(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コンクリートを打設する型枠の打設面に前記コンクリート着色剤を付着させた後、その型枠内にコンクリートを打設することを特徴とする請求項7に記載のコンクリート着色方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、自然調の化粧仕上げにおいては表面の凹凸やパターンもさることながら、その色合いによってコンクリートから醸し出される美観性や温もりが変わってくる。従来のコンクリートの化粧仕上げ方法や塗布剤においては、化粧仕上げ後のコンクリートの色合いがコンクリート及び塗布剤の調合条件や施工時の影響を受け易く、木材様の風合い醸し出す黄色や緑色といった色がコンクリートの表面に安定して定着せず、設計者の意図とは異なる仕上がりになる問題があった。また、化粧仕上げ後の色合いについての学術的な知見が少なく、色合いの再現性については作業員の経験に頼る部分が大きいという問題があった。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、自然の木材の様な風合いに着色が可能なコンクリート着色剤、その着色剤を用いるコンクリート着色方法、及びその着色方法によって着色されたコンクリートの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 下記一般式(P1)で表されるフェノール性化合物及び接着剤若しくは増粘剤を含むことを特徴とするコンクリート着色剤。
【0009】
【化1】
[式中、Rはn価の有機基を表し、mは1〜5の整数を表し、nは1以上の整数を表す。]
【0010】
上記(1)のコンクリート着色剤によれば、フェノール性化合物をコンクリート表面に付着させ、コンクリートの表面を木材の風合いに着色することができる。さらに、色ムラが少ない均一な着色を施すことができる。
【0011】
(2) 前記接着剤として、デンプンを含むことを特徴とする前記(1)に記載のコンクリート着色剤。
(3) 前記接着剤として、アクリル樹脂又は酢酸ビニル樹脂を含むことを特徴とする前記(1)に記載のコンクリート着色剤。
上記(2)及び(3)のコンクリート着色剤によれば、木材様の美しい風合いで、均一にムラなく着色することができる。
【0012】
(4) 前記フェノール性化合物がリグニン又はタンニンであることを特徴とする前記(1)〜(3)の何れか一項に記載のコンクリート着色剤。
上記(4)のコンクリート着色剤によれば、コンクリート表面に付着されたリグニン及びタンニンが有する木材の色調を活かして、より自然な木材の風合いで着色することができる。
【0013】
(5) 前記フェノール性化合物が没食子酸であることを特徴とする前記(1)〜(3)の何れか一項に記載のコンクリート着色剤。
上記(5)のコンクリート着色剤によれば、コンクリート表面に付着された没食子酸が有する木材の色調を活かして、より自然な木材の風合いに着色することができる。
【0014】
(6)
木材を水系溶媒に浸けることにより
、前記一般式(P1)で表されるフェノール性化合物を抽出する工程と、少なくとも前記フェノール性化合物と接着剤若しくは増粘剤を混合することにより、コンクリート着色剤を得る工程を有することを特徴とす
るコンクリート着色剤
の製造方法。
上記(6)の
製造方法によって得たコンクリート着色剤によれば、実際の木材から抽出される複数種類の化合物を含む色素をコンクリート表面に付着させ、より自然な木材の風合いに着色することができる。
【0015】
(7) 前記(1)〜(
5)の何れか一項に記載のコンクリート着色剤を、コンクリートの表面に付着させることを特徴とするコンクリート着色方法。
(8) コンクリートを打設する型枠の打設面に前記コンクリート着色剤を付着させた後、その型枠内にコンクリートを打設することを特徴とする前記(7)に記載のコンクリート着色方法。
上記(8)のコンクリート着色方法によれば、型枠の打設面に予め付着させたコンクリート着色剤を打設したコンクリートへ転写して、当該コンクリート表面を着色することができる。
【0016】
(9) 前記打設面が樹脂製であることを特徴とする前記(8)に記載のコンクリート着色方法。
上記(9)のコンクリート着色方法によれば、打設したコンクリートの固化後に型枠を外す脱型の作業が容易になる。更に、樹脂製の打設面に付着させるコンクリート着色剤には接着剤又は増粘剤が含まれているため、その打設面に着色剤が馴染み易く(弾かれ難く)、その打設面に均一にムラなく着色剤を付着させることができる。この結果、その着色剤の均一性を維持したままコンクリートを打設し、コンクリート表面に均一にムラなく転写(着色)することができる。
