特許第6295504号(P6295504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6295504
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】画像表示体の作製装置
(51)【国際特許分類】
   B42D 25/40 20140101AFI20180312BHJP
   B42D 25/328 20140101ALI20180312BHJP
   G02B 5/32 20060101ALI20180312BHJP
   B44C 1/17 20060101ALI20180312BHJP
   B41J 2/325 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   B42D15/10 402
   B42D15/10 328
   G02B5/32
   B44C1/17 H
   B44C1/17 G
   B41J2/325 A
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-219692(P2012-219692)
(22)【出願日】2012年10月1日
(65)【公開番号】特開2014-69535(P2014-69535A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】井ノ口 雅美
【審査官】 宮本 昭彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−272255(JP,A)
【文献】 特開2012−173464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 25/00 − 25/485
B41J 2/325
B44C 1/17
G02B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホログラム転写箔を被転写基材へ熱転写して得られる秘匿情報記録層と個別情報記録層とを有する画像表示体の作製装置であって、
前記画像表示体の作製装置が少なくとも、
(1)秘匿情報転写ロール上に形成された秘匿情報所有部の秘匿柄を、ホログラム転写箔を介して前記被転写基材に記録する秘匿情報記録部と、
(2)個別情報に応じて、ホログラム転写箔を前記被転写基材に記録する個別情報記録部と、
を含み、
前記個別情報記録部は、前記秘匿情報転写ロール上に備わり前記ホログラム転写箔を前記被転写基材に記録するために用いられる前記秘匿柄のない秘匿情報非所有部を有することを特徴とする画像表示体の作製装置。
【請求項2】
前記秘匿情報転写ロール上の前記秘匿情報所有部は、幾何学パターン状に配置された凹凸によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の画像表示体の作製装置。
【請求項3】
前記秘匿情報転写ロール上の前記秘匿情報所有部は、周期的に配置された2値の文字・図形パターンを凹凸によって設けられていることを特徴とする請求項1に記載の画像表示体の作製装置。
【請求項4】
前記秘匿情報記録部と、前記個別情報記録部は、互いに空間周波数及び又は格子角度が異なることを特徴とする請求項1に記載の画像表示体の作製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パスポートや査証などの冊子または、カード等の個人認証媒体上に個人特定の要となる顔画像や指紋を印刷・印字・描画する画像表示体に関わるものであり、特に、正等な所有者の顔などの個人識別情報を回折構造を設けた構造体とオンデマンド印刷技術を組み合わせ、更に個人識別情報とは異なる射出角度をもつ秘匿情報を併せ持つことにより、個人認証を実施する審査官が識別しやすくなり、かつ偽造および改竄が困難となること、もしくは審査官が摘発しやすくする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パスポート及びID(identification)カードなどの個人認証媒体の多くは、目視による個人認証を可能とするために、顔画像を使用している。例えば、パスポートでは、従来、顔画像を焼き付けた印画紙を冊子体に貼り付けていた。しかしながら、そのようなパスポートには、写真印画の貼り替えによる改竄のおそれがある。
【0003】
