(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第一実施形態)
図1は、本実施形態の化粧コンクリート2(コンクリート部材)を示す模式図である。
化粧コンクリート2は、建物や構造物を構成するコンクリート部材4の化粧面4a(表面)に図示しない自然調の色を発するフェノール性化合物(後述する化合物P1)を含むコンクリート着色剤が付着されたものである。
ここで、コンクリート着色剤が「付着された」とは、「塗布された」、「含浸された」及び「転写された」を含む用語である。
【0021】
コンクリート着色剤は、化粧面4aから一定の厚み寸法内側のコンクリート部材4にも浸透している。コンクリート部材4において、化粧面4a及びその表面から一定の厚み寸法内側の化合物P1が含浸された部分を、着色層4dと称する。着色層4dの厚み寸法は、400μm程度である。
【0022】
コンクリート部材4は、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント及び高炉セメントからなる群より選ばれた一種以上のセメントを母材とするコンクリートから構成されている。コンクリート部材を構成するセメントの全重量うち、母材として使用する上記一種以上のセメントの含有量は、50〜100重量%が好ましく、70〜100重量%がより好ましく、90〜100重量%が更に好ましい。
【0023】
早強ポルトランドセメントは、乾燥に伴う化粧面4aの明度が大きく変化しない。また、高炉セメントでは、乾燥に伴う化粧面4aの明度が上昇する。また、低熱ポルトランドセメントや高炉セメントでは、乾燥に伴って化粧面4aの化合物P1特有の黄色や褐色の色が濃くなり、全体として自然調の色合いが深まる。コンクリート部材4の母材となるセメントは、このようなセメントの種類による化粧面4aの色の濃淡の違いを勘案して、前記群より適宜選択される。
【0024】
コンクリート部材4の水セメント比(水の質量/セメントの質量)は、母材となるセメントの種類を勘案して適宜設定される。通常、水セメント比は30〜60%であることが好ましい。
【0025】
コンクリート部材4は、細骨材として石灰砕砂を含んでいることが好ましい。石灰砕砂を含むことにより、脱型直後から自然調の色合いが深まり、乾燥が進んでもその色合いを安定して保持することができる。
【0026】
<コンクリート部材4の形成>
図2に示すように、先ず、コンクリート部材4の大きさに合致した木製合板、鋼或いは樹脂等からなる型枠10を組み立てる。
図2に示した矩形の型枠10は一例であり、他の形状であってもよい。次に、型枠10内にコンクリート部材4を構成するコンクリート12を打設し、固化(硬化)させる。
【0027】
コンクリート12の材齢は、使用したコンクリート12の種類、コンクリート部材4に必要とされる強度、仕上がり後の化粧コンクリート2の色合い等を勘案して適宜設定することが好ましい。この後、型枠10を脱型することによって、コンクリート部材4が製造される。
【0028】
<コンクリート部材4の着色>
続いて、
図3に示すように、コンクリート部材4の化粧面4aに後述するコンクリート着色剤13を付着させる。なお、高濃度のリグニンはコンクリート12の固化を抑制する場合があるため、コンクリート着色剤13に含まれるリグニンの量はコンクリート12の固化が阻害されない程度であることが好ましい。
ここで、コンクリート着色剤を「付着させる」とは、「塗布する」、「含浸させる」及び「転写する」を含む用語である。
【0029】
コンクリート部材4の化粧面4aにコンクリート着色剤13を塗布する方法は特に限定されない。例えば、刷毛等を用いてコンクリート部材4の化粧面4aにコンクリート着色剤13を塗る方法を採用することができる。なお、コンクリート部材4にコンクリート着色剤13を塗布する他の方法としては、型枠10における化粧面4aが接する面にコンクリート着色剤13を塗布した後に、コンクリート12を打設する方法が挙げられる。この方法の一例については第二実施形態として後述する。
