特許第6294997号(P6294997)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6294997二相潤滑油組成物およびコントロール成分
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294997
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】二相潤滑油組成物およびコントロール成分
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20180305BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20180305BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20180305BHJP
   C10M 105/04 20060101ALN20180305BHJP
   C10M 107/34 20060101ALN20180305BHJP
   C10M 133/12 20060101ALN20180305BHJP
   C10M 133/16 20060101ALN20180305BHJP
   C10M 133/56 20060101ALN20180305BHJP
   C10M 135/36 20060101ALN20180305BHJP
   C10M 135/06 20060101ALN20180305BHJP
   C10M 129/04 20060101ALN20180305BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20180305BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20180305BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20180305BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20180305BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20180305BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20180305BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20180305BHJP
【FI】
   C10M169/04
   !C10M107/02
   !C10M101/02
   !C10M105/04
   !C10M107/34
   !C10M133/12
   !C10M133/16
   !C10M133/56
   !C10M135/36
   !C10M135/06
   !C10M129/04
   C10N20:00 A
   C10N20:00 C
   C10N20:02
   C10N30:00 Z
   C10N40:02
   C10N40:04
   C10N40:08
   C10N40:25
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2017-96954(P2017-96954)
(22)【出願日】2017年5月16日
(62)【分割の表示】特願2013-219487(P2013-219487)の分割
【原出願日】2013年10月22日
(65)【公開番号】特開2017-133041(P2017-133041A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2017年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】517436615
【氏名又は名称】シェルルブリカンツジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 久美子
(72)【発明者】
【氏名】田中 真璃奈
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−294270(JP,A)
【文献】 特開2013−023596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M101/00−177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)低粘度成分としてポリα−オレフィン、鉱油、GTLまたはそれらの混合物である炭化水素と、
(B)高粘度成分として酸素/炭素重率が0.450〜0.580であり、1価〜4価のC2〜4のアルコール類に、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド又はブチレンオキサイドを単独で、またはこれらの二種以上を組み合わせて付加重合した構造のポリアルキレングリコール(PAG)含有化合物と、
(C)分離温度コントロール成分として、ジアリールアミン、コハク酸イミド、チアジアゾール化合物、硫化油脂およびポリオールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、
を混合してなり、
一相状態から二相状態へと遷移する分離温度が40〜100℃であり、100℃における動粘度が1.5〜100mm/sである潤滑油組成物;
ただし、前記ポリオールは下記一般式(12)又は(13)で表される。
【化1】
【化2】
(前記一般式(12)中、Rは、非置換の炭素数10〜22のアルキル基を表し;前記一般式(13)中、Rは、非置換の炭素数15〜20のアルキル基を表し、nは1〜5である。)
【請求項2】
前記ジアリールアミンが分子中にO原子を含まない、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記チアジアゾール化合物が分子中にO原子を含まない、請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記硫化油脂が分子中にO原子を含まない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記低粘度成分の密度が0.750〜0.950g/cmであり、前記高粘度成分の密度が1.000〜1.050g/cmである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記低粘度成分の40℃における動粘度が5〜500mm/sである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記高粘度成分の100℃における動粘度が2.5〜100mm/sである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
