特許第6296456号(P6296456)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6296456
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】電池用の新規な正極及び電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20180312BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20180312BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M10/052
【請求項の数】12
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-545560(P2015-545560)
(86)(22)【出願日】2014年3月17日
(65)【公表番号】特表2016-513854(P2016-513854A)
(43)【公表日】2016年5月16日
(86)【国際出願番号】JP2014001516
(87)【国際公開番号】WO2014141726
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年2月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-54346(P2013-54346)
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ビョン ヒィエリョン
(72)【発明者】
【氏名】シャオ ユ
【審査官】 市川 篤
(56)【参考文献】
【文献】 特表2015−528635(JP,A)
【文献】 特表2013−535801(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0242730(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電時に、式(1)で示す、水性液体中での電極反応を伴う、負極が金属リチウム又は金属カリウムを含む電池用の正極。
+2e→3I・・・(1)
【請求項2】
上記水性液体は、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム及びヨウ化リチウムからなる群から選択される少なくとも一種の塩と、ヨウ素分子(I)とを溶解している、請求項1に記載の正極。
【請求項3】
上記水性液体は、ヨウ化カリウム及びヨウ化ナトリウムの少なくとも一方と、ヨウ素分子(I)と、水溶性のリチウム塩とを溶解している、請求項1に記載の正極。
【請求項4】
上記水性液体において、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム及びヨウ化リチウムからなる群から選択される少なくとも一種の塩が溶解している、請求項1に記載の正極。
【請求項5】
上記水性液体において、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム及びヨウ化リチウムからなる群から選択される少なくとも一種の塩と、水溶性の三ヨウ化物の塩とを溶解している、請求項4に記載の正極。
【請求項6】
上記水性液体において、ヨウ化カリウム及びヨウ化ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一種の塩と、水溶性の三ヨウ化物の塩と、水溶性のリチウム塩と、を溶解している、請求項4に記載の正極。
【請求項7】
上記水性液体は溶媒として水のみを含む、請求項1〜6の何れか一項に記載の正極。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に示す正極と、金属リチウム又は金属カリウムを含む負極とを備える電池。
【請求項9】
上記負極は金属リチウムを含む、請求項8に記載の電池。
【請求項10】
正極と負極との合計重量あたりの重量エネルギー密度が0.28kWh/kg以上である、請求項9に記載の電池。
【請求項11】
上記水性液体に接する集電体をさらに備え、当該集電体は、導電性材料を含む、請求項8〜10の何れか一項に記載の電池。
【請求項12】
二次電池である、請求項8〜11の何れか一項に記載の電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用の新規な正極及び当該新規な正極を備えた電池に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーンエネルギーを推進する、再生可能であり、安全であって、費用効率が高く、環境にやさしいエネルギー技術の向上は、環境汚染及び地球温暖化を低減するための最も重要な科学的義務及び技術義務の1つである。特に、進歩した電気自動車(electrical vehicles、EV)の開発は、大気汚染及び化石燃料への依存を低減させるためのクリーンエネルギー技術における最も重大な挑戦の1つである。結果として、再充電可能な電池は、電池式の電気モーターにとって注目の的となってきた。日本にある新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)によって公表されているBattery Roadmap 2010によれば、再充電可能な電池のための主要な目標は、2030年までにエネルギー密度を0.5kWhkg−1(1.0kWhL−1)まで向上させて(非特許文献1)、EVをガソリン内燃エンジン(internal combustion engine、ICE)車に匹敵するレベルの走行距離(450〜600km)に拡張することを可能にすることである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】http://www.nedo.go.jp/content/100153876.pdf.
【非特許文献2】Choi, N.-S. et al. Challenges facing lithium batteries and electrical double-layer capacitors. Angew.Chem., Int. Ed. 51 (2012).
【非特許文献3】Bruce, P. G., Freunberger, S. A., Hardwick, L. J. & Tarascon, J.-M. Li-O2 and Li-S batteries with high energy storage. Nat. Mater. 11, 19-29 (2012).
【非特許文献4】Ji, X. & Nazar, L. F. Advances in Li-S batteries. J. Mater. Chem. 20, 9821-9826 (2010).
【非特許文献5】Demir-Cakan, R. et al. Cathode composites for Li-S batteries via the use of oxygenated porous architectures. J. Am. Chem. Soc. 133, 16154-16160 (2011).
【非特許文献6】Li, Y. et al. Nitrogen-doped carbon nanotubes as cathode for lithium-air batteries. Electrochemistry Communications 13, 668-672, doi:10.1016/j.elecom.2011.04.004 (2011).
【非特許文献7】Freunberger, S. A. et al. Reactions in the rechargeable lithium-O2 battery with alkyl carbonate electrolytes J. Am. Chem. Soc. 133, 8040-8047 (2011).
【非特許文献8】Freunberger, S. A. et al. The lithium-oxygen battery with ether-based electrolytes. Angew. Chem., Int. Ed. 50, 8609-8613 (2011).
【非特許文献9】McCloskey, B. D., Bethune, D. S., Shelby, R. M., Girishkumar, G. & Luntz, A. C. Solvents' critical role in nonaqueous lithium-oxygen battery electrochemistry. J. Phys. Chem. Lett. 2, 1161-1166 (2011).
【非特許文献10】10 Lim, H., Yilmaz, E. & Byon, H. R. Real-time XRD studies of Li-O2 electrochemical reaction in nonaqueous lithium-oxygen battery. J. Phys. Chem. Lett. 3, 3210-3215 (2012).
【非特許文献11】Girishkumar, G., McCloskey, B., Luntz, A. C., Swanson, S. & Wilcke, W. Lithium-air battery: promise and challenges. J. Phys. Chem. Lett. 1, 2193-2203 (2010).
【非特許文献12】Li, W., Dahn, J. R. & Wainwright, D. Rechargeable lithium batteries with aqueous electrolytes. Science 264, 1115-1118 (1994).
【非特許文献13】Luo, J.-Y., Cui, W.-J., He, P. & Xia, Y.-Y. Raising the cycling stability of aqueous lithium-ion batteries by eliminating oxygen in the electrolyte. Nat. Chem. 2, 760-765 (2010).
【非特許文献14】Wang, H. et al. An ultrafast nickel-iron battery from strongly coupled inorganic nanoparticle/nanocarbon hybrid materials. Nat. Commun., 3:917 (2012).
【非特許文献15】Pasta, M., Wessells, C. D., Huggins, R. A. & Cui, Y. A high-rate and long cycle life aqueous electrolyte battery for grid-scale energy storage. Nat. Commun., 3:1149 (2012).
【非特許文献16】Wang, Y., Wang, Y. & Zhou, H. A Li-liquid cathode battery based on a hybrid electrolyte. ChemSusChem 4, 1087-1090 (2011).
【非特許文献17】Lu, Y., Goodenough, J. B. & Kim, Y. Aqueous cathode for next-generation alkali-Ion batteries. J. Am. Chem. Soc. 133, 5756-5759 (2011).
【非特許文献18】Dean, J. A. Lange’s Chemistry Handbook 14th ed., McGraw-Hill Professional Publishing, McGraw-Hill, New York (1992).
【非特許文献19】Owen, J. R. Rechargeable lithium batteries. Chem. Soc. Rev. 26, 259-267 (1997).
【非特許文献20】Schmidt, C. L. & Skarstad, P. M. Development of an equivalent-circuit model for the lithium/iodine battery. J. Power Sources 65, 121-128 (1997).
【非特許文献21】Svensson, P. H. & Kloo, L. Synthesis, structure, and bonding in polyiodide and metal iodide-iodine systems. Chem. Rev. 103, 1649-1684 (2003).
【非特許文献22】Adachi, G., Imanaka, N. & Aono, H. Fast Li+ conducting ceramic electrolytes. Adv. Mater. 8, 127-135(1996).
【非特許文献23】Wang, Y. L., Sun, Q. L., Zhao, Q. Q., Cao, J. S. & Ye, S. H. Rechargeable lithium/iodine battery with superior high-rate capability by using iodine-carbon composite as cathode. Energy Environ. Sci. 4, 3947-3950 (2011).
【非特許文献24】Schuster, J. et al. Spherical ordered mesoporous carbon nanoparticles with high porosity for lithiumsulfur batteries. Angew. Chem., Int. Ed. 51, 3591-3595 (2012).
【非特許文献25】Black, R. et al. Screening for superoxide reactivity in Li-O2 battereis: Effect on Li2O2/LiOH crystallization. J. Am. Chem. Soc. 134, 2902-2905 (2012).
【非特許文献26】Lu, Y. & Goodenough, J. B. Rechargeable alkali-ion cathode-flow battery. J. Mater. Chem. 21, 10113-10117 (2011).
【非特許文献27】Dunn, B., Kamath, H. & Tarascon, J.-M. Electrical energy storage for the grid: a battery of choices. Science 334, 928-935 (2011).
【非特許文献28】Li, H., Wang, Y., Na, H., Liu, H. & Zhou, H. Rechargeable Ni-Li battery integrated aqueous/nonaqueous system. . J. Am. Chem. Soc. 131, 15098-15099 (2009).
【非特許文献29】Recham, N. et al. A 3.6_V lithium-based fluorosulphate insertion positive electrode for lithium-ion batteries. Nat. Mater. 9, 68-74 (2010).
【非特許文献30】Whittingham, M. S. Lithium batteries and cathode materials. Chem. Rev. 104, 4271-4302 (2004).
