による支持作用、密閉作用、特にセンタリング作用を同時に向上させることができる。
【0026】
保持レール及び/又はガイドレールは、補強インサートを含むことが好ましい。補強インサートは、保持レールの安定性を高めることができ、かつ安定性を細かく調整することができる。補強インサートは、金属、有機ポリマー、または複合材料を含むことが好ましい。
【0027】
保持レールは、窓ガラスに接着剤で接着されることが好ましい。接着剤により、窓ガラスを保持レールに、更には保持レールを介して取り付け部材に簡単に、安定して、耐久性よく固定することができる。接着剤は、アクリレート接着剤、メチルメタクリレート接着剤、シアノアクリレート接着剤、ポリエポキシド、シリコーン接着剤、及び/又はシリコーン硬化性ポリマー接着剤、及びこれまでに挙げた接着剤の混合物及び/又は共重合体を備える、または含むことが好ましい。窓ガラスまたは保持レールとの接着剤の接触面は、任意であるが、例えばプライマーで前処理するか、またはプラズマ処理で前処理することができる。
【0028】
接着剤は好適には、両面接着テープを含む。両面接着テープにより、窓ガラスを保持レールに迅速かつ正確に固定することができる。接着剤を硬化させる処理が普通、不要になる。接着剤を注入する処理を無くすこともできる。
【0029】
バネ脚は、金属インサートまたはプラスチックインサート、例えば金属箔または金属バネを含むことができる。バネ脚は好適には、金属インサートまたはプラスチックインサートを含まず、かつ当該バネ脚の可撓性を、バネ脚自体の材料に由来して得ることができる。金属インサートまたはプラスチックインサートを含まないバネ脚は、非常に簡単に形成することができる。
【0030】
変形力によって異なるが、取り付け部材と窓ガラスとの間の接続部は、可逆的に係止することができるか、または不可逆的に係止することができる。バネ脚は、変形可能であるか、または保持レールに変形可能に接続されることが好ましい。
【0031】
ガイドレールは、支持隆起部を有することが好ましく、この支持隆起部により、例えばガイドレールと掛止レールとの間の構造に起因する、または公差に起因するプラス/マイナス10°の角度偏差を許容できる。支持隆起部の正確な寸法は、ガイド溝のサイズ、及び与えられる角度偏差によって決定され、かつガイド溝に容易に合わせることができ、必要に応じて変えることができる。
【0032】
位置決めストッパは、掛止レールに対して0°(平行)〜45°の範囲の角度で配置されることが好ましい。従って、バネ部材の自由端をカバーの裏面、及び位置決めストッパにより形成される中空溝に確実に位置決めすることが達成される。更に、位置決めストッパのこの構造により、バネ部材による密閉作用、及び接触面上での安定性だけでなく、接触面への固定性が向上する。
【0033】
本発明による密閉構造の有利な実施形態では、係止部材の係止解除ガイド面は、傾斜面の輪郭を有する第1セクションと、凸状湾曲輪郭を有する第2セクションと、を有する。凸状湾曲輪郭は、接線方向に続いていることが好ましい。係止解除ガイド面は、係止部材のうちの掛止フックに対向する近位領域に配置され、“proximal(近位)”とはこの場合、カバーに対向していること、を意味する。
【0034】
本発明による第1セクションの有利な実施形態では、第1セクションの傾斜面と係止解除方向とがなす係止角γは、γ<arctan(1/μ)であり、μは、掛止フックの材料と係止部材の材料との間の摩擦係数である。最大角arctan(1/μ)は、自己係止角を表わしており、自己係止角を超えると、係合している構造を損壊することなく係合解除することはできなくなる。
【0035】
本発明による係止解除ガイド面の有利な実施形態では、選択する材料によって異なるが、係止角γは、62°〜85°である。このような係止角により、確実な係止が可能になって、不意に解除されることがないように安全が確保される。同時に、係止解除力は、この値により小さく抑えられて、バネ脚、掛止フック、または係止部材が係止解除時に損壊されない。
