特許第6296275号(P6296275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 清水建設株式会社の特許一覧

特許6296275気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法及び気化式加湿器を備えた加湿システム、並びに該加湿システムを備えた施設
<>
  • 特許6296275-気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法及び気化式加湿器を備えた加湿システム、並びに該加湿システムを備えた施設 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6296275
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法及び気化式加湿器を備えた加湿システム、並びに該加湿システムを備えた施設
(51)【国際特許分類】
   F24F 6/00 20060101AFI20180312BHJP
   F24F 6/04 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   F24F6/00 D
   F24F6/04
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-138871(P2013-138871)
(22)【出願日】2013年7月2日
(65)【公開番号】特開2015-10811(P2015-10811A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年6月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100146835
【弁理士】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 令
(72)【発明者】
【氏名】川上 梨沙
(72)【発明者】
【氏名】山口 一
【審査官】 ▲高▼藤 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−010201(JP,A)
【文献】 特開2008−209027(JP,A)
【文献】 特開平04−080542(JP,A)
【文献】 特開2001−193972(JP,A)
【文献】 特開2002−332019(JP,A)
【文献】 特開平11−227726(JP,A)
【文献】 特開2000−257914(JP,A)
【文献】 特開2008−215707(JP,A)
【文献】 特開2006−162167(JP,A)
【文献】 特開2005−201507(JP,A)
【文献】 特開2010−255992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 6/00
F24F 6/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気化式加湿器の加湿用濾材を殺菌処理する方法であって、
前記加湿用濾材に殺菌用の薬液を供給する薬液の供給モードと、薬液供給を停止した状態を維持する維持モードを組み合わせ、間欠的に薬液を前記加湿用濾材に供給して殺菌処理するようにし
且つ、間欠的に薬液を前記加湿用濾材に供給する薬液処理と、50℃〜60℃の温水を前記加湿用濾材に供給する温水処理とを組み合わせて、前記加湿用濾材を殺菌処理するようにしたことを特徴とする気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法において、
前記供給モードの1回の薬液の供給量を、前記加湿用濾材を収容してなる加湿モジュールの薬液保持量の2倍から5倍に設定することを特徴とする気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法において、
前記維持モードの1回の薬液供給を停止する時間を2分間から15分間に設定することを特徴とする気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法において、
前記加湿用濾材に供給する薬液及び/又は前記加湿用濾材を加熱することを特徴とする気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法。
【請求項5】
加湿用濾材を収容してなる加湿モジュール及び前記加湿用濾材に水を供給する給水手段を有する気化式加湿器と、
