特許第6296170号(P6296170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6296170
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】温度制御装置及び温度制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/36 20060101AFI20180312BHJP
   G05B 13/02 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   G05B11/36 K
   G05B13/02 B
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-561155(P2016-561155)
(86)(22)【出願日】2014年11月27日
(86)【国際出願番号】JP2014081341
(87)【国際公開番号】WO2016084183
(87)【国際公開日】20160602
【審査請求日】2017年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250317
【氏名又は名称】理化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100101890
【弁理士】
【氏名又は名称】押野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100166420
【弁理士】
【氏名又は名称】福川 晋矢
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】後藤 茂文
【審査官】 大野 明良
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−093005(JP,A)
【文献】 特開2003−235280(JP,A)
【文献】 特開平03−202902(JP,A)
【文献】 特開平09−134886(JP,A)
【文献】 特開昭63−046502(JP,A)
【文献】 特開2009−156502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 1/00− 7/04
G05B 11/00−13/04
G05B 17/00−17/02
G05B 21/00−21/02
G05D 23/00−23/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象の目標温度であるランプ状の変化を含む温度設定値と、前記制御対象の測定温度である温度測定値とから2自由度PID演算により操作量を算出し、前記操作量にしたがって前記制御対象の温度を制御するコントローラと、
前記コントローラにより温度制御が実行される制御タイミング毎に、前記コントローラによる第1の操作量の算出に用いられる2自由度PID演算の積分時間と、前記2自由度PID演算において前記温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数とを用いて、前記温度設定値を補正する設定値補正部と
を備えた温度制御装置。
【請求項2】
前記設定値補正部は、前記コントローラにより温度制御が実行される制御タイミング毎に、前記コントローラによる温度制御のための前記PID演算の積分時間と、前記2自由度PID演算において温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数とを用いて、補正する時間を算出して、前記温度設定値の前記補正する時間後の設定値を補正した設定値とすることを特徴とすることを特徴とする請求項1記載の温度制御装置。
【請求項3】
前記設定値補正部は、前記温度設定値の傾きを示す微分値と、前記2自由度PID演算の積分時間と、前記2自由度PID演算において温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数とを用いて、前記温度設定値を補正する温度設定バイアス値を算出し、前記温度設定値に前記温度設定バイアス値を加算して補正することを特徴とする請求項1記載の温度制御装置。
【請求項4】
ステップ的に変化する温度設定値に到達するまでの時間が違う複数の制御対象の温度を制御する温度制御装置であって、
前記複数の制御対象の中で温度設定値に到達するまでの時間が1番遅い第1の制御対象の目標温度である温度設定値と、前記第1の制御対象の測定温度である温度測定値とから前記第1の制御対象の操作量を算出し、前記第1の制御対象の操作量にしたがって前記第1の制御対象の温度を制御する第1のコントローラと、
前記目標温度をステップ的に変化した時に目標温度に到達するまでの時間が、前記第1の制御対象より早い制御対象である第2の制御対象の温度を制御する少なくとも1つ以上の第2のコントローラと、
前記第1及び第2の制御対象の制御温度が同時に目標温度に到達するように、所定の方法で前記第2のコントローラの温度設定値をランプ状に変化する昇温完了時刻同期用温度設定値を算出する前記第2のコントローラの同期用温度設定値算出部と、
前記昇温完了時刻同期用温度設定値の傾きを示す微分値と、前記第2のコントローラの2自由度PID演算の積分時間と、前記第2のコントローラの2自由度PID演算において温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数とを用いて、前記昇温完了時刻同期用温度設定値を補正する設定値補正部とを備え、
前記第2のコントローラが前記第2の制御対象を温度制御することにより、複数の制御対象の制御温度が温度設定値に到達する時刻を同期させることを特徴とする温度制御装置。
