特許第6295535号(P6295535)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6295535-検眼装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6295535
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】検眼装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/103 20060101AFI20180312BHJP
【FI】
   A61B3/10 N
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-158779(P2013-158779)
(22)【出願日】2013年7月31日
(65)【公開番号】特開2015-29527(P2015-29527A)
(43)【公開日】2015年2月16日
【審査請求日】2016年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(72)【発明者】
【氏名】中村 健二
(72)【発明者】
【氏名】郷野 光宏
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 賀洋
【審査官】 九鬼 一慶
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−110388(JP,A)
【文献】 特開2013−048808(JP,A)
【文献】 特開平09−094223(JP,A)
【文献】 特開2010−162354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00−3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検眼の屈折誤差を矯正する矯正光学系を備え、前記矯正光学系によって被検眼の屈折誤差を矯正して被検眼の加入度数を自覚的に測定可能な検眼装置であって、
被検眼に視標を呈示する視標呈示光学系と、
被検眼の眼底に向けて測定光を投光し、前記測定光の眼底反射光を受光した受光素子の受光結果に基づいて、被検眼の眼屈折力を他覚的に測定する眼屈折力測定手段と、
被検眼に対する前記視標の呈示距離を変更させる呈示距離変更手段と、
前記視標の呈示距離が前記呈示距離変更手段によって変更されつつ前記眼屈折力測定手段によって各呈示距離での他覚的な眼屈折力を測定する測定動作を経て、遠用の眼屈折力と,被検眼の調節が限界まで発揮されているときの眼屈折力とを取得し、更に、それら2種類の眼屈折力の差分として被検眼の調節力を取得する調節力取得手段と、
前記被検眼の加入度数を自覚的に測定る際被検眼に付加される加入度数の初期値を、前記調節力よりも低くなる範囲において前記調節力に基づいて設定する設定手段を備えていることを特徴とする検眼装置。
【請求項2】
前記設定手段は、前記加入度数の初期値Addを、被検者毎に定めた近業距離N(m)と前記調節力を示す値Frと、検者毎に定めた調節力の使用割合α(但し、0<α<1)とを用いて次の式(1)で表されることを特徴とする請求項1記載の検眼装置。
Add=(1/N)-Fr×α ・・・(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検眼の屈折度数を自覚的に測定可能な検眼装置に関する。
【背景技術】
【0002】
累進レンズの作成等に用いられる加入度数を自覚的な検査によって決定する手法が知られている。例えば、特許文献1記載の装置では、屈折誤差が矯正された被検眼に対して、更に加入度数を付加しつつ近用視力検査を行うことができる。この装置では、被検眼に付加させる加入度数を異ならせて近用視力検査が繰り返し行われることで、近業距離に存在する物体を検者が良好に見ることのできる加入度数が調べられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−014874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来は、被検眼の加入度数を自覚的に測定する場合に、ある一定値、または、被検者の年齢から推測される推定値が、加入度数の初期値として被検眼に付加される場合があった。この場合、加入度数の初期値が、実際に被検眼に必要とされる加入度数から離れてしまうおそれがある。加入度数の初期値が、実際に必要とされる加入度数から大きく離れるほど、加入度数の測定に要する時間が増大しやすく、検者および被検者の負担が高くなりやすい。