特許第6295888号(P6295888)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6295888非水電解質二次電池及び非水電解質二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6295888
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池及び非水電解質二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20180312BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20180312BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/058
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-170144(P2014-170144)
(22)【出願日】2014年8月25日
(65)【公開番号】特開2016-46125(P2016-46125A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2016年9月23日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】八田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】西江 勝志
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−077536(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質を備える非水電解質二次電池であって、
前記非水電解質は、下記一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物と、下記一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物とを含む、非水電解質二次電池。
【化1】

[一般式(1)中、Xは、ハロゲン元素を示す。一般式(1)中、Rは、独立して、ハロゲン元素又は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、該炭素数1〜10の炭化水素基は、ハロゲン元素で置換されてもよく、炭素−炭素多重結合を有してもよい。一般式(1)中、nは、0〜5の整数である。一般式(2)中、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素元素、ハロゲン元素又は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、該炭素数1〜10の炭化水素基は、ハロゲン元素で置換されてもよく、炭素−炭素多重結合を有してもよい。]
【請求項2】
前記一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物の含有量は、前記非水電解質に対して4.0質量%以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物の含有量は、前記非水電解質に対して8.0質量%以下である、請求項1又は請求項2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物は、下記一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環式化合物である、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【化2】

[一般式(3)中、Rは、水素元素、ハロゲン元素又は炭素数1〜3の炭化水素基を示し、該炭素数1〜3の炭化水素基は、ハロゲン元素で置換されてもよく、炭素−炭素多重結合を有してもよい。]
【請求項5】
前記一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物は、モノフルオロトルエンである、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物は、3−メチル−2−オキサゾリドンである、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物は、2−フルオロトルエンである、請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
注液口が設けられた電池ケースと、非水電解質を備える非水電解質二次電池の製造方法であって、
下記一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物と、下記一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物とを含む非水電解質を前記注液口から前記電池ケース内部に注液した後に、前記注液口を封口する、非水電解質二次電池の製造方法。
【化3】

[一般式(1)中、Xは、ハロゲン元素を示す。一般式(1)中、Rは、独立して、ハロゲン元素又は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、該炭素数1〜10の炭化水素基は、ハロゲン元素で置換されてもよく、炭素−炭素多重結合を有してもよい。一般式(1)中、nは、0〜5の整数である。一般式(2)中、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素元素、ハロゲン元素又は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、該炭素数1〜10の炭化水素基は、ハロゲン元素で置換されてもよく、炭素−炭素多重結合を有してもよい。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物を含む非水電解質を備える非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度が高く、携帯電話、ノート型パソコン電源等に多用されており、近年では電気自動車の電源に使用されている。
【0003】
