(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
制御対象の目標温度であるランプ状の変化を含む温度設定値と、前記制御対象の測定温度である温度測定値とから2自由度PID演算により操作量を算出し、前記操作量にしたがって前記制御対象の温度を制御するコントローラと、
前記コントローラにより温度制御が実行される制御タイミング毎に、前記コントローラによる第1の操作量の算出に用いられる2自由度PID演算の積分時間と、前記2自由度PID演算において前記温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数とを用いて、前記温度設定値を補正する設定値補正部と
を備えた温度制御装置。
前記設定値補正部は、前記コントローラにより温度制御が実行される制御タイミング毎に、前記コントローラによる温度制御のための前記PID演算の積分時間と、前記2自由度PID演算において温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数とを用いて、補正する時間を算出して、前記温度設定値の前記補正する時間後の設定値を補正した設定値とすることを特徴とすることを特徴とする請求項1記載の温度制御装置。
前記設定値補正部は、前記温度設定値の傾きを示す微分値と、前記2自由度PID演算の積分時間と、前記2自由度PID演算において温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数とを用いて、前記温度設定値を補正する温度設定バイアス値を算出し、前記温度設定値に前記温度設定バイアス値を加算して補正することを特徴とする請求項1記載の温度制御装置。
前記設定値補正部は、前記昇温完了時刻同期用温度設定値の傾きを示す微分値と、前記第2のコントローラの2自由度PID演算の積分時間と、前記第2のコントローラの2自由度PID演算において温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数とを用いて、前記昇温完了時刻同期用温度設定値を補正する温度設定バイアス値を算出し、前記昇温完了時刻同期用温度設定値に前記温度設定バイアス値を加算して補正することを特徴とすることを特徴とする請求項4記載の温度制御装置。
コントローラが、制御対象の目標温度であるランプ状の変化を含む温度設定値と、前記制御対象の測定温度である温度測定値とから2自由度PID演算により操作量を算出し、前記操作量にしたがって前記制御対象の温度を制御する温度制御処理ステップと、
設定値補正部が、前記温度制御処理ステップで温度制御が実行される制御タイミング毎に、前記コントローラによる第1の操作量の算出に用いられる2自由度PID演算の積分時間と、前記2自由度PID演算において前記温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数とを用いて、前記温度設定値を補正する設定値補正処理ステップと
を備えた温度制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
図1(a)はこの発明の実施の形態1による温度制御装置を示す構成図である。
温度制御装置は、コントローラ1、ヒータ16、制御対象17で構成される。コントローラ1は、目標温度設定部11、設定値補正部12、温度測定部13、2自由度PID演算部14及び出力部15を備えている。
【0017】
目標温度設定部11はユーザインタフェース(例えば、温度設定用のボタン、タッチパネルなど)を有し、制御対象17の目標温度である温度設定値SV
nの設定を受け付ける処理を実施する。なお、実施の形態1における温度設定値SV
nは、
図1(b)に示すように一定の傾きΔSV
nで一定値である温度設定値SVまで変化する温度設定値を例に説明する。
設定値補正部12は、遅れ時間算出部18と設定値遅れ補償部19を備えており、コントローラ1により温度制御が実行される制御タイミング毎に、補正した温度設定値SV’
nを算出する。
遅れ時間算出部18は目標温度設定部11により設定された目標温度SV
nを補正する時間である遅れ時間を算出する。
設定値遅れ補償部19は遅れ時間算出部18により算出された遅れ時間で、目標温度設定部11により設定された温度設定値SV
nを補正して、補正した温度設定値SV’
nを算出する。
図1(c)は目標温度SV
nと補正した温度設定値SV’
nを示している。
【0018】
温度測定部13は制御対象17の温度を測定する温度測定器であり、制御対象17の温度測定値PV
nを算出する。
2自由度PID演算部14は目標値フィルタ演算部20と微分先行型PID演算部21を備えており、コントローラ1により温度制御が実行される制御タイミング毎に、操作量MV
nを算出する。
目標値フィルタ演算部20は設定値補正部12により算出された補正後の温度設定値SV’
nを目標値フィルタ演算処理して設定値SV”
nを算出する。
