【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第30条第2項適用、平成25年2月27日発行の2013年度 精密工学会春季大会 学術講演会 講演論文集CD−ROM、第59−60ページで発表、及び、平成25年6月10日、Proceedings of the North American Manufacturing Research Institution of the Society of Manufacturing Engineers, Volume 41, 2013(the final papers of the 41st North American Manufacturing Research Conference)CD−ROM、 Society of Manufacturing Engineers で発表。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、同様の構成要素については適宜に説明を省略する。
【0017】
[2軸切削加工機の例]
まず、本実施形態におけるシミュレーション装置及びシミュレーション方法のシミュレーション対象となる2軸切削加工機の例を
図1、
図2、
図3及び
図4を用いて説明する。但し、本実施形態の模擬対象は、上述した構成を有する2軸切削加工機であればよく、ここで説明される2軸切削加工機に制限されない。以降、2軸切削加工機は単に切削加工機と略称される。
【0018】
図1は切削加工機100の斜視図である。
図2は切削加工機100の正面図である。
図2は
図1の矢印A方向に切削加工機100を見た図である。
図3は切削加工機の平面図である。
図3は
図1の矢印B方向に切削加工機100を見た図である。
図4は切削加工機100の機能ブロック図である。
【0019】
加工対象物としての被削材1としては、例えば、棒状の部材が好適に用いられる。ただし、被削材1の形状は、その他の任意の形状であっても良い。なお、以下では、説明を簡単にするため、被削材1は断面円形の棒状の部材であるものとする。
【0020】
図1乃至
図4に示すように、切削加工機100は、被削材1を保持する被削材保持部3(
図3)と、切削刃2を保持する切削刃保持部4と、第1回転機構10と、第2回転機構20と、送り機構30と、を備えている。
【0021】
図3に示すように、被削材保持部3は、被削材1の一端部1aを保持する。被削材保持部3は、第1回転機構10によって、回転可能に保持されている。被削材保持部3および被削材1の回転軸(第1回転軸11)は、被削材1の中心軸と一致している。
【0022】
第1回転機構10は、第1回転モータ15を備えている。第1回転モータ15が駆動することにより、第1回転機構10は被削材保持部3を第1回転軸11周りに回転させる。被削材保持部3が第1回転軸11周りに回転するのに伴い、被削材保持部3により保持された被削材1も第1回転軸11周りに回転する。
【0023】
本実施形態の場合、切削刃保持部4は、例えば、正面視において円環状に形成された、平坦な板状のものである。切削刃2は、例えば、切削刃保持部4の前面又は背面に固定されている。
図1乃至
図3の例では、切削刃保持部4の前面に切削刃2が固定されている。切削刃2は、切削刃保持部4の内周4aより内向きに突出している。なお、以下では、
図1乃至3に示すように、切削刃2が1個であるものとして説明する。
【0024】
被削材1は切削刃保持部4の開口を通過するように配置される。被削材1は、正面視において、内周4aの内側に配置される。したがって、第1回転軸11は、切削刃2の回転運動の経路(軌跡23)の内側に配置されることになる。
【0025】
切削刃保持部4は、第2回転機構20によって、回転可能に保持されている。切削刃保持部4および切削刃2の回転軸(第2回転軸21)は、第1回転軸11に対して偏心量ε(
図2)だけ偏心している(オフセットされている)。なお、第1回転軸11と第2回転軸21とは、互いに平行である。
【0026】
第2回転機構20は、第2回転モータ25を備えている。第2回転モータ25が駆動することにより、第2回転機構20は切削刃保持部4を第2回転軸21周りに回転させる。切削刃保持部4が第2回転軸21周りに回転するのに伴い、切削刃保持部4により保持された切削刃2も第2回転軸21周りに回転する。なお、切削刃2は、第2回転軸21に対して直交する面内において回転する。
【0027】
送り機構30は、切削刃2に対して相対的に、被削材1を該被削材1の軸方向(Z軸方向)に送り動作する。例えば、送り機構30は、被削材保持部3をZ軸方向に移動させる。送り機構30は、アクチュエータとして、例えば、送りモータ35を備えている。送りモータ35が回転することにより、送り機構30は、この送りモータ35の回転運動を直進運動に変換して被削材保持部3に伝達し、被削材保持部3をZ軸方向に移動させる。なお、送り機構30は、モータ以外のアクチュエータ(シリンダ等)によって、被削材1の送り動作を行うものであっても良い。また、送り機構30は、被削材保持部3をZ軸方向に移動させるのではなく、切削刃保持部4をZ軸方向に移動させるようにしてもよい。被削材1と切削刃2とが被削材1の軸方向(Z軸方向)に相対的に移動すればよい。以降、被削材1が第1回転軸11周りに1回転する間に被削材1が切削刃2に対して相対的にZ軸方向に移動する距離を送り速度fと表記する。即ち、送り速度fは、Z軸方向における、被削材1の切削刃2に対する相対速度、又は、切削刃2の被削材1に対する相対速度である。よって、送り速度fは、切削刃2の送り速度f又は被削材1の送り速度fと表記することができる。
【0028】
切削加工機100は、図示されてはいないが、第1回転モータ15、第2回転モータ25および送りモータ35の動作制御を行う制御部を更に有していてもよい。
【0029】
切削加工機100では、次のように、被削材1の切削加工が行われる。
先ず、被削材保持部3によって被削材1の一端部1aが保持される。第1回転機構10によって被削材1が第1回転軸11周りに回転させられ、第2回転機構20によって切削刃2が第2回転軸21周りに回転させられる。更に、送り機構30によって被削材1がその軸方向に送られる。被削材1の回転方向と切削刃2の回転方向とは少なくとも一方が変更可能である。
【0030】
上記のように、第2回転軸21が第1回転軸11に対して偏心しているため、切削刃2は、第1回転軸11に対して近づいては遠ざかる動作を1回転毎に繰り返す。
図2に示す軌跡23は、切削刃2の刃先2aの軌跡である。切削刃2の刃先2aが、切削前の被削材1の周面よりも第1回転軸11に近い位置を通過する際に、切削刃2が被削材1を切削する。
【0031】
図5乃至
図7は、上述の切削加工機100の動作の一例を示す図である。これらの図では、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比を2対1に設定した場合の動作が示されている。ここで、回転数(N
T)と回転数(N
W)との比は、切削刃2の回転角速度ω
Tと被削材1の回転角速度ω
Wとの比と等しい。
【0032】
切削刃2の送り速度fは、Z軸方向における切削刃2の寸法(以下、切削刃の厚み2b(
図3)と称する)よりも小さいものとする。切削刃2は、例えば、一定の送り速度fでZ軸方向に送られる。
【0033】
切削前の段階では、被削材1の断面形状は円形である。
図5(a)の段階から
図7の段階までの間に、切削刃2は第2回転軸21周りに2回転する。その間に、切削刃2は、被削材1を2度切削する。1度目の切削動作は、
図5(c)のタイミングで開始され、
図5(e)のタイミングで終了する。2度目の切削動作は、
図6(c)のタイミングで開始され、
図6(e)のタイミングで終了する。
【0034】
このように被削材1を2度切削することにより、被削材1において切削された部位の断面形状は、
図7に示すような形状となる。
【0035】
図5乃至
図7と同様の切削を被削材1の軸方向において連続的に繰り返し行うことにより、被削材1における切削加工後の部位は、
図1に示すような板状の形状となる。以下、被削材1において板状の形状に切削加工された部位をブレード形状部1bと称する。
【0036】
以下、
図5乃至
図7に示される動作を詳細に説明する。被削材1および切削刃2は、それぞれ反時計回りに回転するものとする。
【0037】
図5(a)に示すように切削刃2が被削材1から最も遠い位置にあるタイミングを始点と考える。このときの切削刃2の回転角度を0°とする。このとき、被削材1の回転角度も0°である。
【0038】
図5(b)は切削刃2の回転角度が90°となった状態を示す。このとき、被削材1の回転角度は45°である。この例では、切削刃2がまだ被削材1に接触していない。
【0039】
その後、
図5(c)に示すように、切削刃2の回転角度がα°となったタイミングで、切削刃2の刃先2aが被削材1の周面に到達し、切削刃2による1度目の切削動作が開始される。この例では、90<α<180である。このとき、被削材1の回転角度は(α/2)°である。
【0040】
図5(d)は切削刃2の回転角度が180°となった状態を示す。このとき、被削材1の回転角度は90°である。このとき、切削刃2による1度目の切削動作が途中まで進行している。
