(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械においては、切削工具のホルダを着脱自在に装着することが可能な円形のタレット(刃物台)が設けられているものがある。そのようなタレットの一例が、特許文献1に開示されている。特許文献1に示されているように、タレットは円形の平板形状を有しており、その外周側面に沿って複数個のアダプタが固定されている。それらのアダプタにはホルダを挿入するための取付穴が形成されており、ホルダはその取付穴に固定される。タレットが回転することによって、切削加工に用いる切削工具が必要に応じて選択される。
【0003】
ホルダを交換する際には、ATC(オートツールチェンジャ)を用いる方法がある。これはプログラムにしたがって機械が自動的にホルダを交換するやり方である。これに対し、ATCが工作機械に組み込まれていない場合又はATCを使用したくない場合は、手動によってホルダの交換を行う必要がある。すなわち、タレットの外周側に環状に設置された複数個のアダプタに、作業者が手作業でそれぞれホルダを装着する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0011】
本実施形態のホルダ着脱機構10は、
図1に示されているように、アダプタ20と、アダプタ20に挿入されるホルダ30と、ホルダ30に装着される交換部材40と、アダプタ20に挿入されるピン50と、から構成されている。
【0012】
アダプタ20は、
図2に示されているように、正面視にて略長方形状を有する第1端面21と、第1端面に対向する第2端面22と、第1端面21と第2端面22とを接続する4つの側面23と、から構成される略直方体形状を有している。第1端面21は、ホルダ30が取り付けられる側の面であり、第2端面22は工作機械のタレットに取り付けられる側の面である。第1端面22の略中央には、ホルダ30を装着するための取付穴24が設けられている。さらに、第1端面21においては、その短手側の端部に沿って、第1端面21と第2端面22との間の厚さが他の領域よりも薄く形成された薄肉部25が設けられている。薄肉部25は短手側端部の両方に形成されており、その短手方向には4つのピン穴26が並んで設けられている。したがって、アダプタ20において、ピン穴26は合計8つ設けられている。また、1つの端部領域にある4つのピン穴26は一直線ではなく、平面視にてアダプタ20の外方に膨らむ曲線状に配列されている。ピン穴26の数はこれに限定されることはなく、アダプタ20全体で2つ以上設けられていればよい。また、ピン穴26の配置箇所もこれに限定されることはなく、適宜変更することが可能である。
【0013】
図2に示されている本実施形態のアダプタ20においては、工作機械のタレットに固定するためのボルト穴等が省略されているが、それらについては一般的なアダプタと同様の位置に設けることが可能である。また、アダプタ20の全体形状については本実施形態に限定されることはなく、直方体形状以外の形状であっても構わない。また、ホルダ30の取付穴24の形状についても本実施形態に限定されることはなく、適宜変更することが可能である。また、薄肉部25を設けずに、第1端面21が一様な平面からなる構成も可能であるし、第2端面22の形状もタレットに合わせて適宜変更することが可能である。
【0014】
ホルダ30は、
図3に示されているように、円筒状の体部31と、その一方の端部に設けられた、切削工具を取り付けるための工具保持部32と、もう一方の端部に設けられた、アダプタ20に挿入される取付部33と、から構成されている。工具保持部32には切削インサートを設置するためのインサート座34が設けられている。本実施形態の場合、旋削用であるためインサート座34の数は1つである。工具保持部32の全体形状やインサート座34の数や形状は、図示されているものに限定されることはなく、必要に応じて適宜変更することが可能である。体部31の外周面には、交換部材40を装着するための交換部材配置部35が2か所設けられている。2か所の交換部材配置部35は、体部31の外周面上において、ホルダ30の中心軸Oを中心として正反対の位置にそれぞれ設けられている。本実施形態において、交換部材配置部35は、上方に位置する箇所と下方に位置する箇所の2か所に設けられている。ここにおける「上方」とは
図1におけるA方向であり、「下方」とは
図1におけるB方向のことを指す。しかしながら、これに限定されることはなく、ホルダ30の中心軸Oを中心として180°ではない角度の位置になるようにそれぞれ配置されていても構わない。交換部材配置部35は、円筒状の外周面を平坦に切り欠くようにして形成されており、その略中央には固定ボルトを挿入するための固定穴36設けられている。
【0015】
前述したホルダ30の体部31の全体形状は円筒状に限定されることはなく、適宜変更することが可能である。また、交換部材配置部35の形状に関しても、本実施形態のような平坦面に限定されることはなく、必要に応じて変更することが可能である。また、取付部33の形状も、図示されているものに限定されることはなく、適宜変更することが可能である。
【0016】
交換部材40は、
