【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)刊行物名:2012年 半導体電力変換 自動車 家電・民生合同研究会 講演予稿集(講演番号:SPC−12−182) (2)発行者名:社団法人電気学会 (3)発行年月日:平成24年12月6日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
図10は、交流電機システムの一例を示す概念図である。
図10において、10は、インバータやコンバータのように交流電力を制御可能な電力変換器、20は、交流電動機や交流発電機、交流電源等の交流電機である。
この交流電機システムでは、電力変換器10による電力変換動作、及び、交流電機20による電動機動作、発電機動作等により、電力変換器10と交流電機20との間で交流電力を授受している。
上記構成において、交流電機20にはリアクタンス成分が存在し、電力変換器10と交流電機20との間のケーブルにもリアクタンス成分が存在する。また、ケーブルの途中に接続された部品としてのリアクトルやフィルタにもリアクタンス成分が存在する。
図10において、30は、交流電機20を除いた上記ケーブルやリアクトル、フィルタ等によるリアクタンス成分を示す。
【0003】
次に、
図11は、
図10の具体例を示す概念図である。
図11において、11は三相の電力変換器としてのフルブリッジ型の電圧形インバータ、111〜116はインバータ11を構成する半導体スイッチング素子、21は交流電機としての交流電動機、40は電源(直流電源)、50はインバータ11の直流電圧部に接続されたコンデンサ(以下、主コンデンサという)である。
【0004】
この交流電機システムにおいては、インバータ11のスイッチング素子111〜116をオン・オフして交流電動機21に供給する三相(U,V,W相)の交流電力を制御することにより、交流電動機21の発生トルクや回転速度を調整することができる。
この種の交流電機システムは公知であるため、回路の構成や動作についての詳細な説明は省略する。
【0005】
上述した交流電機システムでは、電力変換器10の運転を停止する際に問題が生じる。すなわち、
図10における交流電機20やリアクタンス成分30の有する電磁エネルギーが、電力変換器10を停止する際に電力変換器10に流入するという問題である。
図11の交流電機システムを例示して説明すれば、インバータ11の運転停止時、すなわち、インバータ11の全てのスイッチング素子111〜116をオフした際に、交流電動機21の有する電磁エネルギーがインバータ11に流入することにより、次のような問題が生じる。
【0006】
まず、交流電動機21側からインバータ11内の還流ダイオードを介して電磁エネルギーが流入することにより、直流電圧部の主コンデンサ50の電圧が上昇し、その電圧が主コンデンサ50やスイッチング素子111〜116の耐圧を超えると、これらの部品が破損する。この問題を回避するには、主コンデンサ50の静電容量を増大させる、主コンデンサ50やスイッチング素子111〜116の耐圧を高める、等の対策が有効であるが、いずれもコスト、体積、発生損失の増大等を伴う。
【0007】
これに対し、主コンデンサ50と並列に半導体スイッチング素子と抵抗との直列接続回路(ダイナミックブレーキ回路)を付加し、主コンデンサ50に印加される電圧が過大になった場合にダイナミックブレーキ回路を動作させて主コンデンサ50の電圧上昇を抑える方法がある。しかし、この方法も、ダイナミックブレーキ回路を付加することによるコストや体積の増大が避けられない。特に、電流通流時に電力変換器の運転を停止するのは非常時のみという場合が多く、そのためだけにダイナミックブレーキ回路を設けることは著しく不経済である。
【0008】
次に、交流電動機21が、例えば永久磁石型同期電動機(Permanent Magnet Synchronous Motor:PMSM、以下、PMモータともいう)である場合、電動機の高速回転時には無負荷誘起電圧(誘導起電力)が直流電圧部の電圧よりも高くなることがあり、その場合には電力変換器10の停止後も直流電圧部に電流が流れ続ける。特に、直流電圧部に電源40としてバッテリーが接続されている場合には、直流電圧部に流入する電流が過大になるとバッテリーが破損することがある。
【0009】
この場合、直流電圧部への流入電流が過大になる状態から脱するために、バッテリーと電力変換器10との間に直流スイッチを設け、この直流スイッチを遮断することが考えられる。しかし、上記の直流スイッチを遮断したとしても、交流電機(この例では交流電動機21としてのPMモータ)に電流が流れているときには、やはりリアクタンス成分30の有する電磁エネルギーが主コンデンサ50に流入する結果、主コンデンサ50に過電圧が印加されることになる。
また、交流電機システムを構成する電力変換器10としては、
図11に示したインバータ11以外にも、例えばマトリクスコンバータのように、電流を双方向に通流、遮断可能な複数の半導体スイッチング素子が交流電機20に接続される場合がある。このマトリクスコンバータにおいて、スイッチング素子をオフさせて何れの方向にも電流が流れ得ない状態にすると、リアクタンス成分の有する電磁エネルギーが行き場を失う結果、過大な電圧がスイッチング素子に瞬時に印加され、スイッチング素子を破損してしまうおそれがある。
【0010】
