(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一以上の電極と絶縁基板とを少なくとも備えてなる部材から構成される被封止体を封止材により封止してなる、電極に電圧を印加して機能させる電気機器の製造方法であって、前記封止材の注型工程と、前記封止材の脱泡工程と、前記封止材の硬化工程とを含み、
前記注型工程の前に、前記封止材と前記被封止体との周囲雰囲気を水素ガス、ヘリウムガス、あるいはそれらの混合物から選択されるガス雰囲気で置換する工程とを含み、
前記脱泡工程後であって、前記硬化工程の前に、封止材を加圧する工程を含むことを特徴とする、電気機器の製造方法。
一以上の電極と絶縁基板とを少なくとも備えてなる部材から構成される被封止体を封止材により封止してなる、電極に電圧を印加して機能させる電気機器の製造方法であって、
前記封止材と前記被封止体との周囲雰囲気を減圧する減圧工程と、
前記封止材と前記被封止体との周囲雰囲気を水素ガス、ヘリウムガス、あるいはそれらの混合物から選択されるガス雰囲気で置換するガス置換工程と、
前記封止材と前記被封止体との周囲雰囲気を再度減圧し、前記封止材を注型する注型工程と、
前記減圧雰囲気を継続したまま、注型された前記封止材を脱泡する脱泡工程と、
前記封止材で封止された被封止体を、常圧に戻す大気開放工程と、
前記注型された封止材を加熱硬化させる加熱硬化工程と
を含み、
前記大気開放工程後であって、前記加熱硬化工程の前に、封止材を加圧する工程を含む、電気機器の製造方法。
前記減圧工程、前記ガス置換工程、前記注型工程、前記脱泡工程、大気開放工程、及び各工程の間のいずれか1以上において、前記封止材及び/または前記被封止体に、超音波を重畳的に印加することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
前記減圧工程、前記ガス置換工程、前記注型工程、前記脱泡工程、及び大気開放工程のいずれか1以上の工程において、前記封止材及び/または前記被封止体を、前記封止材の硬化温度以下の温度で加熱することを特徴とする、請求項4または5に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)モジュールやIPM(Intelligent Power Module:インテリジェントパワーモジュール)などのパワーモジュールのように、高耐圧が必要とされる電気機器は、その絶縁性を確保するため、高電界となる箇所において、樹脂やゲルのような封止材を絶縁媒体として活用して絶縁性を確保する。通常、絶縁媒体は、固体、液体、気体という分類がなされ、各種電気機器の用途に応じてこれらが使い分けられている。従来技術による一般的なパワーモジュールの構成の例を、
図12(c)に示す。
図12(c)に示すパワーモジュール100は、銅ベース101上に、電極103a、bで挟まれた絶縁基板104を備え、絶縁基板の上側の電極103aの上に、半導体素子105を複数個載置し、これらの半導体素子105を、アルミワイヤー106で接続し(ワイヤーボンディング)、電極103aから銅配線(銅バー)107を引き出し、半導体素子105、電極103a、b、絶縁基板104を、シリコーンゲルやエポキシ樹脂といった封止材108により封止してなる。そして、従来技術に係る製造方法では、通常、
図12(A)に示すように、常圧、大気雰囲気下で硬化前の封止材が注型され、その後、
図12(B)に示すように、減圧もしくは真空脱泡され、次いで封止材の硬化処理がなされて、
図12(C)に示すモジュール100が得られる。
【0003】
IGBTモジュールやIPMといったパワーモジュールにおいては、定格運転時での電気的仕様に加え、絶縁性、熱伝導性、パワーサイクルなどに伴う機械的ストレスやEMC(電磁環境適合性。ノイズによる電磁環境の悪化を防止すること)など、相反する様々な要求に対して、バランス良く対応することが要求されている。
【0004】
とりわけ、大容量のパワーモジュールでは、市場要求に伴い、高耐圧化、小型化、高信頼性を確保することが重要であり、これに対応する手段として、固体絶縁材料の適用拡大が進んでいる。例えば、既存の絶縁媒体として空気等の気体あるいは気体を含む各種材料を複合した絶縁媒質を用いていたものが、バルク自体の絶縁耐圧が高い樹脂モールドなどの固体絶縁化を進めることによって、高耐圧化、小型化、高信頼性の確保に繋げることが可能となる。
【0005】
樹脂モールドを行う上で最も重要となるポイントは、ボイドや界面空孔などによる欠陥発生の抑制である。つまり、固体絶縁材料自体がバルク特性として高い絶縁特性を保有していても、ひとたびボイドや界面空孔などの欠陥が残存すると、その欠陥1つで、モールドした部位あるいは製品全体の絶縁特性を決定してしまう場合がある。つまり、1つの微小な欠陥が発生すると、製品全体が特性として不良と判定されてしまう難しさを持つ。しかしその反面、欠陥発生を抑制できれば優れた絶縁性を有し、高耐圧化、小型化、高信頼性を実現する有力な手段となる。
【0006】
こうした絶縁上問題となる欠陥発生を抑制するため、様々な取り組みが行なわれている。例えば、特許文献1には、金属結合層との接合面の特性を向上させ、ボイドなどの間隙を小さくするため、セラミックス基板側に表面凹凸を持たせ、ボイドの抜けを良くする効果を持たせるように改質することが開示されている。
【0007】
また、特許文献1と類似した方法として、特許文献2には、ろう付け界面のボイドの発生を抑制するため、窒化珪素基板の表面に適切な凹凸を持たせる技術が開示されている。
【0008】
