【文献】
FERRO, G.,Overview of 3C-SiC crystalline growth,Mater. Sci. Forum,スイス,Trans Tech Publications,2010年,Vol. 645-648,pp. 49-54
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ケイ素(Si)および炭素(C)を含む原料溶液中で、液相成長法によりSiC種結晶の(0001)面に3C−SiC単結晶をステップフロー成長させる結晶成長工程を備え、
前記SiC種結晶は、(0001)面にオフ角が形成された6H−SiCまたは4H−SiCであり、
前記オフ角は(0001)面から[1−100]方向±15°の範囲となるように形成されている3C−SiC単結晶の製造方法。
ケイ素(Si)および炭素(C)を含む原料溶液中で、液相成長法によりSiC種結晶の(111)面に3C−SiC単結晶をステップフロー成長させる結晶成長工程を備え、
前記SiC種結晶は、(111)面にオフ角が形成された3C−SiCであり、
前記オフ角は(111)面から[11−2]または[−1−12]方向±15°の範囲となるように形成されている3C−SiC単結晶の製造方法。
【背景技術】
【0002】
SiC(炭化ケイ素)は熱的および化学的に非常に安定な半導体材料である。SiCは、電子デバイスなどの基板材料として現在広く用いられているケイ素(Si)と比較して、禁制帯幅2〜3倍程度、絶縁破壊電圧が約10倍である。このためSiC単結晶は、ケイ素を用いたデバイスを超えるパワーデバイスの基板材料などとして期待されている。
【0003】
SiCは200種類以上の多くの結晶多形を持つといわれている。SiCの結晶多形とは、化学量論的には同じ組成でありながら、Si−C結合を持つ正四面体構造からなる正四面体構造層の積層順序の異なる結晶である。以下、特に説明のない場合には、SiCの結晶多形を単に多形と略する。代表的な多形として、3C−SiC、6H−SiC、4H−SiC、15R−SiCが挙げられる。ここで、Cは立方晶、Hは六方晶、Rは菱面体構造、数字は積層方向の一周期中に含まれる正四面体構造層の数を表す。このうち、3C−SiCはSiC単結晶における唯一の立方晶構造であり、電子移動度に異方性のない特性を持つ。
【0004】
ところで、集積化に適した回路素子としてMOS素子が知られている。MOS素子は、金属と半導体との間にSiO
2等の酸化物が挟まれてなる積層構造を持つ。MOS素子においては、半導体と酸化物との界面状態を改善することが重要である。具体的には、界面準位密度を減少させて、電子移動度を向上させることが重要である。MOS素子において、酸化物としてSiO
2を用い、半導体として3C−SiC単結晶を用いると、半導体として4H−SiC単結晶を用いた場合よりも界面準位密度が低いために、電子移動度(チャネル移動度)が向上することが知られている。つまり、MOS素子、および、MOS構造をゲートに用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)等には、3C−SiC単結晶が有効である。
【0005】
3C−SiCの製造方法としては、入手が比較的容易であるSiや4H−SiC、6HーSiCを種結晶(基板)として用い、3C−SiCを結晶成長(二次元核成長)させる方法が知られている。このような方法でSiの(111)面や、4H−SiCや6H−SiCの(0001)面上に3C−SiCを結晶成長させる場合には、2種の3C−SiCが生じることが知られている。具体的には、
図1に示すように積層順序がABCABC…となる3C−SiC(I)と、
図2に示すように積層順序がACBACB…となる3C−SiC(II)との2種である。このように積層順序の異なる2種の結晶は、双晶と呼ばれている。これら2種の3C−SiCの境界には、double positioning boundary(DPB)と呼ばれる結晶欠陥が形成される。DPBはパワーデバイスにおいて電流のリーク源となるため、DPBの低減が望まれている。
【0006】
DPBを低減するための方法として、vapor−liquid−solid(VLS)法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。この方法によると、6H−SiC上に3C−SiCを結晶成長させるとともに、DPBの低減を図り得ると考えられる。しかしこの方法によって得られる結晶の膜厚は数μm程度であり、大きな3C−SiC単結晶を工業的に得るのは極めて困難である。
