【文献】
井戸 章雄 他,組換えヒト肝細胞増殖因子を投与した劇症肝炎、遅発性肝不全の4例,日本腹部救急医学会雑誌,2009年,Vol.29, No.4,pp.609-611
【文献】
井戸 章雄 他,肝再生を目的とした肝細胞増殖因子(HGF)を用いた新規治療法の開発,日本消化器病学会雑誌,2004年,Vol.101 臨時増刊号大会,p.A422
【文献】
SHIOTA, G. et al.,Clinical significance of serum soluble Fas ligand in patients with acute self-limited and fulminant,Res. Commun. Mol. Pathol. Pharmacol.,1998年,Vol.101, No.1,pp.3-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
可溶性Fasの測定値を、肝細胞増殖因子の投与前の該患者から採取した試料中の測定値と比較し、投与前よりも可溶性Fasの量が上昇していた場合に、肝細胞増殖因子による治療効果が認められることを示す、ことを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
肝細胞増殖因子の投与期間中に該患者から経時的に採取した試料中の可溶性Fasの量をモニタリングし、当該期間中に可溶性Fasの量が上昇していた場合に、肝細胞増殖因子による治療効果が認められることを示す、ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
1回の投与時間の最初の1/3の期間に1回投与量の約10%、次の1/3の期間に1回投与量の約30%、並びに最後の1/3の期間に1回投与量の約60%を静脈内投与することを特徴とする、請求項11記載の剤。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の急性肝不全抑制剤の有効成分であるヒト肝細胞増殖因子(HGF)は、配列番号2に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号30〜728又は32〜728で示されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質であれば、その由来に特に制限はなく、ヒトもしくは他の温血動物 (例えば、ウシ、ブタ、マウス、ラット、ハムスター、サル、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、モルモット、ニワトリなど) の細胞 [例えば、肝細胞、脾細胞、腎尿細管細胞、ケラチノサイト、血管内皮細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、神経細胞、グリア細胞、膵β細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、脂肪細胞、免疫細胞、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞、株化もしくは癌細胞など] またはそれらの細胞が存在するあらゆる組織もしくは器官 [例えば、肝臓、脾臓、胎盤、尿管、腎臓、血管、皮膚、骨髄、脊髄、下垂体、胃、膵臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、副腎、筋肉 (骨格筋、平滑筋)、肺、消化管 (例: 大腸、小腸)、心臓、胸腺、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、子宮、骨、関節、脂肪組織 (例: 褐色脂肪組織、白色脂肪組織) など] に由来するタンパク質であってもよく、また、化学的に、もしくは無細胞タンパク質合成系を用いて生化学的に合成されたタンパク質であってもよいが、好ましくは上記アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を導入された形質転換細胞から産生される組換えタンパク質である。
【0014】
配列番号2に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号30〜728又は32〜728で示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号2に示されるアミノ酸配列アミノ酸番号30〜728又は32〜728で示されるアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは約95%以上、さらに好ましくは約97%以上、特に好ましくは約98%以上の同一性を有するアミノ酸配列であって、該アミノ酸配列を含むタンパク質が配列番号2に示されるアミノ酸配列を含むタンパク質と実質的に同質の活性を有するような配列をいう。
本明細書におけるアミノ酸配列の同一性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST (National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool) を用い、以下の条件 (期待値=10; ギャップを許す; マトリクス=BLOSUM62; フィルタリング=OFF) にて計算することができる。
実質的に同質の活性としては、例えば、肝保護 (アポトーシス抑制) 作用、肝再生促進作用などが挙げられる。「実質的に同質」とは、それらの活性が定性的に(例: 生理学的に、または薬理学的に) 同一であることを示す。したがって、アポトーシス抑制作用、肝再生促進作用などの活性は同等 (例えば、約0.5〜約2倍) であることが好ましいが、これらの活性の程度やタンパク質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。
【0015】
本発明に用いられるHGFは、好ましくは、配列番号2に示されるアミノ酸配列中アミノ酸番号30〜728又は32〜728で示されるアミノ酸配列を有するヒトHGF(プロHGF)、他の哺乳動物におけるそのオルソログ、ヒトHGFにおける天然のアレル変異体若しくは多型バリアント、あるいはそれらのスプライスバリアントである。
【0016】
HGFは分子内ジスルフィド結合を有する一本鎖タンパク質(プロHGF)として生合成された後、HGFアクチベータによる切断を受けて生物活性を有する二本鎖構造の成熟HGFとなる。本発明で用いられるHGFはプロ体もしくは成熟タンパク質のいずれであってもよいが、好ましくは一本鎖のプロHGFが用いられる。
HGFは遊離体であってもよいし、塩の形態であってもよい。HGFの塩としては、酸(例: 無機酸、有機酸) や塩基 (例: アルカリ金属) との生理学的に許容される塩が挙げられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸 (例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸) との塩、あるいは有機酸 (例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸) との塩などが用いられる。
【0017】
HGFは、それを天然に産生する細胞又は組織又はその初代培養もしくは株化細胞、例えば、劇症肝炎治療としての血漿交換法により得られる患者血漿などから、自体公知のタンパク質精製技術、例えばJ. Clin. Invest., 81: 414 (1998) に記載の方法のような数種のカラムクロマトグラフィーを組み合わせた方法により単離・精製することができる。
【0018】
HGFは公知のペプチド合成法に従って製造することもできる。ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。HGFを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とするタンパク質を製造することができる。ここで、縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法、例えば、以下の (1)又は(2) に記載された方法に従って行われる。
(1) M. Bodanszky and M.A. Ondetti, Peptide Synthesis, Interscience Publishers, New York (1966)
(2) Schroeder and Luebke, The Peptide, Academic Press, New York(1965)
このようにして得られたタンパク質は、公知の精製法により精製単離することができる。ここで精製法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせなどが挙げられる。当該方法で得られるタンパク質が遊離体である場合には、該遊離体を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆にタンパク質が塩として得られた場合には、該塩を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
【0019】
さらに、HGFは、それをコードする核酸を含有する形質転換体を培養し、得られる培養物から組換えHGFを分離精製することによって製造することもできる。HGFをコードする核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0020】