特許文献1ならびに特許文献2に開示された技術は、絶縁基板と導体界面に発生するボイドの抑制法に関するものである。この界面に発生するボイドは、部分放電の発生要因となる上、電極との界面に一度形成されてしまうと除去できないものである。そのため、基板作製工程上、重要な対策として取り組まれている。一方、樹脂などのモールドする絶縁材料において、樹脂が巻き込んだボイドの除去、および微小な隙間へ樹脂材料を浸透させる目的で、注型前後に真空脱泡を施す処置も多く用いられている。
【0009】
また、封止材側の対策としては、吸湿急加熱時に発生するゲル内部のポップコーン現象によって発生する部分放電を抑制するために、これら吸湿急加熱に強いゲル材が提案されている(特許文献3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記対策は、部分的には効果が見られるものであるが、いずれも断片的な対策である。例えば、真空脱泡は、使用する樹脂により、経験則に基づいてそれに要する時間が経験的に決められている場合が多く、どこまで対応すればどのレベルの欠陥の発生を抑制できるのかが不明確である場合が多い。特に、封止材がシリコーンゲルの場合には、到達真空度や真空引きの時間が、低分子成分が脱離し揮発してしまうのを避けるために定められている場合が多い。つまり真空到達度や脱泡時間は、封止材を構成する材料によって決めている場合が多く、欠陥発生の抑制や絶縁性能の確保という観点では十分には検討されていない。よって、高耐圧化、小型化、高信頼性を追究するうえで、望ましい施工条件が明確でない場合が多かった。そのため、例えば、被封止体を構成する部材の形状や材質が変わった場合でも、その施工条件は変わらず、絶縁性能を向上させるうえで好適な条件で施工できていないという課題がある。例えば、シリコーンゲルの例で上述したように、封止材を構成する低分子成分が揮発しない条件を最優先すると、到達真空度は低くできないが、その場合に施工時間をどの程度とすれば良いかは明確な根拠が無かった。このため、高耐圧化、小型化、さらにはこれらによって得られる高信頼性を実現するために必要不可欠な、本来バルクが持つ良好な絶縁性能を引き出すことが出来ない場合があった。
【0012】
また、特許文献1の対策を施すと、DBC(Direct Bonding Cupper)基板やDBA(Direct Bonding Aluminum)基板において、電極と絶縁基板との間のボイドや剥離欠陥の発生の抑制は期待できる。しかし、この箇所は高電界が掛かる部位の一部に過ぎない。つまり、これらの基板が単体で使われることは殆どなく、通常、シリコーンゲルやエポキシ樹脂などの封止材で封止される。このため、電極、絶縁基板、封止材の3つの材料が交わる3重点が形成される。この3重点は非常に高電界の部位となるため、周辺を構成する界面、すなわち電極と封止材との界面、あるいは絶縁基板と封止材との界面は、従来技術の知見ではボイドや剥離の発生の抑制は難しく、3重点を起点とし、界面に沿って部分放電や沿面放電が発生する場合があった。
【0013】
加えて、特許文献3に開示された技術は、封止材のバルク耐圧を上げる効果としては有効と思われるが、封止材自体のバルクの絶縁性能を確保しても、その前に界面空孔の発生を抑制しなければ、封止材自体の絶縁性能は全く活かすことができない。すなわち、まず他材料と接触する界面や、構造上意図せず形成される様々な隙間や微小な空孔に対して、封止材が浸透し、封止材が存在しない隙間を形成しないことが肝要である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
雰囲気ガスに対する封止材の透過係数は封止材によって異なる。その上、封止材のバルク自体の絶縁性能や界面の接着強度も重要となり、封止材と被封止体の構成材料との相性などにも依存するため、これらの封止材や被封止体を構成する材料自体を変更する場合には様々な検討が必要となり、変更は容易ではない場合が多い。
【0015】
これに対して、封止材の注型及び脱泡を行う雰囲気を、注型及び脱泡の事前に置換したうえで施工を施すことで、封止材や被封止体の材料を変更することなく、封止材が注型時に残存する雰囲気を透過拡散しやすくする効果を生む。ここでいう「拡散」とは、封止材中の残存雰囲気ガスが、高濃度の領域から低濃度の領域に移動し、濃度の差がなくなる現象を指す。その速度は以下の(1)式で表すことができる。(1)式を参照すると、拡散速度は、濃度差や分子の平均自由行程、平均速度に比例する。つまり気体の平均速度は、次式で表され、分子量Mが小さいほど大きくなるため、分子量の小さい軽い気体ほど拡散しやすい。
【0016】
【数1】
(式中、Rは気体定数、kはボルツマン定数、πは円周率、mは分子の質量[g]、Tは絶対温度[k]、Mは気体の分子量を表す。)
【0017】
上式の拡散速度は、雰囲気ガスが空孔内に高濃度で残存することなく、空孔から封止材内部を通って拡散する速度ともいうことができる。本発明者らは、上式(1)の拡散速度を大きくする条件の雰囲気下で、注型、脱泡工程を実施することにより、隙間無く、封止材を浸透させることができることを考え、本発明を完成するに至った。
【0018】
本発明は、一実施形態によれば、一以上の電極と絶縁基板とを少なくとも備えてなる部材から構成される被封止体を封止材により封止してなる、電極に電圧を印加して機能させる電気機器の製造方法であって、前記封止材の注型工程と、前記封止材の脱泡工程と、前記封止材の硬化工程とを含み、前記注型工程の前に、前記封止材と前記被封止体との周囲雰囲気を空気よりも分子量の低いガス雰囲気で置換する工程とを含むことを特徴とする、電気機器の製造方法である。
【0019】
前記電気機器の製造方法において、前記空気よりも分子量の低いガス雰囲気で置換する工程、及び/または、前記封止材の注型工程、及び/または、前記封止材の脱泡工程において、及び/または、各工程の間に、前記封止材及び/または前記被封止体に、超音波を印加することが好ましい。
