【実施例1】
【0035】
1.構成
本発明の具体的な一実施例に係る信号処理装置1の構成を
図1に示す。本実施例は、HV(ハイブリッド車)におけるAMラジオ受信機に混入する雑音を抑制する信号処理装置である。HVには、100kHzのキャリア周波数で制御されるDC−DCコンバータが搭載されていると仮定する。AMラジオ放送波は、531kHzから1602kHzの周波数帯域が割り当てられている。DC−DCコンバータから発生するスイッチング雑音は、基本的には、周波数空間では、線スペクトル列となる。この雑音が、AMラジオ放送帯域に入り込み、AMラジオ放送波に雑音を与える。本発明は、AMラジオ放送の上側帯波帯域と下側帯波帯域とに、共に、雑音が存在する場合であっても、雑音を除去することができる。本実施例は、AMラジオ放送帯域に入り込むこの種の雑音をキャンセルする信号処理装置である。しかしながら、本発明は、このような雑音に限定されることなく、直交多重化されていない両側帯波伝送において、RF帯域に雑音が混入する全ての環境において用いることができる。また、混入する雑音は線スペクトルに限らず帯域を有した連続スペクトルであっても良い。
【0036】
本実施例の信号処理装置は、アンテナ11により受信されたAMラジオ放送信号が増幅器12により増幅され、A/Dコンバータ13により、一定の周期Δtでサンプリングされて、ディジタル値に変換された後、CPUにより処理される装置である。もちろん、アナログ回路で全て、又は一部を構成することは可能であるが、ディジタルで処理することが簡単であるので、本実施例はディジタル処理によるものである。
図1の構成は、ディジタル処理の各機能部毎にブロックで表現されている。A/Dコンバータ13の出力する信号は実数であるが、直交復調部20及びその後段のデータ処理は全て複素数で行われる。復調手段である直交復調部20は、ミキサー21と復調搬送波発生部22と同相成分抽出部23と直交成分抽出部24とを有している。直交復調部20によりベースバンド信号が得られる。複素信号で取り扱う関係上、このベースバンド信号は、上側帯波帯域に対応する正周波数帯域と下側帯波帯域に対応する負周波数帯域とを有する。
【0037】
直交復調部20に、位相同期処理部70が設けられている。位相同期処理部70はベースバンド信号を入力してその移動平均を演算する移動平均演算部71と、その出力の複素共役を演算する複素共役演算部72と、その出力の振幅を規格化する振幅規格化部73と、その出力とベースバンド信号とを乗算する乗算部74とを有している。
【0038】
同相成分抽出部23の出力する同相成分は、フーリエ変換部45(以下、「FFT」と記す)に入力して、同相周波数成分が得られる。また、直交成分抽出部24の出力する直交成分は、FFT46に入力して直交周波数成分が得られる。本実施例装置は、さらに、乗算部26と伝達関数演算部60と合成部80とを有している。乗算部26は直交周波数成分にjを乗算する部分であり、位相回転手段を構成する。伝達関数演算部60は、同相周波数成分の直交周波数成分に対する伝達関数を演算する部分であり、複素共役演算部47、乗算部48、時間平均演算部49、符号周波数特性抽出部50とを有している。また、合成部80は、伝達関数演算部60により求められた伝達関数を用いて直交周波数成分を補正し、補正された周波数成分を同相周波数成分から減算して雑音を除去する部分であり、乗算部81、減算部82、逆フーリエ変換部(以下、「IFFT」という)83とを有する。
【0039】
FFT46の出力する直交周波数成分は、乗算部26でjが乗算(π/2だけ位相を回転)され、複素共役演算部47に入力して、複素共役直交周波数成分が得られる。この複素共役直交周波数成分と同相周波数成分とが、乗算部48に入力して、各周波数毎に各成分が乗算されて、複素積周波数成分として時間平均演算部49に出力される。時間平均演算部49では、現時刻tに対して過去一定時間T内での時間平均が演算される。この時間平均演算部49の出力が符号周波数特性抽出部50に入力して上述した−jsign( ω) の符号関数から成る時間平均伝達関数が演算される。この時間平均伝達関数と直交周波数成分とが乗算部81において各周波数毎に乗算される。乗算部81の出力は、直交雑音成分から予測される同相雑音成分(以下、「推定同相雑音成分」という)となる。そして、減算部82において、同相周波数成分から推定同相雑音成分を周波数毎に減算して、雑音が除去された雑音除去同相周波数成分が得られる。その雑音除去同相周波数成分は、IFFT83に入力して逆フーリエ変換されて、時間軸上の雑音が除去された復調信号S(t)が得られる。