このような理由で、近年では、顔画像の情報をデジタル化し、これを冊子体上に再現することが行なわれている。この画像再現方法には、例えば、昇華性(熱移行性)染料や、顔料を分散させた樹脂型溶融タイプやワックス溶融タイプを用いた転写リボンによる感熱転写記録法、あるいは電子写真法などが検討されている。
【0004】
しかしながら、昨今、昇華性染料又は着色した熱可塑性樹脂を使用した感熱転写記録方式のプリンタが広く普及してきている。この状況を考慮すると、パスポートから顔画像を取り除き、その部分に別の顔画像を記録することは必ずしも困難ではない。
【0005】
ところで、以上のような画像表示技術を用いて、顔画像を記録し、その上に蛍光インキを用いて顔画像を記録する構成の蛍光体印刷物が提案されている(例えば特許文献1参照)。また、無色又は淡色の蛍光染料と有色の顔料とを含有したインキを用いて顔画像を記録した偽造防止画像形成体(例えば特許文献2参照)、さらに、通常の顔画像とパール顔料を用いて形成した顔画像とを並べて配置した個人認証媒体が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【0006】
従って、以上のような画像表示技術をパスポートに適用すれば、その改竄がより困難になる。しかしながら、蛍光材料を用いて記録した顔画像は、紫外線ランプなどの特殊な光源を使用しない限り観察することはできない。また、パール顔料を用いて形成した顔画像は、肉眼で視認できるものの、パール顔料の粒径が大きいため、このパール顔料を用いて高精細な画像を形成することは困難である。
【0007】
また、個人認証媒体に記録される顔画像の見え方が、単純で視覚効果が無いような見え方である場合、顔画像が複雑で特徴のある視覚効果を有する場合と比較して、その改竄が容易である。また、顔画像が単純な見え方で表示されている場合、改竄、偽造された顔画像を目視で容易に判断することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−141863号公報
【特許文献2】特開2002−226740号公報
【特許文献3】特開2003−170685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであって、改竄が困難で、且つより複雑で特徴のある視覚効果を発揮でき、目視により真贋の判断が容易に認識できる為の画像表示体の作製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成すべくなされた請求項1に記載の発明は、ホログラム転写箔を被転写基材へ熱転写して得られる画像表示体の作製装置であって、
前記画像表示体の作製装置が少なくとも、
(1)秘匿情報転写ロール上に形成された秘匿情報所有部の秘匿柄を、ホログラム転写箔を介して前記被転写基材に記録する秘匿情報記録部と、
(2)個別情報に応じて、ホログラム転写箔を前記被転写基材に記録する個別情報記録部と、
を含み、
前記個別情報記録部は、前記秘匿情報転写ロール上に備わり前記ホログラム転写箔を前記被転写基材に記録するために用いられる前記秘匿柄のない秘匿情報非所有部を有することを特徴とする画像表示体の作製装置である。
【0011】
求項に記載の発明は、前記秘匿情報転写ロール上の前記秘匿情報所有部は、幾何学パターン状に配置された凹凸によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の画像表示体の作製装置である。
【0012】
請求項に記載の発明は、前記秘匿情報転写ロール上の前記秘匿情報所有部は、周期的に配置された2値の文字・図形パターンを凹凸によって設けられていることを特徴とする請求項1に記載の画像表示体の作製装置である。
【0013】
請求項に記載の発明は、前記秘匿情報記録部と、前記個別情報記録部は、互いに空間周波数及び又は格子角度が異なることを特徴とする請求項1に記載の画像表示体の作製装置である
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、改竄、あるいはなりすまして使用する事が困難で、且つ優れた画質で特徴のある視覚効果の画像を表現でき、真偽の判断を容易に行ない得るための画像表示体の作製装置を提供できる。
【0016】
請求項1に記載した発明によれば、特定の範囲から画像表示体を観察することによって、秘匿情報と個別情報の画像を確認することができ、それ以外の範囲からは秘匿情報と個別情報の画像を確認することができない。従って、この作製装置によって得られる画像表示体は、真偽の判断を容易に行なうことが可能となる。
