特許第6296457号(P6296457)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6296457低コストの臨床現場即時アッセイデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6296457
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】低コストの臨床現場即時アッセイデバイス
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/02 20060101AFI20180312BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20180312BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   G01N35/02 B
   G01N33/48 Z
   G01N37/00 101
【請求項の数】18
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-552838(P2015-552838)
(86)(22)【出願日】2014年1月10日
(65)【公表番号】特表2016-503897(P2016-503897A)
(43)【公表日】2016年2月8日
(86)【国際出願番号】US2014011163
(87)【国際公開番号】WO2014110456
(87)【国際公開日】20140717
【審査請求日】2016年11月29日
(31)【優先権主張番号】61/751,679
(32)【優先日】2013年1月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】595117091
【氏名又は名称】ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】シュガーマン,ジェフリ−
(72)【発明者】
【氏名】ヒュアン,ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】モルトン,ジャスティン
【審査官】 長谷 潮
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−501173(JP,A)
【文献】 特開2009−002933(JP,A)
【文献】 特開2006−149215(JP,A)
【文献】 特開2010−151683(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0152927(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0038417(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00−37/00
G01N 33/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料のアッセイを行うように構成されたマイクロ流体デバイスであって、
毛細管流路と連通している試料点着部と、
前記毛細管流路と連通している通気口と、
前記通気口と前記試料点着部とを外部環境から封止するように構成されたキャップ部材であって、前記試料点着部および前記通気口で共有される封止空間を前記試料点着部と前記通気口との上方に設けるキャップ部材と
を備えることを特徴とするデバイス。
【請求項2】
前記通気口と前記毛細管流路との間に通気流路をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記試料点着部を包囲する液体バリアをさらに備え、前記液体バリアが前記試料点着部と前記通気口との間に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記キャップ部材はガスケットを備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記毛細管流路は深さ20〜70μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
液体試料のアッセイを行うように構成されたマイクロ流体デバイスであって、
毛細管流路と連通している試料点着部および疎水性連結部であって、疎水性連結部が液流を妨げるように構成されている、試料点着部および疎水性連結部と、
前記疎水性連結部と連通している通気口と、
前記通気口と前記試料点着部とを外部環境から封止するように構成されたキャップ部材であって、前記試料点着部と前記通気口との周囲の共有空間を被覆するキャップ部材と
を備えることを特徴とするデバイス。
【請求項7】
液体試料のアッセイを行う方法であって、
液体試料を毛細管流路と流体連通している試料点着部に点着する工程であって、前記液体試料が毛細管力により前記毛細管流路を流通する工程と、
通気口を通して前記毛細管力のための通気を行う工程と、
キャップ部材を用いて前記液体試料を外部環境から封止する工程であって、前記キャップ部材で前記試料点着部と前記通気口との周囲に前記試料点着部および前記通気口で共有される封止空間を設けるように、前記液体試料を封止する工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
デバイスは請求項1〜6のいずれか一項に記載のデバイスであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記毛細管流路の少なくとも一部を読み取って結果を得る工程をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記得られた結果に基づいて診断を行う工程をさらに含むことを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
液体試料のアッセイを行うように構成されたマイクロ流体デバイスであって、
毛細管流路と連通している試料点着部と、
前記毛細管流路と連通している通気口と、
前記通気口と前記試料点着部とを外部環境から封止するように構成されたキャップ部材であって、前記試料点着部および前記通気口で共有される封止空間を前記試料点着部と前記通気口との上方に設けるキャップ部材と、
デバイス中に存在する一定量の生体試料と
を備えることを特徴とするデバイス。
【請求項12】
(a)読み取り装置、および
(b)液体試料のアッセイを行うように構成されており、前記読み取り装置に入れられるマイクロ流体デバイスであって、
毛細管流路と連通している試料点着部と、
前記毛細管流路と連通している通気口と、
前記通気口と前記試料点着部とを外部環境から封止するように構成されたキャップ部材であって、前記試料点着部および前記通気口で共有される封止空間を前記試料点着部と前記通気口との上方に設けるキャップ部材とを備えるマイクロ流体デバイス
を含むことを特徴とするシステム。
【請求項13】
(a)毛細管流路と連通している試料点着部と、
前記毛細管流路と連通している通気口と、
前記通気口と前記試料点着部とを外部環境から封止するように構成されたキャップ部材であって、前記試料点着部および前記通気口で共有される封止空間を前記試料点着部と前記通気口との上方に設けるキャップ部材とを備えるマイクロ流体デバイス、および
(b)前記マイクロ流体デバイスを収容する容器
を含むことを特徴とするキット。
【請求項14】
前記キャップ部材は、10〜1000mm2 の範囲の表面積を被覆するような寸法であることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項15】
前記キャップ部材は、前記デバイスの一つの表面のみに接触していることを特徴とする請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
前記キャップ部材は、二つの開口を封止することを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項17】
試薬が配置される高表面積構造を有する混合室を更に備えることを特徴とする請求項1に記載のデバイス。
【請求項18】
前記毛細管流路は、疎水性連結部により前記通気流路から分離されていることを特徴とする請求項2に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
臨床現場即時診断は、対象から生体試料を得て、目的とする1種以上の分析種の有無に関して試料の検査を行い、結果を得た後、試料分析結果に基づいて対象の診断を行うプロセスを全て同じ場所で行うことを指す。臨床現場即時診断は、例えば、第1の場所で試料を得た後、検査を行うために第2の場所に輸送する従来の診断検査手順よりも迅速に且つ低コストで診断を行えることが多いため、コスト削減および患者の満足感に関して大きな利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0181411号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
感染症用の現在の臨床現場即時検査の大部分は、1回の検査につき1種類の診断しか行えない。臨床現場で使用可能な安価で容易な方法を用いて、指先穿刺による血液1滴から複数の感染症を迅速に診断できれば、世界の健康状態が大きく改善されるであろう。フローサイトメトリーに基づく微粒子イムノアッセイにより優れた正確度と多重化が可能になるが、試料調製が煩雑で計装に費用がかかるため、臨床現場の状況には不適切である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