【0041】
その後、
図5(e)に示すように、切削刃2の回転角度がβ°となったタイミングで、切削刃2による1度目の切削動作が完了する。この例では、180<β<270である。このとき、被削材1の回転角度は(β/2)°である。
【0042】
図5(f)は切削刃2の回転角度が270°となった状態を示す。このとき、被削材1の回転角度は135°である。
【0043】
図6(a)は切削刃2の回転角度が360°となった状態を示す。このとき、被削材1の回転角度は180°である。
【0044】
図6(b)は切削刃2の回転角度が450°となった状態を示す。このとき、被削材1の回転角度は225°である。
【0045】
図6(c)に示すように、切削刃2の回転角度が(α+360)°となったタイミングで、再び切削刃2の刃先2aが被削材1の周面に到達し、切削刃2による2度目の切削動作が開始される。このとき、被削材1の回転角度は{(α/2)+180}°である。
【0046】
図6(d)は切削刃2の回転角度が540°となった状態を示す。このとき、被削材1の回転角度は270°である。このとき、切削刃2による2度目の切削動作が途中まで進行している。
【0047】
その後、
図6(e)に示すように、切削刃2の回転角度が(β+360)°となったタイミングで、切削刃2による2度目の切削動作が完了する。このとき、被削材1の回転角度は{(β/2)+180}°である。
【0048】
図6(f)は切削刃2の回転角度が630°となった状態を示す。このとき、被削材1の回転角度は315°である。
【0049】
図7は切削刃2の回転角度が720°となった状態を示す。このとき、被削材1の回転角度は360°である。
【0050】
ここで、切削刃2による1度目の切削動作によって被削材1に形成される加工面1cは、厳密には平坦面ではなく、ある程度の曲率の曲面である。この曲面は、被削材1の外方に向けて僅かに膨らんだ形状である。ただし、
図5(c)から
図5(e)に示すように、切削刃2により加工面1cを形成する際に、切削刃2の回転方向と同方向に被削材1も回転する。具体的には、被削材1は切削刃2の半分の回転角速度で回転する。このため、被削材1が回転しない場合と比べて、加工面1cの曲率が小さくなる(加工面1cの曲率半径が大きくなる)。換言すれば、被削材1が回転しない場合と比べて、被削材1に対する相対的な刃先2aの軌跡が、直線に近くなる。つまり、加工面1cの曲率は軌跡23の曲率よりも小さい(加工面1cの曲率半径は軌跡23の曲率半径よりも大きい)。切削刃2の回転半径R
Tと被削材1の回転半径R
Wとの比(R
T/R
W)が大きいほど、加工面1cの曲率が小さくなり、加工面1cが平坦面に近づく。
【0051】
同様に、切削刃2による2度目の切削動作によって被削材1に形成される加工面1dも、厳密には平坦面ではなく、ある程度の曲率の曲面である。この曲面は、被削材1の外方に向けて僅かに膨らんだ形状である。ただし、
図6(c)から
図6(e)に示すように、切削刃2により加工面1dを形成する際に、切削刃2の回転方向と同方向に被削材1も回転する。具体的には、被削材1は、切削刃2の半分の回転角速度で回転する。このため、被削材1が回転しない場合と比べて、加工面1dが平坦面に近い形状となる。つまり、加工面1dの曲率は軌跡23の曲率よりも小さい(加工面1dの曲率半径は軌跡23の曲率半径よりも大きい)。切削刃2の回転半径R
Tと被削材1の回転半径R
Wとの比(R
T/R
W)が大きいほど、加工面1dの曲率が小さくなり、加工面1dが平坦面に近づく。
【0052】
また、加工面1cは、被削材1の回転角度が(α/2)°で切削刃2の回転角度がα°のときから、被削材1の回転角度が(β/2)°で切削刃2の回転角度がβ°のときまでの間に形成される。一方、加工面1dは、被削材1の回転角度が{(α/2)+180}°で切削刃2の回転角度が(α+360)°のときから、被削材1の回転角度が{(β/2)+180}°で切削刃2の回転角度が(β+360)°のときまでの間に形成される。したがって、被削材1をその軸方向に見たとき、加工面1cと加工面1dとは、第1回転軸11を基準として互いに対称な位置にある。つまり、加工面1cと加工面1dとをそれぞれ平坦面とみなすなら、加工面1cと加工面1dとは、互いに平行である。よって、
図5乃至
図7に示すような切削動作を被削材1の軸方向において連続的に行うことにより、被削材1にブレード形状部1bを形成することができる(
図1参照)。
【0053】
次に、被削材1の回転方向と切削刃2の回転方向とが逆の場合の切削加工機100の動作を説明する。
図8乃至
図10は、被削材1の回転方向と切削刃2の回転方向とが逆の場合の切削加工機100の動作の一例を示す図である。これらの図では、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比が2対1に設定され、切削刃2は反時計回りに回転し、被削材1は時計回りに回転する場合の動作が示される。
【0054】
図8(a)の段階から
図10の段階までの間に、切削刃2は第2回転軸21周りに2回転する。その間に、切削刃2は、被削材1を2度切削する。1度目の切削動作は、
図8(c)のタイミングで開始され、
図8(e)のタイミングで終了する。2度目の切削動作は、
図9(c)のタイミングで開始され、
図9(e)のタイミングで終了する。
【0055】
このように被削材1を2度切削することにより、被削材1において切削された部位の断面形状は、
図10に示すように、互いに同一形状の2つの弧により囲まれた紡錘形(ラグビーボールのような形)となる。
図8乃至
図10と同様の切削を被削材1の軸方向において連続的に繰り返し行うことにより、被削材1における切削加工後の部位は、
図10に示すような形状となる。
【0056】
図8(a)に示すように切削刃2が被削材1から最も遠い位置にあるタイミングを始点と考える。このときの切削刃2の回転角度を0°とする。このとき、被削材1の回転角度も0°である。
【0057】
図8(b)は切削刃2の回転角度が90°となった状態を示す。このとき、被削材1の回転角度は−45°である。この例では、切削刃2がまだ被削材1に接触していない。
【0058】
その後、
図8(c)に示すように、切削刃2の回転角度がα°となったタイミングで、切削刃2の刃先2aが被削材1の周面に到達し、切削刃2による1度目の切削動作が開始される。この例では、90<α<180である。このとき、被削材1の回転角度は−(α/2)°である。
【0059】
図8(d)は切削刃2の回転角度が180°となった状態を示す。このとき、被削材1の回転角度は−90°である。このとき、切削刃2による1度目の切削動作が途中まで進行している。
【0060】
その後、
図8(e)に示すように、切削刃2の回転角度がβ°となったタイミングで、切削刃2による1度目の切削動作が完了する。この例では、180<β<270である。このとき、被削材1の回転角度は−(β/2)°である。
【0061】
図8(f)は切削刃2の回転角度が270°となった状態を示す。このとき、被削材1の回転角度は−135°である。
【0062】
図9(a)は切削刃2の回転角度が360°となった状態を示す。このとき、被削材1の回転角度は−180°である。
【0063】
図9(b)は切削刃2の回転角度が450°となった状態を示す。このとき、被削材1の回転角度は−225°である。
【0064】
図9(c)に示すように、切削刃2の回転角度が(α+360)°となったタイミングで、再び切削刃2の刃先2aが被削材1の周面に到達し、切削刃2による2度目の切削動作が開始される。このとき、被削材1の回転角度は−{(α/2)+180}°である。
【0065】
図9(d)は切削刃2の回転角度が540°となった状態を示す。このとき、被削材1の回転角度は−270°である。このとき、切削刃2による2度目の切削動作が途中まで進行している。
【0066】
その後、
図9(e)に示すように、切削刃2の回転角度が(β+360)°となったタイミングで、切削刃2による2度目の切削動作が完了する。このとき、被削材1の回転角度は−{(β/2)+180}°である。
【0067】
図9(f)は切削刃2の回転角度が630°となった状態を示す。このとき、被削材1の回転角度は−315°である。
【0068】
図10は切削刃2の回転角度が720°となった状態を示す。このとき、被削材1の回転角度は−360°である。
【0069】
ここで、
図8(c)から
図8(e)に示すように、切削刃2による1度目の切削動作によって加工面1cを形成する際に、切削刃2の回転方向とは逆方向に被削材1が回転する。具体的には、被削材1は切削刃2の半分の回転角速度で逆方向に回転する。このため、被削材1が回転しない場合と比べて、加工面1cの曲率が大きくなる(加工面1cの曲率半径が小さくなる)。つまり、加工面1cの曲率は軌跡23の曲率よりも大きい(加工面1cの曲率半径は軌跡23の曲率半径よりも小さい)。切削刃2の回転半径R
Tと被削材1の回転半径R
Wとの比(R
T/R
W)が小さいほど、加工面1cの曲率が大きくなる。
【0070】