通常、非水電解質二次電池は、正極集電箔の表面に正極活物質を含む正極合剤層が形成される正極板と、負極集電箔の表面に負極活物質を含む負極合剤層が形成される負極板とを、電気的に隔離するセパレータを介して対向させ、支持塩を非水溶媒に溶解した非水電解質を介して正極負極間でイオンの受け渡しをおこなうことにより充放電できるように設計されている。
【0004】
非水電解質二次電池は、通常使用電圧領域を超えないように制御されているが、何らかの原因によって電流が強制的に電池に供給されると、過充電状態になる場合がある。
【0005】
従来、非水電解質二次電池の過充電状態になった際の対策として、非水電解質に、過充電防止剤を添加することが知られている。過充電防止剤には、過充電状態で酸化重合することにより活物質表面に抵抗が高い被膜を形成させる化合物、又は、酸化還元反応によって自己放電を起こさせる化合物等が知られている。
【0006】
特許文献1には、過充電状態になると固体塩を生じる過充電防止剤(シュウ酸ジエチル)と、固体塩の生成を助長する化合物であるトリガー物質(ジベンゾフラン)とを含有したリチウム二次電池(実施例1及び実施例2)が記載されている。トリガー物質としては、ビフェニル化合物、シクロヘキシルベンゼン化合物、ジベンゾフラン化合物、ターフェニル化合物、ジフェニルエーテル化合物等の芳香族化合物;3−メチル−2−オキサゾリドン、3−エチル−2−オキサゾリドン、3−イソプロピル−2−オキサゾリドン、3−(tert−ブチル)−2−オキサゾリドン等の環状カーバメート化合物;カンフェン、ピネン、カンファー、ボルナン、フェンチャン、テトラエトキシメタン等の脂環式炭化水素及びオルトギ酸トリメチル等のオルトエステル等が例示されている(段落0013〜0018)。
【0007】
特許文献2には、分子量500以下の芳香族化合物であって、ハロゲン元素、又は置換基を有してもよい炭化水素基がベンゼン環に結合される化合物が、過充電防止剤として用いられることが記載されている(段落0010〜0012)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−063233号公報
【特許文献2】特開2004−063114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物を過充電防止剤として用いることができることを確認した。そして、本発明者らは、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物を含む非水電解質を備える非水電解質二次電池は、過充電状態において電池温度が上昇し、例えば、該電池に隣接する機器に悪影響を与え得ることを見出した。
【化1】
[一般式(1)中、Xは、ハロゲン元素を示す。一般式(1)中、Rは、独立して、ハロゲン元素又は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、該炭素数1〜10の炭化水素基は、ハロゲン元素で置換されてもよく、炭素−炭素多重結合を有してもよい。一般式(1)中、nは、0〜5の整数である。]
【0010】
本発明は、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物を含む非水電解質を備える非水電解質二次電池の過充電時における温度上昇を抑制させた非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の一態様は、非水電解質を備える非水電解質二次電池であって、前記非水電解質は、下記一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物と、下記一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物とを含む、非水電解質二次電池である。
【化2】
[一般式(1)中、Xは、ハロゲン元素を示す。一般式(1)中、Rは、独立して、ハロゲン元素又は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、該炭素数1〜10の炭化水素基は、ハロゲン元素で置換されてもよく、炭素−炭素多重結合を有してもよい。一般式(1)中、nは、0〜5の整数である。一般式(2)中、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素元素、ハロゲン元素又は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、該炭素数1〜10の炭化水素基は、ハロゲン元素で置換されてもよく、炭素−炭素多重結合を有してもよい。]
【0012】
このように、非水電解質中に、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物と、一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物とを共存させることにより、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物を含む非水電解質を備える非水電解質二次電池の過充電時における温度上昇を抑制させることができる。
【0013】
本発明の第二の一態様は、第一の一態様に係る非水電解質二次電池において、一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物の含有量は、非水電解質に対して4.0質量%以下である。
【0014】
本発明の第三の一態様は、第一又は第二の一態様に係る非水電解質二次電池において、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物の含有量は、非水電解質に対して8.0質量%以下である。
【0015】
本発明の第四の一態様は、第一乃至第三のいずれか1つの一態様に係る非水電解質二次電池において、一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物が、下記一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環式化合物である。
【化3】
[一般式(3)中、Rは、水素元素、ハロゲン元素又は炭素数1〜3の炭化水素基を示し、該炭素数1〜3の炭化水素基は、ハロゲン元素で置換されてもよく、炭素−炭素多重結合を有してもよい。]
【0016】
本発明の第五の一態様は、第一乃至第四のいずれか1つの一態様に係る非水電解質二次電池において、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物が、モノフルオロトルエンである。
