特許第6295103号(P6295103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ グリーンサイエンス・マテリアル株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6295103
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】水膨潤性シート
(51)【国際特許分類】
   A61L 15/28 20060101AFI20180305BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20180305BHJP
   A61L 15/60 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   A61L15/28
   A61K9/70 405
   A61L15/60
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-41264(P2014-41264)
(22)【出願日】2014年3月4日
(65)【公開番号】特開2015-165857(P2015-165857A)
(43)【公開日】2015年9月24日
【審査請求日】2017年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】307033763
【氏名又は名称】グリーンサイエンス・マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】金子 達雄
(72)【発明者】
【氏名】岡島 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】キッティマー アモンワシラボディー
(72)【発明者】
【氏名】三島 僚介
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−526095(JP,A)
【文献】 特開2009−221136(JP,A)
【文献】 特開2011−068606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00−33/18
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料として多糖類が用いられてなる水膨潤性シートであって、前記多糖類が400万〜6000万の重量平均分子量を有するスイゼンジノリ多糖体であり、水で膨潤させたときの厚さ方向の線膨潤変化率が1000%以上であり、面内方向の線膨潤変化率が10%以下であることを特徴とする水膨潤性シート。
【請求項2】
原料として多糖類が用いられてなる水膨潤性シートの製造方法であって、前記多糖類として400万〜6000万の重量平均分子量を有するスイゼンジノリ多糖体を用い、当該スイゼンジノリ多糖体およびジビニルスルホンを水性溶媒に溶解させ、得られたスイゼンジノリ多糖体水溶液を用いて被膜を形成させ、形成された被膜を気温が1〜60℃である雰囲気中で2〜300時間かけて乾燥させることを特徴とする請求項1に記載の水膨潤性シートの製造方法。
【請求項3】
原料として多糖類が用いられてなる水膨潤性シートの製造方法であって、前記多糖類として400万〜6000万の重量平均分子量を有するスイゼンジノリ多糖体を用い、当該スイゼンジノリ多糖体を水性溶媒に溶解させ、得られたスイゼンジノリ多糖体水溶液を用いて被膜を形成させ、形成された被膜を気温が1〜60℃である雰囲気中で2〜300時間かけて乾燥させた後、さらに乾燥させることによって得られた被膜を80〜160℃の温度に加熱し、スイゼンジノリ多糖体を架橋させることを特徴とする請求項に記載の水膨潤性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水膨潤性シートに関する。さらに詳しくは、例えば、手術の際の臓器などが癒着することを防止するための臓器癒着防止膜、創傷治療用絆創膏、創傷被覆膜、冷却用シート、臓器保存用クッションシート、体液吸い取りシート、細胞培養用シートなどの用途に使用することが期待される水膨潤性シートに関する。
【0002】
なお、本発明において、水膨潤性シートは、水または溶媒として水が用いられている水溶液によって膨潤する性質を有するシートを意味する。
【背景技術】
【0003】
水性ゲルは、水膨潤性を有し、柔軟であることから、生体関連材料として注目されている。水性ゲルのなかでも体液を吸収しながら膨潤する性質を有する水性ゲルは、手術痕癒着防止膜、創傷を被覆するための膜として使用することが検討されている。
【0004】
接着性および生体適合性に優れ、多量の水溶液を吸収する新水性ゲルのシートとして、線状水溶性ポリエチレンオキシドからなる液体フィルムに高エネルギー線を照射することによって得られる親水性ゲルのシートが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、前記親水性ゲルのシートは、引張強度が低いため、例えば、創傷被覆膜などの用途に適しているとはいえない。
【0006】
前記親水性ゲルのシートの欠点を解消し、引張強度に優れたゲルシートとして、ポリエチレンオキシドおよびポリビニルアルコールを含有する水溶液に電離性放射線を照射することによって得られる医用材料用ゲルシートが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
しかし、ゲルを生体適合性材料に適用するためには、ゲルを生体組織に貼付した後、水性成分を含浸させたときに生体組織からゲルが離脱しがたくするために、水性成分をゲルに含浸させたときにゲルが厚さ方向に膨潤するが、面内方向に膨潤しがたい性質、すなわち膨潤異方性を有することが要求されているところ、前記ゲルシートに水性成分を含浸させたとき、当該ゲルシートは、厚さ方向および面内方向において三次元的に同様の膨潤比で膨潤し、膨潤異方性に劣ることから、膨潤異方性が要求される生体適合性材料に適用しているとはいえない。
【0008】
したがって、近年、水性成分を含浸させたとき、厚さ方向に膨潤するが、面内方向に膨潤しがたく、膨潤異方性に優れ、生体適合性材などとして使用することができる水膨潤性シートの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63−29649号公報
【特許文献2】特開2000−210375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、水性成分を含浸させたとき、厚さ方向に膨潤するが、面内方向に膨潤しがたく、膨潤異方性に優れ、例えば、手術の際の臓器などが癒着することを防止するための臓器癒着防止膜、創傷治療用絆創膏、創傷被覆膜、冷却用シート、臓器保存用クッションシート、体液吸い取りシート、細胞培養用シートなどの用途に使用することが期待される水膨潤性シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、
(1) 原料として多糖類が用いられてなる水膨潤性シートであって、前記多糖類が400万〜6000万の重量平均分子量を有するスイゼンジノリ多糖体であり、水で膨潤させたときの厚さ方向の線膨潤変化率が1000%以上であり、面内方向の線膨潤変化率が10%以下であることを特徴とする水膨潤性シート、
(2)料として多糖類が用いられてなる水膨潤性シートの製造方法であって、前記多糖類として400万〜6000万の重量平均分子量を有するスイゼンジノリ多糖体を用い、当該スイゼンジノリ多糖体およびジビニルスルホンを水性溶媒に溶解させ、得られたスイゼンジノリ多糖体水溶液を用いて被膜を形成させ、形成された被膜を気温が1〜60℃である雰囲気中で2〜300時間かけて乾燥させることを特徴とする前記(1)に記載の水膨潤性シートの製造方法、および
