(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.複合半透膜
本発明の複合分離膜は、基材と、前記基材上に形成される多孔性支持層と、前記多孔性支持層上に形成された分離機能層とを備える複合半透膜であって、分離機能層が架橋全芳香族ポリアミドを主成分とし、カルボキシ基を含むポリアミド分離機能層であって、ポリアミド分離機能層の官能基の内、カルボキシ基/アミド基の比が0.40以上であり、かつポリアミド分離機能層表裏の酸素原子/窒素原子の比の平均が0.95以下であることを特徴とする。
【0012】
(1−1)基材
基材としては、ポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、ポリオレフィン系重合体、あるいはこれらの混合物や共重合体等が挙げられる。中でも、機械的、熱的に安定性の高いポリエステル系重合体の布帛が特に好ましい。布帛の形態としては、長繊維不織布や短繊維不織布、さらには織編物を好ましく用いることができる。ここで、長繊維不織布とは、平均繊維長300mm以上、かつ平均繊維径3〜30μmの不織布のことを指す。
これらの布帛の中でも、長繊維不織布を使用すると、多孔性支持層となる高分子溶液を十分に含浸させることができるため好ましい。高分子溶液を基材中に十分に含浸させることにより、基材との接着性が向上し、微多孔性支持膜の物理的安定性を高めることができる。また、高分子溶液が基材に含浸することで、多孔性支持層を形成する相分離の際に、非溶媒との置換速度が大きくなる。その結果、マクロボイドの発生を抑制することができる。特に、多孔性支持層となる高分子溶液が18重量%以上の時、高分子溶液の基材への含浸が減少し、微多孔性支持膜の物理的安定性が減少するが、長繊維不織布にすることで含浸が増大し微多孔性支持膜の物理的安定性を高めることができる。
【0013】
また、長繊維不織布は、多孔性支持層側表面における繊維配向と、多孔性支持層と反対側表面における繊維配向の配向度差、換言すると、多孔性支持層に接する側の表層における繊維配向と、多孔性支持層に接しない側の表層における繊維配向との配向度差が、10°以上90°以下であることが好ましい。ここで、繊維配向度とは不織布基材の繊維の向きを示す指標であり、連続製膜を行う際の製膜方向(たて方向:Machine Direction)を0°とし、製膜方向と直角方向(よこ方向:Cross Direction)、すなわち不織布基材の幅方向を90°としたときの、不織布基材を構成する繊維の平均の角度のことを言う。つまり、繊維配向度が0°に近いほどたて配向であり、90°に近いほどよこ配向であることを示す。
【0014】
一般的に、複合半透膜を用いる場合、トリコットなどの透過水流路材とともに用いられる。トリコットなどの透過水流路材は、透過水の集水を目的としており、特定方向に溝状の形状を有する。高圧運転時には、透過水流路材の溝に複合半透膜が落ち込み、変形することで、膜性能が低下する。基材に用いる長繊維不織布の多孔性支持層側表層における繊維配向と、多孔性支持層とは反対側の表層における繊維配向との配向度差が10°以上90°以下であることで、トリコットなどの透過水流路材の溝と基材の繊維配向が交差し、高圧負荷時に複合半透膜のトリコット等の透過水流路材の溝への落ち込み等の変形を抑制することができる。
【0015】
繊維配向度は、例えば、不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、該サンプルの表面を走査型電子顕微鏡を用いて、100倍以上1000倍以下で撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維について、不織布の長手方向(縦方向、製膜方向)を0°とし、不織布の幅方向(横方向)を90°としたときの角度をそれぞれ測定し、それらの平均値を、小数点以下第一位を四捨五入して繊維配向度として求めることができる。
【0016】
長繊維不織布は、2層以上に積層させることで、多孔性支持層側表面(上表面)における繊維配向と反対側の表面(下表面)の繊維配向を制御することができ、繊維配向度差を上記範囲にすることができる。また、繊維の吹きつけ角度や吹き付け速度、捕集コンベアの角度や速度を調整することにより繊維配向度を制御することができる。
【0017】
基材は、通気量が0.5mL/cm
2/sec以上5.0mL/cm
2/secであることが好ましい。基材の通気量が上記範囲内にあることにより、多孔性支持層をとなる高分子溶液が基材に含浸するため、基材との接着性が向上し、微多孔性支持膜の物理的安定性を高めることができる。また、高分子溶液が基材に含浸することで、高分子溶液が基材に含浸しないときと比べて多孔性支持体を形成する相分離時において、溶媒の非溶媒との置換速度が大きくなる。その結果、マクロボイドの発生を抑制することができる。一方で、通気量が大きすぎると、高分子溶液が裏面まで含浸し基材厚みが不均一化するため性能低下が生じる。また、高圧付加時に基材の変形が生じる。基材の通気量は、長繊維不織布の繊維径や目付を調整することにより制御することができる。
【0018】
基材の厚みは10〜200μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは30〜120μmの範囲内である。なお、本書において、特に付記しない限り、厚みとは、平均値を意味する。ここで平均値とは相加平均値を表す。すなわち、基材および多孔性支持層の厚みは、断面観察で厚み方向に直交する方向(膜の面方向)に20μm間隔で測定した20点の厚みの平均値を算出することで求められる。
【0019】
(1−2)多孔性支持層
本発明において多孔性支持層は、実質的にイオン等の分離性能を有さず、実質的に分離性能を有する分離機能層に強度を与えるためのものである。多孔性支持層の孔のサイズや分布は特に限定されないが、例えば、均一で微細な孔、あるいは分離機能層が形成される側の表面からもう一方の面まで徐々に大きな微細孔をもち、かつ、分離機能層が形成される側の表面で微細孔の大きさが0.1nm以上100nm以下であるような多孔性支持層が好ましいが、使用する材料やその形状は特に限定されない。
【0020】
多孔性支持層の素材には、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンオキシドなどのホモポリマーあるいはコポリマーを単独であるいはブレンドして使用することができる。ここでセルロース系ポリマーとしては酢酸セルロース、硝酸セルロースなど、ビニルポリマーとしてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリルなどが使用できる。中でもポリスルホン、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホンなどのホモポリマーまたはコポリマーが好ましい。より好ましくは酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィドスルホン、またはポリフェニレンスルホンが挙げられ、さらに、これらの素材の中では化学的、機械的、熱的に安定性が高く、成型が容易であることからポリスルホンが一般的に使用できる。
具体的には、次の化学式に示す繰り返し単位からなるポリスルホンを用いると、多孔性支持層の孔径が制御しやすく、寸法安定性が高いため好ましい。
【0022】
