【文献】
Prostaglandins, Leukotrienes and Essential Fatty Acids,2010年,Vol.82,p.27-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記聴器毒性の症状又は兆候は、難聴、耳鳴、平衡失調、メニエール病、眩暈、乗り物酔い、悪心、嘔吐、運動失調、迷路炎、動揺視、立ちくらみ、歩行困難、視覚追跡及び処理の困難、並びに高周波数範囲の低下から選択される、請求項4に記載の組成物。
前記化合物が、(4Z,7Z,10R,11E,13E,15Z,17S,19Z)−10,17−ジヒドロキシドコサ−4,7,11,13,15,19−ヘキサエン酸ナトリウム又は(4Z,7Z,10R,11E,13E,15Z,17S,19Z)−10,17−ジヒドロキシドコサ−4,7,11,13,15,19−ヘキサエン酸である、請求項1に記載の組成物。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.ドコサヘキサエン酸(DHA)類似体
本発明は、聴器毒性の治療に使用するためのDHA類似体又はその医薬組成物を提供する。具体的には、これらのDHA類似体(例えば、10,17−ジヒドロキシルDHA)は、その異性体を含めて、その天然の供給源から単離又は精製される。あるいは、これらのDHA類似体は、人工的に合成され、任意追加的にさらに精製される。
【0018】
【化2】
式中:
−−−−−は、シス又はトランス結合を表し;
R
1は、−C(O)OR
a、−C(O)NR
bR
c、−C(O)H、−C(NH)NR
bR
c、−C(S)H、−C(S)OR
a、−C(S)NR
bR
c、又はCNであり;
R
2及びR
3は、それぞれ独立してH又は保護基であり;
R
4及びR
5は、それぞれ独立してH、ハロ、非置換又は置換C
1〜C
6アルキル、非置換又は置換C
3〜C
10炭素環、1又は2個の3、4、5又は6員環とN、O及びSから選択される1〜4個のヘテロ原子とを含む非置換又は置換複素環であり、
R
aは、保護基又は−T
1−Q
1であり;
R
b及びR
cは、それぞれ独立して保護基若しくは−T
1−Q
1であるか、又はR
b及びR
cは、それらが結合する窒素原子と共に、1又は2個の5又は6員環とN、O及びSから選択される1〜4個の追加のヘテロ原子とを含む非置換又は置換複素環を形成し;
T
1は、結合であるか、又は非置換若しくは置換C
1〜C
6アルキルリンカーであり;
Q
1は、H、ヒドロキシル、ハロゲン、非置換又は置換C
1〜C
6アルキル、非置換又は置換C
1〜C
6アルコキシ、非置換又は置換2〜6員ヘテロアルキル、非置換又は置換C
3〜C
10炭素環、又は1若しくは2個の3、4、5若しくは6員環とN、O及びSから選択される1〜4個のヘテロ原子とを含む非置換又は置換複素環である。
【0019】
本発明の実施形態は、以下の特徴の1つ以上を包含する。
【0020】
例えば、聴器毒性の治療に使用される化合物は式IIの化合物:
【0021】
【化3】
製薬学的に許容可能なその塩、エステル、溶媒和物、水和物又はプロドラッグである。
【0022】
例えば、聴器毒性の治療に使用される化合物は式IIIの化合物:
【0023】
【化4】
製薬学的に許容可能なその塩、エステル、溶媒和物、水和物又はプロドラッグである。
【0024】
例えば、式I、II又はIIIにおいて、R
1は−C(O)OR
aである。
【0027】
例えば、式I、II又はIIIにおいて、R
4及びR
5はそれぞれHである。
【0028】
例えば、R
4及びR
5のうちの少なくとも1つは、置換又は非置換の直鎖C
1〜C
6又は分枝C
3〜C
6アルキルであり、例えば、限定するものではないが、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、s−ペンチル及びn−ヘキシルが挙げられる。
【0029】
例えば、式I、II又はIIIにおいて、R
2及びR
3はそれぞれHである。
【0030】
例えば、式I、II又はIIIにおいて、R
2及びR
3のうちの少なくとも1つは保護基である。
【0031】
例えば、聴器毒性の治療に使用される化合物は、10,17S−ジヒドロキシ−ドコサ−4Z,7Z,11E,13E,15Z,19Z−ヘキサエン酸又は製薬学的に許容可能なその塩、エステル、溶媒和物、水和物若しくはプロドラッグである。
【0032】
例えば、聴器毒性の治療に使用される化合物は、10R,17S−ジヒドロキシ−ドコサ−4Z,7Z,11E,13E,15Z,19Z−ヘキサエン酸又は製薬学的に許容可能なその塩、エステル、溶媒和物、水和物若しくはプロドラッグである。
【0033】
例えば、聴器毒性の治療に使用される化合物は単離化合物であり、例えば、細胞環境中に存在する他の化合物又は異性体から実質的に分離されている。
【0034】
例えば、聴器毒性の治療に使用される単離化合物は、少なくとも75重量%、85重量%、90、92.5重量%、95重量%、97.5重量%、99重量%、99.5重量%、又は99.9重量%の純度を有する。
【0035】
例えば、聴器毒性の治療に使用される単離化合物には、最大で25重量%、15重量%、10重量%、7.5重量%、5重量%、1重量%、0.5重量%、又は0.1重量%のその化合物の他の異性体が混入している。
【0036】
例えば、聴器毒性の治療に使用される単離化合物は、10,17S−ジヒドロキシ−ドコサ−4Z,7Z,11E,13E,15Z,19Z−ヘキサエン酸又は製薬学的に許容可能なその塩、エステル、溶媒和物、水和物若しくはプロドラッグである。
【0037】
例えば、聴器毒性の治療に使用される単離化合物は、10R,17S−ジヒドロキシ−ドコサ−4Z,7Z,11E,13E,15Z,19Z−ヘキサエン酸又は製薬学的に許容可能なその塩、エステル、溶媒和物、水和物若しくはプロドラッグである。
【0038】
例えば、聴器毒性の治療に使用される単離化合物は、10R,17S−ジヒドロキシ−ドコサ−4Z,7Z,11E,13E,15Z,19Z−ヘキサエン酸又は製薬学的に許容可能なその塩、エステル、溶媒和物、水和物若しくはプロドラッグであり、最大で25重量%、15重量%、10重量%、7.5重量%、5重量%、1重量%、0.5重量%、又は0.1重量%の10S,17S−エナンチオマーが混入している。
【0039】
例えば、聴器毒性の治療に使用される化合物は、化合物のC−10炭素原子においてR/Sラセミ化合物である。
【0040】
例えば、聴器毒性の治療に使用される化合物は、化合物のC−17炭素原子においてR/Sラセミ化合物である。
【0041】
例えば、聴器毒性の治療に使用される単離化合物は、化合物のC−10炭素原子においてR/Sラセミ化合物である。
【0042】
例えば、聴器毒性の治療に使用される単離化合物は、化合物のC−17炭素原子においてR/Sラセミ化合物である。
【0043】
本発明の方法に有用な化合物は、式IVの化合物:
【0044】
【化5】
製薬学的に許容可能なその塩、エステル、溶媒和物、水和物又はプロドラッグである。式IVにおいて、
−−−−−及びR
1〜R
5は上記の定義による。
【0045】
例えば、式IVの化合物は単離化合物である。
【0046】
本発明の方法に有用な代表的化合物には、表1に記載の化合物が包含される。
【0049】
聴器毒性の治療に使用できる化合物としては、米国特許第7,759,395号、同第7,782,152号、及び同第7,709,669号、米国特許出願公開第2009/0156673号、及びPCT国際公開第2010/091226号に記載されているエイコサペンタエン酸(EPA)、DHA、及びこれらの類似体(例えば、ジ−/トリ−ヒドロキシEPA又はDHA)のようなオメガ3多価不飽和脂肪酸も挙げられる。
【0050】
本明細書で使用するとき、用語「単離化合物」は、精製されている対象化合物、例えば、レゾルビンが産生される細胞環境中に存在するか又は合成化学品製造プロセスの粗生成物中に存在する他の化合物又は異性体から実質的に分離されている対象化合物を指す。特定の実施形態において、精製された化合物には、25%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2%未満、又はさらには1%未満の細胞成分(タンパク質、核酸、炭水化物等)、化学的副生成物、試薬、及び出発物質等が混入している。特定の実施形態において、精製された化合物は、25%未満、15%未満、10%未満、5%未満、2%未満、又はさらには1%未満のその他のレゾルビン及び/又は化合物の他の異性体が混入している。製薬学的賦形剤、その他の活性剤、又はその他の製薬学的に許容可能な添加剤の添加は、この用語が本明細書で使用されるとき、化合物の純度を低下させるとは理解されない。
【0051】
本明細書で使用される場合、「アルキル」、「C
1、C
2、C
3、C
4、C
5又はC
6アルキル」、又は「C
1〜C
6アルキル」は、C
1、C
2、C
3、C
4、C
5又はC
6直鎖(線形)飽和脂肪族炭化水素基、及びC
3、C
4、C
5又はC
6分枝飽和脂肪族炭化水素基を含むことを意図する。例えば、C
1〜C
6アルキルは、C
1、C
2、C
3、C
4、C
5及びC
6アルキル基を包含することを意図する。アルキルの例としては、1〜6個の炭素原子を有する部分、例えば、限定するものではないが、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、s−ペンチル又はn−ヘキシルが挙げられる。
【0052】
特定の実施形態において、直鎖又は分枝状アルキルは6個以下の炭素原子を有し(例えば、直鎖の場合はC
1〜C
6、分枝鎖の場合はC
3〜C
6)、別の実施形態において直鎖又は分枝鎖アルキルは4個以下の炭素原子を有する。
【0053】
「ヘテロアルキル」基は、上記に定義する通り、1個以上の炭化水素主鎖炭素原子に置き換わる酸素、窒素、硫黄又はリン原子を有するアルキル基である。
【0054】
本明細書で使用するとき、用語「シクロアルキル」、「C
3、C
4、C
5、C
6、C
7若しくはC
8シクロアルキル」又は「C
3〜C
8シクロアルキル」は、その環構造に3〜8個の炭素原子を有する炭化水素環を包含することを意図する。一実施形態において、シクロアルキル基は環構造に5個又は6個の炭素を有する。
【0055】
用語「置換アルキル」は、炭化水素主鎖の1個以上の炭素原子上の1個以上の水素原子に置き換わる置換基を有するアルキル部分を指す。このような置換基としては、例えば、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシレート、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキルチオカルボニル、アルコキシル、ホスフェート、ホスホナト、ホスフィナト、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ及びアルキルアリールアミノを包含する)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを包含する)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキルチオ、アリールチオ、チオカルボキシレート、スルフェート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族部分が挙げられる。シクロアルキルは、例えば上記の置換基で、さらに置換できる。「アルキルアリール」又は「アラルキル」部分は、アリール(例えば、フェニルメチル(ベンジル))で置換されたアルキルである。
【0056】
炭素数が別途明記されない限り、「低級アルキル」は、上に定義する通り、1〜6個、又は別の実施形態においては1〜4個の炭素原子をその主鎖構造に有するアルキル基を包含する。「低級アルケニル」及び「低級アルキニル」は、例えば炭素原子2〜6個又は2〜4個の鎖長を有する。
【0057】
本明細書で使用される場合、「アルキルリンカー」は、C
1、C
2、C
3、C
4、C
5又はC
6直鎖(線形)飽和脂肪族炭化水素基、及びC
3、C
4、C
5又はC
6分枝飽和脂肪族炭化水素基を含むことを意図する。例えば、C
1〜C
6アルキルリンカーは、C
1、C
2、C
3、C
4、C
5及びC
6アルキルリンカー基を包含することを意図する。アルキルリンカーの例としては、メチル(−CH
2−)、エチル(−CH
2CH
2−)、n−プロピル(−CH
2CH
2CH
2−)、i−プロピル(−CHCH
3CH
2−)、n−ブチル(−CH
2CH
2CH
2CH
2−)、s−ブチル(−CHCH
3CH
2CH
2−)、i−ブチル(−C(CH
3)
2CH
2−)、n−ペンチル(−CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−)、s−ペンチル(−CHCH
3CH
2CH
2CH
2−)又はn−ヘキシル(−CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−)などであるが、これらに限定されない、1〜6の炭素原子を有する部分が挙げられる。
【0058】
「アルケニル」は、鎖長及び可能な置換に関しては上記アルキルに類似するが、少なくとも1つの二重結合を含有する不飽和脂肪族基を包含する。例えば、用語「アルケニル」は、直鎖アルケニル基(例えば、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル)、分枝状アルケニル基、シクロアルケニル(例えば、脂環式)基(例えば、シクロプロペニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロオクテニル)、アルキル又はアルケニル置換シクロアルケニル基、及びシクロアルキル又はシクロアルケニル置換アルケニル基を包含する。特定の実施形態において、直鎖又は分枝状アルケニル基は、その主鎖に6個以下の炭素原子(例えば、直鎖の場合はC
2〜C
6、分枝鎖の場合はC
3〜C
6)を有する。同様に、シクロアルケニル基は、その環構造に5〜8個の炭素原子を有してもよく、一実施形態において、シクロアルケニル基はその環構造に5個又は6個の炭素を有する。用語「C
2〜C
6」は、2〜6個の炭素原子を含有するアルケニル基を包含する。用語「C
3〜C
6」は、3〜6個の炭素原子を含有するアルケニル基を包含する。
【0059】
「ヘテロアルケニル」は、本明細書に定義するように、1個以上の炭化水素主鎖炭素に置き換わる酸素、窒素、硫黄又はリン原子を有するアルケニル基を包含する。
【0060】
用語「置換アルケニル」は、1個以上の炭化水素主鎖炭素原子上の1個以上の水素原子に置き換わる置換基を有するアルケニル部分を指す。このような置換基としては、例えば、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシレート、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキルチオカルボニル、アルコキシル、ホスフェート、ホスホナト、ホスフィナト、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ及びアルキルアリールアミノを包含する)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを包含する)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキルチオ、アリールチオ、チオカルボキシレート、スルフェート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族部分が挙げられる。
