【実施例】
【0050】
(実施例1)
序
有望な水性正極は、高い溶解性を有している酸化還元対及び水の電気分解を回避する適切な酸化還元電位から決定され得る。溶解性は、エネルギー密度に正比例する。標準還元電位に対する酸化還元対溶解性の図(
図1の(a))(非特許文献18)において、三ヨウ化物/ヨウ化物(I
3−/I
−)酸化還元対反応は、好ましい溶解性(8molL
−1を超える)を示す。I
3−/I
−の対の酸化還元電位(標準水素電極(SHE)に対して0.536V)もまた、水の電気分解を回避するために適している。そのため、この研究において初めて、発明者らは、I
3−/I
−酸化還元対によって作動する水性正極を提供し、これをリチウム−ヨウ素(Li−I
2)電池に応用する。発明者らが実証する水性Li−I
2電池は、ヨウ化リチウム(LiI)層の形成によって、極端に低い放電電流率でなされていた、又は低いクーロン効率を示していた、従来の全固体又は非水性電解質系Li−I
2電池(非特許文献19及び20)のどちらとも顕著に異なる。
【0051】
結果
Li−I
2電池の水性正極におけるI
3−/I
−酸化還元反応。
【0052】
I
3−/I
−酸化還元反応は、理想的には、以下の電気化学的方程式(1)のように2−電子輸送を介して、SHEに対して0.536V(
図1の(a))で起こる。
【0053】
【数1】
【0054】
1MのKI溶液の水性半電池を用いることによって、ガラス炭素電極(
図4)上における電解質の色の変化を通じて、I
−(透明)の酸化によるI
3−(褐色)の形成及びその逆反応(SHEに対して約0.57及び0.49Vを生じた)を確認することができた。
【0055】
I
3−/I
−酸化還元対系水性正極は、I
3−濃度を調整するためのI
2の添加によって、1MのKI水溶液を用いて調製した。I
2の溶解性はアルカリ性ヨウ化物の存在下において適度に高く、アルカリ性ヨウ化物は以下の化学方程式(2)(非特許文献21)に従ってI
2をI
3に主に変える。
【0056】
【数2】
【0057】
ここで、Kは平衝定数である。このことから、0.1MのI
2及び1MのKI水溶液の所与の混合物中に、約0.1MのI
3−が存在することが推定される。I
3−/I
−酸化還元反応の電位は、ネルンストの式(3)によって計算することが可能である。
【0058】
【数3】
【0059】
ここで、Eは酸化還元反応電位であり、E
0は標準電池電位であり、Rは気体定数であり、Tは絶対温度であり、nは移動した電子のモル数であり、Fはファラデー定数であり、a
I3−及びa
I−はそれぞれI
3−及びI
−の活量である。I
3−及びI
−の活量がそれぞれその濃度と等しいと想定すると、酸化還元反応電位は、0.1MのI
2及び1MのKI水溶液において、SHEに対して0.508Vとなる。
【0060】
I
3−/I
−水性正極を、水性Li−I
2電池のために直接的に用いた。水性Li−I
2電池は、
図1の(b)に示されているように、Li負極(Cuメッシュ/Li金属/有機電解質/バッファ層)、セラミックセパレータ、水性正極、及び集電体(Super P炭素/Ti箔)から構成されていた。EC/DMC電解質中の1MのLiPF
6を伴うLi金属を、負極のために用いた。水性正極において、集電体としてSuper−P炭素でコートされたTi箔を用いた。水に安定なLiイオン伝導性Li
2O−Al
2O
3−TiO
2−P
2O
5(LATP)ガラスセラミック(X線回析(XRD)パターンについて
図5を参照)が2つの電極を隔離し、Liイオンのみがその2つの電極を横断して移動することが可能であった(非特許文献22)。水性Li−I
2電池は、以下のように作動する(
図1の(c))。
【0061】
Li負極:Li⇔Li
++e
−(4)
【0062】
水性正極:I
3−+2e
−⇔3I
−(5)
【0063】
電池全体の反応:2Li+I
3−⇔2Li
++3I
−(6)
【0064】
図1の(d)における水性Li−I
2電池のサイクリックボルタンメトリー(CV)曲線は、0.01mVs
−1の掃引速度において、還元ピーク及び酸化ピークについてそれぞれ、Li
+/Liに対して3.57V及び3.68Vを示し、還元ピークと酸化ピークとの間の電位差は、掃引速度が速くなるにつれて増加した。
【0065】
図1の(e)において示されている掃引速度(ユプシロン)の平方根と相関する、線形に増加する酸化ピーク電流及び還元ピーク電流は、I
3−/I
−酸化還元反応がLi−I
2電池において拡散制御されることを明らかにした(非特許文献23)。基本型のLi−I
2電池の定電流電解測定は、充電/放電の最初のサイクルにおいて、298Kで〜80%のクーロン効率を示した(
