(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ラッセル編機の前後方向において、前記第1鎖編糸が給糸される第1の筬が、前記第2鎖編糸が給糸される第2の筬より前側に位置する請求項2〜4の何れか一項記載のラッセルレース編地の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上、ラッセルレース編地として、ほつれの問題を解消しながら、美観、風合いの点で優れた製品を得るという開発が継続的に永年続いているが、先に紹介した特許文献2に開示の技術では、鎖編糸にカバーリング糸を使用するため、編成に熟練を要し、生産量も稼げない。
また、カバーリング糸の芯糸が溶融糸であるため、被覆糸(鞘糸)の間から芯糸を露出させる必要があり、熱処理時のテンション管理が難しい。
従って、鎖編糸自体をカバーリング糸とする技術は事実上実用化されていない。
【0008】
一方、特許文献3に開示の技術では、鎖編糸にナイロン等の比較的融点の高い糸を採用し、この鎖編糸により形成される鎖編組織に比較的細いポリエステル系熱可塑性ポリウレタン弾性糸を挿入糸として挿入し、後の熱処理工程を実行する。
【0009】
このようにすることで、糸のほつれを防止することができる編レース(本発明のラッセルレース編地)を得ることができると記載されているが、本発明者らの検討では、鎖編組織を構成する鎖編糸と熱接着糸との接着が充分起こることはなく、改善の余地があった。
【0010】
上記実情に鑑み、本発明の主たる課題は、ほつれの問題を有効に解消することが可能なラッセルレース編地の製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
編み立て方向に延びる鎖編組織をそれぞれ形成する複数の鎖編糸と、
前記鎖編糸によって形成された複数の鎖編組織間に編地緯方向に渡って編み込まれる緯渡り糸と、加熱処理されて一部若しくは全部が溶融して溶着性を示す熱溶融糸とをラッセル編機に掛けてラッセル編地を編成する編成工程と、
前記編成工程を経て得られるラッセル編地を熱処理する熱処理工程とを実行し、ラッセルレース編地を得るラッセルレース編地の製造方法の第1の特徴構成は、
前記編成工程において、
加熱処理されて一部若しくは全部が溶融する溶融性材料
である熱溶着性ポリウレタンからなる溶融性糸条部位を第1鎖編部位として、
前記溶融性材料より溶融温度が高い難溶融性材料からなる難溶融性糸条部位を第2鎖編部位として、
前記第1鎖編部位及び第2鎖編部位を同一の鎖編組織に備えた複数の鎖編組織を編成するとともに、
前記緯渡り糸を、前記溶融性材料より溶融温度が高い難溶融性材料からなる難溶融性糸とし、
ポリウレタン材料からなる挿入糸を、前記鎖編組織に挿入してラッセル編地を編成し、
前記熱処理工程において、
前記編成工程を経て得られたラッセル編地を、
前記第1鎖編部位と前記挿入糸とが接触する接触部が形成される編地緊張状態で、前記難溶融性材料及び前記緯渡り糸の溶融温度以下で、前記溶融性材料の溶融温度以上の温度に加熱する熱処理を、前記難溶融性糸条部位及び前記緯渡り糸が糸条として残る処理時間、実行して、
前記接触部を溶着させてラッセルレース編地を得ることにある。
【0012】
本構成によれば、ラッセル編地を編成するにあたり、第1鎖編部位と第2鎖編部位との
両方を備えて、一の鎖編組織を編成する。この編成において、当該鎖編組織には、
熱溶着性ポリウレタンからなる第1鎖編部位を成す溶融性材料と同種材料
であるポリウレタン材料からなる挿入糸を挿入しておく。このように編成を進めることで、第1鎖編部位と第2鎖編部位とが同一の鎖編組織を構成する形態で、そのループ部位において第1鎖編部位と挿入糸との接触部が形成される。
【0013】
このようにして、編成工程においてラッセル編地(原反)を得て、このラッセル編地を熱処理工程において熱処理する。熱処理は、難溶融性材料及び緯渡り糸の溶融温度以下で、溶融性材料の溶融温度以上の温度で、前記難溶融性糸条部位及び前記緯渡り糸が糸条として残る処理時間とする。さらに、この熱処理において、ラッセル編地はテンションが付与された緊張状態とする。
この状態で熱処理を施すと、レース編地の基本構造を構成する難溶融性糸条部位及び緯渡り糸が、その編地形態を保持する糸条として残った形態で、鎖編組織を構成する第1鎖編部位と、この鎖編組織に挿入される挿入糸とは、同種材料から構成されるとともに、その接触部において緊張状態で接触しているため、確実に溶融して溶着する。
結果、ほつれの問題を有効に解消することが可能なラッセルレース編地を得ることができる。
【0014】
本発明の第2の特徴構成は、
前記溶融性材料からなり、
フィラメント糸である第1鎖編糸と前記難溶融性材料からなる第2鎖編糸とを、異なるビームから個別の筬に給糸して、前記第1鎖編糸により前記第1鎖編部位を、前記第2鎖編糸により前記第2鎖編部位を、同一の鎖編組織に編成するとともに、
前記第1鎖編糸と前記第2鎖編糸とにより形成される鎖編組織に、前記挿入糸を挿入してラッセル編地を編成し、
前記熱処理工程において、
前記編成工程を経て得られたラッセル編地を、前記第2鎖編糸及び前記緯渡り糸の溶融温度以下で前記第1鎖編糸の溶融温度以上の温度に加熱する熱処理を、前記第2鎖編糸及び前記緯渡り糸が糸条に残る処理時間、実行してラッセルレース編地を得ることにある。
【0015】