ポリスルホンは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でN−メチルピロリドンを溶媒に、ポリスチレンを標準物質として測定した場合の質量平均分子量(Mw)が、10000以上200000以下であることが好ましく、より好ましくは15000以上100000以下である。Mwが10000以上であることで、多孔性支持層として好ましい機械的強度および耐熱性を得ることができる。また、Mwが200000以下であることで、溶液の粘度が適切な範囲となり、良好な成形性を実現することができる。
【0023】
例えば、上記ポリスルホンのN,N−ジメチルホルムアミド(以降、DMFと記載)溶液を、密に織ったポリエステル布あるいは不織布の上に一定の厚さに注型し、それを水中で湿式凝固させることによって、表面の大部分が直径数10nm以下の微細な孔を有する多孔性支持層を得ることができる。
【0024】
基材と多孔性支持層の厚みは、複合半透膜の強度およびそれをエレメントにしたときの充填密度に影響を与える。十分な機械的強度および充填密度を得るためには、基材と多孔性支持層の厚みの合計が、30μm以上300μm以下であることが好ましく、100μm以上220μm以下であるとより好ましい。また、多孔性支持層の厚みは、20μm以上100μm以下であることが好ましい。なお、本書において、特に付記しない限り、厚みとは、平均値を意味する。ここで平均値とは相加平均値を表す。すなわち、基材と多孔性支持層の厚みは、断面観察で厚み方向に直交する方向(膜の面方向)に20μm間隔で測定した、20点の厚みの平均値を算出することで求められる。
【0025】
複合半透膜を脱塩等の目的に操作を行った場合、多孔性支持層は多孔質の構造上、加圧により厚さ方向の圧縮等の変形を受ける。複合半透膜を圧力5.5MPaで24時間以上通水処理することにより、膜厚が一定となる。温度25℃、圧力5.5MPaで、純水を24時間以上通水した後の、多孔性支持層の単位体積あたりの重量が0.50g/cm
3以上0.65g/cm
3以下であることが好ましい。単位体積あたりの重量が上記範囲にあることで、複合半透膜を用いた膜分離装置の高圧負荷運転時にも変形や欠陥の発生が抑制され、透過流束と溶質除去性能を維持できる。単位体積あたりの重量は、まず複合半透膜から基材を物理的に剥離して多孔性支持層の重量を測定し、次にこの値を多孔性支持層の体積で割ることによって算出できる。多孔性支持層の体積は、基材を剥離した面積と、前述した方法で測定される多孔性支持層の厚みから算出できる。
【0026】
多孔性支持層の単位体積あたりの重量が0.65g/cm
3以下であれば、多孔性支持層部分のろ過抵抗を小さく維持でき、複合半透膜の透過流束の減少を防ぐことができる。
また、つぶれ等の変形が起きていないため、高圧負荷運転時でも欠陥が起こらず、透過流束と溶質除去性能が安定化される。一方、多孔性支持層単位体積あたりの重量が0.5g/cm
3以上であると、多孔性支持層の欠陥が少なく、高い溶質除去性能を保つことができる。
多孔性支持層の単位体積あたりの重量を上記範囲とするには、例えば、後述する、多孔性支持層の材料となる高分子溶液の濃度を制御することが挙げられる。
【0027】
多孔性支持層の基材への単位体積あたりの含浸量が1.0g/m
2以上5.0g/m
2以下が好ましく、より好ましくは1.5g/cm
2以上3.0g/m
2以下である。また、平均含浸量の1.2倍以上である箇所を20%以上含むことがさらに好ましい。含浸量が上記範囲内であることにより、基材との接着性が向上し、微多孔性支持膜の物理的安定性を高めることができる。また、高分子溶液が基材に含浸することで、高分子溶液が基材に含浸しないときと比べて多孔性支持体を形成する相分離時において、溶媒の非溶媒との置換速度が大きくなる。その結果、マクロボイドの発生を抑制することができる。一方で、含浸量が大きすぎると、基材の空隙が減少し複合半透膜の透水性が低下する。
多孔性支持層の基材への単位体積あたりの含浸量は、多孔性支持層を形成する高分子が溶解するような溶媒に基材を浸漬して高分子を溶出させ、溶媒への浸漬前後の基材の重量と基材の面積から算出することができる。
【0028】
多孔性支持層の基材への単位体積あたりの含浸量は、多孔性支持層となる高分子溶液の濃度や、基材の通気量や配向度、また多孔性支持層を形成する温度や速度、時間を調整することにより、制御することができる。
【0029】
多孔性支持層の形態は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡等により観察できる。例えば走査型電子顕微鏡で多孔性支持層を観察するのであれば、基材から多孔性支持層を剥がした後、この多孔性支持層を凍結割断法で切断して断面観察のサンプルとする。このサンプルに白金または白金−パラジウムまたは四塩化ルテニウム、好ましくは四塩化ルテニウムを薄くコーティングして3kV以上6kV以下の加速電圧で、高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(UHR−FE−SEM)で観察する。高分解能電界放射型走査電子顕微鏡は、日立製S−900型電子顕微鏡などが使用できる。得られた電子顕微鏡写真から多孔性支持層の膜厚や表面孔径を決定する。なお、本発明における厚みや孔径は平均値を意味するものであるが、最大孔径に関しては観測範囲内での最大値を意味する。
【0030】
本発明に使用する多孔性支持層は、ミリポア社製”ミリポアフィルターVSWP”(商品名)や、東洋濾紙社製”ウルトラフィルターUK10”(商品名)のような各種市販材料から選択することもできるが、”オフィス・オブ・セイリーン・ウォーター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート”No.359(1968)に記載された方法に従って製造することができる。
【0031】
(1−3)分離機能層
本発明において分離機能層は、架橋全芳香族ポリアミドが主成分である。主成分とは分離機能層の成分のうち、50%以上含む状態を指す。架橋全芳香族ポリアミドを50%以上含むことにより、高性能な膜性能を発現しやすい。また、架橋全芳香族ポリアミドは、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物との界面重縮合により形成することができる。ここで、多官能芳香族アミン及び多官能芳香族酸ハロゲン化物の少なくとも一方が3官能以上の化合物を含んでいることが好ましい。また、分離機能層の厚みは、十分な分離性能および透過水量を得るために、通常0.01〜1μmの範囲内、好ましくは0.1〜0.5μmの範囲内である。本発明における分離機能層を、以下、ポリアミド分離機能層とも記載する。
【0032】
多官能芳香族アミンとは、一分子中に第一級アミノ基及び第二級アミノ基のうち少なくとも一方のアミノ基を2個以上有し、かつ、アミノ基のうち少なくとも1つは第一級アミノ基である芳香族アミンを意味する。例えば、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、o−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、o−ジアミノピリジン、m−ジアミノピリジン、p−ジアミノピリジン等の2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係で芳香環に結合した多官能芳香族アミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、3−アミノベンジルアミン、4−アミノベンジルアミンなどの多官能芳香族アミンなどが挙げられる。中でも、膜の選択分離性や透過性、耐熱性を考慮すると、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好適に用いられる。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、m−フェニレンジアミン(以下、m−PDAとも記す)を用いることがより好ましい。これらの多官能芳香族アミンは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0033】