【0007】
また、chemical vapor deposition(CVD)法によって15R−SiC上に3C−SiCを結晶成長させる方法も提案されている(例えば、非特許文献2参照)。しかしこの方法で種結晶として用いている15R−SiCは、現状では非常に入手し難い問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、2種の3C−SiCの境界にDPBが生じるのであれば、2種の3C−SiCの一方を優先的に成長させることが、DPBの低減のために有効だと考えられる。本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、2種の3C−SiCの一方を優先的に成長させつつ3C−SiC単結晶を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者等は、鋭意研究の結果、特定の条件でSiC種結晶を成長させることで、2種の3C−SiCの一方を優先的に成長させ得ることを見出した。
【0011】
すなわち、上記課題を解決する本発明の3C−SiC単結晶の製造方法は、ケイ素(Si)および炭素(C)を含む反応雰囲気下で、SiC種結晶の(0001)面に3C−SiC単結晶をステップフロー成長させる結晶成長工程を備え、
前記SiC種結晶は、(0001)面にオフ角が形成された6H−SiCまたは4H−SiCであり、
前記オフ角は(0001)面から[1−100]方向±15°以内の範囲となるように形成されている方法である。
【0012】
上記した本発明の製造方法において、オフ角を(0001)面から[1−100]方向±15°以内の範囲となるように形成する方法を、
図20を基に説明する。
【0013】
図20中実線は、オフ角形成後の種結晶、および、この種結晶における各方向を表す。また、
図20中2点鎖線は、オフ角形成前の種結晶、および、この種結晶における各方向(想像線)を表す。
図20中2点鎖線で示す各方向は、
図20中実線で示す各方向を種結晶表面に投影したものである。
【0014】
図20に示すように、[11−20]方向を回転軸として、種結晶表面の法線[0001]方向がθ°傾くようにオフ角θを設ける。オフ角θは、オフ角形成前の種結晶の表面、つまり(0001)面において[1−100]方向に形成するのが特に好ましいが、許容できる範囲がある。この範囲は、オフ角形成後の法線を回転軸とし、この法線方向から[1−100]方向に向けて90°回転した方向(オフ角形成後の結晶表面における[1−100]方向の投影線)を中心として、±15°以内となる方向である。
【0015】
また、上記課題を解決する本発明の他の3C−SiC単結晶の製造方法は、ケイ素(Si)および炭素(C)を含む反応雰囲気下で、SiC種結晶の(111)面に3C−SiC単結晶をステップフロー成長させる結晶成長工程を備え、
前記SiC種結晶は、(111)面にオフ角が形成された3C−SiCであり、
前記オフ角は(111)面から[11−2]または[−1−12]方向±15°の範囲となるように形成されている方法である。この場合にも、
図20に示す方法と同様に、オフ角の形成方向を設定すれば良い。
【0016】
これらの本発明の製造方法によると、双晶の少ない3C−SiC単結晶を得ることができる。これは、後述するように、2種の3C−SiCの成長速度が結晶方位に依存して異なることによると考えられる。また、本発明の製造方法によると、結晶成長自体を特殊な方法でおこなうのではないため、大きな3C−SiC単結晶を容易に得ることができる。
【0017】
本発明のSiC単結晶の製造方法は、下記の(1)〜(4)の何れかを備えるのが好ましく、(1)〜(4)の複数を備えるのがより好ましい。
(1)前記結晶成長工程において、前記種結晶をケイ素(Si)および炭素(C)を含む原料溶液中で液相成長法によりステップフロー成長させる。
(2)前記SiC種結晶として6H−SiCまたは4H−SiCを用いる場合、前記オフ角は(0001)面から[1−100]方向±10°の範囲となるように形成されている。
(3)前記SiC種結晶として3C−SiCを用いる場合、前記オフ角は(111)面から[11−2]または[−1−12]方向±10°の範囲となるように形成されている。
【0018】