本構成によれば、ラッセル編地を編成するにあたり、溶融性材料からな
り、フィラメント糸である第1鎖編糸と難溶融性材料からなる第2鎖編糸との両方で一の鎖編組織を編成する。この構成において、当該鎖編組織には挿入糸を挿入しておく。このように編成を進めることで、第1鎖編糸と第2鎖編糸とは同一の鎖編組織を構成する形態で、そのループ部位において第1鎖編糸と挿入糸との接触部が形成される。
【0016】
編地の編成において、第1鎖編糸と第2鎖編糸とで個別の筬を使用する理由は、これらの糸が異なった物性を有するため、各糸の給糸状態を各糸に適合する状態で独立に行い良好に編成を進めるためである。
【0017】
このようにして、編成工程においてラッセル編地(原反)を得て、このラッセル編地を熱処理工程において熱処理する。熱処理は、第2鎖編糸及び緯渡り糸の溶融温度以下で、第1鎖編糸の溶融温度以上の温度とする。ただし、その処理時間は、第2鎖編糸及び緯渡り糸が糸条として残る処理時間とする。このような熱処理を実行することにより、レース編地の基本構造を構成する第2鎖編糸及び緯渡り糸が、その編地形態を保持する糸条として残った形態で、第1鎖編糸と挿入糸とをその接触部において良好に溶着状態とすることができる。
【0018】
本発明の第3の特徴構成は、前記第1鎖編糸が前記挿入糸より細い糸であり、
前記熱処理工程における熱処理において前記挿入糸の表面が溶融し、
当該挿入糸の表面に前記第1鎖編糸が溶着する点にある。
【0019】
本構成によれば、第1鎖編糸の溶融を先行させ、良好に挿入糸に溶着することができる。
【0020】
本発明の第4の特徴構成は
、前記第1鎖編糸が前記挿入糸より細い点にある。
【0021】
本構成によれば、第1鎖編糸及び挿入糸として、同一材料からなるポリウレタン糸を使用することで、両糸の溶着を確実なものとできる。発明者の検証によれば、二本のポリウレタン糸が接触部で接触する形態で、それら糸にテンションが掛かった緊張状態(たるみのない所謂張った状態)として、熱処理を施すと、両糸は、少なくともその表面において溶着する。このように緊張状態で熱処理を施すことで、溶着部において、ほつれの問題を解消できる。また、ポリウレタン糸は弾性を有するため、ラッセルレース編地が弾性を有する、所謂、ストレッチレースとすることができる。
【0022】
本発明の第5の特徴構成は、ラッセル編機の前後方向において、前記第1鎖編糸が給糸される第1の筬が、前記第2鎖編糸が給糸される第2の筬より前側に位置する点にある。
【0023】
本発明において第2鎖編糸は熱処理工程後もラッセルレース編地に残る糸であり、比較的太く、視認性の高い糸となる。一方、第1鎖編糸は、その機能目的が溶着であるためを、比較的細く、視認性に劣る。
【0024】
このような状況にあっても、本構成によれば、第1の筬を第2の筬に対して、機台前側とするため、例えば、編成時に、比較的細く視認性に劣る第1鎖編糸が切断するといったトラブルが発生しても、ラッセル編機の前面から作業者は容易に、その第1鎖編糸の処理をすることができる。
【0025】
本発明の第6の特徴構成は
、前記第2鎖編糸がナイロン糸である点にある。
【0026】
本構成によれば
、第2鎖編糸にナイロン糸を使用することで、ラッセルレース編地を腰のあるレース柄の美しい美感を呈し、
堅牢なものとできる。
【0027】
本発明の第7の特徴構成は、前記第1鎖編糸を給糸するビームから第1の筬までの第1鎖編糸給糸部位における給糸量を調整して給糸張力を調整する第1鎖編糸給糸量調整機構を備え、
前記第2鎖編糸を給糸するビームから第2の筬までの第2鎖編糸給糸部位における給糸量を調整して給糸張力を調整する第2鎖編糸給糸量調整機構を備えた点にある。
【0028】
本構成によれば、第1鎖編糸及び第2鎖編糸の給糸部それぞれに、給糸量調整機構を備えて、その給糸量を調整して給糸張力を調整することにより、異なった物性の糸を異なった筬にそれぞれ供給して、これら両方の糸からなる鎖編組織を良好に編成することができる。
【0029】
本発明の第8の特徴構成は、前記第1鎖編糸が、太さが17〜156dtex、溶融温度が150〜180℃の熱溶着性ポリウレタン糸であり、
前記第2鎖編糸が、太さが33〜78dtex、溶融温度が200℃のナイロン糸であり、
前記挿入糸が、ポリウレタン糸であり、
前記熱処理工程において、前記編成工程を経て得られたラッセル編地を、190℃以上200℃以下の加熱温度範囲内の温度で30〜90秒間加熱処理する点ある。
【0030】
本構成によれば、第1鎖編糸、第2鎖編糸、挿入糸を使用してラッセル編地を編成し、得られたラッセル編地に対して適切な熱処理を施すことで、第1鎖編糸が挿入糸に溶着した部位を確実に形成できる。さらに、挿入糸を熱処理において残存させることで、ストレッチ性を備えたラッセルレース編地を得ることができる。
【0031】
本発明の第9の特徴構成は、
前記編成工程において、
前記溶融性糸条部位と前記難溶融性糸条部位とを一の糸に備えるコンジュゲート糸を一の筬に給糸して、前記第1鎖編部位と前記第2鎖編部位とを有する鎖編組織に編成するとともに、当該鎖編組織に、前記挿入糸を挿入して前記ラッセル編地を編成する点にある。
【0032】