【0030】
次に、化粧面4aに塗布したコンクリート着色剤13を乾燥させる。コンクリート部材4の化粧面4aの色彩変化を抑える点では、塗布したコンクリート着色剤13の乾燥後、好ましくは7日以内に、コンクリート部材4の化粧面4a(すなわち乾燥させたコンクリート着色剤13の上)に、クリアを塗布することが好ましい。
以上の工程により、化粧コンクリート2が完成する。
【0031】
本実施形態においては、コンクリート部材4の化粧面4aにコンクリート着色剤13を塗布し、化合物P1をコンクリート表面に付着又は浸透させることによって、コンクリート部材4の化粧面4aを容易且つ安定的に、木材が有する自然調の色合いに着色し、化粧コンクリート2から醸し出される美観性やぬくもりを高めることが可能となる。
【0032】
また、コンクリート部材4の表層部をアルカリ性とすることによって、好ましくはpH10以上に調整することによって、タンニンやリグニン等の化合物P1の発色が濃くなり、コンクリート部材4の化粧面4aを発色性よく着色することが可能となる。コンクリートは本来的にはアルカリ性であるため、前記表層部が空気中の二酸化炭素によって中性化されないように、クリア(透明な表面コート材)で前記表層部を被覆しておくことにより、前記表層部をアルカリ性に維持することができる。
【0033】
(第二実施形態)
図4は、本実施形態のコンクリート着色方法を用いて製造される化粧コンクリート3を示す模式図である。なお、
図4に示す化粧コンクリート3の構成要素のうち、第一実施形態の化粧コンクリート2と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0034】
図4に示すように、化粧コンクリート3は、コンクリート部材4の化粧面4aにコンクリート着色剤が塗布され、着色層4dに、後述するフェノール性化合物(化合物P1)が浸透すると共に、化粧面4aに木材模様(木目)の凹凸パターンが形成されたものである。この木材模様の凹凸によって、化粧コンクリート3からは、木材特有の美観性やぬくもりがより一層醸し出されている。
以下、第二実施形態の化粧コンクリート3の製造方法を説明する。
【0035】
<コンクリート部材4の形成>
先ず、
図5に示すように、コンクリート部材4の大きさに合致した型枠10を組み立てる。この際、型枠10の底板として、木材模様の凹凸パターンを型枠10の内側に向けた木製型枠(木材)14を設置する。型枠10の側板としては、底板と同様の木製型枠14を用いてもよく、鋼或いは樹脂からなる型枠材を用いてもよい。なお、型枠10の底板は必ずしも木製である必要はなく、相形状を有していれば木製以外の合成ゴム、金属等から構成されてもよい。
【0036】
ここで、「相形状」とは、打設するコンクリートの化粧面に所望の凹凸を付与することが可能な凸凹形状を意味する。例えば、木材模様の凹凸を有する底板を使用した場合、その底板に接して打設されたコンクリートの表面には、底板が有する凹凸が反転された凸凹を転写して、木材模様の凸凹を有する化粧面を形成することができる。
【0037】
次に、
図6に示すように、型枠10内にコンクリート部材4を構成するコンクリート12を打設し、固化(硬化)させる。ここで用いるコンクリートの種類は特に制限されない。また、コンクリート12の材齢は、使用したコンクリート12の種類、コンクリート部材4に必要とされる強度、仕上がり後の化粧コンクリート3の色合い等を勘案して適宜設定することが好ましい。
【0038】
コンクリート12の固化後に型枠10を脱型することによって、コンクリート部材4が製造される。これにより、
図6に示すように、型枠10の木製型枠(底板)14に接していたコンクリート12の表面12pに木材模様の凹凸パターンが転写され、その表面をコンクリート部材4の化粧面4aとすることができる。
【0039】
<コンクリート部材4の着色>
続いて、コンクリート部材4の化粧面4aにコンクリート着色剤13を塗布する。その塗布方法及び乾燥方法は第一実施形態で説明した内容と同様に行うことができる。