微分先行型PID演算部21は目標値フィルタ演算部20により算出された設定値SV”
nと温度測定部13により算出された温度測定値PV
nを微分先行型PID演算処理して操作量MV
nを算出する。
【0019】
出力部15は2自由度PID演算部14により算出された操作量MV
nをヒータ16を駆動する電気信号に変換して、その電気信号をヒータ16に出力する回路である。
ヒータ16の加熱部は制御対象17を加熱する熱源である。
なお、nは温度制御開始時からn番目の制御タイミングを示す変数である。
【0020】
次に動作について説明する。
この実施の形態1では、コントローラ1が、制御対象17の温度が目標温度設定値である温度設定値SV
nになるように、一定周期の制御タイミングで温度制御を実施するものとする。
コントローラ1が温度制御を開始する前に、ユーザが目標温度設定部11のユーザインタフェースを操作して、制御対象17の目標温度設定値である温度設定値SV
nを設定する。
ここでは、ユーザが手動で温度設定値SV
nを設定する例を示しているが、外部から温度設定値SV
nが自動的に設定されるものであってもよい。
【0021】
コントローラ1は、例えば、外部から温度制御の開始要求を受けると、制御対象17の温度制御を開始する。
即ち、コントローラ1の2自由度PID演算部14は、例えば、外部から温度制御の開始要求を受けると、目標温度設定部11から出力された温度設定値SV
nを設定値補正部12で補正した温度設定値SV’
nと、温度測定部13から出力された制御対象17の温度測定値PV
n(温度制御の開始時に測定された制御対象17の温度)とから2自由度PID演算に基づき操作量MV
nを算出する。
出力部15は、2自由度PID演算部14が操作量MV
nを算出すると、その操作量MV
nをヒータ16を駆動する電気信号に変換して、ヒータ16による加熱を制御することで制御対象17の温度を制御する。
【0022】
ここで、
図3は実施の形態1による温度制御装置の2自由度PID演算部14における目標値フィルタ演算部20と微分先行型PID演算部21との演算処理を示すブロック線図である。
目標値フィルタ演算部20は、係数aのブロック22と、係数(1−a)のブロック23と、フィルタ演算のブロック24と、加え合わせ点25とから構成されている。
図3において、係数aは温度設定値SV
nの設定変化に対する制御応答を指定する係数(2自由度係数)、2自由度係数aは0〜1の値をとる。
また、一般的にa=0のときをI−PD制御演算、a=1のときを微分先行型PID(PI−D)と呼び、0<a<1のときI−PD制御演算と微分先行型PID(PI−D)の中間的な制御演算になる。
また、K
Pは比例ゲイン、T
Dは微分時間、T
Iは積分時間である。
【0023】
目標値フィルタ演算部20の動作について以下に説明する。ここでは、目標値フィルタ演算部20の動作を分かり易く説明するため、目標値フィルタ演算部20の入力を補正する前の温度設定値をSV
nとした場合で説明する。
図3のブロック線図から分かるように、係数aのブロック22は、温度設定値SV
nに2自由度係数aをかける処理を実施し「SV
n×a」を算出する。係数(1−a)のブロック23は、温度設定値SV
nに(1−a)をかける処理を実施し「SV
n×(1−a)」を算出する。フィルタ演算のブロック24は、係数(1−a)のブロック23で算出された「SV
n×(1−a)」に対し1次遅れフィルタ演算処理した値を算出する。加え合わせ点25は、フィルタ演算のブロック24で算出した値と、係数aのブロック22で算出された「SV
n×a」とを加算して設定値SVチルダ
n(明細書の文章中では、電子出願の関係上、文字の上に“〜”の記号を付することができないので、SVチルダ
nのように表記している)を算出する。
図4(a)はa=1のときの温度設定値SV
nと目標値フィルタ演算処理されたSVチルダ
nと温度測定値PV
nを、
図4(b)はa=0.5のときの温度設定値SV
nと目標値フィルタ演算処理されたSVチルダ
nと温度測定値PV
nを、
図4(c)はa=0のときの温度設定値SV
nと目標値フィルタ演算処理されたSVチルダ
nと温度測定値PV
nを示している。
図4(a)から(c)に示すように、目標値フィルタ処理された温度設定値SVチルダ
nは、温度設定値SV
nを「T
I×(1−a)」(時間)だけ遅らせた設定信号に漸近する温度設定値SVチルダ
nになる。この現象はランプ信号と1次遅れフィルタの関係として一般的に知られている事象に基づいているため説明を省略する。
【0024】
微分先行型PID演算部21は、目標値フィルタ演算部20で算出されたSVチルダ
nと、温度測定値PV
nとから操作量MV
nを算出する。目標値フィルタ演算部20で算出されたSVチルダ
nは、温度設定値SV
nから「T
I×(1−a)」だけ時間的に遅れた設定値に漸近する温度設定値であり、微分先行型PID演算はその温度設定値SVチルダ
nと温度測定値PV
nの差がゼロになるように制御するため、温度測定値PV
