特許第6296453号(P6296453)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6296453
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】信号処理装置及び信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/10 20060101AFI20180312BHJP
【FI】
   H04B1/10 L
【請求項の数】17
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-181721(P2015-181721)
(22)【出願日】2015年9月15日
(65)【公開番号】特開2017-59934(P2017-59934A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2017年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(72)【発明者】
【氏名】原田 知育
(72)【発明者】
【氏名】服部 佳晋
(72)【発明者】
【氏名】藤元 美俊
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 真也
【審査官】 金子 秀彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−100154(JP,A)
【文献】 特開2015−126360(JP,A)
【文献】 特開2014−023116(JP,A)
【文献】 特表2006−518966(JP,A)
【文献】 特開平10−093478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両側帯波信号を受信して、RF帯域に重畳する雑音を除去する信号処理装置において、 前記両側帯波信号を直交復調して、正周波数帯域と負周波数帯域とを有したベースバンドの同相成分と直交成分とに復調する復調手段と、
前記同相成分と前記直交成分とをフーリエ変換して複素関数の同相周波数成分と複素関数の直交周波数成分とを出力するフーリエ変換手段と、
前記同相周波数成分と、前記直交周波数成分に基づき、前記直交周波数成分と前記同相周波数成分間の時間平均された伝達関数を求める伝達関数演算手段と、
前記伝達関数に基づいて、前記直交成分の周波数特性を補正して、前記同相成分に合成する合成手段と
を有することを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
両側帯波信号を受信して、RF帯域に重畳する雑音を除去する信号処理装置において、 前記両側帯波信号を直交復調して、正周波数帯域と負周波数帯域とを有したベースバンドの同相成分と直交成分とに復調する復調手段と、
前記同相成分と前記直交成分とをフーリエ変換して同相周波数成分と直交周波数成分とを出力するフーリエ変換手段と、
前記同相周波数成分と、前記直交周波数成分に基づき、前記直交周波数成分と前記同相周波数成分間の時間平均された伝達関数を求める伝達関数演算手段と、
前記伝達関数に基づいて、前記直交成分の周波数特性を補正して、前記同相成分に合成する合成手段と、を有し、
前記伝達関数演算手段は、
前記同相周波数成分と前記直交周波数成分との一方と、他方の複素共役とを各周波数毎に乗算する複素共役乗算手段と、
前記複素共役乗算手段の出力の時間平均を演算する時間平均演算手段と、
前記時間平均演算手段の出力から各周波数毎の符号成分を抽出し、その符号成分の周波数特性を前記伝達関数とする符号周波数特性抽出手段と、
を有することを特徴とする信号処理装置。
【請求項3】
前記復調手段の出力する前記直交成分と前記同相成分のうちの一方にのみ純虚数j又は−jを乗算又は除算するか、又は、前記フーリエ変換手段の出力する前記直交周波数成分と前記同相周波数成分のうちの一方にのみ純虚数j又は−jを乗算又は除算した周波数成分を新たに前記直交周波数成分又は前記同相周波数成分とする位相回転手段を有することを特徴とする請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
両側帯波信号を受信して、RF帯域に重畳する雑音を除去する信号処理装置において、 前記両側帯波信号を直交復調して、正周波数帯域と負周波数帯域とを有したベースバンドの同相成分と直交成分とに復調する復調手段と、
前記同相成分と前記直交成分とをフーリエ変換して同相周波数成分と直交周波数成分とを出力するフーリエ変換手段と、
前記同相周波数成分と、前記直交周波数成分に基づき、前記直交周波数成分と前記同相周波数成分間の時間平均された伝達関数を求める伝達関数演算手段と、
前記伝達関数に基づいて、前記直交成分の周波数特性を補正して、前記同相成分に合成する合成手段と、を有し、
前記伝達関数演算手段は、
前記同相周波数成分を前記直交周波数成分で各周波数毎に除算した周波数特性の時間平均、又は、前記直交周波数成分を前記同相周波数成分で除算した周波数特性の時間平均を演算する時間平均演算手段と、
前記時間平均演算手段の出力から各周波数毎の符号成分を抽出し、その符号成分の周波数特性を前記伝達関数とする符号周波数特性抽出手段と、
を有することを特徴とする信号処理装置。
【請求項5】
両側帯波信号を受信して、RF帯域に重畳する雑音を除去する信号処理装置において、 前記両側帯波信号を直交復調して、正周波数帯域と負周波数帯域とを有したベースバンドの同相成分と直交成分とに復調する復調手段と、
前記同相成分と前記直交成分とをフーリエ変換して同相周波数成分と直交周波数成分とを出力するフーリエ変換手段と、
前記同相周波数成分と、前記直交周波数成分に基づき、前記直交周波数成分と前記同相周波数成分間の時間平均された伝達関数を求める伝達関数演算手段と、
前記伝達関数に基づいて、前記直交成分の周波数特性を補正して、前記同相成分に合成する合成手段と、を有し、
前記伝達関数演算手段は、
前記同相周波数成分を前記直交周波数成分で各周波数毎に除算した周波数特性の時間平均、又は、前記直交周波数成分を前記同相周波数成分で除算した周波数特性の時間平均を演算する時間平均演算手段と、
を有し、
前記時間平均演算手段の出力する時間平均された周波数特性を前記伝達関数とする
ことを特徴とする信号処理装置。
【請求項6】
前記伝達関数演算手段又は前記合成手段は、前記直交周波数成分の絶対値が所定閾値以上の周波数成分に対して演算又は合成を実行し、前記直交周波数成分の絶対値が所定閾値より小さい周波数成分に対しては演算又は合成を実行しない
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記合成手段は、
前記伝達関数演算手段が、前記同相周波数成分を前記直交周波数成分で各周波数毎に除算した周波数特性の時間平均を演算する場合にはその時間平均の絶対値が2より小さい周波数成分のみに対して合成演算を実行し、
前記伝達関数演算手段が、前記直交周波数成分を前記同相周波数成分で除算した周波数特性の時間平均を演算する場合にはその時間平均の絶対値が1/2より大きい周波数成分のみに対して合成演算を実行する
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の信号処理装置。
【請求項8】
前記合成手段は、
前記直交周波数成分を前記伝達関数により補正する等価手段と、
前記同相周波数成分から、前記等価手段の出力する補正された直交周波数成分を減算して雑音除去同相周波数成分を出力する雑音除去手段と、
前記雑音除去同相周波数成分を逆フーリエ変換して、時間軸上の復調信号とする逆フーリエ変換手段と、