上記課題を解決する本発明の3C−SiC単結晶は、上述した本発明の製造方法の何れかで製造されたものであり、積層順序の異なる2種の3C−SiC結晶の一方を他方に比べて多く含むものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法によると、2種の3C−SiCの一方を優先的に成長させつつ3C−SiC単結晶を製造することができる。本発明の3C−SiC単結晶は2種の3C−SiCの一方を他方に比べて多く含むものであり、結晶欠陥の低減したものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の3C−SiC単結晶の製造方法によると、双晶の発生を抑制しつつSiC種結晶上に3C−SiCを結晶成長させることができる。この理由は明らかではないが、以下のように推測される。
【0022】
二次元核形成による3C−SiCの結晶成長においては、下層の積層順序を継承する立方晶配置に核形成し易いことが報告されている。このことは、ANNNI(Axial Next−Nearest Neighbor Ising)モデルを用いた計算により裏づけられている。
図3に示すように、4H−SiC(ABCBABCB…)には、ABC…とCBA…の2種類の積層順序が1:1で存在する。また、
図4に示すように、6H−SiC(ABCACB…)は、ABC…とACB…の二種類の積層順序が1:1で存在する。このため、4H−SiCや6HーSiCの(0001)面上に3C−SiCを結晶成長させる場合には、
図5に示すように、ABCABCABC…という積層順序の3C−SiC(I)と、ACBACBACB…という積層順序の3C−SiC(II)が同時に形成される。このような3C−SiC(I)、および3C−SiC(II)は、互いに鏡面対称構造を持つため、双晶と呼ばれる。双晶の境界には結晶欠陥(DPB)が形成される。
【0023】
なお、3C−SiCを種結晶として用いる場合にも、一方の積層順序のみを保ったままで3C−SiCを大きく成長させるのは困難である。何かのきっかけで上述した(I)と(II)とが入れ替わる可能性があるためである。
【0024】
参考までに、双晶が形成されている3C−SiC単結晶をノマルスキー型微分干渉顕微鏡(Olympus BH2−UMA)により撮像した顕微鏡像を
図6に示す。
図6に示すように、双晶が形成されている3C−SiC単結晶の表面には、3C−SiC(I)および3C−SiC(II)が確認される。そして3C−SiC(I)と3C−SiC(II)との間には、結晶欠陥が確認される。この顕微鏡像を基に得たEBSDマップ像を
図7に示す。
図7に示すように、このような3C−SiC単結晶の表面には、3C−SiC(I)からなる領域と、3C−SiC(II)からなる領域とがモザイク状にランダムに配置されている。
【0025】
本発明の発明者等は、鋭意研究の結果、3C−SiCが結晶成長する際の方位依存性を利用することで双晶を抑制し得ることを見出した。つまり、3C−SiCには結晶成長の速い方向と、遅い方向とがある。そして、
図5および
図6に示すように、種結晶上における3C−SiC(I)の結晶方位と、3C−SiC(II)の結晶方位とは、互いに異なっている。このため、例えば3C−SiC(I)にとって成長速度の速い方向に3C−SiC結晶を成長させれば、3C−SiC(I)を3C−SiC(II)に優先して成長させることができ、3C−SiC(II)の成長を抑制し得る。また、例えば3C−SiC(I)で3C−SiC(II)を覆えば、3C−SiC(I)でその殆ど(または全て)が占められた3C−SiC単結晶を得ることが可能である。逆もまた同様である。このような結晶成長をおこなうためには、3C−SiC単結晶をステップフロー成長させて、結晶成長方向を望み通りの方向に誘導するのが有効である。
【0026】
図8を参照して本発明の3C−SiC単結晶の製造方法をより具体的に説明する。3C−SiC単結晶の構造上、ステップフロー方向に沿って[1−10]方向を向く3C−SiCと[−110]方向を向く3C−SiCとのステップ進展速度は等価となる。一方、ステップフロー方向に沿って[11−2]方向を向く3C−SiCと[−1−12]方向を向く3C−SiCとでは、[−1−12]方向がステップフロー方向となる3C−SiCのステップ進展速度の方が大きくなる。このため、この場合には、一方の積層順序の3C−SiCが他方の積層順序の3C−SiCを覆いながら成長していき、最終的に一方の積層順序の3C−SiCが得られると予想される。