n(制御量)は
図4(a)から(c)に示すように温度設定値SV
nに対して約「T
I×(1−a)」だけ遅れる。
【0025】
そこで、この実施の形態1では、設定値補正部12の処理によって、目標温度設定部11の設定値SV
nを予め「T
I×(1−a)」だけ時間を進めた設定値SV’
nに補正することにより、2自由度係数aがどの様な値であっても、目標値フィルタ演算に起因する温度測定値PV
n(制御量)の遅れを適切に補償するようにしている。
図5は、実施の形態1により制御した場合の温度設定値SV
nと、補正した温度設定値SV’
nと制御量PV
nの関係を示している。
図5(a)はa=1の場合の温度設定値SV
nと補正した温度設定値SV’
nと制御量PV
nとの関係を、
図5(b)はa=0.5の場合の温度設定値SV
nと補正した温度設定値SV’
n制御量PV
nとの関係を、
図5(c)はa=0の場合の温度設定値SV
nと補正した温度設定値SV’
nと制御量PV
nとの関係をそれぞれ示している。
以下、制御対象17の温度は補正した温度設定値SV’
nに従って、制御タイミングn毎に、制御対象17の温度測定値PV
nを得て、操作量MV
nを算出しながら、制御対象17の温度を制御する。
【0026】
制御を開始すると(
図2のステップST1)、制御タイミングn毎に(
図2のステップST2)、設定値補正部12が、2自由度PID演算部14に設定されている積分時間T
Iと2自由度係数a(
図3の2自由度係数a)とを取得して、下記の式(1)に示すように、2自由度PID演算の積分時間T
Iと、1から2自由度係数aを減算した(1−a)とを乗算することで、目標値フィルタ演算部20により補正された温度設定値SV’
nの遅延時間「T
I×(1−a)」を算出する(
図2のステップST3)。
T
L=T
I×(1−a) (1)
設定値補正部12は、n回目(n=1,2,・・・)の制御タイミング毎に(
図2のステップST3)、目標温度設定部11により設定が受け付けられた温度設定値SV
nを、上記の式(1)で算出した遅延時間「T
I×(1−a)」分だけ温度設定値SV
nの時間を早めた値を、補正後の温度設定値SV’
nとして算出する(
図2のステップST4)。
【0027】
2自由度PID演算部14は、n回目(n=1,2,・・・)の制御タイミング毎に、設定値補正部12から出力された補正後の温度設定値SV’
nと、温度測定部13から出力された制御対象17の温度測定値PV
n(n回目の制御タイミングで測定された制御対象17の温度)とから、2自由度PID制御演算を実施することにより、出力部15に対する操作量MV
nを算出する(ステップST5)。
【0028】
2自由度PID演算部14は、n回目(n=1,2,・・・)の制御タイミング毎に、算出した操作量MV
nを出力部15に出力する(ステップST6)。
制御対象17の温度制御が終了するまで、ステップST3〜ST6の処理が繰り返し実施される(ステップST7)。
出力部15は、2自由度PID演算部14から出力された操作量MV
nを、ヒータ16を駆動する電気信号に変換してヒータ16の加熱を制御することで、制御対象17の温度を制御する。
【0029】
図5は実施の形態1の方法により、温度設定値SV
nを補正した温度設定値SV’
nを設定値として2自由度PID制御した結果、温度設定値SV
nに対する温度測定値PV
nの遅れが発生しない温度制御例を示す説明図である。
図5(a)はa=1の場合の温度設定値SVnと補正した温度設定値SV’
nと制御量PV
nとの関係を、
図5(b)はa=0.5の場合の温度設定値SVnと補正した温度設定値SV’
nと制御量PV
nとの関係を、
図5(c)はa=0の場合の温度設定値SVnと補正した温度設定値SV’
nと制御量PV
nとの関係をそれぞれ示している。
なお、2自由度係数a=1の場合、式(1)の右辺が0になるので温度設定値SVの補正が行われない。即ち、温度設定値SV
nと、補正した温度設定値SV’
nと、目標値フィルタを通した温度設定値SV“
nとは同じ値なので、
図5(a)と
図4(a)は同じになる。
【0030】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、コントローラ1により温度制御が実行される制御タイミング毎に、2自由度PID演算部14による操作量MV
nの算出に用いられる2自由度PID演算の積分時間T
Iと、1から2自由度係数aを減算した(1−a)とを乗算した結果の値である(T
I×(1−a))だけ、目標温度設定部11により設定が受け付けられた温度設定値SV
nの時間を早めた値を設定値とすることで、補正後の温度設定値SV’
nを算出する設定値補正部12を備えるように構成したので、制御対象17の温度設定値SVがランプ状に変化する場合でも、温度設定値SVに対する制御対象17の温度の遅れの発生を抑えることができる効果を奏する。
【0031】
この実施の形態1では、設定値補正部12が、2自由度PID演算部14に設定されている積分時間T