図6の(a))(非特許文献7)。
【0066】
不完全な充電容量は、放電(2Li+I
3−→2Li
++3I
−)においてI
3−から変換されたI
−のカウンターイオンとして水性正極において得られる低いLiイオン濃度(約0.2M)に起因した。限られた数のLiイオンは、充電/放電プロセスの間における電荷の数のバランスを保つのに十分なイオン伝導性を提供することができず、結局は放電容量の80%の段階で充電プロセスを終結させた(さらなる詳細については
図7を参照)。しかしこの問題は、単純に水性正極中のLi塩の添加によって解決することができた。
図6の(b)は、0.08MのI
2及び1Mの水性のKI正極の存在下における、0.03MのLiIを用いた最初のサイクルにおける〜99.7%のクーロン効率を示す。当該クーロン効率は、第2のサイクル(
図6の(a))におけるLiI添加剤なしの基本型のLi−I
2電池から得た〜99.7%クーロン効率とも一致していた。当該第2のサイクルにおいては、最初の充電後に水性電極に取り残されたLiイオンは第2の充電プロセスの間のLiイオンのLiイオン伝導性を向上させた。この理想的なクーロン効率は、それぞれ過充電(非特許文献4及び24)及び不十分なクーロン効率(非特許文献25)が問題となっているLi−S及びLi−O
2電池とは明らかに区別される。
【0067】
図7は、LATP(rho(LATP)、10
−3〜10
−4Scm
−1)(非特許文献33)、Liイオン(rho(Li
+))(非特許文献34)、I
−(rho(I
−))(非特許文献34)、I
3−(rho(I
3−))(非特許文献35)、有機電解質(負極側におけるEC/DMC中の1MのLiPF
6から得たrho(有機性)、1.1x10
−2Scm
−2とほぼ等しい)(非特許文献36)及び印加された電流率(rho(J))のイオン伝導性に対する、基本型Li−I
2電池の定量的にシミュレートした拡散制御した充電/放電の挙動(
図6の(a)の最初のサイクル)を示している。2.5mA cm
−2の電流密度でのrho(J)(緑色の実線)を、式(式S1及びS2)に従って、
図6の(a)における充電/放電プロファイルから概算した:
【0068】
【数4】
【0069】
ここで、Jは電流率(2.5mA cm
−2)であり、1は負極と正極との間の距離(3mm)であり、E
dischargeは放電電位であり、E
chargeは充電電位であり、E
0、R、T、n、F、a
I3−及びa
I−は(式3)のネルンストの式と同一である。rho(有機)(黒色の破線)及びrho(I
−)(白色の実線)は、高濃度のために他より数桁大きく、そのため放電及び充電プロセス終結に関与していなかった。LATP中のLiイオンの拡散から得られる典型的なrho(LATP)(青色の破線)は、放電においてrho(J)より高く、このことが、負極から水性正極へのLiイオンの円滑な大量輸送に寄与していた。
【0070】
放電容量は、I
3−/I
−酸化還元反応(2Li+I
3−→2Li
++3I
−)を通じて主にI
3−濃度によって管理された。rho(I
3−)(ピンク色の実線)は、放電の最後に急勾配で減少し、最終的に黒色の四角によってマークされたrho(J)に到達した。標準化放電容量は、実験的に得られた〜0.98の容量(標準化)に一致する〜0.97であった。充電に際し、水性のKI中の豊富なI
−イオン(rho(I
−))は、充電プロセスの終結に寄与しなかった。その代わりに、rho(Li
+)(橙色の実線)がrho(J)の近くに到達することによって、終結を決定した。I
−から変換されたI
3−のカウンターイオンとしての水性正極における限定されたLiイオン濃度(おおよそ0.2M)は、放電と同様の容量まで充電プロセスを維持するために十分なイオン伝導性を与えることができなかった。このことは恐らく、水性正極から負極へのLiイオンの移動のための、LATPの高い抵抗とも関連していると思われた。黒色の四角によって示されているように、〜0.79の標準化容量が推定され、当該標準化容量は、〜0.80(標準化)の実験的に得られた値と同等であった。
【0071】
水性のLi−I
2電池の電気化学的性能
【0072】
あつらえのLi−I
2電池は、高いエネルギー密度及び優れた再充電能を示した。
図2の(a)は、1MのKI及び0.03MのLiIにおいて0.08MのI
2を用いて、100サイクルの間の充電/放電曲線を示す。2.5mA cm
−2の電流率における比容量は〜207mAh g
−1であり、理論的な容量(
図2の(a)における211mAh g
−1)のおよそ98%に近似している。エネルギー密度は、飽和I
