【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前述の観点から、TiとAlの複合炭窒化物(以下、「(Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)」あるいは「TiAlCN」で示すことがある)からなる硬質被覆層を化学蒸着で被覆形成した被覆工具の耐チッピング性、耐摩耗性の改善をはかるべく、鋭意研究を重ねた結果、次のような知見を得た。
【0011】
WC基超硬合金、TiCN基サーメットまたはcBN基超高圧焼結体のいずれかで構成された基体の表面に、熱CVD法等の化学蒸着法により成膜されたTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含む表面被覆切削工具であって、該TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層は、組成式:(Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める平均含有割合X
aveおよびCのCとNの合量に占める平均含有割合Y
ave(但し、X
ave、Y
aveはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦X
ave≦0.95、0≦Y
ave≦0.005を満足し、前記複合窒化物または複合炭窒化物層の層中に含有される塩素の平均塩素含有量は、0.1〜0.5原子%であり、前記複合窒化物または複合炭窒化物層について、該層の縦断面方向から観察した場合、立方晶構造の結晶粒からなる柱状組織を有し、個々の立方晶構造の結晶粒の平均粒子幅Wが0.1〜2μm、平均アスペクト比Aが2〜10であり、前記複合窒化物または複合炭窒化物層の立方晶構造の結晶粒からなる柱状組織の粒界部に六方晶構造を有する微粒結晶粒が存在し、該微粒結晶粒の平均粒径Rは0.01〜0.3μmであり、立方晶構造の結晶粒および立方晶構造の結晶粒からなる柱状組織の粒界部に六方晶構造を有する微粒結晶粒に対して透過型電子顕微鏡(TEM,Transmission− Electron−Microscope)を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)による組成分析を行い、各々のAlに対する塩素のピーク強度比に関して、六方晶構造を有する微粒結晶粒の該ピーク強度比Ihの立方晶構造の結晶粒の該ピーク強度比Icに対する比Ih/Icが5より大きく、好ましくは、前記複合窒化物または複合炭窒化物層において、立方晶構造の結晶粒および立方晶構造の結晶粒からなる柱状組織の粒界部に六方晶構造を有する微粒結晶粒に対して透過型電子顕微鏡を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)による組成分析を行い、微粒六方晶結晶粒における含有塩素量Clh
aveが1.0〜3.0原子%である場合に、硬質被覆層がすぐれた靭性、潤滑性を備え、高速断続切削加工等に供した場合に、硬質被覆層がすぐれた耐チッピング性、耐摩耗性を発揮することを見出した。
【0012】
したがって、前述のような硬質被覆層を備えた被覆工具を、例えば、合金鋼、鋳鉄等の高速断続切削等に用いた場合には、チッピング、欠損、剥離等の発生が抑えられるとともに、長期の使用に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮することができる。
【0013】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「(1) 炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体の表面に、硬質被覆層を設けた表面被覆切削工具において、
(a)前記硬質被覆層は、化学蒸着法により成膜された平均層厚1〜20μmのTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層を少なくとも含み、組成式:(Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)で表した場合、AlのTiとAlの合量に占める含有割合X
aveおよびCのCとNの合量に占める含有割合Y
ave(但し、X
ave、Y
aveはいずれも原子比)が、それぞれ、0.60≦X
ave≦0.95、0≦Y
ave≦0.005を満足し、
(b)前記複合窒化物または複合炭窒化物層の層中に含有される平均塩素含有量は、0.1〜0.5原子%であり、
(c)前記複合窒化物または複合炭窒化物層について該層断面側から観察した場合、複合窒化物または複合炭窒化物層は、立方晶構造の結晶粒からなる柱状組織を有し、個々の立方晶構造の結晶粒の平均粒子幅Wが0.1〜2μm、平均アスペクト比Aが2〜10であり、
(d)前記複合窒化物または複合炭窒化物層には、立方晶構造の結晶粒からなる柱状組織の粒界部に六方晶構造を有する微粒結晶粒が存在し、該微粒結晶粒の平均粒径Rは0.01〜0.3μmであり、
(e)前記複合窒化物または複合炭窒化物層中の立方晶構造の結晶粒および立方晶構造の結晶粒からなる柱状組織の粒界部に六方晶構造を有する微粒結晶粒に対して透過型電子顕微鏡を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)による組成分析を行い、各々のAlに対する塩素のピーク強度比に関して、六方晶構造を有する微粒結晶粒の該ピーク強度比Ihが立方晶構造の結晶粒の該ピーク強度比Icに対する比Ih/Icが5より大きいことを特徴とする表面被覆切削工具。