【非特許文献31】Wessells, C., Ruffo, R., Huggins, R. A. & Cui, Y. Investigations of the electrochemical stability of aqueous electrolytes for lithium battery applications. Electrochem. Solid St. 13, A59-A61 (2010).
【非特許文献32】Zhang, T. et al. Li/polymer electrolyte/water stable lithium-conducting glass ceramics composite for lithium-air secondary batteries with an aqueous electrolyte. J. Electrochem. Soc. 155, A965-A969 (2008).
【非特許文献33】http://www.ohara-inc.co.jp/en/product/electronics/licgc.html#04.
【非特許文献34】Lide, D. R. CRC Handbook of Chemistry and Physics, 3rd ed. CRC Press, Inc., Boca Raton (2000).
【非特許文献35】Kolthoff, I. M. & Jordan, J. Voltammetry of iodine and iodide at rotated platinum wire electrodes. J. Am. Chem. Soc. 75, 1571-1575 (1953).
【非特許文献36】Xu, K. Nonaqueous liquid electrolytes for lithium-based rechargeable batteries. Chem. Rev. 104, 4303-4418 (2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現在採用されている電池システム(0.2kWhkg−1未満)(非特許文献2)から3倍より高く上昇したエネルギー密度を達成することは、現在の電池技術ではほとんどその性能限界に到達しているために、並でない挑戦である。したがって、現在のものよりも高いエネルギー密度への達成を可能にする新規の化学反応及び系構成を用いた新規な電池システムが必要とされている。
【0005】
近年では、非水性のリチウム−硫黄(Li−S)電池及び酸化リチウム(Li−O)電池がますます注目されてきている(非特許文献3)。非水性のリチウム−硫黄(Li−S)電池及びLi−O電池は、0.3〜0.5kWhkg−1のエネルギー密度を達成しているが、それらの不十分なサイクリング性能は実用的な電池の基準を満たしていない(非特許文献2及び3)。Li−S電池における最初の20サイクルの間の比容量(20%〜50%)の急速な減少は、非水性の電解質に溶解するリチウム多硫化物の内部の往復プロセスによるものであり、当該プロセスは、Li金属の腐食及び活性種の損失を導く(非特許文献4〜6)。より深刻な容量の漸減が、10サイクル未満を示しているLi−O電池において一般的に示されており、これは、おそらく超酸化物ラジカルの攻撃による非水性の電解質の分解から生じている(非特許文献3、7及び8)。これによって、Li−Oの電気化学反応の効率が低下している(非特許文献9及び10)。その上、出力密度及び容積エネルギー密度における低下は、低率容量、高い分極化及び容積拡大などのさらなる問題の原因となる(非特許文献3、4及び11)。電極における電気伝導性及びイオン伝導性は、絶縁放電産物が電解質/電極の接触面において形成されたときに必然的にさらに減少する。
【0006】
より問題の少ない蓄電システムを作るための選択肢は、水性リチウム電池である(非特許文献12〜15)。水性物質は、電気化学電池において急速な酸化還元反応を誘導する、完全にイオン化した物質の存在下で、高いイオン伝導性を有する。この着想はこれらの水性電解質を正極において用いることであり、水性正極として言及されている(非特許文献16〜17)が、水性正極及び電気伝導性の集電体を劣化させないと同時に、水性正極/集電体の接触面においていかなる固体産物も析出残留物も生じさせない酸化還元反応を用いている。したがって、水性正極では、分極化及び容積拡大を僅かなものとし得る。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであって、その第一の目的は、従来と比較して充分に高い重量エネルギー密度を有する電池用の正極及びその利用を提供することである。その第二の目的は、当該正極を利用したより実用的な二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本願発明は以下の態様の少なくとも1つを包含する。
【0009】
1)放電時に、式(1)で示す、水性液体中での電極反応を伴う、電池用の正極。
+2e→3I・・・(1)
【0010】
2)上記水性液体は、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム及びヨウ化リチウムからなる群から選択される少なくとも一種の塩と、ヨウ素分子(I)とを溶解している、1)に記載の正極。
【0011】
3)上記水性液体は、ヨウ化カリウム及びヨウ化ナトリウムの少なくとも一方と、ヨウ素分子(I)と、水溶性のリチウム塩とを溶解している、1)に記載の正極。
【0012】
4)上記水性液体において、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム及びヨウ化リチウムからなる群から選択される少なくとも一種の塩が溶解している、1)に記載の正極。
【0013】
5)上記水性液体において、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム及びヨウ化リチウムからなる群から選択される少なくとも一種の塩と、水溶性の三ヨウ化物の塩とを溶解している、4)に記載の正極。
【0014】
6)上記水性液体において、ヨウ化カリウム及びヨウ化ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一種の塩と、水溶性の三ヨウ化物の塩と、水溶性のリチウム塩と、を溶解している、4)に記載の正極。
【0015】
7)上記水性液体は溶媒として水のみを含む、1)〜6)の何れか一つに記載の正極。
【0016】
8)上記1)〜7)の何れか一つに示す正極と、負極とを備える電池。
【0017】
9)上記負極は金属リチウムを含む、8)に記載の電池。
【0018】
10)正極と負極との合計重量あたりの重量エネルギー密度が0.28kWh/kg以上である、9)に記載の電池。
【0019】
11)上記水性液体に接する集電体をさらに備え、当該集電体は、導電性材料を含む、8)
〜10)の何れか一つに記載の電池。
【0020】
12)二次電池である、8)〜11)の何れか一つに記載の電池。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、従来と比較して充分に高い重量エネルギー密度を有する電池用の正極及びその利用を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、I/I酸化還元反応ベースの水性正極に関する。(a)標準の還元電位(非特許文献18)に対する水性溶液における可逆的な酸化還元対の溶解性の図である。四角は、Li、Na及びKの塩とのI/Iの酸化還元対を示している。(b)下から上へ、(−)Cuメッシュ/Li金属/有機電解質/バッファ層/セラミックセパレータ(LATP)/水性正極(I/KI)/Super−P炭素/Ti箔(+)から構成された。(c)水性Li−I電池におけるI/I酸化還元反応の作用の概念図である。(d)0.01(灰色)、0.02(赤)、0.05(緑)、0.08(青)、0.12(シアン)、0.18(ピンク)及び0.25(黄)mVs−1の掃引速度におけるCV曲線(e)掃引速度(ユプシロン)の増加に伴う線形に増加する酸化ピーク電流(上)及び還元ピーク電流(下)。
図2図2は、水性Li−I電池の電気化学的性能に関する。(a)1MのKI及び0.03MのLiIの存在下における0.08MのIを用いた2.5mA cm−2の電流速度における100回サイクルを行った充電/放電プロファイル。破線の曲線は理論的な放電プロファイルを示す。(b)充電/放電サイクルにおけるクーロン効果及び比容量を示しているサイクル性能。(c)1MのKI及び2MのKIにおける0.1〜12mA cm−2の範囲の電流率における放電電位(黒丸)及び対応する出力密度(三角)を示している分極グラフ。
図3図3は、100サイクル後のLATP、水性正極及び集電体及び100サイクルした水性正極からの再構築電池の電気化学的性能の解析に関する。(a)100サイクルについての負極(赤)及び正極(黒)の電解質を交換するLATPのXRDパターン。(b)Liイオン濃度のICP−OES解析。Liイオン濃度は、新規及び100サイクルした水性電極について、それぞれ、188mgL−1及び192mgL−1又は27.1mM及び27.7mMである。(c〜d)100サイクル前(c)及び100サイクル後(d)のSuper P炭素のSEM画像。(e〜f)(e)充電/放電プロファイル及び(f)100サイクルした水性電極から構成された電池の50サイクルにおけるサイクル性能(0.08/1/0.03MのI/KI/LiI)。
図4図4は、1MのKI水溶液におけるGC電極表面の視像及び対応するCV曲線に関する。I/I酸化還元反応を、定電位モード(VMP3、Biologic)を介して調べた。サイクリックボルタンメトリー(CV)を、10mVs−1の掃引速度でIMのKIの半電池において試験した。対向電極(CE)としてPtワイヤを備え、基準電極(RE)として飽和カロメル電極(SCE)を備える研磨したガラス質の炭素(GC)を作用電極(WE)として用いた。図4は、1MのKI水溶液におけるGC電極表面の視像及び対応するCV曲線を示す。開回路電位(OCP、〜0.12V)から、曲線は、0.1〜0.8Vの電位範囲において(1)負、(2)〜(3)正及び(4)〜(5)負の電位方向から掃引された。酸化反応(3I→I+2e)が、CV曲線による〜0.32V及び透明(I)から茶色(I)へ変化したGC表面の電解質の色から観察された。(3)〜(4)の掃引の間に形成されたIは、GC表面から放散した。GC表面に近いIの消失を還元反応(I+2e→3I)により〜0.25Vで観察できた。