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、被検眼の加入度数を測定する場合に検者および被検者の負担が抑制されやすい検眼装置を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の第1態様に係る検眼装置は、被検眼の屈折誤差を矯正する矯正光学系を備え、前記矯正光学系によって被検眼の屈折誤差を矯正して被検眼の加入度数を自覚的に測定可能な検眼装置であって、被検眼に視標を呈示する視標呈示光学系と、被検眼の眼底に向けて測定光を投光し、前記測定光の眼底反射光を受光した受光素子の受光結果に基づいて、被検眼の眼屈折力を他覚的に測定する眼屈折力測定手段と、被検眼に対する前記視標の呈示距離を変更させる呈示距離変更手段と、前記視標の呈示距離が前記呈示距離変更手段によって変更されつつ前記眼屈折力測定手段によって各呈示距離での他覚的な眼屈折力を測定する測定動作を経て、遠用の眼屈折力と,被検眼の調節が限界まで発揮されているときの眼屈折力とを取得し、更に、それら2種類の眼屈折力の差分として被検眼の調節力を取得する調節力取得手段と、前記被検眼の加入度数を自覚的に測定る際被検眼に付加される加入度数の初期値を、前記調節力よりも低くなる範囲において前記調節力に基づいて設定する設定手段を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、被検眼の加入度数を測定する場合に検者および被検者の負担が抑制されやすいという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】検眼装置100の光学系および制御系の概略構成を示した模式図である。
図2】検眼装置100の測定動作を示したフローチャートである。
図3】本発明の変形例を示した模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の例示的な実施形態について説明する。まず、図1を参照して、本実施形態における検眼装置100の光学系および制御系の概略構成を説明する。本実施形態において、検眼装置100は、被検眼の屈折力を他覚的に測定するオートレフの機能を備えてもよい。また、検眼装置100では、累進レンズの作成等に用いられる加入度数を求めることができる。更に、検眼装置100では、遠用距離および近用距離における被検眼Eの視力測定を行ってもよい。検眼装置100の光学系および制御系は、図示無き筐体に内蔵されている。筐体は、周知のアライメント用移動機構により、被検眼Eに対して三次元的に移動されてもよい。図1に示すように、本実施形態の検眼装置100は、測定を片眼毎に行うが、両眼同時に(両眼視で)測定を行う装置であってもよい。また、検眼装置100は、手持ちタイプ(ハンディタイプ)であってもよい。
【0010】
図1に示すように、検眼装置100は、主な光学系として、測定光学系10と、固視標呈示光学系30と、アライメント指標投影光学系40と、観察光学系(撮像光学系)50と、を有している。
【0011】
測定光学系10は、投影光学系(投光光学系)10aと、受光光学系10bと、を有している。投影光学系10aは、被検眼Eの瞳孔を介して眼底Efに光束を投影する。また、受光光学系10bは、瞳孔周辺部を介して眼底Efからの反射光束(眼底反射光)をリング状に取り出し、主に屈折力の測定に用いるリング状の眼底反射像を撮像する。
【0012】
投影光学系10aは、測定光源11と、リレーレンズ12と、ホールミラー13と、対物レンズ14と、を光軸L1上に有している。
【0013】
光源11は、リレーレンズ11から対物レンズ14、および、瞳孔中心部を介して眼底Efにスポット状の光源像を投影する。光源11は、移動機構23によって光軸L1方向に移動される。このため、本実施形態の検眼装置100は、正視眼の眼底Efと光学的に共役な位置に光源11を配置して屈折力等の測定を行うことができる。
【0014】
ホールミラー13には、リレーレンズ12を介した光源11からの光束を通過させる開口が設けられている。ホールミラー13は、被検眼Eの瞳孔と光学的に共役な位置に配置されている。
【0015】
受光光学系10bは、ホールミラー13と、対物レンズ14と、を投影光学系10aと共用する。また、受光光学系10bは、リレーレンズ16と、全反射ミラー17と、を有している。更に、受光光学系10bは、受光絞り18と、コリメータレンズ19と、リングレンズ20と、撮像素子22と、をホールミラー13の反射方向の光軸L2上に有している。撮像素子22には、エリアCCD等の二次元受光素子を用いることができる。受光絞り18、コリメータレンズ19、リングレンズ20、及び撮像素子22は、移動機構23によって、投影光学系10aの測定光源11と一体的に光軸L2方向に移動される。移動機構23によって光源11が眼底Efと光学的に共役な位置に配置される場合、受光絞り18及び撮像素子22も、眼底Efと光学的に共役な位置に配置される。
【0016】
リングレンズ20は、対物レンズ14からコリメータレンズ19を介して導かれる眼底反射光を、リング状に整形するための光学素子である。リングレンズ20は、リング状のレンズ部と、遮光部と、を有している。また、受光絞り18及び撮像素子22が、眼底Efと光学的に共役な位置に配置される場合、リングレンズ20は、被検眼Eの瞳孔と光学的に共役な位置に配置される。撮像素子22では、リングレンズ20を介したリング状の眼底反射光(以下、リング像という)が受光される。撮像素子22は、受光したリング像の画像情報を、制御部70に出力する。その結果、制御部70では、モニタ7でのリング像の表示、およびリング像に基づく屈折力の算出等が行われる。
【0017】
なお、測定光学系10は上記のものに限らず、眼底Efに向けて測定光を投光する投光光学系と、投光光学系からの測定光に基づく眼底反射光を受光素子によって受光する受光光学系と、を有していればよい。例えば、測定光学系は、シャックハルトマンセンサを受光素子として備えた構成であってもよい。また、測定光学系において他の測定方式が利用されてもよい(例えば、スリットを投影する位相差方式の装置)。