) 原料として多糖類が用いられてなる水膨潤性シートの製造方法であって、前記多糖類として400万〜6000万の重量平均分子量を有するスイゼンジノリ多糖体を用い、当該スイゼンジノリ多糖体を水性溶媒に溶解させ、得られたスイゼンジノリ多糖体水溶液を用いて被膜を形成させ、形成された被膜を気温が1〜60℃である雰囲気中で2〜300時間かけて乾燥させた後、さらに乾燥させることによって得られた被膜を80〜160℃の温度に加熱し、スイゼンジノリ多糖体を架橋させることを特徴とする前記(1)に記載の水膨潤性シートの製造方
関する。
【0012】
なお、本発明において、シート、フィルムおよび膜(メンブレン)は、形態としての相違があるが、前記シートは、フィルムおよび膜(メンブレン)の概念を包含するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水性成分を含浸させたとき、厚さ方向に膨潤するが、面内方向に膨潤しがたく、膨潤異方性に優れ、例えば、手術の際の臓器などが癒着することを防止するための臓器癒着防止膜、創傷治療用絆創膏、創傷被覆膜、冷却用シート、臓器保存用クッションシート、体液吸い取りシート、細胞培養用シートなどの用途に使用することが期待される水膨潤性シートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の水膨潤性シートは、原料として多糖類が用いられた水膨潤性シートであり、前記多糖類が400万〜6000万の重量平均分子量を有する液晶性多糖類であり、水で膨潤させたときの厚さ方向(フィルム面に対して垂直方向)の線膨潤変化率が1000%以上であり、面内方向(フィルム面に対して水平方向)の線膨潤変化率が10%以下であることを特徴とする。
【0015】
なお、本発明において、液晶性とは、水性溶媒に溶解させたある濃度以上の溶液で自己配向する性質をいう。したがって、液晶性を有する多糖類を溶媒に溶解させた溶液から溶媒を除去するにしたがって当該多糖類の濃度が高くなり、最終的には多糖類が自己配向している乾燥シートが得られる。
【0016】
また、厚さ方向または面内方向の線膨潤変化率は、式:
[厚さ方向または面内方向の線膨潤変化率(%)]
={([膨潤後の厚さ方向または面内方向の厚さ]−[膨潤前の厚さ方向または面内方向の厚さ])÷[膨潤前の厚さ方向または面内方向の厚さ]}×100
に基づいて求めたときの値である。
【0017】
本発明者らは、水性成分を含浸させたとき、厚さ方向に膨潤するが、面内方向に膨潤しがたく、例えば、手術の際の臓器などが癒着することを防止するための臓器癒着防止膜、創傷治療用絆創膏、創傷被覆膜、冷却用シート、臓器保存用クッションシート、体液吸い取りシート、細胞培養用シートなどの用途に使用される水膨潤性シートなどとして使用することが期待される水膨潤性シートを開発するべく鋭意研究を重ねた結果、種々ある多糖類のなかでも400万〜6000万の重量平均分子量を有する液晶性多糖類は、厚さ方向に膨潤するが、面内方向に膨潤しがたく、膨潤異方性を有する水膨潤性シートを製造するのに好適に使用することができるものであることが見出された。
【0018】
400万〜6000万の重量平均分子量を有する液晶性多糖類としては、例えば、スイゼンジノリ多糖体(重量分子量:2000万以上)、キサンタンガム(重量分子量:400万)などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの液晶性多糖類は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの液晶性多糖類のなかでは、厚さ方向に膨潤するが、面内方向に膨潤しがたい性質に優れていることから、スイゼンジノリ多糖体が好ましい。スイゼンジノリ多糖体は、スイゼンジノリから容易に抽出することができる。
【0019】
前記液晶性多糖類は、本発明の目的が阻害されない範囲内で、当該液晶性多糖類以外の他の水溶性高分子化合物と混合して用いられていてもよい。
【0020】
なお、多糖類として、例えば、セルロース、アミロース、キチン、ペクチン、フコイダン、カラギーナン、アルギン酸、こんにゃく、グルコマンナン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、ヘパリン、スピルランなどがあるが、本発明者らが研究をしたところ、これらの多糖類は、いずれも、厚さ方向および面内方向にほぼ同等に膨潤するため、膨潤異方性を有する水膨潤性シートに好適に使用することができることができないことが確認されている。
【0021】
本発明の水膨潤性シートは、例えば、
(1) 多糖類として400万〜6000万の重量平均分子量を有する液晶性多糖類を用い、当該液晶性多糖類および水溶性架橋剤を水性溶媒に溶解させ、得られた液晶性多糖類水溶液を用いて被膜を形成させ、形成された被膜を気温が1〜60℃である雰囲気中で2〜300時間かけて乾燥させる方法(以下、方法1という)、
(2) 多糖類として400万〜6000万の重量平均分子量を有する液晶性多糖類を用い、当該液晶性多糖類を水性溶媒に溶解させ、得られた液晶性多糖類水溶液を用いて被膜を形成させ、形成された被膜を気温が1〜60℃である雰囲気中で2〜300時間かけて乾燥させた後、さらに乾燥させることによって得られた被膜を80〜160℃の温度に加熱し、液晶性多糖類を架橋させる方法(以下、方法2という)
などによって調製することができる。
【0022】
方法1においては、液晶性多糖類溶液は、液晶性多糖類および水溶性架橋剤を水性溶媒に溶解させることによって調製することができる。また、方法2においては、液晶性多糖類溶液は、液晶性多糖類を水性溶媒に溶解させることによって調製することができる。
【0023】
なお、方法1において、液晶性多糖類および水溶性架橋剤を水性溶媒に溶解させるという概念には、文言どおりに液晶性多糖類および水溶性架橋剤を水性溶媒に溶解させることのほか、液晶性多糖類を水性溶媒に溶解させた溶液に水溶性架橋剤を溶解させること、および水溶性架橋剤を水性溶媒に溶解させた溶液に液晶性多糖類を溶解させることが包含される。
【0024】
水性溶媒としては、例えば、水をはじめ、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコールなどの脂肪族1価アルコール;エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどの脂肪族多価アルコール;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、ジエチルエーテルなどのエーテル;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン;ホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド;酢酸エチルなどのエステル;ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレンなどのカーボネート、酢酸などのカルボン酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの水性溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの水性溶媒のなかでは、水が好ましい。水性溶媒のpHは、特に限定されず、通常、1〜14であればよい。
【0025】
なお、水性溶媒には、本発明の目的が阻害されない範囲内で、例えば、塩化ナトリウムなどの無機塩などが溶解して含まれていてもよい。
【0026】