毛細管流路と連通している試料点着部と通気口とを備える、液体試料のアッセイを行うためのマイクロ流体デバイスについて記載する。キャップは、通気口および試料点着部を共有容積内に封入し、試料点着部と通気口の両方を外部環境から分離するように構成されている。幾つかの実施形態では、デバイスは、毛細管流路と通気流路とを備えることができる。幾つかの実施形態では、デバイスは試料点着部を包囲する液体バリアを備えることができ、液体バリアは試料点着部と通気口との間に配置され、点着された試料が通気口を閉塞することを防止する。幾つかの実施形態では、液体バリアは、試料点着部を包囲する隆起縁を含むことができる。幾つかの実施形態では、液体バリアは、試料点着部を包囲する陥凹部を含む。幾つかの実施形態では、キャップ部材はガスケットを備える。
【0005】
本発明の態様はさらに、液体試料のアッセイを行うように構成されたマイクロ流体デバイスを含み、デバイスは、接続された試料点着部と、毛細管流路と、疎水性連結部と、通気流路と、通気口とを備える。キャップ部材は、通気口と試料点着部とを外部環境から封止するように構成されている。キャップ部材は、試料点着部と通気口との周囲の共有容積を密閉する。幾つかの実施形態では、疎水性連結部は、毛細管流路のヘキサン処理された領域を含む。
【0006】
本発明の態様はさらに、液体試料のアッセイを行う方法を含む。本方法の態様は、毛細管流路と流体連通している試料点着部に液体試料を点着する工程を含み、液体試料は毛細管力により毛細管流路を流通する。液体試料により排除された空気の排出は、通気流路と通気口とを通して行われる。本方法は、場合により、キャップ部材を用いて液体試料を外部環境から封止する工程を含み、キャップ部材は試料点着部と通気口とが共有する空気の封止容積を設ける。幾つかの実施形態では、マイクロ流体デバイスは毛細管流路と通気流路とを備える。幾つかの実施形態では、デバイスは、試料点着部を包囲する液体バリアを備え、液体バリアは試料点着部を通気口から分離する。幾つかの実施形態では、液体バリアは、試料点着部を包囲する隆起縁または陥凹部を含む。幾つかの実施形態では、キャップ部材はガスケットを備える。
【0007】
互いに流体連通する試料点着部と毛細管流路とを形成する工程を含む、アッセイカートリッジの製造方法について記載する。デバイスは、毛細管流路と通気流路とを備えることができる。流路は、プラスチック材料(例えば、シクロオレフィンポリマー)に溝状の通路を形成し、溝状の通路をプラズマで処理し、処理された領域の親水性を向上させることにより形成することができる。溝状の通路の表面積の一部を非極性有機溶媒(例えば、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、クロロホルム、またはこれらの任意の組み合わせ)と接触させることができ、この処理により表面積の親水性が低下する。溝状の通路を封止して毛細管流路と疎水性連結部とを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態のアッセイデバイスの概略図である。
図2A】本発明の実施形態によるアッセイデバイスの概略図である。
図2B】本発明の実施形態によるアッセイデバイスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、液体試料を分析するための方法およびシステムを提供する。毛細管流路と流体連通している試料点着部と通気口とを備える、液体試料のアッセイを行うためのマイクロ流体デバイスについて記載する。通気口と試料点着部の両方を共有容積内に封入し、外部環境から分離するように構成されているキャップが設けられている。
【0010】
本発明についてより詳細に説明する前に、本発明は、記載する特定の実施形態に限定されるものではなく、それらは様々であり得ることを理解されたい。また、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるため、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するに過ぎず、本発明を限定するものではないことも理解されたい。
【0011】
値の範囲を記載する場合、その範囲の上限と下限との間にある各値は、特記しない限り下限の単位の10分の1まで、および前述の範囲にある他の任意の記載されている値もしくは間にある値は本発明に包含されることを理解されたい。これらの比較的小さい範囲の上限と下限を独立してその比較的小さい範囲に含むことができ、それらも同様に本発明に包含されるが、前述の範囲に特に除外される限界があればそれは除外される。前述の範囲が上限と下限の一方または両方を含む場合、これらの含まれる限界のどちらかまたは両方を除外する範囲も、本発明に包含される。
【0012】
他に定義しない限り、本明細書で使用する科学技術用語は全て、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。本明細書に記載するものと類似のまたは同等の任意の方法および材料も本発明の実施および試験に使用することもできるが、以下では代表的な例示的方法および材料を記載する。
【0013】
本明細書で引用した刊行物および特許は全て、個々の刊行物または特許がそれぞれ参照により援用されることが具体的且つ個々に示されているかのごとく参照により本明細書に援用され、刊行物が関連して引用されている方法および/または材料を開示し、記載するために参照により本明細書に援用される。どの刊行物の引用も、出願日以前のその開示に関するものであり、本発明は先行発明によりこのような刊行物に先行する権利がないことを認めるものと解釈されるべきではない。さらに、記載される刊行物の日付は実際の刊行日と異なる可能性があり、それらを独立して確認する必要がある場合がある。
【0014】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形の「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、特記しない限り、複数の指示対象も含むことに留意されたい。さらに、特許請求の範囲は、任意選択による要素を除外するように起草されている場合があることにも留意されたい。このようなものとして、この記述は、特許請求の範囲の要素の記載に関連する「のみ(solely)」および「だけ(only)」等の排他的な用語の使用または「否定的な」限定の使用に関する先行詞となるものとする。
【0015】
本開示を読めば当業者には明らかとなるように、本明細書に記載され、図示されている個々の実施形態はそれぞれ個別の構成要素および特徴を有し、これらは、本発明の範囲または精神から逸脱することなく、他の幾つかの実施形態のいずれかの特徴から容易に分離することができるまたはそれらと組み合わせることができる。記載される方法はいずれも、記載されている事象の順番で行ってもまたは論理的に可能な他の任意の順番で行ってもよい。
【0016】
本発明の実施は、特記しない限り、当該技術分野の技術に入る分子生物学(組み換え技術を含む)、細胞生物学、イムノアッセイ技術、検鏡法、画像解析、および分析化学の常法を使用することができる。このような常法としては、蛍光信号の検出、画像解析、照射源および任意選択による信号検出素子の選択、ならびに生物細胞の標識等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。このような常法および説明は、Genome Analysis:A Laboratory Manual Series(Vols.I−IV),Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cells:A Laboratory Manual,PCR Primer:A Laboratory Manual,and Molecular Cloning:A Laboratory Manual(全てCold Spring Harbor Laboratory Pressから出版)、Murphy,Fundamentals of Light Microscopy and Electronic Imaging(Wiley−Liss,2001)、Shapiro,Practical Flow Cytometry,Fourth Edition(Wiley−Liss,2003)、Herman et al,Fluorescence Microscopy,2nd Edition(Springer,1998)などの標準的な実験マニュアルに記載されており、これらは全て、あらゆる目的で参照によりその内容全体が本明細書に援用される。
【0017】
本発明の様々な態様の詳細な説明では、まず、本発明のマイクロ流体デバイスの実施形態についてより詳細に検討した後、デバイスの製造方法および使用方法の様々な実施形態、ならびにデバイスを含むキットの実施形態について検討する。
【0018】
デバイス
試料点着部と通気口の両方と連通している毛細管流路を備えるマイクロ流体デバイスについて記載する。マイクロ流体デバイスとは、流体を制御および操作するように構成されているデバイスであって、形状が小型化された(例えば、ミリメートル未満)ものを意味する。試料点着部、毛細管流路および通気口の他に、デバイスの態様は、通気口と試料点着部とを同じ容積内に封入し、これらの2つの構成要素を外部環境から分離するように構成されているキャップを備える。
【0019】