【請求項5】
前記設定値補正部は、前記昇温完了時刻同期用温度設定値の傾きを示す微分値と、前記第2のコントローラの2自由度PID演算の積分時間と、前記第2のコントローラの2自由度PID演算において温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数とを用いて、前記昇温完了時刻同期用温度設定値を補正する温度設定バイアス値を算出し、前記昇温完了時刻同期用温度設定値に前記温度設定バイアス値を加算して補正することを特徴とすることを特徴とする請求項4記載の温度制御装置。
【請求項6】
コントローラが、制御対象の目標温度であるランプ状の変化を含む温度設定値と、前記制御対象の測定温度である温度測定値とから2自由度PID演算により操作量を算出し、前記操作量にしたがって前記制御対象の温度を制御する温度制御処理ステップと、
設定値補正部が、前記温度制御処理ステップで温度制御が実行される制御タイミング毎に、前記コントローラによる第1の操作量の算出に用いられる2自由度PID演算の積分時間と、前記2自由度PID演算において前記温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数とを用いて、前記温度設定値を補正する設定値補正処理ステップと
を備えた温度制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、制御対象の温度を制御する温度制御装置及び温度制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
制御対象の目標温度である温度設定値と、制御対象の測定温度である温度測定値とから、PID制御演算によって操作量を算出し、その操作量にしたがって制御対象の温度を制御するコントローラを備えている温度制御装置がある。
このように、コントローラがPID制御演算によって操作量を算出する場合、制御対象の温度設定値がランプ状に変化する状況下では、その温度設定値に対して温度測定値(制御対象の温度)が遅れる現象が発生する。
特に、I−PD制御演算によって操作量を算出する場合、温度測定値(制御対象の温度)の遅れが顕著に発生する。
制御対象の温度設定値がランプ状に変化する場合でも、温度設定値に対して温度測定値(制御対象の温度)の遅れが発生しないPID演算の方式として、微分先行型PID(PI−D)があるが、この方式の場合、オーバーシュートが大きくなるため、オーバーシュートを嫌う制御対象には適用することができない。
【0003】
以下の特許文献1には、制御対象の温度設定値がランプ状に変化する状況下において、その温度設定値に対して温度測定値(制御対象の温度)が遅れる現象を防止する方法として、制御対象の温度設定値に対して無駄時間相当の温度を加算する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−035090号公報(例えば、請求項3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている温度制御方法では、PID制御演算の方式が偏差微分PIDや微分先行型PID(PI−D)である場合、温度設定値の遅延補償が過剰になり過ぎて、目標温度に対して制御量(制御対象の温度)が早く上昇してしまうことがある。また、PID制御演算の方式がI−PD制御演算である場合には温度設定値の遅延補償が不十分となり、温度設定値に対して制御量(制御対象の温度)が遅れる現象を十分に解消することができないという課題があった。
【0006】
なお、微分先行型PID(PI−D)とI−PD制御演算の制御方式は2自由度PID制御というPID制御演算方式の一形態である。この2自由度PID制御演算方式は、目標値フィルタ演算部と微分先行型PID演算部に分割することが出来るが、目標値フィルタ演算部において温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数a(1≧a≧0)を設定することで、微分先行型PID(PI−D)とI−PD制御演算及びその中間的な制御演算を実現することができる。しかし、温度設定値がランプ状に変化する場合には温度設定値に時間的な遅れが発生するが、その時間的な遅れが2自由度係数aの値により変化するため、2自由度PID制御演算方式に対して、一律にムダ時間で遅れを補償する特許文献1の方法を適用しても、温度測定値(制御対象の温度)の遅れを適切に補償することができない。
【0007】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、制御対象の温度設定値がランプ状に変化する場合でも、目標値フィルタ演算による温度設定値の時間的な遅れを適切に補償して、温度設定値に対する温度測定値(制御対象の温度)の時間的な遅れを抑えることができる温度制御装置及び温度制御方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る温度制御装置は、制御対象の目標温度であるランプ状の変化を含む温度設定値と、制御対象の測定温度である温度測定値とから2自由度PID演算により操作量を算出し、その操作量にしたがって制御対象の温度を制御するコントローラと、コントローラにより温度制御が実行される制御タイミング毎に、コントローラによる第1の操作量の算出に用いられる2自由度PID演算の積分時間と、その2自由度PID演算において前記温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数とを用いて、その温度設定値を補正する設定値補正部とを備えるようにしたものである。
【0009】
