(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
<多層構造
容器の層構成>
本発明の多層構造
容器の層構造の代表的な基本構成を示す
図1を参照して、全体として10で示す多層構造体
(容器)は、
内面に保護樹脂層1を備えており、さらに、酸素バリア層3を中間層として有しており、酸素バリア層3の外側には、外側樹脂層5が設けられている。
また、保護樹脂層1の表面には、
液層(液膜)7が設けられている。
【0017】
1.保護樹脂層;
保護樹脂層1は、線状オレフィン系樹脂に環状オレフィン系樹脂を分散させたものであり、環状オレフィン系樹脂の配合により、水分遮断性が付与され、水分の浸透による特性低下を有効に回避することが可能となる。
【0018】
上記の線状オレフィン系樹脂は、保護樹脂層1の主成分であり、連続相として存在するものであり、層を形成し得る程度の分子量を有しており、環状構造を有していないものであれば、特に制限されないが、一般的には、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、中或いは高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテンなどを挙げることができる。勿論、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等の環状構造を有していないα−オレフィン同志のランダムあるいはブロック共重合体等であってもよい。
特に好適な線状オレフィン系樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレンであり、特に、この多層構造体10を、内容物を絞り出すスクイズ容器として使用する場合には、低密度ポリエチレンや直鎖低密度ポリエチレンを用いることが最適である。
【0019】
上記の線状オレフィン系樹脂に分散させる環状オレフィン系樹脂は、環状構造を有してればよく、特に制限されるものではないが、例えば非環状オレフィンと環状オレフィンとの非晶質乃至低結晶性の共重合体(COC)が好適に使用される。
【0020】
上記の非環状オレフィンとしては、エチレンが好適であるが、その他に、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、3−メチル1−ペンテン、1−デセン等の炭素数3〜20のα−オレフィンが、それぞれ、単独或いはエチレンとの組み合わせで使用される。
【0021】
環状オレフィンとしては、基本的には、エチレン系不飽和結合とビシクロ環とを有する脂肪族炭化水素化合物(例えばシクロヘキセン)が代表的であるが、シクロヘキセン環の内部に橋絡基(例えばメチレン基やエチレン基など)を有しているビシクロ環や、ビシクロ環にさらに脂肪族環が結合した多環構造を有している脂肪族炭化水素も好適である。
【0022】
このような多環構造の脂肪族炭化水素化合物は、下記式(1)で表される。
【化1】
(1)
式中、Zは、メチレン基またはエチレン基である。
【0023】
上記多環構造の脂肪族炭化水素化合物の具体例としては、以下のものを例示することができる。
【化2】
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
【化3】
トリシクロ[4.4.0.1
2.5]−3−ウンデセン
【化4】
テトラシクロ[4.4.0.1
2.5.1
7.10]−3
−ドデセン
【化5】
ペンタシクロ[8.4.0.1
2.5.1.
9.12.
0
8.13]−3−ヘキサデセン
【化6】
ペンタシクロ[6.6.1.1
3.6.0.
2.7.
0
9.14]−4−ヘキサデセン
【0024】
勿論、環状オレフィンは、上記のものに限定されるものではなく、例えば、式(1)中の脂肪族環にアルキル基等の置換基を1又は2以上有するものであってもよく、特許第3893650号等に例示されているものであってもよい。
【0025】
また、上述した環状オレフィン系樹脂において、共重合比や重合度などの調節によりガラス転移点(Tg)が35℃以上に調整されたものは、この多層構造体10の表面の保護樹脂層1上に液層7を形成し、この液層7によって多層構造体1の表面特性を改質する上で有利である。即ち、ガラス転移点が上記範囲内にある環状オレフィン系樹脂を用いた場合には、これに液層7を形成する液体を含浸させてマスターバッチと使用し、このマスターバッチを線状オレフィン系樹脂で希釈(混合)して保護樹脂層1を形成する樹脂組成物として成形する上で極めて有利である。このような環状オレフィン系樹脂は、ガラス転移点が高く、室温でガラス状態となり、この内部に多量の液体を封じ込めることができ、この結果、液層7を安定に形成することが可能となるからである。
【0026】
本発明において、上述した環状オレフィン系樹脂は、先に述べた線状オレフィン系樹脂100重量部当り5〜90重量部、特に7〜50重量部、さらに、7〜30重量部の量で使用される。この量が少ないと、水分による多層構造体1の特性低下、例えば後述する酸素バリア層3の酸素バリア性の低下を抑制することが困難となる。また、上記範囲よりも多量に環状オレフィン系樹脂を使用したり、或いは環状オレフィン系樹脂の層を単層で形成した場合には、水分による特性低下を抑制する機能はさほど向上しないばかりか、多層化が困難となってしまう。例えば、接着剤を用いて酸素バリア層3と積層した場合においても、酸素バリア層3との界面に水分が集中して分布してしまい、デラミネーションを生じ易くなってしまう。