【0027】
ところで、
図9および
図10に示すように、6H−SiC上に3C−SiCを成長させた場合のそれぞれの結晶構造を比較すると、3C−SiCの[1−10]方向と[−110]方向は6H−SiCの[11−20]方向に相当し、3C−SiCの[11−2]方向と[−1−12]方向は、6H−SiCの[1−100]方向に相当する。通常市販されているオフ基板(SiC基板)は、[11−20]方向にオフ角を設けた結晶である。このオフ基板を種結晶として用いる場合、
図9に示すように、種結晶上に3C−SiCを結晶成長させると、[1−10]方向に進展する3C−SiCと[−110]方向に進展する3C−SiCからなるステップとが同じ速度で進展するため、異なる積層順序からなる2種の3C−SiC結晶(双晶)が維持されたままで3C−SiC単結晶が結晶成長する。
【0028】
本発明の発明者等は、[1−100]方向にオフ角を設けた6H−SiC単結晶(または4H−SiC単結晶)からなるオフ基板上で3C−SiCを結晶成長させることにより、双晶を抑制し得ることを見出した。
【0029】
例えば、
図10に示すように、(0001)面から[1−100]方向にオフ角を設けた6H−SiC基板上に3C−SiC単結晶をステップフロー成長させる。すると、このオフ基板、つまり種結晶上に二次元核成長した3C−SiCのステップフロー方向は[11−2]または[−1−12]方向になる。この場合、上述した結晶成長速度の方位依存性により、3C−SiC単結晶は成長速度の速い方位をステップフロー方向に向けるか、または、成長速度の遅い方位をステップフロー方向に向ける。したがって、成長速度の遅い方位をステップフロー方向に向けた3C−SiC単結晶(
図10中左側の結晶)は、成長速度の速い方位をステップフロー方向に向けた3C−SiC単結晶(
図10中右側の結晶)によって覆われる。
【0030】
このため、このような本発明の製造方法で得られる3C−SiC単結晶においては、一方の3C−SiC結晶に比べて他方の3C−SiC結晶の量が著しく少なくなるか、或いは、一方の3C−SiC結晶のみが結晶成長する。よって、本発明の3C−SiC単結晶の製造方法によると、双晶の大きく低減した3C−SiCを得ることができる。種結晶として4H−SiCを用いる場合にも同様である。
【0031】
種結晶として3C−SiCを用いる場合には、(111)面から[−1−12]または[11−2]方向にオフ角を設けた3C−SiC基板上に3C−SiC単結晶をステップフロー成長させれば良い。
【0032】
ところで、上述したオフ角の方向は、6H−SiC種結晶と4H−SiC種結晶における[1−100]方向、および、3C−SiC種結晶における[11−2]方向および[11−2]方向に必ずしも一致している必要はない。上述したように、双晶の結晶成長速度が等価になる方向、つまり、6H−SiC結晶および4H−SiC結晶における[11−20]方向、および3C−SiC結晶における[1−10]方向にオフ角を設け、当該方向に結晶成長させれば、双晶を抑制し難い。しかし、これ以外の方向に結晶成長させれば、双晶の少なくとも一部を抑制することが可能である。双晶をさらに抑制するためには、オフ角は6H−SiC結晶および4H−SiC結晶における[1−100]方向、および3C−SiC結晶における[11−2]方向または[−1−12]方向に近い角度で設けるのが好ましい。
【0033】
具体的には、6H−SiC単結晶または4H−SiC単結晶を種結晶として用いる場合には、(0001)面から[1−100]方向±15°の範囲となるようにオフ角を形成するのが好ましい。六方晶である6H−SiC単結晶または4H−SiC単結晶においては[11−20]方向と[1−100]方向とが30°毎に交互にあらわれる。このため、[1−100]方向を中心として[11−20]方向との境界である±15°までの範囲でオフ角を設ければ、双晶の発生を抑制できるためである。3C−SiC単結晶を種結晶として用いる場合には、(111)面から[11−2]方向または[−1−12]±15°の範囲となるようにオフ角を形成するのが好ましい。立方晶である3C−SiC単結晶においては[11−2]方向または[−1−12]方向と、[1−10]方向とが30°毎に交互にあらわれる。このため、[11−2]方向または[−1−12]方向を中心として[1−10]方向との境界である±15°の範囲でオフ角を設ければ、双晶の発生を抑制できる。