Iと2自由度係数aとを取得して、2自由度PID演算の積分時間T
Iと、1から2自由度係数aを減算した(1−a)とを乗算し、その乗算した結果(T
I×(1−a))だけ、温度設定値SV
nの時間を早めた値を補正後の温度設定値SV’
nとして算出することで、補正後の温度設定値SV’
nを算出するものを示している。
設定値補正部12が、(T
I×(1−a))だけ温度設定値SV
nの時間を早めた値を用いずに、温度設定値SV
nの傾きを示す微分値ΔSV
nと、2自由度PID演算の積分時間T
Iと、1から2自由度係数aを減算した(1−a)とを乗算し、その乗算した結果(ΔSV
n×T
I×(1−a))を温度設定値SV
nに加算した値を補正後の温度設定値SV’
nとして算出するようにしてもよい。ただし、(ΔSV
n×T
I×(1−a))を温度設定値SV
nに加算した値が、この実施の形態1において、最終的に到達する温度設定値である設定値SVより大きい場合は、温度設定値SVを補正後の温度設定値SV’
nとする。
【0032】
実施の形態2.
この実施の形態2では、温度制御装置が、2つの温度制御ゾーンの温度を制御する例を説明する。2つの温度制御ゾーンの中で、目標温度である温度設定値に到達するまでの時間が遅い温度制御ゾーン(第2の制御対象)をマスターCHと称し、目標温度である温度設定値に到達するまでの時間が早い温度制御ゾーン(第1の制御対象)をスレーブCHと称する。
また、マスターCHを加熱するヒータを制御するコントローラをマスターコントローラと称し、スレーブCHを加熱するヒータを制御するコントローラをスレーブコントローラと称する。
【0033】
この実施の形態2では、マスターコントローラとスレーブコントローラの昇温完了時刻を同期させることを想定しているが、昇温完了時刻の同期方法については特に問わず、公知の方法を用いるものとする。
例えば、上記の特許文献1に開示されている昇温完了時刻の同期方法を用いることができ、この同期方法では、コントローラの制御タイミング毎に、目標温度に到達するまでの時間が最も遅い温度制御ゾーン(マスターCH)の温度設定値に対する温度測定値の到達率(=(温度測定値−温度測定値の初期値)/(温度設定値−温度測定値の初期値))を算出し、その到達率と他の温度制御ゾーン(スレーブCH)の温度設定値と温度測定値の初期値とを用いて、他の温度制御ゾーン(スレーブCH)の温度設定値を補正するようにしている。
【0034】
図6はこの発明の実施の形態2による温度制御装置を示す構成図であり、
図6において、
図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
コントローラ1はスレーブCHを加熱するヒータ16を制御するスレーブコントローラである。
コントローラ1は、目標温度設定部11、設定値補正部12、温度測定部13、2自由度PID演算部14、出力部15及び同期用温度設定値算出部28を備えている。コントローラ1の設定値補正部12は補正バイアス算出部27と加え合わせ点26で構成されている。
この実施の形態2では、コントローラ2が取り扱う各々の値は、温度設定値SV
master(第2の温度設定値)、温度測定値PV
master−n(第2の温度測定値)、目標値フィルタ演算処理された設定値SV”
master−n(第2の目標値フィルタ演算処理された設定値)及び操作量MV
master−n(第2の操作量)とし、コントローラ1が取り扱う各々の値は単に、温度設定値SV
n、昇温完了時刻同期用温度設定値SVハット
n(明細書の文章中では、電子出願の関係上、文字の上に“^”の記号を付することができないので、SVハット
nのように表記している)、補正後の温度設定値SV’
n、目標値フィルタ演算処理された設定値SV”
n、温度測定値PV
n及び操作量MV
nのように表記する。
【0035】
コントローラ2はマスターCHを加熱するヒータを制御するマスターコントローラである。
即ち、コントローラ2は目標温度設定部29、温度測定部30、2自由度PID演算部31及び出力部32を備え、第2の制御対象である制御対象34の目標温度である温度設定値SV
masterと、制御対象34の測定温度である温度測定値PV
master−nとから操作量MV
slave−nを算出して出力部32に出力し、出力部32は操作量MV
slave−nをヒータ33を駆動する電気信号に変換してヒータ33に出力することにより制御対象34の温度を制御する。
【0036】
コントローラ2の目標温度設定部29はユーザインタフェース(例えば、温度設定用のボタン、タッチパネルなど)を有し、制御対象34の目標温度である温度設定値SV
masterの設定を受け付ける処理を実施する。
コントローラ2の温度測定部30は制御対象34の温度を測定する温度測定器であり、その測定結果である温度測定値PV
master−nを2自由度PID演算部31に出力する。nは温度制御開始時からn番目の制御タイミングを示す変数である。
