(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6295615
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】潜熱蓄熱剤を用いた潜熱蓄熱槽及び潜熱蓄熱袋
(51)【国際特許分類】
F28D 20/02 20060101AFI20180312BHJP
B60H 1/20 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
F28D20/02 D
B60H1/20 B
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-234119(P2013-234119)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-94519(P2015-94519A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】飯島 章
【審査官】
西山 真二
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−045213(JP,A)
【文献】
特開2007−322102(JP,A)
【文献】
特開平06−117787(JP,A)
【文献】
特開平07−270087(JP,A)
【文献】
特開昭61−240034(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0167079(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/00 − 20/02
C09K 5/00 − 5/20
B60H 1/00 − 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂とアルミ箔をラミネート加工したフィルムで形成されたパウチ内に、潜熱蓄熱剤を充填・密封し、そのパウチの内面に電圧を印加する一対の電極を形成し、前記一対の電極を、パウチのアルミ箔で形成したことを特徴とする潜熱蓄熱袋。
【請求項2】
電極を形成したパウチのアルミ箔を、さらにリード線として用い、これを電圧印加手段に接続した請求項1記載の潜熱蓄熱袋。
【請求項3】
前記電圧印加手段は、前記一対の電極間に電圧を印加して、過冷却状態の潜熱蓄熱剤の液を凝固させる請求項2記載の潜熱蓄熱袋。
【請求項4】
エンジン冷却水回路に、冷却水を導入・排出する潜熱蓄熱槽を接続し、請求項1〜3のいずれかに記載の潜熱蓄熱袋を前記潜熱蓄熱槽内に複数配置したことを特徴とする潜熱蓄熱剤を用いた潜熱蓄熱槽。
【請求項5】
潜熱蓄熱剤が酢酸ナトリウム三水和物からなる請求項4記載の潜熱蓄熱剤を用いた潜熱蓄熱槽。
【請求項6】
前記潜熱蓄熱槽内に、各潜熱蓄熱袋を拘束して保持する網を設けた請求項4又は5記載の潜熱蓄熱剤を用いた潜熱蓄熱槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜熱蓄熱袋を用いてエンジン始動時にエンジン冷却水等を加熱するための潜熱蓄熱槽及び潜熱蓄熱袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
潜熱蓄熱剤(例えば酢酸ナトリウム三水和物)を用い暖機性を向上することが考えられる。
【0003】
潜熱蓄熱剤、例えば酢酸ナトリウム三水和物は、融点が58℃、沸点が400℃で、融点以上に暖められると融解する。この融解液は、そのまま冷やし凝固点以下になっても凝固せず液体のままでいる(過冷却)。この状態で、融解液に衝撃を与えると凝固が始まり、凝固熱(融解潜熱:267J/g)を放出する。この潜熱蓄熱剤に衝撃を与えて凝固させることをブレークという。
【0004】
この潜熱蓄熱剤の凝固熱を利用し、エンジン冷却水を加熱し、暖機性を改善することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−270087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、束ねた潜熱蓄熱剤容器の全てにおいて、確実にしかも簡易的にブレークを起こす方法は今まで開発されておらず、また実際にコンパクトに実装する方法も開発されていない。