【0017】
(10) 前記打設面が木目模様の凹凸を有することを特徴とする前記(8)又は(9)に記載のコンクリート着色方法。
上記(10)のコンクリート着色方法によれば、打設したコンクリート表面に着色剤を転写するだけでなく、打設面が有する木目模様の凹凸を反転した、木目模様の凸凹を当該コンクリート表面に転写することにより、一層美しい自然調の風合いを醸し出すことができる。
(11) 前記(1)〜(
5)の何れか一項に記載のコンクリート着色剤
からなる着色層をコンクリート表面に有することを特徴とするコンクリート。
【発明の効果】
【0018】
本発明のコンクリート着色剤及びコンクリート着色方法によれば、コンクリートの表面を木材の風合いに、容易且つ安定的に再現性高く着色することができる。さらに、色ムラが少ない均一な着色を施すことができる。
本発明のコンクリートは、材料がコンクリートでありながら、その表面が木材の風合いに着色されているため、見る人に木材ならではの自然な美観性やぬくもり感を与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<コンクリート着色剤>
本発明に係るコンクリート着色剤の実施形態は、下記一般式(P1)で表されるフェノール性化合物及び接着剤若しくは増粘剤を含む。一般式(P1)中、Rはn価の有機基を表し、mは1〜5の整数を表し、nは1以上の整数を表す。Rはn個のフェノール性水酸基と結合している。
【0022】
本発明にかかるコンクリート着色剤をコンクリート表面に付着させることにより、当該コンクリート表面を自然の木材に近い色合いに着色できるメカニズムは必ずしも明らかではないが、コンクリート着色剤に含まれるフェノール性化合物及び/又はその加水分解物がコンクリート表面に存在する鉄分(鉄イオン)又はその他の金属成分を結合して錯体を形成し、自然の木材に近い色素になることが要因であると推測される。したがって、一般式(P1)で表されるフェノール性化合物(以下、「化合物P1」と呼ぶことがある。)は、鉄分又はその他の金属成分を結合し得るフェノール性水酸基を有していればよい。ここで、フェノール性水酸基とは、下記一般式(q1)で表される基を意味する。一般式(q1)中、mは1〜5の整数を表し、波線で区切られた結合は1価の結合手を表す。
【0024】
一般式(P1)のRはn価の有機基であればよく、その有機基の炭素数は特に制限されないが、例えば1〜1000であることが好ましい。前記有機基は、炭化水素基であることが好ましく、直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルカンを構成する水素原子がフェノール性水酸基によって置換された化合物であることがより好ましい。一般式(P1)中、nはフェノール性水酸基の数を表す。nは自然数であればよく、例えば1〜100の整数であることが好ましい。nが2以上である場合、一般式(q1)で表される複数のフェノール性水酸基におけるmは各々独立に1〜5を表し、各mは独立に1〜3であることが好ましい。
【0025】
前記アルカンのうち、直鎖状アルカンを構成するアルキレン基の一部が環状アルキレン基又はフェニレン基によって置換されていてもよく、分岐鎖状アルカンを構成するアルキレン基の一部が環状アルキレン基又はフェニレン基によって置換されていてもよい。この環状アルキレン基及びフェニレン基を構成する水素原子の一部又は全部が水酸基(−OH)、カルボキシル基(−C=O−OH)、炭素数1〜5のアルコキシ基、又はハロゲン原子の何れか1以上によって置換されていてもよい。また、前記分岐鎖状アルカンの分岐鎖同士が、単結合、酸素原子(−O−)及び炭素数1〜5のアルキレン基から選ばれる1以上の2価の連結基を介して結合し、部分的な環を形成していてもよい。この場合、分岐鎖を構成する末端の水素原子が前記2価の連結基によって置換されることが好ましい。
【0026】
前記アルカンを構成するメチレン基(−CH
2−)が、酸素原子(−O−)、カルボニル基(−C=O−)、又はビニレン基(−CH=CH−)の何れか1以上によって置換されていてもよい。また、前記アルカン、前記アルキレン基又は前記フェニレン基を構成する水素原子が、水酸基(−OH)、カルボキシル基(−C=O−OH)、炭素数1〜5のアルコキシ基、又はハロゲン原子の何れか1以上によって置換されていてもよい。
【0027】
好適な化合物P1として、例えば、多種の木材に一般的に含まれるカテキン、リグニン及びタンニンが挙げられる。コンクリート着色剤にカテキン、リグニン及びタンニンのうち何れか1つ以上が含まれることにより、コンクリート表面に付着されたカテキン、リグニン及びタンニンが有する木材の色調を活かして、より自然な木材の風合いにコンクリート表面を着色することができる。
