特許第6294989号(P6294989)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294989
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/16 20060101AFI20180305BHJP
【FI】
   H01M2/16 L
   H01M2/16 M
   H01M2/16 P
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-76502(P2017-76502)
(22)【出願日】2017年4月7日
(62)【分割の表示】特願2014-516877(P2014-516877)の分割
【原出願日】2013年5月17日
(65)【公開番号】特開2017-143076(P2017-143076A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2017年4月7日
(31)【優先権主張番号】特願2012-117415(P2012-117415)
(32)【優先日】2012年5月23日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-77504(P2013-77504)
(32)【優先日】2013年4月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】増田 敬生
(72)【発明者】
【氏名】高濱 信子
(72)【発明者】
【氏名】落合 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真
(72)【発明者】
【氏名】加藤 加寿美
(72)【発明者】
【氏名】笠井 誉子
【審査官】 式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−294437(JP,A)
【文献】 特表2011−505663(JP,A)
【文献】 特表2005−536658(JP,A)
【文献】 特開2008−208511(JP,A)
【文献】 特開2001−250529(JP,A)
【文献】 特表2008−524824(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布基材に無機顔料を付与してなるリチウムイオン電池用セパレータであって、無機顔料を主体としてなる層、無機顔料と基材繊維が混在してなる層、基材繊維を主体としてなる層がこの順に重なってなり、基材繊維を主体としてなる層の厚みが、2μm以上で、かつ、無機顔料と基材繊維が混在してなる層の厚みの3倍以下であることを特徴とするリチウムイオン電池用セパレータ。
【請求項2】
無機顔料と基材繊維が混在してなる層における無機顔料の存在比率が、無機顔料を主体としてなる層側から基材繊維を主体としてなる層側へと向けて、連続的又は段階的に減少してなる請求項1記載のリチウムイオン電池用セパレータ。
【請求項3】
無機顔料と基材繊維が混在してなる層における無機顔料を主体としてなる層側から深さ1/4の部分における無機顔料の存在比率が、無機顔料と基材繊維が混在してなる層における無機顔料を主体としてなる層側から深さ3/4の部分における無機顔料の存在比率の1.5倍以上である請求項1又は2記載のリチウムイオン電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池(以下、「電池」と略す場合がある)には、極板間の接触を防ぐためのリチウムイオン電池用セパレータ(以下、「セパレータ」と略す場合がある)が用いられている。
【0003】
セパレータとして従来用いられているポリエチレン又はポリプロピレンからなる多孔性フィルムは、耐熱性が低く、安全上重大な問題を抱えている。すなわち、このような多孔性フィルムをセパレータとして用いた電池は、内部短絡等の原因で電池内部の局部的な発熱が生じた場合、発熱部位周辺のセパレータが収縮して内部短絡がさらに拡大し、暴走的に発熱して発火・破裂等の重大な事象に至ることがある。
【0004】
