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特許6295329マグネシウム−アルミニウムコーティング鋼板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6295329
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】マグネシウム−アルミニウムコーティング鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/14 20060101AFI20180305BHJP
   C22C 23/02 20060101ALI20180305BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20180305BHJP
   C23C 14/58 20060101ALI20180305BHJP
   C23C 14/16 20060101ALI20180305BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20180305BHJP
   C22C 38/04 20060101ALI20180305BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   C23C14/14 G
   C22C23/02
   C22C21/06
   C23C14/58 A
   C23C14/16 A
   C22C38/00 301T
   C22C38/04
   C22C21/00 M
   C22C38/00 302X
【請求項の数】22
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-538023(P2016-538023)
(86)(22)【出願日】2014年12月17日
(65)【公表番号】特表2017-508865(P2017-508865A)
(43)【公表日】2017年3月30日
(86)【国際出願番号】KR2014012489
(87)【国際公開番号】WO2015099354
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2016年6月9日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0163166
(32)【優先日】2013年12月24日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(73)【特許権者】
【識別番号】592000705
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート オブ インダストリアル サイエンス アンド テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】チョン、 ジェ イン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、 ジ フン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 テ−ヨブ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン、 ヨンファ
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−017865(JP,A)
【文献】 特表2008−513595(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/091345(WO,A1)
【文献】 特開2003−328105(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101033552(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第1827859(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C22C 21/00−21/18
C22C 23/00−23/06
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板、及び
前記鋼板の上部に形成された第1マグネシウム−アルミニウム合金層と、
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層の上部に形成された第2マグネシウム−アルミニウム合金層とによって形成されたコーティング層を有し、
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層のマグネシウム含有量が、前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層のマグネシウム含有量より多く、
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層のマグネシウム含有量は20〜95重量%であり、
前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層のマグネシウム含有量は5〜40重量%であり、
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層と前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層とによって形成されたコーティング層の全体マグネシウム含有量は12.5重量%以上である、マグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板。
【請求項2】
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層及び前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層の厚さはそれぞれ0.5〜30μmである、請求項に記載のマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板。
【請求項3】
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層と前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層とによって前記鋼板上に形成された前記コーティング層の全体厚さは1〜50μmである、請求項に記載のマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板。