組成物全体100重量%に対して、前記低粘度成分の配合割合が30〜80重量%であり、前記高粘度成分の配合割合が3〜35重量%であり、前記コントロール成分の配合割合が1〜30重量%である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
各種車両または産業機械の、回転部材または摺動部材の潤滑に適用される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
エンジン、歯車装置、変速機、軸受、油圧装置または圧縮機に用いられる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
(A)低粘度成分としてポリα−オレフィン、鉱油、GTLまたはそれらの混合物である炭化水素と、(B)高粘度成分として酸素/炭素重率が0.450〜0.580であり、1価〜4価のC2〜4のアルコール類に、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド又ブチレンオキサイドを単独で、またはこれらの二種以上を組み合わせて付加重合した構造のポリアルキレングリコール(PAG)含有化合物と、を混合してなる潤滑油組成物に使用される分離温度コントロール成分であって、
ジアリールアミン、コハク酸イミド、チアジアゾール化合物、硫化油脂およびポリオールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物からなる、分離温度コントロール成分
ただし、前記ポリオールは下記一般式(12)又は(13)で表される。
【化3】
【化4】
(前記一般式(12)中、Rは、非置換の炭素数10〜22のアルキル基を表し;前記一般式(13)中、Rは、非置換の炭素数15〜20のアルキル基を表し、nは1〜5である。)


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物およびコントロール成分に関する。より詳細には、二相潤滑油組成物およびコントロール成分に関する。
【背景技術】
【0002】
潤滑油は、通常、温度上昇に伴い粘度が低くなる。そのため、一般に低温では粘性が高く、高温では粘性が低い。使用される環境(特に温度)に応じて使われる潤滑油の種類も異なる。低温環境と高温環境の両者において用いられる潤滑油は、低粘度のものだと、高温では粘性が低すぎるために油膜切れを起こし、潤滑油としての機能を果たさないことがあり、逆に高粘度のものだと、低温では粘性が高すぎて、撹拌損失が増大したり、ポンプ給油ができず焼付きや摩耗を起こしたりすることがある。
【0003】
作動開始時(停止状態から動作状態になるとき、すなわち、低温時)には、低粘度であることが重要である。この作動開始時に高粘度だと、停止状態から動作状態にするまでの初期作動力が必要となるからである。他方、一旦機械が動き出したら、それほど粘度は関係なくなる。機械が作動し続けると、機械は熱を有し、その温度が上昇する(例えば、100℃程度)。高温になった際には前記の通り粘度が下がり過ぎて、油膜切れを起こす可能性がある。
【0004】
このように、一つの潤滑油だけでは広範囲の温度条件において必要な粘度を担保することが難しい。そこで、特許文献1では、低粘度の潤滑油と、高粘度の潤滑油を組み合わせることによって、低温では低粘度の潤滑油の特性のみを利用し、高温では高粘度の潤滑油が低粘度の潤滑油と混和することで粘度が上がるという特性を利用し、低温でも高温でも機能する潤滑油を開示している。
【0005】
上述の特許文献1記載の方法では、液相分離する温度が、使用する基材の種類で決まってしまうため、分離温度とその他の潤滑油組成物性状(特に動粘度)を自由に設計することが困難であった。そこで、本願発明者らは、上記2つの成分(低粘度の潤滑油と高粘度の潤滑油)に第3の成分(以下、「コントロール成分」と記載する。)を加えることにより、分離温度と潤滑油組成物性状(特に動粘度)を自由に制御可能であるかについて検討を行った。その結果、本願発明者らは、特定の組成を有するエステルをコントロール成分として用いることにより、分離温度と潤滑油組成物性状を自由に制御できることを見出した(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第96/11244号
【特許文献2】特開2013−23596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、分離温度の微調整のためには、コントロール成分の添加量に対して、分離温度変化効果の違う基材が必要である。例えば、エステルはコントロール成分として添加することによって分離温度が下がるが、エステル以外にもコントロール成分として添加することによってこの分離温度が上昇する化合物、もしくは分離温度変化幅の異なる化合物の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、エステル以外の両親媒性の化合物についてもコントロール成分として機能することがわかった。具体的には、親水性基として水素結合する官能基(カルボニル基、アミン基、スルフィド基、水酸基)を有し、疎水基として炭化水素基を有する化合物であるジアリールアミン、コハク酸イミド、チアジアゾール化合物、硫化油脂、およびポリオール等が、コントロール成分として利用できることが明らかとなった。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明[1]〜[15]からなる。
[1] (A)低粘度成分として炭化水素と、
(B)高粘度成分として酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG)含有化合物と、
(C)コントロール成分として、親水性基としてカルボニル基、アミン基、スルフィド基および水酸基からなる群より選択される少なくとも1つの水素結合する官能基を有し、疎水基として炭化水素基を有する両親媒性化合物と、
を混合してなる潤滑油組成物。
[2] 前記両親媒性化合物が、ジアリールアミン、コハク酸イミド、チアジアゾール化合物、硫化油脂およびポリオールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である、前項[1]に記載の潤滑油組成物。
