特許第6296265号(P6296265)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋インキSCホールディングス株式会社の特許一覧 ▶ トーヨーカラー株式会社の特許一覧

特許6296265着色剤分散物、着色剤分散物の製造方法及びインクジェット記録用インク
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6296265
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】着色剤分散物、着色剤分散物の製造方法及びインクジェット記録用インク
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20180312BHJP
   C09B 67/46 20060101ALI20180312BHJP
   C09D 11/32 20140101ALI20180312BHJP
【FI】
   C09D17/00
   C09B67/46 B
   C09D11/32
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-159982(P2017-159982)
(22)【出願日】2017年8月23日
【審査請求日】2017年9月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】青谷 朋之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智彦
(72)【発明者】
【氏名】鶴谷 進典
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−287014(JP,A)
【文献】 特開平11−140343(JP,A)
【文献】 特開2004−331946(JP,A)
【文献】 特開2011−026564(JP,A)
【文献】 特開2011−137055(JP,A)
【文献】 特開2009−287015(JP,A)
【文献】 特開2011−089114(JP,A)
【文献】 特表2003−520279(JP,A)
【文献】 特開2003−238840(JP,A)
【文献】 特開2001−247800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 17/00
C09B 67/46
C09D 11/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基、及びカルボキシル基を有する未中和樹脂、水溶性無機塩並びに水溶性有機溶剤を含有する混合物を混練して微細化する工程と、水溶性無機塩及び水溶性有機溶剤を除去する工程と、塩基性化合物及び水を添加して未中和樹脂のカルボキシル基を中和する工程と、架橋剤を添加して架橋剤と未中和樹脂とを架橋させる工程とが、順次行われることを特徴とする着色剤分散物の製造方法。
【請求項2】
炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基、及びカルボキシル基を有する未中和樹脂の重量平均分子量が、5,000〜15,000である請求項1に記載の着色剤分散物の製造方法
【請求項3】
着色剤分散物の動的光散乱法による体積メディアン径が20〜100nmである、請求項1又は2に記載の着色剤分散物の製造方法
【請求項4】
炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基、及びカルボキシル基を有する未中和樹脂の酸価が120〜300mgKOH/gである、請求項1〜3いずれか一項に記載の着色剤分散物の製造方法
【請求項5】
架橋剤が、アジリジン基、カルボジイミド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基を含む、請求項1〜4いずれか一項に記載の着色剤分散物の製造方法
【請求項6】
架橋剤が、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物である、請求項1〜5いずれか一項に記載の着色剤分散物の製造方法
【請求項7】
架橋剤の含有量が、未中和樹脂のカルボキシル基に対して、30〜90モル%である、請求項1〜6いずれか一項に記載の着色剤分散物の製造方法
【請求項8】
文具用着色剤、塗料用着色剤、印刷インク用着色剤、電子写真用着色剤、インクジェット記録用インク用着色剤又は捺染剤用着色剤に用いられる、請求項1〜いずれか1項に記載の着色剤分散物の製造方法
【請求項9】
請求項1〜に記載の着色剤分散物の製造方法で得られる着色剤分散物を含む、インクジェット記録用インクの製造方法
【請求項10】
さらに水溶性溶剤を含む、請求項に記載のインクジェット記録用インクの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸透性の高い溶剤と、沸点が高い溶剤とが共存しても分散安定性及び印刷性に優れる着色剤分散物、着色剤分散物の製造方法、及びインクジェット記録用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録媒体に直接吐出し、付着させて、文字や画像を得る記録方式である。この方式は、フルカラー化が容易で、かつ安価であり、記録媒体として普通紙が使用可能、被印字物に対して非接触、という数多くの利点があるため普及が著しく、特に安全性と環境負荷の少なさから水性インクが主流となっている。
【0003】
このような中、近年、低吸液性のコート紙、又はポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂等の非吸液性樹脂のフィルムを用いた商業印刷向けの記録媒体への印刷のニーズが高まっている。一般に、基材に水性インクが着弾した後の乾燥機構は、基材への浸透と蒸発とに分類され、浸透の寄与が非常に大きいことが知られている。したがって、低吸液性のコート紙、又はポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂等の非吸液性樹脂のフィルムは、水性インクの浸透が遅く、これらの基材に対して、水性インクを用いた印刷を良好に実施することは難しかった。また、水性インクは、ノズルの乾燥防止を目的として、沸点が高く、かつ水への溶解性が高い水溶性溶剤を添加する必要があり、溶剤インクやUVインクを使用した場合と比べて、乾燥性に劣り印刷速度が著しく低下してしまうという課題があった。
【0004】
そこで、これらの課題を解決するには、浸透性が高く、かつ沸点が高い水溶性溶剤をインクに添加し、インクの乾燥性の向上を図る方法が考えられる。例えば、特許文献1には、ポリシロキサン系界面活性剤と特定の沸点及び表面張力を有する有機溶剤とを含む水性インクが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、特定構造の親水性モノマーを含む水不溶性ポリマーと、特定の沸点を有する有機溶媒とを組み合わせた水性インクが開示されている。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2に記載の技術は、使用する水溶性溶剤に制限があり、近年の多様な要求特性を満足しうるインク設計を行う上で問題があった。また、使用する着色剤や溶剤種によっては、分散安定性及び印刷性が不十分であった。即ち、浸透性の高い溶剤と、沸点が高い溶剤とが共存してもより分散安定性及び印刷性に優れる着色剤分散物、着色剤分散物の製造方法、及びインクジェット記録用インクの提供が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−205768号公報
【特許文献2】特開2014−139298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、低吸液性の記録媒体用に好適に使用され、浸透性の高い溶剤と沸点が高い溶剤とが共存しても、分散安定性及び印刷性に優れる着色剤分散物を提供することである。また、該着色剤分散物の製造方法、及びインクジェット記録用インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。