2及びKIを含んでいる水性正極及び負極中のLi金属水性の質量から算出される〜0.35kWhkg
−1(方法を参照)、及びI
2飽和Li−I
2電池における実験的結果(
図8)から推定される〜0.33kWhkg
−1になり、アルカリ性水性正極(非特許文献16、17及び26)、レドックスフロー電池システム(非特許文献27),及び水性電解質に基づいた他の二次電池(非特許文献12、13及び28)について以前に報告されたものより数倍高い。さらに、サイクルの間に有意な容量の漸減は、観察できなかった。
図2の(b)は、100サイクルの間〜99.6%の容量維持及び99.5〜100%のクーロン効率を示しており、上記、Li−S電池及びLi−O
2電池(非特許文献3)ならびに固体Ni(OH)
2正極(50サイクルについて95〜96%)(非特許文献28)を用いている他の水性のLi電池、及びFe
3+/Fe
2+酸化還元反応(非特許文献16)からなる水性正極ならびにFe(CN)
63−/Fe(CN)
64−(〜98.6%)(非特許文献17)からなる水性正極より優れている。開回路電位はLi
+/Liに対し〜3.8Vであり、放電及び充電電位は、サイクリングにおいてLi
+/Liに対し3.50及び3.70Vで安定であった。このことは、水性正極におけるI
3−/I
−の熱力学的に可逆的な電位(Li
+/Liに対して3.54V)から、それぞれ0.04及び0.16Vの過電圧を生じた。充電におけるより大きな過電圧は、2.5mA cm
−2の高電流率におけるLATPの低いイオン伝導性に起因する。それにもかかわらず、このような高電流率における過電圧値は、Liイオン電池(非特許文献29及び30)と依然として同等であり、より小さい桁の電流率におけるLi−S電池(非特許文献24)及びLi−O
2(非特許文献8、10及び25)電池より優れており、
図9に示されているサイクリングにおける〜90%の総エネルギー効率を実証している。
【0073】
図2の(c)は、1MのI
2及び2MのKIを用いて、0.1〜12mA cm
−2の電流率の範囲において記録された分極グラフを示している。増加する電流率に伴う放電電位における直線的な減少(
図10)は、Li−I
2電池のより大きな内部抵抗から生じた。電位と相関する出力密度は、10mA cm
−2電流率において〜30mWcm
−2となり、これは、Fe(CN)
63−/Fe(CN)
64−の第1の水性正極(非特許文献17)の3倍より高く、そのフロースルーモードシステム(非特許文献26)の2倍より高かった。より重要なことに、水性Li−I
2電池は、5mA cm
−2において僅かに不安定な放電電位が観察されたにも関わらず、12mA cm
−2の電流率まで有意な電位低下を全く示さなかった。水性Li−I
2電池は、2.5mA cm
−2の電流率において大量輸送の損失によりより大きな電位低下を示した、従来のアルカリ性水性正極とは著しく異なっていた(非特許文献17及び26)。このことは、水の電気分解電位に近似する、顕著な電位低下を抑制するという事実によるものであった。当該電位低下は、抑制しなければ、高電流率において電池の劣化を引き起こす。出力密度は結局、Li
+/Liに対する〜2.9Vの放電電位と関連している、12mA cm
−2における〜34.8mWcm
−2に最終的に近づいた。
【0074】
議論
本発明の発明者らは、水性Li−I
2電池において、サイクルに対する高エネルギー密度を伴う信頼性の高い電池性能を証明した。このことは安定した作用電位窓に起因すると考えられた。主な酸化還元反応は、SHEに対して0.46〜0.66Vに変換される、Li
+/Liに対する3.5〜3.7Vの電位領域において生じていた。電位低下/上昇が、放電/充電プロセスの終末において、Li
+/Liに対して2.8〜4.2Vの電位窓内(SHEに対して−0.24±1.16V)で示されたにもかかわらず、過度のイオン濃度を含んでいる水性正極は電気化学的に安定であり(非特許文献31)、このことはH
2及びO
2のどちらも生じないことによって証明された。LATPのセラミックセパレータ、集電体、及び水性正極は、この作動条件において安定していた。有機電解質(負極側におけるLi塩を有するEC/DMC)及び水性(正極側におけるI
2/KI/LiI)電解質と通じている両側においてLATPの有意な構造変化及び相変化は起こらず、このことは、100サイクル前(
図5)及び100サイクル後(