【0018】
また、図1に示すように、本実施形態では、対物レンズ14と被検眼Eとの間に、ダイクロイックミラー29が配置されている。ダイクロイックミラー29は、光源11から出射された光、および、光源11からの光に応じた眼底反射光を透過する。また、ダイクロイックミラー29は、後述の固視標呈示光学系30からの光束を被検眼Eに導く。更に、ダイクロイックミラー29は、後述のアライメント指標投影光学系40からの光の前眼部反射光を反射して、その前眼部反射光を観察光学系50に導く。
【0019】
図1に示すように、前眼部Ecの前方には、アライメント指標投影光学系40が配置されている。アライメント指標投影光学系40は、主に、被検眼Eに対する光学系の位置あわせ(アライメント)に用いられる指標像を、前眼部に投影する。アライメント指標投影光学系40は、リング指標投影光学系41と、指標投影光学系42と、を備える。リング指標投影光学系41は、被検者眼Eの角膜にリング指標を投影する。リング指標投影光学系41は、本実施形態の検眼装置1では、被検者眼Eの前眼部を照明する前眼部照明としても用いられる。指標投影光学系42は、無限遠指標を角膜に投影する。
【0020】
観察光学系50は、撮像レンズ51と、撮像素子52とを、ハーフミラー53の反射方向の光軸L3上に備える。撮像素子52は、被検眼Eの前眼部Ecと光学的に共役な位置に配置される。撮像素子52は、リング指標投影光学系41によって照明される前眼部Ecを撮像する。撮像素子52からの出力は、制御部70に入力される。その結果、撮像素子52によって撮像される被検者眼Eの前眼部像が、モニタ7に表示される。また、撮像素子52では、アライメント指標投影光学系40によって被検眼Eの角膜に形成されるアライメント指標像(本実施形態では、リング指標および無限遠指標)が撮像される。その結果、制御部70は、撮像素子52の撮像結果に基づいてアライメント指標像を検出できる。また、制御部70は、アライメント状態の適否を、アライメント指標像が検出される位置に基づいて判定できる。
【0021】
視標呈示光学系30は、光源31、視標板32、リレーレンズ33、および乱視矯正光学系34を、反射ミラー36の反射方向の光軸L4上に有している。
【0022】
視標板32には、複数の視標32aが周方向に並べて配置されている。視標32aは、固視標と、視力検査用視標と、を含む。固視標は、他覚屈折力測定時に被検者眼Eを固視させるために使用される。視力検査用視標は、自覚検査に用いられる。視力検査用視標には、視力値毎の視標(視力値0.1、0.3、・・・、1.5)が用意されている。本実施形態では、光軸L4上に配置される視標32aが、光源31によって照明されることによって、被検眼Eに呈示される。視標板32は、モータ37に接続されている。視標板32が、モータ37によって回転されることで、光軸L4上に配置される視標32aが切り換わる。その結果、被検眼Eに呈示される視標32aが切り換わる。
【0023】
光源31及び視標板32(視標32a)は、駆動機構38によって光軸L4の方向に一体的に移動される。光源31及び視標32aの移動によって、視標32aの呈示位置(呈示距離)を、遠用距離から近用距離まで光学的に変更できる。これにより、本装置は、他覚屈折力測定時には、固視標を移動させて被検眼Eに雲霧をかけることができる。また、本装置は、自覚測定時には、被検眼Eの屈折誤差(ここでは主に球面度数の誤差)を矯正できる。本実施形態では、被検眼Eの球面度数の誤差が、光源31及び視標32aの移動によって矯正されるが、必ずしもこれに限定されない。例えば、視標呈示光学系30に、光軸L4方向に移動可能なリレーレンズを設け、リレーレンズを移動させることで球面度数の誤差を矯正することもできる。また、屈折力(ディオプタ)の異なるリレーレンズを複数用意し、光軸L4上に配置するリレーレンズを切換えることで球面度数の誤差を矯正してもよい。
【0024】
乱視矯正光学系34は、焦点距離の等しい、2枚の正の円柱レンズ34a,34bを有している。円柱レンズ34a,34bは、それぞれ回転機構35a、35bによって、光軸L4を中心にして各々独立に回転される。検眼装置100では、被検眼Eの乱視軸角度に応じて回転機構35a、35bを回転させることで、被検眼Eの乱視を矯正できる。なお、矯正光学系34は、視標呈示光学系30の光路L4に矯正レンズを出し入れする構成でも良い。以上の通り、本実施形態では、視標呈示光学系30において、光源31及び視標32aが移動することによって、被検眼Eの球面度数の誤差が矯正され、円柱レンズ34a,34bが回転することによって、被検眼Eの乱視が矯正される。このように、本実施形態では、視標呈示光学系30が、被検眼Eの屈折誤差を矯正する矯正光学系としてはたらく。
【0025】
次に、検眼装置100の制御系について説明する。検眼装置100は、主な制御系として、制御部70を有している。制御部70は、検眼装置1の各部の制御処理と、測定結果の演算処理とを行う電子回路を有する処理装置である。制御部70は、モニタ7、移動機構23、光源11,31、撮像素子22,52、回転機構35a,35b、モータ37、駆動機構38、操作部80のそれぞれに電気的に接続されている。
【0026】
