(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
タッチパネルは、指やペンなどの指示体を用いて指し示された位置座標又は指し示す動作の有無を検出する装置であり、現在は、通常、液晶表示装置(Liquid Crystal Display、LCD)やプラズマ表示装置(Plasma Display Panel、PDP)、有機ELディスプレイ等の表示装置と組み合わせて用いられる。
【0003】
タッチパネルの出力を計算機に入力し、計算機によって表示装置の表示内容を制御したり、機器を制御したりすることにより、使い勝手の良いヒューマン・インターフェイスが実現される。現在、タッチパネルは、ゲーム機、携帯情報端末、券売機、現金自動預け払い機(ATM)、カーナビゲーション等、日常生活において広く利用されている。また、計算機の高性能化及びネットワーク接続環境の普及に伴い、電子機器によって供給されるサービスが多様化し、タッチパネルを備えた表示装置に対するニーズが拡大し続けている。
【0004】
タッチパネルの一方式として、表面容量式のタッチパネルがある。表面容量式のタッチパネルは(イ)面抵抗体と、(ロ)該面抵抗体に接続され、該面抵抗体に、励振として交流電圧(正弦波電圧)を印加し、該面抵抗体に流れる電流を測定し出力する、駆動・検出回路とから構成される。
【0005】
詳しくは、表面容量式のタッチパネルは透明基板とその表面に形成された、透明な面抵抗体と、その上面に形成された薄い絶縁膜とで構成される。この面抵抗体を、位置検出導電膜と呼ぶ。この方式のタッチパネルを駆動する際、位置検出導電膜の4隅に交流電圧を印加する。指または指示棒等(以下指等)でタッチパネルを触れると、位置検出導電膜と指等との静電容量結合によってキャパシタが形成される。このキャパシタを介して、指等に微小電流が流れる。この電流は、位置検出導電膜のそれぞれの隅から指等がタッチした点に流れる。駆動・検出回路により検出された電流に基づいて、信号処理回路が指等のタッチの有無と指等のタッチ位置の座標を計算する。具体的には、信号処理回路は位置検出導電膜の4隅の電流の和に基づいて、タッチの有無を検出する。また、位置検出導電膜の4隅の電流の比に基づいて、タッチ位置の座標を計算する。
【0006】
このような表面容量式の動作原理に基づくタッチパネルが特許文献1〜5に開示されている。
【0007】
特許文献1は、表示パネルとタッチパネルとを組み合わせて動作させるときに、表示パネルの駆動信号による位置検出精度の低下を防止するために、表示パネルの非表示期間中にタッチパネルに交流電圧を印加するとともに、表示パネルの対向電極に対して同じ交流電圧を印加する対向電極駆動手段を備えている。
【0008】
また、特許文献2は、「ノイズが大きいときはAC電圧振動レベルを大きくし、ノイズが少ないときにはAC電圧振動レベルを小さくし、特定周波数ノイズの場合は別の電圧振動周波数に切り替えることにより安全性を確保し、S/N比が良くなり耐ノイズ性に優れ、且つ電気的に安全なタッチパネル装置」が示されている。
【0009】
加えて、特許文献3では、「指がパネルへタッチしたときの位相及びAC電圧を接触ベクトル信号として、前記両信号の位相差と振幅より、余弦定理を用いて算出したスカラー量を本来の指がタッチしたAC信号として、前記タッチ位置を検出するに当たり、指が前記面抵抗体の近くに無い時の寄生信号による前記AC電圧や、容量性接地人体や抵抗性接地人体の指による前記信号の位相差を排除する」ことが記載されている。
【0010】
続いて、特許文献4は、「演算回路は、ロングセンサ線LSLiの出力と、ショートセンサ線SSLiの出力を入力し、その差分(Delta)と配線容量比Kcを用いた演算により信号成分Sを求める」ことが開示されている。
【0011】
一方、特許文献5には、「これらの4箇所のノードは、それぞれNa、Nb、Nc、Ndの記号が付されている。これらのノードには、後述する電流検出回路の各端子が接続される」ことが開示され、また、「ノードNa〜Ndには、電流検出回路13a〜13dを介して、単極双投スイッチ21a〜21dを接続する。単極双投スイッチ21a〜21dの2接点の一方には交流電圧源22を接続し、他方(すなわち、
図4でCOMと記載されたノード)には蓄積容量線駆動回路を接続する。交流電圧の波形は、一例として、正弦波を利用することができる。」と記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以下の分析は、本発明者によってなされたものである。特許文献1に記載されたタッチパネルには次の五点の課題を有している。
【0014】
第一の課題は、外来ノイズ(電界の変化、静電容量結合性のノイズ)に弱いことである。特許文献1では、表示パネルの駆動信号による位置検出精度の低下を防止するとされているものの、表示パネルの駆動信号以外に由来する外来ノイズ、例えば、タッチパネルのタッチする面の上方に配置された、インバータ回路を含んでなる蛍光灯から発せられるノイズに対して、影響を受けやすい。
【0015】
理由の一つは、タッチパネルの動作原理に基づくものである。つまり、表面容量式のタッチパネルは、位置検出導電膜と指との間に形成されるキャパシタの静電容量を検出するものであるため、位置検出導電膜と指との間に、電磁界をシールドするためのシールド電極を形成することができないことである。このため、位置検出導電膜のタッチされる面は、外来ノイズに対して無防備な構造にならざるを得ない。そして、タッチパネルの寸法が大きくなるにつれて、外来ノイズの影響を受けやすくなる。