【0017】
本発明の第六の一態様は、第一乃至第五のいずれか1つの一態様に係る非水電解質二次電池において、一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物が、3−メチル−2−オキサゾリドンである。
【0018】
このような構成によれば、一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物を3−メチル−2−オキサゾリドンにすることにより、より一層効果的に、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物を含む非水電解質を備える非水電解質二次電池の過充電時における温度上昇を抑制させることができる。
【0019】
本発明の第七の一態様は、第一乃至第六のいずれか1つの一態様に係る非水電解質二次電池において、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物は、2−フルオロトルエンである。
【0020】
このような構成によれば、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物を2−フルオロトルエンにすることにより、より一層効果的に、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物を含む非水電解質を備える非水電解質二次電池の過充電時における温度上昇を抑制させることができる。
【0021】
本発明の第八の一態様は、非水電解質を備える非水電解質二次電池の製造方法であって、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物と、一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物とを含む非水電解質を用いる、非水電解質二次電池の製造方法である。
【0022】
このような非水電解質二次電池の製造方法により、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物を含む非水電解質を備える非水電解質二次電池の過充電時における温度上昇を抑制させた非水電解質二次電池を製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物を含む非水電解質を備える非水電解質二次電池の過充電時における温度上昇を抑制させた非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態の非水電解質二次電池の概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の非水電解質二次電池は、非水電解質を備え、該非水電解質は、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物と、一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物とを含む。本発明の非水電解質二次電池は、該非水電解質以外に、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータとを備えていてもよい。以下、本発明の非水電解質二次電池に採用することができる部材について詳細に説明する。また、非水電解質には、非水溶媒が含まれていてもよい。
【0026】
[非水電解質]
本発明の非水電解質二次電池に用いられる非水電解質は、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物及び一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物以外に、非水溶媒が含まれていてもよい。非水電解質二次電池は、過充電時において、非水溶媒が正極−非水電解質界面で酸化分解され、その非水溶媒の酸化分解反応が比較的に大きな発熱を伴うことにより、温度上昇が起こると考えられる。そして、本発明者らは、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物が非水電解質に含まれることにより、非水電解質二次電池の過充電の進行が抑制されることを見出した。これは、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物が、正極−非水電解質界面で酸化分解されることによって、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物に由来する被膜が正極−非水電解質界面に形成され、該被膜により非水溶媒の酸化分解反応が抑制されるためであると考えられる。一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物が非水電解質に含まれることにより、非水電解質二次電池の過充電時に、比較的に大きな発熱を伴う非水溶媒の酸化分解反応が抑制され、非水電解質二次電池の温度上昇が抑制されると考えられるが、温度上昇をさらに抑制することが望まれる。そして、本発明者らは、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物が含まれる非水電解質に、さらに一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物を含ませることにより、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物を含む非水電解質を備える非水電解質二次電池の過充電時における温度上昇が抑制されることを見出した。これは、一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物は、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物と比較して、より早くに正極−非水電解質界面で酸化分解されると同時に適度に発熱することによって、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物の酸化分解反応が促進されるためであると考えられる。一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物の酸化分解反応が促進されるため、非水溶媒の酸化分解反応がより抑制され、非水電解質二次電池における発熱量が減少し、温度上昇が抑制されると考えられる。