【0061】
「アルキニル」は、鎖長及び可能な置換に関しては上記アルキルに類似するが、少なくとも1つの三重結合を含有する不飽和脂肪族基を包含する。例えば、「アルキニル」は直鎖アルキニル基(例えば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、デシニル)、分枝状アルキニル基、及びシクロアルキル又はシクロアルケニル置換アルキニル基を包含する。特定の実施形態において、直鎖又は分枝状アルキニル基は、その主鎖に6個以下の炭素原子(例えば、直鎖の場合はC
2〜C
6、分枝鎖の場合はC
3〜C
6)を有する。用語「C
2〜C
6」は、2〜6個の炭素原子を含有するアルキニル基を包含する。用語「C
3〜C
6」は、3〜6個の炭素原子を含有するアルキニル基を包含する。
【0062】
「ヘテロアルキニル」は、本明細書に定義するように、1個以上の炭化水素主鎖炭素に置き換わる酸素、窒素、硫黄又はリン原子を有するアルキニル基を包含する。
【0063】
用語「置換アルキニル」は、1個以上の炭化水素主鎖炭素原子上の1個以上の水素原子に置き換わる置換基を有するアルキニル部分を指す。このような置換基としては、例えば、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシレート、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキルチオカルボニル、アルコキシル、ホスフェート、ホスホナト、ホスフィナト、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ及びアルキルアリールアミノを包含する)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを包含する)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキルチオ、アリールチオ、チオカルボキシレート、スルフェート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族部分が挙げられる。
【0064】
「アリール」は、芳香族性を有する基を包含し、これは少なくとも1つの芳香環を有する「共役」、すなわち多環系を包含する。例としては、フェニル、ベンジル等が挙げられる。
【0065】
「ヘテロアリール」基は、上に定義する通り、環構造に1〜4個のヘテロ原子を有するアリール基であり、「アリール複素環」又は「ヘテロ芳香族」と呼ばれることもある。本明細書で使用するとき、用語「ヘテロアリール」は、炭素原子と、独立して窒素、酸素及び硫黄からなる群から選択される1個以上のヘテロ原子、例えば1個又は1〜2個又は1〜3個又は1〜4個又は1〜5個又は1〜6個のヘテロ原子とからなる、安定な5、6、若しくは7員単環式又は7、8、9、10、11若しくは12員二環式の芳香族複素環を包含することを意図する。窒素原子は、置換でも非置換でも(すなわち、NでもNRでも(RはH又は定義されたその他の置換基))よい。窒素及び硫黄ヘテロ原子は、任意追加的に酸化されていてもよい(すなわち、N→O及びS(O)
p、式中p=1又は2)。芳香族複素環のS及びO原子の総数は1以下であることに注意する。
【0066】
ヘテロアリール基の例としては、ピロール、フラン、チオフェン、チアゾール、イソチアゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン等が挙げられる。
【0067】
さらに、用語「アリール」及び「ヘテロアリール」は、多環式アリール及びヘテロアリール基、例えば三環式、二環式(例えば、ナフタレン、ベンゾオキサゾール、ベンゾジオキサゾール、ベンゾチアゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチオフェン、メチレンジオキシフェニル、キノリン、イソキノリン、ナフチリジン(naphthridine)、インドール、ベンゾフラン、プリン、ベンゾフラン、デアザプリン、インドリジン)を包含する。
【0068】
多環式芳香環の場合、全ての環が芳香族(例えば、キノリン)であってもよいが、芳香族である必要があるのは環のうちの1つだけである(例えば、2,3−ジヒドロインドール)。第2の環は、縮合又は架橋していてもよい。
【0069】
アリール又はヘテロアリール芳香環は、1つ以上の環位置で上記のような置換基で置換することもでき、このような置換基は、例えば、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシレート、アルキルカルボニル、アルキルアミノカルボニル、アラルキルアミノカルボニル、アルケニルアミノカルボニル、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アラルキルカルボニル、アルケニルカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルチオカルボニル、ホスフェート、ホスホナト、ホスフィナト、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ及びアルキルアリールアミノを包含する)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを包含する)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキルチオ、アリールチオ、チオカルボキシレート、スルフェート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族部分である。アリール基は、芳香族でない脂環式環又は複素環と縮合又は架橋して、多環系(例えば、テトラリン、メチレンジオキシフェニル)を形成することもできる。
【0070】
本明細書で使用するとき、「炭素環」又は「炭素環式環」は、指定された数の炭素を有する任意の安定な単環式、二環式又は三環式環を包含することを意図し、そのいずれも飽和、不飽和、又は芳香族であってもよい。例えば、C
3〜C
14炭素環は、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14個の炭素原子を有する単環式、二環式又は三環式環を包含することを意図する。炭素環の例としては、限定するものではないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロブテニル、シクロペンチル、シクロペンテニル、シクロヘキシル、シクロヘプテニル、シクロヘプチル、シクロヘプテニル、アダマンチル、シクロオクチル、シクロオクテニル、シクロオクタジエニル、フルオレニル、フェニル、ナフチル、インダニル、アダマンチル及びテトラヒドロナフチルが挙げられる。炭素環の定義には架橋環、例えば、[3.3.0]ビシクロオクタン、[4.3.0]ビシクロノナン、[4.4.0]ビシクロデカン及び[2.2.2]ビシクロオクタン等も包含される。架橋環は、1個以上の炭素原子が2個の非隣接炭素原子と結合したときに生じる。一実施形態において、架橋環は1個又は2個の炭素原子である。架橋は常に単環式環を三環式環に変換することに注意する。環が架橋されたときに、その環に関して列挙された置換基も架橋上に存在してもよい。縮合環(例えば、ナフチル、テトラヒドロナフチル)及びスピロ環も包含される。
【0071】
本明細書で使用するとき、「複素環」は、少なくとも1個の環ヘテロ原子(例えば、N、O又はS)を含有する任意の環構造(飽和又は部分不飽和又は芳香族)を包含する。複素環の例としては、限定するものではないが、モルホリン、ピロリジン、テトラヒドロチオフェン、ピペリジン、ピペラジン及びテトラヒドロフランが挙げられる。
【0072】
複素環基の例としては、限定するものではないが、アクリジニル、アゾシニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾチオフラニル、ベンゾチオフェニル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾオキサゾリニル、ベンゾチアゾリル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾテトラゾリル、ベンズイソオキサゾリル、ベンズイソチアゾリル、ベンズイミダゾリニル、カルバゾリル、4aH−カルバゾリル、カルボリニル、クロマニル、クロメニル、シンノリニル、デカヒドロキノリニル、2H,6H−1,5,2−ジチアジニル、ジヒドロフロ[2,3−b]テトラヒドロフラン、フラニル、フラザニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、イミダゾリル、1H−インダゾリル、インドレニル、インドリニル、インドリジニル、インドリル、3H−インドリル、イサチノイル、イソベンゾフラニル、イソクロマニル、イソインダゾリル、イソインドリニル、イソインドリル、イソキノリニル、イソチアゾリル、イソオキサゾリル、メチレンジオキシフェニル、モルホリニル、ナフチリジニル、オクタヒドロイソキノリニル、オキサジアゾリル、1,2,3−オキサジアゾリル、1,2,4−オキサジアゾリル、1,2,5−オキサジアゾリル、1,3,4−オキサジアゾリル、1,2,4−オキサジアゾル5(4H)−オン、オキサゾリジニル、オキサゾリル、オキシインドリル、ピリミジニル、フェナントリジニル、フェナントロリニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサチニル(phenoxathinyl)、フェノキサジニル、フタラジニル、ピペラジニル、ピペリジニル、ピペリドニル、4−ピペリドニル、ピペロニル、プテリジニル、プリニル、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル(pyrazolinyl)、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリドオキサゾール、ピリドイミダゾール、ピリドチアゾール、ピリジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピロリジニル、ピロリニル、2H−ピロリル、ピロリル、キナゾリニル、キノリニル、4H−キノリジニル、キノキサリニル、キヌクリジニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロイソキノリニル、テトラヒドロキノリニル、テトラゾリル、6H−1,2,5−チアジアジニル、1,2,3−チアジアゾリル、1,2,4−チアジアゾリル、1,2,5−チアジアゾリル、1,3,4−チアジアゾリル、チアントレニル、チアゾリル、チエニル、チエノチアゾリル、チエノオキサゾリル、チエノイミダゾリル、チオフェニル、トリアジニル、1,2,3−トリアゾリル、1,2,4−トリアゾリル、1,2,5−トリアゾリル、1,3,4−トリアゾリル及びキサンテニルが挙げられる。
【0073】
用語「置換された」は、本明細書で使用するとき、指定された原子上の任意の1個以上の水素原子が、指示された基から選択されたもので置換されることを意味するが、ただし、指定された原子の通常の価数を超えないこと及び置換が安定な化合物を生じることを条件とする。置換基がケト又はオキソ(すなわち、=O)である場合、原子上の2個の水素原子が置換される。ケト置換基は芳香族部分上には存在しない。環二重結合は、本明細書で使用するとき、2つの隣接する環原子の間に形成される二重結合(例えば、C=C、C=N又はN=N)である。「安定な化合物」及び「安定な構造」は、単離の結果、反応混合物から有用な程度の純度が得られ、有効な治療薬に処方される程度に十分にロバストである化合物を示すことが意味される。
【0074】
置換基への結合が環内の2個の原子をつなぐ結合と交差することが示されている場合、そのような置換基は環内のいずれの原子に結合してもよい。置換基が、そのような置換基が所定の式の化合物の残りの部分に結合する際に介する原子を示すことなく記載されている場合、そのような置換基はそのような式におけるいずれの原子を介して結合してもよい。置換基及び/又は変数の組み合わせは許容されるが、そのような組み合わせが安定な化合物を生じる場合に限られる。
【0075】
任意の変数(例えば、R
1)が化合物の任意の構成要素又は式において1回を超えて存在する場合、各存在における定義は、あらゆる他の存在時におけるその定義と無関係である。したがって、例えば、基が0〜2個のR
1部分で置換されていることが示されている場合、その基は任意追加的に、最大で2個のR
1部分で置換されていてよく、各存在におけるR
1は、独立してR
1の定義から選択される。ここでも、置換基及び/又は変数の組み合わせは、許容されるが、そのような組み合わせが安定な化合物を生じる場合に限られる。
【0076】
「ヒドロキシ」又は「ヒドロキシル」は、−OH又は−O
−を有する基を包含する。
【0077】
本明細書で使用するとき、用語「ハロ」又は「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素を指す。用語「過ハロゲン化」は、一般的に、全ての水素原子がハロゲン原子によって置換されている部分を指す。用語「ハロアルキル」又は「ハロアルコキシル」は、1個以上のハロゲン原子で置換されたアルキル又はアルコキシルを指す。
【0078】
用語「カルボニル」又は「カルボキシ」は、二重結合で酸素原子と結合する炭素を含有する化合物及び部分を包含する。カルボニルを含有する部分の例としては、限定するものではないが、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、アミド、エステル、無水物等が挙げられる。
【0079】
「アシル」は、アシルラジカル(−C(O)−)又はカルボニル基を含有する部分を包含する。「置換アシル」は、1個以上の水素原子が、例えば、アルキル基、アルキニル基、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシレート、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキルチオカルボニル、アルコキシル、ホスフェート、ホスホナト、ホスフィナト、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ及びアルキルアリールアミノを包含する)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを包含する)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキルチオ、アリールチオ、チオカルボキシレート、スルフェート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族部分によって置換されたアシル基を包含する。
【0080】
「アロイル」は、カルボニル基に結合するアリール又はヘテロ芳香族部分を有する部分を包含する。アロイル基の例としては、フェニルカルボキシ、ナフチルカルボキシ等が挙げられる。
【0081】
「アルコキシアルキル」、「アルキルアミノアルキル」及び「チオアルコキシアルキル」は、上記の通り、酸素、窒素、又は硫黄原子が1個以上の炭化水素主鎖炭素原子を置換しているアルキル基を包含する。