【0027】
上述した線状オレフィン系樹脂と環状オレフィン系樹脂とから形成される保護樹脂層1の厚みd
1は、環状オレフィン系樹脂による水分の影響を抑制する効果が十分に発揮される限り、特に制限されないが、この保護樹脂層1の表面に液層7を形成する場合には、該液層7をしっかりと保持するという観点から、20〜150μmの厚みを有していることが好ましい。即ち、保護樹脂層1の厚みd
1が上記範囲内にあるとき、該液層7を形成する液体が適度に保護樹脂層1中に浸透する結果、該液層7を安定に保持することができる。例えば、保護樹脂層1の厚みd
1が薄すぎると、液層7を形成する液体が保護樹脂層1の表面から容易に脱落してしまい、また、保護樹脂層1の厚みが厚すぎると、液層7を形成する液体のほとんどが保護樹脂層1中に浸透してしまい、適当な厚みの液層7を形成することが困難となってしまうからである。
【0028】
2.酸素バリア性樹脂層3;
上記保護樹脂1の内面に設けられる酸素バリア層3は、酸素バリア性樹脂を含む層であり、かかる層により、酸素の通過を物理的に遮断するものである。
【0029】
このような酸素バリア性樹脂としては、例えば23℃−0%RHにおける酸素透過係数が10cc・20μm/m
2/sec/atm以下の樹脂、例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体やポリアミドが代表的であるが、本発明では、特にエチレン−ビニルアルコール共重合体が好適に使用される。即ち、エチレン−ビニルアルコール共重合体は優れた酸素バリア性を示すものの、水分の存在下での酸素バリア性の低下が極めて大きいが、本発明では、水分の存在下での酸素バリア性の低下を有効に抑制することができ、本発明の利点を最大に活かすことができる。
【0030】
上記のエチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物)としては、具体的には、エチレン含有量が20乃至60モル%、特に25乃至50モル%のエチレン−酢酸ビニル共重合体を、ケン化度が96%以上、特に99モル%以上となるようにケン化して得られる共重合体ケン化物が好適に使用される。このエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下EVOHと呼ぶことがある)は、フィルムを形成し得るに足る分子量を有するべきであり、一般に、フェノール/水の重量比が85/15の混合溶媒中、30℃で測定して0.01dl/g以上、特に0.05dl/g以上の固有粘度を有している。
【0031】
さらに、この酸素バリア性樹脂層3は、その優れた酸素バリア性が損なわれない限りにおいて、酸素バリア性樹脂に他の熱可塑性樹脂がブレンドされていてもよい。特に、EVOHは、他の熱可塑性樹脂(例えばオレフィン系樹脂)との接着性が乏しいという性質を有するが、この酸素バリア性樹脂層3に隣接する層(例えば保護樹脂層1や外側樹脂層5)を形成する樹脂成分をブレンドすることにより、かかる隣接層との接着性を高めることができる。例えば、100重量部のEVOH当り、5〜65重量部の量で他の樹脂(例えば線状オレフィン系樹脂)がブレンドされている場合には、その酸素アリア性を損なうことなく、接着性を向上することができ、格別の接着剤層を介在させることなく、保護樹脂層1と酸素バリア層3とを直接積層することができる。
【0032】
さらに、上述した酸素バリア性樹脂層3は、酸素バリア性に加え、液の浸透拡散を防止する性質を有している。このため、前述した保護樹脂層1の表面に液層7を形成した態様においては、この酸素バリア性樹脂層3によって、液層7を形成する液体の浸透拡散が有効に抑制され、一定量の液層を長期間にわたって安定に保持することができるという利点がある。
【0033】
本発明において、酸素バリア性樹脂層3の厚みd
2は、その用途に応じて望まれる酸素バリア性が発揮されるように設定され、一般に、2μm以上、特に4μm以上の厚みに設定すべきであり、好ましくは、10μm乃至40μm、更に好ましくは10μm乃至30μmの範囲にあるのがよい。
【0034】
尚、保護樹脂層1の表面に液層を形成する場合には、上述した液浸透拡散防止性能を十分に発揮させるため、この酸素バリア性樹脂層3と保護樹脂層1の表面との間隔(
図1において、保護樹脂層1の厚みd
1に相当)は、150μm以下の範囲に設定されていることが好ましい。この間隔が大きいと、酸素バリア性樹脂層3と保護樹脂層1の表面との間の領域に液層7を形成する液体が浸透拡散するため、液層7を形成する液体の量が少なくなり、液層7による表面特性の改質効果が希薄となってしまうからである。
【0035】
3.外側樹脂層5;