制御部70は、CPU71と、ROM72と、RAM73とを備えている。CPU71は、検眼装置100に関する各種の処理を実行するための処理装置(プロセッサ)である。ROM72は、CPU71が検眼装置100の各種制御を行うための制御プログラムおよび固定データが格納された、不揮発性の記憶装置である。ROM72には、例えば、図2のフローチャートの各ステップを検眼装置100に実行させるためのプログラムが格納されている。RAM73は、書き換え可能な揮発性の記憶装置である。RAM73には、例えば、検眼装置100による被検眼Eの測定および撮影に用いる一時データが格納される。
【0027】
操作部80には、測定開始スイッチ80aと、測定視力UPスイッチ80bと、測定視力DOWNスイッチ80cと、呈示距離増大スイッチ80dと、呈示距離減少スイッチ80eと、記憶実行スイッチ80fと、が設けられている。各スイッチの機能については、後述する。
【0028】
次に、図2のフローチャートを参照して、以上のような構成を備える検眼装置100の測定動作を説明する。本実施形態において、装置の起動時には、他覚屈折力測定が可能な状態に設定される。このとき、CPU71は、視標呈示光学系30の光路L4上に、視標板32が持つ固視標をセットする(S1)。検者は、図示しない顔支持ユニットに被検者の顔を固定させて、検眼装置100の光学系に被検眼Eを対面させる。また、検者は、被検者に指示して、被検者に固視標を固視させる。
【0029】
次に、被検者の一方の被検眼Eに対して、本装置の光学系がアライメントされる(S2)。例えば、CPU71は、アライメント指標投影光学系40によってアライメント指標像(本実施形態では、リング指標像および無限遠指標像)を前眼部Ecに投影させる。これによって、アライメント指標投影光学系40によって照明された前眼部、および、前眼部Ecに投影されたアライメント指標像が、観察光学系50の撮像素子52によって撮像される。CPU71は、撮像素子52から取得される前眼部像とアライメント指標像との画像情報に基づいて、本装置のアライメント状態を検出する。上下左右方向のアライメント状態は、リング投影光学系41によるリング指標像の中心位置と光軸との位置関係に基づいて検出される。作動距離方向(前後方向)のアライメント状態は、指標投影光学系42による無限遠指標と、リング指標像とのサイズ比に基づいて検出される(特開平6−46999号参照)。CPU71は、これらのアライメント指標像の検出結果に基づいて、図示しない駆動機構を制御し、アライメント状態が適正になるように、被検眼Eに対して本装置の光学系を移動させる。
【0030】
また、S2のステップでは、本装置の光学系のアライメントを、検者が手動で行ってもよい。この場合、例えば、CPU71は、撮像素子52によって撮像された前眼部像とアライメント指標像とをモニタ7に表示させる。また、CPU71は、ジョイスティック等で受け付けた操作に基づいて駆動機構を制御して、本装置の光学系を移動させる。これにより、検者は、モニタ7の前眼部像、及びアライメント指標像を観察しつつ、ジョイスティック等を操作することによって、本装置の光学系をアライメントできる。
【0031】
アライメントの完了後、検者が測定開始スイッチ80aを押すことにより、本装置によって、被検眼Eの遠用の屈折力が他覚的に測定される(S3)。このとき、CPU71は、光源11を点灯させる。これに伴い、前述したように、撮像素子22では、リング状に成形された眼底反射光が受光される。
【0032】
S3のステップでは、まず、屈折力の予備測定がCPU71によって行われる。光軸L4上で眼底Efと共役な位置が、予備測定から得られる屈折力に基づいて定まる。CPU71は、眼底Efと共役になる位置に固視標を置いた後、適当なディオプタ分だけ固視標を移動させて、被検眼Eに雲霧を掛ける。その後、雲霧がかけられた被検眼Eに対して、屈折力の本測定が行われる。本測定では、CPU71は、撮像素子22によって撮像されるリング像を、画像データ(測定画像)としてRAM73に記憶する。その後、CPU71は、RAM73に記憶されたリング像を画像解析して、各経線方向における屈折力の値を求める。その結果、CPU71は、屈折力の値に所定の処理を施すことによって、被検眼Eにおける遠用時での屈折力の他覚値D1(球面度数S、乱視度数C、乱視軸角度A)を得る。得られた他覚値D1は、RAM73に記憶される。なお、少なくとも3経線方向の屈折力を得ることができれば、球面度数S、乱視度数C、乱視軸角度Aの他覚値を求めることができる。よって、少なくとも3経線方向の屈折力を得ることのできる光学系であれば、測定光学系は、上記のようにリング状の指標像を利用する構成に限定されない。
【0033】
次に、本実施形態の検眼装置100では、遠用での他覚屈折力測定の完了後に、被検眼Eの屈折誤差を矯正した状態で、被検眼Eの調節力測定を行う。まず、被検眼Eの屈折誤差が矯正される(S4)。本実施形態では、遠用の他覚屈折力測定(S3)で得られた屈折力の他覚値D1に基づいてCPU71が視標呈示光学系30(矯正光学系)を駆動することにより、被検眼Eの屈折誤差が矯正(補正)される。例えば、CPU71は、光源31及び視標板32を、遠用時での球面度数Sの他覚値に基づいて光軸L4方向に移動させて、球面度数Sの誤差を矯正する。また、例えば、CPU71は、2枚の円柱レンズ34a,34bを遠用での乱視度数Cおよび乱視軸角度Aに基づいて駆動し、乱視の屈折誤差を矯正する。
【0034】