【0016】
別の理由は、ノイズ源が増えているからである。例えば、チラツキを低減させるために開発されたインバータ式蛍光灯が市場に受け入れられ、その数が増加していることが挙げられる。あるいは、携帯機器用の充電器やACアダプタにおいて、電源電圧の変換効率を高めるために開発されたスイッチング電源が多く採用されるようになってきたことが挙げられる。これらの機器から生じるノイズは、静電容量を検出する機器の正常動作を妨げる。
【0017】
第二の課題は、タッチパネルの励振周波数とノイズの周波数とが一致する場合、若しくは近傍の場合、バンドパスフィルタではノイズを除去できないことである。
【0018】
上記で例示したノイズの基本周波数あるいは、その高調波の周波数は、タッチパネルの励振周波数と一致する、またはその近傍である。一方、特許文献1に記載がある同期検波回路は、励振周波数と異なる周波数のノイズを除去するためにフィルタリングを行うとされている。よって、このように、観測信号を周波数で分解、選択する手法では、励振周波数とノイズの周波数が一致した場合ノイズを除去することができない。
【0019】
また、ノイズの周波数が励振周波数の近傍の場合、バンドパスフィルタの通過域と阻止域との間に存在する減衰域(あるいは遷移域)を通して、ノイズが混入してしまう。つまり、実現可能なフィルタはその周波数分解能に一定の限度を有すため、励振周波数の近傍の周波数のノイズを除去できない。
【0020】
第三の課題は、タッチ検出動作期間が、非表示期間(非アドレス期間)等に限定される場合、周波数分能が低下し、真の信号の周波数近傍のノイズが除去できないことである。例えば、ペリオドグラムスペクトル推定法の場合、対象信号が振幅の等しい2つの正弦波信号からなる場合、
【0021】
【数1】
T:信号取得期間
となるスペクトルピークを分離できるとされる。
【0022】
この場合、信号取得期間Tが500マイクロ秒のとき、Δfは2kHzであり、真の信号を100kHz、ノイズを99kHzとした場合、両者を周波数で分解することはできないと考えられる。
【0023】
第四の課題は、平均化によるノイズ除去効果が低下し、S/Nが低下する。例えばポアソン分布の雑音が重畳された観測信号を多数回取得し、平均化により、ノイズを相殺してノイズを低減化させる場合、ノイズの低減量は取得回数の平方根に比例するとされることである。つまり、信号取得期間が非表示期間(非アドレス期間)等の短時間に制限される場合、平均化によるノイズ除去効果が低下し、S/Nが低下する。
【0024】
第五の課題は、本願出願人が特願2009−163401号で示したように、位置検出導電膜と指との間に、偏光板が存在するという構造を適用する場合、位置検出導電膜と指との間で形成される静電容量が小さくなり、S/Nが低下することである。また、位置検出導電膜と指との間に保護ガラス等を挿入した場合、同様にS/Nが低下する。
【0025】
そこで、信号の周波数とノイズの周波数が同一、あるいは、従来の周波数分解能では分解できない程度近傍のノイズを除去し、タッチの有無やタッチ位置を精度良く検出することができる電子機器、静電容量センサ及びタッチパネルを提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
前記の課題を解決するために本発明に係る電子機器120は、センサシステム101と間欠的な正弦波信号を生成し、該センサシステムに与える励振生成部102と、該センサシステムの出力である振幅変調信号を復調する復調部105と、を含み、該復調部は、該励振生成部が正弦波を出力した期間の該センサシステムの応答x
1(t)と、少なくともその直前直後どちらか一方の、該励振生成部が正弦波を出力していない期間の該センサシステムの応答z
1(t)との両者を用いて、復調信号D(t)を生成する。
【0027】
また、本発明の電子機器は、該励振生成部が正弦波を出力した期間の該センサシステムの応答から算出される、該正弦波の周波数成分の振幅と位相から求まるベクトルをXとし、該励振生成部が正弦波を出力していない期間の該センサシステムの応答から算出される、該正弦波の周波数成分の振幅と位相から求まるベクトルをNとしたとき、該復調信号は、|X−N|の定数倍とされる復調部を更に有する。
【0028】
さらに、本発明の電子機器は、該励振生成部が正弦波を出力した期間の該センサシステムの応答から算出される、該正弦波の周波数成分の振幅と位相から求まるベクトルをXとし、その直前および直後の該励振生成部が正弦波を出力していない期間の該センサシステムの応答から算出される該正弦波の周波数成分の振幅と位相から求まるベクトルをそれぞれ、Y、Zとしたとき、該復調信号は、|X−M|の定数倍、ただしMはYとZとの平均ベクトル、とされる復調部を更に有する。
【0029】
一方、前記の課題を解決するために本発明に係る静電容量センサは、該電子機器を含んで構成され、面抵抗体と、該面抵抗体に接続された、該面抵抗体に電圧を印加し、該面抵抗体に流れる電流を測定し出力する駆動・検出回路とから構成されるセンサシステムとを有し、該面抵抗体と指示体とで形成されるキャパシタの静電容量を検出することで、指示体のタッチ状態もしくは座標を検出する。
【0030】
また、本発明の静電容量センサは、該電子機器を含んで構成され、さらに、表示装置を含み構成され、該表示装置の非アドレス期間に、該励振生成部が正弦波を出力する期間と、正弦波を出力しない期間とを有し、該正弦波を出力した期間の該センサシステムの応答と、該正弦波を出力しない期間の該センサシステムの応答との両者を用いて、復調信号を生成する。