このような問題に対し、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の耐熱性の高い基材繊維からなる不織布基材に、アルミナ等の無機顔料を塗工して乾燥し、塗工層を形成してなるセパレータが提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかし、このようなセパレータには、塗工層が電極間の電位に曝されることで生じる電気化学反応の分解生成物が、電池特性を悪化されるという問題があり、特にサイクル特性への影響が大きかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−294437号公報
【特許文献2】特表2011−505663号公報
【特許文献3】特表2005−536658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、改良されたリチウムイオン電池用セパレータを提供することにあり、特に、このリチウムイオン電池用セパレータを用いた電池の安全性を高くすることができ、かつサイクル特性を良好にすることができるリチウムイオン電池用セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、下記発明を見出した。
【0008】
(1)不織布基材に無機顔料を付与してなるリチウムイオン電池用セパレータであって、無機顔料を主体としてなる層、無機顔料と基材繊維が混在してなる層、基材繊維を主体としてなる層がこの順に重なってなり、基材繊維を主体としてなる層の厚みが、2μm以上で、かつ、無機顔料と基材繊維が混在してなる層の厚みの3倍以下であることを特徴とするリチウムイオン電池用セパレータ、
)無機顔料と基材繊維が混在してなる層における無機顔料の存在比率が、無機顔料を主体としてなる層側から基材繊維を主体としてなる層側へと向けて、連続的又は段階的に減少してなる(1)記載のリチウムイオン電池用セパレータ、
)無機顔料と基材繊維が混在してなる層における無機顔料を主体としてなる層側から深さ1/4の部分における無機顔料の存在比率が、無機顔料と基材繊維が混在してなる層における無機顔料を主体としてなる層側から深さ3/4の部分における無機顔料の存在比率の1.5倍以上である(1)又は(2)記載のリチウムイオン電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリチウムイオン電池用セパレータを用いた電池では、安全性が高く、かつサイクル特性が良好になるという効果が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のリチウムイオン電池用セパレータの断面構造を示す概念図である。
図2】本発明内のパレータAの走査型電子顕微鏡像である。
図3】本発明内のセパレータEの走査型電子顕微鏡像である。
図4】本発明外のセパレータFの走査型電子顕微鏡像である。
図5】本発明内のセパレータAの走査型電子顕微鏡像及びエネルギーX線分散法を用いたスペクトルである。
図6】本発明外のセパレータFの走査型電子顕微鏡像及びエネルギーX線分散法を用いたスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明のリチウムイオン電池用セパレータの断面構造を示す概念図である。本発明のセパレータは、不織布基材に無機顔料を付与してなるリチウムイオン電池用セパレータであって、無機顔料を主体としてなる層1(以下、「顔料主体層」と略記する場合がある)、無機顔料と基材繊維が混在してなる層2(以下、「混在層」と略記する場合がある)、基材繊維を主体としてなる層3(以下、「繊維主体層」と略記する場合がある)がこの順に重なってなる。
【0012】
本発明のセパレータは、次のようにして製造することができる。すなわち、不織布基材の表面に、無機顔料を含む液(以下、「塗工液」と記す)を付与し、塗工液の少なくとも一部が不織布基材の内部に浸透した状態で乾燥させる。なお、塗工液が乾燥されて形成された部分を「塗工層」と称する。
【0013】
本発明のセパレータに用いる不織布基材は、特に制限されない。基材繊維をシート状にする方法としては、スパンボンド法、メルトブロー法、静電紡糸法、湿式法等が挙げられる。これらの中で、薄くて緻密な構造の不織布基材を得ることができることから、湿式法が好ましい。基材繊維間を接合する方法としては、ケミカルボンド法、熱融着法等が挙げられる。これらの中で、表面が平滑な不織布基材が得られることから、熱融着法が好ましい。
【0014】