また、
図11の構成において、インバータ11の運転停止後に、インバータ11側から電源40に電流を流し込めない場合に問題が生じる。
例えば、
図12に示すように、電源40がバッテリー41と直流リレーのリレー接点(以下、直流スイッチという)42とによって構成されている場合に、インバータ11の運転停止と同時に直流スイッチ42がオフされると、交流電動機21からの回生電力による電流を、インバータ11の還流ダイオードを介してバッテリー41に流し込むことができなくなり、結果として主コンデンサ50に過電圧が印加される。
【0011】
上記の問題を解決する方法として、下記の従来技術が公知になっている。
例えば、特許文献1に記載された従来技術では、回路の主スイッチ(
図12における直流スイッチ42に相当)が何らかの理由で開放されたとき、インバータの上アームまたは下アームのスイッチング素子を全てオン状態としてモータの固定子巻線を短絡させている。これにより、モータの電磁エネルギーをインバータとの間で還流させて主コンデンサ側への流入を回避し、主コンデンサに過電圧が印加されるのを防止することができる。
しかし、特許文献1の従来技術では、モータの固定子巻線を短絡させることによって過大な電流が持続して流れるので、モータの過熱や永久磁石の減磁を生じ得る。また、モータの短絡により流れる過大な電流の減衰を、もっぱらモータの減速動作に依存しているため、通常、過大な短絡電流が減衰するまでに相当な時間を必要とする。
【0012】
そこで、非特許文献1に開示された従来技術では、回路の主スイッチが開放された時に、インバータの上アームまたは下アームのスイッチング素子を全てオン状態としてモータの固定子巻線を短絡させた後、電流がゼロになった相から順次、スイッチング素子をオフしている。これにより、モータが減速する以前にモータからインバータへ電磁エネルギーが流入するのを遮断し、モータに過大な短絡電流が流れる時間を短くしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1や非特許文献1に開示された従来技術には、以下のような問題がある。
すなわち、モータの固定子巻線を短絡することにより、過大な電流が持続して流れる。また、非特許文献1に記載された方法によって短絡電流を短時間のうちに減衰させることができても、短絡電流のピーク(過渡的な最大電流)を抑制する効果は得られず、スイッチング素子の破壊やモータの過熱、PMSMの永久磁石の減磁等を生じ得る。
【0016】
そこで、本発明の解決課題は、交流電機、電力変換器及びその制御装置を備えた交流電機システムにおいて、電力変換器の運転停止時に、交流電機や電力変換器に流れる過電流を抑制しつつ、リアクタンス成分が有する電磁エネルギーが電力変換器側に流入するのを防止または抑制し、過電圧及び過電流の発生を共に防止してシステムの安全性を高めた交流電機システム及びその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明では、交流電機と、この交流電機との間で電力を授受する電力変換器と、電力変換器の制御装置と、電力変換器の直流入力端子に接続されるコンデンサと、を備えた交流電機システムにおいて、電力変換器と交流電機との間で電力を授受している変換器動作期間から電力の授受を行わない変換器停止期間へ移行するための変換器移行期間に、電力変換器の半導体スイッチング素子の動作により、直流電圧部のコンデンサに蓄積されたエネルギーを放電する制御とコンデンサにエネルギーを充電する制御とを繰り返し行い、交流電機から電力変換器に流入する有効電力を予めゼロ近傍に抑制したのち、交流電機の各電気端子を短絡する制御を行う。更に、交流電機の各電気端子を流れる電流がゼロ近傍になった際に、交流電機の電気端子を実質的に開放状態とし、または、電力変換器内部の還流ダイオードを介して交流電機の電気端子を導通可能な状態にする制御を行う。
【0018】
ここで、電力変換器と交流電機との間で授受される有効電力がゼロ近傍になる時点は、交流電動機の出力トルクやq軸電流等を用いて取得する。また、交流電機の各電気端子を流れる電流がゼロ近傍になる時点は、電流検出値や電流の推定演算値等を用いて取得する。
更に、コンデンサに蓄積されたエネルギーを放電するには、電力変換器のスイッチング素子及び還流ダイオードを介して、コンデンサから交流電機に向かう方向に有効電力が流入するように、電力変換器のスイッチングパターンを制御する。また、コンデンサにエネルギーを充電するには、電力変換器のスイッチング素子及び還流ダイオードを介して、交流電機からコンデンサに向かう方向に有効電力が流入するように、電力変換器のスイッチングパターンを制御する。
なお、交流電機の各電気端子を流れる電流をゼロ近傍にするには、電力変換器の下アームまたは上アームのスイッチング素子及び還流ダイオードにより電流を還流させ、これによって交流電機の複数の電気端子同士を短絡状態にすればよい。
【0019】
すなわち、本発明の請求項1に係る交流電機システムは、交流電機と、前記交流電機の複数の電気端子に接続され、前記交流電機との間で電力を授受する電力変換器と、前記電力変換器を構成する半導体スイッチング素子を制御する制御装置と、前記電力変換器の直流入力端子に接続されたコンデンサと、を有する交流電機システムにおいて、