この発明に係る温度制御装置は、設定値補正部が、コントローラにより温度制御が実行される制御タイミング毎に、コントローラによる温度制御のためのPID演算の積分時間と、2自由度PID演算において温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数とを用いて、補正する時間を算出して、温度設定値の前記補正する時間後の設定値を補正した設定値とするようにしたものである。
【0010】
この発明に係る温度制御装置は、設定値補正部が、温度設定値の傾きを示す微分値と、2自由度PID演算の積分時間と、2自由度PID演算において温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数とを用いて、その温度設定値を補正する温度設定バイアス値を算出し、その温度設定値に温度設定バイアス値を加算して補正するようにしたものである。
【0011】
この発明に係る温度制御装置は、ステップ的に変化する温度設定値に到達するまでの時間が違う複数の制御対象の温度を制御する場合において、複数の制御対象の中で温度設定値に到達するまでの時間が1番遅い第1の制御対象の目標温度である温度設定値と、第1の制御対象の測定温度である温度測定値とから第1の制御対象の操作量を算出し、第1の制御対象の操作量にしたがって第1の制御対象の温度を制御する第1のコントローラと、目標温度をステップ的に変化した時に目標温度に到達するまでの時間が、第1の制御対象より早い制御対象である第2の制御対象の温度を制御する少なくとも1つ以上の第2のコントローラと、第1及び第2の制御対象の制御温度が同時に目標温度に到達するように、所定の方法で第2のコントローラの温度設定値をランプ状に変化する昇温完了時刻同期用温度設定値を算出する第2のコントローラの同期用温度設定値算出部と、昇温完了時刻同期用温度設定値を、その昇温完了時刻同期用温度設定値の傾きを示す微分値と、第2のコントローラの2自由度PID演算の積分時間と、第2のコントローラの2自由度PID演算において温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数とを用いて、その昇温完了時刻同期用温度設定値を補正する設定値補正部とを備え、第2のコントローラが第2の制御対象を温度制御することにより、複数の制御対象の制御温度が温度設定値に到達する時刻を同期させるようにしたものである。
【0012】
この発明に係る温度制御装置は、設定値補正部が、昇温完了時刻同期用温度設定値の傾きを示す微分値と、第2のコントローラの2自由度PID演算の積分時間と、第2のコントローラの2自由度PID演算において温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数とを用いて、その昇温完了時刻同期用温度設定値を補正する温度設定バイアス値を算出し、その昇温完了時刻同期用温度設定値に温度設定バイアス値を加算して補正するようにしたものである。なお、時間とともに変化する温度設定値の傾きを示す微分値は、予め測定した時間とともに変化する温度設定値の傾きを示す微分値の最大値であっても良い。
【0013】
この発明に係る温度制御方法は、コントローラが、制御対象の目標温度であるランプ状の変化を含む温度設定値と、制御対象の測定温度である温度測定値とから2自由度PID演算により操作量を算出し、その操作量にしたがって制御対象の温度を制御する温度制御処理ステップと、設定値補正部が、温度制御処理ステップで温度制御が実行される制御タイミング毎に、コントローラによる第1の操作量の算出に用いられる2自由度PID演算の積分時間と、その2自由度PID演算において前記温度設定値を1次遅れフィルタ処理する割合を決定する係数とを用いて、温度設定値を補正する設定値補正処理ステップとを備えるようにしたものである。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、制御対象を2自由度PID制御により制御する場合に、温度設定値が時間とともに変化する場合でも、温度設定値に対する制御対象の温度の遅れの発生を抑えることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の実施の形態1による温度制御装置を示す構成図と、温度設定値の例を示した図及び補正した設定値を示す説明図である。
図2】この発明の実施の形態1による温度制御装置の処理内容(温度制御方法)を示すフローチャートである。
図3】簡略化された2自由度PID制御演算を示すブロック線図である。
図4】この発明の実施の形態1による温度設定値補正を実施しない時に、温度設定値SVに対して温度測定値PVの遅れが発生している温度制御例を示す説明図である。
図5】この発明の実施の形態1による温度設定値補正を実施した時に、温度設定値SVに対して温度測定値PVの遅れが発生しない温度制御例を示す説明図である。
図6】この発明の実施の形態2による温度制御装置を示す構成図である。
図7】この発明の実施の形態2による温度制御装置の処理内容(温度制御方法)を示すフローチャートである。
図8】マスターCHの温度測定値、スレーブCHの温度設定値及び温度測定値の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
図1(a)はこの発明の実施の形態1による温度制御装置を示す構成図である。
温度制御装置は、コントローラ1、ヒータ16、制御対象17で構成される。コントローラ1は、目標温度設定部11、設定値補正部12、温度測定部13、2自由度PID演算部14及び出力部15を備えている。
【0017】
目標温度設定部11はユーザインタフェース(例えば、温度設定用のボタン、タッチパネルなど)を有し、制御対象17の目標温度である温度設定値SVの設定を受け付ける処理を実施する。なお、実施の形態1における温度設定値SVは、図1(b)に示すように一定の傾きΔSVで一定値である温度設定値SVまで変化する温度設定値を例に説明する。