デバイスが毛細管流路を備える場合、それらは、液体の毛管流が生じるように構成されている細長い構造を備える。デバイスは、試料が毛細管流路内を移動するように、毛細管力の他に重力または遠心力などの任意の力を使用することもできる。毛細管流路が細長い構造を有する場合、その長さはその幅よりも長い。長さ対幅の比は様々であってよいが、場合により、長さ対幅の比の値は2〜5000、例えば5〜500、例えば15〜20の範囲である。場合により、流路の長さは10〜500mm、例えば20〜250mm、例えば50〜75mmの範囲である。場合により、流路は、マイクロメートルサイズの長さの断面寸法を有し、例えば、最長の断面寸法(例えば、管状の流路の場合、直径)は0.1〜20mm、例えば1〜10mm、例えば3〜5mmの範囲である。場合により、流路の幅は0.1〜20mm、例えば1〜10mm、例えば3〜5mmの範囲である。場合により、流路の高さは5〜500μm、例えば、10〜150μm、例えば20〜70μmの範囲である。毛細管流路の断面形状は様々であってよいが、場合により、対象となる流路の断面形状としては、直線からなる断面形状、例えば、正方形、長方形、不等辺四辺形、三角形、六角形等、曲線からなる断面形状、例えば、円形、楕円形等、ならびに不規則な形状、例えば、放物線状の底部が平面状の頂部に結合した形状等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
毛細管流路の一端(即ち、近位端)には試料点着部が配置されている。試料点着部は、分析される試料、例えば、生体試料を一定量受容するように構成された部位または位置である。場合により、試料点着部は、5〜100μL、例えば10〜50μL、例えば20〜30μLの範囲の容積を有する試料を受容するように構成された構造である。試料点着部は、流体が直接、または流体連通を提供する介在部材を通して、毛細管流路に到達できる限り、任意の好都合な形状を有することができる。
【0021】
マイクロ流体デバイスには通気口も存在する。通気口は、毛細管流路の遠位端からデバイスの外面に、流体連通する、例えば、気体が連通するように構成されている。通気口の断面形状は様々であってよいが、場合により、対象となる通気口の断面形状としては、直線からなる断面形状、例えば、正方形、長方形、不等辺四辺形、三角形、六角形等、曲線からなる断面形状、例えば、円形、楕円形等、ならびに不規則な形状、例えば、放物線状の底部が平面状の頂部に結合した形状等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。通気口の最長の断面寸法の長さ(例えば、円形の形状の通気孔の場合、直径)も様々であってよく、場合により、0.2〜2mm、例えば0.5〜1.5mm、例えば0.8〜1.2mmの範囲である。通気口は、デバイスの試料点着部の近位または近傍の位置に配置される。試料点着部と通気口との最短距離は様々であってよいが、場合により、デバイスのこれらの2つの構成要素間の最短距離は1〜20mm、例えば5〜15mm、例えば8〜10mmの範囲である。
【0022】
上記に要約したように、試料点着部、毛細管流路および通気口の他に、デバイスの態様は、通気口と試料点着部とを同じ容積内に封入し、これらの2つの構成要素を外部環境から分離するように構成されているキャップを備える。キャップは、試料点着部と通気口の両方を、例えば、より詳細に後述するように、被覆封入するように構成されている要素である。キャップの寸法は様々であってよいが、場合により、キャップは、10〜1000mm2 、例えば50〜500mm2 、例えば100〜300mm2 の範囲の表面積を被覆するような寸法になっている。場合により、キャップはデバイスの別の位置に、例えば、より詳細に後述するように、移動可能に取り付けられている。
【0023】
幾つかの態様では、キャップは、バイオハザード試料をデバイス内に収容するために、および/または蒸発を防止するために、毛細管流路に接続している試料点着部を覆ってデバイス内に封入する。試料点着部から試料液を充填する毛細管流路は、通気流路を通して通気口に接続していてもよく、その末端は、キャップで被覆され得る同じ容積内にある。同キャップはバイオハザード物質が通気口または試料点着部から漏出することを防止できると同時に、毛細管流路内の液柱の前後にかかる圧力が均等になることを確実にすることができる。幾つかの実施形態では、液体をデバイスに点着するとすぐキャップを閉じることができ、デバイスの充填速度には影響を及ぼさない。デバイス内の液体バリア(例えば、疎水性連結部)が機能しなくても、試料点着部または通気口にはキャップを閉じた後に外部環境に開放している部分がないため、液体はデバイス内に収容されたままとなる。
【0024】
毛細管流路、試料点着部、通気口およびキャップ(例えば、前述の)の他に、アッセイを行うためのデバイスは、所望のアッセイを行うための特徴を任意の数、備えることができ、その特徴としては、混合(即ち、試料/試薬混合)室、反応流路、分析種特異的捕捉ドメイン、疎水性連結部、通気流路等またはこれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
場合により、試料点着部と毛細管流路との間の流体通路内に混合室が配置される。混合室とは、試料点着部に点着された後、毛細管流路に流動する試料を1種以上の試薬と混合するように構成されている、流体通路内の領域または位置を意味する。混合室は、能動型の混合部材、例えば、撹拌棒等を備えても、または備えていなくてもよい。場合により、混合室は、1種以上の試薬を配置することができる高表面積を提供する構造を備え、高表面積構造は、流通する試料の1種以上の成分を濾過するように構成されても、または構成されなくてもよい。場合により、高表面積構造は流通する試料の成分を濾過しないように構成されているものであってもよい。例えば、試料が全血試料である場合、高表面積構造は、高表面積構造を通る全血成分、例えば、白血球、赤血球、血小板等のいずれの流通も妨げないように構成されているものであってもよい。このような場合、高表面積構造の空孔率は20〜80、例えば30〜70、例えば40〜60の範囲であってもよい。高表面積構造は、存在する場合、任意の好適な材料、例えば、ポリマー材料、ガラス材料、セラミック材料、金属材料等から製造されてもよい。対象となる具体的な材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびポリフッ化ビニリデン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
混合室内に1種以上の試薬が存在し、これらの試薬は、高表面積構造が存在する場合、その表面に存在してもよい。デバイスが構成される特定のアッセイに応じて、種々の異なる試薬がデバイスの混合室または混合ドメイン内に存在してもよい。対象となる試薬としては、とりわけ、標識された特異的結合物質、酵素、基質、および酸化剤等が挙げられる。
【0027】
幾つかの実施形態では、混合室の試薬は標識された特異的結合物質を含む。標識された特異的結合物質は、特異的結合ドメインと標識ドメインとを含むことができる。「特異的結合」、および「特異的に結合する」等の用語は、溶液または反応混合物中の他の分子または他の成分と比較して、あるドメイン(例えば、同じ結合対の一方の結合対物質が他方の結合対物質に)が優先的に結合することを指す。特異的結合ドメインは、目的とする分析種の特異的エピトープに結合する(例えば、共有結合または非共有結合する)ことができる。特定の態様では、特異的結合ドメインは標的に非共有結合する。このような場合、特異的結合ドメインと結合標的(例えば、細胞表面マーカー)との結合は、KD(解離定数)が10-5M以下、10-6M以下、例えば10-7M以下、例えば10-8M以下、例えば10-9M以下、10-10 M以下、10-11 M以下、10-12 M以下、10-13 M以下、10-14 M以下、10-15 M以下、例えば10-16 M以下であることを特徴とし得る。
【0028】
種々の異なるタイプの特異的結合ドメインを捕捉リガンドとして使用することができる。対象となる特異的結合ドメインとしては、抗体結合剤、タンパク質、ペプチド、ハプテン、核酸等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本明細書で使用する場合、「抗体結合剤」という用語には、目的とする分析種に結合するのに十分なポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体またはフラグメントが含まれる。抗体フラグメントは、例えば、モノマーのFabフラグメント、モノマーのFab’フラグメント、またはダイマーのF(ab)’2フラグメントであってもよい。単鎖抗体分子(scFv)、または、重鎖および軽鎖の定常領域を置換してキメラ抗体を製造すること、もしくは定常領域と可変領域のフレームワーク部分の両方を置換してヒト化抗体を製造することにより、モノクローナル抗体から製造されるヒト化もしくはキメラ抗体などの抗体工学により製造される分子も「抗体結合剤」という用語の範囲に入る。
【0029】