本構成によれば、ラッセル編地を編成するにあたり、鎖編糸としてコンジュゲート糸を使用して鎖編組織を編成する。ここで使用するコンジュゲート糸は、一の糸が、溶融性糸条部位と難溶融性糸条部位との両方を備えて構成される糸であり、熱処理工程で実行する熱処理により、その溶融性糸条部位は溶融して、溶着性を示す。さて、これまでも説明してきたように、当該鎖編組織には挿入糸が挿入されているため、コンジュゲート糸の第1鎖編部位が、鎖編組織のループ部位において挿入糸と接触する。
【0033】
結果、このようにして、編成工程においてラッセル編地(原反)を得て、このラッセル編地を熱処理工程において熱処理すると、レース編地の基本構造を構成する難溶融性糸条部位及び緯渡り糸が、その編地形態を保持する糸条として残った形態で、鎖編組織の第1鎖編部位と挿入糸とがその接触部において良好に溶着状態となる。
結果、ほつれの問題を有効に解消することが可能なラッセルレース編地を得ることができる。
【0034】
このようにコンジュゲート糸を使用する場合は、編地の編成において、一の筬を使用するだけでよく、編成を容易に行うことができる。
【0035】
本発明の第10の特徴構成は、前記編成工程において、前記ラッセル編地の全面に、前記第1鎖編部位、前記第2鎖編部位及び挿入糸を有する鎖編組織を備えて編成する点にある。
【0036】
この構成において、編地全面でほつれの問題が起こり難いラッセルレース編地を得ることができる。
【0037】
本発明の第11の特徴構成は、前記編成工程において、前記第1鎖編部位と前記第2鎖編部位とにより形成される鎖編組織に、前記挿入糸とは異なる糸を、ラッセル編地の裏面に一部を浮かす編成形態で、浮かし挿入糸として挿入する点にある。
【0038】
この構成によれば、浮かし挿入糸を挿入することで、この糸をラッセル編地の一方の面に浮く構造として、肌触りのよいラッセルレース編地を得ることができる。
この種の浮かし挿入糸としては、綿糸、レーヨン糸、ポリエステルマルチフィラメント糸等が好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明はラッセルレース編地の製造方法に係り、その工程は、
図8に示すように、編成工程s1と、この編成工程s1を経て得られるラッセル編地20を熱処理する熱処理工程s2を主な工程としている。熱処理工程s2は熱セット工程とも呼ばれる工程で、これら両工程s1、s2を経た後に、ラッセルレース編地を染色する染色工程s3、樹脂処理する樹脂処理乾燥工程s4を実行し、裁断縫製工程s5において、所要の用途を満たすように裁断縫製して、製品を得ることができる。製品の一例は、女性用衣類となる。
【0041】
以下に示す実施形態の特徴は、編成工程s1において、今般、発明者らが改良を加えた独特のラッセル編機200を使用してラッセル編地20を編成し、このラッセル編地20を少なくとも熱処理する点にある。
【0042】
図1は、この実施形態におけるラッセル編地20を構成する多数の鎖編組織19の一つを示しており、この組織19を構成する主な糸(第1鎖編糸21a、第2鎖編糸21b、緯渡り糸22及び挿入糸23)の編成状態を示している。後にも示すように、実際のラッセル編地20には、緯渡り糸22としては、非常に多数の糸が編み込まれるが、
図1には、その二本のみを示した。
【0043】
図2は、このような編地組織を構成する鎖編糸21と、本発明においてこの鎖編糸21と対を成す挿入糸23との関係を示した図である。本発明のラッセル編地20の編成においては、第1鎖編糸21a、第2鎖編糸21bとは同一動作で鎖編組織19を形成するため、この図において、その一方を省略している(
図7(a)において同じ)。この
図2では、鎖編組織19を構成する鎖編糸21および、これに挿入する挿入糸23以外の他の糸も省略している。
【0044】
この組織のラッセル編地20を編成する場合の、編成動作における各糸(鎖編糸21及び挿入糸23)と、編み針72に対する位置関係を示すのが、
図7である。同図において、横矢印は、各針72に対する筬((a)の場合は地筬65、(b)の場合は挿入糸用筬61)の動きに対応する。
【0045】
図2においては、各鎖編組織19は互いに独立する編み組織となるが、実際は、これら組織19間に、多数の緯渡り糸22(
図1参照)が編み込まれて、ラッセル編地20が成立する。
【0046】
図1を参照して説明すると、編成工程s1を経て編成されるラッセル編地20の特徴は、鎖編組織19とされる鎖編糸21が2種の糸21a.21bから構成され、さらに、このようにして形成される鎖編組織19に編み立て方向C(編地経方向)に沿って挿入糸23が挿入されている点にある。
【0047】
このラッセル編地20では、鎖編糸21の一方の糸21aを溶融性材料からなる熱溶融糸とする。この熱溶融糸21aは熱溶着糸とも呼ばれる。この糸21aは、熱可塑性を有し、所定の温度以上に加熱されることで溶融し、この熱溶融糸21aと同種材料からなるとともに接触している挿入糸23に溶着する。
鎖編糸21の他方の糸21bは、溶融性材料より溶融温度が高い難溶融性材料からなる糸とする。
従って、この実施形態では、第1鎖編糸21aが溶融性材料からなる第1鎖編糸条部位となり、第2鎖編糸21bが難溶融性材料からなる第2鎖編糸条部位となる。
【0048】
図1には、一の鎖編組織19のみを示しているが、本実施形態では、ラッセル編地20を形成する全ての鎖編組織19(全ウェール)を、上記構成とする。結果、熱処理工程s2において、鎖編組織19の一部を構成する熱溶融糸21aが少なくとも挿入糸23に溶着し、ラッセルレース編地を、どの部位でどのように裁断しても、ほつれの発生することがないラッセルレース製品を得ることができる。
