(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記極性溶媒がN,N-ジメチルホルムアミドであり、環状エーテル系溶媒がテトラヒドロフラン又は1,4-ジオキサンであることを特徴とする、請求項2に記載の二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマーの調製方法。
前記エーテル系溶媒は、テトラヒドロフラン又は1,4-ジオキサンであることを特徴とする、請求項6に記載の二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマーの調製方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、TMC、GA、LA及びCLなどのような従来の環状カーボネートモノマー又は環状エステルモノマーは構造が比較的単一であり、修飾に使用するための官能基が欠如しているので、調製した重合体の多くが後置修飾(Postmodification)することが困難となり、医学的ニーズを満たすことが困難となり、例えば、それらの伝統的なカーボネートモノマーに基づいた重合体の薬物持体又は表面修飾コート層は安定性が劣るという致命的な欠点がある。その体内での安定性をどのように向上させるかは解決すべき課題となっている。
【0004】
また、従来技術では、環状カーボネートモノマーの調製及び/又は開環重合のプロセスにおいて、その構造には反応しやすい基が存在するため、保護と脱保護のステップが必要とすることは多く、それにより調製プロセスが複雑となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマーを提供することを目的とする。
【0006】
上述の目的を達成するために、本発明の具体的な形態は、二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマーであって、その化学構造式が以下の通りである。
【0007】
【化1】
【0008】
上述環状カーボネートモノマーの調製方法は、極性溶媒でジブロモネオペンチルグリコールと水硫化ナトリウム一水和物を反応させて化合物Aを得るステップと、その後、空気中で化合物Aを酸化させて化合物Bを得るステップと、最後に、窒素雰囲気下、環状エーテル系溶媒で化合物Bとエチルクロロホルメートを反応させて前記二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマーを得るステップを含む。
【0009】
上述した形態においては、前記ジブロモネオペンチルグリコールと水硫化ナトリウム一水和物のモル比が(2.5〜10):1であり、化合物Bとエチルクロロホルメートのモル比が1:(2〜4)である。
【0010】
好ましい形態においては、上述二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマーの調製方法は、
(1)水硫化ナトリウム一水和物を極性溶液に溶解し、ジブロモネオペンチルグリコールを等圧滴下ロートで徐々に滴下し、50℃の条件で48時間反応させ、化合物Aを得る;
前記化合物Aの化学構造式は以下の通りである;
【0011】
【化2】
【0012】
(2)空気中で化合物Aを酸化させて化合物Bを得、前記化合物Bの化学構造式は以下の通りである;
【0013】
【化3】
【0014】
(3)窒素雰囲気下、化合物Bとエチルクロロホルメートを環状エーテル系溶媒に溶解し、その後、等圧滴下ロートでトリエチルアミンを徐々に滴下し、氷水浴中で4時間反応させ、二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマーを得、前記環状カーボネートモノマーの化学構造式は以下の通りである;
【0015】
【化4】
【0016】
好ましい形態においては、前記極性溶媒はN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)であり;前記エーテル系溶媒はテトラヒドロフランである。
【0017】