前記制御装置は、前記半導体スイッチング素子の制御により前記コンデンサに蓄積されたエネルギーを放電する放電制御手段と、前記コンデンサにエネルギーを充電する充電制御手段とを備え、
前記電力変換器と前記交流電機との間で電力を授受している変換器動作期間から電力の授受を行わない変換器停止期間へ移行するための変換器移行期間において、前記放電制御手段による放電制御と前記充電制御手段による充電制御とを繰り返し行う
と共に、
前記放電制御手段は、前記コンデンサの両端電圧が設定上限値を上回った場合に前記放電制御を行い、前記充電制御手段は、前記コンデンサの両端電圧が設定下限値を下回った場合に前記充電制御を行うことを特徴する。
【0020】
請求項2に係る交流電機システムの制御方法は、交流電機と、前記交流電機の複数の電気端子に接続され、前記交流電機との間で電力を授受する電力変換器と、前記電力変換器を構成する半導体スイッチング素子を制御する制御装置と、前記電力変換器の直流入力端子に接続されたコンデンサと、を有する交流電機システムの制御方法において、
前記電力変換器と前記交流電機との間で電力を授受している変換器動作期間から電力の授受を行わない変換器停止期間へ移行するための変換器移行期間に、
前記半導体スイッチング素子の制御により、前記コンデンサに蓄積されたエネルギーを放電する放電制御と前記コンデンサにエネルギーを充電する充電制御とを繰り返し行うと共に、前記放電制御を、前記コンデンサの両端電圧が設定上限値を上回った場合に行い、前記充電制御を、前記コンデンサの両端電圧が設定下限値を下回った場合に行う
と共に、
前記コンデンサの両端電圧が設定上限値を上回った場合に前記放電制御を行い、前記コンデンサの両端電圧が設定下限値を下回った場合に前記充電制御を行うことを特徴とする。
【0021】
請求項3に係る交流電機システムの制御方法は、請求項2に記載した交流電機システムの制御方法において、前記
電力変換器がフルブリッジ型のインバータであり、前記放電制御及び前記充電制御を、前記インバータを構成する半導体スイッチング素子と、当該スイッチング素子に逆並列に接続された還流ダイオードとにより、前記コンデンサと前記交流電機との間で電流を還流させて行うことを特徴とする。
【0022】
請求項
4に係る交流電機システムの制御方法は、請求項
3に記載した交流電機システムの制御方法において、前記放電制御
は、前記電力変換器の出力電圧ベクトルの位相角が、前記電気端子に流れる電流の電流ベクトルの位相角に対し60°進んだ位相角に最も近くなるように前記半導体スイッチング素子を制御し、前記充電制御は、前記電力変換器の出力電圧ベクトルの位相角が、前記電気端子に流れる電流の電流ベクトルの位相角に対し120°進んだ位相角に最も近くなるように前記半導体スイッチング素子を制御することを特徴とする。
【0023】
請求項5に係る交流電機システムの制御方法は、請求項3に記載した交流電機システムの制御方法において、前記放電制御及び前記充電制御を、前記交流電機の各電気端子に流れる電流の極性に基づいて前記半導体スイッチング素子を制御することにより行うことを特徴とする。
【0024】
請求項
6に係る交流電機システムの制御方法は、請求項
4または請求項
5に記載した交流電機システムの制御方法において、前記半導体スイッチング素子の制御を、前記変換器移行期間の開始時点におけるシステムの状態からその後のシステムの挙動を推定して実現する
ことを特徴とする。
【0025】
請求項
7に係る交流電機システムの制御方法は、請求項2〜
6の何れか1項に記載した交流電機システムの制御方法において、前記電力変換器の直流電圧部には、直流スイッチを介して直流電源が接続され、前記変換器移行期間では、前記放電制御または前記充電制御により、前記電力変換器と前記交流電機との間で授受される有効電力をゼロ近傍に減少させたのちに前記直流スイッチをオフする
ことを特徴とする。
【0026】
請求項
8に係る交流電機システムの制御方法は、交流電機と、前記交流電機の複数の電気端子に接続され、前記交流電機との間で電力を授受する電力変換器と、前記電力変換器を構成する半導体スイッチング素子を制御する制御装置と、前記電力変換器の直流入力端子に接続されたコンデンサと、を有する交流電機システムの制御方法において、
前記電力変換器と前記交流電機との間で電力を授受している変換器動作期間から電力の授受を行わない変換器停止期間へ移行するための変換器移行期間が、第一制御期間及び第二制御期間からなり、
前記第一制御期間では、前記半導体スイッチング素子の制御により、前記コンデンサに蓄積されたエネルギーを放電する放電制御と前記コンデンサにエネルギーを充電する充電制御とを繰り返し行い、
前記電力変換器と前記交流電機との間で授受される有効電力がゼロ近傍となった時点で前記第二制御期間に移行し、
前記第二制御期間では、前記半導体スイッチング素子の制御により、前記交流電機の各電気端子を短絡状態にする短絡制御を行い、
前記交流電機の各電気端子を流れる電流がゼロ近傍となった時点で当該電気端子を開放し、または、前記電力変換器の内部の整流素子を介して当該電気端子を導通可能な状態にする制御を、全ての前記電気端子について行うことを特徴とする。
【0027】
請求項9に係る交流電機システムの制御方法は、請求項2〜8の何れか1項に記載した交流電機システムの制御方法において、前記交流電機が永久磁石型同期電動機であることを特徴とする。
【0028】
請求項
10に係る交流電機システムの制御方法は、