【0040】
次に本信号処理装置の作用について説明する。
1.受信信号のスペクトル
雑音は、放送局から受信装置に至る間に上側帯波帯域と下側帯波帯域とに重畳されるものとする。アンテナ11の出力する受信信号r(t)は、(1)式で表される。
【数1】
この受信信号r(t)のフーリエ変換であるスペクトルは
図2(a)に示すようになり、上側帯波帯域と下側帯波帯域とを有している。S
- は、下側帯波のスペクトル、S
+ は、上側帯波のスペクトルであり、Aは搬送波の振幅、ρ
U ,ρ
L は、放送局から受信装置までにおいて、それぞれ、RF帯域の上側帯波帯域、下側帯波帯域に重畳された雑音のスペクトルである。Aは実数、S
- 、S
+ 、ρ
U ,ρ
L は角周波数ω(以下、単に、「周波数」と記す)に関する複素関数である。すなわち、絶対値と位相とを含んでいる。ωに関して、S
- 、S
+ の絶対値は等しく、位相は反転関係にある。したがって、S
- 、S
+ は相互に複素共役関数である。S
- (t)、S
+ (t)は、それぞれ、S
- 、S
+ の逆フーリエ変換であり、時間に関する複素関数である。また、S
- (t)、S
+ (t)は、相互に複素共役の関係にあり、したがって、S
- (t)+S
+ (t)は実関数である。ω
c は、変調時の搬送波の周波数、ω
c +ω
U ,ω
c −ω
L は、それぞれ、上側帯波、下側帯波に重畳した雑音の周波数である。ω
c >0、ω
U >0、ω
L >0として定義する。
【0041】
空間を伝搬する波は、r(t)の実部で表される。したがって、A/Dコンバータ13から出力されるサンプリングされた受信信号(データ)は、実数列である。次に、この受信信号を直交復調する。
1.同期復調
復調搬送波発生部22の出力する復調搬送波の周波数は、変調搬送波の周波数ω
c に対してΔωだけ大きいとする。すなわち、復調搬送波波L(t)は(2)式で表される。
【数2】
信号成分の直交成分は存在しないので、複素空間では、直交復調は、(1)式で表される複素関数の実部の受信信号にexp[−j(ω
c +Δω)t]を掛ける演算を行うことに等しい。したがって、ミキサー21の出力する復調した後のベースバンドの信号は、(3)式で表される。なお、復調結果には1/2の係数が係るので、表現を簡単にするために、x(t)は、直交復調の結果の2倍で定義する。ベースバンド信号に、exp(−jΔωt)の因子が現れる。なお、ミキサー21の出力には2ω
c の高調波成分が含まれるので、実際には、ローパスフィルタにより高調波成分は除去されている。
【数3】
このベースバンド信号x(t)が移動平均演算部71によりその移動平均が演算される。移動平均の結果は、(4)式で与えられる。
【数4】
すなわち、移動平均により、(3)式の第2項及び第3項の周波数はΔωに比べて大きいので、移動平均により、この項は0となる。
【0042】
次に、複素共役演算部72により、(4)式の複素共役が求められ、振幅規格化部73により、(5)式の規格化信号が得られる。(4)式におけるA+S
+ (t)+S
- (t)は実数であるので、(4)式から、−jΔωt=tan
-1(実部/虚部)により−jΔωtが得られるので、exp(jΔωt)を得ることができる。
【数5】