液晶性多糖類を水性溶媒に溶解させる際の水性溶媒の温度は、特に限定されないが、液晶性多糖類を水性溶媒に効率よく溶解させる観点から、20〜95℃程度であることが好ましい。なお、液晶性多糖類を水性溶媒に溶解させる際には、液晶性多糖類を十分に溶解させる観点から、当該水性溶媒の撹拌下で液晶性多糖類を水性溶媒に溶解させることが好ましい。液晶性多糖類を水性溶媒に溶解させるのに要する時間は、液晶性多糖類を溶解させるときの温度、溶解させる液晶性多糖類の量などによって異なるので一概には決定することができないが、水性成分を含浸させたときに厚さ方向に膨潤するが面内方向に膨潤しがたい水膨潤性シートを得る観点から、好ましくは1〜24時間、より好ましくは2〜16時間、さらに好ましくは4〜10時間である。なお、前記水性成分は、水または水を含有する液体を意味し、その代表的なものとして前記水性溶媒、体液などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0027】
液晶性多糖類を水性溶媒に溶解させることによって得られる液晶性多糖類溶液における液晶性多糖類の濃度は、水性成分を含浸させたときに厚さ方向に膨潤するが面内方向に膨潤しがたく、膨潤異方性を有する水膨潤性シートを得る観点から、好ましくは0.01〜30質量%、より好ましくは0.1〜5質量%、さらに好ましくは0.3〜3質量%である。
【0028】
方法1においては、液晶性多糖類溶液には、当該液晶性多糖類溶液を十分にゲル化させるために水溶性架橋剤が含まれる。
【0029】
前記水溶性架橋剤は、当該水溶性架橋剤が有する官能基が1個以上未反応の状態で導入されたゲルを調製し、得られたゲルを乾燥させることにより、自己配向性を有するシートの構造を安定化させる性質を有する。
【0030】
水溶性架橋剤としては、例えばけ、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、トリメチルプロパントリ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリロイル基を少なくとも2個、好ましくは2〜4個有する(メタ)アクリレート化合物;N,N’−メチレンビスアクリルアミドなどのビス(メタ)アクリルアミド化合物;ジビニルスルホン、ジビニルベンゼン、ジエチレングリコールジビニルエーテルなどのジアルキレングリコールジビニルエーテル;ジビニルケトン;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ポリグリセリンジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテルなどのエポキシ基を少なくとも2個、好ましくは2個有するエポキシ化合物;エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、α−メチルエピクロロヒドリンなどのハロゲン化エポキシ化合物;2,4−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、リジンメチルジイソシアネートなどのイソシアネート基を少なくとも2個、好ましくは2個有するイソシアネート化合物;3−メチル−3−オキセタンメタノール、3−エチル−3−オキセタンメタノール、3−ブチル−3−オキセタンメタノール、3−メチル−3−オキセタンエタノール、3−エチル−3−オキセタンエタノール、3−ブチル−3−オキセタンエタノールなどのオキセタン化合物;ホルムアルデヒド、グリオキザール、マレアルデヒド、グルタルアルデヒドなどのアルデヒド化合物;尿素;N,N,N−トリアクリロイルヘキサヒドロトリアジン、N,N,N−トリアクリロイルヘキサヒドロトリアジンなどのトリアジン化合物;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、パラフェニレンジアミン、リジンメチルエステル、ポリアミドアミンデンドリマー、ポリリジンなどのアミノ基を少なくとも2個、好ましくは2個または3個有するアミン化合物;マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、イタコン酸、テレフタル酸、フマル酸、マレイン酸、ポリアクリル酸などのカルボキシル基を少なくとも2個、好ましくは2個または3個有するカルボン酸化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの水溶性架橋剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
水溶性架橋剤のなかでは、(メタ)アクリロイル基を少なくとも2個、好ましくは2〜4個有する(メタ)アクリレート化合物、ビス(メタ)アクリルアミド化合物、ジビニルベンゼン、ジビニルスルホン、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ジビニルケトン、エポキシ基を少なくとも2個、好ましくは2個有するエポキシ化合物、イソシアネート基を少なくとも2個、好ましくは2個有するイソシアネート化合物、オキセタン化合物、アルデヒド化合物、尿素、トリアジン化合物、アミノ基を少なくとも2個、好ましくは2個または3個有するアミン化合物およびカルボキシル基を少なくとも2個、好ましくは2個または3個有するカルボン酸化合物が好ましく、(メタ)アクリロイル基を少なくとも2個、好ましくは2〜4個有する(メタ)アクリレート化合物、ビス(メタ)アクリルアミド化合物、ジビニルスルホンおよびイソシアネート基を少なくとも2個、好ましくは2個有するイソシアネート化合物がより好ましく、ジビニルスルホンがさらに好ましい。これらの水溶性架橋剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
水溶性架橋剤は、水性溶媒と混合してもよく、あるいは液晶性多糖類溶液と混合してもよい。
【0033】
なお、本発明において、(メタ)アクリロイルは、アクリロイルまたはメタクリロイルを意味し、(メタ)アクリレートはアクリレートまたはメタクリレートを意味し、(メタ)アクリルアミドは、アクリルアミドまたはメタクリルアミドを意味する。
【0034】
水溶性架橋剤の量は、液晶性多糖類の種類などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、水性成分を含浸させたときに厚さ方向に膨潤するが面内方向に膨潤しがたい水膨潤性シートを得る観点から、液晶性多糖類100質量部あたり、好ましくは0.3〜5質量部、より好ましくは0.5〜3質量部、さらに好ましくは0.5〜1質量部である。
【0035】
次に、方法1においては、液晶性多糖類および水溶性架橋剤を溶解させた液晶性多糖類溶液を基材に塗布することにより、被膜を形成させる。また、方法2においては、液晶性多糖類を水性溶媒に溶解させた液晶性多糖類溶液を基材に塗布することにより、被膜を形成させる。
【0036】
以下、別段の断りがなければ、液晶性多糖類および水溶性架橋剤を溶解させた液晶性多糖類溶液、および液晶性多糖類を水性溶媒に溶解させた液晶性多糖類溶液は、便宜上、いずれも液晶性多糖類溶液という。
【0037】
液晶性多糖類溶液を基材に塗布する際に用いられる基材としては、例えば、ガラス板、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル;ナイロン66などに代表されるポリアミド;ポリメチル(メタ)アクリレートなどに代表されるアクリル樹脂などの樹脂からなる樹脂板、繊維強化樹脂(FRP)板、炭素板、各種金属板などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0038】
液晶性多糖類溶液を基材に塗布する方法としては、例えば、スプレーコート法、ロールコート法、はけ塗り法、グラビアコート法、リバースコート法、ロールブラッシュ法、エアーナイフコート法、浸漬(ディッピング)法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0039】