【0037】
コントローラ2の2自由度PID演算部31は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、目標温度設定部29から出力された温度設定値SV
masterと、温度測定部30から出力された温度測定値PV
master−nとから、2自由度PID制御演算によって、制御対象34の温度制御のための操作量として操作量MV
master−nを算出して出力部32に出力する。
出力部32は、2自由度PID演算部31から出力された操作量MV
slave−nをヒータ33を駆動する電気信号に変換して加熱部であるヒータ16に出力することで、その制御対象34の温度を制御する。
【0038】
コントローラ1の同期用温度設定値算出部28は、例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、コントローラ1により温度制御が実行される制御タイミング毎に、コントローラ1の温度測定部13から出力された温度測定値PV
nが目標温度設定部11により設定が受け付けられた温度設定値SVに到達する時間が、コントローラ2の温度測定部30から出力された温度測定値PV
master−nが目標温度設定部29から出力された温度設定値SV
masterに到達する時間と同期する(以後、単に昇温完了時刻同期と記載する)ようにするために、例えば、上記の特許文献1に開示されている昇温完了時刻の同期方法にしたがって、目標温度設定部11により設定が受け付けられた温度設定値SVから昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハット
nを算出する処理を実施する。
【0039】
コントローラ1の設定値補正部12は、例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、コントローラ1により温度制御が実行される制御タイミング毎に、同期用温度設定値算出部28から出力された温度設定値SVハット
nの傾きを示す微分値ΔSVハット
nと、スレーブCHの2自由度PID演算部14による操作量MV
nの算出に用いられる2自由度PID演算の積分時間T
Iと、温度設定値の設定変化に対する制御応答を指定する2自由度係数aとを用いて、同期用温度設定値算出部28から出力された昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハット
nを補正し、補正後の温度設定値SV’
nを2自由度PID演算部14に出力する処理を実施する。
【0040】
次に動作について説明する。
この実施の形態2では、マスターCHのコントローラ2がマスターCHの温度設定値SV
masterに基づき一定周期の制御タイミングで温度制御を繰り返し実施するものとする。また、スレーブCHのスレーブコントローラ1が、補正した温度設定値SV’
nに基づき一定周期の制御タイミングで温度制御を実施するものとする。
【0041】
コントローラ1,2が温度制御を開始する前に、ユーザが目標温度設定部29のユーザインタフェースを操作して、マスターCHの目標温度である温度設定値SV
masterを設定するとともに、目標温度設定部11のユーザインタフェースを操作して、スレーブCHの目標温度である温度設定値SVを設定する。
ここでは、ユーザが手動で温度設定値SV
master,SVを設定する例を示しているが、外部から温度設定値SV
master,SVが自動的に設定されるものであってもよい。
なお、マスターCHの温度設定値SV
masterと、スレーブCHの温度設定値SVとが同一の値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0042】
コントローラ1,2は、例えば、外部から温度制御の開始要求を受けると、制御対象の温度制御を開始する。
即ち、マスターCHのコントローラ2における2自由度PID演算部31は、例えば、外部から温度制御の開始要求を受けると、
図3のブロック線図で示した2自由度PID演算を実施することにより、マスターCHの制御対象34の温度制御のための操作量として操作量MV
master−0を算出する。
マスターCHのコントローラ2における2自由度PID演算部31は、操作量MV
master−0を算出すると、その操作量MV
master−0を出力部32に出力し、出力部32は2自由度PID演算部31から出力された操作量MV
master−0をヒータ33を駆動する電気信号に変換してヒータ33の加熱部に出力することで、マスターCHの制御対象34の温度を制御する。
【0043】
スレーブCHのコントローラ1における2自由度PID演算部14は、例えば、外部から昇温完了同期制御モードによる温度制御の開始要求を受けると、
図3のブロック線図で示した2自由度PID演算を実施することにより、スレーブCHの制御対象17の温度制御のための操作量として操作量MV
0を算出する。
スレーブCHのコントローラ1における2自由度PID演算部14は、操作量MV