同様に、切削刃2による2度目の切削動作によって加工面1dを形成する際にも、切削刃2の回転方向とは逆方向に被削材1が回転する。具体的には、被削材1は切削刃2の半分の回転角速度で逆方向に回転する。このため、被削材1が回転しない場合と比べて、加工面1dの曲率が大きくなる(加工面1dの曲率半径が小さくなる)。つまり、加工面1dの曲率は軌跡23の曲率よりも大きい(加工面1dの曲率半径は軌跡23の曲率半径よりも小さい)。切削刃2の回転半径R
Tと被削材1の回転半径R
Wとの比(R
T/R
W)が小さいほど、加工面1dの曲率が大きくなる。
【0071】
また、加工面1cは、被削材1の回転角度が−(α/2)°で切削刃2の回転角度がα°のときから、被削材1の回転角度が−(β/2)°で切削刃2の回転角度がβ°のときまでの間に形成される。一方、加工面1dは、被削材1の回転角度が−{(α/2)+180}°で切削刃2の回転角度が(α+360)°のときから、被削材1の回転角度が−{(β/2)+180}°で切削刃2の回転角度が(β+360)°のときまでの間に形成される。したがって、被削材1をその軸方向に見たとき、加工面1cと加工面1dとは、第1回転軸11を基準として互いに対称な位置にある。
【0072】
図11(a)は、他の例における切削加工機200の正面図であり、
図11(b)は、切削加工機200により加工された被削材1の形状の例を示す断面図である。
【0073】
上記例では、第1回転軸11が切削刃2の回転運動の経路の内側に配置されていたが、切削加工機200では、
図11(a)に示されるように、第1回転軸11が切削刃2の回転運動の経路の外側(つまり軌跡23の外側)に配置される場合もある。この場合、
図11(b)に示されるように、被削材1の断面形状は、被削材1の内向きに弧状に抉れた形状となる。
【0074】
図11(a)に示すように、切削刃保持部4の形状はリング状である必要は無い。切削刃2は、切削刃保持部4より外向きに突出するように、切削刃保持部4に固定されている。切削刃2は、例えば、切削刃保持部4の前面又は背面に固定されている。
【0075】
図11(b)には、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)を4に設定した場合の、加工後の被削材1の断面形状を示す。この場合、
図11(b)に示すように、被削材1の内向きに抉れた4つの弧状の加工面1fが、被削材1の中心軸周りに90°間隔で形成される。
【0076】
このように、第1回転軸11を切削刃2の回転運動の経路(軌跡23)の外側に配置することによって、被削材1は、被削材1の内向きに弧状に抉れた断面形状に加工される。
【0077】
[解析モデル]
本発明者は、上述のような切削加工機100及び200の切削動作のモデル化の必要性に着眼し、当該切削加工機の切削動作をコンピュータ上で模擬するために、次のような解析モデルを導出した。そして、本発明者は、以下の解析モデルをコンピュータ上に実現することにより、切削加工機で切削加工される被削材の加工形状をシミュレートすることができることを新たに見出した。
【0078】
切削加工機100は、
図2に示すように、被削材1を第1回転軸11周り(回転中心C
W周り)に回転角速度ω
Wで反時計回りに回転させるとともに、切削刃2を第2回転軸21周り(回転中心C
T周り)に回転半径R
T及び回転角速度ω
Tで反時計回りに回転させる。回転中心C
Wと回転中心C
Tとの距離、すなわち第1回転軸11と第2回転軸21との偏心量はεである。
【0079】
ここで、切削刃2の実際の回転中心C
Tを原点とする切削刃2の座標系X' −Y'−Z'を考える。この座標系X' −Y'−Z'では、切削刃2の刃先2aの座標(x'、y'、z')は、時間tに対して、次式(1)で与えられる。
【0080】
【数3】
上記式(1)において、遅れ角φは、切削刃2が複数個存在する場合において、基準とする切削刃2に対する他の切削刃2の遅れ角である。
図2に示すように切削刃2が反時計回りに回転する場合、回転角速度ω
Tは正の値であり、切削刃2が時計回りに回転する場合には、回転角速度ω
Tは負の値となる。
【0081】
一方、被削材1が回転せず、かつ、原点が被削材1の中心(回転中心C
W)となる全体座標系X−Y−Zを考える。全体座標系X−Y−Zは、被削材1の回転中心C
Wを原点として各々直交する第1座標軸、第2座標軸及び第3座標軸を有し、かつ、被削材1の軸方向(Z方向)を第3座標軸とする座標系である。この場合、切削刃2の座標系X' −Y'−Z'の原点(切削刃2の実際の回転中心C
T)は、被削材1の中心(回転中心C
W)の周りを半径ε、回転角速度ω
Wで反時計回りに回転し、かつ、被削材1の軸方向(Z軸方向)に送り速度fで移動すると考えることができる。このため、全体座標系X−Y−Zにおける切削刃2の刃先2aの座標は、時間tに対して、次式(2)で与えられる。
【0083】
上記式(1)及び上記式(2)から、全体座標系X−Y−Zにおける切削刃2の刃先2aの座標は、下
記式(3)で表すことができる。
【数5】
【0084】
更に、切削刃2による被削材1の切削は、下記式(4)により表わすことができる。即ち、全体座標系X−Y−Zの原点(回転中心C
W)からの切削刃2の刃先2aの距離が、被削材1の半径R
W以下となるとき、即ち、下記式(4)を満たす場合に、被削材1が切削刃2により切削される。
【数6】
【0085】
上述の解析モデルは、
図11(a)に示される切削加工機200の切削動作にも当てはまる。また、上述の解析モデルは、シミュレーション対象を汎用化させるため、複数の切削刃2を有する切削加工機100も射程に入れたが、1つの切削刃2のみを有する切削加工機100のみに対応させるためには、上記式(3)において、遅れ角φは、省かれてもよい。この場合、上記式(3)において、遅れ角φが0に設定されればよいため、上記式(3)は、1つの切削刃2のみを有する切削加工機100のみも射程に入る。
【0086】
以下、上述の解析モデルを用いて、切削加工機100及び200で切削加工される被削材の加工形状をシミュレートするシミュレーション装置及びシミュレーション方法の各実施形態をそれぞれ説明する。なお、以降の説明では、2軸切削加工機100及び200を切削加工機100と総称する場合もある。
【0087】
後述する各実施形態におけるシミュレーション装置及びシミュレーション方法は、上記式(3)及び上記式(4)を用いて、切削加工機100で切削加工される被削材の加工形状をシミュレートする。上記式(3)及び上記式(4)は、被削材1及び切削刃2が2つの回転軸で回転し、かつ、切削刃2が物理的に3次元空間を移動するという切削加工機100の物理的な切削動作特性を、上述のような全体差座標系X−Y−Zと切削刃2の座標系X' −Y'−Zとからモデル化、即ち、数字式(行列式)化したものであり、上記式(3)及び上記式(4)には、切削加工機100の切削刃2の移動軌跡と切削刃2による被削材1の切削位置という物理的な切削動作特性が反映されている。従って、上記式(3)及び上記式(4)を用いて、切削加工機100で切削加工される被削材の加工形状をシミュレートする各実施形態におけるシミュレーション装置及びシミュレーション方法は、切削加工機100の物理的動作特性が反映された技術的手段を有し、自然法則を利用した技術的思想であると言える。
【0088】
[第1実施形態]
以下、第1実施形態におけるシミュレーション装置及びシミュレーション方法について図面を用いて説明する。第1実施形態におけるシミュレーション装置及びシミュレーション方法は、切削加工機で切削加工される被削材の加工形状をシミュレートする。
【0089】
〔装置構成〕
図12は、第1実施形態におけるシミュレーション装置のハードウェア構成例を概念的に示す図である。第1実施形態におけるシミュレーション装置50は、いわゆるコンピュータであり、例えば、バスで相互に接続される、CPU(Central Processing Unit)51、メモリ52、入出力インタフェース(I/F)53等を有する。メモリ52は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、ハードディスク等である。入出力I/F53は、出力装置55や入力装置56等のようなユーザインタフェース装置や、通信装置(図示せず)や、可搬型記憶媒体にアクセスする装置等と接続される。
【0090】
出力装置55は、ディスプレイ装置やプリンタ等のようなユーザに情報を提示する装置である。入力装置56は、キーボード、マウス等のようなユーザ操作の入力を受け付ける装置である。但し、本実施形態は、シミュレーション装置50のハードウェア構成を制限しない。
【0091】
〔処理構成〕
図13は、第1実施形態におけるシミュレーション装置50の処理構成例を概念的に示す図である。第1実施形態におけるシミュレーション装置50は、パラメータ格納部60、位置算出部61、形状算出部62、データ生成部63等を有する。これら各処理部は、例えば、CPU51によりメモリ52に格納されるプログラムが実行されることにより実現される。また、当該プログラムは、例えば、CD(Compact Disc)、メモリカード等のような可搬型記録媒体やネットワーク上の他のコンピュータから入出力I/F53を介してインストールされ、メモリ52に格納されてもよい。
【0092】
パラメータ格納部60は、シミュレーションの切削パラメータとして、被削材1の回転角速度ω
W、切削刃2の回転角速度ω
T、切削刃2の回転半径R