液晶性多糖類溶液を基材に塗布することによって形成される被膜の厚さは、特に限定されないが、引張強度に優れ、被膜の厚さ方向における膨潤性を向上させ、膨潤異方性を向上させるとともに塗工性を向上させる観点から、好ましくは30〜300μm、より好ましくは50〜200μmである。なお、形成された被膜を乾燥させた後、当該被膜上に液晶性多糖類溶液をさらに重ね塗りすることにより、被膜の厚さを大きくすることができる。
【0040】
次に、以上のようにして液晶性多糖類溶液を基材に塗布することによって形成された被膜を乾燥させる。
【0041】
本発明においては、液晶性多糖類溶液を基材に塗布することによって被膜を形成させ、時間をかけて形成された被膜を乾燥させる方法にも1つの大きな特徴がある。
【0042】
一般に、形成された被膜を乾燥させる方法として、加熱乾燥法、温風乾燥法、赤外線などの電子線照射による乾燥法などが知られている。これに対して、本発明における方法(1)および方法(2)では、これらの乾燥法と相違して、あえて積極的に高温に加熱をせずに乾燥させる方法が採られているので、厚さ方向に膨潤するが、面内方向に膨潤しがたく、膨潤異方性に優れた水膨潤性シートを得ることができる。
【0043】
本発明の水膨潤性シートがこのように優れた性質を有する理由は、確かではないが、おそらく液晶性多糖類溶液を乾燥させる際に、被膜の厚さが徐々に減少するにしたがい、液晶性多糖類の分子が面内方向に徐々に配向し、さらに方法(1)においては、水溶性架橋剤が用いられているので、液晶性多糖類溶液を乾燥させているときに水溶性架橋剤と液晶性多糖類とが架橋し、形成された架橋構造が乾燥によって安定化され、方法(2)においては、液晶性多糖類溶液を乾燥させることによって液晶性多糖類の分子が面内方向に配向している被膜がさらに加熱されるので、当該加熱によって液晶性多糖類が架橋し、形成された架橋構造が安定化されることに基づくものと考えられる。
【0044】
方法(1)および方法(2)の方法のなかでは、方法(1)は、方法(2)のように形成された乾燥被膜を加熱しなくてもよく、膨潤異方性に優れた水膨潤性シートを効率よく製造することができるので好ましく、方法(2)は、方法(1)のように水溶性架橋剤が用いられていないことから生体適合性に優れているので好ましい。
【0045】
液晶性多糖類溶液によって形成された被膜は、気温が1〜60℃、好ましくは5〜50℃である大気などの雰囲気中で乾燥させることができる。その際、必要により本発明の目的が阻害されない範囲内で通気をしてもよい。また、形成された被膜を乾燥させるときの雰囲気の相対湿度についても特に限定がなく、通常の相対湿度、例えば、30〜80%程度であればよい。
【0046】
水溶性架橋剤を含有する液晶性多糖類溶液を基材に塗布することによって形成された被膜を乾燥させるのに要する時間は、厚さ方向に膨潤するが、面内方向に膨潤しがたく、膨潤異方性に優れた水膨潤性シートを得る観点から、好ましくは10〜300時間、より好ましくは80〜250時間、さらに好ましくは120〜200時間である。
【0047】
方法(1)によれば、前記操作を行なうことにより、本発明の水膨潤性シートが得られる。得られた水膨潤性シートは、基材から剥離することにより、使用に供することができる。
【0048】
また、方法(2)においては、水溶性架橋剤が用いられていないので、液晶性多糖類溶液を基材に塗布することによって形成された被膜を乾燥させた後、得られた乾燥被膜を80〜160℃の温度で加熱する。
【0049】
方法2において、乾燥被膜の加熱は、例えば、恒温槽、恒温室、熱風ドライヤーなどを用いて行なうことができ、本発明は、その加熱手段によって限定されるものではない。乾燥被膜の加熱温度は、乾燥被膜を十分に架橋させるとともに、当該乾燥被膜に熱履歴を残さないようにする観点から、80〜160℃、好ましくは100〜160℃、より好ましくは120〜140℃である。また、乾燥時間は、乾燥温度によって異なるので一概には決定することができないが、乾燥被膜中で水素結合などの物理的相互作用を生み出すのに要する時間であり、通常、30分間〜10日間、好ましくは1時間〜7日間である。なお、乾燥被膜の加熱は、基材から乾燥被膜を剥がした後に行なってもよい。
【0050】
方法2においては、以上のようにして乾燥被膜を加熱することにより、本発明の水膨潤性シートが得られる。得られた水膨潤性シートは、基材から剥離することにより、使用に供することができる。
【0051】
本発明の水膨潤性シートの乾燥後の厚さは、水溶性架橋剤を含有する液晶性多糖類溶液を基材に塗布することによって形成される被膜の厚さ、液晶性多糖類溶液における液晶性多糖類の濃度などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、10〜100μm程度である。
【0052】
なお、本発明の水膨潤性シートの大きさは、任意であり、本発明の水膨潤性シートの用途に応じて適宜調整することが好ましい。
【0053】
以上のようにして得られる本発明の水膨潤性シートは、厚さ方向に膨潤するが、面内方向に膨潤しがたいという性質、換言すれば、膨潤異方性に優れている。
【0054】
水膨潤性シートの膨潤異方性は、水膨潤性シートの線膨潤変化率によって評価することできる。水膨潤性シートの線膨潤変化率は、乾燥状態の水膨潤性シートの面内方向の長さおよび厚さ方向の長さと、水膨潤性シートを寸法変化がほとんどなくなるまで水に代表される水性溶媒で膨潤させた後の水膨潤性シートの面内方向の長さおよび厚さ方向の長さとを測定し、水性溶媒に膨潤させた後の水膨潤性シートの面内方向の長さおよび厚さ方向の長さと乾燥状態の水膨潤性シートの面内方向の長さおよび厚さ方向の長さとの差をそれぞれ乾燥状態の水膨潤性シートの面内方向の長さおよび厚さ方向の長さで除し、得られた値を100倍することによって求めることができる。
【0055】
水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率は、大きければ大きいほど好ましい。水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率は、例えば、手術の際の臓器などが癒着することを防止するための臓器癒着防止膜、創傷治療用絆創膏、創傷被覆膜、冷却用シート、臓器保存用クッションシート、体液吸い取りシート、細胞培養用シートなどの用途に好適に使用することができるようにするために膨潤異方性を高める観点から、1000%以上、好ましくは1500%以上であり、その上限値は、特に限定されないが、通常、好ましくは100000%以下、より好ましくは50000%以下である。
【0056】
また、水膨潤性シートの面内方向の線膨潤変化率は、小さいことが好ましい。水膨潤性シートの面内方向の線膨潤変化率は、例えば、手術の際の臓器などが癒着することを防止するための臓器癒着防止膜、創傷治療用絆創膏、創傷被覆膜、冷却用シート、臓器保存用クッションシート、体液吸い取りシート、細胞培養用シートなどの用途に好適に使用することができるようにするために膨潤異方性を高める観点から、10%以下、好ましくは8%以下、さらに好ましくは5%以下であり、その下限値は、特に限定されないが、通常、0%である。
【0057】
また、本発明の水膨潤性シートの線膨潤変化率比は、水性成分を含浸させたとき、厚さ方向に膨潤するが、面内方向に膨潤しがたく、膨潤異方性に優れた水膨潤性シートを得る観点から、好ましくは100以上、より好ましくは500以上、さらに好ましくは2000以上である。水膨潤性シートの線膨潤変化率比は、水膨潤性シートの面内方向の長さ(a0)および厚さ方向の長さ(b0)を測定し、当該水膨潤性シートを寸法変化がなくなるまで水に代表される水性溶媒で膨潤させた後の水膨潤性シートの面内方向の長さ(a1)および厚さ方向の長さ(b1)を測定し、式(I):