【0031】
一方、前記の課題を解決するために本発明に係るタッチパネルは、該電子機器を含んで構成され、面抵抗体と、該面抵抗体に接続された、該面抵抗体に電圧を印加し、該面抵抗体に流れる電流を測定し出力する駆動・検出回路とから構成されるセンサシステムとを有し、該面抵抗体と指示体とで形成されるキャパシタの静電容量を検出することで、指示体のタッチ状態もしくは座標を検出する。
【0032】
また、本発明のタッチパネルは、該電子機器を含んで構成され、さらに、表示装置を含み構成され、該表示装置の非アドレス期間に、該励振生成部が正弦波を出力する期間と、正弦波を出力しない期間とを有し、該正弦波を出力した期間の該センサシステムの応答と、該正弦波を出力しない期間の該センサシステムの応答との両者を用いて、復調信号を生成する。
【0033】
さらに、前記の課題を解決するために本発明に係る電子機器は、演算増幅器と、該演算増幅器の出力端子と反転入力端子との間に接続された抵抗器と、該演算増幅器の反転入力端子に接続された導体と、間欠的な正弦波信号を生成し、該演算増幅器の非反転入力端子に与える励振生成部と、を有する、該導体の静電容量を検出する電子機器であって、該演算増幅器の出力である振幅変調信号を復調する復調部、を含み、該復調部は、該励振生成部が正弦波を出力した期間の該電子機器の応答と、少なくともその直前直後どちらか一方の、該励振生成部が正弦波を出力していない期間の該電子機器の応答との両者を用いて、復調信号を生成する。
【0034】
なお、本明細書において静電容量センサについては、タッチセンサを含むものとする。
【0035】
また、本明細書および請求項において、励振生成部は正弦波を出力する、と記載しているが、この場合の出力は、単一周波数の正弦波に限定されるものではないことを注意しておく。全ての信号は、異なる周波数の正弦波の級数としてあらわすことができる(フーリエ級数展開)。つまり、励振生成部が、例えば矩形波を出力する場合、この矩形波は、異なる周波数の正弦波の級数である。この場合、この矩形波の基本周波数の正弦波に着目して、信号処理し、復調信号を得ればよい。このように、励振生成部が矩形波を出力する場合であっても、本発明に含まれる。同様な理由により、励振生成部が、いかなる交流を出力する場合であっても、本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0036】
本発明に係る電子機器、静電容量センサ、タッチセンサ及びタッチパネルを実施することにより、以下の五点の効果を得ることができる。
【0037】
第一の効果は、正弦波を停波してノイズを取得するので、指の有無(タッチの有無)に関わらず、正確にノイズを取得できることである。
【0038】
第二の効果は、正弦波を停波して取得した「ノイズ」の信号処理経路と、正弦波を与えて取得した「真の信号+ノイズ」の信号処理経路とは同一であるため、正確にノイズを取得できることである。
【0039】
第三の効果は、「真の信号+ノイズ」と「ノイズ」とのベクトルどうしの減算を行うため、真の信号とノイズとが同一の周波数であっても、真の信号を正確に求めることができることである。
【0040】
第四の効果は、前方ノイズ(励振生成部が正弦波を出力する前の停波時に取得したノイズ)と後方ノイズ(励振生成部が正弦波を出力した後の停波時に取得したノイズ)の平均ベクトルを使うことで、周波数分解能を超越して真の信号の近傍周波数のノイズを除去することができることである。
【0041】
第五の効果は、前方ノイズと後方ノイズの平均ベクトルを使うことで、ノイズの振幅が変動した場合でも、精度よくノイズを除去できることである。
【0042】
本発明は、上記五点の効果により、外来ノイズに強く、S/Nの高いタッチパネル及び電子機器を提供することを可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0044】
(実施形態1)
本発明の静電容量センサについて説明する。一般的な静電容量センサは、背景技術で示したタッチパネルの機能から、位置の検出の機能を省くことで、その機能が実現される。位置の検出機能が省かれるため、面抵抗体の代わりに面導体、もしくは単に導体を用いることが可能である。
【0045】
(構成)
図2に本発明の静電容量センサ100のブロック図を、
図1に、本発明の静電容量センサを抽象化した、本発明の電子機器120のブロック図を示す。
図2に示す静電容量センサ100は、図に記載したキャパシタC
inの静電容量を検出するように構成されている。この静電容量センサは、キャパシタC
inの静電容量及び励振を入力とし、キャパシタC
inの静電容量に応じた信号を出力するセンサシステム101と、該励振を生成する励振生成部102と、励振生成部に接続された正弦波生成部103と、直流生成部104とを有する。センサシステムの出力は復調部105に入力され、この復調部により復調信号が生成される。
【0046】
励振生成部は間欠的な正弦波信号を生成する。間欠的な正弦波信号を生成する手段は、
図2で例示したように、正弦波生成部103と、直流生成部104とを有し、これらを切り替える手段がある。しかし、この手段に限定されるものではない。他の手段として、例えば、DAコンバータを用いて、このDAコンバータに与えるデジタル信号が、間欠的な正弦波を離散化した信号であってもよい。
【0047】
センサシステムは、演算増幅器110と、その帰還路に挿入された抵抗R
fと、キャパシタC