T、切削刃2(被削材1)の送り速度f、被削材1の回転軸(第1回転軸11)と切削刃2の回転軸(第2回転軸21)との偏心量ε、被削材1の断面の半径R
W、基準とする切削刃2に対する他の切削刃2の遅れ角φ等を格納する。なお、遅れ角φは、切削加工機100が切削刃2を1つだけ有する場合には、0に設定されてもよいし、パラメータ格納部60に格納されなくてもよい。
【0093】
パラメータ格納部60に格納される切削パラメータは、シミュレーション対象となる切削加工機の構造や被削材1の形状に応じて、適切に設定されることが望ましい。これら切削パラメータは、予めパラメータ格納部60に格納されていてもよい。また、当該切削パラメータは、他の装置等から入出力I/F53を経由して取得されてもよいし、入力画面等に基づいて入力装置56をユーザが操作することにより入力されてもよい。また、本実施形態では、パラメータ格納部60は、シミュレーション装置50上で実現されるが、他の装置上で実現され、通信を介してシミュレーション装置50によりアクセスされてもよい。
【0094】
更に、シミュレーション装置50は、パラメータ格納部60に格納される切削パラメータを入力装置56のユーザ操作に応じて変更可能とする画面データを生成し、この画面データに基づく入力画面を出力装置55に出力するようにしてもよい。この場合、パラメータ格納部60に格納される切削パラメータは、ユーザ入力に応じて変更可能となる。
【0095】
位置算出部61は、上記全体座標系X−Y−Zにおける、時間tに応じた切削刃2の位置の推移を、上記式(3)の第1座標軸の値x、第2座標軸の値y及び第3座標軸の値zを用いて算出する。時間tの刻み幅は小さい程、計算精度が高くなるが、処理負荷が高くなるため、時間tの刻み幅は適切な値に設定される。位置算出部61は、時間tの刻み幅分の位置データについては、線形補間等の周知のデータ補間技術により補間する。
【0096】
形状算出部62は、位置算出部61により算出される切削刃2の位置の推移と上記式(4)の条件とに基づいて、切削刃2による被削材1の切削を模擬することにより、被削材1の加工形状を算出する。形状算出部62は、位置算出部61により算出された切削刃2の位置が上記式(4)の条件を満たす場合に、被削材1の回転中心C
Wとその位置とを結ぶ直線のその位置より外側(回転中心C
Wから離れる側)が切削されたとみなす。これにより、例えば、形状算出部62は、全体座標系X−Y−Zにおける被削材1の外形を表す座標データ、及び、位置算出部61により算出された切削刃2の位置の推移を表す座標データを取得し、被削材1の外形を表す座標データの中の、対応する外形位置を、上記式(4)の条件を満たす切削刃2の位置に置き換える。
【0097】
データ生成部63は、形状算出部62により算出された被削材1の加工形状を表す画像データを生成する。例えば、データ生成部63は、形状算出部62により生成された、被削材1の外形を表す座標データを用いて、被削材1の加工形状を表す3次元画像を出力するための画像データを生成する。画像データは、画像形式のデータであってもよいし、被削材1の外形を表す座標データそのものであってもよい。また、画像形式のデータは、前、後、左、右、上、下の6方向から見た場合の、被削材1の加工形状を表す2次元画像(6面図)を表すものであってもよい。画像データは、印刷出力用のデータであってもよいし、表示出力用のデータであってもよいし、データ出力用のデータであってもよい。本実施形態は、データ生成部63により生成される画像データのデータ形式を制限しない。
【0098】
更に、データ生成部63は、上述のように生成された画像データを出力装置55に出力させることもできる。この場合、出力装置55には、被削材1の加工形状を表す画像が出力される。
【0099】
〔動作例(シミュレーション方法)〕
以下、第1実施形態におけるシミュレーション方法について
図14を用いて説明する。
図14は、第1実施形態におけるシミュレーション装置50の動作例を示すフローチャートである。以下のシミュレーション方法の説明では、シミュレーション装置50が各方法の実行主体となるが、シミュレーション装置50に含まれる上述の各処理部が実行主体となってもよいし、部分的に他の装置が実行主体となってもよい。
【0100】
シミュレーション装置50は、上述の全体座標系X−Y−Zにおける、時間tに応じた切削刃2の位置の推移を、上記式(3)の第1座標軸の値x、第2座標軸の値y及び第3座標軸の値zを用いて算出する(S141)。この算出処理は、上述の位置算出部61で説明したとおりである。上記式(3)で用いられる切削パラメータは、シミュレーション装置50により予め保持されていてもよいし、他の装置から取得されてもよいし、入力装置56の操作を通じてユーザにより入力されてもよい。
【0101】
シミュレーション装置50は、(S141)で算出された切削刃2の位置の推移と上記式(4)の条件とに基づいて、切削刃2による被削材1の切削を模擬することにより、被削材1の加工形状を算出する(S142)。この算出処理は、上述の形状算出部62で説明したとおりである。
【0102】
シミュレーション装置50は、(S142)で算出された被削材1の加工形状を表す画像データを生成する(S143)。この生成処理は、上述のデータ生成部63で説明したとおりである。
【0103】
また、
図14では示されていないものの、シミュレーション装置50は、(S143)で生成された画像データを出力装置55に出力させる工程、及び、出力された被削材1の加工形状に応じて変更された切削パラメータを取得する工程を更に実行するようにしてもよい。この場合、シミュレーション装置50は、(S141)において、変更された切削パラメータを上記式(3)及び上記式(4)に適用することにより、切削刃2の位置の推移を再計算するようにしてもよい。
【0104】
〔第1実施形態における作用及び効果〕
上述のように、第1実施形態では、切削加工機の切削動作の解析モデルである上記式(3)及び上記式(4)を用いて、時間tに応じた切削刃2の位置の推移が算出され、かつ、切削刃2による被削材1の切削が模擬される。これにより、被削材1の加工形状が算出され、その加工形状を表す画像データが生成される。このように、第1実施形態によれば、切削加工機の切削動作を表す解析モデル(上記式(3)及び上記式(4))を用いて、被削材1の加工形状をコンピュータ(シミュレーション装置50)上で適切にシミュレートすることができる。但し、当該解析モデルが切削加工機の切削動作を適切に表すか否かについては実施例の項において詳述する。
【0105】
また、当該解析モデルでは、被削材1の加工形状に影響を及ぼす、切削加工機100及び200の構造及び被削材1の形状に関する切削パラメータが定義されている。これにより、上記式(3)及び上記式(4)で切削動作を表すことができる切削加工機であれば、切削パラメータを適宜調整することにより、様々な形態の切削加工機をシミュレート対象とすることができる。更に、生成される画像データの出力を見ながら、被削材1の加工形状が所望の形状となるように、切削パラメータを調整すれば、所望の加工形状を得るための、切削加工機の構造を設計することも可能である。
【0106】
更に、上述したとおり、切削パラメータを適宜調整することにより、切削加工機で被削材1を実際に加工することなく、切削加工機でねじ切り以外の加工形状を実現できることを確かめることができる。具体的には、加工後の被削材1の断面の形状を、
図7に示されるような板状の形状、及び、
図10に示されるような紡錘形(ラグビーボール形状)、並びに、
図11(a)に示されるような被削材1の内向きに弧状に抉れた形状とすることが確認できる。
【0107】
[第2実施形態]
以下、第2実施形態におけるシミュレーション装置50及びシミュレーション方法について図面を用いて説明する。以下、第2実施形態について、第1実施形態と異なる内容を中心に説明する。以下の説明では、第1実施形態と同様の内容については適宜省略する。
【0108】
本発明者は、第1実施形態において説明したとおり、当該解析モデルを用いることで、切削パラメータを適宜調整することにより、被削材1の加工形状を制御できることを見出した。例えば、被削材1の回転方向と切削刃2の回転方向とを逆方向にすることで、加工後の被削材1の断面形状が調整可能である。更に、本発明者は、切削パラメータそのものの値の代わりに、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)を用いて、被削材1の加工形状における、軸周りのねじれ度合い及び軸周りのねじれ方向、並びに、断面形状を制御できることを新たに見出した。これらは、切削加工機の複雑な切削動作を上述のようにモデル化することに成功したことにより初めて明らかにされた技術事項である。第2実施形態は、このように新たに明らかにされた技術事項を用いて、被削材1の加工形状を制御する。
【0109】
〔処理構成〕
図15は、第2実施形態におけるシミュレーション装置50の処理構成例を概念的に示す図である。第2実施形態におけるシミュレーション装置50は、第1実施形態の構成に加えて、指標取得部65及び形状制御部66を更に有する。指標取得部65及び形状制御部66についても、他の処理部と同様に、CPU51によりメモリ52に格納されるプログラムが実行されることにより実現される。