図5図5は、NASICON製のLATPから得たXRDパターンに関する。青い線及び赤い線はLiTi(PO相及びAlPO相をそれぞれ示している。
図6図6は、基本型のLi−I電池の電気化学的な充電/放電曲線に関する。(a)2.5mA cm−2の電流率における、0.1MのI及び1Mの水性のKI正極を用いた第1サイクル及び第2サイクル。第一の放電容量(〜0.78mAh)は理想値(〜0.8mAh)に近似していたが、充電容量は〜0.62mAhに減少した。第2サイクルは〜100%のクーロン効果を示した。(b)2.5mA cm−2において0.08MのI及び1MのKI水溶液を添加した0,03MのLiIを用いた、あつらえの電池から得た第1サイクル。それぞれ0.620及び0.622mAhの充電/放電容量を出力し、〜99.7%のクーロン効果を示した。
図7図7は、298Kにおける電池の標準化した充電/放電容量の関数としてのイオン伝導性(rho)に関する。rho(有機性)はEC/DMCにおける1MのLiPFのイオン伝導性であり、rho(LATP)はLATPのイオン伝導性である。rho(I)、rho(I)及びrho(Li)はそれぞれ、水性正極における、I、I及びLiイオンのイオン伝導性である。rho(J)は、印加した2.5mA cm−2の電流密度を維持するために必要なイオン伝導性である。図7に示されている図に関して、クーロン効果を増加させるためのいくつかの方法が提案され得る。第1の方法は、水性電極におけるLiイオン又は活性種(I)の濃度を増加させることである。このことにより、rho(Li)を増加させ、充電プロセスをさらに維持することができる。第2の方法は、充電中に印加した電流率(J)を減少させることである。I又はLiイオンの拡散距離(l)を短縮することなどの、最適化した電極設計もまた有効である。なかでも、水性正極中のLi塩の添加が、電池性能の存在を維持しながらクーロン効果を増大させるための最も簡潔な手段である。このことは第2サイクルを行った電池における〜100%のクーロン効果によって証明されており(図6の(a))、当該第2サイクルを行った電池において、最初の充電後の水性正極において取り残される残りのLiイオンがLiイオン伝導性を増加させた。新規の水性正極における追加のLi塩は最初のサイクルにおいてクーロン効果を向上させた。図6の(b)は、0.08MのI及び1MのKIの存在下における、0.03MのLiIの添加による、〜99.7%のクーロン効果を示している。
図8図8は、I飽和Li−I電池の充電/放電プロファイルに関する。水性正極の総重量は0.3gであり、対応する負極の重量は0.008gである。したがって、エネルギー密度は0.33kWhkg−1である。クーロン効果は97%を超えている。
図9図9は、図2の(a)における100サイクルした充電/放電曲線から得た推定されるエネルギー効率に関する。エネルギー効率を、充電/放電プロファイルの積算領域の比率から算出した。
図10図10は、図2の(c)から得た分極グラフに関する。放電電位は電流率と直線関係を示す。このことは、電池の性能は電池の内部抵抗によって決定づけられていることを示している。電流密度のさらなる増加は放電電位の減少を導き、このことにより、水素の発生が生じ、このことは上昇した内圧によるLATPセパレータへの損傷の要因となる。
図11図11は、100サイクル後のSuper P炭素の集電体のEDS解析に関する。炭素シグナルは、Super P炭素及び炭素の薄層で被覆されたTEMのグリッド由来であった。銅シグナルは、TEMのグリッド由来であった。酸素シグナルは、おそらく、物理的に吸着された水又はSuper P炭素の官能基由来であると思われた。残りのI又はヨウ化物の信号は見いだされなかった。差し込み図はSuper P炭素中の解析した領域のTEM画像であった。
図12図12は、正極フローモードの水性Li−I電池(CF/LiIB)及びその性能の概略図に関する。(a)水性電解質リザーバ及びポンプを備えたCF/LiIBの概略図。中心の差し込み図は、左から右へ、Super P炭素集電体のSEM画像、LiI水性電解質の色の勾配の画像、LATPの固体電解質のリチウム−イオン−伝導LATPにおける温度依存性のイオン伝導性(室温で10−4Scm−1のオーダーにおける)グラフである。中心の中央の差し込み図におけるLiI電解質の色は、充電及び放電の強さに対応する(左から右へ、0、5、15、25、50及び100%の充電及び0、50、75、85、95及び100%の放電)(b)LiIBの作用によるLighting 8 LEDバルブ。
図13図13は第1のサイクルにおけるLiIB(定常モード)の電気化学的性能に関する。(a)2.5mA cm−2の電流率における0.5、1、2、4及び〜8.2M(飽和した)の異なるLiI濃度についての最初の充電/放電プロファイル。容量を酸化還元反応(3I⇔I+2e)に関与するIのモル分率から標準化した。(b)クーロン効果(CE,左のy軸)及び異なる濃度のLiIの水性電解質から算出した残りのIイオン濃度(右のy軸)。(c)328Kにおける1MのLiIを用いた電位及び出力密度のグラフ。電流率は150秒後毎に0.5mA cm−2から60mA cm−2まで漸増した。放電プロファイルは2.5mA cm−2の電流率において完全な充電後に取得した。
図14図14は、全量で1mLの0.5MのLiIの水性電解質を含む水性電解質リザーバを備えるCF/LiIB(フロースルーモード)の電気化学的性能に関する。(a)2.5mA cm−2の電流率における0〜450μL min−1の範囲の流速依存的な電位プロファイル。(b)150μL min−1の流速における1.25〜50mA cm−2の範囲の電流率の電位プロファイル。すべての放電プロファイルは2.5mA cm−2の電流率及び150μL min−1の流速における完全な充電後に取得した。(c)完全な充電後に取得された298Kにおける0μL min−1(破線)及び450μL min−1(実線)の流速における分極曲線。(d)2.5mA cm−2の電流及び150μL min−1の流速における温度依存的な充電/放電プロファイル。
図15図15は、全量で0.5mLの0.5MのLiIの水性電解質を含んでいる、水性電解質リザーバを備えたCF/LiIBのサイクル性能に関する。(a)2.5mA cm−2の電流及び150μL min−1の流速における20回サイクルを行った充電/放電プロファイル。(b)充電/放電サイクルにおける対応するCB及び容量。
図16図16は、0.5mVs−1の走査速度における、150μLの0.2MのLiI溶液を用いたLiIB(定常モードによる)から得た最初の10回のサイクルを行ったサイクリックボルタンメトリー(CV)に関する。3.48及び3.7Vにそれぞれ中心を有する、Li/Liに対する還元及び酸化の対称的なピークを実証している。このピークは、Li/Liに対する3.58Vの標準酸化還元電位に近似している。これらの酸化還元ピークは、10サイクルの間安定的である。このことは、水性LiI正極の優れた可逆性及び安定性を証明している。境界電位における電流ピークがないことによって立証されているように、印加した電位窓において、H又はOの発生は観察されなかった。積算された酸化還元ピーク領域は同一であり、I/I還元対の優れた可逆性を示している。
図17図17は、298Kにおける異なる濃度及び対応する容量についてのLiI水性電解質の質量密度に関する。エネルギー密度を正極及び負極材料の両方及び集電体(すなわち、水、LiI、Li金属及びPVDF結合剤を含むSuper P)の総質量から算出した。LATPの固体電解質及びTi/Cu箔は当該計算に含めなかった。エネルギー密度を算出するための式(E=CxV/(maq+mLi+mcarbon)であって、C、V、maq、mLi及びmcarbonは、それぞれ、放電容量、放電電位、LiIの水性電解質の質量、金属リチウム及び集電体である。)に従って、maq、mLi及びmcarbonを水性正極中の8.2MのLiIから得た。8.2MのLiIにおけるmaqは、〜0.275gであり、図17に示されているように、水性正極(0.15cm−3)の容積及び質量密度(1.83gcm−3)から概算した。mLi及びmcarbonはそれぞれ0.006g及び0.0002g(〜0.2cm、〜1mgcm−2)であった。図13の(a)に示されているように、8.2MのLiIの水性電解質のCは27.321mAhであり、放電の終結におけるVはLi/Liに対して〜3.1Vであった。したがって、LiIB のエネルギー密度によって〜0.30kWhkg−1cell又は〜0.55kWhL−1cellを算出した。
図18図18は定常モードによるLiIBのサイクル性能に関する。(a)1mA cm−2の電流率において、0.5MのLiIの水性電解質を用いて50回サイクルを行った典型的な充電/放電プロファイル。(b)対応する充電/放電容量及びクーロン効果(CE)。CEは、第2のサイクルから得たものは〜100%であり、容量維持は〜99%である。このことは、I/I酸化還元対反応の優れた可逆性及び安定性を実証している。
図19図19は、328Kにおける定常モードによるLiIBにおける放電電位及び電流率間の関係に関する。電流率は0.5〜60mA cm−2の範囲である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一形態について詳細に説明する。
【0024】
〔1.電池用の正極〕