【0082】
用語「アルコキシ」又は「アルコキシル」は、酸素原子と共有結合する置換及び非置換のアルキル、アルケニル及びアルキニル基を包含する。アルコキシ基又はアルコキシルラジカルの例としては、限定するものではないが、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、プロポキシ、ブトキシ及びペントキシが挙げられる。置換アルコキシ基の例としては、ハロゲン化アルコキシ基が挙げられる。アルコキシ基は、アルケニル、アルキニル、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシレート、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキルチオカルボニル、アルコキシル、ホスフェート、ホスホナト、ホスフィナト、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアルキルアリールアミノを包含する)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを包含する)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキルチオ、アリールチオ、チオカルボキシレート、スルフェート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族部分のような基によって置換され得る。ハロゲン置換アルコキシ基の例としては、限定するものではないが、フルオロメトキシ、ジフルオロメトキシ、トリフルオロメトキシ、クロロメトキシ、ジクロロメトキシ及びトリクロロメトキシが挙げられる。
【0083】
用語「エーテル」又は「アルコキシ」は、2個の炭素原子又はヘテロ原子に結合した酸素を含有する化合物及び部分を包含する。例えば、この用語は「アルコキシアルキル」を包含し、これはアルキル基に共有結合する酸素原子に共有結合するアルキル、アルケニル、又はアルキニル基を指す。
【0084】
用語「エステル」は、カルボニル基の炭素に結合した酸素原子に結合した炭素又はヘテロ原子を含む、化合物及び部分を包含する。用語「エステル」は、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル、ペントキシカルボニル等のアルコキシカルボキシ基を包含する。
【0085】
用語「チオアルキル」は、硫黄原子と結合したアルキル基を含有する化合物又は部分を包含する。チオアルキル基は、アルキル、アルケニル、アルキニル、ハロゲン、ヒドロキシル、アルキルカルボニルオキシ、アリールカルボニルオキシ、アルコキシカルボニルオキシ、アリールオキシカルボニルオキシ、カルボキシレート、カルボキシ酸、アルキルカルボニル、アリールカルボニル、アルコキシカルボニル、アミノカルボニル、アルキルアミノカルボニル、ジアルキルアミノカルボニル、アルキルチオカルボニル、アルコキシル、アミノ(アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、及びアルキルアリールアミノを包含する)、アシルアミノ(アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイドを包含する)、アミジノ、イミノ、スルフヒドリル、アルキルチオ、アリールチオ、チオカルボキシレート、スルフェート、アルキルスルフィニル、スルホナト、スルファモイル、スルホンアミド、ニトロ、トリフルオロメチル、シアノ、アジド、ヘテロシクリル、アルキルアリール、又は芳香族若しくはヘテロ芳香族部分のような基によって置換され得る。
【0086】
用語「チオカルボニル」又は「チオカルボキシ」は、二重結合で硫黄原子と結合する炭素を含有する化合物及び部分を包含する。
【0087】
用語「チオエーテル」は、2個の炭素原子又はヘテロ原子に結合する硫黄原子を含有する部分を包含する。チオエーテルの例としては、限定するものではないが、アルクチオアルキル(alkthioalkyl)、アルクチオアルケニル(alkthioalkenyl)、及びアルクチオアルキニル(alkthioalkynyl)が挙げられる。用語「アルクチオアルキル」は、アルキル基に結合した硫黄原子に結合したアルキル、アルケニル、又はアルキニル基を有する部分を包含する。同様に、用語「アルクチオアルケニル」は、アルキル、アルケニル又はアルキニル基が、アルケニル基に共有結合した硫黄原子に結合する部分を指し;「アルクチオアルキニル」は、アルキル、アルケニル又はアルキニル基が、アルキニル基に共有結合した硫黄原子に結合する部分を指す。
【0088】
本明細書で使用するとき、「アミン」又は「アミノ」は、窒素原子が少なくとも1個の炭素又はヘテロ原子に共有結合する部分を包含する。「アルキルアミノ」は、窒素が少なくとも1個のアルキル基に結合した化合物の基を包含する。アルキルアミノ基の例としては、ベンジルアミノ、メチルアミノ、エチルアミノ、フェネチルアミノ等が挙げられる。「ジアルキルアミノ」は、窒素原子が少なくとも2個の追加のアルキル基と結合した基を包含する。ジアルキルアミノ基の例としては、限定するものではないが、ジメチルアミノ及びジエチルアミノが挙げられる。「アリールアミノ」及び「ジアリールアミノ」は、それぞれ、窒素が少なくとも1個又は2個のアリール基と結合した基を包含する。「アルキルアリールアミノ」、「アルキルアミノアリール」又は「アリールアミノアルキル」は、少なくとも1個のアルキル基及び少なくとも1個のアリール基に結合したアミノ基を指す。「アルカミノアルキル」は、同じくアルキル基に結合した窒素原子に結合したアルキル、アルケニル、又はアルキニル基を指す。「アシルアミノ」は、窒素がアシル基と結合した基を包含する。アシルアミノの例としては、限定するものではないが、アルキルカルボニルアミノ、アリールカルボニルアミノ、カルバモイル及びウレイド基が挙げられる。
【0089】
用語「アミド」又は「アミノカルボキシ」は、カルボニル又はチオカルボニル基の炭素に結合した窒素原子を含有する化合物又は部分を包含する。この用語は、カルボニル又はチオカルボニル基の炭素に結合したアミノ基に結合したアルキル、アルケニル又はアルキニル基を包含する「アルカミノカルボニル」基を包含する。この用語は、カルボニル又はチオカルボニル基の炭素に結合したアミノ基に結合したアリール又はヘテロアリール部分を包含する「アリールアミノカルボキシ」基も包含する。用語「アルキルアミノカルボキシ」、「アルケニルアミノカルボキシ」、「アルキニルアミノカルボキシ」及び「アリールアミノカルボキシ」は、アルキル、アルケニル、アルキニル及びアリール部分がそれぞれ、カルボニル基の炭素に結合した窒素原子に結合した部分を包含する。アミドは、直鎖アルキル、分枝状アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール又は複素環のような置換基で置換され得る。アミド基上の置換基は、さらに置換されてもよい。
【0090】
用語「アミジン(amandine)」又は「アミジニル」は、−C(=NR)NR’R”、N(R’R”)−CR(=N)−、又はCR’(=NR)NR”−(式中、R、R’、及びR”はそれぞれ独立してH、アルキル、シクロアルキル、シクロアルケニル、複素環、アリール、又はヘテロアリール等であることができる)の一般構造を有する化合物又は部分を包含する。アミジニルの一例は、−C(=NH)NH
2である。アミジンは、直鎖アルキル、分枝状アルキル、シクロアルキル、アリール、ヘテロアリール又は複素環のような置換基で置換され得る。アミド基上の置換基は、さらに置換されてもよい。
【0091】
窒素を含有する本発明の化合物を、酸化剤(例えば、3−クロロ過安息香酸(m−CPBA)及び/又は過酸化水素)での処置によってN−酸化物に変換して、本発明の他の化合物を得ることができる。したがって、表示及び特許請求されている全ての窒素含有化合物は、原子価及び構造によって許容される場合に、表示されている化合物及びそのN−酸化物誘導体(これはN→O又はN
+−O
−と称される)の両方を包含するとみなされる。さらに、他の場合において、本発明の化合物内の窒素は、N−ヒドロキシ又はN−アルコキシ化合物に変換できる。例えば、N−ヒドロキシ化合物は、m−CPBAのような酸化剤による親アミンの酸化によって調製できる。表示及び特許請求されている全ての窒素含有化合物は、原子価及び構造によって許容される場合に、表示されている化合物並びにそのN−ヒドロキシ(すなわち、N−OH)誘導体及びN−アルコキシ(すなわち、N−OR(式中、Rは置換若しくは非置換C
1〜C
6アルキル、C
1〜C
6アルケニル、C
1〜C
6アルキニル、3〜14員炭素環又は3〜14員複素環))誘導体の両方を含むともみなされる。
【0092】
本明細書において、化合物の構造式は、いくつかの場合において便宜上特定の異性体を表すが、本発明は幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、立体異性体、互変異性体等の全ての異性体を包含する。さらに、その式によって表される化合物に結晶多形が存在してもよい。任意の結晶形態、結晶形態混合物、又はその無水物若しくは水和物が本発明の範囲に包含されることに注意する。さらに、インビボでの本発明の化合物の分解によって生成されるいわゆる代謝産物質は、本発明の範囲に包含される。
【0093】
「異性」は、同一の分子式を有するが、その原子の結合の順序又は空間内での原子の配置が異なる化合物を意味する。空間内での原子の配置が異なる異性体は「立体異性体」と呼ばれる。互いに鏡像でない立体異性体は「ジアステレオマー」と呼ばれ、互いに重ねることができない鏡像体である立体異性体は「エナンチオマー」、又は時には光学異性体と呼ばれる。反対のキラリティーを有する個々のエナンチオマー形態を等量含有する混合物は「ラセミ混合物」と呼ばれる。
【0094】
4個の同一ではない置換基と結合している炭素原子は「キラル中心」と呼ばれる。
【0095】
「キラル異性体」は、少なくとも1つのキラル中心を有する化合物を意味する。1個を超えるキラル中心を有する化合物は、個々のジアステレオマーとしてか、又はジアステレオマーの混合物(「ジアステレオマー混合物」と呼ばれる)としてかのいずれかで存在してもよい。1個のキラル中心が存在する場合、立体異性体を、そのキラル中心の絶対配置(R又はS)によって特徴づけてもよい。絶対配置は、キラル中心に結合している置換基の空間における配置を指す。検討中のキラル中心に結合している置換基を、Sequence Rule of Cahn,Ingold and Prelog.(Cahn et al.,Angew.Chem.Inter.Edit.1966,5,385;errata 511;Cahn et al.,Angew.Chem.1966,78,413;Cahn and Ingold,J.Chem.Soc.1951(London),612;Cahn et al.,Experientia 1956,12,81;Cahn,J.Chem.Educ.1964,41,116)に従ってランク付けする。
【0096】
「幾何異性体」は、二重結合のまわりの回転障害により存在する、ジアステレオマーを意味する。これらの立体配置は、接頭辞シス及びトランス又はZ及びE(これは、Cahn−Ingold−Prelogの規則に従って、基が分子中の二重結合の同じ側にあるか逆側にあるかを示す)によってその名称が区別される。
【0097】
さらに、本発明で論じられている構造及び他の化合物は、その全てのアトロプ異性体を包含する。「アトロプ異性体」は、2つの異性体の原子が空間中で異なる配置をとる立体異性体の一種である。アトロプ異性体は、中心結合のまわりの大きな基の回転障害によって、回転が制限されることに由来し、存在する。このようなアトロプ異性体は典型的には混合物として存在するが、最近のクロマトグラフィー技術の発展の結果;特定の場合には2つのアトロプ異性体の混合物を単離することが可能となった。
【0098】
「互変異性体」は、平衡状態で存在し、1つの異性形態から別の異性形態に容易に変換される2つ以上の構造異性体の1つである。この変換は、隣接する共役二重結合の交換を伴う水素原子のホルマール移動を生じる。互変異性体は、互変異性の組の混合物として溶液中に存在する。固体形態では、通常、1つの互変異性体が優勢となる。互変異性体化が起こり得る溶液では、互変異性体の化学平衡に到達すると考えられる。互変異性体の正確な割合は、温度、溶媒及びpH等のいくつかの要因に依存する。互変異性化によって相互変換可能な互変異性体の概念は、互変異性と呼ばれる。
【0099】
可能である互変異性の種々のタイプのうち、2つが一般的に観察される。ケト−エノール互変異性において、電子と水素原子との同時シフトが起こる。環鎖互変異性は、糖鎖分子中のアルデヒド基(−CHO)が同一分子内のヒドロキシ基(−OH)のうちの1つと反応して、グルコースによって表される環式(環状)形態を生じた結果として起こる。
【0100】
一般的な互変異性体の対は:ケトン−エノール、アミド−ニトリル、ラクタム−ラクチム、複素環式環におけるアミド−イミド酸互変異性(例えば、核酸塩基におけるグアニン、チミン及びシトシン)、アミン−エナミン及びエナミン−エナミンである。
【0101】
本発明の化合物は、異なる互変異性体として表されてもよいことは理解されるべきである。化合物が互変異性形態を有する場合、全ての互変異性形態が本発明の範囲に包含されることが意図され、その化合物の名称はいかなる互変異性形態も除外しないことも理解されるべきである。
【0102】
用語「結晶多形」、「多形」又は「結晶形態」は、化合物(又はその塩若しくは溶媒和物)が異なる結晶充填配置で結晶化できる結晶構造であって、その配置が全て同一の元素組成を有するものを意味する。異なる結晶形態は通常、異なるX線回折パターン、赤外線スペクトル、融点、密度硬度、結晶形状、光学及び電気的特性、安定性並びに溶解度を有する。再結晶化溶媒、結晶化速度、貯蔵温度、及び他の要因により、1つの結晶形態が大半を占める場合がある。化合物の結晶多形は、異なる条件下での結晶化によって調製できる。
【0103】
さらに、本発明の化合物、例えば、この化合物の塩は、水和若しくは脱水された(無水物)形態か又は他の溶媒分子との溶媒和物としてかのいずれかで存在し得る。水和物の非限定的な例としては、一水和物、二水和物等が挙げられる。溶媒和物の非限定的な例としては、エタノール溶媒和物、アセトン溶媒和物等が挙げられる。
【0104】
「溶媒和物」は、化学量論量又は非化学量論量のいずれかの溶媒を含有する溶媒付加形態を意味する。いくつかの化合物は、結晶性固体状態において固定モル比の溶媒分子を捕捉する傾向があり、その結果溶媒和物を形成する。溶媒が水である場合、形成される溶媒和物は水和物であり、溶媒がアルコールである場合、形成される溶媒和物はアルコラートである。水和物は、1個以上の水分子を、水がその分子状態をH
2Oとして保つ物質の1個の分子とが組み合わされることによって形成される。
【0105】
本明細書で使用するとき、用語「類似体」は、別の化合物と構造的に類似しているが、組成がわずかに異なる化合物を指す(異なる元素の原子による若しくは特定の官能基の存在下における1個の原子の置換、又は別の官能基による1つの官能基の置換等)。したがって、類似体は、機能及び外観に関しては参照化合物と類似しているか又は同等であるが、構造又は起源に関してはそうではない化合物である。
【0106】
本明細書で定義する場合、用語「誘導体」は、共通のコア構造を有し、本明細書中に記載の様々な基によって置換された化合物を意味する。例えば、式Iによって表される化合物は全て、10,17−ジヒドロキシルDHA誘導体であり、式Iを共通のコアとして有する。