前記加湿モジュールの前記加湿用濾材に殺菌用の薬液を供給する薬液供給手段と、
前記加湿モジュールの前記加湿用濾材に温水を供給する温水供給手段と、
前記薬液供給手段と前記温水供給手段を制御する制御手段とを備え、
前記制御手段によって前記薬液供給手段と前記温水供給手段を制御し、間欠的に薬液を前記加湿用濾材に供給するとともに、50℃〜60℃の温水を前記加湿用濾材に供給し、薬液処理と温水処理を組み合わせて殺菌処理するように構成されていることを特徴とする気化式加湿器を備えた加湿システム。
【請求項6】
請求項5記載の気化式加湿器を備えた加湿システムにおいて、
前記加湿用濾材及び/又は薬液を加熱する加温手段を備えていることを特徴とする加湿システム。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の気化式加湿器を備えた加湿システムを備えていることを特徴とする加湿システムを備えた施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法及び気化式加湿器を備えた加湿システム、並びに該加湿システムを備えた施設に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気の温度や湿度を空調システムでコントロールして、屋内等の環境を快適にするようにしている。そして、この種の空調システムで空気の湿度をコントロールする際には、例えば、水槽や容器内の水をヒータで加熱して蒸発させ、この蒸気を送り込むことで湿度を調節する蒸気式や、水槽や容器内の水に超音波を発振して水を気化させ、気化した水分を送り込むことで湿度を調節する超音波式、加湿エレメント(加湿用濾材)に水を供給しつつ加湿エレメントに向けて空気を送って気化させ、気流とともに水分を送り込むことで湿度を調節する気化式等の各種方式が用いられている。
【0003】
そして、近年、蒸気式や超音波式等と比較し省エネルギーを実現できることから気化式の加湿器(気化式加湿器)を採用するケースが多くなっている。
【0004】
一方、この気化式の加湿器は、加湿エレメントに水を吸水させつつ、ファン等の駆動により順次気流をあてて水を気化させるため、原水や気流に含まれる微生物(細菌、カビなど)が加湿エレメントで増殖し、この微生物が増殖する状態で使用し続けることにより、微生物が気流とともに屋内等の空気環境中に放散され、また、微生物の増殖に伴って悪臭が送風空気とともに放散されるなどの不都合が生じる場合がある。
【0005】
このため、気化式の加湿器では、加湿エレメントの殺菌を行って微生物の増殖を防止することが重要であり、特に、病院や食品工場、医薬品工場などの微生物を極力除く必要がある施設で使用する場合には、確実に殺菌する方法が必要になる。
【0006】
これに対し、放電式、電解反応式で生成したオゾンやオゾン分解物(フリーラジカル)を用いて酸化分解して加湿エレメントの微生物を殺菌する方法や、光触媒を利用し、紫外線を照射してスーパーオキサイドイオンやヒドロキシラジカルを生成し、その酸化力で酸化分解することにより加湿エレメントの微生物を殺菌する方法や、次亜塩素酸ナトリウム等の薬液を加湿エレメントに滴下して微生物を殺菌する方法などが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−227622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、上記のようなオゾン方式や光触媒方式と比較し、薬液方式の殺菌処理方法は、薬液を加湿器の加湿エレメントに直接滴下して処理するため、殺菌の確実性、すなわち殺菌効率が高い。しかしながら、殺菌の確実性を高めるために薬液の過剰濃度での使用、長時間の薬液滴下による薬液コストの増加、廃液量の増加などの点で課題もあり、また、高濃度の薬液を供給した場合に、気化した薬液が屋内等の環境に送気されてしまい、臭気や健康への影響等の問題を招くおそれもある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、殺菌効果を維持しつつ、薬液の使用量を少なくすることを可能にした気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法及び気化式加湿器を備えた加湿システム、並びに該加湿システムを備えた施設を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
【0011】