なお、移動平均により、上記のΔωtの位相量θを決定している。しかし、この値は、平均期間Tにおける平均値Θであって、雑音除去の演算を行う現在時刻tでの位相量ではない。そこで、平均演算を行うタイミング毎に平均位相量Θは演算されるで、平均演算毎の変化量Δφを求める。平均位相量Θは、時間区間Tの中点(現時刻tに対してT/2時間前)での値と見做すことができる。とすると、現時刻tでの位相量θ(t)は、Θ+ΔφM、Mは中点から現時刻までの平均演算を行う点数である。このように、平均演算により求められた位相量を補正して、現時刻の位相Δωtを精密に求めて、(4)式のΔωtとすれば、より完全に復調時の同期を実現することができ、正確な信号の復調が可能となる。
【0043】
次に、乗算部74により、ベースバンド信号に(5)式の規格化信号を乗算して、(6)式の同期ベースバンド信号x
sync(t)を得ることができる。
【数6】
この処理により、復調搬送波の周波数が変調搬送波の周波数に対して偏差Δωを有していても、その偏差による影響を排除することができる。
なお、上記の説明では、受信信号に含まれる復調搬送波と、変調搬送波との位相差Δφは、明示していないが、(2)〜(5)式におけるjΔωtをjΔωt+jΔφとおいて、位相誤差Δφを考慮して、(6)式を演算すると、Δφは消去されるので、Δφが存在しても、(6)式が得られる。すなわち、周波数誤差だけでなく位相誤差も、補償されることになる。
【0044】
したがって、位相同期処理部70により、復調した後のベースバンドの信号は、(7)式で表される。すなわち、ミキサー74の出力信号x
sync(t)は、(7)式で表現でき、そのスペクトルは
図2(b)に示すようになり、ベースバンドの正周波数帯域と負周波数帯域とを有している。雑音は正周波数帯域の周波数ω
U にρ
U 、負周波数帯域の−ω
L にρ
L のスペクトルが存在する。
【数7】
【0045】
(7)式の実部が直交復調における同相成分、虚部が直交復調における直交成分である。
同相成分は、(8)式で、直交成分は、(9)式で表される。
【数8】
【数9】
すなわち、同相成分抽出部23の出力する同相成分x
r (t)が(8)式で、直交成分抽出部24の出力する直交成分x
i (t)が(9)式で、表現される。
【0046】
同相成分x
r (t)は、FFT45に入力し、フーリエ変換されて同相周波数成分X
r (ω)が、(10)式のように求められる。
【数10】
直交成分x
i (t)は、FFT46に入力し、フーリエ変換されて直交周波数成分X
i (ω)が、(11)式のように求められる。
【数11】
【0047】
なお、S
+ (ω)は、ω>0の領域でのみ定義された関数であり、S
- (ω)は、ω<0の領域でのみ定義された関数である。δ(ω−ω
U )等は、ω=ω
U で1、他で0のデルタ関数である。同相成分には信号成分と雑音成分が存在するが、直交成分には、信号成分が存在せず、雑音成分のみが存在する。(10)式で表される同相成分のスペクトルは、
図3(a)に示すようになる。正周波数帯域には、信号成分のスペクトルS
+ と、周波数ω
u ,ω
L に、それぞれ、雑音成分のスペクトル(ρ
U /2),(ρ
L * /2)が現れ、負周波数帯域には、信号成分のスペクトルS
- と、周波数−ω
u ,−ω
L に、それぞれ、雑音成分のスペクトル(ρ
U * /2),(ρ
L /2)が現れている。ρ
* はρの複素共役で、ρの位相を反転したスペクトルである。同相成分x
r (t)も、直交成分x
i (t)も実関数である。
【0048】
(11)式で表される直交成分のスペクトルは
図3(b)に示すようになる。正周波数帯域には、周波数ω
u ,ω
L に、それぞれ、直交成分の雑音成分のスペクトル(−jρ
U /2),(jρ
* L /2)が現れている。すなわち、この雑音成分は、同相成分のそれぞれの雑音成分と振幅は等しいが、同相成分に対して、位相が−π/2,π/2だけ回転している(時間軸上では、それぞれ、π/2だけ遅れ、進んでいる)。負周波数帯域には、周波数−ω
u ,−ω
L に、それぞれ、直交成分の雑音成分のスペクトル(jρ
U * /2),(−jρ
