(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
<第1実施形態>
(構成)
図1は本実施形態に係る発電プラント100の概略図である。
図1に示すように、発電プラント100は蒸気タービンプラント50と起動制御装置21とで構成されている。以下、蒸気タービンプラント50及び起動制御装置21について説明する。
【0015】
1.蒸気タービンプラント
図1に示すように、蒸気タービンプラント50は熱源装置1、蒸気発生設備2、蒸気タービン3、発電機4、熱源媒体量操作部11、低温流体量操作部12、主蒸気加減弁13、バイパス弁14、及び減温器15を備えている。
【0016】
熱源装置1は熱源媒体に保有される熱量を用いて低温流体を加熱し高温流体を生成して蒸気発生設備2に供給する。蒸気発生設備2は内部に熱交換器を備え、熱源装置1で生成された高温流体の保有熱との熱交換により給水を加熱して蒸気を発生させる。蒸気タービン3は蒸気発生装置2で発生した蒸気によって駆動する。発電機4は蒸気タービン3に連結され、蒸気タービン3の駆動力を電力に変換する。発電機4の電力は例えば不図示の電力系統に供給される。
【0017】
熱源装置1に対する熱源媒体の供給経路には熱源媒体量操作部11が設けられている。熱源媒体量操作部11は、熱源装置1に供給される熱源媒体量を調節して熱源装置1で生成される高温流体の保有熱量を操作する。熱源装置1に対する低温流体の供給経路には低温流体量操作部12が設けられている。低温流体量操作部12は熱源装置1に供給される低温流体の流量を調節して、熱源装置1から蒸気発生設備2に供給される高温流体の流量を操作する。蒸気発生装置2と蒸気タービン3とを接続し、蒸気発生設備2から蒸気を導き出す蒸気配管系統には主蒸気加減弁13が設けられている。主蒸気加減弁13は蒸気タービン3に供給される蒸気流量を操作する。蒸気発生設備2の蒸気配管系統から分岐し、蒸気配管系統を流れる蒸気を他系統へ排出するバイパス系統にはバイパス弁14が設けられている。バイパス弁14はバイパス系統を流れる蒸気の流量(バイパス流量)を制御する。蒸気発生設備2の内部には減温器15が設けられている。減温器15は蒸気発生設備2で生成された蒸気を減温する。上述の熱源媒体量操作部11、低温流体量操作部12、主蒸気加減弁13、バイパス弁14、及び減温器15はプラント操作量(後述する)を調整する調整装置として機能する。
【0018】
起動制御装置21には発電プラント100のプラント操作量及びプラント状態量が入力される。起動制御装置21に入力されるプラント操作量の入力値としては、例えば前述した調整装置の操作量を示す各種計測値がある。起動制御装置21に入力されるプラント状態量の入力値としては、蒸気タービンプラント50のプラント状態量、例えば蒸気タービンプラント50の構成要素や作動媒体の温度や圧力、流量等の状態量を示す各種計測値がある。本実施形態では、熱源媒体量操作部11や低温流体量操作部12、主蒸気加減弁13、バイパス弁14、減温器15等の操作量を示す計測値がプラント操作量の入力値として、主蒸気温度や圧力、流量、蒸気タービンメタル温度等のプラント状態量を示す計測値がプラント状態量の入力値として、それぞれ起動制御装置21に入力される。
【0019】
2.起動制御装置
起動制御装置21では、第一に上述したプラント操作量の入力値及びプラント状態量の入力値に基づき、蒸気タービン3の起動制御に用いる少なくとも一つの制約条件について予測値(制約条件の予測値)が計算される。制約条件には、蒸気タービン3のタービンロータの表面と内部との温度差による熱応力(以下、タービンロータの熱応力という)、及び蒸気タービン3のタービンロータと蒸気タービン3を収納する容器(以下、車室という)との熱伸び差(以下、タービンロータの熱伸び差という)に関する制約条件の少なくとも一方が含まれる。このタービンロータの熱応力及びタービンロータの熱伸び差以外に、例えば車室の熱変形(半径方向や周方向の変位)及び車室内外壁の温度差等、他の制約条件の少なくとも一つを加えることもできる。第二に、制約条件の予測値に基づき各調整装置の操作量(調整装置に対する指令値)が計算される。制約条件の予測値に基づき各調整装置の操作量を計算することで、例えばフィードバック制御のような現在の計測値に基づき調整装置の各構成要素の操作量を計算する場合に比べて、時定数(入力に対する応答の遅れ)が大きな現象(制約条件)を好適に推移させることができる。
【0020】