【0027】
一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物は、一般式(1)で特定されることを限度に特に制限されない。また、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物としては、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、トリフルオロベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジブロモベンゼン、トリブロモベンゼン等のハロゲン化ベンゼン;モノフルオロトルエン、ジフルオロトルエン、トリフルオロトルエン、モノクロロトルエン、ジクロロトルエン、トリクロロトルエン、モノブロモトルエン、ジブロモトルエン、トリブロモトルエン等のハロゲン化トルエン;2−フルオロ−m−キシレン、4−クロロ−o−キシレン、2,3,5,6−テトラブロモ−p−キシレン等のハロゲン化キシレン等が挙げられる。
【0028】
一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物の中で、ハロゲン元素としてフッ素がベンゼン環骨格を形成する炭素元素に結合する化合物は、フッ素以外のハロゲン元素がベンゼン環骨格を形成する炭素元素に結合する化合物と比較して、酸化分解する電位が高く、電池の通常使用電圧領域において分解する恐れが低減するため、好ましい。
【0029】
一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物の中で、炭化水素基がベンゼン環骨格を形成する炭素元素に結合する化合物は、炭化水素基がベンゼン環骨格を形成する炭素元素に結合していない化合物と比較して、非水電解質二次電池の過充電の進行をより抑制させるため、好ましい。また、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物の中で、炭化水素基として炭素数1〜3の炭化水素基がベンゼン環骨格を形成する炭素元素に結合する化合物は、炭化水素基として炭素数4〜10の炭化水素基がベンゼン環骨格を形成する炭素元素に結合する化合物と比較して、非水電解質に含有された際、該非水電解質の粘度が低減するため、好ましい。
【0030】
一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物としては、好ましくは、モノフルオロトルエン、モノクロロトルエン、フルオロベンゼン、さらに好ましくは、モノフルオロトルエンが挙げられる。
【0031】
モノフルオロトルエンは、フッ素原子の結合部位については特に制限されず、オルト位(オルトフルオロトルエン(2−フルオロトルエン))、メタ位(メタフルオロトルエン(3−フルオロトルエン))、パラ位(パラフルオロトルエン(4−フルオロトルエン))のいずれであってもよく、またこれらの混合物であってもよい。これらの中でも、2−フルオロトルエン及び3−フルオロトルエンは、4−フルオロトルエンと比較して、反応開始電位が高く、通常使用電圧領域において、酸化分解される恐れが低減でき、好ましい。
【0032】
本発明の非水電解質における一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物の含有量は特に制限されないが、過充電の進行をより抑制させる観点から、非水電解質に対して0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらにより好ましくは1.0質量%以上であることが望ましい。また、非水電解質のイオン伝導度を良好に保つ観点から、本発明の非水電解質における一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物の含有量は、非水電解質に対して20.0質量%以下、好ましくは15.0質量%以下、より好ましくは8.0質量%以下、さらにより好ましくは5.0質量%以下であることが望ましい。
【0033】
本発明で使用される含窒素ヘテロ環式化合物は、下記一般式(2)で表される化合物である。
【化4】
【0034】
一般式(2)中、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素元素、ハロゲン元素又は炭素数1〜10の炭化水素基を示し、該炭素数1〜10の炭化水素基は、ハロゲン元素で置換されてもよく、炭素−炭素多重結合を有してもよい。
【0035】
一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物は、一般式(2)で特定されることを限度に特に制限されない。また、一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環式化合物は、一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物においてR、R、R又はRが水素元素ではない化合物と比較して、非水電解質に含有された際、該非水電解質の粘度が低減するため、好ましい。
【化5】
【0037】
一般式(3)中、Rは、水素元素、ハロゲン元素又は炭素数1〜3の炭化水素基を示し、該炭素数1〜3の炭化水素基は、ハロゲン元素で置換されてもよく、炭素−炭素多重結合を有してもよい。
【0038】
一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環式化合物としては、具体的には、3−メチル−2−オキサゾリドン[一般式(3)中、Rはメチル基]、3−エチル−2−オキサゾリドン[一般式(3)中、Rはエチル基]、3−ノルマルプロピル−2−オキサゾリドン[一般式(3)中、Rはノルマルプロピル基]、3−イソプロピル−2−オキサゾリドン[一般式(3)中、Rはイソプロピル基]、3−ビニル−2−オキサゾリドン[一般式(3)中、Rはビニル基]、3−エチニル−2−オキサゾリドン[一般式(3)中、Rはエチニル基]、3−((1E)prop−1−enyl)−1,3−oxazolidin−2−one[一般式(3)中、RはCH=CH−CH−基]、3−アリル−2−オキサゾリドン[一般式(3)中、Rはアリル基]、3−prop−1−ynyl−1,3−oxazolidin−2−one[一般式(3)中、RはCH≡C−CH2−基]、3−プロパギル−2−オキサゾリドン[一般式(3)中、Rはプロパギル基]等が挙げられる。これらの一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環式化合物の中でも、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物を含む非水電解質を備える非水電解質二次電池の過充電時における温度上昇を抑制する効果を、より一層効果的に向上させるという観点から、3−メチル−2−オキサゾリドンが好ましい。