fとで構成され、さらに、演算増幅器110の出力電圧と励振電圧とを減算する加算器111を備える。
【0048】
この演算増幅器110を理想オペアンプと仮定し、センサシステム101に入力する励振の電圧をV
1、センサシステムの出力電圧をV
2とすると、このセンサシステムの周波数応答H(jω)は、図から求まる回路方程式を解くことで、次式となる。
【0049】
【数2】
ここで、ωは励振の角周波数、jは虚数単位をあらわす。
上式より、このセンサシステムの振幅応答|H(jω)|は、
【0051】
数式3に示すように、このセンサシステム101の出力の振幅は、キャパシタC
inの静電容量に比例する。
【0052】
また、このセンサシステムの出力は、その周波数が励振の周波数と一致し、その振幅は、キャパシタC
inの静電容量に応じて変化するので、このセンサシステムは振幅変調システムということができる。
【0053】
図2を抽象化すると
図1のように表される。ここでセンサシステムの入力S(t)は、電圧や電流といった電気信号のみならず、この実施形態で示したように静電容量とすることもできる。
【0054】
(動作)
図3を参照し、本発明の静電容量センサの動作について説明する。
【0055】
励振生成部102は、
図3の一番上の波形すなわち励振生成部出力電圧に示すように、間欠的な正弦波電圧を生成する。これをセンサシステム101に励振として供給する。この例では、正弦波の周波数を100kHzとする。センサシステムはこの励振およびキャパシタC
inの静電容量に応答して、
図3の2番目の波形すなわち、センサシステム出力電圧に示すように、電圧f(t)を出力する。励振生成部102が正弦波を出力している期間のセンサシステムの応答を、図のように、x
1(t),x
2(t)とし、励振生成部が停波の期間のセンサシステムの出力電圧をz
1(t),z
2(t)とする。
【0056】
数式3によると、励振生成部が停波の期間のセンサシステムの出力電圧の振幅はゼロとなる。しかし、実際はノイズが混入し、ゼロとならない。タッチセンサやタッチパネルなどの多くの場合、
図2に示したキャパシタC
inの静電容量は、指示体(指)と面抵抗体とで形成されるキャパシタの静電容量であり、キャパシタC
inの一部を構成する面抵抗体には外来ノイズ(電界の変化、静電容量結合性のノイズ)が容易に混入する。
図3においてz
1(t),z
2(t)がゼロでない理由は、このノイズの影響をあらわしているからである。外来ノイズが定常的な場合、励振が正弦波であるか、あるいは停波(DC)であるかにかかわらず外来ノイズが混入するため、x
1(t),x
2(t)にも、ノイズは混入している。つまり、x
1(t),x
2(t)には、真の信号にノイズの加わった信号(真の信号+ノイズ)が、z
1(t),z
2(t)にはノイズのみが現れている。
【0057】
発明者らが見出した重要なことは、z
1(t),z
2(t)は、キャパシタC
inの静電容量に依存せず、外来ノイズをあらわすことである。つまり、タッチセンサやタッチパネルの場合、指示体である指の有無に関わらず、ノイズのみが現れることである。この理由は、指と位置検出導電膜とで形成されるキャパシタC
inのインピーダンスが、センサシステムのインピーダンスに対して十分高いため、位置検出導電膜に混入したノイズは、指の有無に関わらず、電流としてセンサシステムに流入するからである。
【0058】
そして、励振生成部が正弦波を出力している期間のセンサシステム出力電圧に混入しているノイズと、その前後の励振生成部が停波している期間のセンサシステム出力電圧に混入しているノイズとに相関が認められたことである。
【0059】
復調部105はセンサシステム101の出力信号を受け上記特徴を活かして、ノイズを除去する。真の信号+ノイズを含む観測信号x
1(t)と、ノイズをのみ含む観測信号z
1(t)から、x
1(t)の真の信号、ここではx
1(t)の真の信号の振幅を求める例について説明する。
【0060】
復調部105では、センサシステム出力電圧f(t)から、時間間隔Δtごとに周期的に信号値を読み出し、離散時間信号f(iΔt),i∈Z(Z:整数の集合)に変換する。x
1(t)をこのようにサンプリングしてx
1(iΔt),i=0,1,2,・・・N−1を、z
1(t)をサンプリングしてz
1(iΔt),i=0,1,2,・・・Q−1を得る。
【0061】
x
1(iΔt)の離散フーリエ変換Dkのうち、励振の正弦波の周波数である100kHzに対応するDkをX
1とすれば、
【0062】
【数4】
jは虚数単位、Nはサンプル数、と、複素数X
1を求めることができる。複素数X
1は、ベクトルX
1≡(Re{X
1},Im{X
1})、Re{X
1}は複素数X
1の実部,Im{X
1}は複素数X
1の虚部と記述でき、2次元ベクトルX
1で表現することもできる。そしてこれらは同値である。
【0063】
同様に、z
1(iΔt)の離散フーリエ変換Dkのうち、正弦波の周波数である100kHzに対応するDkをZ
1とすれば、
【0064】
【数5】
jは虚数単位、Qはサンプル数、と、複素数Z
1を求めることができる。複素数Z
1は、ベクトルZ
1≡(Re{Z
1},Im{Z
1})と、2次元ベクトルZ
1で表現することもできる。そしてこれらは同値である。
【0065】
次に、観測信号x
1(t)に含まれるノイズの100kHzの成分は、観測信号z
1(t)の100kHzの成分と同じであると仮定して、ベクトルX
1−ベクトルZ
1を計算する。そして、その大きさである|X
1−Z