(2) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層において、前記複合窒化物または複合炭窒化物層中の立方晶構造の結晶粒および立方晶構造の結晶粒からなる柱状組織の粒界部に六方晶構造を有する微粒結晶粒に対して透過型電子顕微鏡を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)による組成分析を行い、微粒六方晶結晶粒における含有塩素量Clh
avgが1.0〜3.0原子%であることを特徴とする前記(1)に記載の表面被覆切削工具。
(3) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層に存在する六方晶構造を有する微粒結晶粒が硬質被膜層に占める割合が30面積%以下であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の表面被覆切削工具。
(4) 前記炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体と、前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の間に、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上からなり、かつ、0.1〜20μmの合計平均層厚を有するTi化合物層を含む下部層が存在することを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(5) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層の上部に、少なくとも1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を含む上部層が存在することを特徴とする前記(1)乃至(4)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。
(6) 前記複合窒化物または複合炭窒化物層は、少なくとも、トリメチルアルミニウムを反応ガス成分として含有する化学蒸着法により成膜されたものであることを特徴とする前記(1)乃至(5)のいずれかに記載の表面被覆切削工具。」
に特徴を有するものである。
【0014】
つぎに、本発明の被覆工具の硬質被覆層について、より具体的に説明する。
【0015】
硬質被覆層の平均層厚:
本発明における硬質被覆層は、その平均層厚が1μm未満では、長期の使用に亘っての耐摩耗性を十分確保することができず、一方、その平均層厚が20μmを越えると、高熱発生を伴う高速断続切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となる。したがって、その平均層厚は1〜20μmとすることが好ましく、より好ましくは1〜10μmとする。
また、炭化タングステン基超硬合金、炭窒化チタン基サーメットまたは立方晶窒化ホウ素基超高圧焼結体のいずれかで構成された工具基体とTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層の間に形成するTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層の平均合計層厚に関しては、0.1μm未満では層厚が薄いため、長期の使用に亘って耐摩耗性が確保されず、一方、平均層厚が20μmより大きくなると、工具基体およびTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層との付着強度が低下し、耐剥離性が低下するため、その平均層厚は0.1〜20μmとするのが望ましい。
上部層として、酸化アルミニウム層を含む場合、酸化アルミニウム層の合計平均層厚が1μm未満であると、層厚が薄いため長期の使用に亘って耐摩耗性が確保されず、25μmを超えると結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなることから、酸化アルミニウム層を含む上部層の層厚は、1〜25μmとすることが望ましい。
【0016】
TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層((Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)層)の組成:
本発明の硬質被覆層の主たる層を構成する(Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)層は、Alの含有割合X
ave(原子比)の値が0.60未満になると、高温硬さが不足し耐摩耗性が低下するようになり、一方、X
ave(原子比)の値が0.95を超えると、相対的なTi含有割合の減少により、(Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)層自体の高温強度が低下し、チッピング、欠損を発生しやすくなる。したがって、Alの含有割合X
ave(原子比)の値は、0.60以上0.95以下とすることが必要である。
また、前記(Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)層において、C成分には硬さを向上させ、一方、N成分には高温強度を向上させる作用があるが、C成分の含有割合Y
ave(原子比)が0.005を超えると、高温強度が低下する。したがって、C成分の含有割合Y
ave(原子比)は、0≦Y
ave≦0.005と定めた。
【0017】
なお、通常、物理蒸着法によって前記組成、即ち、Alの含有割合X