図3の(a))の同一のXRDパターンによって確認された。強固なLATPセラミックセパレータは、サイクリングにおいて負極と正極との間のLiイオン交換を実行した。誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)は、新規の水性電極(27.7mM)及び100サイクル後の水性電極(27.1mM)において、ほぼ同様のLiイオン濃度を示した。さらに、Super P炭素/Tiの集電体は、サイクリングにおいて劣化しなかった。本発明の発明者らは、裸眼によってはTi箔の腐食のいかなる証拠も見出すことはできなかった。
図3の(c)及び(d)における走査電子顕微鏡(SEM)の画像、及び
図11の透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた関連エネルギー分散スペクトロメーター(EDS)分析によっては、Super P炭素における形態変化及び折出層のいずれも示されなかった。このことは、水性正極が、安定したLATPセパレータ及び集電体において100サイクルを越えて持続させることが可能であることを証明した。実際、100サイクルを行った電池から回集された水性正極を用いて構成した水性Li−I
2電池は、新規のものに匹敵する性能を示した。この再構成電池は、容量のいかなる有意な漸減もすることなく(
図3の(f))、50サイクルの間〜200mAh g
−1の容量(
図3の(e))及び>99.5%のクーロン効率を達成した。
【0075】
I
3−/I
−酸化還元対を用いることによって、水性Li−I
2電池は、信頼性の高いクリーンエネルギー貯蔵システムを達成するためのいくつかの利点を有する。I
2/KI水性電解質は、中性付近のpH(調製された電解質において〜6.3,飽和電解質I
2及びKI両方において〜7.2)を与え、セラミックセパレータ(非特許文献17)の分解についての懸念を排除し、作動システムにおける酸化還元反応を促進するための追加の化学処理を排除する(非特許文献16)。水性のKIは、正極においてコストのかかる有機電解質及びLi塩を除くことによって、低コストで水性Li−I
2電池をスケールアップすることを可能にする。その上、I
2/KI電解質は、不燃性及び重金属フリーである。さらにその上I
3−/I
−酸化還元対を含んでいる水性正極はいかなる固体生成物も残さない。このことは体積膨張を導かず、十分な再充電能を促進する。また、酸化還元反応電位は、LATPセラミックセパレータの低イオン伝導性との協同にもかかわらず高電流率において電池に劣化をもたらさないため、水性溶液における使用のために好適である。
【0076】
方法
水性Li‐I
2電池の調製
【0077】
アノード側の調製及び組み立ては、アルゴン充填したグローブボックス(H
2O及びO
2の濃度<1ppm, Kiyon)中で行った。銅(Cu)メッシュ(Nilaco Corporation, 100メッシュ)に張り付けた、薄く平板状のLi金属(Honjo)を、シリンダー状のガラスシェルにセットした。セラミックセパレータから高抵抗性の沈殿層が形成されることを防止するため(非特許文献32)、ポリマーバッファ層(Celgard 2500, Celgardより受領)を、Li金属とLATPとの間に挿入した。有機電解質として、エチレンカーボネート(EC, Kishida Chemicals)/ジメチルカーボネート(DMC, Kishida Chemicals)(両者の体積比は3:7)中の1M濃度のLiPF
6(Aldrich)を、このガラスシリンダーに加えた。LATP(Li
2O−Al
2O
3−TiO
2−P
2O
5)ガラスセラミックセパレータ(Ohara Corporation, 厚みが〜180±20μm)を、このガラスシリンダー上に固定して、負極における封止とした。集電体及び水性正極を準備するため、Super P炭素(Timcalより受領)と、ポリフッ化ビニリデンバインダ(PVDF, Kynar(登録商標)より受領)とを、N−メチル−2−ピロリドン中で、質量比80:20で混合した。このカーボンのスラリーを、チタン(Ti)フォイル(純度99.5%,
Nilaco Corporation, 厚さ40μm)上に、1mg cm
−2カーボンのロード密度でキャストし、115℃で12時間、空気中で乾燥して、残留溶媒を除去した。Super P炭素をロードしたTiフォイルからなるこの集電体は、他のシリンダー型のガラスシェル上に固定した。このガラスシェル内には、I
2(99%, Wako Chemicals)、KI(99.5%, Wako Chemicals)、及びLiI(99.9%, Wako Chemicals)を含んでいる水性正極が、全容積として150μm加えられており、負極のアッセンブリに用いられている上記LATPの裏側によって封止されている。完成した電池は、(−)Cuメッシュ/Li金属/有機電解質/バッファ層/LATP/水性正極/Super P炭素/Tiフォイル(+)の構成である(