1|をx
1(t)の真の信号の振幅として、復調信号D(t)とし、復調部の出力とする。
【0066】
観測信号のモデルを用いて、上記で説明した復調部の動作を具体的数値を当てはめながら説明する。
【0067】
観測信号のモデルを
図4に示す。観測信号のモデルをf(t)と表すと、f(t)は、2V振幅の真の信号(V
sig)と1V振幅のノイズ(V
noise)を加算した、次の信号である。
【0070】
【数8】
Δt=0.1マイクロ秒としてサンプリングし、f(t)をf(aΔt)、a=0,1,2,・・・4999と離散化した。
【0071】
x
1(iΔt),z
1(iΔt)は
図4内に示す信号とした。また、x
1(iΔt)の長さ(時間)、すなわちt
1’−t
1は、後に100kHzの成分を抽出することを考慮すると、100kHzの周期の整数倍、すなわちn x 10マイクロ秒、nは正の整数、とすることが望ましい。
【0072】
具体的には、x
1(iΔt)、i=0〜1999をf(aΔt)、a=1000〜2999、とし、t
1’−t
1を200マイクロ秒(n=20)とした。
【0073】
また、z
1(iΔt)の開始時刻t
2は、t
1+m x 10μsec、mは正の整数、とすることが望ましく、さらに、z
1(t)の長さ(時間)、すなわちt
2’−t
2は、100kHzの周期の整数倍、すなわちw x 10マイクロ秒、wは正の整数とすることが望ましい。
【0074】
具体的には、z
1(iΔt)、i=0〜1999をf(aΔt)、a=3000〜4999とし、t
2=t
1+200マイクロ秒(m=20)、t
2’−t
2を200マイクロ秒(w=20)とした。
【0075】
X
1,Z
1を計算すると、次の結果が得られた。
【0077】
【数10】
上の複素数をベクトルと捉え、ベクトルX
1、ベクトルZ
1、および、ベクトルX
1−ベクトルZ
1を複素平面上にプロットすると、
図5のようになる。
【0078】
ベクトルX
1−ベクトルZ
1の大きさは図のとおり1.0であり、ここで、
図5の各ベクトルの大きさは、100kHzの信号の振幅の1/2であることに注意すると、ベクトルX
1−ベクトルZ
1により、真の信号の振幅が2Vであることが算出された。一方、算出されたx
1(iΔt)の振幅である2x|X
1|(1.5V)および算出されたz
1(iΔt)の振幅である2x|Z
1|(1.0V)といった振幅の情報のみに基づいて、真の信号の振幅(2V)を導出することは困難である。
【0079】
このx
1(iΔt)の振幅(1.5V)およびz
1(iΔt)の振幅(1.0V)は、x
1(iΔt)、z
1(iΔt)それぞれの信号の100kHz成分の振幅を求めたことと等価である。つまり、従来の周波数分離を用いたノイズ除去のみでは真の信号の振幅を求めることはできない。
【0080】
上記では、x
1(iΔt)、z
1(iΔt)からX
1、Z
1を算出し、|X
1−Z
1|を計算することで、復調信号D(t)の一つの値を求める例を示した。D(t)の次の値については、
図3に示すように、x
2(t)、z
2(t)からX
2、Z
2を算出し、|X
2−Z
2|を計算する。以降のD(t)の値についても同様に計算することで復調信号D(t)を求める。
【0081】
作用、効果は2つ存在し、第一の効果は、正弦波を停波してノイズを取得するので、指の有無に関わらず、あるいは指の有無が変化した場合や、指の押し圧が変化してキャパシタC
inの静電容量が変化した場合であっても、正確にノイズを取得できることである。
【0082】
また、第二の効果は「真の信号+ノイズ」と「ノイズ」とのベクトルどうしの減算を行うため、真の信号とノイズとが同一周波数であっても、真の信号を正確に求めることができることである。
【0083】
(実施形態2)
実施形態1では、観測信号x
1(iΔt)の真の信号の振幅を求めるために観測信号z
1(iΔt)を利用した。すなわち、観測信号x
1(iΔt)の時間的に後に観測したノイズz
1(iΔt)を利用して、ノイズを除去した。この実施形態2では、観測信号x
1(iΔt)の前後のノイズを利用して観測信号x
1(iΔt)の真の信号の振幅を求める形態について、復調部の動作を中心に説明する。
【0084】
図6に復調部105の入力信号を離散化した観測信号のモデルf(aΔt)、a=0,1,2,・・・、Δt=0.4マイクロ秒を示す。
【0085】
f(aΔt)は振幅1Vの真の信号(V
sig)と、時間経過に比例して振幅が変化する99kHzのノイズ(V
noise)を加算したものである。これを数式で示すと次のとおり。
【0088】
【数13】
y(iΔt)、x(iΔt)、z(iΔt)はそれぞれ、f(aΔt)から次のように切り出した信号とした。
【0089】
y(iΔt)、i=0〜399をf(aΔt)、a=3800〜4199、としx(iΔt)、i=0〜1624をf(aΔt)、a=4250〜5874、としz(iΔt)、i=0〜299をf(aΔt)、a=6000〜6299、とした。
【0090】
ここで、便宜的にy(iΔt)に前方ノイズ、z(iΔt)に後方ノイズと名づけた。
【0091】
復調部では、実施形態1同様な手法を用いて、観測信号y(iΔt),z(iΔt)から、複素数Y
m,Z
mを次の式で求める。
【0093】
【数15】
Δtはサンプリング周期,jは虚数単位。
【0094】
ここで求めたベクトルY
m,Z
mを
図7内に模式的に示した。
【0095】
次にベクトルY
m,ベクトルZ
mから、時刻t
1及び時刻t