多官能芳香族酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する芳香族酸ハロゲン化物をいう。例えば、3官能酸ハロゲン化物では、トリメシン酸クロリドなどを挙げることができ、2官能酸ハロゲン化物では、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどを挙げることができる。多官能芳香族アミンとの反応性を考慮すると、多官能芳香族酸ハロゲン化物は多官能芳香族酸塩化物であることが好ましく、また、膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、一分子中に2〜4個の塩化カルボニル基を有する多官能芳香族酸塩化物であることが好ましい。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさの観点から、トリメシン酸クロリドを用いるとより好ましい。これらの多官能芳香族酸ハロゲン化物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0034】
ポリアミド分離機能層には、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物の重合に由来するアミド基、未反応官能基に由来するアミノ基とカルボキシ基が存在する。これらに加え、多官能芳香族アミンまたは多官能芳香族酸ハロゲン化物が有していた、その他の官能基が存在する。さらに、化学処理により新たな官能基を導入することもできる。化学処理を行うことで、ポリアミド分離機能層に官能基を導入することができ、複合半透膜の性能を向上することができる。新たな官能基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン基、水酸基、エーテル基、チオエーテル基、エステル基、アルデヒド基、ニトロ基、ニトロソ基、ニトリル基、アゾ基等が挙げられる。例えば、次亜塩素酸ナトリウム水溶液で処理することで塩素基を導入できる。また、ジアゾニウム塩生成を経由したザンドマイヤー反応でもハロゲン基を導入できる。さらに、ジアゾニウム塩生成を経由したアゾカップリング反応を行うことで、アゾ基を導入することができる。
本発明者らはこれらの官能基の組み合わせや官能基量の差が、膜の透過流束、溶質除去率、高溶質濃度条件下での性能安定性に影響を与えることを見出した。
【0035】
膜の高圧運転時には、ポリアミド分離機能層表面近傍の溶質濃度が上昇する。この時、ポリアミド分離機能層が高溶質濃度の供給水に接触することによって、透過流束や溶質除去率性能が低下する懸念がある。従って、高溶質濃度の供給水に接触しても透過流束や溶質除去率性能が低下しない官能基の量や官能基の組み合わせの条件を満たす分離機能層が重要となる。
【0036】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ポリアミド分離機能層における、(カルボキシ基のモル当量)/(アミド基のモル当量)の比が0.40以上であり、ポリアミド分離機能層表裏の酸素原子/窒素原子の比の平均が0.95以下の範囲にあることにより、高圧運転時等、溶質濃度が上昇する条件下でも、膜性能を維持できることを見出した。
【0037】
ここで、(カルボキシ基のモル当量)/(アミド基のモル当量)は、架橋度の目安となり、数値が大きいほど架橋度が低いことを意味する。(カルボキシ基のモル当量)/(アミド基のモル当量)が0.40以上であれば、ポリアミド分離機能層の親水性すなわち透水性を維持でき、透過流束の高い膜が得られ、0.45以上であるとより好ましい。一方で脱塩率を維持するため、上限は0.60以下が好ましい。
また、ポリアミド分離機能層表裏の酸素原子/窒素原子の比の平均は0.95以下であることが好ましく、0.90以下がより好ましく、下限は0.80以上が好ましい。ポリアミド分離機能層表裏の酸素原子/窒素原子の比の平均がかかる範囲であれば、高溶質濃度接触時の性能変動が小さい、安定性の高い膜が得られる。この理由については明らかではないが、溶質中に存在する金属イオン等と相互作用しやすい酸素原子が少ないため、高溶質濃度接触時にも影響を受けにくいと考えられる。
【0038】
さらに、ポリアミド分離機能層中の官能基として、海水等の弱アルカリ性条件や高溶質濃度条件下でイオン化する官能基が少ないことが好ましい。特に、(フェノール性水酸基のモル当量)/(アミド基のモル当量)の比が0.10以下であることが好ましい。(フェノール性水酸基のモル当量)/(アミド基のモル当量)の比が0.10以下であれば、高溶質濃度供給水接触時にもイオン化する官能基の割合が少なく、膜性能を維持することができる。
【0039】
(カルボキシ基のモル当量)/(アミド基のモル当量)の比、酸素原子/窒素原子の比、及び(フェノール性水酸基のモル当量)/(アミド基のモル当量)の比は、例えばポリアミド分離機能層の化学処理によって導入する官能基の種類や量により制御することができる。
【0040】
ポリアミド分離機能層中の官能基量の測定には、例えば、
13C固体NMR法を用いることができる。具体的には、複合半透膜から基材を剥離し、ポリアミド分離機能層と多孔性支持層を得た後、多孔性支持層を溶解・除去し、ポリアミド分離機能層を得る。得られたポリアミド分離機能層をDD/MAS−
13C固体NMR法により測定を行い、各官能基の炭素ピークまたは各官能基が結合している炭素ピークの積分値の比較から各官能基比を算出することができる。
【0041】
また、ポリアミド分離機能層の元素比率は、例えば、X線光電子分光法(XPS)を用いて分析することができる。具体的には、「Journal of Polymer Science」,Vol.26,559−572(1988)および「日本接着学会誌」,Vol.27,No.4(1991)で例示されているX線光電子分光法(XPS)を用いることにより求めることができる。
【0042】
ポリアミド分離機能層表裏とは、ポリアミド分離機能層表面とポリアミド分離機能層裏面(すなわちポリアミド分離機能層の多孔性支持層側)の両面を指す。ポリアミド分離機能層表面の酸素原子/窒素原子の比は、そのままXPSを用いて測定することができる。
ポリアミド分離機能層裏面の酸素原子/窒素原子の比は、複合半透膜から基材を剥離した後、ポリアミド分離機能層表面側を適切な部材に固定し、多孔性支持層を溶解する溶媒により、溶解除去し、ポリアミド分離機能層裏面を露出させた後、XPSを用いて測定することができる。そして、表面の酸素原子/窒素原子の比と裏面の酸素原子/窒素原子の比の平均値を求める。
【0043】
さらに、本発明の複合半透膜は、ポリアミド分離機能層の形成後に親水性高分子によって表面を被覆することもできる。親水性高分子によって表面を被覆することで、溶質除去性能及び高溶質濃度条件下での性能安定性が向上する。
【0044】