0を算出すると、その操作量MV
0を出力部15に出力し、出力部15は2自由度PID演算部14から出力された操作量MV
0をヒータ16を駆動する電気信号に変換してヒータ16の加熱部に出力することで、マスターCHの制御対象17の温度を制御する。
【0044】
次に、n回目の制御タイミング(n=1,2,・・・)でのコントローラ1,2の温度制御について説明する。
マスターCHのコントローラ2における2自由度PID演算部31は、
図3のブロック線図で示した2自由度PID演算を実施することにより、マスターCHの制御対象34の温度制御のための操作量として操作量MV
master−nを算出する。
マスターCHのコントローラ2における2自由度PID演算部31は、操作量MV
master−nを算出すると、その操作量MV
master−nを出力部32に出力し、出力部32は2自由度PID演算部31から出力された操作量MV
master−nをヒータ33を駆動する電気信号に変換してヒータ33の加熱部に出力することで、マスターCHの制御対象34の温度を制御する。
【0045】
一方、スレーブCHのコントローラ1における同期用温度設定値算出部28は、例えば、上記の特許文献1に開示されている昇温完了時刻の同期方法にしたがって、目標温度設定部11により設定が受け付けられた温度設定値SVから、マスターCHとスレーブCHの昇温完了時刻を同期させるための昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハット
nを算出し設定値補正部12に出力する。
設定値補正部12は、実施の形態1と同様の理由により、同期用温度設定値算出部28が算出した昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハット
nに対して2自由度PID演算により発生する温度測定値PVnの遅れ「T
I×(1−a)」を補償するために、同期用温度設定値算出部28で算出された昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハット
nの傾きを示す微分値ΔSVハット
nを算出して、2自由度PID演算部14に設定されている積分時間T
Iと2自由度係数aとを取得して、2自由度PID演算の積分時間T
Iと、1から2自由度係数aを減算した(1−a)と、前記昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハット
nの傾きを示す微分値ΔSVハット
nとの乗算値を算出し、その算出結果(ΔSVハット
n×T
I×(1−a))を温度設定値SVハット
nに加算した値を補正後の温度設定値SV’
nとして算出するようにして、その補正後の温度設定値SV’
nと温度測定部13で測定した温度測定値PV
nに基づき2自由度PID演算制御することで、マスターCHの昇温完了時刻とスレーブCHの昇温完了時刻を一致させることができる。
以下、設定値補正部12による補正処理を具体的に説明する。
【0046】
スレーブCHのコントローラ1が制御を開始すると(
図7のステップST11)、コントローラ1の設定値補正部12は、スレーブCHの2自由度PID演算部14に設定されている積分時間T
Iと2自由度係数aとを取得する(
図7のステップST12)。
スレーブCHのコントローラ1は、制御タイミング毎に(
図7のステップST13、初回の温度制御のタイミングを除く)、以下の処理を実施する。
【0047】
スレーブCHのコントローラ1の同期用温度設定値算出部28は、マスターCHのコントローラ2から温度設定値SV
masterと温度測定値PV
master―nとを取得して、コントローラ2の温度設定値SV
masterと、温度測定値PV
master―nと、コントローラ1の温度設定値SV
slaveとから前記所定の方法により昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハット
nを算出する(
図7のステップST14)。
【0048】
スレーブCHのコントローラ1の設定値補正部12は、下記の式(2)に示すように、同期用温度設定値算出部28から出力された今回の制御タイミングの昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハット
nから前回の制御タイミングの昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハット
n−1を減算した値を制御サイクル周期時間で割った値を、n回目の制御タイミングにおける昇温完了時刻同期用の温度設定値の微分値ΔSVハット
nとして算出する。
【0049】
【数1】
但し、(2)式におけるτは制御サイクル周期を意味する時間である。
【0050】
次に、下記の式(3)に示すように、スレーブCHの積分時間T
Iと、1から2自由度係数aを減算した値と、前記微分値ΔSVハット