【0049】
ここで、熱溶融糸21aは、前記熱処理によりほぼその全部が溶融する。発明者らの確認では、本発明のラッセルレース編地には、熱溶融糸21aが挿入糸23に溶着した部位Yが、ほつれ止めにおいて有効であった。即ち、編地に対する伸縮操作をおこなっても、そのほつれ止め効果が失われることはなかった。
発明の概要は以上のとおりである。
【0050】
以下、1.編地組織、2.糸使い、3.ラッセル編機、4.ラッセルレース編地の製造の順に説明する。
【0051】
1.編地組織
図1に示すように、本発明に係るラッセル編地20は、編み立て方向Cに延びる鎖編組織19をそれぞれ構成する複数の鎖編糸21a,21bと、これら鎖編糸21a,21bによって形成された鎖編組織19間に編地緯方向Wに渡って編み込まれる緯渡り糸22と、鎖編組織19に編み立て方向Cに沿って、各コース(実際は、鎖編組織19のループ状部分r3(シンカーループ)の中)に挿入される挿入糸23と備えて構成される。
【0052】
同図及び
図3からも判明するように、鎖編糸21は、熱溶融糸である第1鎖編糸21aと、この熱溶融糸21aより溶融温度が高い第2鎖編糸21bとを、異なるビームB1,B2から個別の筬64a,64bに給糸して鎖編組織19が編成される。
さらに、これら第1鎖編糸21aと第2鎖編糸21bとにより形成される鎖編組織19に、ビームB4から挿入糸用の筬61に給糸して挿入糸23が挿入される。
【0053】
先にも説明したように、本発明のラッセル編地20は、第1・第2鎖編糸21a,21bにより鎖編組織19が形成され、その鎖編組織19間に緯渡りして緯渡り糸22が編成されるとともに、各鎖編組織19内に、挿入糸23が挿入される。
【0054】
ここで、緯渡り糸22には、ラッセル編地20のベースとなるネット糸と柄糸とが含まれ、ネット糸は鎖編糸21と共にラッセル編地20の基本ネットを構成する。一方、柄糸は、レース柄を決定するために編み込まれる多数の糸であり、その糸種、緯渡りの態様により、レース模様を決定する。
【0055】
即ち、各糸21a,21b、22、23によって多数の格子が形成され、各格子にそれぞれ囲まれて透孔が形成され、これら各格子の形状(透孔の形状)および配置によってレース模様が決定する。またラッセル編地20では、単位面積あたりに配置される糸の量が密な柄部と、単位面積あたりに配置される糸の量が疎な下地部(先に説明した基本ネットを含む)と呼ばれ、これらの柄部および下地部の形状および配置によっても模様が決定する。
【0056】
2.糸使い
鎖編糸
鎖編糸21としては、第1鎖編糸21aと第2鎖編糸21bを使用する。
本実施形態においては、このように複数本の鎖編糸21で同一の鎖編組織19を構成することが新規であるが、従来、鎖編組織19を形成するために採用されてきた第2鎖編糸21bに加えて第1鎖編糸21aを追加し、さらにこの糸21aが熱溶融糸であることも新規である。
【0057】
第1鎖編糸21aとしては、たとえばポリエステル系ポリウレタン(商品名:モビロン、日清紡社製)を使用する。ただし、本実施形態では、この糸21aは、その太さが17〜56dtex(ディテックス)と比較的細い。この糸は、熱処理により溶融して接触する糸に溶着する熱溶着性ポリウレタン糸であり、同時に、伸縮性を有する材料からなる単繊維糸(フィラメント糸)でもある。この糸は、この糸単独で鎖編組織19を保持することは事実上不可能であり、さらに、その鎖編編成も難しい。
図1においては、理解を容易とするため比較的細く描いている。この糸21aの溶融温度は150〜180℃である。
【0058】
第2鎖編糸21bとしは、合成樹脂からなる複数の長繊維によって構成される長繊維糸(フィラメントヤーン)を使用する。たとえばポリアミド(商標名:ナイロン)、レーヨン、ポリエステルなどからなり、その太さは33から56dtex(ディテックス)程度である。この糸21bが、従来のストレッチラッセルレースにおいて、単独で鎖編組織19を形成していた糸である。この第2鎖編糸21bの溶融温度は200℃程度である。
【0059】
緯渡り糸22としては、合成樹脂からなる複数の長繊維によって構成される長繊維糸(フィラメントヤーン)を使用する。たとえばポリアミド(商標名:ナイロン)、レーヨン、ポリエステルなどからなり、その太さは33〜78dtex(ディテックス)程度である。この糸22が、ラッセルレース編地におけるネット糸、柄糸となる。
この糸22の溶融温度も200℃程度である。
【0060】
挿入糸23としては、たとえばポリエステル系ポリウレタンを使用する。ただし、この糸23は、その太さが156〜310dtex(ディテックス)と、先に説明した第1鎖編糸21aより太い。材質上、この糸は、熱溶融糸21aと同種の材料ではあるが、高い溶融温度であるとともに、太いために、熱処理工程を経てもその糸条は残る。そして、この糸は強い伸縮性を有することから、編成後、ラッセル編地20にストレッチ性を付与する。この糸22の溶融温度は210℃程度である。
発明者らの検討では、後述する熱処理により、熱溶融糸21aがほぼ溶融するとともに、挿入糸23の表面の少なくとも一部が溶融し、良好な溶着状態となることが明らかとなっていた。
【0061】
3.ラッセル編機