【0110】
形状制御部66は、パラメータ格納部60に格納された切削パラメータの一部を調整(変更)することにより、形状算出部62により算出される被削材1の加工形状を制御する。具体的には、形状制御部66は、次のようにして、被削材1の加工形状における、軸周りのねじれ方向及びねじれ度合い、並びに、断面形状を制御する。但し、形状制御部66は、下記に示す少なくとも1つの制御を行えばよい。
【0111】
形状制御部66は、切削刃2の回転半径R
Tが偏心量εより大きく設定されている状態において、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)が、2より小さくなる方向又は大きくなる方向に変わるように、パラメータ格納部60に格納される被削材1の回転角速度ω
W及び切削刃2の回転角速度ω
Tの少なくとも一方を調整(変更)する。このように変更された回転角速度ω
W及びω
Tの少なくとも一方を形状算出部62に利用させることにより、形状制御部66は、形状算出部62により算出される被削材1の加工形状における軸周りのねじれ方向及びねじれ度合いの少なくとも一方を制御することができる。ここで、切削刃2の回転半径R
Tが偏心量εより大きく設定されている状態とは、
図2に示されるように、第1回転軸11が切削刃2の回転運動の経路の内側に配置されている状態を意味する。また、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)は、切削刃2の回転角速度ω
Tと被削材1の回転角速度ω
Wとの比(ω
T/ω
W)に等しい。また、ねじれ度合いとは、被削材1の軸方向における単位長さ当たりのねじれの回数を意味する。
【0112】
切削刃2と被削材1とが同じ反時計回りに回転する場合、切削刃2の回転角速度ω
Tと被削材1の回転角速度ω
Wとの比(ω
T/ω
W)が2より小さくなる方向に調整されると(例えば、1.99)、加工形状は、軸周りに時計回りにねじれた形状となる。一方、具体的には、切削刃2と被削材1とが同じ反時計回りに回転する場合、切削刃2の回転角速度ω
Tと被削材1の回転角速度ω
Wとの比(ω
T/ω
W)が2より大きくなる方向に調整されると(例えば、2.01)、加工形状は、軸周りに反時計回りにねじれた形状となる。切削刃2と被削材1とが逆方向に回転する場合、上記比(ω
T/ω
W)の調整方向と被削材1のねじれ方向との関係は、上述の逆となる。更に、形状制御部66は、上記比(ω
T/ω
W)の値を2から離間させることにより、被削材1の加工形状のねじれ度合いを強くすることができる。
【0113】
加えて、形状制御部66は、パラメータ格納部60に格納される送り速度fを調整(変更)する。このように変更された送り速度fを形状算出部62に更に利用させることにより、形状制御部66は、形状算出部62により算出される被削材1の加工形状における軸周りのねじれ度合いを制御することができる。具体的には、形状制御部66は、送り速度fを上げることで、ねじれ度合いを強くすることができ、送り速度fを下げることで、ねじれ度合いを弱くすることができる。
【0114】
また、形状制御部66は、被削材1の回転角速度ω
W及び切削刃2の回転角速度ω
Tの正負を切り替えることにより、形状算出部62により算出される被削材1の加工形状における断面形状を制御することもできる。具体的には、形状制御部66は、被削材1の回転角速度ω
W及び切削刃2の回転角速度ω
Tの両方を正又は負とすることで、当該断面の形状を、板状の形状とすることができ、逆に一方を正とし一方を負とすることで、当該断面の形状を、紡錘形(ラグビーボール形状)とすることができる。
【0115】
また、形状制御部66は、切削刃2の回転半径R
Tが偏心量εより大きく設定されている状態において、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)との積が任意の自然数M(Mは2より大きい)となる最小の自然数が存在するように、被削材1の回転角速度ω
W及び切削刃2の回転角速度ω
Tの少なくとも一方を調整(変更)する。ここで、自然数とは0を除く正の整数である。このように変更された回転角速度ω
W及びω
Tの少なくとも一方を形状算出部62に利用させることにより、形状制御部66は、形状算出部62により算出される被削材1の加工形状における断面形状を上記任意の自然数M個の辺を有する多角形にすることができる。言い換えれば、断面形状の多角形が有する辺の数が指定されている場合に、形状制御部66は、上記比(N
T/N
W)と上記最小の自然数との積が、その指定された辺の数と等しくなるように、被削材1の回転角速度ω
W及び切削刃2の回転角速度ω
Tの少なくとも一方を調整することで、その指定に対応する断面形状を有する加工形状を得ることができる。例えば、形状制御部66は、当該比(N
T/N
W)と1との積が2より大きい自然数となる、即ち、当該比(N
T/N
W)が2より大きい自然数となるように、被削材1の回転角速度ω
W及び切削刃2の回転角速度ω
Tの少なくとも一方を変更することで、算出される被削材1の加工形状における断面形状を当該比(N
T/N
W)と同じ数の辺を持つ多角形とすることができる。但し、当該比(N
T/N
W)との積が任意の自然数M(Mは2より大きい)となる最小の自然数は1に制限されない。また、上述のように断面形状が制御される場合、送り速度fは、切削刃2の先端部の曲率半径より小さい値のように、十分に小さいことが望ましい。
【0116】
指標取得部65は、被削材1の加工形状における軸周りのねじれ方向及びねじれ度合いの少なくとも一方に関する指標情報、及び、被削材1の加工形状における断面形状に関する指標情報の少なくとも1つを取得する。指標取得部65は、少なくとも1つの指標情報を、入力装置56を用いたユーザ操作に基づいて取得してもよいし、可搬型記録媒体、他の装置等から入出力I/F53を経由して取得してもよい。例えば、指標情報は、時計回り又は反時計回りといった所望のねじれ方向を示す情報である。他の例では、指標情報は、強く又は弱くといったねじれ度合いの調整方向を示す情報であってもよいし、もう少し強く、もう少し弱く、大幅に強く、大幅に弱くといったねじれ度合いの調整方向と調整幅とを示す情報であってもよい。更に他の例では、指標情報は、板状又は紡錘形といった所望の断面形状を示す情報である。また、指標情報は、断面形状の多角形が有する辺の数を示してもよい。上述の形状制御部66は、指標取得部65により取得された指標情報に対応する、被削材1の加工形状となるように、上述のように、パラメータ格納部60に格納される切削パラメータを調整(変更)する。
【0117】
〔動作例(シミュレーション方法)〕
以下、第2実施形態におけるシミュレーション方法について
図16を用いて説明する。
図16は、第2実施形態におけるシミュレーション装置50の動作例を示すフローチャートである。以下のシミュレーション方法の説明では、シミュレーション装置50が各方法の実行主体となるが、シミュレーション装置50に含まれる上述の各処理部が実行主体となってもよいし、部分的に他の装置が実行主体となってもよい。また、
図16では、第1実施形態と同じ工程については、
図14と同じ符号が付される。
【0118】
シミュレーション装置50は、被削材1の加工形状における軸周りのねじれ方向に関する指標情報、被削材1の加工形状における軸周りのねじれ度合いに関する指標情報、及び、被削材1の加工形状における断面形状に関する指標情報の少なくとも1つを取得する(S161)。取得される指標情報については、指標取得部65について説明したとおりである。このとき、シミュレーション装置50は、予め保持された切削パラメータを用いて(S143)で生成された画像データを出力装置55に出力させていてもよい。この場合、ユーザは、その画像データにより提示される被削材1の加工形状を見て、上記指標情報を入力装置56を用いて入力することができる。
【0119】
シミュレーション装置50は、(S161)で取得された指標情報に対応する、被削材1の加工形状となるように、切削パラメータを調整(変更)する(S162)。具体的には、シミュレーション装置50は、被削材1の加工形状における軸周りのねじれ方向及び軸周りのねじれ度合いの少なくとも一方に関する指標情報を取得した場合、その指標情報に基づいて、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)が、2より小さくなる方向又は大きくなる方向に変わるように、被削材1の回転角速度ω
W及び切削刃2の回転角速度ω
Tの少なくとも一方を変更する。また、シミュレーション装置50は、被削材1の加工形状における軸周りのねじれ度合いに関する指標情報を取得した場合、その指標情報に基づいて、切削刃2の送り速度fを変更する。また、シミュレーション装置50は、被削材1の加工形状における断面形状に関する指標情報を取得した場合、その指標情報に基づいて、被削材1の回転角速度ω
W及び切削刃2の回転角速度ω
Tの少なくとも一方の正負の符号を変更する。また、シミュレーション装置50は、被削材1の加工形状における断面形状の多角形が有する辺の数を示す指標情報を取得した場合、当該比(N
T/N