【0034】
さらに好ましくは、6H−SiC単結晶または4H−SiC単結晶を種結晶として用いる場合には、(0001)面から[1−100]方向±10°の範囲となるようにオフ角を形成するのが良く、3C−SiC単結晶を種結晶として用いる場合には、(111)面から[11−2]または[−1−12]方向±10°の範囲となるようにオフ角を形成するのが良い。更には、6H−SiC単結晶または4H−SiC単結晶を種結晶として用いる場合には、(0001)面から[1−100]方向±5°の範囲となるようにオフ角を形成するのが良く、3C−SiC単結晶を種結晶として用いる場合には、(111)面から[11−2]または[−1−12]方向±5°の範囲となるようにオフ角を形成するのが好ましい。なお、種結晶としては、6H−SiC単結晶を用いるのが好ましい。
【0035】
なお、本発明の3C−SiC単結晶成長方法は、液相成長法を用いても良いし気相成長法を用いても良い。気相成長法に関しては、化学気相蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)法や、物理気相成長(PVD:Physical Vapor Deposition)法等の一般的な方法を用いることができる。例えば、シランガスおよび炭化水素系ガスを原料ガスとして用いたCVD法により、3C−SiC単結晶を得ることができる。また、PVD法(昇華法とも呼ばれる)によりSiC単結晶成長をおこなう場合、SiC粉末を原料とし、2000℃以上の高温で原料を昇華させ、SiとCとからなる蒸気を低温にした種結晶上で過飽和にして、SiC単結晶を析出させることができる。
【0036】
液相成長法を用いる場合、原料溶液として、SiおよびCを含む溶液を用いる。この原料溶液(SiC溶液)に種結晶を接触させて、少なくとも種結晶近傍の溶液を過冷却状態にする。このことで、原料溶液のC濃度が種結晶近傍において過飽和状態になるようにし、種結晶上にSiC単結晶を成長(主としてエピタキシャル成長)させる。液相成長法では、熱平衡状態に近い環境で結晶成長が進行するため、積層欠陥などの欠陥の密度が低い良質な3C−SiC単結晶を得ることが可能である。また、比較的低温で結晶成長をおこなうことが可能であるため、3C−SiC単結晶を得るのに有利である。なお、原料溶液の材料は特に限定されず、一般的なものを使用することができる。例えば、原料溶液のSi源としては、SiまたはSi合金を用いることができる。具体的には、Siを主成分とし、Cr、Sc、Ni、Al、Co、Mn、Mg、Ge、As、P、N、O、B、Dy、Y、Nb、Nd、Feから選ばれる少なくとも一種を加えた合金融液等である。原料溶液のC源としては、黒鉛、グラッシーカーボン、SiC、メタン、エタン、プロパン、アセチレンなどの炭化水素ガス、および、下記に上げる元素Xの炭化物(X=Li、Be、B、Na、Mg、Al、Ca、Sc、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Br、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Ba、Hf、Ta、W、La、Ce、Sm、Eu、Ho、Yb、Th、U、Pu)から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。何れの場合にも、種結晶の表面に種結晶の多形の種類に応じた方向でオフ角を設けて、ステップフロー方向を制御しつつ結晶成長させれば、上述したように双晶の低減した3C−SiC単結晶を得ることができる。
【0037】
オフ角は、一般的な切削加工によって形成することができるが、これに限らず種々の方法で形成することができる。なお、ステップフロー方向におけるステップの幅(テラス幅)は、大きい方が好ましい。テラス幅が小さいと、ステップ上における3C−SiC単結晶の二次元核成長が生じ難くなるためである。したがって、種結晶に設けるオフ角は、これらを勘案して、上述した所定の範囲内で適宜設定するのが良い。参考までに、テラス幅の好ましい範囲は7μm以上であり、より好ましくは10μm以上である。
【0038】
種結晶は、SiC単結晶であれば良く、3C−SiC、4H−SiC、6H−SiCに代表される種々の結晶を用いることができる。
【0039】
(実施形態)
以下、具体例を挙げて、本発明のSiC単結晶およびその製造方法を説明する。