【0107】
用語「バイオ同配体」は、原子又は原子団を、別の大まかに類似した原子又は原子団と交換することによって生じる化合物を意味する。バイオ同配的置換の目的は、親化合物と類似した生物学的特性を有する新たな化合物を作ることである。バイオ同配的置換は、物理化学又はトポロジーに基づいてもよい。カルボン酸のバイオ同配体の例としては、限定するものではないが、アシルスルホンイミド、テトラゾール、スルホナート及びホスホナートが挙げられる。例えば、Patani and LaVoie,Chem.Rev.96,3147〜3176,1996を参照されたい。
【0108】
本発明は、本発明の化合物に存在する原子の全ての同位体を包含することを意図する。同位体は、同じ原子番号を有するが異なる質量数を有する原子を包含する。一般的な例として、限定するものではないが、水素の同位体はトリチウム及びジュウテリウムを包含し、炭素の同位体はC−13及びC−14を包含する。
【0109】
「保護基」は、本明細書で使用するとき、特定の官能性部分(例えば、O、S、又はN)が一時的にブロックされ、その結果、反応が、多官能性化合物の別の反応性部位において選択的に実施され得ることを意味する。好ましい実施形態において、保護基は、良好な収率で選択的に反応して、計画した反応に安定な保護された基質を与える;保護基は、他の官能基を攻撃しない容易に利用可能な、好ましくは非毒性の試薬によって、良好な収率で選択的に除去されなければならない;保護基は、容易に分離できる誘導体を(より好ましくは、新たな立体中心を生成することなく)形成し;保護基は、更なる反応部位を避けるため、最小限の追加の官能性を有する。本明細書に詳述されているように、酸素、硫黄、窒素及び炭素保護基が使用されてもよい。例えば、特定の実施形態において、特定の例示的酸素保護基を使用してもよい。こうした酸素(又はヒドロキシル)保護基としては、限定するものではないが、メチルエーテル、置換メチルエーテル(例えば、MOM(メトキシメチルエーテル)、MTM(メチルチオメチルエーテル)、BOM(ベンジルオキシメチルエーテル)、及びPMBM(p−メトキシベンジルオキシメチルエーテル))、置換エチルエーテル、置換ベンジルエーテル、シリルエーテル(例えば、TMS(トリメチルシリルエーテル)、TES(トリエチルシリルエーテル)、TIPS(トリイソプロピルシリルエーテル)、TBDMS(t−ブチルジメチルシリルエーテル)、トリベンジルシリルエーテル、及びTBDPS(t−ブチルジフェニルシリルエーテル))、エステル(例えば、ギ酸エステル、酢酸エステル、安息香酸エステル(Bz)、トリフルオロ酢酸エステル及びジクロロ酢酸エステル)、カーボネート、環状アセタール及びケタール、並びにグリコールエーテル、例えばエチレングリコール及びプロピレングリコール誘導体並びにアリルエーテルが挙げられる。特定のその他の例示的な実施形態において、窒素保護基が使用される。窒素保護基、並びに保護及び脱保護方法は当該技術分野において既知である。窒素保護基としては、限定するものではないが、カルバメート(メチル、エチル及び置換エチルカルバメート(例えば、Troc))、アミド、環状イミド誘導体、N−アルキル及びN−アリールアミン、イミン誘導体、及びエナミン誘導体、ホルミル、アセチル、トリフルオロアセチル、ベンジル、ベンジルオキシカルボニル(「CBZ」)、tert−ブトキシカルボニル(「Boc」)、トリメチルシリル(「TMS」)、2−トリメチルシリル−エタンスルホニル(「TES」)、トリチル及び置換トリチル基、アリルオキシカルボニル、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(「FMOC」)、ニトロベラトリルオキシカルボニル(「NVOC」)等が挙げられる。特定のその他の例示的な保護基は本明細書に詳述されているが、本発明は、これらの保護基に限定することを意図するものでなく、その他の種々の等価の保護基を上記の基準を用いて容易に識別し、本発明に使用できることが理解されるであろう。さらに種々の保護基が、「Protective Groups in Organic Synthesis」Third Ed.Greene,T.W.and Wuts,P.G.,Eds.,John Wiley & Sons,New York:1999に記載される。この全体は、その内容全体を本明細書に組み込む。
【0110】
2.10,17−ジヒドロキシルDHA化合物の合成
本開示は、式I〜IVの化合物の合成方法を提供する。
【0111】
説明全体を通して、組成物が特定の成分を有する、包含する、又は、含むと記載されている場合、その組成物が列挙された成分から本質的になるか、又は列挙された成分からなることも想到される。同様に、方法又はプロセスが特定の処理工程を有する、包含する、又は含むと記載されている場合、そのプロセスは、列挙された処理工程から本質的になるか、又は列挙された処理工程からなる。さらに、工程の順序又は特定の作用を実施する順序は、本発明が操作可能である限り、重要ではない。さらに、2つ以上の工程又は作用を同時に実施することができる。
【0112】
本発明の合成プロセスは、多種多様な官能基を許容することができ、したがって、種々の置換された出発物質を使用できる。プロセスは一般的に、全プロセスの終了時又は終了近くに所望の最終化合物を提供する。ただし、特定の場合には、この化合物を製薬学的に許容可能なその塩、エステル又はプロドラッグにさらに変換することが望ましいことがある。
【0113】
本発明の化合物は、市販の出発物質、文献で既知の化合物を用いて、又は容易に調製できる中間体から、当業者に既知の若しくは本明細書の教示を考慮して当業者に明らかな、標準的な合成方法及び手順を用いることによって、様々なやり方で調製できる。有機分子調製並びに官能基変換及び操作のための標準的な合成方法及び手順は、関連する科学文献から又は当該分野の標準的な教科書から得ることができる。任意の1つ又は幾つかの出典、古典的文書、例えばその内容を本明細書に組み込むSmith,M.B.,March,J.,March’s Advanced Organic Chemistry:Reactions,Mechanisms,and Structure,5
th edition,John Wiley & Sons:New York,2001;及びGreene,T.W.,Wuts,P.G.M.,Protective Groups in Organic Synthesis,3
rd edition,John Wiley & Sons:New York,1999が、有用であり且つ認識された当該分野で公知の有機合成の参照教本である。以下の合成方法の説明は、本発明の化合物を調製する一般的な手順を例証することを意図しており、限定することを意図するものではない。
【0114】
本発明の化合物は、当業者に周知の様々な方法によって都合よく調製できる。式I〜IVの本発明の化合物は、以下のスキームに従って、市販の出発物質又は文献の手順を用いて調製できる出発物質から、調製されてもよい。これらの手順は、本発明の代表的な化合物の調製を示す。
【0115】
スキーム1
1つの一般的手順を下に例証する。
【0117】
上記のスキーム1は、化合物2及び関連する異性体の全合成の方略を示す。化合物2のC−10及びC−17の立体化学は、それぞれA及びIから誘導されるアルキニル求核基と反応する鏡像異性的に純粋なグリシドール誘導体B及びHから誘導された。4−5、7−8、15−16及び19−20位のアルケンの(Z)配置は、アセチレン前駆体の選択的水素化から得られ、カップリング処理を用いて構築された。11−12及び13−14位の(E)配置は、中間体Fの合成中に固定された。化合物2の他の立体異性体が、同様に合成され得る。
【0118】
規定された前駆体からの立体制御された工程のそれぞれは、共役トリエン領域の幾何異性体の調製を可能にし、この共役トリエンの領域はNMRによって確認された(米国特許出願公開第2009/0156673号)。
【0119】
3.治療方法
本発明は、そのような治療を必要とする対象者に、治療に有効な量の本明細書に記載の化合物、又は製薬学的に許容可能なその塩、プロドラッグ、代謝産物、多形体若しくは溶媒和物を投与することによって、それを必要とする対象者の聴器毒性を治療する方法を提供する。本発明はさらに、本明細書に記載の化合物、又は製薬学的に許容可能なその塩、プロドラック、代謝産物、多形体若しくは溶媒和物の、聴器毒性の治療に有用な医薬の調製への使用を提供する。
【0120】
本発明は、そのような治療を必要とする対象者に、治療に有効な量の本明細書に記載の化合物、又は製薬学的に許容可能なその塩、プロドラッグ、代謝産物、多形体若しくは溶媒和物を投与することによって、治療を必要とする対象者の聴器毒性の少なくとも1つの症状を軽減又は寛解する方法を提供する。本発明はさらに、本明細書に記載の化合物、又は製薬学的に許容可能なその塩、プロドラック、代謝産物、多形体若しくは溶媒和物の、聴器毒性の少なくとも1つの症状の寛解に有用な医薬の調製への使用を提供する。
【0121】
本発明は、そのような治療を必要とする対象者に、治療に有効な量の本明細書に記載の化合物、又は製薬学的に許容可能なその塩、プロドラッグ、代謝産物、多形体若しくは溶媒和物を投与することによって、聴器毒性に罹患した又は聴器毒性と診断された対象者の生存期間を延長する又は生存率を増大させるための方法を提供する。本発明はさらに、本明細書に記載の化合物、又は製薬学的に許容可能なその塩、プロドラッグ、代謝産物、多形体若しくは溶媒和物の、聴器毒性に罹患した又は聴器毒性と診断された対象者の生存期間の延長又は生存率の増大に有用な医薬の調製への使用を提供する。
【0122】
本発明は、そのような治療を必要とする対象者に治療に有効な量の本明細書に記載の化合物、又は製薬学的に許容可能なその塩、プロドラッグ、代謝産物、多形体若しくは溶媒和物を投与することによって、聴器毒性の危険のある対象者において聴器毒性を予防する又は発症を遅延させるための方法を提供する。本発明はさらに、本明細書に記載の化合物、又は製薬学的に許容可能なその塩、プロドラック、代謝産物、多形体若しくは溶媒和物の、聴器毒性の危険のある対象者において聴器毒性を予防する又は発症を遅延させるために有用な医薬の調製への使用を提供する。
【0123】
聴器毒性は、薬物、毒素又は放射線照射の投与又は曝露によって起こる、外耳、中耳又は内耳の構造又は機能における、有害な又は病的な変化である。多くの現行の処方医薬及び市販医薬は、聴器毒性特性を有する。最も周知の聴器毒性剤としては、アミノグリコシド抗生物質、プラチナベースの抗新生物剤、サリチレート、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)、キニーネ、及びループ利尿薬が挙げられる。他の聴器毒性剤としては、ACE阻害剤、酢酸、α遮断薬、アンジオテンシン−2−レセプターアンタゴニスト、抗不整脈薬、抗けいれん薬、抗レトロウイルスプロテアーゼ阻害剤、ベンゾジアゼピン、β遮断薬、二環式及び三環式の抗うつ薬、カルシウムチャネル遮断薬、マクライド系抗生物質、オピエートアゴニスト薬、プロピオン酸、プロトンポンプ阻害剤、キノロン、セロトニンレセプターアゴニスト、及びチアジドが挙げられる。幾つかの薬物は、機械的ストレス(例えば、ノイズ)又は放射線照射と組み合わせても、相乗効果的に聴器毒性を引き起こし得る。
【0124】
聴器毒性の発症率は、聴器毒性剤の数の多さ、並びに症状の多様性に起因して、ほとんどわかっていない。例えば、米国における1,200,000人もの人が、アミノグリコシドに起因する両耳の難聴を負っている。この統計は、聴器毒性の他の症状、例えば耳鳴、平衡失調、メニエール病、及び眩暈を経験する患者を入れておらず、したがって、アミノグリコシド誘導型聴器毒性を罹患する人の数を大いに過小評価している。シスプラチン治療を受けている成人患者の50%未満、及び小児患者の75%が、難聴を罹患する。治療のために医薬への依存が増え、多くの一般的な医薬における副作用としての聴器毒性の有病率が増えるに従い、聴器毒性によって起こる症状の治療の方法は、より重要になってくる。
【0125】
聴器毒性は、代表的に、聴力及び平衡における機能的変化を伴う。一般に、聴器毒性は、左右対称である(両耳に影響を及ぼす)が、非対称(すなわち片側)であってもよく、後に他方の耳に発症する可能性がある。発症の通常時間は予測不能であり、顕著な難聴は、聴器毒性剤の単回投薬の後ですら起こり得る。さらに、聴器毒性の症状は、聴器毒性剤による治療の完了の数週間又は数か月後まで現れない場合があり、症状の重症度は変動し得る。聴器毒性は、使用した医薬、投薬量及び治療の期間に依存して、可逆的である場合と、永続的である場合とがある。幾つかの聴器毒性薬物は、具体的には、耳の特定の構造、例えば渦巻管、前庭系血管条及び聴神経/内耳神経(又は脳神経VIII)を損傷する。聴器毒性に悩む構造は、患者が呈示する症状を最もしばしば要求する。さらに、聴器毒性薬物によって起こる永続性の難聴又は平衡障害は、深刻なコミュニケーション、教育及び社会的な結果を有し得る。
【0126】
聴器毒性は、渦巻管が起こす難聴に関与し、通常は、高周波で始まるが、しばしば最終的には会話を含む低周波にまで進む。聴器毒性剤による渦巻管に対する損傷としては、音の歪み、聴覚過敏、幻聴、耳の圧迫(圧力、不快感又は耳における圧迫感)、任意の刺激に対する耳の閾値における他の変化、音の知覚における補充(音の大きさの知覚における異常成長)を含む変化、並びに音を同定するか、位置づけするか、認識するか、音の間を識別するか、又は処理する能力における変化が挙げられるがこれらに限定されない。渦巻管損傷はまた、外部シグナルに対する応答ではない耳又は頭の中における任意の音の知覚を含む、耳鳴としても現れ得る。
【0127】
前庭及び半規管を含む前庭系に対する聴器毒性は、平衡障害及び方向関連障害として現れる。これらの障害としては、誘導型及び自発型の眩暈、平衡失調、乗り物酔いし易さの増大、悪心、嘔吐、運動失調、迷路炎、動揺視、眼震、卒倒、意識もうろう、立ちくらみ、転倒の増大、夜間の歩行困難、メニエール病、並びに視覚追跡及び処理の困難が挙げられるがこれらに限定されない。
【0128】
聴器毒性はまた、外耳から皮質、聴神経までに至る、及びこれらを含む聴覚経路又は前庭経路における任意の器官、並びにその間にある全ての経路に、影響を及ぼし得る。聴覚内耳神経又は脳神経VIIIは、聴器毒性が起きる際に最も影響を受けにくい構成要素であるが、損傷を受けた場合は、最もしばしば永続的になる。聴神経/内耳神経に対する損傷は、渦巻管及び前庭系と脳との間の情報伝達を効果的に阻む。内耳及び渦巻管の損傷から生じるのと同様の存在する症状としては、耳鳴、耳鳴り、歩行困難、全ろう、並びに平衡及び方向の問題が、挙げられる。血管条に対する損傷は、メニエール病、耳鳴、難聴及び眩暈を生じ得る。外耳及び中耳に対する聴器毒性は、過度の耳垢症(耳垢生産)、及び/又は耳痛症(耳の痛み)を引き起こし得、外耳炎又は中耳炎(外耳又は中耳の日和見感染)を間接的に引き起こし得る。
【0129】