【0040】
また、本実施形態におけるコンクリート着色方法として、上記コンクリート12を型枠14の上へ打設する前に、型枠(底板)14におけるコンクリート12が接する面に予めコンクリート着色剤13を塗布してもよい。この方法により、型枠14に接するコンクリート12の表面12pに木材模様の凹凸パターンと同時に、コンクリート着色剤に含まれる化合物P1由来の色が転写される。そのため、脱型直後にコンクリート部材4の化粧面4aにコンクリート着色剤13が塗布された状態(付着した状態)となり、脱型後のコンクリート部材4の着色工程は不要となる。
以上の工程により、化粧コンクリート3が完成する。
【0041】
本実施形態においては、コンクリート部材4の化粧面4aにコンクリート着色剤13を塗布し、化合物P1をコンクリート表面に付着又は浸透させることによって、コンクリート部材4の化粧面4aを容易且つ安定的に、木材が有する自然調の色合いに着色し、コンクリートから醸し出される美観性やぬくもりを高めることが可能となる。また、コンクリート部材4の表層部を第一実施形態と同様の方法を用いてアルカリ性とすることによって、タンニンやリグニン等の化合物P1の発色が濃くなり、コンクリート部材4の化粧面4aを発色性よく着色することが可能となる。
【0042】
更に、本実施形態においては、相形状を有する木製型枠14を使用した型枠10にコンクリート12を打設してコンクリート部材4を形成することによって、コンクリート部材4の化粧面4aに木材特有の凹凸パターンを形成し、化粧コンクリート3から醸し出される美観性やぬくもりをより一層高めることが可能となる。
【0043】
<コンクリート着色剤>
本発明に用いるコンクリート着色剤の実施形態は、下記一般式(P1)で表されるフェノール性化合物を含む。一般式(P1)中、Rはn価の有機基を表し、mは1〜5の整数を表し、nは1以上の整数を表す。Rはn個のフェノール性水酸基と結合している。
【0045】
本発明に用いるコンクリート着色剤をコンクリート表面に付着させることにより、当該コンクリート表面を自然の木材に近い色合いに着色できるメカニズムは必ずしも明らかではないが、コンクリート着色剤に含まれるフェノール性化合物及び/又はその加水分解物がコンクリート表面に存在する鉄分(鉄イオン)又はその他の金属成分を結合して錯体を形成し、自然の木材に近い色素になることが要因であると推測される。したがって、一般式(P1)で表されるフェノール性化合物(以下、「化合物P1」と呼ぶことがある。)は、鉄分又はその他の金属成分を結合し得るフェノール性水酸基を有していればよい。ここで、フェノール性水酸基とは、下記一般式(q1)で表される基を意味する。一般式(q1)中、mは1〜5の整数を表し、波線で区切られた結合は1価の結合手を表す。
【0047】
一般式(P1)のRはn価の有機基であればよく、その有機基の炭素数は特に制限されないが、例えば1〜1000であることが好ましい。前記有機基は、炭化水素基であることが好ましく、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルカンを構成する水素原子がフェノール性水酸基によって置換された化合物であることがより好ましい。一般式(P1)中、nはフェノール性水酸基の数を表す。nは自然数であればよく、例えば1〜100の整数であることが好ましい。nが2以上である場合、一般式(q1)で表される複数のフェノール性水酸基におけるmは各々独立に1〜5を表し、各mは独立に1〜3であることが好ましい。
【0048】
前記アルカンのうち、直鎖状アルカンを構成するアルキレン基の一部が環状アルキレン基又はフェニレン基によって置換されていてもよく、分岐鎖状アルカンを構成するアルキレン基の一部が環状アルキレン基又はフェニレン基によって置換されていてもよい。この環状アルキレン基及びフェニレン基を構成する水素原子の一部又は全部が水酸基(−OH)、カルボキシル基(−C=O−OH)、炭素数1〜5のアルコキシ基、又はハロゲン原子の何れか1以上によって置換されていてもよい。また、前記分岐鎖状アルカンの分岐鎖同士が、単結合、酸素原子(−O−)及び炭素数1〜5のアルキレン基から選ばれる1以上の2価の連結基を介して結合し、部分的な環を形成していてもよい。この場合、分岐鎖を構成する末端の水素原子が前記2価の連結基によって置換されることが好ましい。