【請求項4】
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層と前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層とによって前記鋼板上に形成された前記コーティング層の全体厚さは5μm以下である、請求項に記載のマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板。
【請求項5】
前記コーティング層は、α相とβ相(AlMg)が混在している、請求項1からのいずれか1項に記載のマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板。
【請求項6】
前記コーティング層は、前記コーティング層のある一部分または全体結晶粒子形成されている、請求項に記載のマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板。
【請求項7】
前記コーティング層の結晶粒子は、α相とβ相(AlMg)がそれぞれ結晶粒子を形成し、結晶粒子の平均粒径が0.1〜2μmである、請求項に記載のマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板。
【請求項8】
前記コーティング層の結晶粒子のβ相/α相の面積比が10〜70%である、請求項に記載のマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板。
【請求項9】
前記コーティング層のα相とβ相は、XRD強度比Iβ(880)/Iα(111)が0.01〜1.5である、請求項に記載のマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板。
【請求項10】
鋼板を用意する段階と、
前記鋼板の上部に、マグネシウム−アルミニウム合金ソースを用いて少なくとも1回以上真空蒸着して、第1マグネシウム−アルミニウム合金層を形成する段階と、
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層の上部に、マグネシウム−アルミニウム合金ソースを用いて少なくとも1回以上真空蒸着して、第2マグネシウム−アルミニウム合金層を形成する段階とを含み、
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層のマグネシウム含有量が、第2マグネシウム−アルミニウム合金層のマグネシウム含有量より多く、
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層の総マグネシウム含有量は20〜95重量%であり、
前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層の総マグネシウム含有量は5〜40重量%であり、
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層と前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層とによって形成されたコーティング層の全体マグネシウム含有量は12.5重量%以上である、鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法。
【請求項11】
前記マグネシウム−アルミニウム合金ソースを代替して、純マグネシウムソースと純アルミニウムソースを用いて前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層と前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層をそれぞれ形成する、請求項10に記載の前記鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法。
【請求項12】
前記鋼板上に真空蒸着する第1マグネシウム−アルミニウム合金層は、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層に含まれているアルミニウムが拡散によって前記鋼板上の鉄と反応して、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層と前記鋼板との境界面に鉄−アルミニウム合金層を形成可能な厚さに真空蒸着する、請求項10に記載の前記鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法。
【請求項13】
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層及び前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層の厚さはそれぞれ0.5〜30μmである、請求項12に記載の前記鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法。
【請求項14】
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層と前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層とによって前記鋼板上に形成された前記コーティング層の全体厚さは1〜50μmである、請求項13に記載の前記鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法。
【請求項15】
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層と前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層とによって前記鋼板上に形成された前記コーティング層の全体厚さは5μm以下である、請求項13に記載の前記鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法。
【請求項16】
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層及び前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層は、プラズマ真空蒸着する、請求項15に記載の前記鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法。
【請求項17】
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層及び前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層は、マグネシウム−アルミニウム合金ソースまたはアルミニウムソースまたはマグネシウムソースの上部に配置された前記鋼板を繰り返し往復運動または回転させて真空蒸着する、請求項16に記載の前記鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法。