【0017】
請求項に記載した発明によれば、特定の照明条件のもとで秘匿情報記録層と個別情報記録層とが回折光を射出するが、秘匿情報記録層では秘匿情報の画像を確認でき、個別情報記録層では秘匿情報の画像を確認することができない。
【0018】
請求項に記載した発明によれば、秘匿情報記録層が回折光を射出する時の特定の照明条件のもとでは、秘匿情報の画像を観察することができ、個別情報記録層が回折光を射出する時の特定の照明条件のもとでは、個人を認証するための情報を観察することができる。ここで、秘匿情報記録層と個別情報記録層とでホログラム層の空間周波数及び/または格子角度を違えることで、秘匿情報の画像を確認する観察角度と、個人を認証する為の情報の観察角度とを異ならしめることができ、結果、個人を認証するための情報を観察する際、秘匿情報の画像が一緒に観察されてしまうことを防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る画像表示体の作製装置の一例を示した概略図である。
図2】本発明に係る画像表示体の作製装置の他の一例を概略的に示した概略図である。
図3】本発明に係る画像表示体の作製装置に設置するホログラム転写箔の一例を概略的に示した断面図である。
図4】本発明に係る画像表示体の一例を概略的に示した断面図である。
図5】本発明に係る画像表示体の他の一例を概略的に示した断面図である。
図6図4に示す画像表示体の観察状態の一例を概略的に示した断面図である。
図7図6に示す画像表示体の表示画像の一例を概略的に示した平面図である。
図8図4に示す画像表示体の観察状態の他の一例を概略的に示した断面図である。
図9図8に示す画像表示体の表示画像の一例を概略的に示した平面図である。
図10図5に示す画像表示体の観察状態を概略的に示した断面図である。
図11図10に示す画像表示体の表示画像の一例を概略的に示した平面図である。
図12】本発明の一実施の形態に係る画像表示体を転写して作製した個人認証媒体の一例を概略的に示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明における画像表示体の作製装置1の一例を示した概略図である。図1において、2はホログラム転写箔、3は被転写基材、11は画像入力手段、12は例えばPC(パーソナルコンピュータ)等の制御手段、13は秘匿情報転写ロール、14は転写印字制御手段、15は熱転写記録印字部となるサーマルヘッドであり、上記ホログラム転写箔2は、サーマルヘッド15及び秘匿情報転写ロール13にて被転写基材3に熱圧印字される機構となっている。上記転写印字制御手段14は、制御手段12からの指示に従ってサーマルヘッド15を制御する。
【0022】
また、上記秘匿情報転写ロール13上には秘匿情報所有部131と秘匿情報非所有部132とが設けられている。秘匿情報所有部131の秘匿柄は、幾何学パターン状に配置された凹凸または/あるいは周期的に配置された二値の文字・図形パターンの凹凸によって形成されている。この凹凸の高さの差は典型的には0.2μm以下であり、熱圧印字時に凹部と凸部とで熱の伝わり方に差が生じ、凸部のみ印字されるように設計されている。そのため、秘匿情報所有部131おいては凸部で形成されている秘匿柄が図4図6に示すように秘匿情報記録層22として被転写基材3に印字され、秘匿情報非所有部132おいては凹凸が存在しないため、秘匿柄を含まない個別情報記録層21が被転写基材3に印字されることが可能となる。すなわち、部分的に秘匿情報が入った情報記録層を被転写基材3に印字することが可能である。
【0023】
また、秘匿情報転写ロール13の秘匿情報所有部131を、後述するホログラム転写箔2の1種のレリーフ構造形成部と同じ面積だけ設け、連動させて印字することも可能である。具体的には、例えば、図3のレリーフ構造形成部H1と同じ面積だけ秘匿情報所有部131を設け、所定の面積の記録印字を行なって秘匿情報記録層22を被転写基材3に形成した後、今度は秘匿情報非所有部132を用いてレリーフ構造形成部H2を介して記録印字を行ない、秘匿情報記録層22の上に個別情報記録層21を重ねて形成することが可能である。
【0024】
図2は、本発明における画像表示体の作製装置の他の一例を示した概略図であり、ここでは、ロール全体に秘匿柄のある秘匿情報転写ロール13aと秘匿柄のない転写ロール13bの二つの熱圧印字機構を備えている。
【0025】