設定値補正部12は、遅れ時間算出部18と設定値遅れ補償部19を備えており、コントローラ1により温度制御が実行される制御タイミング毎に、補正した温度設定値SV’
を算出する。
遅れ時間算出部18は目標温度設定部11により設定された目標温度SVを補正する時間である遅れ時間を算出する。
設定値遅れ補償部19は遅れ時間算出部18により算出された遅れ時間で、目標温度設定部11により設定された温度設定値SVを補正して、補正した温度設定値SV’を算出する。図1(c)は目標温度SVと補正した温度設定値SV’を示している。
【0018】
温度測定部13は制御対象17の温度を測定する温度測定器であり、制御対象17の温度測定値PVを算出する。
2自由度PID演算部14は目標値フィルタ演算部20と微分先行型PID演算部21を備えており、コントローラ1により温度制御が実行される制御タイミング毎に、操作量MVを算出する。
目標値フィルタ演算部20は設定値補正部12により算出された補正後の温度設定値SV’を目標値フィルタ演算処理して設定値SV”を算出する。
微分先行型PID演算部21は目標値フィルタ演算部20により算出された設定値SV”と温度測定部13により算出された温度測定値PVを微分先行型PID演算処理して操作量MVを算出する。
【0019】
出力部15は2自由度PID演算部14により算出された操作量MVをヒータ16を駆動する電気信号に変換して、その電気信号をヒータ16に出力する回路である。
ヒータ16の加熱部は制御対象17を加熱する熱源である。
なお、nは温度制御開始時からn番目の制御タイミングを示す変数である。
【0020】
次に動作について説明する。
この実施の形態1では、コントローラ1が、制御対象17の温度が目標温度設定値である温度設定値SVになるように、一定周期の制御タイミングで温度制御を実施するものとする。
コントローラ1が温度制御を開始する前に、ユーザが目標温度設定部11のユーザインタフェースを操作して、制御対象17の目標温度設定値である温度設定値SVを設定する。
ここでは、ユーザが手動で温度設定値SVを設定する例を示しているが、外部から温度設定値SVが自動的に設定されるものであってもよい。
【0021】
コントローラ1は、例えば、外部から温度制御の開始要求を受けると、制御対象17の温度制御を開始する。
即ち、コントローラ1の2自由度PID演算部14は、例えば、外部から温度制御の開始要求を受けると、目標温度設定部11から出力された温度設定値SVを設定値補正部12で補正した温度設定値SV’と、温度測定部13から出力された制御対象17の温度測定値PV(温度制御の開始時に測定された制御対象17の温度)とから2自由度PID演算に基づき操作量MVを算出する。
出力部15は、2自由度PID演算部14が操作量MVを算出すると、その操作量MVをヒータ16を駆動する電気信号に変換して、ヒータ16による加熱を制御することで制御対象17の温度を制御する。
【0022】
ここで、図3は実施の形態1による温度制御装置の2自由度PID演算部14における目標値フィルタ演算部20と微分先行型PID演算部21との演算処理を示すブロック線図である。
目標値フィルタ演算部20は、係数aのブロック22と、係数(1−a)のブロック23と、フィルタ演算のブロック24と、加え合わせ点25とから構成されている。
図3において、係数aは温度設定値SVの設定変化に対する制御応答を指定する係数(2自由度係数)、2自由度係数aは0〜1の値をとる。
また、一般的にa=0のときをI−PD制御演算、a=1のときを微分先行型PID(PI−D)と呼び、0<a<1のときI−PD制御演算と微分先行型PID(PI−D)の中間的な制御演算になる。
また、Kは比例ゲイン、Tは微分時間、Tは積分時間である。
【0023】
目標値フィルタ演算部20の動作について以下に説明する。ここでは、目標値フィルタ演算部20の動作を分かり易く説明するため、目標値フィルタ演算部20の入力を補正する前の温度設定値をSVとした場合で説明する。
図3のブロック線図から分かるように、係数aのブロック22は、温度設定値SVに2自由度係数aをかける処理を実施し「SV×a」を算出する。係数(1−a)のブロック23は、温度設定値SVに(1−a)をかける処理を実施し「SV×(1−a)」を算出する。フィルタ演算のブロック24は、係数(1−a)のブロック23で算出された「SV×(1−a)」に対し1次遅れフィルタ演算処理した値を算出する。加え合わせ点25は、フィルタ演算のブロック24で算出した値と、係数aのブロック22で算出された「SV×a」とを加算して設定値SVチルダ(明細書の文章中では、電子出願の関係上、文字の上に“〜”の記号を付することができないので、SVチルダのように表記している)を算出する。
図4(a)はa=1のときの温度設定値SVと目標値フィルタ演算処理されたSVチルダと温度測定値PVを、図4(b)はa=0.5のときの温度設定値SVと目標値フィルタ演算処理されたSVチルダと温度測定値PVを、図4(c)はa=0のときの温度設定値SVと目標値フィルタ演算処理されたSVチルダと温度測定値PVを示している。図4(a)から(c)に示すように、目標値フィルタ処理された温度設定値SVチルダは、温度設定値SVを「T×(1−a)」(時間)だけ遅らせた設定信号に漸近する温度設定値SVチルダになる。この現象はランプ信号と1次遅れフィルタの関係として一般的に知られている事象に基づいているため説明を省略する。
【0024】
微分先行型PID演算部21は、目標値フィルタ演算部20で算出されたSVチルダと、温度測定値PVとから操作量MVを算出する。目標値フィルタ演算部20で算出されたSVチルダは、温度設定値SVから「T×(1−a)」だけ時間的に遅れた設定値に漸近する温度設定値であり、微分先行型PID演算はその温度設定値SVチルダと温度測定値PVの差がゼロになるように制御するため、温度測定値PV(制御量)は図4(a)から(c)に示すように温度設定値SVに対して約「T×(1−a)」だけ遅れる。