【請求項18】
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層及び前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層は、前記ソースに印加される電流または電圧を変化させて、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層及び前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層内の前記マグネシウム含有量を変化させる、請求項17に記載の前記鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法。
【請求項19】
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層及び前記第2マグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板を、熱処理炉で熱処理して相変態させることを特徴とする、請求項18に記載の前記鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法。
【請求項20】
前記熱処理は、不活性雰囲気下、350〜600℃で2〜10分間行う、請求項19に記載の前記鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法。
【請求項21】
前記熱処理によって、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層及び前記第2マグネシウム−アルミニウム合金コーティング層は、鉄−アルミニウム合金層及びマグネシウム−アルミニウム合金層のうちの1つ以上を形成する、請求項20に記載の前記鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法。
【請求項22】
前記熱処理によって、第1マグネシウム−アルミニウム合金層及び前記第2マグネシウム−アルミニウム合金コーティング層は、α相及びβ相(AlMg)のうちの1つ以上を形成する、請求項21に記載の前記鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム−アルミニウムコーティング鋼板およびその鋼板の製造方法に関し、より具体的には、ガルバニックカップリングによる鋼板の腐食を防止するためにマグネシウム−アルミニウムコーティング層を形成した鋼板およびその鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼は、優れた物理的特性を持っていて、自動車、家電、建築などの多様な産業分野に用いられている素材である。しかし、鉄鋼は、酸素などと反応して腐食を起こしやすいため、このような腐食を防止するために保護膜を被せるなどの表面処理が必須的に要求される。
このような鉄鋼は、板、棒、管などの多様な形態に加工されるが、そのうち、薄い板形態の鋼板は、産業分野に最も多く用いられる形態の鉄鋼製品の一つである。このような鋼板の腐食を防止するために最もよく使用される方法は、鉄より酸素との反応性が高い金属保護膜を鋼板表面にコーティングすることによって、その保護膜が犠牲陽極として作用して鋼板の腐食を遅延させる方法である。
【0003】
このような鋼板のコーティング時に使用される金属のうち代表的なものは、亜鉛とアルミニウムであり、このような金属を鋼板にコーティングするために使用する方法には、溶融メッキ、電気メッキなどがある。メッキ法は、その工程が容易で費用も安いため、現在、大部分の鋼板表面処理工程に利用されている。
【0004】
亜鉛メッキ法を利用して鋼板をコーティングする場合、鋼板の耐食性を向上させるために亜鉛のメッキ量を増加させる方法が考えられる。しかし、亜鉛のメッキ量を増加させるためにはメッキ速度を低下させる方法が用いられるが、このような方法は、生産性の低下という問題を生じる。
また、亜鉛メッキ量の増加は、必然的にメッキされた鋼板の重量増加を伴うため、輸送機械などの場合、重量増加による燃料消費効率の減少につながる。しかも、最近は、亜鉛の天然資源が急激に減少しているため、亜鉛を代替できる材料の発掘が急務である。
【0005】
かかる試みの一環として、亜鉛のメッキ量は増加させず、異種元素を添加して従来の亜鉛メッキ鋼板の耐食性を向上させられる方法が開発されている。このような異種元素としては、アルミニウム、マグネシウムなどがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鋼板の腐食を防止するために使用される金属として、被膜の外観特性に優れたアルミニウムと犠牲防食特性に優れたマグネシウムを用いて、マグネシウム−アルミニウムのコーティング層を形成し、全体マグネシウム含有量に対して濃度勾配を付与したマグネシウム−アルミニウムコーティング層を形成した鋼板およびその鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
コーティング層で形成されたマグネシウムの濃度勾配差によって濃度の低い方を犠牲陽極として使用可能なため、マグネシウム−アルミニウムの組成を適切に調節することによって、優れた耐食性および華やかな美観を同時に有する保護膜を実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するための、本発明の一側面によるマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板は、鋼板、及び
前記鋼板の上部に形成された第1マグネシウム−アルミニウム合金層と、
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層の上部に形成された第2マグネシウム−アルミニウム合金層とによって形成されたコーティング層とを有し、
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層のマグネシウム含有量が、第2マグネシウム−アルミニウム合金層のマグネシウム含有量より多い、マグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板を提供する。
この時、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層のマグネシウム含有量は20〜95重量%であり、前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層のマグネシウム含有量は5〜40重量%であることが好ましい。