本発明で使用するラッセル編地20は、たとえばバックジャガードラッシェル編機によって編成することができる。バックジャガードラッシェル編機200(以下単に編機と称する)は、鎖編糸21(21a,21b)、緯渡り糸22、挿入糸23を編み針72近傍に設けられる編成部201に向けて導糸する導糸手段(具体的には筬61、62、63、64a、64b)を有する。
本実施形態では、鎖編糸21を編成部201に向けて導糸する筬64a,64bは、他の筬61、62、63より機台前方(
図3の右側で、同図に「機台前側」と記載)に位置され、筬64aが筬64bより機台前方に位置される。
挿入糸23を編成部201に向けて導糸する筬61は、緯渡り糸22を編成部201に向けて導糸する筬62,63よりも、編機後方(
図3の左側で、同図に「機台後側」と記載)に配置される。ここで編機後方とは、編み針72の背面からフック部へ向かう方向である。ただし、緯渡り糸22を編成部201に向けて導糸する筬62は、筬64bと63との間に備えてもよい
【0062】
具体的には、
図3、
図4に示すように、編機200は、挿入糸用筬61、ジャガード筬であるジャガードバー62、多数の柄筬63、および一対の地筬64a,64bによって実現される。鎖編糸21a,21bは地筬64a,64bにそれぞれ通糸し、緯渡り糸22は、ネット糸に関してジャガードバー62に通糸し、柄糸に関して柄筬63に通糸する。挿入糸23は挿入糸用筬61に通糸する。
【0063】
このような各筬61〜64a,64bは、編み針72が鎖編糸21を捕捉する編成部201に向かって、放射状に並び、編み針72が鎖編糸21を捕捉する方向となる編機後方に向かうにつれて、地筬64a,64b、複数の柄筬63、ジャガードバー62,挿入糸用筬61の順に配置される。したがって各糸は、鎖編糸21(21a,21b)、複数の柄糸22、ネット糸22および挿入糸23の順で、予め定める編成位置から編機前後方向に並ぶこととなる。本実施形態では、第1鎖編糸21a用の地筬64aが、第2鎖編糸21bの地筬64bに対して前側に位置され、第1鎖編糸21aが編機200の最前列に並び、作業者による第1鎖編糸21aの取り扱いが容易となる。
【0064】
編み針72は、編機前後方向(
図3、
図4の左右方向)に直交する方向(
図3、
図4の紙面表裏方向)に多数並んでおり、各編み針72を保持する保持手段となるニードルバー69に固定されている。ニードルバー69は、各編み針72を昇降運動する。またニードルバー69が動作して、各筬61〜64a,64bに導糸される各糸が予め定める編成位置に導かれる。
【0065】
それぞれの筬61〜64a,64bは、対応する各糸23、22、21a,21bを、編み針72の昇降運動に同期して、編み針72に対して編機後方の空間で対応する各糸23、22、21a,21bを、編み針72が並ぶ方向に移動させるオーバーラップ(編目編成運動)と、編み針72に対して編機前方の空間で対応する各糸23、22、21a,21bを、編み針72が並ぶ方向に移動させるアンダーラップ(挿入運動)とを行う。またこれらのラップ運動に加えて編み針72が並ぶ方向に直交する方向に移動するいわゆるスイング(揺動運動)がなされる。具体的には、2つのスイング動作がある。
【0066】
第1のスイング動作であるスイングイン(バックスイング)動作では、編み針72の側方を通過して、編み針72に対して編機後方の空間から編機前方の空間に対応する各糸23、22、21a,21bを移動させる。また第2スイング動作であるスイングアウト(フロントスイング)動作では、編み針72の側方を通過して、編み針72に対して編機前方の空間から編機後方の空間に対応する各糸を移動させる。各筬61〜64a,64bに取付けられたガイドが動作することによって、対応する各糸が編み針72のまわりを予め定められる経路に従って通過し、対応する各糸23、22、21a,21bを含むラッセル編地20が形成される。鎖編糸21について
図7(a)に、挿入糸23について
図7(b)に、各編み針72に対する動作位置関係を示した。
【0067】
さて、上記の筬61〜64a,64bに関して、本発明に係るラッセル編地20を編成するラッセル編機200には、第1鎖編糸21aを給糸するビームB1から地筬64a(第1の筬)までの第1鎖編糸給糸部位b1における給糸量を調整して給糸張力を調整する第1鎖編糸給糸量調整機構TC1が備えられている。
さらに、第2鎖編糸21bを給糸するビームB2から地筬64a(第2の筬)までの第2鎖編糸給糸部位b2における給糸量を調整して給糸張力を調整する第2鎖編糸給糸量調整機構TC2も備えられている。
【0068】
また編成部201は、ステッチコームバー71、トリックプレートバー68およびトングバー70を備える。トングバー70は、先端部に各編み針72に対応した複数のトングが形成される。ラッセル編機200は、筬61〜64a,64bおよびニードルバー69の動作によって、上述したラッセル編地20を編成する。そしてステッチコームバー71の編成補助作用によって編成されたラッセル編地20を補助編成し、トリックプレートバー68を通過させて、編成部201の近傍に設けられる巻き取り部によって、ラッセル編地20を巻き取る。
【0069】
図5は、鎖編部分の編み針72と地筬64a,64bとの動きを説明するために模式的に示す断面図であり、
図5(a)〜
図5(e)の順に鎖編糸21a,21bの鎖編部分の編成作業が進む。編み針72は、先端部に鎖編糸21a,21bを係止するフック部50が形成され、基端部に編み針幹51が形成される。また