請求項9に記載した交流電機システムの制御方法において、前記電力変換器がフルブリッジ型のインバータであり、前記永久磁石型同期電動機の誘導起電力の線間ピーク値が、前記インバータの直流電圧部の電圧よりも高くなる期間が存在することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、電力変換器と交流電機との間で授受される有効電力を予めゼロ近傍に制御した後に交流電機の各電気端子を短絡する制御を行うことにより、短絡後にスイッチング素子及び交流電機に流れる電流が過大になるのを防止または抑制する。更に、交流電機の各電気端子を流れる電流がゼロ近傍になった際に、交流電機の電気端子を開放状態とし、または、電力変換器の内部を介して電気端子を導通可能な状態にすることにより、交流電機等のリアクタンス成分が有する電磁エネルギーが交流電機から電力変換器側に流入するのを防止または抑制する。
これにより、過電圧及び過電流の発生を共に防止して電力変換器や直流電圧部のコンデンサ並びに電源を保護し、交流電機システムの安全性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
まず、本発明の実施形態は、例えば
図11、
図12に示した三相の交流電機システムに適用されるものであるが、交流電機システムの相数が三相を超える場合にも適用可能である。また、以下では、交流電機20が
図11、
図12のように交流電動機21であるものとして説明するが、前述したように、本発明は交流電機20が交流発電機や交流電源等である場合にも適用可能である。
【0032】
三相のシステムにおいて、三相交流が平衡正弦波である場合、定常状態において電力は理論上、一定となる。実際のシステムでは厳密に三相平衡正弦波である場合は少ないものの、基本的には三相平衡正弦波を仮定してシステムを成り立たせる場合が多く、以下の説明でもこの考えは有効である。
すなわち、
図12に示したような三相の交流電機システムにおいて、インバータ11の運転を三相同時に停止させると、停止時の各相の電力が等しい条件であれば、どの時点でインバータ11を停止しても交流電動機21等のリアクタンス成分は必ず電磁エネルギーを有し、この電磁エネルギーがインバータ11側に流入することによって前述したような様々な問題を生じる。
【0033】
そこで、インバータ11の出力電圧ベクトルが、交流電動機21に流れる電流ベクトルに対して直交するような電圧指令を制御装置により生成し、この電圧指令に従ってインバータ11のスイッチング素子を制御することにより、交流電動機21からインバータ11に有効電力が流入するのを抑制することが考えられる。
すなわち、例えば
図12の直流電圧部において、直流スイッチ42のオン時にバッテリー41への電流が過電流となったりコンデンサ50の電圧が過電圧となる原因は、交流電動機21からインバータ11に流入した有効電力がインバータ11の還流ダイオードを介して直流電圧部に流入することにある。ここで、交流電動機21からインバータ11に流入する有効電力は、次の数式1によって表わすことができる。
[数式1]
P=|v||i|cosφ
P:有効電力
v:電圧ベクトル、i:電流ベクトル
φ:電圧ベクトルと電流ベクトルとの位相差
【0034】
なお、ここでは、インバータ11から交流電動機21に供給される方向の有効電力を正としている。
数式1から、電圧ベクトルと電流ベクトルとが直交し、すなわち、両者の位相差φが±90°であれば、有効電力はゼロであるから、上記のごとくインバータ11の出力電圧ベクトルが交流電動機21に流れる電流ベクトルに対して直交するように制御することにより、インバータ11から直流電圧部への有効電力の流入を抑制し、直流電圧部の過電流や過電圧を抑制することができる。
【0035】
図1は、交流電動機21がPMモータである場合のインバータ11の出力電圧ベクトルとモータの電流ベクトルとの関係を表しており、PMモータの永久磁石のN極方向をd軸、d軸から90°進んだ方向をq軸と定義している。ここでは、巻線抵抗等による電圧降下成分は無視している。
【0036】
図1(a)は、インバータ11と交流電動機21との間で電力を授受している変換器動作期間のベクトル図であり、q軸電流I
qを負に制御して交流電動機21が回生運転している状態である。なお、I
dはI
qに直交するd軸電流、ωは角速度、Ψは磁束ベクトル、L
d,L
qは交流電動機21のd軸インダクタンス及びq軸インダクタンスである。
ここで、インバータ停止指令が入力されたら、変換器停止期間に向けた変換器移行期間である
図1(b)に移行する。
【0037】
図1(b)では、まず、出力電圧ベクトルv(1)を変換器移行期間に入る直前の電流ベクトルi(0)に対して90°進んだ方向に制御する。この電圧ベクトルv(1)は、電機子反作用によりωL
qI
qを減少させ、ωL
dI
dを増加させる。その結果、流れる電流はi(1)のようになる。
変換器移行期間の次のステップでは、
図1(c)に移行し、出力電圧ベクトルv(2)を直前のステップの電流i(1)に対して90°進んだ方向に出力する。この電圧v(2)により流れる電流は,i(2)のようになる。
上記の制御を繰り返し行うことにより、最終的に、電流ベクトルは、
図1(d)のi(x)に収束し、このときの出力電圧ベクトルはv(x)となる。
