特許第6295975号(P6295975)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6295975
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20180312BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20180312BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20180312BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20180312BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20180312BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/052
   H01M10/0569
   H01M4/525
   H01M4/505
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-27709(P2015-27709)
(22)【出願日】2015年2月16日
(65)【公開番号】特開2015-195180(P2015-195180A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2016年6月24日
(31)【優先権主張番号】特願2014-55362(P2014-55362)
(32)【優先日】2014年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荻原 信宏
(72)【発明者】
【氏名】篠原 朗大
【審査官】 細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/129428(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/052605(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/011507(WO,A1)
【文献】 特開平09−007635(JP,A)
【文献】 特開2001−256998(JP,A)
【文献】 特開2014−240374(JP,A)
【文献】 特開2014−225369(JP,A)
【文献】 Solid-state redox potentials for Li[Me1/2Mn3/2]O4(Me:3d-transition metal) having spinel-framework structures: a series of 5 Volt materials for advanced lithium-ion batteries),Journal of Power Sources,1999年,vol.81−82,pp.90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極との間に非水電解液が介在するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、正極活物質としてLiNi0.5Mn1.54を含有し、
前記非水電解液は、フッ素基を有するフッ素系溶媒に式(I)で表される化合物を含ませた溶媒にリチウム塩を溶解したものであり、前記フッ素系溶媒は、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されたカーボネートであり、前記溶媒は、フッ素含有鎖状エーテル化合物および/またはフッ素含有リン酸エステル化合物を含むものを除く、
リチウムイオン二次電池。
【化1】
(R1及びR2は、それぞれ独立してフッ素原子又は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、前記フルオロアルキル基はエーテル結合、スルホニル結合及びビススルホニルイミド結合からなる群より選ばれた1つ以上を含んでいてもよい。)
【請求項2】
前記式(I)で表される化合物は、下記化合物(1)〜(4)からなる群より選ばれた少なくとも1種である、
請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【化2】
【請求項3】
前記式(I)で表される化合物は、前記フッ素系溶媒100質量部に対して1〜2質量部の割合で添加されている、
請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記フルオロアルキル基は、パーフルオロアルキル基である、