【0028】
ここで、「タンニン」は、カテキン、タンニン酸、没食子酸等を含む用語であり、一般に植物に由来する水溶性化合物の総称であって、金属イオン、アルカロイド、蛋白質等と反応して難溶性の塩、錯体、又は複合体を形成する化合物を意味する。「カテキン」はC
15H
14O
6の組成式で表される公知の化合物であり、ここではその誘導体としてのポリフェノール化合物も含む用語である。「リグニン」は、高等植物の木化に関与するフェノール性化合物として知られる公知の芳香族高分子化合物である。
【0029】
また、下記式で表されるタンニン酸及び没食子酸も好適な化合物P1として例示できる。コンクリート着色剤にタンニン酸及び/又は没食子酸が含まれることにより、コンクリート表面に付着されたタンニン酸及び/又は没食子酸が発色する木材の色調を活かして、より自然な木材の風合いにコンクリート表面を着色することができる。
【0031】
没食子酸のエステル化合物も化合物P1として用いることができる。このようなエステル化合物として例えば没食子酸プロピル、没食子酸イソアミル、没食子酸エピガロカテキン等が挙げられる。
【0032】
コンクリート着色剤にタンニン酸が含まれる場合、その濃度は特に制限されないが、例えば、着色剤の全質量に対して0.1〜40質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましく、1〜10質量%が更に好ましい。
【0033】
コンクリート着色剤に没食子酸が含まれる場合、その濃度は特に制限されないが、例えば、着色剤の全質量に対して0.1〜40質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましく、1〜10質量%が更に好ましい。
【0034】
コンクリート着色剤を構成する溶媒は、化合物P1を溶解又は分散可能な溶媒であれば特に制限されず、水系溶媒であってもよいし、有機溶媒であってもよい。
【0035】
水系溶媒は、水を主成分として、溶媒の全質量に対して水を50質量%以上含有する溶液であれば特に制限されない。例えば、精製された純水であってもよいし、酸又はアルカリを含む水溶液であってもよいし、pH調整可能な緩衝剤を含む公知のpH緩衝液であってもよい。また、水と混和可能なアルコール等の有機溶媒を含んでいてもよい。
【0036】
本実施形態のコンクリート着色剤は、化学合成された化合物P1を適当な溶媒に溶解又は分散させて調製されたものであってもよいし、自然の木材から抽出された化合物P1を適当な溶媒に溶解又は分散させて調製されたものであってもよい。
【0037】
例えば、木材を水系溶媒に浸けることによって、化合物P1を含む複数種類の化合物を溶媒中に抽出することができる。このような化合物として、タンニン酸、没食子酸等のフェノール性化合物の他、未同定の化合物が含まれていてもよい。木材から抽出された化合物からなる色素をコンクリート表面に付着させることによって、より自然な木材の風合いに着色することができる。
【0038】
木材を浸漬する水系溶媒のpHは、4以上であることが好ましく、7以上であることがより好ましく、9以上であることが更に好ましい。pH4以上の水系溶媒で抽出された化合物P1は発色性に優れ、コンクリート表面をあたかも木材の様に着色することができる。また、アルカリ性の水系溶媒で抽出された木材由来の化合物P1は、特に発色性に優れる。
【0039】
化合物P1を抽出するために水系溶媒に浸漬する木材の種類は特に制限されず、リグニン又はタンニンを含む公知の木材を使用することができる。例えば、スギ、ラワン、ラーチ等を用いることにより、美観性に優れた色合いにコンクリート表面を着色可能な化合物を抽出することができる。
【0040】
また、使用する木材は生の木材(乾燥していない生木)であってもよいし、乾燥した木材であってもよい。木材を予め細かいチップ状に砕いておくと、フェノール性化合物の抽出効率を高めることができる。
【0041】
化合物P1を抽出するために溶媒に木材を浸漬する時間は特に制限されず、例えば1時間〜10日程度で抽出することができる。
化合物P1を抽出するために木材を浸漬する溶媒の温度は特に制限されず、例えば10〜60℃程度で抽出することができる。
【0042】
(接着剤、増粘剤)
本実施形態のコンクリート着色剤は、化合物P1に加えて接着剤及び増粘剤のうち少なくとも何れか一方を含む。
前記接着剤は、乾燥又は固化した際に接着性を発揮するものであれば特に制限されず、いわゆる天然系接着剤であってもよいし、合成系接着剤であってもよい。コンクリート着色剤に接着剤が含まれていることにより、コンクリート表面に化合物P1を保持することが容易になる。