[3] 前記ジアリールアミンが分子中にO原子を含まない、前項[2]に記載の潤滑油組成物。
[4] 前記チアジアゾール化合物が分子中にO原子を含まない、前項[2]または[3]に記載の潤滑油組成物。
[5] 前記硫化油脂が分子中にO原子を含まない、前項[2]〜[4]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[6] 前記ポリオールが無灰系添加剤である、前項[2]〜[5]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[7] 前記低粘度成分が、ポリα−オレフィン、鉱油、GTLまたはそれらの混合物である前項[1]〜[6]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[8] 前記低粘度成分の密度が0.750〜0.950g/cmであり、前記高粘度成分の密度が1.000〜1.050g/cmである前項[1]〜[7]のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
[9] 前記低粘度成分の40℃における動粘度が5〜500 mm/sである請求項[1]〜[8]のいずれか一項記載の組成物。
[10] 前記高粘度成分の100℃における動粘度が2.5〜100 mm/sである前項[1]〜[9]のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
[11] 100℃における動粘度が1.5〜100 mm/sである前項[1]〜[10]のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
[12] 組成物全体100重量%に対して、前記低粘度成分の配合割合が30〜80重量%であり、前記高粘度成分の配合割合が3〜35重量%であり、前記コントロール成分の配合割合が1〜30重量%である前項[1]〜[11]のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
[13] 各種車両または産業機械の、回転部材または摺動部材の潤滑に適用される、前項[1]〜[12]のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
[14] エンジン、歯車装置、変速機、軸受、油圧装置または圧縮機に用いられる前項[1]〜[13]のいずれか一項記載の潤滑油組成物。
[15] (A)低粘度成分として炭化水素と、(B)高粘度成分として酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG)含有化合物と、を混合してなる潤滑油組成物に使用されるコントロール成分であって、
親水性基としてカルボニル基、アミン基、スルフィド基および水酸基からなる群より選択される少なくとも1つの水素結合する官能基を有し、疎水基として炭化水素基を有する両親媒性化合物からなる、コントロール成分。
【0010】
当該発明を別の観点から捉えると下記の通りである。本発明は、(A)低粘度成分として炭化水素、(B)高粘度成分として酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG)含有化合物、(C)コントロール成分として親水性基としてカルボニル基、アミン基、スルフィド基および水酸基からなる群より選択される少なくとも1つの水素結合する官能基を有し、疎水基として炭化水素基を有する両親媒性化合物を含有してなる潤滑油組成物であって、当該組成物の分離温度を任意に制御できるコントロール成分を混合してなる潤滑油組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、低粘度成分である炭化水素と、高粘度成分である酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG)含有化合物に加えて、コントロール成分としての親水性基としてカルボニル基、アミン基、スルフィド基および水酸基からなる群より選択される少なくとも1つの水素結合する官能基を有し、疎水基として炭化水素基を有する両親媒性化合物を用いることにより、コントロール成分が存在しない系と比較し、分離温度を任意に制御できるとともに高温度での動粘度をほぼ同レベルに維持することが可能となるため、異なる特性が求められる様々な潤滑用途に使用できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明(一例)の二相系の模式図を示す。
図2】本発明における潤滑油組成物の分離温度測定の一態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は、このような特定の用途に何ら限定されるものではなく、任意の用途において幅広く適用できることは言うまでもない。
【0014】
本発明は、任意の温度で2つの基材が液相分離することを特徴とする二液分離型潤滑油組成物に関する。具体的には、低粘度と高粘度の成分を組み合わせるが、特に低温時には、高粘度成分が分離・沈殿(分散)することで低粘度成分が支配的となり、潤滑油組成物を低粘度化することが可能となる。以上のことから、本発明は、温度依存性の低い粘度特性を有する潤滑油組成物となる。このような特性を発現させるために、本発明の潤滑油組成物には、低粘度成分(潤滑油基油)と、高粘度成分(ポリアルキレングリコール(PAG)含有化合物)と、両親媒性のコントロール成分が含まれる。それ故、本発明の潤滑油組成物は、任意の温度で低粘度成分及び高粘度成分が液相分離するという特性を有する潤滑油組成物となる。以下、有効成分として用いられるそれぞれの成分について説明を行い、次いで潤滑油組成物について説明を行う。
【0015】
(A)低粘度成分(炭化水素)
本発明の潤滑油組成物において、低粘度成分として、炭化水素が用いられる。ここで、本発明にかかる炭化水素は、当業界にて潤滑油の基油として使用可能なものを指し、合成油、鉱油、GTLでもよく、例えばグループI〜Vのものを挙げることができる。ここで、グループI、II、III、IV、およびVは、潤滑油基油の指針を作成するためにアメリカ石油協会(American Petroleum Institute)によって定義された基油材料の広範な分類である。
【0016】
