(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、車両のウインドシールド或いはコンバイナと称される半透過板に、光源からの表示光を照射することにより表示像を投影し、虚像と風景とを重畳して車両情報を車両運転者に視認させる、所謂ヘッドアップディスプレイと称する車両用表示装置が種々提案されている。
ヘッドアップディスプレイには、特許文献1に開示されているように、光源に半導体レーザー(LD:Laser Diode)を用いるものが提案されている。
【0003】
また、特許文献1に開示されるような車両用表示装置においては、搭載される車両の利用環境を考慮して設定された温度範囲内であっても動作可能とするため、使用する光源の動作保証範囲が該温度範囲よりも狭い場合であっても、ペルチェ素子などの熱電素子によって光源を加熱あるいは冷却することで、光源の温度を動作保証範囲内に調整するように構成したものが、特許文献2に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に開示される車両用表示装置においては、光源として用いる複数の半導体レーザーがそれぞれ異なる動作保証温度である場合、全ての半導体レーザーが動作保証温度範囲内になるまで待たなければならないため、低/高温環境下において表示開始するまで時間がかかってしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、前述した課題を鑑みて、低/高温環境下においても安全に且つ高速に表示開始することができる、半導体レーザーを光源として用いた車両用表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両用表示装置は、
異なる波長のレーザー光を発する複数の半導体レーザーと、
前記半導体レーザーをラスタスキャンして表示像を生成する表示像生成手段と、
前記半導体レーザーの周囲温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段が検出した周囲温度が、前記各半導体レーザーの動作保証温度範囲の論理積からなる第1温度範囲となるように温度を調整する温度調節手段と、
前記表示像の表示光を反射する鏡と、
を備える車両用表示装置であって、
前記表示像生成手段は、前記各半導体レーザーの少なくとも1つの動作保証温度範囲内且つ前記第1温度範囲外となる第2温度範囲内から前記第1温度範囲内に近づくに伴って、前記各半導体レーザーを所定順序で点灯させ
、
前記表示像生成手段は、前記所定順序を前記各半導体レーザーの波長の長さ順に定める。
【0008】
また、本発明に係る車両用表示装置は、好ましくは、
前記半導体レーザーの温度調節を行う温度調節手段を備え、
前記表示像生成手段は、前記第2温度範囲内から前記第1温度範囲内に至る間、前記温度調節手段が動作中である旨を表す前記表示像を生成する。
【0009】
また、本発明に係る車両用表示装置は、好ましくは、
前記表示像生成手段は、前記第1温度範囲内に近づくに伴って、寒色から白色に徐々に近づくように前記各半導体レーザーの出力を変化させる。
【0010】
また、本発明に係る車両用表示装置は、好ましくは、
前記表示像生成手段は、前記第1温度範囲内に近づくに伴って、暖色から白色に徐々に近づくように前記各半導体レーザーの出力を変化させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低/高温環境下においても安全に且つ高速に表示開始することができる、半導体レーザーを光源として用いた車両用表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態であるヘッドアップディスプレイ装置の断面図である。
【
図2】同実施形態における合成レーザー出力部の断面図である。
【
図3】同実施形態におけるヘッドアップディスプレイ装置の電気的構成図である。
【
図4】同実施形態における各光源の動作保証温度範囲を示す図である。
【
図5】同実施形態の低温環境下における起動時の各光源の点灯タイミングを示すタイムチャート図である。
【
図6】同実施形態の低温環境下における起動時の表示光の色の推移(
図5の時間(1)〜(4)における色の推移)を示すxy色度図である。
