(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の基板加熱方法は、ヒーターが配置されていない側の基板面(非加熱面)から熱が放散されるので、加熱効率が悪い。このために、基板が所定温度に到達するまでに要する時間の長期化や加熱器での消費電力が増加する等の問題がある。
【0006】
本発明では、これらの問題を一挙に解決することのできる加熱効率の改善された加熱装置と同加熱装置を備える半導体製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の加熱装置は、
加熱位置と非加熱位置との間で基板を移送する移送部材と、
前記移送部材に設けられ、前記基板を支持する支持部材と、
加熱位置に設けられ、前記基板の一面を加熱する加熱器と、
前記基板の他面と対向し、前記移送部材に取り付けられた熱反射板を備えている。
【0008】
非加熱面側に熱反射板を設けたので、非加熱面から放散された熱を非加熱面側に戻すことができる。その結果、加熱効率が向上され、昇温時間の短縮化、加熱器への投入パワーの低消費電力化を図ることが可能となる。
【0009】
熱反射板の保持について、
前記熱反射板は、前記支持部材と前記移送部材との間で保持されているのが望ましい。
【0010】
上記構成であれば、支持部材の移送部材への取付け時に、熱反射板も併せて取り付けることができるので、部材の組み立て作業が簡便となる。
【0011】
基板の加熱効率をさらに向上するには、
前記加熱位置で、前記支持部材から前記加熱器に前記基板を移送し、前記基板を前記支持部材よりも前記熱反射板側に位置させる移送機構を備えていることが望ましい。
【0012】
上記し
た移送機構であれば、加熱器と熱反射板との距離が近づくことから、加熱器と熱反射板との間での熱の閉じ込め効果が向上し、加熱効率がさらに向上する。
【0013】
加熱効率を向上させる別の構成としては、
前記熱反射板が、前記基板側に向けて凹形状をしていることが望ましい。
【0014】
上記した凹形状の熱反射板であれば、非加熱面から放散された熱を非加熱面側に効果的に反射することができる。
【0015】
基板面の温度計測や基板面の温度分布調整のために、
前記熱反射板には開口が形成されていることが望ましい。
【0016】
熱反射板に開口があれば、同開口を通じて放射温度計による基板の温度測定が可能となる。また、開口の大きさ、形状、位置等を工夫することにより、熱反射板側の基板面の温度分布を調整することも可能となる。
【0017】
加熱器上で基板を支持固定するために、
前記加熱器が、前記基板を前記加熱器上に固定支持する機械式、静電式あるいは真空式の固定支持具を備えていてもよい。
【0018】
加熱効率が向上された本発明の構成であれば、上記の固定支持具による安定して強固な固定支持の条件を短時間で充足することが可能となる。
【0019】
上述した加熱装置を備えた装置としては、前記加熱器に固定支持された前記基板に半導体製造処理を施す半導体製造装置が考えられる。
【0020】
このような半導体製造装置であれば、半導体製造処理の前工程である加熱工程が短時間で済むので、基板処理に要する全体の作業時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0021】
非加熱面側に熱反射板を設けたので、非加熱面から放散された熱を非加熱面に反射することができる。その結果、加熱効率が向上され、昇温時間の短縮化、加熱器への投入パワーの低消費電力化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る加熱装置の構成例を
図1、
図2を用いて、以下に説明する。
【0024】
図1に図示されているように、加熱装置20は、加熱位置HPと非加熱位置NHとの間で基板W(例えば、シリコンやシリコンカーバイド等の半導体基板や、無機アルカリガラスや石英ガラス等のガラス基板)を移送する移送機構Mを備えている。
図示される移送機構Mは、旋回により基板Wの移送を行う移送機構Mで、
回転軸11周りにモーター等の駆動源12によって一端が回動する長板状の移送部材10と、