HGFをコードするDNAとしては、ゲノムDNA、あるいはHGFを産生するヒトもしくは他の温血動物の細胞またはそれらの細胞が存在するあらゆる組織もしくは器官由来のcDNA(cRNA)、合成DNA(RNA)などが挙げられる。HGFをコードするゲノムDNAおよびcDNAは、上記した細胞・組織より調製したゲノムDNA画分および全RNAもしくはmRNA画分をそれぞれ鋳型として用い、Polymerase Chain Reaction (PCR)法およびReverse Transcriptase-PCR (RT−PCR)法によって直接増幅することもできる。あるいは、HGFをコードするゲノムDNAおよびcDNAは、上記した細胞・組織より調製したゲノムDNAおよび全RNAもしくはmRNAの断片を適当なベクター中に挿入して調製されるゲノムDNAライブラリーおよびcDNAライブラリー(好ましくは肝臓、脾臓又は胎盤由来のcDNAライブラリー)から、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション法またはPCR法などにより、それぞれクローニングすることもできる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。
【0021】
HGFをコードする核酸としては、例えば、配列番号1で示されるヌクレオチド配列を含有する核酸、または配列番号1で示されるヌクレオチド配列の相補鎖配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るヌクレオチド配列を含有し、前記したHGFと実質的に同質の活性[例:アポトーシス抑制作用、肝再生促進作用など]を有するタンパク質をコードする核酸などが挙げられる。
配列番号1で示されるヌクレオチド配列の相補鎖配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸としては、例えば、配列番号1で示されるヌクレオチド配列と約85%以上、好ましくは約90%以上、さらに好ましくは約95%以上、特に好ましくは約97%以上の同一性を有する塩基配列を含有する核酸などが用いられる。
本明細書における塩基配列の同一性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST (National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool) を用い、以下の条件 (期待値=10; ギャップを許す; フィルタリング=ON; マッチスコア=1; ミスマッチスコア=-3) にて計算することができる。
ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、Molecular Cloning, 2nd ed. (J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989) に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ハイストリンジェントな条件に従って行なうことができる。ハイストリンジェントな条件としては、(1) 洗浄に低イオン強度及び高温、例えば、50℃で0.015 M 塩化ナトリウム/0.0015 M クエン酸ナトリウム/0.1% 硫酸ドデシルナトリウムを使用し、(2) ホルムアミドのような変性剤、例えば、0.1% ウシ血清アルブミン/0.1% フィコール/0.1% ポリビニルピロリドン/750 mM 塩化ナトリウム、75 mM クエン酸ナトリウムを含む50 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH 6.5) とともに、50% (v/v) ホルムアミドを42℃で使用することを特徴とする反応条件が例示される。あるいは、ストリンジェントな条件は、50% ホルムアミド、5xSSC (0.75 M NaCl、0.075 M クエン酸ナトリウム)、50 mM リン酸ナトリウム (pH 6.8)、0.1% ピロ燐酸ナトリウム、5xデンハート溶液、超音波処理鮭精子DNA (50 μg/ml)、0.1% SDS、及び10% 硫酸デキストランを42℃で使用し、0.2xSSC及び50% ホルムアルデヒドで55℃で洗浄し、続いて55℃でEDTAを含有する0.1xSSCからなる高ストリンジェント洗浄を行うものであってもよい。当業者は、プローブ長等のファクターに応じて、ハイブリダイゼーション反応および/または洗浄時の温度、緩衝液のイオン強度等を適宜調節することにより、容易に所望のストリンジェンシーを実現することができる。
【0022】
本発明に用いられるHGFをコードする核酸は、好ましくは、配列番号1に示されるヌクレオチド配列を有するヒトプレプロHGF、他の哺乳動物におけるそのオルソログ、ヒトプレプロHGFにおける天然のアレル変異体若しくは多型バリアント、あるいはそれらのスプライスバリアントである。
【0023】
DNAの塩基配列は、公知のキット、例えば、Mutan
TM-super Express Km (宝酒造 (株))、Mutan
TM-K (宝酒造 (株)) 等を用いて、ODA-LA PCR法、Gapped duplex法、Kunkel法等の自体公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って変換することができる。
クローン化されたDNAは、目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化するか、リンカーを付加した後に、使用することができる。該DNAは、必要に応じてその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することができる。
【0024】
HGFをコードするDNAを含む発現ベクターは、例えば、HGFをコードするDNAから目的とするDNA断片を切り出し、該DNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例: pBR322、pBR325、pUC12、pUC13)、枯草菌由来のプラスミド (例: pUB110、pTP5、pC194)、酵母由来プラスミド (例: pSH19、pSH15)、昆虫細胞発現プラスミド (例: pFast-Bac)、動物細胞発現プラスミド (例: pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo)、λファージなどのバクテリオファージ、バキュロウイルスなどの昆虫ウイルスベクター (例: BmNPV、AcNPV)、レトロウイルス, ワクシニアウイルス, アデノウイルス, アデノ随伴ウイルスなどの動物ウイルスベクターなどが用いられる。
【0025】
プロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。
例えば、宿主が動物細胞である場合、サイトメガロウイルス (CMV) 由来プロモーター (例: CMV前初期プロモーター)、ヒト免疫不全ウイルス (HIV) 由来プロモーター (例: HIV LTR)、ラウス肉腫ウイルス (RSV) 由来プロモーター (例: RSV LTR)、マウス乳癌ウイルス (MMTV) 由来プロモーター (例: MMTV LTR)、モロニーマウス白血病ウイルス (MoMLV) 由来プロモーター (例: MoMLV LTR)、単純ヘルペスウイルス (HSV) 由来プロモーター (例: HSVチミジンキナーゼ(TK) プロモーター)、SV40由来プロモーター (例: SV40初期プロモーター)、エプスタインバーウイルス (EBV) 由来プロモーター、アデノ随伴ウイルス (AAV) 由来プロモーター (例: AAV p5プロモーター)、アデノウイルス (AdV) 由来プロモーター (Ad2またはAd5主要後期プロモーター) などが用いられる。
宿主が昆虫細胞である場合、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
宿主がエシェリヒア属菌である場合、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーターなどが好ましい。
宿主がバチルス属菌である場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。
宿主が酵母である場合、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。
【0026】
発現ベクターとしては、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素 (dhfr) 遺伝子 [メソトレキセート (MTX) 耐性]、アンピシリン耐性(Amp
r) 遺伝子、ネオマイシン耐性 (Neo
r) 遺伝子 (G418耐性) 等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター (CHO-dhfr
-) 細胞を用い、dhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、目的遺伝子をチミジンを含まない培地によって選択することもできる。
【0027】