標識ドメインは、例えば、蛍光発光極大、蛍光偏光、蛍光寿命、光散乱、質量、分子質量、またはこれらの組み合わせに基づき検出可能であってもよい。特定の態様では、標識ドメインは蛍光体(即ち、蛍光標識、蛍光色素等)であってもよい。蛍光体は、分析用途(例えば、フローサイトメトリー、画像化等)に使用するのに好適な多くの色素のいずれかから選択することができる。多数の色素が、例えば、Molecular Probes(Eugene,OR)およびExciton(Dayton,OH)などの様々な供給業者から市販されている。微粒子に組み込むことができる蛍光体の例としては、4−アセトアミド−4’−イソチオシアナトスチルベン−2,2’ジスルホン酸;アクリジンおよび誘導体、例えば、アクリジン、アクリジンオレンジ、アクリンジンイエロー、アクリジンレッド、およびアクリジンイソチオシアネート;5−(2’−アミノエチル)アミノナフタレン−1−スルホン酸(EDANS);4−アミノ−N−[3−ビニルスルホニル)フェニル]ナフタルイミド−3,5ジスルホネート(ルシファーイエローVS);N−(4−アニリノ−1−ナフチル)マレイミド;アントラニルアミド;ブリリアントイエロー;クマリンおよび誘導体、例えば、クマリン、7−アミノ−4−メチルクマリン(AMC,クマリン120)、7−アミノ−4−トリフルオロメチルクルアリン(couluarin)(クマラン(Coumaran)151);シアニンおよび誘導体、例えば、シアノシン、Cy3、Cy5、Cy5.5、およびCy7;4’,6−ジアミニジノ−2−フェニルインドール(DAPI);5’,5’’−ジブロモピロガロール−スルホンフタレイン(ブロモピロガロールレッド;7−ジエチルアミノ−3−(4’−イソチオシアナトフェニル)−4−メチルクマリン;ジエチルアミノクマリン;ジエチレントリアミン五酢酸;4,4’−ジイソチオシアナトジヒドロスチルベン−2,2’−ジスルホン酸;4,4’−ジイソチオシアナトスチルベン−2,2’−ジスルホン酸;5−[ジメチルアミノ]ナフタレン−1−スルホニルクロライド(DNS、ダンシルクロライド);4−(4’−ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸(DABCYL);4−ジメチルアミノフェニルアゾフェニル−4’−イソチオシアネート(DABITC);エオシンおよび誘導体、例えば、エオシンおよびエオシンイソチオシアネート;エリトロシンおよび誘導体、例えば、エリトロシンBおよびエリトロシンイソチオシアネート;エチジウム;フルオレセインおよび誘導体、例えば、5−カルボキシフルオレセイン(FAM)、5−(4,6−ジクロロトリアジン−2−イル)アミノフルオレセイン(DTAF)、2’7’−ジメトキシ−4’5’−ジクロロ−6−カルボキシフルオレセイン(JOE)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フルオレセインクロロトリアジニル、ナフトフルオレセイン、およびQFITC(XRITC);フルオレサミン;IR144;IR1446;緑色蛍光タンパク質(GFP);造礁サンゴ由来蛍光タンパク質(RCFP);Lissamine(登録商標);リサミンローダミン(Lissamine rhodamine)、ルシファーイエロー;マラカイトグリーンイソチオシアネート;4−メチルウンベリフェロン;o−クレゾールフタレイン;ニトロチロシン;パラローザニリン;ナイルレド;オレゴングリーン;フェノールレッド;B−フィコエリトリン;o−フタルジアルデヒド;ピレンおよび誘導体、例えば、ピレン、ピレンブチレートおよびスクシンイミジル1−ピレンブチレート;リアクティブレッド4(Cibacron(登録商標)Brilliant Red 3B−A);ローダミンおよび誘導体、例えば、6−カルボキシ−X−ローダミン(ROX)、6−カルボキシローダミン(R6G)、4,7−ジクロロローダミンリサミン、ローダミンBスルホニルクロライド、ローダミン(Rhod)、ローダミンB、ローダミン123、ローダミンXイソチオシアネート、スルホローダミンB、スルホローダミン101、スルホローダミン101のスルホニルクロライド誘導体(テキサスレッド)、N,N,N’,N’−テトラメチル−6−カルボキシローダミン(TAMRA)、テトラメチルローダミン、およびテトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC);リボフラビン;ロゾール酸およびテルビウムキレート誘導体;キサンテン;またはこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。当業者に既知の他の蛍光体またはこれらの組み合わせ、例えば、Molecular Probes(Eugene,OR)およびExciton(Dayton,OH)から入手可能なものを使用することもできる。蛍光標識は、蛍光発光極大に基づいて、および任意選択により、さらに光散乱または消光(extinction)に基づいて識別可能な場合がある。
【0030】
混合室または混合ドメイン内に存在する試薬の量は、例えば、デバイスが構成される特定の種類のアッセイに応じて変わり得る。場合により、試薬の量は、混合室を流通した後に試料中の試薬濃度が0.002〜100μg/mL、例えば0.02〜10μg/mL、例えば0.2〜1μg/mLの範囲となるのに十分な量である。混合室内に存在する試薬の乾燥重量は様々であってよいが、場合により、乾燥重量は0.01〜500ng、例えば0.3〜120ng、例えば3〜12ngの範囲である。
【0031】
幾つかの実施形態では、マイクロ流体デバイスは、疎水性連結部により通気流路から分離された毛細管流路を備える。存在する場合、通気流路は種々の異なる構成を有してもよく、通気口を、流体連通している試料点着部から最遠の毛細管流路の端部と連結するように構成されている。通気流路は、その長さがその幅より長いような細長い構造であってもよい。長さ対幅の比は様々であってよいが、場合により、長さ対幅の比の値は5〜2000、例えば10〜200、例えば50〜60の範囲である。場合により、通気流路の長さは5〜200mm、例えば10〜100mm、例えば50〜75mmの範囲である。場合により、通気流路は、マイクロメートルサイズの長さの断面寸法を有し、例えば、最長の断面寸法(例えば、管状の流路の場合、直径)は0.1〜10mm、例えば0.5〜5mm、例えば1〜2mmの範囲である。場合により、通気流路の幅は0.1〜10mm、例えば0.5〜5mm、例えば1〜2mmの範囲である。場合により、通気流路の高さは0.5〜5mm、例えば0.2〜2mm、例えば0.5〜1mmの範囲である。通気流路の断面形状は様々であってよいが、場合により、対象となる通気流路の断面形状としては、直線からなる断面形状、例えば、正方形、長方形、不等辺四辺形、三角形、六角形等、曲線からなる断面形状、例えば、円形、楕円形等、ならびに不規則な形状、例えば、放物線状の底部が平面状の頂部に結合した形状等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
前述のように、毛細管流路は疎水性領域により通気流路から分離されていてもよい。疎水性領域とは、水に濡れ難い、例えば、水性媒体を撥ねる領域またはドメインを意味する。疎水性領域は、表面エネルギーが毛細管流路の表面の表面エネルギーより低いものであってもよい。表面エネルギーの差の大きさは様々であってよく、場合により5〜500dyn/cm、例えば10〜30dyn/cmの範囲である。疎水性ドメインの表面エネルギーも様々であってよく、例えば、ASTM Std.D2578に記載のプロトコルを使用して測定した場合、20〜60dyn/cm、例えば30〜45dyn/cmの範囲である。疎水性領域の寸法は、完全ではなくとも少なくとも部分的に試料液流が疎水性領域を通過することを妨げるように構成されている。領域の寸法は様々であってよいが、場合により、疎水性領域の表面積は0.5〜50mm2 、例えば2〜20mm2 、例えば7〜15mm2 の範囲である。疎水性領域は、任意の好都合な方法を用いて、例えば、デバイスの疎水性領域を好適な疎水性材料から製造することにより、デバイスの表面を疎水性物質等で処理することにより、例えば、より詳細に後述するように、設けることができる。
【0033】
場合により、デバイスは分析種特異的捕捉ドメインを備えることができる。分析種特異的捕捉ドメインは、デバイスの使用中に結果を読み取ることができる毛細管流路のドメインまたは領域である。分析種特異的捕捉ドメインは、デバイスの試料点着部から下流にある程度距離をあけて配置されている。「下流」とは、試料が毛細管現象により流動する方向、即ち、試料点着部からの流体流の方向を意味する。試料受容領域と検出領域との間の総流体流動距離は様々であってよく、場合により、2〜500cm、例えば10〜100cm、例えば20〜50cmの範囲である。
【0034】
分析種特異的捕捉ドメインは、本明細書では「検出捕捉プローブ」とも称される捕捉プローブを一定量含む領域である。検出捕捉プローブは分析種特異的捕捉ドメインに固定化され、目的とする標的分子、例えば、分析種、対照分子等に特異的に結合する。検出捕捉プローブ領域のサイズは様々であってよく、場合により、捕捉プローブ領域の面積は0.01〜0.5cm2 、例えば0.05〜0.1cm2 、例えば0.1〜0.2cm2 の範囲であってもよい。分析種特異的捕捉ドメインは種々の異なる構成を有してもよく、その構成はランダムであっても、またはその構成は、線状、円形、正方形などの特定の形状、もしくは、必要に応じて、「+」などのより複雑な形状であってもよい。所定の分析種特異的捕捉ドメインは単一の捕捉プローブを備えてもまたは2種以上の異なる捕捉プローブを備えてもよく、2種以上の異なる捕捉プローブはそれぞれ、検出領域が2種以上の捕捉プローブを備える場合、捕捉プローブは、必要に応じて、互いに異なってもよい(即ち、異なる標的分子に結合してもよい)。
【0035】