ここで、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層と前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層とによって形成されたコーティング層の全体マグネシウム含有量は12.5重量%以上であることが好ましい。
また、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層及び前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層の厚さはそれぞれ0.5〜30μmであることが好ましく、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層と前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層とによって前記鋼板上に形成された前記コーティング層の全体厚さは1〜50μmであることがより好ましい。
そして、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層と前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層とによって前記鋼板上に形成された前記コーティング層の全体厚さは5μm以下であることがさらに好ましい。
以上のように形成された本発明の一側面によるマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板は、前記コーティング層にα相とβ相(AlMg)が混在している。
この時、前記コーティング層は、前記コーティング層のある一部分または全体が結晶粒子形状に形成され、前記コーティング層の結晶粒子は、α相とβ相(AlMg)がそれぞれ結晶粒子を形成し、結晶粒子の平均粒径が0.1〜2μmであることが好ましい。
また、前記コーティング層の結晶粒子のβ相/α相の面積比が10〜70%であり、前記コーティング層のα相とβ相は、XRD強度比Iβ(880)/Iα(111)が0.01〜1.5であることが好ましい。
【0009】
本発明の他の目的を達成するための一側面では、
鋼板を用意する段階と、
前記鋼板の上部に、マグネシウム−アルミニウム合金ソースを用いて少なくとも1回以上真空蒸着して、第1マグネシウム−アルミニウム合金層を形成する段階と、
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層の上部に、マグネシウム−アルミニウム合金ソースを用いて少なくとも1回以上真空蒸着して、第2マグネシウム−アルミニウム合金層を形成する段階とを含み、
前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層のマグネシウム含有量が、第2マグネシウム−アルミニウム合金層のマグネシウム含有量より多い、鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法を提供する。
ここで、前記マグネシウム−アルミニウム合金ソースを代替して、純マグネシウムソースと純アルミニウムソースを使用してもよい。
以上の本発明の一側面によるマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法において、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層の総マグネシウム含有量は20〜95重量%であり、前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層の総マグネシウム含有量は5〜40重量%であることが好ましい。
そして、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層と前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層とによって形成されたコーティング層の全体マグネシウム含有量は12.5重量%以上であることが好ましい。
【0010】
本発明のさらに他の目的を達成するための一側面では、
前記鋼板上に真空蒸着する第1マグネシウム−アルミニウム合金層は、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層に含まれているアルミニウムが拡散によって前記鋼板上の鉄と反応して、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層に鉄−アルミニウム合金層を形成可能な厚さに真空蒸着する、鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法を提供する。
本発明の一側面によるマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法において、前記第1および第2マグネシウム−アルミニウム合金層の厚さはそれぞれ0.5〜30μmであることが好ましい。
この時、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層と前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層とによって前記鋼板上に形成された前記コーティング層の全体厚さは1〜50μmであることが好ましい。
そして、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層と前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層とによって前記鋼板上に形成された前記コーティング層の全体厚さは5μm以下であることがより好ましい。
本発明の一側面による鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法では、前記第1および第2マグネシウム−アルミニウム合金層は、マグネトロンスパッタリングによって真空蒸着することが好ましい。
この時、前記第1および第2マグネシウム−アルミニウム合金層は、マグネシウム−アルミニウム合金ソースまたはアルミニウムソースまたはマグネシウムソースの上部に配置された前記鋼板を繰り返し往復運動または回転させて真空蒸着することが好ましい。
ここで、前記第1および第2マグネシウム−アルミニウム合金層は、前記ソースに印加される電流または電圧を変化させて、前記第1および第2マグネシウム−アルミニウム合金層内の前記マグネシウム含有量を変化させることが好ましい。