本発明における不織布基材を形成する基材繊維としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリアクリロニトリル等のアクリル、6,6ナイロン、6ナイロン等のポリアミド等の各種合成繊維、木材パルプ、麻パルプ、コットンパルプ等の各種セルロースパルプ、レーヨン、リヨセル等のセルロース系再生繊維等が例示される。これらの中で、耐熱性、低吸湿性等の理由から、ポリエステル又はポリプロピレンを主体とした不織布が好ましい。不織布基材を形成する繊維の好ましい繊維径は、用いる塗工液の物性にも依存するが、2〜8μmの範囲にあることが好ましい。
【0015】
本発明における塗工層は、無機顔料及びバインダー樹脂からなる。無機顔料としては、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ等のアルミナ、ベーマイト等のアルミナ水和物、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等を用いることができる。これらの中でも、リチウムイオン電池に用いられる電解質に対する安定性が高い点で、α−アルミナ又はアルミナ水和物が好ましく用いられる。バインダー樹脂としては、スチレン−ブタジエン樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂等、各種の合成樹脂を用いることができる。バインダー樹脂の使用量は、無機顔料に対して0.1〜30質量%であることが好ましい。
【0016】
塗工液には、前記無機顔料及びバインダーの他に、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の各種分散剤、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリエチレンオキサイド等の各種増粘剤、各種の濡れ剤、防腐剤、消泡剤等の各種添加剤を、必要に応じ配合せしめることもできる。
【0017】
本発明において、繊維主体層が存在しない場合、電池の特性が悪化する。特に、サイクル特性が悪化する。繊維主体層が存在しない場合、塗工層が電極間の電位に直接曝されることになり、その結果、電気化学反応によって分解生成物が発生することが原因であると考えられる。
【0018】
また、本発明のセパレータでは、繊維主体層の厚みが、2μm以上で、かつ、混在層の厚みの3倍以下であることが好ましい。繊維主体層の厚みが2μm未満である場合には、繊維主体層の厚みが2μm以上である場合と比較して、電池の特性がやや不良となる。特に、サイクル特性がやや不良になる。これは、電極とセパレータの界面は複雑に接触しているため、繊維主体層の厚みが2μm未満の場合には、電極と混在層が接する部分が生じ、電気化学反応による分解生成物が発生することが原因と考えられる。
【0019】
一方、繊維主体層の厚みが混在層の厚みの3倍を超える場合にも、電池の特性がやや不良となり、特にサイクル特性がやや不良となる。これは、繊維主体層の圧縮弾性率が、混在層と比較して低いため、充電時の電極膨張を抑制できなくなるためと推定される。
【0020】
さらに、本発明のセパレータにおいて、混在層における無機顔料の存在比率が、顔料主体層側から繊維主体層側へと向けて、連続的又は段階的に減少することが好ましい。このような構造を有するセパレータを用いた電池のサイクル特性は特に良好になる。より好ましくは、混在層における顔料主体層側から深さ1/4の部分における無機顔料の存在比率が、混在層の顔料主体層側から深さ3/4の部分における無機顔料の存在比率の1.5倍以上である。これによって、電池のサイクル特性が特に良好なセパレータになる。これは、混在層における繊維主体層に近い部分において、無機顔料の存在比率が大きすぎる(無機顔料の含有率が高すぎる)と、サイクル特性を低下させるような作用があるためと推定される。
【0021】
なお、本発明における「深さ」について説明する。まず、顔料主体層、混在層、繊維主体層における「深さ」を説明する。各層において、「長さ」で表した「深さ」とは、各層における表面又は隣接する層との境界面を「深さ0(零)」としたときの、反対面方向への距離L1である。各層において、「割合」で表した「深さ」とは、各層の全厚L2に対する距離L1の割合(L1/L2)である。
【0022】
次に、セパレータ又は不織布基材における「深さ」を説明する。セパレータ又は不織布基材において、「長さ」で表した「深さ」とは、セパレータ又は不織布基材の一方の表面を「深さ0(零)」としたときの、反対面方向への距離L3である。セパレータ又は不織布基材において、「割合」で表した「深さ」とは、セパレータ又は不織布基材の全厚L4に対する距離L3の割合(L3/L4)である。