幾つかの実施形態では、標的分子、例えば、目的とする分析種、対照分子または標準分子等に対する特異的結合物質を有する粒子を備える分析種特異的捕捉ドメインを設けてもよい。例えば、幾つかの実施形態では、デバイスは、例えば、2012年11月16日に出願され、参照により本明細書に援用されるPCT出願番号PCT/US2012/065683号明細書に記載されているように、好都合な表面、例えば、毛細管流路のドメイン、例えば、毛細管流路内の毛細管室の上面に、固定化された捕捉ビーズから構成された分析種特異的捕捉ドメインを備えることができる。捕捉ビーズは、目的とする分析種に特異的に結合する結合試薬でコーティングされていてもよい。幾つかの実施形態では、捕捉ビーズは、目的とする抗体が特異的に結合する抗原でコーティングされてもよい。このような場合、分析種に特異的に結合する検出用の蛍光標識試薬を添加し、捕捉された分析種の検出がその蛍光発光により可能となるようにしてもよい。捕捉ビーズは、任意の好適な手段で毛細管室の上面の箇所に固定化されてもよい。場合により、共有結合以外の、ビーズと毛細管室表面との受動的相互作用によりその箇所に局所的に固定されたビーズを必要に応じて使用することができる。
【0036】
複数の分析種の多重化検出が可能となるように、異なる抗原でコーティングされた捕捉ビーズを毛細管室内の異なる箇所に局在化させることができる。あるいは、異なる抗原でコーティングされた捕捉ビーズを、蛍光色素を用いて識別可能に標識することができ、蛍光色素は互いに識別可能、且つ捕捉された分析種の測定に使用される色素標識された検出試薬と識別可能である。このようにして、捕捉ビーズを同じ箇所に固定化し、それらの蛍光発光により識別することができる。他の実施形態では、標識試薬を、試料点着部に配置された分析種特異的捕捉ドメインに配置することができ、標識された試料は毛細管流路内の反応室に流動し検出することができる。
【0037】
場合により、デバイスは、毛細管流路内に品質管理ドメインを備えることができ、それは、例えば、試料点着部から最遠の流路端部近傍に配置することができる。品質管理流路は様々であってよく、例えば、より詳細に後述するようなものなどの、標識された試薬等に特異的な捕捉物質、例えば、抗体を備え、例えば、所定のアッセイ中に試料がデバイスを流通することが確認されるようになっていてもよい。
【0038】
場合により、デバイスは、デバイスに関する情報、例えば、それが構成されている特定のアッセイ、製造ロット番号等を提供し得る識別子を1つ以上備えてもよく、それらの識別子は独自の識別子であってもよい。識別子はヒトがおよび/または機械で読み取り可能なものであってもよく、例えば、必要に応じてテキストまたはバーコードであってもよい。
【0039】
デバイスの態様について全般的に説明してきたが、以下でデバイスの特定の実施形態を図に関して詳細に検討する。図1を参照すると、液体試料のアッセイを行うためのデバイスが記載されている。デバイス100は、任意の硬質または半硬質の材料(例えば、ガラス、ポリマー、セラミック等)に形成された毛細管流路10から構成されてもよい。キャップ20はデバイスと別々に図示されているが、ヒンジまたはジョイントなどの任意の機構で取り付けられていてもよい。キャップ20は、試料点着部40が配置されている領域30を環境から封止することができる。場合により、キャップ20と下にある材料との間に良好なシールを形成できるように、デバイスおよび/またはキャップ材料は可撓性である。もちろん、キャップ20に硬質または半硬質の材料を使用することも可能な場合がある。例えば、キャップ20の形成にガラスまたはプラスチックを使用することができる。ガスケットまたは他の封止補助部材(図示せず)を任意選択により使用してもよい。
【0040】
試料点着部40は毛細管流路10と流体連通している。試料点着部40は、試料が試料点着部を流通する際に、試料を標識するまたは試料と反応する乾燥試薬を備えてもよく、それは、例えば、より詳細に前述したように、高表面積構造と結合していてもまたは結合していなくてもよい。通気流路14は、毛細管流路に沿った任意の点で毛細管流路に接続していてもよい(例えば、端部通気または側部通気)。幾つかの実施形態では、毛細管流路10は、疎水性接合領域15により通気流路14から分離されていてもよい。疎水性連結部は、例えば、前述のように、毛細管流路の親水性と比較して親水性が低い所定の領域であってもよい。
【0041】
毛細管流路と疎水性連結部との親水性は任意の手段で調節することができる。幾つかの実施形態では、毛細管流路の親水性は、マイクロ流体デバイスの第1の所定の領域をプラズマ処理することにより調節することができる。所定の領域は、シクロオレフィンポリマーなどのプラスチック材料内の溝または流路領域であってもよい。材料または流路領域の全部または一部をプラズマ場で処理し、処理された領域の親水性を向上させることができる。疎水性領域は、流路領域と比較して、マイクロ流体デバイス材料の第2の所定の領域の親水性を低下させるのに使用される任意の手段で製造することができる。第1の所定の領域と第2の所定の領域とは重なってもよい。
【0042】
場合により、疎水性領域は、好適な溶媒を塗布することにより製造される。例えば、疎水性領域は、マイクロ流体デバイス材料を一時的に液化または膨潤させることができる任意の溶媒を塗布することにより形成することができる。幾つかの実施形態では、疎水性領域は、ヘキサン、ヘプタン、ペンタンおよびクロロホルム、またはこのような溶媒の2種以上の組み合わせなどの非極性有機溶媒を含む溶液をプラスチック材料(例えば、シクロオレフィンポリマー)の第2の所定の領域に、その領域に所望の疎水性が得られるのに十分な時間塗布することにより形成される。幾つかの実施形態では、極性溶媒を使用してマイクロ流体デバイス材料の第2の所定の領域の親水性を低下させることができる。第2の所定の領域は、第1の所定の領域と重なってもよい。その後、溶媒をその領域から蒸発させることができ、親水性が低下した領域が残る。毛細管流路および疎水性連結部は、溝または流路領域に封止カバーを被せることにより形成することができる。疎水性連結部は、毛細管流路と通気口または通気流路との間の毛細管流路内での液流を妨げることができる。
【0043】
前述のように、幾つかの実施形態では、マイクロ流体デバイスは、試料と反応する試薬を備えることができる。これらの試薬は、混合室(図示せず)もしくは試料点着部40などのデバイスの所定の領域に、または毛細管流路10に沿って配置することができる。毛細管流路10は、光透過性の壁13、または、試料中の分析種を検出(および/または照射)するための壁(例えば、頂壁および底壁)を備えてもよい。毛細管流路は、キャップ20で被覆されている、領域30内に配置された通気流路14または通気口60に接続されていてもよい。試料点着部および通気口はキャップで被覆され、従って、環境から隔離されて共有空間内にあってもよい。共有空間は、通気口および試料点着部と共有される隔離された容積を提供することができる。試料点着部を通気口から分離する隆起縁70または凹部(図示せず)などの任意の手段で、2つの開口部が互いに液体連通しないようにすることができる。隆起縁を設ける場合、それが上昇し得る高さは様々であってよく、場合により、0.2〜5mm、例えば0.5〜1.5mmの範囲である。凹部または陥凹部を設ける場合、このような構造の深さは様々であってよく、場合により、0.2〜5mm、例えば0.5〜1.5mmの範囲である。
【0044】
本発明のキャップは、毛細管流路への流入に悪影響を及ぼすことなく、外部環境から試料点着部および通気口を共有空隙内に封入する。幾つかの実施形態では、キャップは、キャップおよび通気流路内の空気の容積および圧力の変化を引き起こし得る封止ガスケットまたは他の可撓性部品を有する。デバイスのインキュベートおよび検出中の温度変化によって起こる共有空隙内の空気圧の変化はマイクロ流体デバイス内の液柱の前後で同等であり、従って、実質的な流体の移動が起こらない。試料からの水蒸気で飽和した後、共有空隙の容積では、さらに試料点着部または通気口から蒸発が起こらないようになっている。
【0045】
毛細管現象により充填するマイクロ流体生体診断デバイスは、流動面が親水性であり、表面の濡れがエネルギー的に好ましいため、そのようになる。このようなデバイスは、流入する試料が、デバイス内にある気体、例えば、空気を排除するように構成されてもよい。バイオハザードのおそれがある物質から使用者を保護するために、点着された試料と排出された空気の両方がカートリッジ内に収容されることが望ましい。また、デバイス内の試料があまり蒸発しないことも望ましく、試料が蒸発すると試料成分の比が変化するおそれがある。試料が供給された後、キャップを使用して試料物質をデバイス内に封入することができる。数分間かけて充填するデバイスもあるため、試料が点着された後、且つ試料が毛細管流路に完全に充填される前に、使用者がデバイスにキャップをしっかり取り付けることができることも望ましい。他にその防止手段が設けられない場合、液体が毛細管に入るが、キャップによって空気が点着部に入ることが防止されるため、キャップが被着された試料点着部内に生じる真空によって液流が妨げられることになる。マイクロ流体流路の通気口が、外側から封止され且つ試料点着領域と共有される空隙内で終わることにより、その解決に対処している。このようにして、キャップが、液流の終了前に配置されるか、または終了後に配置されるかに関わらず、毛細管流路内の液柱の前後の空気圧は同じになる。流路を充填する液体により通気口を通して排除される空気の容積が、試料点着部から移動する液体の容積に取って代わる。キャップガスケットがその封止面に圧接する際に、キャップ内の空気が僅かに加圧されても、液柱の前後での圧力の増加は一定のままであるため、毛細管流路に流入するための正味の駆動力に影響を及ぼさない。さらに、デバイスのインキュベーション中(数分〜数時間)または読み取り中の任意の時点で、デバイスの温度が変化すると、キャップ内の圧力が変化し得るが、このように変化しても、液柱の前後の圧力は同じであるため、流路内での流体の移動は起こらない。