本発明において、合成油の種類は特に規定されるものではないが、ポリα−オレフィン(PAO)又は炭化水素系合成油(オリゴマー)を好ましい例として挙げることができる。PAOとは、α−オレフィンの単重合体または共重合体である。例えば、α−オレフィンとしては、C−C二重結合が末端にある化合物であり、ブテン、ブタジエン、ヘキセン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキセン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセン、テトラデセン、ヘキサデセン、オクタデセン、エイコセンなどが例示される。炭化水素系合成油(オリゴマー)としては、エチレン、プロピレン、又はイソブテンの単重合体または共重合体を例示することができる。これらの化合物は単独でも、また二種類以上の混合物としても用いることができる。また、これらの化合物はC−C二重結合が末端にある限り、とり得る異性体構造のどのような構造を有していてもよく、分枝構造でも直鎖構造でもよい。これらの構造異性体や二重結合の位置異性体の二種類以上を併用することもできる。これらのオレフィンのうち、炭素数5以下では引火点が低く、また炭素数31以上では粘度が高く実用性が低いため、炭素数6〜30の直鎖オレフィンの使用がより好ましい。
【0017】
本発明においては、PAO又は炭化水素系合成油(オリゴマー)としては、Durasyn(イネオス社)、Spectrasyn(エクソンモービルケミカル社)、Lucant(三井石油化学)などの市販製品が入手可能である。
【0018】
その他、一般的な鉱油を低粘度成分として用いてもよい。鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの一種もしくは二種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られるパラフィン系またはナフテン系などの鉱油を挙げることができる。
【0019】
また、天然ガスの液体燃料化技術のフィッシャートロプッシュ法により合成されたGTL(ガストゥリキッド)を用いることもできる。GTLは、原油から精製された鉱油基油と比較して、硫黄分や芳香族分が極めて低く、パラフィン構成比率が極めて高いため、酸化安定性に優れ、蒸発損失も非常に小さいため、本発明の基油として好適に用いることができる。
【0020】
(低粘度成分の動粘度、密度)
本発明にかかる低粘度成分である炭化水素の40℃動粘度は5〜500 mm/s、好ましくは5〜50 mm/s、より好ましくは5〜25 mm/sであり、100℃動粘度は1.1〜50 mm/s、好ましくは1.5〜10 mm/s、より好ましくは1.5〜5 mm/sである。また、本発明にかかる低粘度成分である炭化水素の密度は、好ましくは0.750〜0.950 g/cm、より好ましくは0.750〜0.910 g/cm、さらに好ましくは0.790〜0.850 g/cmである。なお、二種類以上の低粘度成分を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
(B)高粘度成分(酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG)含有化合物
本発明において、前記低粘度成分の炭化水素とともに用いる高粘度成分として、低温では低粘度成分と実質的に混じり合わず、また高温で混じり合う酸素/炭素重率が0.450〜0.580、好ましくは0.450〜0.500、より好ましくは0.450〜0.470であるポリアルキレングリコール(PAG)含有化合物が用いられる。
【0022】
(酸素/炭素重率)
ここで、酸素/炭素重率は、成分中における炭素重量に対する酸素重量の割合を表し、この値は主に化合物の密度および極性などの物性に影響する。例えば、極性については、エーテル基、エステル基、水酸基、カルボキシル基といった官能基の種類にも影響されるが、酸素原子は電気陰性度が高いことから、一般に酸素/炭素重率が大きいほど極性が高くなる傾向にある。密度については、酸素が炭素よりも重いことから、一般に酸素/炭素重率が大きい化合物の方が高密度の傾向にある。酸素/炭素重率の測定は、JPI−5S−65(石油製品−炭素分、水素分および窒素分試験方法)およびJPI−5S−68(石油製品−酸素分試験方法)に従って行うことができる。
【0023】
本発明の潤滑油組成物において用いられる酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG)含有化合物としては、例えば、以下の一般式(1)〜(4)で示されるものが挙げられる。
【化1】
式中、Rはそれぞれ独立してC2〜C10、好ましくはC2〜8、より好ましくはC2〜6の直鎖または分枝鎖炭化水素基を表し、mは2〜500、好ましくは2〜400、より好ましくは2〜300の整数を表す。なお、Rのいずれについても、単独のアルキレンである必要は無く、異なったアルキレンの組み合わせであってもよい。具体例としては、上記の(RO)が二種類のアルキレンオキサイドのブロック共重合体の場合、上記の(RO)は(R1−1O)m−1(R1−2O)m−2とも記載できる。
【0024】
例えば、酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG)含有化合物としては、アルコール類にアルキレンオキサイドを付加重合することで得られたものを挙げることができる。原料のアルキレンオキサイドは、一種類でも二種類以上でもよい。ここで、付加するモノマー成分としては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド又はブチレンオキサイドを単独で、またはこれらの二種以上を組み合わせて用いたもの(例えば、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)を挙げることができる。
【0025】
(高粘度成分の動粘度、密度)
本発明にかかる高粘度成分である酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG)含有化合物は、100℃動粘度が2.5〜100 mm/s、好ましくは2.5〜80 mm/s、より好ましくは2.5〜70 mm/sである。さらに、本発明にかかる前記ポリアルキレングリコール(PAG)含有化合物は、密度が1.000〜1.050 g/cm、好ましくは1.000〜1.020 g/cm、より好ましくは1.000〜1.010 g/cmである。なお、二種類以上の高粘度成分を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
(C)コントロール成分(親水性基として水素結合する官能基を有し、疎水基として炭化水素基を有する両親媒性化合物)