また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル配列をコードする塩基配列(シグナルコドン)を、HGFをコードするDNAの5’末端側に付加してもよい。宿主が動物細胞である場合、インシュリンシグナル配列、α-インターフェロンシグナル配列、抗体分子シグナル配列などが、宿主がエシェリヒア属菌である場合、PhoAシグナル配列、OmpAシグナル配列などが、宿主がバチルス属菌である場合、α-アミラーゼシグナル配列、サブチリシンシグナル配列などが、宿主が酵母である場合、MFαシグナル配列、SUC2シグナル配列などがそれぞれ用いられる。
【0028】
宿主としては、例えば、動物細胞、昆虫細胞、昆虫、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母などが用いられる。
動物細胞としては、例えば、サル由来細胞 (例: COS-1、COS-7、CV-1、Vero)、ハムスター由来細胞(例: BHK、CHO、CHO-K1、CHO-dhfr
-)、マウス由来細胞 (例: NIH3T3、L、L929、CTLL-2、AtT-20)、ラット由来細胞 (例: H4IIE、PC-12、3Y1、NBT-II)、ヒト由来細胞 (例: HEK293、A549、HeLa、HepG2、HL-60、Jurkat、U937) などが用いられる。
昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞 (Spodoptera frugiperda cell; Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh Five
TM細胞、Mamestra brassicae由来の細胞、Estigmena acrea由来の細胞などが用いられる。ウイルスがBmNPVの場合、昆虫細胞としては、蚕由来株化細胞 (Bombyx mori N 細胞; BmN細胞) などが用いられる。該Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞 (ATCC CRL1711)、Sf21細胞 (以上、Vaughn, J.L. et al., In Vivo, 13: 213-217 (1977))などが用いられる。
昆虫としては、例えば、カイコの幼虫などが用いられる。
エシェリヒア属菌としては、例えば、Escherichia coli K12、DH1、JM103、JA221、HB101、C600などが用いられる。
バチルス属菌としては、例えば、Bacillus subtilis MI114、207-21などが用いられる。
酵母としては、例えば、Saccharomyces cerevisiae AH22、AH22R
-、NA87-11A、DKD-5D、20B-12、Schizosaccharomyces pombe NCYC1913、NCYC2036、Pichia pastoris KM71などが用いられる。
【0029】
形質転換は、宿主の種類に応じ、公知の方法に従って実施することができる。
動物細胞は、例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール, 263-267 (1995) (秀潤社発行)、Virology, 52: 456 (1973) に記載の方法に従って形質転換することができる。
昆虫細胞および昆虫は、例えば、Bio/Technology, 6: 47-55 (1988) などに記載の方法に従って形質転換することができる。
【0030】
前記形質転換体を培養して得られる培養物から、組換えHGFを自体公知の方法に従って分離精製することができる。例えば、HGFが細胞(菌体)外に分泌される場合には、培養物から遠心分離またはろ過等により培養上清を分取するなどの方法が用いられる。得られた培養上清中に含まれるHGFの単離精製は、自体公知の方法に従って行うことができる。このような方法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法; 透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法; イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法; アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法; 逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法; 等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法; などが用いられる。これらの方法は、適宜組み合わせることもできる。
【0031】
かくして得られるHGFが遊離体である場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法によって該遊離体を塩に変換することができ、該タンパク質が塩として得られた場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法により該塩を遊離体または他の塩に変換することができる。
【0032】
HGFは原体のまま用いてもよいが、必要に応じて薬理学的に許容し得る担体とともに混合して医薬組成物とした後に用いることもできる。
ここで、薬理学的に許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などとして配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤などの製剤添加物を用いることもできる。
溶剤の好適な例としては、注射用水、生理的食塩水、リンゲル液、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油などが挙げられる。
溶解補助剤の好適な例としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
懸濁化剤の好適な例としては、ステアリルトリエタノールアミン, ラウリル硫酸ナトリウム, ラウリルアミノプロピオン酸, レシチン, 塩化ベンザルコニウム, 塩化ベンゼトニウム, モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤、例えばポリビニルアルコール, ポリビニルピロリドン, カルボキシメチルセルロースナトリウム, メチルセルロース, ヒドロキシメチルセルロース, ヒドロキシエチルセルロース, ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子、ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。
等張化剤の好適な例としては、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール、D-ソルビトール、ブドウ糖などが挙げられる。
緩衝剤の好適な例としては、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。
無痛化剤の好適な例としては、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
防腐剤の好適な例としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
抗酸化剤の好適な例としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩などが挙げられる。
着色剤の好適な例としては、水溶性食用タール色素(例: 食用赤色2号および3号、食用黄色4号および5号、食用青色1号および2号などの食用色素)、水不溶性レーキ色素(例: 前記水溶性食用タール色素のアルミニウム塩など)、天然色素 (例: β-カロチン、クロロフィル、ベンガラなど) などが挙げられる。
【0033】
前記医薬組成物の剤形としては、例えば注射剤 (例: 皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤など)、点滴剤等の非経口剤が挙げられる。
医薬組成物は、製剤技術分野において慣用の方法、例えば日本薬局方に記載の方法等により製造することができる。医薬組成物中の有効成分の含量は、剤形、有効成分の投与量などにより異なるが、例えば約0.1ないし100重量%である。
【0034】
非経口的な投与 (例えば、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など) に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該タンパク質製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、HGF並びに薬理学的に許容し得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0035】
HGFの具体的な製剤化方法は、例えば、WO00/72873号公報、WO90/10651号公報、WO96/32960号公報、WO99/27951号公報、WO00/07615号公報、特開平6-247872号公報、特開平6-40938号公報、特開平9-25241号公報、特開平10-158190号公報などに記載されている。後述の実施例で使用された組換えヒトHGF(rh−HGF)製剤は、医薬品製造管理および品質管理基準(GMP)グレードで製造されたものであり、1バイアル(2 ml)中にrh−HGF 10 mgを含有する水性注射剤であって、安定化剤として5 mg/ml アルギニン及び吸着防止剤として0.01% ポリソルベート80を含有する希釈液で用時希釈することにより最終製剤として調製される。