nとを積算した値を、昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハット
nに加算して補正後の温度設定値SV’
nを算出し、その補正後の温度設定値HSV’
nを2自由度PID演算部14に出力する。(
図7のステップST15)。
【0052】
ただし、前記算出した補正後の温度設定値SV’
nがスレーブCHの温度設定値SV
slaveより大きい場合は(
図7のステップST16)、温度設定値SV
slaveを補正後の温度設定値SV’
nとする(
図7のステップST17)。
【0053】
スレーブCHのコントローラ1における2自由度PID演算部14は、補正後の温度設定値SV’
nと、温度測定値PV
nとを入力として、
図3のブロック線図で示した2自由度PID演算を実施することにより、スレーブCHの制御対象17の温度制御のための操作量として操作量MV
nを算出する(
図7のステップST18)。
スレーブCHのコントローラ1における2自由度PID演算部14は、算出した操作量MV
nを出力部15に出力する(
図7のステップST19)。
出力部15は、2自由度PID演算部31から出力された操作量MV
nをヒータ16を駆動する電気信号に変換してヒータ16の加熱部に出力することで、マスターCHの制御対象17の温度を制御する。
【0054】
ここで、
図8はマスターCHの温度設定値、温度測定値、スレーブCHの温度設定値と補正後の温度設定値及び温度測定値の一例を示す説明図である。
図8(a)は実施の形態2の補正をしない時のa=0.5の場合を示しており、
図8(b)実施の形態2の補正をしない時のa=0の場合を示している。ただし、a=1の場合はSV’
nとSVハット
nは同じ値になり設定値は補正されないため記載していない。
図8(a)の場合には温度測定値PV
nが昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハット
nに対して、スレーブCHの積分時間T
Iと1から2自由度係数aを減算した値の積(T
I×(1−a)=0.5×T
I)だけ遅延していることが分かる。また、
図8(b)の場合には温度測定値PV
nが昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハット
nに対して、スレーブCHの積分時間T
Iだけ遅延していることが分かる。
図8(c)は実施の形態2の補正をした時のa=0.5の場合を示し、
図8(d)は実施の形態2の補正をした時のa=0の場合を示している。
図8(b)、
図8(c)の何れの場合も、設定値補正部12による補正が行われているため、スレーブCHの昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハット
nに対する温度測定値PV
nの遅れの発生が抑えられていることが分かる。
【0055】
以上で明らかなように、この実施の形態2によれば、スレーブCHの同期用温度設定値算出部28が、マスターCHの温度測定値PV
master−nとスレーブCHの温度測定値PV
nとが、それぞれの温度設定値に到達する時刻を同期させるための設定値である昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハット
nを算出して、2自由度PID演算の目標値フィルタ演算により発生する設定値の遅れ時間T
I×(1−a)を、前記遅れ時間T
I×(1−a)と昇温完了時刻同期用の温度設定値の微分値ΔSVハット
nとの積により昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハット
nを補正した補正後の温度設定値SV’
nを2自由度PID演算部14に出力する設定値補正部12を備えるように構成したので、マスターコントローラとスレーブコントローラが昇温完了時刻を同期させる場合に生じるスレーブCHの温度測定値PV
nが、マスターCHの温度測定値PV
master−nに対して遅れることを抑えることができる効果を奏する。
【0056】
この実施の形態2では、制御タイミングに毎に算出した温度設定値の微分値ΔSVハット
nで補正する設定値を算出したが、予め測定しておいたスレーブCHの温度設定値SVハット
nの微分値ΔSVハット
nの最大値ΔSVハット
maxで補正する様にしてもよい。
図8(e)はΔSVハット
maxで補正をした時のa=0.5の場合を示し、
図8(f)はΔSVハット
maxで補正をした時のa=0の場合を示している。
図8(e)、
図8(f)の何れの場合も、スレーブCHの昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハット
nに対する温度測定値PV
nの遅れの発生が抑えられていることが分かる。
【0057】
この実施の形態2では、スレーブコントローラであるコントローラ1が1台である例を示したが、複数台のコントローラ1が実装されているものであってもよい。