【0043】
前記増粘剤は、コンクリート着色剤の粘度を増加させるものであれば特に制限されず、高分子系の増粘剤であってもよいし、低分子系の増粘剤であってもよい。コンクリート着色剤に増粘剤が含まれていることにより、コンクリート着色剤をコンクリート表面に塗布する際に、液ダレを起こすことなく、均一にムラなく塗布することができる。さらに、化合物P1をコンクリート表面に保持することが容易になる。
【0044】
本明細書及び特許請求の範囲において、「増粘剤」は実質的な接着性を有さないものをいう。「接着剤」が「増粘剤」と同様に、コンクリート着色剤の塗布性を高め得る増粘性を有していてもよいが、この場合は増粘剤ではなく接着剤に属する。
【0045】
コンクリート着色剤をコンクリート表面に付着させる方法は後で詳述するが、その一例として、コンクリートを打設する型枠を使用し、この型枠の打設面にコンクリート着色剤を塗布して、その後に打設したコンクリート表面に着色剤を転写する方法がある。この打設面に着色剤を塗布する際、当該コンクリート着色剤に接着剤又は増粘剤が含有されていることにより、打設面にムラなく均一に塗布することができる。この優れた効果は特に打設面が多少の撥水性を有する材質、例えば、ゴムや硬質プラスチック等の樹脂製、金属製、ガラス製又はセラミックス製、である場合に顕著に発揮される。この優れた効果が発揮されるメカニズムは、接着剤又は増粘剤がコンクリート着色剤の接着性及び/又は付着性を向上させるからだと考えられる。一方、接着剤又は増粘剤を含有しないコンクリート着色剤は、型枠の打設面に馴染み難く、打設面から弾かれて浮き出ることもあり、コンクリート表面をムラなく均一に着色することが難しい。
【0046】
コンクリート着色剤に含有させる天然系接着剤としては、例えば、デンプン、膠、又はゴム等の天然高分子を主成分とする(接着剤の総質量に対して50質量%以上含有する)、デンプン系接着剤、膠系接着剤、ゴム系接着剤等が挙げられる。これらの中でもデンプン系接着剤が、塗布性、接着性、乾燥性、発色性等のバランスが優れるため好ましい。天然系接着剤は、その濃度、粘度等を調整するための溶媒を含んでいてもよい。
【0047】
コンクリート着色剤における化合物P1(色材)と天然系接着剤を構成する高分子の含有比(質量基準)は特に限定されないが、例えば化合物P1:高分子=10:1〜1:10程度にすることができ、2:1〜1:6程度であると発色性よく着色できるので好ましい。
【0048】
コンクリート着色剤に含有させる合成系接着剤としては、例えば、エポキシ樹脂、メタクリル樹脂を含むアクリル樹脂、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)、酢酸ビニル樹脂又はポリビニルアルコール(PVA)等の合成樹脂を主成分とする(接着剤の総質量に対して50質量%以上含有する)、エポキシ樹脂系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、EVA系接着剤、酢酸ビニル樹脂系接着剤、PVA系接着剤等が挙げられる。これらの中でも酢酸ビニル樹脂系接着剤が、塗布性、接着性、乾燥性、発色性等のバランスが優れるため好ましい。合成系接着剤は、その濃度、粘度等を調整するための公知の溶媒を含んでいてもよい。
【0049】
コンクリート着色剤における化合物P1(色材)と合成系接着剤を構成する合成樹脂の含有比(質量基準)は特に限定されないが、例えば化合物P1:合成樹脂=10:1〜1:10程度にすることができ、2:1〜1:8程度であると発色性よく着色できるので好ましい。
【0050】
コンクリート着色剤における接着剤の含有量は、使用する接着材の種類によって適宜調整することができる。例えば、コンクリート着色剤の総質量に対する、接着剤を構成する天然高分子及び合成樹脂の含有量は、1〜90質量%の範囲で調整することができる。前記含有量は、10〜90質量%が好ましく、40〜85質量%がより好ましく、50〜80質量%がさらに好ましい。
【0051】
コンクリート着色剤に含有される接着剤は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。2種以上の接着剤を併用する場合の組み合わせ及び含有比は、特に制限されず、個々の接着剤の塗布性、接着性、乾燥性、発色性等を適宜考慮して決定される。
【0052】
コンクリート着色剤に含有させる高分子系の増粘剤としては、例えば、セルロース系高分子増粘剤、高分子カルボン酸系増粘剤、ポリビニルアルコール(PVA)系増粘剤、ポリアクリルアミド系増粘剤等が挙げられる。これらの中でもセルロース系高分子増粘剤が、塗布性、接着性、乾燥性、発色性等のバランスが優れるため好ましい。高分子系増粘剤は、その濃度、粘度等を調整するための公知の溶媒を含んでいてもよい。