本発明の潤滑油組成物において、コントロール成分として親水性基として水素結合する官能基を有し、疎水基として炭化水素基を有する両親媒性化合物が用いられる。コントロール成分とは、その存在下で、低温では低粘度成分と高粘度成分が実質的に混じり合わないものの、高温では混合して均一となることを促進する成分をいう。なお、二種以上のコントロール成分を組み合わせて用いてもよい。ここで、コントロール成分としては、前記の両親媒性化合物であれば特に限定されないが、例えば、その中でも、極性や粘度などの観点から、親水性基としてカルボニル基、アミン基、スルフィド基、水酸基等の置換基を有する化合物が好適に用いられる。本発明のコントロール成分として使用される両親媒性化合物は、これらの親水性基を1種のみ含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。また、親水性基の個数も特に限定されないが、極性や粘度等を考慮して決めればよい。
【0027】
本発明のコントロール成分として特に好適な化合物のうち、アミン基を有するものとしては、例えば、ジアリールアミンが挙げられる。本発明のコントロール成分に使用可能なジアリールアミンとしては、特に限定されるものではないが、分子中にO原子を含まないものが好適であり、具体的には、例えば、下記一般式(5)で示されるジフェニルアミン、下記一般式(6)で示されるナフチルアミン等が挙げられる。これらの化合物をコントロール成分として用いることにより、分離温度を低粘度成分及び高粘度成分のみの場合よりも大きく低下させることができる。分離温度を低下することで中温領域においても高粘度成分が溶解しているため、適切な油膜厚さを保持して良好な潤滑性を維持することができる。
【0028】
【化2】
【0029】
【化3】
【0030】
ここで、前記のジフェニルアミンやナフチルアミンは、一般に、潤滑油組成物において酸化防止剤として用いられる化合物である。これらの化合物を本発明のコントロール成分として用いる場合、一般式(5)におけるRとしては、置換又は非置換の炭素数2〜20のアルキル基、置換又は非置換の炭素数2〜20のアルケニル基、置換又は非置換の炭素数2〜20のアルキニル基、置換又は非置換の炭素数6〜20のアリール基等が好適であり、非置換の炭素数4〜10のアルキル基が特に好適である。また、一般式(6)におけるRとしては、置換又は非置換の炭素数2〜20のアルキル基、置換又は非置換の炭素数2〜20のアルケニル基、置換又は非置換の炭素数2〜20のアルキニル基、置換又は非置換の炭素数6〜20のアリール基等が好適であり、非置換の炭素数4〜10のアルキル基が特に好適である。
【0031】
なお、一般式(5)の化合物としては、例えば、下記構造式(7)で表されるN−フェニルベンゼンアミンと2,4,4−トリメチルペンテンの反応物があり、この化合物は、チバ・ジャパン社製の商品名「IRGANOX L57」として入手可能である。また、一般式(6)の化合物としては、例えば、下記構造式(8)で表されるN−フェニル−1,1,3,3−テトラメチルブチルナフタレン−1−アミンがあり、チバ・ジャパン製の商品名「IRGANOX L06」として入手可能である。
【0032】
【化4】
【0033】
【化5】
【0034】
また、カルボニル基およびアミン基を有するものとしては、例えば、コハク酸イミドが挙げられる。コハク酸イミドをコントロール成分として用いることにより、分離温度を低粘度成分及び高粘度成分のみの場合よりも高温にすることができる。分離温度が上昇することで低温〜中温領域において高粘度成分が析出、沈殿するため粘度が下がる。その結果撹拌抵抗が減少し、潤滑油の省燃費性を向上させることができる。このような分離温度を上昇させるようなコントロール成分は、これまでに見出されていないものである。
【0035】
なお、コハク酸イミドは、一般に、潤滑油組成物において分散剤として用いられる化合物である。コハク酸イミドとしては、特に限定されるものではないが、具体的には、下記一般式(9)で表される化合物等が挙げられる。このコハク酸イミドを本発明のコントロール成分として用いる場合、一般式(9)におけるx及びyの値は特に限定されないが、例えば、xが40以上400以下であり、yが1以上5以下であることが好適である。
【0036】
【化6】
【0037】
また、スルフィド基を有するものとしては、例えば、一般には金属不活性剤として用いられるチアジアゾール化合物や、極圧剤として用いられる硫化油脂等が挙げられる。本発明のコントロール成分に使用可能なチアジアゾール化合物としては、特に限定されるものではないが、分子中にO原子を含まないものが好適であり、具体的には、例えば、下記構造式(10)で表される2,5−ビス−(tert−ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール等が挙げられる。また、本発明のコントロール成分に使用可能な硫化油脂としては、特に限定されるものではないが、分子中にO原子を含まないものが好適であり、具体的には、例えば、下記構造式(11)で表されるジ−tert−ドデシルトリスルフィドが挙げられる。これらの化合物を用いることにより、分離温度を低粘度成分及び高粘度成分のみの場合よりも低下させることができるが、これらの化合物は、特に、分離温度変化幅を小さめにしたい場合(例えば、低粘度成分及び高粘度成分のみの場合と比較して分離温度の低下幅をあまり大きくしたくない場合)に用いると好適である。
【0038】
【化7】
【0039】
【化8】
【0040】
なお、一般式(10)の化合物は、例えば、DIC社製の商品名「DailubeR300」として入手可能である。また、一般式(11)の化合物は、例えば、SOCIETE社製の商品名「TPS−20」として入手可能である。
【0041】
また、水酸基を有するものとしては、例えば、ポリオールが挙げられる。本発明のコントロール成分に使用可能なポリオールとしては、特に限定されるものではないが、無灰系添加剤として使用可能なものであることが好適であり、具体的には、例えば、下記一般式(12)で表されるポリオール、下記一般式(13)で表されるポリオール等が挙げられる。これらの化合物をコントロール成分として用いることにより、分離温度を低粘度成分及び高粘度成分のみの場合よりも顕著に大きく低下させることができる。分離温度を低下することで低温〜中温領域においても高粘度成分が溶解しているため、非常に厳しい潤滑状況でも適切な油膜厚さを保持して良好な潤滑性を維持することができる。
【0042】
【化9】
【0043】
【化10】
【0044】
