(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記繊維強化プラスチック成形体用シートを前記(a)及び(b)の条件で加熱加圧成形して得られる厚さ1mmの繊維強化プラスチック成形体においては、第1方向の曲げ強度と、前記第1方向に直交する第2方向の曲げ強度の強度比が3以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の繊維強化プラスチック成形体用シート。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0015】
(繊維強化プラスチック成形体用シート)
本発明は、強化繊維と、難燃剤を含む熱可塑性樹脂を含有する繊維強化プラスチック成形体用シートに関する。本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートを下記(a)及び(b)の条件で加熱加圧成形した場合、得られる厚さ1mmの繊維強化プラスチック成形体においては、強化繊維のうち大半の強化繊維が、繊維強化プラスチック成形体の中心面とほぼ平行に存在している。
(a)プレス圧を10MPa、プレス速度を3.5cm/secで加圧する。
(b)繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度(g/cm
3)をPとし、繊維強化プラスチック成形体用シートを、上記(a)の条件で加圧しつつ、加熱した際に得られる繊維強化プラスチック成形体のかさ密度(g/cm
3)をQとした場合に、Q/P≧0.7となるように加熱する。
【0016】
なお、「大半の強化繊維」とは、強化繊維の全本数のうち80%以上の強化繊維のことを意味する。また、「繊維強化プラスチック成形体の中心面とほぼ平行」とは、繊維強化プラスチック成形体の中心面と強化繊維がなす角が±20°以内に配向することを意味する。すなわち、上記条件(a)及び(b)で加熱加圧成形して得た厚さ1mmの繊維強化プラスチック成形体においては、強化繊維の全本数のうち80%以上が、繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内となるように配向していることを特徴とする。
【0017】
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートは、繊維強化プラスチック成形体において、強化繊維の全本数のうち80%以上が、繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内となるように配向させ得るものである。本発明では、強化繊維の全本数のうち好ましくは85%以上が、より好ましくは90%以上が、繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内となるように配向している。すなわち、強化繊維の大部分は、繊維強化プラスチック成形体の中心面と平行に存在している。このため、繊維強化プラスチック成形体の中心面やそれに平行な面上では、強化繊維の密度が高くなり、優れた曲げ強度が得られる。さらに、上記のような繊維配向とすることで、繊維強化プラスチック成形体が炎にさらされた場合であっても、熱可塑性樹脂由来の滴下物の発生を抑制することができる。
【0018】
ここで、繊維強化プラスチック成形体の中心面とは、繊維強化プラスチック成形体の第1の表面の平均面と第2の表面の平均面の中点を結んで形成される平面を中心面という。なお、第1の表面の平均面と第2の表面の平均面の中点とは、第1の表面の平均面上の特定点から第2の表面の平均面の最短距離の中点のことをいう。また、各表面の平均面とは、表面に凹凸形状がある場合は凹部と凸部の高さの平均の高さを通る面をいい、表面に凹凸形状がない場合は、各平均面は各表面のことをいう。なお、
図3(b)において、第1の表面の平均面はSで、第2の表面の平均面はTで、中心面はUで表されている面である。
【0019】
図1は、従来の繊維強化プラスチック成形体30の表面に平行な面における強化繊維の配向を示した図である。
図1に示されているように、従来の繊維強化プラスチック成形体30においては、繊維強化プラスチック成形体30の表面に平行な方向に配向している強化繊維20と、繊維強化プラスチック成形体30の表面に垂直な方向に配向している強化繊維20'が存在している。その他にも、繊維強化プラスチック成形体30の表面と角度を有する強化繊維も多数存在している。
【0020】
図1(a)に示されているように、従来の繊維強化プラスチック成形体30に炎50を接炎させた場合、
図1(b)に示されているように、従来の繊維強化プラスチック成形体30から溶解した熱可塑性樹脂の滴60が滴下する。なお、このような燃焼時のプラスチック成形体の滴下状況は、UL94燃焼性試験 20mm垂直燃焼試験を行うことで評価することができる。
従来の繊維強化プラスチック成形体30では、表面に垂直な方向に配向している強化繊維が多く表面に平行な面上の強化繊維の密度が低くなる。また、垂直な方向に配向している強化繊維20’が、繊維強化プラスチック成形体30の表面に平行に配向している強化繊維20の間に入り込むことで強化繊維間の距離が広くなっている。このため、溶けた熱可塑性樹脂が触れる強化繊維の本数が少なくなり、溶けた熱可塑性樹脂の表面張力が十分に働かず、溶解した熱可塑性樹脂の滴60が滴下する。
【0021】
図2は、本発明の一実施形態の繊維強化プラスチック成形体10の表面に平行な断面における強化繊維の配向を示した図である。
図2に示されているように、本発明の繊維強化プラスチック成形体10においては、大半の強化繊維20が繊維強化プラスチック成形体10の表面に平行な方向に配向している。
【0022】
図2(a)に示されているように、本発明の繊維強化プラスチック成形体10に炎50を接炎させた場合であっても、
図2(b)に示されているように、本発明の繊維強化プラスチック成形体10からは溶融した熱可塑性樹脂の滴60が滴下しにくい。
本発明の繊維強化プラスチック成形体10では、表面に垂直な方向に配向している強化繊維が少なく表面に平行な面上の強化繊維の密度が高くなる。また、表面に平行な方向に配向している強化繊維20が隙間なく並び、強化繊維間の距離が短くなっている。このため、溶けた熱可塑性樹脂が触れる強化繊維の本数が増え、熱可塑性樹脂の表面張力が働き、溶けた熱可塑性樹脂の滴60が滴下するのを抑えることができる。これにより、不滴下性が向上し、難燃性が高められている。
【0023】
上述したように、本発明の繊維強化プラスチック成形体においては、難燃性と不滴下性が向上しているため、難燃剤の添加量を減らすことができ、従来のように多量の難燃剤を添加する必要がなくなる。その結果、熱可塑性樹脂の溶融時の粘度の上昇を抑制できるため、加工成形が容易となり、熱可塑性樹脂の本来持つ特性も維持した繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
【0024】
強化繊維は、繊維強化プラスチック成形体の中心面と平行であって、かつ一方向に配向していることが好ましい。強化繊維は、繊維強化プラスチック成形体のいずれの方向に配向していてもよいが、繊維強化プラスチック成形体のMD方向(抄紙ラインの流れ方向)に配向していることが好ましい。すなわち、本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートを特定条件で成形して得られた繊維強化プラスチック成形体においては、強化繊維は、中心面と平行であって、かつMD方向(抄紙ラインの流れ方向)に配向していることが好ましい。