【0039】
これらの一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環式化合物は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
本発明の非水電解質における一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物の含有量は特に制限されないが、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物を含む非水電解質を備える非水電解質二次電池の過充電時における温度上昇を抑制する効果を向上させる観点から、非水電解質に対して0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらにより好ましくは1.0質量%以上であることが望ましい。また、電池の低温環境下における出力特性を良好に保つ観点から、本発明における一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物の含有量は、非水電解質に対して10.0質量%以下、好ましくは8.0質量%以下、より好ましくは6.0質量%以下、さらにより好ましくは4.0質量%以下であることが望ましい。
【0041】
非水電解質には、支持塩が含まれていてもよい。非水電解質に使用される支持塩としては、特に制限されるものではなく、一般に非水電解質電池に使用される電圧領域において安定であるリチウム塩が使用できる。該支持塩として、例えば、LiBF、LiPF、LiClO、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiB(C、LiC(CSO等が挙げられる。これらの支持塩は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。非水電解質における支持塩の含有量については、特に制限されず、使用する支持塩の種類や非水溶媒種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0.1〜5.0mol/L、好ましくは0.8〜2.0mol/Lが挙げられる。
【0042】
非水電解質に使用される非水溶媒としては、特に制限されるものではなく、一般に非水電解質の非水溶媒として使用される有機溶媒が使用できる。該非水溶媒として、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等が挙げられる。これらの非水溶媒は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
非水電解質には、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物及び一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物以外に、支持塩及び非水溶媒が含まれてもよく、さらに、必要に応じて、負極被膜形成剤、正極保護剤等の添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、プロパンスルトン等が挙げられる。これらの添加剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、非水電解質におけるこれらの添加剤の含有量については、特に制限されず、添加剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば5質量%以下、好ましくは0.01〜5質量%、更に好ましくは0.5〜5質量%が挙げられる。
【0044】
[正極]
本発明の非水電解質二次電池は、正極を備えていてもよく、該正極には、正極集電箔上に正極合剤層が形成された正極板を用いることができる。
【0045】
正極合剤層には、正極活物質が含まれていてもよい。正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出できることを限度として、特に制限されず、無機化合物であってもよく、また有機化合物であってもよい。正極活物質として使用される無機化合物として、具体的には、LiMn等で表されるスピネル型リチウムマンガン酸化物;LiNi1.5Mn05等で表されるスピネル型リチウムニッケルマンガン酸化物等に代表されるスピネル型結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物;LiCoO、LiNiO、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3、LiCo2/3Ni1/6Mn1/6等に代表されるα−NaFeO構造を有するLiMeO型(Meは遷移金属)リチウム遷移金属複合酸化物;LiFePO、LiFe1−yMnPO、LiCoPO、Li(PO、Fe(SO等に代表されるポリアニオン型化合物等が挙げられる。また、正極活物質として使用される有機化合物として、具体的には、ポリアニリン、ポリピロール等の導電性ポリマー材料;ジスルフィド系ポリマー材料;硫黄(S);硫化鉄(FeS)等の硫化物等が挙げられる。これらの正極活物質は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
また、正極合剤層には、前記正極活物質の他に、必要に応じて、導電助剤、結着剤、フィラー等の添加剤が含まれていてもよい。
【0047】
導電助剤としては、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(アルミニウム等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料が挙げられる。これらの導電剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0048】