本発明の気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法は、気化式加湿器の加湿用濾材を殺菌処理する方法であって、前記加湿用濾材に殺菌用の薬液を供給する薬液の供給モードと、薬液供給を停止した状態を維持する維持モードを組み合わせ、間欠的に薬液を前記加湿用濾材に供給して殺菌処理するようにし、且つ、間欠的に薬液を前記加湿用濾材に供給する薬液処理と、50℃〜60℃の温水を前記加湿用濾材に供給する温水処理とを組み合わせて、前記加湿用濾材を殺菌処理するようにしたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法においては、前記供給モードの1回の薬液の供給量を、前記加湿用濾材を収容してなる加湿モジュールの薬液保持量の2倍から5倍に設定することが望ましい。
【0013】
さらに、本発明の気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法においては、前記維持モードの1回の薬液供給を停止する時間を2分間から15分間に設定することがより望ましい。
【0014】
また、本発明の気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法においては、前記加湿用濾材に供給する薬液及び/又は前記加湿用濾材を加熱することがさらに望ましい。
【0016】
本発明の気化式加湿器を備えた加湿システムは、加湿用濾材を収容してなる加湿モジュール及び前記加湿用濾材に水を供給する給水手段を有する気化式加湿器と、前記加湿モジュールの前記加湿用濾材に殺菌用の薬液を供給する薬液供給手段と、前記加湿モジュールの前記加湿用濾材に温水を供給する温水供給手段と、前記薬液供給手段と前記温水供給手段を制御する制御手段とを備え、前記制御手段によって前記薬液供給手段と前記温水供給手段を制御し、間欠的に薬液を前記加湿用濾材に供給するとともに、50℃〜60℃の温水を前記加湿用濾材に供給し、薬液処理と温水処理を組み合わせて殺菌処理するように構成されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の気化式加湿器を備えた加湿システムにおいては、前記加湿モジュールの前記加湿用濾材に温水を供給する温水供給手段を備え、前記制御手段によって前記薬液供給手段と前記温水供給手段を制御し、間欠的に薬液を前記加湿用濾材に供給するとともに温水を前記加湿用濾材に供給し、薬液処理と温水処理を組み合わせて殺菌処理するように構成されていることが望ましい。
【0018】
さらに、本発明の気化式加湿器を備えた加湿システムにおいては、前記加湿用濾材及び/又は薬液を加熱する加温手段を備えていることがより望ましい。
【0019】
本発明の加湿システムを備えた施設は、上記のいずれかの気化式加湿器を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明の気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法及び気化式加湿器を備えた加湿システム、並びに該加湿システムを備えた施設においては、薬液使用量の低減によるコスト削減、使用薬液の低濃度化、廃液量の削減を図ることが可能になる。また、薬液処理と温水処理の異なる処理方法の相乗効果により、各々の単独処理に比べて殺菌できる微生物の幅を広げることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る気化式加湿器を備えた加湿システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1を参照し、本発明の一実施形態に係る気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法及び気化式加湿器を備えた加湿システム、並びに該加湿システムを備えた施設について説明する。
【0023】
はじめに、本実施形態では、例えば病院や食品工場、医薬品工場、研究施設などの微生物を極力除く必要がある施設の空調システム(加湿システム)の構成要素として気化式の加湿器が具備されている。
【0024】
本実施形態の空調システムは空調機を備え、図1に示すように、この空調機1が、ケーシング2と、プレフィルタ3と、中性能フィルタ4と、温水コイル5と、冷水コイル6と、送風機7と、気化式加湿器8とを備えて構成されている。
【0025】
ケーシング2は、空気の流通方向T上流端に外気口2a、下流端に給気口2bがそれぞれ設けられ、内部に通風路2cが形成されている。そして、この空調機1では、ケーシング2内に配設された送風機7の駆動とともに外気口2aから通風路2cに供給された外気(OA:Outside Air)が温水コイル5、冷水コイル6、気化式加湿器8を通過することにより、その温度及び湿度が所定の温度及び湿度に調整され、供給空気(SA:Supply Air)として給気口2bから所定流速で室内空間に供給される。なお、外気口2a、又はこれとは別に設けた回収空気口(不図示)を通じて、室内空間からの回収空気(RA:Return Air)を空調機1に供給するようにしてもよい。