好ましい形態においては、化合物Aをエーテル系溶媒に溶解させた後、空気中で酸化させて化合物Bを得る。このようにして、化合物Aの酸化速度は向上した。エーテル系溶媒は、テトラヒドロフランや1,4-ジオキサンであってもよい。反応プロセスや精製反応条件を簡略化するためには、ステップ(2)で化合物Aを溶解するための溶媒とステップ(3)で化合物Bを溶解するための溶媒は一致である。
【0018】
好ましい形態においては、上述ステップ(1)、ステップ(3)が終了後に精製処理を行い、具体的には:
(1)化合物Aの精製:反応終了後、減圧で反応物の溶媒を留去し、その後蒸留水で希釈し、更に酢酸エチルで抽出し、最後に有機相を回転蒸発させて黄色い粘稠状の化合物Aを得る;
(2)二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマーの精製:反応終了後、ろ過し、濾液は回転濃縮を経て、更にエーテルで再結晶し、黄色い結晶、即ち二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマーを得る。
【0019】
上述減圧蒸留、抽出、回転蒸発、回転濃縮及び再結晶はいずれも従来技術に属するものであり、当業者は必要に応じて適宜選択できるものである。本発明は、化合物Aを精製する際に、酢酸エチルで4回抽出することと、環状カーボネートを精製する際に、ジエチルエーテルで3-5回再結晶することが好ましい。
【0020】
上述二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマーの調製プロセスは以下のように示す。
【0021】
【化5】
【0022】
上述二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマーは、開環重合により側鎖に二硫黄5員環を含むポリカーボネートが得られ、該二硫黄5員環基は開環重合に影響しないため、保護と脱保護プロセスは必要とされていない。例えば、上述環状カーボネートモノマーは、ジクロロメタンの中で、ポリエチレングリコールを開始剤とし、ビス[ビス(トリメチルシリル)アミド]亜鉛を触媒として開環重合し、ブロックポリマーを形成することができる。その反応式は以下の通りである。
【0023】
【化6】
【0024】
上述環状カーボネートモノマーは、さらに他の環状エステル、環状カーボネートモノマーと開環共重合反応し、ランダム共重合体及びブロック共重合体を調製することができる。前記他の環状カーボネートは、トリメチレン環状カーボネート(TMC)を含み、前記他の環状エステルモノマーは、カプロラクトン(ε-CL)、ラクチド(LA)又はグリコリド(GA)を含む。
【0025】
該側鎖に二硫黄5員環を含む機能性ポリカーボネートは、触媒量の還元剤、例えばジチオスレイトール又はグルタチオンの触媒作用下で安定な化学的架橋を形成できるが、細胞内での還元環境下で急速に脱架橋される。したがって、該側鎖に二硫黄5員環を含む機能性ポリカーボネートは、例えば循環安定な薬物持体の調製に用いられることができ、標的細胞内において薬物を急速に放出できるというような優れた実用的価値を有する。
【発明の効果】
【0026】
上述した形態によれば、本発明は従来技術と比べて以下のようなメリットがある。
1.本発明にかかる二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマーは、初めて開示されたものであって、2つの反応炉(三つのステップ)さえあれば効率よく容易に調製することができ、従来技術における保護と脱保護プロセスは必要とされていない。
【0027】
2.本発明で開示された二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマーは、二硫黄5員環基が環状カーボネートモノマーの開環重合に影響しないため、従来技術における保護と脱保護プロセスを必要することなく、開環重合して側鎖に二硫黄5員環を含む機能性ポリカーボネートを得ることができる。
【0028】