【0036】
肝細胞表面分子に対する抗体は、肝細胞に薬剤を特異的に送達することができるので、本発明の一実施態様においては、HGFを該抗体に架橋したイムノコンジュゲートとすることにより、HGFの血中安定性と肝細胞表面への送達効率を改善することができる。肝細胞表面分子としては、EGFR (HER1)、HER2、HER3、HER4などが挙げられるが、それらに限定されない。抗EGFR抗体を用いる場合には、EGFRからのシグナル伝達を阻害しないように、非中和抗体をターゲッティング用抗体として用いることが望ましい。肝細胞表面分子に対する抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体である。該抗体は周知の免疫学的手法により作製することができる。また、該抗体は完全抗体分子であっても、フラグメントであってもよい。フラグメントは、肝細胞表面分子に対する抗原結合部位 (CDR) を有する限りいかなるものであってもよく、例えば、Fab、F(ab')
2、ScFv、minibody等が挙げられる。
【0037】
上記のようにして最終的に液状製剤として調製されるHGF製剤は、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内、腹腔内等に注射もしくは点滴注入することにより、患者に投与することができる。投与量は患者の症状、年齢、体重などにより適宜調整されるが、例えば、非臨床安全性試験の結果、ラットで有効性が確認されている0.1 mg/kg/日をヒトに換算した0.6 mg/m
2/日と、ラットで安全性(副作用の可逆性)が確認されている4.0 mg/kg/日をヒトに換算した24 mg/m
2/日との間の量を1回もしくは数回に分けて投与することができるが、これに限定されない。HGFの血中持続安定性や副作用の発現リスクを低減する目的で、1回の投与を点滴注入により長時間かけて行うことが望ましい。例えば、1日あたりの投与量を1回で投与する場合、1〜12時間、好ましくは2〜6時間かけて投与する。特に、HGF投与による急激な血圧低下を回避する目的で、1回の投与において投与速度を段階的もしくは連続的に増加させながら全身投与することが望ましい。具体的な投与プロトコルとして、例えば、1回の投与時間の最初の1/3の期間に1回投与量の約10%、次の1/3の期間に1回投与量の約30%、並びに最後の1/3の期間に1回投与量の約60%を静脈内投与する方法が挙げられるが、それに限定されない。さらに血圧低下のリスクを回避する手段として、HGF投与に先立って生理食塩水を輸液する方法が挙げられる。
【0038】
HGF製剤の投与期間は特に制限されず、患者の症状などに応じて、十分な薬効が得られかつ重篤な副作用を生じない範囲で適宜調整することができるが、例えば1〜4週間、好ましくは10〜20日程度である。
【0039】
HGF製剤の投与量及び/又は投与期間は、後述のHGFの薬効評価の結果に基づいて適宜増減することができる。
【0040】
本発明のHGF製剤による治療対象となるのは急性肝不全患者である。急性肝不全とは、種々の原因による急性肝障害のうち、プロトロンビン時間(PT)50%以下あるいはプロトロンビン阻害国際単位(Prothrombin Inhibition-International unit, PI-INR)1.5以上を認める症例として定義される。肝障害に伴う肝性脳症が昏睡I度以下の時、非昏睡型急性肝不全と診断される。これらの症例の約30%では、治療にも関わらず、不可逆的肝細胞死が進行し、昏睡II度以上の脳症を呈する劇症肝炎あるいは遅発性肝不全へと進行する。劇症肝炎は、PTが標準値の40%未満であり、病徴が現れてから8週間以内に肝性脳症を発症する肝炎として同定される。また、劇症肝炎はさらに2つのサブタイプ、急性(FHA)及び亜急性(FHSA)に分類される(それぞれ脳症を、10日以内及び11日以降に発症する)。一方、PTが40%未満であり、病徴が現れてから8〜24週間で脳症を発症する患者は、遅発性肝不全と診断される。
後述の実施例に示されるとおり、わが国における劇症肝炎及び遅発性肝不全患者に関する全国的調査に基づく救命率は約18%であったのに対し、本発明のHGF製剤による治療は4名中2名の患者を救命することができ、死亡例のうち1例についても肝性脳症発症から68日という長期生存が得られたことから、極めて予後不良で、従来肝移植しか有効な治療法がなかった劇症肝炎及び/又は遅発性肝不全に対しても、治療効果を示すことが強く示唆された。当該実施例で用いられたHGF製剤の投与プロトコルは、正常ラットや部分肝切除ラット等の重篤な肝障害を有しない動物を用いた実験において、肝再生作用が確認された用量と、劇症肝炎及び遅発性肝不全の治療実績から必要十分であると予測された投与期間を採用したものであり、非臨床安全性試験の結果から、不可逆性の副作用を生じることなく、最低でも用量を4倍に増量できると予測されることから、投与量および投与期間を最適化することにより、劇症肝炎及び/又は遅発性肝不全患者における救命率をさらに向上させ得ると考えられる。さらに、本発明のHGF製剤を用いた治療は、劇症肝炎や遅発性肝不全に進行する前の非昏睡型急性肝不全患者に対して実施することにより、劇症肝炎及び/又は遅発性肝不全への進行(劇症化)を阻止することができ、当該進展抑制効果によって、結果的に急性肝不全患者の死亡率を著しく低減することができる。
【0041】
本発明のHGF製剤は、必要に応じて他の急性肝不全の治療手段と組み合わせて用いることができる。HGFと組み合わせることができる他の治療手段として、例えば、コルチコステロイド治療[Tygstrup, N. & Juhl, E., Gut, 1979;20:620-623]、急性B型肝炎に対するラミブジン投与[Kumar, M. et al., Hepatology, 2007;45:97-101]、血漿交換療法[Clemmesen, J.O. et al., Am. J. Gastroenterol., 2001;96:1217-1223]が挙げられる。
【0042】
本発明はまた、HGFを投与された肝臓障害を有する患者から採取した試料中のα-フェトプロテイン及び/又は可溶性Fasの量を測定することを含む、HGFの薬効評価方法を提供する。
急性肝不全における血清AFP値の上昇は、肝障害に引き続いて誘導される肝再生によると考えられていた(Taketa, K., Hepatology, 12: 1420-1432 (1990))。一方、血清HGF値は急性肝炎の劇症化予知および劇症肝炎の予後予測に重要であり、劇症肝炎では血清HGF値1.0 ng/ml以上(基準値0.40 ng/ml以下)に上昇するが、劇症肝炎および遅発性肝不全の全国調査データ(1998年〜2009年)の439例において、血中HGF値と血清AFP値の両者に相関関係は見出せなかった。すなわち、劇症肝炎および遅発性肝不全患者において、肝障害で誘導された内因性HGFによる血中HGF濃度の上昇によって血清AFP値が上昇することはなく、そのため、外因性にHGF(rh−HGF)を投与して血中HGF濃度を上げたとしても、血清AFPレベルが上昇するとは予測できなかった。かかる状況の下、本発明者らは、劇症肝炎及び遅発性肝不全患者にHGFを反復投与したところ、意外にもその投与期間中に血清AFP値が上昇し、投与終了後に漸減することを見出し、AFPが、劇症肝炎をはじめとした急性肝不全、重症の急性肝炎、非代償性肝硬変などの慢性肝不全患者に対してHGFによる治療を行った際、その肝再生促進効果の指標(バイオマーカー)となることを明らかにした。投与期間中、肝重量(肝容量)や血清アルブミン値に大きな変化は認められず、AFPが従来公知の肝再生促進マーカーよりも肝再生効果を鋭敏かつリアルタイムで反映することが示された。
【0043】
一方、人体におけるHGFの抗アポトーシス作用をモニタリングする指標はこれまで見出されてなかったが、本発明者らはHGFの反復投与の前後で血液中の可溶性Fas値を比較し、HGF投与により血清可溶性Fas値が上昇することを見出した。可溶性Fasは細胞表面に存在するFasが切断されて血液中に放出されるものであり、Fasリガンドと結合することで、細胞表面のFasとFasリガンドの結合に拮抗してアポトーシスを抑制することから、可溶性Fasが、劇症肝炎をはじめとした急性肝不全、重症の急性肝炎、非代償性肝硬変などの慢性肝不全患者に対してHGFによる治療を行った際、そのアポトーシス抑制効果の指標(バイオマーカー)となることが示された。
【0044】
本発明の薬効評価方法の評価対象となる患者は、肝臓障害を有し、かつその治療としてHGFを投与された者であれば特に限定されず、肝障害・肝細胞死を伴う種々の疾患、例えば、急性肝不全 (劇症肝炎、遅発性肝不全、非昏睡型急性肝不全を含む)、急性肝炎、慢性肝炎、自己免疫性肝疾患 (自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変)、ウイルス性肝炎 (A-E型)、肝線維症、肝硬変、肝癌、アルコール性肝障害、薬剤性肝障害 (中毒性薬剤性肝障害、アレルギー性薬剤性肝障害)、肝膿瘍、肝寄生虫症 (日本住血吸虫症、肝吸虫症)、肝アミロイドーシス、ルポイド肝炎) 等の患者が挙げられるが、好ましくは急性肝不全患者である。
【0045】