上記秘匿情報記録層22及び個別情報記録層21(図4図6参照)は、それぞれ、秘匿情報記録部13A及び個別情報記録部13Bにおいて部分的あるいは印字指定領域の全面に熱圧印字される。なお、図2においては秘匿情報記録部13Aで秘匿情報記録層22を形成し、その後、個別情報記録部13Bで個別情報記録層21を形成する機構となっているが、秘匿情報記録部13Aと個別情報記録部13Bの順序が逆になっても構わない。すなわち、個別情報記録部13Bで個別情報記録層21を形成した後に、秘匿情報記録部13Aで秘匿情報記録層22を形成しても構わない。
【0026】
図3は、図1図2における画像表示体の作製装置1で用いるホログラム転写箔2の一例を概略的に示した断面図である。ホログラム転写箔2は、基材の一方の面に剥離層、回折構造形成層、接着層が順に積層されて形成されている。
【0027】
ホログラム転写箔2の基材は、例えば樹脂フィルム又はシートであり、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレン(PE)等のプラスチック材料から成る。
【0028】
ホログラム転写箔2の剥離層は、ホログラム転写箔2の基材からの剥離を安定化すると共に、被転写基材3への接着を促進する役割を果たす。剥離層は、光透過性を有しており、典型的には透明である。剥離層の材料としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系アクリル樹脂、シリコーン系アクリル系樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィンポリマー、メチルスチレン樹脂、フルオレン樹脂、PET、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリアセタール樹脂等の熱可塑性樹脂にシリコーンやフッ素系の添加剤を加えたもの、あるいはフッ素系アクリル樹脂、シリコーン系アクリル系樹脂などが挙げられる。
【0029】
ホログラム転写箔2の剥離層上に形成されている回折構造形成層の材料としては、例えばポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系アクリル樹脂、シリコーン系アクリル系樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィンポリマー、メチルスチレン樹脂、フルオレン樹脂、PET、ポリプロピレン等の光硬化性樹脂、またはアクリルニトリルスチレン共重合体樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂等の熱硬化性樹脂、またはポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリアセタール樹脂等の熱可塑性樹脂を挙げることができ、上記の樹脂を所望の構造に賦型して硬化させることで剥離層の表面上に回折構造形成層を形成することができる。
【0030】
なお、ホログラム転写箔2の回折構造形成層を形成する樹脂の硬化物は全て光透過性であり、屈折率は一般的には1.5程度である。また、剥離層、回折構造形成層および接着層を合わせた総厚は、耐熱性、箔切れ性、熱転写性を向上させるために薄い方がよく、1.5μm以下であることが好ましい。
【0031】
上記回折構造形成層は、ホログラム及び/または回折格子のレリーフ構造形成部H1、H2を含んでいる。このレリーフ構造形成部H1、H2のパラメータとしては、
(1)レリーフ構造の空間周波数(格子線のピッチ:単位長さ当たりの格子線の本数)
(2)レリーフ構造の方向(格子線の方向)
があり、上記(1)に応じて、その画像セルが光って見える色が変化し、上記(2)に応じて、その画像セルが光って見える方向が変化する。
【0032】
レリーフ構造形成部H1、H2は、上記(1)、(2)のパラメータが異なっていても異なっていなくてもよいが、好ましくは、(1)、(2)のパラメータのうち、少なくとも1つ以上が異なる。
【0033】
レリーフ構造形成層は、反射層を含んでいてもよい。反射層を設けた場合には回折構造形成層が表示する画像の視認性が向上する。反射層としては、例えば、透明反射層を使用することができる。透明反射層は、例えば、真空蒸着やスパッタリングなどの真空成膜法によって形成することができる。
【0034】