を有することを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の信号処理装置。
【請求項9】
両側帯波信号を受信して、RF帯域に重畳する雑音を除去する信号処理装置において、 前記両側帯波信号を直交復調して、正周波数帯域と負周波数帯域とを有したベースバンドの同相成分と直交成分とに復調する復調手段と、
前記同相成分と前記直交成分とをフーリエ変換して同相周波数成分と直交周波数成分とを出力するフーリエ変換手段と、
前記同相周波数成分と、前記直交周波数成分に基づき、前記直交周波数成分と前記同相周波数成分間の時間平均された伝達関数を求める伝達関数演算手段と、
前記伝達関数に基づいて、前記直交成分の周波数特性を補正して、前記同相成分に合成する合成手段と、を有し、
前記合成手段は、
時間軸上の前記直交成分と前記伝達関数のインパルス応答との畳み込みにより補正された時間軸上の直交成分を求める等価手段と、
時間軸上の前記同相成分から、前記等価手段の出力する補正された時間軸上の直交成分を除去する雑音除去手段と、
を有することを特徴とする信号処理装置。
【請求項10】
前記合成手段は、
時間軸上の前記直交成分と前記伝達関数のインパルス応答との畳み込みにより補正された時間軸上の直交成分を求める等価手段と、
時間軸上の前記同相成分から、前記等価手段の出力する補正された時間軸上の直交成分を除去する雑音除去手段と、
を有することを特徴とする請求項2乃至請求項7の何れか1項に記載の信号処理装置。
【請求項11】
前記フーリエ変換手段の出力から前記伝達関数演算手段の出力までの間において、直流を含む帯域を除去するマスク手段を
有することを特徴とする請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載の信号処理装置。
【請求項12】
前記復調手段は、直交復調後の前記直交成分に含まれる、変調搬送波に対する復調搬送波の誤差周波数のビート信号が零となるように、復調搬送波の周波数と位相を制御するフェーズロックドループ部を有することを特徴とする請求項1乃至請求項11の何れか1項に記載の信号処理装置。
【請求項13】
前記復調手段は、前記ベースバンド信号の移動平均から、変調搬送波に対する復調搬送波の誤差周波数のビート信号を求め、そのビート信号に基づいて前記ベースバンド信号のビート信号による変動を補正した信号を新たにベースバンド信号とする同期手段を有することを特徴とする請求項1乃至請求項12の何れか1項に記載の信号処理装置。
【請求項14】
前記同期手段は、前記ベースバンド信号の移動平均に伴って生じる瞬時位相の遅れを、検出した瞬時位相の時間差と移動平均に応じて補正する手段を有する
ことを特徴とする請求項13に記載の信号処理装置。
【請求項15】
両側帯波信号を受信して、RF帯域に重畳する雑音を除去する信号処理方法において、 前記両側帯波信号を直交復調して、正周波数帯域と負周波数帯域とを有したベースバンドの同相成分と直交成分とに復調し、
前記同相成分と前記直交成分とをフーリエ変換して複素関数の同相周波数成分と複素関数の直交周波数成分とを求め、
前記同相周波数成分と、前記直交周波数成分に基づき、前記直交周波数成分と前記同相周波数成分間の時間平均された伝達関数を求め、
前記伝達関数に基づいて、前記直交成分の周波数特性を補正して、前記同相成分に合成する
ことを特徴とする信号処理方法。
【請求項16】
両側帯波信号を受信して、RF帯域に重畳する雑音を除去する信号処理方法において、 前記両側帯波信号を直交復調して、正周波数帯域と負周波数帯域とを有したベースバンドの同相成分と直交成分とに復調し、
前記同相成分と前記直交成分とをフーリエ変換して同相周波数成分と直交周波数成分とを求め、
前記同相周波数成分と、前記直交周波数成分に基づき、前記直交周波数成分と前記同相周波数成分間の時間平均された伝達関数を求め、
前記伝達関数に基づいて、前記直交成分の周波数特性を補正して、前記同相成分に合成し、
前記時間平均された前記伝達関数から各周波数毎の符号成分を抽出して、その符号成分の周波数特性を前記直交成分の補正に用いる前記伝達関数とすることを特徴とする信号処理方法。
【請求項17】
前記合成は、前記同相周波数成分から、前記直交周波数成分を前記伝達関数で補正した直交周波数成分を除去して雑音除去同相周波数成分を求め、
前記雑音除去同相周波数成分を逆フーリエ変換して、時間軸上の復調信号とする
ことを特徴とする請求項15又は請求項16に記載の信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両側帯波を用いた放送、通信において、雑音が重畳される環境において、復調時にこの雑音を除去するようにした信号処理装置及び信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
雑音が重畳された所望の放送波から雑音を除去して所望の放送波を復調する方法として、下記特許文献に記載の技術が知られている。下記特許文献1は、他方のアンテナに比べて放送波を強く受信して第1信号を得る第1アンテナと、他方のアンテナに比べて雑音を強く受信して第2信号を得る第2アンテナとを用いて、合成後の信号レベルが小さくなるように、第2信号の振幅と位相とを調整して、第1信号に合成する技術である。この技術では、第2信号の振幅と位相の調整は、所望の放送波の受信レベルがある閾値より小さい場合に行っている。すなわち、雑音電力が放送波の電力よりも大きい場合に、合成信号のレベルが小さくなるように、第2信号の振幅と位相とを調整するものである。両アンテナが同一の雑音源から雑音を受信しているので、両アンテナで受信される雑音の振幅と位相は、雑音源との各アンテナとの距離の差に応じて異なる。これを補償するために、第2信号の振幅を第1信号の振幅と一致させ、第2信号の位相を第1信号の位相に対してπだけ位相を変化させて、第1信号に対して逆相で第2信号を合成している。このように第2信号の増幅率と位相とを調整すれば、所望の放送波を受信できる状態になった場合にも、受信された放送波から雑音がキャンセルされた信号を得ることができる。
【0003】
また、下記特許文献2の技術は、車両に搭載されたラジオ受信機によるAMラジオ放送波の受信において、AMラジオ放送波に車両の電子機器から発せられるパルス性の雑音が混入するが、このパルス性の雑音を除去する技術である。この技術では、まず、AMラジオ放送波帯域以外の帯域におけるパルス雑音を検出して、そのパルス雑音の周期の大きさやレベルの変動幅を求めることで、雑音源を特定している。そして、その雑音源に応じて、パルス雑音が重畳された放送波において、放送波周波数付近のパルス雑音の高調波の帯域、雑音周期の帯域を、パルス雑音の時間幅に対応した時間だけ、減衰させることで、AMラジオ放送を聞く人に、パルス性雑音による不快感を与えないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−257155
【特許文献2】特許第5012246
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、2本のアンテナを用いて、雑音のみが受信できるようにして、2つのアンテナの受信信号の合成信号のレベルが小さくなるように、予め調整ておくという技術である。このため、特許文献1の技術は、雑音をキャンセルするために2本のアンテナを必要とし、雑音を除去するための設定は、所望の放送波の受信レベルが雑音除去の調整に影響を与えないように、受信レベルが小さい環境で行う必要がある。また、雑音の周波数特性に関係なく、一律に、第2信号の振幅と位相とを調整しているので、雑音は完全には除去されない。また、PWM方式によるDC−DCコンバータの場合には、基本周期は変わらなくとも、パルス幅の変化により雑音の周波数特性は変化する。このため、特許文献1の方法では、雑音を完全には除去できない。