【0040】
(試験1)
高周波加熱グラファイトホットゾーン炉を用いて、3C−SiC単結晶を製造した。この単結晶成長装置を模式的に表す説明図を
図11に示す。単結晶成長装置20は、カーボン製の坩堝21と、この坩堝21を加熱する加熱要素22と、坩堝21の内部に対して進退可能である保持要素23と、坩堝21を回転させる坩堝駆動要素24と、これらを収容するチャンバー(図略)とを持つ。坩堝21は上方に開口する有底の略円筒状をなす。坩堝21の内径は33mm(または45mm)であり、深さは50mmである。加熱要素22は誘導加熱式のヒータである。加熱要素22はコイル状の導線25と、導線25と図略の電源とを接続する図略のリード線とを持つ。導線25は坩堝21の外側に巻回されて、坩堝21と同軸的なコイルを形成している。保持要素23は、ロッド状をなすディップ軸部26と、ディップ軸部26を長手方向(
図6中上下方向)に進退させるとともにディップ軸部26を回転させるディップ軸駆動要素27と、を持つ。ディップ軸部26の直径は10mmであり、ディップ軸部26の長手方向の一端部(
図11中下端部)には種結晶1を保持可能な保持部28が形成されている。
【0041】
試験1においては、この単結晶成長装置を用い、溶液引き上げ(TSSG:Top Seeded Solution Growth)法に基づいて、種結晶1を坩堝21の中の原料溶液29に浸すことで結晶成長させた。試験1における結晶成長の手順を
図12に示す。
【0042】
より具体的には、カーボン製の坩堝21(新日本テクノカーボン社製、IGS−743KII)中でSi(純度11N、株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ製)を加熱要素22により加熱することで、坩堝21に含まれるCを坩堝21中のSi融液に溶出させて、原料溶液29を得た。なお、前処理として、SiC種結晶およびSi原料は予め、メタノール、アセトン、および精製水中(18MΩ/cm)でそれぞれ超音波洗浄した。
【0043】
単結晶成長装置20における加熱要素22の設定温度は1650℃であった。加熱要素22の加熱開始後、27分間で坩堝21における原料溶液29の液面近傍における温度が1450℃になるまで昇温した。その後、SiC種結晶1(以下、単に種結晶1と呼ぶ)を保持したディップ軸部26を坩堝1中に挿入した(
図11)。その後4分間で坩堝21中の種結晶保持位置における原料溶液29の温度を1650℃にまで上昇させた。これは、種結晶1の表面を融解させることで種結晶1を清浄化するためである。このとき、坩堝21中には、最も高温である坩堝21の内底壁から種結晶1までの間に、37℃の温度差が形成された。つまり、坩堝21中に収容されている原料溶液29は、坩堝21の内底壁近傍において最も高温である。坩堝21の内底壁から軸方向すなわち
図6に示す上方向に離れる程、原料溶液29の温度は低くなる。
【0044】
なお、3C−SiCの成長を促進するために、種結晶の結晶成長開始前にチャンバー内部にN
2とHeの混合ガス(N
2:He=1:100)を供給した。加熱中はこの混合ガスの供給を停止した(無フロー)。
【0045】
種結晶1としては、気相成長法(昇華法)で製造された6H−SiC単結晶(5mm×10mm×厚さ0.35mm)を用いた。この6H−SiC単結晶には、切削加工により、[1−100]方向に4°のオフ角が設けられていた。この種結晶を、
図11に示すように、オフ角を形成した(0001)面が坩堝21中の原料溶液29に対面するように種結晶1を保持部28に取り付け、ディップ軸駆動要素27によりディップ軸部26を坩堝21の内部に向けて進行させ、種結晶1を原料溶液29に浸漬した。上述したように、原料溶液29には温度差が形成されている。原料溶液29中の低温である領域に種結晶1を保持することで、種結晶1の表面にSiC結晶が成長した。
【0046】
なお、結晶成長は坩堝加速回転法(Accelerated Crucible Rotation Technique;ACRT)に基づいておこなった。具体的には、結晶成長中は、坩堝駆動要素24によって坩堝21を回転させるとともに、ディップ軸駆動要素27によりディップ軸部26を回転させた。坩堝21の回転方向とディップ軸部26の回転方向とは逆方向であり、坩堝21と種結晶1とは相対的に逆方向に回転した。坩堝21およびディップ軸部26の回転方向は15秒毎に交互に切換えた。このときの回転速度(最高速度)は約20rpmであった。