本発明において、上記酸素バリア性樹脂層3の外側(保護樹脂層1とは反対側)に形成される外側樹脂層5は、この多層構造体10の用途に応じて適宜の成膜可能な樹脂から形成される層であり、例えば包装容器の分野では、前述した保護樹脂層1の形成に使用される線状オレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンイソフタレート或いはこれらの共重合体などのポリエステル樹脂から形成される。特に、粘稠な内容物が収容され、このような内容物を絞り出しなどにより排出するという容器の特性を考慮すると、線状オレフィン系樹脂、特にポリエチレンが最適である。
【0036】
また、かかる外側樹脂層5は、複数の層からなる積層構造を有していてもよく、例えば、最外層を上記の線状オレフィン系樹脂やポリエステル樹脂で形成し、その内側(酸素バリア性樹脂層3側)に、さらに酸素バリア性樹脂の層や、この多層構造体10を成形する際に発生するバリ等のスクラップ樹脂を含むリグラインド層を設けることもできるし、層間に適宜の接着剤層を設けることも可能である。また、それ自体公知の酸素吸収性樹脂層を含んでいてもよい。この酸素吸収性樹脂層は、酸素バリア性を補足するものであり、特開2002−240813号等に記載されているように、酸化性重合体及び遷移金属系触媒を含む層であり、遷移金属系触媒の作用により酸化性重合体が酸素による酸化を受け、これにより、酸素を吸収して酸素の透過を遮断する。このような酸化性重合体及び遷移金属系触媒は、上記の特開2002−240813号等に詳細に説明されているので、その詳細は省略するが、酸化性重合体の代表的な例は、第3級炭素原子を有するオレフィン系樹脂(例えばポリプロピレンやポリブテン−1等、或いはこれらの共重合体)、熱可塑性ポリエステル若しくは脂肪族ポリアミド;キシリレン基含有ポリアミド樹脂;エチレン系不飽和基含有重合体(例えばブタジエン等のポリエンから誘導される重合体);などである。また、遷移金属系触媒としては、鉄、コバルト、ニッケル等の遷移金属の無機塩、有機酸塩或いは錯塩が代表的である。
【0037】
尚、本発明では、水分の影響による酸素バリア性樹脂層3の酸素バリア性の低下が抑制されているため、酸素バリア性樹脂層3の酸素バリア性を最大限に発揮することができる。従って、外側樹脂層5中に他の酸素バリア性樹脂層や酸素吸収性樹脂層を形成せずとも優れた酸素バリア性を発揮させることができ、これは、層構造の簡略化やコストの低減などの観点から本発明の大きな利点である。
【0038】
また、本発明においては、上述した外側樹脂層5の厚みは特に制限されないが、高湿度下での酸素バリア性樹脂層3の酸素バリア性の低下を効果的に抑制するという観点から、多層構造体10全体厚みが過度に厚くならない程度に外が樹脂層5の厚みを厚くすることが好ましく、例えば外側樹脂層5の厚みd
3は100μm以上、特に150〜400μm程度とすることが望ましい。
【0039】
4.その他の層;
既に述べたように、本発明においては、保護樹脂層1の表面に
液層7が設けられており、これにより、
容器の形態を有する多層構造体10の表面特性を改質することができる。
例えば、この保護樹脂層1の表面(即ち、容器内容物と接触する面)に液層7が形成されていることにより、液層7を形成する液体の種類に応じて滑り性や撥水性が付与され、容器内容物を速やかに排出することができる。
【0040】
このような液層7を形成する液体は、当然のことながら、大気圧下での蒸気圧が小さい不揮発性のものであり、例えば沸点が200℃以上の高沸点液体により液層7が形成されることとなる。揮発性液体により液層7が形成されていると、使用形態によっても異なるが、この液層7が容易に揮散して経時と共に消失し、或いは液層7を形成することが困難となってしまうからである。
【0041】
液層7を形成する液体の具体例としては、上記のような高沸点液体であることを条件として、種々のものを挙げることができるが、特に水や水を含む親水性の内容物に対する撥水性や滑り性を付与するためには、フッ素系界面活性剤、シリコーンオイル、脂肪酸トリグリセライド、各種の植物油などが代表的である。植物油としては、大豆油、菜種油、オリーブオイル、米油、コーン油、べに花油、ごま油、パーム油、ひまし油、アボガド油、ココナッツ油、アーモンド油、クルミ油、はしばみ油、サラダ油などが挙げられる。
【0042】
このような液体から形成される液層
(液膜)7は
、液量が0.2乃至50g/m
2、好ましくは0.2乃至30g/m
2、さらに好ましくは0.5至30g/m
2、格段に好ましくは0.5乃至10g/m
2の範囲となるように形成される。即ち、液量が少ないと、十分な表面特性を付与することができず、一方、液量が過度に多いと、液の脱落などを生じ易くなり、液量の変動が大きくなり、安定した表面特性を確保することができなくなるおそれがあるからである。
【0043】
また、本発明においては、このような液層7は、液体による表面特性を安定に且つムラなく付与するために、下記式(1):
F=(cosθ−cosθ
B)/(cosθ
A−cosθ
B) (1)
式中、
θは、前記多層構造体10の内面での水接触角であり、
θ
Aは、前記液層7を形成する液体上での水接触角であり、
θ
Bは、液層7を支持する保護樹脂層1を形成する樹脂組成物上での水接触角であ
る、
で算出される液層7の被覆率Fが0.5以上、好ましくは0.6以上となるように形成されるべきである。即ち、多層構造体10の内表面での水接触角θと液層7上での水の接触角水θ
Aが同じである場合には、被覆率Fは1.0であり、保護樹脂層1の全体が液層7で覆われていることになる。