【0025】
そこで、この実施の形態1では、設定値補正部12の処理によって、目標温度設定部11の設定値SVを予め「T×(1−a)」だけ時間を進めた設定値SV’に補正することにより、2自由度係数aがどの様な値であっても、目標値フィルタ演算に起因する温度測定値PV(制御量)の遅れを適切に補償するようにしている。
図5は、実施の形態1により制御した場合の温度設定値SVと、補正した温度設定値SV’と制御量PVの関係を示している。図5(a)はa=1の場合の温度設定値SVと補正した温度設定値SV’ と制御量PVとの関係を、図5(b)はa=0.5の場合の温度設定値SVと補正した温度設定値SV’制御量PVとの関係を、図5(c)はa=0の場合の温度設定値SVと補正した温度設定値SV’と制御量PVとの関係をそれぞれ示している。
以下、制御対象17の温度は補正した温度設定値SV’に従って、制御タイミングn毎に、制御対象17の温度測定値PVを得て、操作量MVを算出しながら、制御対象17の温度を制御する。
【0026】
制御を開始すると(図2のステップST1)、制御タイミングn毎に(図2のステップST2)、設定値補正部12が、2自由度PID演算部14に設定されている積分時間Tと2自由度係数a(図3の2自由度係数a)とを取得して、下記の式(1)に示すように、2自由度PID演算の積分時間Tと、1から2自由度係数aを減算した(1−a)とを乗算することで、目標値フィルタ演算部20により補正された温度設定値SV’の遅延時間「T×(1−a)」を算出する(図2のステップST3)。
=T×(1−a) (1)
設定値補正部12は、n回目(n=1,2,・・・)の制御タイミング毎に(図2のステップST3)、目標温度設定部11により設定が受け付けられた温度設定値SVを、上記の式(1)で算出した遅延時間「T×(1−a)」分だけ温度設定値SVの時間を早めた値を、補正後の温度設定値SV’として算出する(図2のステップST4)。
【0027】
2自由度PID演算部14は、n回目(n=1,2,・・・)の制御タイミング毎に、設定値補正部12から出力された補正後の温度設定値SV’と、温度測定部13から出力された制御対象17の温度測定値PV(n回目の制御タイミングで測定された制御対象17の温度)とから、2自由度PID制御演算を実施することにより、出力部15に対する操作量MVを算出する(ステップST5)。
【0028】
2自由度PID演算部14は、n回目(n=1,2,・・・)の制御タイミング毎に、算出した操作量MVを出力部15に出力する(ステップST6)。
制御対象17の温度制御が終了するまで、ステップST3〜ST6の処理が繰り返し実施される(ステップST7)。
出力部15は、2自由度PID演算部14から出力された操作量MVを、ヒータ16を駆動する電気信号に変換してヒータ16の加熱を制御することで、制御対象17の温度を制御する。
【0029】
図5は実施の形態1の方法により、温度設定値SVを補正した温度設定値SV’を設定値として2自由度PID制御した結果、温度設定値SVに対する温度測定値PVの遅れが発生しない温度制御例を示す説明図である。
図5(a)はa=1の場合の温度設定値SVnと補正した温度設定値SV’と制御量PVとの関係を、図5(b)はa=0.5の場合の温度設定値SVnと補正した温度設定値SV’と制御量PVとの関係を、図5(c)はa=0の場合の温度設定値SVnと補正した温度設定値SV’と制御量PVとの関係をそれぞれ示している。
なお、2自由度係数a=1の場合、式(1)の右辺が0になるので温度設定値SVの補正が行われない。即ち、温度設定値SVと、補正した温度設定値SV’と、目標値フィルタを通した温度設定値SV“とは同じ値なので、図5(a)と図4(a)は同じになる。
【0030】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、コントローラ1により温度制御が実行される制御タイミング毎に、2自由度PID演算部14による操作量MVの算出に用いられる2自由度PID演算の積分時間Tと、1から2自由度係数aを減算した(1−a)とを乗算した結果の値である(T×(1−a))だけ、目標温度設定部11により設定が受け付けられた温度設定値SVの時間を早めた値を設定値とすることで、補正後の温度設定値SV’を算出する設定値補正部12を備えるように構成したので、制御対象17の温度設定値SVがランプ状に変化する場合でも、温度設定値SVに対する制御対象17の温度の遅れの発生を抑えることができる効果を奏する。
【0031】
この実施の形態1では、設定値補正部12が、2自由度PID演算部14に設定されている積分時間Tと2自由度係数aとを取得して、2自由度PID演算の積分時間Tと、1から2自由度係数aを減算した(1−a)とを乗算し、その乗算した結果(T×(1−a))だけ、温度設定値SVの時間を早めた値を補正後の温度設定値SV’として算出することで、補正後の温度設定値SV’を算出するものを示している。
設定値補正部12が、(T×(1−a))だけ温度設定値SVの時間を早めた値を用いずに、温度設定値SVの傾きを示す微分値ΔSVと、2自由度PID演算の積分時間Tと、1から2自由度係数aを減算した(1−a)とを乗算し、その乗算した結果(ΔSV×T×(1−a))を温度設定値SVに加算した値を補正後の温度設定値SV’として算出するようにしてもよい。ただし、(ΔSV×T×(1−a))を温度設定値SVに加算した値が、この実施の形態1において、最終的に到達する温度設定値である設定値SVより大きい場合は、温度設定値SVを補正後の温度設定値SV’とする。
【0032】
実施の形態2.