本発明の一側面による鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を形成する方法では、前記第1および第2マグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板を、熱処理炉で熱処理してコーティング層の組織を相変態させる方法をさらに含む。
この時、前記熱処理は、不活性雰囲気下、350〜600℃で2〜10分間行うことが好ましい。
このような前記熱処理によって、前記第1および第2マグネシウム−アルミニウム合金コーティング層は、鉄−アルミニウム合金層及びマグネシウム−アルミニウム合金層のうちの1つ以上を形成する。
また、前記熱処理によって、第1および第2マグネシウム−アルミニウム合金コーティング層は、α相及びβ相(AlMg)のうちの1つ以上を形成する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によるマグネシウム濃度勾配が形成されたマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を備えた鋼板は、従来の亜鉛メッキ鋼板の亜鉛メッキ層より薄い厚さを有しながらも、同一またはそれ以上の耐食性を有し、かつ、華やかな色と美感を発揮することができる。
【0012】
本発明の一実施形態によるマグネシウム濃度勾配が形成されたマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を備えた鋼板は、マグネシウム濃度勾配を有する2つのマグネシウム−アルミニウム合金層をガルバニックカップリングして各合金層間の電位差を利用して犠牲防食するため、耐食性に優れた鋼板を提供することができる。
【0013】
同時に、本発明の一実施形態によるマグネシウム濃度勾配が形成されたマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を備えた鋼板は、表面の色特性に優れたアルミニウムを同時に含有していて、耐食特性に優れ、かつ、美麗な表面を有する鋼板を提供することができる。
【0014】
また、本発明の一実施形態によるマグネシウム濃度勾配が形成されたマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層を備えた鋼板は、熱処理によって耐食性特性をより向上させ、かつ、美麗な表面を同時に維持させる鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明による一実施例で使用されたマグネシウム−アルミニウム合金層を鋼板に蒸着させるために用いる真空コーティング装置の概略図である。
図2】本発明の他の実施例である純マグネシウムと純アルミニウムを蒸着源として、2層のマグネシウム−アルミニウム合金層を基板14上に蒸着する真空コーティング装置の概略図である。
図3A】本発明の実施例1と実施例3により冷延鋼板21上に蒸着された第1コーティング層22と第2コーティング層23を示す模式図である。
図3B】本発明の実施例2と実施例4により熱処理した結果を示す模式図である。
図4A】本発明の実施例1に対する走査電子顕微鏡写真である。
図4B】本発明の実施例2に対する走査電子顕微鏡写真である。
図5】本発明による各実施例および比較例に対して耐食性を評価したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の利点および特徴、そしてそれらを達成する方法は、添付する図面と共に、詳細に後述する実施例を参照すれば明確になる。
しかし、本発明は、以下に開示される実施形態に限定されるものではなく、多様な形態で実現可能であり、単に本実施形態は本発明の開示が完全になるようにし、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものであり、本発明は請求項の範疇によってのみ定義される。
【0017】
本発明の一実施形態によるマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板は、鋼板の上部に、マグネシウム含有量が互いに異なるマグネシウム−アルミニウム合金層を複層に蒸着し、この時、鋼板と近いマグネシウム−アルミニウム合金層におけるマグネシウムの濃度が、鋼板から相対的に遠い他のマグネシウム−アルミニウム合金層におけるマグネシウム含有量より多くなるように形成する。
【0018】
このように形成された複層のマグネシウム−アルミニウム合金層が鋼板上で全体的に1つのコーティング層を形成し、このコーティング層を熱処理してコーティング層の結晶組織を相変態させることによって、耐食特性をさらに増加させることができる。
【0019】
ここで、前記鋼板上に蒸着される複層のマグネシウム−アルミニウム合金層は、各合金層におけるマグネシウム含有量を異にすることによって、このような合金層自体がガルバニックカップリングをして外部の合金層が犠牲防食層として作用するようにする。
【0020】
同時に、本発明による一実施形態において、マグネシウム−アルミニウム合金コーティング層にはアルミニウムが含まれていて、たとえ犠牲防食特性が弱いアルミニウムでも、このような犠牲防食特性は、マグネシウムにその役割を強化しながら、アルミニウム自体の表面の色を華やかに発揮できるようにする。
【0021】
以上のマグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板において、鋼板上に蒸着されるマグネシウム−アルミニウム合金層は複層に蒸着できるが、以下、説明の便宜のために2つの層に蒸着したことを中心に説明する。
【0022】
本発明の一実施形態によれば、鋼板上に先に蒸着される第1マグネシウム−アルミニウム合金層は、この合金層に含有されたマグネシウム含有量は20〜95重量%であることが好ましい。
【0023】
このように第1合金層でマグネシウム含有量を限定した理由は、マグネシウム含有量が20wt%以下になると、犠牲防食特性が低下し、95wt%以上になると、合金化による特性向上効果が無くなるからである。
【0024】
そして、第1合金層の上部に蒸着される第2マグネシウム−アルミニウム合金層におけるマグネシウム含有量は5〜40重量%であることが好ましい。
【0025】
このように第2合金層でマグネシウム含有量を限定した理由は、マグネシウム含有量が5wt%以下になると、合金化による特性向上効果が無くなり、40wt%以上になると、コーティング表面の耐久性が低下するからである。
【0026】
一方、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層と前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層とによって形成されたコーティング層における全体マグネシウム含有量は12.5重量%以上であることが好ましい。このように全体コーティング層における含有量を限定した理由は、全体マグネシウム含有量が12.5重量%以下になると、コーティング層の犠牲防食特性が低下するからである。