【0023】
本発明において、「顔料主体層」とは、セパレータの断面を観察した場合に、無機顔料の存在比率が4/1を超える領域である。「繊維主体層」とは、セパレータの断面を観察した場合に、無機顔料の存在比率が1/4を下回る領域である。また、「混在層」とは、セパレータの断面を観察した場合に、無機顔料の存在比率が、1/4以上、4/1以下の領域である。
【0024】
本発明における「無機顔料の存在比率」とは、無機顔料/基材繊維の体積比率のことを言う。走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と記す)を用いてセパレータの断面の一定深さを直線状に走査した場合に、「無機顔料と同定される部分の長さ」/「基材繊維と同定される部分の長さ」で算出することができる。無機顔料又は基材繊維において、他方が含まない特有の元素又は両者が共通に含むが、その含有率が大きく異なる元素がある場合には、エネルギー分散X線分光法(以下、「EDS」と記す)で材料の同定を行うことができる。
【0025】
本発明のセパレータにおいて、セパレータの表面のエネルギー分散X線分光法(EDS)によるAl及びCの強度ピーク値の比(Al/C比)が、顔料主体層側の面は20以上、繊維主体層側の面は0.1以上1.0未満であることが好ましい。
【0026】
エネルギー分散X線分光法(EDS)とは、試料表面に電子線を照射し、その際に発生する原子固有の特性X線をエネルギー分散型検出器にて検出して、そのエネルギーと強度から、試料表面を構成する元素と濃度を調べる元素分析手法である。このエネルギー分散X線分光法を用いた分析装置としては、電界放射型走査電子顕微鏡(日本電子製、JSM−06700F)などが挙げられる。本発明におけるエネルギー分散X線分光法によるAl及びCの強度ピーク比(Al/C比)は、JSM−06700Fを使用して加速電圧10kV、倍率40倍の視野を3箇所測定し、得られたAl及びC由来の特性X線のピーク強度(特性X線のカウント数)の比の平均値により求めた。
【0027】
本発明において、基材繊維を構成する元素は、主に炭素(C)、酸素(O)である。塗工層を構成する元素は、主にアルミニウム(Al)及び酸素(O)である。本発明において、顔料主体層側の面のAl/C比が20以上であるということは、基材繊維の露出がほとんどなく、無機顔料で覆われている状態を示す。基材繊維の露出をなくすことで、内部短絡を抑制することができる。さらに、Al/C比を高くすることで、初期充電時に負極から発生するリチウムデンドライドによる微小内部短絡の抑制が可能となる。Al/C比を30以上とすることで、4.3V以上の電圧での充電でも微小短絡が起き難くなるため、さらに好ましい。
【0028】
一方、繊維主体層側の面のAl/C比が0.1以上1.0未満であることは、その面のほとんどが基材繊維からなるが、一部無機顔料が存在していることを示す。本発明において、繊維主体層が存在しない場合又は繊維主体層側の面のAl/C比が1.0以上である場合、電池の特性がやや不良となる。特にサイクル特性がやや不良となる。これは、塗工層が電極間の電位に直接曝されることになり、その結果、電気化学反応によって分解生成物が発生することが原因であると考えられる。一方、繊維主体層側の面のAl/C比が0.1未満である場合も、電池特性がやや不良となる。これは極僅かに一部塗工層が浸みだして露出することで、リチウムイオンの伝導性が向上するためと考えられる。
【0029】
顔料主体層、混在層、主体層がこの順に重なっているセパレータを得るためには、塗工液の浸透深さを調整する。また、塗工液の浸透深さを調整することによって、繊維主体層の厚み、混在層における無機顔料の存在比率、セパレータ表面のAl/C比も調整することができる。本発明において、塗工液の浸透深さは、不織布基材の厚みの1/4以上、(不織布基材の厚み−2)μm以下にすることが好ましい。
【0030】