本発明の薬効評価方法において、被検試料となる患者由来の試料は肝再生効果に伴うAFPの上昇及び/又は肝細胞の抗アポトーシス効果に伴う可溶性Fasの上昇を検出し得る限り特に限定されないが、患者への侵襲が少ないものであることが好ましく、例えば、血液、血漿、血清、唾液、尿、涙液など生体から容易に採取できるものや、髄液、骨髄液、胸水、腹水、関節液、眼房水、硝子体液など比較的容易に採取されるものが挙げられるが、より好ましくは血清もしくは血漿である。
血清や血漿を用いる場合、常法に従って患者から採血し、液性成分を分離することにより調製することができる。
【0046】
被検試料中の、AFP及び/又は可溶性Fasの検出は、例えば、当該試料を各種の分子量測定法、例えば、ゲル電気泳動や、各種の分離精製法(例:イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィーなど)、イオン化法(例:電子衝撃イオン化法、フィールドディソープション法、二次イオン化法、高速原子衝突法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化法など)、質量分析計(例:二重収束質量分析計、四重極型分析計、飛行時間型質量分析計、フーリエ変換質量分析計、イオンサイクロトロン質量分析計など)を組み合わせる方法等に供し、該マーカータンパク質の分子量と一致するバンドもしくはスポット、あるいはピークを検出することにより行うことができるが、これらに限定されない。AFP及び可溶性Fasはアミノ酸配列が既知であるので、該アミノ酸配列を認識する抗体を作製して、ウェスタンブロッティングや各種イムノアッセイ(例:ELISA)により該タンパク質を検出する方法が、より好ましく用いられる。さらに上記方法のハイブリッド型検出法も有効である。
【0047】
AFP及び可溶性Fasの測定は、それらに対する抗体を用い、最適化されたイムノアッセイ系を構築してこれをキット化すれば、質量分析装置のような特殊な装置を使用することなく、高感度かつ高精度に該タンパク質を検出することができる点で、特に有用である。
【0048】
AFP又は可溶性Fasに対する抗体は、例えば、該タンパク質を、それらを発現するヒト試料から単離・精製し、該マーカータンパク質またはその部分ペプチドを抗原として動物を免疫することにより調製することができる。
【0049】
AFP又は可溶性Fasに対する抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製することができる。また、該抗体は完全抗体分子だけでなくそのフラグメントをも包含し、例えば、Fab、F(ab')
2、ScFv、minibody等が挙げられる。
【0050】
例えば、ポリクローナル抗体は、AFP又は可溶性Fasあるいはその部分ペプチド(必要に応じて、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)等のキャリアータンパク質に架橋した複合体とすることもできる)を抗原として、市販のアジュバントとともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスターなどの哺乳動物が挙げられる。
【0051】
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例えば、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん−基礎と臨床−」、第2-14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作成することができる。例えば、AFP又は可溶性Fasあるいはその部分ペプチドを市販のアジュバントと共にマウスに2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、リンパ球を採取する。このリンパ球と骨髄腫細胞(例えば、NS-1, P3X63Ag8など)を細胞融合してAFP又は可溶性Fasに対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法[J. Immunol. Methods, 81(2): 223-228 (1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma, 7(6): 627-633 (1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、好ましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得することができる。
【0052】
抗AFP又は抗可溶性Fas抗体を用いる本発明の薬効評価方法は、特に制限されるべきものではなく、被検試料中の抗原量に対応した抗体、抗原もしくは抗体−抗原複合体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法等が好適に用いられる。
【0053】
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔
125I〕、〔
131I〕、〔
3H〕、〔
14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β-ガラクトシダーゼ、β-グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン-アビジン系を用いることもできる。
【0054】
抗原あるいは抗体の不溶化に当っては、物理吸着を用いてもよく、また通常タンパク質あるいは酵素等を不溶化、固定化するのに用いられる化学結合を用いる方法でもよい。担体としては、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等が挙げられる。
【0055】
サンドイッチ法においては、不溶化した抗AFP又は抗可溶性Fas抗体に被検試料を反応させ(1次反応)、さらに標識化した別の抗AFP又は抗可溶性Fas抗体を反応させ(2次反応)た後、不溶化担体上の標識剤の量(活性)を測定することにより、被検試料中のAFP又は可溶性Fas量を定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序に行っても、また、同時に行なってもよいし時間をずらして行なってもよい。
【0056】
AFP又は可溶性Fasに対するモノクローナル抗体を、サンドイッチ法以外の測定システム、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどに用いることもできる。
競合法では、被検試料中の抗原と標識抗原とを抗体に対して競合的に反応させた後、未反応の標識抗原(F)と、抗体と結合した標識抗原(B)とを分離し(B/F分離)、B、Fいずれかの標識量を測定し、被検試料中の抗原量を定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、B/F分離をポリエチレングリコール、前記抗体に対する第2抗体などを用いる液相法、および、第1抗体として固相化抗体を用いるか、あるいは、第1抗体は可溶性のものを用い第2抗体として固相化抗体を用いる固相化法とが用いられる。
イムノメトリック法では、被検試料の抗原と固相化抗原とを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後固相と液相を分離するか、あるいは、被検試料中の抗原と過剰量の標識化抗体とを反応させ、次に固相化抗原を加え未反応の標識化抗体を固相に結合させた後、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し被検試料中の抗原量を定量する。
また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。被検試料中の抗原量が僅かであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。
【0057】
これら個々の免疫学的測定法を本発明の定量方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えてAFP又は可溶性Fasの測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。
例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」 Vol. 70 (Immunochemical Techniques (Part A))、同書 Vol. 73 (Immunochemical Techniques (Part B))、同書 Vol. 74 (Immunochemical Techniques (Part C))、同書 Vol. 84 (Immunochemical Techniques (Part D: Selected Immunoassays))、同書 Vol. 92 (Immunochemical Techniques (Part E: Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、同書 Vol. 121 (Immunochemical Techniques (Part I: Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies)) (以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
【0058】