[膨潤変化率比]
={[(b1−b0)÷b0]÷[(a1−a0)÷a0]} (I)
にしたがって求められる値である。
【0058】
本発明の水膨潤性シートは、式(I)に基づいて求められる線膨潤変化率比が好ましくは100以上、より好ましくは500以上、さらに好ましくは2000以上であることから、厚さ方向に膨潤するが、面内方向に膨潤しがたいという優れた性質を有するので、例えば、手術の際の臓器などが癒着することを防止するための臓器癒着防止膜、創傷治療用絆創膏、創傷被覆膜、冷却用シート、臓器保存用クッションシート、体液吸い取りシート、細胞培養用シートなどの用途に使用される水膨潤性シートなどとして使用することが期待される。なお、本発明の水膨潤性シートの線膨潤変化率比の上限値は、大きいほど好ましく、特に限定されないが、形状安定性を向上させる観点から、好ましくは200000以下、より好ましくは150000以下、さらに好ましくは120000以下である。
【0059】
本発明の水膨潤性シートは、膨潤異方性に優れているので、例えば、ヒトなどの動物の手術時に臓器同士が癒着することを防止するために、当該臓器の癒着を防止が望まれる臓器間に挿入することができる。このように本発明の水膨潤性シートを臓器間に挿入したとき、体液によって当該水膨潤性シートが膨潤するので、臓器同士の癒着を防止することができる。また、本発明の水膨潤性シートは、人体適合性に優れている液晶性多糖類、好ましくはスイゼンジノリ多糖体および/またはキサンタンガム、より好ましくはスイゼンジノリ多糖体が使用されており、経時とともに分解することから、手術時に体内に水膨潤性シートを挿入しても支障をきたすことがないものと考えられる。
【実施例】
【0060】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0061】
製造例
スイゼンジノリ(Aphanothece sacrum)の原試料を凍結させた後、解凍することにより、スイゼンジノリ細胞体を破壊し、当該スイゼンジノリ細胞体に含まれている蛍光性色素であるフィコビリプロテインなどを溶出させ、水洗することによって除去した。
【0062】
次に、前記で水洗したスイゼンジノリ原試料をイソプロパノールで洗浄することにより、当該スイゼンジノリ原試料に含まれている脂溶性色素、クロロフィル、カロテノイド系色素などを除去した。前記でイソプロパノールを用いて洗浄したスイゼンジノリ試料を0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬し、当該溶液の液温を80℃に保ちながら5時間撹拌することにより、スイゼンジノリ細胞体を完全に破壊し、かつスイゼンジノリ試料に含まれているタンパク質やDNAなどの生体高分子を分解させ、これらの破壊残渣、解残渣およびスイゼンジノリ多糖体を含む溶液を得た。
【0063】
前記で得られた溶液をガーゼで濾過し、不純物を除去した後、当該溶液のpHがおよそ7〜8程度となるまで塩酸で中和した。その後、この溶液にイソプロパノールと水の混合溶媒(イソプロパノールと水の容量比:70:30)を添加し、撹拌することにより、スイゼンジノリ多糖体を精製し、回収した。
【0064】
前記で回収されたスイゼンジノリ多糖体を再度、水中溶解させ、得られたスイゼンジノリ多糖体水溶液をイソプロピルアルコールに添加することによってスイゼンジノリ多糖体を脱水させ、繊維化させた。繊維化されたスイゼンジノリ多糖体の収率は、スイゼンジノリ原試料乾燥重量に対し約50〜80質量%であった。
【0065】
以上のようにして精製されたスイゼンジノリ多糖体の重量平均分子量を多角度静的光散乱法(MALLS)にて以下の測定条件で測定した。その結果、当該スイゼンジノリ多糖体の重量平均分子量は、2900万であることが確認された。前記で精製されたスイゼンジノリ多糖体を以下の実施例で用いた。
【0066】
〔測定条件〕
・装置:Wyatt Technology社製、商品名:Dawn Heleos II
・注入時の濃度:0.01質量%
・注入量:100μL
・流速:1mL/min
・溶媒:0.1M硝酸ナトリウム水溶液
・カラム:昭和電工(株)製、商品名:Shodex OHpak SB-807 HQおよび商品名:Shodex OHpak SB-804 HQ
・カラムの温度:40℃
・測定温度:25℃
・レーザーの波長:665.2nm
・測定角:13.0°、20.7°、29.6°、37.5°、44.8°、53.1°、61.1°
・セルのタイプ:溶融シリカ
・RI検出器:Wyatt Technology社製、商品名:Optilab T-rEX、レーザーの波長:658.0nm
【0067】
実施例1
0.2Mの水酸化ナトリウムを含有し、スイゼンジノリ多糖体〔平均糖残基モル質量:180g/mol、平均質量:160mg(0.89mmol)〕を0.8質量/体積%の濃度で含有する水溶液20mLに水溶性架橋剤としてジビニルスルホン118mg(100μL、1mmol、分子量:118)を添加することにより、ジビニルスルホンを含有する液晶性多糖類溶液を得た。前記で得られた液晶性多糖類溶液を表面が平坦なポリエステル製のプレート上にスプレーコートした。前記プレートを25℃の大気中に170時間放置して被膜を乾燥させることにより、水膨潤性シートを得た。得られた水膨潤性シートをプレートから剥がし、その厚さを測定したところ、厚さは、約20μmであった。
【0068】
次に、前記で得られた水膨潤性シートを25℃の水中に10日間浸漬することにより、未反応の架橋剤を水中へ洗い出した後、水膨潤性シートを水中から取り出し、目視にて観察したところ、面内方向ではほとんど膨潤しておらず、厚さ方向に大きく膨潤していることが確認された。そこで、前記水で膨潤させた水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率および面内方向の線膨潤変化率を調べたところ、前記で得られた水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率は6650%であり、面内方向の線膨潤変化率は0.15%であることが確認された。
【0069】
次に、式(I)に基づいて水膨潤性シートの線膨潤変化率比を求めたところ、当該線膨潤変化率比は43400であった。このことから、前記で得られた水膨潤性シートは、厚さ方向に大きく膨潤し、面内方向にはほとんど膨潤しないことから、膨潤異方性に優れていることがわかる。
【0070】
次に、前記で得られた水膨潤性シートから一辺の長さが10mmの正方形状の試験片を切り出し、得られた試験片を用いて水膨潤性シートの物性として、圧縮弾性率を以下の方法に基づいて調べた。その結果、水膨潤状態における圧縮弾性率が231kPaであることが確認された。
【0071】
〔圧縮弾性率の測定方法〕
水膨潤性シートの圧縮弾性率は、テンシロン万能材料試験機〔(株)エー・アンド・デイ製、商品名:Instron 3365、ロードセル:5kN〕を用いて圧縮速度1mm/min、温度25℃にて測定した。
【0072】
また、前記で得られた水膨潤性シートを再度乾燥させ、当該水膨潤性シートの元素分析を行なったところ、炭素原子35.67質量%、水素原子5.53質量%、窒素原子0.60質量%、硫黄原子5.11質量%が含有されていることがわかった。これらの結果に基づいて、水膨潤性シートへの架橋剤のジビニルスルホンの導入率を求めたところ、スイゼンジノリ多糖体の糖残基あたりのジビニルスルホンの導入率が8.4モル%であることが確認された。
【0073】
上記の結果から、ジビニルスルホンの仕込み時のスイゼンジノリ多糖体の糖残基に対する比率(112モル%)と比較すると、約7/100の反応率でジビニルスルホンがスイゼンジノリ多糖体と反応したことがわかる。このことから、ジビニルスルホンは、スイゼンジノリ多糖体の糖残基に対する反応性が極めて低いことがわかる。
