特許第6295620号(P6295620)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIの特許一覧

特許6295620低温液化ガスタンクの層状化防止方法及び装置
<>
  • 特許6295620-低温液化ガスタンクの層状化防止方法及び装置 図000002
  • 特許6295620-低温液化ガスタンクの層状化防止方法及び装置 図000003
  • 特許6295620-低温液化ガスタンクの層状化防止方法及び装置 図000004
  • 特許6295620-低温液化ガスタンクの層状化防止方法及び装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6295620
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】低温液化ガスタンクの層状化防止方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   F17C 13/00 20060101AFI20180312BHJP
   B65D 90/00 20060101ALI20180312BHJP
   F17C 6/00 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   F17C13/00 302B
   B65D90/00 H
   F17C6/00
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-242642(P2013-242642)
(22)【出願日】2013年11月25日
(65)【公開番号】特開2015-102145(P2015-102145A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年9月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100087527
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 光雄
(72)【発明者】
【氏名】今井 良二
(72)【発明者】
【氏名】内田 博幸
【審査官】 宮崎 基樹
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭59−123798(JP,U)
【文献】 特開2001−324096(JP,A)
【文献】 特表2007−504414(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3069391(JP,U)
【文献】 特開平06−306394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/00−13/12
B65D 88/00−90/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温液化ガスタンク内の上部と下部に互いに対向させて設けた上部受入管の吐出口と下部受入管の吐出口より、受入液を同時に受け入れさせるようにし、
前記上部受入管の吐出口と前記下部受入管の吐出口より、受入液を同時に受け入れさせるときに、前記下部受入管の吐出口の近傍位置に設けた音場発生装置より、該下部受入管より受け入れる受入液の上向きの噴流に向けて音波を発振させるようにすること
を特徴とする低温液化ガスタンクの層状化防止方法。
【請求項2】
低温液化ガスタンクの上部にタンク内に開口する下向きの吐出口を備えた上部受入管と、
前記低温液化ガスタンク内の下部に、前記上部受入管の吐出口と上下に対向する配置で上向きの吐出口を備えた下部受入管と、
前記上部受入管及び下部受入管に受入液を同時に供給するための受入液供給部と
前記下部受入管の吐出口の近傍位置に設けられて、該下部受入管の吐出口より受け入れる受入液の上向きの噴流に向けて音波を発振させる音場発生装置とを備えた構成を有すること
を特徴とする低温液化ガスタンクの層状化防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温液化ガスタンクに受入液を受け入れるときに該タンク内の液体に層状化が生じる虞を防止するために用いる低温液化ガスタンクの層状化防止方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
低温液化ガスとしての液化天然ガス(以下、LNGと記す)は、産地の違いに応じて成分に差があり、その成分差により密度に差があることが知られている。
【0003】