請求項1〜のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、正極と負極との間に非水電解液が介在するリチウムイオン二次電池について、数多くの報告がなされている。例えば、特許文献1では、フッ素系のCF3CH2OCF2CF2Hと非フッ素系のジグライムとエチレンカーボネート(EC)とを混合した非水溶媒に、支持塩であるLiPF6を溶解した非水電解液を用いている。特許文献2では、ジエチレングリコール(2,2,2−トリフルオロエチル)メチルエーテルとCF3CH2OCF2CF2Hとを混合した非水溶媒に、支持塩であるLiPF6を溶解した非水電解液を用いている。特許文献3では、フッ素系エーテルと非フッ素系エーテルの混合溶媒に、支持塩であるLiPF6を溶解した非水電解液を用いている。特許文献4〜6も、フッ素系溶媒を含有する非水溶媒に支持塩を溶解した非水電解液を用いている。一方、非特許文献1〜3には、リチウムイオン二次電池を金属リチウム基準で5V付近で充放電する例が開示されている。正極活物質としては、非特許文献1ではスピネル型リチウムニッケルマンガン酸化物(LiNi0.5Mn1.54)、非特許文献2ではオリビン型リチウムリン酸コバルト(LiCoPO4)、非特許文献3ではオリビン型リチウムリン酸ニッケル(LiNiPO4)を使用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2011/149072号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2011/52605号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2011/136226号パンフレット
【特許文献4】特開2013−41793号公報
【特許文献5】特開2012−190771号公報
【特許文献6】特開2013−161706号公報
【特許文献7】特開2013−101766号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Power Sources vol.81-82, 1999, pp.90-94
【非特許文献2】J. Power Sources vol.196, 2011, pp.8656-8661
【非特許文献3】J. Power Sources vol.142, 2005, pp.389-390
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1〜3では、5V付近で充放電した場合、サイクル特性が悪くなるという問題があった。一方、特許文献1〜7では、フッ素系の種々の非水電解液が開示されているが、5V付近で充放電した場合にサイクル特性が悪化するのを抑制する非水電解液については検討されていない。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、5V級正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池において、良好なサイクル特性を得ることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明者らは、5V級正極活物質を含む正極とリチウム金属箔からなる負極との間に、特定のフッ素化合物を含む溶媒に支持塩を溶解させた非水電解液を介在させた二極式評価セルを作製し、サイクル特性を調べたところ、良好なサイクル特性が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明のリチウムイオン二次電池は、
正極と負極との間に非水電解液が介在するリチウムイオン二次電池であって、
前記正極は、金属リチウム電位基準で5V以上の電位まで充電可能な5V級正極活物質を含有し、
前記非水電解液は、式(I)で表される化合物を含む溶媒にリチウム塩を溶解したものである。
【0009】
【化1】
【0010】
(R1及びR2は、それぞれ独立してフッ素原子又は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、前記フルオロアルキル基はエーテル結合、スルホニル結合及びビススルホニルイミド結合からなる群より選ばれた1つ以上を含んでいてもよい。)
【発明の効果】
【0011】
このリチウムイオン二次電池では、良好なサイクル特性を得ることができる。ここで、サイクル特性とは、金属リチウム電位基準で5V以上の電位まで充電しその後放電するという操作を1サイクルとし、このサイクルを何度も繰り返したあとの充放電特性(例えば容量維持率やクーロン効率など)をいう。このような効果が得られる理由は定かではないが、式(I)で表される化合物が充電時に正極で酸化分解されてガス発生を伴うことなく正極に保護被膜を十分に形成し、その被膜が正極での非水電解液の更なる酸化分解を抑制したためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明のリチウムイオン二次電池の一例を示す模式図。
図2】実施例1−1,1−2及び比較例1−1のサイクル数に対する容量維持率の変化を示すグラフ。
図3】実施例3−1及び比較例3−1,3−2のサイクル数に対する放電容量の変化を示すグラフ。
図4】実施例3−1及び比較例3−1,3−2のサイクル数に対するクーロン効率の変化を示すグラフ。
図5】実施例4−1の1〜10サイクル目の充放電カーブを示すグラフ。
図6】比較例4−1の1〜10サイクル目の充放電カーブを示すグラフ。
図7】比較例4−2の1サイクル目の充放電カーブを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極と負極との間に非水電解液が介在するリチウムイオン二次電池であって、前記正極は、金属リチウム電位基準で5V以上の電位まで充電可能な5V級正極活物質を含有し、前記非水電解液は、前記式(I)で表される化合物を含む溶媒にリチウム塩を溶解したものである。