これにより、電圧ベクトルv(x)と電流ベクトルi(x)とを直交させて両者の位相角φをゼロに制御することができるので、交流電動機21からインバータ11に有効電力Pが流入するのを抑制することができる。
【0038】
特に、交流電動機21がPMモータである場合には、
図1(d)に示すように出力電圧ベクトルを電流ベクトルに対して90°進みとなるように制御することにより、電流ベクトルの弱め磁束成分が増大して誘導起電力を低下させることができるので、システムを一層安全に停止することができる。
なお、インバータ11の出力電圧ベクトルは、周知のように、図示されていない制御装置により生成した電圧指令に基づくPWM制御や、特定のスイッチングパターンに従ってスイッチング素子をオン・オフすることにより制御可能である。
【0039】
次に、請求項1,2に相当する本発明の第1実施形態を説明する。
この実施形態では、変換器移行期間に、
図2(a)に示すようにコンデンサ50に蓄積されたエネルギーを放電する制御と、
図2(b)に示すようにコンデンサ50にエネルギーを充電する制御とを繰り返し行う。
これにより、インバータ11の停止に向けた変換器移行期間に入った場合、上記の放電制御と充電制御とを繰り返し行うことにより、直流電圧部へのエネルギー流入を実質的にゼロに制御できるので、直流電圧部の過電流や過電圧を防止または抑制することができる。
なお、放電制御及び充電制御はインバータ11を構成する半導体スイッチング素子のオン・オフによって行われるが、その具体的な動作については後述する。
【0040】
また、
図3に示すように、直流電圧部にバッテリー41が接続されて直流スイッチ42がオンしている場合、コンデンサ50の電圧はバッテリー電圧にクランプされるので、上記の放電制御、充電制御によって、バッテリー41自体のエネルギーを充電または放電することができる。これにより、例えば、PMモータの誘導起電力がバッテリー電圧よりも高い高速回転時においても、上記の放電制御、充電制御を行うことにより、バッテリー41の過電流やバッテリー41への継続的な電流流入を防止または抑制することができる。
更に、
図3の直流スイッチ42がオフされた場合には、放電制御を積極的に行うことにより、交流電動機21からの回生エネルギーによってコンデンサ50の電圧が過大になるのを防止または抑制することができる。
【0041】
この実施形態では、コンデンサ50に蓄積されたエネルギーを放電する制御とコンデンサ50にエネルギーを充電する制御とを繰り返し行うことにより、特に、電力変換器と交流電動機との間で授受される有効電力がゼロ近傍となる状態を生成するようにし
ても良い。
例えば、交流電動機21がPMモータである場合、有効電力Pは数式2により表されると共に、数式2におけるトルクTは数式3により表わすことができる。
[数式2]
P=ωT
ω:機械角速度
[数式3]
T=P
n{Ψ
m+(L
d−L
q)I
d}I
q
P
n:極対数、Ψ
m:永久磁石磁束
L
d:d軸インダクタンス、L
q:q軸インダクタンス
I
d:d軸電流、I
q:q軸電流
数式2,数式3から、有効電力Pがゼロであることの判断は、トルクTまたはq軸電流I
qによって行うことができる。
従って、有効電力Pをゼロに制御するためには、例えば、トルクTまたはq軸電流I
qがゼロとなるように、所定期間に行う放電制御と充電制御との比率を制御すればよい。これにより、交流電動機21から電力変換器10への回生エネルギーをゼロ近傍の状態に制御することができるので、直流電圧部へのエネルギーの流入を防止または抑制することができる。
【0042】
更に、この実施形態では、
図4に示すように、変換器移行期間において、コンデンサ50の両端電圧(
図4における直流電圧)が所定の上限設定値を上回った場合に放電制御を、コンデンサ50の両端電圧が所定の下限設定値を下回った場合に充電制御を、それぞれ行うようにした。
コンデンサ50におけるエネルギー流入及び流出がゼロであれば、コンデンサ電圧は変動しない。すなわち、コンデンサ電圧を一定に制御すれば、コンデンサ50へのエネルギーを実質的にゼロに制御できる。この制御は、特に、
図3において、直流スイッチ42がオフされている場合に効果的である。これにより、コンデンサ50の電圧をほぼ一定値(
図4の上限設定値と下限設定値とによって区画される範囲内)に制御することができるので、交流電動機21からのエネルギーの流入による過電圧を防止または抑制することができる。
【0043】
次に、請求項
3に相当する本発明の第
2実施形態を説明する。
図5は、電力変換器10としてフルブリッジ型のインバータ11を用いたときの動作の一例を表したものであり、(a)はコンデンサ50の放電時、(b)はコンデンサ50の充電時の動作を示している。
【0044】
まず、
図5において、インバータ11から交流電動機21に向かって流れる電流の向きを正とする。
図5(a)の放電時は、負の電流が流れているU相の下アームのスイッチング素子112をオンし、U相以外のV相,W相の何れか1相の上アームをオン(
図5(a)では、V相の上アームのスイッチング素子113をオン)している。
これにより、電流は、U相の下アームのスイッチング素子112→コンデンサ50→V相の上アームのスイッチング素子113→交流電動機21という経路で流れ、コンデンサ50には、エネルギーを放電する方向に電流が流れる。これと同時に、U相の下アームのスイッチング素子112→W相の下アームの還流ダイオード→交流電動機21という経路でも電流が流れる。