LNGを貯留するためのLNGタンク(貯槽)では、異なる産地のLNGを貯蔵した状態で放置すると、密度の大きい層が下部に、密度の小さい層が上部に安定して存在する層状化が生じる。
【0004】
又、前記LNGタンクでは、前記のようにLNGタンク内の貯留液(LNG)に層状化が生じた状態を長時間放置すると、外部からの入熱により上部の層では液面より蒸気(BOG)が発生し、この蒸気の発生に伴い熱が外部に放出される。しかし、下部の層では、前記外部からの入熱が蓄積するようになる。
【0005】
その後は、前記上部の層では、密度の小さい低沸点成分が優先的に蒸発するために、時間の経過に伴い密度が次第に大きくなる。このために、前記上部の層と前記下部の層との密度差は、時間の経過に伴い次第に小さくなる。
【0006】
さらに時間が経過すると、前記のように上部の層の液体との密度差が小さくなり且つ入熱が蓄積された下部の層の液体が、タンク側壁に沿った境界層を通して上部の層に突入し、エンタルピーが蓄積していた下部の層の液体が、タンク内貯留液の液面に到達し、過大なBOGが発生するロールオーバーといわれる現象が生じるようになる。
【0007】
したがって、前記ロールオーバーの発生を防止するためには、LNGタンク内にて前記層状化の発生を防止することが必要とされる。
【0008】
更に、このような層状化の防止は、LNGが既に貯蔵されている状態のLNGタンクに、該貯蔵されたLNGとは密度の異なるLNGを受入液として受け入れるときにも考慮する必要がある。
【0009】
なお、地上タンクであるLNGタンクについては、タンク頂部に設けて受入液を噴霧できるようにしたトップフィード管と、タンク内の下部にて水平方向から斜め上向きに受入液を吐出できるようにしてあるボトムフィード管と、タンク内で頂部から底部まで上下方向に延び且つタンク底部近傍となる下端部に水平方向横向きの出口を有するロート部付きボトムフィード管という複数のLNG受入経路(供給ルート)を備えた構成とすることが従来提案されている。
【0010】
前記構成を有するLNGタンクでは、タンク内に貯蔵されているLNGよりも密度の大きなLNGを受け入れる場合は、前記トップフィード管と、ロート部付きボトムフィード管の2つの受入経路からLNGを受け入れるようにし、それぞれの受入経路を介したLNGの受入量をバランスよく組み合わせることにより、層状化を防止できるとされている。
【0011】
又、前記LNGタンクでは、タンク内に貯蔵されているLNGよりも密度の小さいLNGを受け入れる場合は、前記ボトムフィード管と、ロート部付きボトムフィード管の2つの受入経路からLNGを受け入れるようにし、それぞれの受入経路を介したLNGの受入量をバランスよく組み合わせることにより、層状化を防止できるとされている(たとえば、特許文献1参照)。
【0012】
なお、水中でノズルより噴出させる水の噴流に対して或る波長の音波を作用させると、噴流中心流速を増加させて該水の噴流の下流への広がりが抑えられるという事象が、従来知られている(たとえば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−324096号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】木村一郎、「音波による水噴流の制御に関する研究」、大阪大学博士論文、大阪大学、1983年、p.14−48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところが、前記特許文献1に示されたLNGタンクのLNG受入手法では、トップフィード管と、ロート部付きボトムフィード管という2つの受入経路、又は、ボトムフィード管と、ロート部付きボトムフィード管という2つの受入経路を同時に使用してLNGを受け入れるようにしてあるが、個々の受入経路を通して受け入れられるLNGの流れ(移動)同士の相互の影響が小さい。
【0016】
すなわち、タンク内に貯蔵されているLNGよりも密度の大きなLNGを受け入れる場合、前記トップフィード管より噴霧されるLNGは、液滴となってタンク内貯留液の液面に落下すると、既存のタンク内貯留液との密度差に基づいて沈下する。一方、前記ロート部付きボトムフィード管を通して受け入れられるLNGは、タンク内貯留液よりも密度が大きいために、タンクの底部に沿って広がり、タンク底部側から徐々に溜まりやすい。
【0017】
よって、前記トップフィード管より噴霧されるLNGと、前記ロート部付きボトムフィード管を通して受け入れられるLNGとでは、移動(流れ)の相互作用はあまり生じないために、タンク内の液体の撹拌には寄与しない。
【0018】