【
図7】同実施形態の低温環境下における起動時の表示画像の遷移(
図5の時間(1)〜(4)における画像の遷移)を示す図である。
【
図8】同実施形態の高温境下における起動時の各光源の点灯タイミングを示すタイムチャート図である。
【
図9】同実施形態の高温環境下における起動時の表示光の色の推移(
図8の時間(1)〜(4)における色の推移)を示すxy色度図である。
【
図10】同実施形態の高温環境下における起動時の表示画像の遷移(
図8の時間(1)〜(4)における画像の遷移)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態を説明する。
【0014】
本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置(以下、HUD装置と記す)1は、
図1に示すように、合成レーザー出力部10と、走査部20と、透過スクリーン30と、平面ミラー40と、凹面ミラー50と、ミラー駆動部51と、筐体60と、透光部61から構成する。
【0015】
合成レーザー出力部10は、半導体レーザー(以下、LDと記す)11と、集光光学系12と、合波手段13と、アルミ板14と、ペルチェ素子(温度調節手段)15と、ヒートシンク16と、温度検出手段17と、制御手段(表示像生成手段)18から構成し、制御手段18からの後述する制御に応じて、LD11から出力された合成レーザー光Cを走査部20に出力するものである。
【0016】
走査部20は、MEMS(Micro Electro Mechanical System)ミラーであり、後述する制御手段18からの駆動信号に基づき、ミラーを第1方向(水平方向)と、第1の方向と略垂直方向である第2方向(垂直方向)に、ラスタスキャンするように振動し、合成レーザー光出力部10から受光した合成レーザー光Cを透過スクリーン30上に表示画像Mを生成する。
【0017】
透過スクリーン30は、走査部20からの表示画像Mを背面から受光し、透過拡散させ、前面側に表示画像Mを表示するものであり、例えば、ホログラフィティックディフューザ、マイクロレンズアレイ、または、偏光板などから構成する。
【0018】
平面ミラー40は、透過スクリーン30の前面に投影された表示画像Mの表示光Lを凹面ミラー50側へ折り返す平面鏡である。
【0019】
凹面ミラー50は、平面ミラー40から反射された表示光Lを、透光部61を介して、車両のウインドシールドの方向へ出射する凹面鏡である。
【0020】
ミラー駆動部51は、ステッピングモータなどのアクチュエータからなり、後述する制御手段18からの駆動信号に基づき、アクチュエータの駆動に応じて凹面ミラー50の角度を変更することで、表示光Lの反射方向を調整可能となっている。
【0021】
筐体60は、合成レーザー光出力部10、走査部20、透過スクリーン30、平面ミラー40、凹面ミラー50等を収納するものであり、遮光性の部材により形成する。また、後述するHUD装置1の電気的な制御を行う制御手段18は、筐体60内に備えられていてもよいが、HUD装置1の外部に配設し、配線により電気的に接続しても良い。
【0022】
透光部61は、筐体60に嵌合されたものであり、アクリル樹脂などの透光性樹脂からなり、HUD装置1の外部からの外光が観察者の方向へ反射しないように、湾曲形状に成形されたものである。
【0023】
LD11は、−20〜60℃の動作保証温度範囲11aTa内で動作可能な
620〜750nmの波長の赤色レーザー光を発する赤色LD11aと、−10〜70℃の動作保証温度範囲11bTa内で動作可能な495〜570nmの波長の緑色レーザー光を発する緑色LD11bと、0〜80℃の動作保証温度範囲内11cTa内で動作可能な450〜495nmの波長の青色レーザー光を発する青色LD11cと、から構成する。
【0024】
集光光学系12は、レンズなどを用いて、合成レーザー光Cのスポット径を小さくし、収束光とするものであり、赤色LD11aの赤色レーザー光を集光する第1集光光学系12aと、緑色LD11bの緑色レーザー光を集光する第2集光光学系12bと、青色LD11cの青色レーザー光を集光する第3集光光学系12cと、から構成する。
【0025】