【0036】
本発明による係止解除ガイド面の有利な実施形態では、第2セクションは、0.5b〜5.0bの局所曲率半径rAF、好ましくは1.0b〜3.0bの局所曲率半径rAFを有し、bは、掛止フックの最大偏位である。この場合、“local radius of curvature(局所曲率半径)”とは、凸状曲率が、異なる曲率半径を有することができ、これらの曲率半径が、輪郭に沿った異なる箇所で上記指示範囲に収まることを意味する。本願発明者が調査して知見を得たものとして、局所半径がこの範囲に収まった後、より小さな係止解除力の働きにより、簡単に操作可能で信頼できる係止解除を可能にする。
【0037】
本発明による密閉構造の有利な実施形態では、係止解除ガイド面の第2凸状湾曲セクションは、0.5b〜5.0bの一定の曲率半径rAF、好ましくは1.0b〜3.0bの一定の曲率半径rAFを有し、bは、掛止フックの最大偏位である。本願発明者が調査して知見を得たものとして、一定の曲率半径がこの範囲に収まると、より小さな係止解除力の働きにより、簡単に操作可能で信頼できる係止解除を可能にする。曲率半径が一定であるので、このような係止解除ガイド面は、寸法設定するのが簡単であり、かつ形成するのが簡単である。
【0038】
本発明による密閉構造の有利な実施形態では、掛止フックは、近位領域に、係止解除摺動端を有し、係止解除摺動端は、0.05b〜0.5bの曲率半径rAG、好ましくは0.2b〜0.4bの曲率半径rAGを有し、bは、掛止フックの最大偏位である。本願発明者が調査して知見を得たものとして、係止解除摺動端のこのような曲率半径は、係止解除摺動端及び係止解除ガイド面に加わる圧力が最大になるのを防止して、これらの箇所の材料を保護するために非常に良く適合されている。
【0039】
本発明による密閉構造の有利な実施形態では、傾斜面形態の第1セクションの長さは、係止解除ガイド面全体の長さの20%〜80%である。従って、凸状湾曲輪郭を有する第2セクションの長さは、係止解除ガイド面に沿って係止解除摺動端が案内されるときの当該係止解除ガイド面の全長から第1セクションの長さを差し引いた長さに相当する。第1セクションの長さは、係止解除ガイド面の長さの40%〜60%であることが好ましく、特に、約50%であることが好ましい。これは、一方において、掛止フック及び係止部材が確実に係止されて、不意に解除されることがないように安全が確保されるという非常に大きな利点を有する。他方においては、係止解除力は、第2セクションに達すると、バネ脚の撓みが大きくなるとともにさほど急激には大きくならないので、係止解除力は、曲率を持たない係止解除ガイド面の場合よりも小さくて済む。
【0040】
本発明は更に、密閉構造を形成する方法を備える。第1ステップでは、保持レールを窓ガラスに接着剤で接着する。次のステップでは、ガイドレールをカバーのガイド溝内に配置する。同時に、または続いて、掛止レールを有するカバーを、バネ部材がガイドレールとカバーの裏面の接触面との間でテンション下で掛止フックを超えて掛止溝に、掛止レールの係止部材の係合摺動端が掛止フックの凸状湾曲係合ガイド面に沿って案内される状態で圧入する。次のステップでは、カバーが、バネ部材の弛緩下で元に戻り、かつ掛止フックが掛止レールに係止する。
【0041】
本発明の別の態様は、本発明に従って形成される密閉構造を解除する方法を備え、少なくとも、掛止フックの係止解除摺動端を、係止部材の係止解除ガイド面の第1セクションの傾斜面に沿って案内し、次に係止解除摺動端を、凸状湾曲輪郭を有する係止解除ガイド面の第2セクションに沿って案内する。
【0042】
本発明は更に、フロントウィンドウまたはリアウィンドウとして、好適にはフロントウィンドウのウォーターボックスカバーとして、本発明による密閉構造の使用を含む。