移送部材10の他端に設けられていて、基板Wの外周端部を支持する支持部材1と、
支持部材1に支持された基板Wと対向する熱反射板2を備えている。
【0025】
加熱装置20は加熱位置HPに加熱器4を備えている。基板Wは、移送部材10で加熱位置HPに移送された後、加熱器4で加熱される。
【0026】
図2には、加熱位置HPで基板Wが加熱される様子が描かれている。加熱器4と基板W、基板Wと熱反射板2の間に描かれている矢印は、基板Wと熱反射板2の間での熱の流入出と加熱器4から基板Wへの熱の流入を簡単に表したものである。
【0027】
本発明の構成では、加熱器4で加熱された基板Wの裏側となる非加熱面と対向して熱反射板2が設けられている。この熱反射板2は、図示の通り、支持部材1と移送部材10との間に保持されている。
【0028】
この熱反射板2を設けることで、基板の非加熱面側から放散される熱を基板側に反射することが可能となる。その結果、基板Wの加熱効率が向上され、昇温時間の短縮化、加熱器4への投入パワーの低消費電力化が可能となる。
【0029】
この構成例では、移送部材10に対して複数の支持部材1がボルトによって固定されている。この支持部材1の移送部材10への取付けと同時に熱反射板2が移送部材10に取り付けられるので、部材の取付け作業が簡便となる。
【0030】
また、本発明の構成のように、支持部材1と熱反射板2を移送部材10とは別体として設けておけば、取り扱う基板Wの寸法や基板面内での温度分布特性への影響等に応じて、支持部材1や熱反射板2の大きさや形状等を適宜変更して対応することができるので、全ての部材が一体物として構成されている場合に比べて汎用性の点で優れている。
【0031】
図3には、加熱効率のさらなる向上を目的とし、駆動源22で加熱器4に連結された駆動軸13を図示される矢印方向に移動させる第二移送機構M2を備えた構成例が描かれている。
【0032】
第二移送機構M2で、加熱器4が矢印方向へ移動すると、加熱器4の上面に基板Wが当接する。この状態でさらに加熱器4を熱反射板2側へ移動させることで、支持部材1から加熱器4に基板Wが移送される。
基板Wを加熱器4に移送させた後の加熱工程では、
図1、
図2の構成例と比べて、加熱器4と熱反射板2との距離が近づくことから、加熱効率がさらに向上する。
【0033】
加熱器で基板Wを加熱するタイミングは、基板Wの加熱器4への移送後に行ってもよい。
また、これとは別に、加熱器4に基板Wを移送する前に基板Wの加熱を行うようにしてもよい。具体的には、基板Wの加熱器4への移送前に、基板Wから加熱器4が離間している状態で、一旦、加熱器4で基板Wを加熱する。その後、基板温度が所定温度となった後で加熱器4へ基板Wを移送させ、基板Wをさらに加熱して目標温度にする2段階での加熱方法を採用してもよい。
このような2段階での加熱方法であれば、基板裏面の支持面積が少ない支持部材1に基板Wが支持されているときに、基板Wの熱変形に伴う熱ストレスをある程度開放することができる。よって、基板裏面の支持面積が大きい加熱器4上で全ての熱ストレスを開放する場合に比べて、基板裏面の擦れによる傷つきや基板割れのリスクを低減することができる。
【0034】
第二移送機構M2の構成としては、
図3に描かれる構成例に限らない。例えば、加熱器4を移動させる代わりに、移送部材10を移動させるようにしてもよい。さらには、加熱器4と移送部材10の両方を移動させるようにしてもよい。
このことを一般的に言えば、第二移送機構M2は、加熱位置HPで、加熱器4と移送部材10とを近づけて、支持部材1から加熱器4に基板Wを移送して、基板Wを支持部材1よりも熱反射板2側に位置させる機構であればよい。
【0035】
熱反射板2の構成としては種々の変形例が考えられる。例えば、
図4、
図5に描かれる構成であってもよい。
【0036】
図4では、熱反射板2の一部に開口3が形成されている。開口3の数は、複数でも単数でもよい。また、開口3の形状は、円形ではなく、矩形あるいは三角形等、様々な形状であってもよく、形成される位置についても図示される位置に限定されるものではない。
【0037】