ave(原子比)が0.60以上0.95以下の(Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)層を成膜した場合は、結晶構造は六方晶構造となる。
しかし、本発明では、後述する化学蒸着法によって成膜していることから、立方晶構造を維持し、かつ、柱状組織を有する前述したような組成の(Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)層を得ることができ、これにより、硬質被覆層の高い耐摩耗性を確保することができる。
【0018】
TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層((Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)層)に含有される塩素の平均含有量:
本発明のTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層((Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)層)は、層中に、平均塩素含有量0.1〜0.5原子%の塩素を含有するが、含有する塩素量が微量である場合に限り、層の靭性を低下させずに潤滑性を高めることができる。しかし、平均塩素含有量が0.1原子%未満であると潤滑性向上効果は少なく、一方、平均塩素含有量が0.5原子%を超えると、耐チッピング性が低下することから、平均塩素含有量は0.1〜0.5原子%とする。
なお、
図1に本発明の硬質被覆層の縦断面の概略模式図を示すが、本発明の硬質被覆層は、立方晶構造の柱状組織結晶粒と、該柱状組織結晶粒の粒界部に存在する六方晶構造の微粒結晶を有するが、該立方晶構造の結晶粒および立方晶構造の結晶粒からなる柱状組織の粒界部に六方晶構造を有する微粒結晶粒に対して透過型電子顕微鏡を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)による組成分析を行い、各々のAlに対する塩素のピーク強度比に関して、六方晶構造を有する微粒結晶粒の該ピーク強度比Ihの立方晶構造の結晶粒の該ピーク強度比Icに対する比Ih/Icが5より大きい場合には、柱状立方晶結晶粒の硬さを損なうことなく、柱状立方晶の粒界に存在する微粒六方晶結晶粒の靱性が高くなるため、硬質被覆層の耐チッピング性を向上させることができる。
さらに、好ましくは立方晶構造の柱状組織結晶粒と立方晶構造の結晶粒からなる柱状組織の粒界部に六方晶構造を有する微粒結晶粒に対して透過型電子顕微鏡を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)による組成分析を行ったとき、微粒六方晶結晶粒における含有塩素量Clh
aveが1.0〜3.0原子%である場合、柱状組織立方晶結晶粒界面に存在する微粒六方晶結晶粒が耐チッピング性が低下することなく、潤滑性を向上させることができる。
【0019】
TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層((Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)層)内の柱状組織を有する立方晶構造の結晶粒の平均粒子幅W、平均アスペクト比A:
本発明の硬質被覆層は、TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層((Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)層)内の柱状組織を有する立方晶構造の結晶粒の平均粒子幅Wが0.1〜2μm、平均アスペクト比Aが2〜10となる柱状組織となるように構成する。
すなわち、柱状組織を有する立方晶構造の結晶粒の平均粒子幅Wを0.1〜2μmとしたのは、0.1μm未満では、被覆層表面に露出した原子におけるTiAlCN結晶粒界に属する原子の占める割合が相対的に大きくなることにより、被削材との反応性が増し、その結果、耐摩耗性を十分に発揮することができず、また、2μmを超えると被覆層全体におけるTiAlCN結晶粒界に属する原子の占める割合が相対的に小さくなることにより、靭性が低下し、耐チッピング性を十分に発揮することができなくなる。
したがって、柱状組織を有する立方晶構造の結晶粒の平均粒子幅Wは0.1〜2μmとする。
なお、本発明でいう平均粒子幅Wとは、走査型電子顕微鏡を用い被覆層の縦断面観察を行った際に硬質被覆層の層厚の半分の箇所において基体表面と平行な線を少なくとも100μm描き、その平行線の線分長を該平行線と交差する結晶粒界の数で除した数として定義される。
また、柱状組織を有する立方晶構造の結晶粒の平均アスペクト比Aが2未満の場合、十分な柱状組織となっていないため、アスペクト比の小さな等軸結晶の脱落を招き、その結果、十分な耐摩耗性を発揮することができない。一方、平均アスペクト比Wが10を超えると結晶粒そのものの強度を保つ事が出来ず、かえって、耐チッピング性が低下するため好ましくない。
したがって、柱状組織を有する立方晶構造の結晶粒の平均アスペクト比Aは2〜10とする。
なお、本発明では、平均アスペクト比Aとは、走査型電子顕微鏡を用い、幅100μm、高さが硬質被覆層全体を含む範囲で硬質被覆層の縦断面観察を行った際に、各結晶粒について粒子径の最も長い長さを長軸とし該長軸の長さおよび前記長軸と直交する方向の最大長さを求め、長軸の長さを長軸と直交する方向の最大長さで除することにより、各結晶粒のアスペクト比を算出し、更に各結晶粒の面積を重みとしアスペクト比の加重平均として算出した値として定義される。