本発明の化合物は、難聴に罹患する対象者を処置するために使用され得、ここで、必要とする対象者は、1種以上の毒素又は聴器毒性剤に曝されている。難聴には、3つの基本的な型がある:伝音性、感音性、及び混合型の難聴。伝音性難聴は、音が外耳道を通って中耳の鼓膜及び小骨すなわち耳小骨に効率的に移動しない場合に起こる。伝音性難聴は、通常、音レベルの低下又はわずかな音を聴く能力に関与する。可能性のある原因としては、聴器毒性剤への曝露、中耳炎又は外耳炎、慢性中耳炎、外耳道の閉塞、又は鼓膜穿孔が挙げられ得る。感音性難聴は、永続性の難聴の最も一般的な型であり、渦巻管又は内耳から脳への神経経路に対する損傷が存在する場合に起こる。可能性のある原因としては、慢性中耳炎、聴器毒性剤への曝露、大きなノイズへの曝露、頭部外傷又は加齢が挙げられ得る。突発性難聴(ISSHL)は、3つの連続的な周波における30dBを超える予期せぬ突然の難聴として規定され、3日間未満の器官にわたって起こる。ISSHLは、難聴の自覚、数日間にわたって認められる難聴、選択的低周波又は高周波難聴、及び言語近くの歪みが挙げられるが、これらに限定されない。難聴の程度は、様々であり、通常は片側であるが、両側に現れるか又は進行することもあり得る。ISSHLは、耳鳴(患者の70%)、眩暈(患者の50%)、耳の圧迫感、及び/又は立ちくらみを伴い得る。ISSHLの可能性のある原因は多いが、広範囲な評価にもかかわらず、多くの原因は、確定診断を避け、したがって、はっきりしないままである。ISSHLを罹患する患者を治療するために、ステロイドが一般に使用される。伝音性難聴と感音性難聴とを含む混合型難聴は、外耳、中耳若しくは内耳、又は聴神経によって引き起こされる。
【0130】
本発明の化合物は、耳鳴に罹患する対象者を処置するために使用され得、ここで、必要とする対象者は、1種以上の毒素又は聴器毒性剤に曝されている。耳鳴は、2つの形態に分類される:他覚的耳鳴及び自覚的耳鳴。他覚的耳鳴は、耳鳴を罹患する対象者に加えて、他人にも聴こえる頭部音からなる。ノイズは、一般に、聴覚系の外であり、通常、血管形成異常、反復性筋収縮、又は内耳構造欠損である。他覚的耳鳴はまた、拍動性耳鳴又は脈管耳鳴としても公知である。自覚的耳鳴は、耳道から脳までの聴覚系におけるどこかで起こり得るが、自分にしか聴こえない。この音は、金属的な若しくは甲高いリンリン音、ブンブン音、送風音、うなる音、カチカチ音、拍手音、発砲音、又はリズミカルでない打撃音の範囲に及び得る。耳鳴は、1つの耳又は両方の耳において、一定であってもよく、又は間欠的に起きてもよい。これは、伝音性及び感音性の難聴に関連して起こるろうの聴力検査証拠により、達成され得る。関連した耳鳴を有し得る他の状態及び症候群は、耳硬化症、メニエール病及び渦巻管病変又は聴神経病変である。難聴、聴覚過敏、漸増及び平衡問題は、耳鳴と一緒に存在しても、存在しなくてもよい。
【0131】
本発明の化合物は、平衡失調に罹患する対象者を処置するために使用され得、ここで、必要とする対象者は、1種以上の毒素又は聴器毒性剤に曝されている。平衡失調は、不安定、不均衡、又は平衡のなさをいう。多くの場合、空間的見当識障害を伴う。平衡失調の原因としては、前庭機構の欠損又は機能低下、下肢の脱力又は整形外科的困難、並びに、頻繁に歩かず、運動せず、又はそれ以外で平衡の技術を実践することがない人がそれゆえに不安定になる、単純「不使用」平衡失調が挙げられる。平衡失調の症状としては、立ちくらみ、見当識障害の感覚、脚が不安定な感じ、及び特に暗所若しくシャワーにおけるは直立又は歩行の困難が挙げられる。これらの症状は、代表的に、視界が阻まれる状況又は対象者が視覚正確性が低下する他の条件を経験した状況において、増悪する。この類の不足は、通常、患者が静止物体に触るか、又はつかまった場合(例えば、失った脚の感覚を手の感覚と置き換えて)、劇的に改善する。パーキンソン病又は小脳疾患を有する患者は、しばしば、運動困難に起因する平衡失調を有する。
【0132】
本発明の化合物は、メニエール病に罹患する対象者を処置するために使用され得、ここで、必要とする対象者は、1種以上の毒素又は聴器毒性剤に曝されている。メニエール病は、変動する程度で、聴覚及び平衡に影響を及ぼす。メニエール病は、しばしば、1つの症状で始まり、徐々に進行する。メニエール病を罹患する全ての患者が同じ症状を経験するわけではないが、いわゆる「古典的メニエール病」は、以下の4つの症状を有すると考えられる。1)重症の無能力化であり得、予測できず、数分から数時間までのどこかで続き、幾つかの場合、数日間〜数週間続く、眩暈が襲う;2)通常は低周波における片側又は両側の難聴、しばしば変動があるが、最終的には永続的に進行する;3)片側又は両側の耳鳴;並びに4)片側又は両側の充満感又は圧力(耳圧迫感)。眩暈、難聴、耳鳴又は耳圧迫感の特徴を示す更なる症状が、メニエール病を罹患する対象者によって経験されてもよい。ある種の被験者は、「転倒発作」を経験する。ここでは、被験者は、極度の眩暈のエピソードを経験し、その平衡を失って転倒する。メニエール病の原因は、ほとんどわかっていないが、内リンパ水腫又は内耳の区画における内リンパ液の蓄積若しくは過剰に関連付けられると考えられている。この内リンパ蓄積は、正常な平衡、並びに内耳と脳との間の聴覚シグナルに干渉する。あるいは、メニエールは、片頭痛を引き起こすものに類似の血管の閉塞の結果であると提唱されている。これらの両原因は、聴器毒性への曝露から生じ得る。メニエール病はまた、ウイルス感染、アレルギー又は自己免疫応答の結果でもあり得る。メニエール病はまた、遺伝的基礎を有するとみられ、部分的に、内リンパ液の容量又は調節における異常を引き起こす遺伝子変異によって引き起こされ得る。
【0133】
本発明の化合物は、眩暈に罹患する対象者を処置するために使用され得、ここで、必要とする対象者は、1種以上の毒素又は聴器毒性剤に曝されている。眩暈は、静止している際の、回転運動又は旋回運動の感覚として規定される。これは、内耳における前庭系の機能不全によって起こる立ちくらみの一種である。眩暈の異常症状としては、以下のいずれか1つ又はこれらの組み合わせが挙げられる:悪心及び嘔吐、直立又は歩行の困難、発汗、難聴、耳鳴、視覚障害、脱力、話すことの困難、意識のレベルの低下、並びに目の動きの異常。症状の持続時間は、数分間〜数時間であり、症状は、定常性であっても、突発性であってもよい。発症は、動き又は位置の変化によって起こり得る。2種類の眩暈が存在する:対象者がその周囲の環境が動いているのを知覚する他覚的眩暈、並びに、対象者自身が連続的に動いているのを感じる自覚的眩暈。眩暈はまた、前庭経路の機能不全の位置に依存して、の末梢眩暈又は中枢眩暈のどちらかにさらに分類されるが、これはまた、精神的思考を通しても確立し得る。末梢眩暈は、内耳又は前庭系による問題によって起こる。中枢眩暈は、脳の平衡中枢から生じ、通常はより穏やかで、付随する不明瞭言語、複視、又は病的眼振などの神経脱落を有する。眩暈の最も一般的な原因は、対象者が一の変化によって起こる短い時間の眩暈(1分間未満)を罹患する、良性発作性頭位眩暈症(BPPV)である。眩暈はまた、以下が挙げられるがこれらに限定されない他の障害又は状態によって起こることが公知である:メニエール病、上半規管裂隙症候群、迷路炎、前庭神経炎(内耳のウイルス感染)、感冒、インフルエンザ及び細菌感染の結果としての内耳の何らかの炎症、振盪、前庭性片頭痛、聴器毒性剤に対する曝露、アルコールの過剰消費、又は物理的外傷(例えば、頭蓋骨骨折)。
【0134】
聴器毒性の根底にある機構は、完全には理解されないが、各々特定の聴器毒性剤に特異的であり得る。アミノグリコシドクラスの抗生物質について、この抗生物質は、興奮毒性を通して渦巻管及び損傷したニューロンにおけるNMDAレセプターに結合することを示唆している。あるいは、他の研究は、アミノグリコシドが、一酸化窒素合成酵素を活性化することにより内耳の中に遊離ラジカルを産生し、それによって、一酸化窒素濃度を増大することを示唆している。次いで、酸素ラジカルは、一酸化窒素と反応して、破壊的な過酸化亜硝酸を形成し、これは、アポトーシス細胞死を直接刺激し得る。アポトーシスは、内在性ミトコンドリア媒介型カスケードによってまず媒介され、渦巻管の外有毛細胞に対して永続的な損傷をもたらし、永続的な難聴をもたらす。ループ利尿薬は、血管条におけるアデニル酸シクラーゼ及びGタンパク質を阻害することによって血管条に損傷を与え、それによって、末梢リンパと内リンパとの間のイオン勾配を変え、浮腫を生じると考えられる。サリチル酸塩及びNSAIDは、形態学的異常よりもむしろ、渦巻管血流を低減するか又は渦巻管における酵素活性を低下させるなどの、可逆的な生化学的変化及び代謝変化をもたらす。シスプラチンなどのプラチナベースの癌治療薬は、血管条を損傷するフリーラジカル産生によって媒介され、の外有毛細胞死を引き起こし、渦巻管基底回転を開始する。フリーラジカル種は、NADPHオキシダーゼによって選択的に産生される。NADPHオキシダーゼのNOXファミリーとしては、NOX1、NOX3、NOX4、NOX5、DUOX1及びDUOX2が挙げられるが、これらに限定されない。NADPHオキシダーゼは、耳及び周辺組織において発現されるが、NOX3は、最も多く発現される。重要なことには、NOX3は、シスプラチン曝露後に、内耳毛細胞においてフリーラジカルを産生する。次いで、この機構によって産生されるフリーラジカルは、内耳毛細胞のミトコンドリア媒介型及びカスパーゼ媒介型のアポトーシス細胞死をもたらし、最終的に、永続的な難聴をもたらす。
【0135】
本発明の聴器毒性を検出するか又はモニタリングする方法において、患者の聴覚及び前庭系に関連する種々のパラメータが、当該分野で周知の方法によって試験されて、処理前基線値を確立し、その後の変化を追跡し得る。このような方法は、以下を含む:基本的聴能楽評価、行動聴力試験、姿勢動揺検査(posturgraphy)、旋回試験、平衡質問表、ロンベルグ試験、頭部動きを伴う視覚正確性の測定、聴性脳幹応答試験(ABR)、眼振図(ENG)、高周波聴力検査(HFA)、及び耳音響放出(OAE)測定。
【0136】
聴器毒性についての定義及び基準は、米国言語聴覚学会(ASHA)、国立癌研究所(NCI)有害事象共通用語基準(CTCAE)聴器毒性等級、Brock難聴等級によって、確立されている。ASHAは、以下の様に毒性を定義する:OAE又はABRを用いて応答をあらかじめ得た場合の、(a)1つの周波数での純音閾値における20db以上の低下、(b)2つの隣接する周波数における10db以上の低下、又は(c)3つの連続的試験周波数における応答の無さ。変化は、常に基線測定値に対して計算され、一般的には24時間以内に、反復試験によって確認されなければならない。小児についてのNCI CTCAE聴器毒性等級は、以下の通りである(括弧内に成人ガイドラインを記載する):等級1:基線に対して15〜25dBの閾値変動又は喪失、少なくとも1つの耳における2以上の連続した周波数における平均(成人についても同じ)、等級2:25〜90dBを超える閾値変動又は喪失、少なくとも1つの耳における2以上の連続した周波数における平均(成人についても同じ)、等級3:補聴器を含む治療介入を示すために充分な難聴(例えば、言語周波数において20dBを超える両耳HL、30dBを超える片耳HL、及び更なる言語関連サービスを必要とする)(成人:少なくとも1つの耳における3つの連続した試験周波数で平均して20〜90dBを超える)、等級4:渦巻管移植の指示及び更なる言語関連サービスを必要とする(成人:90dB HLを超える重大な両耳難聴)。基線評価のない小児について、基線閾値は5dB HL未満とみなされる。元来プラチナベースの治療を受けた小児のために設計されたブロックの難聴等級は:等級0:全ての風波数において40dB未満の聴力閾値;等級1:8000Hzにおいて閾値40dB以上;等級2:4000〜8000Hzにおいて閾値40dB以上;等級3:2000〜8000Hzにおいて閾値40dB以上;等級1000〜8000Hzにおいて閾値40dB以上。
【0137】
例えばプラチナベースの治療によって生じた聴器毒性損傷の初期検出のために、6kHzを超える高周波数試験が、好ましい。聴器毒性の結果としての高周波数範囲(8,000〜20,000Hz)の喪失は、徐々に重要になると考えられる。現在、従来の聴能楽装置によって行った、純音聴力検査(10Hzまで)、拡張高周波数聴力検査(16kHzまで)、及び歪み産物放出(8kHzまで)は、約6kHzを超える聴力機能に対する情報を提供する。したがって、拡張高周波数聴力検査は、聴器毒性の初期及び無症候性の兆候をモニタリング及び診断するために高品質な方法であるので、特に有用である。
【0138】
聴器毒性の兆候としては、高周波数範囲の低下が挙げられ得るが、これらに限定されない。例えば、聴器毒性を罹患する患者の高周波数範囲は、聴器毒性を罹患していない人又はより早い時点での同じ患者と比較して、高周波数範囲の1%、5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%の低下を経験し得る。高周波数範囲は、例えば、6kHzよりも高いか、又は約8kHz〜20kHzの間である。
【0139】
本明細書で使用される場合、用語「聴器毒性」は、当該分野で公知の聴器毒性の全ての分類を含み、これらとしては、薬物又は毒素の投与又は曝露によって起こる外耳、中耳又は内耳の構造又は機能における任意の有害な又は病的な変化が挙げられるが、これらに限定されない。
【0140】
本明細書で使用するとき、「それを必要とする対象者」は、聴器毒性を有する対象者、又は母集団全体を基準にして聴器毒性発症のリスクが増大した対象者である。好ましくは、それを必要とする対象者は、1種以上の毒素又は聴器毒性剤によって治療されている。「対象者」は哺乳動物を包含する。哺乳動物は例えば、いかなる哺乳動物であってもよく、例えば、ヒト、霊長類、鳥、マウス、ラット、家禽、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ヤギ、ラクダ、ヒツジ又はブタであってよい。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0141】
本明細書で使用するとき、「候補化合物」は、本発明の化合物、又は製薬学的に許容可能なその塩、プロドラッグ、代謝産物、多形体若しくは溶媒和物を指す。
【0142】
本明細書で使用するとき、「単剤療法」は、単一の活性又は治療用化合物をそれを必要とする対象者に投与することを指す。好ましくは、単剤療法は治療に有効な量の活性化合物の投与を伴う。例えば、本発明の化合物、又は製薬学的に許容可能なその塩、プロドラッグ、代謝産物、類似体若しくは誘導体のうちの1つを用いる、聴器毒性の治療を必要とする対象者に対する聴器毒性単剤療法である。単剤療法は、併用療法と対比されてもよく、併用療法は、複数の活性な化合物を組合せて投与するものであり、好ましくは組合せる各成分が治療に有効な量で存在する。一態様において、本発明の化合物、又は製薬学的に許容可能なその塩、プロドラッグ、代謝産物、多形体若しくは溶媒和物を用いる単剤療法は、所望の生物学的効果の誘導において、併用療法よりも有効である。
【0143】
本明細書で使用するとき、「治療」又は「治療する」は、疾患、状態、又は障害と闘うことを目的とした、患者の管理及びケアを表し、疾患、状態若しくは障害の症状若しくは合併症を緩和するため、又は疾患、状態若しくは障害を排除するための、本発明の化合物又は製薬学的に許容可能なその塩、プロドラッグ、代謝産物、多形体若しくは溶媒和物の投与を包含する。
【0144】
本発明の化合物、又は製薬学的に許容可能なその塩、プロドラッグ、代謝産物、多形体若しくは溶媒和物は、疾患、状態又は障害を予防するためにも使用できる。用語「予防」又は「予防する」は、本明細書で使用するとき、臨床的に明らかな疾患進行の開始を全て予防すること、あるいはリスクのある個体において前臨床的に明白な疾患の段階の開始を予防又は遅延することのいずれかを包含する。これは、疾患発症のリスクのある者の予防的治療を包含する。
【0145】