なお、被検眼Eの屈折誤差が他覚値D1に基づいて矯正された状態で、更に、自覚屈折力検査を行うことで、矯正状態を微調整してもよい。例えば、CPU71は、遠用での他覚値D1が得られた後に、光軸L4上に所定の視力検査用視標を配置させる(例えば、視力値0.8の視標)。検者は、呈示された視力検査用視標に対する被検者の応答に基づいて、被検眼Eの遠用の最高視力値を求める。ここで、検者は、被検者の回答が正答の場合には、スイッチ80bを選択する。これにより、CPU71は、呈示視標を1段階高い視力値の視標に切換える。一方、検者は、被検者の回答が誤答の場合には、スイッチ80cを操作する。これにより、CPU71は、呈示視標を1段階低い視力値の視標に切換える。検者は、以上の手順を繰返すことで最高視力値を求めることができる。遠用の最高視力値が得られたら、被検者が最高視力値を得られる最もプラスよりの球面度数(最弱の度数)に調節する。ここで、スイッチ80dが押されると、CPU71は、所定のディオプタ分(例えば、0.25D分)だけ、視標32aを被検眼Eから遠ざける。一方、CPU71は、視標32aを所定のディオプタ分だけ、視標32aを被検眼Eに近づける。これにより、遠用での屈折力の矯正度数(ディオプタ)が変更される。検者は、被検者からの応答によって被検者の見え方を確認しながら視標32aを移動させる操作を行う。視標32aの移動に応じて微調整された遠用での屈折力(ディオプタ)を、他覚値D1に替えて、以下の測定に使用してもよい。なお、最高視力が得られる最も弱い球面度数Sは、眼鏡レンズ又はコンタクトレンズ等の遠用矯正度数を処方する際の参考値となる。
【0035】
S4のステップの次は、被検眼Eの調節力Frが測定される(S5)。本実施形態において、CPU71は、視標32aの呈示距離が変更される間に測定される屈折力に基づいて被検眼Eの調節力Frを測定(取得)する。そのために、本実施形態では、CPU71は、測定光学系10を用いて被検眼Eの屈折力をリアルタイムに測定する。
【0036】
S5のステップにおいて、CPU71は、光軸L4上において、S3のステップで得られた他覚値D1と対応する位置(即ち、被検眼Eの遠点)よりも更に0.5ディオプタ分だけ遠方の位置に、固視標をセットする。その後、CPU71は、駆動機構38を駆動して、被検眼Eの近方へ固視標を移動させる。被検眼Eの調節が視標32aに対して十分に働く場合は、CPU71は、視標32aの呈示距離に応じた屈折力を、測定光学系10による測定結果から得ることができる。一方、調節近点よりも被検眼E側の位置に視標32aが配置されていると、視標32aに対する被検眼Eの調節が難しくなるので、例えば、CPU71によって取得される屈折力のディオプタ値と、視標32aの呈示距離に応じたディオプタ値(例えば、呈示距離をディオプタに換算した値)との差が大きくなる。よって、視標32aの呈示距離が変更される間、屈折力を測定することによって、被検眼Eの調節力が限界まで発揮されているときの屈折力(以下、「近用時での屈折力D2」という)が適正に取得されやすい。
【0037】
CPU71は、近用時での屈折力D2(球面度数S、乱視度数C、乱視軸角度A)をRAM73に記憶する。また、CPU71は、屈折力D1および屈折力D2の各ディオプタ値の差から被検眼Eの調節力Frを求める。求められた調節力Frは、CPU71によって、RAM73に記憶される。
【0038】
なお、本実施形態では、近用での屈折力D2を測定するために、視標32aを被検眼Eへ近づけつつ屈折力を測定する場合について説明したが、はじめに被検眼Eに十分近づけた視標32aを、被検眼Eから遠ざけていくことで近用での屈折力D2を測定することもできる。
【0039】
次に、S6のステップに進む。詳細は後述するが、本実施形態の検眼装置100では、被検眼Eに処方される矯正器具(例えば、眼鏡レンズ等)における加入度の必要性が、左右両眼の調節力Frに基づいて判定される。また、加入度を決定する検査(加入度数の測定)を行う場合に、検査の初期段階で被検眼Eに付加される加入度数(つまり、視標呈示光学系30における屈折力の矯正度数に付加される加入度数)が、左右両眼の調節力Frに基づいて設定される。そこで、本実施形態では、加入度の必要性を判定するステップ(S8)へ進む前に、左右両眼の調節力Frの測定が行われる。本実施形態では、S6のステップにおいて、被検眼Eの調節力の測定が左右両眼について行われたか否かが、CPU71によって判定される。このとき、例えば、CPU71は、RAM73に記憶された調節力のデータを参照することによって、被検眼Eの調節力の測定が左右両眼について行われたか否かを判定できる。例えば、RAM73に左右両眼分の調節力のデータがあれば、CPU71は、調節力の測定が左右両眼について行われたと判定することができる(S6:Yes)。一方、RAM73に片眼分の調節力のデータしかなければ、CPU71は、調節力の測定が片眼分しか行われていないと判定することができる(S6:No)。この場合、CPU71は、測定対象とする被検眼Eの変更を促す表示を、モニタ7等に出力してもよい。
【0040】
調節力の測定が片眼分しか行われていなければ(S6:No)、測定対象とする被検眼Eが変更される(S7)。検者は、図示しないジョイスティック等を操作して、本装置の光学系をこれまで測定した被検眼Eとは反対の被検眼Eに粗く位置あわせする。その後、検者が測定開始スイッチ80aを押すことにより、反対の被検眼Eに対してもS1からS5のステップによる測定が行われる。その結果、RAM73には、左右両眼分の調節力のデータが格納される。なお、検眼装置が左右両眼の測定を自動的に行う所謂フルオート装置であれば、S7のステップにおいて、装置が自動的に光学系を移動させて被検眼Eを変更してもよい。