L /2)が現れている。すなわち、この雑音成分は、同相成分の雑音成分と振幅は等しいが、同相成分に対して位相が、それぞれ、π/2、−π/2だけ回転している(時間軸上では、それぞれ、π/2だけ遅れ、進んでいる)。また、同相成分も、直交成分も、正周波数帯域と負周波数帯域のスペクトルは、相互に、複素共役の関係、すなわち、位相が反転した関係にある。
【0049】
2.伝達関数の演算
次に、直交周波数成分X
i (ω)は、π/2だけ位相を回転させる(jを乗算する)位相回転部26に入力して、jの乗算が行われ、位相回転直交周波数成分jX
i (ω)が求められる。この位相回転直交周波数成分jX
i (ω)は、複素共役演算部47に入力しその複素共役直交周波数成分(jX
i (ω))
* が演算される。次に、乗算部48において、FFT45の出力する同相周波数成分X
r (ω)と複素共役直交周波数成分(jX
i (ω))
* との各周波数毎の積が演算される。演算結果である複素積周波数成分X
r (ω)(jX
i (ω))
* は、(12)式で表される。だだし、表現を簡単にするために、複素積周波数成分の4倍で表現している。
【数12】
【0050】
次に、この複素積周波数成分は、時間平均演算部49において、現時刻tに対して過去T期間の時間平均が演算(時間移動平均)される。その結果は、時間平均R(ω)として(13)式で表される。
【数13】
(12)式において、信号成分Sが係る項は、信号は不規則に変化していると考えられるので、時間平均をとれば、雑音の大きさに対して十分に小さく0と見做すことができる。雑音成分については振幅の2乗の時間平均であるので、雑音が存在する以上、0とはならない。
【0051】
(13)式の時間平均R(ω)は、符号周波数特性抽出部50に入力し、各周波数毎の符号が抽出される。なお、Avは時間平均を表す。(13)式の各項は、実数であり、各雑音スペクトルの周波数の位置に表れる振幅の2乗の時間平均の実スペクトルである。したがって、値が存在する周波数毎に、正負の判断を実行することができる。その結果、符号周波数特性抽出部50からは、sign( ω) から成る符号周波数特性が、時間平均伝達関数W(ω)として出力される。時間平均伝達関数W(ω)は、(14)式で表される。なお、上側帯波に重畳した雑音と下側帯波に重畳した雑音がベースバンドにおいて同一周波数に表れる場合には、符号を決定することができないので、本実施例では、ρ
U とρ
L が重なっていない場合を想定している。
【0052】
【数14】
次に、乗算部81において、位相回転部26の出力する位相回転直交周波数成分jX
i (ω)と時間平均伝達関数W(ω)との周波数毎の積が演算される。その結果、推定同相雑音成分Q(ω)が、(15)式で求められる。
【数15】
【0053】
次に、減算部82において、FFT45の出力する同相周波数成分X
r (ω)から推定同相成分Q(ω)が周波数毎に減算される。(10)式と(15)式の比較から明らかなように、雑音が除去された同相周波数成分Aδ(ω)+S
+ (ω)+S
- (ω)が得られる。この同相周波数成分はIFFT83に入力して、雑音の除去された時間軸上の復調信号S(t)として出力される。
なお、時間平均R(ω)に、平均残差Δ(ω)が存在しても、その絶対値が雑音スペクトルの絶対値の2乗の時間平均より小さいならば、時間平均R(ω)が|Δ(ω)|より大きいところの周波数について、符号の抽出を行うことで、符号周波数特性を抽出することができる。
【0054】
上記実施例では、FFT46の出力にjを乗算する位相回転部26を設けた。しかし、jを乗算する位置は、直交成分抽出部24の後でも良い。すなわち、時間軸上の直交成分x
i (t)にjを乗算しても、結果は同じでる。さらに、(12)式から明らかなように、同相成分抽出部23の出力である同相成分x
r (t)、又は、FFT45の出力する同相周波数成分X
r (ω)に−jを乗算しても、同一結果が得られる。また、jの乗算と複素共役の演算を同相周波数成分に対して実行し、その結果の(jX
r (ω))
* と直交周波数成分X
i (ω)との積を求めても良い。
さらに、このjの乗算を行うことなく、複素積周波数成分X