合波手段13は、特定の波長帯域の光を反射し、その他の波長の光は透過するダイクロイックミラーなどから構成され、赤色レーザー光を反射する第1合波手段13aと、赤色レーザー光は透過し緑色レーザー光を反射する第2合波手段13bと、青色レーザー光と緑色レーザー光とを透過し赤色レーザー光を反射する第3合波手段13cと、から構成する。
【0026】
アルミ板14は、片面にLD11が実装されており、反対側にペルチェ素子15が接着されており、このアルミ板14を介して、赤色LD11a,緑色LD11b,青色LD11cの温度を均一に拡散して熱交換することができるようになっている。
【0027】
ペルチェ素子15は、ペルチェ効果を利用した板状の熱電素子であり、後述する制御手段18からの電流制御によって、一方の面で吸熱し、他方の面で発熱することにより一方の面から他方の面へ熱移動させるものであり、電流の向きによって吸熱する面と発熱する面を切り替えることができる。
ペルチェ素子15は、一方の面をアルミ板14のLD11が実装された面の背面に接着し、他方の面をヒートシンク16に接着するように配設することで、アルミ板のLD11から吸熱してヒートシンク16へ熱移動させたり、逆に、ヒートシンク16から吸熱してアルミ板のLD11へ熱移動させることで、LD11を冷却または加熱する。
【0028】
ヒートシンク16は、ペルチェ素子15が接着された面の背面に、筐体60の外部に突出した表面積を大きくするようなフィン形状を有した熱伝導の良い金属などの部材で構成したものである。
【0029】
温度検出手段17は、サーミスタなどの温度を検出する温度センサであり、アルミ板14上のLD11の近傍に配設し、LD11の温度Tを検出して後述する制御手段18へ出力する。
【0030】
制御手段18は、
図3に示すように、マイクロコントローラ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などからなる。また、制御手段18は、車両の各種車両情報を、例えばCAN(Controller Area Network)など通信規約に準じた通信路によって伝送する車内LAN2、温度検出手段17、ミラー駆動部51、LD11、ペルチェ素子15、走査部20に電気的に接続している。
【0031】
制御手段18は、車内LAN2より車両のイグニッションONに伴って起動信号が、該イグニッションOFFに伴って終了信号が入力され、該起動信号および終了信号に応じてHUD装置1を起動、終了させる。
【0032】
制御手段18は、車内LAN2より終了信号を受信すると、HUD装置1の終了動作として、ミラー駆動部51を駆動することにより凹面ミラー50を大きく回動させ、表示光Lの全てを筐体60の外部に出さない原点位置に移動させた後、ミラー駆動部51、LD11、ペルチェ素子15、走査部20の動作を停止させる。
【0033】
また、制御手段18は、車内LAN2より起動信号を受信すると、HUD装置1の起動動作として、ミラー駆動部51を駆動することにより原点位置から、凹面ミラー50を、表示光Lが筐体60の透光部61を介して車両のウインドシールド(投影部)上の、運転者が適切に表示画像Mを視認できるような位置に出射するように移動させると共に、後述するウェルカム動作を行う。
【0034】
制御手段18は、HUD装置1のウェルカム動作を終えると、車内LAN2より定期的に入力される車両の走行速度やエンジン回転数、警告情報などの各種車両情報に応じて計器画像を表示画像Mとして生成する動作を終了信号が車内LAN2より入力されるまで絶えず行う。なお、表示画像Mの生成は、走査部20のラスタスキャンの振動に同期して、表示画像Mの各画素に対応するタイミングでLD11を適切な強度で点灯させることにより実現する。
また、制御手段18は、HUD装置1の外気温に係わらず、LD11全てが安全に駆動できる温度範囲(
図4の各LD11の動作保証温度範囲11aTa,11bTa,11cTaの論理積からなる第1温度範囲Ta1)となるように、ペルチェ素子15によってLD11を冷却/加熱してLD11の温度調節を行う。
【0035】
次に、HUD装置1の起動動作として実行されるウェルカム動作を説明する。
【0036】
制御手段18は、ウェルカム動作として、低温環境下で起動信号を受信した場合と、高温環境下で起動信号を受信した場合と、それ以外の場合において、LD11の温度に応じた異なる順でのLD11の点灯表示を行う。