【0046】
本発明の幾つかの実施形態では、デバイスに次の特徴の任意の組み合わせを使用することができる。例えば、毛細管流路または試料点着部は混合室を備えることができ、そこに乾燥した、例えば、保存された試薬が配置されていてもよい。毛細管流路の寸法は画像化および流路内の試料の流動に影響を及ぼし得る。幾つかの実施形態では、流路は幅2〜10mm、例えば幅3〜5mm、または幅3〜4mmであってもよい。幾つかの実施形態では、毛細管流路は深さ1〜1000μm、例えば深さ20〜60μm、または深さ40〜60μmであってもよい。深さが60μm未満である場合、赤血球の不明瞭化作用が最小限に抑えられることにより全血試料中の白血球の画像化に有利になり得る。毛細管流路は、流路に沿った毛管流が得られる任意の長さであってもよい。幾つかの実施形態では、毛細管流路は長さ10〜100mmであってもよい。
【0047】
デバイスは、尿、唾液、血液、例えば、全血などの生体液を含む試料中の抗体などの分析種を検出するためのアッセイに好適である。前述のように、幾つかの実施形態では、デバイスは、例えば、2012年11月16日に出願され、参照により本明細書に援用されるPCT出願番号PCT/US2012/065683号明細書に記載のように、毛細管流路内の毛細管室の上面に固定化された捕捉ビーズから構成される分析種特異的捕捉ドメインを備えることができる。捕捉ビーズは、目的とする分析種に特異的に結合する結合試薬でコーティングされていてもよい。幾つかの実施形態では、捕捉ビーズは、目的とする抗体が特異的に結合する抗原でコーティングされている。捕捉された分析種の検出がその蛍光発光により可能となるように、分析種に特異的に結合する検出用の蛍光標識された試薬が添加されている。捕捉ビーズは、任意の好適な手段で毛細管室の上面の箇所に固定化されてもよい。場合により、共有結合以外のビーズと毛細管室表面との受動的な相互作用によりその箇所に局所的に固定されたビーズを使用することができる。
【0048】
複数の分析種の多重化検出が可能となるように、異なる抗原でコーティングされた捕捉ビーズを毛細管室内の異なる箇所に局在化させることができる。あるいは、異なる抗原でコーティングされた捕捉ビーズは、互いに識別可能、且つ捕捉された分析種の測定に使用される色素標識された検出試薬と識別可能な蛍光色素を用いて識別可能に標識することができる。このようにして、ビーズを同じ箇所に固定化し、それらの蛍光発光により識別することができる。他の実施形態では、試料点着部に配置された分析種特異的捕捉ドメインに標識試薬を配置することができ、標識された試料は毛細管流路内の反応室に流動し、検出することができる。
【0049】
捕捉された分析種の蛍光は安価なデジタル画像化/画像処理システムを使用して測定することができる。毛細管流路内の試料を画像化するのに好適なシステムおよび方法は、2012年8月21日に発行された米国特許第8,248,597号明細書および2012年8月20日に出願された米国特許出願第13/590,114号明細書に記載されている。好適な画像化装置は米国特許第7,927,561号明細書および米国特許第7,738,094号明細書に記載されており、これらは共に参照により本明細書に援用される。
【0050】
幾つかの実施形態では、微粒子を毛細管流路の頂面に配置することができる。イムノアッセイの典型的なインキュベート時間(例えば2〜60分、例えば10〜30分)中に、全血中の赤血球は底部に沈降し、上部に比較的清澄になった血漿が残る。微粒子を流路の頂面に配置することにより、赤血球による蛍光検出の妨害がなくなり、分離することなく全血を簡単にアッセイすることが可能となる。
【0051】
幾つかの実施形態では、本発明は、例えば、下記の実験の項に記載するように、非洗浄法で指先穿刺量(5〜50μL)の全血中のヒト抗体の血清中濃度を検出するのに使用される。
【0052】
方法
本方法の態様は、試料を試料点着部に点着し、試料(例えば、分析種を含む血液または血液製剤などの生体試料)を、毛細管流路を流通させた後、試料中の1種以上の標的分析種を検出する工程を含む。
【0053】
このようなものとして、本発明の方法は、本発明の検査デバイスの、試料に接触した試料点着部を得る工程を含むことができる。「試料に接触した試料点着部」は、試料が接触した試料点着部である。本発明の方法の実施において、試料に接触した試料点着部は、試料をデバイスの試料点着部に点着することにより得られる。試料点着部に点着される試料の量は、アッセイの所望の毛管流および操作性が得られるのに十分である限り、様々であってよい。試料は、任意の好都合なプロトコルを用いて、例えば、スポイト、ピペットおよびシリンジ等により試料点着部に点着することができる。試料に接触した試料点着部を得る工程の他に、本方法はさらに、吸湿性部材を通る流体流が十分になるように、一定量の好適な液体、例えば、緩衝液を点着する工程を含むことができる。緩衝液、細胞培養培地(例えば、DMEM)等を含む任意の好適な液体を使用することができるが、これらに限定されるものではない。緩衝液としては、トリス、トリシン、MOPS、HEPES、PIPES、MES、PBS、およびTBS等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。必要に応じて液体中に界面活性剤、例えば、NP−40界面活性剤、TWEEN(登録商標)界面活性剤またはTritonX100界面活性剤が存在してもよい。
【0054】
幾つかの実施形態では、試料に接触した試料点着部は、試料と1種以上のアッセイ用成分(例えば、試薬、および緩衝液等)を混合した後、アッセイ用成分を有する試料を試料点着部に点着することにより得られる。試料を1つ以上のアッセイ用成分と混合した後、アッセイ用成分を有する試料を試料点着部に点着する場合、任意の好都合なプロトコルを用いて混合を達成することができる。試料と混合する場合、アッセイ用成分の量は必要に応じて変わり得る。幾つかの実施形態では、試料に接触した試料点着部は、試料を試料点着部に点着する前に、1種以上のアッセイ用成分(例えば、前述の)を、試料を受容する試料点着部に点着することにより得られる。幾つかの実施形態では、試料に接触した試料点着部は、1種以上のアッセイ用成分(例えば、前述の)を試料点着部に点着する前に、試料を試料点着部に点着することにより得られる。前述のように、幾つかの実施形態では、デバイスは1種以上のアッセイ用成分(例えば、前述のものなどの試薬)を含む。このような場合、試料に接触した試料点着部は、例えば、1種以上のアッセイ用成分と事前に混合することなく、試料を試料点着部に点着することにより得られる。
【0055】
試料点着後、試料を、毛細管流路を流通させ、全流路を含む流路の1つ以上の部分、例えば、検出領域を読み取りまたは評価し、目的とする分析種が試料中に存在するかどうかを判定する。試料点着後に所定の時間が経過した後、流路またはその1つ以上の部分を読み取ることができ、その時間は10秒〜1時間、例えば30秒〜30分、例えば、30秒〜10分、例えば30秒〜1分の範囲であってもよい。
【0056】
アッセイおよび検出される分析種の性質に応じたプロトコルを用いて、毛細管流路またはその1つ以上の部分を読み取ることができる。例えば、放射標識の検出は、写真フィルムまたはシンチレーション計数器を用いて行うことができ、蛍光マーカーの検出は、1つ以上の照射器、例えば、レーザー、LED、および、放射光を検出する1つ以上の光検出器、例えば、PMT、CCDを用いて行うことができる。酵素標識の検出は、典型的には、酵素に基質を提供し、基質に対する酵素の作用により生成する反応生成物を検出することにより行い、金属標識の検出は、呈色標識を単に視覚化することにより行っても、または金属を検出できる実験装置を用いて行ってもよく、比色標識の検出は、呈色標識を単に視覚化することにより行われる。従って、使用される標識が蛍光標識である場合、本方法は、毛細管流路内またはその一部の試料に、標識を励起するのに好適な波長の光を照射した後、例えば、デバイスのハウジングの観察窓を通して蛍光標識から放射される光を検出する工程を含むことができる。このようなものとして、本発明の方法の後の工程は、デバイスの毛細管流路の検出領域を読み取り、試料中に分析種が存在するかどうかを判定する工程を含むことができる。
【0057】
前述のように、本発明の方法は、試料を添加したデバイスを好適な読み取り装置に入れ、読み取り装置からアッセイ結果を得る工程を含むことができる。例えば、捕捉された分析種の蛍光は、安価なデジタル画像化/画像処理システムを使用して測定することができる。毛細管流路内の試料を画像化するのに好適なシステムおよび方法は、2012年8月21日発行された米国特許第8,248,597号明細書および2012年8月20日出願された米国特出願第13/590,114号明細書に記載されている。好適な画像化装置は、米国特許第7,927,561号明細書および米国特許第7,738,094号明細書に記載されており、これらは共に参照により本明細書に援用される。
【0058】