【0074】
前記で得られた水膨潤性シートの乾燥重量あたりの膨潤度(q)を式:
[水膨潤性シートの乾燥重量あたりの膨潤度(q)]
=[膨潤後のシートの重量]÷[膨潤前の乾燥状態のシートの重量]
に基づいて評価したところ、膨潤度(q)は21であり、架橋点間分子量(Mc)を式:
[架橋点間分子量(Mc)]=3(d/q)RT/K
〔式中、dは水膨潤性シートの密度(1g/cm3)、qは水膨潤性シートの乾燥重量あたりの膨潤度、Rは気体定数、Tは温度(300K)を示す〕
に基づいて求めたところ、架橋点間分子量(Mc)は、1500g/molであった。
【0075】
また、前記で得られた水膨潤性シートの架橋密度を式:
〔架橋密度〕=〔スイゼンジノリ多糖体の糖残基平均分子量〕/2〔架橋点間分子量〕
に基づいて求めたところ、当該架橋密度は6モル%であった。
【0076】
前記膨潤性シートの架橋密度がジビニルスルホンの導入率よりも若干低いことから、導入されたジビニルスルホンの一部が架橋点として機能していないことが判明した。このことから、ジビニルスルホンが有する1つのビニル基は、未反応の状態で残存し、スイゼンジノリ多糖体に存在しているものと考えられる。
【0077】
実施例2
実施例1において、ジビニルスルホンの量を176mg(150μL、1.5mmol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして厚さが約20μmである水膨潤性シートを製造した
【0078】
次に、前記で得られた水膨潤性シートを25℃の水中に10日間浸漬した後、水中から取り出し、当該水で膨潤させた水膨潤性シートの目視にて観察したところ、面内方向ではほとんど膨潤しておらず、厚さ方向に大きく膨潤していることが確認された。そこで、前記水で膨潤させた水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率および面内方向の線膨潤変化率を実施例1と同様にして測定したところ、水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率は5900%であり、面内方向の線膨潤変化率は0.22%であることが確認された。
【0079】
次に、式(I)に基づいて水膨潤性シートの線膨潤変化率比を求めたところ、当該線膨潤変化率比は、27300であった。このことから、前記で得られた水膨潤性シートは、厚さ方向に大きく膨潤し、面内方向にはほとんど膨潤しないことから、膨潤異方性に優れていることがわかる。
【0080】
前記で得られた水膨潤性シートの水膨潤状態における圧縮弾性率を実施例1と同様にして測定したところ、当該圧縮弾性率は455kPaであった。また、実施例1と同様にしてジビニルスルホンの導入率、水膨潤性シートの乾燥重量あたりの膨潤度(q)、架橋点間分子量(Mc)および架橋密度を求めたところ、ジビニルスルホンの導入率は16モル%であり、水膨潤性シートの乾燥重量あたりの膨潤度(q)は18であり、架橋点間分子量(Mc)は900g/molであり、架橋密度は10モル%であった。
【0081】
実施例3
実施例1において、ジビニルスルホンの量を236mg(200μL、2mmol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして厚さが約20μmである水膨潤性シートを製造した。
【0082】
次に、前記で得られた水膨潤性シートを25℃の水中に10分間浸漬した後、水中から取り出し、当該水で膨潤させた水膨潤性シートの目視にて観察したところ、面内方向ではほとんど膨潤しておらず、厚さ方向に大きく膨潤していることが確認された。そこで、前記水で膨潤させた水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率および面内方向の線膨潤変化率を実施例1と同様にして測定したところ、水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率は5100%であり、面内方向の線膨潤変化率は0.31%であることが確認された。
【0083】
次に、式(I)に基づいて水膨潤性シートの線膨潤変化率比を求めたところ、当該線膨潤変化率比は、16200であった。このことから、前記で得られた水膨潤性シートは、厚さ方向に大きく膨潤し、面内方向にはほとんど膨潤しないことから、膨潤異方性に優れていることがわかる。
【0084】
前記で得られた水膨潤性シートの水膨潤状態における圧縮弾性率を実施例1と同様にして測定したところ、当該圧縮弾性率は595kPaであった。また、実施例1と同様にしてジビニルスルホンの導入率、水膨潤性シートの乾燥重量あたりの膨潤度(q)、架橋点間分子量(Mc)および架橋密度を求めたところ、ジビニルスルホンの導入率は22モル%であり、水膨潤性シートの乾燥重量あたりの膨潤度(q)は16であり、架橋点間分子量(Mc)は800g/molであり、架橋密度は11モル%であった。
【0085】
実施例4
実施例1において、ジビニルスルホンの量を294mg(250μL、2.5mmol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして厚さが約20μmである水膨潤性シートを製造した。
【0086】
次に、前記で得られた水膨潤性シートを25℃の水中に10分間浸漬した後、水中から取り出し、当該水で膨潤させた水膨潤性シートの目視にて観察したところ、面内方向ではほとんど膨潤しておらず、厚さ方向に大きく膨潤していることが確認された。そこで、前記水で膨潤させた水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率および面内方向の線膨潤変化率を実施例1と同様にして測定したところ、水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率は4650%であり、面内方向の線膨潤変化率は0.42%であることが確認された。
【0087】
次に、式(I)に基づいて水膨潤性シートの線膨潤変化率比を求めたところ、当該線膨潤変化率比は、11000であった。このことから、前記で得られた水膨潤性シートは、厚さ方向に大きく膨潤し、面内方向にはほとんど膨潤しないことから、膨潤異方性に優れていることがわかる。
【0088】
前記で得られた水膨潤性シートの水膨潤状態における圧縮弾性率を実施例1と同様にして測定したところ、当該圧縮弾性率は959kPaであった。また、実施例1と同様にしてジビニルスルホンの導入率、水膨潤性シートの乾燥重量あたりの膨潤度(q)、架橋点間分子量(Mc)および架橋密度を求めたところ、ジビニルスルホンの導入率は28モル%であり、水膨潤性シートの乾燥重量あたりの膨潤度(q)は10であり、架橋点間分子量(Mc)は750g/molであり、架橋密度は12モル%であった。
【0089】
実施例5
実施例3において、スイゼンジノリ多糖体を0.8質量%の濃度で含有する水溶液の代わりに、0.2Mの水酸化ナトリウムを含有しスイゼンジノリ多糖体を0.8質量%の濃度で含有する水溶液を用いたこと以外は、実施例3と同様にして厚さが約20μmである水膨潤性シートを製造した。
【0090】
前記で得られた水膨潤性シートを25℃の水中に10日間浸漬した後、水中から取り出し、当該水で膨潤させた水膨潤性シートの目視にて観察したところ、面内方向ではほとんど膨潤しておらず、厚さ方向に大きく膨潤していることが確認された。そこで、前記水で膨潤させた水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率および面内方向の線膨潤変化率を実施例1と同様にして測定したところ、水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率は23000%であり、面内方向の線膨潤変化率は0.22%であることが確認された。