【0025】
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートを上記(a)及び(b)の条件で成形した繊維強化プラスチック成形体では、繊維強化プラスチック成形体の第1方向の曲げ強度と、第1方向に直交する第2方向の曲げ強度の強度比は3以上であることが好ましい。また、強度比は4以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。なお、第1方向とは、繊維強化プラスチック成形体における強化繊維の配向方向をいい、第2方向とは、強化繊維の配向方向に直交する方向をいう。繊維強化プラスチック成形体の強度比を上記範囲とすることにより、特定の方向に強度が高められた繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。このような繊維強化プラスチック成形体は、自動車や航空機等に用いられる一方向に機械的強度が要求される構造部品に好ましく用いられる。
【0026】
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートにおいて、強化繊維の配合割合は、20〜83質量%であることが好ましい。強化繊維の配合割合を上記範囲内とすることにより特定方向に配向した繊維の本数を増やすことが可能となる。これにより、強化繊維間の距離が短くなり、加熱加圧成形後の強化繊維の充填密度が高くなり、繊維強化プラスチック成形体の強度を効果的に高めることができる。
【0027】
また、強化繊維と熱可塑性樹脂の質量比は1:0.2〜1:10であることが好ましく、1:0.5〜1:5であることがより好ましく、1:0.7〜1:3であることがさらに好ましい。強化繊維と熱可塑性樹脂の質量比を上記範囲内とすることにより、軽量であり、かつ高強度の繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
【0028】
繊維強化プラスチック成形体用シートのJAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.5−2に規定される透気度は、250秒以下であることが好ましく、230秒以下であることがより好ましく、200秒以下であることがさらに好ましい。この数値は、数字が小さいほど空気が通りやすい(通気性が良い)ことを表す。本発明では、繊維強化プラスチック成形体用シートの透気度を上記範囲内とすることにより、加熱加圧工程における成形速度を高めることができ、生産効率を高めることができる。
【0029】
(強化繊維)
強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維及びアラミド繊維から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、炭素繊維であることがより好ましい。これらの強化繊維は、1種のみを使用してもよく、複数種を使用してもよい。また、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維等の耐熱性に優れた有機繊維を含有していてもよい。
【0030】
強化繊維として、例えば、炭素繊維やガラス繊維等の無機繊維を使用した場合、繊維強化プラスチック成形体用シートに含まれる熱可塑性樹脂の溶融温度で加熱加圧処理することにより繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。また、強化繊維として、アラミド等の有機繊維を用いた場合は、一般的に強化繊維として無機繊維を使用した繊維強化プラスチック成形体用シートから形成される成形体よりも耐摩耗性を向上させ得る。
【0031】
強化繊維の繊維長は、重量平均繊維長として3〜100mmであることが好ましく、3〜75mmであることがより好ましく、3〜50mmであることがさらに好ましく、6〜50mmであることが特に好ましい。強化繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用シートから強化繊維が脱落することを抑制することができ、かつ、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。また、強化繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、強化繊維の分散性を良好にすることができる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
なお、本明細書において、重量平均繊維長は、100本の繊維について測定した繊維長の平均値である。
【0032】
なお、強化繊維の繊維径は、平均繊維径として特に限定されないが、一般的には炭素繊維、ガラス繊維共に繊維径が5〜25μm程度の繊維が好適に使用される。また、強化繊維は、複数の素材や形状を併用してもよい。
なお、本明細書において、平均繊維径は、100本の繊維の繊維径を測定した繊維径の平均値である。
【0033】
(炭素繊維)
強化繊維としては炭素繊維を用いることが好ましい。強化繊維に含まれる炭素繊維としては、ポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系等の炭素繊維を用いることができる。これらの炭素繊維は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせ用いてもよい。また、これら炭素繊維の中でも、工業規模における生産性及び機械特性の観点から、ポリアクリロニトリル(PAN)系の炭素繊維を用いることが好ましい。
【0034】
炭素繊維の繊維長は重量平均繊維長として、3〜100mmであることが好ましく、3〜75mmであることがより好ましく、3〜50mmであることがさらに好ましく、6〜50mmであることが特に好ましい。炭素繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用シートから炭素繊維が脱落することを抑制することができ、かつ、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を成形することが可能となる。また、炭素繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、強化繊維の分散性を良好にすることができる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
【0035】
炭素繊維の単繊維強度は、4500MPa以上であることが好ましく、4700MPa以上であることがより好ましい。単繊維強度とは、モノフィラメントの引っ張り強度をいう。このような炭素繊維を使用した場合、前述した強化繊維の繊維配向の効果との相乗効果で曲げ強度が大幅に向上する。なお、単繊維強度は、JIS R7601「炭素繊維試験方法」に準じて測定することができる。
【0036】