親水性高分子はポリアミド分離機能層と共有結合を介して結合していても、水素結合や分子間力などの非共有結合を介して結合していてもよく、ポリアミド分離機能層上に存在していれば被覆する方法は特に限定されない。ポリアミド分離機能層上に親水性高分子が存在することは、例えば、XPSや飛行時間型二次イオン質量分析計(TOF−SIMS)全反射赤外分光法(ATR−FTIR)など、膜表面を分析する手法によって確認できる。
【0045】
本発明において親水性高分子とは、25℃の水1L中に0.1g以上溶解する高分子を指す。このような親水性高分子の例として、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリエチレンイミン、ポリオキサゾリン、ポリアリルアミン、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。また、これらの親水性高分子のブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体を用いてもよい。さらに、これらの親水性高分子と疎水性高分子のブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体を用いることもできる。これらの親水性高分子は単独で使用しても、混合して使用してもよい。これらの親水性高分子の中でも、特にポリエチレングリコール(以下、PEGと記載)、またはポリエチレングリコールを含む共重合体で複合半透膜を被覆すると、溶質除去性能及び高溶質濃度条件下での性能安定性が向上するため好ましい。
親水性高分子の平均分子量(数平均分子量)は2,000以上であると溶質除去性能及び高溶質濃度条件下での性能安定性が向上するため好ましく、8,000以上であるとより好ましい。
【0046】
2.複合半透膜の製造方法
次に、上記複合半透膜の製造方法について説明する。製造方法は、基材と多孔性支持層とを含む支持膜の形成工程および分離機能層の形成工程を含む。
【0047】
(2−1)支持膜の製造方法
支持膜の形成工程は、基材に多孔性支持層の成分である高分子の溶液を塗布する工程、基材に高分子溶液を含浸させる工程、および高分子溶液が含浸した基材を、高分子の良溶媒と比較して溶解度が小さい凝固浴に浸漬させて高分子を凝固させ、三次元網目構造を形成させる工程を含んでもよい。また、支持膜の形成工程は、多孔性支持層の成分である高分子を、その高分子の良溶媒に溶解して高分子溶液を調整する工程を、さらに含んでいてもよい。
【0048】
所定の構造をもつ支持膜を得るためには、高分子溶液の基材への含浸を制御することが重要である。高分子溶液の基材への含浸を制御するためには、例えば、基材上に高分子溶液を塗布した後、非溶媒に浸漬させるまでの時間を制御する方法、或いは高分子溶液の温度または濃度を制御することにより粘度を調整する方法が挙げられ、これらの製造方法を組み合わせることも可能である。
【0049】
また、所定の構造をもつ多孔性支持層を得るためには、高分子溶液の相分離を制御することが重要であり、例えば、高分子濃度、溶媒、凝固浴液の制御が重要である。
【0050】
多孔性支持層の材料としてポリスルホンを含有する場合、高分子溶液のポリスルホン濃度は、好ましくは18重量%以上である。高分子濃度が18重量%以上であることで、細孔が緻密になりマクロボイドの形成が抑制される。また、高分子溶液のポリスルホン濃度は、透過水の水量を十分に得るために、25重量%以下であることが好ましい。
【0051】
なお、高分子溶液が含有する溶媒は、高分子の良溶媒であれば良い。本発明の良溶媒とは、高分子材料を溶解するものである。良溶媒としては、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、アセトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル等の低級アルキルケトン、エステル、アミド等およびその混合溶媒が挙げられる。非溶媒としては、例えば水、ヘキサン、ペンタン、ベンゼン、トルエン、メタノール、エタノール、四塩化炭素、o−ジクロルベンゼン、トリクロルエチレン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、低分子量のポリエチレングリコール等の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族多価アルコール、芳香族多価アルコール、塩素化炭化水素、またはその他の塩素化有機液体およびその混合溶媒などが挙げられる。
【0052】
また、上記高分子溶液は、多孔性支持層の孔径、空孔率、親水性、弾性率などを調節するための添加剤を含有してもよい。孔径および空孔率を調節するための添加剤としては、水、アルコール類、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等の親水性高分子またはその塩、さらに塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸リチウム等の無機塩、ホルムアルデヒド、ホルムアミド等が例示されるが、これらに限定されるものではない。親水性や弾性率を調節するための添加剤としては、種々の界面活性剤が挙げられる。
【0053】
凝固浴としては、通常水が使われるが、重合体を溶解しないものであればよい。組成によって多孔性支持層の膜形態が変化し、それによって複合膜の膜形成性も変化する。また、凝固浴の温度は、−20℃以上100℃以下が好ましく、さらに好ましくは10℃以上30℃以下である。この範囲以下であれば、熱運動が穏やかで凝固浴面の振動が激化せず、膜形成後の膜表面の平滑性を維持しやすい。また、この範囲以上であれば凝固速度が遅くならず、製膜性が良好となる。
【0054】
また、高分子溶液の基材への含浸を制御することが重要である。高分子溶液の基材への含浸を制御するためには、例えば、基材上に高分子溶液を塗布した後、非溶媒に浸漬させるまでの時間を制御する方法がある。
基材上に高分子溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬させるまでの時間は、通常0.1秒以上5秒以下の範囲であることが好ましい。凝固浴に浸漬するまでの時間がこの範囲であれば、高分子を含む有機溶媒溶液が基材の繊維間にまで充分含浸したのち固化される。その結果、アンカー効果により多孔性支持層が基材に強固に接合し、本発明の多孔性支持層を得ることができる。なお、凝固浴に浸漬するまでの時間の好ましい範囲は、用いる高分子溶液の粘度などによって適宜調整すればよい。
【0055】
次に、このような好ましい条件下で得られた多孔性支持層を、膜中に残存する製膜溶媒を除去するために熱水洗浄する。このときの熱水の温度は50℃以上100℃以下が好ましく、さらに好ましくは60℃以上95℃以下である。この範囲より高いと、多孔性支持層の収縮度が大きくなり、透水性が低下する。逆に、この範囲より低いと洗浄効果が小さい。
【0056】
(2−2)分離機能層の製造方法
次に複合半透膜を構成する分離機能層の形成工程を説明する。分離機能層の形成工程は、(a)多官能芳香族アミンを含有する水溶液と、多官能芳香族酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒溶液とを用い、多孔性支持層の表面で界面重縮合を行うことにより、架橋全芳香族ポリアミドを形成する工程と、
(b)得られた架橋全芳香族ポリアミドを洗浄する工程と、
(c)得られた架橋全芳香族ポリアミドを第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬に接触させる工程と、