又、タンク内に貯蔵されているLNGよりも密度の小さいLNGを受け入れる場合、前記ボトムフィード管を通して受け入れられるLNGは、水平より斜め上向きに吐出された後、周囲の既存のタンク内貯留液との密度差に基づいて浮上するため、液面方向に向かう流れとなる。又、前記ロート部付きボトムフィード管を通して受け入れられるLNGは、周囲の既存のタンク内貯留液との密度差に基づいて浮上するため、液面方向に向かう流れとなる。
【0019】
したがって、前記ボトムフィード管を通して受け入れられるLNGと、前記ロート部付きボトムフィード管を通して受け入れられるLNGとでは、移動(流れ)の相互作用はあまり生じないために、タンク内の液体の撹拌には寄与しない。
【0020】
そこで、本発明は、低温液化ガスタンクに受入液を受け入れるときに、該受入液と、既存のタンク内貯留液に密度差が存在していても、両者を効率よく且つ良好に撹拌することができて、層状化の発生を防止することができる低温液化ガスタンクの層状化防止方法及び装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、前記課題を解決するために、請求項1に対応して、低温液化ガスタンク内の上部と下部に互いに対向させて設けた上部受入管の吐出口と下部受入管の吐出口より、受入液を同時に受け入れさせるようにし、前記上部受入管の吐出口と前記下部受入管の吐出口より、受入液を同時に受け入れさせるときに、前記下部受入管の吐出口の近傍位置に設けた音場発生装置より、該下部受入管より受け入れる受入液の上向きの噴流に向けて音波を発振させるようにする低温液化ガスタンクの層状化防止方法とする。
【0023】
又、請求項に対応して、低温液化ガスタンクの上部にタンク内に開口する下向きの吐出口を備えた上部受入管と、前記低温液化ガスタンク内の下部に、前記上部受入管の吐出口と上下に対向する配置で上向きの吐出口を備えた下部受入管と、前記上部受入管及び下部受入管に受入液を同時に供給するための受入液供給部と、前記下部受入管の吐出口の近傍位置に設けられて、該下部受入管の吐出口より受け入れる受入液の上向きの噴流に向けて音波を発振させる音場発生装置とを備えた構成を有する低温液化ガスタンクの層状化防止装置とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、以下のような優れた効果を発揮する。
(1)請求項1に示した構成を有する低温液化ガスタンクの層状化防止方法では、低温液化ガスタンクにて、既存のタンク内貯留液に対して密度差のある受入液を受け入れる場合であっても、上部受入管の吐出口を通して受け入れられる上側受入液と、下部受入管の吐出口を通して受け入れられる下側受入液により、前記既存のタンク内貯留液中で上下に対向する噴流を形成させ、該各噴流同士を衝突させることで、該受入液と、前記既存のタンク内貯留液とを、効率よく且つ良好に撹拌することができる。
(2)したがって、前記低温液化ガスタンクでは、受入液を受け入れるときに層状化が生じる虞を防止することができる。
(3)又、請求項に示した構成を有する低温液化ガスタンクの層状化防止装置では、前記(1)(2)と同様の効果を得ることができる。

【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の低温液化ガスタンクの層状化防止方法及び装置の実施の一形態を示す概略切断側面図である。
図2】本発明の実施の他の形態を示す概略切断側面図である。
図3図1の層状化防止装置による層状化防止効果を検証するための数値解析の結果を示すもので、(a)(b)(c)(d)は或る経過時間ごとのタンク内液体の密度分布を示すコンター図である。
図4】本発明と対比するための比較例について、図3と同様の数値解析を行った結果を示すもので、(a)(b)(c)は或る経過時間ごとのタンク内液体の密度分布を示すコンター図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0027】
図1は本発明の低温液化ガスタンクの層状化防止方法及び装置の実施の一形態を示すものである。
【0028】
すなわち、本発明の低温液化ガスタンクの層状化防止装置(以下、単に、本発明の層状化防止装置と云う)は、図1に符号1で示すもので、低温液化ガスタンク2の中央部の上部位置には、タンク天井部2aを貫通させて配管した上部受入管3の吐出口3aが、タンク内で鉛直方向下向きに設けられている。
【0029】
又、前記低温液化ガスタンク2内の下部でタンク底部2bの中央部となる個所には、下部受入管4の下流側端部の吐出口4aが、鉛直方向上向きとして且つ前記上部受入管3の吐出口3aと対向する配置として設けられている。
【0030】