炭素繊維の繊維径は特に限定されないが、概ね好ましい範囲としては5〜20μmが好ましい。炭素繊維の繊維径を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体の強度を高めることができる。
【0037】
(強化繊維の配向性)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートは、以上のような強化繊維を含むものである。また、繊維強化プラスチック成形体用シートを条件(a)及び(b)で加熱加圧成形した繊維強化プラスチック成形体中において、強化繊維の全本数のうち80%以上が、繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内となるように存在する。条件(a)及び(b)は以下の通りである。
(a)プレス圧を10MPa、プレス速度を3.5cm/secで加圧する。
(b)繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度(g/cm
3)をPとし、繊維強化プラスチック成形体用シートを、上記(a)の条件で加圧しつつ、加熱した際に得られる繊維強化プラスチック成形体のかさ密度(g/cm
3)をQとした場合に、Q/P≧0.7となるように加熱する。
【0038】
条件(a)は、加圧条件を規定したものであり、プレス圧を10MPa、プレス速度を3.5cm/secとする加圧条件である。プレス時間は、特に制限はないが、繊維強化プラスチック成形体用シートを(a)及び(b)の条件で加熱加圧して、プレス機が止まるまでプレスする。そして、設定温度に上昇した後、5分間保持し、所定の温度まで冷却する。
【0039】
条件(a)では、プレス速度を3.5cm/secとする。プレス速度は、3.5±0.5cm/secの範囲内であれば、プレス速度を3.5cm/secでプレスした場合と同様の加圧条件となる。本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートはもともと厚み方向の強化繊維の配向が少ないため、比較的高速なプレス速度で加圧しても、成形体における厚み方向の強化繊維の配向が少なくなる。プレス速度を3.5cm/secとすることで、繊維強化プラスチック成形体における強化繊維の繊維配向を適切に評価することが可能となる。
【0040】
条件(b)は、加熱条件を規定したものであり、繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度(g/cm
3)をPとし、繊維強化プラスチック成形体用シートを、上記(a)の条件で加圧しつつ、加熱した際に得られる繊維強化プラスチック成形体のかさ密度(g/cm
3)をQとした場合に、Q/P≧0.7となるように加熱する条件である。
【0041】
繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度(g/cm
3)であるPは、空隙を含まない固体そのものの密度であり、理論密度と言われるものである。また、繊維強化プラスチック成形体のかさ密度(g/cm
3)であるQは、通気性及び非通気性の双方を含む、プラスチック成形体の単位体積あたりの質量をいい、繊維強化プラスチック成形体用シートの質量を外観容積で除すことにより算出することができる。
【0042】
繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度は、不織布を構成する繊維そのものの真密度と、その質量比から求めることができる。具体的には、繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度は、下記計算式で算出することができる。
繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度=(強化繊維の真密度×質量比)+(熱可塑性樹脂の真密度×質量比)+(バインダーの真密度×質量比)
【0043】
また、繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度は、上記方法以外に、ピクノメーター法(液相置換法)や気相置換法を用いて求めてもよい。
ピクノメーター法(液相置換法)はJIS R 1620「ファインセラミックス粉末の粒子密度測定方法」に準拠した方法で、エタノール水溶液、ブタノール等の液に繊維強化プラスチック成形体用シートを漬け、アルキメデスの原理で、体積を測定する方法である。繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度は、繊維強化プラスチック成形体用シートの重さを上記の方法で測定した体積で除すことによって算出することができる。
また、気相置換法は、JIS R 1620「ファインセラミックス粉末の粒子密度測定方法」に準拠した方法で、ヘリウムガス等で置換して、体積を測定する方法である。繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度は、繊維強化プラスチック成形体用シートの重さを上記の方法で測定した体積で除すことによって算出することができる。
【0044】
繊維強化プラスチック成形体のかさ密度は、以下の手順で求めることができる。
(1)繊維強化プラスチック成形体用シートの目付けが、以下の通りとなるように重ねる。目付け(g/m
2)=真密度(g/cm
3)×1(mm)×1000
(2)(1)の繊維強化プラスチック成形体用シートの積層物を所定の厚さとなるように加熱加圧成形し、得られた成形体を10〜15cm×10〜15cm程度になるように切り出す。
(3)得られた成形体の縦(cm)と横(cm)をノギスで測定する。また、厚さをマイクロメーターで四辺端部と中央部の合計5点を測定し、厚さの平均値(μm)を求める。
(4)成形体の質量を0.1g単位で測定する。
(5)得られたデータより、下記式にてかさ密度を求める
かさ密度(g/cm
3)=成形体質量(g)÷(成形体長さ(cm)×成形体幅(cm)×厚さ(μm)×10
-4)
【0045】
繊維強化プラスチック成形体用シートから繊維強化プラスチック成形体を加熱加圧成形する際には、上述した工程条件(a)及び(b)を同時に行う。具体的には、(a)の加圧条件と(b)の加熱条件を満たすように、同時に加熱加圧処理を行う。加熱加圧処理は、繊維強化プラスチック成形体用シートの各表面と平行になるようにステンレス板を配置し、熱プレスを行う処理である。ここで、使用するステンレス板は、JIS G4305「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」の表15#400の表面仕上げを行った厚さ2mmのステンレス板である。また、熱プレス時には、スペーサー板(1mm厚板)を両端に挟むことが好ましい。これにより、厚さが1mmの繊維強化プラスチック成形体を成形することができる。
また、上述した加熱加圧処理を行う際には、事前に熱プレス機を40℃に加熱しておくことが好ましい。
【0046】
加熱加圧成形時の熱プレス温度は、熱可塑性樹脂が結晶性熱可塑性樹脂の場合、熱可塑性樹脂の融点(Tm)+30℃であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂が非結晶性熱可塑性樹脂の場合、加熱加圧成形時の熱プレス温度は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)+100℃であることが好ましい。なお、熱可塑性樹脂の融点及びガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量分析)で求めることができる。