図1の(b))。集電体及びセラミックセパレータの幾何的面積は、それぞれ〜0.2cm
2(直径5mm)、及び0.5cm
2(直径8mm)であった。
【0078】
電気化学的な測定
I
3−/I
−の電気化学的な反応は、室温、1気圧において、バッテリーサイクラ―(WBCS3000, WonATech)を用いて、サイクリックボルタンメトリー(CV)の定電位法、及び、充電/放電曲線の定電流法を用いて研究した。この水性Li−I
2電池のCV曲線は、0.01mV s
−1〜0.25mV s
−1の範囲の掃引速度で、3.04V〜4.24V(vs. Li
+/Li)の範囲の電位において記録をした。電池の性能評価は、カットオフ放電電位は2.8V(vs. Li+/Li)、カットオフ充電電位は4.2V(vs. Li+/Li)として行った。集電体の幾何的面積に印加された電流から求めた推定の電流率は、0.1mA cm
−2〜12 mA cm
−2であった。容量は、I
2の活性種の質量(すなわち、全水性正極150μLにおける0.08MのI
2から3mg)から計算した。
【0079】
エネルギー密度の推定
水性正極とLi金属負極との総重量に基づいた、水性Li−I
2電池のエネルギー密度は、等式(7)によって推定することができる:
【0080】
【数5】
【0081】
ここで、EDはエネルギー密度(kWh kg
−1)であり、E
rev(V)は可逆電位(3.576V vs. Li
+/Li)であり、QはI
2の理論容量(211 Ah kg
−1)であり、M
anode+cathode(kg)は、Li金属負極の質量(m
Li)と水性正極の質量との合計質量であって、水性正極の質量自身はすなわち、I
2の質量(m
I2)、アルカリヨウ化物の質量(m
XI, X=K,Li又はNa)、及び水の質量(m
H2O)の合計である。KI水溶液(eq. 2)におけるI
3−/I
−及びI
2の高い溶解性(〜8.5mol L
−1)(
図1の(a))を考慮すれば、298Kにおいて、水性溶液(m
H2O)1kgあたり、m
I2、m
XI、及びm
Liはそれぞれ、2.16kg、1.41kg、及び0.118kgとなる。従って、エネルギー密度の値は、0.35kWh kg
−1又は0.70kWh l
−1(298Kでの質量密度:〜2kg l
−1)と推定される。推定された上記値は、実験結果である0.33kWh kg
−1(
図8)と一致する。LiI又はNaIをKIに代えて使用した場合、m
I2、m
XI、及びm
Liは、LiIではそれぞれ2.84kg、1.50kg、及び0.16kgであり、NaIではそれぞれ3.05kg、1.80kg、及び0.17kgであった。従って、エネルギー密度の値は、LiIの場合は0.39kWh kg
−1、NaIの場合は0.38kWh kg
−1と推定された。
【0082】
キャラクタリゼーション
XRDパターンは、平行ビームXRD装置(Smartlab(登録商標)、λCuK-α=1.542Å、リガク)を用いて得た。ICP−OESキャラクタリゼーションは、Varian 720-ESを用いて行った。SEM観察は、Hitachi S-4800Tを用いて行った。TEM解析及びEDS解析は、JEOL JEM-2100Fを用いて行った。
【0083】
(実施例2)
本研究において、本発明の発明者らは、I
3−/I
−酸化還元反応のための水性正極において、ヨウ化リチウム(LiI)のみ(さらなるK
+及びI
2なし)を用いた。このLiI水性正極は、ほとんどのLi
+イオン及びI
−イオンを、酸化還元カップル反応に関与させる。過剰の非電気活性イオン(例えば、水性Li−I
2電池における高濃度のK
+)の付加質量の除去は、水性電解質リザーバ系の特有の利点である。LiI
3/LiIからのI
3−/I
−の水溶液における溶解性(〜11モル/L水溶液)は、KI
3/KI(〜8モル/L)よりも高く、電極の全質量から計算されるエネルギー密度は〜0.28kWh kg
−1cellとなる。可逆的な酸化還元電位は、標準水素電極(SHE)に対して0.536V、すなわち水溶液の電気分解が妨げられる電位である。水性Li−I電池(LiIB)に印加されるI
3−/I
−の実際の酸化還元電位を、定電圧法を用いて実証した。そのために、本発明の発明者らは、1MのLiPF
6を含むエチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)中の金属リチウム(負極として)、リチウムイオン伝導性LATP(Li
2O−Al
2O
3−TiO
2−P
2O
5)固体電解質(
図12の(a)の中央右の挿入図における温度依存的イオン伝導性グラフから得られる298Kにおけるイオン伝導性は10