【0053】
コンクリート着色剤における化合物P1(色材)と高分子系の増粘剤を構成する高分子の含有比(質量基準)は特に限定されないが、例えば化合物P1:高分子=8:1〜1:8程度にすることができ、5:1〜1:1程度であると発色性よく着色できるので好ましい。
【0054】
コンクリート着色剤に含有させる低分子系の増粘剤としては、例えば、界面活性剤系増粘剤、5−アミノフタル酸系増粘剤、アルギン酸系増粘剤等が挙げられる。これらの中でも界面活性剤系増粘剤が、塗布性、接着性、乾燥性、発色性等のバランスが優れるため好ましい。低分子系増粘剤は、その濃度、粘度等を調整するための公知の溶媒を含んでいてもよい。前記界面活性剤系増粘剤としては、例えば、アルキルアリルスルホン酸塩、アルキルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0055】
コンクリート着色剤における化合物P1(色材)と低分子系の増粘剤を構成する低分子の含有比(質量基準)は特に限定されないが、例えば化合物P1:低分子=2:1〜1:8程度にすることができ、1:1〜1:2程度であると発色性よく着色できるので好ましい。
【0056】
コンクリート着色剤における増粘剤の含有量は、使用する増粘材の種類によって適宜調整することができる。例えば、コンクリート着色剤の総質量に対する、増粘剤の含有量は、1〜90質量%の範囲で調整することができる。前記含有量は、1〜60質量%が好ましく、1〜40質量%がより好ましく、1〜20質量%がさらに好ましい。
【0057】
コンクリート着色剤に含有される増粘剤は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。2種以上の増粘剤を併用する場合の組み合わせ及び含有比は、特に制限されず、個々の増粘剤の塗布性、接着性、乾燥性、発色性等を適宜考慮して決定される。
【0058】
コンクリート着色剤には、前述した接着剤の1種以上と増粘剤の1種以上とを併用しても構わない。併用する場合の接着剤及び増粘剤の組み合わせ及び含有比は、特に制限されず、個々の接着剤及び増粘剤の塗布性、接着性、乾燥性、発色性や、接着剤と増粘剤との相溶性等を適宜考慮して決定される。
【0059】
(クリア)
コンクリート着色剤の塗布後に乾燥して形成された着色層には、少なくとも化合物P1及び接着剤若しくは増粘剤を構成する非揮発成分が含まれる。当該着色層は非水溶性であってもよいし、水溶性であっても構わない。着色されたコンクリートが屋外で使用される場合には、着色層が風雨によって浸食され得る。この浸食を防ぐために、着色層の上に着色層を保護する透明皮膜(保護層)が形成されていてもよい。この透明皮膜の種類や厚みは特に制限されず、例えば、従来からコンクリート表面を保護するために使用されている「クリア」によって形成された透明皮膜が挙げられる。
【0060】
このクリアとしては、コンクリートの着色層の色彩を変更しない又は多少変更したとしてもその美観性を損なわないものであれば、特に限定されない。化合物P1が有する木材様の色合いを大きく変更しないクリアとして、アクリル系のクリアが好ましい。このようなアクリル系のクリアとしては、例えばエコクリア(エコ・リバイバル株式会社製)が挙げられる。アクリル系のクリアを使用することにより、コンクリート表面に付着された化合物P1が有する木材様の色合いを深める効果も得られる。
【0061】
ここで「クリア」とは、コンクリート表面に透明皮膜を形成することが可能な成分が含まれた溶液をいう。また、「アクリル系のクリア」とは、アクリル樹脂を前記成分として含有する溶液を意味する。アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル又はその誘導体を構成単位として含む高分子化合物をいう。本実施形態においては、公知のアクリル樹脂が適用可能である。
【0062】
<コンクリート着色方法>
本発明に係るコンクリート着色方法は、建物や構造物に用いられるコンクリートの表面に前述したフェノール性化合物(化合物P1)並びに、接着剤及び増粘剤のうち少なくとも一方を含むコンクリート着色剤を付着させることで、コンクリートの表面及びその表面近傍に化合物P1を付着させ、コンクリート表面を着色するものである。ここで、コンクリート着色剤を「付着させる」とは、「塗布する」、「含浸させる」及び「転写する」を含む用語である。
以下、本発明に係るコンクリート着色方法の2つの実施形態について説明する。
【0063】
(第一実施形態)
