【実施例1】
【0015】
図1に示されるように、温度センサ回路1は、1チップ化された回路であり、発振回路2、分周回路3、遅延回路4、遅延時間計測回路5及び切換信号生成回路6を備える。
【0016】
発振回路2は、相対的に低い周波数の低速クロック信号CLK1と相対的に高い周波数の高速クロック信号CLK2を生成するように構成されている。これらクロック信号CLK1,CLK2は、例えばデューティー比が50%の矩形波である。分周回路3は、低速クロック信号CLK1を低い周波数の低周波信号S1に変換するように構成されている。分周回路3は、例えば低速クロック信号CLK1の周波数を1/1024倍又は1/2048倍に低周波化する。遅延回路4は、低周波信号S1を遅延させた遅延信号S2を生成するように構成されている。遅延時間計測回路5は、低周波信号S1と遅延信号S2の時間差(遅延信号S2の遅延時間に相当する)を低速クロック信号CLK1と高速クロック信号CLK2のクロック数に基づいて計測するように構成されている。後述するように、遅延時間計測回路5は、低速クロック信号CLK1と高速クロック信号CLK2のうちの選択されたクロック信号を用いて、低周波信号S1と遅延信号S2の時間差(遅延信号S2の遅延時間に相当する)を計測するように構成されている。遅延時間計測回路5は、低周波信号S1の立ち上がりでカウンタ値をリセットし、遅延信号S2の立ち上がりでカウンタ値をラッチするように構成されている。また、遅延時間計測回路5は、その計測されたクロック数をデジタルの温度情報Doutとして出力するように構成されている。切換信号生成回路6は、遅延時間計測回路5で計測されたクロック数に基づいて切換信号SS1を生成するように構成されている。
【0017】
図2に示されるように、発振回路2は、低速クロック信号生成回路2A、高速クロック信号生成回路2B及びスイッチ回路SW1を有する。低速クロック信号生成回路2Aは、低速クロック信号CLK1を生成するように構成されている。高速クロック信号生成回路2Bは、高速クロック信号CLK2を生成するように構成されている。スイッチ回路SW1は、切換信号生成回路6からの切換信号SS1に基づいて、低速クロック信号生成回路2Aと高速クロック信号生成回路2Bのいずれか一方を選択するように構成されている。
【0018】
図3に示されるように、発振回路2の低速クロック信号生成回路2A及び高速クロック信号生成回路2Bの各々は、第1インバータINV1の複数個がリング状に接続されたリングオシレータで構成されている。低速クロック信号生成回路2Aと高速クロック信号生成回路2Bの各々の第1インバータINV1の段数が異なっており、これにより、発振されるクロック信号CLK1,CLK2の周波数が異なる。この例では、低速クロック信号生成回路2Aの段数が、高速クロック信号生成回路2Bの段数よりも多い。例えば、低速クロック信号生成回路2Aは、15段の第1インバータINV1を有する。高速クロック信号生成回路2Bは、3段の第1インバータINV1を有する。
【0019】
図4に示されるように、遅延回路4は、第2インバータINV2の複数個が直列に接続されたインバータチェーンで構成されている。例えば、インバータチェーンは、50段の第2インバータINV2を有する。
【0020】
図5に示されるように、リングオシレータの第1インバータINV1とインバータチェーンの第2インバータINV2はいずれも、正電源ライン(Vddライン)と負電源ライン(Vss)の間に直列に接続された第1トランジスタTr1と第2トランジスタTr2を有するCMOSを備える。第1トランジスタTr1は、p型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)であり、ソースがVddラインに接続されており、ドレインが第2トランジスタTr2のドレインに接続されている。第2トランジスタTr2は、n型のMOSFETであり、ドレインが第1トランジスタTr1のドレインに接続されており、ソースが負電源ラインVssに接続されている。第1トランジスタTr1と第2トランジスタTr2の接続点が、次段のCMOSインバータを構成するトランジスタのゲートに接続されている。
【0021】
温度センサ回路1では、リングオシレータの第1インバータINV1を構成するトランジスタTr1,Tr2によるチャネル長変調効果とインバータチェーンの第2インバータINV2を構成するトランジスタTr1,Tr2によるチャネル長変調効果が異なるように構成されていることを特徴としている。具体的には、ゲート幅を一定としたときに、リングオシレータの第1インバータINV1を構成するトランジスタTr1,Tr2のゲート長が、インバータチェーンの第2インバータINV2を構成するトランジスタTr1,Tr2のゲート長よりも短く構成されている。なお、この例では、第1インバータINV1の第1トランジスタTr1のゲート長が第2インバータINV2の第1トランジスタTr1のゲート長よりも短く、さらに、第1インバータINV1の第2トランジスタTr2のゲート長が第2インバータINV2の第2トランジスタTr2のゲート長よりも短い。この例に代えて、第1インバータINV1の第1トランジスタTr1と第2トランジスタTr2のいずれか一方のゲート長のみが短くてもよい。