例えば、被覆率Fが上記範囲よりも小さいと、液量が多量にあっても、表面に液体が点在するような形態で液層7が形成され、十分な表面特性を発揮することが困難となってしまう。
【0044】
ここで、上述の式(1)は、表面が2種類の成分(A、B)から形成された複合表面の場合には、見かけの接触角θを表現するCassie−Baxterの式を変形して得られる。これは下記式で表現される。
cosθ=F
Acosθ
A+F
Bcosθ
B
=F
Acosθ
A+(1−F
A)cosθ
B
式中、
A成分の割合はF
A、B成分の割合はF
B、F
A+F
B=1
A成分単体上での接触角はθ
A、B成分単体上での接触角はθ
Bである。
【0045】
さらに、上記のような液層7を形成する場合、液層7の形成手段によっても異なるが、液層7の脱落を効果的に防止し、液層7を安定に保持するために、保護樹脂層1の表面を液層7の液が有効に浸透しうるような適度な凹凸面とすることもできる。即ち、液体が保護樹脂層1の表面に効果的に浸透し得る凹凸面は、液体の接触角θが90度未満であり、毛管現象が重力に比して支配的となる面である。
【0046】
毛管現象が支配的である範囲は毛管長(τ
−1)と呼ばれ、下記式で表される。
τ
−1=(γa/ρg)
1/2
式中、γaは、液体と気体(空気)との間の界面張力であり、
ρは液体の密度であり、
gは重力加速度である。
即ち、毛管長(τ
−1)以下の範囲内においては重力に比べ、毛管現象(毛管力)が支配的となる。この毛管長は、上記式から理解されるように、保護樹脂層1の材質にかかわらず、液によって一定であり、例えば、水では約2.7mmである。従って、例えば、液浸透性の凹凸面とするためには、凹部の内径を毛管長(τ
−1)以下に設定すればよい。この毛管長は、液層7を形成する液体の種類によって異なるが、多くの液体で1mmを超える範囲にあるので、1mm以下の内径を有する凹部を保護樹脂層1の表面全体にわたって分布しておけばよい。この場合、凹部の深さやピッチ及び凹部の密度(単位面積当りの凹部の数)などは、液層7を形成する液体の種類によっても異なるが、通常、液層7を形成している液体の量が0.2乃至50g/m
2、好ましくは0.2乃至30g/m
2、さらに好ましくは0.5至30g/m
2、格段に好ましくは0.5乃至10g/m
2の範囲に維持されるように設定しておけばよい。
特に、保護樹脂層1を形成した後、液体の噴霧や塗布等により液層7を形成する場合には、上記のような凹凸面の形成は特に効果的である。
【0047】
上記のような凹凸面を形成する手段としては、金型、ロール転写、エンボス加工等の機械的手段、フォトリソグラフィーやレーザー光を用いてのエッチング等の光学的手段が代表的である。また、保護樹脂層1の表面に、微粒子(金属酸化物微粒子やポリマー微粒子)や多孔質体、結晶性添加剤などをコートして凹凸面を形成することもできるし、このような剤を、保護樹脂層1を形成する樹脂に練り込み等により混合して保護樹脂層1を成形することにより凹凸面を形成することもできる。
【0048】
さらに、本発明においては、上記のような保護樹脂層1に液層7を形成する液体をブレンドし、この保護樹脂層1を、液層7を形成する液体の供給源とすることが最適である。
即ち、先にも述べたように、本発明では、環状オレフィン系樹脂に液層7を形成する液体を含浸したものをマスターバッチと使用し、このマスターバッチを線状オレフィン系樹脂で希釈(混合)して保護樹脂層1を形成する樹脂組成物として用いることができる。このようなマスターバッチを利用して保護樹脂層1を成形する場合、多量の液体を含浸させることができるため、成形後の保護樹脂層1からの滲出により、保護樹脂層1の表面に安定した厚みの液層7を形成することができる。
例えば、環状オレフィン系樹脂ではなく、線状オレフィン系樹脂に液体を含浸させてマスターバッチとして使用する場合には、含浸させる液体の量を多くすることが困難である。液体の量を多くすると、マスターバッチから液体が滲出してしまい、ベタつきなどによってマスターバッチの取り扱いが困難となるばかりか、液量を精度よく設定することができなくなってしまうからである。この結果、液体量を少なくせざるを得ず、結局、液層7を形成する液体の量が不安定となってしまい、目的とする表面の改質を実現することができなくなってしまう。
【0049】
また、本発明においては、前述した酸素バリア性樹脂層3と保護樹脂層1或いは外側樹脂層5との接着性を向上し、デラミネーションを防止するという観点から、酸素バリア性樹脂層3の両側には、それぞれ、接着樹脂層(接着層)を設けることができる。また、外側樹脂層5を多層構造とする場合、各層同士の接着性を高めるためにも、接着樹脂層を設けることができる。特に酸素バリア性樹脂層3がEVOH単独で形成されている場合には、接着樹脂層を設けることが望ましい。
【0050】
このような接着樹脂層の形成に用いる接着剤樹脂はそれ自体公知であり、例えば、カルボニル基(>C=O)を主鎖若しくは側鎖に1乃至100meq/100g樹脂、特に10乃至100meq/100g樹脂の量で含有する樹脂、具体的には、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などのカルボン酸もしくはその無水物、アミド、エステルなどでグラフト変性されたオレフィン樹脂;エチレン−アクリル酸共重合体;イオン架橋オレフィン系共重合体;エチレン−酢酸ビニル共重合体;などが接着性樹脂として使用される。このような接着樹脂層の厚みは、適宜の接着力が得られる程度でよく、一般的には、0.5乃至20μm、好適には1乃至8μm程度の厚みでよい。