r (ω)(X
i (ω))
* 又は(X
r (ω))
* (X
i (ω))を演算するようにしても良い。(11)式から明らかなように、直交周波数成分X
i (ω)には、共通に1/jの因子がかかっているだけであるので、複素積周波数成分X
r (ω)(X
i (ω))
* は、(12)式の右辺においてjを共通に掛けた式で表される。したがって、(13)式の時間平均R(ω)及び(14)式の時間平均伝達関数W(ω)も、各項にjを掛けた式で表される。(13)式の各項は虚数であるので、符号を決定することができる。したがって、直交周波数成分X
i (ω)に時間平均伝達関数W(ω)を周波数毎に乗算すると、(15)式の推定同相雑音成分Q(ω)が得られる。よって、
図1において、位相回転部26が存在しない場合も同様に雑音成分が除去された同相周波数成分を求めることができ、時間軸上の雑音が除去された復調信号S(t)を得ることができる。
本実施例では、全周波数帯域において、上記の合成までの演算を行うことを想定しているが、直交周波数成分(X
i (ω)の絶対値が所定閾値以上の周波数だけ実行するようにしても良い。この所定閾値は、直交雑音成分の絶対値の2乗が、平均残差Δ(ω)の絶対値以上となる値に設定すれば良い。このようにすれば、雑音の直交成分が同相成分に同相で合成されることが防止される。
上記実施例では、説明を簡単にするために、上側帯波雑音、下側帯波雑音を単一の線スペクトルとして説明した。しかし、多数の線スペクトル列であっても、連続スペクトルであっても、各周波数成分毎に上記の原理が成立する。したがって、雑音が多数の線スペクトル列、連続スペクトルの場合にも、本発明は適用できる。
上記実施例では、正負の全周波数帯域で演算することを想定しているが、正周波数帯域について上記の演算により符号周波数特性W(ω)を求め、負周波数帯域の符号周波数特性はその複素共役W(−ω)
* として求めても良い。当然に、その逆であっても良い。
【実施例2】
【0055】
次に、伝達関数を同相周波数成分と直交周波数成分との比率で求める例について説明する。実施例2の信号処理装置の構成を
図4に示す。
図1と同一の機能を果たす部分は同一の符号が付されている。本実施例では伝達関数演算部70の構成が実施例1とは異なる。伝達関数演算部70は、比率演算部71、時間平均演算部72、符号周波数特性抽出部73を有している。
【0056】
同相周波数成分X
r (ω)は、直流成分Aを除去した成分とし、(16)式のように一般式で表す。S(ω)、ρ(ω)は、正負の全周波数帯域で定義された信号成分のスペクトル、同相成分の雑音成分のスペクトルとする。また、上側帯波に重畳した雑音と下側帯波に重畳した雑音がベースバンドにおいて重ならない場合には、上述したように、直交成分は同相成分に対して、各周波数毎に符号関数jsing(ω) の因子だけが異なるだけである。したがって、直交周波数成分X
i (ω)は、jsing(ω) とρ(ω)とを用いて(17)式で表される。
【数16】
【数17】
【0057】
比率演算部71において、直交周波数成分X
i (ω)に対する同相周波数成分X
r (ω)の比率周波数特性V(ω)が(18)式のように周波数毎に演算される。
【数18】
この比率周波数特性V(ω)を現時刻tに対して過去所定時間Tの時間平均が時間平均演算部72で演算され、jsign(ω)は時間的に変動しないので、時間平均R(ω)は、(19)式で表される。
【数19】
(18)式の第1項は、不規則に変化する信号成分S(ω)の時間平均であるので、長時間平均すれば、0となる。しかし、仮に、微小量の平均残差Δ(ω)があっても符号周波数特性を求めることができる。したがって、平均残差Δ(ω)の絶対値が1より小さい場合には、時間平均R(ω)から符号関数{−jsing(ω) }を抽出することができる。時間平均R(ω)は符号周波数特性演算部73に入力して、符号関数{−jsing(ω) }が伝達関数Z(ω)として決定される。
【0058】
次に、直交周波数成分X