以上の機能を果たすために、起動制御装置21は、予測部22、プラント操作量計算部23、起動制御パラメータ計算回路(起動制御パラメータ設定手段)32、及び指令値出力回路(熱源媒体量操作状態計算回路41、低温流体量操作状態計算回路42、主蒸気加減弁操作状態計算回路43、バイパス弁操作状態計算回路44、及び減温器操作状態計算回路45)を備えている。各構成要素について次に順次説明していく。
【0021】
2−1.予測部
予測部22は、上述したプラント操作量の入力値及びプラント状態量の入力値に基づき、蒸気タービン3の起動制御に用いる少なくとも一つの制約条件について予測値を計算する。予測部22は、プラント状態量予測計算回路24と、第1の制約条件予測計算回路25、第2の制約条件予測計算回路26、及び第3の制約条件予測計算回路27を備えている。
【0022】
2−1−1.プラント状態量予測計算回路
プラント状態量予測計算回路24には、不図示の検出器により計測されたプラント操作量の計測値及びプラント状態量の計測値が、プラント操作量の入力値及びプラント状態量の入力値として入力される。プラント状態量予測計算回路24は、入力されたプラント操作量の計測値及びプラント状態量の計測値に基づき、設定された予測期間にわたる将来のプラント状態量の予測値を計算する。この予測期間は、後述する第1の予測期間、第2の予測期間、第3の予測期間等の各制約条件に対して個別に設定された予測期間のうち最長の期間よりも長くなるよう設定される。
【0023】
プラント起動時に制約条件の予測値を計算する方法には、公知の制御工学的なモデル予測制御手法や、制約条件に関わる物理現象についての公知の熱力学的、流体力学的、伝熱工学的な計算モデル式に将来のプラント運転条件を入力して計算する予測手法、将来のプラント操作量の変化率を現在のメタル温度差等のプロセス値とのテーブルを参照して取得する方法、現在の変化率を予測期間にわたって外挿する方法等、公知の任意の予測手法を用いることができる。
【0024】
プラント状態量予測計算回路24で計算されるプラント状態量の予測値とは、蒸気タービン入口の主蒸気の圧力、流量、温度や蒸気タービン初段後の圧力、流量、温度、熱伝達率等、各制約条件の値の推定に必要なプラント各部の熱的状態を表す物理量をいう。この物理量の計算には、公知の自然科学法則や工学に基づくどのような手法を用いてもよい。以下に計算手法の例を示す。
【0025】
・蒸気タービン入口の主蒸気の蒸気条件の計算手法(手順A1)
熱源媒体量操作部11と低温流体量操作部12の操作量に基づき、熱源装置1から蒸気発生装置2を介して蒸気タービン3に供給される熱と物質の伝播過程を公知のエネルギーバランスの式やマスバランスの式から計算し、蒸気タービン入口の流量と温度、エンタルピを計算する。そして、蒸気タービン入口の流量や温度を用いて、音速流れにおける流量計算の式に基づき定格の圧力値を補正して圧力を計算する。
【0026】
・蒸気タービン初段後の蒸気条件の計算手法(手順A2)
上述した蒸気タービン入口の主蒸気の圧力から蒸気タービン初段後の圧力損失を減算して蒸気タービン初段後の圧力を得る。この圧力損失はプラント特有の蒸気タービン設計情報に基づき計算される。また、上述した蒸気タービン入口の主蒸気の流量から他系統への蒸気の流入出量を加減算して蒸気タービン初段後の流量を得る。この蒸気タービン初段後の圧力と上述した蒸気タービン入口のエンタルピに基づき、蒸気物性の計算関数(蒸気表)を参照して蒸気タービン初段後の温度を計算される。蒸気の流速とロータ回転速度の合成流速と、動粘性係数に基づき、公知の熱伝達率計算の式により蒸気タービン初段後の蒸気−ロータ間の熱伝達率を計算する。この動粘性係数は、蒸気タービン初段後の圧力と温度から、蒸気表を参照することで計算される。
【0027】
2−1−2.制約条件予測計算回路
第1の制約条件予測計算回路25、第2の制約条件予測計算回路26、及び第3の制約条件予測計算回路27は、プラント状態量予測計算回路24で計算されたプラント状態量の予測値を基に、設定された予測期間にわたってそれぞれ対応する制約条件の予測値を計算する。
【0028】
各制約条件予測計算回路25〜27に対して設定する予測期間は、対応する制約条件について例えば熱源媒体や蒸気状態量の変化に対する経時変化の追従性(応答時間)に応じた長さに設定されている。本実施形態では、各制約条件予測計算回路25〜27に対して設定する予測期間をそれぞれ第1の予測期間、第2の予測期間及び第3の予測期間とする。
【0029】