【0043】
以下に、本発明について、図面を参照して詳細に説明する。これらの図面は、単なる模式図に過ぎず、縮尺通りにはなっていない。これらの図面は本発明を決して限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明による密閉構造の断面である。
図2】係止状態のバネ部材の拡大断面である。
図3】係合中の掛止フックの拡大断面、及び係止部材の拡大断面である。
図4】先行技術による掛止フックの拡大断面、及び係止部材の拡大断面である。
図5A図4の先行技術による掛止フックの拡大断面、及び係止部材の拡大断面である。
図5B図4の先行技術による掛止フックの拡大断面、及び係止部材の拡大断面である。
図6】係合段階における係合力の概略図である。
図7】密閉構造を形成する本発明による方法のフローチャートである。
図8A】本発明による係止部材の別の実施形態の拡大断面である。
図8B】本発明による係止部材の別の実施形態の拡大断面である。
図9】係合段階における係合力の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は、本発明による密閉構造の断面を示している。窓ガラス1、好適には積層ガラス窓ガラスを保持レール3に接着剤2で接着する。保持レール3は、自動車部材、好適にはウォーターボックスを窓ガラス1に接続するために用いられる。保持レール3は掛止溝4を備え、この掛止溝4は、ガイドレール5及びバネ脚6により形成される。保持レール3は任意であるが、補強インサート15を含むことができる。補強インサート15は好適には、金属及び弾性プラスチックを含み、更には、保持レール3の剛性を高めることができる。好適にはウォーターボックスのカバー7は、掛止レール9及び位置決めストッパ10と一体となってガイド溝8を形成する。保持レール3の一部として形成されるガイドレール5は、ガイド溝8内に配置され、ガイド溝8をバネ部材11と一体となって密閉する。図を分かり易くするために、参照記号11‘は、バネ部材11がテンションなしになっている様子を示している。同時に、掛止レール9は、掛止溝4内でバネ脚6に係合して、カバー7の信頼できる固定を確実にする。好適には、ゴム含有ポリマー弾性突縁部の形態のバネ部材11は、カバー7の裏面の接触面12とガイドレール5との間のガイド溝8内でテンションを加えられる。バネ部材11は、断面視で、凹部または凸部が付加されない指の形をした1個の突縁部として形成されることが好ましい。上に説明したように、バネ部材11は、ガイドレール5と、好適には支持隆起部13と一体となって、位置決めストッパ10と掛止レール9との間のカバー7の裏面の接触面12を密閉する。同時に、バネ部材11は、掛止レール3上のカバー7を支持している。掛止レール9及びバネ脚6は、互いに平行に配置される、または互いに略平行に配置されることが好ましい。
【0046】
係止は、バネ脚6の掛止フック14により、かつ掛止レール9の係止部材16、例えば係止タブ、凹部、または隆起部により行なわれる。
【0047】
掛止フック14は、掛止レール9と対向する側に、かつ遠位領域に、係合ガイド面17を有する。この場合、“掛止フックの遠位領域”とは、掛止フック14のうちのバネ脚6と保持レール3との間の接続箇所から遠い方に位置する領域を意味している。係止部材16は、バネ脚6と対向する側に、かつ係止部材16の遠位領域に、係合摺動端18を有する。この場合、係止部材16の“遠位領域”とは、係止部材16のうちの掛止レール9とカバー7との間の接続箇所から遠い方に位置する領域を意味している。
【0048】
位置決めストッパ10及び掛止レール9は、互いに平行に配置される、または互いに対して僅かに広がる角度で配置されることが好ましい。この構造は、バネ部材11、及びガイドレール5の支持隆起部13と一体となって、掛止溝4を、かつカバー7、掛止レール3、及び窓ガラス1の間の介在空間の漏れを防止して閉塞することができる。
