(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6295303
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】函体継手部の止水構造
(51)【国際特許分類】
E21D 11/04 20060101AFI20180305BHJP
E21D 11/38 20060101ALI20180305BHJP
E04B 1/68 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
E21D11/04 A
E21D11/38 A
E04B1/68 Z
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-188018(P2016-188018)
(22)【出願日】2016年9月27日
(62)【分割の表示】特願2012-167953(P2012-167953)の分割
【原出願日】2012年7月30日
(65)【公開番号】特開2017-2718(P2017-2718A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2016年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078695
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 司
(72)【発明者】
【氏名】安永 正道
【審査官】
荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−310399(JP,A)
【文献】
特開昭61−250300(JP,A)
【文献】
特開平11−229782(JP,A)
【文献】
特開平10−018396(JP,A)
【文献】
特開2000−064446(JP,A)
【文献】
特開2010−121294(JP,A)
【文献】
特開2008−075246(JP,A)
【文献】
特開2010−095932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/04
E04B 1/68
E21D 11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下に埋設され直線的に連続するコンクリート函体間の継手部において、
目地材を継手部目地内に配置し、
連結鉄筋を継手部目地を貫通するように配置し、
函体の継手部外周には、前記函体の対向する角部分を全周に渡って切り欠いた切り欠き部を形成し、
切り欠き部に沿うように函体全周に渡って帆布を切り欠き部には接着されず、両方の函体に接着されるように前記目地側に、切り欠き部でたるみを持たせて配置し、
前記たるみは、コンクリート函体間の相対変位が生じた際に、自由に追従でき、函体間の隙間にめり込まない長さに調整されており、
さらに、端部を両側の函体に接着して函体間に渡すように設置するゴムシートで前記帆布の外側を覆い、少なくとも前記ゴムシートが帆布より高い伸び性能を有することを特徴とした函体継手部の止水構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路トンネル、鉄道トンネル、水路などとして地下に構築されるコンクリート函体の函体継手部の止水構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3に示すように、道路トンネル、鉄道トンネル、水路などの地下に埋設されて地下構造物を形成するコンクリート函体1は、函体長さが5m〜20m程度のブロックに分かれており、
図4のように各ブロック端部から連結鉄筋2を突出させ、縦列状態で接合される。ブロックの接続部である函体継手部3には、前記連結鉄筋2や目地材(エラスタイトなど)16や、止水板4が配置される。
【0003】
図示は省略するが、止水板4は、ゴム製でコンクリート函体1の接合部の空間(目地)を跨いで配置される。止水板4の定着部は、コンクリート函体1中に埋設される。
【0004】
前記止水板4の定着部がコンクリート函体1中のコンクリートに埋設されるタイプの止水構造は、比較的安価であり、多く用いられているが、これに対して発明者は先に、地下構造物において、部材同士の間に相対変位が生じる接合部を、経済的かつ容易に止水できる止水構造を下記特許文献として提案した。
【特許文献1】特開2008−75246号公報
【0005】
この特許文献1は、
図5に示すように、地下構造物の第1の部材6と第2の部材7との接合部に設けられる止水構造であって、第1の部材6と第2の部材7との間の隙間8を覆うように配置された遮水シート9と、前記遮水シート9よりも前記地下構造物側に設けられ、前記遮水シート9の変形を抑制する変形抑制部材10と均しコンクリート12,13とで構成する。
【0006】