前述のように、蒸気タービン3の起動制御に用いる制約条件は、タービンロータの熱応力やタービンロータの熱伸び差、車室の熱変形、車室内外壁の温度差等の蒸気タービンの起動に関わる構造体内部の温度差やメタル温度に起因するものが多く、上述の手順A2の計算結果に基づき、蒸気からメタルへの伝熱計算によりメタルの内部の温度分布を計算することにより得られる。例えば、タービンロータの熱応力は、蒸気からタービンロータへの伝熱計算によりタービンロータの半径方向の温度分布が計算され、線膨張率、ヤング率、ポアソン比等を用いた材料工学則に基づき計算される。タービンロータの熱伸び差は、蒸気からタービンロータ及び車室への伝熱計算によりタービンロータの軸方向に分割した蒸気タービンの各部位の温度が計算され、線膨張率を用いた材料工学則に基づき計算される。車室の熱変形は、蒸気から車室及び車室の軸、半径及び周方向の伝熱計算により車室内部の温度分布が計算され、線膨張率、ヤング率、ポアソン比等を用いた材料工学則に基づき計算される。車室の内外壁温度差は、蒸気から車室及び車室の軸、半径方向の伝熱計算により車室の半径方向の温度分布が計算されることで得られる。
【0030】
さらに、各制約条件予測計算回路25〜27はプラント状態量の実績値(計測値、及び計測値に基づく算出値を含む)に基づき、制約条件の予測値を補正する。以下、実績値に基づき制約条件の予測値を補正する手順について、
図2及び
図3を参照して説明する。
図2は制約条件の予測値の補正の概念を示す図である。
図2では、実時刻は現在時刻を指し、予測計算進行点と記された箇所まで制約条件の予測値の計算が進行した状態を示している。
図3は制約条件の予測値の補正手順を示すフローチャートである。なお、以下では、実績値に基づき制約条件の予測値を補正する手順をタービンロータの熱応力の制約条件を例にして説明する。
【0031】
図2及び
図3に示すように、各制約条件予測計算回路25〜27は、不図示の検出器を介して、実時刻までの蒸気条件やメタル温度等のプラント状態量の計測値を取得する(S1)。各制約条件予測計算回路25〜27は、プラント状態量の計測値に基づき熱応力の実績値を計算する(S2)。一方、各制約条件予測計算回路25〜27は、実時刻より先行して予測計算進行点までのタービンロータの熱応力の予測値を計算する(S3)。次に、各制約条件予測計算回路25〜27は実時刻におけるタービンロータの熱応力の実績値と予測値との偏差Δδを計算し(S4)、実時刻以降に計算されるタービンロータの熱応力の予測値をタービンロータの熱応力の実績値との偏差Δδを少なくするように補正する(S5)。そして、各制約条件予測計算回路25〜27は、プラントの起動完了条件が満足しているかどうか、すなわちプラントの起動が完了したかどうかを判断する(S6)。プラントの起動完了条件が満足している場合には、S1〜S5の手順を終了する。一方、プラントの起動完了条件が満足していない場合には、S1〜S5の手順が繰り返し実行される。なお、
図2及び
図3ではタービンロータの熱応力の実績値に応じて予測値を補正する手順を例示したが、タービンロータの熱伸び差、車室の熱変形、又は車室内外壁の温度差等の他の制約条件の予測値について補正を行ってもよく、又は蒸気温度、蒸気圧力、若しくは蒸気タービン所定部位メタル温度等のプラント状態量の予測値について補正を行ってもよい。補正方法はいずれの場合も同様である。また、上述の説明ではタービンロータの熱応力の予測値が実績値に応じて補正される場合を例示したが、タービンロータの熱応力の計測値に応じて補正されてもよい。
【0032】
2−2.起動制御パラメータ計算回路
起動制御パラメータ計算回路32は、プラント状態量の初期値(プラント初期状態量)に基づいて蒸気タービン3の起動制御に用いる起動制御パラメータを計算する。プラント初期状態量はプラント起動初期(起動運転開始時)のプラント状態量であり、例えば、起動初期の蒸気タービン入口車室やタービンロータ等のメタル温度(初期メタル温度)、又はタービンロータの熱応力値もしくは熱伸びの値、又はタービンロータの熱伸び差もしくは車室の内外壁温度差等の蒸気タービンの各部位間の温度差等のように計測値に基づき直接的に評価可能な状態量だけでなく、停止後経過時間のように間接的に状態を評価可能な状態量も用いられ得る。例えばメタル温度のように計測器を用いて直接計測できる状態量を用いる場合、より正確に初期状態を推定することが可能となる。一方、例えば熱応力等のように計測値に基づく算出値のように間接的に得られる状態量を用いる場合、目的の状態量を直接計測する専用の計測器を設ける必要がないため設備コストを減らすことができる。
【0033】
起動制御パラメータは、制約条件の予測値に基づき要求プラント操作量(後述する)を決定するのに用いるパラメータや、起動スケジュールに関する制御設定値である。この起動制御パラメータについて