【0049】
図2は、係止状態のバネ部材の拡大断面を示している。図示のカバー7の領域は、位置決めストッパ10と、掛止レール9と、を含む。接触面12は、位置決めストッパ10と掛止レール9との間の介在空間により形成される。位置決めストッパ10及び掛止レール9は、互いに平行に配置される、または互いにV字形をなすように配置されることが好ましい。本発明の文脈では、“V字形”とは、45°程度の接触面12と位置決めストッパ10を通る平均的な想像直線Aと、接触面12と掛止レールを通る平均的な想像直線Bとがなす平均偏差角度も含む。この場合、直線A及びBが、接触面12から離れるにつれて間隔を広げる構造が好ましい。接触面12の平面Cと直線Aとがなす角度α(アルファ)は従って、90°〜135°であることが好ましく;接触面12の平面Cと直線Bとがなす角度β(ベータ)は従って、60°〜90°であることが好ましい。バネ部材11は、断面視で、好ましくは指の形、または舌の形に形成され、かつガイドレール5及び支持隆起部13と一体となって、接触面12、及びカバー7と窓ガラス1(図示せず)との間の右側の空間(この図には図示されず)を密閉する。同時に、バネ部材11は、ショア硬度A50〜ショア硬度A75のショア硬度を有するだけでなく、3mm〜6mmの長さを有することが好ましい。バネ部材が取り付け状態で圧縮されると、位置決めストッパ10及び掛止レール9が押圧されることにより、実際に係止していない状態で、センタリングできる。更に、バネ部材6は十分高い可撓性を有するので、バネ部材でガイド溝8の製造公差を補償することができる。
【0050】
図3は、掛止フック14を有するバネ脚6、及び図1の係止部材16を有する掛止レール9の係合段階における概略輪郭を拡大断面図として示している。
【0051】
掛止フック14は、レール9と対向する側に、かつ遠位領域に、係合ガイド面17を有する。係合ガイド面17は凸状に湾曲している。この場合、係合ガイド面17は、例えば係合ガイド面の曲率半径rEFが2mmの部分円形態を有する。係止部材16は、バネ脚6と対向する側に、かつ係止部材16の遠位領域に、係合摺動端18を有する。係合摺動端18はこの場合、例えば係合摺動端の曲率半径rEGが0.15mmの部分円の形状を有する。この例では、掛止フック14の最大偏位bは0.7mmであり、この値0.7mmはこの場合、係止部材16の幅にほぼ相当する。
【0052】
係合段階では、係合力Fがカバーに加わる。係合摺動端18は、掛止フック14の係合ガイド面17に接線方向に、楔角Φ(ファイ)で当たる。係合力Fが掛止フック14に、係合摺動端18と係合ガイド面17との間の接触箇所で加わって、横方向の力に変換されることにより、掛止フック14を、バネ脚6がテンション下で、横方向の力により掛止レール9から離れる方向に移動させる。必要な係合力Fは、バネ脚6の復元力、係合ガイド面17と係合摺動端18との間の摩擦によって異なり、そして特に、係合力Fの方向と係合ガイド面17の接線方向とがなす楔角Φによって異なる。
【0053】
図4は、係合段階における先行技術による掛止フック14の拡大断面、及び係止部材16の拡大断面を示している。図5A及び図5Bは、この場合も同じく、図4の先行技術による掛止フック14の拡大断面、及び係止部材16の拡大断面を示している。
【0054】
先行技術による掛止フック14は、掛止フック14の遠位側に、別の表現をすると、掛止フック14のうちのバネ脚6と保持レール3の接続箇所から遠い方に位置する側に、傾斜面形態の係合ガイド面17を有する。更に、係止部材16は、当該係止部材の遠位端に、係合摺動端18を有する。
【0055】