【0047】
成長開始(つまり原料溶液29を1650℃に保持した後)から10時間後、ディップ軸駆動要素27によりディップ軸部26を上方に移動させ、結晶成長した種結晶1(つまりSiC単結晶10)を原料溶液29から引き上げた。引き上げたSiC単結晶10は、表面に残存する原料溶液29を除去するため、HNO
3とHFとの混液(HNO
3:HF=2:1)でエッチングした。以上の工程で、試験1の3C−SiC単結晶10を得た。なお、種結晶の引き上げ後、種結晶がチャンバー内にある状態で、加熱要素22により、1時間かけて坩堝21内の温度を700℃にまで降温させた。また、チャンバー内部にHeガスを供給した。降温によるチャンバー内の減圧による大気の混入を防ぐためである。試験1の3C−SiC単結晶の製造方法で用いた種結晶には、(0001)面に対して4°のオフ角を形成している。上述したように短時間の成長を行い、3C−SiCの成長が生じたときのテラス幅はおよそ11μmであり、このオフ角から算出される、ステップの高さはおよそ760nmであった。
【0048】
(試験2)
試験2の3C−SiC単結晶の製造方法は、種結晶として、6H−SiC単結晶に[11−20]方向に4°のオフ角を設けものを用いたこと以外は試験1の3C−SiC単結晶の製造方法と同じ方法である。試験2の3C−SiC単結晶の製造方法により試験2の3C−SiC単結晶を得た。参考までに、試験2で用いた種結晶1の大きさは5mm×10mm×厚さ0.25mmであった。
【0049】
(試験3)
試験3の3C−SiC単結晶の製造方法は、種結晶として、オフ角を設けていない6H−SiC単結晶(所謂、(0001)オン−アクシス基板)を用いたこと以外は、試験1の3C−SiC単結晶の製造方法と同じ方法である。試験3の3C−SiC単結晶の製造方法により試験3の3C−SiC単結晶を得た。参考までに、試験3で用いた種結晶1の大きさは5mm×10mm×厚さ0.25mmであった。
【0050】
〔評価試験〕
試験1〜試験3の3C−SiC単結晶に関し、双晶が発生しているか否かを評価した。多形の判別はラマン散乱測定と電子後方散乱回折(EBSD)を用いて行った。また、結晶方位の判別はEBSDで行った。
【0051】
試験1〜試験3の各3C−SiC単結晶に関し、結晶成長表面に成長した成長層に対してラマン分光分析を行った。その結果、厚さ方向のいずれの位置においてもSiC単結晶の3C構造を示すピークが得られた。すなわち、得られた成長層は、何れも3C−SiC単結晶であった。
【0052】
試験1の3C−SiC単結晶のSEM像を
図13に示し、試験2の3C−SiC単結晶のSEM像を
図15に示し、試験3の3C−SiC単結晶のSEM像を
図17に示す。
【0053】
図13に示すように、[1−100]方向にオフ角を設けた試験1の3C−SiC単結晶では、ステップフロー方向と垂直な方向に短冊状に延びたステップが形成していた。また、
図15に示すように、[11−20]方向にオフ角を設けた試験2の3C−SiC単結晶では、ステップフロー方向に短冊状に延びたドメインが形成した。つまり、試験1の3C−SiC単結晶、および、試験2の3C−SiC単結晶の何れにも、ステップフロー方向にステップフロー成長した痕跡が認められた。
【0054】
これに対して、
図17に示すように、種結晶にオフ角を設けなかった(オン−アクシスの)試験3の3C−SiC単結晶における結晶表面には、平坦な部分が多かった。
【0055】
さらに、
図13のSEM像で示した各領域について、EBSDを用いて方位マッピングを行った結果を
図14に示す。
図15のSEM像で示した各領域について、EBSDを用いて方位マッピングを行った結果を
図16に示す。
図17のSEM像で示した各領域について、EBSDを用いて方位マッピングを行った結果を
図18に示す。なお、試験はEDAX社製 OIM(Orientation Imaging Microscopy)TMを用いて、加速電圧10kVで、10μm間隔で測定した。
【0056】
図14、
図16および