【0027】
また、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層と前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層の厚さはそれぞれ0.5〜30μmであることが好ましい。このようにコーティング層の厚さが0.5μm以下になると、耐食性が十分でなく、30μm以上になると、被膜がストレスの増加による剥離などの問題が発生するからである。
【0028】
そして、前記第1マグネシウム−アルミニウム合金層と前記第2マグネシウム−アルミニウム合金層とによって前記鋼板上に形成された前記コーティング層の全体厚さは1〜50μmであることが好ましく、より好ましい全体コーティング層の厚さは5μm以下である。
【0029】
以下、鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金層が複数形成され、1つのコーティング層を形成する過程を説明する。
図1は、マグネシウム−アルミニウム合金層を鋼板に蒸着させるために用いる真空コーティング装置の概略図を示している。
【0030】
本発明の一実施形態により、マグネシウム−アルミニウム合金層を鋼板上にコーティングするために、例えば、真空コーティング方法を利用することができる。このような真空コーティング方法は、従来のメッキ法と比較すると、工程費用が高いものの、薄い厚さのコーティング層を急速に製造できるため、生産性においては競争力を持つことができる。
【0031】
ここで、本発明の一実施形態により、マグネシウム−アルミニウム合金の複層がコーティングされる基板は、例えば、冷延鋼板が使用できる。ここで、冷延鋼板は、炭素含有量が0.3重量%以下の低炭素鋼が好ましく、自動車用鋼板や家電用鋼板または建築材料用鋼板に使用されることが好ましい。
【0032】
そして、マグネシウム−アルミニウム合金の複層を形成するために、プラズマ真空蒸着方法が使用できる。この時使用した蒸着源はマグネシウム−アルミニウム合金であり、このような蒸着源は複数設けられてもよい。蒸着させる方法は、蒸着装置内に前記複数のマグネシウム−アルミニウム合金蒸着源つまり、ソースを同時に装着して、電流または電圧を印加して作動させた状態で、上部に移動可能に設けられた基板をスパッタリングソース上に往復運動または回転運動してコーティング層を形成する。
【0033】
まず、蒸着装置の真空室1内の下部に第1合金蒸発源5と第2合金蒸発源6をそれぞれ設け、真空室1の上部には、鋼板つまり、基板4を装着して移送させるための基板ホルダ3が備えられている。ここで、基板ホルダ3は、基板移送ガイド2により左右に移動が可能である。そして、真空室1の側面には、基板4を清浄化するために、線状イオンビームソース9が装着される。
【0034】
マグネシウム−アルミニウム合金蒸気を形成させる第1合金蒸発源5と第2合金蒸発源6には互いに成分含有量の異なるマグネシウム−アルミニウム合金ターゲット7、8が付着していて、このターゲットから発生した合金蒸気が基板にコーティングされる。
【0035】
以上のような真空蒸着設備を用いて、基板4の表面にマグネシウムアルミニウム合金層をコーティングする工程は次の通りである。
【0036】
まず、第1合金ターゲット7と第2合金ターゲット8を第1合金蒸発源5および第2合金蒸発源6にそれぞれ設け、基板4を基板ホルダ3に装着した後、基板4を第1合金蒸発源5上に位置させた後、真空ポンプ(図示せず)を用いて真空度が10−5トール以下となるように排気する。このように排気が完了すれば、線状イオンビームソース9を用いて基板4の清浄を行った後、第1合金蒸発源5にプラズマを発生させて、基板4に下層の被膜を先にコーティングする。そして、基板4を第2合金蒸発源6上に位置させた後、第2合金源6にプラズマを発生させて、第2層の被膜をコーティングする。
【0037】
以上説明した実施形態では、マグネシウム−アルミニウム合金のコーティング層を蒸着させるために使用した蒸着源としてマグネシウム−アルミニウム合金を挙げたが、本発明はこれに限定されず、純マグネシウムと純アルミニウムソースを同時に設け、この状態で、基板1を往復させてマグネシウム−アルミニウム合金層を基板1上に蒸着させてもよい。
【0038】
図2では、このように純マグネシウムと純アルミニウムを蒸着源として、2層のマグネシウム−アルミニウム合金層を基板14上に蒸着する方法は次の通りである。
まず、アルミニウム蒸発源15に純度99.995%のアルミニウムターゲット17を装着し、マグネシウム蒸発源16に純度99.99%のマグネシウムターゲット18を装着した後、2つの蒸発源を近接させて並んで設けた。
【0039】
その後、冷延鋼板とする基板14を基板ホルダ13に設けた後、真空排気を行った。真空度が10−5トール以下となれば、基板14の清浄のために、基板を14を線状イオンビームソース19上に位置させた後、線状イオンビームソース19を用いて基板14に存在する不純物および酸化膜を除去する。
【0040】
基板14の清浄は、アルゴンガス雰囲気下、イオンビームを調節した状態で、基板移送ガイド12を用いて基板14を左右に移動しながら行うことができる。
【0041】
基板14の清浄が完了すれば、基板移送ガイド12を用いて基板14を並んで設けられた2つの蒸発源上に位置させ、アルミニウム蒸発源15に電力を印加すると同時に、マグネシウム蒸発源16にも電力を印加して、2つの蒸発源を同時にプラズマを発生させて、基板14に下層のマグネシウム−アルミニウム合金層をコーティングする。
【0042】
この時、基板14は、2つの蒸発源上で左右に連続的に移動させながらアルミニウムとマグネシウムが交互にコーティングされるようにして、マグネシウム−アルミニウム合金層におけるマグネシウム含有量を調節することができる。
以上のように鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金層が複層にコーティングされた鋼板を、真空熱処理炉で熱処理を施すことが好ましい。
【0043】
真空熱処理炉は、予熱炉と熱処理炉、そして均熱炉が連続して連結されて形成された熱処理炉を用いることができる。この時、予熱炉と熱処理炉、そして均熱炉は、各連結部分に各炉の空間を遮断する遮断膜と、この遮断膜には鋼板を移動させるための扉とが形成されることが好ましい。
【0044】
このような熱処理炉は、真空状態に排気した後、不活性ガス、例えば、窒素ガスを雰囲気ガスとして供給することができる。
【0045】
マグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板の熱処理は、まず、予熱炉に前記鋼板を装入した後、熱処理温度まで前記鋼板を加熱して温度が安定化された状態で、熱処理炉に移動させて熱処理を行う。