本発明に係る電池用の正極は、放電時に、式(1)で示す、水性液体中での電極反応を伴うものである。電池が二次電池として用いられる場合、充電時には、水性液体中での、式(1)で示す電極反応の逆反応を伴う。すなわち、この正極は、ヨウ化物イオン/三ヨウ化物イオンの酸化還元カップルを用いた液体電極である。なお、式中、→は右向きの矢印を意味し、⇔は2方向の矢印を意味する。
【0025】
+2e→3I・・・(1)
【0026】
(正極の具体的な構成例)
本発明の正極の構成は、上記式(1)で示す、水性液体中での電極反応を伴うものであれば特に限定されない。正極の構成の一例は、水性液体と、当該水性液体中に溶解しているヨウ素分子(I2)及び水溶性のヨウ化物化合物(すなわち、溶解した際に水性液体中にヨウ化物イオンを放出する物質)と、を含んでなる液体電極である。水性液体中に溶解しているヨウ素分子及び水溶性のヨウ化物化合物は、活物質として機能する。
【0027】
上記水性液体は、水をその主溶媒として含む。水をその主溶媒として含むとは、使用される溶媒の全体積に占める水の体積の割合が他の溶媒と比較して最も多いことを指す。水の体積の割合は、使用される溶媒の全体積の50%を超え100%以下であることが好ましく、使用される溶媒の全体積の90%を超え100%以下であることがより好ましい。すなわち、水性液体は水の他に水溶性の有機溶媒を含んでいてもよいが、ヨウ素分子(I2)及び水溶性のヨウ化物化合物の溶解性の観点では、水性液体は溶媒として水のみを含むことが特に好ましい。
【0028】
水溶性のヨウ化物化合物の種類は、水性液体へ溶解した際にヨウ化物イオンを放出するものであれば特に限定されないが、水の電気分解が実質的に生じない電極電位の確保が容易という観点及び水性液体への溶解性の観点では、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム及びヨウ化リチウムからなる群から選択される少なくとも一種の塩であることが好ましい。なお、水性液体への溶解性が高いほど電池のエネルギー密度が高くなる。
【0029】
水性液体中に溶解しているヨウ素分子(I2)及び水溶性のヨウ化物の各濃度は特に限定されない。しかし、ヨウ素分子(I2)及び水溶性のヨウ化物化合物の両方が存在している溶液において達成可能な飽和濃度を考慮すると、当該濃度は、飽和濃度の40%以上であり、飽和濃度の42%以上であることが好ましく、飽和濃度の44%以上であることがより好ましく、飽和濃度の46%以上であることがさらに好ましい。飽和濃度は、環境(特に温度及び圧力)に依存して変わるが、25℃で1気圧下において、水性液体に溶解しているヨウ素分子(I2)の好ましいモル濃度は8.1M〜8.4Mから飽和濃度までの範囲内であり、水性液体に溶解している水溶性のヨウ化物化合物の好ましいモル濃度は8.2M〜8.5Mから飽和濃度までの範囲内である。
【0030】
上記の水性液体には、ヨウ化物イオンに対するカウンターカチオンをさらに含んでいてもよい。カウンターカチオンは、本発明に係る正極を用いて構成した電池において、放電時に、負極の電極反応で生じるカチオンであることが好ましい。例えば、負極が活物質として金属リチウムを含む場合は、当該カチオンはリチウムイオンである。水性液体に含まれるカウンターカチオンの濃度は、比較的低濃度(例えば、0を超え0.1M以下又は0.05M以下)で十分に効果を奏する。
【0031】
ヨウ化物イオンに対する上記カウンターカチオンとしてリチウムイオンを含ませた正極の一例では、当該正極は、上記水性液体を含み、さらに、ヨウ化カリウム及びヨウ化ナトリウムの少なくとも一方と、ヨウ素分子(I2)と、水溶性のリチウム塩とを水性液体中に溶解している。水溶性のリチウム塩の例としては、ヨウ化リチウム、窒化リチウム、臭化リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、過塩素酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びこれらの組み合わせが挙げられる。
【0032】
上記の水性液体には、必要に応じて、物質(活物質など)を分散して凝集を防ぐ分散剤などの添加剤をさらに含ませることができる。
【0033】
正極の別の構成例(1)は、(i)水性液体と、(ii)当該水性液体に溶解した、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム及びヨウ化リチウムからなる群から選択される少なくとも一種の一ヨウ化物の塩と、を含んでなる液体電極である。この別の構成例(1)に用いられる水性液体の種類は、上記したものであり得る。
【0034】
正極の別の構成例(2)は、(i)水性液体と、(ii)当該水性液体に溶解した、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム及びヨウ化リチウムからなる群から選択される少なくとも一種の一ヨウ化物の塩と、(iii)当該水性液体に溶解した、水溶性の三ヨウ化物の塩(すなわち、溶解させたときに水性液体において三ヨウ化物イオンを遊離する物質(三ヨウ化カリウム、三ヨウ化リチウム又は三ヨウ化アンモ二ウムなど)と、を含んでなる液体電極である。この別の構成例(2)に用いられる水性液体の種類は、上記したものであり得る。
【0035】
正極の別の構成例(3)は、(i)水性液体と、(ii)当該水性液体に溶解した、ヨウ化カリウム及びヨウ化ナトリウムからなる群から選択される少なくとも一種の一ヨウ化物の塩と、(iii)当該水性液体に溶解した、水溶性の三ヨウ化物の塩と、(iv)当該水性液体に溶解した、水溶性のリチウム塩と、を含んでなる液体電極である。水溶性のリチウム塩の例としては、ヨウ化リチウム、窒化リチウム、臭化リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム、過塩素酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド及びこれらの組み合わせが挙げられる。この別の構成例(3)に用いられる水性液体の種類は、上記したものであり得る。
【0036】
構成例(1)〜(3)において、水性液体に溶解した(複数の)一ヨウ化物の塩及び/又は三ヨウ化物の塩の濃度は特定の濃度に限定されない。しかし、濃度は、飽和濃度の57%以上であることが好ましく、飽和濃度の59%以上であることがより好ましく、飽和濃度の60%以上であることがさらに好ましい。飽和濃度は、環境(特に温度及び圧力)に依存して変わるが、25℃で1気圧下において、水性液体に溶解している一ヨウ化物の塩の好ましいモル濃度は7.8M〜8.0Mから飽和濃度までの範囲内であり、水性液体に溶解している水溶性の三ヨウ化物の塩の好ましいモル濃度は8.0M〜8.2Mから飽和濃度までの範囲内である。
【0037】
〔2.電池〕
本発明に係る電池は、上記説明した本発明に係る正極と、負極とを備える。また、当該電池は、正極と負極との間に電解質層をさらに備える。本発明に係る電池は、サイクル性に優れるため、二次電池として用いることができる。
【0038】
(負極)
上記負極としては、電池用の負極として知られた構成を適宜用いることができる。負極の活物質としては、例えば、グラファイト、アモルファスカーボン、他の炭素材料、ケイ素、金属ナトリウム、金属カリウム、金属リチウム、金属カルシウム、金属マグネシウム、酸化スズ、及び各種の導電性ポリマー等の従来公知の物質が挙げられる。しかし、エネルギー密度の観点から、負極の活物質は、金属ナトリウム、金属カリウム、又は金属リチウムであることが好ましく、金属リチウムである(すなわち、電池は、金属リチウム電池である)ことが特に好ましい。活物質が金属リチウムである負極は、放電時に、式(2)に示す電極反応を起こす。当該電池を二次電池として用いる場合、当該負極は、充電時に、式(2)に示す電極反応の逆反応を起こす。
Li→Li+e・・・(2)
【0039】
負極に含まれる金属(金属ナトリウム、金属カリウム又は金属リチウム等)の形状は特に限定されない。金属の形状としては、例えば、薄膜状、バルク状、粉末を固化したもの、繊維状、フレーク状等が挙げられる。また、当該金属は、アモルファス状であってもよく、他の金属との合金であってもよい。
【0040】
(電解質層)
本発明の電池において、電解質層は、負極と正極との間に配置される。チャージされたキャリアは、電解質層を通って負極と正極の間を輸送される。電解質層は、特定のものに限定されないが、例えば、室温で10−5〜10−1S/cmのイオン伝導性を有していることが好ましい。電解質層の種類は、例えば負極の種類に応じて決定すればよく、従来公知のものを用いることができる。さらに、電解質層は、固体電解質(電解液で膨潤した電解質ゲルを概念的に含む)から構成される固形層であってもよいし、電解液から構成される液層であってもよい。
【0041】
電解質層に含まれる電解質は、電解質塩を溶媒に溶解した電解液であってもよい。例えば、負極の活物質が金属リチウムである場合、電解質塩として、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiCFSO、Li(CFSON、Li(CSON、Li(CFSOC、又はLi(CSOCを用いることができる。また、溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド又はN−メチル−2−ピロリドン等の有機溶媒を用いることができる。
【0042】
(セパレータ)
セパレータは、負極側と正極側とを隔てるために、必要に応じて設けられる。より具体的には、負極、電解質層、セパレータ及び正極がこの順に配置され、それによって、セパレータが水性液体を含む正極と電解質層とを隔て、イオンがセパレータを通って正極と電解質層との間を適宜輸送される。セパレータは、負極及び電解質層の種類に応じて公知のものを用いることができる。例えば、負極として金属リチウムを含むものを用いる場合は、必要に応じて、リチウムイオンを選択的に通過させるセパレータ(水安定性のLISICON製及びNASICON製のセラミックセパレータ等)を用いてもよい。また、負極として金属ナトリウムを含むものを用いる場合は、必要に応じて、ナトリウムイオンを選択的に通過させるセパレータ(水安定性のLISICON製及びNASICON製のセラミックセパレータ)を用いてもよい。