【0026】
また、温水コイル5、冷水コイル6、気化式加湿器8の空気の流通方向T上流側にプレフィルタ3と中性能フィルタ4が設けられており、通風路2cの最上流側に設けられたプレフィルタ3によって空調機1に供給された空気に含まれる粒径の大きい粗い塵埃が空気中から除去される。さらに、プレフィルタ3の下流側に設けられた中性能フィルタ4によって、プレフィルタ3を通過した微細な塵埃が空気中から除去される。
【0027】
一方、本実施形態の気化式加湿器8は、通風路2cの温水コイル5と冷水コイル6の間に設けられている。この加湿器8は、給水ポンプ9a等の給水手段9を通じて加湿用水が供給され、通風路2cを流通する空気が加湿器8を通過するとともに、空気の顕熱を水の潜熱に代えて加湿用水を蒸発させ、空気の加湿を行う。
【0028】
また、加湿器8は、通風路2c内に配置される加湿モジュール8aに加湿エレメント(加湿用濾材)8bを収容して備えている。加湿エレメント8bには、加湿用水を供給する給水手段9が接続され、給水手段9には給水弁9bが設けられている。そして、制御手段10によって給水ポンプ9aの駆動や給水弁9bの開閉状態を制御することにより、加湿エレメント8bへの加湿用水の供給量が調節される。
【0029】
さらに、加湿器8の加湿モジュール8a(加湿エレメント8b)には、殺菌用の薬液を供給する薬液供給手段11が接続されている。本実施形態では、薬液供給手段11が薬液生成装置や薬液貯留槽などの薬液供給源11a、送液ポンプ11b、薬液供給弁(薬液流量調整弁)11cを備え、薬液供給源11aや送液ポンプ11bの駆動、薬液供給弁11cの開閉状態を制御手段10によって制御することにより、薬液供給手段11による加湿エレメント8bへの薬液の供給量が調節される。
【0030】
ここで、薬液としては、微酸性次亜塩素酸ナトリウム水溶液や過酸化水素水を用いる。通常処理の場合、微酸性次亜塩素酸ナトリウム水溶液は有効塩素濃度で5〜20ppm程度、過酸化水素水は0.05〜0.25%程度の濃度で使用する。汚染の程度が進んでいる場合には、その程度に応じ、微酸性次亜塩素酸ナトリウム水溶液は有効塩素濃度で50〜100ppm、過酸化水素水は0.5〜5%濃度を用いてもよい。
【0031】
なお、微酸性次亜塩素酸ナトリウム水溶液、過酸化水素水以外の殺菌作用のある薬液、例えばpH未調整の次亜塩素酸ナトリウム水溶液、オゾン水、電解水などの薬液を併用したり、洗浄効果を促進するために界面活性効果がある薬液を添加して用いてもよい。また、スケール処理剤の特性(成分、pH、使用温度)によってはこれと併用してもよい。
【0032】
また、本実施形態では、加湿器8の加湿エレメント8b及び/又は薬液を加熱する加温手段12が設けられている。この加温手段12は、例えば熱源として電気ヒータやヒートポンプ等を用いたり、廃熱を利用するなどし、制御手段10で熱源を制御することにより加湿エレメント8b及び/又は加湿エレメント8bに供給される薬液を所望の温度に加熱できるように構成されている。
【0033】
さらに、本実施形態では、温水を供給して加湿エレメント8bを洗浄する温水供給手段13が設けられている。温水供給手段13は、温水生成装置などの温水供給源13a、温水供給ポンプ13b、温水供給弁(温水流量調整弁)13cを備え、温水供給源13aや温水供給ポンプ13bの駆動、温水供給弁13cの開閉状態を制御手段10によって制御することにより、加湿エレメント8bへの温水の供給量が調節される。
【0034】
なお、本実施形態では、空調機1が温水コイル5と冷水コイル6を備えて構成されているものとしたが、これに限定する必要はなく、勿論、空気の加熱及び冷却の双方を行うことが可能な冷温水コイルを設けてもよい。また、温水コイル5、気化式加湿器8、冷水コイル6の位置についても限定する必要はなく、通風路2cにおけるこれらの配設順番が異なっていてもよい。
【0035】
また、本実施形態では、気化式加湿器8と薬液供給手段11と加温手段12と温水供給手段13と制御手段10によって加湿システム14が構成されている
【0036】
次に、本実施形態の気化式加湿器8の加湿エレメント8bの殺菌方法について説明する。本実施形態では、加湿エレメント8bの殺菌方法として、間欠薬液処理方法、加湿エレメント8bを加温する加温処理併用の間欠薬液処理法と、温水洗浄処理方法とを適宜選択的に組み合わせて用いる。