【0020】
前記電気機器の製造方法において、前記空気よりも分子量の低いガス雰囲気で置換する工程、及び/または、前記封止材の注型工程、及び/または、前記封止材の脱泡工程において、前記封止材及び/または前記被封止体を、前記封止材の硬化温度以下の温度で加熱することが好ましい。
【0021】
本発明は、別の実施形態によれば、一以上の電極と絶縁基板とを少なくとも備えてなる部材から構成される被封止体を封止材により封止してなる、電極に電圧を印加して機能させる電気機器の製造方法であって、前記封止材と前記被封止体との周囲雰囲気を減圧する減圧工程と、前記封止材と前記被封止体との周囲雰囲気を空気よりも分子量の低いガス雰囲気で置換するガス置換工程と、前記封止材と前記被封止体との周囲雰囲気を再度減圧し、前記封止材を注型する注型工程と、前記減圧雰囲気を継続したまま、注型された前記封止材を脱泡する脱泡工程と、前記封止材で封止された被封止体を、常圧に戻す大気開放工程と、前記注型された封止材を加熱硬化させる加熱硬化工程とを含む電気機器の製造方法である。
【0022】
前記電気機器の製造方法において、前記減圧工程、前記ガス置換工程、前記注型工程、前記脱泡工程、大気開放工程、及び各工程の間のいずれか1以上において、前記封止材及び/または前記被封止体に、超音波を重畳的に印加することが好ましい。
【0023】
前記電気機器の製造方法において、前記減圧工程、前記ガス置換工程、前記注型工程、前記脱泡工程、及び大気開放工程のいずれか1以上の工程において、前記封止材及び/または前記被封止体を、前記封止材の硬化温度以下の温度で加熱することが好ましい。
【0024】
前記電気機器の製造方法において、前記大気開放工程が、前記空気よりも分子量の低いガスを用いて、大気開放する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、封止材を施工する電気機器において、従来の製造方法で問題となっていた施工条件を、絶縁性能向上に必要な、残存する空隙へ十分に封止材が浸透するようにすることで、電気機器の高電界化・小型化・それに伴う高信頼性を確保することが可能となる。具体的には、封止材の内部に存在するボイド、および注型時に巻き込まれるボイド、更に封止材が、被封止体を構成する部材に浸入する際に残存する空孔に対し、封止材の内部に速やかに拡散するように、これらの施工作業の事前に内部の雰囲気および作業雰囲気を減圧し、空気よりも分子量の軽いガスに置換しておく。これによって内部のボイドが封止材へ拡散しやすくなり、施工時間の短縮を図ることができる。その上、被封止体を構成する部材の変更や、部材の追加などといったコストの掛かる対策ではなく、比較的簡単な施工条件の変更のみで絶縁性能を向上させることができる。さらに、本発明の方法により製造された電気機器は、その個別において絶縁耐性が向上しているだけでなく、量産される複数の製品間でのばらつきをなくし、品質を安定化させることができるという利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係る電気機器の製造方法における施工工程を説明する図であって、
図1(A)は減圧工程を示し、
図1(B)は低分子ガス置換工程を示し、
図1(C)は、その後に注型工程及び脱泡工程を実施している際に、脱泡工程前であって、注型中のパッケージ内の封止材への超音波印加を重畳して実施する際の構成を示し、
図1(D)は、大気開放の工程を示す。
【
図2】
図2は、本発明に係る電気機器の製造方法により製造される電気機器の一例である、IGBTモジュールを示す概念図である。
【
図3】
図3は、絶縁基板−電極−封止材が交差する3重点に、銀ろう材の鬆によって形成される、1μm〜10μmの空孔を示す概念図である。
【
図4】
図4は、
図3に示すミクロンオーダーの微小空孔に、封止材が浸透したところを示す概念図である。
【
図5】
図5は、絶縁基板−電極−封止材が交差する3重点に存在する、0.1〜0.2mmオーダーの欠陥を示す概念図である。
【
図6】
図6は、
図5に示すミリオーダーの欠陥に、封止材が浸透したところを示す概念図である。
【
図7】
図7は、本発明の第2実施形態に係る電気機器の製造方法における施工工程を説明する図であって、
図7(A)は注型前の減圧工程を実施している際に、注型前のビーカー内の封止材への超音波印加を重畳して実施する際の構成を示し、
図7(B)は低分子ガス置換工程を示し、
図7(C)は、その後の注型工程及び脱泡工程を示し、
図7(D)は、大気開放の工程を示す。
【
図8】
図8は、本発明の第3実施形態に係る電気機器の製造方法における施工工程を説明する図であって、
図8(A)は注型前の減圧工程を示し、
図8(B)は低分子ガス置換工程を実施している際に、注型前のビーカー内の封止材への超音波印加を重畳して実施する際の構成を示し、
図8(C)は、その後の注型工程及び脱泡工程を示し、
図8(D)は、大気開放の工程を示す。
【
図9】
図9は、本発明の第4実施形態に係る電気機器の製造方法における施工工程を説明する図であって、
図9(A)は注型前の減圧工程を示し、
図9(B)は低分子ガス置換工程を示し、
図9(C)は、その後の注型工程を実施している際に、ビーカー内の封止材への超音波印加を重畳して実施する際の構成、及びそれに続く脱泡工程を示し、
図9(D)は、大気開放の工程を示す。
【
図10】
図10は、本発明の第5実施形態に係る電気機器の製造方法における施工工程を説明する図であって、
図10(A)は注型前の減圧工程を示し、
図10(B)は低分子ガス置換工程を示し、