【0006】
また、特許文献2の技術は、放送波帯域以外の帯域でパルス雑音を検出して、その検出タイミングで、パルス幅に応じた時間だけ、雑音の種類に応じた適性な周波数帯域を減衰させるという技術である。したがって、本質的には、放送波もパルス雑音の期間だけ減衰されることになる。これが、AMラジオ放送を聞く人に違和感を与える原因となる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、所望信号に影響を与えることなく、周波数空間において周期性を有する雑音を精度良く除去することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、両側帯波信号を受信して、RF帯域に重畳する雑音を除去する信号処理装置において、両側帯波信号を直交復調して、正周波数帯域と負周波数帯域とを有したベースバンドの同相成分と直交成分とに復調する復調手段と、同相成分と直交成分とをフーリエ変換して複素関数の同相周波数成分と複素関数の直交周波数成分とを出力するフーリエ変換手段と、同相周波数成分と、直交周波数成分に基づき、直交周波数成分と同相周波数成分間の時間平均された伝達関数を求める伝達関数演算手段と、伝達関数に基づいて、直交成分の周波数特性を補正して、同相成分に合成する合成手段とを有することを特徴とする信号処理装置である。
本発明の要旨は、直交成分には信号成分が含まれず雑音成分のみが現れることに注目して、直交成分に基づいて同相成分に重畳された雑音成分を除去することである。雑音成分の除去は周波数軸上又は時間軸上により行うことができる。
【0009】
1.本発明の原理
本発明は、次の原理を用いて、復調後の信号から雑音を除去するものである。直交多重化していない両側帯波(例えば、AM放送波)を直交復調した場合に、ベースバンドの同相成分には信号成分と雑音成分が現れ、直交成分には信号成分が現れず、雑音成分のみが現れる。上側帯波に雑音が重畳している場合には、直交成分は、同相成分の雑音成分に対して、正周波数帯域も負周波数帯域も、時間軸上において、π/2だけ位相が遅れている。すなわち、正周波数帯域の雑音成分に関して、直交成分は同相成分に対して−π/2だけ位相が回転しており、負周波数帯域の雑音成分に関して、直交成分は同相成分に対して、π/2だけ位相が回転している。なお、位相の符号は、正周波数帯域、負周波数帯域に係わらず、複素座標系における位相の符号、すなわち、左回転方向を正として定義する。また、時間軸上に関する位相の進み、遅れの定義は、正周波数については、複素座標系において左回転、負周波数については右回転に対する進み、遅れとして定義する。
【0010】
RF帯域において上側帯波帯域に重畳された雑音に関して、同相成分の正周波数帯域の雑音成分のスペクトルをρU (ω)とするとき、直交成分の正周波数帯域の雑音成分のスペクトルは、−jρU (ω)の関係にある。ただし、ρU は絶対値と位相とを含む複素数である。jは純虚数である。
【0011】
直交復調後の同相成分も直交成分も実関数であるので、ベースバンドにおける雑音成分のスペクトルは、正周波数帯域と負周波数帯域とで、互いに複素共役の関係にある。したがって、同相成分の負周波数帯域の雑音成分のスペクトルは、ρU * (−ω)で表され、直交成分の負周波数帯域の雑音成分のスペクトルは、jρU * (−ω)で表される。ただし、ω>0であり、*は複素共役演算を意味する。
【0012】
また、RF帯域において下側帯波帯域に重畳された雑音については、直交成分の雑音成分は、同相成分の雑音成分に対して、正周波数帯域も負周波数帯域も、時間軸上において、位相がπ/2だけ進んでいる。すなわち、正周波数帯域の雑音成分に関して、直交成分は同相成分に対してπ/2だけ位相が回転しており、負周波数帯域の雑音成分に関して、直交成分は同相成分に対して、−π/2だけ位相が回転している。同相成分の正周波数帯域の雑音成分のスペクトルをρL * (ω)とするとき、直交成分の正周波数帯域の雑音成分のスペクトルは、jρL * (ω)の関係にある。同様に、ベースバンドにおける雑音成分のスペクトルは、正周波数帯域と負周波数帯域とで、互いに複素共役の関係にある。したがって、同相成分の負周波数帯域の雑音成分のスペクトルは、ρL (−ω)で表され、直交成分の負周波数帯域の雑音成分のスペクトルは、−jρL (−ω)で表される。
【0013】
以上の関係は、全正周波数帯域及び全負周波数帯域での周波数に対して成立する。すなわち、直交成分の正周波数帯域の雑音成分のスペクトル−jρU (ω)、jρL * (ω)が分かれば、同相成分の全周波数帯域の雑音成分のスペクトルも一意的に決定される。以上の関係があるため、同相成分の正周波数帯域の雑音成分のスペクトルは、直交成分の正周波数帯域の雑音成分のスペクトル−jρU (ω)、jρL * (ω)に、それぞ、(j)、(−j)を乗算することで、求めることができる。同様に、同相成分の負周波数帯域の雑音成分のスペクトルは、直交成分の負周波数帯域の雑音成分のスペクトルjρ* U (−ω)、−jρL (−ω)に、それぞれ、(−j)、(j)を乗算することで求めることができる。この負周波数領域での乗算因子{(−j)、(j)}は、正周波数領域での乗算因子{(j)、(−j)}の複素共役でもある。
【0014】
なお、jの乗算は、複素座標系では、π/2の位相回転を意味し、時間軸上では、正周波数帯域についてはπ/2だけ位相を進めること、負周波数帯域についてはπ/2だけ位相を遅らせることを意味する。−jの乗算は、複素座標系では、−π/2の位相回転を意味し、時間軸上では、正周波数帯域についてはπ/2だけ位相を遅らせること、負周波数帯域についてはπ/2だけ位相を進めることを意味する。
【0015】
直交成分の正周波数帯域の雑音成分のスペクトル、−jρU (ω)、jρL * (ω)について、次のように一般化することができる。すなわち、直交成分の雑音スペクトルは、周波数帯域毎に同相成分の雑音成分のスペクトル{ρU (ω)、ρL * (ω)}に、−jか、jかの因子を乗算したものである。したがって、{ρU (ω)、ρL * (ω)}を正周波数帯域の全雑音スペクトルρ(ω)と一般化すれは、直交成分の正周波数帯域の雑音成分のスペクトルは、jsign(ω)ρ(ω)と、一般式で表される。ここで、ρ(ω)は同相成分の正周波数帯域の雑音成分のスペクトル(複素関数)であり、sign(ω)は、任意の周波数ωにおいて、+1、又は、−1をとるωの関数である。以下、このsign(ω)を、符号関数(実関数)という。符号関数は同相成分と直交成分との位相関係を表しているだけであるので、時間的に変動しない。符号関数sign(ω)、したがって、jsign(ω)が分かれば、同相成分の正周波数帯域の雑音成分のスペクトルρ(ω)を直交成分から求めることができる。ρ(ω)=Z(ω)(jsign(ω)ρ(ω))として、直交成分から同相成分へ変換する伝達関数Z(ω)を定義すると、Z(ω)=−jsign(ω)として、伝達関数を求めることができる。同様に、負周波数帯域における伝達関数は、Z* (−ω)=jsign(−ω)で求めることができる。
【0016】
したがって、伝達関数Z(ω)を同相周波数成分と直交周波数成分とから求めることができれば、同相成分の雑音成分を求めることができ、同相成分からこの雑音成分を除去すれば、同相成分は雑音が除去された信号成分となる。伝達関数Z(ω)を求めるには、同相周波数成分と直交周波数成分とが用いられるが、同相周波数成分には雑音成分と共に信号成分が存在する。そのため、同相成分と直交成分間の伝達関数Z(ω)を求める場合に信号成分の影響を排除するために、一定時間期間における平均演算を行う。すなわち、信号成分は不規則に変化していると見做すことができるので、時間平均すれば、平均値は小さくなるので、移動平均化処理により、信号成分を排除できる。