透明反射層としては、例えば、回折構造形成層とは屈折率が異なる透明材料からなる層を使用することができる。透明材料からなる透明反射層は、単層構造又は多層構造の何れでもよい。後者の場合、透明反射層は、繰り返し反射干渉を生じるように設計されていてもよい。この透明材料としては、例えば、硫化亜鉛及び二酸化チタンなどの透明誘電体を使用することができる。
【0035】
また、透明反射層としては、厚さが20nm未満の金属層を使用してもよい。金属層の材料としては、例えば、クロム、ニッケル、アルミニウム、鉄、チタン、銀、金及び銅などの単体金属又はそれらの合金を使用できる。
透明反射層の膜厚は、典型的には50nm〜100nm程度であることが好ましい。
【0036】
回折構造形成層上に形成される接着層の材料としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタラート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂を挙げることができ、これらの樹脂にシリカ等の無機微粒子を添加させてもよい。
【0037】
次に図4図5を用いて、秘匿情報及び個別情報を含む画像表示体4の形成方法について説明する。
図4図5に示す画像表示体4は、ホログラム転写箔2を被転写基材3の表面上にホログラム転写箔2の基材が上側となるように置き、ホログラム転写箔2の上面に熱圧を加えることで得られる。具体的には、熱圧が加えられたホログラム転写箔2のみが被転写基材3の表面上に転写されるため、被転写基材3の表面上の所要位置にホログラム転写箔2が転写された画像表示体4を得ることができる。
【0038】
ホログラム転写箔2を転写する被転写基材3は、基材と受像層とを含んでいる。上記基材としては、例えばホログラム転写箔2の基材について例示したものを使用することができる。また、受像層としては、ホログラム転写箔2の接着層との密着性が良好となる材料から成る。
【0039】
画像表示体4の秘匿情報記録層22の形成においては、例えば、サーマルヘッド15及び図1図2の秘匿情報転写ロール13、13aを用いて、レリーフ構造形成部H1を被転写基材3に熱圧印字する。このとき、秘匿情報転写ロール13、13aには秘匿柄の凹凸がついており、凹部と凸部とで熱の伝わり方が異なる。そのため、秘匿情報所有部131の凸部で形成されている秘匿柄にそった形でホログラム転写箔2が被転写基材3の上に転写され、これによって秘匿情報の入った秘匿情報記録層22が形成される。
【0040】
秘匿情報記録層22の熱転写面積は、転写指定領域の少なくとも10%以上とする。また、転写形状は、秘匿情報が確認できるよう、連続的な形状であることが望ましい。
【0041】
次に、画像表示体4の個人を認証するための個別情報記録層21の形成について説明する。個人を認証するための情報は、例えば、撮像装置を用いて、人物の顔を撮影、或いは、印画から顔画像などを読み取ることにより、画像情報を電子情報として得る。そして、先の顔画像に対応させ、図1に示すサーマルヘッド15と秘匿情報転写ロール13の秘匿情報非所有部132あるいは図2に示す転写ロール13bを用いて、被転写基材3上に個別情報記録層21を形成する。このとき、転写ロールには凹凸が存在しないため、この熱転写は、サーマルヘッド15を利用して、ホログラム転写箔2から被転写基材3へと熱転写される部分が、先の顔画像に対応したパターンを有するように行なうことができる。
【0042】
このようにして得られる顔画像に対応したパターンは、サーマルヘッド15を用いた熱転写によって形成するので、典型的には複数のドット形状あるいは線形状から成る。
【0043】
ドット状部の径または、線状部の線幅は、例えば、0.085乃至0.508mm(約300乃至約50 dots per inch)の範囲内とし、典型的には0.085乃至0.169mm(約300乃至約150 dots per inch)の範囲内とする。この寸法を大きくすると、顔画像を表示する場合、高精細な画像を表示させることが難しくなる。また、この寸法を小さくすると、ドット状部の径または線状部の線幅の再現性が低下する。
【0044】
なお、ここで形成する個別情報記録層21は単色とは限らない。例えば、定点での色の見え方がR,G,Bの3色になるよう、異なる空間周波数のレリーフ構造形成部をホログラム転写箔2に設け、順次重ねる/または並べて転写することで、フルカラーの個別情報画像を得ることができる。そして、これにより、本人識別が容易となる。
【0045】
また、ここで形成する個別情報記録層21の情報は、二値とは限らない。元画像を2段階以上の階調に分け、先の顔画像に対応させて階調印字を行なうことで、本人識別をより容易で確実にすることが可能となり、かつ偽造、改竄の予防性を備えた画像表示体となる。