3.本発明で開示された環状カーボネートモノマーの調製は簡単であり、該モノマーから簡単に開環重合して還元に敏感且つ可逆的に架橋できるという特性を有するカーボネート重合体が得られる。該重合体はさらに自己組織化することができ、薬物放出系の制御、組織工学とバイオチップに用いられ、生物材料においても良好な応用価値を有する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、実施例と図面に基づいて本発明をさらに説明する。
実施例1:二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマー(CDC)の合成
【0032】
1、水硫化ナトリウム一水和物(28.25g、381.7mmol)を400mL N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、50℃で完全溶解まで加熱し、ジブロモネオペンチルグリコール(20g、76.4mmol)を一滴ずつ滴下し、48時間反応させた。減圧で反応物の溶媒DMFを留去し、その後200mL蒸留水で希釈し、250mL酢酸エチルを4回抽出し、最後に有機相を回転蒸発して黄色い粘稠状の化合物Aを得、収率が70%であった。
【0033】
2、400mLのテトラヒドロフラン(THF)に溶解した化合物Aを空気中で24時間放置し、分子間のメルカプト基が酸化され硫黄-硫黄結合となり、化合物Bを得、収率が98%超であった;
3、窒素雰囲気下、化合物B(11.7g、70.5mmol)を干燥したTHF(150mL)に溶解し、完全溶解まで攪拌した。次に、0℃まで冷却し、エチルクロロホルメート(15.65mL、119.8mmol)を添加し、その後Et
3N(22.83mL、120.0mmol)を一滴ずつ滴下した。滴下終了後、該反応系は氷水浴の条件下で4h反応し続けた。反応終了後、ろ過により生成したEt
3N・HClを除去し、濾液は回転濃縮を経て、最後にジエチルエーテルで複数回の再結晶を行い、黄色い結晶、即ち二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマー(CDC)を得、収率が64%であった。
【0034】
図1は上述の生成物であるCDCの核磁気スペクトログラムであって、
1H NMR(400MHz、CDCl3):δ3.14(s、4H)、4.51(s、4H)。元素分析が:C:41.8%、H:4.20%、O:24.3%(理論:C:41.67%、H:4.17%、O:25%、S:33.3%)、CDCモノマーの質量分析:MS:192.5(理論分子量:192)、
図2を参照する。
図3は、異なる濃度の上述生成物のモノマーCDCのテトラヒドロフラン溶液のUVスペクトログラムであり、モノマーでは二硫黄5員環が330nmで吸収され、吸収強度がモノマー濃度の増大に伴い増強した。
【0035】
実施例2:二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマー(CDC)の合成
1、水硫化ナトリウム一水和物(28.25g、381.7mmol)を400mLジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、40℃で完全溶解まで加熱し、ジブロモネオペンチルグリコール(20g、76.4mmol)を一滴ずつ滴下し、48時間反応した。減圧で反応物の溶媒DMSOを留去し、その後200mL蒸留水で希釈し、250mL酢酸エチルで4回抽出し、最後に有機相回転蒸発により黄色い粘稠状の化合物Aを得、収率が42%であった。
【0036】
2、400mLの1,4-ジオキサンに溶解した化合物Aを空気中で放置し、分子間のメルカプト基が酸化され硫黄-硫黄結合となり、化合物Bを得、収率が98%超であった。
【0037】
3、窒素雰囲気の保護下で、化合物B(11.7g、70.5mmol)を乾燥した1,4-ジオキサン(150mL)に溶解し、完全溶解まで攪拌した。次に、0℃まで冷却し、エチルクロロホルメート(15.65mL、119.8mmol)を添加し、その後Et
3N(22.83mL、120.0mmol)を一滴ずつ滴下した。滴下終了後、該反応系を氷水浴の条件下で4h反応し続けた。反応終了後、生成したEt