このような開口3が形成されていれば、例えば、基板Wの上方より開口3を通じて放射温度計による基板Wの温度測定が可能となる。また、開口3の大きさ、形状、位置等を工夫することにより、熱反射板2側の基板面の温度分布を調整することも可能となる。
【0038】
図4の構成例で、移送部材10が設けられている基板中央部の温度測定を基板上方より放射温度計で行う場合には、測定対象とする基板中央部が露出するように、熱反射板2と移送部材10の両方に開口3を形成する。また、放射温度計での温度計測に代えて、熱電対を用いて基板Wの温度を計測するようにしてもよい。その他、温度計測については従来から知られている種々の手法を用いることができる。
【0039】
図5には、平板状の熱反射板2に代えて、基板側に向けて凹形状をした熱反射板2を用いる構成例が描かれている。
図5(A)は、加熱位置HPにある移送部材10を上方からみたときの平面図である。
図5(B)は、
図5(A)に一点鎖線で記載のV−V線で、Z方向に沿って
図5(A)に示す構成例を切断したときの断面図である。
【0040】
この熱反射板2は、移送部材10に沿った平坦面と移送部材10側から基板W側に向けて漸次拡開する内壁面を有する部材である。
このような熱反射板2を用いることで、図示される矢印のように、非加熱面から放散された熱をより効果的に基板側に反射することができる。
なお、凹形状の例としては、上記した形状に限られない。例えば、漸次拡開する内壁面が非線形的に変化するものであってもよい。
【0041】
図6、
図7には、これまでに述べた加熱装置20を備えた半導体製造装置の構成例が描かれている。同図に描かれる半導体製造装置は、イオン注入装置IMであって、特許文献1の
図1と同様の装置である。
【0042】
イオン源61が略スポット状のイオンビームIBを射出して、質量分析電磁石62と分析スリット63がイオン源61から射出されたイオンビームIBを質量分析し、加減速器64が同イオンビームIBを加速あるいは減速する。その後、エネルギー分離器65が、所望のエネルギーを含むイオンビームIBの成分のみを下流に通し、走査器66が一方向に沿ってイオンビームIBを走査する。走査されたイオンビームIBは、平行化器67を通過することで、ビーム進行方向が互いに平行なイオンビームIBとなるように偏向されて、処理室68に入射する。
【0043】
処理室68には、本発明の加熱装置20が設けられている。この加熱装置20は、図示されない駆動源により回転軸11周りに独立旋回可能な2本の移送部材10の端部に熱反射板2を備えた移送機構Mを備えている。移送機構Mは、支持部材1に基板Wを支持し、非加熱位置NHである真空予備室ALと加熱位置HPである注入位置との間で基板Wを移送する。
【0044】
この加熱装置20は、
図3で説明した第二移送機構M2を備えている。
図7に描かれているように、静電チャックEを備えた加熱器4をX軸周りに任意の角度回転させるツイスト機構Twと加熱器4およびツイスト機構TwをY軸周りに任意の角度回転させるチルト機構Tiを備えている。さらに、処理室68の天井からビューポート74を介して、放射温度計73で基板Wの温度計測ができるように構成されている。
【0045】
支持部材1に基板Wが支持された状態で、基板W下方にある加熱器4で基板温度が第一の温度になるまで基板Wの加熱が行われる。次に、第二移送機構M2により、加熱器4上に基板Wが移送された後、基板Wが静電チャックEで加熱器4上に固定支持された状態で基板温度が第二の温度(最終的に目標とする基板温度)になるまで基板Wの加熱が行われる。
【0046】
加熱器4に基板Wが移送された後、移送部材10は非加熱位置NHの方へ旋回して加熱器4の上方から移動する。その後、イオンビームIBが基板Wに任意の角度で照射されるように、チルト機構Tiにて基板WがY軸周りに回転される。
図6に図示される加熱器4の姿勢は、チルト機構Tiで
図7の状態から90度回転されたときの状態である。この状態で、第二移送機構M2で
図7に記載の矢印の方向に沿って加熱器4が往復搬送されることで、基板Wへのイオンビーム照射工程が行われる。
【0047】
図8は、