【0049】
前記アルカンを構成するメチレン基(−CH
2−)が、酸素原子(−O−)、カルボニル基(−C=O−)、又はビニレン基(−CH=CH−)の何れか1以上によって置換されていてもよい。また、前記アルカン、前記アルキレン基又は前記フェニレン基を構成する水素原子が、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−C=O−OH)、炭素数1〜5のアルコキシ基、又はハロゲン原子の何れか1以上によって置換されていてもよい。
【0050】
好適な化合物P1として、例えば、多種の木材に一般的に含まれるカテキン、リグニン及びタンニンが挙げられる。コンクリート着色剤にカテキン、リグニン及びタンニンのうち何れか1つ以上が含まれることにより、コンクリート表面に付着されたカテキン、リグニン及びタンニンが有する木材の色調を活かして、より自然な木材の風合いにコンクリート表面を着色することができる。
【0051】
ここで、「タンニン」は、カテキン、タンニン酸、没食子酸等を含む用語であり、一般に植物に由来する水溶性化合物の総称であって、金属イオン、アルカロイド、蛋白質等と反応して難溶性の塩、錯体、又は複合体を形成する化合物を意味する。「カテキン」はC
15H
14O
6の組成式で表される公知の化合物であり、ここではその誘導体としてのポリフェノール化合物も含む用語である。「リグニン」は、高等植物の木化に関与するフェノール性化合物として知られる公知の芳香族高分子化合物である。
【0052】
また、下記式で表されるタンニン酸及び没食子酸も好適な化合物P1として例示できる。コンクリート着色剤にタンニン酸及び/又は没食子酸が含まれることにより、コンクリート表面に付着されたタンニン酸及び/又は没食子酸が発色する木材の色調を活かして、より自然な木材の風合いにコンクリート表面を着色することができる。
【0054】
没食子酸のエステル化合物も化合物P1として用いることができる。このようなエステル化合物として例えば没食子酸プロピル、没食子酸イソアミル、没食子酸エピガロカテキン等が挙げられる。
【0055】
コンクリート着色剤にタンニン酸が含まれる場合、その濃度は特に制限されないが、例えば、着色剤の全体積に対して0.1〜40重量%が好ましく、1〜20重量%がより好ましく、1〜10重量%が更に好ましい。
【0056】
コンクリート着色剤に没食子酸が含まれる場合、その濃度は特に制限されないが、例えば、着色剤の全体積に対して0.1〜40重量%が好ましく、1〜20重量%がより好ましく、1〜10重量%が更に好ましい。
【0057】
コンクリート着色剤を構成する溶媒は、化合物P1を溶解又は分散可能な溶媒であれば特に制限されず、水系溶媒であってもよいし、有機溶媒であってもよい。
【0058】
水系溶媒は、水を主成分として、溶媒の全体積に対して水を50重量%以上含有する溶液であれば特に制限されない。例えば、精製された純水であってもよいし、酸又はアルカリを含む水溶液であってもよいし、pH調整可能な緩衝剤を含む公知のpH緩衝液であってもよい。また、水と混和可能なアルコール等の有機溶媒を含んでいてもよい。
【0059】
本発明に用いるコンクリート着色剤は、化学合成された化合物P1を適当な溶媒に溶解又は分散させて調製されたものであってもよいし、自然の木材から抽出された化合物P1を適当な溶媒に溶解又は分散させて調製されたものであってもよい。
【0060】
例えば、木材を水系溶媒に浸けることによって、化合物P1を含む複数種類の化合物を溶媒中に抽出することができる。このような化合物として、タンニン酸、没食子酸等のフェノール性化合物の他、未同定の化合物が含まれていてもよい。木材から抽出された化合物からなる色素をコンクリート表面に付着させることによって、より自然な木材の風合いに着色することができる。