(d)得られた架橋全芳香族ポリアミドをジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する試薬に接触させる工程と、
(e)得られた架橋全芳香族ポリアミドを親水性高分子を含む溶液に接触させる工程と、
を有する。
【0057】
以下、各工程を(a)、(b)、(c)、(d)、(e)の順に実施する場合の本工程について説明する。
【0058】
工程(a)において、多官能芳香族アミン水溶液における多官能芳香族アミンの濃度は0.1重量%以上20重量%以下の範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上15重量%以下の範囲内である。多官能芳香族アミンの濃度がこの範囲であると十分な溶質除去性能および透水性を得ることができる。多官能芳香族アミン水溶液には、多官能芳香族アミンと多官能芳香族酸ハロゲン化物との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤や有機溶媒、アルカリ性化合物、酸化防止剤などが含まれていてもよい。界面活性剤は、支持膜表面の濡れ性を向上させ、多官能芳香族アミン水溶液と非極性溶媒との間の界面張力を減少させる効果がある。有機溶媒は界面重縮合反応の触媒として働くことがあり、添加することにより界面重縮合反応を効率よく行える場合がある。
【0059】
界面重縮合を多孔性支持層上で行うために、まず、上述の多官能芳香族アミン水溶液を多孔性支持層に接触させる。接触は、多孔性支持層上に均一にかつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、多官能芳香族アミン水溶液を多孔性支持層にコーティングする方法や、多孔性支持層を多官能芳香族アミン水溶液に浸漬する方法を挙げることができる。多孔性支持層と多官能アミン水溶液との接触時間は、1秒以上10分間以下であることが好ましく、10秒以上3分間以下であるとさらに好ましい。
【0060】
多官能アミン水溶液を多孔性支持層に接触させた後は、膜上に液滴が残らないように十分に液切りする。十分に液切りすることで、多孔性支持層形成後に液滴残存部分が膜欠点となって膜性能が低下することを防ぐことができる。液切りの方法としては、例えば、日本国特開平2−78428号公報に記載されているように、多官能アミン水溶液接触後の支持膜を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然流下させる方法や、エアーノズルから窒素などの気流を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させて水溶液の水分を一部除去することもできる。
【0061】
次いで、多官能芳香族アミン水溶液接触後の多孔性支持層に、多官能芳香族酸ハロゲン化物を含む有機溶媒溶液を接触させ、界面重縮合により架橋全芳香族ポリアミド分離機能層の骨格を形成させる。
【0062】
有機溶媒溶液中の多官能酸ハロゲン化物の濃度は、0.01重量%以上10重量%以下の範囲内であると好ましく、0.02重量%以上2.0重量%以下の範囲内であるとさらに好ましい。0.01重量%以上とすることで十分な反応速度が得られ、また、10重量%以下とすることで副反応の発生を抑制することができるためである。さらに、この有機溶媒溶液にDMFのようなアシル化触媒を含有させると、界面重縮合が促進され、さらに好ましい。
【0063】
有機溶媒は、水と非混和性であり、かつ多官能酸ハロゲン化物を溶解し、支持膜を破壊しないものが望ましく、多官能アミン化合物および多官能酸ハロゲン化物に対して不活性であるものであればよい。好ましい例として、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカンなどの炭化水素化合物が挙げられる。
【0064】
多官能芳香族酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液の多官能芳香族アミン化合物水溶液相への接触の方法は、多官能芳香族アミン水溶液の多孔性支持層への被覆方法と同様に行えばよい。多官能芳香族酸ハロゲン化物の有機溶媒溶液を接触させて界面重縮合を行い、多孔性支持層上に架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成したあとは、余剰の溶媒を液切りするとよい。液切りの方法は、例えば、膜を垂直方向に把持して過剰の有機溶媒を自然流下して除去する方法を用いることができる。この場合、垂直方向に把持する時間としては、1分以上5分以下であることが好ましく、1分以上3分以下であるとより好ましい。短すぎると分離機能層が完全に形成せず、長すぎると有機溶媒が過乾燥となり欠点が発生しやすく、性能低下を起こしやすい。
【0065】
次に、工程(b)において、複合半透膜を40℃以上100℃以下、好ましくは60℃以上100℃以下の範囲内で、1分以上10分以下、より好ましくは2分以上8分以下、熱水処理することで、複合半透膜の塩除去率及びホウ素除去率をより一層向上させることができる。
【0066】
さらに、工程(c)において、複合半透膜を第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬に接触させる。接触させる第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬としては、亜硝酸およびその塩、ニトロシル化合物などの水溶液が挙げられる。亜硝酸やニトロシル化合物の水溶液は気体を発生して分解しやすいので、例えば、亜硝酸塩と酸性溶液との反応によって亜硝酸を逐次生成するのが好ましい。一般に、亜硝酸塩は水素イオンと反応して亜硝酸(HNO
2)を生成するが、水溶液のpHが7以下、好ましくは5以下、さらに好ましくは4以下で効率よく生成する。中でも、取り扱いの簡便性から水溶液中で塩酸または硫酸と反応させた亜硝酸ナトリウムの水溶液が特に好ましい。
【0067】
前記第一級アミノ基と反応してジアゾニウム塩またはその誘導体を生成する試薬中の亜硝酸や亜硝酸塩の濃度は、好ましくは0.01重量%以上1重量%以下の範囲であり、より好ましくは0.05重量%以上0.5重量%以下の範囲である。0.01重量%以上の濃度であれば十分な効果が得られ、濃度が1重量%以下であれば溶液の取扱いが容易である。
【0068】
亜硝酸水溶液の温度は15℃以上45℃以下であることが好ましい。15℃以上の温度であれば十分な反応時間が得られ、45℃以下であれば亜硝酸の分解が起こり難いため取り扱いが容易である。
【0069】
亜硝酸水溶液との接触時間は、ジアゾニウム塩及びその誘導体のうち少なくとも一方が生成する時間であればよく、高濃度では短時間で処理が可能であるが、低濃度であると長時間必要である。そのため、上記濃度の溶液では10分間以内であることが好ましく、3分間以内であることがさらに好ましい。また、接触させる方法は特に限定されず、該試薬の溶液を塗布しても、該試薬の溶液に該複合半透膜を浸漬させてもよい。該試薬を溶かす溶媒は該試薬が溶解し、該複合半透膜が侵食されなければ、いかなる溶媒を用いてもかまわない。また、溶液には、第一級アミノ基と試薬との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤や酸性化合物、アルカリ性化合物などが含まれていてもよい。
【0070】