塗工液の浸透深さを調整する方法としては以下のようなものがある。1つ目の方法として、不織布基材を構成する基材繊維を調整する方法がある。この方法においては、塗工液の浸透深さを浅くするためには、細い繊維の配合率を高くすればよい。塗工液の浸透深さを深くするためには、細い繊維の配合率を低くすればよい。また、基材繊維表面に付着する油剤や、湿式法にて不織布基材を形成する場合は分散剤や消泡剤などの界面活性剤の量を調整することで、浸透深さを調整できる。例えば、浸透深さを浅くするためには、油剤や分散剤の基材繊維への付着量を少なくすればよい。本発明において基材繊維への油剤等の付着量は、0.01〜1質量%の範囲が好ましい。
【0031】
2つ目の方法として、塗工液の粘度(ハイシア粘度、ローシア粘度)を調整する方法がある。この方法において、塗工液の浸透深さを浅くするためには、塗工液の粘度を高くすればよい。塗工液の浸透深さを深くするためには、塗工液の粘度を低くすればよい。塗工液の粘度を調整する方法としては、塗工液の固形分濃度を調整する方法、増粘剤を添加する方法、増粘剤の添加量を調整する方法、塗工液の温度を調整する方法等がある。本発明において、塗工液のB型粘度は、10〜10000mPa・sが好ましく、さらに好ましくは200〜2000mPa・sの範囲である。B型粘度をこの範囲に調整することで、本発明のセパレータを容易に得ることが可能となる。
【0032】
3つ目の方法として、塗工液の表面張力を調整する方法がある。この方法において、塗工液の浸透深さを浅くするためには、塗工液の表面張力を高くすればよい。塗工液の浸透深さを深くするためには、塗工液の表面張力を低くすればよい。塗工液の表面張力を調整する方法としては、濡れ剤を添加する方法、濡れ剤の添加量を調整する方法、塗工液の温度を調整する方法等がある。本発明において、塗工液が水系の場合の表面張力は、30〜70mN/mが好ましく、特に45〜65mN/mが特に好ましい。水系塗工液の表面張力がこの範囲であることで、本発明のセパレータを容易に得ることが可能となる。
【0033】
4つ目の方法として、塗工方式を選択する方法がある。この方法において、塗工液の浸透深さを浅くするためには、塗工液を不織布基材に圧入する方向の動圧が作用しにくい塗工方式を用いればよい。塗工液の浸透深さを深くするためには、塗工液を不織布基材に圧入する方向の動圧が作用しやすい塗工方式を用いればよい。塗工液を不織布基材に圧入する方向の動圧が作用しにくい塗工方式の例としては、ダイ塗工、カーテン塗工が挙げられる。塗工液を不織布基材に圧入する方向の動圧が作用しやすい塗工方式の例としては、含浸塗工、ブレード塗工、ロッド塗工等が挙げられる。両者の中間的な塗工方式の例としては、グラビア塗工が挙げられる。本発明においては、浸透深さを容易に調整できることから、キスリバース方式のグラビア塗工が好ましく用いられる。特に、グラビア径が150mm以下の小径グラビアがさらに好ましく用いられる。
【0034】
これらの方法を適宜組み合わせることによって、塗工液の浸透深さを調整することができ、不織布基材の厚みの1/4以上、(不織布基材の厚み−2)μm以下にすることも可能となる。また、塗工液の一部が塗工表面の裏側に一部浸みだすように、塗工液の浸透深さを調整することで、表裏面のAl/C比を調整することができる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例において、%及び部は、断りのない限り、全て質量基準である。また、塗工量は絶乾塗工量である。
【0036】
不織布基材1の作製
繊度0.06dtex(平均繊維径2.4μm)、繊維長3mmの配向結晶化ポリエチレンテレフタレート(PET)系短繊維40質量部と繊度0.1dtex(平均繊維径3.0μm)、繊維長3mmの配向結晶化PET系短繊維20質量部と繊度0.2dtex(平均繊維径4.3μm)、繊維長3mmの単一成分型バインダー用PET系短繊維(軟化点120℃、融点230℃)40質量部とをパルパーにより水中に分散し、濃度1質量%の均一な抄造用スラリーを調製した。この抄造用スラリーを、通気度275cm/cm/sec、組織[上網:平織、下網:畝織]の抄造ワイヤーを設置した傾斜型抄紙機にて、湿式方式で抄き上げ、135℃のシリンダードライヤーによって、バインダー用PET系短繊維を接着させて不織布強度を発現させ、目付12g/mの不織布とした。さらに、この不織布を、誘電発熱ジャケットロール(金属製熱ロール)及び弾性ロールからなる1ニップ式熱カレンダーを使用して、熱ロール温度200℃、線圧100kN/m、処理速度30m/分の条件で熱カレンダー処理し、厚み18μmの不織布基材1を作製した。
【0037】
不織布基材2の作製