【0061】
木材を浸漬する水系溶媒のpHは、4以上であることが好ましく、7以上であることがより好ましく、9以上であることが更に好ましい。pH4以上の水系溶媒で抽出された化合物P1は発色性に優れ、コンクリート表面をあたかも木材の様に着色することができる。また、アルカリ性の水系溶媒で抽出された木材由来の化合物P1は、特に発色性に優れる。
【0062】
化合物P1を抽出するために水系溶媒に浸漬する木材の種類は特に制限されず、リグニン又はタンニンを含む公知の木材を使用することができる。例えば、スギ、ラワン、ラーチ等を用いることにより、美観性に優れた色合いにコンクリート表面を着色可能な化合物を抽出することができる。
【0063】
また、使用する木材は生の木材(乾燥していない生木)であってもよいし、乾燥した木材であってもよい。木材を予め細かいチップ状に砕いておくと、フェノール性化合物の抽出効率を高めることができる。
【0064】
化合物P1を抽出するために溶媒に木材を浸漬する時間は特に制限されず、例えば1時間〜10日程度で抽出することができる。
化合物P1を抽出するために木材を浸漬する溶媒の温度は特に制限されず、例えば10〜60℃程度で抽出することができる。
【0065】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変更が可能である。
【実施例】
【0066】
次に、本発明を以下の実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
縦300mm×横100mmのスギ板を底板とし、この底板に合わせた側板を用意して木材からなる型枠を組み上げた。この底板におけるコンクリートの打設面に、スギの木片から水系溶媒へ抽出したフェノール性化合物(化合物P1)を含むコンクリート着色剤13を塗布して、この型枠に水セメント比を50%とした普通ポルトランドセメント(以下、N50と記載する)を打設し、材齢3日で脱型したものを、コンクリート部材の試験体として用意した。なお、使用したN50は練り混ぜ後にブリージングが見られなくなるまで練り置きを行った。また、試験体と共に、参考試料として型枠の底板に使用したスギ板と同種のスギ材を用意した。
【0068】
次に、型枠の底板に接していた面を測定面として、脱型直後の試験体の測定面の色彩測定を行った。色彩測定には、色彩色差計(型番;CR−410、コニカミノルタ社製)を使用した。また、色彩変化はCIE1976色空間のL
*,a
*,b
*によって評価した。未着色のN50と本実施例の試験体のそれぞれ脱型直後の測定面の色相の測定結果を表1に示す。なお、本実施例の試験体においては測定箇所により色相のばらつきがみられるため、表1には測定面内の12箇所での測定値の平均値を示した。
【0069】
【表1】
【0070】
表1の結果から、コンクリート着色剤が塗布された試験体の測定面では明度L
*が低下し、b*が大幅に増大していることを確認した。結果として、試験体の測定面は、黄みがかった灰色に仕上がっていることを確認した。
【0071】
次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて試験体の測定面付近の断面観察を行った。
図7にSEMによる断面写真を示すと共に、
図8には測定面近傍のカルシウム元素分布及び炭素元素分布を測定した結果を示す。
図7からもわかるように、測定面の表層から約400μmの厚み寸法内側の試験体と、それより内側の試験体とで画像の濃淡に差異がみられた。この濃淡の差異に関して、
図8に示す元素マッピングの結果を見ると、試験体の測定面の表層には炭素元素が多く分布しており、カルシウム元素が表層より内側の試験体と比較して少なく分布していることがわかる。即ち、