図10(C)は、注型工程完了後、脱泡工程を実施している際に、注型後のパッケージ内の封止材への超音波印加を重畳して実施する際の構成を示し、
図10(D)は、大気開放の工程を示す。
【
図11】
図11は、本発明の第6実施形態に係る電気機器の製造方法における施工工程を説明する図であって、
図11(A)は注型前の減圧工程を示し、
図11(B)は低分子ガス置換工程を示し、
図11(C)は、その後の注型工程及び脱泡工程を示し、
図11(D)は、大気開放の工程を実施している際に、注型後のパッケージ内の封止材への超音波印加を重畳して実施する際の構成を示す。
【
図12】
図12は、シリコーンゲルで被封止体を封止する、IGBTモジュールの従来の製造方法を示す模式図であり、
図12(A)は、常圧注型工程、
図12(B)は減圧脱泡工程、
図12(C)は製造されたIGBTモジュールを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0028】
本発明は、一実施の形態によれば、一以上の電極と、絶縁基板とを少なくとも備えてなる部材から構成される被封止体を封止材により封止してなる、電極に電圧を印加して機能させる電気機器の製造方法であって、前記封止材の注型工程と、前記封止材の脱泡工程と、前記封止材の硬化工程とを含み、前記注型工程の前に、前記封止材と前記被封止体との周囲雰囲気を空気よりも分子量の低いガス雰囲気で置換する工程とを含むことを特徴とする電気機器の製造方法に関する。
【0029】
本発明において、「一以上の電極と、絶縁基板とを少なくとも備えてなる部材から構成される被封止体を封止材により封止してなる、電極に電圧を印加して機能させる電気機器」とは、絶縁耐性を有するモールドされた電気機器である。例えば、半導体装置、モールド変圧器、ガス絶縁開閉装置(GIS)や高圧遮断機内部のスペーサや高圧部を支持するがいしなどをいうが、これらには限定されない。半導体装置として、例えば、Siを用いた半導体素子、SiCを用いた半導体素子、もしくはGaNを用いた半導体素子を搭載したIGBTモジュールやIPMが挙げられる。
【0030】
また、被封止体は、高電圧が印加される部材から構成され、典型的には、1つ以上の電極と、絶縁基板とを少なくとも備えてなる部材から構成される。封止材とは、絶縁耐性を有し、液相から固相へ変化し得る熱硬化性樹脂をいう。封止材の一例として、シリコーンゲル、シリコーンゴム、エポキシ樹脂等が挙げられるが、これらには限定されない。封止材は複数の異なる材料を混合して構成されるものであってよく、例えば、上記熱硬化性樹脂に、フィラーなどの充填剤や難燃剤を添加したものであっても良く、これらの添加剤が多く活用される。
【0031】
封止材18と、被封止体とが接する周囲雰囲気は、圧力調整が可能な空間内の雰囲気である。圧力調整が可能な空間は、通常、後続の脱泡工程を減圧もしくは真空下で行うための耐圧容器であり、例えば、真空チャンバであってよい。真空チャンバは、内部雰囲気の交換をするための、少なくとも2つの弁を備える。
【0032】
以下の説明においては、電気機器の一態様として、半導体パワーモジュールを図示して、その製造方法について説明するが、本発明は、半導体パワーモジュールの製造方法に限定されるものではない。
【0033】
図2に本発明の製造方法により製造される対象となる半導体素子を搭載したパワーモジュールを示して説明する。
図2に示すパワーモジュール1は、銅ベース11上に、接合材12を介して電極13a、bで挟まれた絶縁基板14を備える。絶縁基板の上側の電極13aの上には、半導体素子15が複数個搭載され、これらの複数の半導体素子15は、アルミワイヤー16で接続される。銅配線(銅バー)17は、電極13aから引き出される。そして、半導体素子15、電極13a、b、絶縁基板14などを含む被封止体は、パッケージ内で、シリコーンゲルやエポキシ樹脂といった封止材18により封止されてパワーモジュール1を構成する。
【0034】
上記のようなパワーモジュール1の一般的な製造方法は、被封止体を製造する工程と、被封止体を封止材により封止する封止工程とを含む。
【0035】
被封止体を製造する工程では、通常の方法に従い、電極13a、bと絶縁基板14とを積層して半導体素子15を実装し、アルミワイヤー16、銅配線17を接続する。半導体素子15の種類によっても被封止体を構成する部材及びその構造が異なる場合があり、その場合であっても、当業者が通常の技術に従って、被封止体を製造することができる。
【0036】
封止工程は、典型的には、封止材18の注型工程と、注型された封止材18の脱泡工程と、脱泡された封止材18の硬化工程とを含んでなる。本発明は、半導体パワーモジュールを一例とする電気機器の製造方法において、注型工程及び脱泡工程を実施する以前に、封止材18と、被封止体とが接する周囲雰囲気を、空気よりも分子量が低いガス(以下、低分子量ガスと指称する)で置換する工程を含むことを特徴とする。ここで、低分子量ガスとしては、水素ガス、ヘリウムガス等の不活性ガス、あるいはそれらの混合物であって、その分子量もしくは平均分子量が、約28.8よりも小さい気体をいう。上記(1)式を参照すると、分子量が小さいほど透過拡散の速度が大きいため、好ましい。低分子量ガスで置換する工程は、周囲雰囲気を減圧する工程と、低分子量ガスを注入する工程とから構成される。このように、施工する雰囲気を低分子量ガスで置換することで、封止材の内部に残存するボイド、注型時に封止材内部に巻き込むボイド、および注型後に構成材料との間に発生する空孔や隙間に封止材が浸透して入り込む際に残存する雰囲気を低分子量ガスとし、封止材内部から、透過拡散しやすくすることができる。
【0037】