−4S cm
−1)(Li
+イオン選択性セパレータとして)、及びSuper P炭素をキャストしたチタン箔の集電体で密封した水性正極(
図12の(a)の中央左の挿入図における走査型電子顕微鏡(SEM)画像)から構成されるLiIBを作製した。次いで、この水性正極をフロー装置及び水性LiI電解質リザーバに取り付けた。LiIBの完全CF(正極フロースルー)モード(CF/LiIB)構造は、
図12の(a)に記載されている。また、フロースルーモードは、フロー装置における値をクローズすることによって、静的モード(すなわち、ゼロフローレート)に変換した。静的モード下において、本発明の発明者らは、
図16に示されるサイクリックボルタンメトリー(CV)を用いて、Li
+/Liに対してそれぞれ〜3.48V及び3.70VのI
3−/I
−酸化還元電位を得た。これらの酸化還元電位は、I
3−/I
−の標準可逆電位(Li
+/Liに対して〜3.58V)に近く、測定したサイクルの間安定しており、水の電気分解の問題を減らす。また、酸化還元反応は、水性電解質の色の変化(I
3−濃度の増加に伴って透明から濃茶色に変化する)によってはっきりと可視化することができる(
図12の(a)の中央真ん中の挿入図における画像)。電解質の色の勾配は、LiIBのパフォーマンスの間の充電/放電の深さ及び可逆性を表す。LiIBにおける電気化学反応は、以下のように記載することができる。
【0084】
水性正極:3I
−⇔I
3−+2e
−
【0085】
リチウム負極:2Li
++2e
−⇔2Li
【0086】
LiIBの全反応:3I
−+2Li
+⇔I
3−+2Li
【0087】
充電の間、水性正極中の3つのI
−イオンは、1つのI
3−イオンに酸化され、I
−のカウンターパートとしての残りの2つのLi
+イオンは、LATPを通って負極まで移動する。放電後において、I
3−はI
−に還元され、不足したLi
+イオンが負極から充填されて電荷バランスが保たれる。Li
+イオンは、リチウムイオン伝導性LATP固体電解質を通って選択的に輸送されるため、リチウム負極及び水性正極は所望の状態(すなわち金属リチウムを含む水溶液の回避)を維持することができる。0.5MのLiIを含むLiIBの作動パフォーマンスは、Li
+/Liに対して4.2Vまで充電した後、
図12の(b)に示される8つの青色LED光によって簡単に実証することができる。
【0088】
静的モードにおけるLiIBの電気化学的パフォーマンスを、定電流電解法を用いて調べた。
図13の(a)は、様々な濃度(0.5〜8.2M)のLiI電解質を用いた、集電体の領域に基づく2.5mA cm
−2の電流率における最初のサイクルの間の充電/放電プロファイルを表す。LiI濃度が増加するにつれて、充電及び放電の両方の電位が低下したが、これはおそらく水溶液における粘度の増加から生じたものである。高いLiI濃度(>4M)において、充電/放電曲線は、少し異常な振る舞いを示す。充電及び放電の両方の電位が顕著に低下した。充電/放電プロセスの間に電位のドリフトも見られた。これは、水性正極におけるI
3−/I
−の濃度勾配をもたらす非常に粘性のあるLiI電解質に起因する。さらに、達成された容量は、理論上の計算値を超え、例えば、4M及び8.2MのLiI濃度について標準化容量がそれぞれ〜1.08及び〜1.24であった(より詳細については
図17を参照)。8.2MのLiI水性電解質におけるエネルギー密度は、〜0.30kWh kg
−1cell(0.55kWh L
−1cell)であると見積もられた。この観察された値は、LiIBの理論上のエネルギー密度(〜0.28kWh kg
−1cell)よりも高く、まだ完全にはわからないが、おそらくは、充電/放電プロセスにおいて形成され、続いて起こる所与の電位窓におけるファラデー反応に関与するポリヨウ化物から得られる。
【0089】
LiIBのクーロン効率(CE)は、I
3−/I
−の酸化還元反応の最初のサイクルにおける適度の過充電の振る舞いを明らかにする(
図13の(b))。水性正極における高いLiI濃度は過充電を抑えるようであり、放電後の計算される残りのI
3−イオン濃度は所与の全てのLiI電解質濃度においてほぼ一定(〜9mM)である。これは、放電プロセスの終わりがI
3−のイオン伝導性によって決定されることを示唆する。すなわち、活性なI
3−還元反応を維持するためには、所与のLiI電解質濃度に関係なく、〜9mMのI
3−イオンの最低濃度を必要とする。次いで、最初のサイクルの後に存在する残りのI
3−イオンは、I