図8の濃淡の差異は、試験体中の炭素元素濃度及びカルシウム元素濃度の差異によって生じたものと推定される。カルシウム元素はセメントに由来するものであるが、試験体の測定面の表層からの厚み寸法で炭素元素濃度に変化が生じる要因としては、コンクリート着色剤からの炭素元素(化合物P1)の供給が考えられる。これらの結果より、試験体の測定面における変色は、炭素元素を多く含有する物質に起因するものであることを確認した。また、本実施例では試験体の測定面から厚み寸法約400μm内側までの範囲が着色された。
【0072】
次に、試験体の測定面近傍の着色部分と試験体内部の非着色部分から一部を採取し、それぞれ着色試料と非着色試料とした。その後、着色試料と非着色試料に対してJIS K 0058−1のスラグ類の化学物質試験方法を参考に酸アルカリ水溶液抽出実験を行った。具体的には、各試料と酸アルカリ水溶液を重量体積比1:10で混合し、6時間振とうした。抽出後、懸濁液を2000rpmで10分間遠心分離し、上澄み液を0.45μmのフィルターでろ過した。その後、ろ液のpHと全有機炭素(Total Organic Carbon:TOC)量と吸光度を、市販のpH電極及びTOC計と、分光分析装置(型番:U−2000、株式会社日立製作所製)を用いて測定した。
【0073】
また、参考試料として用意したスギ板に対しても、JIS K 0058−1のスラグ類の化学物質試験方法を参考に酸アルカリ水溶液抽出実験を行った。この際、スギ板は縦20mm×横80mm×厚さ13mmの大きさに成形(以下、スギ片と記載する)して使用した。酸アルカリ水溶液としては、純水に硫酸及び水酸化カルシウム溶液を混合してpHが、4、7、9、10、11、12になるように調製した水溶液を用いた。また、スギ片からの化合物P1等の有機物抽出は、スギ片と250mLの酸アルカリ水溶液をキャップ付きのポリプロピレン製容器に入れて1週間浸漬することによって行った。浸漬期間中はスギ片が酸アルカリ水溶液中で浮いてしまうため、1日おきにポリプロピレン製容器を反転させた。浸漬期間後に、抽出液を0.45μmのフィルターでろ過した後、着色試料と非着色試料に対する酸アルカリ水溶液抽出実験と同様の手法で、ろ液のpHとTOC量と吸光度を測定した。
【0074】
図9に、着色試料と非着色試料のpH毎のTOC量の測定結果を示す。
図9に示すように、着色試料は非着色試料と比較して約5倍のTOCを含んでいることを確認した。この結果は、
図7のSEM測定結果と一致しており、試験体の変色はコンクリート着色剤に含まれるスギ由来の有機物、すなわち化合物P1によるものであると推定できる。ろ液のpHがTOC量に及ぼす影響に着目すると、pHが11である場合にTOC量が高くなっているものの、pHが7である場合と4である場合では有意な差異がみられなかった。
【0075】
酸アルカリ水溶液抽出実験後に、着色試料と非着色試料をろ過して得られた溶液のpHを測定すると、pH4からpH12.6へ、pH7からpH12.6へ、pH12からpH12.7へと変化し、試験体のセメントに含まれる水酸化カルシウムの影響によって溶液のpHが増加していることがわかった。
【0076】
次に、スギ片から酸アルカリ水溶液に抽出された有機物の色を目視で観察した。その結果、高pHの溶液に浸漬したもの程、スギ由来の褐色が濃くなっていることを確認した。pHによって色の濃淡に変化が生じた要因としては、抽出物質の色そのものが変化していることと、抽出物質の濃度が高くなっていることの双方が考えられる。そこで、pH12の抽出溶液を用いて、強酸を加えることで溶液の濃度は殆ど変化させず、pHのみを変化させて溶液の色を目視で観察した。その結果、pHが低下するにつれて溶液の色は淡化した。溶液全体の量は殆ど変化していないため、抽出物質は各pHによって異なる色を示していることになる。また、この呈色反応は可逆的であり、低pHから高pHへ再度変化させた場合は溶液の色が濃化した。これにより、試験体の着色部分にはその内部よりも約5倍の有機物が含まれていること、スギ片から抽出される溶液はpHによって呈色の程度が異なり、セメント中のように高アルカリ性のもの程、濃く呈色することを確認した。
【0077】
続いて、スギ片の抽出溶液における吸光度の波長依存性の測定結果を