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極は、正極活物質として金属リチウム電位基準で5V以上の電位まで充電可能な5V級正極活物質を含有する。正極は、この5V級正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。5V級正極活物質としては、LiaNibMncMede(MeはMn,Ni以外の遷移金属元素、Al及びアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の元素であり、a〜eは0.9≦a≦1.2、0.45≦b≦0.55、1.45≦c≦1.55、0≦d≦5.00、3.8≦e≦4.2)で表されるスピネル型リチウムニッケルマンガン酸化物、LiCoPO4で表されるオリビン型リチウムリン酸コバルト、LiNiPO4で表されるオリビン型リチウムリン酸ニッケルなどを用いることができる。なお、遷移金属としては、V,Ti,Cr,Fe,Co,Cu等が挙げられる。このうち、スピネル型リチウムニッケルマンガン酸化物が好ましく、LiNi0.5Mn1.54がより好ましい。導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0015】
本発明のリチウム二次電池の負極は、例えば、負極活物質と集電体とを密着させて形成してもよいし、負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時おける不可逆容量を少なくできるため、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0016】
本発明のリチウムイオン二次電池の非水電解液は、式(I)で表される化合物を含む溶媒にリチウム塩(支持塩)を溶解したものである。式(I)中、R1及びR2は、それぞれ独立してフッ素原子又は炭素数1〜10(好ましくは炭素数1〜4)のフルオロアルキル基であり、フルオロアルキル基はエーテル結合、スルホニル結合及びビススルホニルイミド結合からなる群より選ばれた1つ以上を含んでいてもよい。フルオロアルキル基は、アルキル基の水素原子の少なくとも1つがフッ素原子に置換されたものであり、このうち、アルキル基の水素原子のすべてがフッ素原子に置換されたパーフルオロアルキル基が好ましい。エーテル結合を含むフルオロアルキル基は、−O−R(Rは炭素数1〜10のフルオロアルキル基、以下同じ)で表され、スルホニル結合を含むフルオロアルキル基は、−S(=O)2Rで表され、ビススルホニルイミド結合を含むフルオロアルキル基は、−S(=O)2NLiS(=O)2Rで表される。Rとしては、炭素数1〜4のフルオロアルキル基、すなわち、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基及びtert−ブチル基からなる群より選ばれた一つの基の少なくとも1つの水素原子がフッ素原子に置換されたものが好ましい。
【0017】
式(I)で表される化合物としては、例えば下記式(1)〜(4)の化合物が好ましい。これらの化合物は、本発明の効果を得るうえで適切な耐酸化性及び耐還元性を有しているからである。これに対して、例えば、式(I)においてR1及びR2がともに水素原子又はともにアルキル基である溶媒や、R1がパーフルオロアルキル基でR2が水素原子又は塩素原子である溶媒の場合、適切な耐酸化性及び耐還元性を有していないため、好ましくない。
【0018】
非水電解液に用いられる溶媒は、フッ素基を有するフッ素系溶媒に、式(I)で表される化合物を含ませたものが好ましい。この場合、式(I)で表される化合物は、フッ素系溶媒100質量部に対して1〜2質量部の割合で添加されていることが好ましい。フッ素系溶媒としては、少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換されたカーボネートが好ましい。こうしたカーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネートのうち少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された化合物や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネートのうち少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された化合物や、これらの2種以上を混合したものなどが挙げられる。このうち、エチレンカーボネートやエチルメチルカーボネートのうち少なくとも1つの水素原子がフッ素原子で置換された化合物がより好ましい。なお、こうしたカーボネートのほかに、ガンマブチロラクトン,ガンマバレロラクトンなどの環状エステルのうち少なくとも1つの水素原子がフッ素で置換された化合物などを用いてもよい。
【0019】
また、非水電解液に用いられる溶媒は、フッ素基を有さない非フッ素系溶媒に、式(I)で表される化合物を含ませたものも好ましい。この場合、式(I)で表される化合物は、非フッ素系溶媒100質量部に対して1〜5質量部の割合で添加されていることが好ましい。非フッ素系溶媒としては、フッ素基を有さないカーボネートが好ましい。こうしたカーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネートや、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネートや、これらの2種以上を混合したものなどがあげられる。なお、非フッ素系溶媒を用いた場合に比べて、フッ素系溶媒を用いた方がより良好なサイクル特性が得られるため好ましい。
【0020】
リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1M以上5M以下であることが好ましく、0.5M以上2M以下であることがより好ましい。支持塩の濃度が0.1M以上では、十分な電流密度を得ることができ、5M以下では、電解液をより安定させることができる。
【0021】
【化2】
【0022】
式(I)で表される化合物であってR1,R2が炭素数1〜10のパーフルオロアルキル基の化合物については、米国特許第3324145号及びMacromolecules vol. 26, 1993, pp.5829-5834に記載されている方法を参考にして合成可能である。なお、原料として用いられるパーフルオロアセトンについては、国際公開第2002/04681号のパンフレットに記載されている方法を参考にして合成可能である。また、R1がフッ素原子でR2がパーフルオロアルキル基の化合物については、特開平9−286785号公報に記載されている方法を参考にして合成可能である。その他に、R1が水素原子でR2がフッ素原子の化合物については、Tetrahedron Letters vol. 43, 2002, pp.1503-1505に記載されている方法で、また、R1が水素原子でR2がパーフルオロアルキル基の化合物については、Macromoleculs vol. 26, 1993, pp.5829-5834に記載されている方法で合成可能である。
【0023】
本発明のリチウムイオン二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウムイオン二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0024】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、本発明のリチウムイオン二次電池の一例を示す模式図である。このリチウムイオン二次電池10は、集電体11に正極活物質12を形成した正極シート13と、集電体14の表面に負極活物質17を形成した負極シート18と、正極シート13と負極シート18との間に設けられたセパレータ19と、正極シート13と負極シート18の間を満たす非水電解液20と、を備えたものである。このリチウムイオン二次電池10では、正極シート13と負極シート18との間にセパレータ19を挟み、これらを捲回して円筒ケース22に挿入し、正極シート13に接続された正極端子24と負極シート18に接続された負極端子26とを配設して形成されている。ここでは、正極シート13には、5V級正極活物質が含まれている。また、非水電解液20は、式(I)で表される化合物を含む溶媒に支持塩を溶解させたものである。
【0025】
本実施形態のリチウムイオン二次電池10によれば、良好なサイクル特性を得ることができる。ここで、サイクル特性とは、金属リチウム電位基準で5V以上の電位まで充電しその後放電するという操作を1サイクルとし、このサイクルを何度も繰り返したあとの充放電特性(例えば容量維持率やクーロン効率など)をいう。
【0026】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0027】
本発明を実証する実施例について、比較例と対比しながら以下に説明する。各実施例、各比較例で使用した電解液溶媒や電極を表1に示した。尚、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0028】
【表1】
【0029】
1.正極がLiNi0.5Mn1.54、負極が黒鉛の組合せ−その1
[実施例1−1]
(正極の作製)
5V級正極活物質としてLiNi0.5Mn1.54(戸田工業製)を、導電助材として炭素を、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(クレハ製、KFポリマ)を用い、正極活物質と導電助材とバインダとを質量比で85:10:5となるように混合することで、正極合材を作製した。その正極合材をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)で分散させたペーストを、厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に塗工乾燥させた。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、10cm2の面積に打ち抜いて円盤状の正極を得た。
【0030】
(非水電解液の作製)
モノフルオロエチレンカーボネートとトリフルオロエチルメチルカーボネートとを体積比で50:50の割合で混合した溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように加えて混合溶液とした。その後、この混合溶液100質量部に対して、式(1)に示す2,2−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソランを1質量部含有させて、非水電解液を得た。
【0031】
(負極の作製)
002=0.388nm以下の黒鉛100質量部に対して、d002=0.34nm以上の易黒鉛化炭素を40質量部混合して負極活物質とした。バインダにポリフッ化ビニリデン(クレハ製、KFポリマ)を用い、負極活物質とバインダとを質量比で95:5となるように混合することで、負極合材を作製した。その負極合材をNMPで分散させたペーストを、厚さ10μmの銅箔の両面に塗工乾燥させた。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、10cm2の面積に打ち抜いて円盤状の負極を得た。