【0051】
また、この多層構造体10がフィルムを貼り合せた袋状の形態を有するような場合には、接着剤樹脂として、例えば、ドライラミネーション用やアンカーコート用、プライマー用として一般に用いられるものも使用することもできる。例えばそれ自体公知である、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、セルロース系樹脂、イソシアネート樹脂などを用いてフィルム同士の貼り合わせを行うこともできる。これら接着剤樹脂は単独で使用してもよいし、また必要に応じ、ブレンドしてもよい。また、基材との密着や濡れが確保できる限り、水系と溶剤系のどちらでも使用できる。また上記成分の他に、接着剤としての性能を損なわない限り、それ自体公知である、硬化促進触媒、充填剤、軟化剤、老化防止剤、シランカップリング剤、安定剤、接着促進剤、レベリング剤、消泡剤、可塑剤、無機フィラー、粘着付与性樹脂などが配合されていてもよい。
尚、袋状の形態を有する包装容器においては、接着樹脂層の厚みは、通常、0.01〜10μm、特には0.1〜5.0μmとかなり薄くてよい。
【0052】
さらに、上述した接着樹脂層は緻密であり、液層を形成する液体の浸透拡散を防止する機能も有している。従って、前述した酸素バリア性樹脂層3と保護樹脂層1との界面に接着樹脂層を設けた場合には、この接着樹脂層と保護樹脂層1の表面との間隔(保護樹脂層1の厚みd
1に相当)が、前述した範囲、即ち150μm以下の範囲に設定されていることが好ましい。
【0053】
さらに、上述した各層からなる本発明の多層構造体10においては、その用途等に応じて、それ自体公知の各種配合剤、例えば顔料等の着色剤などが配合されていてもよいことは勿論である。
【0054】
<多層構造体10の特性、形態及び製造>
本発明の多層構造体10は、線状オレフィン系樹脂に環状オレフィン系樹脂を分散させた構造を有する保護樹脂層1が表面に形成されているため、水分による影響が有効に抑制されるという特性を有している。
例えば、この保護樹脂層1に隣接して酸素バリア性樹脂層3が設けられている層構造においては、この酸素バリア性樹脂層3の水分による酸素バリア性の低下が有効に抑制されている。特に、酸素バリア性樹脂層3がEVOHにより形成されている場合には、水分による酸素バリア性の低下が顕著であるが、本発明では、EVOHの水分による酸素バリア性の低下を有効に回避することができるため、EVOHの優れた酸素バリア性を最大限に発揮させることができる。
【0055】
さらに、本発明においては、保護樹脂層1は、その表面に液層7を形成するに適した性質を有している。
即ち、保護樹脂層1の主成分である線状オレフィン系樹脂(例えばポリエチレンやポリプロピレン)は、液体を含浸し易く、液層7を保持する下地層に適している。さらに、保護樹脂層1中に分散されている環状オレフィン系樹脂は、液層を形成する液体の滲出を抑制する性質を有しており、特にガラス転移点が35℃以上のものはこの性質が顕著である。このため、液層7を形成する液体を環状オレフィン系樹脂に含浸させ、これをマスターバッチとして使用し、このマスターバッチを線状オレフィン系樹脂と混合して保護樹脂層成形用の樹脂組成物を調製し、多層構造体10を成形することができる。即ち、多量の液体を含むマスターバッチ化が可能となるため、液体の取り扱いが容易となり、多層構造体10を容易に製造することができる。
【0056】
さらに、保護樹脂層1の表面に液層7を形成する態様においては、保護樹脂層1に隣接して設けられる酸素バリア性樹脂層3は、液層7を形成する液体の多層構造体10内への浸透拡散を防止する性質を有している。従って、液層7の経時的消失が有効に防止され、例えば、この多層構造体10の保護樹脂層1の表面に液層7を形成し、大気圧下に保持しての液層持続試験を行ったとき、下記式(2):
ΔF=100×(F
0−F
1)/F
0 (2)
式中、
F
0は、試験開始から1日後の液層7の被覆率Fであり、
F
1は、試験開始から14日経過後での液層7の被覆率Fである、
で表される被覆低下率ΔFが40%以下、特に20%以下、さらに10%以下に抑制されている。即ち、液層7を形成した直後は勿論のこと、液層7を形成してから長期間経過後に上記の液層持続試験を行った場合にも上記のように抑制された被覆低下率ΔFを示す。
従って、本発明では、長期間にわたって液層7により表面特性を安定に発揮させることが可能となり、このような液層7を備えた態様を包装容器に適用したときには、各種の粘稠な内容物に対する滑り性が長期間にわたって維持され、このような内容物を速やかに排出することができることとなる。
【0057】
さらに、液層7を設けた態様では、液体の浸透拡散を効果的に防止するために、酸素バリア性樹脂層3は、保護樹脂層1の表面に近い位置に配置されるが、このような場合においても、内容物に含まれる水分による酸素バリア性の低下を有効に回避することができ、空容器の状態は勿論のこと、容器内に水分を含む粘稠な内容液が充填された後においても、優れた酸素バリア性が長期間にわたって安定に発揮され、粘稠な内容物の酸化劣化や、酸化劣化による内容物のフレーバ−の低下などを有効に回避することができる。