図5Aは、係合摺動端18が係合ガイド面17に当たる第1係合位置Aを示している。係合力Fは、係合摺動端18を、楔角Φで係合ガイド面17の傾斜面に当てる。この第1係合位置では、係合力Fは横方向の力に変換され、この横方向の力により、掛止フック14を、バネ脚6のテンション下で、掛止レール9から偏位させる。
【0056】
係合が更に進行すると、係合摺動端18が係合ガイド面17に沿って摺動し、バネ脚6が更にテンションが加わる。掛止フック14の偏位により、かつバネ脚6の保持レール3との接続箇所でのしっかりとしたテンション付加により、係合ガイド面17の傾斜面が更に、係合力FEの方向に対して更に傾斜するようになる。
【0057】
図5Bは、後の方の時点の第2係合位置Bを示している。挿入方向と係合ガイド面17の傾斜面とがなす楔角Φは、角度Φだけ大きくなっている。掛止フック14を係止部材16に挿入して係止部材16に係止させるために必要な係合力Fは、挿入方向とガイド面17の傾斜面とがなす楔角Φに応じて変化し、係合力Fは、楔角Φが大きくなるとともに大きくなる。
【0058】
傾斜面形態を有する先行技術による係合ガイド面17は従って、バネ脚の撓みが大きくなるとともに、係合力Fと傾斜面とがなす楔角Φが大きくなり、その結果、挿入に必要な係合力Fが非常に大きくなるという不具合を有する。
【0059】
これとは異なり、本発明による係合ガイド面17は、断面視で、図3に示すように、凸状湾曲輪郭を有する。本発明による凸状湾曲係合ガイド面17は、楔角Φの増大を、当該増大が、挿入時の先行技術による傾斜面形態の係合ガイド面17に生じる場合に低減する、または防止するという効果を有している。別の表現をすると、本発明による係合ガイド面17は凸状に湾曲しているので、楔角Φは、略一定のままであり、かつバネ脚6の撓みとは無関係である。
【0060】
更に分かり易くするために、図6は、係合段階における係合力Fを表わす図を示している。それぞれの事例において、係合力Fが、係合経路に亘って任意の単位でプロットされている。係合経路とは、カバー7が保持レール3に近づいていく際の経路のことである。バネ脚6の撓みによる楔角Φの変化のみを考慮に入れている。摩擦のような他の影響因子は無視されている。
【0061】
比較例として、係合ガイド面17が傾斜面形態である場合の図4の先行技術による掛止フック14の係合力Fがプロットされている。係合力Fは、係合経路が長くなるとともに徐々に増大して最大値に達する。
【0062】
本発明による例として、本発明による凸状湾曲係合ガイド面17を用いた場合の図1の掛止フック14の係合力Fが図示されている。先行技術と比較して、係合力Fは、なだらかに増加している。係合力Fの最大値は、比較例の最大値の約50%に過ぎない。この結果は、この技術分野の当業者にとって予想外であり、かつ驚くべきものであった。
【0063】
図7は、密閉構造を形成する本発明による方法のフローチャートを示している。第1ステップでは、保持レール3を窓ガラス1に、両面接着テープの形態の接着剤2で接着する。次のステップでは、ガイドレール5を、カバー7の位置決めストッパ10と掛止レール9との間のガイド溝8内に配置する。次に、カバーは、バネ部材11がガイドレール5とカバー7の裏面の接触面12との間でテンションを加えられて、掛止レール9を掛止溝4内に掛止フック14を超えて圧入される。最終ステップでは、カバー7が、バネ部材11の弛緩下で元に戻り、そしてこの過程において、掛止フック14が掛止レール9の係止部材16に係合するようになる。
【0064】
図8Aは、掛止フック14が係止状態になっている本発明による係止部材16の別の実施形態の拡大断面を示している。掛止フック14は、好ましくは係止部材16が掛止レール9開始端で、と境をなす係止解除摺動端20が係止解除ガイド面19に対して曲げられる。バネ脚6は、緩んでいるか、または極僅かに偏位していることが好ましい。
【0065】