3−の十分なイオン伝導性を維持することによって、続きのサイクルからのスムーズな放電プロセスを促進する。結果として、さらなるサイクルの充電/放電プロファイル(全部で50サイクル)は、〜100%CE及び優れた容量保持を示した(
図18)。
図13の(c)は、328Kにおいて1MのLiIを用いた電流率に対する放電電位及び対応する電力密度を表す分極グラフを示す。放電電位は、LiIBの内部抵抗に起因して、電流率と共に直線的に減少する(
図19)。水溶液における水素発生の理論上の電位限界(Li
+/Liに対して〜2.6V、pH 〜7、328K)において、電力密度は、60mA cm
−2の電流率において、〜130mW cm
−2に達する。
【0090】
また、LiIBの容量は、フロー装置及び水性電解質リザーバを用いて実質的に改良することができた。150μLの0.5M LiI水性正極を含むLiIBの静的モードは、〜1.4mAhの容量を与え、供給されたLiI水性電解質の量から容易に改良することができた。例えば、1mLのLiI水性電解質を用いて、CF/LiIBは7倍より大きい容量を与える(298Kにおいて〜10mAh、
図14の(d))。LiIBにおけるCFモードは、電位保持、レート性能及び電力密度を妨げなかった。
図14の(a)は、CF/LiIBにおいて用いられた様々なフローレートにおける充電/放電プロファイルを示す。所与のフローレートにおける充電/放電プロセスの間に、電位の変動はなかった。さらに、50〜450μL min
−1からのフローレートの増加は、LiI液体電解質の濃度勾配の弱まりによって、充電における電位のドリフトを〜0.1Vに緩和する。
図14の(b)における完全な充電後に得られるレート性能及び
図14の(c)における分極曲線は、放電電位と電流率との直線的な関係を実証する。〜150μL min
−1のフローレートにおける放電電位は、298K、15mA cm
−2の電流率において、Li
+/Liに対して〜3Vを保持しているが、これは、固体Li−I
2の一次電池又は蓄電池よりも高いオーダーであり、Cレート50において繰り返したLi−I
2/炭素から構成される電池よりも高いオーダーである。電力密度及び放電電位は、LiIBについて静的及びCF(450μL min
−1)モードの両方においてほとんど同じであった(298Kにおいて、25mA cm
−2まで)。CFモードは、20〜50mA cm
−2の電流率の範囲において、静的モードよりもわずかに大きい電力密度を達成したが、電力密度の傾斜は両方において緩やかとなった。
【0091】
CF/LiIBの際立った利点の1つは、温度の上昇に伴う電池のパフォーマンスの確実な改善である。
図14の(d)は、150μL min
−1のフローレートにおける288〜328Kの電位ギャップの減少を実証する。298Kにおいて〜0.3Vの充電/放電における過電圧は、328Kにおいて〜0.15Vになった。したがって、I
3−/I
−酸化還元反応は、高温で素早く生じることができる。さらに、CF/LiIBの充電/放電容量値は、広範な温度にわたってほぼ一定であり、温度依存的な容量保持を示す他の蓄電池とは異なっていた。この安定した容量は、288〜328Kにおける水性正極の高いイオン伝導率に起因する。
【0092】
長期のパフォーマンス安定性を評価するために、CF/LiIBを繰り返し作動させた。0.5mLの0.5M LiI水性電解質を有するCF/LiIBは、
図15の(a)において〜5.1mAhの容量(理論上の容量の〜90%)を達成した。150μL min
−1のフローレートにおける充電/放電プロセスの間の電位ドリフトはわずかであり、20サイクルでは顕著な電位の低下はなかった。
図15の(b)は、20サイクルについての高い容量保持(>99%)を実証する。CEは、最初のサイクルでは107%に達したが、その後のサイクルから100±1%を維持した。このCE値は、以前に報告されたイオン系水性正極のCE値及び水性電解質における固体電極のCE値よりも優れている。これらの全ての電気化学的データは、大容量電池の有望な候補として、CF/LiIBにおけるI
3−/I
−酸化還元反応の優れた可逆性及び長期安定性を実証する。また、LATP固体電解質及びSuper P炭素集電体は、長期パフォーマンスに物理的に抵抗した。電気化学インピーダンス分光法(EIS)では、20サイクル後のCF/LiIBのイオン伝導性において、わずかな変化しか示さない(データは示していない)。また、長期パフォーマンス後の負極側及び正極側の両方におけるLATPのX線回折(XRD)パターンは、元の(as-received)LATP由来のX線回折パターンとほぼ同じであった。20サイクル後のSuper P炭素のSEM画像は、顕著な形態変化は何ら示さなかった。
【0093】