【0037】
はじめに、間欠薬液処理方法では、加湿エレメント8bを殺菌する際に、薬液の供給モードと、薬液供給を停止した状態を維持する維持モードの2つのモードを組み合わせる。
【0038】
一般に加湿エレメント8bが親水性の材質(あるいは表面を親水性に加工したもの)で形成されているため、薬液の供給を停止しても一定量の薬液が加湿エレメント8bに保持される。
【0039】
そして、間欠薬液処理方法では、この保持された薬液の殺菌効果を有効に活用することで薬液量の低減を図る。このとき、薬液の供給量が保持量(保水量)と等量では、既に保持されている水あるいは濃度が低下した薬液により希釈されてしまう。また、供給が不均一である場合には、加湿エレメント8bの一部で低濃度の領域ができる可能性がある。
【0040】
これに対し、本実施形態の間欠薬液処理方法では、1回の薬液の供給量を、加湿エレメント8bを充填した加湿モジュール8aの薬液保持量(保水量)の2倍から5倍に設定する。特に、洗浄の初回(1回目)は、保持されている水により希釈されやすく、また、微生物以外の汚れ等に有効成分が消費され、濃度の低下が生じやすいので、薬液を多めに供給すると効果的である。
【0041】
また、保持時間については、2分間から15分間を目安にする。微生物の増殖量が多い、あるいは汚れが激しい場合は、薬液の有効成分の濃度低下が早いので、短めに設定すると効果的である。
【0042】
さらに、本実施形態の間欠薬液処理方法(加湿エレメント8bを加温する加温処理併用の間欠薬液処理方法)では、加温手段12や温水供給手段13を用い、間欠薬液処理のいずれかの段階で薬液あるいは加湿エレメント8bを加温するようにしてもよい。一般に、薬液による処理濃度を上げると、薬液の殺菌効果が増強される。間欠処理運転では「維持モード」の時間を設けるために、処理全体に要する時間が長くなる傾向にあるが、加温処理を取り入れ、加温によって供給薬液の水分を蒸発させて薬液の処理濃度を上げることにより、処理時間の短縮化が図れる。また、薬液使用量の削減や薬液濃度の一層の低濃度化を図ることにもつながる。
【0043】
ここで、加温処理併用の間欠薬液処理方法では、加熱した薬液を供給する以外に、次のような方法で行ってもよい。例えば、薬液を温水と混合して供給する。加湿エレメント8bを加温した後、これに薬液を供給する。加湿エレメント8bに薬液を供給した後、加湿エレメント8bを加温する。加湿エレメント8bを加温しながら、これに薬液を供給する。加湿エレメント8bを加温しながら、これに加温した薬液を供給する。
【0044】
次に、温水洗浄処理方法では、加湿エレメント8bに温水を供給する温水洗浄処理(温水処理)を行う。ここで、薬液処理と温水処理では、微生物に与える影響が異なる。このため、いずれか一方では殺菌できない微生物に対しても、薬液処理と温水処理を組み合わせることにより、その相乗効果から殺菌できる微生物の幅が広がる。すなわち、薬液処理単独で必要とされる薬剤濃度より低濃度で、あるいは温水処理単独で必要とされる温度より低い温度で殺菌効果を得ることも可能になる。
【0045】
したがって、本実施形態の気化式加湿器8の加湿エレメント(加湿用濾材)8bの殺菌処理方法及び気化式加湿器8を備えた加湿システム14、並びにこの加湿システム14を備えた施設においては、薬液使用量の低減によるコスト削減、使用薬液の低濃度化、廃液量の削減を図ることが可能になる。また、薬液処理と温水処理の異なる処理方法の相乗効果により、殺菌できる微生物の幅を広げることが可能になる。
【実施例】
【0046】
ここで、気化式加湿器8の加湿エレメント8bの微生物汚染の要因の一つである屋外土壌内の微生物を用い、本発明に係る気化式加湿器8の加湿用濾材8bの殺菌処理方法及び気化式加湿器8を備えた加湿システム14(並びに加湿システム14を備えた施設)の優位性を確認した実証実験について説明する。
【0047】
まず、この実証実験では、純水に土壌を5重量%となるように入れて撹拌した後、紙製ワイパーのキムタオル(日本製紙クレシア株式会社製)でろ過して土壌抽出液を作成した。また、焼結セラミック製の加湿エレメント8bを充填した加湿モジュール8a(500mm×500mm×150mm:幅×高さ×奥行き)を土壌抽出液に浸漬することで、中の加湿エレメント8bを人為的に微生物汚染させた。
【0048】
そして、表1に示す通り、連続薬液処理を施す実験1、温水洗浄処理を施す実験2、間欠薬液処理と温水洗浄処理を組み合わせて施す実験3でそれぞれ加湿エレメント8bを処理し、各実験を行った。また、各実験で処理した後の加湿エレメント8bの表面に細菌(微生物)検出用のぺたんチェック25(栄研化学株式会社製:トリプトソイ寒天培地(SCD寒天培地))を貼り付けてサンプリングを行い、採取したサンプルを30℃で3日間培養した後、寒天培地上に発生したコロニー数によって判定・評価を行った。