3N・HClをろ過で除去し、濾液を回転濃縮し、最後にジエチルエーテルで複数回の再結晶を行い、黄色い結晶、即ち二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマー(CDC) を得、収率が32%であった。
【0038】
実施例3:ジブロックポリマーPEG5k-b-PCDC2.8kの合成
【0040】
式中、m=114、n=14.6。
窒素環境下で、0.3g(1.56mmol)二硫黄5員環官能基含有環状カーボネートモノマー(CDC)、2mLジクロロメタンを封止反応器に入れ、その後分子量が5000のポリエチレングリコール0.5g(0.1mmol)と触媒であるビス[ビス(トリメチルシリル)アミド]亜鉛のジクロロメタン溶液(0.1mol/L)1mLを入れ、次に反応器を封止し、グローブボックスから取り出し、40℃のオイルバスに入れて1日間反応させ、その後氷酢酸で反応を中止させ、ジエチルエーテル (無水)の中で沈殿させ、最終にろ過、真空乾燥を経て生成物である環状カーボネート重合体PEG5k-b-PCDC2.8kを得た。
【0041】
図4は前記環状カーボネート重合体の核磁気スペクトログラムである:
1H NMR(400MHz、CDCl
3):3.08(s、-CCH
2)、3.30(m、-OCH
3)、4.05(s、-CH
2OCOCHCH
2-)、4.07(s、-OCH
2CCH
2O-)、4.31(m、-CCH
2)。
【0042】
実施例4:ジブロックポリマーPEG5k-P(CDC2.5k-co-CL3.9k)の合成
【0044】
式中、m=114、x=21.9、y=13.0、n=34.9。
窒素環境下で、0.28g(1.46mmol)CDCモノマーと0.4g(3.51mmol)のカプロラクトン(ε-CL)を3mLジクロロメタンに溶解し、それを封止反応器に入れ、その後分子量が5000のポリエチレングリコール0.5g(0.1mmol)と1mの触媒であるビス[ビス(トリメチルシリル)アミド]亜鉛のジクロロメタン溶液(0.1mol/L)を入れ、次に反応器を封止して、グローブボックスから取り出し、40℃のオイルバスに入れて1日間反応させ、その後氷酢酸で反応を中止させ、ジエチルエーテル (無水)の中で沈殿させ、最終にろ過、真空乾燥を経て生成物である環状カーボネート重合体PEG5k-P(CDC2.5k-co-CL3.9k)を得た。
【0045】
図5は前記重合体の核磁気スペクトログラムである:
1H NMR(400MHz、CDCl
3):1.40(m、-COCH
2CH
2CH
2CH
2CH
2-)、1.65(m、-COCH
2CH
2CH
2CH
2CH
2-)、2.30(t、-COCH
2CH
2CH
2CH
2CH
2-)、3.08(s、-CCH
2)、3.30(m、-OCH
3)、4.03(t、-COCH
2CH
2CH
2CH
2CH
2O-)、4.05(s、-CH
2OCOCHCH
2-)、4.07(s、-OCH
2CCH
2O-)、4.31(m、-CCH
2);GPCにより測定した分子量:14.0kDa、分子量分布:1.56。
【0046】
実施例5:重合体ミセルナノ粒子PEG5k-b-PCDC2.8kの調製
透析法により重合体ミセルナノ粒子を調製した。重合体PEG5k-b-PCDC2.8kをN,N-ジメチルホルムアミド(2mg/mL)に溶解し、200μLを取り出して800μLのリン酸緩衝溶液(10mM、pH 7.4、PB)に滴下し、透析バック(MWCO 3500)に入れて一晩透析させ、水を5回交換した。透析媒体がPB(10mM、pH 7.4)である。最終には濃度0.2mg/mLの重合体ナノ粒子を得た。
【0047】
実施例6:重合体ナノ粒子PEG5k-b-PCDC2.8kの架橋、脱架橋、細胞毒性
ナノ粒子の架橋は添加した触媒量のジチオスレイトール(DTT)により行われた。重合体ナノ粒子水溶液に窒素ガスを10分間導入し、できるだけ空気を排除するようにした。その後、密閉反応器のナノ粒子溶液(1mL、0.25mg/mL、3.21×10
-5mmol)に二次水10μLに溶解したジチオスレイトール(DTT)(0.007mg、4.67×10