【0032】
(二極式評価セルの作製)
上述した正極と負極との間に、上述した非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。
【0033】
(充放電試験)
上述した二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下、1.0mAで4.9Vまで充電した後、1.0mAで3.5Vまで放電させた。この操作を150サイクル行った。初回の放電容量をQ1st、150サイクル後の放電容量をQ150thとして、(Q150th/Q1st)×100(%)を150サイクル後の容量維持率とした。
【0034】
[実施例1−2]
非水電解液を作製する際に混合溶液100質量部に対して式(1)の化合物を2質量部含有させた以外は、実施例1−1と同様にして二極式評価セルを作製し、充放電試験を行った。
【0035】
[比較例1−1]
非水電解液を作製する際に式(1)の化合物を含有させなかった以外は、実施例1−1と同様にして二極式評価セルを作製し、充放電試験を行った。
【0036】
[充放電試験の評価]
5V級正極活物質を含有する正極と炭素質材料の負極との間に非水電解液が介在するリチウムイオン二次電池において、主たる電解液溶媒としてフッ素系溶媒を用いた実施例1−1,1−2及び比較例1−1の充放電試験の結果を図2及び表2に示す。図2及び表2から、フッ素系溶媒に式(1)の化合物を添加した場合、添加しない場合に比べてサイクル特性が向上することがわかった。これは、フッ素系溶媒の耐酸化性が高いことに加えて、式(1)の化合物がフッ素系溶媒の分解を抑制したことによるものと推察される。この場合、フッ素系溶媒100質量部に対して式(1)の化合物を1〜5質量部添加するのが好ましく、1〜2質量部添加するのがより好ましい。
【0037】
2.正極がLiNi0.5Mn1.54、負極が黒鉛の組合せ−その2
[実施例2−1]
非水電解液を作製する際に、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートとを体積比で30:40:30の割合で混合した溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように加えて混合溶液とし、この混合溶液100質量部に対して、式(1)の化合物を1質量部含有させて、非水電解液を得た。それ以外は、実施例1−1と同様にして二極式評価セルを作製し、充放電試験を行った。充放電試験では、150サイクル後の容量維持率に加えて、500サイクル後の容量維持率も測定した。なお、500サイクル後の容量維持率は、500サイクル後の放電容量をQ500thとして、(Q500th/Q1st)×100(%)として求めた。
【0038】
[実施例2−2]
非水電解液を作製する際に、混合溶液100質量部に対して、式(1)の化合物を5質量部含有させて、非水電解液を得た。それ以外は、実施例2−1と同様にして二極式評価セルを作製し、充放電試験を行った。
【0039】
[比較例2−1]
非水電解液を作製する際に式(1)の化合物を含有させなかった以外は、実施例2−1と同様にして二極式評価セルを作製し、充放電試験を行った。
【0040】
[充放電試験の評価]
5V級正極活物質を含有する正極と炭素質材料の負極との間に非水電解液が介在するリチウムイオン二次電池において、主たる電解液溶媒として非フッ素系溶媒を用いた実施例2−1,2−2及び比較例2−1の充放電試験の結果を表2に示す。非フッ素系溶媒に式(1)の化合物を添加した場合、添加しない場合に比べてサイクル特性が向上することが分かった。これは、式(1)の化合物が非フッ素系溶媒の分解を抑制したことによるものと推察される。この場合、非フッ素系溶媒100質量部に対して式(1)の化合物を1〜5質量部添加するのが好ましい。
【0041】
【表2】
【0042】
3.作用極がLiNi0.5Mn1.54、対極がリチウム金属箔の組合せ
[実施例3−1]
(作用極の作製)
5V級正極活物質としてLiNi0.5Mn1.54(戸田工業製)を、導電助材として炭素を、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(クレハ製、KFポリマ)を用い、正極活物質と導電助材とバインダとを質量比で85:10:5となるように混合することで、正極合材を作製した。その正極合材をN−メチル−2−ピロリドンで分散させたペーストを、厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に塗工乾燥させた。その後、塗布シートを加圧プレス処理し、2.05cm2の面積に打ち抜いて円盤状の作用極を得た。
【0043】
(非水電解液の作製)
式(1)に示す2,2−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソランと式(5)に示す1,2−ジフルオロエチレンカーボネートとを質量比で50:50の割合で混合した非水溶媒に、LiPF6を1mol/kgになるように加えて、非水電解液を作製した。
【0044】
【化3】
【0045】
(二極式評価セルの作製)
上述した円盤状の作用極とリチウム金属箔(厚み300μm)からなる対極との間に、上述した非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。
【0046】