すなわち本発明は、着色剤粒子、塩基性化合物、架橋剤及び水を含む着色剤分散物であって、前記着色剤粒子が、炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基、及びカルボキシル基を有する未中和樹脂が着色剤表面に吸着し、かつ、着色剤粒子中の着色剤に対する未中和樹脂の吸着量(未中和樹脂吸着率)が30質量%以上である着色剤粒子である、着色剤分散物に関する。
【0010】
また本発明は、炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基、及びカルボキシル基を有する未中和樹脂の重量平均分子量が、5,000〜15,000である上記着色剤分散物に関する。
【0011】
また本発明は、動的光散乱法による体積メディアン径が20〜100nmである、上記着色剤分散物に関する。
【0012】
また本発明は、炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基、及びカルボキシル基を有する未中和樹脂の酸価が120〜300mgKOH/gである、上記着色剤分散物に関する。
【0013】
また本発明は、架橋剤が、アジリジン基、カルボジイミド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基を含む、上記着色剤分散物に関する。
【0014】
また本発明は、未中和樹脂吸着率が60質量%以上である、上記着色剤分散物に関する。
【0015】
また本発明は、文具用着色剤、塗料用着色剤、印刷インク用着色剤、電子写真用着色剤、インクジェット記録用インク用着色剤又は捺染剤用着色剤に用いられる、上記着色剤分散物に関する。
【0016】
また本発明は、着色剤、炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基、及びカルボキシル基を有する未中和樹脂、水溶性無機塩並びに水溶性有機溶剤を含有する混合物を混練して微細化する工程と、水溶性無機塩及び水溶性有機溶剤を除去する工程と、塩基性化合物及び水を添加して未中和樹脂のカルボキシル基を中和する工程と、架橋剤を添加して架橋剤と未中和樹脂とを架橋させる工程とが、順次行われることを特徴とする着色剤分散物の製造方法に関する。
【0017】
さらに本発明は、上記着色剤分散物を含む、インクジェット記録用インクに関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、浸透性の高い溶剤と、沸点が高い溶剤とが共存してもより分散安定性及び印刷性に優れる着色剤分散物、着色剤分散物の製造方法、及びインクジェット記録用インクが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明の着色剤分散物及びその製造方法、それを用いたインクジェット記録用インクについて説明する。本発明の着色剤分散物は、少なくとも着色剤粒子、塩基性化合物、架橋剤及び水を含む着色剤分散物であって、前記着色剤粒子が、炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基及びカルボキシル基を有する未中和樹脂が着色剤表面に吸着した着色剤粒子であり、未中和樹脂吸着率が30質量%以上である、着色剤分散物であることを特徴とする。
【0020】
本発明の着色剤分散物は、浸透性の高い溶剤と、沸点が高い溶剤とが共存してもより分散安定性及び印刷性に優れる効果を有する。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。未中和樹脂吸着率が30質量%以上であることで、効果的に、未中和樹脂が着色剤に吸着されており、さらに架橋剤と反応することで、着色剤をより強固に被覆できる。これによって、浸透性の高い溶剤と、沸点が高い溶剤とが共存しても、安定な分散体の提供が可能になる。また、分散体中の未吸着の分散樹脂が少ないため、未吸着の分散剤と架橋剤の反応による増粘も抑制され、経時での安定性にも優れ、従来無しえなかった、分散安定性と印刷性との両立が達成できる。
【0021】
以下、本発明に用いられる各成分について説明する。
<着色剤粒子>
本発明の着色剤粒子は、炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基及びカルボキシル基を有する未中和樹脂が着色剤表面に吸着したものであり、未中和樹脂吸着率が30質量%以上であることを特徴としている。中和樹脂と比較して疎水性の高い未中和樹脂を用いることで、飛躍的に着色剤への吸着量が向上し、樹脂によって着色剤が十分に被覆された着色剤粒子とすることができる。それにより、分散安定性が大きく改善する。一方、中和樹脂では着色剤を十分に被覆することができず、分散安定性に優れる着色剤粒子を得ることは出来ない。
【0022】
[着色剤粒子の製造]
本発明の着色剤粒子は、具体的には、以下の工程(1)及び工程(2)を順次行うことで得ることが好ましい。
工程(1):着色剤、炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基及びカルボキシル基を有する未中和樹脂、水溶性無機塩及び水溶性有機溶剤を含有する混合物を混練して微細化する工程。
工程(2):水溶性無機塩及び水溶性有機溶剤を除去する工程。
【0023】
工程(1)の着色剤の微細化方法は、特に限定されず任意の方法を適用できるが、ソルトミリング処理による摩砕混練工程等が好適である。
例えば、少なくとも着色剤、未中和樹脂、水溶性無機塩及び水溶性有機溶剤を含有する混合物を、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、アトライター、横型サンドミル、縦型サンドミル及び/又はアニューラ型ビーズミル等の混練機を用いて摩砕混練を行うことができる。また着色剤の種類や、求められている微細化の程度等に応じて、処理条件等を適宜調整することができ、機械的に混練する際に加熱を行うことが好ましい。これらの摩砕混練方法の中でも、未中和樹脂の着色剤への吸着量を飛躍的に向上させるために、ニーダーを使用することが好ましい。
【0024】
水溶性無機塩は、破砕助剤として働くものであり、水溶性無機塩の硬度の高さを利用して着色剤を破砕する。摩砕混練方法で使用する水溶性無機塩は、その名称の如く水溶性を示す無機塩であればよく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で限定されない。好ましい例として、塩化ナトリウム、塩化バリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。価格の点から塩化ナトリウム(食塩)を用いることが好ましい。
【0025】
摩砕混練方法で使用する水溶性有機溶剤は、着色剤及び水溶性無機塩を湿潤する働きをするものであり、水に溶解(混和)し、且つ用いる水溶性無機塩を実質的に溶解しないものである必要がある。更に、未中和樹脂と適度に親和性がある必要がある。
そのような水溶性有機溶剤としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、及びこれらと同族のジオールなどのジオール類; ラウリン酸プロピレングリコールなどのグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシルの各エーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、及びトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブなどのグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、及びこれらと同族のアルコールなどのアルコール類;あるいは、スルホラン;γ−ブチロラクトンなどのラクトン類;N−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドンなどのラクタム類;グリセリン及びその誘導体など、水溶性有機溶剤として知られる他の各種の溶剤などを挙げることができる。これらの水溶性有機溶剤は1種又は2種以上混合して用いることができる。