【0058】
このように、本発明の多層構造体10は、
水分の影響を有効に回避できることから容器の形態を有しており、特に、容器内容物に応じて適当な液体を選択して保護樹脂層1の表面に液層7を形成することにより、所望の表面特性を発揮させることができる。
また、本発明の層構成としては、基材に紙、金属、ガラスを用いた多層構造体としてもよい。
例えば、このような容器の形態は特に制限されず、カップ乃至コップ状、ボトル状、袋状(パウチ)、シリンジ状、ツボ状、トレイ状等、容器材質に応じた形態を有していてよく、延伸成形されていてもよい。
このような容器は、前述した各層を含む層構造の前成形体をそれ自体公知の方法により成形し、これを、ヒートシールによるフィルムの貼り付け、プラグアシスト成形等の真空成形、ブロー成形などの後加工に付して容器の形態とし、さらに、その形態に応じて、液層7を形成する液体を、スプレー噴霧、浸漬等の手段で内面の保護樹脂1の表面に施すことにより、液層7を内面に備えた多層構造の容器の形態とすることができる。
また、環状オレフィン系樹脂に液体を多量に含浸させたマスターバッチを調製し、このマスターバッチを用いて保護樹脂層1を形成する樹脂組成物を調製し、液層7を形成する液体が内添されている保護樹脂層1を備えた多層構造の容器を形成することもできる。このような手段によれば、容器成形後に液体がブリーディングして表面に液層7が形成するため、液体を施す作業は省略することができる。
また、ブロー容器にあっては、ブローと同時に液体を供給することにより、保護樹脂層1の表面(容器の内面)全体にわたってムラなく液層7の薄膜を形成することもできる。
【0059】
上述した液層7が保護樹脂層1の表面(即ち内面)に設けられている包装容器においては、液層7による表面特性を十分に発揮させることができるため、特に、粘度(25℃)が100mPa・s以上の粘稠な内容物、例えば、ケチャップ、水性糊、蜂蜜、各種ソース類、マヨネーズ、マスタード、ドレッシング、ジャム、チョコレートシロップ、乳液等の化粧液、液体洗剤、シャンプー、リンス等の粘稠な内容物が充填された容器として最も好適である。即ち、内容物の種類に応じて適宜の液により液層7を形成しておくことにより、容器を傾斜或いは倒立させることにより、これらの内容物が容器内壁に付着することなく、速やかに排出できる。
例えば、ケチャップ、各種ソース類、蜂蜜、マヨネーズ、マスタード、ジャム、チョコレートシロップ、乳液などは、水分を含む親水性物質であり、液層7を形成する液体としては、シリコーンオイル、グリセリン脂肪酸エステル、食用油などの食品添加物として認可されている油性液体が好適に使用される。
さらには、上述した内容物の酸化劣化も有効に防止することができる。
【実施例】
【0060】
本発明を次の実験例にて説明する。
尚、以下の実験例等で行った各種の特性、物性等の測定方法及び多層構造体から成る容器(ボトル)の成形に用いた樹脂等は次の通りである。
【0061】
1.酸素バリア性測定
後述の方法で成形した多層ボトルの酸素遮断性を評価するため、多層ボトル内に蒸留水2mLを入れ、初期酸素濃度を0.06%以下とした窒素雰囲気下で、ポリエチレン(内層)/アルミ箔/ポリエステル(外層)からなる蓋材でヒートシールして密封し、30℃−80%RHで保存した。この多層ボトル内の酸素濃度を経時日時においてガスクロマトグラフィー(GC−14A、(株)島津製作所製)を用いて測定した。30℃−80%RHでの保管期間が0日、14日、30日における多層ボトル内の酸素濃度を測定し、保管期間−酸素濃度のプロットを作成し、このプロットを直線近似し、その傾きから酸素バリア性を評価した。傾きの値が小さい程、酸素バリア性に優れている。
【0062】
2.液層の被覆率の測定
後述の方法で成形した多層ボトルの胴部から10mm×60mmの試験片を切り出した。23℃50%RHの条件下、固液界面解析システムDropMaster700(協和界面化学(株)製)を用い、試験片の内層が上になるように固定し、3μLの純水を試験片にのせ、水接触角θを測定した。得られた水接触角を用いて、下記式(1)より、保護樹脂層表面での液層の被覆率Fを求めた。
F=(cosθ−cosθ
B)/(cosθ
A−cosθ
B) (1)
式中、θは、多層構造体の内面での水接触角であり、
θ
Aは、液層を形成する液体上での水接触角であり、
θ
Bは、液層を支持する保護樹脂層を形成する樹脂組成物上での水接触角で
ある。
液層の被覆率Fを求めるにあたり、θ
Aの値として、下記水接触角の値を用いた。
θ
A:80.3°
(中鎖脂肪酸トリグリセライド(液体)上での値)
θ
Bについては、液体を含まない保護樹脂層を有する多層ボトルを後述の実験例とは別途作製し、その値を用いた。
【0063】
3.液層持続試験、および液層の被覆低下率ΔFの算出
後述の方法で作製した多層ボトルを22℃60%RH(大気圧下)で所定の期間保管した。その後、前述の液層の被覆率の測定を行った。
液層形成から1日後、および14日後における液層の被覆率Fから、下記式(2)より被覆低下率ΔFを求めた。