本発明は、以上の原理を用いるものである。
【0017】
本発明は、伝達関数を求めるのに時間軸信号をフーリエ変換している。伝達関数が分かれば、そのインパルス応答と、時間軸直交成分とを畳み込み積分をすれば、時間軸上の同相成分の雑音成分を求めることができる。したがって、時間軸上の同相成分から、畳み込み積分の結果の時間特性を減算すれば、雑音の除去された信号を得ることができる。
したがって、本発明において、合成手段は、時間軸上の直交成分と伝達関数のインパルス応答との畳み込みにより補正された時間軸上の直交成分を求める等価手段と、時間軸上の同相成分から、等価手段の出力する補正された時間軸上の直交成分を除去する雑音除去手段とを有する構成を採用することができる。時間軸上の合成には、畳み込み積分を実現するトランスバーサルフィルタ、その他のフィルタを用いることができる。
【0018】
また、周波数軸上で雑音の除去を行うことができる。
すなわち、上記発明において、合成手段は、直交周波数成分を伝達関数により補正する等価手段と、同相周波数成分から、等価手段の出力する補正された直交周波数成分を減算して雑音除去同相周波数成分を出力する雑音除去手段と、雑音除去同相周波数成分を逆フーリエ変換して、時間軸上の復調信号とする逆フーリエ変換手段と、を有する構成とすることができる。
【0019】
2.伝達関数
伝達関数を求める構成は、幾つかある。
(1)伝達関数を、複素共役積の時間平均から演算する方法
上記発明において、伝達関数演算手段は、同相周波数成分と直交周波数成分との一方と、他方の複素共役とを各周波数毎に乗算する複素共役乗算手段と、複素共役乗算手段の出力の時間平均を演算する時間平均演算手段と、時間平均演算手段の出力から各周波数毎の符号成分を抽出し、その符号成分の周波数特性を伝達関数とする符号周波数特性抽出手段と、を有する構成とすることができる。
【0020】
正周波数帯域の同相周波数成分Fr (ω)は、S(ω)+ρ(ω)で表される。また、正周波数帯域の直交周波数成分Fi (ω)は、上記したように、jsign(ω)ρ(ω)で表される。Fr (ω)Fi * (ω)は、S(ω)(−jsign(ω))ρ* (ω)−jsign(ω)|ρ(ω)|2 となる。*は複素共役演算を意味する。第1項のS(ω)(−jsign(ω))ρ* (ω)は、時間的に不規則に変化しているので、平均をとれば、0を含む微小値の平均残差Δ(ω)とすることができる。|ρ(ω)|2 の時間平均Av(|ρ(ω)|2 )は、雑音スペクトルの絶対値の2乗の時間平均であるので、微小量にはならない。Avは時間平均値を表す。したがって、第2項の時間平均{−jsign(ω)Av(|ρ(ω)|2 )}は、虚数であるから、Av(|ρ(ω)|2 )がΔ(ω)の絶対値よりも大きいならば、その符号{−jsign(ω)}を周波数毎に決定することができる。よって、上記した伝達関数Z(ω)=−jsign(ω)が求まり、負周波数帯域ではZ* (−ω)=jsign(−ω)として伝達関数を求めることができる。
【0021】
なお、Fr * (ω)Fi (ω)は、S* (ω)(jsign(ω)ρ(ω))+jsign(ω)|ρ(ω)|2 となる。これの移動時間平均をとれば、S* (ω)(jsign(ω)ρ(ω))は、0を含む微小量の平均残差Δ(ω)とすることができる。したがって、時間平均Av(|ρ(ω)|2 )がΔ(ω)よりも大きいならば、その符号jsign(ω)を周波数毎に決定することができる。よって、その符号を反転した−jsign(ω)を上記した伝達関数Z(ω)として求めることができる。負周波数帯域ではZ* (−ω)=jsign(−ω)として伝達関数を求めることができる。したがって、同相周波数成分と直交周波数成分との一方と、他方の複素共役とを各周波数毎に乗算し、その乗算値の時間平均を演算し、その時間平均から各周波数毎の符号成分を抽出し、その符号成分の周波数特性を伝達関数とすることができる。
なお、負周波数領域の伝達関数は、正周波数領域の伝達関数の共役複素数で求めても、負周波数領域について、直接、Fr (−ω)Fi * (−ω)や、Fr (−ω)Fi * (−ω)の時間平均で求めても良い。結果は、Z* (−ω)=jsign(−ω)が得られる。
【0022】
また、上記発明において、復調手段の出力する直交成分と同相成分のうちの一方にのみ純虚数j又は−jを乗算又は除算するか、又は、フーリエ変換手段の出力する直交周波数成分と同相周波数成分のうちの一方にのみ純虚数j又は−jを乗算又は除算した周波数成分を新たに直交周波数成分とする位相回転手段を有する構成とすることができる。この場合には、同相周波数成分と直交周波数成分との積(一方は複素共役)の移動時間平均の符号が、±sign(ω)と、実数になることを除き、上述した説明が成立する。この符号関数と±j直交周波数成分との積が同相周波数成分となり、又は、この符号関数と直交周波数成分との積が±j同相周波数成分となるので、−jsign(ω)を伝達関数として求めたことに他ならない。
【0023】
(2)伝達関数を比率から求める方法
正周波数帯域の同相周波数成分Fr (ω)は、S(ω)+ρ(ω)である。正周波数帯域の直交周波数成分Fi (ω)は、上記したように、jsign(ω)ρ(ω)である。したがって、雑音成分の同相周波数成分の直交周波数成分に対する伝達関数Z(ω)は、Fr (ω)/Fi (ω)=(S(ω)+ρ(ω))/(jsign(ω)ρ(ω))の時間平均の虚部の符号の周波数関数として定義される。S(ω)/(jsign(ω)ρ(ω))の時間平均は、0を含む微小量の平均残差Δ(ω)となる。また、ρ(ω)/(jsign(ω)ρ(ω))は、瞬時値においても、−jsign(ω)である。したがって、平均残差Δ(ω)の絶対値が1より小さい場合には、伝達関数Z(ω)は、上記各周波数毎の直交周波数成分に対する同相周波数成分の比の移動時間平均により求めることができる。
また、正周波数領域における直交周波数成分の同相周波数成分に対する伝達関数Y(ω)は、Fi (ω)/Fr (ω)=(jsign(ω)ρ(ω))/(S(ω)+ρ(ω))の時間平均の虚部の符号の周波数関数として定義される。この時も、Fi (ω)/Fr (ω)=jsign(ω)/{[S(ω)/ρ(ω)]+1}であり、S(ω)/ρ(ω)の時間平均は、0を含む微小量の平均残差Δ(ω)となる。平均残差Δ(ω)の絶対値が1より小さい場合には、Fi (ω)/Fr (ω)の時間平均の虚部の符号はsign(ω)となる。したがって、このようにして求めた伝達関数Y(ω)の逆数で、伝達関数Z(ω)を求めても良い。
【0024】
したがって、上記発明において、伝達関数演算手段は、同相周波数成分を直交周波数成分で各周波数毎に除算した周波数特性の時間平均、又は、直交周波数成分を同相周波数成分で除算した周波数特性の時間平均を演算する時間平均演算手段と、時間平均演算手段の出力から各周波数毎の符号成分を抽出し、その符号成分の周波数特性を伝達関数とする符号周波数特性抽出手段とを有する構成とすることができる。
また、平均残差Δ(ω)の絶対値が小さい場合には、符号化しない伝達関数を用いても、その伝達関数と直交周波数成分とから雑音の同相周波数成分を求めることができる。すなわち、上記発明において、伝達関数演算手段は、同相周波数成分を直交周波数成分で各周波数毎に除算した周波数特性の時間平均、又は、直交周波数成分を同相周波数成分で除算した周波数特性の時間平均を演算する時間平均演算手段と、を有し、時間平均演算手段の出力する時間平均された周波数特性を伝達関数とする構成とすることができる。
【0025】