-5mmol、リポ酸官能基モル数10%)を添加し、密閉し、室温で攪拌して1日間反応させた。測定した粒子のサイズが150ナノメートルであり、架橋していない粒子の粒径と比べ、15%ぐらい小さくなった。架橋後のナノ粒子は、濃度を100倍希釈した後、その粒径と粒径分布がほとんど変化しなかったこと、及び生理条件下で安定であったことから、二硫黄原子による架橋はナノ粒子の安定性を大幅に向上させることができることが分かった。
【0048】
硫黄-硫黄結合は、還元剤、例えばグルタチオン(GSH)の作用下で容易に開裂することができる。窒素保護及び37℃の条件下で、架橋ナノ粒子溶液に窒素ガスを10分間導入した後、重合体ナノ粒子溶液中の最終濃度が10mMとなるようにGSHを入れた。架橋ナノ粒子の粒径は経時的に徐々に破壊される。これは、重合体における硫黄原子2個を含む環は、多量な還元物質の存在下で開裂することを示している。細胞質の中にも高濃度の還元物質GSHが存在するため、調製したナノ薬物持体が循環安定であったが、細胞内に取り込まれると急速に解離して薬物が放出された。
【0049】
MTT法によって架橋ミセルナノ粒子に対する細胞毒性を測定した。使用した細胞はMCF-7(人乳腺がん細胞)細胞とRaw 264.7(マウスマクロファージ)細胞であった。MCF-7細胞又はRaw 264.7細胞を1×10
4個/mLとなるように96穴プレートに播種し、各穴に100μLであり、細胞が壁に付くまで培養し、実験組に濃度の異なる重合体ナノ粒子を含む培養液を入れ、別途細胞空白対照穴と培地空白穴を設置し、平行穴を4個にした。インキュベータの中で24時間培養した後、96穴プレートを取り出し、MTT(5.0mg/mL)10μLを添加し、4時間培養し続け、その後に各穴に150μLのDMSOで溶解して生成した結晶子を添加し、マイクロプレートリーダーで492nmで吸光度(A)を測定し、培地の空白穴をゼロとし、細胞生存率を計算した。
【0051】
式中、A
Tが試験組の490nmにおける吸光度であり、A
Cが空白対照組の492nmにおける吸光度であった。重合体の濃度がそれぞれ0.1、0.2、0.3、0.4、0.5mg/mLであった。
図6はナノ粒子の細胞毒性の結果であり、
図6から分かるように、重合体ナノ粒子の濃度が0.1mg/mLから0.5mg/mLまで増大した際に、Raw264.7細胞とMCF-7細胞の生存率は依然として85%より上回り、PEG5k-b-PCDC2.8k重合体ナノ粒子は良好な生体適合性を有することが示された。
【0052】
実施例7:架橋ミセルナノ粒子PEG5k-b-PCDC2.8kの薬物負荷、体外への放出及び細胞毒性
ドキソルビシンを薬物とした。抗がん薬物であるドキソルビシンは蛍光敏感物質であるため、すべての操作が遮光条件下で行った。まず、ドキソルビシンの塩酸塩を除去し、その操作については以下の通りである。1.2mg(0.002mmol)ドキソルビシンを225μLのDMSOに溶解し、トリエチルアミン0.58mL(m=0.419mg、0.004mmol)を添加して12時間攪拌し、上層清液を吸引除去した。ドキソルビシンのDMSO溶液の濃度が5.0mg/mLであった。ナノ重合体ナノ粒PEG5k-b-PCDC2.8kをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した。ドキソルビシンのジメチルスルホキシド溶液と重合体ナノ粒子PEG5k-b-PCDC2.8kのDMF溶液を所定の薬物と重合体の質量比で均一に混合し、攪拌しながら体積の4倍となる量の二次水(15s/d)を徐々に入れ、滴下後一次水を透析した。
【0053】
薬物負荷ミセルナノ粒子の架橋も実施例5の架橋方法によって行った。100μL架橋ドキソルビシン負荷の重合体ナノ粒子溶液を冷凍乾燥し、その後3.0mL DMSOに溶解し、蛍光分光光度計で測定し、ドキソルビシンの標準曲線に合わせて包埋效率を計算した。
【0054】
以下の公式により薬物負荷量(DLC)と包埋效率(DLE)を計算した。
薬物負荷量(wt.%)=(薬物重量/重合体重量)×100%
包埋效率(%)=(薬物負荷重量/薬物総投入量)×100%