W)との積が自然数となる最小の自然数と、当該比との積が、その指標情報が示す辺の数と等しくなるように、被削材1の回転角速度ω
W及び切削刃2の回転角速度ω
Tの少なくとも一方を変更する。シミュレーション装置50は、このように断面形状を制御する場合には、送り速度fについても、十分に小さい値となるように調整するようにしてもよい。
【0120】
〔第2実施形態における作用及び効果〕
上述のとおり、第2実施形態では、被削材1の加工形状に関する指標情報が取得され、この指標情報が表す形状指標に応じて、切削パラメータの中の、被削材1の回転角速度ω
W及び切削刃2の回転角速度ω
Tの少なくとも一方、又は、被削材1の送り速度fが調整される。結果、当該指標情報が表す形状指標に近づくように、被削材1の加工形状が制御される。よって、第2実施形態によれば、ユーザは、切削パラメータそのものの細かい値を設定することなく、被削材1の加工形状の指標を表す指標情報さえ与えれば、ねじれ方向及びねじれ度合い並びに断面形状に関し、被削材1の所望の加工形状を得ることができる。断面形状については、板状又は紡錘形若しくは多角形の辺数が指定可能である。更に言えば、そのように指標情報で自動で調整された切削パラメータをパラメータ格納部60から取得することで、被削材1の所望の加工形状を得るための適切な切削パラメータを取得することができる。
【0121】
以下に実施例を挙げ、上述の各実施形態を更に詳細に説明する。本発明は以下の各実施例から何ら限定を受けない。
【実施例1】
【0122】
実施例1では、上記式(3)及び上記式(4)の解析モデルが切削加工機の切削動作を適切に表すことについての検証結果を示す。
図17は、被削材1の加工形状が板状となる場合のシミュレーション結果と実際の切削加工結果とを示す図である。具体的には、
図17(a)は、上述の各実施形態のシミュレーション装置50及びシミュレーション方法により得られた被削材1の加工形状を示す図であり、
図17(b)は、
図17(a)と同じ切削パラメータに設定された切削加工機100で実際に切削加工された被削材1の画像を示す図である。
【0123】
図17の例では、被削材1と切削刃2との回転方向は同じであり、かつ、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比は2対1に設定された。この場合、ねじれの無いブレード形状部1bを形成することができる。
図17(a)と
図17(b)との比較から、上述の各実施形態におけるシミュレーション装置50及びシミュレーション方法が、実際の切削加工によるブレード形状部1b(
図17(b))の加工形状を正確にシミュレーションできていることが実証される。
【0124】
図18は、被削材1の加工形状がねじれ形状となる場合のシミュレーション結果と実際の切削加工結果とを示す図である。具体的には、
図18(a)は、上述の各実施形態のシミュレーション装置50及びシミュレーション方法により得られた被削材1の加工形状を示す図であり、
図18(b)は、
図18(a)と同じ切削パラメータに設定された切削加工機100で実際に切削加工された被削材1の画像を示す図である。
【0125】
図18に示されるように、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比を2対1から少しずらすことにより、被削材1の軸周りにねじれた(ヘリカルな)ブレード形状部1bを形成することができる。
図18(a)と
図18(b)との比較から、上述の各実施形態におけるシミュレーション装置50及びシミュレーション方法が、実際の切削加工によるヘリカルなブレード形状部1b(
図18(b))の加工形状を正確にシミュレーションできていることが実証される。
【0126】
ブレード形状部1bのねじれの度合いは、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比の調整、又は、その比が上述のような条件を満たす状態での送り速度fの調整により、任意に変更することができる。また、1つの被削材1に対する加工の途中で、それら切削パラメータを調整することで、ブレード形状部1bの長手方向における途中でねじれの度合いを変化させることも可能である。ブレード形状部1bのねじれの度合いは、送り速度fが遅いほど、また、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比が2対1から離れるほど、強くなる。
【0127】
次に、切削加工機100の実際の切削加工を通じて、被削材1及び切削刃2の回転方向と被削材1の加工形状との関係、及び、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比と被削材1の加工形状との関係について検証した結果を実施例2として説明する。
【実施例2】
【0128】
図19は、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比と被削材1の加工形状との関係についての検証結果を示す図である。
【0129】
図19(b)では、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)が2.000に設定された。この場合、被削材1の加工形状は、ねじれの無い板状のブレード形状部1bを有する。
【0130】
図19(a)では、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)が1.999に設定された。この場合、被削材1の加工形状は、一方向にねじれたブレード形状部1bを有する。
【0131】
図19(c)では、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)が2.001に設定された。この場合、被削材1の加工形状は、
図19(a)の場合とは逆方向にねじれたブレード形状部1bを有する。
【0132】
このように、
図19によれば、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)が2の場合に、板状の加工形状が得られ、その比(N
T/N
W)を2からずらすことにより、軸方向にねじれた加工形状が得られることが実証される。
【0133】
図20は、被削材1及び切削刃2の回転方向を逆方向にした場合における、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比と被削材1の加工形状との関係についての検証結果を示す図である。
【0134】
図20(b)では、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)が2.000に設定された。この場合、被削材1の加工形状は、断面形状が紡錘形でありかつねじれの無い被加工部1eを有する。
【0135】
図20(a)では、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)が2.001に設定された。この場合、被削材1の加工形状は、断面形状が紡錘形でありかつ一方向にねじれた被加工部1eを有する。
【0136】
図20(c)では、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)が1.999に設定された。この場合、被削材1の加工形状は、
図20(a)の場合とは逆方向にねじれた被加工部1eを有する。
【0137】
このように、
図20によれば、被削材1及び切削刃2の回転方向を逆方向にすることで、被削材1の加工形状における断面形状を紡錘形とすることができることが実証される。更に、
図20によれば、断面形状を紡錘形としながら、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)が2の場合に、ねじれの無い形状が得られ、その比(N
T/N
W)を2からずらすことにより、軸方向にねじれた加工形状が得られることが実証される。また、
図20によれば、被削材1及び切削刃2の回転方向が逆方向の場合には、当該比(N
T/N
W)の調整方向と加工形状におけるねじれ方向との関係が、回転方向が同じ場合とは逆になることが実証される。
図19(c)及び
図20(a)に示されるねじれ方向の加工形状は、ねじれ度合いは変わるものの、回転数比(N
T/N
W)が2.01までは得られることが実証される。
【0138】
次に、切削加工機100の実際の切削加工を通じて、被削材1の送り速度fと被削材1の加工形状との関係について検証した結果を実施例3として説明する。
【実施例3】
【0139】
図21は、送り速度fが0.04(mm/rev)の場合の被削材1の加工形状を示す図である。
図22は、送り速度fが0.02(mm/rev)の場合の被削材1の加工形状を示す図である。
図23は、送り速度fが0.01(mm/rev)の場合の被削材1の加工形状を示す図である。(mm/rev)とは、被削材1が1回転あたりに何mm(ミリメートル)送られるかを示す単位である。
図21、
図22及び
図23では、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)は、約2.002(=999(回/分)/499(回/分))で固定されている。また、
図21、
図22及び