(充放電試験)
上述した二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下、0.14mAで5.0Vまで酸化(充電)した後、0.14mAで3.0Vまで還元(放電)させた。この操作を1サイクル行った。その後、同様の充放電試験の条件において70サイクルの試験を行った。サイクル毎の充電容量をQc、放電容量をQdiscとして、(Qdisc/Qc)×100(%)を各サイクルのクーロン効率とした。また、1サイクル目の放電容量を初期容量として、(70サイクル目の放電容量/初期容量)×100(%)を容量維持率とした。
【0047】
[比較例3−1]
エチレンカーボネートとジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように加えて調整した非水電解液を用いた以外は、実施例3−1と同じである。ここで使用した各溶媒は、リチウムイオン二次電池において通常よく使用されるものである。
【0048】
[比較例3−2]
1,2−ジフルオロエチレンカーボネートとジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートを体積比で30:40:30の割合で混合した非水溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように加えて調整した非水電解液を用いた以外は、実施例3−1と同じである。
【0049】
[充放電試験の評価]
実施例3−1及び比較例3−1,3−2のサイクル試験結果を図3及び図4に示す。具体的には、図3には、サイクル数に対する放電容量の変化を示し、図4には、サイクル数に対するクーロン効率の変化を示す。また、表3に初期容量と70サイクル目の放電容量、容量維持率及び70サイクル目のクーロン効率を示す。
【0050】
【表3】
【0051】
表3からわかるように、比較例3−1及び比較例3−2に比べて、実施例3−1は容量維持率が高かった。なお、比較例3−2については、5サイクル目の放電容量が初期容量と比べて大きく落ち込んだことから、5サイクル目でサイクル試験を打ち切った。比較例3−1で用いた電解液を用いてLiCoO2やLiNiO2のような4Vで動作する正極活物質を含む正極と金属リチウム負極からなるセルで評価した場合、サイクル特性は良好であった。このことから、比較例1−1での容量維持率の低下は、5Vで動作する際に電解液が酸化分解を起こしてCOガスやCO2ガスが発生し、被膜が作用極に十分形成されなかったためと考えられる。また、図4及び表3からわかるように、比較例3−1に比べて実施例3−1は全てのサイクルにおいて高いクーロン効率を示した。また、比較例3−2に比べて実施例3−1は初回から5サイクル目までのクーロン効率が高かった。
【0052】
ところで、図示しないが、実施例3−1では、比較例3−1,3−2に比べて、初回の充電過程(酸化)において大きな分極挙動を示し、2サイクル目以降は比較例3−1と実施例3−1はほぼ同様の充放電カーブを示した。このことから、実施例3−1では、初回の充電過程において式(1)の2,2−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソランが酸化分解して作用極上に保護被膜が形成され、その被膜が非水電解液の更なる酸化分解を抑制することでサイクル毎のクーロン効率が高くなり、容量維持率も良好になったものと推察される。比較例3−1のように式(1)のフッ素化合物を含まない非水電解液を用いた場合、作用極に被膜が十分形成されず、作用極上にて継続的に非水電解液の酸化分解が起こるために、容量維持率が低下したものと推察される。
【0053】
また、図示しないが、10サイクル目の充電末期において、比較例3−1では、実施例3−1に比べて充電電位の立ち上がり分の容量が大きかった。これは、比較例3−1では、実施例に比べて電解液の酸化分解量が多かったためと推察される。そのため、実施例3−1では、比較例3−1に比べてクーロン効率が向上したものと考えられる。
【0054】
以上のように、5V級の正極活物質を含む正極を備えたリチウムイオン二次電池において、式(I)で表される化合物を含むフッ素系溶媒にリチウム塩を溶解した非水電解液を用いた場合には、金属リチウム電位基準で5V以上の電位まで充電しその後放電するという操作を1サイクルとし、このサイクルを何度も繰り返したあとの充放電特性(サイクル特性)が向上することが分かった。
【0055】
4.作用極が黒鉛、対極がリチウム金属箔の組合せ
[実施例4−1]
(二極式評価セルの作製)
黒鉛を作用極とし、リチウム金属箔(厚み300μm)を対極として、両電極の間に実施例1−1の非水電解液を含浸させたセパレータ(東レ東燃製)を挟んで二極式評価セルを作製した。
【0056】
(充放電試験)
上述した二極式評価セルを用い、20℃の温度環境下、0.17mAで0.05Vまで放電(還元)した後、0.17mAで1.5Vまで充電(酸化)させた。この操作を10サイクル行った。1サイクル目の充電容量をQ1st、10サイクル後の放電容量をQ10thとして、(Q10th/Q1st)×100(%)を10サイクル後の容量維持率とした。
【0057】
[比較例4−1]
非水電解液を作製する際に、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートとを体積比で30:40:30の割合で混合した溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように加えて混合溶液とし、この混合溶液をそのまま非水電解液とした以外は、実施例4−1と同様にして二極式評価セルを作製し、充放電試験を行った。