表1は上述計算した結果であり、重合体PEG5k-b-PCDC2.8kナノ粒子は小分子抗がん薬物であるドキソルビシンに対して優れる包埋作用を有することが分かった。
【0055】
表1はドキソルビシン負荷架橋ミセルナノ粒子における薬物負荷量、包埋效率の結果である。
【0057】
ドキソルビシンの放出実験は37℃の恒温シェーカーで発振(200rpm)して行った。薬物の放出は二組の重複サンプルを用いて比較し、各組がそれぞれ二つの重複サンプルを有する:第1組、10mMグルタチオン(GSH)を添加した疑似細胞内還元環境PB(10mM、pH 7.4)における架橋ドキソルビシン負荷の重合体ナノ粒子の放出;第二組、PB(10mM、pH 7.4)における架橋ドキソルビシン負荷の重合体ナノ粒子の放出;薬物負荷重合体ナノ粒子濃度が25mg/Lであり、0.5mLを取り出して放出用透析バック(MWCO:12,000-14,000)に入れ、各試験管に対応する透析溶媒25mLを入れて、所定の時間間隔で5.0mL透析バック外部媒体を取り出して測定に供するとともに、試験管に5.0mL対応する媒体を追加投入した。EDINBURGH FLS920蛍光光度計を用いて溶液中の薬物濃度を測定した。
図7はドキソルビシンの累積放出量と時間との関係を示すものである。図から分かるように、疑似腫瘍細胞の還元性物質グルタチオン(GSH)を入れた後、GSH成分を入れていないものと比べて薬物の放出が明らかに速くなり、10mM還元物質GSHの存在下で薬物負荷の架橋ナノ粒子は薬物を効率よく放出できることが示された。
【0058】
DOX負荷のPEG5k-b-PCDC2.8k架橋ナノ粒子のRaw264.7細胞、MCF-7細胞等に対する毒性についてMTT法で測定し、薬物負荷未架橋ナノ粒子及び遊離薬物を対照とした。Raw264.7細胞を例として、Raw264.7細胞を1×10
4個/mLで96穴プレートに播種し、各穴に100μL、細胞が壁に着くまで培養した。その後、実験組にそれぞれ0.01、0.1、1、5、10、50及び100μg/mLのドキソルビシン負荷架橋ナノ粒子溶液、ドキソルビシン負荷未架橋ナノ粒子溶液及び遊離ドキソルビシンを含有する新鮮な培養液を入れ、別途に細胞空白対照穴と培地空白穴を設置し、各穴の平行穴を4個にした。インキュベータで48時間培養した後、96穴プレートを取り出し、MTT(5.0mg/mL)10μLを添加し、4h培養し続けた後、各穴に150μL DMSOで溶解して生成した結晶子を添加し、マイクロプレートリーダー用いて492nmで吸光度(A)を測定し、培地の空白穴をゼロとし、細胞生存率を計算した。
図8を参照したところ、ドキソルビシン負荷の架橋ナノ粒子はRaw264.7細胞に対する半数致死濃度が4.89μg/mLであったため、DOX負荷のPEG5k-b-PCDC2.8k架橋ナノ粒子は細胞の中で効率よく薬物を放出し、またがん細胞を死滅させることできることが分かった。
【0059】
実施例8:薬物負荷PEG5k-b-PCDC2.8k架橋ナノ粒子のマウス体内での血液循環の測定
実験で体重18〜20グラム程度、4〜6週齢のC57BL/6マウス(中国科学院上海生命科学院実験動物センター)を採用し、秤量後体重によって均一に組分けし、尾静脈よりマウス体内に薬物負荷ナノ粒子と自由薬物を注射し、なお、DOXの投与量が10mg/kgであり、0、0.25、0.5、1、2、4、8、12及び24時間の時点に定時に約10μL採血し、分散法によって血液の重量を正確に秤量し、血液に濃度1%のトリトン100μLとDMF(中では20mMのDTT、1MのHClを含む)500μLを入れて抽出しし、遠心分離(20000回転/分、20分)後、上層清液を取り、蛍光によって各時点でのDOX量を測定した。
【0060】
図9はドキソルビシン負荷の重合体PEG5k-b-PCDC2.8k架橋ナノ粒子のマウス体内における血液循環の結果を示す図である、横軸が時間点であり、縦軸が合計DOX注射量(ID%/g)に占める1グラム血液におけるDOX量である。図から分かるように、自由DOXの循環期間が短くて2時間までにすでにDOXが検出されにくくなるが、薬物負荷架橋ナノ粒子が24時間後に依然として4ID%/gを有した。計算によりそれがマウス体内の排出半減期が4.67時間となり、一方、自由DOXがただ0.21時間となるため、薬物負荷架橋ナノ粒子はマウス体内で安定し、比較的長い循環期間を持つことが分かった。