結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル、フッ素ゴム等が挙げられる。これらの結着剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、結着剤としてスチレン−ブタジエンゴムを使用する場合、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を添加することが好ましい。
【0049】
正極に使用される正極集電箔としては、特に制限されないが、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、及びこれらの金属を含む合金等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素質材料等が挙げられる。これらの中でも、アルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。
【0050】
本発明に用いることができる正極は、例えば、正極集電箔上に所定の形状となるように正極合剤を塗工して乾燥し、ロールプレス等で正極合剤層の密度及び厚みを調整することにより製造することができる。塗布、乾燥等の方法や条件については周知のものを採用すればよい。
【0051】
[負極]
本発明の非水電解質二次電池は、負極を備えていてもよく、当該負極には、負極集電箔上に負極合剤層が形成された負極板を用いることができる。
【0052】
負極合剤層には、負極活物質が含まれていてもよい。負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出できることを限度として、特に制限されない。負極活物質として、具体的には、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)等の非晶質炭素;鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛;人造黒鉛;Al、Si、Pb、Sn、Zn、Cd等の金属とリチウムとの合金;酸化タングステン;酸化モリブデン;硫化鉄;硫化チタン;チタン酸リチウム等が挙げられる。これらの負極活物質は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
また、負極合剤層には、前記負極活物質の他に、必要に応じて、導電助剤、結着剤、フィラー等の添加剤が含まれていてもよい。これらの添加剤の種類については、正極合剤層に配合されるものと同様である。
【0054】
負極に使用される負極集電箔としては、特に制限されないが、例えば、銅、銅合金、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、クロムメッキ鋼等の金属材料が挙げられる。これらの中でも、加工し易さとコストの点から、銅及び銅合金が好ましい。
【0055】
本発明に用いることができる負極は、例えば、負極集電箔上に所定の形状となるように負極合剤を塗工して乾燥し、ロールプレス等で負極合剤層の密度及び厚みを調整することにより製造することができる。塗布、乾燥等の方法や条件については周知のものを採用すればよい。
【0056】
[セパレータ]
本発明の非水電解質二次電池は、セパレータを備えていてもよく、該セパレータとしては、絶縁性を備えるものであることを限度として特に制限されず、微多孔性膜や不織布等を用いることができる。セパレータを構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂が挙げられる。これらの材料は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
[他の構成部材]
また、その他の電池の構成部材としては、端子、絶縁板、電池ケース等があるが、本発明の非水電解質二次電池において、これらの構成要素は従来用いられているものをそのまま用いても差し支えない。
【0058】
[非水電解質二次電池の構成]
本発明の非水電解質二次電池の構成については、特に制限されず、例えば、正極、負極及びセパレータを有する円筒型電池、角型電池、扁平型電池等が挙げられる。
【0059】
[製造方法]
本発明の非水電解質二次電池は、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物と、一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物とを含む非水電解質を用いることにより製造される。また、本発明の非水電解質二次電池は、非水電解質以外に、例えば、正極、負極、及びセパレータを用いて製造することもできる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。
【0061】
本実施例の非水電解質二次電池の概略断面図を図1に示す。
この非水電解質二次電池1は、アルミニウム集電箔に正極合剤を塗布してなる正極3と、銅集電箔に負極合剤を塗布してなる負極4とがセパレータ5を介して巻回された発電要素2と、非水電解質とを電池ケース6に収納してなり、寸法が幅34mm、高さ48mm、厚さ5.0mmの電池である。
【0062】
電池ケース6には、安全弁8を設けた電池蓋7がレーザー溶接により取り付けられ、負極端子9は負極リード11を介して負極4と接続され、正極3は正極リード10を介して電池蓋と接続されている。
【0063】
図1に示す非水電解質二次電池を以下により製造した。
1.実施例1の非水電解質二次電池の作製
(1)正極板の製造
正極活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3、導電助剤としてアセチレンブラック及び結着剤としてポリフッ化ビニリデンを用い、正極活物質、導電助剤及び結着剤の比率をそれぞれ90質量%、5質量%及び5質量%とした混合物にNMP(N−メチル−2−ピロリドン)を適量加えて粘度を調整し、ペースト状の正極合剤を作製した。この正極合剤を厚み20μmのアルミニウム箔の両面に塗布して乾燥させることにより正極板を作製した。正極板には正極合剤が塗布されていないアルミニウム箔が露出した部位を設け、アルミニウム箔が露出した部位と正極リードとを接合した。
【0064】
(2)負極板の製造