中でも、高沸点、低揮発性で、高表面張力の多価アルコール類が好ましく、特にジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール類が好ましい。
【0026】
また、水溶性有機溶剤の加える量は特に限定されないが、着色剤100質量部に対し、5〜1,000質量部用いることが好ましく、50〜500質量部用いることがより好ましい。また、水溶性無機塩は、処理効率と生産効率の両面から、着色剤100質量部に対し、50〜2,000質量部用いることが好ましく、300〜1,000質量部用いることがより好ましい。また、未中和樹脂は、印字濃度及び保存安定性の観点から、固形分換算で着色剤100質量部に対し、5〜100質量部用いることが好ましく、10〜80質量部用いることが好ましい。
【0027】
工程(2)は、例えば工程(1)を行った後、摩砕混練機から着色剤を含む混合物を取り出し、イオン交換水を投入して撹拌を行い、懸濁液を得る。加える水の分量は、懸濁液を得るのに充分な量であればよく、特に限定されない。必要に応じて加温してもよい。例えば、工程(1)の重量の10〜10,000倍の重量の水を加えて混合撹拌する。このときの混合撹拌条件は特に限定されないが、温度25〜90℃で行うことが好ましい。ついで、ろ過等の操作により、ろ液を除去することで、摩砕混練機で用いた水溶性有機溶剤、水溶性無機塩を除去することができ、着色剤が未中和樹脂で被覆された着色剤粒子を得ることができる。厳密に言えば、上記着色剤粒子はイオン交換水を含むので、さらに水を除去する工程を行ってもよい。水を除去する方法であれば限定されないが、好適な方法としては、乾燥処理を行う方法を挙げることができる。乾燥条件としては、例えば、常圧下、80〜120℃の範囲で12〜48時間程度の乾燥を行う方法、減圧下、25〜80℃ の範囲で12〜60時間程度の乾燥を行う方法などが例示できる。乾燥処理は特に限定されないが、スプレードライ装置を利用する方法も例示できる。乾燥処理と同時もしくは乾燥処理後に粉砕処理を行ってもよい。
【0028】
着色剤分散物中の着色剤粒子の含有量は、印字濃度と保存安定性の観点から、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%以下がより好ましい。また着色剤粒子の体積メディアン径は、プリンターのノズルの目詰まり防止及び保存安定性の観点から、20〜100nmが好ましく、25〜95nmがより好ましく、30〜90nmが最も好ましい。なお、体積メディアン径の測定は、レーザー回折・散乱法を用いる。
【0029】
[未中和樹脂吸着量]
着色剤粒子表面への未中和樹脂吸着率は、浸透性の高い溶剤と、沸点が高い溶剤を添加した際の分散安定性の観点から、30質量%以上である。未中和樹脂吸着率が30質量%未満であると、着色剤表面への未中和樹脂の吸着及び被覆が不十分であり、着色剤に吸着した未中和樹脂と後述の架橋剤との反応が効果的に進まず、着色剤分散物の分散安定性が悪くなる。また、未吸着の未中和樹脂との架橋反応が進み、経時安定性も悪くなる。
未中和樹脂吸着率は、好ましく45質量%以上であり、特に好ましくは60質量%以上である。なお、未中和樹脂吸着率の測定方法は、実施例で詳細に記載する。
【0030】
<着色剤>
着色剤粒子を得るための着色剤としては特に制限はなく、顔料、疎水性染料、水溶性染料(酸性染料、反応染料、直接染料等)等を用いることができるが、耐水性、保存安定性及び耐擦過性の観点から、顔料及び疎水性染料が好ましい。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。また、必要に応じて、それらと体質顔料(シリカ、炭酸カルシウム、タルク等)を併用することもできる。無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等が挙げられる。これらの中では、特に黒色水系インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アンソラキノン顔料、キノフタロン顔料等が挙げられる。
【0031】
具体的には、例えば、
C.I.Pigment Red 1、2、3、4、5、6、7、9、10、14、17、22、23、31、32、38、41、48:1、48:2、48:3、48:4、49、49:1、49:2、52:1、52:2、53:1、57:1、60:1、63:1、66、67、81:1、81:2、81:3、83、88、90、105、112、119、122、123、144、146、147、148、149、150、155、166、168、169、170、171、172、175、176、177、178、179、184、185、187、188、190、200、202、206、207、208、209、210、216、220、224、226、242、246、254、255、264、266、269、270、272、279、
C.I.Pigment Yellow 1、2、3、4、5、6、10、11、12、13、14、15、16、17、18、20、24、31、32、34、35、35:1、36、36:1、37、37:1、40、42、43、53、55、60、61、62、63、65、73、74、77、81、83、86、93、94、95、97、98、100、101、104、106、108、109、110、113、114、115、116、117、118、119、120、123、125、126、127、128、129、137、138、139、147、148、150、151、152、153、154、155、156、161、162、164、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、179、180、181、182、185、187、188、193、194、199、213、214、C.I. Pigment Orange 2、5、13、16、17:1、31、34、
36、38、43、46、48、49、51、52、55、59、60、61、62、64、71、73、
C.I.Pigment Green 7、10、36、37、58、59、62、63、
C.I.Pigment Blue 1、2、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64、66、79、79、80
C.I.Pigment Violet 1、19、23、27、32、37、42C.I.Pigment Brown 25、28
C.I.Pigment Black 1、7等を挙げることができる。
【0032】
これらの中で好ましく用いることができる顔料として、以下のものを挙げることができる。
C.I.Pigment Red 48:1、48:2、48:3、48:4、57:1、122,146、147、148、150、170、176、177、184、185、242、254、255、264、266、269、
C.I.Pigment Yellow 12、13、14、17、74、83、108、109、120、150、151、154、155、180、185、213
C.I.Pigment Orange 36,38、43、64
C.I.Pigment Green 7、36、37、58、62、63、
C.I.Pigment Blue 15:1、15:3、15:6、16、22、60、66、
C.I.Pigment Violet 19、23、32、
C.I.Pigment Brown 25、
C.I.Pigment Black 1、7
これらの顔料であれば、インクジェット記録用インクとして十分な色再現性及び(又は)耐光性を保持することができる。但し、本発明においてはこれらに限定されるものではない。
【0033】
微細化する顔料の平均一次粒子径は、用途により変動し得るが、通常5〜1,000nmである。ここで用いる顔料は、通常、未処理の粗顔料が用いられるが、何らかの処理工程を経た顔料を用いてもよい。また、用いる顔料は、単一種類でも複数種類でもよい。
【0034】
<炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基及びカルボキシル基を有する未中和樹脂>
炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基及びカルボキシル基を有する未中和樹脂は、炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基及びカルボキシル基を有してさえすればよい。好ましくは、炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基含有単量体とカルボキシル基含有単量体との共重合体であり、より好ましくはこれらの(メタ)アクリレート共重合体である。
【0035】
[炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基含有単量体]
本発明で好適に使用される炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基含有単量体(以下、単量体Aとする)としては、具体的には、下記一般式(1)で表されるものが好ましい。これらは溶媒揮発時のインク粘度を低くし、低吸液性基材への印字性を向上させ、着色剤分散物及び、それを用いたインクジェット記録用インクの保存安定性及び吐出性を向上させる効果がある。
【0036】
一般式(1)
【化1】


[一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは炭素数1〜6のアルキレン基を示し、Rは水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基又は水素原子が炭素数1以上9以下のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基を示し、mはアルキレンオキシ基の平均付加モル数を示し、1以上100以下の数である。]
【0037】
上記一般式(1)において、R1は水素原子又はメチル基であり、着色剤分散物の分散安定性及びそれを用いたインクジェット記録用インクの保存安定性を向上させる観点から、メチル基が好ましい。Rは炭素数1〜6のアルキレン基であり、−R−O−のアルキレンオキシ基は未中和樹脂のインク中での水及び水溶性溶剤との親和性向上に寄与する。また、着色剤分散物では、アルキレンオキシ基がインク中で拡がりを持ち、立体障害基として働き、着色剤分散物の安定化に寄与する。工業的な観点より、エチレンオキシ基が特に好ましい。Rは水素原子、炭素数1 以上20以下のアルキル基又は水素原子が炭素数1以上9以下のアルキル基で置換されていてもよいフェニル基であり、着色剤分散物の分散安定性及びそれを用いたインクジェット記録用インクの保存安定性を向上させる観点から、水素原子、炭素数1以上20以下のアルキル基が好ましく、炭素数1以上3以下のアルキル基がより好ましく、メチル基が更に好ましい。
【0038】
上記一般式(1)において、mは1以上100以下である。mは溶媒揮発時のインク粘度を低くし、疎水性の高い基材への印字性を向上させ、顔料インクの保存安定性及び吐出性を向上させる観点から、4以上が好ましく、9以上が更に好ましい。また、mは、70以下が好ましく、40以下がより更に好ましい。また、mが9〜40の範囲にあると、着色剤分散物並びにそれを用いたインクジェット記録用インク製造時の分散安定性が向上するため好ましい。
【0039】
上記一般式(1)で表されるモノマーの好適例としては、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートから選ばれる1種又は2種以上が挙げられるが、上記観点よりメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートが最も好ましい。商業的に入手しうる一般式(1)のモノマーの具体例としては、ブレンマーPME100、同PME400、同PME1000(以上、日油株式会社製)が挙げられる。
【0040】
[カルボキシル基含有単量体]
本発明で好適に使用されるカルボキシル基含有単量体(以下、単量体Bとする)としては、具体例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、又は、これらのアルキルもしくはアルケニルモノエステル、フタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、イソフタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、テレフタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、コハク酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸などが挙げられる。保存安定性の向上をより高度に図るためには、カルボキシル基含有(メタ)アクリレートが好ましく、この中でもアクリル酸やメタクリル酸を含む事がより好しい。カルボキシル基をもつことで、着色剤に吸着した未中和樹脂が、塩基性化合物などで中和されイオン化させた際に電荷反発の効果を得ることができ、水性溶媒中で着色剤粒子同士の電荷反発が起こり、着色剤分散物の分散安定性が向上する。
【0041】
[その他の単量体]
未中和樹脂は、前記炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基含有単量体とカルボキシル基含有単量体以外のその他の単量体を重合組成に含んでいてもよい。その他の単量体としては、アルキル系エチレン性不飽和単量体、水酸基含有エチレン性不飽和単量体、窒素含有エチレン性不飽和単量体、芳香環基含有エチレン性不飽和単量体等がある。以下に具体例を挙げて説明する。
【0042】
(アルキル系エチレン性不飽和単量体)
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、もしくはベヘニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0043】
(水酸基含有エチレン性不飽和単量体)
水酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4 −ヒドロキシビニルベンゼン等が挙げられる。
【0044】
(窒素含有エチレン性不飽和単量体)
窒素含有エチレン性不飽和単量体としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノスチレン、ジエチルアミノスチレン、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル−(メタ)アクリルアミド等のモノアルキロール(メタ)アクリルアミド、N ,N−ジ(メチロール)アクリルアミド、N−メチロール−N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N ,N−ジ(メトキシメチル)アクリルアミド等が挙げられる。
【0045】
(芳香環基含有エチレン性不飽和単量体)
芳香環基含有エチレン性不飽和単量体としては、スチレン、α -メチルスチレン、2-メチルスチレン、クロロスチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、ビニルナフタレン、ビニルカルバゾール等が挙げられる。
【0046】
未中和樹脂中に、上記芳香環基含有エチレン性不飽和単量体を含む事で、未中和樹脂がπ電子相互作用によって顔料への高い親和性を得る事ができ、顔料に対して良好な吸着状態を形成する事が可能となる。このような観点から、未中和樹脂は芳香環基含有エチレン性不飽和単量体を含むことが好ましく、その中でもベンジル(メタ)アクリレートを含むことが特に好ましい。
【0047】
未中和樹脂における、それぞれの単量体量としては、未中和樹脂中の単量体Aに由来する構成単位の含有量は得られるインクジェット記録用インクの印刷適性の観点から5〜50質量%が好ましく、5〜40質量%がさらに好ましく、5〜30質量%が最も好ましい。未中和樹脂中の単量体Bに由来する構成単位の含有量は、得られる着色剤分散物の保存安定性の観点から5〜50質量%が好ましく、5〜40質量%がさらに好ましく、5〜30質量%が最も好ましい。また、未中和樹脂の着色剤への吸着率を高める観点から芳香族基含有エチレン性不飽和単量体を40質量%以上含むことが好ましい。
【0048】