ここで、一般式(12)および(13)で表されるポリオールは、一般に、潤滑油組成物において無灰系の摩擦調整剤として用いられる化合物である。これらの化合物を本発明のコントロール成分として用いる場合、一般式(12)におけるRとしては、置換又は非置換の炭素数8〜30のアルキル基、置換又は非置換の炭素数8〜30のアルケニル基、置換又は非置換の炭素数8〜20のアルキニル基、置換又は非置換の炭素数6〜20のアリール基等が好適であり、非置換の炭素数10〜22のアルキル基が特に好適である。また、一般式(13)におけるRとしては、置換又は非置換の炭素数10〜20のアルキル基、置換又は非置換の炭素数10〜22のアルケニル基、置換又は非置換の炭素数10〜20のアルキニル基、置換又は非置換の炭素数6〜20のアリール基等が好適であり、非置換の炭素数15〜20のアルキル基が特に好適である。また、一般式(13)におけるnは1〜5であることが好適である。
【0045】
その他、本発明のコントロール成分としては、親水性基としてカルボニル基、アミン基、スルフィド基、水酸基等の置換基を有する化合物以外のものとして、例えば、スルフォネート、サリシレート、フェネート等の化合物も好適に用いることができる。これらの化合物を用いることにより、分離温度を低粘度成分及び高粘度成分のみの場合よりも低下させることができるが、これらの化合物は、特に、分離温度変化幅を小さめにしたい場合(例えば、低粘度成分及び高粘度成分のみの場合と比較して分離温度の低下幅をあまり大きくしたくない場合)に用いると好適である。
【0046】
なお、スルフォネート、サリシレートおよびフェネートは、一般に、潤滑油組成物において金属清浄剤として用いられる化合物であり、以下のような構造を有している。
【化11】
【0047】
(コントロール成分の動粘度)
本発明にかかるコントロール成分である両親媒性化合物は、100℃での動粘度が2.5〜500 mm/s、好ましくは2.7〜450 mm/s、より好ましくは2.8〜300 mm/sのものが使用される。
【0048】
<任意含有物>
本発明の潤滑油組成物には、摩耗防止剤、防錆剤、金属不活性剤、加水分解防止剤、帯電防止剤、消泡剤、酸化防止剤、分散剤、清浄剤、極圧剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、増粘剤、金属清浄剤、無灰分散剤、腐食防止剤など必要に応じて任意の一種以上の添加物が使用可能である。例えば、性能向上として用いられる「添加剤パッケージ」(例えば、ATF添加剤パッケージなどの各種パッケージ)を用いることができる。
【0049】
(全体の組成)
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油組成物の全重量(100重量%)に対し、
(A)低粘度成分である炭化水素を、好ましくは30〜80重量%、より好ましくは40〜80重量%、さらに好ましくは50〜80重量%含有し、
(B)高粘度成分である酸素/炭素重率が0.450〜0.580であるポリアルキレングリコール(PAG)含有化合物を、好ましくは3〜35重量%、より好ましくは7.5〜30重量%、さらに好ましくは10〜25重量%含有し、
(C)コントロール成分である前記の両親媒性化合物を、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは2〜25重量%、さらに好ましくは3〜20重量%含有する。さらに任意含有物を、潤滑油組成物の全重量に対し、例えば、1〜25重量%含有する。
【0050】
(粘度)
本発明の潤滑油組成物は、前記の両親媒性化合物をコントロール成分として加えることにより、低温では低粘度成分と高粘度成分が二相に分離しているが、温度上昇に伴って低粘度成分と高粘度成分が混和して、分離温度以上では両者が一相となる。通例、潤滑油の液面近くに潤滑の対象となる機械が接触することから、低温では、好ましくは通常上相側にある低粘度成分の粘度が寄与し、40℃における動粘度は好ましくは5〜500 mm/s、より好ましくは8〜400 mm/s、さらに好ましくは10〜300 mm/sである。ここで、40℃動粘度は二相である潤滑油組成物の上相を測定対象とするが、一度加熱して均一になった潤滑油組成物を冷却して二相に分離したものが用いられる。従って、加熱と冷却を経た結果、低粘度成分の相にコントロール成分の一部が混和することがある。一方、高温では、低粘度成分と高粘度成分が均一になった混合物の粘度が寄与し、100℃における動粘度は好ましくは1.5〜100 mm/s、より好ましくは2.0〜20 mm/s、さらに好ましくは2.5〜15 mm/sである。
【0051】
本発明の潤滑油組成物のみかけ粘度指数(Viscosity Index;VI)は、好ましくは50〜1000であり、より好ましくは100〜800であり、さらに好ましくは150〜800である。粘度指数とは、温度変化により起こる潤滑油の粘度変化の程度を示す便宜的な指数である。本発明における粘度指数は、試料油(二相に分離した上相)の40℃における粘度と試料油(一相となった潤滑油組成物)100℃における粘度をもとにJISL2283に規定される粘度指数算出方法にもとづいて算出することができる。粘度指数が高いことは、温度変化に対する粘度の変化が小さいことを意味する。
【0052】
本発明において、通常は潤滑油組成物において各種添加剤(例えば、酸化防止剤、金属清浄剤、分散剤、金属不活性剤、極圧剤、摩擦調整剤等)として用いられるような前記の両親媒性化合物をコントロール成分として加えることによって、任意温度に分離温度を調整することが可能である。従って、本発明は、潤滑油組成物の分離温度をコントロールする方法をも提供する。
【0053】
(分離温度)
前述の通り、本発明の潤滑油組成物は、一相状態から二相状態へと遷移する分離温度がある。ここで、分離温度とは、二相状態にある潤滑油組成物を加熱して一相状態にした後、冷却した際に曇り(析出物)が見られる温度をいう。本発明の潤滑油組成物は、高温領域において高粘度成分が低粘度成分の粘度を高めるよう混和されていることが好ましい(より好ましくは低粘度成分と高粘度成分が均一になっている)。本発明の好適な潤滑油組成物は、40℃では二相に分離し、100℃では一相(均一)になっており、所望の分離温度に任意に制御することができる。
【0054】
(コントロール成分の寄与)