【0046】
合金コーティング層が形成された鋼板の熱処理は、350〜600℃で2〜10分間行うことが好ましい。熱処理を350℃以下2分以内で行うと、マグネシウム−アルミニウム合金層における各成分の拡散が十分でなくてマグネシウム−アルミニウム合金を十分に形成することができず、600℃以上10分以上で行うと、コーティング層のストレスの増加によってコーティング層が剥離されることがある。
このような熱処理は、好ましくは、350℃で10分間、または400℃で4分間行う。
【0047】
マグネシウム−アルミニウム合金コーティング層が形成された鋼板を熱処理すると、鋼板とコーティング層との境界面では鋼板の鉄成分がコーティング層に拡散してAlFe層を形成し、マグネシウム−アルミニウム合金コーティング層内ではマグネシウム−アルミニウム合金層に相変化する。
【0048】
ここで、AlFe層において、xは1〜3、yは0.5〜1.5が好ましく、このようなAlFe層の厚さは0.2〜1μmが好ましい。
【0049】
AlFe層において、xy値は、拡散によるAl−Fe合金相中において脆性を示して機械的特性が良くない合金相(例;FeAl、FeAl、FeAlなど)が生成されない範囲であり、xが1〜3であり、yが0.5〜1.5の範囲内でのAl−Fe相(例:FeAl、FeAlなど)は、鋼板とマグネシウム−アルミニウム合金層との間の密着力を向上させるため、この範囲に限定する。
【0050】
また、Al−Fe合金相の層厚さを0.2〜1μmに限定したのは、Al−Fe層の厚さが増加すると、相対的にAlは限定されており、Fe含有量が増加して脆性を有するAl−Fe合金相が生成され、これによってコーティング層の機械的特性を低下させ得るからである。
【0051】
この時、鋼板とコーティング層との境界面に形成されるAlFe層は、マグネシウムが微量含まれるアルミニウム−鉄合金層であり、このようなAlFe層は、鋼板からコーティング層方向にマグネシウム−アルミニウムコーティング層厚さの1〜50%からなることが好ましい。
【0052】
ここで、AlFe層をコーティング層厚さの1〜50%に限定した理由は、仮にAlFe層がコーティング層厚さの50%を超えて形成されると、Fe含有量が増加して機械的特性が良くない合金相が生成され得るからである。
【0053】
そして、熱処理によって相変化したマグネシウム−アルミニウム合金層は、αおよびβ相が混在した状態となる。ここで、α相は、面心立方格子(FCC)のアルミニウム相を意味し、β相は、面心立方格子のAlMgを意味する。このように形成されたマグネシウム−アルミニウム合金層においてαおよびβ相の比率は、XRD強度比つまり、Iβ(880)/Iα(111)で0.01〜1.5が好ましい。
【0054】
このようにマグネシウム−アルミニウム合金層においてαおよびβ相の比率を(Iβ/Iα)で0.01〜1.5に定めたのは、Mg−Alコーティング層を熱処理する場合、Mg含有量に応じて生成されるMg−Al合金相(β相)のXRD peak強度が変化するので、β相が生成されるMg含有量を限定するためである。
【0055】
また、熱処理によって相変化したマグネシウム−アルミニウム合金層は、柱状晶のような結晶粒子を形成し、このような結晶粒子は0.2〜1μmが好ましい。
ここで、結晶粒子の大きさを0.2〜1μmに限定したのは、Mg−Al合金層の結晶粒子の大きさが0.2以下の場合、熱処理条件を制御して形成するのが容易でない大きさであり、1μm以上に大きくなると、Al−Fe層とMg層に分離が生じて好ましくないからである。
【0056】
そして、このように形成されたマグネシウム−アルミニウム合金層の結晶粒子は、β相/α相の面積比が10〜70%であることが好ましい。
ここで、マグネシウム−アルミニウム合金の結晶粒子内においてβ相/α相の面積比を10〜70%に限定した理由は、この範囲を外れる場合、Mg−Al合金相(β相)が形成されないので、好ましくないからである。
【実施例】
【0057】
以下、本発明による実施例と、実施例と比較するための比較例を説明する。
【0058】
ここで、下記に説明する実施例と比較例で使用した鋼板はいずれも、C;0.12重量%以下(ただし、0%は除く)、Mn:0.50重量%以下(ただし、0%を除く)、P:0.04重量%(ただし、0%を除く)、そしてS:0.040重量%(ただし、0%を除く)、および残部Feとその他不可避な不純物を含み、熱間圧延および冷間圧延を経て、厚さ0.8mmに圧延された鋼板を使用した。
【0059】
<実施例1>
図1に説明した蒸着装置の真空室1内に、横、縦がそれぞれ300mm、厚さが0.8mmの冷延鋼板を基板4として使用した。
【0060】
そして、蒸着装置の真空室1の下部には、スパッタリングターゲットとして、第1合金蒸発源5に、マグネシウムが20重量%、アルミニウムが80重量%の第1合金ターゲット7を設けた後、第2合金蒸発源6に、マグネシウムが5重量%、アルミニウムが95重量%の第2合金ターゲット8を設けた。
この状態で、真空室1内を真空排気して真空度が10−5トール以下となった後、線状イオンビームソース9を用いて基板4に存在する不純物および酸化膜を除去した。
【0061】
この時、基板4の清浄は、5×10−4トールのアルゴンガス雰囲気下、イオンビームの条件を3kV、400mAに調節し、基板移送ガイド2を用いて基板4を左右に移動しながら往復4回の間行った。
【0062】
以上のように基板4の清浄が完了した後、まず、第1合金蒸発源5に5kWの電力を印加して基板4の上部に第1合金層の被膜を蒸着し、この時、蒸着は厚さが2.5μmとなるようにした。
その後引き続き、基板4を第2合金蒸発源6に移動させた後、第2合金蒸発源6に5.5kWの電力を印加して、第1合金層の上部に第2合金層を2.5μmの厚さに蒸着して、2つの合金層の全体厚さが5μmとなるように調節した。
【0063】
<実施例2>
実施例2は、実施例1により、冷延鋼板上に第1マグネシウム−アルミニウム合金層と第2マグネシウム−アルミニウム合金層が連続して蒸着された試片を熱処理炉内に装入した後、窒素雰囲気下の、400℃雰囲気で10分間熱処理を行った。
【0064】
<実施例3>
実施例3は、図に説明した蒸着装置を用いて、第1マグネシウム−アルミニウム合金層と第2マグネシウム−アルミニウム合金層が連続的に蒸着されてコーティング層を形成したものである。
【0065】
したがって、この時使用した蒸着源は、マグネシウム−アルミニウム合金でなく、アルミニウムおよびマグネシウムの単一金属ターゲットを用いた。
この時、アルミニウム蒸発源として用いたアルミニウム金属は純度99.995%であり、マグネシウム蒸発源として用いたマグネシウム金属は純度99.99%である。
【0066】
このようなアルミニウムとマグネシウムをそれぞれアルミニウムターケット17とマグネシウムターゲット18を装着し、これらのターケットは近接させて並んで設けた。