遮水シート9は端部の定着部11により、前記第1の部材6および前記第2の部材7に定着される。
【0007】
遮水シート9には、地下構造物の外側防水に一般的に用いられる、安価な材料を用いる。該遮水シート9は、強度的な性能は求められず、伸び性能だけが求められるもので、例えば、5倍から10倍の伸び性能を持つ、厚さ1.5mm〜2.0mm程度のゴムシートとした。
【0008】
前記定着部11は、地下構造物の下からの水圧によって定着されるものであるが、水圧で押し付ける方法のほかに、コンクリートや鉄板と接着する方法等でもよい。
【0009】
変形抑制部材10は鋼製の金物であり、第1の部材6と第2の部材7との相対変形、および、下からの水圧に対して十分な強度を有するように設計され、例えば、断面が半円形の半円部と、半円部の両側部に一体に設けられた平板状の端部と、端部の上面に設けられた凸部とからなる。
【0010】
均しコンクリート12は、地盤を掘削して、遮水シート9を設置する前に施工されるもの、均しコンクリート13は、均しコンクリート12の上に遮水シート9を配置した後で、遮水シート9の中央部分9aの上方に、空間14を設けて施工されるものである。
【0011】
そして、均しコンクリート13上に変形抑制部材10を設置する。その後、空間15を設けて第1の部材6と第2の部材7のコンクリートを施工することにより、遮水シート9の定着部11を均しコンクリート12と第1の部材6と第2の部材7のコンクリートとの間に挟み、変形抑制部材10の端部を第1の部材6と第2の部材7のコンクリートに埋設固定する。
【0012】
このように特許文献1の止水構造では、下からの水圧による遮水シート9の変形が変形抑制部材10によって抑えられるため、高水圧下でも遮水シート9が破損せず、止水構造の信頼性が高まる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記特許文献1の止水構造は、例えば、第1の部材が側壁であり、第2の部材が底版であるような地下タンクのような平面的に円形な場合の接合部を対象としているもので、直線的に連続するコンクリート函体の函体継手部の止水構造に関するものではない。
【0014】
コンクリート函体部接続部では、せん断変位および軸方向の変位に対処することが必要となる。
【0015】
さらに、鋼製の金物である変形抑制部材の設置が必要であり、直線的に連続するコンクリート函体部接続部のような周方向での設置は、大掛かりで面倒なものとなる。
【0016】
本発明の目的はこのような事情を考慮して、地下に埋設される直線的に連続するコンクリート函体間の継手部において、函体同士の間に相対変位が生じる接合部を、経済的かつ容易に止水できる函体継手部の止水構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するため本発明は、地下に埋設され直線的に連続するコンクリート函体間の継手部において、目地材を継手部目地内に配置し、
連結鉄筋を継手部目地を貫通するように配置し、函体の継手部外周には、
前記函体の対向する角部分を全周に渡って切り欠いた切り欠き部を形成し、切り欠き部に沿うように函体全周に渡って帆布を切り欠き部には接着されず、両方の函体に接着されるように前記目地側に、切り欠き部でたるみを持たせて配置し、前記たるみは、コンクリート函体間の相対変位が生じた際に、自由に追従でき、函体間の隙間にめり込まない長さに調整されており、さらに、端部を両側の函体に接着して函体間に渡すように設置するゴムシートで前記帆布の外側を覆い、
少なくとも前記ゴムシートが帆布より高い伸び性能を有することを要旨とするものである。
【0018】
本発明によれば、主として端部を函体に接着して函体間に渡すように設置するゴムシートにより継手部の止水を行うものであり、函体の継手部のせん断方向および軸方向の変位に対して、ゴムシートは400%程度の伸びに対して追従できる。従って、自由長(非接着部長さ)が200mmの場合、800mmまでは追従して伸びることが可能である。
【0019】
通常は函体の温度膨張による伸び変形時に函体同士が競り合い、欠けることがないように目地材(商品名;エラスタイトなど)5〜20mmが挟まれている。しかし、地震などによって函体間に隙間ができた場合には目地材は追従できないので、伸び量相当の隙間ができる。そのままではゴムシートがその隙間にめり込み、破損する。帆布は、ゴムシートの外側に水圧が作用した場合、ゴムシートを支持するもので、これにより、ゴムシートが伸び破断することは無く、ゴムシートは止水板として機能する。
【0020】
帆布はゴムシートを介して水圧により発生する張力に対し破損しないだけの強度を有しているので、ゴムシートの水圧による変形を抑制(支持)することができる。函体継手部が相対変形を起した場合に、くぼみから浮き上がる帆布は力を受けず、水圧を受けた場合に函体に接触しない(函体のくぼみ部から浮き上がっている)配置で、函体継手部の相対変形(帆布接着位置の相対変形)に自由に追従できる。
【0021】