図17中の淡色の領域と濃色の領域とには、それぞれ結晶方位の異なる3C−SiC結晶が存在する。種結晶にオフ角を設けなかった試験3では、結晶方位に依存せずに双晶が形成していた。また、[11−20]方向にオフ角を設けた試験2の3C−SiC単結晶においては、SEMで認められたドメインの形状に沿って、双晶が形成していた。一方、[1−100]方向にオフ角を設けた試験1の3C−SiCにおいては、単一の積層周期の3C−SiCのみが観察された。このように、[1−100]方向にステップが進展するようにステップフロー成長を行うことで、ステップフロー方向に対して[−1−12]方向を向く3C−SiCを優先的に成長させることができ、2種の3CーSiCの結晶方位に基づいたステップ進展速度の差によって、一方の積層周期の3C−SiC結晶を低減し、ひいては双晶を低減することができたと考えられる。また、試験1の3C−SiC単結晶においては双晶が認められなかったため、本発明の3C−SiCの製造方法によると双晶の発生を大きく低減できることがわかる。より具体的には、本発明の3C−SiC単結晶の製造方法によると、SEM像において、結晶表面の80面積%以上を双晶の一方が占められている3C−SiC単結晶を得ることが可能である。
【0057】
参考までに、従来製造されていた3C−SiC単結晶において、DPBで囲まれた結晶は100×100μm
2程度の大きさであった。これに対して、本発明の製造方法によると、5×2mm
2程度の大面積で、双晶のほぼない(つまり結晶欠陥のほぼない)3C−SiC単結晶を得ることに成功している。
【0058】
ところで、液相成長法で3C−SiC単結晶を結晶成長させる場合、液相(すなわち原料溶液)に所定以上の温度差を設けることにより、3C−SiCを他の多形(例えば6H−SiC単結晶)に優先して成長させることが可能である。
図19に示すように、液相に10℃、19℃、37℃の温度差を設けた場合、温度差が10℃の場合には、得られた結晶に含まれる多形の約59%が3C−SiCとなった。同様に、温度差が19℃の場合には約87%が3C−SiCとなり、温度差が37℃の場合には約100%が3C−SiCとなった。液相にこのような温度差を設けることで、種結晶付近における炭素飽和度を3C−SiCの結晶成長に適した飽和度にすることができたと考えられる。そして、その結果、6H−SiC等の多形を抑制して3C−SiC単結晶を得ることができたと考えられる。
【0059】
なお、上述した温度差が71℃を超えると、SiC単結晶の表面形状が荒れたり、3C−SiC以外の多形の成長が生じたりする可能性がある。このため、温度差の上限は71℃以下であるのが好ましい。
【0060】
このように、液相に所定の温度差を設けることで、3C−SiC単結晶をより高確率で得ることができる。具体的には種結晶の結晶成長面付近における液相の温度差が19℃以上であれば、3C−SiC以外の種結晶を用いつつ多形の殆ど無い3C−SiC単結晶を得ることができる。多形を更に抑制するためには、液相の温度差を23℃〜71℃の範囲内にするのがより好ましく、37℃〜71℃の範囲内にするのがさらに好ましい。
【0061】
なお、ここでいう液相の温度差とは、坩堝21のうち最も高温なカーボン溶解部(実施形態においては坩堝21のなかで内底の部分)付近に位置する原料溶液の温度と、種結晶1の表面付近における原料溶液の温度との差を指す。この温度差は、坩堝21におけるカーボン溶解部の温度と、種結晶1の表面温度との差で代替することもできる。温度差は、実測値でも良いし演算値でも良い。また、液相の温度勾配とは、上述した2つの位置の温度差を、坩堝21のカーボン溶解部から種結晶1の表面までの距離で割った値を指す。なお、種結晶に対する温度勾配の方向は特に限定しない。例えば、結晶成長面、つまり、(0001)面に対して垂直な方向に温度勾配を設けても良いし、平行な方向に温度勾配を設けても良い。参考までに、過飽和度は、カーボン溶解部近傍におけるSi融液のカーボン溶解度と、種結晶の結晶成長面近傍におけるSi融液のカーボン溶解度とを用いて算出することができる。より具体的には、種結晶の結晶成長面近傍におけるSi融液のカーボン溶解度とは、結晶成長面に隣接する位置におけるSi融液のカーボン溶解度を指す。カーボン溶解度は温度に応じた一定の値であるため、カーボン溶解部の温度および種結晶の結晶成長面近傍の温度を実測または演算することで、カーボン溶解度を算出し、ひいてはカーボン過飽和度を算出することができる。試験1〜試験3において、上述した温度差は37℃であり、カーボン過飽和度は0.36であった。
(その他)本発明は上記し且つ図面に示した実施形態のみに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施できる。