一方、基板14としては、実施例1と同一の冷延鋼板を使用した。
【0067】
以上のように基板14と蒸着ターケット17、18が装着された状態で、真空室1内を真空排気した。真空度が10−5トール以下に到達した状態で、基板14の清浄のために、線状イオンビームソース19を作動して基板14に存在する不純物および酸化膜を除去した。
【0068】
この時、基板14の清浄は、5x10−4トールのアルゴンガス雰囲気下、イオンビームの条件を3kV、400mAに調節し、基板移送ガイド12を用いて基板14を左右に移動しながら往復4回の間行った。
【0069】
以上のように基板14の清浄が完了した状態で、基板移送ガイド12を用いて基板14を並んで設けられた2つの蒸発源上に位置させた後、アルミニウム蒸発源15には8kWの電力を印加し、マグネシウム蒸発源16には3kWの電力を印加して、2つの蒸発源を同時にプラズマを発生させて、基板14上に第1マグネシウム−アルミニウム合金層の被膜を蒸着した。
【0070】
この時、基板14は、2つの蒸発源上で左右に連続的に移動させながらアルミニウムとマグネシウムが交互にコーティングされるようにし、第1マグネシウム−アルミニウム合金層のマグネシウム含有量が40wt%となるように制御した。この時、第1マグネシウム−アルミニウム合金層の被膜厚さは2.5μmであった。
【0071】
以上のように基板14上に第1マグネシウム−アルミニウム合金層を蒸着させた後、第2マグネシウム−アルミニウム合金層を連続して蒸着させた。
【0072】
第2マグネシウム−アルミニウム合金層の蒸着条件は、マグネシウム蒸発源16の電力を1kWに低下させて、第2マグネシウム−アルミニウム合金層のマグネシウム含有量が10wt%となるように調節した。この時、第2マグネシウム−アルミニウム合金層の被膜厚さは2.5μmであった。
したがって、第1および第2マグネシウム−アルミニウム合金層によるコーティング層の全体厚さは5μmとなった。
【0073】
<実施例4>
実施例4は、実施例3により、冷延鋼板上に第1マグネシウム−アルミニウム合金層と第2マグネシウム−アルミニウム合金層が連続して蒸着された試片を熱処理炉内に装入した後、窒素雰囲気下の、400℃雰囲気で10分間熱処理を行った。
【0074】
<比較例1>
比較例1は、実施例3と同様の方法で、基板14上にアルミニウム(100重量%)のみ厚さ5μmとなるように真空蒸着した点以外に、残りの条件は実施例3と同様にして行った。
【0075】
<比較例2>
比較例2は、通常の電気メッキ方法で、本実施例1〜4で使用した冷延鋼板上に純亜鉛を5.6μmの厚さにコーティングした。
【0076】
<比較例3>
比較例3は、実施例1と同様の方法で、冷延鋼板上にマグネシウム−アルミニウム合金層を蒸着し、マグネシウムの濃度勾配なしに、つまり、第1および第2マグネシウム−アルミニウム合金層を形成せず、1層のマグネシウム−アルミニウム合金層を冷延鋼板上に厚さ5μmとなるように真空蒸着した点以外に、残りの条件は実施例1と同様にして行った。
【0077】
以下、以上説明した実施例1〜4と比較例1〜3による実験結果を、図3図5を参照して説明する。
図3Aは、以上説明した実施例1と実施例3により冷延鋼板21上に蒸着された第1コーティング層22と第2コーティング層23を示す模式図である。図3Bは、以上説明した実施例2と実施例4により熱処理した結果を示す模式図である。
【0078】
図3Aに示されているように、実施例1と実施例3の場合、鋼板上に蒸着された第1Mg−Al合金層22と第2Mg−Al合金層23は、下層と上層との界面が明確に現れることに特徴がある。
【0079】
しかし、このような第1および第2Mg−Al合金コーティング層は、熱処理をすれば、図3Bのように各層にあるマグネシウムとアルミニウムが相互拡散しながらマグネシウム含有量が上から下に次第に増加する、いわゆるマグネシウム濃度勾配(傾斜)層24が形成される。
【0080】
このように、実施例1による蒸着後の第1Mg−Al合金層22と第2Mg−Al合金層23が形成された結晶組織の写真と、実施例2による熱処理後の結晶組織の写真とを比較するために、熱処理前後の結晶組織の写真を図4A図4Bにそれぞれ示した。
【0081】
図4Aは、実施例1に対する走査電子顕微鏡写真で、鋼板30の上部に2つの合金層が明確に区分されて形成されている。図4Aにおいて、図面符号31は第1Mg−Al合金層を指し、図面符号32は第2Mg−Al合金層を指す。そして、図4Aに示されているように、第1Mg−Al合金層31は、結晶成長が明確でなくて組織が緻密な状態であるが、第2Mg−Al合金層32は、柱状晶の結晶組織が発達していることが分かる。
【0082】
このような現象は、合金蒸着層においてマグネシウム含有量に応じて結晶成長組織が変化するからである。
【0083】
一方、図4Bは、実施例2に対する走査電子顕微鏡写真で、鋼板40の上部に蒸着された合金層41が熱処理によって2つの合金層の境界が希釈されて1つに合わされた形状を示している。このような現象は、鋼板40上の第1および第2Mg−Al合金層が熱処理過程により各成分が互いに拡散して1つに固まったと判断される。この合わされたコーティング層41の上層部にはマグネシウム含有量が少なく、基板側へいくほどマグネシウム含有量が増加する、いわゆる濃度勾配(傾斜)層を形成している。
【0084】
一方、図5は、前記実施例1〜実施例4と比較例1〜比較例3による各試片に対して耐食性を評価したグラフである。
【0085】
このような耐食性評価は、塩水噴霧試験(ASTM B−117)を利用し、初期の赤錆発生時間を基準として評価した。
【0086】
図5から明らかなように、赤錆発生時間が、比較例1は72時間、比較例2は48時間を示したのに対し、実施例1〜実施例4はいずれも200時間以上の間赤錆が発生しなかった。したがって、実施例1〜実施例4による鋼板は、高耐食性を示し、特に熱処理を行った実施例2と実施例4の場合には、赤錆発生時間が400時間以上を示し、優れた耐食性を発揮していることが分かる。
【0087】
以上、添付した図面を参照して本発明の実施例を説明したが、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明がその技術的な思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施可能であることを理解することができる。
【符号の説明】
【0088】
1、11:真空室
2、12:基板移送ガイド
3、13:基板ホルダ
4、14:基板
5:第1合金蒸発源
6:第2合金蒸発源
7:第1合金ターケット
8:基板移送ガイド
9、19:イオンビームソース
15:アルミニウム蒸発源
16:マグネシウム蒸発源
17:アルミニウムターケット
18:マグネシウムターケット
図1
図2
図3a
図3b
図4a
図4b
図5