伝達関数Z(ω)を求める時、ρ(ω)が0の場合には、伝達関数Z(ω)(Z(ω)=1/Y(ω)で求める場合を含む)が発散するので、これを回避するためには、次の構成を採用すれば良い。
すなわち、本発明において、伝達関数演算手段又は合成手段は、直交周波数成分の絶対値が所定閾値以上の周波数成分に対して演算又は合成を実行し、直交周波数成分の絶対値が所定閾値より小さい周波数成分に対しては演算又は合成を実行しない構成とすることができる。
すなわち、直交周波数成分の絶対値が所定閾値以上となる周波数のスペクトルだけ抽出して同相周波数成分との比率を演算すれば良い。この所定閾値は、S(ω)/(jsign(ω)ρ(ω)、又は、S(ω)/ρ(ω))の時間平均である平均残差Δ(ω)の絶対値が1以下となるρ(ω)の絶対値に設定すれば良い。そして、他の周波数では、伝達関数Z(ω)の演算や同相周波数成分に対する合成を実行しない。このようにすれば、演算しない周波数において雑音成分の除去はできないが、すなくとも、直交雑音成分が同相で同相雑音成分に重畳されてしまうことを防止することができる。この周波数の雑音レベルはもともと小さいので、同相成分から雑音が除去できなくとも、問題にはならない。
【0026】
さらに、上記発明において、合成手段は、伝達関数演算手段が、同相周波数成分を直交周波数成分で各周波数毎に除算した周波数特性の時間平均を演算する場合にはその時間平均の絶対値が2より小さい周波数成分のみに対して合成演算を実行し、伝達関数演算手段が、直交周波数成分を同相周波数成分で除算した周波数特性の時間平均を演算する場合にはその時間平均の絶対値が1/2より大きい周波数成分のみに対して合成演算を実行する構成としても良い。
直交周波数成分の絶対値が0でなければ、上記の比率は演算できる。しかし、S(ω)/(jsign(ω)ρ(ω))の平均残差Δ(ω)の絶対値が1以上の場合には、同相周波数成分/直交周波数成分の時間平均の絶対値は、2以上となる可能性がある。比率の絶対値が2以上となると、比率の虚部の符号は、−jsign(ω)を表さなくなる。−jsign(ω)の絶対値は1であるので、比率の絶対値が2より小さい場合には、比率の虚部の符号は、−jsign(ω)に対して、符号反転することはない。
また、S(ω)/(ρ(ω)の平均残差Δ(ω)の絶対値が1以上の場合は、|Δ(ω)+1|が2以上となる可能性があり、したがって、直交周波数成分/同相周波数成分の時間平均の絶対値は、1/2以下となる可能性がある。この場合には、Δ(ω)+1の符号が負となる可能性がある。したがって、比率の絶対値が1/2以下となる場合は、比率の虚部の符号は、jsign(ω)を表さなくなる。比率の絶対値が1/2より大きい場合には、比率の虚部の符号は、jsign(ω)に対して、符号反転することはない。
また、比率演算により伝達関数を求める場合には、上側帯波雑音と下側帯波雑音とがベースバンドにおいて同一周波数で重なっている場合には、比率の時間平均は、−jsign(ω)とはならない。したがって、比率の時間平均から符号関数を求めずに、直接、比率の時間平均として、伝達関数Z(ω)を求める。上記の平均残差Δ(ω)の絶対値が小さく、比率の時間平均が大きく変化しない場合には、この伝達関数Z(ω)を、上側帯波雑音と下側帯波雑音と同一周波数で重畳された直交周波数成分に乗算すれば、上側帯波雑音と下側帯波雑音と同一周波数で重畳された同相周波数成分の雑音を求めることができる。
【0027】
また、本発明において、フーリエ変換手段の出力から伝達関数演算手段の出力までの間において、直流を含む帯域を除去するマスク手段を設けても良い。
直交復調において、復調搬送波が受信信号の搬送波と同期していない場合には、直流付近にビート信号が表れ、これは直交周波数成分にも表れる。この周波数成分を除去して伝達関数を求めることができる。
【0028】
3.同期復調
本発明において、復調手段は、直交復調後の直交成分に含まれる、変調搬送波に対する復調搬送波の誤差周波数のビート信号が零となるように、復調搬送波の周波数と位相を制御するフェーズロックドループ部を有することが望ましい。同期検波を実行でき、雑音を確実に除去することができる。
【0029】
また、復調手段は、ベースバンド信号の移動平均から、変調搬送波に対する復調搬送波の誤差周波数のビート信号を求め、そのビート信号に基づいてベースバンド信号のビート信号による変動を補正した信号を新たにベースバンド信号とする同期手段を有することが望ましい。ベースバンドにおけるスペクトルは、同相成分も直交成分も、ビート周波数だけ周波数がシフトするので、これ周波数シフトを補正することで、信号成分の復調と、雑音の除去を確実に実行することができる。
また、同期手段は、ベースバンド信号の移動平均に伴って生じる瞬時位相の遅れを、検出した瞬時位相の時間差と移動平均に応じて補正する手段を有するようにしても良い。
【0030】
4.方法発明
本方法発明は、両側帯波信号を受信して、RF帯域に重畳する雑音を除去する信号処理方法において、両側帯波信号を直交復調して、正周波数帯域と負周波数帯域とを有したベースバンドの同相成分と直交成分とに復調し、同相成分と直交成分とをフーリエ変換して同相周波数成分と直交周波数成分とを求め、同相周波数成分と、直交周波数成分に基づき、直交周波数成分と同相周波数成分間の時間平均された伝達関数を求め、伝達関数に基づいて、直交成分の周波数特性を補正して、同相成分に合成することを特徴とする信号処理方法である。上記の装置発明について説明したことが方法発明にも適用できる。
【0031】
また、方法発明において、時間平均された伝達関数から各周波数毎の符号成分を抽出して、その符号成分の周波数特性を直交成分の補正に用いる伝達関数としても良い。
また、方法発明において、合成は、同相周波数成分から、直交周波数成分を伝達関数で補正した直交周波数成分を除去して雑音除去同相周波数成分を求め、雑音除去同相周波数成分を逆フーリエ変換して、時間軸上の復調信号とするようにしても良い。装置発明と同様に成立する。
【発明の効果】
【0032】
本発明によると、RF帯域に雑音が重畳される環境において、復調時にこの雑音を精度よく除去することができるので、所望信号の検出精度、復調精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の具体的な実施例1に係る信号処理装置の構成図。
図2】実施例1の信号処理装置の入力信号及び復調後の信号の周波数特性。
図3】実施例1の信号処理装置の復調後のベースバンドにおける同相成分と直交成分の周波数特性。
図4】実施例2に係る信号処理装置の構成図。
図5】実施例3に係る信号処理装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
1.構成
本発明の具体的な一実施例に係る信号処理装置1の構成を図1に示す。本実施例は、HV(ハイブリッド車)におけるAMラジオ受信機に混入する雑音を抑制する信号処理装置である。HVには、100kHzのキャリア周波数で制御されるDC−DCコンバータが搭載されていると仮定する。AMラジオ放送波は、531kHzから1602kHzの周波数帯域が割り当てられている。DC−DCコンバータから発生するスイッチング雑音は、基本的には、周波数空間では、線スペクトル列となる。この雑音が、AMラジオ放送帯域に入り込み、AMラジオ放送波に雑音を与える。本発明は、AMラジオ放送の上側帯波帯域と下側帯波帯域とに、共に、雑音が存在する場合であっても、雑音を除去することができる。本実施例は、AMラジオ放送帯域に入り込むこの種の雑音をキャンセルする信号処理装置である。しかしながら、本発明は、このような雑音に限定されることなく、直交多重化されていない両側帯波伝送において、RF帯域に雑音が混入する全ての環境において用いることができる。また、混入する雑音は線スペクトルに限らず帯域を有した連続スペクトルであっても良い。