【0020】
TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層((Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)層)内の立方晶構造の結晶粒からなる柱状組織の粒界部に存在する六方晶構造を有する微粒結晶粒の平均粒径R:
本発明の硬質被膜層(Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)層について、電子線後方散乱回折装置を用いて個々の結晶粒の結晶方位を、硬質被覆層の縦断面方向から解析した場合、立方晶結晶格子の電子後方散乱回折像が観測される立方晶結晶相と六方晶結晶格子の電子後方散乱回折像が観測される。
そして、六方晶結晶相は、立方晶構造の結晶粒からなる柱状組織の粒界部に、六方晶構造を有する微粒結晶粒として形成されるが、柱状組織の粒界部に存在する六方晶構造を有する微粒結晶粒は、粒界滑りを抑制し、靭性を向上させる。
ただし、六方晶構造を有する微粒結晶粒の平均粒径Rが0.01μm未満であると靱性向上の効果が少なく、一方、平均粒径Rが0.3μmを超えると、硬さが低下し、耐摩耗性が損なわれるため、立方晶構造の結晶粒からなる柱状組織の粒界部に存在する六方晶構造を有する微粒結晶粒の平均粒径Rは0.01〜0.3μmとする。
また、立方晶構造の結晶粒からなる柱状組織の粒界部に形成される、六方晶構造を有する微粒結晶粒が硬質被膜層に占める割合に関して、30面積%を超えると相対的にNaCl型の面心立方構造の結晶相の割合が減少するため硬さが低下し好ましくない。
なお、電子線後方散乱回折装置を用いて、TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層からなる硬質被覆層の工具基体に垂直な方向の断面を研磨面とした状態で、電界放出型走査電子顕微鏡の鏡筒内にセットし、前記研磨面に70度の入射角度で15kVの加速電圧の電子線を1nAの照射電流で、前記断面研磨面の測定範囲内に存在する結晶粒個々に照射し、工具基体と水平方向に長さ100μm、工具基体表面と垂直な方向の断面に沿って膜厚以下の距離の測定範囲内に亘り硬質被覆層について0.01μm/stepの間隔で、電子線後方散乱回折像を測定し、個々の結晶粒の結晶構造を解析することでNaCl型の面心立方構造を有する結晶粒からなる柱状組織の粒界部に存在する微粒結晶粒が六方晶構造であることを同定し、その微粒結晶粒の占める面積割合を求めることができる。さらに微粒結晶粒の平均粒径Rは、微結晶粒が見出される柱状組織の粒界のうち、0.5μm以上の粒界長さを有する部位を複数の観察視野から3ヶ所見出し、おのおの0.5μmの線分上に存在する粒界数を数え上げて、1.5μmを3か所での合計粒界数で割ることにより得る事が出来る。
【0021】
下部層および上部層:
本発明は、工具基体と前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層((Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)層)の間に、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなり、かつ、0.1〜20μmの合計平均層厚を有する下部層を設けた場合、あるいは、前記TiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層((Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)層)の上部に、1〜25μmの平均層厚を有する酸化アルミニウム層を含む上部層を設けた場合には、これらの層が奏する効果と相俟って、一層すぐれた特性を創出することができる。
Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上のTi化合物層からなる下部層を設ける場合、下部層の合計平均層厚が0.1μm未満では、下部層の効果が十分に奏されず、一方、20μmを超えると結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなることから、下部層の合計平均層厚は、0.1〜20μmとすることが望ましい。
また、酸化アルミニウム層を含む上部層の平均層厚が1μm未満では、上部層の効果が十分に奏されず、一方、25μmを超えると結晶粒が粗大化し易くなり、チッピングを発生しやすくなることから、上部層の平均層厚は1〜25μmとすることが望ましい。
【0022】
硬質被覆層の成膜:
本発明のTiとAlの複合窒化物または複合炭窒化物層((Ti
1−xAl
x)(C
yN
1−y)層)は、例えば、工具基体表面上に、もしくは、通常の化学蒸着法によって成膜したTiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1層または2層以上を含む下部層表面上に、以下のような、AlおよびTi原料ガス量を多くし、または、N
2量を多くした反応ガス中で化学蒸着することによって成膜することができる。また、Al(CH
3)
3 を添加することによってCを膜中に含有させることができるとともにClを含まないAlの供給源ともなり、膜中の含有塩素量を制御しながら、Alを増加させることができる。
反応ガス組成(容量%):
TiCl
4 1.0〜2.5%、 Al(CH
3)
3 0〜1%、 AlCl
3 2〜6%、 NH
3 2〜6%、N
2 13〜20%、 Ar 0〜3%、 残り:H
2、
反応雰囲気温度: 700〜800℃、
反応雰囲気圧力: 2〜5kPa、