【0043】
なお、例えば、電解質層として固体電解質から構成される固形層を用いる場合、又は電解質層が液層であっても正極の水性液体と分離している場合には、セパレータを設ける必要はない。具体的には、例えば、電池が、負極、液層の電解質層及び正極の順、又はこの逆の順に積層されてなる構造であり、電解質層と正極(水性液体)とが比重の相違等によって互いに分離状態である場合、セパレータを設ける必要はない。
【0044】
(集電体)
本発明に係る電池は、上記正極に接するように集電体を設けることが好ましい。具体的には、集電体は、正極に含まれる上記水性液体に接するように設けられる。すなわち、本発明に係る電池において、負極、電解質層、必要に応じて設けるセパレータ、正極及び正極用の集電体の順に配置される。集電体の構成材料は、比較的大きな表面積及び適切な導電性を有している、金属アルミニウム、チタン、金、プラチナ及び導電性の炭素材料又は導電性のポリマー性ハイドロゲル等の導電性材料で作られている。導電性の炭素材料としてより具体的には、例えば、アセチレンブラック、多層炭素ナノチューブ、単層炭素ナノチューブ、炭素フォーム、パイオライト炭素、炭素繊維及び導電カーボンブラック(Super-P(登録商標)炭素及びKetjen Black炭素等)等が挙げられる。集電体が、導電性の炭素材料で作られている場合には、導電性の炭素材料は、金属層上に層形成されていてもよい。なお、導電性の炭素材料は、その導電性を損なわないように、結合剤を用いずに層形成をするか、導電性の結合剤(例えば、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、パーフルオロスルホン酸−PTFE共重合体(NAFION)、カルボキシメチルセルロース(CMC)及びスチレンブタジエン共重合体(SBR)など)を用いて層形成をすることが好ましい。
【0045】
負極に対しても、必要に応じて、別途、集電体を設けてもよい。
【0046】
(その他の構成及び電池の製造等)
本発明において、電池の形状は特に限定されない。電池の形状の例としては、例えば、円筒型、角型、コイン型及びシート型等の形状が挙げられる。また、電池は、例えば、上記した各種の構成を、金属ケース、樹脂ケース、ラミネートフィルム又は他の材料を用いてさらに封止することによって構成してもよい。正極側及び負極側からのリードの取り出し、及び電池の外装の形成等のその他の製造工程は、一次電池又は二次電池の製造方法として従来公知の方法を用いることができる。
【0047】
本発明に係る電池の好ましい一例は、金属リチウム電池である。金属リチウム電池は、一次電池として使用されてもよいし、二次電池として使用されてもよい。本発明に係る金属リチウム電池は、正極と負極(金属リチウム)との合計重量あたりの重量エネルギー密度が0.28kWh/kg以上であることが好ましく、0.30kWh/kg以上であることがより好ましく、0.33kWh/kg以上であることがさらに好ましい。
【0048】
/I酸化還元反応作動型の水性Li−I電池は、大きなエネルギー及び出力密度を伴って優れたサイクル性能を示した。正極の分解を伴わずに、理想のクーロン効果及び容量を維持することによって、傑出した次世代のLi電池の1つとして、水性Li−I電池を確立する。従来の、鉛−酸電池、ニッケル金属水素化物電池及びLiイオン電池と比較して、比エネルギー密度(〜0.33kWh/kg−1)が相当に見込まれ、溶解度の図(図1の(a)を参照)に参照されるように、水性のKIの代わりにNaI又はLiIを用いることによって、およそ0.4kWh/kg−1にさらに向上し得る。また、水性正極系は、水性Na−I電池及び水性K−I電池に拡張可能であり得る。このエネルギー貯蔵システムは、フロースルーモードシステムを組み合わせることによって、合理的に増加したエネルギー密度を伴ってスケールアップすることができる。
【0049】
(電池の用途)
本願発明に係る電池は、例えば、電気自動車用の電池等に適用可能である。しかし、本発明に係る電池の用途は、電気自動車用の電池に限定されるものではない。本願発明に係る電池において使用するための正極は低コスト、非引火性及び重金属フリーであるため、本願発明に係る電池は、電池を用いる種々の用途に使用可能である。
【実施例】
【0050】
(実施例1)

有望な水性正極は、高い溶解性を有している酸化還元対及び水の電気分解を回避する適切な酸化還元電位から決定され得る。溶解性は、エネルギー密度に正比例する。標準還元電位に対する酸化還元対溶解性の図(図1の(a))(非特許文献18)において、三ヨウ化物/ヨウ化物(I/I)酸化還元対反応は、好ましい溶解性(8molL−1を超える)を示す。I/Iの対の酸化還元電位(標準水素電極(SHE)に対して0.536V)もまた、水の電気分解を回避するために適している。そのため、この研究において初めて、発明者らは、I/I酸化還元対によって作動する水性正極を提供し、これをリチウム−ヨウ素(Li−I)電池に応用する。発明者らが実証する水性Li−I電池は、ヨウ化リチウム(LiI)層の形成によって、極端に低い放電電流率でなされていた、又は低いクーロン効率を示していた、従来の全固体又は非水性電解質系Li−I電池(非特許文献19及び20)のどちらとも顕著に異なる。
【0051】
結果
Li−I電池の水性正極におけるI/I酸化還元反応。
【0052】
/I酸化還元反応は、理想的には、以下の電気化学的方程式(1)のように2−電子輸送を介して、SHEに対して0.536V(図1の(a))で起こる。
【0053】
【数1】
【0054】
1MのKI溶液の水性半電池を用いることによって、ガラス炭素電極(図4)上における電解質の色の変化を通じて、I(透明)の酸化によるI(褐色)の形成及びその逆反応(SHEに対して約0.57及び0.49Vを生じた)を確認することができた。
【0055】
/I酸化還元対系水性正極は、I濃度を調整するためのIの添加によって、1MのKI水溶液を用いて調製した。Iの溶解性はアルカリ性ヨウ化物の存在下において適度に高く、アルカリ性ヨウ化物は以下の化学方程式(2)(非特許文献21)に従ってIをIに主に変える。
【0056】
【数2】
【0057】
ここで、Kは平衝定数である。このことから、0.1MのI及び1MのKI水溶液の所与の混合物中に、約0.1MのIが存在することが推定される。I/I酸化還元反応の電位は、ネルンストの式(3)によって計算することが可能である。
【0058】
【数3】
【0059】
ここで、Eは酸化還元反応電位であり、Eは標準電池電位であり、Rは気体定数であり、Tは絶対温度であり、nは移動した電子のモル数であり、Fはファラデー定数であり、aI3及びaはそれぞれI及びIの活量である。I及びIの活量がそれぞれその濃度と等しいと想定すると、酸化還元反応電位は、0.1MのI及び1MのKI水溶液において、SHEに対して0.508Vとなる。
【0060】
/I水性正極を、水性Li−I電池のために直接的に用いた。水性Li−I電池は、図1の(b)に示されているように、Li負極(Cuメッシュ/Li金属/有機電解質/バッファ層)、セラミックセパレータ、水性正極、及び集電体(Super P炭素/Ti箔)から構成されていた。EC/DMC電解質中の1MのLiPFを伴うLi金属を、負極のために用いた。水性正極において、集電体としてSuper−P炭素でコートされたTi箔を用いた。水に安定なLiイオン伝導性LiO−Al−TiO−P(LATP)ガラスセラミック(X線回析(XRD)パターンについて図5を参照)が2つの電極を隔離し、Liイオンのみがその2つの電極を横断して移動することが可能であった(非特許文献22)。水性Li−I電池は、以下のように作動する(図1の(c))。
【0061】
Li負極:Li⇔Li+e(4)
【0062】
水性正極:I+2e⇔3I(5)
【0063】
電池全体の反応:2Li+I⇔2Li+3I(6)
【0064】
図1の(d)における水性Li−I電池のサイクリックボルタンメトリー(CV)曲線は、0.01mVs−1の掃引速度において、還元ピーク及び酸化ピークについてそれぞれ、Li/Liに対して3.57V及び3.68Vを示し、還元ピークと酸化ピークとの間の電位差は、掃引速度が速くなるにつれて増加した。
【0065】
図1の(e)において示されている掃引速度(ユプシロン)の平方根と相関する、線形に増加する酸化ピーク電流及び還元ピーク電流は、I/I酸化還元反応がLi−I電池において拡散制御されることを明らかにした(非特許文献23)。基本型のLi−I電池の定電流電解測定は、充電/放電の最初のサイクルにおいて、298Kで〜80%のクーロン効率を示した(図6の(a))(非特許文献7)。
【0066】
不完全な充電容量は、放電(2Li+I→2Li+3I)においてIから変換されたIのカウンターイオンとして水性正極において得られる低いLiイオン濃度(約0.2M)に起因した。限られた数のLiイオンは、充電/放電プロセスの間における電荷の数のバランスを保つのに十分なイオン伝導性を提供することができず、結局は放電容量の80%の段階で充電プロセスを終結させた(さらなる詳細については図7を参照)。しかしこの問題は、単純に水性正極中のLi塩の添加によって解決することができた。図6の(b)は、0.08MのI及び1Mの水性のKI正極の存在下における、0.03MのLiIを用いた最初のサイクルにおける〜99.7%のクーロン効率を示す。当該クーロン効率は、第2のサイクル(図6の(a))におけるLiI添加剤なしの基本型のLi−I電池から得た〜99.7%クーロン効率とも一致していた。当該第2のサイクルにおいては、最初の充電後に水性電極に取り残されたLiイオンは第2の充電プロセスの間のLiイオンのLiイオン伝導性を向上させた。この理想的なクーロン効率は、それぞれ過充電(非特許文献4及び24)及び不十分なクーロン効率(非特許文献25)が問題となっているLi−S及びLi−O電池とは明らかに区別される。
【0067】