続いて、工程(d)において、複合半透膜をジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する試薬に接触させる。ここで用いる試薬として、塩化物イオン、臭化物イオン、シアン化物イオン、ヨウ化物イオン、フッ化ホウ素酸、次亜リン酸、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸イオン、芳香族化合物、硫化水素、チオシアン酸等が挙げられる。ステップ(c)において、複合半透膜上に生成したジアゾニウム塩またはその誘導体の一部は、水と反応することにより、フェノール性水酸基へと変換される。この際にジアゾニウム塩またはその誘導体と反応する試薬を含む水溶液に接触させることで、フェノール性水酸基への変換を抑制することができる。
【0071】
例えば、塩化銅(I)、臭化銅(I)、またはヨウ化カリウムを含む水溶液と接触させることで、それぞれ対応するハロゲン原子が導入される。また、芳香族化合物と接触させることで、ジアゾカップリング反応が生じ、アゾ結合を介して芳香環が導入される。なお、これらの試薬は単一で用いても、複数混合させて用いてもよく、異なる試薬に複数回接触させてもよい。これらの試薬の中でも、特にジアゾカップリング反応を起こす芳香族化合物を用いると、複合半透膜のホウ素除去率が大きく向上するため好ましい。これはジアゾカップリング反応によってアミノ基の代わりに導入される芳香環がかさ高く、分離機能層内に存在する孔を塞ぐ効果が高いためであると考えられる。
【0072】
ジアゾカップリング反応が生じる芳香族化合物としては、電子豊富な芳香環または複素芳香環を持つ化合物が挙げられる。電子豊富な芳香環または複素芳香環を持つ化合物としては、無置換の複素芳香環化合物、電子供与性置換基を有する芳香族化合物、および電子供与性置換基を有する複素芳香環化合物が挙げられる。電子供与性の置換基としては、アミノ基、エーテル基、チオエーテル基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基などが挙げられる。上記化合物の具体的な例としては、例えば、アニリン、オルト位、メタ位、パラ位のいずれかの位置関係でベンゼン環に結合したメトキシアニリン、2個のアミノ基がオルト位、メタ位、パラ位のいずれかの位置関係でベンゼン環に結合したフェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、3−アミノベンジルアミン、4−アミノベンジルアミン、スルファニル酸、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、1−アミノナフタレン、2−アミノナフタレン、またはこれらの化合物のN−アルキル化物が挙げられる。
【0073】
これらのジアゾニウム塩またはその誘導体と反応させる試薬を接触させる濃度と時間は、目的の効果を得るために適宜調節することができる。接触させる温度は15℃以上45℃以下が好ましい。15℃未満の時にはジアゾカップリング反応の進行が遅く、水との副反応によってフェノール性水酸基が生じるため好ましくない。また45℃より高温ではポリアミド分離機能層の収縮が生じ、透過水量が低下するため好ましくない。
【0074】
最後に、工程(e)として、複合半透膜を親水性高分子を含む溶液と接触させ、分離機能層を親水性高分子で被覆する。本発明において親水性高分子とは、25℃の水1L中に0.1g以上溶解する高分子を指す。具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリエチレンイミン、ポリオキサゾリン、ポリアリルアミン、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。または、これらの親水性高分子のブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体を用いてもよい。さらに、これらの親水性高分子と疎水性高分子のブロック共重合体、グラフト共重合体、ランダム共重合体を用いることもできる。これらの親水性高分子は単独で使用しても、混合して使用してもよい。これらの親水性高分子の中でも、特に、PEGを含む水溶液に複合半透膜を接触させると、塩除去率及びホウ素除去率が向上するため好ましい。
【0075】
親水性高分子の濃度は、1ppm以上1000ppm以下であることが好ましい。1ppm未満では、複合半透膜の塩除去率及びホウ素除去率を向上させる効果が低いため好ましくない。一方で1000ppmを超えると複合半透膜の透水性が低下するため好ましくない。
【0076】
親水性高分子を含む溶液の温度は15℃以上45℃以下であることが好ましい。15℃未満では親水性高分子の溶解度が低下することがあるため好ましくなく、45℃を超えると分離機能層が収縮し、複合半透膜の透水性が低下するため好ましくない。
【0077】
複合半透膜を親水性高分子を含む溶液と接触させる時間は、1秒以上24時間以下であることが好ましいが、親水性高分子の濃度に応じて適宜調整することができる。1秒未満では複合半透膜の塩除去率及びホウ素除去率を向上させる効果が低いため好ましくない。一方で24時間を超えると複合半透膜の透水性が低下するため好ましくない。
【0078】
複合半透膜を親水性高分子を含む溶液と接触させる方法は特に限定されず、親水性高分子を含む溶液を、バーコーター、ダイコーター、グラビアコーター、スプレー等を用いて塗布しても、親水性高分子を含む溶液に浸漬してもよい。また、親水性高分子以外に酸性化合物、アルカリ性化合物、界面活性剤、酸化防止剤などが含まれていてもよい。
【0079】
本発明の複合半透膜は、プラスチックネットなどの供給水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周りに巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0080】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに供給水を供給するポンプや、その供給水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することができる。この分離装置を用いることにより、供給水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分離して、目的にあった水を得ることができる。
【0081】
本発明に係る複合半透膜によって処理される供給水としては、海水、かん水、排水等の500mg/L以上100g/L以下のTDS(Total Dissolved Solids:総溶解固形分)を含有する液状混合物が挙げられる。一般に、TDSは総溶解固形分量を指し、「質量÷体積」あるいは「重量比」で表される。定義によれば、0.45ミクロンのフィルターで濾過した溶液を39.5℃以上40.5℃以下の温度で蒸発させ残留物の重さから算出できるが、より簡便には実用塩分(S)から換算する。
【0082】
流体分離装置の操作圧力は高い方が溶質除去率は向上するが、運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力は、0.5MPa以上、10MPa以下が好ましい。供給水温度は、高くなると溶質除去率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少するので、5℃以上、45℃以下が好ましい。また、供給水pHが高くなると、海水などの高溶質濃度の供給水の場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【0083】