上記のいずれかの方法により測定された、HGFを投与された患者由来の試料中のAFPのレベルが、HGFの投与前に該患者から採取した試料中のAFPレベルに比べて有意に上昇している場合、該患者において肝再生が誘導されており、HGF投与の薬効が認められると判定することができる。一方、HGFを投与された患者由来の試料中のAFPのレベルが、HGFの投与前に該患者から採取した試料中のAFPレベルに比べて有意な変化が認められないかむしろ低下している場合、該患者において肝再生は誘導されておらず、HGF投与による肝再生促進効果は認められないと判定することができる。後者の場合、可溶性Fasを指標とした抗アポトーシス効果が十分であれば、予定されている投与プロトコルをそのまま実施してもよいが、当該効果も十分に得られない場合には、HGFの投与量の増大及び/又は投与期間の延長を考慮することができる。
【0059】
上記のいずれかの方法により測定された、HGFを投与された患者由来の試料中の可溶性Fasのレベルが、HGFの投与前に該患者から採取した試料中の可溶性Fasレベルに比べて有意に上昇している場合、該患者において肝細胞のアポトーシスが抑制されており、HGF投与の薬効が認められると判定することができる。一方、HGFを投与された患者由来の試料中の可溶性Fasのレベルが、HGFの投与前に該患者から採取した試料中の可溶性Fasレベルに比べて有意な変化が認められないかむしろ低下している場合、該患者において肝細胞のアポトーシスは抑制されておらず、HGF投与による肝細胞の抗アポトーシス効果(肝保護効果)は認められないと判定することができる。後者の場合、AFPを指標とした肝再生促進効果が十分であれば、予定されている投与プロトコルをそのまま実施してもよいが、当該効果も十分に得られない場合には、HGFの投与量の増大及び/又は投与期間の延長を考慮することができる。
【0060】
本発明の薬効評価方法は、患者から時系列で試料を採取し、各試料におけるAFP及び/又は可溶性Fas量を測定しそれらの経時変化を調べることにより行うことが好ましい。試料の採取間隔は特に限定されないが、患者のQOLを損なわない範囲でできるだけ頻繁にサンプリングすることが望ましく、例えば、血漿もしくは血清を試料として用いる場合、例えば1〜10日、好ましくは3〜7日の間隔で採血を行うことが好ましい。AFPのレベルが経時的に増加した場合には、該患者において肝再生が誘導されており、HGF投与の薬効が認められると判定することができる。一方、AFPのレベルに有意な変化が認められないか経時的に低下した場合には、該患者において肝再生は誘導されておらず、HGF投与による肝再生促進効果は認められないと判定することができる。後者の場合、可溶性Fasを指標とした抗アポトーシス効果が十分であれば、予定されている投与プロトコルをそのまま実施してもよいが、当該効果も十分に得られない場合には、HGFの投与量の増大及び/又は投与期間の延長を考慮することができる。
【0061】
また、可溶性Fasのレベルが経時的に増加した場合には、該患者において肝細胞のアポトーシスが抑制されており、HGF投与の薬効が認められると判定することができる。一方、可溶性Fasのレベルに有意な変化が認められないか経時的に低下した場合には、該患者において肝細胞のアポトーシスは抑制されておらず、HGF投与による肝細胞の抗アポトーシス効果(肝保護効果)は認められないと判定することができる。後者の場合、AFPを指標とした肝再生促進効果が十分であれば、予定されている投与プロトコルをそのまま実施してもよいが、当該効果も十分に得られない場合には、HGFの投与量の増大及び/又は投与期間の延長を考慮することができる。
【0062】
本発明の薬効評価方法においてAFPを指標とする場合、評価対象である患者はステロイド系抗炎症剤の投与を受けていないことが望ましい。AFP発現は、AFP遺伝子の5’フランキング領域に存在するグルココルチコイド応答エレメント(GRE)による影響を受けることが知られているので[Ido, A. et al., Cancer Res., 1995;55:3105-3109]、HGF投与による肝再生効果を正確に反映しない可能性があるためである。従って、ステロイド系抗炎症剤を併用している患者においては、可溶性Fasを指標とした肝細胞の抗アポトーシス効果の判定を重視してHGFの薬効を評価することができる。
【0063】
本発明はまた、抗AFP抗体及び/又は抗可溶性Fas抗体を含んでなる、HGFの薬効評価用キットを提供する。該キットは、上記した本発明の薬効評価方法を実施するのに好ましい他の構成要素、例えば、反応用緩衝液、洗浄液、不溶化用担体、標識剤、AFP及び/又は可溶性Fas標品などをさらに含んでいてもよい。
【0064】
上述のとおり、本発明の薬効評価方法によりHGFの薬効が認められないか、その程度が不十分であると認められた患者に対して、HGFの投与量の増大及び/又は投与期間の延長を考慮することができる。従って、本発明のHGF製剤は、本発明の薬効評価用キットと組み合わせて用いることが好ましい。
【0065】
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0066】
(方法)
rh−HGF投与の安全性確保のための動物実験
動物
クラウンミニブタ(雌、6〜7月齢)及びウィスターラット(雄、7週齢)を、それぞれジャパンファーム(鹿児島、日本)及び日本チャールス・リバー株式会社(横浜、日本)から購入した。動物は、研究期間を通して一定の室温(25℃)、自由飲水及び表示された食餌で維持した。動物試験のプロトコルは、京都大学大学院医学研究科(京都、日本)の倫理委員会により承認された。全ての動物実験は、1〜3週間の標準食餌での順化の後行なった。
【0067】
一般薬理試験
クラウンミニブタ(雌)をセボフルラン、二酸化窒素及び酸素の吸引により麻酔した後、カテーテルを内頸静脈(rh−HGFの注入のため)及び総頸動脈(BPを測定するため)に挿入した。1mg/kgのrh−HGFを20分間にわたり内頸静脈から注入した。HRを心電図モニタリングにより記録し、心機能を心エコーにより測定した。rh−HGFの段階的注入のBPへの影響を評価するために、投与速度を段階的に増加させながら(最初の60分間で総用量の10%、次の60分間で30%、そして最後の60分間で60%)、内頸静脈に挿入したカテーテルから、0.4mg/kgのrh−HGFを3時間にわたり注入した。
【0068】
rh−HGFの反復投与の腎毒性の評価
rh−HGF(0.4、1.0及び4.0mg/kg)を14日間ラットに静脈内ボーラス投与した後、2週間観察した。アルブミン及びタンパク質の尿中排泄を、rh−HGFの投与中及び投与後に経時的に測定した。動物を、rh−HGF投与の終了時(14日目)及び観察期間の終了時(28日目)に屠殺し、血清クレアチニン及び組織学的所見を含めて、腎障害を評価した。
【0069】
急性肝不全患者についての第I/II相治験
概要
この単群/非盲検/用量漸増試験は、京都大学病院(京都、日本)において実施した。試験プロトコルは、患者登録の開始前に、京都大学病院の治験審査委員会及び倫理委員会の審査及び承認を受けた。試験は、GCPの原則に従い、ヘルシンキ宣言の倫理指針を遵守して行なった。参加した全ての患者、又は法定代理人(参加者が肝性脳症のため署名できない場合)から、本試験への登録前に、書面によるインフォームド・コンセントを得た。
【0070】
患者の選択
同意した患者を2005年9月から2008年6月にあらかじめ選抜した。肝移植を受けられなかったFHSA又はLOHF患者であって、以下の4パラメーターの少なくとも1つを満たす患者を適格とした:(1)45歳以上、(2)PTが標準値の10%以下、(3)総ビリルビン(T−Bil)レベルが18.0mg/dL以上、又は(4)直接/総ビリルビン比が0.67未満。以下の患者は不適格とした:16歳未満;登録前48時間にグルカゴン及びインスリン、又はプロスタグランジンE1で治療された者;悪性腫瘍を有するか又はその病歴を有する者;心不全を有する者;肺炎、敗血症、播種性血管内凝固症候群又は消化管出血を含む重篤な合併症を有する者; 及びrh−HGFに対するアレルギー反応を有する者。女性における生殖発生へのrh−HGFの毒性は調べられていないため、妊娠可能な年齢の女性も不適格とした。また、腎障害(≧1mg/mLタンパク質の尿中排泄、沈渣尿中の赤血球変形又は赤血球円柱(RBC casts)、2.0mg/dL以上の血清クレアチニンレベル、或いは400mL/日未満の尿容量を含む)を有する患者も除外した。
【0071】
プロトコル治療及びrh−HGF投与期間後の観察
rh−HGFをGMPグレードの材料として調製した。rh−HGFの初回用量は、0.6mg/m
2/日に固定した(安全性及び臨床効果を確保する用量として、複数の前臨床動物試験により決定した)。用量漸増試験においては、rh−HGFの用量を、初回用量(0.6mg/m
2)から1.2、1.8又は2.4mg/m
2に増加させることができる。rh−HGFを、14日間まで、3時間段階的に増加させて静脈内投与した後、14日間観察した。全ての患者を追跡し、試験期間(28日まで)後の治療成績を決定した。
【0072】
評価項目
第一の評価項目は、rh−HGFの静脈内反復投与の安全性であり、有害事象の発生、頻度、及び深刻度に基づき評価した。全ての患者を集中治療室で治療した。試験期間中、rh−HGF投与の開始から治験薬投与の完了後まで、安全性について定期的に患者を観察した。安全性評価は、身体検査、臨床検査及び有害事象の観察により行なった。有害事象は、試験期間を通して観察し、共通毒性基準グレーディングシステムに従って等級付けした。有害事象とrh−HGFとの因果関係は、医師の最善の判断により決定した。全ての有害事象は、その原因に関わらず適切に治療した;必要な場合、患者を試験から外した。有害事象の発生率は、少なくとも1回のrh−HGFの投与を受けた患者のうち、少なくとも1の有害事象を経験した患者の数から計算した。