図4に示されているように、平坦な第1端面41と、第1端面41に対向し且つ同様の形状を有する第2端面42と、第1端面41と第2端面42とを接続する側面43と、から構成される略直方体の全体形状を有している。そして、側面43の一部には、切り欠かれるようにして凹部44が形成されている。具体的には、平板状の略直方体形状における1つの側面431上に、平面視にて三角形形状の凹部44が2つ並ぶように形成されている。2つの凹部44は、それらが形成されている側面431において、一方の端部に偏って設けられている。すなわち、凹部44が形成されている側面431を長手方向の中央において2分割するとき、凹部44は一方の側に偏在しているのである。また、これらの2つの凹部44のうち、端部側に位置している凹部44の方が中央側に位置している凹部44よりも切欠きの大きさが大きい。本実施形態においては、凹部44の形状が三角形であるが、これに限定されることはなく、他の形状であっても構わない。また、凹部44の数や位置についても上記実施形態に限定されることはなく、適宜変更することが可能である。また、凹部44が設けられている側面431の略中央には、交換部材40をホルダ30に固定ボルトを通すための固定穴45が設けられている。
【0017】
ピン50は、
図5に示されているように、略円筒形状の長細い部材であり、一方の端面にはレンチ等の取付工具を挿入することが可能な工具穴51が形成されている。これによって、ピン50を取付工具を用いてアダプタ20のピン穴26に確実に挿入させることが可能となる。ピン50の形状はこれに限定されることはなく、必要に応じて適宜変更することが可能である。
【0018】
次に、ホルダ30と交換部材40の組み立てについて説明する。
図6に示されているように、交換部材40は、ホルダ30の交換部材配置部35の平坦面に、その凹部44が形成されている側面431と対向する側面43が当接するように配置される。そして、凹部44が形成されている側面431にある固定穴45に固定ボルトを通すことによって、交換部材40はホルダ30に固定される。前述したとおり、ホルダ30には2か所の交換部材配置部35が存在しているので、ホルダ30には2つの交換部材40が取り付けられる。また、本実施形態では、ホルダ30の上側に装着された交換部材401も下側に装着された交換部材402も、
図4に記載されているものと同一であり、凹部44が左側に位置するように固定されている。ここにおける「左側」とは、
図1におけるC方向のことを指す。
【0019】
次に、交換部材40が取り付けられたホルダ30のアダプタ20への組み付けについて説明する。アダプタ20には、
図1に示されているように、ピン穴26にピン50が挿入されている。具体的には、アダプタ20の上側に設けられた4つのピン穴26においては、左側の2つだけにピン50が挿入されている。同様に、下側に設けられた4つのピン穴26においても、左側の2つだけにピン50が挿入されている。そして、このようにピン50が挿入されたアダプタ20に、交換部材が装着されたホルダ30が取り付けられる。すなわち、ホルダ30の取付部33がアダプタ20の取付穴24に挿入されるのである。前述したように、ホルダ30に装着された交換部材40の凹部44もピン50と同じように左側に位置しているので、
図1に示されているように、ホルダ30をアダプタ20に装着したとき、交換部材40の凹部44をアダプタ20のピン50が接触することなく通過する。本実施形態の場合、ホルダ30の上側の交換部材401においては、左側に偏って配置された2つの凹部44にそれぞれピン50が通過している。下側の交換部材402においても、左側に偏って配置された2つの凹部44にそれぞれピン50が通過している。
【0020】
以上のようにホルダ30はアダプタ20へと組み付けられるのであるが、このようなホルダ着脱機構10によって次の効果を得ることができる。
【0021】
前述したように、工作機械のタレットに環状に設置されたアダプタ20にはそれぞれ装着するべきホルダ30が個別に指定されている、すなわち、アダプタ20とホルダ30には個別の対応関係がある。したがって、特定のアダプタ20には特定のホルダ30を装着することが求められているのである。本実施形態においては、ホルダ30に取り付けられた交換部材40の凹部44と、アダプタ20に取り付けられたピン50と、の対応関係によって、アダプタ20とホルダ30の個別の対応関係を規定することが可能である。例えば、
図1に示されているように、ピン50がアダプタ20の左側の2つのみに取り付けられている場合、交換部材40の左側に凹部44が2つ設けられたホルダ30でなければ、ホルダ30をアダプタ20に装着することができない。なぜなら、アダプタ20のピン50と、ホルダ30の交換部材40の凹部44との対応する位置関係がずれていると、ピン50が交換部材40の第1端面41又は第2端面42にぶつかってホルダ30の取付部33をアダプタ20の取付穴24に挿入することができないからである。このように、本実施形態のホルダ着脱機構10を用いると、アダプタ20とホルダ30との個別の対応関係を形状的に規定することが可能となるので、作業者が対応関係の異なるホルダ30をアダプタ20に装着することが物理的にできなくなる。したがって、手動でホルダ30を交換する際における取り付け間違いを確実に防止することが可能である。
【0022】
さらに、本実施形態においては、アダプタ20に取り付けるピン50の位置や数と、ホルダ30の交換部材40に設ける凹部44の位置や数と、を変更することによって、アダプタ20とホルダ30間に複数の対応関係を規定することができる。例えば、ピン50を2つ使用する場合(すなわち、交換部材40の凹部44も2つの場合)においては、