本発明の複合半透膜は、下記の膜透過流束すなわち透水量と、ホウ素除去率の条件を満たすことが好ましい。すなわち、TDS濃度3.5%、5ppmホウ素、pH6.5、温度25℃の条件の供給水を、5.5MPaの操作圧力で透過させたときの膜透過流束が0.9m
3/m
2/日以上であることが好ましい。さらに、ホウ素除去率が下記式を満たすことが好ましい。
ホウ素除去率(%)≧103―10×膜透過流束(m
3/m
2/日)
膜透過流束、及びホウ素除去率がかかる範囲であれば、海水淡水化運転時に高造水量かつホウ素残存量の低い透過水を提供することができる。
【実施例】
【0084】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0085】
比較例、実施例における複合半透膜の各種特性は、複合半透膜に、温度25℃、pH6.5に調整した海水(TDS濃度3.5%、ホウ素濃度約5ppm)を操作圧力5.5MPaで供給して膜ろ過処理を24時間行ない、その後の透過水、供給水の水質を測定することにより求めた。
(溶質除去率(TDS除去率))TDS除去率(%)=100×{1−(透過水中のTDS濃度/供給水中のTDS濃度)}
(膜透過流束)
供給水(海水)の膜透過水量を、膜面1平方メートルあたり、1日あたりの透水量(立方メートル)でもって膜透過流束(m
3/m
2/日)を表した。
(ホウ素除去率)
供給水と透過水中のホウ素濃度をICP発光分析装置(日立製作所製 P−4010)で分析し、次の式から求めた。
ホウ素除去率(%)=100×{1−(透過水中のホウ素濃度/供給水中のホウ素濃度)}
【0086】
(基材の繊維配向度)
不織布からランダムに小片サンプル10個を採取し、走査型電子顕微鏡で100〜1000倍の写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維について、不織布の長手方向(縦方向)を0°とし、不織布の幅方向(横方向)を90°としたときの角度を測定し、それらの平均値を小数点以下第一位を四捨五入して繊維配向度を求めた。
【0087】
(多孔性支持層の単位体積あたりの重量)
複合半透膜を面積44.2cm
2に切り出し、温度25℃、圧力5.5MPaで、純水を24時間通水したあと、複合半透膜を真空下で乾燥した。その後、複合半透膜の重量と膜厚を測定し、さらに複合半透膜から基材を剥離した。その基材の重量と膜厚を測定し、次の式から支持層の単位体積あたりの重量を算出した。
支持層の単位体積あたりの重量(g/cm
3)=(複合半透膜の重量−基材の重量)/(複合半透膜の面積×(複合半透膜の膜厚−基材の膜厚))
【0088】
(多孔性支持層の基材への単位面積あたりの平均含浸量)
5cm×5cmの任意の50点の複合半透膜を真空下で乾燥した後、基材を剥離した。その基材をDMF溶液に24時間浸漬し、洗浄した後真空下で乾燥し、次の式から単位面積あたりの平均含浸量を算出した。
平均含浸量=DMF浸漬前の基材重量―DMF浸漬後の基材重量
また、任意の50点のうち、算出した平均含浸量の1.2倍以上の箇所について、次の式により割合を算出した。
平均含浸量の1.2倍以上である箇所(%)=(平均含浸量の1.2倍以上である箇所の数/50)×100
【0089】
(通気量(mL/cm
2/sec))
JIS L 1906:2000 4.8(1)フラジール形法に基づいて、気圧計の圧力125Paで、30cm×50cmの不織布において任意の45点について測定した。ただし、その平均値は小数点以下第二位を四捨五入した。
【0090】
(高溶質濃度条件下での安定性)
複合半透膜をTDS濃度7.0%、温度25℃、pH8に調整した濃縮海水に100時間浸漬し、浸漬前後での透過流束比とホウ素SP比を求めた。なお、SPとはSubstance Permeation:物質透過の略である。
透過流束比=通水後の透過流束/通水前の透過流束
ホウ素SP比=(100−通水後のホウ素除去率)/(100−通水前のホウ素除去率)
【0091】
(耐圧性)
透過側に透過液流路材(トリコット(厚み:300μm、溝幅:200μm、畦幅:300μm、溝深さ:105μm))を設置し、温度25℃、pH6.5に調整した海水(TDS濃度3.5%)を圧力7.0MPaで1分間×200回通水し、その通水前後での膜厚変化を測定した。また、通水前後の透過流束比とホウ素SP比を求めた。
【0092】
(
13C固体NMR法による分離機能層の官能基分析)
分離機能層の
13C固体NMR法測定を以下に示す。まず本発明に示した製造方法を用いて支持膜上に分離機能層を有する複合半透膜を形成した後、複合半透膜から基材を物理的に剥離させ、多孔性支持層と分離機能層を回収した。25℃で24時間静置することで乾燥させた後、ジクロロメタンの入ったビーカー内に少量ずつ加えて撹拌し、多孔性支持層を構成するポリマーを溶解させた。ビーカー内の不溶物を濾紙で回収し、ジクロロメタンで数回洗浄した。回収した分離機能層は真空乾燥機で乾燥させ、残存するジクロロメタンを除去した。得られた分離機能層は凍結粉砕によって粉末状の試料とし、固体NMR法測定に用いられる試料管内に封入して、CP/MAS法、及びDD/MAS法による
13C固体NMR測定を行った。
13C固体NMR測定には、例えば、Chemagnetics社製CMX−300を用いることができる。得られたスペクトルから、各官能基が結合している炭素原子由来のピークごとにピーク分割を行い、分割されたピークの面積から官能基量を定量した。
【0093】
(XPS測定による分離機能層表面の元素分析)
分離機能層を構成する元素の組成情報は、XPSによって得られる。XPS測定に使用した試料は以下のように準備した。まず本発明に記載した方法に基づいて作製した複合半透膜を25℃で24時間乾燥させた。分離機能層の支持膜とは反対側の表面の元素分析は、特に処理をせずに実施した。一方、分離機能層の支持膜側表面の測定には支持膜を除去する必要があるため、まず支持膜の内基材のみを剥離させた。残った複合膜をシリコンウエハ上に多孔性支持層が表面になるように固定し、ジクロロメタンにより多孔性支持層を溶解させ、分離機能層のみの表面を得た。この試料に対して同様にXPS測定を行い、分離機能層の支持膜側の表面の元素分析を行った。XPS測定には、例えば、VG Scientific社製のESCALAB220iXLを用いることができる。得られたスペクトルデータのC1sピークの中性炭素(CHx)を284.6eVに合わせることで横軸補正を行い、その後各元素のピーク面積を計算した。
【0094】
(TOF−SIMS測定)
複合半透膜を超純水に1日間浸漬することで洗浄した。この膜を真空乾燥機で乾燥させ、TOF−SIMS測定を行った。測定は、ION−TOF社製TOF.SIMS
5を用いて行い、一次イオン種としてBi
3++、1次加速電圧を30kVとして照射した際に生じる二次イオンを飛行時間型質量分析計で測定し、質量スペクトルを得た。
【0095】
(実施例1)
長繊維からなるポリエステル不織布(通気量2.0mL/cm
2/sec)上にポリスルホン(PSf)の18.0重量%DMF溶液を25℃の条件下で200μmの厚みでキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置することによって多孔性支持層を作製した。