【0049】
【表1】
【0050】
連続薬液処理を施す実験1の結果を表2に、温水洗浄処理を施す実験2の結果を表3に、間欠薬液処理と温水洗浄処理を組み合わせて施す実験3の結果を表4にそれぞれ示す。ここで、各表の判定・評価では、コロニー数150以上(培地全面に多数のコロニーが形成)を×、コロニー数50以上150未満(培地全面にコロニーがあるが、その数が明らかに減少)を△、コロニー数20以上50未満(実用的な殺菌効果が得られている)を○、コロニー数20未満(非常に優れた殺菌作用が得られている)を◎とした。また、実験の判定・評価において「○〜△」、「△〜×」は、1回の実験で複数枚のぺたんチェック25を用いてサンプリングを行い、あるいは複数回の実験を行い、実験結果にバラツキが生じたことを示し、そのバラツキの判定・評価のバラツキ範囲を示したものである。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
そして、まず、連続薬液処理を施す実験1では、土壌微生物で汚染した加湿エレメント8bに微酸性次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度50ppm)を、4リットル/分で2分間から30分間まで時間を変えて供給し、処理を行った。
【0055】
その結果、表2に示すように、連続薬液処理を施す実験1では、実用的な殺菌効果と考えられる判定・評価「○」を得るために、処理時間として20分間以上、薬液量として80リットル以上が必要になることが確認された。
【0056】
次に、温水洗浄処理を施す実験2では、土壌微生物で汚染した加湿エレメントに、給湯器で50℃または60℃の温水を、4リットル/分で10分間あるいは30分間供給し、処理を行った。
【0057】
その結果、表3に示すように、温水洗浄処理を施す実験2では、50℃の温水を供給した場合に、30分間処理を行っても実用的な殺菌効果と考えられる判定・評価「○」を得ることができなかった。また、60℃の温水を供給した場合には、判定・評価「○」を得るために、20分間の処理では不十分であり、30分間程度あるいはそれ以上の処理時間が必要であることが確認された。さらに、60℃、30分間の温水処理でもコロニー数が20以下となる判定・評価「◎」を得ることができないことが確認された。
【0058】
次に、間欠薬液処理と温水洗浄処理を組み合わせて施す実験3では、薬液の「供給モード」と薬液の供給を停止した状態を維持する「維持モード」を1セットとし、これを3回繰り返した。「供給モード」では、土壌微生物で汚染した加湿エレメント8bに、微酸性次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度50ppm)を、4リットル/分で2分間供給した。「維持モード」では、薬液の供給を停止して10分間維持した。そして、間欠薬液処理と温水洗浄処理を組み合わせて施す実験3では、その後、60℃の温水を4リットル/分で10分間供給した。
【0059】
その結果、表4に示すように、3回の処理(3セットの処理)を行うことで、実用的な殺菌効果と考えられる判定・評価「○」を得ることができることが確認された。また、3回の間欠薬液処理後に60℃の温水で10分間洗浄することにより、さらにコロニーの発生数が少ない優れた判定・評価「◎」が得られることが確認された。これは、3回の間欠薬液処理によって温水への耐性が高い微生物(細菌など)にダメージを与え、このため、通常は耐えられる60℃10分間処理でもこの微生物が死滅(あるいは不活性化)したと考えられる。
【0060】
したがって、上記の実験1、実験2、実験3の実証実験結果から、加湿エレメント8bを殺菌する際に、薬液の供給モードと、薬液供給を停止した状態を維持する維持モードの2つのモードを組み合わせる「本発明の間欠薬液処理方法」を用いることにより、殺菌効果を維持しつつ、薬液の使用量を少なくすることが可能になることが実証された。また、間欠薬液処理と温水洗浄処理を組み合わせた「本発明の間欠薬液処理方法」を用いると、さらに効果的に、殺菌効果を維持しつつ、薬液の使用量を少なくすることが可能になることが実証された。
【0061】
ここで、上記の人為的に土壌ない微生物の高濃度汚染状態を作り出して殺菌効果の実証実験を行ったものに対し、通常の加湿運転によりその表面に微生物が繁殖した加湿モジュール8a(加湿エレメント8b)(500mm×500mm×150mm:幅×高さ×奥行き/保水量約3リットル)を微酸性次亜塩素酸ナトリウムで殺菌する検討を行った。