【0047】
例えば、下記の熱可塑性樹脂を含む繊維強化プラスチック成形体用シートの熱プレス温度は下記の通りである。ポリカーボネート及びポリエーテルイミドは非結晶性熱可塑性樹脂であり、ポリプロピレン及びナイロン6は結晶性熱可塑性樹脂である。
ポリカーボネート:ガラス転移温度Tg 145℃、プレス温度245℃
ポリエーテルイミド:ガラス転移温度Tg 217℃、プレス温度317℃
ポリプロピレン:融点Tm160℃、プレス温度 190℃
ナイロン6:融点Tm225℃、プレス温度 255℃
【0048】
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートを上記の条件で加熱加圧成形して得られた厚さ1mmの繊維強化プラスチック成形体においては、80%以上の強化繊維が繊維強化プラスチック成形体の中心面と平行となるように配向している。このような繊維強化プラスチック成形体は、優れた曲げ強度を発揮し、特定方向の強度が高められている。
【0049】
上記の条件となるように加熱加圧成形して得られた繊維強化プラスチック成形体において、中心面に対して±20°以内となるように配向している強化繊維の割合は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、特に好ましくは95%以上である。
ここで、繊維強化プラスチック成形体の中心面に対して±20°以内となるように配向している強化繊維の割合は、下記の方法で求めることができる。具体的には、繊維強化プラスチック成形体の断面を切り出して三次元計測X線CT装置にて撮影し、この撮影画像から100〜130本の強化繊維を選択して中心面とのなす角度を測定することで求めることができる。
【0050】
強化繊維は、繊維強化プラスチック成形体用の中心面と平行であって、かつ一方向に配向していることが好ましい。特に、強化繊維は、繊維強化プラスチック成形体用の中心面と平行であって、MD方向(抄紙ラインの流れ方向)に配向していることが好ましい。これにより、優れた曲げ強度を発揮し、特定方向の強度を発揮し得る。
【0051】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂は、難燃剤を含む。難燃剤を含む熱可塑性樹脂は、繊維、粉末、ペレット又はフレーク状のものを、単独で又は組み合わせて用いることができる。中でも、熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂繊維又は熱可塑性樹脂粉末であることが好ましい。
【0052】
本明細書中の「熱可塑性樹脂繊維」とは、熱可塑性樹脂のうち繊維状のものを言う。難燃剤を含む熱可塑性樹脂繊維は、難燃剤を含む熱可塑性樹脂を溶融紡糸することによって得られる。また、熱可塑性樹脂繊維は、難燃剤と溶融した熱可塑性樹脂を混合し、紡糸することによって得ることもできる。なお、本発明では、熱可塑性樹脂繊維は、チョップドストランドであることも好ましい。
【0053】
熱可塑性繊維の繊維長は、重量平均繊維長として、3〜100mmであることが好ましく、3〜50mmであることがより好ましく、3〜25mmであることがさらに好ましい。熱可塑性繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用シートから熱可塑性繊維が脱落することを抑制することができ、ハンドリング性に優れた繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる。また、熱可塑性繊維の繊維長を上記範囲内とすることにより、熱可塑性繊維の分散性を良好にすることができるため、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
【0054】
本明細書中の「熱可塑性樹脂粉末」とは、熱可塑性樹脂のうち粉末状のものを言う。熱可塑性樹脂粉末は、例えば、熱可塑性樹脂のペレットを凍結粉砕し、メッシュによる分級を行い得られる。熱可塑性樹脂粉末の平均1次粒子径は、3〜7000μmであることが好ましく、30〜3000μmであることがより好ましく、100〜1000μmであることがさらに好ましい。なお、熱可塑性樹脂粉末が球形ではない場合は、熱可塑性樹脂粉末の平均1次粒子径は、透過型電子顕微鏡写真により粒子の投影面積を求め、同じ面積を有する円の直径を平均1次粒子径とする。熱可塑性樹脂粉末の平均1次粒子径を上記範囲内とすることにより、網の抄き上げが可能となり湿式不織布法で繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる。また、熱可塑性樹脂粉末の分散性を良好にすることができるため、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体を形成することが可能となる。これにより、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体は良好な強度と外観を有する。
【0055】
本明細書中の「難燃剤を含む熱可塑性樹脂」とは、難燃性を付与するために、難燃剤を配合した熱可塑性樹脂を言う。なお、難燃剤は、熱可塑性樹脂中に均一に分散していることが好ましいが、表面に難燃剤を付着させたものを用いることもできる。
【0056】
熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(ナイロン)、ABS樹脂等が挙げられるがこれに限定されるものではなく、必要とされる強度物性等により適宜選定することができる。一般に、ポリカーボネートは曲げ強度・弾性率・耐衝撃強度等に優れ、軽量であっても強度の高い繊維強化プラスチック成形体を得られるため好ましい。また、特殊な分子構造を採用することで難燃剤を添加する以外の方法で難燃化した繊維や、いわゆるスーパーエンプラ繊維と呼ばれるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)等のスーパーエンプラ繊維はその樹脂単体で難燃剤を付与せずともある一定の難燃性が得られるが、これらにおいても本発明を適用することにより、より優れた難燃性を有する繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。
【0057】
難燃剤としては、例えば、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤を配合することができる。
ハロゲン系難燃剤の好ましい具体例としては、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリフェニレンエーテル樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ビスフェノールA、グリシジル臭素化ビスフェノールA、ペンタブロモベンジルポリアクリレート、ブロム化イミド等が挙げられ、中でも、臭素化ポリカーボネート、臭素化ポリスチレン樹脂、グリシジル臭素化ビスフェノールA、ペンタブロモベンジルポリアクリレートが、耐衝撃性の低下を抑制しやすい傾向にあり、より好ましい。