図4を参照して説明する。
図4は起動スケジュールの一例であって、起動制御パラメータ計算回路32で計算される起動制御パラメータを説明する図である。
【0034】
起動制御パラメータの例としては、制約条件の予測値と制限値との差Δσに基づき、熱源装置の負荷が単位時間あたりに変化するレート(負荷変化率)を計算する関数f(Δσ,a)のパラメータa、熱源装置の負荷を変化させずに一定値に保つ時間(負荷保持時間)を計算する関数f(Δσ,b)のパラメータb、蒸気タービンの回転数上昇速度(昇速率)を計算する関数f(Δσ,c)のパラメータc、蒸気タービンの回転数や負荷等の状態を一定に保つ時間(ヒートソーク時間)を計算する関数f(Δσ,d)のパラメータd、及び蒸気タービンの負荷変化率を計算する関数f(Δσ,e)のパラメータe等がある。パラメータa〜eはそれぞれ関数f(Δσ,a)、f(Δσ,b)、f(Δσ,c)、f(Δσ,d)、f(Δσ,e)に含まれる係数等である。関数f(Δσ,a)、f(Δσ,b)、f(Δσ,c)、f(Δσ,d)、f(Δσ,e)は、制約条件毎に用意されている。例えば、負荷変化率の関数f(Δσ,a)は制約条件毎に用意されていて、パラメータaは制約条件毎に関数f(Δσ,a)から求めることができる。関数f(Δσ,a)、f(Δσ,b)、f(Δσ,c)、f(Δσ,d)、f(Δσ,e)は、起動制御パラメータ計算回路32に格納されていて、起動制御パラメータ計算回路32は入力されたプラント初期状態量を基にΔσを算出し、目的の起動制御パラメータを所望の関数から算出する。これら関数は、プラント初期状態量がプラント起動完了の状態に近いほど、起動時間を短縮する方向に起動制御パラメータを計算するように構築されている。例えば、メタル温度について言えば、初期値が高い値であるほど、熱源装置1の負荷変化率が大きくなるようパラメータaの値が計算され、負荷保持時間が短くなるようパラメータbの値が計算される。パラメータc, d, eについても同様である。なお、関数の代わりに、例えばプラント初期状態量と起動制御パラメータとの関係テーブルを起動制御パラメータ計算回路32に格納しておき、このテーブルを参照して、与えられたプラント初期状態量に対応した起動制御パラメータを決定する構成としてもよい。一方、起動スケジュールに関する制御設定値の例として、蒸気タービン通気温度vやヒートソーク回転数w、ヒートソーク負荷x、熱源装置を負荷保持する負荷y等がある。上記ではこれら各起動制御パラメータを、a, b,・・・vのようにそれぞれ1つの変数として示したが、a
1, a
2・・・,b
1, b
2・・・, v
1, v
2・・・のように複数の変数としてもよい。
【0035】
2−3.プラント操作量計算部
プラント操作量計算部23は、予測部22で計算された制約条件の予測値と起動制御パラメータ計算回路32で計算された起動制御パラメータとに基づき制約条件が予め決定された制限値を超えないよう要求プラント操作量を決定する。プラント操作量計算部23は、第1の要求操作量計算回路28、第2の要求操作量計算回路29、第3の要求操作量計算回路30及び低値選択装置31を備える。
【0036】
2−3−1.要求操作量計算回路
第1の要求操作量計算回路28は第1の制約条件予測計算回路25で計算された制約条件の予測値と、起動制御パラメータ計算回路32で設定された起動制御パラメータとに基づき、制約条件が予め設定された制限値を超えないよう指令値出力回路41〜45に対する各要求プラント操作量を計算する。第1の制約条件予測計算回路25及び起動制御パラメータ計算回路32から第1の要求操作量計算回路28に入力される値は、対応する制約条件(例えば熱応力)について計算された値である。つまり、第1の制約条件予測計算回路25から入力される値は例えば熱応力の予測値であり、起動制御パラメータ計算回路32から入力される値は例えば熱応力についての制限値と予測値との差Δσを変数とする例えば負荷変化率の関数から求められた起動制御パラメータ(この場合a)である。第1の要求操作量計算回路28と同じく、第2の要求操作量計算回路29、第3の要求操作量計算回路30も、それぞれ第2の制約条件予測計算回路26、第3の制約条件予測計算回路27で計算された制約条件の予測値と起動制御パラメータ計算回路32で対応する制約条件について計算された起動制御パラメータとに基づいて、対応する制約条件が制限値を超えないよう指令値出力回路41〜45に対する各要求プラント操作量を計算する。これら要求プラント操作量は先の各関数に従って制限値を限度として計算される値である。従ってその項目としては、蒸気タービンの昇速率やヒートソーク時間、負荷変化率、熱源装置の負荷変化率や負荷保持時間等がある。要求操作量計算回路28〜30のそれぞれにおいて、要求プラント操作量の計算に用いられる起動制御パラメータは複数であってもよい。つまり、要求操作量計算回路28〜30のそれぞれにおいて、指令値出力回路41〜45に対する要求プラント操作量が複数組計算される構成である。要求プラント操作量は、Δσが大きければプラント操作量の変化率を大きく、Δσが小さければプラント操作量の変化率を小さくするよう計算される。