【0062】
この結果、間欠薬液処理と温水洗浄処理を併用する場合には、有効塩素濃度10ppmで常温の微酸性次亜塩素酸ナトリウム水溶液を薬液として用い、この薬液を2リットル/分で5分間供給する1回目の薬液処理を行い、薬液供給を停止後、10分間維持し、薬液を2リットル/分で5分間供給する2回目の薬液処理を行い、薬液供給を停止後、3分間維持する。そして、最後に、温水殺菌と薬液の洗浄除去を兼ね、60℃の温水を2リットル/分で5分間供給すると、コロニーの発生数が少ない優れた判定・評価「◎」が得られることが確認された。
【0063】
次に、加温処理併用の間欠薬液処理と温水洗浄処理を併用する場合には、有効塩素濃度5ppmで50℃の微酸性次亜塩素酸ナトリウム水溶液を薬液として用い、この薬液を2リットル/分で5分間供給する1回目の薬液処理を行い、薬液供給を停止後、3分間維持し、薬液を2リットル/分で5分間供給する2回目の薬液処理を行い、薬液供給を停止後、3分間維持する。そして、最後に、温水殺菌と薬液の洗浄除去を兼ね、60℃の温水を2リットル/分で5分間供給すると、コロニーの発生数が少ない優れた判定・評価「◎」が得られることが確認された。
【0064】
本発明の気化式加湿器8の加湿用濾材8bの殺菌処理方法及び気化式加湿器8を備えた加湿システム14(並びに該加湿システム14を備えた施設)において、間欠処理における「薬液供給時間」と、供給停止後の「維持時間」、これらの繰り返し回数は、薬剤の濃度や汚染状況、さらには処理に要する時間を考慮して決める必要がある。一方、殺菌処理を行っている間は加湿運転を停止する必要があることから、殺菌処理全体に要する時間があまり長くなることを避ける必要がある。よって、実用上、薬液供給時間と維持時間はいずれも1回あたり10分以下、繰り返し回数は2〜3回にすることが好ましい。
【0065】
また、薬液処理と温水洗浄処理を併用する場合は、温水洗浄における温水の温度が40℃程度から殺菌効果が確認された。そして、加湿エレメント8bの上部から温水を供給する場合、温水は加湿エレメント8b内を流下するに従って温度が低下するため、温度低下を考慮すると実用上は50以上の温水を供給することが望ましい。また、前述の実証実験の通り、50℃〜60℃の温水を供給すれば好適に殺菌効果が得られる。
【0066】
また、薬液処理との相乗効果得るために、間欠薬液処理後だけでなく、間欠薬液処理の間に温水処理を行うようにしてもよい。さらに、薬液の加温処理と併用する場合、相乗効果得るために、その薬液の供給温度より高い温度の温水を供給することが望ましい。また、薬剤との併用処理において、温水洗浄処理は実質5分程度でその効果が得られる。このため、薬剤の洗浄除去を兼ねる場合、薬剤の性質(臭気、腐食性など)に応じて加湿モジュール8a(加湿エレメント8b)の保水量の3倍乃至5倍量の温水を流すことが望ましい。
【0067】
以上、本発明に係る気化式加湿器の加湿用濾材の殺菌処理方法及び気化式加湿器を備えた加湿システム、並びに該加湿システムを備えた施設の一実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0068】
例えば、本実施形態では、病院や食品工場、医薬品工場、研究施設などの微生物(細菌など)を極力除く必要がある施設の空調システムに気化式加湿器8が具備されているものとして説明を行ったが、これに限定する必要はなく、本発明に係る気化式加湿器8は、独立した加湿器であってもよいし、生産機械や乾燥機など他の装置に設けられてもよい。また、これに関連して、本発明に係る加湿システム14は、空調システムに限定する必要がなく、独立したシステムであってもよいし、生産機械や乾燥機など他の装置に設けられてもよい。さらに、本発明に係る加湿システム14を備えた施設は、本発明に係る加湿システム14を備えて湿度の調節を行うことが可能であれば、特に病院や食品工場、医薬品工場、研究施設などの施設に限定する必要はない。
【符号の説明】
【0069】
1 空調機(空調システム)
2 ケーシング
2a 外気口
2b 給気口
2c 通風路
3 プレフィルタ
4 中性能フィルタ
5 温水コイル
6 冷水コイル
7 送風機
8 気化式加湿器
9 給水手段
9a 給水ポンプ
9b 給水弁
10 制御手段
11 薬液供給手段
11a 薬液供給源
11b 送液ポンプ
11c 薬液供給弁(薬液流量調整弁)
12 加温手段
13 温水供給手段
13a 温水供給源
13b 温水供給ポンプ
13c 温水供給弁(温水流量調整弁)
14 加湿システム
T 空気の流通方向
図1