【0045】
一方、
図5(b)の充電時は、正の電流が流れているV相の上アームのスイッチング素子113のみをオンし、他の全てのスイッチング素子をオフしている。これにより、電流はU相の上アームの還流ダイオード→コンデンサ50→W相の下アームの還流ダイオード→交流電動機21という経路で流れ、コンデンサ50には、エネルギーを充電する方向に電流が流れる。これと同時に、U相の上アームの還流ダイオード→V相の上アームのスイッチング素子113→交流電動機21という経路でも電流が流れる。
上記のようにスイッチング素子を制御することにより、インバータ11を構成するスイッチング素子及び還流ダイオードを介して電流を還流させ、コンデンサ50を放電または充電することができる。
【0046】
次に、請求項
4に相当する本発明の第
3実施形態を説明する。
電力変換器10をフルブリッジ型のインバータ11とした場合、インバータ11の出力電圧ベクトルのパターンは、上アームまたは下アームを全てオンとする2通りのパターンを除けば、
図6に示すように6通りである。従って、連続的に変化する電流ベクトルに対し、電流ベクトルに対して常に直交する
図6の理想的な電圧ベクトルを出力することができない。
【0047】
そこで、
この実施形態では、インバータ11の出力電圧ベクトルの位相角が、交流電動機21の電気端子に流れる電流ベクトルの位相角に対して60°進んだ位相角に最も近くなるように半導体スイッチング素子を制御する放電制御と、インバータ11の出力電圧ベクトルの位相角が、交流電動機21の電気端子に流れる電流ベクトルの位相角に対して120°進んだ位相角に最も近くなるように半導体スイッチング素子を制御する充電制御と、を繰り返し行うようにした。なお、
図6では、電流ベクトルに対して60°及び120°進んだ位相角の電圧ベクトルを実線にて示してある。
【0048】
前述した数式1より、電流ベクトルと電圧ベクトルとの位相差φが60°のとき、有効電力Pは数式4によって表される。
[数式4]
P=|v||i|cos60°=|v||i|/2
この有効電力Pは、インバータ11から交流電機21に供給される。すなわち、この方向は直流電圧部から有効電力が流出する方向であり、コンデンサ50の放電動作となる。
また、電流ベクトルと電圧ベクトルとの位相差φが120°のとき、有効電力Pは数式5によって表される。
[数式5]
P=|v||i|cos120°=−|v||i|/2
この有効電力Pは、交流電機21からインバータ11に向けて流入する。すなわち、この方向は直流電圧部に有効電力が流入する方向であり、コンデンサ50の充電動作となる。
【0049】
上述したコンデンサ50の放電制御と充電制御とを繰り返し行うことにより、平均的に、
図6に示すように電流ベクトルに対して90°進んだ理想的な電圧ベクトルに制御することができるので、交流電動機21からの回生エネルギーがゼロ近傍の状態を作ることができ、交流電動機21からインバータ11へのエネルギーの流入を防止または抑制することができる。
【0050】
次に、請求項
5に相当する本発明の第
4実施形態を説明する。
この実施形態では、コンデンサ50に対する放電制御及び充電制御を、交流電動機21の各電気端子に流れる電流の極性に基づいて行うようにした。具体的には、各相電流の極性の組み合わせに応じて、
図7に示すスイッチングパターンを用いてインバータ11を制御するようにした。
【0051】
図7は、例えば放電制御の場合、インバータ11の出力電圧ベクトルが、電流ベクトルの位相角に対して60°進んだ位相角に最も近い電圧ベクトルとなるようにスイッチングパターンを作成したものである。
例えば、前述した
図5(a)のようにU相電流I
uが−、V相電流I
v,W相電流I
wが+である放電時には、電流ベクトルの位相角(150°〜210°)に対して60°進んだ位相角(210°〜270°)に最も近い位相角240°の電圧ベクトルを出力するように電圧指令を生成し、U相の上アーム及びW相の上アームのスイッチング素子111,115をオフ、V相の上アームのスイッチング素子113をオンとし、U相の下アームのスイッチング素子112をオン、V相の下アーム及びW相の下アームのスイッチング素子114,116をオフとするスイッチングパターンを作成する。
また、充電制御の場合、インバータ11の出力電圧ベクトルが、電流ベクトルの位相角に対して120°進んだ位相角に最も近い電圧ベクトルとなるように、スイッチングパターンを作成している。例えば、
図5(b)のようにU相電流I
uが−、V相電流I
v,W相電流I
wが+である充電時には、電流ベクトルの位相角(150°〜210°)に対して120°進んだ位相角(270°〜330°)に最も近い位相角300°の電圧ベクトルを出力するように電圧指令を生成し、V相の上アームのスイッチング素子113のみをオンし、他のスイッチング素子111,112,114,115,116をすべてオフとするスイッチングパターンを作成する。
これにより、複雑な演算を用いることなく、電流の極性の組み合わせだけで、簡単に、エネルギーの放電制御、充電制御を実現することができる。
【0052】
次に、請求項
6に相当する本発明の第
5実施形態を説明する。