さらに、帆布は函体の相対変形(目開き、せん断変位)に対して、余裕を持った長さ(たるみを持たせる)としており力を受けずに相対変形に追従できる。
【発明の効果】
【0022】
以上述べたように本発明の函体継手部の止水構造は、地下に埋設されるコンクリート函体間の継手部において、函体同士の間に相対変位が生じる接合部を、経済的かつ容易に止水できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1、
図2は本発明の1実施形態を示す縦断側面図で、地下に埋設されるコンクリート函体1間の継手部の場合である。
【0024】
コンクリート函体1は、函体長さが5m〜20m程度のブロックに分かれており、前記
図3のように連結鉄筋2等で、縦列状態で接合される。
連結鉄筋2は継手部目地3を貫通するように配置される。
【0025】
函体継手部3には、エラスタイト(アスファルトコンパウンド、繊維類、鉱物粉末、コルク等を用い板状に成型したもの。熱などによるコンクリートの膨張による応力を緩和し、破壊を防ぐ役目をもつ。)などの目地材16を目地内に配置し、コンクリート函体1の継手部外周には、
函体の対向する角部分にくぼみの形状の切り欠き凹部17を全周に形成した。
【0026】
くぼみの形状の切り欠き凹部17は、半円形(1/4円形)、三角形、四角形のいずれでもよいが、接続されるコンクリート函体1相互のくぼみの形状の切り欠き凹部17が合わさって、おおきな切り欠き凹部(例えばコンクリート函体1単体では1/4円形の場合は、これが合わさって半円形になる。)となるものである。
【0027】
本発明は、前記函体継手部外周全周に形成された切欠き部を跨ぐようにして、前記函体継手部外周全周に形成された別途(第2)の止水構造を有する。
【0028】
前記切り欠き凹部17,17に沿うようにコンクリート函体1の全周に渡って帆布18を配置した。
【0029】
帆布18は帯状のもので、両側端部を接着部18a,中間をたるみ18bとして、このたるみ18bが前記切り欠き凹部17,17に位置して、切り欠き凹部17,17には接着されず、接着部18aをもって両方のコンクリート函体1にエポキシ系の接着剤で接着されるように配置する。
【0030】
帆布18は、前記切り欠き凹部17,17が半径10cmの切り欠きの場合、相対変位(伸び、せん断変位の合成変位量)として11cmまでは追従でき、03MPa程度の水圧に対し十分に抵抗できるもので、一般土木および港湾土木用帆布を利用できる。
【0031】
例えば、テイジンファイバー(株)の下記品番のもの、
もしくは、東レ(株)の下記品番のもの、などが好適である。
【0032】
さらに、帆布18の外側をコンクリート函体1間に渡すように設置するゴムシート19で覆う。ゴムシート19は端部をコンクリート函体1に接着してコンクリート函体1間に渡すように設置し、中間部は未接着である。
【0033】
ゴムシート19は400%程度の伸びに対して追従できるものとする。
少なくともが帆布より高い伸び性能を有する。従って、自由長(非接着部長さ)が200mmの場合、800mmまでは追従して伸びることが可能である。ゴムシート19は早川ゴム株式会社の商品名「SANTAC SPAN SHEET」(伸び率570〜740%)などが好適であり、ゴムシート19の接着剤としては、プライマー:サンタックプライマSRー200、接着剤:サンタックボンドPBなどが利用できる。
【0034】
通常は函体の温度膨張による伸び変形時に函体1同士が競り合い、欠けることがないように目地材16が挟まれている。ただし、地震などによって函体間に隙間ができた場合には目地材16は追従できないので、
図2に示すように、伸び量相当の隙間ができる。
【0035】
そのままではゴムシート19がその隙間にめり込み、破損する。帆布18は、ゴムシート19の外側に水圧が作用した場合、ゴムシートを支持するもので、これにより、ゴムシートが伸び破断することは無く、ゴムシート19は止水板として機能する。
【0036】
また、函体継手部3が相対変形を起した場合に、帆布18は力を受けず、水圧を受けた場合にコンクリート函体1に接触しない(切り欠き凹部17,17から浮き上がっている)。このように帆布18は函体継手部の相対変形(帆布接着位置の相対変形)に自由に追従でき、くぼみから浮き上がる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の函体継手部の止水構造の第1実施形態を示す通常時の縦断側面図である。
【
図2】本発明の函体継手部の止水構造の第1実施形態を示す函体同士の間に相対変位が生じた時の縦断側面図である。
【符号の説明】
【0038】
1…コンクリート函体 2…連結鉄筋
3…函体継手部 4…止水板
6…第1の部材
7…第2の部材 8…隙間
9…遮水シート 9a…中央部分
10…変形抑制部材 11…定着部
12,13…均しコンクリート
14,15…空間 16…目地材
17…切り欠き凹部 18…帆布
18a…接着部 18b…たるみ
19…ゴムシート