【0041】
一方、S6のステップの時点で左右両眼の調節力が測定されている場合は(S6:Yes)、被検眼Eに処方される矯正器具に加入度が必要か否かを、S5のステップで取得された調節力Frに基づいてCPU71が判定する(S8)。例えば、所定の近業距離にあるものを快適に見るために必要とされる加入度数をCPU71によって算出し、算出された加入度数が所定値以上(例えば、0D以上)であるか否かを判定することによって、加入度数が必要か否かの判定を行うことができる。所定の近業距離をN(m)とした場合、被検眼Eの加入度数Addは、例えば、以下の式(1)によって求めることができる。
【0042】
Add=(1/N)−Fr×α (但し、0<α≦1)・・・(1)
ここで、αは、調節力の使用割合を示す。被検眼Eから近業距離Nだけ離れたものを見る際に、調節力を全て使うのではなく、ある程度の調節力を残すことが好ましい。例えば、被検眼Eから近業距離Nだけ離れたものを見るときに半分の調節力の使用を想定する場合は、α=1/2とする。また、例えば、被検眼Eから近業距離Nだけ離れたものを見るときに2/3の調節力の使用を想定する場合は、α=2/3とする。例えば、N=0.4m、Fr=3.0D、α=1/2である場合は、1.0Dの加入度が必要とされていることを、上記式(1)の結果から導くことができる。
【0043】
また、近業距離N、および、ものが快適に見えるときの調節力の使用割合αは、被検者毎に異なる。そこで、本装置によって測定を行う場合に、予め、近業距離Nおよび調節力の使用割合αの少なくとも一方を、検者が装置に設定できるようにしてもよい。例えば、近業距離Nおよび調節力の使用割合αの少なくとも一方を検者に入力させる入力手段を検眼装置100に設けてもよい。事前に入力手段によって入力された値をRAM73に記憶させておいて、上記の式(1)によって加入度を算出する場合に使用してもよい。なお、入力手段には、例えば、テンキー等のスイッチ、モニタ7に表示されるGUIとスイッチの組み合わせ等を用いることができる。なお、近業距離N等の入力に使用するスイッチは、操作部80に設けても良い。
【0044】
本実施形態では、CPU71が、式(1)を用いて左右両眼の加入度数をそれぞれ算出し、0D以上の加入度数が左右いずれかの被検眼Eに対して算出される場合に、S9のステップに進む(S8:Yes)。一方、左右両眼の加入度数がいずれも0D以下である場合は、加入度を付加しなくても、被検者は、被検眼Eから近業距離Nだけ離れたものを好適に見ることができると考えられる。よって、この場合は、測定を終了させる(S8:No)。
【0045】
S9のステップに進んだ場合は、加入度数の自覚検査(S10)に先立って、被検眼Eに付加される加入度数の初期値(ディオプタ)がCPU71によって設定される。つまり、視標呈示光学系30がCPU71によって駆動されることで、被検眼Eにおける遠用での屈折誤差を矯正する視標呈示光学系30の矯正度数に対して、更に、初期値分の加入度数が付加される。加入度数の初期値は、S5のステップで取得された調節力Frに基づいて設定される。特に、S9のステップでは、測定されている被検眼Eが左右のいずれであるかに拘わらず、2度のS5のステップを通じて取得された左右の被検眼Eの調節力Frのうち、弱い方の調節力Frに基づいて、CPU71が加入度数の初期値を設定する。このため、例えば、本実施形態では、上記S8の判定ステップで算出された左右の各被検眼Eに必要な加入度Addのうち、より大きな値が、加入度数の初期値として設定されてもよい。また、CPU71は、測定中の被検眼Eの遠用時での屈折力D1をRAM71から読み出し、屈折力D1と加入度数の初期値とに基づいて、光軸L4の方向に視標32aを移動させる。その結果、本実施形態では、被検眼Eの遠用での屈折誤差を矯正する位置から、更に、加入度数の初期値分だけ被検眼Eから離れた位置に視標32aが配置される。
【0046】
なお、調節力の使用割合αによる視標32aの見え方の違いを被検者に見比べさせたうえで、自覚検査の初期段階で被検眼Eに付加する加入度数を決定しても良い。つまり、調節力の使用割合αを変えて、加入度数の初期値を調節しても良い。例えば、所定の使用割合α1に基づいた加入度数の初期値が被検眼Eに付加されている場合に、CPU71が、使用割合αの変更を受け付ける。使用割合αの変更は、例えば、本装置に設けられた図示しないスイッチの操作に基づいて行われてもよい。CPU71が使用割合αの変更を受け付けた場合、CPU71は、新たな使用割合α2に基づく加入度数を取得し、その加入度数に基づいて視標32aを移動させる。その結果、被検眼Eは、新たな使用割合α2に基づく加入度数が付加された状態になる。これにより、調節力の使用割合αに応じた視標32aの見え方の違いを被検者に見比べさせることができる。その結果、被験者にとって視標32aを見易い加入度の初期値が選ばれることで、この後の自覚検査において、適正な加入度数が決定され易くなる。なお、近業距離Nを変えて、加入度数の初期値を調節しても良い。
【0047】