本発明の発明者らは、水性電解質リザーバを用いて容量が上昇する可能性があることを、CF/LiIBを用いて実証している。固体電解質/水性正極及び水性正極/集電体における界面は、長期パフォーマンスに対して安定的である。充電/放電プロセスにおける電力密度は適度に高く、温度の上昇及びLiIBの構造設計のエンジニアリングによって、さらに向上させることができる。LiIの高い溶解性は、水性電解質リザーバにおける水溶液の質量を減らすことができるが、これはEVsにとって特に有利である。その上、低コストで不燃性の重金属フリーのLiI水性正極は、CF/LiIBのスケールアップを容易にすることができる。固体電解質及び負極の開発のさらなる努力によって、実用的な大容量CF/LiIBの開発が可能である。室温においてLiI水性電解質及び負極中の有機電解質よりも2桁低いイオン伝導性を現在有する固体電解質における当該イオン伝導性の向上は、はるかに迅速な充電/放電速度を可能にするだろう。リチウム材料よりも安定で安全な進歩した負極材料も、CF/LiIBにおける繰り返しのパフォーマンスの向上を達成するであろう。
【0094】
方法
材料:全ての化学物質はそのまま用いた。Super P炭素はティムカル社から入手し、ポリフッ化ビニリデン結合材(PVDF)はKynar(登録商標)から入手し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、99.5%)はナカライテスク株式会社から購入した。チタン箔(99.5%、厚さ100μm)及び銅箔(99.9%、厚さ30μm)は、株式会社ニコラから購入した。ヨウ化リチウム(LiI、無水物、99.9%)は和光純薬工業株式会社から購入した。リチウムイオン伝導性LATP(Li
2O−Al
2O
3−TiO
2−P
2O
5)固体電解質(厚さ〜150±20μm、両側が研磨されている)は株式会社オハラから購入した。ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6、無水物)はアルドリッチ社から購入した。エチレンカーボネート(EC、含水量<30ppm)及びジメチルカーボネート(DMC、含水量<30ppm)はキシダ化学株式会社から購入した。
【0095】
正極集電体の作製:集電体を作製するために、Super P炭素及びPVDFを92/8の質量比でNMP中に混合した。この炭素スラリーを、水性正極の入口及び出口として直径1mmの2つ穴が設けられているチタン箔にキャストした。Super P炭素/PVDF混合物の典型的な装填密度は約1mg cm
−2であり、炭素がコートされた領域は直径5mm(〜0.2cm
−2)であった。作製した集電体をそのまま、真空中で115℃において12時間乾燥させ、残っている溶媒を除去した。
【0096】
電池モジュールの組み立て:電池モジュールは、作製したSuper P炭素がそのままロードされたチタン箔|円筒ガラス殻1|固体電解質|円筒ガラス殻2、から構成された。これら隣り合う部品は全て、電池の組み立て前に、順々に一緒に取り付けた。円筒ガラス殻の内径/外径は8/10mmであった。
【0097】
負極部分の製造:負極部分の作製及び組み立ては、Arで満たしたグローブボックス(H
2O及びO
2は、<2ppm)中で行った。まず、1つのガラス繊維を固体電解質上に置き、次いでEC/DMC(3/7(v/v))中の1MのLiPF
6を注入した。ガラス繊維の添加は、金属リチウムとの直接的な接触から生じる高度に抵抗性の層が固体電解質上に形成されるのを防いだ。次いで、銅箔に取り付けた薄く平らな金属リチウムを、円筒ガラス殻2上にセットした。最後に、銅箔を円筒ガラス殻2に接着した。
【0098】
正極部分の製造:正極部分の作製及び組み立ては、周囲条件において行った。LiI水性電解質のpH値は、希釈したHClを用いて、6〜7に調整した。LiIの酸化を防ぐために、LiIの添加前に、脱イオン水を窒素で泡立たせた。まず、チタン箔上の穴を通じて、LiI水性電解質を正極部分へ注入した。典型的な装填量は〜150μLである。次いで、正極を円筒ガラス殻1に接着した。最後に、内径/外径が0.5/1.0mmのシリコン管を用いて、正極部分と水性電解質リザーバ及びポンプとを接続した。
【0099】
計器:放電/充電曲線のサイクリックボルタンメトリー及び定電流電解測定モードを、WBCS3000 battery cycler(WonATech)において行った。EIS測定を、VMP3 Potentiostat(Biologic)において行った。XRDパターンを、平行ビームXRD装置(Smartlab(登録商標)、λ
CuK-α=1.542Å、株式会社リガク)から得た。SEM観察をHitachi S-4800Tにおいて行った。