熱カレンダー処理の条件を、線圧200kN/m、処理速度10m/分にした以外は不織布基材1と同様にして、厚み14μmの不織布基材2を作製した。不織布基材2は、その表面において、繊維間がより強く融着しているため、不織布基材1と比較して、塗工液が浸透しにくい。
【0038】
塗工液1の作製
体積平均粒子径2.3μm、比表面積3m/gのベーマイト100部を、その1質量%水溶液の25℃における粘度が200mPa・sのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩0.3質量%水溶液120部に混合し十分撹拌し、次いで、その1質量%水溶液の25℃における粘度が7000mPa・sのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩0.5%水溶液300部及び、ガラス転移点5℃、体積平均粒子径0.2μmのカルボキシ変性スチレンブタジエン樹脂(SBR)エマルション(固形分濃度50質量%)10部を混合、撹拌して塗工液1を作製した。なお、本塗工液1のB型粘度は1020mPa・sであった。
【0039】
塗工液2の作製
その1質量%水溶液の25℃における粘度が7000mPa・sのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩0.5質量%水溶液300部を100部にした以外は塗工液1と同じようにして塗工液2を作製した。なお本塗工液2のB型粘度は210mPa・sであった。塗工液2は、塗工液1と比較して粘度が低いため、不織布基材に対し浸透しやすい。
【0040】
セパレータAの作製
不織布基材1上に、塗工液1を、キスリバース方式のグラビアコーターにて絶乾塗工量が16g/mとなるように塗工・乾燥し、厚み36μmのセパレータAを作製した。
【0041】
セパレータBの作製
不織布基材1上に、塗工液1を、キスリバース方式のグラビアコーターにて絶乾塗工量が8g/mとなるように塗工・乾燥した後、さらに同じ塗工面に再度、塗工液1を、キスリバース方式のグラビアコーターにて絶乾塗工量が8g/mとなるように塗工・乾燥し、厚み35μmのセパレータBを作製した。
【0042】
セパレータCの作製
工程紙の剥離面上に、塗工液2を、キスリバース方式のグラビアコーターにて絶乾塗工量が16g/mとなるように塗工し、乾燥前の塗工面上に不織布基材1を軽く貼り合わせた後、乾燥し、次いで工程紙を剥離除去して、厚み35μmのセパレータCを作製した。
【0043】
セパレータDの作製
不織布基材1に代えて、不織布基材2を使用した以外は、セパレータAと同じにして、厚み35μmのセパレータDを作製した。
【0044】
セパレータEの作製
塗工液2に代えて、塗工液1を用いた以外は、セパレータCと同じようにして、厚み39μmのセパレータEを作製した。
【0045】
セパレータFの作製
キスリバース方式のグラビアコーターに代えて、含浸式コーターを用いた以外は、セパレータAと同様にして、厚み32μmのセパレータFを作製した。
【0046】
セパレータGの作製
2回目の塗工を、1回目の塗工面とは反対の不織布基材面に行った以外は、セパレータBと同様にして、厚み33μmのセパレータGを作製した。
【0047】
セパレータHの作製
塗工液1に代えて、塗工液2を用いた以外は、セパレータAと同じようにして、厚み34μmのセパレータHを作製した。
【0048】
セパレータIの作製
塗工液1に代えて、塗工液2を用い、さらに、キスリバース方式のグラビアコーターに代えて、含浸式コーターを用いた以外は、セパレータAと同様にして、厚み30μmのセパレータIを作製した。
【0049】
<評価>
【0050】
[厚み]
各セパレータの断面を、EDSを備えたSEM装置(電界放射型走査電子顕微鏡(日本電子(JEOL)製、JSM−06700F)にて観察した。そして、アルミニウム(Al)を検出した領域」を「無機顔料であるベーマイト」とした。「Alを検出せず、かつ実体が存在する領域」を「基材繊維であるポリエチレンテレフタレート繊維」とした。「無機顔料の存在比率が4/1である深さ」を「顔料主体層と混在層の境界線」とした。「無機顔料の存在比率が1/4である深さ」を「混在層と繊維主体層の境界線」であるとした。
【0051】
これらの「境界線」から、「顔料主体層」、「混在層」、「繊維主体層」の厚みをそれぞれ求めた(I、II、III)。「混在層が顔料主体層の反対面まで到達」している場合、「繊維主体層」の厚みは「0(零)」とみなした。結果は表1に記した。