図1は、本実施形態のコンクリート着色方法を用いて製造される化粧コンクリート3を示す模式図である。化粧コンクリート3は、建物や構造物を構成するコンクリート部材4(コンクリート)の化粧面4a(表面)に木材様の色を発する化合物P1及び接着剤若しくは増粘剤を含むコンクリート着色剤が塗布されたものである。コンクリート着色剤は、化粧面4aから一定の厚み寸法内側のコンクリート部材4にも浸透している。コンクリート部材4において、化粧面4a及びその表面から一定の厚み寸法内側の化合物P1が含浸された部分を、着色層4dと称する。着色層4dの厚み寸法は、一例として400μm程度である。
【0064】
さらに、化粧面4aには、化合物P1が浸透した着色層4dとともに、木調(木材の様な)の凹凸パターンが形成されている。この木調の凹凸によって、化粧コンクリート3からは、木材特有の美観性やぬくもりがより一層醸し出されている。
以下、第一実施形態の化粧コンクリート3の製造方法を説明する。
【0065】
<コンクリート部材4の形成>
先ず、
図2に示すように、コンクリート部材4の大きさに合致した型枠10を組み立てる。この際、型枠10の底板として、木調の凹凸パターンが施されたゴム製の型枠10を内側に向けて設置する。型枠10の側板としては、底板と同様のゴム製型枠14を用いてもよく、木(木材)、鋼或いはゴムよりも硬質なプラスチックからなる型枠材を用いてもよい。また、型枠10の底板は必ずしもゴム製である必要はなく、相形状を有するゴム製以外の、木材、セラミックス、ガラス、金属等から構成されていてもよい。
【0066】
ここで、「相形状」とは、打設するコンクリートの化粧面に所望の凹凸を付与することが可能な凸凹形状を意味する。例えば、木材様の凹凸を有する底板を使用した場合、その底板に接して打設されたコンクリートの表面には、底板が有する凹凸が反転された凸凹を転写して、木材様の凸凹を有する化粧面を形成することができる。
【0067】
本実施例においては型枠の底板14にのみ相形状を有する場合を説明しているが、型枠10の側板にも相形状が施されていてもよい。この場合、打設時のコンクリート部材4の底面(脱型後におけるコンクリート部材4の上面)のみならず、側面にも相形状が反転された凸凹を転写して、例えば木材様の凹凸を有する化粧面を形成することができる。なお、型枠の底板14が相形状を有さず、型枠10の側板のみに相形状が有ってもよい。
【0068】
次に、コンクリート12を型枠10内へ打設する前に、コンクリート打設面(コンクリート12が接する面)である底板14にコンクリート着色剤を塗布する。塗布する方法は特に制限されず、均一に塗布する観点から、例えば刷毛又はローラーで塗布する方法が好ましい。この際、着色剤には接着剤又は増粘剤が含まれているため、底板14のゴム製の相形状表面に均一にムラなく塗布することができる。仮に接着剤又は増粘剤を含まない着色剤を使用した場合、ゴム表面が着色剤を弾いてしまい、均一にムラなく塗布することは困難である。
【0069】
続いて、
図3に示すように、型枠10内にコンクリート部材4を構成するコンクリート12を打設し、固化(硬化)させる。コンクリート打設前に、予め打設面に塗布した着色剤を乾燥させてもよいし、乾燥させなくてもよい。着色剤が完全に乾燥する前にコンクリート12を打設したとしても、着色剤に含まれる接着剤又は増粘剤が当該着色剤を底板14の打設面に保持しているため、コンクリート12の打設によって着色剤が打設面から流出することが防止されている。
【0070】
打設するコンクリートの種類は特に制限されず、例えば、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカフュームプレミックスセメント等が挙げられる。また、コンクリート12の材齢は、使用したコンクリート12の種類、コンクリート部材4に必要とされる強度、仕上がり後の化粧コンクリート3の色合い等を勘案して適宜設定することが好ましい。
【0071】
コンクリート12の固化後に型枠10を脱型することによって、コンクリート部材4が製造される。型枠10のゴム製型枠(底板)14に接していたコンクリート12の表面12pに木調の凹凸パターンが転写され、その表面がコンクリート部材4の化粧面4aとなる。
【0072】
本実施形態においては、コンクリート12の打設前に予め着色剤を打設面である底板14に塗布しておくことにより、底板14に接するコンクリート12の表面12pに木調の凹凸パターンと同時に、着色剤に含まれる化合物P1がコンクリート12の表面12pに転写される。このため、脱型直後にコンクリート部材4の化粧面4aにコンクリート着色剤が塗布(付着)された状態となり、脱型後にコンクリート部材4の表面を改めて着色する工程は不要となる。