図7に示されているように、上側の交換部材401の凹部44は6つの配置パターンを作り出すことが可能である。すなわち、左側から順に凹部44を1,2,3,4と位置付けるとき、「1,2」「3,4」「2,3」「1,4」「1,3」「2,4」の6つのパターンを作ることができる。凹部44に位置するようにピン50が装着されることでアダプタ20とホルダ30の対応関係が生まれるので、この場合、アダプタ20とホルダ30間に6つの個別の対応関係を作り出すことができる。また、交換部材40を裏返すことによって1つの交換部材40で2つのパターンを作り出すことが可能な凹部44の配列が存在するため、必要とされる交換部材は、
図6における(a)(b)(c)(d)の4種類である。すなわち、4種類の交換部材40で6つの配置パターンを作り出すことができる。さらに、下側の交換部材402においても、上側の交換部材401と同様にして6つの配置パターンを作り出すことが可能である。そのため、上側の交換部材401の6パターンと下側の交換部材402の6パターンを組み合わせることによって、合計36パターンもの対応関係を作り出すことができる。このようにして、作業者は、ホルダ30に取り付ける交換部材40の形状と、アダプタ20に取り付けるピン50の数と、を適宜変更することによって、アダプタ20とホルダ30間に求められる個別の対応関係の数を簡便かつ臨機応変に増加又は減少させることが可能となる。
【0023】
本実施形態においては、ピン50の数及び交換部材40の凹部44の数はそれぞれ4つであるが、これに限定されることはなく、1つ以上の任意の数に設定することが可能である。例えば、ピン50及び凹部44の数がそれぞれ1つの場合、ピン穴26がアダプタ20に4つ形成されているならば、1つの交換部材40において4つの配列パターンを作り出すことができる。このとき、上側の交換部材401と下側の交換部材402を組み合わせることによって、対応関係は合計16パターンになる。また、ピン穴26も4つに限定されることはなく、アダプタ20全体で2つ以上設けられていればよい。さらには、作り出すことが可能な対応関係の数は減少してしまうけれども、ピン50の数と凹部44の数が一致していなくてもよい。すなわち、交換部材40の凹部44の数がピン50と同数以上あればよい。また、ホルダ30に取り付けることが可能な交換部材40の数も、本実施形態のように2つに限定されることはなく、1つ以上あればよい。
【0024】
また、交換部材40に設ける凹部44は、本実施形態のような切欠き形状ではなく、貫通穴や止まり穴であってもよい。すなわち、ホルダ30をアダプタ20に装着したときに、アダプタ20に取り付けられたピン50と接触しないように逃げている形状であればよい。また、アダプタ20に取り付けられるのは、
図5に示されているようなピン50に限定されることはなく、多角形形状の断面等を有する他の凸状の部材であっても構わない。
【0025】
さらに、本実施形態では、交換部材40がホルダ30に対して着脱自在に構成されているけれども、これに限定されることはなく、凹部44が形成された交換部材40がホルダ30と一体的に形成されていてもよい。この場合、交換部材40を交換することができないので、一度規定したアダプタ20とホルダ30の対応関係を後から変更することはできなくなる。同様に、ピン50とアダプタ20を一体的に形成することも可能である。すなわち、アダプタ20に凸状の部分を一体的に設ける構成も可能である。この場合においても、ピン50の位置を変更することができないので、一度規定したアダプタ20とホルダ30の対応関係を後から変更することはできなくなる。当然ながら、上記の一体形成においては、ホルダ30に直接凹部44を設ける構成も含まれている。
【0026】
また、アダプタ20ではなくホルダ30の方にピン50を設け、ホルダ30ではなくアダプタ20の方に凹部44を設ける構成も可能である。すなわち、
図1にて示されている構成とは、凹凸の関係を反対にしたものである。このように構成したとしても、本発明の効果を完全に発揮することができる。
【0027】
以上の点をまとめると、本発明のホルダ着脱機構10は、次の特徴を有する。
【0028】
第一に、アダプタ20又はホルダ30のいずれかには、ピン穴26のような、予め決められた複数の凸部配置可能ポイント26が規定されている。このように、ピン50のような凸部50を配置することが可能なポイントが複数個規定されていることで、アダプタ20とホルダ30との対応関係を複数作り出すことができる。
【0029】
第二に、複数の凸部配置可能ポイント26のうち、少なくとも1つに凸部50が設けられており、アダプタ20に凸部50が設けられているときには、ホルダ30に凸部50と同数以上の凹部44が設けられており、ホルダ30に凸部50が設けられているときには、アダプタ20に凸部50と同数以上の凹部44が設けられている。凸部50としては、ピン50のように着脱自在な部材であることが好ましい。なぜなら、アダプタ20とホルダ30の対応関係の設定に大きな自由度が生まれるからである。
【0030】
第三に、ホルダ20の凹部44又は凸部50とアダプタ30の凸部50又は凹部44とは対応関係にあって、ホルダ30をアダプタ20に装着したときに、ホルダ20の凹部44にアダプタ20の凸部50が位置する、又はアダプタ20の凹部44にホルダ20の凸部50が位置する。このようにして、アダプタ20とホルダ30が対応関係にあるときのみ、ホルダ20はアダプタ30に装着可能となるである。
【0031】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明した。しかし、本発明は種々の変更が可能であり、本願の請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、置換、変更が可能である。