次に、被検眼Eの加入度数が自覚検査によって決定される(S10)。検者は、被検眼Eにおける呈示視標の見え方を、被検者に確認する。例えば、視標32aが見えやすいと被検者が回答した場合には、検者は、被検眼Eに付加されている加入度は適切であると判断することができる。スイッチ80d及び80eが押されると、CPU71は、視標32aの呈示位置を、所定ステップ(例えば、0.25D)で増減させる。これにより、視標32aが見えにくいと被検者が回答した場合等に、検者が、加入度数を微調整できる。このとき、CPU71は、調整された加入度の値をモニタ7に表示させてもよい。加入度の調整ができたら、検者は、呈示されている視標の視力値をスイッチ80b、80cによって切換え、被検眼Eが十分な近用視力を有しているか否かを確認する。
【0048】
被検眼Eが十分な近用視力値を有していることが確認されたら、検者は、記憶実行スイッチ80fを操作する。スイッチ80fからの出力をトリガとして、CPU71は、視標32aの呈示距離に応じた加入度数をRAM73に記憶する。また、CPU71は、被検眼Eの加入度数の測定が左右両眼について行われたか否かを判定する(S11)。加入度の測定が片眼分しか行われていなければ(S11:No)、S12のステップに進む。
【0049】
S12のステップでは、検者の操作によって装置の光学系を移動させて、測定対象とする被検眼Eが変更される。更に、測定開始スイッチ80aが検者によって押されることで、CPU71は、装置の光学系を移動させて、装置の光学系と、未だ加入度数が決定されていない被検眼Eとを、所定の位置関係にアライメントする。その後、前述したS9及びS10のステップによる測定が行われる。その結果、RAM73には、左右両眼分の加入度数の自覚値が格納される。この場合は、測定を終了させる(S11:Yes)。
【0050】
以上説明したように、被検眼Eの加入度数が自覚的に測定される場合に、視標呈示光学系30によって被検眼Eに付加される加入度数の初期値が、他覚屈折検査によって測定される被検眼の調節力Frに基づいて設定される。よって、被検眼に付加される加入度数の初期値を、ある一定値、または、被検者の年齢から推測される推定値に設定する場合と比べて、本実施形態の検眼装置100では、適正な加入度数の初期値が被検眼Eに付加され易い。その結果、本実施形態の検眼装置100は、被検眼Eの加入度数が自覚的に測定される場合に、検者および被検者の負担を抑制しやすい。
【0051】
また、CPU71は、視標32aの呈示距離が変更される間に他覚的に屈折力を測定するので、被検眼の調節力が限界まで発揮されているときの屈折力が、他覚屈折検査によって測定されやすい(S5)。CPU71は、S5のステップにおいて装置が測定した屈折力の他覚値に基づいて、被検眼Eの調節力を取得するので、適正な調節力が取得されやすい。従って、本実施形態の検眼装置100では、加入度数の初期値が、適正な調節力に基づいて設定されやすい。
【0052】
また、一般に、被検眼Eの調節を急に限界まで発揮させることは難しい。これに対し、本実施形態の検眼装置100では、S5のステップにおいて、屈折力の測定を、視標32aを被検眼Eに近づけていく間に行う。このため、視標32aの接近に応じて被検眼Eの調節をスムースに強めていくことができる。よって、検眼装置100では、S5のステップにおいて、被検眼Eの調節を限界まで発揮させるよう被検者を容易に誘導できる。従って、本実施形態の検眼装置100では、より適正な調節力が得られやすい。
【0053】
また、本実施形態の検眼装置100では、S5のステップにおいて、固視標が被検眼に近づいていく間に、固視標が被検眼Eの遠点を通過するので、被検者は、移動する固視標に調節を追従させやすい。
【0054】
また、両眼でものを見る場合、被検眼Eの調節は、左右の被検眼Eで均等に働く傾向がある。このため、左右の被検眼Eの調節力に差がある場合に左右の被検眼Eの加入度数を左右独立に定めてしまうと、加入度数が付加された状態の両眼でものを見るときに、ものが見えづらい場合がある。
【0055】
これに対し、本実施形態の検眼装置100では、CPU71によって取得される被検眼Eの調節力Frが左右の被検眼Eで異なっていても、左右の被検眼にそれぞれ付加される加入度数の初期値が、左右の被検眼Eの調節力Frのうち、弱い方に基づいて設定される(S9)。このため、本実施形態の検眼装置100では、左右の被検眼Eの調節力Frに差があったとしても、両眼でものを見るときに良好な見易さが得られる加入度数を、検者および被検者が容易に決定できる。
【0056】
以上、実施形態に基づき説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、様々な変形が可能であることは勿論である。
【0057】
例えば、上記実施形態では、加入度数を測定する自覚検査において、被検眼Eに付加する加入度数の初期値が計算によって求められているが、これ以外の方法で、加入度数の初期値を得ても良い。例えば、CPU71は、加入度数の初期値が調節力Frの値毎に対応付けられたテーブルを参照して、加入度数の初期値を設定することもできる。テーブルは、予めROM72に格納していてもよい。なお、近業距離N、および調節力の使用割合の少なくともいずれかのパラメータを検者が設定できる場合は、加入度数の初期値に、調節力Frおよび検者によって設定されるパラメータが対応付けされたテーブルを用意してもよい。また、上記のテーブルでは、調節力Frに代えて、屈折力D1および屈折力D2と、加入度数の初期値とを対応付けしてもよい。前述したように、調節力Frは、遠用での屈折力D1(他覚値D1)と、近用での屈折力D2(他覚値D2)との差であるので、このようにしても、実質的には、加入度数の初期値が、他覚屈折検査によって測定される被検眼Eの調節力に基づいて設定される。