本明細書で使用するとき、用語「緩和」又は「寛解」は、疾患の徴候又は症状の重篤度がそれによって低減されるプロセスを表す。重要なことに、徴候又は症状を、排除せずとも緩和することができる。好ましい実施形態において、本発明の医薬組成物の投与は、徴候又は症状の排除を導くが、排除は必須ではない。治療的に有効な用量は、徴候又は症状の重篤度を軽減すると予想される。
【0146】
本明細書で使用するとき、用語「症状」は、疾患、疾病、外傷、又は身体の何らかの異常の指標として定義される。症状は、症状を経験した個人によって感知又は認識されるが、他者には容易に認識されない場合がある。他者とは、非医療専門家として定義される。
【0147】
本明細書で使用するとき、用語「徴候」も、身体の何らかの異常の指標として定義される。ただし、徴候は、医師、看護士、又はその他の医療専門家には観察されるものとして定義される。
【0148】
本明細書で使用するとき、「併用療法」又は「同時療法」は、本発明の化合物又は製薬学的に許容可能なその塩、プロドラッグ、代謝産物、多形体若しくは溶媒和物と、少なくとも1つの第2の作用剤を、これらの治療薬の同時作用による有益な効果を提供するために、意図する特定の治療レジメンの一部として投与することを包含する。この併用療法の有益な効果としては、限定するものではないが、治療薬の組み合わせから生じる薬物動態学的又は薬力学的相互作用が挙げられるが、これに限定されない。組み合わせたこれらの治療薬は、典型的には、規定された期間(通常は、選択される組み合わせに応じ、分、時間、日又は週)にわたって投与が実施される。「併用療法」は、偶然に及び適宜に本発明の組み合わせを生じる別々の単剤療法レジメンの一部としての、2つ以上のこれらの治療薬の投与を包含することが意図される可能性があるが、一般的にはそうではない。
【0149】
「併用療法」は、逐次的な様式でのこれらの治療薬の投与(各々の治療薬が異なる時間に投与される)、並びに実質的に同時の様式での、これらの治療薬、又は少なくとも2つの治療薬の投与を含むことが意図される。実質的な同時投与は、例えば、固定比の各治療薬を有する単一のカプセル又は各治療薬の単一カプセルを複数個、対象者に投与することで遂行できる。各治療薬の逐次的投与又は実質的な同時投与は、任意の適切な経路(経口経路、静脈内経路、筋肉内経路、及び粘膜組織を通じた直接吸収を包含するが、これらに限定されない)によって達成できる。治療薬は同じ経路でも異なる経路でも投与できる。例えば、選択された組み合わせのうちの最初の治療薬を静脈内注入によって投与しながら、組み合わせのうちの他方の治療薬を経口投与してもよい。あるいは、例えば、全ての治療薬を経口投与してもよく、又は全ての治療薬を静脈内注入によって投与してもよい。治療薬を投与する順序は厳密に重要ではない。
【0150】
「併用療法」は、上記の治療薬をさらに他の生物学的活性成分及び非薬物療法(例えば、外科又は理学療法)と組み合わせて投与することも含む。併用療法が非薬物処置をさらに含む場合、この非薬物処置は、治療薬と非薬物処置の組み合わせの同時作用から有益な効果が得られるのであれば、任意の適切な時間で実施されてもよい。例えば、適切な場合では、有益な効果は、治療薬の投与から非薬物処置が一時的に取り除かれてもなお、おそらく数日又はさらには数週間得られる。
【0151】
本発明の化合物、又は製薬学的に許容可能なその塩、プロドラッグ、代謝産物、類似体又は誘導体は、第2の活性治療薬と組み合わせて投与してもよい。第2の活性治療剤としては、抗TNF阻害剤(例えば、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ及びゴリムマブ)、JNK阻害剤(例えば、SP600125),TRPV1アンタゴニスト(例えば、カプサザピン、AMG 9810、A784168)、AMPAアンタゴニスト(例えば、NBQX、PNQX、YM−90K及びZK200775)、抗酸化防止剤(例えば、ビタミンA、C及びE)、抗ヒスタミン剤(例えば、メクロジン、ジメンヒドリネート、及びトリメトベンズアミド)、制吐剤(例えば、ベタヒスチン、ジアゼパム及びショウガの根)、リポフラボノイド、グルタチオン(GSH)又はグルタチオン前駆体(例えば、メチオニン、N−アセチル−DL−メチオニン、グルタチオンエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、及びグルタチオンモノエチルエステル)、グルタチオンペルオキシダーゼ模倣物(例えば、2−フェニル−1,2−ベンゾイソセメナゾール−3(2H)−オン(エブセレン)、6A,6B−ジセレニン酸−6A’,6B’−セレン架橋ベータ−シクロデキストリン(6−diSeCD))、N−アセチルシステイン−(NAC)、レスベラトロール、チオ硫酸ナトリウム、アロプリノール、R−フェニルイソプロピルアデノシン、アルファ−とこふぇロール、サリチル酸塩(例えば、サリチル酸及び脂環式酸(alicyclic acid)の塩)、亜鉛塩(例えば、脂環式酸亜鉛(zinc alicyclic)、ペルオキシラジカル又はヒドロキシラジカルのスカベンジャー、カルパイン阻害剤、血管拡張薬、NMDAレセプターのアゴニスト又はアンタゴニスト、タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、SrcファミリーPTK阻害剤;非レセプターチロシンキナーゼ阻害剤、及び非ペプチドPTK阻害剤)、シルナデフィル(例えば、クエン酸シルナデフィル)、神経栄養因子(例えば、ニュールツリン神経栄養因子及びグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF))、アミノ酸誘導体(例えば、SPM927又は(R)−2−アセトアミド−N−ベンジル−3−メトキシプロピオンアミド)、カルバマゼピン誘導体、三環式抗うつ薬(例えば、アミトリプチリン及びノルトリプチリン)、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(例えば、ドネペジル及びネオスチグミン(neoostigmine))、レセプターアゴニスト(例えば、アセチルコリンエステル及びコリン作用性アルカロイド)、オピオイドレセプターアゴニスト(例えば、モルヒネ、ヘロイン、ヒドロモルフォン、デルモルフィン、スピラドリン及びメタドン)、オピオイドレセプターアンタゴニスト(例えば、ブプレノルフィン、ブトルファノール(スタドール)及びナルブフィン(Nubaine))、コルチコステロイド、利尿薬、ろうに関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を調節する(例えば、ギャップ結合ベータ2タンパク質発現を低下させる)ために小核酸分子を用いるRNA干渉(RNAi)、及びこれらの誘導体又は組み合わせ。
【0152】
本発明の化合物と組み合わせて使用され得る更なる第2の活性治療剤としては、聴力増強デバイス(例えば、補聴器、移植された聴力デバイス、聴力支援デバイス及び警報機)、ノイズ抑制デバイス(例えば、「ホワイトノイズ」機器、マスキング機器、及び耳鳴抑制デバイス)、高圧酸素療法、圧脈治療、外科手術、蓄積した耳垢の除去、前庭リハビリテーション、浮遊耳石置換、精神療法、認知療法、床上安静、薬代替物(例えば、指圧、鍼、及び瞑想)、並びに食餌及び行動の変化が挙げられるが、これらに限定されない。
【0153】
当業者は、本明細書で論じられた既知の手法又は同等の手法の詳細な記述について、一般的な参照文書を参照することもできる。こうした文書としては、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley and Sons,Inc.(2005);Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(3
rd edition),Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,New York(2000);Coligan et al.,Current Protocols in Immunology,John Wiley & Sons,N.Y.;Enna et al.,Current Protocols in Pharmacology,John Wiley & Sons,N.Y.;Fingl et al.,The Pharmacological Basis of Therapeutics(1975),Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,Easton,PA,18
th edition(1990)が挙げられる。これらの文書は、当然、本発明の一態様の作製又は使用においても参照できる。
【0154】
4.医薬組成物
本発明は、式I〜IVの化合物を少なくとも1つの製薬学的に許容可能な賦形剤若しくは基材と組み合わせて含む、聴器毒性の治療、寛解、又は予防のための医薬組成物も提供する。
【0155】
「医薬組成物」は、本発明の化合物を、対象者への投与に適した形態で含有する製剤である。
【0156】
本明細書で使用するとき、語句「製薬学的に許容可能な」は、適切な医学的判断の範囲内で、ヒト及び動物の組織と接触させる使用に関して、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、又はその他の問題若しくは合併症を生じることなく適しており、合理的な利益/リスク比に見合う、化合物、材料、組成物、基材及び/又は剤形を指す。
【0157】
「製薬学的に許容可能な賦形剤」は、一般的に安全、非毒性かつ生物学的にもその他の面でも望ましくないものではない医薬組成物を調製する際に有用な賦形剤を意味し、獣医学的使用並びにヒトの薬剤使用に許容可能な賦形剤を包含する。「製薬学的に許容可能な賦形剤」は、本明細書及び特許請求の範囲中で使用される場合、1つのみならず1超のこのような賦形剤を包含する。
【0158】
本発明の医薬組成物は、その意図する投与経路に適合するように処方される。種々の経路が想到され、例えば、限定するものではないが、経口、耳内、肺、直腸、非経口、皮内、経皮、局所、経粘膜、皮下、静脈内、筋内、腹腔内、中耳内、吸入、頬側、舌下、胸膜内、脳室内(ICV)、髄腔内、鼻腔内等が挙げられる。
【0159】
適切な送達のために使用される溶液又は懸濁液には、以下の成分を包含させることができる:注射用蒸留水、生理食塩溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ポリソルベート、トコフェロールポリエチレングリコールスクシネート(TPGS)、又はその他の合成溶媒などの無菌希釈剤;ベンジルアルコール又はメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸又は亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化物質;エチレンジアミン四酢酸などのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩又はリン酸塩などの緩衝剤、及び塩化ナトリウム又はブドウ糖などの張度調整剤。pHは、塩酸又は水酸化ナトリウムなどの酸又は塩基で調節することができる。これらの製剤は、ガラス又はプラスチック製のアンプル、使い捨て注射器、又は多用量バイアルに封入することができる。
【0160】
化合物又はその医薬組成物は、現在耳疾患の治療に使用されている多数の周知の方法で対象者に投与することができる。1つのこのような方法は、耳の影響を受けた構造の警告機能の意図を有する、経口、静脈内又は筋肉内の経路を介した医薬の投薬からなる全身療法である。耳の苦しんでいる構造に対する局部的な投与は、中耳又は内耳への局部的吸収のための、外耳への局所治療又は中耳内送達を通して達成され得る。中耳内送達は、マイクロカテーテルシステム、シリンジを介した注射、ヒドロゲルビヒクル、徐放性薬物挿入、銀染色微小芯型の心を備えたチューブ、及びナノ粒子キャリアを通して実施され得る。本発明の化合物の内耳への直接送達のための方法としては、渦巻管移植、浸透圧ポンプ、又は往復灌流システムが挙げられる。
【0161】
一般的に、本発明の化合物の好適な1日用量は、治療効果をもたらすのに有効な最低用量となる化合物量であろう。このような有効用量は、一般的に上記の因子に依存する。一般的に、本発明の化合物の患者への静脈内及び皮下用量は、指示された治療効果のために使用される場合、約0.0001〜約100mg/kg(体重)/日、より好ましくは約0.01〜約50mg/kg/日、なお一層好ましくは約0.1〜約40mg/kg/日、さらになお一層好ましくは約0.1〜約1mg/kg/日の範囲であろう。例えば、対象者の体重20g当たり約0.01μg〜約20μg、約20μg〜100μg、及び約10μg〜200μgの本発明の化合物が投与される。一般的に、本発明の化合物の患者への中耳内用量は、指示された治療効果のために使用される場合、約0.0001μg〜約10mg/kg体重/日、より好ましくは約0.001μg〜約5mg/kg/日、及びなお一層好ましくは約0.01μg〜約4mg/kg/日の範囲であろう。なおより好ましくは、中耳内用量は、約0.01mg〜約1.0mgである。例えば、約0.1mgが、耳に単回用量で投与される。
【0162】
必要に応じて、活性化合物の有効1日用量を、一日を通して適切な間隔で別々に投与される2、3、4、5、6又はそれ以上の下位用量として、所望により単位剤形で、投与してもよい。
【0163】
本発明の医薬組成物は、「治療に有効な量」又は「予防的に有効な量」の1つ以上の本発明の化合物を包含する。「治療に有効な量」とは、所望の治療結果(例えば、様々な病状又は容態に関連する影響の低減又は予防)を達成するために、用量にて、必要とされる時間にわたって有効な量を指す。治療に有効な化合物量は、個体の病状、年齢、性別、及び体重、並びに治療化合物が個人において所望の応答を誘発する能力等の因子によって変動し得る。治療に有効な量は、治療薬のいかなる毒性又は有害な影響よりも、治療的に有益な影響の方が上回る量でもある。「予防的に有効な量」とは、所望の予防成果を達成するために、用量にて、必要とされる時間にわたって有効な量を指す。典型的には、予防的用量は、疾患の前又は初期段階の対象者に使用され、予防的に有効な量は、治療に有効な量よりも少なくなる。
【0164】
投与レジメンは、最適な所望の応答(例えば、治療又は予防応答)が得られるように調節されてもよい。例えば、単回ボーラス投与してもよいし、時間をかけて数回に分けて投与してもよいし、治療状況の必要に応じて用量を比例的に増減してもよい。投与し易さ及び投与の均一性のためには用量単位形態の非経口中耳内組成物を処方すると、特に有利である。本明細書で使用するとき、用量単位形態とは、治療する対象とする哺乳動物のための単位用量として適した物理的に別個の単位を指し、各単位は、所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を必要な医薬品基材と共に含有する。本発明の用量単位形態の仕様は、(a)化合物の独自の特徴と、達成しようとする特定の治療又は予防効果、及び(b)個体における過敏症の治療のためにこのような活性化合物を配合する技術に固有の制約、によって指示され、これらに直接依存する。
【0165】