負極活物質としてグラファイト(黒鉛)、結着剤としてスチレン−ブタジエンゴム(SBR)及び増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)用い、負極活物質、結着剤及び増粘剤をそれぞれ95質量%、3質量%及び2質量%とした混合物に水を適量加えて粘度を調整し、ペースト状の負極合剤を作製した。この負極合剤を厚み10μmの銅箔の両面に塗布して乾燥させることにより負極板を作製した。負極板には負極合剤が塗布されていない銅箔が露出した部位を設け、銅箔が露出した部位と負極板リードとを接合した。
【0065】
(3)未注液二次電池の作製
上記の要領で作製した正極板と負極板との間にポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータを介在させて、正極板と負極板とを巻回することにより発電要素を作製した。発電要素を電池ケースの開口部から電池ケース内に収納して、正極板リードを電池蓋に接合し、負極板リードを負極端子に接合した後に、電池蓋を電池ケースの開口部に勘合させてレーザー溶接で電池ケースと電池蓋とを接合することにより非水電解質が電池ケース内に注液されていない未注液状態の二次電池を作製した。
【0066】
(4)非水電解質の調製及び注液
エチレンカーボネート(EC):エチルメチルカーボネート(EMC)=30:70(体積比)の混合溶媒にLiPFを1mol/Lの濃度で溶解させ、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物である2−フルオロトルエン(オルトフルオロトルエン)及び一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物である3−メチル−2−オキサゾリドンをそれぞれ非水電解質に対して、5.0質量%及び4.0質量%添加することにより、非水電解質を調整した。この非水電解質を電池ケースの側面に設けた注液口から電池ケース内部に注液した後に、注液口を栓で封口することで公称容量が850mAhである実施例1の非水電解質二次電池(以下、単に「電池」と記載することがある)を作製した。
【0067】
2.実施例4の非水電解質二次電池の作製
実施例1において、非水電解質に対して5.0質量%の2−フルオロトルエンを添加する代わりに、非水電解質に対してそれぞれ3.0質量%の2−フルオロトルエン及び2.0質量%の3−フルオロトルエンを添加したこと以外は、実施例1の電池と同じ方法にて実施例4の電池を作製した。
【0068】
3.実施例2、実施例3、実施例5、実施例6及び比較例1〜比較例3の非水電解二次電池の作製
一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物、及び、一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物又はその他の化合物を、表1に示すように変更して添加したこと以外は、実施例1の電池と同じ方法にて実施例2、実施例3、実施例5、実施例6及び比較例1〜比較例3の電池を作製した。
【0069】
4.評価試験
(1)過充電試験
実施例1〜実施例6及び比較例1〜比較例3の各電池を用いて、以下の方法により初期放電容量確認試験をおこなった。各電池を、25℃において850mA定電流で4.2Vまで、さらに4.2V定電圧で、合計3時間充電した後、850mA定電流で終止電圧2.5Vの条件で放電をおこなうことにより初期放電容量を測定した。
【0070】
初期放電容量測定後の各電池について、25℃での過充電試験を以下の方法によりおこなった。初期放電容量測定後の各電池を、25℃において850mA定電流で4.2Vまで、さらに4.2V定電圧で合計3時間充電して、電池を満充電状態とした。その後、25℃において850mA定電流で1時間充電(過充電)をおこない、その直後の電池ケースの最も面積の大きい側面部分の中心付近の表面温度を測定し、この値を電池表面温度とした。電池を満充電にし、850mA定電流で1時間充電(過充電)をおこなった際の各電池のSOC(State of Charge)は、200%となる。
【0071】
以上のようにして測定した各電池(実施例1〜実施例6及び比較例1〜比較例3)の過充電試験結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
5.考察
一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物であるモノフルオロトルエン、及び、一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物である一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環式化合物が、非水電解質に含有される電池は、電池表面温度が80℃未満になった。一方、非水電解質にモノフルオロトルエンが含有され、非水電解質に一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物が含有されない電池(比較例1)は、電池表面温度が84.4℃になった。これらから、モノフルオロトルエン及び一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環式化合物が含有される電池は、モノフルオロトルエンが単独で含有される電池と比較して、過充電時における電池表面温度が低下することがわかった。
実施例1〜実施例6の電池は、一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環式化合物が非水電解質に含まれることにより、モノフルオロトルエンが、非水溶媒の酸化分解反応を抑制することが促進され、その非水溶媒の酸化分解反応に伴う発熱が減少し、過充電時における電池温度が低下したと考えられる。従って、モノフルオロトルエンと、一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環式化合物とを共存させることにより、モノフルオロトルエンを含む非水電解質を備える非水電解質二次電池の過充電時における温度上昇が抑制されることがわかった。
【0074】
非水電解質に一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物であるモノフルオロトルエン(2−フルオロトルエン)及び2−フルオロビフェニルが含有される電池(比較例2)は、電池表面温度が86.0℃になった。即ち、2−フルオロトルエンを5.0質量%及び3−メチル−2−オキサゾリドンを2.0質量%添加された電池(実施例5)は、2−フルオロトルエンを5.0質量%及び2−フルオロビフェニルを2.0質量%添加された電池(比較例2)と比較して、電池表面温度が低下することがわかった。これらから、モノフルオロトルエンを含む非水電解質を備える非水電解質二次電池の過充電時の温度上昇を抑制させる化合物として、一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環式化合物は、例えば2−フルオロビフェニルと比較して、より有効であることがわかった。