【0037】
2−3−2.低値選択装置
低値選択装置31は、要求操作量計算回路28〜30が計算した指令値出力回路41〜45に対する各要求プラント操作量を入力し、指令値出力回路41〜45のそれぞれに対して、複数の要求プラント操作量の中から最小値を選択し、選択した要求プラント操作量をそれぞれ調整装置41〜45に出力する。
【0038】
2−4.指令値出力回路
熱源媒体量操作状態計算回路41、低温流体量操作状態計算回路42、主蒸気加減弁操作状態計算回路43、バイパス弁操作状態計算回路44、減温器操作状態計算回路45は、低値選択装置31から入力された要求プラント操作量を基に、この要求プラント操作量を満足するようにそれぞれ熱源媒体量操作部11、低温流体量操作部12、主蒸気加減弁13、バイパス弁14、減温部15に対するプラント操作量の指令値(操作状態指令値)を算出する。熱源媒体量操作状態計算回路41、低温流体量操作状態計算回路42、主蒸気加減弁操作状態計算回路43、バイパス弁操作状態計算回路44、減温器操作状態計算回路45は、算出したプラント操作量の指令値をそれぞれ熱源媒体量操作部11、低温流体量操作部12、主蒸気加減弁13、バイパス弁14、減温部15に出力する。
【0039】
(効果)
(1)蒸気タービンの起動の高速化
本実施形態では、起動制御パラメータがプラント初期状態量に応じて設定され、この起動制御パラメータに基づき熱源装置1や蒸気タービン3等の起動スケジュールが予測制御により調整される。すなわち、本実施形態に係る起動制御装置21では、起動制御パラメータ及び起動スケジュールをプラント初期状態量に応じて柔軟に設定することができる。従って、様々なプラント初期状態量に応じて蒸気タービンを高速に起動することができる。
【0040】
図5は、起動スケジュールにおける発電プラント100の停止後経過時間と所要起動時間との関係を示す図である。横軸は停止後経過時間、縦軸は所要起動時間を示している。起動運転開始時がA未満の場合の起動モードをホット起動、A以上B未満の場合をウォーム起動、B以上の場合をコールド起動と呼ぶ。A、B(A<B)は設定値である。
図5において、点線は起動スケジュール及び起動制御パラメータの双方を起動モード依存とした比較例1を示している。比較例1では、停止後経過時間によって起動モードが決まる。同一起動モードでは、停止後経過時間によらず、所要起動時間は一律に設定されるため、起動制御パラメータはモード毎に統一され、起動スケジュールも起動モードが同じであれば同じである。破線は起動スケジュールを予測制御により調整し、起動制御パラメータを起動モード依存とした比較例2を示している。この場合、停止後経過時間で起動モードが決まる点では比較例1と同様であるが、同一起動モードでも停止後経過時間が短いほど所要起動時間が短い起動スジュールが算出される。予測制御による効果である。しかし、起動制御パラメータについては、起動モードが同じであれば停止後経過時間によらず一律に設定されるため、各起動モードの境界で起動制御パラメータの変更に起因する不連続点が生じる。従って、いずれの比較例においても各起動モードで停止後経過時間が短いほど起動スケジュールに必要以上の余裕が生じている。
【0041】
それに対し、実線は本実施形態で説明したモードレス起動を採用した場合を示している。本実施形態では起動モードの概念がなく(モードレス起動)、起動制御パラメータがプラント初期状態量に応じて連続的に変化するため、所要起動時間と停止後経過時間との関係線が屈曲することなく(角をもつことなく)なめらかに連続的につながった線になる。このように、本実施形態では、制約条件の制限値に対する必要以上の余裕を排除することができるので、信頼性、計画性の双方について妥当性の高い起動スケジュールを立てることができ、プラントをより安全かつ高速に起動することができる。なお、
図5の横軸を、例えば初期メタル温度など他のプラント初期状態量に置き換えても同様の結果が得られる。
【0042】