コントロール成分は、好適には、40℃では二相に分離しており100℃では一相(均一)になっている潤滑油において、一相から二相へと遷移する分離温度を40〜100℃の範囲内の所望値に制御する機能を有する。また、低温時、コントロール成分は、その一部または全部が上相および/または下相に混じっていても、あるいは別の相として存在していてもよい。このことから、低温時にコントロール成分が上相および/または下相に混じっている場合には、コントロール成分は、上相の主成分である低粘度成分および/または下相の主成分である高粘度成分の、もともとの粘度を変え得る成分としても機能する。例えば、低温時にコントロール成分が上相および下相に混じる状況下、粘度が低粘度成分<コントロール成分<高粘度成分である場合、上相の主成分である低粘度成分の粘度<上相の粘度、下相の粘度<下相の主成分である高粘度成分の粘度、となる。
【0055】
<実際の潤滑油の使用態様例>
まず、機械使用開始時の態様例について図1を参照して説明する。図1(上図)は、本発明の潤滑油組成物の一態様であり、低温状態である二相状態10を表す。低粘度成分20が低密度の潤滑油であることから上相に位置し、高粘度成分22が高密度の潤滑油であることから下相に位置する。図1(下図左)は、被潤滑物である機械1を用いる態様であり、機械が潤滑油組成物の上相に浸漬している。始動時(低温)では低粘度の上相20が潤滑に主に寄与し、高粘度の下相22は潤滑にはほとんど寄与しない。低温では低粘度の潤滑油は潤滑に十分な性能(粘度)を有するので、低粘度成分のみでも潤滑性能に支障をきたさない。図1(下図右)は、使用を持続した結果高温になった一相状態12を表す。ここでは、温度上昇によって、低粘度成分20と、高粘度成分22が混和し、均一な潤滑油組成物24となっている。低粘度成分20のみの時よりも、高粘度成分22が混じり合うことで低粘度成分20の温度上昇に伴う粘度低下を高粘度成分22が補うことで、高温になっても油膜切れなどの支障をきたさない。分離温度以上の温度で均一な一相系となることで、低粘度成分の粘度低下を高粘度成分が補うこととなる。
【0056】
本発明の特徴の一つは、低粘度成分と高粘度成分を混合した潤滑油組成物の挙動である。具体的には、低温では通常上相にある、炭化水素のような低粘度の潤滑油が機械の潤滑に寄与し、高温では高粘度の潤滑油と低粘度の潤滑油との混合物が寄与する。その場合において、本発明ではコントロール成分を用いることによって、分離温度を任意温度に制御させながらも高温での動粘度をほぼ近接したレベルに維持しうる。一方、特許文献1のように、単純に低粘度成分と高粘度成分の割合を変える手法だと、その動粘度と分離温度には必ずしも関連性が見られず、そのため使用目的や使用環境に応じた動粘度や分離温度の設計が極めて困難である。
【0057】
<用途>
特に限定されないが、本発明の潤滑油組成物は、各種機械の潤滑油として用いることができる。例えば、各種車両や産業機械の回転部材や摺動部材の潤滑に適用される。特に、低温(例えば、−40℃)から高温(例えば、120℃)の領域において用いられる、自動車用エンジン(ディーゼルエンジン、ガソリンエンジンなど)、変速機(歯車装置、CVT、AT、MT、DCT、Diffなど)、工業用(建設機械、農耕機、工業機械、歯車装置など)、軸受(タービン、スピンドル、工作機械など)、油圧装置(油圧シリンダー、ドアチェックなど)、圧縮機(コンプレッサー、ポンプなど)などの潤滑油として用いることができる。
【0058】
本発明の潤滑油組成物は用途により求められる粘度が異なり、例えば、エンジン油では100℃動粘度が5〜14 mm/s、好ましくは5〜12 mm/s、より好ましくは5.5〜11 mm/s、手動変速機では100℃動粘度が6〜15 mm/s、好ましくは6〜13 mm/s、より好ましくは6〜11 mm/s、自動変速機では100℃動粘度が4〜8.5 mm/s、好ましくは4〜7.5 mm/s、より好ましくは4〜6.5 mm/sである。
【実施例】
【0059】
以下、実施例によって本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限られない。
<試験方法>
分離温度測定
以下の方法に従って、本発明の潤滑油組成物および比較例の潤滑油組成物の分離温度を測定した。
分離温度は、ヒーターとしてCORNING PC−420Dを用いて測定を行った。
(1)300 mlビーカーに試料250 gを採取し、撹拌子100を入れた。
(2)図2のように実験器具を組み、温度計101を接続した油温計測用に熱電対102を油中に差し込んだ。
(3)ホットスターラー103の撹拌速度を300rpmに設定した。
(4)プレート温度を200℃に設定し、油温が110℃になるまで加熱した。
(5)油温が110℃に達したら加熱をやめ、試料を室温付近まで冷却した。
(6)操作(4)と同様に油温を110℃に加熱した。
(7)油温が110℃に達したら加熱をやめ、ビーカー内のサンプルの状況を観察した。
(8)ビーカー内のサンプルが曇りを生じたら(析出物が見えたら)油温を記録し、分離温度とした。測定方法は目視だが、アニリン点の測定(JIS K 2256)を参考にした。
【0060】
実施例および比較例
以下の実施例および比較例において、下記の成分を用いて潤滑剤組成物を製造した。量は特に記載のない場合、重量部で表す。実施例及び比較例に用いられた成分は、以下の通りである。
【0061】
[1] 低粘度成分
低粘度成分としては、以下の基油1を用いた。
「基油1」:15℃での密度0.8626 g/cm、40℃で25.08 mm/s、100℃で4.72 mm/sの動粘度を有しているGr−I鉱油(Shell:HVI60として市販)であった。
【0062】
[2] コントロール成分
コントロール成分としては、以下の化合物を用いた。
(1)「ジアリールアミン1」:N−フェニルベンゼンアミンと2,4,4−トリメチルペンテンの反応物(チバ・ジャパン:IRGANOX L57として市販)
(2)「ジアリールアミン2」:N−フェニル−1,1,3,3−テトラメチルブチルナフタレン−1−アミン(チバ・ジャパン:IRGANOX L06として市販)
(3)「コハク酸イミド1」:窒素分を1.2重量%含み、ホウ素を含有するコハク酸イミド
(4)「コハク酸イミド2」:窒素分を1.23%含むコハク酸イミド
(5)「チアジアゾール化合物」:2,5−ビス−(tert−ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール(DIC:DailubeR300として市販)
(6)「硫化油脂」:ジ−tert−ドデシルトリスルフィド(SOCIETE:TPS−20として市販)
(7)「ジエステル」:アジピン酸ジイソノニル(田岡:DINAとして市販)
(8)「ポリオール1」:前記一般式(12)で表されるジオール
(9)「ポリオール2」:前記一般式(13)で表されるポリオール
【0063】
[3] 高粘度成分
高粘度成分としては、以下のポリアルキレングリコール(PAG)含有化合物(PAG1)を用いた。