図4に示すトングバー70の先端部には、フック部50によって形成される開口を開閉するためのトング52が形成される。編み針72およびトング52は、地筬64a,64bに対して個別に昇降可能に形成される。
図5を用いて、まず鎖編組織19の編成についてのみ説明し、鎖編組織19に編込まれる緯渡り糸22および挿入糸23については後述する。
【0070】
図5(a)に示すように、地筬64a,64bが編み針72の前方に配置された状態で、フック部50が、鎖編糸21によって形成される新たな先行ループ状部分r1(ニードルループ)を引っ掛け、トング52がフック部50の開口を塞ぐ。次に
図5(b)に示すように、編み針72がトング52に対して地筬64a,64bに向かって上昇する。これによってフック部50の開口が開放されて、フック部50が引っ掛けた鎖編糸21の先行ループ状部分r1がフック部50から抜け出て、編み針幹51に移動する。
【0071】
次に
図5(c)に示すように、地筬64a,64bが編み針72に対してバックスイングする。次に、地筬64a,64bがオーバーラップし、さらに、
図5(d)に示すように、フロントスイングする。これによって地筬64a,64bに導糸される鎖編糸21a,21bが、編み針72を巻き込むように移動して、新しいループ状部分r2(ニードルループ)を形成する。この新しいループ状部分r2は、フック部50によって引っ掛けられる。次に
図5(d)に示すように、トング52がフック部50に向かって上昇し、フック部50の開口を塞ぐ。このとき編み針72には、編み針幹51に形成される先行ループ状部分r1とフック部50が係止する新しいループ状部分r2とが形成される。
【0072】
次に
図5(e)に示すように、編み針72とトング52とがともに降下することによって、先行ループ状部分r1が編み針72を抜出て、トリックプレート53側に移動する。そして地筬64a,64bが編み針72の前方に配置された状態で、フック部50が鎖編糸21a,21bによって形成される新たなループ状部分r2を引っ掛け、
図5(a)とほぼ同じ状態となる。そして
図5(a)〜
図5(e)を用いて示した動作サイクルを繰返すことによって、ループ状部分r1、r2が順次形成されるとともに、各ループ状部分r1、r2を連結するループ状部分r3(シンカーループ)が順次形成される鎖編組織19が順次形成される。
本実施例では、このような鎖編組織19の編成作業を行いながら、緯渡り糸22および挿入糸23を鎖編組織19に編込むことによって、本実施形態のラッセル編地20を編成することができる。
【0073】
図6は、ジャガードバー62および挿入糸用筬61の動きを説明するために模式的に示す断面図であり、
図6(a)〜
図6(c)の順に動作が進む。
図6(a)は
図5(c)に、
図6(b)は
図5(d)に、
図6(c)は
図5(e)にそれぞれ対応し、それぞれジャガードバー62および挿入糸用筬61を加えて示す図である。上述したようにラッセル編機200は、鎖編糸21を導糸する地筬64a,64bよりも、ジャガードバー62のほうが編機後方に配置される。さらにこのジャガードバー62よりも、挿入糸用筬61のほうが編機後方に配置される。
【0074】
図6(a)および
図6(b)に示すように、地筬64a,64bが編み針72に対して編機後方に配置される状態では、ジャガードバー62および挿入糸用筬61もまた編み針72に対して編機後方に配置される。また
図6(b)に示すように、地筬64a,64bが編み針72に対して編機前方に配置される状態では、ジャガードバー62および挿入糸用筬61もまた編み針72の前方に配置される。
【0075】
ジャガードバー62および挿入糸用筬61は、
図6(b)に示すように、地筬64a,64bがバックスイングした状態で、アンダーラッピングすることで、導糸される挿入糸23および緯渡り糸22が鎖編糸21を跨ぐ。この状態で、鎖編糸21によって新たなコースを形成すると、そのコースに挿入糸23および緯渡り糸22が編込まれることになる。このように挿入糸用筬61およびジャガードバー62は、地筬64a,64bのスイング動作に同期して動作する。
【0076】
このラッセル編機200では、ジャガードバー62が挿入糸用筬61よりも編機前方に配置される。これによって、地筬64a,64bによって形成される鎖編部分に挿入糸23および緯渡り糸22が編込まれる場合、編成位置に導糸される挿入糸23のほうが、編成位置に導糸される緯渡り糸22よりも編機後方に位置され、緯渡り糸22のほうが挿入糸23よりもラッセル編地20の編地表裏面側に位置することになる。
【0077】
以上が、本発明独特のラッセル編地20を編成するための設備構成及び編成の進行状態である。
以下、ラッセルレース編地を得るための製造工程に関して、
図8に基づいて説明する。
【0078】
4.ラッセルレース編地の製造
編成工程
まず編成工程s1の準備をする。即ち、ラッセル編地20の編成に用いる各糸21a,21b、22、23の選択、ラッセル編地20に形成すべき柄模様の決定および所望の編成組織を形成するための編地の設計が完了するなどして編地編成の準備を完了する。
そして、この設計に従って、ラッセル編機200に糸掛けする。
【0079】
この編成工程s1では、ラッセル編地20は、予め設計された編立て順序に従って、鎖編糸21a,21b、挿入糸23などの各糸21a,21b,22、23を編込んで、
図1に示す鎖編組織19を編地緯方向Wに多数備えたラッセル編地20を編成する。