また、本実施形態では、各制約条件予測計算回路25〜27が手順(S1)〜(S6)に基づいてタービンロータの熱応力の予測値を実績値に応じて補正する。そのため、タービンロータの熱応力の予測精度がより向上し、発電プラントをより安全に起動することができる。また、タービンロータの熱応力の予測値の誤差を考慮して、制約条件の制限値に対してマージン(余裕代)を設けている場合にも、予測精度を向上させることでマージンを減少させ、起動時間をより短縮することができる。
【0043】
<第2実施形態>
図6は起動制御装置21を用いた起動スケジュール策定システム53の概略図である。
図6において、上記第1実施形態と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0044】
(構成)
本実施形態は、蒸気タービンプラント50に代えてプラント状態予測回路5を備える点で第1実施形態と異なる。具体的には、
図6に示すように、起動スケジュール策定システム53は起動制御装置21と、蒸気タービンプラント50の特性を模擬したプラント状態予測回路5とを備える。各構成要素について次に順次説明していく。
【0045】
1.プラント状態予測回路
プラント状態予測回路5はシミュレータの一種であり、蒸気タービンプラントを構成する熱源装置、蒸気発生設備、蒸気タービン等といった各構成要素に対応する複数の計算部を備えている。各計算部は、対応する構成要素の圧力や流量を公知の流体力学の式から計算する圧力・流量計算モデル、プラントの構造体−作動流体間のエネルギーバランスを公知の熱力学の式や伝熱の式から計算する温度計算モデル等を組み合わせて構築されている。
【0046】
プラント状態予測回路5の各構成要素は、起動制御装置21の指令値出力回路(熱源媒体量操作状態計算回路41、低温流体量操作状態計算回路42、主蒸気加減弁操作状態計算回路43、バイパス弁操作状態計算回路44、及び減温器操作状態計算回路45)から出力されたプラント操作量の指令値を入力し、上述の計算モデルを用いてプラント操作量及びプラント状態量を模擬計算する。起動制御装置21からのプラント操作量の指令値は、例えばプラント状態量の初期値として任意の値を入力することで得られる。
【0047】
2.起動制御装置
起動制御装置21は、プラント状態予測回路5で模擬計算されたプラント操作量及びプラント状態量を入力し、第1実施形態と同様、プラント操作量及びプラント状態量に基づき制約条件の予測値を計算し、制約条件の予測値と起動制御パラメータとに基づき指令値出力回路41〜45に対する要求プラント操作量を決定する。この起動制御装置21は第1実施形態で説明したものと同じであるが、蒸気タービンプラント50に接続したものであっても、蒸気タービンプラント50とは独立したものであっても構わない。
【0048】
起動スケジュール策定システム53は、上述のようにして計算された各プラント操作量やプラント状態量を、プラントの起動開始から起動完了までの期間にわたって経時的に不図示の記憶部に蓄積し、プラントの計画起動スケジュールを生成する。
【0049】
(効果)
上記構成により、本実施形態では前述した第1実施形態で得られる起動スケジュールを模擬することができるので、プラントの計画起動スケジュールを予め作成し、プラントをこのスケジュールに基づき起動することができる。そのため、第1実施形態と同様の効果に加え、プラントの電力系統への併入時刻や起動完了時刻等の情報をオペレータが事前に入手可能であり、プラント起動計画と電力系統との調整を効率よく実施できるといった効果も得られる。
【0050】
<第3実施形態>
本実施形態で例示する起動計画策定支援システム60は、実際のプラントの起動タイムスケジュール策定に際して、前回のプラント停止時刻と次回のプラント起動完了目標時刻とが与えられた場合に、プラントをどのように起動すればよいかについて起動計画を生成するための起動スケジュール策定システム53の具体的適用例である。
【0051】
図7は起動スケジュール策定システム53を用いた起動計画策定支援システム60の構成を内部の計算手順と併せて示す図である。
図7において、上記第2実施形態と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0052】
(構成)
図7に示すように、起動計画策定支援システム60はユーザインターフェース51、プラント初期状態計算回路52、起動スケジュール策定システム53、及び出力装置54を備える。各構成要素について次に順次説明していく。
【0053】
1.ユーザインターフェース