【0022】
通常、トランジスタTr1,Tr2は、低温よりも高温で動作電流が小さくなり、動作速度が低下する。このため、リングオシレータの第1インバータINV1では、低温よりも高温で動作速度が低下するので、発振するクロック信号CLK1,CLK2の周期が増加する(周波数が低下する)。すなわち、クロック信号CLK1,CLK2の周期は、温度に対して略一次関数で増加する正の温度依存特性を有している。また、インバータチェーンの第2インバータINV2でも、低温よりも高温で動作速度が低下するので、遅延信号S2の遅延時間が増加する。すなわち、遅延信号S2の遅延時間も、温度に対して略一次関数で増加する正の温度依存特性を有している。ここで、チャネル長変調効果とは、IV特性の飽和領域における電流増加量をいう。このため、チャネル長変調効果が異なるとは、IV特性の飽和領域における電流増加量が異なることをいう。本実施例では、リングオシレータの第1インバータINV1を構成するトランジスタTr1,Tr2のゲート長がインバータチェーンの第2インバータINV2を構成するトランジスタTr1,Tr2のゲート長よりも短いので、IV特性の飽和領域における電流増加量に関しては、リングオシレータの第1インバータINV1を構成するトランジスタTr1,Tr2の方がインバータチェーンの第2インバータINV2を構成するトランジスタTr1,Tr2よりも大きい。このため、低温から高温に変化したときに、リングオシレータのトランジスタTr1,Tr2での電流変化量は相対的に小さく、インバータチェーンのトランジスタTr1,Tr2での電流変化量は相対的に大きくなる。この結果、低温から高温に変化したときに、リングオシレータの動作速度の低下量が相対的に小さく、インバータチェーンの動作速度の低下量が相対的に大きくなる。
【0023】
温度センサ回路1では、リングオシレータの第1インバータINV1を構成するトランジスタTr1,Tr2のチャネル長変調効果とインバータチェーンの第2インバータINV2を構成するトランジスタTr1,Tr2のチャネル長変調効果が異なっており、このため、本実施例では、低温から高温に変化したときに、リングオシレータの動作速度の低下量とインバータチェーンの動作速度の低下量が異なっており、リングオシレータで生成されるクロック信号CLK1,CLK2の温度依存特性とインバータチェーンで生成される遅延信号S2の温度依存特性が異なっている。前記したように、クロック信号CLK1,CLK2の周期は、温度に対して略一次関数で増加する正の温度依存特性を有している。遅延信号S2の遅延時間も、温度に対して略一次関数で増加する正の温度依存特性を有している。さらに、遅延信号S2の遅延時間の温度に対する変化率(基準温度の遅延時間を「1」としたときの任意温度における遅延時間の比)がクロック信号CLK1,CLK2の周期の温度に対する変化率(基準温度の周期を「1」としたときの任意温度における周期の比)よりも大きい関係となっており、双方の温度依存特性が異なっている。
【0024】
このように、リングオシレータで生成されるクロック信号CLK1,CLK2の温度依存特性とインバータチェーンで生成される遅延信号S2の温度依存特性が相違していると、遅延時間計測回路5で計測されるクロック数が温度に対して変動する。温度センサ回路1では、クロック信号CLK1,CLK2の温度依存特性と遅延信号S2の温度依存特性の相違を利用して温度情報Doutを得ることができる。
【0025】
図6に、温度センサ回路1が遅延時間を計測する様子を示す。この例では、タイミングT1からタイミングT2までの時間が遅延時間に相当する。タイミングT1が低周波信号S1の立ち上がりに対応し、タイミングT2が遅延信号S2の立ち上がりに対応する(
図1及び
図4参照)。
【0026】
温度センサ回路1は、仮計測と実計測を実行することを特徴とする。仮計測では、低速クロック信号CLK1のみを用いて遅延時間を計測することを特徴とする。実計測では、低速クロック信号CLK1と高速クロック信号CLK2を用いて遅延時間を計測することを特徴とする。実計測において、低速クロック信号CLK1から高速クロック信号CLK2に切換えるタイミングは、遅延時間の計測を始めてからの時間が設定値に達した時である。具体的には、低速クロック信号CLK1から高速クロック信号CLK2を切換えるタイミングは、遅延時間の計測を始めてからの低速クロック信号CLK1のクロック数が設定数に達した時である。この設定数は、仮計測で計測された低速クロック信号CLK1のクロック数から所定クロック数を減じて計算される。
【0027】
低速クロック信号CLK1から高速クロック信号CLK2を切換えるタイミングは、切換信号生成回路6(
図1参照)によって制御される。
図7に示されるように、切換信号生成回路6は、減算回路11、レジスタ13、比較回路15、計測回数記録回路17及びAND回路19を有する。
【0028】
D
C1は、遅延時間計測回路5から出力されるデジタルのカウント値であり、仮計測で計測された低速クロック信号CLK1のクロック数に対応する。Kは、予め決められているデジタルの所定値である。所定値Kは、固定された値であってもよく、適宜変更可能な値であってもよい。減算回路11は、カウンタ値D