【0080】
ラッセル編地20は、鎖編組織19が、第1鎖編糸21a,第2鎖編糸21bの両方で形成され、この鎖編組織19に挿入糸23が挿入された構造となる。先に示したように、挿入糸23として、比較的太いポリウレタン糸が挿入されているため、編地20は伸縮性を有することとなる。ラッセル編機200は、挿入糸23を伸長させた状態(ある程度テンションを掛けた状態)で、編成する。
【0081】
また、さきにも示したように、第1鎖編糸21aを給糸するビームB1から地筬64a(第1の筬)までの第1鎖編糸給糸部位b1における給糸量を調整して給糸張力を調整する第1鎖編糸給糸量調整機構TC1を備え、第2鎖編糸21bを給糸するビームB2から地筬64a(第2の筬)までの第2鎖編糸給糸部位b2における給糸量を調整して給糸張力を調整する第2鎖編糸給糸量調整機構TC2も備えていることで、編成において、第1鎖編糸21a、第2鎖編糸21b間の良好な給糸バランスを取る。
【0082】
ラッセル編機200を1ラック=4800回転で、各糸の給糸量は以下のとおりとした。
第1鎖編糸21a 100〜140cm
第2鎖編糸21b 100〜140cm
緯渡り糸22 20〜 80cm
挿入糸23 5〜 55cm
【0083】
このようにして編成されるラッセル編地20は、二本のポリウレタン糸21a,23を備えて各鎖編組織19が編成されたものとなる。
【0084】
熱処理工程
熱処理工程s2では、編成工程s1で編成されたラッセル編地20を、第1鎖編糸21aの溶融温度以上、かつ他の糸21b、22,23の溶融温度以下の温度(例えば、200℃)まで加熱する。即ち、第1鎖編糸21aの溶融温度(最高180℃)以上、第2鎖編糸21b、緯渡り糸22の溶融温度(最低200℃)以下の温度で、例えば1分間熱セットする。この熱処理時間は、第1鎖編糸21bが溶融して溶着性を示し、第2鎖編糸21b、緯渡り糸22、及び挿入糸23が、その糸条を保つ(糸として残る)時間である。このようにして、ラッセルレースとしての柄を保ったままで、第1鎖編糸21aが溶融して、接触する糸に溶着させることができる。特に第1鎖編糸21aと挿入糸23との溶着が良好に起こる。
【0085】
結果、
図1に示す、少なくとも第1鎖編糸21aと挿入糸23との接触部Yにおいて、第1鎖編糸21aが挿入糸23に溶着する。第1鎖編糸21aは他の糸21b,22にも部分的に溶着するが、この部位Yが最も強い。
【0086】
即ち、第1鎖編糸21aと挿入糸23とは、その溶融温度(ここでは完全に溶融する温度)は異なるが、共にポリエステル系ポリウレタンからなるため、強固に溶着される。これに対して、第2鎖編糸21bは、ポリアミドからなり、また緯渡り糸22は、ポリアミド、レーヨン等からなるため、第1鎖編糸21aとは溶着の程度は低い。
【0087】
このラッセル編地20を加熱するにあたっては、編地20を伸張させ、挿入糸23が、ある程度伸長される状態(緊張状態)を維持する。これによって、先に説明したように、ポリウレタン糸相互間の溶着を良好に発生させるとともに、この工程を経たラッセルレース編地は、挿入糸23の収縮により、ストレッチ性を保持する。
【0088】
このようにラッセル編地20を加熱して、第1鎖編糸21aと挿入糸23との接触部Yを接着させるとともに、鎖編糸21同士を緩く接着させて、ラッセルレース編地を形成し、染色工程s3に進む。
【0089】
染色工程
染色工程s3では、形成したラッセルレース編地を精練もしくは染色する。
【0090】
樹脂処理乾燥工程
この樹脂処理乾燥工程s4は、柔軟材を塗布する工程であり、ラッセルレース編地に柔軟性を与えることができる。
樹脂処理を経た後、ラッセルレース編地は、160℃程度の温風で30秒乾燥する。
【0091】
裁断縫製工程
裁断縫製工程s5では、ラッセルレース編地の用途に従って、所定の形状に編地を裁断し、縫製する。
本発明のラッセルレース編地は、ほつれの問題をほぼ完全に解消できているため裁断・縫製時にほつれに伴うトラブルが発生することはない。
【0092】
このような本実施形態のラッセル編地20によれば、伸縮性を有する挿入糸23が、鎖編組織19に編込まれて鎖編組織19に伸縮性が与えられており、ストレッチ性を有するラッセルレース編地が実現する。また第1鎖編糸21aと挿入糸23との接触部Yの一部が接着されている。これによって鎖編組織19と挿入糸23との位置ずれ、および鎖編糸21a,21b同士の位置ずれが防がれ、格子の歪みが防がれる。たとえばラッセルレース編地の縫製または裁断などの製造過程に起因する外力、着用または洗濯などの使用状態に起因する外力が作用しても、格子の歪みが防がれて格子の形状が維持され、美観の良好なレース編地が得られ、しかもその優れた美観を長期にわたって保つことができる。
【0093】
しかもラッセルレース編地全体に編込まれる第1鎖編糸21aの接着性を利用して、挿入糸23を接着し、鎖編糸21同士も一部接着しているので、部分的に異なる糸が用いられる構成ではなく、視覚的および触覚的に統一性が得られ、美観および風合いが損なわれることはない。
【0094】
〔別実施形態〕
(1)上記の実施形態では、第1鎖編糸21aと第2鎖編糸21bとを、異なるビームから個別の筬64a,64bに給糸して、これらの糸21a,21bで、一の鎖編組織19を編成するとともに、その鎖編組織19に、挿入糸23を挿入する場合を示した。