i (ω)に伝達関数Z(ω)が、乗算部81で周波数毎に乗算されて、(20)式で表される推定同相雑音成分Q(ω)が得られる。
【数20】
推定同相雑音成分Q(ω)は、同相成分の雑音成分ρ(ω)を表しているので、FFT45から出力される同相周波数成分X
r (ω)から推定同相雑音成分Q(ω)を減算部82で減算することで、雑音が除去された信号成分S(ω)を得ることができる。この信号成分S(ω)がIFFT83に入力して、時間軸上の雑音が除去された復調信号S(t)を得ることができる。
【0059】
なお、(18)式で比率周波数特性V(ω)を求める時に、直交周波数成分X
i (ω)が0の場合には、発散する。このため、この比率を演算する場合に、直交周波数成分X
i (ω)の絶対値が所定値以上の周波数だけ、比率を演算し、その他の周波数では、この比率を0、すなわち、伝達関数Z(ω)を0とするか、演算せずに減算部82で減算演算を行わない。この周波数では、同相周波数成分から雑音を除去することはできないが、直交周波数成分の雑音成分が、同相雑音に同相で重畳されることが防止される。
【0060】
比率を演算する時の周波数決定する所定閾値は、(19)式の平均残差Δ(ω)の絶対値が1より小さくなるような直交周波数成分の絶対値で与えれば良い。平均残差Δ(ω)の絶対値が1より小さい場合には、(19)式から符号関数{−jsing(ω) }を決定できるからである。
【0061】
また、(19)式の比率の時間平均R(ω)の絶対値が2より小さい周波数では、その虚部の符号から符号関数{−jsing(ω) }を決定できる。この場合には、平均残差Δ(ω)の絶対値が1より小さいことを意味するので、符号関数を決定できる。時間平均R(ω)の絶対値が2以上の周波数では、伝達関数Z(ω)を0と置くか、同相周波数成分X
r (ω)と推定同相雑音成分Q(ω)との合成演算を行わないことで、上述のように、雑音の同相合成が防止される。
【0062】
また、比率演算により伝達関数を求める場合には、上側帯波雑音と下側帯波雑音とが同一周波数で重なっている場合には、比率の時間平均は、−jsign(ω)とはならず、直接、比率の時間平均として、伝達関数Z(ω)が与えられる。時間平均R(ω)は、(21)式、伝達関数Z(ω)は(22)式で表される。
【数21】
【数22】
【0063】
ただし、ρ
r (ω)、ρ
i (ω)は、同相雑音成分、直交雑音成分の全帯域スペクトルである。上記の平均残差Δ(ω)の絶対値が小さく、時間平均Av(ρ
r (ω)/ρ
i (ω))が大きく変化しない場合には、推定同相雑音成分Q(ω)は、ρ
i (ω)Av(ρ
r (ω)/ρ
i (ω))であるので、推定同相雑音成分Q(ω)は、近似的にρ
r (ω)となる。このようにして、比率の時間平均R(ω)を直接、伝達関数Z(ω)としても、雑音を除去することができる。なお、上側帯波雑音と下側帯波雑音とが重なっていない周波数では、当然に、(22)式の伝達関数Z(ω)は、符号関数{−jsign(ω)}となるので、正確に、同相周波数成分から同相雑音を除去することができる。
上記実施例では、正負の全周波数帯域で演算することを想定しているが、正周波数帯域について上記の演算により符号関数{−jsign(ω)}を伝達関数Z(ω)として求め、負周波数帯域の符号周波数特性はその複素共役Z(−ω)
* =jsign(ω)として求めても良い。当然にその逆であっても良い。
さらに、比率演算部71において、同相周波数成分X
r (ω)に対する直交周波数成分X
i (ω)の比率周波数特性V(ω)を求めて、それから符号関数を抽出して、それを伝達関数の逆数1/Z(ω)としても良い。また、符号関数を抽出することなく、比例周波数特性の逆数1/V(ω)を直交周波数成分X
i (ω)に乗算するか、直交周波数成分X
i (ω)をその比例周波数特性V(ω)で除して推定同相周波数特性Q(ω)を求めても良い。
上記したことは、同様に成立する。直交周波数成分の絶対値が所定閾値以上の周波数、又は、比率の絶対値が1/2より大きい周波数についてのみ、比率演算又は合成演算を行えば良い。