図10に示す。
図10に示すように、pH4とpH7で抽出した溶液では波長270nmにおいて吸光度のピークが確認されたが、pH12の抽出溶液では同波長における吸光度のピークが小さくなった。この吸光度のピークはタンニン特有のものであり、スギ片の抽出溶液にタンニンが含まれていることを確認した。タンニンはアルカリ環境下で褐変する性質を有しており、この性質は上記の抽出液の色の観察でも確認されている。以上より、タンニンが試験体を自然調に変色させる物質の一つであるといえる。一方で、木材に多量に含まれるリグニンは、何れのpHであっても比較的濃い茶褐色を示し着色後のコンクリートの色合いに与える影響が大きい。そのため、少量であってもコンクリートの表面を変色させ得ると考えられる。
【0078】
実施例1で示したように、試験体の測定面が着色されていることに加えて、測定面に夏目と冬目の凹凸模様が形成されていることにより、試験体から醸し出される自然調の美観性やぬくもりが高められると考えられる。
【0079】
(実施例2)
表2に示す調合のコンクリートaと、表3に示す調合のコンクリートbをそれぞれ用いて、縦1800mm×横1800mm×厚さ200mmの壁型コンクリート部材(以下、モックアップa,bと呼ぶ)を二体用意した。
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
モックアップa,bの打設に用いた型枠として、実施例1と同様のスギ板を型枠を用いた。また、スギから水系溶媒に抽出して得た化合物P1を含むコンクリート着色剤を予め準備し、コンクリートの打設前に、スギからなる底板にこの着色剤を塗布した。これにより、各モックアップの測定面にはスギの木材模様(木目)の凹凸と共に化合物P1が転写されて、木材様の美しい風合いが表現された。また、脱型後に市販のクリア剤を着色面(測定面)に塗布して、透明な皮膜を形成し、着色面の色合いを保護した。
【0083】
モックアップa,bの着色面の明度L
*とb
*の経時変化を測定した結果を
図11と
図12に示す。明度L
*及びb
*の測定は、実施例1と同様の手法によって行った。なお、各モックアップの高さ方向で異なる3箇所で測定を行い、その平均値をプロットした。
【0084】
モックアップaは、低熱ポルトランドセメントを使用した水セメント比31%の高強度コンクリートで構成されており、その明度L
*が約60で、測定期間中ほぼ一定であった。
一方、モックアップbは、脱型後10日目まで明度L
*約52を示し、脱型後30日目において明度L
*約60を示した。この明度変化の要因としては、モックアップbを構成するコンクリート部材に含まれる収縮低減剤の保水効果が挙げられる。この保水効果によって脱型直後の急激な乾燥が防がれたことが考えられる。
【0085】
明度b
*については、
図12に示すように、水セメント比が低いコンクリートを用いたモックアップaでは脱型後にb
*が増加し、4程度の値に収束した。また、中庸熱ポルトランドセメントを使用したモックアップbではb
*が比較的小さい値となった。
b
*はコンクリート部材の色合いや質感に大きな影響を及ぼすため、使用するコンクリートの種類や水セメント比、砂セメント比等と、乾燥後のb
*の変化とを勘案することが重要である。
【0086】
(実施例3)
実施例2のモックアップbの作製において型枠として使用したスギ板を、ベニヤ合板、ラーチ合板、表面を樹脂フィルムで被覆したスギ板、に変更した場合を追加して、実施例2のモックアップbと同様にモックアップをそれぞれ作製した。この際、コンクリートの打設前には、使用した各板材と同種の木材から水系溶媒に抽出して得た化合物P1を含むコンクリート着色剤を予め塗布した。これにより、各モックアップの測定面には各板材の木材模様(木目)の凹凸と共に化合物P1が転写されて、木材様の美しい風合いが表現された。
【0087】
各板材由来の化合物P1が塗布された各モックアップの着色面の明度L
*とb
*を測定した。その結果を
図13及び