図6、
図7のイオン注入装置IMでの実験結果である。この実験結果は、熱反射板2の有無により、静電チャックEを使って、基板Wを安定して強固に固定支持できる状態になるまでに要する時間の差を示したものである。
図8の実験結果において、熱反射板2の有無以外の条件は、構成上の違いはない。
【0048】
図8に示す縦軸の静電容量は、基板Wと静電チャックEの間の静電容量である。静電容量は公知の静電容量計を使って計測される。
加熱器4による基板Wの非加熱時、常温状態で熱歪みのない基板Wを700Vの吸着電圧で静電チャックEにより加熱器4上に吸着させたときの基板Wと静電チャックEとの間の静電容量の値が、
図8に示す80%の静電容量に相当している。静電容量が80%に近いとき、基板Wの熱歪が十分に緩和され、基板Wを加熱器4上に安定して強固に固定支持することが可能な状態になったと判断して、次の工程(静電チャックによる基板の固定支持)に進むことが出来る。
【0049】
図8に示す横軸の時間0秒の時点は、支持部材1に支持された基板Wが加熱器4で30秒間加熱された後、基板Wが第二移送機構M2で加熱器4上に移送された時点を指す。
【0050】
加熱工程で生じる基板Wの歪みは、基板Wの温度分布の均一化が進むことで緩和される。安定して、強固な基板Wの固定支持は、基板Wの歪みが緩和されて基板Wと加熱器4との接触面積がある程度大きくなった後ではじめて実現される。
【0051】
図8より、熱反射板2を備えた本発明の構成と熱反射板2を備えていない構成との比較から、本発明の構成であれば約240秒も早く静電容量が80%に達していることがわかる。このことから、熱反射板2を備えた本発明の構成であれば、安定して、強固な基板の固定支持の条件を充足するまでの待ち時間が大幅に短縮される。
【0052】
これまでの実施形態では、移送部材10が基板Wを旋回移送する構成であったが、旋回に代えて直動により基板Wを移送する構成であってもよい。例えば、長板状の移送部材10の中央に基板Wの支持部材1を設け、移送部材10の両端を直動機構によってスライドさせる構成にしてもよい。
【0053】
また、本発明の加熱装置20の使用環境は、真空、大気のいずれであってもよい。
【0054】
さらに、本発明の加熱装置20は、
図6、
図7で示したイオン注入装置以外の半導体製造装置として、成膜装置等の基板の予備加熱処理が必要な他の装置に使用することができる。
【0055】
基板Wを加熱器4上に固定支持する手段として、静電チャックEを例に説明したが、静電チャックEに代えて、機械式あるいは真空式の固定支持手段を用いてもよい。また、これらの固定支持手段を組み合わせたものであってもよい。
【0056】
熱反射板2の材料は、アルミ、銅等の反射効率の高い金属を使用する。一方、金属材料の基板への混入を防止するという目的であれば、反射率は多少落ちるもののこれらの金属材料とは別に非金属材料を使用することが考えられる。
また、金属材料の基板との対向面や表面全体を非金属材料でコーティングすることで、金属材料の基板への混入を防止するようにしてもよい。この場合、非金属材料は熱を透過する材料で、金属材料は熱を反射する材料を用いる。
基板面のほぼ全体にわたり、熱反射効果が得られるようにするには、熱反射板2の外形は、基板Wと同径かこれよりも大きいものであればいいが、本発明の構成はこれに限られない。熱反射板2の外形が基板Wよりも小さいものであっても、基板Wの非加熱面から放出された熱を基板側に反射する構成であれば、本発明の効果を奏することができる。
【0057】
前記実施形態では、移送部材10は長板状の部材であったが、その形状はこれに限定されるものではなく、円形、三角形等種々の形状を用いてもよい。
【0058】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
加熱装置20は、加熱位置HPと非加熱位置NHとの間で基板Wを移送する移送部材10と、移送部材10に設けられ、基板Wを支持する支持部材1と、加熱位置HPに設けられ、基板Wの一面を加熱する加熱器4と、基板Wの他面と対向し、移送部材10に取り付けられた熱反射板2を備えている。