リン系難燃剤としては、例えば、エチルホスフィン酸金属塩、ジエチルホスフィン酸金属塩、ポリリン酸メラミン、リン酸エステル、ホスファゼン等が挙げられ、中でも、ジエチルホスフィン酸金属塩、ポリリン酸メラミン、ホスファゼンが熱安定性に優れる点から好ましい。また、成形時のガスやモールドデポジットの発生、難燃剤のブリードアウトを抑制するために、リン系難燃剤と相溶性に優れる熱可塑性樹脂を配合してもよい。このような熱可塑性樹脂としては、好ましくは、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂である。
【0058】
さらに本発明では、難燃剤と共に、難燃助剤を併用することが好ましい。難燃助剤としては、例えば、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化鉄、酸化チタン、酸化アルミニウム、アンチモン化合物、硼酸亜鉛等が挙げられ、2種以上併用してもよい。これらの中でも、難燃性がより優れる点からアンチモン化合物、硼酸亜鉛が好ましい。
アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン(Sb2O3)、五酸化アンチモン(Sb2O5)、アンチモン酸ナトリウム等が挙げられる。特に、ハロゲン系難燃剤を用いる場合、該難燃剤との相乗効果から、三酸化アンチモンを併用することが好ましい。
難燃助剤を用いる場合は、難燃助剤も難燃剤と共に熱可塑性樹脂に含有させることが好ましい。
【0059】
熱可塑性繊維は、繊維状態において限界酸素指数が24以上であることが好ましく、27以上であることがより好ましい。熱可塑性繊維の限界酸素指数を上記範囲とすることにより、難燃性に優れた繊維強化プラスチック成形体用シート及び繊維強化プラスチック成形体を得ることができる。なお、本発明において、「限界酸素指数」とは、燃焼を続けるのに必要な酸素濃度を表し、JIS K7201に記載された方法で測定した数値をいう。すなわち、限界酸素指数が20以下は、通常の空気中で燃焼することを示す数値である。
また、熱可塑性繊維のASTM E−662に記載の方法で測定した20分燃焼時の発煙量は30ds前後であることが好ましく、非常に発煙量が少ない繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる。
【0060】
熱可塑性繊維のガラス転移温度は、140℃以上であるものが好ましい。熱可塑性繊維には、繊維強化プラスチック成形体を形成する際に300℃から400℃というような温度条件下で十分に流動的であることが求められる。なお、PPS樹脂繊維のようにガラス転移温度が140℃未満のスーパーエンプラ繊維であっても、樹脂の荷重たわみ温度が190℃以上となるスーパーエンプラを繊維化したものであれば使用可能である。このような熱可塑性繊維は、加熱・加圧により溶融して限界酸素指数が30以上という非常に高い難燃性を有する樹脂ブロックを形成する。
【0061】
熱可塑性樹脂は、加熱加圧処理時にマトリックス、あるいは、繊維成分の交点に結着点を形成するため、マトリックス樹脂とも呼ばれる。このような熱可塑性樹脂を用いた不織布状の繊維強化プラスチック成形体用シートは、熱硬化性樹脂を使用したシートに比べて、オートクレーブ処理が不要で、加工する際の加熱加圧成形時間が短時間ですみ、生産性を高めることができる。
【0062】
本発明で用いられる繊維強化プラスチック成形体用シートでは、熱可塑性樹脂繊維が繊維形態をしていることによりシート中に空隙が存在している。
本発明では、熱可塑性樹脂繊維が加熱加圧成形前には、繊維形態を維持しているため、繊維強化プラスチック成形体を形成する前は、シート自体がしなやかでドレープ性がある。このため、繊維強化プラスチック成形体用シートを巻き取りの形態で保管・輸送することが可能であり、ハンドリング性に優れるという特徴を有する。
【0063】
(バインダー成分)
本発明では、バインダー成分は、繊維強化プラスチック成形体用シートの全質量に対して0.1〜10質量%となるように含有されることが好ましく、0.3〜10質量%であることがより好ましく、0.4〜9質量%であることがさらに好ましく、0.5〜8質量%であることが特に好ましい。バインダー成分の含有率を上記範囲内とすることにより、製造工程中の強度を高めることができ、ハンドリング性を向上させることができる。なお、バインダー成分の量は多くなると表面強度・層間強度共に強くなるが、逆に加熱成形時の臭気の問題が発生しやすくなる。しかし、上記の範囲においては臭気の問題はほとんど発生せず、また繰り返しの断裁工程を経ても層間剥離などを発生しない繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる。
【0064】
バインダー成分としては、一般的に不織布製造に使用される、ポリエチレンテレフタレート、変性ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂及びこれらを組み合わせた芯鞘構造のバインダー繊維、アクリル樹脂、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、PVA樹脂、各種澱粉、セルロース誘導体、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドーアクリル酸エステルーメタクリル酸エステル共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体アルカリ塩、ポリ酢酸ビニル樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が使用できる。また、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂も好適に使用することができ、これらを変性させて適宜融点を調整した樹脂を使用した合成パルプは少量でも十分な強度が得られるため好ましい。
【0065】
バインダー成分は、メチル(メタ)アクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位、エチル(メタ)アクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位のうち少なくとも1つを含む共重合体を含有することが好ましい。中でも、バインダー成分は、メチルメタクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位及びエチルメタクリレート含有モノマー由来の繰り返し単位のうち少なくとも1つを含む共重合体を含有することが好ましい。また、これらのモノマーは他のモノマー、例えばスチレンや酢酸ビニル、アクリルアミド等と共重合させてもよい。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタクリレート」の両方を含むことを意味し、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の両方を含むことを意味する。
【0066】
本発明では、繊維強化プラスチック成形体用シートを湿式抄紙し、強度縦横比を大きくしているため、バインダー成分の添加量を減少させることができる。一般に、強度縦横比を大きくすると、繊維が一方向に並ぶ傾向となり、不織布の密度が高くなる傾向にある。その結果、繊維間の交点が増加するため、少量のバインダーでも十分な表面強度が得られる。