この実施の形態2では、温度制御装置が、2つの温度制御ゾーンの温度を制御する例を説明する。2つの温度制御ゾーンの中で、目標温度である温度設定値に到達するまでの時間が遅い温度制御ゾーン(第2の制御対象)をマスターCHと称し、目標温度である温度設定値に到達するまでの時間が早い温度制御ゾーン(第1の制御対象)をスレーブCHと称する。
また、マスターCHを加熱するヒータを制御するコントローラをマスターコントローラと称し、スレーブCHを加熱するヒータを制御するコントローラをスレーブコントローラと称する。
【0033】
この実施の形態2では、マスターコントローラとスレーブコントローラの昇温完了時刻を同期させることを想定しているが、昇温完了時刻の同期方法については特に問わず、公知の方法を用いるものとする。
例えば、上記の特許文献1に開示されている昇温完了時刻の同期方法を用いることができ、この同期方法では、コントローラの制御タイミング毎に、目標温度に到達するまでの時間が最も遅い温度制御ゾーン(マスターCH)の温度設定値に対する温度測定値の到達率(=(温度測定値−温度測定値の初期値)/(温度設定値−温度測定値の初期値))を算出し、その到達率と他の温度制御ゾーン(スレーブCH)の温度設定値と温度測定値の初期値とを用いて、他の温度制御ゾーン(スレーブCH)の温度設定値を補正するようにしている。
【0034】
図6はこの発明の実施の形態2による温度制御装置を示す構成図であり、図6において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
コントローラ1はスレーブCHを加熱するヒータ16を制御するスレーブコントローラである。
コントローラ1は、目標温度設定部11、設定値補正部12、温度測定部13、2自由度PID演算部14、出力部15及び同期用温度設定値算出部28を備えている。コントローラ1の設定値補正部12は補正バイアス算出部27と加え合わせ点26で構成されている。
この実施の形態2では、コントローラ2が取り扱う各々の値は、温度設定値SVmaster(第2の温度設定値)、温度測定値PVmaster−n(第2の温度測定値)、目標値フィルタ演算処理された設定値SV”master−n(第2の目標値フィルタ演算処理された設定値)及び操作量MVmaster−n(第2の操作量)とし、コントローラ1が取り扱う各々の値は単に、温度設定値SV、昇温完了時刻同期用温度設定値SVハット(明細書の文章中では、電子出願の関係上、文字の上に“^”の記号を付することができないので、SVハットのように表記している)、補正後の温度設定値SV’、目標値フィルタ演算処理された設定値SV”、温度測定値PV及び操作量MVのように表記する。
【0035】
コントローラ2はマスターCHを加熱するヒータを制御するマスターコントローラである。
即ち、コントローラ2は目標温度設定部29、温度測定部30、2自由度PID演算部31及び出力部32を備え、第2の制御対象である制御対象34の目標温度である温度設定値SVmasterと、制御対象34の測定温度である温度測定値PVmaster−とから操作量MVslave−nを算出して出力部32に出力し、出力部32は操作量MVslave−nをヒータ33を駆動する電気信号に変換してヒータ33に出力することにより制御対象34の温度を制御する。
【0036】
コントローラ2の目標温度設定部29はユーザインタフェース(例えば、温度設定用のボタン、タッチパネルなど)を有し、制御対象34の目標温度である温度設定値SVmasterの設定を受け付ける処理を実施する。
コントローラ2の温度測定部30は制御対象34の温度を測定する温度測定器であり、その測定結果である温度測定値PVmaster−nを2自由度PID演算部31に出力する。nは温度制御開始時からn番目の制御タイミングを示す変数である。
【0037】
コントローラ2の2自由度PID演算部31は例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、目標温度設定部29から出力された温度設定値SVmasterと、温度測定部30から出力された温度測定値PVmaster−nとから、2自由度PID制御演算によって、制御対象34の温度制御のための操作量として操作量MVmaster−nを算出して出力部32に出力する。
出力部32は、2自由度PID演算部31から出力された操作量MVslave−nをヒータ33を駆動する電気信号に変換して加熱部であるヒータ16に出力することで、その制御対象34の温度を制御する。
【0038】
コントローラ1の同期用温度設定値算出部28は、例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、コントローラ1により温度制御が実行される制御タイミング毎に、コントローラ1の温度測定部13から出力された温度測定値PVが目標温度設定部11により設定が受け付けられた温度設定値SVに到達する時間が、コントローラ2の温度測定部30から出力された温度測定値PVaster−nが目標温度設定部29から出力された温度設定値SVmasterに到達する時間と同期する(以後、単に昇温完了時刻同期と記載する)ようにするために、例えば、上記の特許文献1に開示されている昇温完了時刻の同期方法にしたがって、目標温度設定部11により設定が受け付けられた温度設定値SVから昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハットを算出する処理を実施する。
【0039】
コントローラ1の設定値補正部12は、例えばCPUを実装している半導体集積回路、あるいは、ワンチップマイコンなどから構成されており、コントローラ1により温度制御が実行される制御タイミング毎に、同期用温度設定値算出部28から出力された温度設定値SVハットの傾きを示す微分値ΔSVハットと、スレーブCHの2自由度PID演算部14による操作量MVの算出に用いられる2自由度PID演算の積分時間Tと、温度設定値の設定変化に対する制御応答を指定する2自由度係数aとを用いて、同期用温度設定値算出部28から出力された昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハットを補正し、補正後の温度設定値SV’を2自由度PID演算部14に出力する処理を実施する。
【0040】
次に動作について説明する。