【0037】
また、本実施形態では、低温環境を、
図4に示すように、LD11全ての動作保証温度範囲外Ta3のうち、温度T1(−20℃)以下とし、高温環境を、LD11の動作保証温度範囲外Ta3のうち、温度T6(80℃)以上と定義する。
【0038】
制御手段18は、
図5〜7に示すように、HUD装置1が低温環境下で起動されると、温度検出手段17が検出するLD11の温度Tが動作温度範囲Ta1となるようにペルチェ素子15によって加熱している間は、LD11を加熱中である旨を示す文字列「HEATING」を表示像Mとして表示し、加熱を終えLD11が動作温度範囲Ta1となると、準備完了した旨を示す文字列「READY」を表示像Mとして表示する。
また、制御手段18は、温度検出手段17が検出するLD11の温度Tが動作温度範囲Ta1へ近づくに従って、LD11を加熱中である旨を示す文字列「HEATING」の表示色が暖色である赤から白へ推移するように、赤色LD11a,緑色LD11b,青色LD11cの順に点灯させ、その発光強度を強めていく。
【0039】
また、制御手段18は、
図8〜10に示すように、HUD装置1が高温環境下で起動されると、温度検出手段17が検出するLD11の温度Tが動作温度範囲Ta1となるようにペルチェ素子15によって冷却している間は、LD11が冷却中である旨を示す文字列「COOLING」を表示像Mとして表示し、冷却を終えLD11が動作温度範囲Ta1となると、準備完了した旨を示す文字列「READY」を表示像Mとして表示する。
また、制御手段18は、温度検出手段17が検出するLD11の温度Tが動作温度範囲Ta1へ近づくに従って、LD11を冷却中である旨を示す文字列「COOLING」の表示色が寒色である青から白へ推移するように、青色LD11c,緑色LD11b,赤色LD11aの順に点灯させ、その発光強度を強めていく。
【0040】
また、制御手段18は、HUD装置1の起動時において、温度検出手段17が検出するLD11の温度Tが動作温度範囲Ta1であった場合は、準備完了した旨を示す文字列「READY」を白色で点灯する表示像Mとして表示する。
【0041】
このように構成することで、低温環境下または高温環境下におけるHUD装置1の起動時において、LD11全ての動作温度保証範囲外Ta3からLD11全てが安全に駆動できる温度範囲内となるまでの間においても、LD11のいずれかのLDが安全に駆動可能になった時点からHUD装置1の表示を開始できる。
【0042】
また、低温環境下または高温環境下におけるHUD装置1の起動時において、LD11のいずれかのLDが安全に駆動可能になったときに、温度の寒暖を感じさせる青を中心とした寒色、または、赤を中心とした暖色から白色に到るように制御することで、本実施形態においては、低温環境下におけるウェルカム動作では、低温環境から復帰するために加熱をしていることを直観的に知らせると共に、白色になった時点で復帰が完了したことを直観的に運転者に通知することができる。また、同様に、高温環境下におけるウェルカム動作では、高温環境から復帰するために冷却をしていることを直観的に知らせると共に、白色になった時点で復帰が完了したことを直観的に運転者に通知することができる。
【0043】
以上、本発明を前述した実施形態を用いて説明したが、これらに限られず種々の変形を行うことができる。
【0044】
例えば、本実施形態においては、赤色LD11a,緑色LD11b,青色LD11cを共通の温度検出手段17とペルチェ素子15を設けて温度調節したが、LD11毎に温度検出手段17とペルチェ素子15を設けて、各LD11を個別に温度調節する構成としても良い。
【0045】
また、高温環境下における起動時に、LD11を寒色から白色に到るように制御し、ペルチェ素子15によってLD11を冷却中であることを印象付ける構成としたが、LD11の動作保証温度範囲によっては、高温環境下における起動時に、LD11を暖色から白色に到るように制御することで、LD11が高温であることを印象付ける構成としても良く、同様に、低温環境下における起動時に、LD11を寒色から白色に到るように制御することで、LD11が低温であることを印象付ける構成とし、LD11のいずれかの光源しか動作できない状態であっても、運転者に機能不全の状態を意識させることなく表示を高速に開始することができる。