【0073】
コンクリート部材4の化粧面4a(表層部)をアルカリ性に保つことによって、好ましくはpH10以上に保つことによって、タンニンやリグニン等の化合物P1の発色を濃く保つことができる。コンクリートは本来的にはアルカリ性であるため、前記表層部が空気中の二酸化炭素によって中性化されないように、クリア(透明皮膜)で前記表層部を被覆しておくことにより、前記表層部をアルカリ性に維持することができる。これにより、着色層4dの色彩変化を抑えることができる。
【0074】
クリアを塗布するタイミングとしては、コンクリート着色剤からなる着色層4dが乾燥した後が好ましい。着色層4dの色彩変化(乾燥材齢の経過に伴う退色)を抑えるために、コンクリート12の打設完了時を乾燥材齢0日として、好ましくは乾燥材齢7日以内に、より好ましくはコンクリート着色剤の塗布後3〜5日以内に、クリアを塗布することが好ましい。
【0075】
本実施形態のコンクリート着色方法によれば、コンクリート着色剤に含まれる化合物P1をコンクリート表面に付着又は浸透させることによって、コンクリート部材4の化粧面4aを容易且つ安定的に、木材が有する自然調の色合いに着色し、コンクリートから醸し出される美観性やぬくもりを高めることが可能となる。
【0076】
更に、本実施形態のコンクリート着色方法によれば、相形状を有する底板14を使用した型枠10にコンクリート12を打設してコンクリート部材4を形成することによって、コンクリート部材4の化粧面4aに木材特有の凹凸パターンを形成し、化粧コンクリート3から醸し出される美観性やぬくもりをより一層高めることが可能となる。
【0077】
なお、本実施形態の変形例として、底板14に着色剤を予め塗布せずにコンクリート12を打設し、固化させて脱型した後に、コンクリート部材の表面に着色剤を塗布することにより、相形状を有する表面を含めた所望のコンクリート表面に着色する方法も挙げられる。
【0078】
(第二実施形態)
本実施形態のコンクリート着色方法を用いて製造される化粧コンクリート2は、
図4に示すように、コンクリート部材4の化粧面4a(表面)にコンクリート着色剤が塗布されたものである。以下、
図4に示す化粧コンクリート2の構成要素のうち、第一実施形態の化粧コンクリート3と同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
以下、第二実施形態の化粧コンクリート2の製造方法を説明する。
【0079】
<コンクリート部材4の形成>
先ず、
図5に示すように、コンクリート部材4の大きさに合致した木製合板、鋼、或いは樹脂等からなる型枠10を組み立てる。
図5に示した矩形の型枠10は一例であり、他の形状であってもよい。次に、型枠10内にコンクリート部材4を構成するコンクリート12を打設し、固化させる。コンクリート12の材齢は、使用したコンクリート12の種類、コンクリート部材4に必要とされる強度、仕上がり後の化粧コンクリート2の色合い等を勘案して適宜設定することが好ましい。この後、型枠10を脱型することによって、コンクリート部材4が製造される。
【0080】
<コンクリート部材4の着色>
続いて、
図6に示すように、コンクリート部材4の化粧面4aに前述したコンクリート着色剤13を塗布する。なお、高濃度のリグニンはコンクリート12の固化を抑制する場合があるため、コンクリート着色剤13に含まれるリグニンの量はコンクリート12の固化が阻害されない程度であることが好ましい。
【0081】
コンクリート部材4の化粧面4aにコンクリート着色剤13を塗布する方法は特に限定されない。例えば、刷毛等を用いてコンクリート部材4の化粧面4aにコンクリート着色剤13を塗る方法を採用することができる。次に、化粧面4aに塗布したコンクリート着色剤13を乾燥させる。また、コンクリート部材4の化粧面4aの色彩変化を抑える点では、塗布したコンクリート着色剤13の乾燥後、好ましくは7日以内に、コンクリート部材4の化粧面4a(すなわち乾燥させたコンクリート着色剤13の上)に、クリアを塗布することが好ましい。以上の工程により、化粧コンクリート2が完成する。
【0082】
本実施形態のコンクリート着色方法によれば、コンクリート部材4の化粧面4aにコンクリート着色剤13を塗布し、化合物P1をコンクリート表面に付着又は浸透させることによって、コンクリート部材4の化粧面4aを容易且つ安定的に、木材が有する自然調の色合いに着色し、化粧コンクリート2から醸し出される美観性やぬくもりを高めることが可能となる。さらに、コンクリート着色剤には接着剤又は増粘剤が含有されているため、塗布した着色剤が完全に乾燥する前に、コンクリート表面の凹凸の影響を受けて液ダレしたり、色ムラが発生したりすることを防止し、均一にムラなく着色することができる。