【0058】
[比較例4−2]
非水電解液を作製する際に、1,3−ジオキソランと1,2−ジメトキシエタンとを体積比で50:50の割合で混合した溶媒に、LiPF6を1mol/Lになるように加えて混合溶液とし、この混合溶液をそのまま非水電解液とした以外は、実施例4−1と同様にして二極式評価セルを作製し、充放電試験を行った。
【0059】
[充放電試験の評価]
実施例4−1及び比較例4−1の1〜10サイクル目の充放電カーブをそれぞれ図5及び図6に示す。図5及び図6の結果から、比較例4−1に比べて、実施例4−1は、電解液溶媒に式(1)の化合物を含有させたことで、安定した充放電を繰り返すことがわかった。また、比較例4−2の1サイクル目の充放電カーブを図7に示す。図7から、1,3−ジオキソランのようなフッ素基を有さない環状エーテルを溶媒として用いると、Li吸蔵に相当する還元反応は進行するものの、その後のLi放出に相当する酸化反応は起こりにくくなり、容量が著しく減少することがわかった。これはフッ素基を有さない環状エーテルを含む電解液の場合、Li吸蔵時に溶媒がLiイオンに溶媒和したままの状態で黒鉛の層間に挿入され、その後、Li放出が困難になり劣化するコ・インターカレーション(co-intercalation)と称される現象の結果であると思われる(参考文献 Journal of Power Sources 54 (1995) 228-231)。一方、1,3−ジオキソランにフッ素基が導入された式(1)の化合物では、フッ素基により分子のサイズが大きくなるために、黒鉛の層間時に溶媒が挿入されずにLi吸蔵放出を起こすものと推察される。更に、式(1)の化合物を含む電解液では、式(1)の化合物を含まないカーボネート系電解液に比べて、黒鉛と電解液とのより安定な界面を付与することでサイクル性が向上したものと思われる。
【0060】
5.本発明で使用可能なフッ素化合物
上述した実施例で使用した式(1)の2,2−ビストリフルオロメチル−1,3−ジオキソランと同等の性質を有するフッ素化合物を探索した。具体的には、表4に示した式(1)〜(4)、式(C1)〜(C5)の化合物について、HOMO−LUMO準位を計算した。計算には、Gaussian 09(HPCシステムズ社製)を使用し、計算レベルはB3LYP/6-31Gにより構造最適化した。計算結果を表4に示す。なお、HOMOエネルギーは酸化性の程度を示し、数値が小さいほど耐酸化性に優れ、LUMOエネルギーは還元性の程度を示し、数値が大きいほど耐還元性に優れている。
【0061】
【表4】
【0062】
表4から明らかなように、式(1)の化合物は、比較例2−1等で使用した式(C1)のエチレンカーボネートに比べて、HOMOエネルギーが同等でLUMOエネルギーが大きいことから、耐酸化性は同等で耐還元性は優れているといえる。式(C1)のような環状カーボネートの場合、カルボニル基(C=O)の部分で酸化分解して、COガスやCO2ガスが生成することが報告されている(例えばJ. Electrochem. Soc., 156, A563-A571(2009))。充電時に正極で式(C1)の化合物が酸化分解する際にガスが発生すると、正極上の被膜を十分に形成することが困難になると推察される。一方、式(1)の化合物は、構造からみて酸化分解の際にガスが発生しないため、正極上の被膜が十分に形成され、良好なサイクル特性が得られたと推察される。このように、式(1)と式(C1)とは、HOMOエネルギーがほぼ同じであるため耐酸化性は同等と考えられるが、酸化分解時のガスの発生の有無によりサイクル特性に差が生じたと考えられる。式(2)〜(4)の化合物は、式(1)の化合物と比べて、HOMOエネルギーが小さくLUMOエネルギーが大きいことから、耐酸化性も耐還元性も優れているといえる。したがって、式(2)〜(4)の化合物を非水電解液の溶媒に用いた場合には、式(1)の化合物を使用した上述の実施例と同等かそれ以上のサイクル特性が得られると予測される。
【0063】
一方、式(C2)及び式(C3)の化合物は、式(1)や式(C1)の化合物に比べて、HOMOエネルギーが大きいことから耐酸化性が劣る。したがって、これらを式(1)の化合物の代わりに用いたとしても、式(1)の化合物を使用した上述の実施例の性能は得られないと予測される。式(C4)及び式(C5)の化合物は、フッ素化された1,3−ジオキソランではあるが2位に塩素原子又は水素原子を有している。式(C4)の化合物は、式(1)の化合物と比べてHOMOエネルギーが大きいことから耐酸化性が劣り、式(C5)の化合物は式(1)の化合物と比べてLUMOエネルギーが小さいことから耐還元性が劣る。耐酸化性が劣ると、充電時に正極で容易に酸化分解されてしまい、耐還元性が劣ると、充電時に負極で容易に還元分解されてしまうため、いずれも良好なサイクル特性が得られない。したがって、これらを式(1)の化合物の代わりに用いたとしても、式(1)の化合物を使用した上述の実施例の性能は得られないと予測される。
【符号の説明】
【0064】
10 リチウムイオン二次電池、11 集電体、12 正極活物質、13 正極シート、14 集電体、17 負極活物質、18 負極シート、19 セパレータ、20 非水電解液、22 円筒ケース、24 正極端子、26 負極端子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7