【0091】
次に、式(I)に基づいて水膨潤性シートの線膨潤変化率比を求めたところ、当該線膨潤変化率比は、105300であった。このことから、前記で得られた水膨潤性シートは、厚さ方向に大きく膨潤し、面内方向にはほとんど膨潤しないことから、膨潤異方性に優れていることがわかる。
【0092】
実施例6
実施例3において、スイゼンジノリ多糖体を0.8質量%の濃度で含有する水溶液の代わりに、0.2Mの塩酸を含有しスイゼンジノリ多糖体を0.8質量%の濃度で含有する水溶液を用いたこと以外は、実施例3と同様にして厚さが約20μmである水膨潤性シートを製造した。
【0093】
前記で得られた水膨潤性シートを25℃の水中に10日間浸漬した後、水中から取り出し、当該水で膨潤させた水膨潤性シートの目視にて観察したところ、面内方向ではほとんど膨潤しておらず、厚さ方向に大きく膨潤していることが確認された。そこで、前記水で膨潤させた水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率および面内方向の線膨潤変化率を実施例1と同様にして測定したところ、水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率は6400%であり、面内方向の線膨潤変化率は0.74%であることが確認された。
【0094】
次に、式(I)に基づいて水膨潤性シートの線膨潤変化率比を求めたところ、当該線膨潤変化率比は、8690であった。このことから、前記で得られた水膨潤性シートは、厚さ方向に大きく膨潤し、面内方向にはほとんど膨潤しないことから、膨潤異方性に優れていることがわかる。
【0095】
実施例7
実施例3において、スイゼンジノリ多糖体を0.8質量%の濃度で含有する水溶液の代わりに、0.2Mの塩酸を含有しスイゼンジノリ多糖体を0.8質量%の濃度で含有する水溶液を用いたこと以外は、実施例3と同様にして厚さが約20μmである水膨潤性シートを製造した。
【0096】
前記で得られた水膨潤性シートを25℃の水中に10日間浸漬した後、水中から取り出し、当該水で膨潤させた水膨潤性シートの目視にて観察したところ、面内方向ではほとんど膨潤しておらず、厚さ方向に大きく膨潤していることが確認された。そこで、前記水で膨潤させた水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率および面内方向の線膨潤変化率を実施例1と同様にして測定したところ、水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率は16200%であり、面内方向の線膨潤変化率は1.09%であることが確認された。
【0097】
次に、式(I)に基づいて水膨潤性シートの線膨潤変化率比を求めたところ、当該線膨潤変化率比は、14900であった。このことから、前記で得られた水膨潤性シートは、厚さ方向に大きく膨潤し、面内方向にはほとんど膨潤しないことから、膨潤異方性に優れていることがわかる。
【0098】
実施例8
実施例1において、スイゼンジノリ多糖体の濃度を0.8質量%から0.5質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして厚さが約20μmである水膨潤性シートを製造した。得られた水膨潤性シートの圧縮弾性率は、156kPaであることが確認された。
【0099】
次に、前記で得られた水膨潤性シートを25℃の水中に10日間浸漬した後、水中から取り出し、当該水で膨潤させた水膨潤性シートの目視にて観察したところ、面内方向ではほとんど膨潤しておらず、厚さ方向に大きく膨潤していることが確認された。そこで、前記水で膨潤させた水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率および面内方向の線膨潤変化率を実施例1と同様にして測定したところ、水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率は12500%であり、面内方向の線膨潤変化率は4.9%であることが確認された。
【0100】
次に、式(I)に基づいて水膨潤性シートの線膨潤変化率比を求めたところ、当該線膨潤変化率比は、2460であった。このことから、前記で得られた水膨潤性シートは、厚さ方向に大きく膨潤し、面内方向にはほとんど膨潤しないことから、膨潤異方性に優れていることがわかる。
【0101】
実施例9
実施例1において、スイゼンジノリ多糖体の濃度を0.8質量%から0.6質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして厚さが約20μmである水膨潤性シートを製造した。得られた水膨潤性シートの圧縮弾性率は、190kPaであることが確認された。
【0102】
次に、前記で得られた水膨潤性シートを25℃の水中に10日間浸漬した後、水中から取り出し、当該水で膨潤させた水膨潤性シートの目視にて観察したところ、面内方向ではほとんど膨潤しておらず、厚さ方向に大きく膨潤していることが確認された。そこで、前記水で膨潤させた水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率および面内方向の線膨潤変化率を実施例1と同様にして測定したところ、水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率は10200%であり、面内方向の線膨潤変化率は2.4%であることが確認された。
【0103】
次に、式(I)に基づいて水膨潤性シートの線膨潤変化率比を求めたところ、当該線膨潤変化率比は、4190であった。このことから、前記で得られた水膨潤性シートは、厚さ方向に大きく膨潤し、面内方向にはほとんど膨潤しないことから、膨潤異方性に優れていることがわかる。
【0104】
実施例10
実施例3において、液晶性多糖類溶液を表面が平坦なポリエステル製のプレート上に被膜の厚さが約20μmとなるようにスプレーコートしたプレートを25℃の大気中に放置する時間を170時間から190時間に変更したこと以外は、実施例3と同様にして厚さが約20μmである水膨潤性シートを製造した。
【0105】
次に、前記で得られた水膨潤性シートを25℃の水中に10日間浸漬した後、水中から取り出し、当該水で膨潤させた水膨潤性シートの目視にて観察したところ、面内方向ではほとんど膨潤しておらず、厚さ方向に大きく膨潤していることが確認された。そこで、前記水で膨潤させた水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率および面内方向の線膨潤変化率を実施例1と同様にして測定したところ、水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率は4500%であり、面内方向の線膨潤変化率は0.30%であることが確認された。
【0106】
次に、式(I)に基づいて水膨潤性シートの線膨潤変化率比を求めたところ、当該線膨潤変化率比は、15000であった。このことから、前記で得られた水膨潤性シートは、厚さ方向に大きく膨潤し、面内方向にはほとんど膨潤しないことから、膨潤異方性に優れていることがわかる。また、前記で得られた水膨潤性シートの水膨潤状態における圧縮弾性率は、231kPaであることが確認された。
【0107】
実施例11
実施例3において、液晶性多糖類溶液を表面が平坦なポリエステル製のプレート上に被膜の厚さが約20μmとなるようにスプレーコートしたプレートを25℃の大気中に放置する時間を170時間から144時間に変更したこと以外は、実施例3と同様にして厚さが約20μmである水膨潤性シートを製造した。
【0108】