1’のノイズベクトルY,Zを推測する。推測法は次の通りである。時刻が(t
0+t
0’)/2のときのノイズベクトルをY
m、時刻が(t
2+t
2’)/2のときのノイズベクトルをZ
m、とする。
【0096】
Y
mからZ
mへと、時間に比例してベクトルの振幅と位相が変化すると近似し、時刻t
1及び時刻t
1’のノイズベクトルY,Zを得る。
図7にY
m,Z
mとY、Zの関係を模式的に示した。
【0097】
次にベクトルY、Zからこれらの平均ベクトルMを算出する。平均ベクトルMの算出について
図8を参照して説明する。
【0098】
ベクトル表現と複素数表現とは前述のとおり同値であり、複素数でMの算出式を表すと次の通りとなる。
【0099】
【数16】
ここで、Tは
図6のt
1’−t
1、A
S,θ
SはベクトルYの振幅と位相、A
E,θ
EはベクトルZの振幅と位相をあらわす。
図9(a)に、
図6のモデル信号から、上記にしたがって求めたY、Z及びMを示す。
【0100】
つぎに、実施形態1と同様にXを求めて、X−Mを演算する。Xは次の式で表示される。
【0101】
【数17】
ここで、Δtはサンプリング周期,jは虚数単位で計算される。
【0102】
図6のx(iΔt)から求めたXおよび、先に求めたM、そしてX−Mを
図9(b)に示す。
【0103】
図9(b)より|X−M|は0.5であり、この値は真の信号の振幅の1/2の値を表すことに注意すると、真の信号の振幅1.0Vが正しく求められることが確認された。つまり、励振の周波数100kHzにきわめて近い99kHzというノイズが混入した場合でも、正確にノイズが除去されることが示された。
【0104】
また、一般に、今回のx(iΔt)のように、信号取得期間が制限される場合、周波数分解能が低下して、真の信号の周波数近傍のノイズが除去できない。一方、本実施形態で示したとおり、x(iΔt)の前方のノイズy(iΔt)と後方のノイズz(iΔt)を利用することで、周波数分解能を超越して、近傍周波数のノイズを除去することができた。
【0105】
さらに、本実施形態で示したように、ノイズの振幅が時間に依存する場合であっても、平均ベクトルMを使うことで、精度良くノイズを除去することができる。
【0106】
(作用・効果)
作用効果として以下の2つが挙げられる。
【0107】
第一に前方ノイズと後方ノイズから計算される平均ベクトルを使うことで、周波数分解能を超越して近傍周波数のノイズを除去することができることである。
【0108】
第二に前方ノイズと後方ノイズから計算される平均ベクトルを使うことで、ノイズの振幅が変動した場合でも、精度よくノイズを除去できることである。
【実施例】
【0109】
本発明の静電容量式タッチパネルについて説明する。
【0110】
(構成)
図10に本発明の静電容量式タッチパネル130の構成を示す。
図10に示すタッチパネルは、指と面抵抗体131との間に形成されるキャパシタC
inの静電容量を利用して、タッチの有無とタッチ位置とを検出する。
【0111】
面抵抗体131は、ITO(Indium−tin−oxide)膜を利用した。該ITO膜は図示しないガラス基板上に、一様なシート抵抗値、ここでは800オームを有するベタ膜である。このITO膜上に、絶縁体、ここでは、液晶表示装置を構成するために用いられる偏光板132を、酸を含まない糊を用いて貼り付けた。
【0112】
ITO膜131の4隅に、配線を接続する。各配線は
図10に示すように4つのセンサシステム101へ接続される。センサシステムの構成は実施形態1のそれと同様である。4つのセンサシステムには、励振生成部102の出力電圧が入力され、各センサシステムの出力は、復調部105(復調部0〜復調部3)に与えられる。
【0113】
復調部の出力は、図示しない、信号処理回路を含むブロックへ伝えられ、この信号処理回路を含むブロックで、復調部の出力値に基づき、タッチの有無とタッチ位置とを算出する。
【0114】
(動作)
図11を参照して、本発明の静電容量式タッチパネルの動作を説明する。
【0115】
本発明の静電容量式タッチパネルは、液晶表示装置(LCD)の表示面上に配設され、LCDの駆動ノイズを避けるように駆動される。
【0116】
図11の非アドレス明示信号は、LCDの非アドレス期間を明示する信号で、非アドレス期間にハイレベルとされる信号である。ここで、非アドレス期間とは、LCDの走査線が走査されていない期間を指し、最後の走査線の選択が終了した後以降、最初の走査線が選択される前までの期間を指す。
【0117】
本発明の駆動の特徴の一つは、非アドレス期間中に、励振に正弦波を与えてタッチを検出する期間(t
1〜t
1’)を有すとともに、正弦波を停波し、ノイズを取得する期間(t
0〜t
0’およびt
2〜t
2’)を有することである。
【0118】
非アドレス期間中にノイズを取得することで、このノイズには外来ノイズが含まれる一方、LCDの駆動のノイズが含まれないこととなる。この結果、タッチを検出する期間(t
1〜t
1’)に混入するノイズを精度よく推定し、除去することが可能となる。
【0119】
励振生成部102は、
図11の上から2番目の波形に示すように、間欠的な正弦波電圧を生成する。これをセンサシステムの励振とする。
図11の励振生成部出力電圧を得るために、励振生成部には、周波数が100kHzで振幅が1.5V
pp(1.5ボルトピークツーピーク)の正弦波が、正弦波生成部103により与えられ、また、DC=1.2VのDC電圧が直流生成部104により与えられる。そして、励振生成部はオフセットが1.2Vで、周波数が100kHz、振幅が1.5V