【0036】
本実施例の信号処理装置は、アンテナ11により受信されたAMラジオ放送信号が増幅器12により増幅され、A/Dコンバータ13により、一定の周期Δtでサンプリングされて、ディジタル値に変換された後、CPUにより処理される装置である。もちろん、アナログ回路で全て、又は一部を構成することは可能であるが、ディジタルで処理することが簡単であるので、本実施例はディジタル処理によるものである。図1の構成は、ディジタル処理の各機能部毎にブロックで表現されている。A/Dコンバータ13の出力する信号は実数であるが、直交復調部20及びその後段のデータ処理は全て複素数で行われる。復調手段である直交復調部20は、ミキサー21と復調搬送波発生部22と同相成分抽出部23と直交成分抽出部24とを有している。直交復調部20によりベースバンド信号が得られる。複素信号で取り扱う関係上、このベースバンド信号は、上側帯波帯域に対応する正周波数帯域と下側帯波帯域に対応する負周波数帯域とを有する。
【0037】
直交復調部20に、位相同期処理部70が設けられている。位相同期処理部70はベースバンド信号を入力してその移動平均を演算する移動平均演算部71と、その出力の複素共役を演算する複素共役演算部72と、その出力の振幅を規格化する振幅規格化部73と、その出力とベースバンド信号とを乗算する乗算部74とを有している。
【0038】
同相成分抽出部23の出力する同相成分は、フーリエ変換部45(以下、「FFT」と記す)に入力して、同相周波数成分が得られる。また、直交成分抽出部24の出力する直交成分は、FFT46に入力して直交周波数成分が得られる。本実施例装置は、さらに、乗算部26と伝達関数演算部60と合成部80とを有している。乗算部26は直交周波数成分にjを乗算する部分であり、位相回転手段を構成する。伝達関数演算部60は、同相周波数成分の直交周波数成分に対する伝達関数を演算する部分であり、複素共役演算部47、乗算部48、時間平均演算部49、符号周波数特性抽出部50とを有している。また、合成部80は、伝達関数演算部60により求められた伝達関数を用いて直交周波数成分を補正し、補正された周波数成分を同相周波数成分から減算して雑音を除去する部分であり、乗算部81、減算部82、逆フーリエ変換部(以下、「IFFT」という)83とを有する。
【0039】
FFT46の出力する直交周波数成分は、乗算部26でjが乗算(π/2だけ位相を回転)され、複素共役演算部47に入力して、複素共役直交周波数成分が得られる。この複素共役直交周波数成分と同相周波数成分とが、乗算部48に入力して、各周波数毎に各成分が乗算されて、複素積周波数成分として時間平均演算部49に出力される。時間平均演算部49では、現時刻tに対して過去一定時間T内での時間平均が演算される。この時間平均演算部49の出力が符号周波数特性抽出部50に入力して上述した−jsign( ω) の符号関数から成る時間平均伝達関数が演算される。この時間平均伝達関数と直交周波数成分とが乗算部81において各周波数毎に乗算される。乗算部81の出力は、直交雑音成分から予測される同相雑音成分(以下、「推定同相雑音成分」という)となる。そして、減算部82において、同相周波数成分から推定同相雑音成分を周波数毎に減算して、雑音が除去された雑音除去同相周波数成分が得られる。その雑音除去同相周波数成分は、IFFT83に入力して逆フーリエ変換されて、時間軸上の雑音が除去された復調信号S(t)が得られる。
【0040】
次に本信号処理装置の作用について説明する。
1.受信信号のスペクトル
雑音は、放送局から受信装置に至る間に上側帯波帯域と下側帯波帯域とに重畳されるものとする。アンテナ11の出力する受信信号r(t)は、(1)式で表される。
【数1】
この受信信号r(t)のフーリエ変換であるスペクトルは図2(a)に示すようになり、上側帯波帯域と下側帯波帯域とを有している。S- は、下側帯波のスペクトル、S+ は、上側帯波のスペクトルであり、Aは搬送波の振幅、ρU ,ρL は、放送局から受信装置までにおいて、それぞれ、RF帯域の上側帯波帯域、下側帯波帯域に重畳された雑音のスペクトルである。Aは実数、S- 、S+ 、ρU ,ρL は角周波数ω(以下、単に、「周波数」と記す)に関する複素関数である。すなわち、絶対値と位相とを含んでいる。ωに関して、S- 、S+ の絶対値は等しく、位相は反転関係にある。したがって、S- 、S+ は相互に複素共役関数である。S- (t)、S+ (t)は、それぞれ、S- 、S+ の逆フーリエ変換であり、時間に関する複素関数である。また、S- (t)、S+ (t)は、相互に複素共役の関係にあり、したがって、S- (t)+S+ (t)は実関数である。ωc は、変調時の搬送波の周波数、ωc +ωU ,ωc −ωL は、それぞれ、上側帯波、下側帯波に重畳した雑音の周波数である。ωc >0、ωU >0、ωL >0として定義する。
【0041】
空間を伝搬する波は、r(t)の実部で表される。したがって、A/Dコンバータ13から出力されるサンプリングされた受信信号(データ)は、実数列である。次に、この受信信号を直交復調する。
1.同期復調
復調搬送波発生部22の出力する復調搬送波の周波数は、変調搬送波の周波数ωc に対してΔωだけ大きいとする。すなわち、復調搬送波波L(t)は(2)式で表される。
【数2】

信号成分の直交成分は存在しないので、複素空間では、直交復調は、(1)式で表される複素関数の実部の受信信号にexp[−j(ωc +Δω)t]を掛ける演算を行うことに等しい。したがって、ミキサー21の出力する復調した後のベースバンドの信号は、(3)式で表される。なお、復調結果には1/2の係数が係るので、表現を簡単にするために、x(t)は、直交復調の結果の2倍で定義する。ベースバンド信号に、exp(−jΔωt)の因子が現れる。なお、ミキサー21の出力には2ωc の高調波成分が含まれるので、実際には、ローパスフィルタにより高調波成分は除去されている。
【数3】
このベースバンド信号x(t)が移動平均演算部71によりその移動平均が演算される。移動平均の結果は、(4)式で与えられる。
【数4】
すなわち、移動平均により、(3)式の第2項及び第3項の周波数はΔωに比べて大きいので、移動平均により、この項は0となる。
【0042】
次に、複素共役演算部72により、(4)式の複素共役が求められ、振幅規格化部73により、(5)式の規格化信号が得られる。(4)式におけるA+S+ (t)+S- (t)は実数であるので、(4)式から、−jΔωt=tan-1(実部/虚部)により−jΔωtが得られるので、exp(jΔωt)を得ることができる。
【数5】
なお、移動平均により、上記のΔωtの位相量θを決定している。しかし、この値は、平均期間Tにおける平均値Θであって、雑音除去の演算を行う現在時刻tでの位相量ではない。そこで、平均演算を行うタイミング毎に平均位相量Θは演算されるで、平均演算毎の変化量Δφを求める。平均位相量Θは、時間区間Tの中点(現時刻tに対してT/2時間前)での値と見做すことができる。とすると、現時刻tでの位相量θ(t)は、Θ+ΔφM、Mは中点から現時刻までの平均演算を行う点数である。このように、平均演算により求められた位相量を補正して、現時刻の位相Δωtを精密に求めて、(4)式のΔωtとすれば、より完全に復調時の同期を実現することができ、正確な信号の復調が可能となる。
【0043】
次に、乗算部74により、ベースバンド信号に(5)式の規格化信号を乗算して、(6)式の同期ベースバンド信号xsync(t)を得ることができる。
【数6】

この処理により、復調搬送波の周波数が変調搬送波の周波数に対して偏差Δωを有していても、その偏差による影響を排除することができる。