【0067】
(繊維形状)
本発明では、熱可塑性樹脂繊維と強化繊維は、一定の長さにカットされたチョップドストランドであることが好ましい。また、バインダー繊維もチョップドストランドであることが好ましい。このような形態とすることにより、繊維強化プラスチック成形体用シート中で、各種繊維を均一に混合することができる。また、繊維の断面形状は円形に限定されず、楕円形等、異形断面のものも使用できる。
【0068】
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する際には、熱可塑性繊維、強化繊維、バインダー繊維のチョップドストランドを溶媒中に分散させ、その後溶媒を除去してウエブを形成する方法(湿式不織布法)が採用される。
【0069】
(繊維強化プラスチック成形体)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートは、目的とする成形品の形状や成形法に合わせて任意の形状に加工することができる。繊維強化プラスチック成形体用シートは、1枚単独、或いは所望の厚さとなるように積層して熱プレスで加熱加圧成形したり、あらかじめ赤外線ヒーター等で予熱し、金型によって加熱加圧成形することができる。このように、一般的な繊維強化プラスチック成形体用シートの加熱加圧成形方法を用いて加工することにより、強度に優れた繊維強化プラスチック成形体とすることができる。本発明の繊維強化プラスチック成形体においては、強化繊維のうち大半の強化繊維が、繊維強化プラスチック成形体の中心面とほぼ平行に存在している。
【0070】
繊維強化プラスチック成形体用シートから繊維強化プラスチック成形体を成形する際には、上述したような繊維強化プラスチック成形体用シートを、難燃剤を含む熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上の温度で加熱加圧成形することが好ましい。具体的には、繊維強化プラスチック成形体用シートを150〜600℃の温度で加熱加圧成形することが好ましい。なお、加熱温度は、熱可塑性樹脂が流動する温度であって強化繊維は溶融しない温度帯であることが好ましい。
【0071】
繊維強化プラスチック成形体を成形する際の圧力としては、5〜20MPaが好ましい。また、所望の保持温度に到達するまでの昇温速度は3〜20℃/分が好ましく、所望の熱プレス温度での保持時間としては1〜30分、その後、成形体を取り出す温度(200℃以下)までは圧力を維持しながら、3〜20℃/分の冷却速度とするのが好ましい。更に、生産効率はやや落ちるものの、熱プレスの保持温度から熱可塑性樹脂のガラス転移温度までは空冷でゆっくりと0.1〜3℃/分で冷却することも、強度向上の観点からは好ましい。また、急速加熱、急速冷却(ヒートアンドクール)成形を用いて熱プレス成形することも可能であり、その場合の昇温、冷却速度はそれぞれ30〜500℃/分である。更に、赤外線ヒーターによる場合は、温度として150〜600℃、好ましくは200〜500℃で1〜30分間加熱し、その後30〜150MPaの圧力で成形することができる。
【0072】
本発明で得られる繊維強化プラスチック成形体は、力学的強度に優れ、かつ工業的に有用な生産性を兼ね備えているため、種々の用途に展開することができる。繊維強化プラスチック成形体の第1方向の曲げ強度と、第1方向に直交する第2方向の曲げ強度の強度比は、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。なお、第1方向とは、繊維強化プラスチック成形体用シートにおける強化繊維の配向方向(MD方向)であり、第2方向とは、強化繊維の配向方向に直交する方向(CD方向)であることが好ましい。ここでは、第2方向の強度に対して第1方向の強度が3倍以上であることが好ましく、4倍以上であることがより好ましく、5倍以上であることがさらに好ましい。
【0073】
また、本発明の繊維強化プラスチック成形体のMD方向の曲げ強度は、300MPa以上であることが好ましく、350MPa以上であることがより好ましく、400MPa以上であることがさらに好ましく、500MPa以上であることが特に好ましい。
【0074】
繊維強化プラスチック成形体の厚みは、特に限定されないが、0.1〜50mm程度である。本発明の繊維強化プラスチック成形体は、上記のような構成により、所望の強度比を有し得る。
【0075】
(繊維強化プラスチック成形体用シートの製造方法)
本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートの製造工程は、強化繊維と、難燃剤を含む熱可塑性樹脂とを混合し、溶媒中に分散させ、その後溶媒を除去してウエブを形成する方法(湿式不織布法)によって繊維強化プラスチック成形体用シートを形成する工程を含む。
【0076】
さらに、繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程は、円網抄紙機を用いて抄紙する工程を含む。なお、繊維強化プラスチック成形体用シートを形成する工程では、強化繊維と、難燃剤を含む熱可塑性樹脂に加えてバインダー成分を添加することとしてもよい。
【0077】
円網抄紙機を用いて抄紙を行う場合、円網抄紙機の円網の直径は50cm以上であることが好ましい。円網抄紙機の円網の直径を上記範囲とすることにより、80%以上の強化繊維をシート表面と平行となるように配向させることが可能となり、繊維強化プラスチック成形体において特定の方向の強度をより高めることができる。
【0078】
円網抄紙機を用いて抄紙を行う場合の抄造速度は、抄速は3m/min以上であることが好ましく、5m/min以上であることがより好ましく、10m/min以上であることがさらに好ましい。抄造速度を上記範囲とすることにより、80%以上の強化繊維をシート表面と平行となるように配向させることが可能となり、繊維強化プラスチック成形体において特定の方向の強度をより高めることができる。
【0079】
円網抄紙機で抄造する場合、抄層に原料を導入する方法に順流方式と逆流方式がある。順流方式はワイヤーの回転方向と同じ方向に原料が流れるように導入する方法であり、逆流方式はワイヤーの回転方向と逆の方向に原料が流れるように導入する方法である。本発明では、原料供給は逆流方式にするほうが、強化繊維が一方向に配向しやすくなるため好ましい。
【0080】
また、繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程では、円網抄紙機の他に、長網抄紙機又は傾斜型抄紙機を用いてもよい。すなわち、本発明の繊維強化プラスチック成形体用シートの製造工程において、繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程は、長網抄紙機又は傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程を含むものであってもよい。ここで、長網抄紙機又は傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程では、長網抄紙機又は傾斜型抄紙機のワイヤーは、ジェットワイヤー比が0.95以下となるように走行することを特徴とする。