封止材18の注型工程では、被封止体を収容するパッケージ内に、少なくとも被封止体が覆われるまで、液体状の封止材18を注ぐ。本発明においては、注型工程は、減圧もしくは真空条件下で行うことを特徴とする。減圧条件は、通常、減圧もしくは真空脱泡を行う場合に使用する条件とすることができ、例えば、0.013〜20kPa程度であることが好ましいが、本発明においては、特定の圧力範囲には限定されない。
【0038】
注型された封止材18の脱泡工程では、注型後、封止材18で満たされたパッケージを、上記減圧条件を保持したまま静置する。静置する時間は、通常、減圧脱泡を行う前後の時間が該当する。これらは封止材の種類や、脱泡工程の前後の施工条件によって変わるものである。例えばシリコーンゲルを封止材として活用し、空気雰囲気で真空脱泡する場合には、5分〜1時間程度の範囲であることが施工工程上好ましいが、特定の時間には限定されない。
【0039】
脱泡工程の後、未硬化の封止材18で満たされたパッケージを常圧に戻す大気開放工程を行う。常圧に戻す際にパージするガスとしては、低分子量ガスを用いる。
【0040】
大気開放工程後、任意選択的に、大気圧条件にて、あるいは加圧条件にて、封止材が浸透するための時間をおいた後、硬化工程を実施する。硬化工程は、封止材の硬化温度に好適な温度に加熱した加熱炉に、封止材で満たされたパッケージを入れることによって実施する。硬化温度及び硬化時間は、封止材の特性により決定される通常の条件による。
【0041】
またこれらの、低分子量ガスで置換する工程、及び/または注型工程、及び/または脱泡工程、及び/または大気開放工程、あるいはそれらの工程間の任意の時間間隔において、注型前の封止材、及び/または注型後の封止材に超音波を印加する工程を含むことが好ましい。封止材内部の雰囲気の拡散を、より促進させるためである。したがって、一実施形態においては、低分子量ガスで置換する工程の開始後、硬化工程の開始直前まで、注型前の封止材、及び/または注型後の封止材に超音波の印加を継続的に、あるいは断続的に実施することができる。
【0042】
さらには、低分子量ガスで置換する工程、及び/または注型工程、及び/または脱泡工程、及び/または大気開放工程を、常温よりも温度が高い、加熱条件下で実施することができる。上記(1)式を参照すると、温度Tが高いほど気体の透過拡散の速度が大きくなるためである。なお、加熱条件は、封止材の硬化温度よりも低い温度とすることが好ましい。一般的には、封止材が硬化する前段の反応として、ゲル化温度が定められているため、この温度以下とし、さらにゲル化時間もしくは熱硬化性樹脂の場合はポットライフ(主剤と硬化剤を調製してから、注型が可能な間の時間をいい、可使時間ともいう)の半分の時間以内に加熱を行うことが望ましい。例えばシリコーンゲルを封止材として用いる場合、一例として、50℃で1時間以内を目安に加熱を行うが、特定の温度には限定されない。
【0043】
以下に、実施形態に分けて、本発明の製造方法における、低分子ガス置換工程、注型工程及び脱泡工程、大気開放工程について詳細に説明する。
【0044】
[第1実施形態:注型時パッケージへの超音波印加]
本発明の第1実施形態による電気機器の製造方法における、封止工程の一部を、
図1に模式的に示す。第1実施形態による製造方法では、脱泡用真空チャンバ3内に、超音波発生装置41と、封止材を注型する前のパワーモジュール1の被封止体を収容するパッケージと、未硬化の封止材18の入ったビーカー21を設置する。超音波発生装置41は、パッケージに注型される封止材に作用可能なように、パッケージ外部を包囲した形で設置される。脱泡用真空チャンバ3は、低分子ガスの一例である水素ガスの供給手段34と弁33を介して接続され、また、ロータリーポンプ32と弁31を介して接続されている。ビーカー21は、操作ロッド22を用いて、真空チャンバ3外から操作できるように構成されている。
【0045】
図1(A)に示す第1工程は、低分子ガス置換工程を構成する減圧工程である。第1工程の開始時点において、ビーカー21内の封止材18には、通常、残存気体成分からなるボイド19が含まれている。第1工程では、弁33を閉じ、弁31を開いて、脱泡用真空チャンバ3をロータリーポンプ32で減圧する。例えば、0.013〜20kPa程度まで減圧することが好ましい。封止材に残存する雰囲気、および施工する空間の雰囲気を水素ガスに置換する前段階で、残存気体を除去するためである。
【0046】
図1(B)に示す第2工程は、低分子ガス置換工程を構成する低分子ガス注入工程である。第2工程では、ロータリーポンプ32の弁31を閉じ、弁33を開いて、水素ガス供給手段34から、脱泡用真空チャンバ3に水素ガスを流入させて、第1工程後に概ね真空状態となった脱泡用真空チャンバ3内の雰囲気を、水素ガスに置換する。このとき、水素ガスの注入量は、脱泡用真空チャンバ3内の圧力が常圧に達する程度の量とすることが好ましい。
【0047】
上記第1工程及び第2工程は、各々1回ずつ行ってもよいが、繰り返し工程のタクトタイムの許す範囲で、第1工程と第2工程とを交互に複数回繰り返して実施しても良い。減圧及び低分子量ガスの導入を繰り返し行うことで、雰囲気の置換が進行すると考えられ、封止材が巻き込んだ雰囲気や残存する被封止体構成部材の空孔への封止材の浸透の促進を図るうえで好ましいためである。
【0048】
図1(C)に示す第3工程は、注型工程及び脱泡工程である。第3工程において、弁31を開いて、脱泡用真空チャンバ3をロータリーポンプ32で再び減圧する。このとき、弁33は閉じてもよく、スローリークとしてもよい。スローリークとする場合は、一定の圧力で、水素ガス雰囲気を保つことができる。この場合、ロータリーポンプ32の排気速度と水素ガスの流入速度を揃えることによって、減圧脱泡が可能な0.013〜20kPa程度の範囲内にあればよい。