ΔF=100×(F
0−F
1)/F
0 (2)
式中、
F
0は、試験開始から1日後の前記液層の被覆率Fであり、
F
1は、試験開始から14日経過後での前記液層の被覆率Fである。
ここで、被覆低下率ΔFが小さいものほど、液層の持続性が高い。ΔFが負になる場合は被覆率が増加したことを示す。
【0064】
4.内容物滑落速度の測定
後述の方法で成形した容量500gのボトルの胴部から20mm×70mmの試験片を切り出した。23℃50%RHの条件下、固液界面解析システムDropMaster700(協和界面化学(株)製)を用い、試験片の内層が上になるように固定し、70mgの内容物(キユーピーハーフ、キユーピー(株)製、粘度=1260mPa・s(25℃))を試験片にのせ、45°の傾斜角における滑落挙動をカメラで撮影し、滑落挙動を解析し、移動距離−時間のプロットから滑落速度を算出した。この滑落速度を滑落性の指標とした。前記滑落速度の値が大きい程、内容物の滑落性が優れている。表面層上に液層が安定して形成されており、その液層の厚みが厚くなる程、滑落速度の値が大きくなる。
【0065】
5.純水の転落角測定
後述の方法で成形した容量500gのボトルの胴部から20mm×70mmの試験片を切り出した。23℃50%RHの条件下、固液界面解析システムDropMaster700(協和界面化学(株)製)を用い、試験片の内層が上になるように固定し、10μLの純水の転落角を測定した。保護樹脂層表面に液層が形成されている場合、純水の転落角の値は5度以下となる。
【0066】
6.多層構造体(ボトル)の層構成測定
後述の方法で成形した多層ボトルの底から50mmの位置での胴部水平断面における層構成を偏光顕微鏡にて観察し、ボトルの胴部層構成を求めた。断面に対し、0°、90°、180°、270°の位置での層構成を観察し、4方向での平均値をボトルの層構成とした。
【0067】
7.保護樹脂層における相構造観察
後述の方法で成形した多層ボトルの胴部断面における相構造を、共焦点レーザー走査型顕微鏡(LSM5 PASCAL AxioPlan2、Carl Zeiss社製)を用いて測定した。
【0068】
<保護樹脂層形成用樹脂>
線状オレフィン系樹脂;ポリエチレン(LDPE)
MFR:0.3g/10min (190℃、2.16Kg)
密度:0.922g/cm
3
環状オレフィン系樹脂(COC);エチレン−テトラシクロドデセン共重合体
MFR:30g/10min (260℃、2.16Kg)
密度:1.02g/cm
3
Tg:80℃
<最外層形成用樹脂>
ポリプロピレン(PP)
MFR:1.6g/10min (230℃、2.16Kg)
<接着層形成用樹脂>
無水酸変性ポリエチレン
<酸素バリア性層形成用樹脂>
エチレンビニルアルコール共重合体(密度:1.19g/cm
3、Tg:61℃)
<液層形成用液体>
中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)(表面張力28.8mN/m、粘度33.8mPa・s、いずれも23℃での値。沸点:210℃以上、引火点:242℃(参考値))
尚、液体の表面張力は固液界面解析システムDropMaster700(協和界面科学(株)製)を用いて23℃にて測定した値を用いた。なお、液体の表面張力測定に必要な液体の密度は、密度比重計DA−130(京都電子工業(株)製)を用いて23℃で測定した値を用いた。また、潤滑液の粘度は音叉型振動式粘度計SV−10((株)エー・アンド・デイ製)を用いて23℃にて測定した値を示した。
【0069】
<実験例1>
40mm押出機に保護樹脂層形成材料として、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE、MFR=0.3)と環状オレフィン系樹脂(COC)と中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)とが100/8.5/5.7(重量部)の割合からなる樹脂組成物を、50mm押出機に最外層形成用樹脂として、ポリプロピレン(MFR=1.6)を、30mm押出機Aに接着層形成用樹脂として無水酸変性ポリエチレンを、30mm押出機Bに酸素バリア性層形成用樹脂としてエチレンビニルアルコール共重合体の樹脂ペレットをそれぞれ供給し、温度210℃の多層ダイヘッドより溶融パリソンを押し出し、金型温度22℃にて公知のダイレクトブロー成形法により内容量500g、重量20gの5種6層の多層ボトルを作製した。作製したボトルを用い、酸素バリア性測定、液層の被覆率の測定、液層持続試験、内容物滑落速度の測定、純水の転落角測定を行った。結果をまとめて表1に示す。また、保護樹脂層における相構造観察の結果を
図2に示す。
【0070】
この多層構造体から成るボトルの胴部層構成は以下の通りである。
保護樹脂層:85μm
接着層:10μm
酸素バリア性樹脂層:25μm
接着層:10μm
最外層:365μm
【0071】
<実験例2>
40mm押出機に保護樹脂層形成材料として、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE、MFR=0.3)と環状オレフィン系樹脂(COC)と中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)とが100/14/6(重量部)の割合からなる樹脂組成物とした以外は実験例1と同様に、多層ボトルを作製し、前述の各種測定を行った。結果をまとめて表1に示す。