図23において、(a)には、被削材1の加工形状の画像が示され、(b)には、その加工形状を得るための切削条件が示されている。但し、(b)に示される切削条件は、上述の切削パラメータ以外の情報も含む。
【0140】
以下、本検証で用いられた被削材1及び工具並びに切削条件について説明する。
【0141】
図21では、被削材1の材料としては、チタン、アルミニウムおよびバナジウムからなる合金(Ti−6Al−4V)を用いた。被削材1の直径は10.0mmとした。したがって、回転半径R
Wは5.0mmである。切削刃2(工具)としては、超硬バイトを用いた。切削刃2の個数は1とした。
切削刃2の回転数(工具回転数)は、999回/分とした。
被削材1の回転数は、499回/分とした。
送り速度fは、0.04mm/revとした。つまり、被削材1が1回転する間に、切削刃2を被削材1の軸方向に0.04mm移動させた。
切削刃2の刃先2aの回転円の直径(刃先円直径)は、14.57mmとした。つまり、切削刃2の回転半径R
Tを7.285mmとした。
偏心量εは6.28mmとした。
1回の切込み(後述)は、φ1.0mmとした。
切込み回数(後述)は、8回とした。
切削刃2の厚み2b(ブレード厚さ)を2mmとした。
被削材1の軸方向におけるブレード形状部1bの寸法(加工長さ)を30.0mmとした。
切削油として、水溶性切削油を用いた。
加工時間は6分であった。
【0142】
ここで、切削加工は、切削刃保持部4の内周4aからの刃先2aの突出量を段階的に拡大して、8回の工程に分けて行った。つまり、上記のように切込み回数を8回とした。そして、1回目の切削工程では、切削前の被削材1の周面よりも0.5mmだけ被削材1の内部の位置を刃先2aが通過するように、刃先2aの突出量を設定した。2回目の切削工程では、切削前の被削材1の周面よりも1.0mmだけ被削材1の内部の位置を刃先2aが通過するように、刃先2aの突出量を設定した。以下、3回目以降の切削工程では、順次、前回の切削工程よりも0.5mmだけ刃先2aが被削材1の内側を通過するように、それぞれ刃先2aの突出量を設定した。つまり、上記のように、1回の切込みをφ1.0mmとした。すなわち、1回の切削工程を行う度に、0.5mm×2=1.0mmだけ被削材1が薄くなるように切削を行った。
【0143】
図22では、以下の条件のみを
図21から変更し、その他の条件は、
図21と同じにした。
被削材1の直径は8.0mmとした。したがって、回転半径R
Wは4.0mmである。
送り速度fは、0.02mm/revとした。つまり、被削材1が1回転する間に、切削刃2を被削材1の軸方向に0.02mm移動させた。
切削刃2の刃先2aの回転円の直径(刃先円直径)は、20.06mmとした。つまり、切削刃2の回転半径R
Tを約10.03mmとした。
偏心量εは9.03mmとした。
切込み回数は、6回とした。つまり、切削加工は、切削刃保持部4の内周4aからの刃先2aの突出量を段階的に拡大して、6回の工程に分けて行った。
被削材1の軸方向におけるブレード形状部1bの寸法(加工長さ)を25.0mmとした。
加工時間は7.5分(7分30秒)であった。
【0144】
図23では、以下の条件のみを
図22から変更し、その他の条件は、
図22と同じにした。
被削材1の材料はステンレス(SUS304)とした。
送り速度fは、0.01mm/revとした。つまり、被削材1が1回転する間に、切削刃2を被削材1の軸方向に0.01mm移動させた。
切削刃2の刃先2aの回転円の直径(刃先円直径)は、18.52mmとした。つまり、切削刃2の回転半径R
Tを約9.26mmとした。
偏心量εは8.26mmとした。
加工時間は15分であった。
【0145】
図21から
図23によれば、切削刃2の送り速度fを速くすると、ねじれ度合いが弱くなり、送り速度fを遅くすると、ねじれ度合いが強くなることが実証される。
【0146】
上述の検証では、刃先2aの突出量を段階的に変えて、複数回(
図21は8回、
図22は6回)の切り込み回数で加工を行ったが、切削条件を調整することにより、1回の切り込み回数で加工を行うことも可能である。
図24は、切り込み回数1回で、切削途中で工具回転数を変えた場合の被削材1の加工形状を示す図である。
【0147】
図24では、被削材1の先端から10mmまでの間、工具回転数を2999回/分に設定し、10mmから20mmまでの間、工具回転数を2997回/分に設定し、20mmから30mmまでの間、工具回転数を2999回/分に設定した。これにより、
図24の(a)に示されるように、被削材1の先端から20mm付近及び30mm付近で、ねじれ方向が変わっている。即ち、先端から10mmまでの間、及び、20mmから30mmまでの間は、切削刃2の回転角速度ω
Tと被削材1の回転角速度ω
Wとの比(ω
T/ω
W)が2より大きいため、加工形状は、被削材1の軸周りに反時計回りにねじれた形状となり、10mmから20mmまでの間は、切削刃2の回転角速度ω
Tと被削材1の回転角速度ω
Wとの比(ω
T/ω
W)が2より小さいため、加工形状は、被削材1の軸周りに時計回りにねじれた形状となっている。本検証に示されるように、
図24の(a)に示されるような複雑な加工形状を1回の切り込み回数で実現することができる。
【0148】
次に、被削材1の加工形状における断面形状と、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)との関係について検証された結果を以下に説明する。
【実施例4】
【0149】
図25は、被削材1の加工形状における断面形状と、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)との関係を示す図である。本検証では、2以上3以下の7つの値が当該回転数の比(N
T/N
W)としてそれぞれ設定され、当該回転数の比が各値を取る場合の断面形状が検証された。
【0150】
回転数比が2の場合、
図19(b)に示されるような、ねじれの無い板状の加工形状が得られた。回転数比が2.2の場合、断面形状が11つの辺を持つ多角形(11角形)となる加工形状が得られた。回転数比が2.4の場合、断面形状が12角形となる加工形状が得られた。回転数比が2.5の場合、断面形状が5角形となる加工形状が得られた。回転数比が2.6の場合、断面形状が13角形となる加工形状が得られた。回転数比が2.8の場合、断面形状が14角形となる加工形状が得られた。回転数比が3の場合、断面形状が3角形となる加工形状が得られた。なお、各多角形の各辺は、厳密には円弧状となる。
【0151】
本検証により、切削刃2の回転数(N
T)と被削材1の回転数(N
W)との比(N
T/N
W)との積が自然数となる最小の自然数(倍数)が存在する場合、得られる加工形状の断面形状は、その積の値と同じ辺の数を持つ多角形となることが実証された。これにより、当該回転数の比を調整することにより、被削材1の加工形状における断面形状(多角形)の角数を自在に制御できることが分かる。例えば、
図25には示されないが、切削刃2の回転数(N
T)及び被削材1の回転数(N
W)並びにそれらの比(N
T/N
W)は、以下のどのパターンに設定しても、断面形状が7角形の加工形状を得ることができる。よって、切削刃2の回転数又は被削材1の回転数が制限されている場合にも、所望の断面形状を得るための各回転数を求めることができる。
切削刃2の回転数(N
T):被削材1の回転数(N
W):比(N
T/N
W)
7000(min
−1):1000(min
−1):7
1400(min
−1):1000(min
−1):1.4
1750(min
−1):1000(min
−1):1.75
3500(min
−1):1000(min
−1):3.5
【0152】
[変形例]
上述の各実施形態におけるシミュレーション装置50は、シミュレーション対象となる切削加工機100と通信可能に接続される、又は、当該切削加工機100の内部に一体化されてもよい。
【0153】
図26は、変形例における切削加工機100の機能ブロック図である。
図26に示される変形例では、切削加工機100とシミュレーション装置50とが一体形成される。変形例における切削加工機100は、
図26に示されるように、制御部40、表示部41、入力操作部42を更に有する。
【0154】
表示部41は、上述の出力装置55の一態様であり、切削パラメータや指標情報の入力画面や、データ生成部63により生成された画像データに基づいて、被削材1の加工形状を表す画面等を表示する。また、表示部41は、パラメータ格納部60に格納される切削パラメータを表す画面を表示することもできる。入力操作部42は、上述の入力装置56の一態様であり、ユーザ(オペレータ)が所望の切削パラメータや所望の指標情報の入力操作を行うためのものであり、キーボード、マウス等の任意のユーザインタフェース装置である。
【0155】
制御部40は、上述の、CPU51、メモリ52、入出力I/F53等を含む。制御部40は、メモリ52に格納されるプログラムをCPU51で実行することにより、上述の各実施形態におけるシミュレーション方法を実行し、表示部41及び入力操作部42を制御する。
【0156】