幾つかの実施形態では、本方法は、分析種が試料中に所定の閾値を満たすまたは超過する量で存在するかどうかを判定する方法である。このようなものとして、試料中の目的とする分析種の量が特定の閾値(「所定の閾値」とも称される)を超える場合、検出領域の信号(競合物質が検出領域内の捕捉プローブに結合した結果として生じる)が検出可能である。重み付けが異なる複数の因子により閾値または所定の閾値を判定することができる(例えば、分析種に結合する試料受容領域内の捕捉プローブの数、および分析種に対する捕捉プローブの結合親和性等)。
【0059】
有用性
本発明の方法、デバイス、およびキットは種々の異なる用途に使用され、多数の可能な供給源に由来する多数の異なる種類の試料中に分析種が存在するかどうかを判定するのに使用することができる。用途および本明細書に記載の方法の所望の出力に応じて、分析種を定性的に(「有」対「無」、「イエス、所定の閾値を超える」対「ノー、所定の閾値を超えない」等)、または定量的に、例えば、試料中の量(試料中の濃度など)を検出することができる。多くの異なる種類の分析種は目的とする分析種であってもよく、これにはタンパク質(遊離タンパク質と、細胞などの構造の表面に結合したタンパク質の両方を含む)、核酸、およびウイルス粒子等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。さらに、試料はin vitro供給源に由来するものであってもまたはin vivo供給源に由来するものであってもよく、試料は診断用試料であってもよい。
【0060】
本発明の方法の実施において、試料は、in vitro供給源(例えば、実験室で増殖させた細胞培養物からの抽出物)から得られたものであっても、またはin vivo供給源(例えば、哺乳動物対象、ヒト対象、研究用動物等)から得られたものであってもよい。幾つかの実施形態では、試料は、in vitro供給源から得られる。in vitro供給源としては、原核(例えば、細菌)細胞培養物、真核(例えば、哺乳動物、真菌)細胞培養物(例えば、確立された細胞株の培養物、既知のまたは購入した細胞株の培養物、固定化された細胞株の培養物、初代細胞の培養物、実験用酵母の培養物等)、組織培養物、カラムクロマトグラフィー溶離液、細胞溶解産物/抽出物(例えば、タンパク質含有溶解産物/抽出物、核酸含有溶解産物/抽出物等)、およびウイルスパッケージング上清等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。幾つかの実施形態では、試料はin vivo供給源から得られる。in vivo供給源としては多細胞生物が挙げられ、それから診断用試料を得ることができる。
【0061】
幾つかの実施形態では、分析種は診断分析種である。「診断分析種」は、診断を行うために、多細胞生物、例えば、哺乳動物から得られたまたはそれに由来する試料からの分析種である。換言すれば、試料は、疾患または状態を診断するために、疾患に関連する1種以上の分析種の有無を判定するために得られたものである。従って、本方法は診断方法である。本方法が「診断方法」である場合、それらは、生物、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト)の疾患(例えば、病気、糖尿病等)または状態(例えば、妊娠)を診断する(即ち、その有無を判定する)方法である。このようなものとして、本開示の特定の実施形態は、生物対象が所定の疾患または状態(例えば、糖尿病)を有するかどうかを判定するために使用される方法である。「診断方法」はまた、所定の疾患または状態の重症度または状況を判定する方法も含む。
【0062】
特定の実施形態では、本方法は、分析種が診断用試料中に存在するかどうかを判定する方法である。このようなものとして、本方法は、目的とする分析種が存在するか否かについて試料を評価する方法である。アッセイを行う前に試料中に分析種が存在するかどうか不明な場合がある。他に、アッセイを行う前に分析種が所定の閾値量より多い(それを超える)量で試料中に存在するかどうか不明な場合もある。このような場合、本方法は、目的とする分析種が所定の閾値量より多い(それを超える)量で存在するか否か、試料を評価する方法である。
【0063】
診断用試料としては、in vivo供給源(例えば、哺乳動物対象、およびヒト対象等)から得られるものが挙げられ、対象の組織または細胞(例えば、生検材料、組織試料、全血、分画された血液、毛髪、および皮膚等)から得られる試料を挙げることができる。場合により、対象に由来する細胞、流体、または組織は、評価を行う前に培養、貯蔵、または操作され、このような試料は、その結果を使用して生物の疾患(例えば、病気、糖尿病等)または状態(例えば、妊娠)の有無、状況または重症度を判定する場合、診断用試料と見なすことができる。
【0064】
場合により、診断用試料は組織試料(例えば、全血、分画された血液、血漿、血清、および唾液等)であるか、または組織試料(例えば、全血、分画血液、血漿、血清、唾液、皮膚、および毛髪等)から得られるものがある。診断用試料の一例としては、対象に由来する細胞および組織培養物(ならびに、その派生物、例えば、上清および溶解産物等)、組織試料および体液、非細胞試料(例えば、カラム溶離液、タンパク質、脂質、炭水化物、核酸などの無細胞生体分子、合成反応混合物、核酸増幅反応混合物、in vitro生化学反応もしくは酵素反応もしくはアッセイ溶液、または、他のin vitro反応およびin vivo反応の生成物等)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0065】
本発明の対象となる方法は、種々の異なる種類の対象に由来する試料に使用することができる。幾つかの実施形態では、試料は、例えば、肉食目(例えば、イヌおよびネコ)、齧歯目(例えば、マウス、モルモット、およびラット)、ウサギ目(例えば、ウサギ)および霊長目(例えば、ヒト、チンパンジー、およびサル)等を含む哺乳綱に入る対象に由来する。特定の実施形態では、動物またはホスト、即ち、対象はヒトである。
【0066】
キット
本発明の態様はさらにキットを含み、キットは1つ以上のアッセイデバイス、例えば、前述のものを含む。場合により、本キットは、1種以上のアッセイ用成分(例えば、前述のものなどの、標識された試薬、緩衝液等)を含むことができる。場合により、キットはさらに、試料採取デバイス、例えば、全血試料を得るために皮膚を穿刺するように構成されたランセットまたは針、ピペット等を必要に応じて含むことができる。キットの様々なアッセイ用成分は、別々の容器内に存在してもよく、またはそれらの一部もしくは全部が予め混合されて試薬混合物になっていてもよい。例えば、場合により、キットの1つ以上の構成要素、例えば、デバイスは密封袋、例えば、滅菌箔袋または外被内に存在する。
【0067】
上記構成要素の他に、本発明の対象となるキットはさらに、(特定の実施形態では)本発明の対象となる方法を実施するための使用説明書を含んでもよい。これらの使用説明書は、本発明の対象となるキットに種々の形態で存在してもよく、その1つ以上はキット内に存在してもよい。これらの使用説明書が存在し得る形態の1つは、好適な媒体または基材に印刷された情報として、例えば、情報が印刷されている1枚または複数枚の紙として、キットの包装、添付文書等に含まれる。これらの使用説明書のさらに別の形態としては、コンピュータで読み取り可能な媒体、例えば、情報が記録されたディスケット、コンパクトディスク(CD)、およびポータブルフラッシュドライブ等がある。存在し得るこれらの使用説明書のさらに別の形態としては、検索されるサイトの情報にアクセスするためにインターネットを介して使用することができるウェブサイトアドレスがある。
【0068】
以下は、例証として提供され、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0069】
実験
I.細胞表面CD4/Hbアッセイ
図2Aは、CD4およびヘモグロビン(Hb)のアッセイを行うように構成されている本発明の一実施形態によるデバイスの図を提供する。アッセイは、本質的に次のように行われる。指先穿刺量(5〜50μL)の全血を、本発明の毛細管デバイスの試料点着部(図2Aに示す)に添加し、そこで、全血は、アロフィコシアニンまたはフィコエリトリンなどの好適な蛍光標識で標識された、予め添加されている乾燥保存抗ヒトCD4と混合した後、毛細管流路に流入する。添加後、キャップを試料点着部に被せて、試料点着部と毛細管流路の通気口を封止する。毛管流は、毛細管を外部環境から封止するキャップによって妨げられることなく、流路に沿って進む。流動は疎水性連結部で終わる。標識された抗CD4は、表面CD4を有する細胞に結合する。検出は、カートリッジの流路に沿った1つ以上の位置を照射する適切なLEDを使用して行われ、蛍光はカートリッジの頂部を通して画像化することにより測定され、この画像化はCCDカメラ検出器および適切なフィルタを備える低拡大率顕微鏡などの好適な画像化デバイスを使用し、毛細管流路の光透過性の壁を通して行われる。画像処理および解析後に、必要に応じて、流路内の細胞の蛍光強度を定量することができる。ヘモグロビンのアッセイでは、例えば、米国特許第8,483,789号明細書、米国特許第7,952,692号明細書、米国特許第7,319,894号明細書、米国特許第7,303,922号明細書、米国特許第7,271,912号明細書、米国特許第7,096,124号明細書、米国特許第7,075,628号明細書、米国特許第6,862,534号明細書、米国特許第6,831,733号明細書、および米国特許第5,773,301号明細書等に記載されているものなどの、試薬非含有プロトコルを含む任意の好都合なプロトコルを実施することができ、本明細書に記載の試薬非含有Hbアッセイの開示は参照により本明細書に援用される。また、マイクロ流路の端部には固定化された品質管理(QC)試薬ビーズ用の領域が存在してもよく、ビーズには、標識された抗体試薬が結合しているCD4が既知量、コーティングされている。この領域で陽性シグナルが検出されると、試薬と試料が毛細管流路を流通して疎水性連結部に達したこと、従って、アッセイが適切に行われたことが確認される。