図8Bは、図8Aの係止部材16の拡大断面を示している。係止解除ガイド面19を2つのセクションに分割する:第1セクション19.1は、係止部材16が掛止レール9につながる開始端を始点とし、かつ例えば65°の係止角γで傾斜面を有する。凸状湾曲面形態の第2セクション19.2は、第1セクション19.2に接線方向に接続される。係止解除ガイド面19のこの凸状湾曲セクション19.2は、例えば2mmの一定の曲率半径rAFを有する。更に、詳細に図示されているのは、0.15mmの曲率半径rEGを有する係合摺動端18である。
【0066】
掛止フック14の係止解除時に、自己係止を起こさないように、所定の摩擦係数μ0として、係止角γは、γ<arctan(1/μ)の関係を満たすように設定されていなければならない。係止位置の係止角γ単独で、掛止位置の固定を決定する。
【0067】
係止解除する段階において、係止解除摺動端20は、係止解除ガイド面19に沿って、最初は、第1セクション19.1に沿って摺動する。係止解除ガイド面19は、高剛性掛止レール9の係止部材16に配置されているので、楔角Φは変わらない。しかしながら、係止解除力Fは、バネ脚6の偏位とともに直線的に増加して非常に大きな力となり、掛止フック14または係止部材16に過剰な荷重が加わる危険が生じる。
【0068】
図9は、係止解除力Fを係止解除経路に亘ってプロットした図を示している。先行技術による比較例は、一定の係止角γを有する傾斜面形態の単一セクションからなる係止解除ガイド面19である。実施例は、傾斜面形態の第1セクション19.1、及び部分円の形状の第2セクション19.2からなる本発明による係止解除ガイド面19である。
【0069】
係止解除する段階では、先行技術による比較例、及び本発明による実施例の両方の例において、係止解除力Fは略直線的に増加するが、その理由は、両方の事例において、掛止フック14の係止解除摺動端20が、断面視で直線的になっている係止解除ガイド面19のセクション19.1の傾斜面に沿って摺動するからである。直線的増加は初期段階では、高い係止解除閾値を確保するために、従って確実な係止を確保して不意の係止解除が生じないように保護するために有利であり、かつ望ましい。
【0070】
先行技術による比較例では、係止解除力Fは最後まで上昇し続けて非常に大きい値になり、掛止フック14または係止部材16を損壊する危険が生じる。
【0071】
本発明による実施例では、係止解除摺動端20は、凸状曲率を有する係止解除ガイド面19の第2セクション19.2の上を摺動する。凸状曲率により、楔角Φが小さくなり、バネ脚6の撓みが大きくなることにより生じる係止解除力Fの増加を補償することができる。図9に示すように、本発明による実施例2における係止解除力Fは勾配が小さくなって、先行技術による比較例の最大値の約50%に達するに過ぎない。
【0072】
これは、この技術分野の当業者にとって予測しなかったことであり、驚くべきことであった。
【符号の説明】
【0073】
1 窓ガラス
2 接着剤
3 保持レール
4 掛止溝
5 ガイドレール
6 バネ脚
7 カバー
8 ガイド溝
9 掛止レール
10 位置決めストッパ
11 バネ部材
12 接触面
13 支持隆起部
14 掛止フック
15 補強インサート
16 係止部材、凹部、または隆起部
17 係合ガイド面
18 係合摺動端
19 係止解除ガイド面
19.1 係止解除ガイド面19の第1セクション
19.2 係止解除ガイド面19の第2セクション
20 係止解除摺動端
A,B 直線
b 掛止フック14の最大偏位
係止解除力
係合力
AF 係止解除ガイド面19の曲率半径
AG 係合解除摺動端20の曲率半径
EF 係合ガイド面17の曲率半径
EG 係合摺動端18の曲率半径
α、β 角度
γ 係止角係止角
φ、φ、φ 楔角
μ 掛止フック14と係止部材16との間の摩擦係数
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8A
図8B
図9