【0075】
実施例1、実施例2及び実施例3から、一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環式化合物である3−メチル−2−オキサゾリドン、3−ノルマルプロピル−2−オキサゾリドン及び3−アリル−2−オキサゾリドンの中でも、3−メチル−2−オキサゾリドンを用いた実施例1の電池表面温度が最も低くなることがわかった。これらから、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物であるモノフルオロトルエンを含む非水電解質を備える非水電解質二次電池の過充電時における温度上昇を抑制させるには、一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環式化合物の中でも3−メチル−2−オキサゾリドンを用いることが好ましいことがわかった。
【0076】
一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物として、モノフルオロトルエンである2−フルオロトルエンが含まれる電池(実施例1)は、モノフルオロトルエンである2−フルオロトルエン及び3−フルオロトルエンが含まれる電池(実施例4)と比較して、電池表面温度が低くなることがわかった。これらから、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物であるモノフルオロトルエンの中でも、モノフルオロトルエンを含む非水電解質を備える非水電解質二次電池の過充電時における温度上昇を抑制させるには、2−フルオロトルエンを用いることが好ましいことがわかった。
【0077】
本明細書においては、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物としてモノフルオロトルエンを用いた実施例を開示している。一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物は、非水電解質に含有されることにより、モノフルオロトルエンと同様の機構に基づいて、非水電解質二次電池の過充電の進行を抑制すると考えられる。また、本明細書においては、一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物として一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環式化合物を用いた実施例を開示している。一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環式化合物は、一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物と同様に、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物と比較して、より早くに正極−非水電解質界面で酸化分解されると同時に適度な発熱を伴い、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物の酸化分解反応を促進させると考えられる。
以上から、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物及び一般式(2)で表される含窒素ヘテロ環式化合物が非水電解質に含まれる非水電解質二次電池は、モノフルオロトルエン及び一般式(3)で表される含窒素ヘテロ環式化合物が非水電解質に含まれる場合と同様に、過充電時における温度上昇が抑制されると考えられる。
【0078】
本明細書において開示された実施形態及びそれを具体化した実施例は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、上述した実施形態及び実施例に基づき、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。従って、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【0079】
例えば、正極や負極等は、非水電解質二次電池に求められる性能等に応じて、適宜選択することができる。
【0080】
また例えば、非水電解質二次電池の形状に関しては、角型に限定されることなく、円筒型やラミネート型の非水電解質二次電池とすることができる。また、本発明は、該非水電解質二次電池を複数備える蓄電装置を実現することができる。該蓄電装置は複数の蓄電ユニットを備えており、該蓄電ユニットは複数の非水電解質二次電池を備える。該蓄電装置は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として用いる場合には、複数の電池を有するバッテリーモジュール(組電池)として搭載することができる。
【0081】
また例えば、電気伝導の役割を担う主体は、リチウムイオンに限定されることなく、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属の陽イオン;カルシウム、バリウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の陽イオン;及びアルミニウム、銀、亜鉛等の他の金属の陽イオンを用いることができる。即ち、他のアルカリ金属イオン二次電池等とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、一般式(1)で表されるハロゲン化芳香族化合物を含む非水電解質を用いた非水電解質二次電池又は非水電解質二次電池の製造方法に関するものであり、過充電時に温度上昇を抑制でき、隣接機器への影響が軽減されるものであるから、電気自動車用電源、電子機器用電源、電力貯蔵用電源等に有効に利用できる。
【符号の説明】
【0083】
1…非水電解質二次電池
2…発電要素
3…正極板(正極)
4…負極板(負極)
5…セパレータ
6…電池ケース
7…電池蓋
8…安全弁
9…負極端子
10…正極リード
11…負極リード
図1