図7は、LATP(rho(LATP)、10−3〜10−4Scm−1)(非特許文献33)、Liイオン(rho(Li))(非特許文献34)、I(rho(I))(非特許文献34)、I(rho(I))(非特許文献35)、有機電解質(負極側におけるEC/DMC中の1MのLiPFから得たrho(有機性)、1.1x10−2Scm−2とほぼ等しい)(非特許文献36)及び印加された電流率(rho(J))のイオン伝導性に対する、基本型Li−I電池の定量的にシミュレートした拡散制御した充電/放電の挙動(図6の(a)の最初のサイクル)を示している。2.5mA cm−2の電流密度でのrho(J)(緑色の実線)を、式(式S1及びS2)に従って、図6の(a)における充電/放電プロファイルから概算した:
【0068】
【数4】
【0069】
ここで、Jは電流率(2.5mA cm−2)であり、1は負極と正極との間の距離(3mm)であり、Edischargeは放電電位であり、Echargeは充電電位であり、E、R、T、n、F、aI3及びaは(式3)のネルンストの式と同一である。rho(有機)(黒色の破線)及びrho(I)(白色の実線)は、高濃度のために他より数桁大きく、そのため放電及び充電プロセス終結に関与していなかった。LATP中のLiイオンの拡散から得られる典型的なrho(LATP)(青色の破線)は、放電においてrho(J)より高く、このことが、負極から水性正極へのLiイオンの円滑な大量輸送に寄与していた。
【0070】
放電容量は、I/I酸化還元反応(2Li+I→2Li+3I)を通じて主にI濃度によって管理された。rho(I)(ピンク色の実線)は、放電の最後に急勾配で減少し、最終的に黒色の四角によってマークされたrho(J)に到達した。標準化放電容量は、実験的に得られた〜0.98の容量(標準化)に一致する〜0.97であった。充電に際し、水性のKI中の豊富なIイオン(rho(I))は、充電プロセスの終結に寄与しなかった。その代わりに、rho(Li)(橙色の実線)がrho(J)の近くに到達することによって、終結を決定した。Iから変換されたIのカウンターイオンとしての水性正極における限定されたLiイオン濃度(おおよそ0.2M)は、放電と同様の容量まで充電プロセスを維持するために十分なイオン伝導性を与えることができなかった。このことは恐らく、水性正極から負極へのLiイオンの移動のための、LATPの高い抵抗とも関連していると思われた。黒色の四角によって示されているように、〜0.79の標準化容量が推定され、当該標準化容量は、〜0.80(標準化)の実験的に得られた値と同等であった。
【0071】
水性のLi−I電池の電気化学的性能
【0072】
あつらえのLi−I電池は、高いエネルギー密度及び優れた再充電能を示した。図2の(a)は、1MのKI及び0.03MのLiIにおいて0.08MのIを用いて、100サイクルの間の充電/放電曲線を示す。2.5mA cm−2の電流率における比容量は〜207mAh g−1であり、理論的な容量(図2の(a)における211mAh g−1)のおよそ98%に近似している。エネルギー密度は、飽和I及びKIを含んでいる水性正極及び負極中のLi金属水性の質量から算出される〜0.35kWhkg−1(方法を参照)、及びI飽和Li−I電池における実験的結果(図8)から推定される〜0.33kWhkg−1になり、アルカリ性水性正極(非特許文献16、17及び26)、レドックスフロー電池システム(非特許文献27),及び水性電解質に基づいた他の二次電池(非特許文献12、13及び28)について以前に報告されたものより数倍高い。さらに、サイクルの間に有意な容量の漸減は、観察できなかった。図2の(b)は、100サイクルの間〜99.6%の容量維持及び99.5〜100%のクーロン効率を示しており、上記、Li−S電池及びLi−O電池(非特許文献3)ならびに固体Ni(OH)正極(50サイクルについて95〜96%)(非特許文献28)を用いている他の水性のLi電池、及びFe3+/Fe2+酸化還元反応(非特許文献16)からなる水性正極ならびにFe(CN)3−/Fe(CN)4−(〜98.6%)(非特許文献17)からなる水性正極より優れている。開回路電位はLi/Liに対し〜3.8Vであり、放電及び充電電位は、サイクリングにおいてLi/Liに対し3.50及び3.70Vで安定であった。このことは、水性正極におけるI/Iの熱力学的に可逆的な電位(Li/Liに対して3.54V)から、それぞれ0.04及び0.16Vの過電圧を生じた。充電におけるより大きな過電圧は、2.5mA cm−2の高電流率におけるLATPの低いイオン伝導性に起因する。それにもかかわらず、このような高電流率における過電圧値は、Liイオン電池(非特許文献29及び30)と依然として同等であり、より小さい桁の電流率におけるLi−S電池(非特許文献24)及びLi−O(非特許文献8、10及び25)電池より優れており、図9に示されているサイクリングにおける〜90%の総エネルギー効率を実証している。
【0073】
図2の(c)は、1MのI及び2MのKIを用いて、0.1〜12mA cm−2の電流率の範囲において記録された分極グラフを示している。増加する電流率に伴う放電電位における直線的な減少(図10)は、Li−I電池のより大きな内部抵抗から生じた。電位と相関する出力密度は、10mA cm−2電流率において〜30mWcm−2となり、これは、Fe(CN)3−/Fe(CN)4−の第1の水性正極(非特許文献17)の3倍より高く、そのフロースルーモードシステム(非特許文献26)の2倍より高かった。より重要なことに、水性Li−I電池は、5mA cm−2において僅かに不安定な放電電位が観察されたにも関わらず、12mA cm−2の電流率まで有意な電位低下を全く示さなかった。水性Li−I電池は、2.5mA cm−2の電流率において大量輸送の損失によりより大きな電位低下を示した、従来のアルカリ性水性正極とは著しく異なっていた(非特許文献17及び26)。このことは、水の電気分解電位に近似する、顕著な電位低下を抑制するという事実によるものであった。当該電位低下は、抑制しなければ、高電流率において電池の劣化を引き起こす。出力密度は結局、Li/Liに対する〜2.9Vの放電電位と関連している、12mA cm−2における〜34.8mWcm−2に最終的に近づいた。
【0074】
議論
本発明の発明者らは、水性Li−I電池において、サイクルに対する高エネルギー密度を伴う信頼性の高い電池性能を証明した。このことは安定した作用電位窓に起因すると考えられた。主な酸化還元反応は、SHEに対して0.46〜0.66Vに変換される、Li/Liに対する3.5〜3.7Vの電位領域において生じていた。電位低下/上昇が、放電/充電プロセスの終末において、Li/Liに対して2.8〜4.2Vの電位窓内(SHEに対して−0.24±1.16V)で示されたにもかかわらず、過度のイオン濃度を含んでいる水性正極は電気化学的に安定であり(非特許文献31)、このことはH及びOのどちらも生じないことによって証明された。LATPのセラミックセパレータ、集電体、及び水性正極は、この作動条件において安定していた。有機電解質(負極側におけるLi塩を有するEC/DMC)及び水性(正極側におけるI/KI/LiI)電解質と通じている両側においてLATPの有意な構造変化及び相変化は起こらず、このことは、100サイクル前(図5)及び100サイクル後(図3の(a))の同一のXRDパターンによって確認された。強固なLATPセラミックセパレータは、サイクリングにおいて負極と正極との間のLiイオン交換を実行した。誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)は、新規の水性電極(27.7mM)及び100サイクル後の水性電極(27.1mM)において、ほぼ同様のLiイオン濃度を示した。さらに、Super P炭素/Tiの集電体は、サイクリングにおいて劣化しなかった。本発明の発明者らは、裸眼によってはTi箔の腐食のいかなる証拠も見出すことはできなかった。図3の(c)及び(d)における走査電子顕微鏡(SEM)の画像、及び図11の透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた関連エネルギー分散スペクトロメーター(EDS)分析によっては、Super P炭素における形態変化及び折出層のいずれも示されなかった。このことは、水性正極が、安定したLATPセパレータ及び集電体において100サイクルを越えて持続させることが可能であることを証明した。実際、100サイクルを行った電池から回集された水性正極を用いて構成した水性Li−I電池は、新規のものに匹敵する性能を示した。この再構成電池は、容量のいかなる有意な漸減もすることなく(図3の(f))、50サイクルの間〜200mAh g−1の容量(図3の(e))及び>99.5%のクーロン効率を達成した。
【0075】
/I酸化還元対を用いることによって、水性Li−I電池は、信頼性の高いクリーンエネルギー貯蔵システムを達成するためのいくつかの利点を有する。I/KI水性電解質は、中性付近のpH(調製された電解質において〜6.3,飽和電解質I及びKI両方において〜7.2)を与え、セラミックセパレータ(非特許文献17)の分解についての懸念を排除し、作動システムにおける酸化還元反応を促進するための追加の化学処理を排除する(非特許文献16)。水性のKIは、正極においてコストのかかる有機電解質及びLi塩を除くことによって、低コストで水性Li−I電池をスケールアップすることを可能にする。その上、I/KI電解質は、不燃性及び重金属フリーである。さらにその上I/I酸化還元対を含んでいる水性正極はいかなる固体生成物も残さない。このことは体積膨張を導かず、十分な再充電能を促進する。また、酸化還元反応電位は、LATPセラミックセパレータの低イオン伝導性との協同にもかかわらず高電流率において電池に劣化をもたらさないため、水性溶液における使用のために好適である。
【0076】
方法
水性Li‐I電池の調製
【0077】