C1から所定値Kを減じた値(D
C1−K)を計算する。値(Dc1−K)は、実計測において、低速クロック信号CLK1から高速クロック信号CLK2に切換えるタイミングを決める設定数である。レジスタ13は、設定数(Dc1−K)を記憶する。
【0029】
Dc2は、遅延時間計測回路5から出力されるデジタルのカウント値であり、実計測で計測される低速クロック信号CLK1のクロック数に対応する。比較回路15は、カウンタ値Dc2が設定数(Dc1−K)を上回ったときに、出力をローからハイに切り換える。計測回数記録回路17は、1ビットメモリであり、仮計測のときにローを出力し、実計測のときにハイを出力する。AND回路19は、実計測であってカウンタ値D
C2が設定数(Dc1−K)を上回ったときに、即ち、実計測において遅延時間の計測を始めてからの低速クロック信号CLK1のクロック数が設定数(Dc1−K)に達した時に切換信号SS1を出力する。
【0030】
図1及び
図2に示されるように、発振回路2は、切換信号SS1が入力されると、スイッチSW1の接続先を低速クロック信号生成回路2Aから高速クロック信号生成回路2Bに変更し、遅延時間計測回路5に提供するクロック信号を低速クロック信号CLK1から高速クロック信号CLK2に切換える。このように、切換信号生成回路6は、実計測において、低速クロック信号CLK1から高速クロック信号CLK2に切換えるタイミングを制御することができる。
【0031】
温度センサ回路1の遅延時間計測回路5は、温度情報Doutとして、設定値(Dc1−K)及び高速クロック信号CLK2によるカウンタ値を提供する。高速クロック信号CLK2によるカウンタ値は、実計測において、切換信号生成回路6の切換信号SS1に同期して遅延時間計測回路5のカウンタ値をリセットすることで得られる。このように、温度センサ回路1は、実計測において、低速クロック信号CLK1を用いて計測されたカウント数及び高速クロック信号CLK2を用いて計測されたカウンタ数を温度情報Doutとして出力することができる。
【0032】
温度センサ回路1では、高速クロック信号CLK2を用いて計測する時間は、所定値Kに基づいて固定される。例えば、温度センサ回路1が測定する温度は、環境変化に追随して大きく変動するものであり、このため、計測しようとする遅延時間の変動も大きい。例えば、温度が上昇して遅延時間が長くなっても、温度センサ回路1では、高速クロック信号で計測する時間が大きく変動することがない。このため、遅延時間計測回路5のカウンタのビット不足の懸念は解消される。温度センサ回路1は、計測しようとする遅延時間の変動が大きいような場合にも、良好に遅延時間の計測が可能であり、温度情報Doutを良好に得ることができる。
【0033】
図2に示されるように、上記の温度センサ回路1の発振回路2は、スイッチ回路SW1の接続先を低速クロック信号生成回路2Aから高速クロック信号生成回路2Bに変更することで、遅延時間計測回路5に提供するクロック信号を低速クロック信号CLK1から高速クロック信号CLK2に切換える。これに代えて、発振回路2のリングオシレータは、ブートストラップ式のCMOSインバータで構成されてもよい。
【0034】
図8に示されるように、ブートストラップ式のCMOSインバータである第1インバータINV1は、
図5の例と対比すると、複数のスイッチ回路SW2,SW3,SW4,SW5及び複数のキャパシタC1,C2を有する。スイッチ回路SW2,SW3は、第1トランジスタTr1のゲートにキャパシタC1を接続した状態と接続しない状態を切換えるように構成されている。スイッチ回路SW4,SW5は、第2トランジスタTr2のゲートにキャパシタC2を接続した状態と接続しない状態を切換えるように構成されている。
【0035】
このブートストラップ式の第1インバータINV1では、切換信号生成回路6の切換信号SS1が入力するとブートストラップが有効となり、スイッチ回路SW2,SW3が第1トランジスタTr1のゲートにキャパシタC1を接続し、スイッチ回路SW4,SW5が第2トランジスタTr2のゲートにキャパシタC2を接続する。キャパシタC1には、第1トランジスタTr1のゲート側が負となるように電荷が予め充電されており、これにより、第1トランジスタTr1は高速動作が可能となる。キャパシタC2には、第2トランジスタTr2のゲート側が正となるように電荷が予め充電されており、これにより、第2トランジスタTr2は高速動作が可能となる。
【0036】
このように、温度センサ回路1の発振回路2のリングオシレータにブートストラップ式の第1インバータINV1を採用すると、
図5の例のように、低速クロック信号生成回路2Aと高速クロック信号生成回路2Bを個別に用意する必要がなく、回路資源の消費を抑えることができる。また、高速クロック信号CLK2を必要なときだけ生成することができるので、消費電力を低く抑えることができる。
【0037】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。