本発明の未中和樹脂は、重量平均分子量が2,000〜70,000の範囲であることが好ましく、更には、重量平均分子量が3,000〜50,000の範囲であることが好ましく、重量平均分子量が5,000〜20,000の範囲のものがより好ましく、5,000〜15,000の範囲のものが特に好ましい。未中和樹脂の重量平均分子量が、2,000より小さいと顔料との相互作用が低くなり、着色剤への十分な吸着量が得られずに分散安定性が低下する。また、未中和樹脂の重量平均分子量が、70,000よりも大きいと着色剤分散物の粘度が上昇する傾向がある。
【0049】
また、本発明の未中和樹脂は、酸価をもち、その範囲は50〜400mgKOH/gの範囲であることが好ましく、更には、100〜350mgKOH/gの範囲であることが好ましく、120〜300mgKOH/gの範囲であることがより好ましく、120〜200mgKOH/gの範囲であることが特に好ましい。未中和樹脂の酸価が50mgKOH/gよりも低いと着色剤分散物の分散安定性が低下し、インクジェット記録用インクの吐出安定性が悪化する傾向がある。また、酸価が400mgKOH/gよりも高いと、顔料表面に対する未中和樹脂の吸着力が低下し、着色剤分散物の保存安定性が低下する傾向がある。尚、本発明における未中和樹脂の重量平均分子量や酸価は、実施例に示す方法によって測定することができる。
【0050】
次に、未中和樹脂の製造方法について説明する。
前記未中和樹脂は、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の重合法により、前述したモノマー混合物を共重合させることによって製造される。これらの重合法の中では、溶液重合法が好ましい。溶液重合法で用いる溶媒としては、特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましい。極性有機溶媒が水混和性を有する場合には、水と混合して用いることもできる。極性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等の炭素数1 〜 3 の脂肪族アルコール; アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類; 酢酸エチル等のエステル類等が挙げられる。これらの中では、ジエチレングリコール、メタノール、エタノール、1−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン又はこれらの1 種以上と水との混合溶媒が好ましい。なお、後述するが本発明では摩砕混練方法によって着色剤粒子を得ることが好ましく、未中和樹脂は摩砕混練方法で使用される水溶性有機溶剤中で合成するか、合成溶媒を除き溶剤を含まないことが好ましい。重合の際には、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル) 等のアゾ化合物や、t−ブチルペルオキシオクトエート、ジベンゾイルオキシド等の有機過酸化物等の公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤の量は、モノマー混合物1モルあたり、好ましくは0.001〜5モル、より好ましくは0.01〜2モルである。重合の際には、さらに、オクチルメルカプタン、2−メルカプトエタノール等のメルカプタン類、チウラムジスルフィド類等の公知の重合連鎖移動剤を添加してもよい。
【0051】
未中和樹脂の重合条件は、使用する重合開始剤、モノマー、溶媒の種類等によって異なるので一概には決定することができない。通常、重合温度は、好ましくは30〜150℃、より好ましくは50〜130℃であり、重合時間は、好ましくは1〜20時間である。また、重合雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることが好ましい。重合反応の終了後、必要に応じて反応溶液から再沈澱、溶媒留去等の公知の方法により、生成した未中和樹脂を単離することができる。また、得られた未中和樹脂は、再沈澱を繰り返したり、膜分離、クロマトグラフ法、抽出法等により、未反応のモノマー等を除去して精製することができる。
【0052】
本発明の炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基及びカルボキシル基を有する未中和樹脂は、単独で使用しても良いし、別の未中和樹脂を併用して使用しても良い。併用する未中和樹脂は、カルボキシル基を持つことが好ましく、例えば、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、αオレフィンマレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂等が挙げられる。なかでも、αオレフィンマレイン酸樹脂を併用することが好ましい。疎水性の高いαオレフィンマレイン酸樹脂を併用することで、着色剤への樹脂吸着量が向上し、着色剤分散物及びインクジェット記録用インクの分散安定性が向上する。
【0053】
<塩基性化合物>
本発明の着色剤分散物は、未中和樹脂のカルボキシル基をイオン化することで、着色剤粒子の分散安定化を図ることができる。このために、着色剤分散物及びそれを用いたインクジェット記録用インクは中性又はアルカリ性に調整されたものであることが好ましい。但し、アルカリ性が強過ぎると、インクジェット記録装置に使われている種々の部材の腐食の原因となる場合があるので、7〜10のpH範囲とするのが好ましい。この際に使用されるpH調整剤としては、下記のものが挙げられる。例えば、アンモニア水、ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の各種有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物等の無機アルカリ剤、有機酸や鉱酸等を使用することができる。後述する着色剤粒子の未中和樹脂をイオン化することで、中和され着色剤粒子が水性液媒体中に、分散又は溶解される。
【0054】
未中和樹脂の中和度は、着色剤分散物の保存安定性の観点から、10〜100モル%であることが好ましく、30〜100モル%であることがより好ましく、50〜100モル%であることが特に好ましい。ここで中和度は、下記式によって求めることができる。
{[塩基性化合物の重量(g)/塩基性化合物の当量]/[未中和樹脂の酸価(KOHmg/g)×未中和樹脂の重量(g)/(56×1000)]}×100
【0055】
<架橋剤>
本発明において架橋剤としては、未中和樹脂を適度に架橋するため、分子中に2つ以上のカルボキシル基と反応しうる反応性官能基を有する化合物が好ましく用いられる。反応性官能基として好ましくは、イソシアネート基、アジリジン基、カルボジイミド基、オキセタン基、オキサゾリン基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、より好ましくは、アジリジン基、カルボジイミド基及びエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、特に好ましくは、エポキシ基である。
架橋剤の重量平均分子量(Mw)は、反応のし易さ、及び保存安定性の観点から、100〜2,000が好ましく、120〜1,500が更に好ましく、150〜1,000が特に好ましい。架橋剤に含まれる反応性官能基の数は、架橋後の未中和樹脂の分子量を制御して保存安定性を向上する観点から、2〜6が好ましい。
【0056】
本発明に用いられる架橋剤の具体例としては、下記が挙げられる。
分子中に2以上のイソシアネート基を有する化合物:例えば、有機ポリイソシアネート又はイソシアネート基末端プレポリマー。
有機ポリイソシアネートとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;トリレン−2,4−ジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート; 脂環式ジイソシアネート;芳香族トリイソシアネート;それらのウレタン変性体等の変性体が挙げられる。イソシアネート基末端プレポリマーは、有機ポリイソシアネート又はその変性体と低分子量ポリオール等とを反応させることにより得ることができる。
【0057】