本発明の化合物の全身的投与のための治療的又は予防的に有効な量の例示的な、非限定的範囲は、0.1〜20mg/kg、より好ましくは1〜10mg/kgである。中耳内投与のための本発明の化合物の治療的又は予防的に有効な量の範囲は、0.1〜10mg/kgである。好ましくは、中耳内投薬容量は、単回用量のために範囲が0.05〜10mgの間である、0.5〜1.0mLである。中耳内投与及び中耳又は内耳への局部的送達のための投薬量は、全身投与を介した薬理学的効果のために必要な投薬量より低くてもよい。全身送達に必要なより高い用量は、患者へ同時に投与される他の医薬又は両方(すなわち、癌治療)の作用の機構を妨げ得るので、低い中耳内投薬量が好ましい。用量の値は、緩和すべき状態の種類及び重篤度に伴い変動し得ることに注意する。特定の対象者に関して、特定の投与レジメンは、各人の必要性に、及び組成物を投与する若しくは組成物の投与を監督する専門家の判断に従って、ある時間にわたって調節されるべきであること、及び本明細書に記載の用量範囲は例示的なものにすぎず、特許請求される組成物の範囲又は実施を限定することを意図するものではないことはさらに理解されるべきである。
【0166】
治療的用途において、本発明に従って使用される医薬組成物の用量は、選択した用量に影響する他の因子の中でも特に、作用剤、投与される患者の年齢、体重及び臨床的状態、並びに治療を管理する臨床医又は開業医の経験及び判断によって変動する。一般的に、用量は、聴器毒性の少なくとも1つの症状の寛解(例えば、聴力の損失又は耳鳴の発症の遅延、好ましくは退行)、及び好ましくは聴器毒性の完全な退行を生じるのにも十分なものであるべきである。薬剤の有効な量は、臨床医又はその他の有資格観察者が気づく客観的に識別可能な予防又は改善を提供する量である。本明細書で使用するとき、用語「投薬が有効な方法」は、対象者又は細胞において所望の生物学的効果をもたらす活性化合物の量を指す。
【0167】
任意の化合物に関して、治療に有効な量を、細胞培養アッセイ(例えば、渦巻管毛細胞)、又は動物モデル(通常はモルモット、ラット、マウス、ウサギ、イヌ、又はブタ)のいずれかで最初に予測することができる。動物モデルは、投与の適切な濃度範囲及び経路を決定するために使用してもよい。続いて、そのような情報を用いて、ヒトにおける有用な用量及び投与経路を決定することができる。治療/予防的有効性及び毒性は、細胞培養又は実験動物における標準的な製薬学的手順、例えば、ED
50(個体群の50%において治療的に有効な用量)及びLD
50(個体群の50%に致死的な用量)によって決定してもよい。毒性影響と治療効果との間の用量比が治療指数であり、これを比LD
50/ED
50として表すことができる。大きい治療指数を示す医薬組成物が好ましい。用量は、使用する剤形、患者の感受性、及び投与経路に応じこの範囲内で変動し得る。
【0168】
用量及び投与は、十分な程度の活性剤を提供するか又は所望の効果を維持するように調節される。考慮に入れてもよい因子としては、病状の重篤度、対象者の健康状態、年齢、体重、及び性別、食事、投与の時間及び頻度、薬剤の組合せ、反応感度、治療への耐性/応答が挙げられる。長時間作用性医薬組成物は、特定の製剤の半減期及びクリアランス速度に応じて、3〜4日ごと、毎週又は2週間に1回投与してもよい。
【0169】
本発明の活性化合物を含む医薬組成物は、一般的に知られる方法で、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖衣錠製造、湿式粉砕、乳化、カプセル化、封入、又は凍結乾燥工程によって製造することができる。医薬組成物は、製薬学的に使用できる調剤への活性化合物の加工を促進する賦形剤及び/又は補助剤を含む製薬学的に許容可能な1つ以上の基材を用いて、従来の方法で製剤化することができる。当然、適切な製剤は、選択される投与経路によって決まる。
【0170】
注射用に適する医薬組成物には、無菌水溶液(水溶性の場合)又は分散液、及び無菌注射液又は分散液の即時調製のための滅菌粉末が包含される。静脈内又は中耳内投与用の好適な基材としては、生理的食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF、Parsippany、N.J.)又はリン酸緩衝食塩水(PBS)が挙げられる。全ての場合に、組成物は無菌でなければならず、注射針を容易に通過する程度に流動性であるべきである。組成物は製造及び保存条件下で安定でなければならず、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用から保護されなければならない。基材は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポロキサマー407及び液体ポリエチレングリコール等)、ヒアルロン酸及びそれらの好適な混合物を含有する溶媒又は分散媒質であることができる。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングの使用によって、分散液の場合には必要な粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって、維持することができる。微生物の作用の予防は、様々な抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサール等によって達成することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖、多価アルコール(例えば、マンニトール、ソルビトール)、塩化ナトリウムを組成物に包含させることが好ましい。注射可能な組成物の長期吸収は、吸収を遅らせる作用剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物に包含させることによってもたらすことができる。
【0171】
1つの実施形態において、好ましい組成物は、本発明の化合物、及び熱可逆的特性を含む少なくとも1種の賦形剤を含む。特に関心があることには、室温え液体であり、より高い温度、すなわち生理学的温度、又は37℃でゲルである賦形剤である。時間を経て、ゲルは、ゆっくりと本発明の化合物を放出する。この様式で、本発明の化合物を含む組成物が、注射又は投与され得、患者絵の送達の際、この組成物はゲルであり、本発明の化合物及び/又は他の活性成分は、患者に、数時間、数日、数週間又は数か月かけて、ゆっくりと放出されるか、又は持続的に放出される。熱可逆性賦形剤の例としては、ポロキサマー407が挙げられるが、これらに限定されない。
【0172】
無菌注射液は、適当な溶媒中に必要量の活性化合物を、必要に応じて上で列挙した成分の1つ又は組合せと共に組み込み、続いてろ過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散液は、基本的な分散媒質及び上で列挙された成分から必要な他の成分を含有する無菌ビヒクルに、活性化合物を組み込むことによって調製される。無菌注射液調製用の無菌粉末の場合、調製方法としては、有効成分の粉末、及びその他の全ての所望成分を、事前に滅菌濾過された溶液から得られる、真空乾燥法及び凍結乾燥法が好ましい。
【0173】
経口組成物は、一般的に、不活性の希釈剤又は食用の製薬学的に許容可能な基材を包含する。組成物を、ゼラチンカプセルに封入するか又は圧縮して錠剤にすることができる。経口治療投与を目的として、活性化合物を賦形剤と一緒に組み込み、錠剤、トローチ、又はカプセルの形態で用いることができる。経口組成物は、洗口剤として用いるための流体基材を用いて調製することもでき、その場合、流体基材中の化合物は経口適用され、口内で流動させられた後、吐出されるか又は嚥下される。製薬学的に適合する結合剤、及び/又はアジュバント物質を、組成物の一部として包含させることができる。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチ剤等には、以下の成分又は類似した性質の化合物のいずれかを含有させることができる:微結晶セルロース、トラガカントゴム又はゼラチンなどの結合剤;デンプン又は乳糖などの賦形剤;アルギン酸、Primogel又はトウモロコシデンプンなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム又はSterotesなどの滑沢剤;コロイド状二酸化ケイ素などの流動促進剤;ショ糖又はサッカリンなどの甘味剤;又は、ハッカ、サリチル酸メチル若しくはオレンジ着香料のような着香剤。
【0174】
吸入投与の場合、化合物は、好適な噴射剤(例えば、二酸化炭素等のガス)を含有する加圧容器若しくはディスペンサー、又はネブライザーからのエアゾール噴霧の形態で送達される。
【0175】
経粘膜又は経皮的手段による全身投与も可能である。経粘膜又は経皮投与の場合、浸透すべき障壁に適した浸透剤を製剤に使用する。そのような浸透剤は一般に当技術分野で公知であり、例えば、経粘膜投与では、洗剤、胆汁酸塩及びフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、経鼻噴霧又は坐薬を用いることにより達成することができる。経皮投与の場合、一般に当該技術分野において既知であるように、活性化合物は、軟膏、膏薬、ゲル又はクリームに製剤化される。
【0176】
活性化合物は、移植片及びマイクロカプセル送達系を包含する放出制御型製剤などの、身体からの速やかな消失から化合物を保護する製薬学的に許容可能な基材を用いて調製できる。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸などの生分解性、生体適合性のポリマーを用いることができる。そのような製剤の調製方法は、当業者には明らかであろう。この物質は、Alza Corporation及びNova Pharmaceuticals,Inc.から市販品として得ることもできる。リポソーム懸濁液(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を有する感染細胞を標的としたリポソームを包含する)を、製薬学的に許容可能な基材として使用することもできる。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号に記載されているような、当業者に既知の方法によって調製することができる。
【0177】
一実施形態において、医薬組成物はバルク又は単位剤形である。単位剤形は、種々の形態のいずれかであり、例えば、溶液、カプセル、IVバッグ、錠剤、エアロゾル吸入器の単一ポンプ又はバイアル等の種々の形態のいずれかである。単位用量における活性成分(例えば、開示された化合物、又はその塩、水和物、溶媒和物若しくは異性体の製剤)量は、有効量であり、関連する特定の処置に従って変動する。当業者は、患者の年齢及び状態に応じて、用量に慣例的な変更を加える必要がある場合のあることを理解するであろう。用量は、投与の経路にも応じ異なる。種々の経路が想到され、例えば、限定するものではないが、経口、耳内、肺、直腸、非経口、皮内、経皮、局所、経粘膜、皮下、静脈内、筋内、腹腔内、中耳内、吸入、頬側、舌下、胸膜内、脳室内(ICV)、髄腔内、鼻腔内等が挙げられる。
【0178】
投与し易さ及び投与の均一性のためには用量単位形態の経口、非経口又は中耳内組成物を処方すると、特に有利である。本明細書で使用するとき、用量単位形態は、治療する対象者のための単位用量として適した物理的に別個の単位を指し、各単位は、所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を必要な医薬品基材と共に含有する。本発明の用量単位形態の仕様は、活性化合物の特有の特徴と、達成しようとする特定の治療効果によって指示され、これらに直接依存する。
【0179】
本発明の化合物の局所的、経皮的若しくは中耳内投与の剤形としては、点耳薬、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチ及び吸入剤が挙げられる。一実施形態において、活性化合物は、滅菌条件下で、製薬学的に許容可能な基材、及び必要な任意の防腐剤、緩衝剤若しくは噴射剤と混合される。
【0180】
医薬組成物は、投与に関する説明書と共に、容器、パック又はディスペンサーに入れることができる。
【0181】
本発明の化合物には、さらに塩を形成させることができる。これらの形態の全ても、特許請求されている発明の範囲内で想到される。
【0182】
本明細書で使用するとき、「製薬学的に許容可能な塩」は、親化合物がその酸性塩又は塩基性塩を生成することによって修飾された本発明の化合物の誘導体を指す。製薬学的に許容可能な塩の例としては、限定するものではないが、塩基性残基(例えば、アミン)の無機酸又は有機酸の塩、酸性残基(例えば、カルボン酸)のアルカリ塩又は有機塩等が挙げられる。製薬学的に許容可能な塩としては、例えば、非毒性の無機酸又は有機酸から形成される、親化合物の一般的な非毒性塩又は四級アンモニウム塩が挙げられる。例えば、このような従来の非毒性塩としては、限定するものではないが、2−アセトキシ安息香酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、酢酸、アスコルビン酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、重炭酸、炭酸、クエン酸、エデト酸、エタンジスルホン酸、1,2−エタンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプタン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、グリコリルアルサニル酸、ヘキシルレゾルシン酸、ヒドラバミン酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、ヒドロキシマレイン酸、ヒドロキシナフトエ酸、イセチオン酸、乳酸、ラクトビオン酸、ラウリルスルホン酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ナプシル酸、硝酸、シュウ酸、パモ酸、パントテン酸、フェニル酢酸、リン酸、ポリガラクツロン酸、プロピオン酸、サリチル酸、ステアリン酸、塩基性酢酸(subacetic)、コハク酸、スルファミン酸、スルファニル酸、硫酸、タンニン酸、酒石酸、トルエンスルホン酸、及び一般的に生じるアミン酸(例えば、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、アルギニン等)から選択される無機酸及び有機酸から誘導されるものが挙げられる。
【0183】
製薬学的に許容可能な塩のその他の例としては、ヘキサン酸、シクロペンタンプロピオン酸、ピルビン酸、マロン酸、3−(4−ヒドロキシベンゾイル)安息香酸、ケイ皮酸、4−クロロベンゼンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、4−トルエンスルホン酸、カンホスルホン酸、4−メチルビシクロ−[2.2.2]−オクタ−2−エン−1−カルボン酸、3−フェニルプロピオン酸、トリメチル酢酸、三級ブチル酢酸、ムコン酸等が挙げられる。本発明は、親化合物に存在する酸性プロトンが金属イオン(例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、又はアルミニウムイオン)に置き換えられるか、又は有機塩基(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トロメタミン、N−メチルグルカミン等)と配位結合した際に形成される塩も含む。
【0184】
製薬学的に許容可能な塩への言及は全て、本明細書中で定義するように、同じ塩の溶媒付加形態(溶媒和物)又は結晶形態(多形)を包含することは理解されるべきである。
【0185】