なお、繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程は、長網抄紙機又は傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程を含むものであることが好ましく、傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程を含むものであることがより好ましい。
【0081】
ここで、ジェットワイヤー比とは、繊維のスラリー液の供給速度とワイヤー走行速度の比であり、繊維のスラリー液の供給速度/ワイヤー走行速度で表される。ジェットワイヤー比が1よりも大きい場合は、繊維のスラリー液の供給速度がワイヤーの走行速度よりも速く、この場合を「押し地合」という。また、ジェットワイヤー比が1よりも小さい場合は、繊維のスラリー液の供給速度はワイヤーの走行速度よりも遅く、この場合を「引き地合」という。
本発明の製造方法において、長網抄紙機又は傾斜型抄紙機を用いる場合、ジェットワイヤー比は0.95以下であればよく、0.7以下であることが好ましく、0.6以下でることがより好ましく、0.5以下であることがさらに好ましい。このように、本発明の製造方法では、ジェットワイヤー比を上記範囲とすることにより、強化繊維の配向方向を一方向とすることができ、かつシート表面となす角度が±20°以内である繊維の占める割合を80%以上とすることができる。
【0082】
繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程が傾斜型抄紙機を用いて抄紙する工程を含むものである場合、傾斜型抄紙機の傾斜ワイヤーに備えられている複数のウエットサクションボックスの吸引力を各々適宜調節することが好ましい。具体的には、傾斜ワイヤーの下流側のウエットサクションボックスの脱水量が多くなるように調節することが好ましい。通常、ウエットサクションボックスの吸引力を均一にした場合、ワイヤー上に堆積したウエットウエブの繊維の量が少ないワイヤーの上流側の脱水量が多くなり、ワイヤー上に堆積した繊維の量が多い下流側の脱水量が少なくなる傾向となる。このため、本発明では上流側の吸引力を下流側の吸引力より弱めて、傾斜ワイヤーの下流側のウエットサクションボックスの脱水量が多くなるように調節することにより、ワイヤー上の繊維強化プラスチック成形体用シートが均一に脱水される。こうして、均質な繊維強化プラスチック成形体用シートを製造することができる。また、傾斜ワイヤーの下流側のウエットサクションボックスの脱水量が多くなるように調節することにより、強化繊維とMD方向に配向させることができ、特定方向の強度が高められた繊維強化プラスチック成形体を成形することができる。
【0083】
さらに、繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程では、バインダー成分を含む溶液又はバインダー成分を含むエマルジョンを不織布シートに内添、塗布又は含浸させ、加熱乾燥させる工程を含むことが好ましい。すなわち、繊維強化プラスチック成形体用シートを形成する工程は、湿式不織布法で繊維強化プラスチック成形体用シートを製造する工程と、バインダー成分を含む溶液等を不織布シートに内添、塗布又は含浸させる工程を含むことが好ましい。さらに、内添、塗布又は含浸後には、加熱乾燥させる工程を含む。このような工程を設けることにより、繊維強化プラスチック成形体用シートの表面繊維の飛散、毛羽立ちや脱落を抑制することができ、ハンドリング性に優れた繊維強化プラスチック成形体用シートを得ることができる。
【0084】
なお、バインダー成分を含む溶液又はバインダー成分を含むエマルジョンを繊維強化プラスチック成形体用シートに内添、塗布又は含浸させた後は、その繊維強化プラスチック成形体用シートを急速に加熱することが好ましい。このような加熱工程を設けることにより、バインダー成分を含む溶液又はバインダー成分を含むエマルジョンを繊維強化プラスチック成形体用シートの表層領域に移行させることができる。さらに、バインダー成分を水掻き膜状に局在させることができる。
【実施例】
【0085】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0086】
<実施例1>
(難燃剤含有ポリカーボネート繊維の製造)
ポリカーボネート樹脂(A成分)(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名:ユーピロンS−3000(粘度平均分子量:21,000))と、アクリロニトリル・スチレン系共重合体(B成分)(テクノポリマー(株)製、商品名:290FF(220°C、49N荷重におけるメルトフローレート(MFR):50g/10分))
と、ポリカーボネートオリゴマー(C成分)(三菱ガス化学(株)製、商品名:AL071(平均重合度:7))と、燐系難燃剤(D成分)(燐酸エステル、大八化学(株)製、商品名:PX−200化学式:[OC
6H
3(CH
3)
2]
2P(O)OC
6H
4OP(O)[OC
6H
3(CH
3)
2]
2)を質量比率 100/5.5/12/16となるように混合した。混合物は、30mmφの2軸押し出し機にて溶融混合し、ペレット化した樹脂組成物を得た。
得られたペレットを紡糸温度300℃にて、紡糸ノズル(孔径0.6mm)を用いて溶融押出し、紡糸ノズル付近の温度を250℃に冷却し、繊度100dtexの紡糸フィラメントを得た。得られたフィラメントを、ギロチンカッターで15mm長に切断し、難燃剤含有ポリカーボネート繊維を得た。
【0087】
表1の実施例1に記載の通り、PAN系炭素繊維(繊維長12mm)と、上記の難燃剤含有ポリカーボネート繊維(繊維長15mm)と、バインダーとしてポリエチレン合成パルプ(三井化学製、SWP AU690)とを、繊維強化プラスチック成形体用シートの全質量に対し、PAN系炭素繊維35質量部、難燃剤含有ポリカーボネート樹脂繊維62質量部、ポリエチレン合成パルプ3質量部となるように計量し、水中に投入した。更に、投入した水の量は、PAN系炭素繊維とポリカーボネート樹脂繊維の合計質量に対し200倍とした(すなわち、繊維スラリー濃度として0.5%)。
このスラリーに分散剤として商品名「エマノーン3199」(花王社製)を繊維(PAN系炭素繊維とポリカーボネート繊維の合計)100質量部に対し1質量部となるよう添加して攪拌し、繊維を水中に均一に分散させた繊維スラリーを作製した。
【0088】
この繊維スラリーを円網抄紙機に逆流で、連続的に流送し、ウエットウエブを形成した。その後、当該抄紙機に備えられたヤンキードライヤー及び熱風ドライヤーを用いて180℃で加熱乾燥させた。これにより目付けが150g/m
2である繊維強化プラスチック成形体用シートを得た。なお、抄造速度は15m/minとした。また、円網抄紙機に繊維スラリーを流送し、ウエットウエブを形成する際、円網のバット内にアニオン性高分子ポリアクリルアミド系増粘剤「スミフロック(MTアクアポリマー株式会社製)の水溶液を適宜添加し、スラリー粘度を1cps〜5cpsの範囲(B型粘度計測定)で調整しながら抄造した。
【0089】
得られた各繊維強化プラスチック成形体用シートを、6枚積層し、プレス速度を3.5cm/secで上昇させ、プレス圧を10MPaとして260℃まで昇温し、60秒加熱加圧した後、70℃に冷却して厚み1.0mmの繊維強化プラスチック成形体を得た。繊維強化プラスチック成形体用シートの真密度(g/cm