分子中に2つ以上のアジリジン基を有する化合物:例えば、N,N'−ジフェニルメタン−4,4'−ビス(1−アジリジンカルボキサイト)、N,N'−トルエン−2,4−ビス(1−アジリジンカルボキサイト)、ビスイソフタロイル−1−(2−メチルアジリジン)、トリ−1−アジリジニルホスフィンオキサイド、N,N'−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキサイト)、2,2'−ビスヒドロキシメチルブタノール−トリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパントリ−β−アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタントリ−β−アジリジニルプロピオネート、トリス−2,4,6−(1−アジリジニル)−1、3、5−トリアジン、4,4'−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等が挙げられる。
【0058】
分子中に2つ以上のカルボジイミド基を有する化合物:例えば、カルボジイミド化触媒の存在下でジイソシアネート化合物を脱炭酸縮合反応させることによって生成した高分子量ポリカルボジイミドが挙げられる。このような高分子量ポリカルボジイミドとしては、日清紡績株式会社のカルボジライトシリーズが挙げられる。
【0059】
分子中に2つ以上のオキセタン基を有する化合物:例えば、4,4'−(3−エチルオキセタン−3−イルメチルオキシメチル)ビフェニル(OXBP)、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(EHO)、1,4−ビス[{(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ}メチル]ベンゼン(XDO)、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル(DOX)、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル(DOE)、1,6−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]ヘキサン(HDB)、9,9−ビス[2−メチル−4−{2−(3−オキセタニル)}ブトキシフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−[2−{2−(3−オキセタニル)}ブトキシ]エトキシフェニル]フルオレン等が挙げられる。
【0060】
分子中に2以上のオキサゾリン基を有する化合物: 例えば、脂肪族基又は芳香族基に2個以上、好ましくは2〜3個のオキサゾリン基が結合した化合物、より具体的には2, 2’−ビス(2−オキサゾリン)、1,3−フェニレンビスオキサゾリン、1,3−ベンゾビスオキサゾリン等のビスオキサゾリン化合物、該化合物と多塩基性カルボン酸とを反応させて得られる末端オキサゾリン基を有する化合物。
【0061】
分子中に2つ以上のエポキシ基を有する化合物: 例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA 型ジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル。
【0062】
これらの中では、分子中に2以上のエポキシ基を有する化合物が好ましく、特にエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルが好ましい。
【0063】
架橋剤は、水中で効率よく未中和樹脂のカルボキシル基と反応する観点から、適度に水溶性があることが好ましく、例えば架橋剤を25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が0.1〜50gが好ましく、0.2〜40gがさらに好ましく、更に好ましくは0.5〜30gが最も好ましい。
【0064】
架橋剤の添加量は、前記未中和樹脂のカルボキシル基を10〜100モル%反応させる量であることが好ましい。中でも30〜100モル%反応させる量を添加することがより好ましく、30〜90モル%反応させる量を添加することが好ましい。
【0065】
<着色剤分散物>
本発明の着色剤分散物は、少なくとも着色剤粒子、塩基性化合物、架橋剤及び水を含む。これらの着色剤分散物の製造方法としては、着色剤分散物の保存安定性の観点から、以下の工程(3)及び工程(4)を順次行うことが好ましい。
工程(3):着色剤粒子と、塩基性化合物と水を添加して、未中和樹脂のカルボキシル基を中和する工程
工程(4):架橋剤を添加して未中和樹脂と架橋させる工程
未中和樹脂のカルボキシル基を中和する工程と架橋剤を添加して未中和樹脂と架橋させる工程では、温度、時間は適宜選択して決定することができる。中和工程の時間は、好ましくは0 .5〜10時間、更に好ましくは1〜5 時間、中和工程の温度は、好ましくは40〜95℃ である。架橋工程の時間は、好ましくは0 .5〜10時間、更に好ましくは1〜5 時間、架橋工程の温度は、好ましくは40〜95℃ である
【0066】
着色剤分散物中の水の含有量は、保存安定性の観点から、30〜85質量%が好ましく、30〜80質量%がより好ましい。水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。以下、特に断らない限り、水はイオン交換水を指す。
【0067】
<インクジェット記録用インク>
次に、本発明の着色剤分散物を用いて、インクジェット記録用インクを形成する場合について説明する。インクジェット記録用インクは、印刷適性を付与するために、水と混合して使用される水溶性溶剤を含む。これらの溶剤としては、グリコールエーテル類、ジオール類が良く、中でも(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、炭素数3〜6のアルカンジオールが効果的である。これらの溶剤は基材への浸透が非常に速く、コート紙、アート紙や塩化ビニルシート、フィルムといった低吸液性の基材に対しても、浸透が速い。そのため、印刷時の乾燥が速く、正確な印字を実現することができる。また、沸点が高いため、湿潤剤としての働きは十分である。
【0068】
グリコールエーテル類の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
ジオール類の具体例としては、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等が挙げられる。
【0069】
この中でも効果が高いのは、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールである。これらの溶剤は単独で使用しても良く、複数を混合して使用することもできる。
【0070】
さらに印刷する基材の種類によっては、その溶解性の向上を目的に、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、N−メチルオキサゾリジノン、N−エチルオキサゾリジノンなどの水溶性の含窒素複素環化合物を添加することもできる。
【0071】
上記したような水溶性有機溶剤のインクジェット記録用インク中における含有量は、一般的には、インクの全重量の3〜60質量%が好ましく、3〜50質量%がより好ましい。また、水の含有量としては、インクの全重量の10〜90質量%が好ましく、30〜80質量%がより好ましい。
【0072】
さらに、本発明の着色剤分散物を用いたインクジェット記録用インクは、水性のエマルションを含有することが好ましい。水性のエマルションを含有することで、粘度はあまり上昇させずに、印字した塗膜の耐性を向上させることができる。これにより、耐水性、耐溶剤性、耐擦過性などが向上する。水溶性の樹脂を添加しても、ある程度耐性の向上は期待できるが、粘度が上昇してしまう傾向にある。インクジェットインクの場合、ノズルからインクを吐出できる粘度にはある範囲があり、あまり粘度が高いとインクを吐出することができなくなることがあるため、粘度の上昇を抑えることは重要である。
【0073】