ユーザインタフェース51には、前回のプラント停止時刻、及び次回のプラント起動完了目標時刻が入力される。これら入力情報は例えばオペレータによって入力され、ユーザインタフェース51を介してプラント初期状態計算回路52に出力される。
【0054】
2.プラント初期状態計算回路
プラント初期状態計算回路52は、ユーザインタフェース51を介して入力された情報に基づきプラント初期状態量を計算する。プラント初期状態計算回路52によるプラント初期状態量の計算手順を
図7を参照して説明する。
【0055】
・手順B1
まず、プラント初期状態計算回路52は起動開始時刻の初期値を計算する。計算方法としては、現在時刻又はユーザインタフェース51に入力された次回のプラント起動完了目標時刻を初期値として用いる方法がある。計算された起動開始時刻の初期値は、起動開始時刻として起動開始時間計算回路52に備えられた不図示の記憶領域に蓄積される。初期値が計算されることで、以下の手順によって起動開始時刻が繰り返し計算によって順次更新されていく。
【0056】
・手順B2
続いて、プラント初期状態計算回路52は、起動開始時間計算回路52の記憶領域に蓄積された起動開始時刻と、ユーザインタフェース51に入力されたプラント停止時刻との差から、停止後経過時間を計算する。
【0057】
・手順B3
続いて、プラント初期状態計算回路52は、計算した停止後経過時間に基づき所要起動時間を計算する。所要起動時間は、例えば
図5に示した停止後経過時間と所要起動時間との関係に基づき計算される。停止後経過時間と所要起動時間の関係は起動スケジュール策定システム53の起動制御装置21から取得することができる。予めプラント初期状態計算回路52に、この停止後経過時間と所要起動時間の関係をテーブルとして格納しておいても良い。
【0058】
・手順B4
続いて、プラント初期状態計算回路52は、ユーザインタフェース51に入力された次回のプラント起動完了目標時刻から手順B3で計算された所要起動時間を差し引いて、起動開始時刻を逆算する。この起動開始時刻は起動開始時間計算回路52の不図示の記憶領域に再度蓄積され、最新の起動開始時刻として更新される。
【0059】
・手順B5
続いて、プラント初期状態計算回路52は、記憶領域に蓄積された最新の起動開始時刻と、前回の(二番目に新しい)起動開始時刻との差が予め定めた規定時間か否か判断する。この差が規定時間を超過している場合には手順B2から手順B4までの操作が繰り返される。一方、この差が規定時間未満となった場合には、手順B6に手順が移る。
【0060】
・手順B6
プラント初期状態計算回路52は、手順B2で計算された停止後経過時間に基づき、初期メタル温度等のプラント初期状態量を計算する。初期メタル温度は、例えば停止後経過時間と初期メタル温度のテーブルに基づき計算される。このテーブルは、例えば蒸気タービンのメタル容量や大気への放熱量等、プラント特性によって予め計算され、プラント初期状態計算回路52に格納されている。
【0061】
上述の手順で計算されたプラント初期状態量は、起動スケジュール策定システム53に入力される。
【0062】
ここで、
図8は、起動完了時刻、起動開始時刻、停止後経過時間、及び所要起動時間の関係を示す図である。
図8において、点線は停止後経過時間に応じた初期メタル温度の推移を示しており、初期メタル温度はプラントの停止後経過時間が増加するほど低下する。実線は停止後経過時間に応じた所要起動時間を示しており、所要起動時間は初期メタル温度が低下するほど増加する。
図8の実線を、入力が停止後経過時間で出力が所要起動時間である所要起動時間増加関数と呼ぶ。ある起動開始時刻を仮定した場合、前回停止時刻との差が停止後経過時間となるので、これを所要起動時間増加関数に代入して得られる値t
1が所要起動時間である。一方、前回停止時刻から起動完了時刻までの時間から停止後経過時間を差引いて得られる値t
2も所要起動時間である。なお、本実施形態では起動開始時刻の計算手順として上記の手順B1〜B5を例示したが、このt
1とt
2の数値が等しくなるような起動開始時刻の計算方法であれば、どのような手法を用いてもよい。
【0063】
3.起動スケジュール策定システム
起動スケジュール策定システム53は、第2実施形態で説明した通り、プラント初期状態量を入力として起動スケジュールを生成する。
【0064】
4.出力装置
出力装置54は、次回起動における停止後経過時間(つまり起動運転開始時刻)と所要起動時間等の、起動スケジュール策定システム53による策定内容を表示する。出力態様は表示出力に限らず、音声出力、印刷出力等、他の態様でも構わない。