【0052】
[傾斜比率]
「混在層の深さ1/4の部分における無機顔料の存在比率X」と、「混在層の深さ3/4の部分における無機顔料の存在比率Y」との比(X/Y)を「傾斜比率」として、表1に記した。なお、セパレータEについては、「混在層」の厚みが薄すぎて、「傾斜比率」を求めることができなかった。
【0053】
[Al/C比]
各セパレータの表裏面におけるエネルギー分散X線分光法によるAl及びCの強度ピーク比(Al/C比)を、電界放射型走査電子顕微鏡(日本電子(JEOL)製、JSM−06700F)を使用して加速電圧10kV、倍率40倍の視野を3箇所測定し、得られたAl及びC由来の特性X線のピーク強度(特性X線のカウント数)の比の平均値により求めた。
【0054】
図2図3及び図4は、セパレータA、E及びFの塗工液付与面(塗工面)、左記の反対面(裏面)、断面のSEM像である。図5及び図6は、セパレータA及びFの塗工面、裏面、断面のSEM像及びエネルギーX線分散法を用いたスペクトルである。
【0055】
[電池の繰り返し充放電特性]
各セパレータを用い、正極活物質がマンガン酸リチウム、負極活物質が人造黒鉛、電解液が溶媒:エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの7/3(容量比)混合溶媒、電解質:リチウムヘキサフルオロフォスフェート(1mol/L)である設計容量が100mAhのラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。なお、電池の組立にあたっては、セパレータの顔料主体層を負極に相対させるようにした。
【0056】
その後、作製した各電池について、「200mA定電流充電→4.2V定電圧充電(1時間)→200mAで定電流放電→2.8Vになったら次のサイクル」のシーケンスにて200サイクルの充放電を行い、[1−(100サイクル目の放電容量/4サイクル目の放電容量)]×100(%)として、100サイクル目の容量低下率を求めた。また、[1−(200サイクル目の放電容量/4サイクル目の放電容量)]×100(%)として、200サイクル目の容量低下率を求めた。容量低下率が低い方が、サイクル特性が良好な電池である。結果は表1に記した。
【0057】
◎:容量低下率が10%未満
○:容量低下率が10%以上20%未満
△:容量低下率が20%以上30%未満
×:容量低下率が30%以上
【0058】
【表1】

【0059】
表1から明らかなように、顔料主体層、混在層、繊維主体層がこの順に重なってなるリチウムイオン電池用セパレータA〜Eは、繊維主体層が存在しないリチウムイオン電池用セパレータF〜Iに比べて、繰り返し充放電における容量低下率が小さく、サイクル特性が良好という効果を達成できる。
【0060】
繊維主体層の厚み(III)が2μm以上かつ顔料繊維混在層の厚み(II)の3倍以下であるセパレータA〜Cは、繰り返し充放電における容量低下率が特に小さく、サイクル特性が特に良好であった。これに対し、繊維主体層の厚み(III)が顔料繊維混在層の厚み(II)の3倍を超えるセパレータD〜Eでは、セパレータA〜Cと比較して、サイクル特性がやや不良であった。
【0061】
繊維主体層の厚み(III)が0μmであり、繊維主体層が存在しないセパレータF〜Iは、いずれもサイクル特性が不良であった。
【0062】
また、セパレータA〜Dの比較から、傾斜比率が1.5倍以上であるセパレータA及びBでは、繰り返し充放電における容量低下率が極めて小さく、サイクル特性が極めて良好という効果が達成できた。
【0063】
また、セパレータA〜Eの比較から、表面のエネルギー分散X線分光法によるAl及びCの強度ピーク値の比(Al/C比)が、顔料主体層側の面は20以上、繊維主体層側の面は0.1以上1.0未満であるセパレータA〜Dでは、200サイクル目における繰り返し充放電における容量低下率が小さく、サイクル特性が良好という効果を達成できた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の活用例としては、リチウムイオン二次電池用セパレータ、リチウムポリマーイオン二次電池用セパレータが好適である。
【符号の説明】
【0065】
1 無機顔料を主体としてなる層(顔料主体層)
2 無機顔料と基材繊維が混在してなる層(混在層)
3 基材繊維を主体としてなる層(繊維主体層)
図1
図2
図3
図4
図5
図6