上記したような水性のエマルションのインク中における含有量は、固形分で、インクの全重量の2質量%以上30質量%以下の範囲であり、より好ましくは、3質量%以上20質量%以下の範囲である。また、本発明の着色剤分散物を用いたインクジェット記録用インクは、上記の成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインクとするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤等の添加剤を適宜に添加することができる。これらの添加剤の添加量の例としては、インクの全重量に対して、0.05質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
【0074】
このように作製したインクジェット記録用インクは、各種のインクジェット用プリンターに好適に用いることができる。適用可能なインクジェットの方式は特に限定するものではないが、荷電制御型、スプレー型等の連続噴射型、ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式等のオンデマンド型の公知のものを例示することができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の記載において、「部」及び「% 」とあるものは、「質量部」及び「質量%」を表す。
【0076】
(重量平均分子量(Mw))
重量平均分子量(Mw)は、TSKgelカラム(東ソ−社製)を用い、RI検出器を装備したGPC(東ソ−社製、HLC−8320GPC)で、展開溶媒にTHFを用いて測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)である。
【0077】
(酸価)
三角フラスコ中に試料、約1gを精密に量り採り、蒸留水/ジオキサン(重量比:蒸留水/ジオキサン=1/9)混合液50mlを加えて溶解する。上記試料溶液に対して、電位差測定装置(京都電子工業株式会社製、装置名「電位差自動滴定装置 AT−710M」)を用いて、0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液(力価a)で滴定を行い、滴定終点までに必要な水酸化カリウム・エタノール溶液の量(b(mL))を測定した。乾燥状態の樹脂の値として、酸価(mgKOH/g)を次式により求めた。
酸価(mgKOH/g)={(5.611×a×F)/S}/(不揮発分濃度/100)
ただし、S:試料の採取量(g)
a:0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液の消費量(ml)
F:0.1mol/L水酸化カリウム・エタノール溶液の力価
<未中和樹脂の製造>
(未中和樹脂P−1)
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ジエチレングリコール100部を仕込み、窒素ガスで置換した。反応容器内を110℃に加熱して、単量体A−1(一般式(1)において、R=メチル基、R=エチレン基、R=メチル基、m=2である単量体)20部、アクリル酸20部、ベンジルメタクリレート60.0部、及びパーブチルO(日油株式会社)5.0部の混合物を3時間かけて滴下し、重合反応を行った。滴下終了後、さらに110℃で1時間反応させた後、パーブチルOを0.5部添加し、さらに110℃ で1時間反応を続けた。その後、不揮発分測定にて転化率が98%超えたことを確認し、ジエチレングリコールを加え、不揮発分が30%になるように調整し、室温まで冷却し反応を終了させ未中和樹脂溶液P−1を得た。未中和樹脂溶液P−1の重量平均分子量(Mw)は約13,000、酸価は156mgKOH/gであった。
【0078】
(未中和樹脂P−2〜P−14)
表1に記載した原料と仕込み量に変更した以外は(P−1)と同様にして合成を行い、未中和樹脂溶液P−2〜P−14を得た。なお、分子量の調整はパーブチルOの添加量を変更し、適宜調整した。それぞれの重量平均分子量(Mw)、不揮発分及び酸価は表1に記載した通りである。
【0079】
【表1】
【0080】
以下に、表1中の略称を示す。
単量体A−1:一般式(1)において、R=メチル基、R=エチレン基、R=メチル基、m=2である単量体
単量体A−2:一般式(1)において、R=メチル基、R=エチレン基、R=メチル基、m=9である単量体
単量体A−3:一般式(1)において、R=メチル基、R=エチレン基、R=メチル基、m=23である単量体
単量体A−4:一般式(1)において、R=水素原子、R=プロピレン基、R=メチル基、m=2である単量体
【0081】
<着色剤粒子の製造>
(着色剤粒子B−1)
着色剤としてC.I.ピグメント レッド122(DIC社製「FASTOGENSuperMagentaRG T」)(以下、PR122と示す)35.0部、塩化ナトリウム175.0部、未中和樹脂としてP−1を固形分として12.25部、水溶性溶剤としてジエチレングリコール6.4部をステンレス製ガロンニーダー(井上製作所社製)に仕込み、80℃で3時間混練した。この混合物を水1,000部に投入し、約40℃に加熱しながらハイスピードミキサーで約1時間攪拌してスラリー状とし、濾過、水洗を繰り返して塩化ナトリウム及び水溶性有機溶剤を除き、減圧下40℃で乾燥して着色剤粒子B−1を得た。
【0082】
(着色剤粒子B−2〜B−13、15、16)
使用する着色剤、未中和樹脂を表2に従って変更した以外は、着色剤粒子B−1と同様にして、着色剤B−2〜B−13、15、16を得た。
【0083】
(着色剤粒子B−14)
着色剤としてPR122(DIC社製「FASTOGENSuperMagentaRGT」)35.0部、塩化ナトリウム175.0部、未中和樹脂としてP−3を固形分換算で6.125部、セラマー1608(ベーカーペトロライト社製:非アクリル系樹脂、α−オレフィン−無水マレイン酸共重合体と無水マレイン酸モノエステルとの共重合体、酸価:154mgKOH/g、不揮発分100%)を固形分換算で6.125部、水溶性溶剤として及びジエチレングリコール6.4部をステンレス製ガロンニーダー(井上製作所社製)に仕込み、80℃で3時間混練した。この混合物を水1,000部に投入し、約40℃に加熱しながらハイスピードミキサーで約1時間攪拌してスラリー状とし、濾過、水洗を繰り返して塩化ナトリウム及び水溶性有機溶剤を除き、減圧下40℃で乾燥して着色剤粒子B−14を得た。
【0084】
(着色剤粒子B−17)
着色剤としてPR122(DIC社製「FASTOGENSuperMagentaRG T」)35.0部、塩化ナトリウム175.0部、未中和樹脂としてP−3を固形分換算で12.25部、塩基性化合物として水酸化カリウムの10%水溶液を、用いた未中和樹脂の酸価から中和度が100%になるように19.11部、水溶性溶剤としてジエチレングリコール6.4部をステンレス製ガロンニーダー(井上製作所社製)に仕込み、80℃で3時間混練した。この混合物を水1,000部に投入し、約40℃に加熱しながらハイスピードミキサーで約1時間攪拌したところ、着色剤分散物となってしまい着色剤粒子として得ることができなかった。
【0085】
(着色剤粒子B−18)
着色剤としてPR122(DIC社製「FASTOGENSuperMagentaRG T」)500部、未中和樹脂としてP−3を固形分換算で175部、塩基性化合物として水酸化カリウムの10%水溶液を、用いた未中和樹脂の酸価から中和度が100%になるように273部、水溶性溶剤としてジエチレングリコール200部をプラネタリーミキサー(株式会社井上製作所製) に仕込み、ジャケット温度を80℃に加温し、低速(自転回転数:10rpm、公転回転数:29.4rpm)で混合した。その後、高速(自転回転数:20rpm、公転回転数:58.8rpm)に切り替え3時間混練を行い、混合物を取り出し減圧下100℃で乾燥して着色剤粒子B−18を得た。
【0086】
<着色剤粒子の評価>
(未中和樹脂吸着量の測定)
得られた着色剤粒子20部、塩基性化合物として水酸化カリウムの10%水溶液を、着色剤粒子の合成例で用いた未中和樹脂の酸価から中和度が100%になるように加え、さらに不揮発分が22%になるようにイオン交換水を添加した後、70℃のオイルバスで加温しながらディスパーで1時間撹拌した。その後室温まで冷却し、ついで超遠心分離機で100,000rpmで6時間遠心分離を行い、着色剤粒子を沈降させた。その後上澄みが透明であることを確認して上澄み液を採取し、上澄み液の不揮発分を測定し、吸着されなかった未中和樹脂量(カリウムイオンとイオン結合した状態のもの)を算出した。