アノード側の調製及び組み立ては、アルゴン充填したグローブボックス(HO及びOの濃度<1ppm, Kiyon)中で行った。銅(Cu)メッシュ(Nilaco Corporation, 100メッシュ)に張り付けた、薄く平板状のLi金属(Honjo)を、シリンダー状のガラスシェルにセットした。セラミックセパレータから高抵抗性の沈殿層が形成されることを防止するため(非特許文献32)、ポリマーバッファ層(Celgard 2500, Celgardより受領)を、Li金属とLATPとの間に挿入した。有機電解質として、エチレンカーボネート(EC, Kishida Chemicals)/ジメチルカーボネート(DMC, Kishida Chemicals)(両者の体積比は3:7)中の1M濃度のLiPF(Aldrich)を、このガラスシリンダーに加えた。LATP(LiO−Al−TiO−P)ガラスセラミックセパレータ(Ohara Corporation, 厚みが〜180±20μm)を、このガラスシリンダー上に固定して、負極における封止とした。集電体及び水性正極を準備するため、Super P炭素(Timcalより受領)と、ポリフッ化ビニリデンバインダ(PVDF, Kynar(登録商標)より受領)とを、N−メチル−2−ピロリドン中で、質量比80:20で混合した。このカーボンのスラリーを、チタン(Ti)フォイル(純度99.5%, Nilaco Corporation, 厚さ40μm)上に、1mg cm−2カーボンのロード密度でキャストし、115℃で12時間、空気中で乾燥して、残留溶媒を除去した。Super P炭素をロードしたTiフォイルからなるこの集電体は、他のシリンダー型のガラスシェル上に固定した。このガラスシェル内には、I(99%, Wako Chemicals)、KI(99.5%, Wako Chemicals)、及びLiI(99.9%, Wako Chemicals)を含んでいる水性正極が、全容積として150μm加えられており、負極のアッセンブリに用いられている上記LATPの裏側によって封止されている。完成した電池は、(−)Cuメッシュ/Li金属/有機電解質/バッファ層/LATP/水性正極/Super P炭素/Tiフォイル(+)の構成である(図1の(b))。集電体及びセラミックセパレータの幾何的面積は、それぞれ〜0.2cm(直径5mm)、及び0.5cm(直径8mm)であった。
【0078】
電気化学的な測定
/Iの電気化学的な反応は、室温、1気圧において、バッテリーサイクラ―(WBCS3000, WonATech)を用いて、サイクリックボルタンメトリー(CV)の定電位法、及び、充電/放電曲線の定電流法を用いて研究した。この水性Li−I電池のCV曲線は、0.01mV s−1〜0.25mV s−1の範囲の掃引速度で、3.04V〜4.24V(vs. Li/Li)の範囲の電位において記録をした。電池の性能評価は、カットオフ放電電位は2.8V(vs. Li+/Li)、カットオフ充電電位は4.2V(vs. Li+/Li)として行った。集電体の幾何的面積に印加された電流から求めた推定の電流率は、0.1mA cm−2〜12 mA cm−2であった。容量は、Iの活性種の質量(すなわち、全水性正極150μLにおける0.08MのIから3mg)から計算した。
【0079】
エネルギー密度の推定
水性正極とLi金属負極との総重量に基づいた、水性Li−I電池のエネルギー密度は、等式(7)によって推定することができる:
【0080】
【数5】
【0081】
ここで、EDはエネルギー密度(kWh kg−1)であり、Erev(V)は可逆電位(3.576V vs. Li/Li)であり、QはIの理論容量(211 Ah kg−1)であり、Manode+cathode(kg)は、Li金属負極の質量(mLi)と水性正極の質量との合計質量であって、水性正極の質量自身はすなわち、Iの質量(mI2)、アルカリヨウ化物の質量(mXI, X=K,Li又はNa)、及び水の質量(mH2O)の合計である。KI水溶液(eq. 2)におけるI/I及びIの高い溶解性(〜8.5mol L−1)(図1の(a))を考慮すれば、298Kにおいて、水性溶液(mH2O)1kgあたり、mI2、mXI、及びmLiはそれぞれ、2.16kg、1.41kg、及び0.118kgとなる。従って、エネルギー密度の値は、0.35kWh kg−1又は0.70kWh l−1(298Kでの質量密度:〜2kg l−1)と推定される。推定された上記値は、実験結果である0.33kWh kg−1図8)と一致する。LiI又はNaIをKIに代えて使用した場合、mI2、mXI、及びmLiは、LiIではそれぞれ2.84kg、1.50kg、及び0.16kgであり、NaIではそれぞれ3.05kg、1.80kg、及び0.17kgであった。従って、エネルギー密度の値は、LiIの場合は0.39kWh kg−1、NaIの場合は0.38kWh kg−1と推定された。
【0082】
キャラクタリゼーション
XRDパターンは、平行ビームXRD装置(Smartlab(登録商標)、λCuK-α=1.542Å、リガク)を用いて得た。ICP−OESキャラクタリゼーションは、Varian 720-ESを用いて行った。SEM観察は、Hitachi S-4800Tを用いて行った。TEM解析及びEDS解析は、JEOL JEM-2100Fを用いて行った。
【0083】
(実施例2)
本研究において、本発明の発明者らは、I/I酸化還元反応のための水性正極において、ヨウ化リチウム(LiI)のみ(さらなるK及びIなし)を用いた。このLiI水性正極は、ほとんどのLiイオン及びIイオンを、酸化還元カップル反応に関与させる。過剰の非電気活性イオン(例えば、水性Li−I電池における高濃度のK)の付加質量の除去は、水性電解質リザーバ系の特有の利点である。LiI/LiIからのI/Iの水溶液における溶解性(〜11モル/L水溶液)は、KI/KI(〜8モル/L)よりも高く、電極の全質量から計算されるエネルギー密度は〜0.28kWh kg−1cellとなる。可逆的な酸化還元電位は、標準水素電極(SHE)に対して0.536V、すなわち水溶液の電気分解が妨げられる電位である。水性Li−I電池(LiIB)に印加されるI/Iの実際の酸化還元電位を、定電圧法を用いて実証した。そのために、本発明の発明者らは、1MのLiPFを含むエチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)中の金属リチウム(負極として)、リチウムイオン伝導性LATP(LiO−Al−TiO−P)固体電解質(図12の(a)の中央右の挿入図における温度依存的イオン伝導性グラフから得られる298Kにおけるイオン伝導性は10−4S cm−1)(Liイオン選択性セパレータとして)、及びSuper P炭素をキャストしたチタン箔の集電体で密封した水性正極(図12の(a)の中央左の挿入図における走査型電子顕微鏡(SEM)画像)から構成されるLiIBを作製した。次いで、この水性正極をフロー装置及び水性LiI電解質リザーバに取り付けた。LiIBの完全CF(正極フロースルー)モード(CF/LiIB)構造は、図12の(a)に記載されている。また、フロースルーモードは、フロー装置における値をクローズすることによって、静的モード(すなわち、ゼロフローレート)に変換した。静的モード下において、本発明の発明者らは、図16に示されるサイクリックボルタンメトリー(CV)を用いて、Li/Liに対してそれぞれ〜3.48V及び3.70VのI/I酸化還元電位を得た。これらの酸化還元電位は、I/Iの標準可逆電位(Li/Liに対して〜3.58V)に近く、測定したサイクルの間安定しており、水の電気分解の問題を減らす。また、酸化還元反応は、水性電解質の色の変化(I濃度の増加に伴って透明から濃茶色に変化する)によってはっきりと可視化することができる(図12の(a)の中央真ん中の挿入図における画像)。電解質の色の勾配は、LiIBのパフォーマンスの間の充電/放電の深さ及び可逆性を表す。LiIBにおける電気化学反応は、以下のように記載することができる。
【0084】
水性正極:3I⇔I+2e
【0085】
リチウム負極:2Li+2e⇔2Li
【0086】
LiIBの全反応:3I+2Li⇔I+2Li
【0087】
充電の間、水性正極中の3つのIイオンは、1つのIイオンに酸化され、Iのカウンターパートとしての残りの2つのLiイオンは、LATPを通って負極まで移動する。放電後において、IはIに還元され、不足したLiイオンが負極から充填されて電荷バランスが保たれる。Liイオンは、リチウムイオン伝導性LATP固体電解質を通って選択的に輸送されるため、リチウム負極及び水性正極は所望の状態(すなわち金属リチウムを含む水溶液の回避)を維持することができる。0.5MのLiIを含むLiIBの作動パフォーマンスは、Li/Liに対して4.2Vまで充電した後、図12の(b)に示される8つの青色LED光によって簡単に実証することができる。
【0088】
静的モードにおけるLiIBの電気化学的パフォーマンスを、定電流電解法を用いて調べた。図13の(a)は、様々な濃度(0.5〜8.2M)のLiI電解質を用いた、集電体の領域に基づく2.5mA cm−2の電流率における最初のサイクルの間の充電/放電プロファイルを表す。LiI濃度が増加するにつれて、充電及び放電の両方の電位が低下したが、これはおそらく水溶液における粘度の増加から生じたものである。高いLiI濃度(>4M)において、充電/放電曲線は、少し異常な振る舞いを示す。充電及び放電の両方の電位が顕著に低下した。充電/放電プロセスの間に電位のドリフトも見られた。これは、水性正極におけるI/Iの濃度勾配をもたらす非常に粘性のあるLiI電解質に起因する。さらに、達成された容量は、理論上の計算値を超え、例えば、4M及び8.2MのLiI濃度について標準化容量がそれぞれ〜1.08及び〜1.24であった(より詳細については図17を参照)。8.2MのLiI水性電解質におけるエネルギー密度は、〜0.30kWh kg−1cell(0.55kWh L−1cell)であると見積もられた。この観察された値は、LiIBの理論上のエネルギー密度(〜0.28kWh kg−1cell)よりも高く、まだ完全にはわからないが、おそらくは、充電/放電プロセスにおいて形成され、続いて起こる所与の電位窓におけるファラデー反応に関与するポリヨウ化物から得られる。
【0089】