【0065】
(効果)
上記構成により、本実施形態では前述した各実施形態で得られる各効果に加えて、次の効果が得られる。
【0066】
本実施形態では、オペレータが次回のプラント起動完了目標時刻等を指定すると、これを満たすような停止後経過時間と所要起動時間の組み合わせが保有されたテーブルに基づき繰り返し計算される。そのため、所要起動時間、及びそれに対応した起動タイムスケジュールを事前に取得することが可能となる。従って、電力系統における所望の発電時刻を遵守することができる起動タイムスケジュールを生成することができる。
【0067】
また、本実施形態では、オペレータは出力装置54の出力により起動スケジュール策定システム53による策定内容を確認することができる。そのため、オペレータは安全面、効率面等を勘案し、運転スケジュールの妥当性を検討することができる。
【0068】
<その他>
本発明は上記した各実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を追加することも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除及び置換をすることも可能である。
【0069】
例えば、蒸気タービンプラント50が熱源媒体量操作部11、低温流体量操作部12、主蒸気加減弁13、バイパス弁14、及び減温器15を調整装置として有する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、本発明の本質的効果は様々なプラント初期状態量に応じて制約条件を満たしつつ蒸気タービンプラント50を高速に起動することであり、この本質的効果を得る限りにおいては、例示した全ての調整装置が必ずしも必要なわけではない。例えば、蒸気タービン発電プラント50の態様に応じて選択された少なくとも一つの調整装置が備わっていればよい。
【0070】
また、起動制御装置21に蒸気タービンプラント50のプラント操作量及びプラント状態量が入力される場合を例に挙げて説明した。しかしながら、上述した本発明の本質的効果を得る限りにおいては、例えば、プラント操作量及びプラント状態量のうち少なくとも一つが起動制御装置21に入力される構成もあり得る。
【0071】
また、予測部22が3つの制約条件予測計算回路25〜27を備える場合を例に挙げて説明した。しかしながら、上述した本発明の本質的効果を得る限りにおいては、上記構成に限定されない。予測部22の制約条件予測計算回路は考慮対象とする制約条件の数によるものであり、少なくとも一つ備わっていればよい。要求操作量計算回路(28〜30)についても同様である。
【0072】
また、本発明に係る起動制御装置は、コンバインドサイクル発電プラント、汽力発電プラント、及び太陽熱発電プラント等の蒸気タービンを備えるプラント全てに適用可能である。
【0073】
例えば、本発明に係る起動制御装置をコンバインドサイクル発電プラントに適用する場合、
図1において熱源媒体には天然ガス・水素等の燃料ガス、熱源媒体量操作部11には燃料ガス調節弁、低温流体には空気、低温流体量操作部12には入口案内翼、熱源装置1にはガスタービン、高温流体にはガスタービン排ガス、蒸気発生設備2には排熱回収ボイラを採用することができる。
【0074】
また、本発明に係る起動制御装置を汽力発電プラントに適用する場合、
図1において熱源媒体には石炭や天然ガス、熱源媒体量操作部11には燃料調節弁、低温流体には空気や酸素、低温流体量操作部12には空気流量調節弁、熱源装置1にはボイラ中の火炉、高温流体には燃焼ガス、蒸気発生設備2にはボイラ中の伝熱部(蒸気発生部)を採用することができる。
【0075】
また、本発明に係る起動制御装置を太陽熱発電プラントに適用する場合、
図1において熱源媒体には太陽光、熱源媒体量操作部11には集熱パネルの駆動装置、低温流体及び高温流体には油や高温溶媒塩等の太陽熱エネルギを変換して保有している媒体、低温流体量操作部12はに油や高温溶媒塩等の流量調節弁、熱源装置1には集熱パネル、蒸気発生設備2には高温流体との熱交換により給水を蒸気へと加熱する設備を採用することができる。
【0076】
また、本発明に係る起動制御装置を燃料電池と蒸気タービンを組み合わせた発電プラントに適用する場合、
図1において熱源媒体には一酸化炭素・水素等の燃料ガス、熱源媒体量操作部11には燃料ガス調節弁、低温流体には空気、低温流体量操作部12には空気調節弁、熱源装置1には燃料電池、高温流体には燃料電池排ガス、蒸気発生設備2には排熱回収ボイラを採用することができる。