得られた支持膜を、m−フェニレンジアミン(m−PDA)の5.5重量%水溶液中に2分間浸漬し、該支持膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、エアーノズルから窒素を吹き付け支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた後、トリメシン酸クロリド(TMC)0.165重量%を含む25℃のn−デカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して1分間静置した。次に、膜から余分な溶液を除去するために膜を1分間垂直に保持して液切りした後、50℃の熱水で2分間洗浄して複合半透膜を得た。
得られた複合半透膜を、pH3、35℃に調整した、亜硝酸ナトリウム0.2重量%水溶液に1分間浸漬した。亜硝酸ナトリウムのpHの調整は硫酸で行った。次に、35℃のアニリン0.3重量%水溶液に1分間浸漬させ、ジアゾカップリング反応を行った。最後に35℃の0.1重量%の亜硫酸ナトリウム水溶液に2分間浸漬した。
【0096】
このようにして得られた複合半透膜の膜性能を評価したところ、膜透過流束、溶質除去率、ホウ素除去率はそれぞれ表2に示す値であった。また、複合半透膜の高溶質濃度条件下での安定性及び耐圧性を評価したところ、透過流束比、およびホウ素SP比は表2に示す通りであった。分離機能層の官能基比率、元素組成、多孔性支持層の単位体積あたり重量、平均含浸量、基材の通気量、および基材の繊維配向度差は、それぞれ表1に示す通りであった。
【0097】
(実施例2〜12)
表1、及び表2に記載した条件以外は実施例1と同様にして、複合半透膜を作製した。得られた複合半透膜を評価したところ、表1、および表2に示す性能であった。
【0098】
(実施例13)
実施例6で得られた複合半透膜を、0.1ppmのポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製、数平均分子量8,000)水溶液に1時間浸漬することで、実施例13における複合半透膜を得た。得られた複合半透膜を評価したところ、表1および表2に示す性能であった。
【0099】
(実施例14)
実施例6で得られた複合半透膜を、1ppmのポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製、数平均分子量8,000)水溶液に1時間浸漬することで、実施例14における複合半透膜を得た。得られた複合半透膜を評価したところ、表1および表2に示す性能であった。高溶質濃度条件下での安定性を測定した後、TOF−SIMSによって分離機能層表面の分析を行ったところ、架橋全芳香族ポリアミド由来のベンゼン環ピーク(
75C
6H
3+)に加え、ポリエチレングリコール由来のピーク(
45C
2H
5O
+)が検出された。
【0100】
(実施例15)
実施例6で得られた複合半透膜を、1000ppmのポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製、数平均分子量8,000)水溶液に1時間浸漬することで、実施例15における複合半透膜を得た。得られた複合半透膜を評価したところ、表1および表2に示す性能であった。高溶質濃度条件下での安定性を測定した後、TOF−SIMSによって分離機能層表面の分析を行ったところ、架橋全芳香族ポリアミド由来のベンゼン環ピーク(
75C
6H
3+)に加え、ポリエチレングリコール由来のピーク(
45C
2H
5O
+)が検出された。
【0101】
(実施例16)
実施例6で得られた複合半透膜を、10000ppmのポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製、数平均分子量8,000)水溶液に1時間浸漬することで、実施例16における複合半透膜を得た。得られた複合半透膜を評価したところ、表1および表2に示す性能であった。高溶質濃度条件下での安定性を測定した後、TOF−SIMSによって分離機能層表面の分析を行ったところ、架橋全芳香族ポリアミド由来のベンゼン環ピーク(
75C
6H
3+)に加え、ポリエチレングリコール由来のピーク(
45C
2H
5O
+)が検出された。
【0102】
(実施例17)
実施例6で得られた複合半透膜を、1ppmのポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製、数平均分子量2,000)水溶液に1時間浸漬することで、実施例17における複合半透膜を得た。得られた複合半透膜を評価したところ、表1および表2に示す性能であった。高溶質濃度条件下での安定性を測定した後、TOF−SIMSによって分離機能層表面の分析を行ったところ、架橋全芳香族ポリアミド由来のベンゼン環ピーク(
75C
6H
3+)に加え、ポリエチレングリコール由来のピーク(
45C
2H
5O
+)が検出された。
【0103】
(実施例18)
実施例6で得られた複合半透膜を、1ppmのポリエチレングリコール(和光純薬工業株式会社製、数平均分子量400)水溶液に1時間浸漬することで、実施例18における複合半透膜を得た。得られた複合半透膜を評価したところ、表1および表2に示す性能であった。
【0104】
(実施例19)
実施例6で得られた複合半透膜を、1ppmのPluronic F−127(シグマアルドリッチ社製)水溶液に1時間浸漬することで、実施例19における複合半透膜を得た。得られた複合半透膜を評価したところ、表1および表2に示す性能であった。高溶質濃度条件下での安定性を測定した後、TOF−SIMSによって分離機能層表面の分析を行ったところ、架橋全芳香族ポリアミド由来のベンゼン環ピーク(
75C
6H
3+)に加え、ポリエチレングリコール由来のピーク(
45C
2H
5O
+)が検出された。
【0105】
(実施例20)
実施例6で得られた複合半透膜を、1ppmのポリアクリル酸(和光純薬工業株式会社製、数平均分子量25,000)水溶液に1時間浸漬することで、実施例20における複合半透膜を得た。得られた複合半透膜を評価したところ、表1および表2に示す性能であった。
【0106】
(比較例1〜3)
表1、及び表2に記載した条件を変更した以外は、実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。
なお、比較例1では、亜硝酸ナトリウム水溶液による処理、及びジアゾカップリング反応を行っていない。得られた複合半透膜を評価したところ、表1および表2に示す性能を示した。
【0107】
(比較例4)
ジアゾカップリング反応条件を変更した以外は、実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。つまり、先に35℃のm−PDA0.3%水溶液に1分間浸漬してから、pH3、35℃に調整した、亜硝酸ナトリウム0.2重量%水溶液に1分間浸漬した。得られた複合半透膜を評価したところ、表1および表2に示す性能を示した。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
表1及び表2より、ポリアミド分離機能層の官能基比率、および酸素/窒素比を制御した実施例1〜20の複合半透膜は、比較例1〜4の複合半透膜よりも、高溶質濃度条件下での膜性能安定性が高いことがわかる。また、基材として繊維配向度差が大きい長繊維不織布を用い、単位体積当たりの重量を制御した多孔性支持層を用いることで、耐圧性が高い複合半透膜が得られることがわかる。
【0111】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2013年2月28日出願の日本特許出願(特願2013−039649)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。