図14に示す。これらの図においては、脱型時の測定値と、乾燥材齢22日まで屋外暴露した状態での測定値を併記した。
【0088】
図13及び
図14において、「スギ本実」は型枠としてスギ板を使用した場合を、「ベニヤ合板」は型枠としてベニヤ合板を使用した場合を、「ラーチ合板」は型枠としてラーチ合板を使用した場合を、「フィルム」は型枠として表面を樹脂フィルムで被覆したスギ板を使用した場合を、それぞれ表す。
【0089】
表面を樹脂フィルムで被覆した底板を用いて作製したモックアップ(図における「フィルム」)においては、脱型時においてb
*の値が、他のモックアップと比べて低くなっている。この原因として、他のモックアップの測定面においては、コンクリート打設時に型枠を構成する板材そのものから転写される化合物P1等の色素がb
*値に反映されているのに対して、モックアップ(フィルム)の測定面においては、フィルム表面に塗布された少量のコンクリート着色剤のみによって着色されていることが考えられる。
【0090】
各モックアップの測定面では、22日間の屋外暴露によって、明度L
*が上昇すると共に、b
*が低下する傾向がみられた。また、この傾向はスギ板に限らず、ベニヤ合板とラーチ合板の場合にも観察された。このb
*の低下の要因として、屋外暴露に際して測定面をクリア剤で被覆保護しなかったので、風雨によって着色剤が洗い流されたか又は着色剤が分解されたためであると考えられる。
【0091】
(実施例4)
実施例2,3で用いた中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメントに代えて、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント及び高炉セメントを使用した場合にも、同様の結果が得られた。
【0092】
(実施例5)
打設するコンクリートが接する面にスギ材を用いた型枠を用意した。また、コンクリート着色剤として、1質量%、5質量%、10質量%のタンニン酸水溶液と10質量%、50質量%、100質量%のリグニン水溶液又はリグニン液をそれぞれ用意した。ここで使用したタンニン酸及びリグニンは試薬として購入できる市販品である。続いて、型枠とコンクリートが接する面に各濃度のタンニン酸水溶液とリグニン水溶液をそれぞれ塗布し、普通コンクリートを打設した。各々のコンクリートを乾燥材齢1日で脱型し、試験体B〜Gとした。また、タンニン酸水溶液及びリグニン水溶液の何れのコンクリート着色剤も型枠に塗布せずに、普通コンクリートを打設し、乾燥材齢1日で脱型した試験体Aを用意した。
【0093】
試験体A〜Gの各々において、型枠の底面と接したコンクリートの表層部を、
図15に示すように六つの区画a〜fに分け、各区画の中心部(
図15の×印の位置)のL
*,a
*,b
*を測定した。L
*,a
*,b
*の各々について、区画a〜fの中心部における測定値の平均値を表4に示す。
【0094】
【表4】
【0095】
表4に示すように、試験体Aと比較して試験体B〜Gのb
*の値が大きくなり、タンニン又はリグニンによって自然調の色合いに着色されたことがわかる。
【0096】
(実施例6)
着色前のコンクリート試料として、普通ポルトランドセメントからなる直径30センチの円盤状の白色プレートを常法により作製した。この白色のプレートに、タンニン酸を5〜10重量%濃度で含有するタンニン酸水溶液を塗布して乾燥させたところ、塗布した部分を木材様の褐色に着色することができた。また、タンニン酸を没食子酸に変更して同様の試験を行ったところ、タンニン酸の場合とは異なる風合いの木材様の褐色に着色することができた。
【0097】
(参考実験)
タンニン酸水溶液に硫酸鉄を溶解したところ、タンニン酸水溶液の色が淡褐色から濃褐色へ変化したことを認めた。同様に、没食子酸水溶液に硫酸鉄を溶解したところ、没食子酸水溶液の色が淡褐色から濃褐色に変化したことを認めた。この色の変化は、水溶液中で各化合物及び/又はその加水分解物と、鉄イオンとの錯体が形成されたためであると考えられる。