【0049】
かかる圧力条件のもとで、操作ロッド22を用いて、脱泡用真空チャンバ3外から、ビーカー21を操作し、パッケージへの封止材18の注型工程を行う。この際のビーカー21の操作で封止材18は、ボイド19を巻き込むことが考えられるが、ボイド19は、前工程で水素置換された後の雰囲気ガスである。次いで、脱泡工程を行う。本実施形態では、注型工程中において、パッケージ内の封止材18に、超音波の印加が重畳的に行われるように、超音波発生装置41を作動させる。注型工程中において、超音波の印加が重畳的に行われる、とは、注型工程の開始から終了まで、超音波発生装置41が作動していて、超音波の印加が連続的に行われていることが好ましい。しかし、本発明は注型工程の開始から終了まで超音波の印加が連続的に行われていることを必須とするものではなく、超音波の印加があれば、それに応じてボイドの透過拡散が促進されるものである。超音波発生装置41は、パッケージ内の封止材18に作用することができるものであれば、真空もしくは減圧雰囲気内でも使用可能な市販製品であってよく、真空チャンバ内で動作可能なように、真空チャンバ装置内部に組み込んだものであってよい。その発振周波数は、10kHz〜100kHz程度であることが好ましいが、特定の周波数範囲には限定されない。出力は対象構成物の大きさに応じて選定すれば良く、10W〜10kW程度であれば良い。第3工程における上記操作により、注型後のパッケージ内の封止材18に存在するボイド19の透過拡散を促進することができる。
【0050】
図1(D)に示す第4工程は、脱泡工程後の大気開放工程である。第4工程では、弁33を開いて、ガス供給手段35から、脱泡用真空チャンバ3内にパージガスを流入させて、常圧に戻す。パージガスは、残存する空孔の内部を低分子量ガスに置換するため、低分子量ガスで行う。低分子量ガスは、上記雰囲気置換において使用したのと同様に、水素ガス、ヘリウムガス等の不活性ガス、あるいはそれらの混合物であってよい。
【0051】
さらに、図示しない第5工程として、大気開放後、101kPa〜1010kPa程度(1気圧〜10気圧程度)の圧力条件下で数分〜十数分程度の時間経過を経た後に、封止材の特性に対応した適切な温度及び時間条件で加熱して、封止材の硬化工程を実施する。
【0052】
本実施形態では、脱泡用真空チャンバ3に、図示しない温度調節装置を備えてもよい。その場合、第1工程から第4工程における施工温度を、常温よりも高く、封止材の硬化温度よりも低い温度、一例として、一般的に活用するシリコーンゲルを活用した施工時には50℃程度で、1時間程度保持することができる。
【0053】
これらの工程を経ることにより、封止材18は、被封止体を構成する各部材の隅々まで行き渡ると考えられる。以下に、被封止体を構成する各部材の構造との関係で、空孔の存在と、封止のメカニズムについて、より詳細に説明する。
【0054】
図3は、本発明に係る製造方法により製造される
図2に示すパワーモジュールの製造時に、被封止体に存在することが想定されるマイクロオーダーの微小空孔10aのモデルを示す。
図3に模式的に示されるように、空孔界面は絶縁基板14としてのセラミック基板だけでなく、銅電極13とセラミック基板を接合する接合材12であるろう材からも形成されている。被封止体の製造工程において、セラミック基板の端部には、銅電極がろう材を介して全面に接合された後、エッチング工程によって必要な形に銅電極とろう材がカットされる。そのため、セラミック基板の表層よりもろう材表面は凹凸が大きくなる。このような微小空孔10aは、3次元SEMでの観察によって、その大きさは数ミクロンであることが分かっており、
図3に示すように蜂の巣状の欠陥をなし、3重点を構成する電極端部の全周に渡って形成されることが想定される。その大きさは、空孔径が約1μm程度、奥行きが約10μm程度と想定され、この空孔10aはDBC基板の製造過程でエッチングを活用することによって形成されるものである。
【0055】
図5に、
図3に示した欠陥と比較してオーダーが1桁程度大きい、サブミクロン単位での欠陥モデルを示す。このようなサブミクロン単位の欠陥10bも、一般的に活用している電極基板において、その電極側に使っている金属粒界が大きいため、粒界に沿って、3重点外周に散在する場合がある。3次元SEMで観測すると、その空孔径が50μm程度、奥行きが100μm程度である。
【0056】
このように対象とすべき空孔形状は様々存在しており、これらに十分に封止材が浸透せずに、空孔が残存したまま硬化処理を完了してしまうと、この隙間が欠陥となり、絶縁破壊の要因となりうる。よって、これらの空孔を出来るだけ作らないことが肝要である。上記に説明した
図1に示す実施形態により施工を行った場合、注型時に、封止材が、封止材に巻き込まれた残存ガスや空孔を透過させながら隙間を埋めていくプロセスが、通常よりも容易に行なえるようになっているため、隅々まで封止材が浸透しやすくなる。その結果、
図4や
図6に示すように、封止材18が、空孔の内部まで行き渡る。これにより、残存する空孔を抑制し、絶縁破壊要因を除去して、耐圧を向上させることができる。第1実施形態によれば、特には注型時のパッケージ内の封止材に超音波を印加することで、物理的な刺激によって脱泡を促進し、注型時に封止材内部に存在した微小空孔に残存する気泡を除去しやすくなる。そのうえ、封止材自身に吸蔵した気体の除去や、注型時に巻き込んだ気体を除去することも可能となる。
【0057】
[第2実施形態:減圧時封止材への超音波印加]
本発明の第2実施形態による電気機器の製造方法における、封止工程の一部を、