第二の評価項目は、静脈内注射されたrh−HGFの薬物動態、並びに生存期間及び治療成績を含む臨床効果であった。rh−HGFの薬物動態を調べるために、血液試料を1、3、5、8、及び11日目の複数の時点で採取した。HGFの血清中濃度は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)(Otsuka Co.,Ltd.、徳島、日本)(Tsubouchi et al., Hepatology 1991, 13:1-5)により決定した。検査データ(PT国際標準化比(PT−INR)、T−Bil、血清アルブミン、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、α-フェトプロテイン(AFP)を含む)を、血漿交換又はrh−HGF投与の前に調べた。また、血清可溶性Fas値は、rh−HGF投与前と投与終了翌日に採血して測定した。
【0073】
参考例1
ミニブタにおける血圧の低下に対処するためのrh−HGF投与方法の確立
一般薬理試験において、rh−HGF(1.0又は0.2mg/kg)の静脈内投与は、ミニブタにおいて収縮期血圧(systolic BP)の急速な低下を引き起こすが、呼吸状態は影響を受けなかった。従って、臨床試験を開始する前に、ミニブタにおいて全身麻酔下で、rh−HGFの循環状態への影響を更に調べた。総用量1.0mg/kgのrh−HGFを20分間にわたり投与した場合、収縮期血圧の低下が直ちに起こり、rh−HGF投与中継続した(
図1A)。心拍数(HR)は徐々に低下したが、不整脈や虚血性変化などの心電図異常は実験期間を通して観察されなかった。また、血圧の低下と並行して、心エコー検査により左心室拡張末期容積(LVEDV)及び駆出率(EF)の低下が示されたが、左心室の動きの異常は見られなかった(
図1A)。これらの結果は、rh−HGFの静脈内注射が容量血管の拡張により血圧を低下させたことを示す。
次に、急速な血圧低下を回避し得るrh−HGFの投与方法の開発を行なった。最終的に、rh−HGFを3時間にわたり段階的に増加させる(最初の60分間で総用量の10%、次の60分間で30%、そして最後の60分間で60%)という、段階的注入法を確立した(
図1B)。本発明者らは、適切な注入がrh−HGFの静脈内投与により引き起こされる血圧の低下を効果的に防ぐことを見出した(
図1C)。この予防効果も、容量血管の拡張がHGF誘導性の血圧低下の原因であること支持している。
【0074】
参考例2
ラットにおけるrh−HGFの反復投与により誘導される腎毒性の評価
ラット又はカニクイザルを使用した反復投与毒性試験により、臨床試験において起こり得る有害事象としてアルブミン及びタンパク質の尿中排泄の増加が特定された。そこで、14日間のrh−HGFの反復投与により誘導される腎毒性が可逆的であるか否かを更に調べた。ラットに0.4、1.0、及び4.0mg/kg/日のrh−HGFを14日間投与した後、14日間観察した。アルブミンの尿中排泄は、rh−HGFで処理したラットにおいて4日目から容量依存的に増加した(
図2)。0.4又は1.0mg/kg/日のrh−HGFで処理したラットでは、アルブミンの尿中排泄はタンパク尿の増加よりも先に起こった(
図2A及びB)。しかし、血清クレアチニンにもBUNにも実験期間を通して影響はみられなかった。また、アルブミンの尿中排泄は、rh−HGF投与の終了後14日間の観察期間中、次第に減少した。組織学的分析においては、14日間のrh−HGFの反復投与後、メサンギウム増殖、糸球体及び尿細管における硝子滴沈着、並びに腎肥大が観察された。しかしながら、これらの組織学的所見はごく軽度から軽度の範囲であり、可逆的な変化であることも確認された。げっ歯類におけるrh−HGFの用量0.1mg/kgは、ヒトにおいては0.6mg/m
2に相当することから、臨床試験における1日あたりの投与量を0.6mg/m
2とすることとした。
【0075】
実施例
亜急性劇症肝炎(FHSA)及び遅発性肝不全(LOHF)患者に対するrh−HGF投与第I/II相試験
(1)患者特性
2005年9月から2008年6月の間に、FHSA又はLOHFの患者20名をrh−HGFの臨床試験への参加について評価した。その結果、16名の患者は1以上の除外基準を満たしたため除外され、最終的に4名の患者のみが登録された。劇症肝炎は日本においては比較的稀な症候群であり(1998〜2003年の間に698名の患者)、また治療の安全性及び有効性をより正確に評価するために、重篤な合併症を有する患者は除外したため、治験対象の採用は困難であった。そのため用量漸増試験は実施せず、すべての患者に対し、投与期間を通じて初回用量と同じ0.6mg/m
2/日を投与した。参加した対象の年齢は、40〜71歳であり、男女各2名であった(表1)。
【0076】
【表1】
【0077】
患者1、2及び4はFHSAと診断され、患者3はLOHFと診断された。患者1、3及び4については適切なドナーがいなかったため、また患者2については70歳を超えていたため、いずれも肝移植を受けることができなかった。患者1及び4におけるFHSAはそれぞれHEV及びコエンザイムQ−10を含むサプリメントが原因であり、患者2及び3の肝不全の原因は不明である。FHSAの患者2名(患者1及び2)及びLOHFの患者1名(患者3)はそれぞれ昏睡度II及びVの肝性脳症を示し、FHSAの患者4の意識レベルは登録時には損なわれていなかった。全ての患者において、プロトロンビン時間(PT)の顕著な延長並びに総ビリルビン(T−Bil)及び血清HGFの増加が観察された。FHSAの患者2及びLOHFの患者3では、登録時のCT容積測定により、肝容量の減少がみられた。
rh−HGFによる治療は、肝性脳症を発症した後5〜7日で開始した。患者2及び4においては、rh−HGF(0.6mg/m
2/日)を14日間静脈内投与した。患者1及び3では、それぞれ血清クレアチニンの増加(2.1mg/dL)及び乏尿症のため、それぞれ14日目及び13日目にrh−HGF投与中止が必要となった。これらの症状はいずれも、肝不全に付随したものであり、rh−HGF投与によるものではないと判断された。従って、これらの患者におけるrh−HGF投与期間は、それぞれ合計13日間及び12日間となった。全ての患者において血漿交換を行なった。HEVによるFHSAの患者1を除く3名の患者は、コルチコステロイドで治療した(
図7−1〜7−4)。最終的に、2名のFHSA患者(患者2及び4)は生存したが、FHSAの患者1は試験期間の終了後に死亡し、LOHFの患者3は試験期間中に死亡した(表1及び
図7−1〜7−4)。
【0078】
(2)段階的に緩徐注入されたrh−HGFの薬物動態
患者1、2及び3において、血漿交換後にrh−HGFを投与した。HGFの血清レベルは、rh−HGF投与量の段階的増加と並行して増加し、3時間のrh−HGF注入の終了時には最高薬物濃度(C
max)に達した(
図3)。C
maxは、HGF投与期間中、1日目の18.8±6.0ng/mLから11日目の22.3±9.6ng/mLまで次第に増加した(表2)。
【0079】
【表2】
【0080】
血清HGFの半減期(T
1/2)の平均値は、およそ630〜840分であった。HGF投与期間中、血中濃度−時間曲線下面積(AUC)は次第に増加し、クリアランス(CL)及び定常状態分布容積(V
dss)は次第に減少することが明らかとなった。
【0081】
(3)薬物耐容性
前臨床安全性試験により、rh−HGF注入中の血圧低下及びrh−HGF反復投与により誘導される腎毒性(アルブミンの尿中排泄の増加を含む)がヒト臨床試験において起こり得る有害事象であることが明らかとなった。FHSA又はLOHFの患者の第I/II相試験において、いずれの患者においてもrh−HGF投与により呼吸状態は影響を受けなかったが、患者1、2及び3において血圧は、HGF注入の開始後およそ1時間で軽度から中等度低下した(
図4)。HGFは容量血管の拡張により血圧を低下させるため、心拍数は30%まで増加した。しかしながら、この血圧低下は、rh−HGF投与中止や昇圧剤治療を必要とせず、患者1では200〜300mLの輸液のみで血圧は直ちに回復し、HGF投与終了後には安静時のレベルに戻った。前臨床動物実験(
図1C)で観察されたように、あらかじめ輸液することで、HGFによる血圧低下は改善された。いずれにせよ、HGF注入中に観察された血圧の低下は可逆的であり、患者の全身状態に影響しなかった。患者2及び3もrh−HGF注入中に血圧低下を示したが(患者4は示さなかった)、全身状態は追加の輸液やrh−HGF投与の中止を行なわなくても安定していた。患者2(HGF投与期間の3日目に肝性脳症から覚醒した)は、HGF投与中、心拍数が最大約30%増加したものの(
図4)、いかなる症状を患うこともなかった。