LiIBのクーロン効率(CE)は、I/Iの酸化還元反応の最初のサイクルにおける適度の過充電の振る舞いを明らかにする(図13の(b))。水性正極における高いLiI濃度は過充電を抑えるようであり、放電後の計算される残りのIイオン濃度は所与の全てのLiI電解質濃度においてほぼ一定(〜9mM)である。これは、放電プロセスの終わりがIのイオン伝導性によって決定されることを示唆する。すなわち、活性なI還元反応を維持するためには、所与のLiI電解質濃度に関係なく、〜9mMのIイオンの最低濃度を必要とする。次いで、最初のサイクルの後に存在する残りのIイオンは、Iの十分なイオン伝導性を維持することによって、続きのサイクルからのスムーズな放電プロセスを促進する。結果として、さらなるサイクルの充電/放電プロファイル(全部で50サイクル)は、〜100%CE及び優れた容量保持を示した(図18)。図13の(c)は、328Kにおいて1MのLiIを用いた電流率に対する放電電位及び対応する電力密度を表す分極グラフを示す。放電電位は、LiIBの内部抵抗に起因して、電流率と共に直線的に減少する(図19)。水溶液における水素発生の理論上の電位限界(Li/Liに対して〜2.6V、pH 〜7、328K)において、電力密度は、60mA cm−2の電流率において、〜130mW cm−2に達する。
【0090】
また、LiIBの容量は、フロー装置及び水性電解質リザーバを用いて実質的に改良することができた。150μLの0.5M LiI水性正極を含むLiIBの静的モードは、〜1.4mAhの容量を与え、供給されたLiI水性電解質の量から容易に改良することができた。例えば、1mLのLiI水性電解質を用いて、CF/LiIBは7倍より大きい容量を与える(298Kにおいて〜10mAh、図14の(d))。LiIBにおけるCFモードは、電位保持、レート性能及び電力密度を妨げなかった。図14の(a)は、CF/LiIBにおいて用いられた様々なフローレートにおける充電/放電プロファイルを示す。所与のフローレートにおける充電/放電プロセスの間に、電位の変動はなかった。さらに、50〜450μL min−1からのフローレートの増加は、LiI液体電解質の濃度勾配の弱まりによって、充電における電位のドリフトを〜0.1Vに緩和する。図14の(b)における完全な充電後に得られるレート性能及び図14の(c)における分極曲線は、放電電位と電流率との直線的な関係を実証する。〜150μL min−1のフローレートにおける放電電位は、298K、15mA cm−2の電流率において、Li/Liに対して〜3Vを保持しているが、これは、固体Li−Iの一次電池又は蓄電池よりも高いオーダーであり、Cレート50において繰り返したLi−I/炭素から構成される電池よりも高いオーダーである。電力密度及び放電電位は、LiIBについて静的及びCF(450μL min−1)モードの両方においてほとんど同じであった(298Kにおいて、25mA cm−2まで)。CFモードは、20〜50mA cm−2の電流率の範囲において、静的モードよりもわずかに大きい電力密度を達成したが、電力密度の傾斜は両方において緩やかとなった。
【0091】
CF/LiIBの際立った利点の1つは、温度の上昇に伴う電池のパフォーマンスの確実な改善である。図14の(d)は、150μL min−1のフローレートにおける288〜328Kの電位ギャップの減少を実証する。298Kにおいて〜0.3Vの充電/放電における過電圧は、328Kにおいて〜0.15Vになった。したがって、I/I酸化還元反応は、高温で素早く生じることができる。さらに、CF/LiIBの充電/放電容量値は、広範な温度にわたってほぼ一定であり、温度依存的な容量保持を示す他の蓄電池とは異なっていた。この安定した容量は、288〜328Kにおける水性正極の高いイオン伝導率に起因する。
【0092】
長期のパフォーマンス安定性を評価するために、CF/LiIBを繰り返し作動させた。0.5mLの0.5M LiI水性電解質を有するCF/LiIBは、図15の(a)において〜5.1mAhの容量(理論上の容量の〜90%)を達成した。150μL min−1のフローレートにおける充電/放電プロセスの間の電位ドリフトはわずかであり、20サイクルでは顕著な電位の低下はなかった。図15の(b)は、20サイクルについての高い容量保持(>99%)を実証する。CEは、最初のサイクルでは107%に達したが、その後のサイクルから100±1%を維持した。このCE値は、以前に報告されたイオン系水性正極のCE値及び水性電解質における固体電極のCE値よりも優れている。これらの全ての電気化学的データは、大容量電池の有望な候補として、CF/LiIBにおけるI/I酸化還元反応の優れた可逆性及び長期安定性を実証する。また、LATP固体電解質及びSuper P炭素集電体は、長期パフォーマンスに物理的に抵抗した。電気化学インピーダンス分光法(EIS)では、20サイクル後のCF/LiIBのイオン伝導性において、わずかな変化しか示さない(データは示していない)。また、長期パフォーマンス後の負極側及び正極側の両方におけるLATPのX線回折(XRD)パターンは、元の(as-received)LATP由来のX線回折パターンとほぼ同じであった。20サイクル後のSuper P炭素のSEM画像は、顕著な形態変化は何ら示さなかった。
【0093】
本発明の発明者らは、水性電解質リザーバを用いて容量が上昇する可能性があることを、CF/LiIBを用いて実証している。固体電解質/水性正極及び水性正極/集電体における界面は、長期パフォーマンスに対して安定的である。充電/放電プロセスにおける電力密度は適度に高く、温度の上昇及びLiIBの構造設計のエンジニアリングによって、さらに向上させることができる。LiIの高い溶解性は、水性電解質リザーバにおける水溶液の質量を減らすことができるが、これはEVsにとって特に有利である。その上、低コストで不燃性の重金属フリーのLiI水性正極は、CF/LiIBのスケールアップを容易にすることができる。固体電解質及び負極の開発のさらなる努力によって、実用的な大容量CF/LiIBの開発が可能である。室温においてLiI水性電解質及び負極中の有機電解質よりも2桁低いイオン伝導性を現在有する固体電解質における当該イオン伝導性の向上は、はるかに迅速な充電/放電速度を可能にするだろう。リチウム材料よりも安定で安全な進歩した負極材料も、CF/LiIBにおける繰り返しのパフォーマンスの向上を達成するであろう。
【0094】
方法
材料:全ての化学物質はそのまま用いた。Super P炭素はティムカル社から入手し、ポリフッ化ビニリデン結合材(PVDF)はKynar(登録商標)から入手し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、99.5%)はナカライテスク株式会社から購入した。チタン箔(99.5%、厚さ100μm)及び銅箔(99.9%、厚さ30μm)は、株式会社ニコラから購入した。ヨウ化リチウム(LiI、無水物、99.9%)は和光純薬工業株式会社から購入した。リチウムイオン伝導性LATP(LiO−Al−TiO−P)固体電解質(厚さ〜150±20μm、両側が研磨されている)は株式会社オハラから購入した。ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF、無水物)はアルドリッチ社から購入した。エチレンカーボネート(EC、含水量<30ppm)及びジメチルカーボネート(DMC、含水量<30ppm)はキシダ化学株式会社から購入した。
【0095】
正極集電体の作製:集電体を作製するために、Super P炭素及びPVDFを92/8の質量比でNMP中に混合した。この炭素スラリーを、水性正極の入口及び出口として直径1mmの2つ穴が設けられているチタン箔にキャストした。Super P炭素/PVDF混合物の典型的な装填密度は約1mg cm−2であり、炭素がコートされた領域は直径5mm(〜0.2cm−2)であった。作製した集電体をそのまま、真空中で115℃において12時間乾燥させ、残っている溶媒を除去した。
【0096】
電池モジュールの組み立て:電池モジュールは、作製したSuper P炭素がそのままロードされたチタン箔|円筒ガラス殻1|固体電解質|円筒ガラス殻2、から構成された。これら隣り合う部品は全て、電池の組み立て前に、順々に一緒に取り付けた。円筒ガラス殻の内径/外径は8/10mmであった。
【0097】
負極部分の製造:負極部分の作製及び組み立ては、Arで満たしたグローブボックス(HO及びOは、<2ppm)中で行った。まず、1つのガラス繊維を固体電解質上に置き、次いでEC/DMC(3/7(v/v))中の1MのLiPFを注入した。ガラス繊維の添加は、金属リチウムとの直接的な接触から生じる高度に抵抗性の層が固体電解質上に形成されるのを防いだ。次いで、銅箔に取り付けた薄く平らな金属リチウムを、円筒ガラス殻2上にセットした。最後に、銅箔を円筒ガラス殻2に接着した。
【0098】
正極部分の製造:正極部分の作製及び組み立ては、周囲条件において行った。LiI水性電解質のpH値は、希釈したHClを用いて、6〜7に調整した。LiIの酸化を防ぐために、LiIの添加前に、脱イオン水を窒素で泡立たせた。まず、チタン箔上の穴を通じて、LiI水性電解質を正極部分へ注入した。典型的な装填量は〜150μLである。次いで、正極を円筒ガラス殻1に接着した。最後に、内径/外径が0.5/1.0mmのシリコン管を用いて、正極部分と水性電解質リザーバ及びポンプとを接続した。
【0099】
計器:放電/充電曲線のサイクリックボルタンメトリー及び定電流電解測定モードを、WBCS3000 battery cycler(WonATech)において行った。EIS測定を、VMP3 Potentiostat(Biologic)において行った。XRDパターンを、平行ビームXRD装置(Smartlab(登録商標)、λCuK-α=1.542Å、株式会社リガク)から得た。SEM観察をHitachi S-4800Tにおいて行った。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、電池に関連する技術分野に利用可能である。
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