ppの間欠的な正弦波電圧を出力する。正弦波が停波している期間はDC=1.2Vの電圧を出力する。
【0120】
励振生成部で生成された電圧は、4つのセンサシステム101 −ここでは、便宜的にch0のセンサシステム、ch1のセンサシステム、ch2のセンサシステム、ch3のセンサシステムと区別する− に与えられる。励振生成部102で生成された電圧は、センサシステム内の演算増幅器110の非反転入力端子に与えられ、この電圧は、演算増幅器のイマジナリーショート動作によって、反転入力端子に現れる。すなわち、励振生成部102が周波数100kHz、振幅1.5V
ppの電圧を出力すると、ITO131に周波数100kHz、振幅1.5V
ppの電圧が印加される。
【0121】
キャパシタC
inの静電容量が形成されると、各センサシステムから、指の位置に応じて決まるコンダクタンスG0〜G3およびキャパシタC
inを介して、人体へと交流電流がながれる。
【0122】
各センサシステムの出力は、この交流電流の大きさに応じて振幅が決まる、間欠的な正弦波電圧にノイズが重畳したものである。センサシステムのうち、ch1のセンサシステムを代表に選び、その出力電圧をf
1(t)として
図11に示した。
【0123】
復調部105について、ch1を例にその動作を説明する。
【0124】
ch1の復調部105bは、ch1のセンサシステムの出力電圧f
1(t)のうち、
図11に示すようにy
n(t),x
n(t),z
n(t),nは整数、の信号を利用して、x
n(t)の真の信号の振幅D
1(t)を出力する。
【0125】
復調部105bでは、センサシステムの出力電圧f
1(t)をサンプリング間隔Δt=0.4マイクロ秒でサンプリングし、f
1(aΔt)、aはサンプル番号で整数、を得る。
【0126】
x
1(iΔt)、y
1(iΔt)、z
1(iΔt)はそれぞれ、f
1(aΔt)から次のように切り出した信号とした。y
1(iΔt)、i=0〜399をf(aΔt)、a=3801〜4200、としx
1(iΔt)、i=0〜1624をf(aΔt)、a=4251〜5875、としz
1(iΔt)、i=0〜399をf(aΔt)、a=6001〜6400、とした。
【0127】
本実施例では、ノイズの位相の回転を正確に推測するため、y
1(t)およびz
1(t)に対応する期間をそれぞれ4つのセグメント分割し、セグメントごとに100kHz成分のベクトルを算出する。
【0128】
具体的には、次の式18〜式25に示される。
【0129】
【数18】
【0130】
【数19】
【0131】
【数20】
【0132】
【数21】
【0133】
【数22】
【0134】
【数23】
【0135】
【数24】
【0136】
【数25】
つぎに、前方ノイズ、後方ノイズの振幅と位相を求める。
【0137】
振幅は次のように、まず、セグメントの平均値を計算する。前方ノイズの振幅|Y
m|および後方ノイズの振幅|Z
m|は、それぞれ、
【0138】
【数26】
【0139】
【数27】
位相は、まず、数式18から数式25で得られた結果から、次の通り、各セグメントの位相を計算する。
【0140】
angle[Y
1,1]、angle[Y
1,2]、angle[Y
1,3]、angle[Y
1,4]、および、angle[Z
1,1]、angle[Z
1,2]、angle[Z
1,3]、angle[Z
1,4]、ここでangle[Y
1,1]はY
1,1の位相を示す。
【0141】
上で計算される位相は±πの範囲に制限されている。このままでは、位相の推測に都合が悪いので、適宜2nπ、nは整数、の加算をして、位相を滑らかにつなげる。
【0142】
この操作は、実際に蛍光灯のインバータ回路の外来ノイズが混入したセンサシステム出力の100kHz成分の位相の推移を見ると理解しやすい。
【0143】
図12に、本発明の静電容量式タッチパネルを、蛍光灯のインバータ回路の近くで駆動した際の波形を示す。一番上がITOの電圧、2番目がch1のセンサシステム出力をサンプリングした波形、3番目が、100サンプルを1セグメントとしたときの、各セグメントから計算される100kHzの振幅、一番下のグラフが、100サンプルを1セグメントとしたときの、各セグメントから計算される100kHzの位相を示している。一番下のグラフは±πの範囲に制限された位相に2nπ、nは整数、の加算をして、位相を滑らかにつなげた結果である。
【0144】
この結果より、位相の変化は滑らかであり、適宜2nπ、nは整数、の加算をして、位相を滑らかにつなぐことが可能なことがわかる。
【0145】
また、前方ノイズから得た4つの位相angle[Y
1,1]、angle[Y
1,2]、angle[Y
1,3]、angle[Y
1,4]の傾きと、後方ノイズから得たangle[Z
1,1]、angle[Z
1,2]、angle[Z
1,3]、angle[Z
1,4]を利用することで、前方ノイズから後方ノイズに至る過程で位相がどちらの方向に、どれだけ回転したか推測する。
【0146】
位相について、上記2つの処理、すなわち、±πの範囲の制限を外す処理と、前方ノイズと後方ノイズの位相の傾きから、回転方向と量を推測する処理とを行った後の位相を、angle[Y
1,1]’、angle[Y
1,2]’、angle[Y
1,3]’、angle[Y
1,4]’およびangle[Z
1,1]’、angle[Z
1,2]’、angle[Z
1,3]’、angle[Z
1,4]’とし、前方ノイズの位相angle[Y