全ての患者が、登録時にアルブミンの尿中排泄のごく軽度から軽度の増加を示し、また、試験期間中尿量の減少を示した。しかしながら、rh−HGFの反復投与によってもアルブミンの尿中排泄は増加しなかった。また尿量は、輸液量、循環血漿量、利尿剤の投与など、rh−HGF投与以外のいくつかの要因により影響を受けた。4名の患者のうち3名において、低カリウム血症、貧血、血小板数減少、PT延長、アンチトロンビンIIIの減少、及び血尿が観察されたが、これらの有害事象とrh−HGF投与との間の因果関係を示す明らかな証拠はなかった。患者3(観察期間中に肝不全の進行により死亡した)は呼吸器不全を示した。しかしながら、この重篤な有害事象は肝不全の進行に付随するものであり、rh−HGFによるものではなかった。その他、rh−HGFの単回投与又は反復投与により直接的に引き起こされた有害事象は試験期間中観察されなかった。特に重要な点は、患者2(肝性脳症から覚醒した)が、rh−HGF投与中に症状や兆候を示さなかったことである。従って、連続14日までの段階的増加を伴うrh−HGFの静脈内投与は非常に良好な耐容性を示すと結論した。
【0082】
(4)試験期間中の肝性脳症及び各種評価パラメータの推移
4名の患者のうち3名は、登録時に肝性脳症を示した(表1)。患者1は、プロトコル治療の開始時にグレードIIの肝性脳症を呈していた。この患者は、試験期間中も試験期間後も肝性脳症から回復しなかった。最終的に、肝性脳症の発症から68日後に死亡した(
図7−1)。患者2(FHSAであり、最終的に生存した)では、HGF投与期間中、2、4及び8日目に血漿交換を行い、肝性脳症は3日目までに改善した(
図7−2)。患者3は、登録時に肝性脳症の進行を示した。rh−HGF投与期間中、意識レベルは一時的に改善したが、肝性脳症は観察期間中進行し続け、肝性脳症発症の28日後に死亡した(
図7−3)。患者4は、登録時に肝性脳症から既に回復しており、試験期間中、意識レベルの低下は示さなかった(
図7−4)。
プロトロンビン時間国際標準化比(PT−INR)、総ビリルビン(T−Bil)及び血清アルブミンは、rh−HGF投与期間中及び観察期間中、影響を受けなかった(
図5)。
次に、rh−HGF投与の患者の生存への効果を評価した。日本におけるFH又はLOHF患者の全国的調査(1998〜2002年)では、本試験の対象患者基準を満たす患者(n=192)の生存率はわずか17.7%(n=34)であり、FHSA及びLOHFから回復しなかった患者(n=190)のうち71%(n=135)が肝性脳症の発症後28日以内に死亡している。これに対し、本臨床試験では、試験期間中4例中3例(75%)が生存し、最終的に2例(50%)を救命できた。本結果は、HGFが肝移植適応外のFH又はLOHF患者における有効な治療手段をなり得ることを強く示唆するものである。
本試験において使用したrh−HGFの用量及び/又は投与期間は、より有益な効果を生むには少なかった可能性がある。本試験のために選択した用量は、前臨床動物試験において使用した用量のスケーリングに基づいており、いくつかの反復投与毒性試験において安全性が保証されたものであるが、動物実験の結果は少なくとも4倍の用量増加が可能であることを示している。また、この用量(げっ歯類においては0.1mg/kgに相当する)は、正常ラット及び部分肝切除ラットにおいて肝再生を促進することが報告されているが[Ishii, T. et al., J. Biochem., 1995;117:1105-1112]、重篤な肝臓障害を伴う場合における有効性を保証するものではない。一方、治療期間は、1998〜2002年の日本におけるFH及びLOHFの全国的調査に基づく。この調査では、FHSA及びLOHFから回復した患者(n=52)のうち90.4%(n=47)は肝性脳症を発症してから14日以内に覚醒し、回復しなかった患者(n=190)のうち71%(n=135)は肝性脳症の発症後28日以内に死亡した。以上の知見に基づいて、安全性及び有効性を評価するためには、14日間のrh−HGF投与及びその後の14日間の経過観察で十分であると判断したが、FHやLOHFのような重篤な急性肝不全においては、本試験で採用したrh−HGFの用量は、肝再生を誘導し肝障害を抑制するのには不十分であるか、あるいは14日間という投与期間では短い場合もあることが示唆された。
【0083】
(5)試験期間中の血清AFP及び可溶性Fas値の推移
患者1〜4について、試験期間中の血清α-フェトプロテイン(AFP)及び可溶性Fas値をモニタリングした。各症例において、rh−HGF投与前(1日目)、投与3日目、投与5日目、投与8日目、投与終了翌日(1日目)、投与終了7日目及び投与終了14日目の早朝に採血を行い、血清AFP値を発光酵素免疫測定法(CLEIA法)で測定した。各血清サンプルについてアラニントランスアミナーゼ(ALT)レベルも測定した。また、rh−HGF投与前及び投与終了翌日に血清可溶性Fas値を測定した。さらに、rh−ヒトHGF投与前、投与終了直後および投与終了14日目に腹部コンピュータ断層撮影(CT)検査による肝容量測定を実施した。
投与前、投与8日目、投与終了翌日、投与終了7日目及び投与終了14日目の血清AFP値を
図6にプロットした。患者1において、血清AFP値は、rh−HGF投与前は7.0 ng/mLと基準値(10.0 ng/mL以下)内であったが、rh−HGF投与3日目に15.0 ng/mLと上昇し、投与11日目に38.9 ng/mLに達した。投与終了翌日には32 ng/mLと軽度減少し、その後投与終了7日目には23.5 ng/mLとさらに減少、投与終了14日目には8.3 ng/mLと基準値内となった。このように血清AFP値がrh−HGF投与中に速やかに上昇し、投与終了後に低下したことから、HGFの薬効、すなわちHGFによる肝再生促進作用をみるためのバイオマーカーとなると考えられた。一方、患者3では、血清AFP値は、rh−HGF投与前から試験期間を通じて基準値内であり、rh−HGF投与によっても肝再生誘導が起こらなかったと考えられる。患者1及び3はいずれも死亡例ではあるが、臨床経過は大きく異なり、患者1ではrh−HGF投与期間(13日間)とその後の観察期間(14日間)は病状の進行もなく全身状態も安定しており、発症から死亡までの期間は79日(脳症発現から死亡までの期間は68日間)と生存期間の延長を認めたのに対し、患者3は極めて重篤な症例で、11日間のrh−HGF投与後、観察期間の13日目に死亡した。即ち、患者1ではrh−HGF投与により肝再生誘導が起こり、延命効果がみられたが、患者3では肝再生を誘導するに至らなかったと考えられる。患者2及び4では、血清AFPはいずれもrh−HGF投与前に軽度上昇しており、既にわずかな肝再生が誘導されていたことが推測されるが、これらの患者はrh−HGFと並行してプレドニゾロン(PSL)の投与を受けており(
図7−2及び7−4)、PSLがAFP発現に影響したために、いずれの症例においても肝再生誘導が起こっているが血清AFPは漸減しているものと考えられる。実際、患者2では、rh−HGF投与から約3ヶ月後に腹腔鏡および肝生検を実施したところ、肝再生像が観察されている。
一方、従来より肝再生誘導の指標となり得ると言われている肝容量(患者1)は、rh−HGF投与前1055mLで、投与終了翌日1076mL、投与終了14日目984mLと、rh−HGF投与中には大きな変化はみられず、投与終了後に軽度減少した(表3)。血清アルブミン値は患者1〜4のいずれにおいてもrh−HGF投与中には大きな変化はみられなかった(
図5)。従って、AFPは肝容量や血清アルブミンよりも優れた肝再生効果の指標(バイオマーカー)となり得ることが示された。
【0084】
【表3】
【0085】
一方、血清可溶性Fas値は、患者1、3及び4において、rh−HGFの投与前後で上昇が認められたのに対し、患者2では有意な変化はみられなかった(
図6)。患者1では、肝細胞障害の血清マーカーと考えられているALTは比較的低値であったが、rh−HGF投与終了後に軽度上昇した。これはHGF治療によるアポトーシス抑制が投与終了により解除され、軽度の肝細胞障害が誘導されたためとも考えられ、患者1では肝再生誘導に加えて抗アポトーシス効果も誘導されており、これらが生存期間の延長に寄与したと考えられる。一方、患者3では、可溶性Fasはrh−HGF投与によって上昇しているものの、投与前・投与後のいずれも他の3例に比して低値であり(
図6)、rh−HGFによる抗アポトーシス作用が、本症例の極めて重篤な肝障害を凌駕するほどには十分発揮されなかった可能性を示唆する。投与期間中の血清ALT値の低下(
図6)も、本症例においてrh−HGF投与により抗アポトーシス効果が誘導されていたことを支持する。
また、患者2では、ステロイド投与によって血清ALT値の改善が得られているのに対し、患者4では、血清ALTはより高値で(肝細胞障害がより強く)、ステロイド投与によっても血清ALT値はほとんど改善していない。両症例ともrh−HGF投与前の可溶性Fasは同レベルで、それは肝細胞障害に対して代償的に(肝細胞を保護するための生体反応として)上昇しているものと考えれば、ステロイド投与によって血清ALT値が低下(肝細胞障害が抑制)した患者2では、rh−HGFによる抗アポトーシス作用(可溶性Fas上昇)を必要としなかったのに対し、患者4では肝細胞障害(血清ALT上昇)が持続したために、代償的な可溶性Fas上昇に加えて、rh−HGFによる可溶性Fasが誘導されアポトーシスを抑制し、このことが最終的に生存につながった可能性を示唆している。
このようにAFPと可溶性Fasとは、それぞれHGFの肝再生促進作用と抗アポトーシス作用のバイオマーカーとして利用可能であり、肝障害を有する患者における両マーカーのレベルのHGF投与前後の変化を測定し、これらを組み合わせて(必要に応じてALT値等の他のバイオマーカーとも組み合わせて)患者の臨床経過と照らし合わせることにより、該患者において、HGFの投与によって肝再生誘導及びアポトーシス抑制の両方もしくはいずれか一方の効果が誘導されているか否かを判定し得ることが示された。