このように、2本の糸21a,21bを使用する代わりに、鎖編糸に熱融着性コンジュゲート糸210を採用し、一の鎖編組織19を、溶融性材料からなる溶融性糸条部位210aとしての第1鎖編部位と、難溶融性材料からなる難溶融性糸条部位210bとしての第2鎖編部位とからなる鎖編組織19でラッセル編地を編成してもよい。
この別実施形態を、
図9に示した。
熱融着性コンジュゲート糸は、複数(
図9に示す場合は2)の異なる成分を同時に紡糸することにより得られ、これらの成分が長さ方向に連続して互いに貼り合わされた構造を有するものである。この種のコンジュゲート糸としては、その構成として芯鞘型のもの、貼り合わせ型(サイドバイサイド型)等が知られているが、
図9には、サイドバイサイド型のものを示した。
本発明の場合、溶融性材料であるポリエステル系ポリウレタン(溶融温度が150℃〜180℃のもの)と、難溶融性材料と看做せるナイロンを用いた熱融着性コンジュゲート糸を使用することができる。
【0095】
この別実施形態では、その熱処理工程において、
編成工程を経て得られたラッセル編地を、編地緊張状態で、難溶融性材料及び緯渡り糸の溶融温度以下で、溶融性材料の溶融温度以上の温度に加熱する熱処理を、難溶融性糸条部位210b及び緯渡り糸22が糸条として残る処理時間、実行してラッセルレース編地を得ることとできる。
【0096】
一方、
図1に示した実施形態では、同図に示す一の鎖編組織19において、第1鎖編糸21aにより第1鎖編部位が、第2鎖編糸21bにより第2鎖編部位が形成される。
【0097】
(2)上記の実施形態では、第1鎖編糸21aとして、その太さが17〜56dtexのものを使用したが、発明者らの検討では、その太さが挿入糸23の太さより細いもの、具体的には156dtexのものまで採用可能であった。
さらに、第2鎖編糸21bとしては、ナイロンあるいはポリエステルとする場合、33、40、44、56、78dtexの糸を採用できる。
一方、緯渡り糸22としても、ナイロンあるいはポリエステルとする場合、33、40、44、56、78dtexの糸を採用できる。
熱処理工程s2の熱処理温度は、具体的に使用する第1鎖編糸21aの溶融温度以上、第2鎖編糸21b及び緯渡り糸22の溶融温度でその低温側の温度以下とし、この熱処理において第2鎖編糸21b及び緯渡り糸22が糸条として残る時間だけ処理することとできる。
具体的には、第1鎖編糸21aの溶融温度が150〜180℃であり、第2鎖編糸21b及び緯渡り糸22の溶融温度が200℃である場合、180℃以上、200℃以下(好ましくは190℃以上200℃以下)とできる。その熱処理時間は30〜90秒程度とする。この処理時間は非常に短いため、第2鎖編糸21b、緯渡り糸22及び挿入糸23は、これらが糸条のまま残る。
【0098】
(3)上記の実施形態では、ラッセル編地20の全面に、第1鎖編糸21a、第2鎖編糸21b及び挿入糸23を備えて編成する例示したが、本発明のキーが、熱溶融性材料からなる第1鎖編部位(例えば、第1鎖編糸21a)を挿入糸23に溶着させる点にあるため、その裁断を伴ったラッセルレース編地の使用目的に応じて(裁断箇所に応じて)、一部の鎖編組織19のみに第1鎖編部位、第2鎖編部位及び挿入糸23を編み込むものとしてもよい。
【0099】
(4)上記の実施形態においては、挿入糸23としては、ラッセルレース編地に伸縮性を付与する目的の糸としてポリウレタン糸を挿入するものとした。この糸23の他に、編成により得られる鎖編組織19に、この挿入糸23とは異なる糸を、ラッセル編地の裏面に一部を浮かす編成形態で、浮かし挿入糸として挿入してもよい。
このような浮かし挿入糸として、綿糸、レーヨン糸、マルチフィラメント糸等を選択すると、特に肌触りを良好とできる。
【0100】
(5)上記の実施形態においては、従来ほつれ止めのために、「経糸トラバース」と呼ばれる、所定の編地緯方向W位置で鎖編組織19を形成していた鎖編糸21を、隣接するウェールに緯渡りさせ、その位置で鎖編組織19を数コース形成した後、元のウェールに戻してさらに鎖編組織19を形成する編成に関しては、特に述べていない。
本発明のラッセルレース編地は、ほつれが有効に防止されるため、「経糸トラバース」を事実上必要としない。あるいは、設けるとしても、その編み立て方向Cの数を格段に減少させることができる。結果、ラッセルレース編地から従来比較的頻繁に設けられていた「経糸トラバース」箇所が格段に減少するため、ラッセル編地(特に、鎖編組織19とネット糸22から構成されるネット)に頻繁に段が現れることなく、美しい美観を呈することができる。
【0101】
(6)上記の実施形態においては、挿入糸23の挿入に関しては、
図1、
図9に示すように、編み立て方向Cにおいて、挿入糸23が鎖編の内方から外方に向かってシンカーループに挿入される、所謂、正掛けの例を示したが、挿入糸23を鎖編の外方から内方に向かってシンカーループに挿入する、所謂、逆掛けとしてもよい。
【解決手段】編成工程において、溶融性材料からなる第1鎖編糸21aと当該第1鎖編糸21aより溶融温度の高い第2鎖編糸21bとを、異なるビームから個別の筬に給糸して編成される鎖編組織に、第1鎖編糸21aと同種材料からなる挿入糸23を挿入してラッセル編地20を編成し、当該ラッセル編地20を引き伸ばした状態で、第2鎖編糸21bの溶融温度以上溶融性材料以上の温度で、第2鎖編糸21b及び緯渡り糸22が糸条として残る処理時間熱処理する。