【0046】
画像表示体4において、秘匿情報記録層22と個別情報記録層21は、図4に示すように同一面上にあってもよく、図5に示すように重なっていてもよい。
秘匿情報記録層22と個別情報記録層21が図4に示すように同一面上にある場合、秘匿情報記録層22と個別情報記録層21とがホログラム転写箔2の同一レリーフ構造形成部H1で印字されたものであってもよく、異なるレリーフ構造形成部(ここではH1及びH2)で印字されたものであってもよい。
【0047】
秘匿情報記録層22と個別情報記録層21が図5に示すように重なっている場合、秘匿情報記録層22と個別情報記録層21とは異なるレリーフ構造形成部で印字さる必要があるが、秘匿情報記録層22を形成した後に個別情報記録層21を形成しても、個別情報記録層21の形成が先で、後から秘匿情報記録層22を形成してもよい。
【0048】
図6は、秘匿情報記録層22と個別情報記録層21とが、共にレリーフ構造形成部H1で同一面上に印字された画像表示体4の観察状態を示した図である。上記のように作製された画像表示体4について、図6に示す観察範囲40aから観察すると、図7に示す個人を認証するための個別情報41と、秘匿情報42とを観察できる。
【0049】
図8は、秘匿情報記録層22と個別情報記録層21とがそれぞれ、レリーフ構造形成部H1及びH2で同一面上に印字された画像表示体4の観察状態を示した図である。レリーフ構造形成部H1とH2とは、空間周波数を違えるか、格子角度を違えるか、あるいは空間周波数および格子角度の両方を違えている。
【0050】
上記のように作製された画像表示体4について、図8に示す観察範囲40aから観察すると、図9(a)に示す個人を認証するための個別情報41を観察できる。また、観察範囲40bから観察すると、個別情報41の回折光は観察できなくなり、代わりに図9(b)に示す秘匿情報42を観察できる。
【0051】
図10は、秘匿情報記録層22と個別情報記録層21とがそれぞれ、レリーフ構造形成部H1及びH2を使用して重ねて印字された画像表示体4の観察状態を示した図である。レリーフ構造形成部H1とH2とは、空間周波数を違えるか、格子角度を違えるか、あるいは空間周波数および格子角度の両方を違えている。
【0052】
上記のように作製された画像表示体4について、図10に示す観察範囲40aから観察すると、図11(a)に示す個人を認証するための個別情報41を観察できる。また、観察範囲40bから観察すると、個別情報41の回折光は観察できなくなり、代わりに図11(b)に示す秘匿情報42を観察できる。
【0053】
図12は、上記のように作製された画像表示体4を転写して作製した個人認証媒体5の一例を概略的に示した平面図である。
図12に示す個人認証媒体5は、図10に示す画像表示体4を熱転写して得られる。この熱転写には、例えばホットスタンプを利用する。なお、ホットスタンプを利用した熱転写の代わりに、熱ロール又はサーマルヘッドを利用した熱転写を行なってもよい。以上のようにして個人認証媒体5を得る。
【0054】
画像表示体4を個人認証媒体5に熱転写する場合、個人認証媒体5の基材には、接着強さを高めるために接着アンカー層を形成しておいてもよい。
個人認証媒体5の基材に高い接着強さで接着させることが難しい場合、接着層を介して熱転写してもよい。例えば、接着リボンを使用してもよい。
【0055】
画像表示体4を貼り付ける基材の材質は、紙以外であってもよい。例えば、画像表示体4を貼り付ける基材は、プラスチック基材、金属基板、セラミックス基板、またはガラス基板であってもよい。
【実施例】
【0056】
<例1;画像表示体D1の作製>
以下のようにして図3に示すホログラム転写箔2を製造した。
まず、基材として、厚み12μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを準備した。この基材上に、剥離層と回折構造形成層とをこの順に形成し、これらをオーブンで乾燥させた。剥離層の材料としてはアクリル樹脂を使用し、回折構造形成層の材料としてはアクリルポリオールを使用した。剥離層及び回折構造形成層の乾燥後の膜厚は、それぞれ、0.6μm及び0.7μmであった。
【0057】
次に、ロールエンボス装置を用いた熱プレスにより、回折構造形成層の表面に、ホログラムとしての回折構造を2種形成した。このとき、形成した回折構造の深さは共に約100nmであり、格子角度は0度で同一とし、空間周波数をそれぞれ1000本/mmと2000本/mmとした。