【0007】
潜熱蓄熱剤は、通常金属製の容器に入れることが多いが、金属接続部のエッジ、バリ等により勝手に予期せぬときに凝固が始まることが避けられない。潜熱蓄熱剤を樹脂ケースに収容する方法もあるが、トリガー(ブレークを起こすもの)を設けることが難しかった。
【0008】
このため潜熱蓄熱剤は未だに、実用化がなされておらず、自動車には適用できない問題がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、不用意な潜熱蓄熱剤のブレークを防止ししかも必要な時点でブレークさせることができる潜熱蓄熱剤を用いた潜熱蓄熱槽及び潜熱蓄熱袋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、エンジン冷却水回路に、冷却水を導入・排出する潜熱蓄熱槽を接続し、他方合成樹脂とアルミ箔をラミネート加工したフィルムで形成されたパウチ内に、潜熱蓄熱剤を充填・密封して潜熱蓄熱袋を形成し、その潜熱蓄熱袋を前記潜熱蓄熱槽内に複数配置したことを特徴とする潜熱蓄熱剤を用いた潜熱蓄熱槽である。
【0011】
潜熱蓄熱剤が酢酸ナトリウム三水和物からなるのが好ましい。
【0012】
前記潜熱蓄熱槽内に、各潜熱蓄熱袋を拘束して保持する網を設けるのが好ましい。
【0013】
潜熱蓄熱袋内には一対の電極が形成され、その一対の電極には、その電極間に電圧を印加して、過冷却状態の潜熱蓄熱剤の液を凝固させる電圧印加手段が接続されるのが好ましい。
【0014】
また本発明は、合成樹脂とアルミ箔をラミネート加工したフィルムで形成されたパウチ内に、潜熱蓄熱剤を充填・密封し、そのパウチの内面に電圧を印加する一対の電極を形成したことを特徴とする潜熱蓄熱袋である。
【0015】
前記一対の電極は、パウチのアルミ箔で形成されるのが好ましく、アルミ箔を形成した電極のアルミ箔を、さらにリード線として用い、これを電圧印加手段に接続するのが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、レトルトパウチとして用いられるパウチに潜熱蓄熱剤を充填・密封して潜熱蓄熱袋を形成し、その潜熱蓄熱袋を潜熱蓄熱槽内に複数配置することで、振動が潜熱蓄熱槽に伝わってもパウチが緩衝材となり、潜熱蓄熱剤が意図していないときに凝固することを防止できるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】本発明の潜熱蓄熱剤を用いた潜熱蓄熱槽をエンジン冷却水回路に組み込んだ概略図である。
【
図3】本発明において、潜熱蓄熱剤でエンジン冷却水の水温と、従来のエンジン冷却水の水温の立ち上がりの経時変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0019】
先ず、
図2により、エンジン冷却水回路に潜熱蓄熱槽を組み込む概略構成を説明する。
【0020】
エンジン10とラジエター11とは、エンジン冷却水回路12で接続される。エンジン冷却水回路12は、ラジエター11からの冷却水をエンジンに送る往路側回路12aと、エンジン10からラジエター11に戻る復路側回路12bで構成される。
【0021】
往路側回路12aにはウォータポンプ14と潜熱蓄熱槽15が接続され、復路側回路12bにはサーモスタット弁16が接続される。サーモスタット弁16と往路側回路12aのウォータポンプ14の吸込側にはバイパス管路17が接続される。
【0022】
サーモスタット弁16は設定温度(例えば80℃)以下のときには閉じ、復路側回路12bのエンジン冷却水をバイパス管路17を介してウォータポンプ14の吸込側に戻し、設定温度を超えたときには開き、復路側回路12bのエンジン冷却水をラジエター11に流すようになっている。
【0023】
ウォータポンプ14から往路側回路12aのエンジン冷却水は、潜熱蓄熱槽15内を通って、エンジン10に至り、図示していないがオイルクーラ、シリンダブロック、シリンダヘット内の冷却水路を通ってエンジン10を冷却することで、100℃近い温度となって復路側回路12bからラジエター11に戻り、そこで約80℃までプロペラファン18で空冷されて再度ウォータポンプ14で循環されるようになっている。
【0024】
さて、