前記下部受入管4は、途中位置を、前記タンク天井部2aにおける前記上部受入管3とは干渉しない位置、たとえば、タンク天井部2aの外周部に、貫通させて配管してあり、該貫通部分から、前記吐出口4aまでを、該貫通部分からタンク底部2b付近まで上下方向に延びる縦管部4bと、該縦管部4bの下端部から前記吐出口4aまで横方向に延びる横管部4cを介して接続した構成とされている。
【0031】
更に、前記下部受入管4は、前記縦管部4bの上端寄り位置に、管外に連通する開口4dが設けられている。且つ前記開口4dの下部側には、下端側から上端側に向けて拡径するテーパ管部4eが設けてある。これにより、前記開口4dよりも上方(上流側)の縦管部4bを通して該開口4dの位置まで導かれる低温液化ガスの受入液(下側受入液)5bは、前記開口4dを通過した後、前記テーパ管部4eで案内されて該開口4dよりも下方(下流側)の縦管部4bへ円滑に流通させることができるようにしてある。更に、前記下部受入管4では、該下部受入管4内を流通する間に前記受入液(下側受入液)5bがガス化することで発生するガス(蒸気)を、前記開口4dより管外へ逃がすことができるようにしてある。
【0032】
前記上部受入管3と前記下部受入管4の上流側には、受入液5a,5bを該各受入管3,4に同時に供給するための受入液供給部6が接続されている。該受入液供給部6は、前記上部受入管3へ供給される上側受入液5aと、前記下部受入管4へ供給される下側受入液5bについて、供給量や流速を個別に制御できるようにしてある。
【0033】
図1における符号7は、前記新たな受入液5a,5bの受け入れを行う時点で既に前記低温液化ガスタンク2内に貯留されている低温液化ガス(以下、既存のタンク内貯留液と云う)である。
【0034】
以上の構成としてある本発明の層状化防止装置1を備えた低温液化ガスタンク2に、受入液5a,5bを受け入れるときには、前記受入液供給部6より、前記上部受入管3と下部受入管4に、受入液5a,5bを同時に供給させる。
【0035】
ここで、先ず、前記受入液5a,5bが、既存のタンク内貯留液7よりも密度が大きい場合に生じる作用について述べる。
【0036】
前記上部受入管3の吐出口3aより下向きに吐出される上側受入液5aは、既存のタンク内貯留液7の液面における前記吐出口3aの直下となる位置に落下し、落下した勢いと、該既存のタンク内貯留液7よりも密度が大きいために生じるマイナスの浮力とにより、落下位置より該既存のタンク内貯留液7中を下向きに進む噴流となる。この上側受入液5aの噴流は、前記上部受入管3の吐出口3aと対向配置されている下部受入管4の吐出口4aの位置まで下向きに進行するようになる。
【0037】
一方、前記下部受入管4の吐出口4aより吐出される下側受入液5bは、吐出された勢いにより、既存のタンク内貯留液7中で上向きに進む噴流となる。
【0038】
なお、前記下側受入液5bは、前記既存のタンク内貯留液7よりも密度が大きいために、前記上向きの噴流の勢いをあまり維持することはできない。
【0039】
しかし、前記したように、前記既存のタンク内貯留液7中に生じている上側受入液5aの下向きの噴流が、該下部受入管4の吐出口4aまで達するために、該下部受入管4の吐出口4aの付近で、前記下側受入液5bの上向きの噴流に対し、前記上側受入液5aの下向きの噴流が、対向流として衝突するようになる。
【0040】
これにより、前記上下の受入液5aと5bの噴流同士の衝突によって、両受入液5aと5b同士が撹拌されると共に、周囲に存在している既存のタンク内貯留液7とも撹拌されるようになるため、前記低温液化ガスタンク2内では、タンク内の液体全体で、密度の均一化が良好に図られるようになる。よって、該低温液化ガスタンク2内では、前記受入液5a,5bと既存のタンク内貯留液7に前記したような密度差が存在していても層状化の発生は防止される。
【0041】
かかる作用が生じることは、後述する実施例の数値解析結果より明らかである。
【0042】
ところで、前記既存のタンク内貯留液7中で生じさせる上側受入液5aの下向きの噴流は、前記低温液化ガスタンク2内の液位が上昇するにしたがって、下向きの勢いが失われやすくなる。この場合は、前記液位の上昇に伴って、前記受入液供給部6より上部受入管3へ供給する上側受入液5aの供給量や流速を適宜増加させるようにして、前記既存のタンク内貯留液7中で下部受入管4の吐出口4aの位置まで達する前記上側受入液5aの下向きの噴流の勢いを高めるようにしてもよい。
【0043】
次に、前記受入液5a,5bが、既存のタンク内貯留液7よりも密度が小さい場合に生じる作用について述べる。
【0044】