このような変形例によれば、上述の各実施形態におけるシミュレーション装置50及びシミュレーション方法で得られる被削材1の加工形状を表す画像データを、実際の切削加工の前のプレビューデータとして用いることができる。ユーザは、表示部41に表示される被削材1の加工形状のプレビューを視認することにより、上記指標情報や切削パラメータそのものの値を入力することにより、パラメータ格納部60に格納される切削パラメータを適宜調整することができる。
【0157】
更に、制御部40は、上述のパラメータ格納部60に格納される切削パラメータの少なくとも一部を用いて、第1回転モータ15、第2回転モータ25および送りモータ35の動作制御や配置制御を行うこともできる。
【0158】
変形例における切削加工機100では、ワーリング加工装置と同様の構造を持つため、ワーリング加工装置による切削加工と同様の優位性がある。すなわち、切削刃2が被削材1に対して常時接しているわけではなく、切削刃2と被削材1とが周期的に接離を繰り返すため、切削刃2の過熱が抑制され、切削刃2の寿命が長くなるというメリットがある。また、切削刃2と被削材1とが周期的に接離を繰り返すため、切り屑が容易に被削材1から分離できるので、被削材1又は切削刃2への切り屑の絡みつきが抑制される。さらに、切削刃2が1回の切削で除去する被削材1の体積が小さいため切削抵抗が抑制されることから、切削刃2の摩耗が低減される。その結果、加工精度も向上する(加工精度の悪化が抑制される)。
【0159】
また、変形例における切削加工機100においては、被削材1の回転、切削刃保持部4の回転(つまり切削刃2変形例におけるの回転)、および切削刃2に対する被削材1の相対的な送りの合計3軸における動作制御を行うことによって、様々な形状の加工が可能である。このため、ボールエンドミルを用いた切削加工を行う場合のように5軸または4軸等の多くの軸を同時に制御する場合と比べて、動作制御が容易になるので、動作制御用のコンピュータプログラムが極めて短くなる。また、ボールエンドミルを用いた切削加工を行う場合と比べて、切削加工に要する時間を大幅に短縮することができる。
以下、参考の態様を付記する。
1. 2軸切削加工機で切削加工される被削材の加工形状をシミュレートするシミュレーション装置において、
前記2軸切削加工機は、
前記被削材を回転角速度ωWでその軸周りに回転させる第1回転機構と、
前記被削材の回転軸である第1回転軸に対して偏心量εで偏心した第2回転軸を中心として切削刃を回転半径RT及び回転角速度ωTで回転させる第2回転機構と、
前記被削材及び前記切削刃の少なくとも一方を相対的な送り速度fで前記被削材の軸方向に送り動作する送り機構と、
を備え、
前記被削材は、半径RWの断面円形の棒状の部材であり、前記切削刃の回転運動の経路の内側又は外側に配置され、
前記切削刃は、1回転する度に前記被削材を切削するものであり、
前記シミュレーション装置は、
前記被削材の回転中心を原点として各々直交する第1座標軸、第2座標軸及び第3座標軸を有しかつ前記被削材の軸方向を第3座標軸とする座標系における、時間tに応じた前記切削刃の位置の推移を、下記式(1)の該第1座標軸の値x、該第2座標軸の値y及び該第3座標軸の値zを用いて算出する位置算出手段と、
前記位置算出手段により算出される前記切削刃の位置の推移と下記式(2)の条件とに基づいて、前記切削刃による前記被削材の切削を模擬することにより、前記被削材の加工形状を算出する形状算出手段と、
前記形状算出手段により算出された前記被削材の加工形状を表す画像データを生成するデータ生成手段と、
を備えるシミュレーション装置。
【数7】
【数8】
(式(1)および式(2)において、φは前記切削刃が複数個存在する場合において基準とする前記切削刃に対する他の前記切削刃の遅れ角である。)
2. 前記切削刃の前記回転半径RTが前記偏心量εより大きく設定されている状態において、前記切削刃の回転数(NT)と前記被削材の回転数(NW)との比(NT/NW)が、2より小さくなる方向又は大きくなる方向に変わるように、前記被削材の前記回転角速度ωW及び前記切削刃の前記回転角速度ωTの少なくとも一方を調整することにより、算出される前記被削材の加工形状における軸周りのねじれ方向及びねじれ度合いの少なくとも一方を制御する形状制御手段、
を更に備える1.に記載のシミュレーション装置。
3. 前記形状制御手段は、前記送り速度fを更に調整することにより、算出される前記被削材の加工形状における軸周りのねじれ度合いを制御する、
2.に記載のシミュレーション装置。
4. 前記被削材の前記回転角速度ωW及び前記切削刃の前記回転角速度ωTの正負を切り替えることにより、算出される前記被削材の加工形状における断面形状を制御する形状制御手段、
を更に備える1.から3.のいずれか1つに記載のシミュレーション装置。
5. 前記切削刃の前記回転半径RTが前記偏心量εより大きく設定されている状態において、前記切削刃の回転数(NT)と前記被削材の回転数(NW)との比(NT/NW)との積が任意の自然数M(Mは2より大きい)となる最小の自然数が存在するように、前記被削材の前記回転角速度ωW及び前記切削刃の前記回転角速度ωTの少なくとも一方を調整することにより、算出される前記被削材の加工形状における断面形状を該自然数M個の辺を有する多角形にする形状制御手段、
を更に備える、1.から4.のいずれか1つに記載のシミュレーション装置。
6. 前記被削材の加工形状における軸周りのねじれ方向及びねじれ度合いの少なくとも一方に関する指標情報を取得する指標取得手段、
を更に備え、
前記形状制御手段は、前記指標取得手段により取得された前記指標情報に基づいて、前記被削材の前記回転角速度ωW及び前記切削刃の前記回転角速度ωTの少なくとも一方を調整する、
2.に記載のシミュレーション装置。
7. 前記被削材の加工形状における軸周りのねじれ度合いに関する指標情報を取得する指標取得手段、
を更に備え、
前記形状制御手段は、前記指標取得手段により取得された前記指標情報に基づいて、前記送り速度fを調整する、
3.に記載のシミュレーション装置。
8. 前記被削材の加工形状における断面形状に関する指標情報を取得する指標取得手段、
を更に備え、
前記形状制御手段は、前記指標取得手段により取得された前記指標情報に基づいて、前記被削材の前記回転角速度ωW及び前記切削刃の前記回転角速度ωTの少なくとも一方の正負の符号を変更する、
4.に記載のシミュレーション装置。
9. 前記被削材の加工形状における断面形状の多角形が有する辺の数を示す指標情報を取得する指標取得手段、
を更に備え、
前記形状制御手段は、前記比(NT/NW)と前記最小の自然数との積が、前記指標取得手段により取得された前記指標情報が示す辺の数と等しくなるように、前記被削材の前記回転角速度ωW及び前記切削刃の前記回転角速度ωTの少なくとも一方を調整する、
5.に記載のシミュレーション装置。
10. 1.から9.のいずれか1つに記載のシミュレーション装置と、
前記データ生成手段により生成された前記画像データに基づいて、前記被削材の加工形状を表す画面を表示する表示部と、
切削パラメータとして、前記被削材の回転角速度ωW、前記切削刃の前記回転角速度ωT、前記切削刃の前記回転半径RT、前記送り速度f、前記偏心量ε、前記被削材の断面の半径RWを格納するパラメータ格納部と、
前記送り機構と、
前記第1回転機構と、
前記第2回転機構と、
前記パラメータ格納部に格納される前記切削パラメータの少なくとも一部を用いて、前記送り機構、前記第1回転機構及び前記第2回転機構を制御する制御部と、
を備え、
前記被削材は、前記半径RWの断面円形の棒状の部材であり、前記切削刃の回転運動の経路の内側又は外側に配置され、
前記切削刃は、1回転する度に前記被削材を切削するものである、
2軸切削加工機。
11. 2軸切削加工機で切削加工される被削材の加工形状の、コンピュータにより実行されるシミュレーション方法において、
前記2軸切削加工機は、
前記被削材を回転角速度ωWでその軸周りに回転させる第1回転機構と、
前記被削材の回転軸である第1回転軸に対して偏心量εで偏心した第2回転軸を中心として切削刃を回転半径RT及び回転角速度ωTで回転させる第2回転機構と、
前記被削材及び前記切削刃の少なくとも一方を相対的な送り速度fで前記被削材の軸方向に送り動作する送り機構と、
を備え、
前記被削材は、半径RWの断面円形の棒状の部材であり、前記切削刃の回転運動の経路の内側又は外側に配置され、
前記切削刃は、1回転する度に前記被削材を切削するものであり、
前記シミュレーション方法は、
前記被削材の回転中心を原点として各々直交する第1座標軸、第2座標軸及び第3座標軸を有しかつ前記被削材の軸方向を第3座標軸とする座標系における、時間tに応じた前記切削刃の位置の推移を、下記式(1)の該第1座標軸の値x、該第2座標軸の値y及び該第3座標軸の値zを用いて算出し、
前記算出された前記切削刃の位置の推移と下記式(2)の条件とに基づいて、前記切削刃による前記被削材の切削を模擬することにより、前記被削材の加工形状を算出し、
前記算出された前記被削材の加工形状を表す画像データを生成する、
ことを含むシミュレーション方法。
【数9】
【数10】
(式(1)および式(2)において、φは前記切削刃が複数個存在する場合において基準とする前記切削刃に対する他の前記切削刃の遅れ角である。)
12. 11.に記載されるシミュレーション方法を少なくとも1つのコンピュータに実行させるプログラム。