図7に模式的に示す。第2実施形態による製造方法では、脱泡用真空チャンバ3内に、超音波発生装置42と、封止材18を注型する前のパワーモジュール1の被封止体を収容するパッケージと、未硬化の封止材18の入ったビーカー21を設置する。超音波発生装置42は、注型前のビーカー内の封止材18に作用可能に設置される。脱泡用真空チャンバ3の構成は、第1実施形態と同様である。
【0058】
図7(A)に示す第1工程は、低分子ガス置換工程を構成する減圧工程である。弁33を閉じ、弁31を開いて、脱泡用真空チャンバ3をロータリーポンプ32で、例えば、0.013〜20kPa程度まで、減圧する。減圧工程中において、封止材18の入ったビーカー21への超音波の印加が重畳的に行われるように、超音波発生装置42を作動させる。減圧工程中において、超音波の印加が重畳的に行われる、とは、減圧工程の開始から終了まで、超音波発生装置42が作動していて、超音波の印加が連続的に行われていることが好ましいが、超音波印加の態様はこのような態様には限定されない。超音波発生装置42は、ビーカー21内の封止材に作用することができるものであれば、真空もしくは減圧雰囲気内でも使用可能な市販製品であってよく、装置に組み込んだものであってよい。発振周波数、出力は、第1実施形態と同様の条件とすることができる。かかる操作により、注型前の封止材18に存在するボイドの透過拡散を促進することができる。
【0059】
図7(B)に示す第2工程は、低分子ガス置換工程を構成する低分子ガス注入工程である。この工程は、第1実施形態の第2工程と同様に実施することができる。また、
図7(C)に示す第3工程は、注型工程及び脱泡工程である。本実施形態の第3工程では、パッケージに超音波を印加しないが、それ以外は、第1実施形態の第3工程と同様に実施することができる。
図7(D)に示す第4工程は、大気開放工程である。この工程は、第1実施形態の第4工程と同様に実施することができる。また、図示しない第5工程も、第1実施形態の第5工程と同様に実施することができる。
【0060】
第2実施形態による利点は、注型に活用する封止材に残存するボイドを事前に除去することによって、注型前の封止材自体の欠陥要因を除去することができる点にある。
【0061】
[第3実施形態:低分子ガス置換時封止材への超音波印加]
本発明の第3実施形態による電気機器の製造方法における、封止工程の一部を、
図8に模式的に示す。第3実施形態による製造方法では、脱泡用真空チャンバ3内に、超音波発生装置42と、封止材18を注型する前のパワーモジュール1の被封止体を収容するパッケージと、未硬化の封止材18の入ったビーカー21を設置する。超音波発生装置42、脱泡用真空チャンバ3の構成は、第2実施形態と同様である。
【0062】
図8(A)に示す第1工程は、低分子ガス置換工程を構成する減圧工程である。かかる第1工程は、第1実施形態の第1工程と同様に実施することができる。
図8(B)に示す第2工程は、低分子ガス置換工程を構成する低分子ガス注入工程である。第2工程では、ロータリーポンプ32の弁31を閉じ、弁33を開いて、水素ガスを脱泡用真空チャンバ3に流入させて、脱泡用真空チャンバ3内の雰囲気を水素ガスに置換する。本実施形態では、低分子ガス注入工程中において、封止材18の入ったビーカー21への超音波の印加が重畳的に行われるように、超音波発生装置42を作動させる。低分子ガス注入工程中において、超音波の印加が重畳的に行われる、とは、低分子ガス注入工程の開始から終了まで、超音波発生装置42が作動していて、超音波の印加が連続的に行われていることが好ましいが、超音波印加の態様はこのような態様には限定されない。超音波発生装置42は第2実施形態と同様のものを使用することができ、発振周波数、出力とも、第2実施形態と同様とすることができる。かかる操作により、注型前の封止材18に存在するボイドの透過拡散を促進することができる。
【0063】
図8(C)に示す第3工程は、注型工程及び脱泡工程である。本実施形態の第3工程は、第2実施形態の第3工程と同様に実施することができる。また、
図8(D)に示す第4工程は、大気開放工程であって、第1実施形態の第4工程と同様に実施することができ、また、図示しない第5工程も、第1実施形態の第5工程と同様に実施することができる。
【0064】
第3実施形態によれば、第2実施形態と同様の利点を得ることができる。低分子量ガスを置換するタイミングとして、脱泡時以外に、脱泡後も同様に選択することができる。
【0065】
[第4実施形態:注型時封止材への超音波印加]
本発明の第4実施形態による電気機器の製造方法における、封止工程の一部を、
図9に模式的に示す。第4実施形態による製造方法では、脱泡用真空チャンバ3内に、超音波発生装置42と、封止材18を注型する前のパワーモジュール1の被封止体を収容するパッケージと、未硬化の封止材18の入ったビーカー21を設置する。超音波発生装置42、脱泡用真空チャンバ3の構成は、第2実施形態と同様である。
【0066】
図9(A)に示す第1工程は、低分子ガス置換工程を構成する減圧工程である。かかる第1工程は、第1実施形態の第1工程と同様に実施することができる。
図9(B)に示す第2工程は、低分子ガス置換工程を構成する低分子ガス注入工程である。第2工程も第1実施形態の第2工程と同様に実施することができる。
【0067】