この場合は、前記下部受入管4の吐出口4aより上向きに吐出される下側受入液5bは、吐出された勢いと、既存のタンク内貯留液7よりも密度が小さいために生じる浮力とにより、前記吐出口4aより既存のタンク内貯留液7中を上向きに進む噴流となる。この下側受入液5bの噴流は、既存のタンク内貯留液7の液面における前記下部受入管4の吐出口4aの直上となる位置、すなわち、前記上部受入管3の吐出口3aの直下位置まで上向きに進行するようになる。
【0045】
一方、前記上部受入管3の吐出口3aより下向きに吐出される上側受入液5aは、既存のタンク内貯留液7の液面における前記吐出口3aの直下となる位置に落下し、落下した勢いで、落下位置より該既存のタンク内貯留液7中を下向きに進む噴流となる。
【0046】
なお、前記上側受入液5aは、前記既存のタンク内貯留液7よりも密度が小さいために、前記下向きの噴流の勢いをあまり維持することはできない。
【0047】
しかし、前記したように、前記既存のタンク内貯留液7中に生じている下側受入液5bの上向きの噴流が、液面まで達するために、該液面付近で、前記上側受入液5aの下向きの噴流に対し、前記下側受入液5bの上向きの噴流が、対向流として衝突するようになる。
【0048】
これにより、前記上下の受入液5aと5bの噴流同士の衝突によって、両受入液5aと5b同士が撹拌されると共に、周囲に存在している既存のタンク内貯留液7とも撹拌されるようになるため、前記低温液化ガスタンク2内では、タンク内の液体全体で、密度の均一化が良好に図られるようになる。よって、該低温液化ガスタンク2内では、前記受入液5a,5bと既存のタンク内貯留液7に前記したような密度差が存在していても層状化の発生は防止される。
【0049】
ところで、前記既存のタンク内貯留液7中で生じさせる下側受入液5bの上向きの噴流は、前記低温液化ガスタンク2内の液位が上昇するにしたがって、上向きの勢いが失われやすくなる。この場合は、前記液位の上昇に伴って、前記受入液供給部6より下部受入管4へ供給する下側受入液5bの供給量や流速を適宜増加させるようにして、前記既存のタンク内貯留液7中で上部受入管3の吐出口3aの直下位置の液面まで達する前記下側受入液5bの上向きの噴流の勢いを高めるようにしてもよい。
【0050】
なお、前記本発明の層状化防止装置1を備えた低温液化ガスタンク2において、受入液5a,5bを受け入れるときに、該受入液5a,5bと、既存のタンク内貯留液7に密度差がなければ、層状化が生じる虞がないことは明らかである。
【0051】
このように、本発明の低温液化ガスタンクの層状化防止方法及び装置によれば、低温液化ガスタンク2に、既存のタンク内貯留液7に対して密度差のある受入液5a,5bを受け入れる場合であっても、受入液5a,5bにより、既存のタンク内貯留液7中で上下に対向する噴流を形成させ、該各噴流同士を衝突させることで、該受入液5a,5bと、既存のタンク内貯留液7を、効率よく且つ良好に撹拌することができる。
【0052】
よって、前記低温液化ガスタンク2では、受入液5a,5bを受け入れるときに層状化が生じる虞を防止することができる。
【0053】
次に、図2は本発明の実施の他の形態として、図1の実施の形態の応用例を示すものである。
【0054】
本実施の形態の層状化防止装置1aは、図1に示したと同様の構成において、下部受入管4の吐出口4aの近傍位置に、音場発生装置としての音場発生用スピーカ8を設けた構成とされている。
【0055】
前記音場発生用スピーカ8は、中心を前記下部受入管4の吐出口4aに向けた姿勢として、図示しない取付部材を介して低温液化ガスタンク2内の固定部に取り付けられている。
【0056】
更に、前記音場発生用スピーカ8は、タンク外部に設けた図示しない発振装置(駆動装置)に接続されている。
【0057】
なお、前記下部受入管4の吐出口4aの形状やサイズ、該吐出口4aより受け入れる下側受入液5bの噴流の強さ(流速)、低温液化ガスの密度等に応じて、該下側受入液5bの噴流の中心流速を増加させるために適した音波の周波数、強度が変化するため、予め、実験等により前記下側受入液5bの噴流の中心流速を増加させることに適した音波の周波数、及び、強度を測定して、前記図示しない発振装置に設定しておくようにされている。
【0058】
これにより、前記音場発生用スピーカ8では、前記発振装置により駆動して、前記のようにして設定してある所定の周波数、強度の音波を発振させることで、該音波を前記下部受入管4の吐出口4aより受け入れる下側受入液5bの噴流に対して作用させて、該噴流の中心流速を増加させることができるようにされている。
【0059】
その他の構成は図1に示したものと同様であり、同一のものには同一の符号が付してある。
【0060】