【0061】
実施例21:薬物負荷PEG5k-b-PCDC2.8k架橋ナノ粒子の黒色腫マウスに対する生物分布
実験で体重18〜20グラム程度、4〜6週齢のC57BL/6マウスを採用し、皮下注射により1×10
6個のB16黒色腫細胞を注射し、約二週間後、腫瘍の大きさが100〜200mm
3となった際に、尾静脈注射によりマウス体内に薬物負荷ナノ粒子と自由DOXを注射し(DOX投与量が10mg/kg)、6、12及び24時間後にマウスを死なせ、腫瘍及び心臓、肝臓、脾臓、肺臓と腎臓組織を取り出して清浄し、秤量後に500μL1%のトリトンを添加し、ホモジナイザーで粉砕させ、更に900μL DMFを添加して抽出(中では20mMのDTT、1MのHClを含む)を行った。遠心分離(20000回転/分、20分)後、上層清液を取り、蛍光により各時間点のDOX量を測定した。
【0062】
図10はドキソルビシン負荷の重合体PEG5k-b-PCDC2.8k架橋ナノ粒子の黒色腫マウスに対する生物分布の結果を示した図である。横軸が組織器官であり、縦軸が合計DOX注射量(ID%/g)に占める1グラムの腫瘍又は組織におけるDOX量である。薬物負荷ナノ粒子の6、12及び24時間の時点における腫瘍の蓄積量がそれぞれ3.12、2.93、2.52ID%/gであった、自由DOXの1.05、0.52と0.29ID%/gに比べて3〜12倍増大し、薬物負荷架橋ナノ粒子はEPR効果により腫瘍部位に多く蓄積され、且つ長時間に継続できることが示された。
【0063】
実施例22:薬物負荷PEG5k-b-PCDC2.8k架橋ナノ粒子の黒色腫マウス対する治療実験
実験で体重18〜20グラム程度、4〜6週齢のC57BL/6マウスを採用し、秤量後、体重によって均一に組分けし、皮下注射により1×10
6個のB16黒色腫細胞を注射し、約一週間後、腫瘍の大きさが30〜50mm
3になった際に、0、2、4、6及び8日間において尾静脈注射によりマウス体内に薬物負荷ナノ粒子と自由DOXを注射し、なお、薬物負荷ナノ粒子におけるDOX量が10、20、30mg/kgであり、自由DOXの投与量が10mg/kgであった、0日間から15日間までに毎日各組のマウスの体重を測り、ノギスで腫瘍の体積を正確に測った。なお、腫瘍体積の計算方法は、V=(L×W×H)/2(式中、Lが腫瘍の長さ、Wが腫瘍の幅、Hが腫瘍の厚さ)である。46日間までにマウスの生存状況を観察し続けた。
【0064】
図11はドキソルビシン負荷の重合体PEG5k-b-PCDC2.8k架橋ナノ粒子の黒色腫マウスに対する腫瘍の増殖抑制曲線図である。
図12はマウス体重の変化曲線図である。
図13はマウスの生存曲線図である。図から、DOX濃度が30mg/kg、DOX負荷したナノ粒子で16日間治療した後、腫瘍が明らかに抑制された一方、DOXが腫瘍の増殖が抑制されたが、マウスに対して副作用が大きいことが分かった。薬物負荷ナノ粒子におけるDOXの濃度が30mg/kgになったとしても、マウスの体重がほとんど変化しないため、薬物負荷ナノ粒子はマウスに対して副作用がないことが示された。それに対して、7日間にDOX組のマウス体重が23%低下したのはDOXのマウスに対する副作用が大きいことが示された。同様にDOX濃度30mg/kgであるものの、46日間DOX負荷のナノ粒子で治療した組ではマウスがすべて存活したが、10日間DOX治療したのはすべて死亡した。そして対照とするPBS組のマウスは35日間にすべて死亡した。したがって、該薬物負荷ナノ粒子は腫瘍の増殖を効率よく抑制し、さらにマウスに対して副作用がなく、担がんマウスの生存期間も延長させることができる。
【0065】
以上の結果から、本発明のモノマーで調製して得られた重合体は、良好な生体適合性を有し、薬物持体として適用する際に、抗腫瘍薬物の体内での循環期間を増加させ、薬物が腫瘍部位の蓄積率を増加させ、薬物が正常組織への損傷を回避し、腫瘍細胞を効果的に死滅させることができるとともに正常細胞への影響が小さい。