【0083】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変更が可能である。
【実施例】
【0084】
次に、本発明を以下の実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0085】
[実施例1]
先ず、縦300mm×横100mmのゴム製の木目模様の凹凸を有する(相形状を有する)板を底板として、この底板に合わせた木製の板を側板として、型枠を組み上げた。
また、コンクリート着色剤として、その総質量に対して10質量%のリグニン(フローソック社製)および2.0質量%の増粘剤(信越化学工業株式会社製、METOLOSE(水溶性セルロースエーテル))を含有する水溶液を調製した。
続いて、型枠のコンクリート打設面に上記水溶液を塗布して、乾燥した後、普通コンクリート(水/セメント比=50質量%)を打設した。このコンクリートを乾燥材齢1日で脱型して、目的のコンクリート部材を得た。このコンクリート部材の相形状に対応する凸凹が形成された着色面は、少し色ムラが観察される部位もあるが、全体としては概ね均一に着色できたので、使用可能な着色状態(△)であると評価した。
【0086】
[実施例2]
実施例1で使用した増粘剤を、コンクリート着色剤の総量に対して80質量%の合成系接着剤(コニシ株式会社製、酢酸ビニル樹脂系、エマルジョンタイプ)に変更した以外は、実施例1と同様に着色したコンクリート部材を作製した。得られたコンクリート部材の着色面は、色ムラは殆どなく、全面に渡って均一に着色できたので、良好な着色状態(○)であると評価した。
【0087】
[実施例3]
実施例1で使用したリグニンを10質量%のタンニン酸(和光純薬工業株式会社製)に変更するとともに、実施例1で使用した増粘剤を、コンクリート着色剤の総量に対して60質量%の天然系接着剤(ヤマト株式会社製、デンプン糊)に変更した以外は、実施例1と同様に着色したコンクリート部材を作製した。得られたコンクリート部材の着色面は、全面に渡って均一に色ムラ無く着色できたので、美しく優秀な着色状態(◎)であると評価した。
【0088】
[実施例4]
実施例3で使用した天然系接着剤を、80質量%の合成系接着剤(株式会社タイルメント製、エポキシ樹脂系EP-1000)に変更した以外は、実施例3と同様に着色したコンクリート部材を作製した。得られたコンクリート部材の着色面は、全面に渡って均一に色ムラ無く着色できたので、美しく優秀な着色状態(◎)であると評価した。
【0089】
[実施例5]
実施例4で使用した合成系接着剤を、80質量%の合成系接着剤(株式会社タイルメント製、アクリル樹脂系アクアフロアーボンド)に変更した以外は、実施例4と同様に着色したコンクリート部材を作製した。得られたコンクリート部材の着色面は、全面に渡って均一に色ムラ無く着色できたので、美しく優秀な着色状態(◎)であると評価した。また、実施例4の場合よりも脱型が容易であった。
【0090】
[実施例6]
実施例4で使用した合成系接着剤を、80質量%の合成系接着剤(コニシ株式会社製、酢酸ビニル樹脂系、エマルジョンタイプ)に変更した以外は、実施例4と同様に着色したコンクリート部材を作製した。得られたコンクリート部材の着色面は、全面に渡って均一に色ムラ無く着色できたので、美しく優秀な着色状態(◎)であると評価した。また、実施例5の場合よりも脱型が更に容易であった。
【0091】
[比較例1]
着色剤を調製する際に、増粘剤及び接着剤を使用しなかった以外は実施例1と同様に着色したコンクリート部材を作製した。即ち、接着剤又は増粘剤を含まないコンクリート着色剤を使用した。得られたコンクリート部材の着色面は、全体として看過できない程度に目立つ色ムラが多くあったので、不良な着色状態(×)であると評価した。
【0092】
上記で試験した実施例及び比較例の構成及び評価結果を以下の表に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
上記試験の他、色材として、スギ等の木材片から抽出したフェノール性化合物を使用したところ、リグニン、タンニン酸を使用した場合と同様に、コンクリート表面を木材の風合いで均一にムラなく着色することができた。
【0095】
(参考実験)
タンニン酸水溶液に硫酸鉄を溶解したところ、タンニン酸水溶液の色が淡褐色から濃褐色へ変化したことを認めた。同様に、没食子酸水溶液に硫酸鉄を溶解したところ、没食子酸水溶液の色が淡褐色から濃褐色に変化したことを認めた。この色の変化は、水溶液中で各化合物及び/又はその加水分解物と、鉄イオンとの錯体が形成されたためであると考えられる。