この実施の形態2では、マスターCHのコントローラ2がマスターCHの温度設定値SVmasterに基づき一定周期の制御タイミングで温度制御を繰り返し実施するものとする。また、スレーブCHのスレーブコントローラ1が、補正した温度設定値SV’に基づき一定周期の制御タイミングで温度制御を実施するものとする。
【0041】
コントローラ1,2が温度制御を開始する前に、ユーザが目標温度設定部29のユーザインタフェースを操作して、マスターCHの目標温度である温度設定値SVmasterを設定するとともに、目標温度設定部11のユーザインタフェースを操作して、スレーブCHの目標温度である温度設定値SVを設定する。
ここでは、ユーザが手動で温度設定値SVmaster,SVを設定する例を示しているが、外部から温度設定値SVmaster,SVが自動的に設定されるものであってもよい。
なお、マスターCHの温度設定値SVmasterと、スレーブCHの温度設定値SVとが同一の値であってもよいし、異なる値であってもよい。
【0042】
コントローラ1,2は、例えば、外部から温度制御の開始要求を受けると、制御対象の温度制御を開始する。
即ち、マスターCHのコントローラ2における2自由度PID演算部31は、例えば、外部から温度制御の開始要求を受けると、図3のブロック線図で示した2自由度PID演算を実施することにより、マスターCHの制御対象34の温度制御のための操作量として操作量MVmaster−0を算出する。
マスターCHのコントローラ2における2自由度PID演算部31は、操作量MVmaster−0を算出すると、その操作量MVmaster−0を出力部32に出力し、出力部32は2自由度PID演算部31から出力された操作量MVmaster−0をヒータ33を駆動する電気信号に変換してヒータ33の加熱部に出力することで、マスターCHの制御対象34の温度を制御する。
【0043】
スレーブCHのコントローラ1における2自由度PID演算部14は、例えば、外部から昇温完了同期制御モードによる温度制御の開始要求を受けると、図3のブロック線図で示した2自由度PID演算を実施することにより、スレーブCHの制御対象17の温度制御のための操作量として操作量MVを算出する。
スレーブCHのコントローラ1における2自由度PID演算部14は、操作量MVを算出すると、その操作量MVを出力部15に出力し、出力部15は2自由度PID演算部14から出力された操作量MVをヒータ16を駆動する電気信号に変換してヒータ16の加熱部に出力することで、マスターCHの制御対象17の温度を制御する。
【0044】
次に、n回目の制御タイミング(n=1,2,・・・)でのコントローラ1,2の温度制御について説明する。
マスターCHのコントローラ2における2自由度PID演算部31は、図3のブロック線図で示した2自由度PID演算を実施することにより、マスターCHの制御対象34の温度制御のための操作量として操作量MVmaster−nを算出する。
マスターCHのコントローラ2における2自由度PID演算部31は、操作量MVmaster−nを算出すると、その操作量MVmaster−nを出力部32に出力し、出力部32は2自由度PID演算部31から出力された操作量MVmaster−nをヒータ33を駆動する電気信号に変換してヒータ33の加熱部に出力することで、マスターCHの制御対象34の温度を制御する。
【0045】
一方、スレーブCHのコントローラ1における同期用温度設定値算出部28は、例えば、上記の特許文献1に開示されている昇温完了時刻の同期方法にしたがって、目標温度設定部11により設定が受け付けられた温度設定値SVから、マスターCHとスレーブCHの昇温完了時刻を同期させるための昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハットを算出し設定値補正部12に出力する。
設定値補正部12は、実施の形態1と同様の理由により、同期用温度設定値算出部28が算出した昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハットに対して2自由度PID演算により発生する温度測定値PVnの遅れ「T×(1−a)」を補償するために、同期用温度設定値算出部28で算出された昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハットの傾きを示す微分値ΔSVハットを算出して、2自由度PID演算部14に設定されている積分時間Tと2自由度係数aとを取得して、2自由度PID演算の積分時間Tと、1から2自由度係数aを減算した(1−a)と、前記昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハットの傾きを示す微分値ΔSVハットとの乗算値を算出し、その算出結果(ΔSVハット×T×(1−a))を温度設定値SVハットに加算した値を補正後の温度設定値SV’として算出するようにして、その補正後の温度設定値SV’と温度測定部13で測定した温度測定値PVに基づき2自由度PID演算制御することで、マスターCHの昇温完了時刻とスレーブCHの昇温完了時刻を一致させることができる。
以下、設定値補正部12による補正処理を具体的に説明する。
【0046】
スレーブCHのコントローラ1が制御を開始すると(図7のステップST11)、コントローラ1の設定値補正部12は、スレーブCHの2自由度PID演算部14に設定されている積分時間Tと2自由度係数aとを取得する(図7のステップST12)。
スレーブCHのコントローラ1は、制御タイミング毎に(図7のステップST13、初回の温度制御のタイミングを除く)、以下の処理を実施する。
【0047】
スレーブCHのコントローラ1の同期用温度設定値算出部28は、マスターCHのコントローラ2から温度設定値SVmasterと温度測定値PVmaster―nとを取得して、コントローラ2の温度設定値SVmasterと、温度測定値PVmaster―と、コントローラ1の温度設定値SVslaveとから前記所定の方法により昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハットを算出する(図7のステップST14)。
【0048】
スレーブCHのコントローラ1の設定値補正部12は、下記の式(2)に示すように、同期用温度設定値算出部28から出力された今回の制御タイミングの昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハットから前回の制御タイミングの昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハットn−1を減算した値を制御サイクル周期時間で割った値を、n回目の制御タイミングにおける昇温完了時刻同期用の温度設定値の微分値ΔSVハットとして算出する。