【0072】
この多層構造体から成るボトルの胴部層構成は以下の通りである。
保護樹脂層:80μm
接着層:15μm
酸素バリア性樹脂層:20μm
接着層:10μm
最外層:315μm
【0073】
<実験例3>
40mm押出機に保護樹脂層形成材料として、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE、MFR=0.3)と環状オレフィン系樹脂(COC)と中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)とが100/27/6.7(重量部)の割合からなる樹脂組成物とした以外は実験例1と同様に多層ボトルを作製し、前述の各種測定を行った。結果をまとめて表1に示す。また、保護樹脂層における相構造観察の結果を
図3に示す。
【0074】
この多層構造体から成るボトルの胴部層構成は以下の通りである。
保護樹脂層:85μm
接着層:15μm
酸素バリア性樹脂層:25μm
接着層:10μm
最外層:355μm
【0075】
<実験例4>
40mm押出機に保護樹脂層形成材料として、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE、MFR=0.3)と環状オレフィン系樹脂(COC)と中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)とが100/90/10(重量部)の割合からなる樹脂組成物とした以外は実験例1と同様に多層ボトルを作製し、前述の各種測定を行った。結果をまとめて表1に示す。
【0076】
この多層構造体から成るボトルの胴部層構成は以下の通りである。
保護樹脂層:100μm
接着層:10μm
酸素バリア性樹脂層:25μm
接着層:10μm
最外層:330μm
【0077】
<実験例5>
40mm押出機に保護樹脂層形成材料として、環状オレフィン系樹脂(COC)を使用せず、高圧法低密度ポリエチレン(LDPE、MFR=0.3)と中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)とが100/5.3(重量部)の割合からなる樹脂組成物とした以外は実験例1と同様に多層ボトルを作製し、前述の各種測定を行った。結果をまとめて表1に示す。また、保護樹脂層における相構造観察の結果を
図4に示す。
【0078】
この多層構造体から成るボトルの胴部層構成は以下の通りである。
保護樹脂層:70μm
接着層:20μm
酸素バリア性樹脂層:20μm
接着層:15μm
最外層:360μm
【0079】
【表1】
【0080】
表1の酸素バリア性測定の結果から、保護樹脂層を形成する樹脂として、環状オレフィン系樹脂(COC)を含まずに低密度ポリエチレン(LDPE)のみで多層構造体の保護樹脂層を形成させた実験例5に対し、LDPE100重量部に対し、COCを8.5乃至90重量部配合した樹脂組成物で保護樹脂層を形成させた実験例1から4においては、酸素バリア性を示す傾きの値が小さくなっており、酸素バリア性が向上していることが理解できる。
また、液層被覆率の測定および液層持続試験の結果から、実験例の多層構造体の層構成とすることで、安定的に液層を表面に形成し、長期にわたり維持させることが可能となることが分かる。さらに、純水の転落角測定の結果から、中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)を含む樹脂組成物により保護樹脂層を形成させた実験例1から5においては、それらの転落角が5度以下となっており、保護樹脂層上にMCTの液層が形成されていることも確認できる。
【0081】
内容物滑落速度測定の結果から、保護樹脂層を形成する樹脂組成物において、LDPE100重量部に対しCOCが0乃至27重量部配合させた場合においては、多層ボトル成形1日後、28日後において、滑落速度の値として、3mm/min以上の高い滑落性を示しており、一方、LDPE100重量部に対し、COCを90重量部配合させた場合では、その値が3mm/min未満と小さくなっており、滑落速度を大きくさせたい場合は、保護樹脂層を形成する樹脂組成物として、LDPE100重量部に対しCOCを90重量部未満にすることが有効であることが分かる。
【0082】
図2から4に示す保護樹脂層の相構造観察の結果から、LDPEにCOCを分散させた、
図2、3においては、保護樹脂層中にCOCが鱗片状に分散された相構造を形成していることが確認でき(COCは図の保護樹脂層中で黒く観察される)、COCの配合量が増える程、鱗片状に分散されたCOCの面積が増えていることが確認できる(さらに、そのアスペクト比は大きくなっている)。一方、COCを配合していない
図4においては、保護樹脂層中にCOCに由来する分散相は観測されず、LDPEの均質な相が形成させていることが確認できる。
これらのことから、保護樹脂層をLDPEにCOCを分散させた相構造とすることで、保護樹脂層によって多層構造体の水分バリア性が向上し、ボトルの酸素バリア性が向上したと解釈できる。