m]および後方ノイズの位相angle[Z
m]を、それぞれ、次の通り計算する。
【0147】
【数28】
【0148】
【数29】
なお、
図12の上から3番目のグラフにより、前方ノイズと後方ノイズとを直線でつなぐ近似で、x(t)の期間に混入しているノイズの振幅も推測可能であることも分かる。
【0149】
上記で求めた|Y
m|とangle[Y
m]によりベクトルY
mが、|Z
m|とangle[Z
m]によりベクトルZ
mがそれぞれ決まる。
【0150】
次に、実施形態2で述べた手順にしたがって、Y
m, Z
mから、時刻t
1及び時刻t
1’のノイズベクトルY,Zを推測する。
【0151】
続いて、実施形態2で述べた手順にしたがって、ベクトルY、Zからこれらの平均ベクトルM
1を算出する。
【0152】
さらに、ベクトルX
1をもとめて、X
1−M
1を演算する。Xは以下の式で示される。
【0153】
【数30】
ここで、Δtはサンプリング周期,jは虚数単位で計算される。
ベクトルX
1−M
1の大きさ|X
1−M
1|は復調部105bの出力D
1(t)として、
図11に示すように出力される。
【0154】
次の非アドレス期間においても、
図11に示すように、y
2(t),x
2(t),z
2(t)から|X
2−M
2|を計算し、復調部の出力とする。
【0155】
以降、同様にy
n(t),x
n(t),z
n(t)から|X
n−M
n|を計算し、復調部の出力とする。
【0156】
つぎに、上で説明した、センサシステムの出力電圧f
1(t)から、Y
1,1,Y
1,2,Y
1,3,・・・,X
1,・・・,Z
1,3,Z
1,4を得るための信号処理部のブロック図を、
図13を参照して説明する。
【0157】
図13のセンサシステム101の出力f(t)が
図10を用いて説明したセンサシステムの出力電圧f
1(t)に対応する。f(t)はサンプラ140に供給され、時間間隔Δt=0.4マイクロ秒ごとの離散時間信号f(aΔt)、a=0,1,2・・・、に変換される。f(aΔt)は、2つの乗算器(乗算器I 141a、乗算器Q 141b)に入力される。乗算器I 141aは、f(aΔt)とcos(ωaΔt)、a=0,1,2,3・・・、ω=2π100kHz、とを逐次乗算し、その結果を時間間隔Δtごとに逐次出力する。同様に乗算器Q 141bは、f(aΔt)とsin(ωaΔt)、a=0,1,2,3・・・、ω=2π100kHz、とを逐次乗算し、その結果を時間間隔Δtごとに逐次出力する。
【0158】
乗算器Iのcos(ωaΔt)は、正弦波生成部103の出力を利用し、乗算器Qのsin(ωaΔt)は、正弦波生成部の出力を−90度の移相器145を通すことで変換した信号を利用する。
【0159】
乗算器I 141a、乗算器Q 141bの出力は、それぞれ、積算器I 142a、積算器Q 142bに入力され、積算器は制御器146によって与えられる制御信号がアクティブの期間に入力される信号を加算する。
【0160】
例えばY
1,1を求めるために、f(aΔt)のaの値が3801〜3900の期間、制御器は積算器にアクティブ信号をあたえる。これによって、積算器I 142aは、
【0161】
【数31】
を計算する。つまり、数式17で示したY
1,1の実部の100倍の値が計算される。
【0162】
所定の期間積算された信号は、それぞれレジスタI 143a、レジスタQ 143bに取り込まれ、レジスタに接続された乗算器144により、1/N倍(Nは積算したサンプル数)される。
【0163】
この処理を経ることで、乗算器I 144aは、Y
1,1,Y
1,2,Y
1,3,・・・,X
1,・・・,Z
1,3,Z
1,4の実部、すなわち、Re{Y
1,1},Re{Y
1,2},Re{Y
1,3},・・・,Re{X
1},・・・,Re{Z
1,3},Re{Z
1,4}の値を順次出力し、乗算器Q 144bはY
1,1,Y
1,2,Y
1,3,・・・,X
1,・・・,Z
1,3,Z
1,4、の虚部の−1倍、すなわち、−Im{Y
1,1},−Im{Y
1,2},−Im{Y
1,3},・・・,−Im{X
1},・・・,−Im{Z
1,3},−Im{Z
1,4}、の値を順次出力する。
【0164】
これらの値は、順次、図示しない計算機に入力され、大きさと位相とが計算される。
【0165】
つぎに、本発明を用いた場合と従来、すなわち、周波数分離のみを用いたノイズ除去との実験結果について説明する。
【0166】
実験の構成は、
図10のタッチパネルを準備し、このタッチパネルの上方30cmに、インバータ式蛍光灯のインバータ回路を配置した。センサシステムの出力を観察すると、明らかにインバータ回路からのノイズが混入されている。
【0167】
測定は、およそ10秒間おこない、測定開始から約5秒後に、タッチパネル中央を指でタッチした。実験結果を
図14に示す。
【0168】
図14(b)は本発明を利用した場合の実験結果であって、D1(t)の出力である|Xn−Mn|の一つを1点としてプロットし、653点のプロットを直線でつないだものである。
【0169】
一方、
図14(a)は、周波数分離のみを用いたノイズ除去の実験結果であり、具体的には励振が100kHzの正弦波の期間のセンサシステムの出力信号の100kHz成分の振幅を、|Xn−0|で求めたものである。
【0170】
本発明の実施により、タッチ有無での信号差の大きさを信号S、タッチなしでの標準偏差をノイズN、とすれば、従来のS/N=1.36に対し、本発明では3.87と9dBのS/N向上が確認された。