上述したスイッチング素子の制御は、交流電動機21の各電気端子に流れる電流の情報取得手段として電流検出器を用い、この電流検出器によって交流電動機21の各相の電流を検出することにより容易に実現可能である。電流情報取得手段の他の例としては、請求項8に記載するように、変換器移行期間の開始時点における交流電機システムの状態(各相の電流の振幅及び位相、並びに交流電動機21の回転速度等)に基づき、交流電動機21の数学的モデルを用いて、変換器移行期間に入った後の電流の挙動を推定演算することによって実現可能である。これは特に、交流電動機21の相電流を検出せずに推定して交流電動機21を駆動する交流電機システムにおいて有用である。
【0053】
次に、請求項
7に相当する本発明の第
6実施形態を説明する。
この実施形態は、
図12に示したように、例えば、電気自動車に搭載されたバッテリー41等の直流電源を有する交流電機システムに関するものである。
図12において、交流電動機21への通電中にインバータ11が運転を停止すると、交流電動機21からインバータ11に電磁エネルギーが流入するが、バッテリー41によって直流電圧部の電圧がクランプされているため、直流電圧の跳ね上がりは実質的に生じない。しかし、その代わりに、バッテリー41に過電流が流入する恐れがある。
【0054】
バッテリー41は、過電流の流入によって著しく劣化することがあるため、このような状況を生じさせないことが望ましい。
そこで、この実施形態では、次のような制御を行うことによってバッテリー41への過電流の流入を防止するものである。
すなわち、まず、コンデンサ50の放電制御と充電制御とを繰り返し行う。この放電制御及び充電制御は、
図5に示したように、コンデンサ50と交流電動機21との間でインバータ11を介して電流を還流させることにより行い、インバータ11と交流電動機21との間で授受される有効電力がゼロ近傍となるように制御する。これにより、実質的に
図12のバッテリー41に流入する有効電力はゼロとなり、この状態で直流スイッチ42をオフする。直流スイッチ42は、電流が過大な状態では通流中にオフできないことがあるが、電流(電力に比例)がゼロ近傍であれば、直流スイッチ42を確実にオフすることができる。このようにすれば、バッテリー41に過電流が流入するのを回避しながら、システムを安全に停止させることが可能となる。
【0055】
次に、請求項
8に相当する本発明の第
7実施形態を説明する。
この実施形態では、前述したコンデンサ50に対する放電制御と充電制御とを繰り返し行い、インバータ11と交流電動機21との間で授受される有効電力がゼロ近傍になった後に、交流電動機21の電気端子を短絡させる制御に移行するものである。
【0056】
この実施形態の動作を、
図8のフローチャートに従って説明する。
インバータ11に対する運転指令に従った変換器動作期間T0から、変換器停止期間に向けた変換器移行期間に入ったら、第一制御期間T1において、まず、インバータ11と交流電動機21との間で授受される有効電力がゼロであるかどうかの判断を行う(ステップS11)。これは、
前述したようにトルクやq軸電流I
qによって判断することができる(
図8では、q軸電流I
qを用いている)。
有効電力がゼロでない場合(ステップS11No)、コンデンサ50に対する充電制御または放電制御を行うことにより、有効電力をゼロの状態に制御する。具体的には、請求項4の実施形態に示したように、コンデンサ50の直流電圧が所定の上限設定値を超えた場合に放電モードに設定し(ステップS12Yes,S13)、直流電圧が所定の下限設定値を下回った場合に充電モードに設定する(ステップS12No,S14Yes,S15)。
【0057】
次に、放電モードか充電モードかに応じてスイッチングパターンを生成する(ステップS16)。具体的には、例えば
図7に基づき、各相電流の極性の組み合わせに基づいてスイッチングパターンを決定する。その後、このスイッチングパターンに従って各スイッチング素子に対するゲート信号を出力する(ステップS17)。この制御を繰り返し行うことにより、インバータ11と交流電動機21との間で授受される有効電力を実質的にゼロ近傍に制御することができる。
【0058】
更にこの実施形態では、有効電力をゼロに制御した後に(ステップS11Yes)、第二制御期間T2に移行する。
第二制御期間T2では、交流電動機21の各電気端子を短絡するようにインバータ11のスイッチングパターンを制御し、交流電動機21から直流電圧部にエネルギーが流入しないようにする。その後、各相(U,V,W相)電流のゼロクロスが検出された相からスイッチング素子を順次、オフさせる(ステップS21〜S26)。
上記の動作を全相のスイッチング素子がオフするまで繰り返し実行し(ステップS27〜S29)、全相のスイッチング素子がオフしたらインバータ11の運転を停止して終了する(ステップS30)。
これにより、インバータ11と交流電動機21との間で授受される有効電力を予めゼロ近傍にした状態で交流電動機21の各電気端子を短絡するため、短絡後に流れる電流を抑制できると共に、交流電動機21からインバータ11へのエネルギーの流入を防止または抑制することができる。
【0059】
次に、請求項
9,10に相当する本発明の第
8実施形態を説明する。
本発明に係る技術は、特に、交流電機がPMモータの場合に大きな効果を発揮する。すなわち、PMモータは永久磁石の磁束に起因する誘導起電力(磁石起電力)を有し、その振幅は一般的に回転速度に比例する。従って、高速回転領域では比較的高い起電力がPMモータの端子間に発生するため、インバータ等の電力変換器によってPMモータを駆動している最中に電力変換器の運転を停止すると、PMモータから電力変換器に流入する電磁エネルギーが大きくなり易い傾向がある。