図9(C)に示す第3工程は、注型工程及び脱泡工程である。第3工程では、第1実施形態の第3工程で詳述した減圧あるいは低分子ガスのスローリークといった圧力条件のもとで、操作ロッド22を用いて、真空チャンバ3外から、ビーカー21を操作し、パッケージへの封止材18の注型工程を行う。本実施形態では、注型工程中において、封止材18の入ったビーカー21への超音波の印加が重畳的に行われるように、超音波発生装置42を作動させる。注型工程中において、超音波の印加が重畳的に行われる、とは、注型工程の開始から終了まで、超音波発生装置42が作動していて、超音波の印加が連続的に行われていることが好ましいが、超音波印加の態様はこのような態様には限定されない。超音波発生装置42は、第2実施形態と同様のものを使用することができ、発振周波数、出力とも、第1実施形態と同様とすることができる。かかる操作により、注型時に封止材18に巻き込むボイドの透過拡散を促進することができる。続く脱泡工程は、パッケージに注型された封止材18には、超音波を印加することなく実施する。
【0068】
図9(D)に示す第4工程は、大気開放工程であって、第1実施形態の第4工程と同様に実施することができる。また、図示しない第5工程も、第1実施形態の第5工程と同様に実施することができる。
【0069】
第4実施形態による利点は、封止材自体に残存するボイドを注型時に除去できるため、時間経過によって進むゲル内部への気体の吸蔵を抑制した状態で注型することができる点にある。
【0070】
[第5実施形態:減圧脱泡時パッケージへの超音波印加]
本発明の第5実施形態による電気機器の製造方法における、封止工程の一部を、
図10に模式的に示す。第5実施形態による製造方法では、脱泡用真空チャンバ3内に、超音波発生装置41と、封止材18を注型する前のパワーモジュール1の被封止体を収容するパッケージと、未硬化の封止材18の入ったビーカー21を設置する。超音波発生装置41、脱泡用真空チャンバ3の構成は、第1実施形態と同様である。
【0071】
図10(A)に示す第1工程は、低分子ガス置換工程を構成する減圧工程である。かかる第1工程は、第1実施形態の第1工程と同様に実施することができる。
図10(B)に示す第2工程は、低分子ガス置換工程を構成する低分子ガス注入工程である。第2工程も第1実施形態の第2工程と同様に実施することができる。
【0072】
図10(C)に示す第3工程は、注型工程及び脱泡工程である。第3工程では、第1実施形態の第3工程で詳述した減圧あるいは低分子ガスのスローリークといった圧力条件のもとで、操作ロッド22を用いて、真空チャンバ3外から、ビーカー21を操作し、パッケージへの封止材18の注型工程を行う。この際、ビーカー21内の封止材18に超音波の印加は行わない。注型工程の完了後に続く脱泡工程中において、パッケージ内の封止材18に、超音波の印加が重畳的に行われるように、超音波発生装置41を作動させる。脱泡工程中において、超音波の印加が重畳的に行われる、とは、脱泡工程の開始から終了まで、超音波発生装置41が作動していて、超音波の印加が連続的に行われていることが好ましいが、超音波印加の態様はこのような態様には限定されない。超音波発生装置41は、第1実施形態と同様のものを使用することができ、発振周波数、出力とも、第1実施形態と同様とすることができる。かかる操作により、注型後の封止材18に存在するボイドの透過拡散を促進することができる。
【0073】
図10(D)に示す第4工程は、大気開放工程であって、第1実施形態の第4工程と同様に実施することができる。また、図示しない第5工程も、第1実施形態の第5工程と同様に実施することができる。
【0074】
第5実施形態によれば、第1実施形態と同様の利点を全て備える。注型時だけでは不十分の場合には、本実施形態にしたがって注型後に実施するのが、最も施工しやすい。
【0075】
[第6実施形態:大気開放時パッケージへの超音波印加]
本発明の第6実施形態による電気機器の製造方法における、封止工程の一部を、
図11に模式的に示す。第6実施形態による製造方法では、脱泡用真空チャンバ3内に、超音波発生装置41と、封止材18を注型する前のパワーモジュール1の被封止体を収容するパッケージと、未硬化の封止材18の入ったビーカー21を設置する。超音波発生装置41、脱泡用真空チャンバ3の構成は、第1実施形態と同様である。
【0076】
図11(A)に示す第1工程は、低分子ガス置換工程を構成する減圧工程である。かかる第1工程は、第1実施形態の第1工程と同様に実施することができる。
図11(B)に示す第2工程は、低分子ガス置換工程を構成する低分子ガス注入工程である。第2工程も第1実施形態の第2工程と同様に実施することができる。
図11(C)に示す第3工程は、注型工程及び脱泡工程である。第3工程は、第2実施形態の第3工程と同様に実施することができる。
【0077】
図11(D)に示す第4工程は、真空脱泡後の大気開放工程である。第4工程では、任意のガスで真空チャンバ3内の雰囲気を大気開放し、常圧に戻す。低分子ガスの一例である水素ガスを用いてパージすることが好ましい。本実施形態では、大気開放工程中において、パッケージの外側から、脱泡後の封止材への超音波の印加が重畳的に行われるように、超音波発生装置41を作動させる。大気開放工程中において、超音波の印加が重畳的に行われる、とは、大気開放工程の開始から終了まで、超音波発生装置41が作動していて、超音波の印加が連続的に行われていることが好ましいが、超音波印加の態様はこのような態様には限定されない。かかる操作により、各工程で封止材に混入し得るボイドの透過拡散を促進させることができる。後続の図示しない第5工程も、第1実施形態の第5工程と同様に実施することができる。
【0078】
第6実施形態によれば、大気圧に戻る際に、チャンバ3内の雰囲気を内部空孔に置換するため、その置換が促進されることと、内部空孔自身への封止材の浸透を促進させる効果を得ることができる。
【0079】
[変形形態]
図示はしないが、本発明は、その他の様々な実施形態を包含するものである。例えば、第1実施形態から第6実施形態で示したすべての超音波印加態様を備える施工とすることもできるし、これらのうち2以上の超音波印加態様を備える施工とすることもできる。