「PAG1」:20℃での密度1.003 g/cm、酸素/炭素重率0.451、40℃で616 mm/s、100℃で92.73 mm/sの動粘度を有しているアルキレングリコールロピレンオキサイド(日油:MB−700として市販)であった。
【0064】
実験例1
下記に示すように高粘度成分、コントロール成分、低粘度成分の投入順でビーカーに秤取り、混合を行って、各試料の潤滑油組成物を調製した。表1は、低粘度成分として基油1、高粘度成分としてPAG1、コントロール成分として、ジアリールアミン、コハク酸イミド、チアジアゾール化合物および硫化油脂を用いた組み合わせの組成および分離温度を示す。なお、本実験例1で使用しているコントロール成分はいずれも、前述した特許文献2のコントロール成分の定義(すなわち、所定の酸素/炭素重率を有する化合物)からは外れる化合物である。
【0065】
【表1】
【0066】
実験例2
実験例1と同様に、下記に示すように高粘度成分、コントロール成分、低粘度成分の投入順でビーカーに秤取り、混合を行って、各試料の潤滑油組成物を調製した。表2は、低粘度成分として基油1、高粘度成分としてPAG1、コントロール成分として、ジエステルおよびポリオールを用いた組み合わせの組成および分離温度を示す。なお、本実験例2で使用しているコントロール成分はいずれも、前述した特許文献2のコントロール成分の定義(すなわち、所定の酸素/炭素重率を有する化合物)に含まれる化合物である。
【0067】
【表2】
【0068】
実験例3
実験例1と同様に、下記に示すように高粘度成分、コントロール成分、低粘度成分の投入順でビーカーに秤取り、混合を行って、各試料の潤滑油組成物を調製した。表3は、実験例1で使用したコントロール成分のうちジアリールアミン1およびコハク酸イミド2を用いて、コントール成分の添加量を変化させたときの分離温度を示す。
【0069】
【表3】
【0070】
考察
(1)コントロール成分の有無(実施例1〜8と比較例1)
実験例1および実験例2の結果より、本発明にかかる二相潤滑油組成物は、低粘度成分と高粘度成分にコントロール成分である両親媒性化合物を加えることで、分離温度を任意の温度に変化させることが可能であることがわかる。例えば、比較例1は、低粘度成分(基油)と高粘度成分(PAG)のみを含む例であるが、実施例1〜8はいずれも、比較例1の分離温度とは異なる温度となっている。実施例1〜8における分離温度の変化幅(低粘度成分と高粘度成分のみの場合(比較例1)との分離温度の差)や、変化の方向(低粘度成分と高粘度成分のみの場合(比較例1)との分離温度より高いか低いか)は、様々であり、添加するコントロール成分を適宜選択することで、潤滑油組成物の用途に応じて、適切な分離温度に制御することが可能であることがわかる。また、実施例1〜8のコントロール成分のいずれを用いた場合でも、分離温度が40℃〜100℃の範囲にあることから、自動車や工業機械などの使用温度域を考慮すると、本発明の潤滑油組成物は、自動車や工業機械等の潤滑剤として用いるのに適しているといえる。
【0071】
また、実験例1の結果から、特許文献2のコントロール成分の定義から外れる化合物をコントロール成分として使用しても、分離温度を変化させる効果があることがわかる。また、その温度の変化幅や変化の方向は、コントロール成分として使用する化合物の種類によって異なる。例えば、コントロール成分としてジアリールアミンを使用した場合(実施例1、2)には、分離温度を低粘度成分および高粘度成分のみの場合よりも大きく低下させる効果があることがわかる。また、コントロール成分としてチアジアゾール化合物や硫化油脂を使用した場合(実施例5、6)には、分離温度を低粘度成分および高粘度成分のみの場合よりもわずかに低下させる効果があることがわかる。一方、コントロール成分としてコハク酸イミドを使用した場合(実施例3、4)には、分離温度を低粘度成分および高粘度成分のみの場合よりも上昇させる効果があることがわかる。このように、本発明の潤滑油組成物によれば、例えば、低粘度成分および高粘度成分の場合と比較して、分離温度を大きく低下させたい場合、わずかに低下させたい場合、逆に上昇させたい場合と、潤滑油組成物の用途に応じて、コントロール成分の種類を変更するだけで自由に分離温度を制御することができる。
【0072】
さらに、実験例2の結果から、本発明において新たにコントロール成分として有効であることが知見されたジオールは、特許文献2のコントロール成分の定義に含まれるものの、特許文献2に開示されたコントロール成分よりも、さらに顕著に分離温度を低下させることができることがわかる。より詳細に説明すると、参考例1は、特許文献2のコントロール成分の定義に含まれるジエステルをコントロール成分として使用した例であるが、実施例7、8に示すように、コントロール成分としてジオールを使用した場合には、ジエステルを使用した場合と比較しても顕著に分離温度を低下させる効果があることがわかる。従って、潤滑油組成物を分離温度が55℃程度の低い温度とすることが好適な用途で用いる場合、特許文献2で開示されているコントロール成分によっては前記低い分離温度を実現することができなかったのに対し、本発明におけるジオールをコントロール成分として用いることで、前記低い分離温度をも実現可能となる。
【0073】
(2)コントロール成分の添加量が分離温度に及ぼす影響(実施例1,5,9〜12と比較例1)
実験例3の結果より、コントロール成分の添加量によって分離温度が変化することがわかる。実施例1,4,9〜12を見ると、コントロール成分を増量(ジアリールアミン1については、実施例9、10、1で、0.5重量%、1重量%、5重量%と増量、コハク酸イミド2については、実施例11、12、4で、0.5重量%、1重量%、5重量%と増量)すると、コントロール成分の量が多いほど分離温度の変化幅(コントロール成分無添加の場合(比較例1)の分離温度との差)が大きくなることがわかった。また、実施例1,4,9〜12を見ると、コントロール成分の添加量が1重量%以上の場合に、分離温度に及ぼす影響が顕著に表れる、すなわち、コントロール成分無添加の場合(比較例1)の分離温度との差が大きくなることがわかった。従って、コントロール成分の添加量は、1重量%以上であることが好適であるといえる。
【0074】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上述した形態に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で当業者が想到し得る他の形態または各種の変更例についても本発明の技術的範囲に属するものと理解される。
図1
図2