本発明の化合物は、エステル(例えば、製薬学的に許容可能なエステル)としても調製できる。例えば、化合物中のカルボン酸官能基を、その対応するエステル(例えば、メチル、エチル又はその他のエステル)に変換できる。また、化合物中のアルコール基をその対応するエステル(例えば、酢酸エステル、プロピオン酸エステル又はその他のエステル)に変換できる。
【0186】
本発明の化合物は、プロドラッグ(例えば、製薬学的に許容可能なプロドラッグ)としても調製できる。用語「プロ−ドラッグ」及び「プロドラッグ」は、本明細書において互換的に使用され、インビボで活性な親薬剤を放出する任意の化合物を指す。プロドラッグは、医薬品の多数の望ましい品質(例えば、溶解度、生物学的利用能、製造性等)を増強させることが知られていることから、本発明の化合物をプロドラッグ形態で送達できる。ゆえに、本発明は、現在特許請求されている化合物のプロドラッグ、それを送達する方法、及びそれを含有する組成物を包含することを意図する。「プロドラッグ」は、このようなプロドラッグが対象者に投与された際にインビボで本発明の活性な親薬剤を放出する任意の共有結合した基材を包含することを意図する。本発明のプロドラッグは、慣例的な操作又はインビボのいずれかで修飾が切断されて親化合物になるような方法で、化合物中に存在する官能基を修飾することによって調製される。プロドラッグは、ヒドロキシ基、アミノ基、スルフヒドリル基、カルボキシ基又はカルボニル基が、インビボで切断されてそれぞれ遊離ヒドロキシル基、遊離アミノ基、遊離スルフヒドリル基、遊離カルボキシ基若しくは遊離カルボニル基を生成し得る任意の基に結合した、本発明の化合物を包含する。
【0187】
プロドラッグの例としては、限定するものではないが、エステル(例えば、酢酸エステル、ジアルキルアミノ酢酸エステル、ギ酸エステル、リン酸エステル、硫酸エステル及び安息香酸エステル誘導体)及びヒドロキシ官能基のカルバメート(例えば、N,N−ジメチルカルボニル)、カルボキシル官能基のエステル(例えば、エチルエステル、モルホリノエタノールエステル)、N−アシル誘導体(例えば、N−アセチル)、N−マンニッヒ塩基、シッフ塩基及びアミノ官能基のエナミノン、オキシム、アセタール、ケタール、本明細書の化合物中のケトン及びアルデヒド官能基のエノールエステルが挙げられる。Bundegaard,H.,Design of Prodrugs,p1〜92,Elesevier,New York−Oxford(1985)を参照されたい。
【0188】
化合物又は製薬学的に許容可能なその塩、エステル又はプロドラックは、経口、鼻腔内、経皮、肺、吸入、口腔、舌下、耳内、渦巻管内、中耳内、腹腔内、皮下、筋内、静脈内、直腸、胸膜内、髄腔内及び非経口で投与される。一実施形態において、化合物は経口投与される。別の実施形態において、この化合物は、内耳、中耳又は外耳に、局所投与される。当業者は、特定の投与経路の利点を認識するであろう。
【0189】
本化合物を利用する投薬レジメンは、患者の体型、種、年齢、体重、性別及び医療状態、治療される状態の重篤度、投与経路、患者の腎機能及び肝機能、並びに使用される特定の化合物又はその塩等の様々な因子に従って選択される。通常の知識を有する医師又は獣医師は、状態の進行を予防、阻止又は停止するのに必要な薬剤の有効な量を容易に決定及び処方できる。
【0190】
開示された本発明の化合物の製剤化及び投与の技術は、Remington:the Science and Practice of Pharmacy,19
th edition,Mack Publishing Co.,Easton,PA(1995)に見ることができる。一実施形態において、本明細書中に記載される化合物及び製薬学的に許容可能なその塩は、製薬学的に許容可能な基材又は希釈剤と組み合わせて医薬品に使用される。適切な製薬学的に許容可能な基材としては、不活性の固体充填剤又は希釈剤及び無菌の水溶液又は有機溶液が挙げられる。化合物は、本明細書中に記載する範囲で所望の用量を提供するのに充分な量でこのような医薬組成物中に存在する。
【0191】
本明細書中で使用される全ての割合(%)及び比は、他に記載のない限り、重量によるものである。本発明のその他の特徴及び利点は、種々の実施例から明らかである。提供される実施例は、本発明の実施において有用な異なる成分及び方法論を例証する。実施例は、特許請求される発明を限定するものではない。本開示に基づき、当業者は、本発明の実施に有用なその他の成分及び方法論を識別及び使用することができる。
【実施例】
【0192】
実施例1:NPD1処理は細胞生存率を増大する
本明細書で記載される実施例において、UB/OC−1細胞、又はマウスに由来するコルチ細胞の不死化器官を、聴器毒性損傷に関連してNPD1の活性を試験するために用いた。プラチナベースの化学療法剤であるシスプラチンによる処理が、このモデルにおいて聴器毒性損傷を再現した。UB/OC−1細胞を、10% Fetalclone−II血清(Hyclone laboratories,Inc.,Logan,UT,USA)、ペニシリン−ストレプトマイシン及びノルモシ(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)を補充したRPMI−1640中で培養した。この培養物を、10% CO2を有するインキュベーター内で、33℃にて保存した。
【0193】
NPD1又は表1の化合物1を、損傷の存在又は非存在下のUB/OC−1細胞における細胞生存率を増大する能力について分析した。簡潔には、1ウェルあたり3,500個の細胞を、96ウェルプレート内に植えた。24時間後、細胞を、増大が変動するNPD1(1pM、10pM、100pM、1nM、10nM、及び100nM)により、単独で、又はシスプラチン(20μM)と共に、24時間にわたって処理した。1〜100nM濃度のNPD1処理を、3回の独立した実験において試験した。
【0194】
細胞増殖アッセイを、CellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution Cell Proliferation Assay Kit(Promega,Madison,WI)を、製造業者の指示に従って用いて実施した。24時間後、20μlのCellTiter 96 AQueous One Solution試薬を各ウェルに添加し、培地の全容量を100μlにした。細胞を、3〜4時間にわたってインキュベートし、ELISAプレートリーダーを用いて、490nmにて吸光度を記録した。吸光度は、生細胞の数と正比例し、これを、ビヒクル処理細胞に対する百分率として表す。
【0195】
図1に示すように、細胞のシスプラチンによる処理は、細胞生存率の低下又は細胞増殖の低下をもたらした。しかし、シスプラチン損傷細胞におけるNPD1による処理は、細胞生存率を増大させた。全ての試験した濃度について、シスプラチン損傷細胞におけるNPD1処理は、80%を超える細胞生存率をもたらした。重要なことに、1nM〜100nMのNPD1による処理は、95%を超える生存率をもたらした。細胞生存率における増大は、シスプラチン損傷細胞に関して、全ての試験したNPD1濃度について、統計学的に有意であった(
図1において
**を割り当てる)。加えて、これらの結果はまた、1nMでの処理が100nMのNPD1による処理と類似の細胞生存率の増大をもたらしたので、NPD1の高い有効性を証明する。
【0196】
実施例2:NPD1処理は細胞生存を増大する
NPD1処理後の細胞生存もまた、損傷の存在下又は非存在下にて、UB/OC−1細胞において分析した。具体的には、アポトーシスを介した細胞死を、FITC−AnnexinVアポトーシス検出キット(BD Pharmingen,San Diego,CA,USA)を用いて検出し、フローサイトメトリによって定量した。簡潔には、1ウェルあたり3,500個のUB/OC−1細胞を、96ウェルプレート内に植えた。24時間後、細胞を変動する濃度(1nM、10nM及び100nM)のNPD1で処理し、30分後にシスプラチン(20μM)で24時間にわたって処理した。処理時間の最後に、UB/OC−1細胞を、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で1回洗浄し、0.5%トリプシン/EDTA溶液中で37℃にて回収し、220×gにて5分間にわたって遠心分離し、次いで、キット中で提供された生理学的緩衝液中に直ちに再浮遊させた。次いで、細胞(1×10
5個/500μl)を、暗所にて15分間室温にて、5μlのヨウ化プロピジウム及びFITC結合体化アネクシンVの両方と共に維持し、その後直ちに、サンプルをBD Biosciences FACSCaliburフローサイトメーター(San Jose,CA)によって分析した。結果を、CellQuestソフトウェア(BD Biosciences,San Jose,CA)を用いて定量した。データを、各ウェル中に入れた細胞の数を100%として使用して、生存百分率(非アポトーシス細胞)として表した。
【0197】
3回の独立した実験を行った。細胞生存率(すなわち、生存)の百分率を示す結果を、以下の表2に示す。
【0198】
【表2】
【0199】
表2からのデータは、
図2においてグラフ的に表される。シスプラチン治療は、細胞生存率を、最初に入れた細胞の総数の約60%に低下させた。シスプラチン誘導型損傷細胞におけるNPD1治療は、シスプラチンのみで処理した細胞と比較して、細胞生存を有意に増大させる(すなわち、96%を超える)ことを実証した。これらの結果は、NPD1による処理が、細胞のアポトーシスを防ぐか又は阻害することを実証する。
【0200】
実施例3:NPD1処理は、反応性酸素種(ROS)を減らす
聴器毒性の開始及び進行の裏に潜むと考えられる機構の1つは、内耳におけるフリー酸素ラジカルの産生であり、これは、次いで、酸化窒素と反応して破壊的な過酸化亜硝酸ラジカルを形成し、これは、アポトーシスを直接刺激する。この実施例において、反応性酸素種(ROS)の存在を、シスプラチン誘導した細胞において、NPD1による処理後に免疫染色によって試験した。
【0201】
UB/OC−1細胞を、12ウェル培養プレート内のスライドガラス上で培養した。24時間後、細胞を、種々の濃度(1nM、10nM及び100nM)でNPD1により30分間にわたって前処理し、その後、シスプラチン(2.5μM)で30分間にわたって処理し、次いで、CellROX 5μMでさらに30分間処理した。次いで、細胞を、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で1回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド中で15分間にわたって固定した。次いで、Vectasheild(Vector Labs,Burlingame,CA)を含むDAPIと共に、カバーガラスをマウントした。画像を、共焦点顕微鏡(LEICA共焦点顕微鏡(Buffalo Grove,IL)を488nm及びDAPIについて405nmを用いて記録した。CellROXは、還元条件下でわずかに蛍光を発し、反応性酸素種(ROS)による酸化の際に明るい緑色の控井安定性の蛍光を示し、その後DNAに結合する、細胞浸透性の染料である。DAPI染色を使用し、細胞核を可視化して、細胞の存在を示した。
【0202】
図3の免疫蛍光画像において示されるように、シスプラチン損傷細胞は、細胞の細胞質においてROS染色を示した。シスプラチン処理をしていない対照細胞又はNDP1のみで処理した細胞は、非常にわずかなROS染色を示すか、又は示さなかった。ROSの存在の(染色による)検出は、対照細胞においてすら、細胞の基線代謝活性がROSを産生することが予測される。シスプラチン損傷細胞における1nM及び10nMでのNPD1による処理は、対照と比較してROS染色の現象を示し、他方で、シスプラチン損傷細胞における100nM NPD1での処理は、対照及びNPD1のみの処理細胞において検出されたレベルと同様のROS染色のレベルを示した。これらの結果は、ROSの産生が、損傷細胞におけるNPD1による処理の際に阻害されるか又は減少し、実施例2において記載した細胞生存の促進に対するNPD1の効果と相関する。重要なことに、NPD1による処理は、ROSの基線レベルを産生する基線代謝活性を何ら妨げず、さらに、基線代謝活性を阻害し得る他の化合物と比較したNPD1の使用の利点を実証する。全てのROS産生活性を完全に抑制する他の化合物は、これらの細胞及び/又は組織のホメオスタシス及び正常な機能のために重要なプロセスをも阻害し得る。これらの結果は、NPD1は、基線レベルを超えるROS産生の増大を阻害するか又は減少させるが、正常な又は細胞に必須のシグナル伝達を乱さない(not perturn)ことを実証する。
【0203】
実施例4:NPD1は、ストレス及び炎症性シグナル伝達を軽減する
聴器毒性は、ストレス及び炎症性経路を開始することが公知である。聴器毒性の症状を緩和又は寛解するための治療はまた、ストレス及び炎症性シグナル伝達をも軽減し得る。したがって、ストレス及び炎症性マーカー、例えばNOX3、iNOX、TRPV−1又はTNFαもまた、聴器毒性の進行のマーカーとして使用され得る。
【0204】
UB/OC−1細胞におけるストレス及び炎症性マーカーの検出を、免疫蛍光染色によって実施した。UB/OC−1細胞を、まず、12ウェルプレート内に入れた。細胞がプレート表面上に付着した後、これらを、種々の濃度のNPD1(1nM、10nM及び100nM)で30分間にわたって前処理し、その後、シスプラチン(2.5μM)で24時間にわたって処理した。処理後、細胞を4%パラホルムアルデヒド(Sigma,St.Louis,MO)で固定し、その後、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で1回洗浄した。次いで、カバーガラスを、溶液A:5%ロバ血清(Jackson Immuno Laboratories,West Grove,PA)及びPBS中0.5% Triton−X(Sigma,St.Louis,MO)中で、室温にて30分間インキュベートした。異なるマーカーNOX3、iNOS、TRPV1又はTNF−α(300分の1希釈)についての溶液A中での二重免疫染色を、一晩4℃にて実施した。次いで、二次抗体混合物を添加し、37℃にて1時間にわたりインキュベートした。PBSによる3回の洗浄及び新鮮な蒸留水による2回の洗浄の後、核染色のためのDAPI(Vector Laboratories,Inc.Burlingame,CA)を含むVectasheildマウンティング培地を用いてカバーガラスをスライドガラス上にマウントし、その後、LEICA共焦点顕微鏡(Buffalo Grove,IL)の下で画像化した。
【0205】
TRPV−1及びTNFα染色を示す免疫蛍光画像を
図4に、NOX3及びiNOS染色を
図5に示す。TRPV−1、TNFα、NOX3及びiNOSの増大した染色によって示されるように、細胞は、シスプラチンのみの処理によって損傷を受け、ストレス及び炎症性経路を活性化する。シスプラチン損傷細胞におけるNPD1、特に10nMでの処理は、TRPV−1及びTNFα発現における低下を示し、それにより、炎症性及びストレスシグナル伝達経路における低下を示した。同様に、シスプラチン損傷細胞における1nM、10nM及び100nMでのNPD1の処理はまた、NOX3及びiNOS発現においても有意な低下をもたらした。まとめると、これらの結果は、NPD1が、聴器毒性損傷への応答における炎症性及びストレス経路の活性化を効果的に低減することを実証する。