なお、上記の説明では、受信信号に含まれる復調搬送波と、変調搬送波との位相差Δφは、明示していないが、(2)〜(5)式におけるjΔωtをjΔωt+jΔφとおいて、位相誤差Δφを考慮して、(6)式を演算すると、Δφは消去されるので、Δφが存在しても、(6)式が得られる。すなわち、周波数誤差だけでなく位相誤差も、補償されることになる。
【0044】
したがって、位相同期処理部70により、復調した後のベースバンドの信号は、(7)式で表される。すなわち、ミキサー74の出力信号xsync(t)は、(7)式で表現でき、そのスペクトルは図2(b)に示すようになり、ベースバンドの正周波数帯域と負周波数帯域とを有している。雑音は正周波数帯域の周波数ωU にρU 、負周波数帯域の−ωL にρL のスペクトルが存在する。
【数7】
【0045】
(7)式の実部が直交復調における同相成分、虚部が直交復調における直交成分である。
同相成分は、(8)式で、直交成分は、(9)式で表される。
【数8】
【数9】
すなわち、同相成分抽出部23の出力する同相成分xr (t)が(8)式で、直交成分抽出部24の出力する直交成分xi (t)が(9)式で、表現される。
【0046】
同相成分xr (t)は、FFT45に入力し、フーリエ変換されて同相周波数成分Xr (ω)が、(10)式のように求められる。
【数10】
直交成分xi (t)は、FFT46に入力し、フーリエ変換されて直交周波数成分Xi (ω)が、(11)式のように求められる。
【数11】
【0047】
なお、S+ (ω)は、ω>0の領域でのみ定義された関数であり、S- (ω)は、ω<0の領域でのみ定義された関数である。δ(ω−ωU )等は、ω=ωU で1、他で0のデルタ関数である。同相成分には信号成分と雑音成分が存在するが、直交成分には、信号成分が存在せず、雑音成分のみが存在する。(10)式で表される同相成分のスペクトルは、図3(a)に示すようになる。正周波数帯域には、信号成分のスペクトルS+ と、周波数ωu ,ωL に、それぞれ、雑音成分のスペクトル(ρU /2),(ρL * /2)が現れ、負周波数帯域には、信号成分のスペクトルS- と、周波数−ωu ,−ωL に、それぞれ、雑音成分のスペクトル(ρU * /2),(ρL /2)が現れている。ρ* はρの複素共役で、ρの位相を反転したスペクトルである。同相成分xr (t)も、直交成分xi (t)も実関数である。
【0048】
(11)式で表される直交成分のスペクトルは図3(b)に示すようになる。正周波数帯域には、周波数ωu ,ωL に、それぞれ、直交成分の雑音成分のスペクトル(−jρU /2),(jρ* L /2)が現れている。すなわち、この雑音成分は、同相成分のそれぞれの雑音成分と振幅は等しいが、同相成分に対して、位相が−π/2,π/2だけ回転している(時間軸上では、それぞれ、π/2だけ遅れ、進んでいる)。負周波数帯域には、周波数−ωu ,−ωL に、それぞれ、直交成分の雑音成分のスペクトル(jρU * /2),(−jρL /2)が現れている。すなわち、この雑音成分は、同相成分の雑音成分と振幅は等しいが、同相成分に対して位相が、それぞれ、π/2、−π/2だけ回転している(時間軸上では、それぞれ、π/2だけ遅れ、進んでいる)。また、同相成分も、直交成分も、正周波数帯域と負周波数帯域のスペクトルは、相互に、複素共役の関係、すなわち、位相が反転した関係にある。
【0049】
2.伝達関数の演算
次に、直交周波数成分Xi (ω)は、π/2だけ位相を回転させる(jを乗算する)位相回転部26に入力して、jの乗算が行われ、位相回転直交周波数成分jXi (ω)が求められる。この位相回転直交周波数成分jXi (ω)は、複素共役演算部47に入力しその複素共役直交周波数成分(jXi (ω))* が演算される。次に、乗算部48において、FFT45の出力する同相周波数成分Xr (ω)と複素共役直交周波数成分(jXi (ω))* との各周波数毎の積が演算される。演算結果である複素積周波数成分Xr (ω)(jXi (ω))* は、(12)式で表される。だだし、表現を簡単にするために、複素積周波数成分の4倍で表現している。
【数12】
【0050】
次に、この複素積周波数成分は、時間平均演算部49において、現時刻tに対して過去T期間の時間平均が演算(時間移動平均)される。その結果は、時間平均R(ω)として(13)式で表される。
【数13】
(12)式において、信号成分Sが係る項は、信号は不規則に変化していると考えられるので、時間平均をとれば、雑音の大きさに対して十分に小さく0と見做すことができる。雑音成分については振幅の2乗の時間平均であるので、雑音が存在する以上、0とはならない。
【0051】
(13)式の時間平均R(ω)は、符号周波数特性抽出部50に入力し、各周波数毎の符号が抽出される。なお、Avは時間平均を表す。(13)式の各項は、実数であり、各雑音スペクトルの周波数の位置に表れる振幅の2乗の時間平均の実スペクトルである。したがって、値が存在する周波数毎に、正負の判断を実行することができる。その結果、符号周波数特性抽出部50からは、sign( ω) から成る符号周波数特性が、時間平均伝達関数W(ω)として出力される。時間平均伝達関数W(ω)は、(14)式で表される。なお、上側帯波に重畳した雑音と下側帯波に重畳した雑音がベースバンドにおいて同一周波数に表れる場合には、符号を決定することができないので、本実施例では、ρU とρL が重なっていない場合を想定している。
【0052】
【数14】
次に、乗算部81において、位相回転部26の出力する位相回転直交周波数成分jXi (ω)と時間平均伝達関数W(ω)との周波数毎の積が演算される。その結果、推定同相雑音成分Q(ω)が、(15)式で求められる。
【数15】
【0053】
次に、減算部82において、FFT45の出力する同相周波数成分Xr (ω)から推定同相成分Q(ω)が周波数毎に減算される。(10)式と(15)式の比較から明らかなように、雑音が除去された同相周波数成分Aδ(ω)+S+ (ω)+S- (ω)が得られる。この同相周波数成分はIFFT83に入力して、雑音の除去された時間軸上の復調信号S(t)として出力される。
なお、時間平均R(ω)に、平均残差Δ(ω)が存在しても、その絶対値が雑音スペクトルの絶対値の2乗の時間平均より小さいならば、時間平均R(ω)が|Δ(ω)|より大きいところの周波数について、符号の抽出を行うことで、符号周波数特性を抽出することができる。
【0054】
上記実施例では、FFT46の出力にjを乗算する位相回転部26を設けた。しかし、jを乗算する位置は、直交成分抽出部24の後でも良い。すなわち、時間軸上の直交成分xi (t)にjを乗算しても、結果は同じでる。さらに、(12)式から明らかなように、同相成分抽出部23の出力である同相成分xr (t)、又は、FFT45の出力する同相周波数成分Xr (ω)に−jを乗算しても、同一結果が得られる。また、jの乗算と複素共役の演算を同相周波数成分に対して実行し、その結果の(jXr (ω))* と直交周波数成分Xi (ω)との積を求めても良い。
さらに、このjの乗算を行うことなく、複素積周波数成分Xr (ω)(Xi (ω))* 又は(Xr (ω))* (Xi (ω))を演算するようにしても良い。(11)式から明らかなように、直交周波数成分Xi (ω)には、共通に1/jの因子がかかっているだけであるので、複素積周波数成分Xr (ω)(Xi (ω))* は、(12)式の右辺においてjを共通に掛けた式で表される。したがって、(13)式の時間平均R(ω)及び(14)式の時間平均伝達関数W(ω)も、各項にjを掛けた式で表される。(13)式の各項は虚数であるので、符号を決定することができる。したがって、直交周波数成分Xi (ω)に時間平均伝達関数W(ω)を周波数毎に乗算すると、(15)式の推定同相雑音成分Q(ω)が得られる。よって、図1において、位相回転部26が存在しない場合も同様に雑音成分が除去された同相周波数成分を求めることができ、時間軸上の雑音が除去された復調信号S(t)を得ることができる。