【0058】
また、上記実施形態では、両眼の他覚測定(S1〜S6)を行ってから、両眼の自覚測定(S8〜S12)に移行する場合について説明したが、測定の順序は、必ずしもこの順番に限定されない。例えば、一方の被検眼Eの他覚測定および自覚測定を行ってから、他方の被検眼Eの各測定を行ってもよい。この場合、検眼装置100のCPU71は、先に測定された一方の被検眼Eの調節力が、他方の被検眼Eの調節力よりも小さければ、他方の被検眼Eの自覚検査において他方の被検眼Eに設定される加入度数の初期値を、一方の被検眼Eの調節力に基づいて設定しても良い。また、先に測定された一方の被検眼Eの調節力が、他方の被検眼Eの調節力よりも大きい場合は、一方の被検眼Eに対して、弱すぎる加入度数が設定されてしまうおそれがある。そこで、このような場合は、一方の被検眼Eに対する加入度の再測定が行われてもよい。例えば、両眼の加入度数がCPU71によって設定された場合に、CPU71が、左右両眼の調節力の差を判定する。その結果、先に測定された一方の被検眼Eの調節力が、後に測定された他方の被検眼Eの調節力よりも小さいと判定された場合に、一方の被検眼Eの加入度を再度測定すればよい。この場合、CPU71は、モニタ7等に対し、一方の被検眼Eに対する加入度の再測定を促す表示を行っても良い。また、一方の被検眼Eに対する加入度の再測定が行われる場合に、一方の被検眼Eに付加される加入度数の初期値を、CPU71が、他方の被検眼Eの調節力に基づいて設定しても良い。
【0059】
また、上記実施形態において、検眼装置100は、他覚屈折検査を行う構成と、自覚検査において被検眼Eに付加する加入度数の初期値を設定する構成とを、併せ持つものとして説明した。しかしながら、他覚屈折検査によって測定される被検眼の調節力に基づいて加入度数の初期値が設定できれば、他覚屈折検査を行う構成を持たない検眼装置にも本発明を適用できる。例えば、本発明を図3に示す自覚屈折検査装置200に適用することができる。
【0060】
図3において例示する自覚屈折検査装置200は、左右レンズユニット201と、制御部210と、操作部220と、視標板230と、を有している。左右レンズユニット201は、少なくとも屈折力の異なる複数の球面矯正レンズ、および、複数のクロスシリンダーレンズ等を含む。左右レンズユニット201には、一対の検査窓202が設けられている。自覚屈折検査装置200では、検査窓202に球面矯正レンズが配置されることによって、被検眼Eの屈折誤差が矯正される。即ち、レンズユニット201が矯正光学系としての機能を持つ。
【0061】
左右レンズユニット201におけるレンズの切換えは、制御部210によって制御される。検者による操作部220への操作に基づいて、制御部210は検査窓202に配置されるレンズを切換えることができる。被検眼の加入度を決定する自覚屈折検査を行う場合には、例えば、他覚屈折検査装置によって測定された遠用での屈折力の他覚値D1および被検眼Eの調節力Frを、制御部210が予め取得しておけばよい。例えば、他覚屈折検査装置によって測定された他覚値D1および調節力Frを、ネットワークを介して制御部210に転送することで、制御部210が他覚値D1および調節力Frを取得してもよい。また、他覚屈折検査装置で測定された他覚値D1および調節力Frの記憶されたメモリを制御部210に接続することで、制御部210が他覚値D1および調節力Frを取得してもよい。制御部210は、他覚値D1の球面度数Sに対応する球面矯正レンズを、検査窓202に配置することで、被検眼Eの遠用での屈折誤差を矯正できる。また、制御部210は、他覚値D1の乱視度数Cおよび乱視軸角度Aに対応する態様で検査窓202にクロスシリンダーレンズを配置することで、被検眼Eの乱視を矯正できる。
【0062】
検者による操作部220への操作に基づいて制御部210に検査開始信号が入力された場合に、本装置での加入度測定が開始される。このとき、視標板230を被検眼Eから近業距離Nだけ空けて配置しておく。制御部210は、他覚屈折検査によって測定される被検眼の調節力Frに基づいて、加入度数の初期値を設定する。加入度数の初期値は、例えば、上記の式(1)を用いて求めてもよい。制御部210は、他覚値D1の球面度数Sに更に加入度数の初期値分を加えた度数の球面矯正レンズを、検査窓202に配置させる。その結果、被検眼Eに初期値分の加入度が加えられた状態で、検者は、加入度数の自覚検査を始めることができる。
【0063】
本変形例における加入度数の自覚検査は、視標板230が有するクロスグリッド(十字格子)の近用視標を用いて行われる。初期値分の加入度を左右の被検眼Eに付加された後、制御部230は、複数のクロスシリンダーレンズを駆動して、乱視度数Cの誤差を矯正する。これにより、例えば、被検眼の0度の軸において+0.5Dの乱視度数Cを加え、90度の軸において−0.5Dの乱視度数Cを加える。その後、クロスグリッドの縦線と横線とのうち、被験者にとって太く見える線に応じて、検者は、加入度数を増減させる。この測定では、縦線と横線とが被検眼によって同じ太さで見えるようになった段階で、適正な加入度数が得られる。
【符号の説明】
【0064】
10 屈折力測定光学系
10a 投影光学系
10b 受光光学系
30 視標呈示光学系(矯正光学系)
70 制御部
71 CPU
80 操作部
100 検眼装置
図1
図2
図3