【0058】
次いで、回折構造形成層の回折構造上に、蒸着法により硫化亜鉛からなる透明反射層を形成した。透明反射層膜厚は50nmとした。
以上のようにして、ホログラム転写箔2を完成した。
【0059】
次に、被転写基材3を、以下の方法により製造した。
基材として厚さが25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを準備した。この基材上に、グラビアコータを用いて、剥離層と受像層とをこの順に形成し、これらをオーブンで乾燥させた。剥離層の材料としてはアクリル樹脂を使用し、受像層の材料としてはアクリルポリオールを使用した。剥離層及び受像層の乾燥後の膜厚は、それぞれ、1.2μm及び1.0μmであった。
【0060】
次に、図6に示す画像表示体4を、以下の方法により製造した。
まず、200線/mmの彩文柄が全面に施されている転写ロールと300dpiのサーマルヘッドを用いて、空間周波数1000本/mmで格子角度0度のレリーフ構造形成部H1を、所定の転写範囲全面を埋めるように印字を行なった。これによって、転写ロールに施されている彩文柄を有する秘匿情報記録層22が被転写基材3に転写された。
【0061】
次に、柄の施されていない転写ロールと300dpiのサーマルヘッドを用いて空間周波数2000本/mmで格子角度90度のレリーフ構造形成部H2を、個人を認証するための情報である顔画像を表示するように印字を行なった。これによって、秘匿情報記録層22の上面に個別情報記録層21が転写された。
以上のようにして作製した画像表示体を「画像表示体D1」と呼ぶ。
【0062】
<例2;画像表示体D2の作製>
空間周波数を1000本で同一とし、格子角度をそれぞれ0度と90度とした以外は例1で作製したのと同じホログラム転写箔2と被転写基材3を用い、画像表示体4を以下の方法により製造した。
【0063】
まず、200線/mmの彩文柄が全面に施されている転写ロールと300dpiのサーマルヘッドを用いて、空間周波数1000本/mmで格子角度90度のレリーフ構造形成部H1を、所定の転写範囲全面を埋めるように印字を行なった。これによって、転写ロールに施されている彩文柄を有する秘匿情報記録層22が被転写基材3に転写された。
【0064】
次に、柄の施されていない転写ロールと300dpiのサーマルヘッドを用いて空間周波数1000本/mmで格子角度0度のレリーフ構造形成部H2を、個人を認証するための情報である顔画像を表示するように印字を行なった。これによって、秘匿情報記録層22の上面に個別情報記録層21が転写された。
以上のようにして作製した画像表示体を「画像表示体D2」と呼ぶ。
【0065】
以上のようにして製造した画像表示体D1を観察したところ、個別情報が確認できる角度では秘匿情報が観察されず、画像表示体D1を傾斜させていき、秘匿情報が確認できるようになった角度では、個別情報が観察されなかった。
【0066】
また、画像表示体D2を観察したところ、個別情報が確認できる角度では秘匿情報が観察されなかったが、画像表示体D2を90度回転させた時には、秘匿情報が確認され、個別情報は観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、パスポートや査証などの冊子または、カード等の個人認証媒体上に個人特定の要となる顔画像や指紋を印刷・印字・描画する画像表示体に関わるものであり、特に、正等な所有者の顔などの個人識別情報を、回折構造を設けた構造体とオンデマンド印刷技術を組み合わせ、更に個人識別情報とは異なる射出角度をもつ秘匿情報を併せ持つことにより、偽造や改竄を困難にし、さらに個人識別を行なう審査官に対してより不正行為があるものを判別し易くし、より精度良く認証ができる。
【符号の説明】
【0068】
1…画像表示体の作製装置、2…ホログラム転写箔、3…被転写基材、4…画像表示体、5…個人認証媒体、11…画像入力手段、12…制御手段、13、13a…秘匿情報転写ロール、13b…転写ロール、13A…秘匿情報記録部、13B…個別情報記録部、14…転写印字制御手段、15…サーマルヘッド、131…秘匿情報所有部、132…秘匿情報非所有部、21…個別情報記録層、22…秘匿情報記録層、40a、40b…観察範囲、41…個別情報、42…秘匿情報、H1、H2…レリーフ構造形成部。
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