図1は、本発明の潜熱蓄熱剤を用いた潜熱蓄熱槽15の詳細を示したものである。
【0025】
潜熱蓄熱槽15は、エンジン冷却水回路12の往路側回路12aの途中に接続され、冷却水を下部から導入すると共に、上部から排出するようになっている。
【0026】
潜熱蓄熱槽15内には、潜熱蓄熱剤20を充填・密封した潜熱蓄熱袋22が複数間隔を置いて配置され、その潜熱蓄熱袋22間を冷却水が通るようになっている。
【0027】
この潜熱蓄熱剤20は、酢酸ナトリウム三水和物からなる。
【0028】
潜熱蓄熱袋22は、合成樹脂とアルミ箔をラミネート加工したフィルムからなるパウチ23内に、潜熱蓄熱剤20を充填・密封して形成される。
【0029】
パウチ23は、レトルト食品に広く使用されるもので、食品側(内側)にはポリプロピレン、外側にはポリエステルといった合成樹脂をアルミ箔と共に積層加工(ラミネート加工)したフィルムからなり、そのフィルム同士の周縁を熱融着で接合して形成された袋からなる。
【0030】
このパウチ23内で対向した内面には、一対の電極24、25が形成される。電極24、25は、アルミ箔を一部露出させたり、或いは別途電極を貼り付けたり蒸着させて形成する。電極24、25はそれぞれ、リード線26、27にて、車載バッテリ28とスイッチ29からなる電圧印加手段30に接続される。このリード線26、27は、パウチ23のアルミ箔を電極24、25とした場合には、潜熱蓄熱袋22からアルミ箔を引き出してリード線26、27の一部とするようにしてもよい。
【0031】
また、一般のパウチの他に内面を厚手のアルミ箔とし、外側に樹脂シートをラミネートしたフィルムの周縁を接着剤で接着してパウチ23とすることで、内面のアルミ箔が電極24、25となると共に、そのアルミ箔の一部を引き出してリード線26、27の一部とするようにしてもよい。
【0032】
潜熱蓄熱槽15内には、各潜熱蓄熱袋22を拘束して保持する網32が設けられる。この網32を設けることで、各潜熱蓄熱袋22の間隔が保持されると共に潜熱蓄熱剤20が融着した際に下膨れになることも防止できる。
【0033】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0034】
先ず、エンジン10の駆動中、冷却水はエンジン冷却水回路12を循環し、潜熱蓄熱槽15内に80℃の冷却水が流れ、その熱を受けて潜熱蓄熱袋22内の潜熱蓄熱剤20は、融点以上に常時加熱されるために、液体の状態を保持している。
【0035】
その後、エンジン10が停止されて、冷却水の循環がなくなり、冷却水温度が常温まで下がると、潜熱蓄熱袋22内の潜熱蓄熱剤20も常温となり、融点以下まで下がり、液状態のまま過冷却状態となる。
【0036】
このエンジン停止後、特に寒冷地などでは、外気温が氷点下まで下がると、再度エンジン10を始動しても容易にエンジン冷却水の温度は、サーモスタット弁16が動作する温度まで上がらない。
【0037】
上記のようにエンジン10の始動時、潜熱蓄熱剤20は、過冷却状態を保持しているが、エンジン10の停止後、エンジン10を始動するまでの間に、振動が加わったとき、例えば、始動前の積荷の上げ下ろしやドアの開閉等で振動が加わると液面が揺れ、その衝撃で、潜熱蓄熱袋22内の潜熱蓄熱剤20が凝固してしまう可能性がある。
【0038】
本発明においては、潜熱蓄熱袋22内の潜熱蓄熱剤20は、パウチ23内で、過冷却状態で液体のまま収容されるため、潜熱蓄熱槽15に伝わる振動が、パウチ23が緩衝材となることで、潜熱蓄熱剤20に伝わり難くなり、予期せぬ凝固を防止し、エンジン始動後に、適宜の時期で電圧印加手段30により電極24、25間で電界ショックを与えることで、潜熱蓄熱剤20を凝固させ、その潜熱でエンジン冷却水回路12を循環する冷却水を加熱することが可能となる。
【0039】
図3は、外気温−20℃でエンジンを始動させたときの冷却水の温度の経時変化を示したものである。
【0040】
従来においては、点線bで示したように冷却水温度は、時間t1(約20分)かけて80℃まで上昇するが、本発明においては実線aで示したように時間t0(10分以下)で冷却水温度を80℃まで上昇させることが可能となる。
【符号の説明】
【0041】
10 エンジン
12 エンジン冷却水回路
15 潜熱蓄熱槽
20 潜熱蓄熱剤
22 潜熱蓄熱袋
23 パウチ