本実施例では、全周波数帯域において、上記の合成までの演算を行うことを想定しているが、直交周波数成分(Xi (ω)の絶対値が所定閾値以上の周波数だけ実行するようにしても良い。この所定閾値は、直交雑音成分の絶対値の2乗が、平均残差Δ(ω)の絶対値以上となる値に設定すれば良い。このようにすれば、雑音の直交成分が同相成分に同相で合成されることが防止される。
上記実施例では、説明を簡単にするために、上側帯波雑音、下側帯波雑音を単一の線スペクトルとして説明した。しかし、多数の線スペクトル列であっても、連続スペクトルであっても、各周波数成分毎に上記の原理が成立する。したがって、雑音が多数の線スペクトル列、連続スペクトルの場合にも、本発明は適用できる。
上記実施例では、正負の全周波数帯域で演算することを想定しているが、正周波数帯域について上記の演算により符号周波数特性W(ω)を求め、負周波数帯域の符号周波数特性はその複素共役W(−ω)* として求めても良い。当然に、その逆であっても良い。
【実施例2】
【0055】
次に、伝達関数を同相周波数成分と直交周波数成分との比率で求める例について説明する。実施例2の信号処理装置の構成を図4に示す。図1と同一の機能を果たす部分は同一の符号が付されている。本実施例では伝達関数演算部70の構成が実施例1とは異なる。伝達関数演算部70は、比率演算部71、時間平均演算部72、符号周波数特性抽出部73を有している。
【0056】
同相周波数成分Xr (ω)は、直流成分Aを除去した成分とし、(16)式のように一般式で表す。S(ω)、ρ(ω)は、正負の全周波数帯域で定義された信号成分のスペクトル、同相成分の雑音成分のスペクトルとする。また、上側帯波に重畳した雑音と下側帯波に重畳した雑音がベースバンドにおいて重ならない場合には、上述したように、直交成分は同相成分に対して、各周波数毎に符号関数jsing(ω) の因子だけが異なるだけである。したがって、直交周波数成分Xi (ω)は、jsing(ω) とρ(ω)とを用いて(17)式で表される。
【数16】
【数17】
【0057】
比率演算部71において、直交周波数成分Xi (ω)に対する同相周波数成分Xr (ω)の比率周波数特性V(ω)が(18)式のように周波数毎に演算される。
【数18】
この比率周波数特性V(ω)を現時刻tに対して過去所定時間Tの時間平均が時間平均演算部72で演算され、jsign(ω)は時間的に変動しないので、時間平均R(ω)は、(19)式で表される。
【数19】
(18)式の第1項は、不規則に変化する信号成分S(ω)の時間平均であるので、長時間平均すれば、0となる。しかし、仮に、微小量の平均残差Δ(ω)があっても符号周波数特性を求めることができる。したがって、平均残差Δ(ω)の絶対値が1より小さい場合には、時間平均R(ω)から符号関数{−jsing(ω) }を抽出することができる。時間平均R(ω)は符号周波数特性演算部73に入力して、符号関数{−jsing(ω) }が伝達関数Z(ω)として決定される。
【0058】
次に、直交周波数成分Xi (ω)に伝達関数Z(ω)が、乗算部81で周波数毎に乗算されて、(20)式で表される推定同相雑音成分Q(ω)が得られる。
【数20】
推定同相雑音成分Q(ω)は、同相成分の雑音成分ρ(ω)を表しているので、FFT45から出力される同相周波数成分Xr (ω)から推定同相雑音成分Q(ω)を減算部82で減算することで、雑音が除去された信号成分S(ω)を得ることができる。この信号成分S(ω)がIFFT83に入力して、時間軸上の雑音が除去された復調信号S(t)を得ることができる。
【0059】
なお、(18)式で比率周波数特性V(ω)を求める時に、直交周波数成分Xi (ω)が0の場合には、発散する。このため、この比率を演算する場合に、直交周波数成分Xi (ω)の絶対値が所定値以上の周波数だけ、比率を演算し、その他の周波数では、この比率を0、すなわち、伝達関数Z(ω)を0とするか、演算せずに減算部82で減算演算を行わない。この周波数では、同相周波数成分から雑音を除去することはできないが、直交周波数成分の雑音成分が、同相雑音に同相で重畳されることが防止される。
【0060】
比率を演算する時の周波数決定する所定閾値は、(19)式の平均残差Δ(ω)の絶対値が1より小さくなるような直交周波数成分の絶対値で与えれば良い。平均残差Δ(ω)の絶対値が1より小さい場合には、(19)式から符号関数{−jsing(ω) }を決定できるからである。
【0061】
また、(19)式の比率の時間平均R(ω)の絶対値が2より小さい周波数では、その虚部の符号から符号関数{−jsing(ω) }を決定できる。この場合には、平均残差Δ(ω)の絶対値が1より小さいことを意味するので、符号関数を決定できる。時間平均R(ω)の絶対値が2以上の周波数では、伝達関数Z(ω)を0と置くか、同相周波数成分Xr (ω)と推定同相雑音成分Q(ω)との合成演算を行わないことで、上述のように、雑音の同相合成が防止される。
【0062】
また、比率演算により伝達関数を求める場合には、上側帯波雑音と下側帯波雑音とが同一周波数で重なっている場合には、比率の時間平均は、−jsign(ω)とはならず、直接、比率の時間平均として、伝達関数Z(ω)が与えられる。時間平均R(ω)は、(21)式、伝達関数Z(ω)は(22)式で表される。
【数21】
【数22】
【0063】
ただし、ρr (ω)、ρi (ω)は、同相雑音成分、直交雑音成分の全帯域スペクトルである。上記の平均残差Δ(ω)の絶対値が小さく、時間平均Av(ρr (ω)/ρi (ω))が大きく変化しない場合には、推定同相雑音成分Q(ω)は、ρi (ω)Av(ρr (ω)/ρi (ω))であるので、推定同相雑音成分Q(ω)は、近似的にρr (ω)となる。このようにして、比率の時間平均R(ω)を直接、伝達関数Z(ω)としても、雑音を除去することができる。なお、上側帯波雑音と下側帯波雑音とが重なっていない周波数では、当然に、(22)式の伝達関数Z(ω)は、符号関数{−jsign(ω)}となるので、正確に、同相周波数成分から同相雑音を除去することができる。
上記実施例では、正負の全周波数帯域で演算することを想定しているが、正周波数帯域について上記の演算により符号関数{−jsign(ω)}を伝達関数Z(ω)として求め、負周波数帯域の符号周波数特性はその複素共役Z(−ω)* =jsign(ω)として求めても良い。当然にその逆であっても良い。
さらに、比率演算部71において、同相周波数成分Xr (ω)に対する直交周波数成分Xi (ω)の比率周波数特性V(ω)を求めて、それから符号関数を抽出して、それを伝達関数の逆数1/Z(ω)としても良い。また、符号関数を抽出することなく、比例周波数特性の逆数1/V(ω)を直交周波数成分Xi (ω)に乗算するか、直交周波数成分Xi (ω)をその比例周波数特性V(ω)で除して推定同相周波数特性Q(ω)を求めても良い。
上記したことは、同様に成立する。直交周波数成分の絶対値が所定閾値以上の周波数、又は、比率の絶対値が1/2より大きい周波数についてのみ、比率演算又は合成演算を行えば良い。
【実施例3】
【0064】
位相同期処理部70において位相同期が完全でなく、Δωが存在すると、直流を中心として−Δω〜Δωの帯域は、その影響を受ける。このため、図5に示すように、その帯域を除去するマスク処理部51を設けても良い。実施例2の図4の場合も、図4の比率演算部71の後段に、マスク処理部51を設けても良い。
【符号の説明】
【0065】
23…同相成分抽出部
24…直交成分抽出部
60,70…伝達関数演算部
80…合成部
図1
図2
図3
図4
図5