なお、誘導電動機や巻線型同期電動機においては、高速回転時に電流を調整することによって起電力を低下させることができるため、この点でPMモータとは相違する。
【0060】
ここで、
図9は、交流電動機(PMモータ)の回転速度に対する誘導起電力及び直流電圧部の直流電圧の関係を示す特性図である。
PMモータを駆動対象とする交流電機システムにおいて、誘導起電力の線間ピーク値が、PMモータを駆動するインバータ11の直流電圧よりも高くなる場合は、本発明の作用効果は大きくなる。
なお、周知のように、PMモータは永久磁石型同期発電機と構造が同一であるから、本実施形態はこれらの両者を含む永久磁石型同期電動機に適用可能である。
【0061】
前述したように、PMモータの誘導起電力は回転速度に比例する。このため、PMモータに許容される最高の回転速度において誘導起電力がインバータ11の直流電圧よりも高くなるように設計されたシステムでは、インバータ11が停止する直前のPMモータの電磁エネルギーの多寡によらず、直流電圧が例えばバッテリー41によってほぼ一定値に維持される場合、インバータ11の運転停止後もPMモータから電流が流れ続ける。このため、上記の電流によって直流電圧部のバッテリー41が過熱したり、破損したりする恐れがある。
また、直流電圧部にバッテリー41が接続されていない場合でも、そもそもモータ停止時の端子電圧が高いため、直流電圧部に流入する電流が大きくなり易く、この電流を抑制する必要性は高い。
従って、本発明を適用することにより、特に直流電圧部にバッテリー41が接続されている交流電機システムにおいては、バッテリー41への電流の継続的な流入を防ぐことができる。また、このような交流電機システム以外でも、直流電圧部への過電流の流入を抑制することができる。
【0062】
PMモータを用いた交流電機システムにおいては、上述した直流電圧部の電圧上昇という問題が存在するため、安全上の見地から、PMモータの誘導起電力を低めに、極端な場合には直流電圧部の電圧よりも低く設計しなくてはならない場合が多い。このことは、モータに同じ仕事量をさせる場合に必要な電流が大きくなることを意味しており、電流値が大きくなることはモータ駆動用インバータやケーブルの容量増大につながり、不経済であるとともに、インバータの寸法や質量の増大を招く。
これらの問題は、交流電機システムを各種産業分野や電気自動車などに適用する際の大きな障害となる。従って、本発明によれば、直流電圧部の電圧が過度に上昇するのを解決して上記障害を取り除くことができ、交流電機システムの経済性と小型軽量化を大きく推進することが可能となる。
【0063】
上述した各実施形態の上位概念に相当する技術思想は、以下のとおりである。
すなわち、変換器移行期間において、インバータ11等の電力変換器の制御によって交流電動機21等の交流電機から電力変換器への電磁エネルギーの流入を防止または抑制し、かつ、交流電機を駆動する力学的動力源のエネルギーを消費させて電磁エネルギーが安全なレベルまで減衰するのを待たずに、換言すれば、交流電機が安全な速度レベルまで減速するのを待たずに、電力変換器を安全に停止させることである。
【0064】
例えば、本発明の交流電機システムを、車輪を有する輸送機器などに適用する場合には、上述のように電力変換器の半導体スイッチング素子を制御してコンデンサを充放電制御すれば、コンデンサへのエネルギー流入を抑制でき、更に、電力変換器のスイッチング素子を制御して交流電機の電気端子を短絡させれば、交流電機から電力変換器へのエネルギーの流入を抑制することができる。しかし、この状態を継続すると、原理的に輸送機器の運動エネルギーが交流電機内で巻線の抵抗損失やコアの鉄損あるいは摩擦力によって消費され、変換器を停止しても問題ない速度レベルまで車両が減速するまで、変換器の運転停止を待たなくてはならない。つまり、極めて長い時間にわたってコンデンサの充放電状態、または、交流電機の短絡状態を継続しなくてはならず、コンデンサ、交流電機、及び、電力変換器が過熱によって破損する可能性が極めて高くなる。この問題を回避するように交流電機システムを設計すると、システムが過剰スペックになって全体的な質量、寸法、コストが上昇してしまう。
よって、本発明によれば、前述した変換器移行期間において、電力変換器の半導体スイッチング素子を制御するタイミングを適切に制御することにより、長時間にわたってコンデンサを充放電させ、あるいは、交流電機の巻線を短絡させずに、言い換えれば交流電機が安全なレベルまで減速するのを待たずに、システムを安全に停止させることができる。
【0065】
なお、電力変換器は、一般的に、過電流を検出すると全スイッチング素子を一度に遮断するように動作する。このような動作を「過電流トリップ」と呼ぶ。しかし、本発明は、過電流検出時に直ちに遮断動作に移行しない点で「過電流トリップ」とは相容れない。
従って、本発明を適用する場合には、過電流トリップ機能を停止させる必要がある。一つの方法としては、交流電機の回転速度及び電流が所定値よりも小さい場合には交流電機から発生する電磁エネルギーも相対的に小さいため、過電流トリップ機能を有効にしておき、回転速度及び電流が所定値を上回った場合に本発明を適用することが考えられる。