【0070】
II.抗gp41アッセイ
アッセイは本質的に次のように行われる。指先穿刺量(5〜50μL)の全血を本発明の毛細管デバイスの試料点着部(図2Bに示す)に添加し、そこで、全血は、予め添加された乾燥保存抗ヒト抗体−アロフィコシアニン(APC)と混合した後、毛細管流路に流入し、毛細管流路には、gp41抗原(一例としてHIVを使用する)でコーティングされた微粒子が流路の頂面に固定化されている。添加後、キャップを試料点着部に被せて、試料点着部と毛細管流路の通気口を封止する。毛管流は、毛細管を外部環境から封止するキャップによって妨げられることなく、流路に沿って進む。流動は疎水性連結部で終わる。試料中に存在する抗gp41抗体は微粒子に結合し、ビーズ−gp41抗gp41抗体/APC抗ヒト抗体複合体が形成される。検出は、カートリッジのビーズが配置されている箇所を照射する赤色LEDを使用して行われ、蛍光は、カートリッジの頂部を通して画像化することにより測定され、この画像化はCCDカメラ検出器および適切なフィルタを備える低拡大率顕微鏡を使用し、毛細管流路の光透過性の壁を通して行われる。画像処理および解析後に、微粒子の蛍光強度を定量する。多重化アッセイでは、異なる疾患に関連する抗原でコーティングされた微粒子が、カートリッジ内の固有の位置に固定されている。マイクロ流路の端部にある固定化された品質管理(QC)試薬ビーズ用の領域も示されており、ビーズは、APC抗ヒト抗体試薬が結合しているヒト抗体でコーティングされている。この領域で陽性シグナルが検出されると、試薬と試料が毛細管流路を流通して疎水性連結部に達したこと、従って、アッセイが適切に行われたことが確認される。
【0071】
添付の請求項にもかかわらず、本開示は以下の付記項によっても定義される。
【0072】
1.液体試料のアッセイを行うように構成されたマイクロ流体デバイスであって、
毛細管流路と連通している試料点着部と、
毛細管流路と連通している通気口と、
通気口と試料点着部とを外部環境から封止するように構成されたキャップ部材であって、試料点着部と通気口とを覆い外部環境から分離するように封止容積を設けるキャップ部材と
を備えるデバイス。
【0073】
2.通気口と毛細管流路との間に通気流路をさらに備える第1項に記載のデバイス。
【0074】
3.試料点着部を包囲する液体バリアをさらに備え、液体バリアが試料点着部と通気口との間に配置されている第1項または第2項に記載のデバイス。
【0075】
4.液体バリアは試料点着部を包囲する隆起縁を含む第3項に記載のデバイス。
【0076】
5.液体バリアは試料点着部を包囲する陥凹部を含む第3項に記載のデバイス。
【0077】
6.キャップ部材はガスケットを備える第1項から第5項のいずれか一項に記載のデバイス。
【0078】
7.毛細管流路は深さ20〜70μmである第1項から第6項のいずれか一項に記載のデバイス。
【0079】
8.液体試料のアッセイを行うように構成されたマイクロ流体デバイスであって、
毛細管流路と連通している試料点着部および疎水性連結部であって、疎水性連結部が液流を妨げるように構成されている、試料点着部および疎水性連結部と、
疎水性連結部と連通している通気口と、
通気口と試料点着部とを外部環境から封止するように構成されたキャップ部材であって、試料点着部と通気口との周囲の共有容積を被覆するキャップ部材と
を備えるデバイス。
【0080】
9.疎水性連結部はマイクロ流体デバイスのヘキサン処理された領域を含む第8項に記載のデバイス。
【0081】
10.液体試料のアッセイを行う方法であって、
液体試料を毛細管流路と流体連通している試料点着部に点着する工程であって、液体試料が毛細管力により毛細管流路を流通する工程と、
通気口を通して毛細管力のための通気を行う工程と、
キャップ部材を用いて液体試料を外部環境から封止する工程であって、キャップ部材で試料点着部と通気口との周囲に共有封止容積を設ける工程と
を含む方法。
【0082】
11.デバイスが試料点着部を包囲する液体バリアをさらに備え、液体バリアが試料点着部と通気口との間に配置されている第10項に記載の方法。
【0083】
12.液体バリアが試料点着部を包囲する隆起縁を含む第11項に記載の方法。
【0084】
13.液体バリアが試料点着部を包囲する陥凹部を含む第11項に記載の方法。
【0085】
14.キャップ部材がガスケットを備える第10項から第13項のいずれか一項に記載の方法。
【0086】
15.毛細管流路の深さが20〜50μmの深さである第10項から第13項のいずれか一項に記載の方法。
【0087】
16.毛細管流路の少なくとも一部を読み取って結果を得る工程をさらに含む第10項から第15項のいずれか一項に記載の方法。
【0088】
17.得られた結果に基づいて診断を行う工程をさらに含む第16項に記載の方法。
【0089】
18.マイクロ流体デバイスを形成する方法であって、
プラスチック材料内の第1の所定の領域をプラズマで処理する工程であって、プラズマ処理により第1の所定の領域の親水性が向上する工程と、
第2の所定の領域を非極性有機溶媒と接触させる工程であって、処理により第2の所定の領域の親水性が低下し、第1の所定の領域と第2の所定の領域とが重なり得る工程と、
第1の所定の領域および第2の所定の領域から毛細管流路および疎水性連結部を形成する工程と
を含む方法。
【0090】
19.プラスチック製のマイクロ流体デバイスがシクロオレフィンポリマーを含有し、有機溶媒が非極性有機溶媒を含む第18項に記載の方法。
【0091】
20.毛細管流路および疎水性連結部を形成する工程が、第1の所定の領域と第2の所定との領域にカバーを取り付けて、毛細管流路および疎水性連結部を形成する工程を含む第18項または第19項に記載の方法。
【0092】
21.有機溶媒が、ヘキサン、ヘプタン、ペンタンおよびクロロホルム、ならびにこれらの組み合わせを含む非極性有機溶媒からなる群から選択される第20項に記載の方法。
【0093】
22.有機溶媒がヘキサンである第21項に記載の方法。
【0094】
23.液体試料のアッセイを行うように構成されたマイクロ流体デバイスであって、
毛細管流路と連通している試料点着部と、
毛細管流路と連通している通気口と、
通気口と試料点着部とを外部環境から封止するように構成されたキャップ部材であって、試料点着部と通気口とを覆い外部環境から分離するように封止容積を設けるキャップ部材と、
デバイス中に存在する一定量の生体試料と
を備えるデバイス。
【0095】
24.生体試料は全血である第23項に記載のデバイス。
【0096】
25.(a)読み取り装置、および
(b)液体試料のアッセイを行うように構成されており、読み取り装置に入れられるマイクロ流体デバイスであって、
毛細管流路と連通している試料点着部と、
毛細管流路と連通している通気口と、
通気口と試料点着部とを外部環境から封止するように構成されたキャップ部材であって、試料点着部と通気口とを覆い外部環境から分離するように封止容積を設けるキャップ部材とを備えるマイクロ流体デバイス
を含むシステム。
【0097】
26.読み取り装置は照射器と検出器とを備える第25項に記載のシステム。
【0098】
27.(a)毛細管流路と連通している試料点着部と、
毛細管流路と連通している通気口と、
通気口と試料点着部とを外部環境から封止するように構成されたキャップ部材であって、試料点着部と通気口とを覆い外部環境から分離するように封止容積を設けるキャップ部材とを備えるマイクロ流体デバイス、および
(b)デバイスを収容する容器
を含むキット。
【0099】
28.容器は袋を含む第27項に記載のキット。
【0100】
明確に理解できるように、前述の本発明を例証および実施例としてある程度詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲の精神または範囲から逸脱することなく、本発明に特定の変更および修正を行い得ることが当業者には本発明の教示に鑑みて容易に明らかとなる。
【0101】
従って、上記は単に本発明の原理を例証するに過ぎない。本明細書に明示的に記載または図示していないが、本発明の原理を具体化し、本発明の精神および範囲に含まれる様々な構成を当業者が考案し得ることが明らかとなる。さらに、本明細書に記載する実施例および条件付きの用語は原則的に、本発明の原理および当該技術分野の促進に本発明者らが寄与する概念を読者が理解することを助けることを目的とし、そのような具体的に記載した実施例および条件に限定されないものと解釈されるべきである。さらに、本発明の原理、態様、および実施形態ならびにその具体例を記載する本明細書の記述は全て、その構造的均等物と機能的均等物の両方を包含するものとする。さらに、このような均等物は、現在知られている均等物と、将来開発される均等物、即ち、構造にかかわらず、同じ機能を果たす任意の開発される要素の両方を含むものとする。従って、本発明の範囲は、本明細書に図示および記載されている例示的な実施形態に限定されるものではない。むしろ、本発明の範囲および精神は添付の特許請求の範囲によって具体化される。
【0102】
米国特許法第119(e)条に従い、本願は、2013年1月11日に出願された米国仮特許出願第61/751,679号明細書の出願日の優先権を主張し、その開示は参照により本明細書に援用される。
図1
図2A
図2B