【0049】
【数1】
但し、(2)式におけるτは制御サイクル周期を意味する時間である。
【0050】
次に、下記の式(3)に示すように、スレーブCHの積分時間Tと、1から2自由度係数aを減算した値と、前記微分値ΔSVハットとを積算した値を、昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハットに加算して補正後の温度設定値SV’を算出し、その補正後の温度設定値HSV’を2自由度PID演算部14に出力する。(図7のステップST15)。
【0051】
【数2】
【0052】
ただし、前記算出した補正後の温度設定値SV’がスレーブCHの温度設定値SVlaveより大きい場合は(図7のステップST16)、温度設定値SVslaveを補正後の温度設定値SV’とする(図7のステップST17)。
【0053】
スレーブCHのコントローラ1における2自由度PID演算部14は、補正後の温度設定値SV’と、温度測定値PVとを入力として、図3のブロック線図で示した2自由度PID演算を実施することにより、スレーブCHの制御対象17の温度制御のための操作量として操作量MVを算出する(図7のステップST18)。
スレーブCHのコントローラ1における2自由度PID演算部14は、算出した操作量MVを出力部15に出力する(図7のステップST19)。
出力部15は、2自由度PID演算部31から出力された操作量MVをヒータ16を駆動する電気信号に変換してヒータ16の加熱部に出力することで、マスターCHの制御対象17の温度を制御する。
【0054】
ここで、図8はマスターCHの温度設定値、温度測定値、スレーブCHの温度設定値と補正後の温度設定値及び温度測定値の一例を示す説明図である。
図8(a)は実施の形態2の補正をしない時のa=0.5の場合を示しており、図8(b)実施の形態2の補正をしない時のa=0の場合を示している。ただし、a=1の場合はSV’とSVハットは同じ値になり設定値は補正されないため記載していない。
図8(a)の場合には温度測定値PVが昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハットに対して、スレーブCHの積分時間Tと1から2自由度係数aを減算した値の積(T×(1−a)=0.5×T)だけ遅延していることが分かる。また、図8(b)の場合には温度測定値PVが昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハットに対して、スレーブCHの積分時間Tだけ遅延していることが分かる。
図8(c)は実施の形態2の補正をした時のa=0.5の場合を示し、図8(d)は実施の形態2の補正をした時のa=0の場合を示している。図8(b)、図8(c)の何れの場合も、設定値補正部12による補正が行われているため、スレーブCHの昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハットに対する温度測定値PVの遅れの発生が抑えられていることが分かる。
【0055】
以上で明らかなように、この実施の形態2によれば、スレーブCHの同期用温度設定値算出部28が、マスターCHの温度測定値PVmaster−nとスレーブCHの温度測定値PVとが、それぞれの温度設定値に到達する時刻を同期させるための設定値である昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハットを算出して、2自由度PID演算の目標値フィルタ演算により発生する設定値の遅れ時間T×(1−a)を、前記遅れ時間T×(1−a)と昇温完了時刻同期用の温度設定値の微分値ΔSVハットとの積により昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハットを補正した補正後の温度設定値SV’を2自由度PID演算部14に出力する設定値補正部12を備えるように構成したので、マスターコントローラとスレーブコントローラが昇温完了時刻を同期させる場合に生じるスレーブCHの温度測定値PVが、マスターCHの温度測定値PVmaster−nに対して遅れることを抑えることができる効果を奏する。
【0056】
この実施の形態2では、制御タイミングに毎に算出した温度設定値の微分値ΔSVハットで補正する設定値を算出したが、予め測定しておいたスレーブCHの温度設定値SVハットの微分値ΔSVハットの最大値ΔSVハットmaxで補正する様にしてもよい。 図8(e)はΔSVハットmaxで補正をした時のa=0.5の場合を示し、図8(f)はΔSVハットmaxで補正をした時のa=0の場合を示している。図8(e)、図8(f)の何れの場合も、スレーブCHの昇温完了時刻同期用の温度設定値SVハットに対する温度測定値PVの遅れの発生が抑えられていることが分かる。
【0057】
この実施の形態2では、スレーブコントローラであるコントローラ1が1台である例を示したが、複数台のコントローラ1が実装されているものであってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 コントローラ(第1のコントローラ)、2 コントローラ(第2のコントローラ)、11 目標温度設定部、12 設定値補正部、13 温度測定部、14 2自由度PID演算部、15 出力部、16 ヒータ、17 制御対象(第1の制御対象)、18 遅れ時間算出部、19 設定値遅れ補償部、20 目標値フィルタ演算部、21 微分先行型PID演算部、22 係数aのブロック、23 係数(1−a)のブロック、24 フィルタ演算のブロック、25 加え合わせ点(目標値フィルタ演算部)、26 加え合わせ点(設定値補正部)、27 補正バイアス算出部、28 同期用温度設定値算出部、29 目標温度設定部(マスターCH)、30 温度測定部(マスターCH)、31 2自由度PID演算部(マスターCH)、32 出力部(マスターCH)、33 ヒータ(マスターCH)、34 制御対象(マスターCH)、35 目標値フィルタ演算部(マスターCH)、36 微分先行型PID演算部(マスターCH)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8