本実施の形態によれば、前記低温液化ガスタンク2に図1に示したものと同様に各受入管3,4より受入液5a,5bを受け入れるときに、前記下部受入管4の吐出口4aより受け入れる下側受入液5bの上向きの噴流に対して、前記音場発生用スピーカ8より音波を発振させることにより、該上向きの噴流の中心流速を増加させることができる。よって、前記受入液5a,5bにより、既存のタンク内貯留液7中で上下に対向する噴流を形成させて、該各噴流同士を衝突させるときの勢いを増強することができるため、該受入液5a,5bと、既存のタンク内貯留液7を、更に効率よく且つ良好に撹拌することができる。
【0061】
なお、本発明は前記実施の形態のみに限定されるものではなく、図1図2では、上下に対向させて配置した上部受入管3の吐出口3aと下部受入管4の吐出口4aの組を、低温液化ガスタンク2の中央部に一組だけ設けた構成を示したが、前記上部受入管3の吐出口3aと下部受入管4の吐出口4aの組の設置数は2組以上でもよく、又、その配置は、低温液化ガスタンク2の平面サイズや該低温液化ガスタンク2に装備されている機器の配置等に応じて自在に設定してよい。
【0062】
又、図1図2における低温液化ガスタンク2と上部受入管3と下部受入管4のそれぞれの形状や寸法、寸法比は、図示するための便宜上のものであり、実際の装置構成の形状や寸法、寸法比を表したものではない。
【0063】
低温液化ガスタンク2は、LNG以外の任意の低温液化ガス貯蔵用の低温液化ガスタンク2であってもよい。
【0064】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【実施例】
【0065】
図1に示した構成の本発明の低温液化ガスタンクの層状化防止装置1を備えた低温液化ガスタンク2について、数値解析により層状化防止効果を検証した。
【0066】
具体的には、低温液化ガスタンク2の既存のタンク内貯留液7として、直径約70m、初期液面高さ10mの液体をモデル化した。このモデル化された液体の密度は420kg/mとした。
【0067】
前記液体のモデルに対し、中央部の上下両側から、受入液5a,5bとなる密度がより大きい460kg/mの液体を、同一の流速、流量の対向する噴流として供給する状態として、時間の経過に伴う、密度分布の変化を求めた。
【0068】
その数値解析結果を図3(a)(b)(c)(d)に示す。なお、図3(a)は前記受入液5a,5bの供給開始より5200秒、(b)は10000秒、(c)は15200秒、(d)は20000秒、それぞれ経過した時点の密度分布を示すコンター図である。
【0069】
比較例として、前記と同様の液体のモデルに対し、中央部の上側から前記と同様に上側受入液5aを供給する一方、該液体のモデルの中央部の他端部では、下側受入液5bを左右水平方向に供給する場合について、時間の経過に伴う、密度分布の変化を求めた。
【0070】
なお、タンク内貯留液7のモデル化された液体の密度、受入液5a,5bの密度と流量は、前記の数値解析の条件と同様としてある。
【0071】
前記比較例の数値解析結果を図4(a)(b)(c)に示す。なお、図4(a)は前記受入液5a,5bの供給開始より1200秒、(b)は2800秒、(c)は5200秒、それぞれ経過した時点の密度分布を示すコンター図である。
【0072】
図3(a)(b)(c)(d)、及び、図4(a)(b)(c)において、図中の数値は密度[kg/m]を示している。
【0073】
図4(a)(b)(c)の結果からは、受入液5a,5bを供給すると、初期段階から、前記低温液化ガスタンク2内の液体モデルに、上下方向に密度分布の傾斜が生じることが分かる。又、時間が経過しても、前記密度分布の傾斜は解消されず、明確な層状化が生じ得ていることが分かる。
【0074】
これに対し、図3(a)(b)(c)(d)の結果からは、前記低温液化ガスタンク2内の液体のモデルでは、該液体のモデル内の大部分で上下方向の密度分布の傾斜は見られないこと、すなわち、前記液体のモデル全体で、密度の均一化が生じていることが分かる。
【0075】
更に、図3(b)(c)(d)の結果から、図4(c)と比較してより長い時間経過しても、前記液体のモデル全体で、密度の均一化が図られた状態が良好に保持されていることが分かる。
【0076】
なお、図示してないが、既存のタンク内貯留液の密度よりも受入液の密度の方が小さい場合には、前記図3(a)(b)(c)(d)の数値解析結果を、上下に反転させたと同様な効果が生じると考えられる。
【0077】
以上により、本発明の低温液化ガスタンクの層状化防止方法及び装置による層状化防止の効果が明らかとなった。
【符号の説明】
【0078】
1,1a 層状化防止装置、2 低温液化ガスタンク、3 上部受入管、3a 吐出口、4 下部受入管、4a 吐出口、5a 上側受入液(受入液)、5b 下側受入液(受入液)、6 受入液供給部、8 音場発生用スピーカ(音場発生装置)
図1
図2
図3
図4