3)をPとし、繊維強化プラスチック成形体用シートを条件(a)及び(b)で加熱加圧成形して得られる繊維強化プラスチック成形体のかさ密度(g/cm
3)をQとした場合の値を表に示した。
【0090】
<実施例2>
実施例2は、実施例1のウエットウエブを形成するための抄紙機を傾斜ワイヤーマシンに変更し、白水循環流量、アニオン性高分子ポリアクリルアミド系増粘剤、及び抄速を調整して、ジェットワイヤー比を0.90に調整した。それ以外は実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0091】
<実施例3>
ジェットワイヤー比を0.50に調整した以外は実施例2と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0092】
<実施例4>
PAN系炭素繊維の繊維長を25mmとし、ジェットワイヤー比を0.25に調整した以外は実施例2と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0093】
<実施例5>
繊維強化プラスチック成形体用シートの全質量に対し、PAN系炭素繊維を40質量部、難燃剤含有ポリカーボネート樹脂繊維を57質量部、それぞれ配合し、ジェットワイヤー比を0.25に調整した以外は実施例2と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0094】
<実施例6>
実施例1において、原料スラリーを順流で供給した以外は、実施例1と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0095】
<実施例7>
(難燃剤含有ポリカーボネート樹脂粉末の作成)
難燃剤含有ポリカーボネート樹脂ペレット(帝人製LN−2520A)を凍結粉砕し、平均1次粒子径800μmの難燃剤含有ポリカーボネート樹脂粉末を得た。
表2の実施例8に記載の通り、難燃剤含有ポリカーボネート繊維を、上記にて得られた難燃剤含有ポリカーボネート樹脂粉末に変更し、ジェットワイヤー比を0.88に調整した以外は、実施例2と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0096】
<実施例8>
ジェットワイヤー比を0.51に調整した以外は、実施例7と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0097】
<比較例1>
表3の比較例1に記載の通り、ジェットワイヤー比を1.6に調整した以外は実施例2と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
<比較例2>
ジェットワイヤー比を3.5に調整した以外は実施例2と同様にして繊維強化プラスチック成形体を得た。
【0098】
(評価)
<強化繊維と、繊維強化プラスチック成形体との角度の測定>
強化繊維と繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度は、以下の通り測定した。まず、加熱加圧成形後の繊維強化プラスチック成形体について、MD方向の断面(
図3(a)のB−B’線)を切り出した。MD方向の断面のイメージ図は
図3(b)に示した。この断面の強化繊維を、三次元計測X線CT装置(ヤマト科学製:商品名「TDM1000−IS/SP」)で撮影し、三次元ボリュームレンダリングソフト(NVS製:「VG−Studio MAX」)にて断面の画像を得た。そして、得られた断面画像について、Z軸方向に任意に10本の10μmのライン∨を引き、そのラインに接して見える繊維全てについて、
図4の白線で示したとおり、強化繊維と繊維強化プラスチック成形体の中心面とのなす角度を測定した。具体的には、繊維強化プラスチック成形体の中心面と平行な線はラインH(点線)で表しており、このラインHと強化繊維がなす角度を測定した。測定した繊維の本数は100〜130本程度とした。そして、測定した強化繊維の全本数に対する、繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内である繊維の占める繊維本数の割合を表1〜3に示した。
なお、
図3(b)において、θ1は、強化繊維と繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内であり、θ2は、強化繊維と繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°の範囲を超えている。
【0099】
<曲げ強度の測定>
得られた繊維強化プラスチック成形体を、JIS K 7074 炭素繊維強化 プラスチックの曲げ試験方法に従って、繊維の配向方向(マシンディレクション、以下MDとする)及び繊維の配向と直角方向(クロスディレクション、以下CDとする)について測定し、強度及びMD方向とCD方向の強度比を表1〜3に示した。
【0100】
<燃焼試験の評価方法>
得られた繊維強化プラスチック成形体を、UL94燃焼性試験 20mm垂直燃焼試験に準拠し難燃性を測定し、滴下物の発生状況を下記3段階で評価した。具体的には、繊維強化プラスチック成形体(幅13mm、長さ125mm、)の上端をクランプに垂直に取り付け、下端(幅方向の辺)中央に、20mm炎による10秒間接炎を2回行い、滴下物の有無を観察した。この場合、繊維強化プラスチック成形体の12インチ下には、外科用脱脂綿を置き、着火の有無を記録した。
○:滴下物が生じない。
△:滴下物は生じるが極少量であり、綿の着火が生じない。
×:滴下物により綿の着火が生じる。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
表1〜3からわかるように、実施例1〜8では、強化繊維と繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内のものが80%を超えており、燃焼性試験時の滴下物が発生しにくくなっていることがわかる。一方、比較例1及び2では、強化繊維と繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内のものが80%未満でとなっていて、燃焼性試験時に溶けた熱可塑性樹脂の滴下が見られた。
【0105】
また、
図4には、実施例6の
図3(b)に示したような断面を三次元計測X線CT装置(ヤマト科学製:商品名「TDM1000−IS/SP」)で撮影し、三次元ボリュームレンダリングソフト(NVS製:「VG−Studio MAX」)にて得られた画像によって確認される繊維の配向状態を示している。なお、三次元計測X線CT装置における撮影条件は、電圧:40kV、管電流:22μA、画素数:512×512ピクセル、視野サイズ:2.0mmφ×2.0mmhとした。
図4に示されているように、強化繊維の全本数のうち80%以上が、繊維強化プラスチック成形体の中心面となす角度が±20°以内となるように存在していることがわかる。なお、完全に繊維が一方向に並んでいれば、断面から見える繊維長は実際の繊維の繊維長と一致する。しかし、実際は、繊維が一方向に整列しているものが多いという状態は
図5のようなものであり、僅かにMD方向に対して角度を持っている。そのため、断面を切断すると 繊維の一部のみが見えることとなる。