次に、前記で得られた水膨潤性シートを25℃の水中に10日間浸漬した後、水中から取り出し、当該水で膨潤させた水膨潤性シートの目視にて観察したところ、面内方向ではほとんど膨潤しておらず、厚さ方向に大きく膨潤していることが確認された。そこで、前記水で膨潤させた水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率および面内方向の線膨潤変化率を実施例1と同様にして測定したところ、水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率は5500%であり、面内方向の線膨潤変化率は0.33%であることが確認された。
【0109】
次に、式(I)に基づいて水膨潤性シートの線膨潤変化率比を求めたところ、当該線膨潤変化率比は、16700であった。このことから、前記で得られた水膨潤性シートは、厚さ方向に大きく膨潤し、面内方向にはほとんど膨潤しないことから、膨潤異方性に優れていることがわかる。また、前記で得られた水膨潤性シートの水膨潤状態における圧縮弾性率は、231kPaであることが確認された。
【0110】
実施例12
実施例1において、0.2Mの水酸化ナトリウムを含有し、スイゼンジノリ多糖体を0.8質量%の濃度で含有する水溶液の代わりに、0.2Mの水酸化ナトリウムを含有し、キサンタンガムを0.8質量%の濃度で含有する水溶液20mLを用いたこと以外は、実施例1と同様にして厚さが約20μmである水膨潤性シートを製造した。
【0111】
次に、前記で得られた水膨潤性シートを25℃の水中に10日間浸漬した後、水中から取り出し、当該水で膨潤させた水膨潤性シートの目視にて観察したところ、面内方向ではほとんど膨潤しておらず、厚さ方向に大きく膨潤していることから、膨潤異方性に優れていることが確認された。そこで、前記水で膨潤させた水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率および面内方向の線膨潤変化率を実施例1と同様にして測定したところ、水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率は4500%であり、面内方向の線膨潤変化率は0.30%であることが確認された。
【0112】
実施例13
スイゼンジノリ多糖体〔平均糖残基モル質量:180g/mol、平均質量:250mg(1.39mmol)〕を0.5質量/体積%の濃度で含有する液晶性多糖類水溶液50mLを表面が平坦なポリエステル製のプレート上にスプレーコートした。前記プレートを60℃の大気中に16時間放置して被膜を乾燥させることにより、水膨潤性シートを得た。得られた水膨潤性シートをプレートから剥がし、その厚さを測定したところ、厚さは、約40μmであった。その後、前記で得られた水膨潤性シートから一辺の長さが5mmの正方形状の試験片を切り出し、恒温槽内で120℃の温度に2時間加熱した。
【0113】
次に、前記で得られた水膨潤性シートを25℃の水中に1日間浸漬した後、水膨潤性シートを水中から取り出し、目視にて観察したところ、面内方向ではほとんど膨潤しておらず、厚さ方向に大きく膨潤していることが確認された。そこで、前記水で膨潤させた水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率および面内方向の線膨潤変化率を実施例1と同様にして調べたところ、前記で得られた水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率は1600%であり、面内方向の線膨潤変化率は3.3%であることが確認された。
【0114】
次に、式(I)に基づいて水膨潤性シートの線膨潤変化率比を求めたところ、当該線膨潤変化率比は500であった。このことから、前記で得られた水膨潤性シートは、厚さ方向に大きく膨潤し、面内方向にはほとんど膨潤しないことから、膨潤異方性に優れていることがわかる。
【0115】
次に、前記で得られた水膨潤性シートから一辺の長さが10mmの正方形状の試験片を切り出し、得られた試験片を用いて水膨潤性シートの物性として、水膨潤状態における圧縮弾性率を実施例1と同様にして調べた。その結果、水膨潤状態における圧縮弾性率は141kPaであることが確認された。
【0116】
前記で得られた水膨潤性シートの乾燥重量あたりの膨潤度(q)および架橋点間分子量(Mc)を実施例1と同様にして評価したところ、膨潤度(q)は21であり、架橋点間分子量(Mc)は2550g/molであった。
【0117】
また、前記で得られた水膨潤性シートの架橋密度を実施例1と同様にして求めたところ、当該架橋密度は3.5モル%であった。なお、前記膨潤性シートの架橋密度は、熱処理によって形成された物理的架橋点の密度を示しているものと考えられる(以下の実施例において同じ)。
【0118】
実施例14
スイゼンジノリ多糖体〔平均糖残基モル質量:180g/mol、平均質量:250mg(1.39mmol)〕を0.5質量/体積%の濃度で含有する液晶性多糖類水溶液50mLを表面が平坦なポリエステル製のプレート上にスプレーコートした。前記プレートを60℃の大気中に16時間放置して被膜を乾燥させることにより、水膨潤性シートを得た。得られた水膨潤性シートをプレートから剥がし、その厚さを測定したところ、厚さは、約40μmであった。その後、前記で得られた水膨潤性シートから一辺の長さが5mmの正方形状の試験片を切り出し、恒温槽内で140℃の温度に2時間加熱した。
【0119】
次に、前記で得られた水膨潤性シートを25℃の水中に1日間浸漬した後、水膨潤性シートを水中から取り出し、目視にて観察したところ、面内方向ではほとんど膨潤しておらず、厚さ方向に大きく膨潤していることが確認された。そこで、前記水で膨潤させた水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率および面内方向の線膨潤変化率を実施例1と同様にして調べたところ、前記で得られた水膨潤性シートの厚さ方向の線膨潤変化率は1300%であり、面内方向の線膨潤変化率は1.6%であることが確認された。
【0120】
次に、式(I)に基づいて水膨潤性シートの線膨潤変化率比を求めたところ、当該線膨潤変化率比は826であった。このことから、前記で得られた水膨潤性シートは、厚さ方向に大きく膨潤し、面内方向にはほとんど膨潤しないことから、膨潤異方性に優れていることがわかる。
【0121】
次に、前記で得られた水膨潤性シートから一辺の長さが10mmの正方形状の試験片を切り出し、得られた試験片を用いて水膨潤性シートの物性として、水膨潤状態における圧縮弾性率を実施例1と同様にして調べた。その結果、水膨潤状態における圧縮弾性率は202kPaであることが確認された。
【0122】
前記で得られた水膨潤性シートの乾燥重量あたりの膨潤度(q)および架橋点間分子量(Mc)を実施例1と同様にして評価したところ、膨潤度(q)は15であり、架橋点間分子量(Mc)は2460g/molであった。
【0123】
また、前記で得られた水膨潤性シートの架橋密度を実施例1と同様にして求めたところ、当該架橋密度は3.7モル%であった。
【0124】
比較例1
実施例1において、水溶性架橋剤としてジビニルスルホンの代わりに塩化アルミニウム119mgを用いたこと以外は、実施例1と同様にして水膨潤性シートを製造しようと試みた。しかし、水酸化ナトリウムおよびスイゼンジノリ多糖体を含有する水溶液に塩化アルミニウムを添加した瞬間、溶液全体がママコ(ダマ)になったため、シート状に乾燥させることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の水膨潤性シートは、例えば、手術の際の臓器などが癒着することを防止するための臓器癒着防止膜、創傷治療用絆創膏、創傷被覆膜、冷却用シート、臓器保存用クッションシート、体液吸い取りシート、細胞培養用シートなどの種々の用途に使用することが期待されるものである。