この時、着色剤に吸着し着色剤を被覆した未中和樹脂は、着色剤粒子とともに沈降し、着色剤に吸着されていない未中和樹脂は上澄み液中に溶解することから、未中和樹脂吸着量を下記の式に従い算出した。なお、B−18は、塩基性化合物を加えなかった以外は、上記手順と同様にして測定を行った。
未中和樹脂吸着率(%)
=(初期の未中和樹脂量−上澄みの未中和樹脂量)×100/初期の未中和樹脂量

*初期の未中和樹脂量:着色剤粒子使用量×未中和樹脂の対顔料比
*上澄みの未中和樹脂量:(上澄みの不揮発分×(試験用着色剤分散物全重量―試験用着色剤分散物の固形分量)
【0087】
【表2】

【0088】
表2中の略称を以下に示す。
PY180:C.I.ピグメントイエロー180、クラリアントジャパン社製、「NOVOPERM Yellow P−HG」
セラマー1608:非アクリル系樹脂、α−オレフィン−無水マレイン酸共重合体と無水マレイン酸モノエステルとの共重合体、酸価:154mgKOH/g、不揮発分100%(ベーカーペトロライト社製)
【0089】
<着色剤分散物の製造>
[実施例1]
(着色剤分散物C−1)
着色剤粒子としてB−1を20部、塩基性化合物として水酸化カリウムの10%水溶液を、用いた未中和樹脂の酸価から中和度が100%になるように10.92部、防腐剤としてPROXEL GXL(S)(Lonza製)を0.03部、さらに不揮発分が22%になるようにイオン交換水を加え、70℃のオイルバスで加温しながらディスパーで約1時間撹拌した。次いで超音波照射機(商品名「UP400S」、hielscher社製)を使用し、氷冷下で10分間超音波照射させた。なお、超音波照射機の振幅は70%とした。
次いで、架橋剤としてデナコールEX321(エポキシ架橋剤、ナガセケムテックス製、不揮発分100%、エポキシ当量140g/eq)を着色剤粒子に使用した未中和樹脂のカルボン酸/架橋剤モル比で0.3eqになるように、0.82部加え、さらに約1時間撹拌し、再度不揮発分が22%になるようにイオン交換水で調整し、着色剤分散物C−1を得た。
【0090】
[実施例2〜18、比較例1〜4]
(着色剤分散物C−2〜C−22)
使用する着色剤粒子、架橋剤種、架橋剤量を表3に従って変更した以外は、実施例1と同様にして着色剤分散物C−2〜C−20、C−22を得た。なお、C−21は、塩基性化合物を加えなかった以外は、実施例1と同様にし、C−21を得た。
【0091】
<着色剤分散物の評価>
得られた着色剤分散物について、以下の評価を行った。結果を表3に示す。
【0092】
(体積メディアン径D50)
得られた着色剤分散物を500倍に水希釈し、該希釈液約5mlを動的光散乱測定法(測定装置はマイクロトラック(株)日機装製)により測定を行った。この時、得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを(D50)とした。
【0093】
(初期粘度及び経時保存安定性)
着色剤分散物の初期粘度を、E型粘度計(東機産業社製「ELD型粘度計」)を用いて、25℃ において回転数20rpmという条件で測定した。さらに着色剤分散物を70℃の恒温機に1週間保存・経時促進させた後、同様にして粘度を測定し、経時前後での粘度変化率を算出し、以下の基準で評価した。
○:粘度変化率が±10%未満(良好)
△:粘度変化率が±10%以上±20%未満(実用上問題なし)
×:粘度変化率が±20%以上(不良)
【0094】
【表3】
【0095】
以下に、表3中の略称を示す。
デナコールEX321:ナガセケムテックス製、エポキシ架橋剤、不揮発分100%、エポキシ当量140g/eq
ケミタイトD22E:日本触媒製、アジリジン架橋剤、不揮発分30%、アジリジン当量168g/eq
カルボジライトV02:日清紡製、カルボジイミド架橋剤、不揮発分40%、カルボジイミド当量590g/eq
【0096】
<インクジェット記録用インクの製造>
[実施例19〜36、比較例5〜8]
(インクジェット記録用インクJ−1〜J−22)
実施例及び比較例で得られた着色剤分散物を33.3部、プロピレングリコールを16.65部、1,2−ヘキサンジオールを16.65部、イオン交換水を33.3部、レベリング剤としてサーフィノールDF110D(エアープロダクツジャパン製)を0.1部混合し、インクジェット記録用インクJ−1〜J−22を作製した。
【0097】
<インクジェット記録用インクの評価>
得られた着色剤分散物について、以下の評価を行った。結果を表4に示す。
【0098】
(体積メディアン径の変化率)
得られたインクジェット記録用インクを100倍に水希釈し、該希釈液約5mlを動的光散乱測定法(測定装置はマイクロトラック(株)日機装製)により測定を行った。この時、得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを(D50)とした。着色剤分散体のD50値と比較して粒径変化率を算出し、以下の基準で評価した。インク化工程での粒径変化が少ないほど評価が高い。
◎:粒径変化率が±5%未満(非常に良好)
○:粒径変化率が±5%以上±15%未満(良好)
△:粒径変化率が±10%以上±25%未満(実用上問題無し)
×:粒径変化率が±25%以上(不良)
【0099】
(初期粘度及び経時保存安定性)
着色剤分散物と同様にして測定、評価を行った。
【0100】
(印刷評価)
得られたインクジェット記録用インクをインクジェットプリンター(エプソン社製「PM−750C」)のカートリッジに詰めて、コート紙(王子製紙製OKトップコート+、米坪104.7g/m)に印刷した。印刷したサンプルをルーペで観察し、ドットのつながりや色のムラを評価し、以下の基準で評価した。
○:ドットのつながりや色のムラが全くない(非常に良好)、
△:ドットのつながりや色のムラがわずかにある(実用上問題なし)
×:ドットのつながりや色のムラが全面にある(不良)
【0101】
【表4】
【0102】
表3、4 の結果から、未中和樹脂吸着量が30質量%以上であると、経時保存安定性や印刷適性に優れる着色剤分散物及びインクジェット記録用インクが得られることが示された。これは、着色剤表面への未中和樹脂の吸着及び被覆が十分であり、着色剤に吸着した未中和樹脂と架橋剤との反応が効果的に進み、着色剤が強固に樹脂被覆されることで、浸透性の高い溶剤や沸点が高い溶剤を添加しても安定性が保たれたためと考えられる。特に未中和樹脂吸着量が60質量%以上であると、インクジェット記録用インクの体積メディアン径の変化率が非常に良好であった。
実施例10〜13、28〜31から、未中和樹脂の重量平均分子量が5,000〜15,000であると特に着色剤への樹脂吸着量が向上することが示された。
実施例1〜3、19〜21から、未中和樹脂に含まれる一般式(1)のmが9以上40以下にあるとき、未中和樹脂の水溶性有機溶剤への親和性が適度に向上し、樹脂吸着量が向上すると考えられる。またこれらは、着色剤分散物及びインクジェット記録用インク中では、アルキレンオキシ基がインク中で大きく拡がりを持つため、立体障害基としての効果が高く、安定性が向上したと考えられる。
また、未中和樹脂の酸価が120〜300mgKOH/gであると、インクジェット記録用インクの経時保存安定性がより優れることが示された。これは、適切な酸価であることにより着色剤への吸着力が向上したためたと考えられる。
【要約】
【課題】
本発明の課題は、低吸液性の記録媒体用に好適に使用され、浸透性の高い溶剤と沸点が高い溶剤とが共存しても、分散安定性及び印刷性に優れる着色剤分散物を提供することである。また、該着色剤分散物の製造方法、及びインクジェット記録用インクを提供することである。
【解決手段】
上記課題は、着色剤粒子、塩基性化合物、架橋剤及び水を含む着色剤分散物であって、
前記着色剤粒子が、炭素原子数1〜6のアルキレンオキシ基、及びカルボキシル基を有する未中和樹脂が着色剤表面に吸着し、かつ、着色剤粒子中の着色剤に対する未中和樹脂の吸着量(未中和樹脂吸着率)が30質量%以上である着色剤粒子である、着色剤分散物によって解決される。
【選択図】なし