特許第6296458号(P6296458)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6296458
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】内燃機関用点火装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 3/055 20060101AFI20180312BHJP
【FI】
   F02P3/055 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-31617(P2016-31617)
(22)【出願日】2016年2月23日
(65)【公開番号】特開2017-150345(P2017-150345A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2017年12月7日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000174426
【氏名又は名称】日立オートモティブシステムズ阪神株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100095061
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 恭介
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(72)【発明者】
【氏名】柴田 浩至
【審査官】 小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−082744(JP,A)
【文献】 特開2011−196281(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/162802(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 1/00− 3/12、 7/00−17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次側コイルに流れる一次電流が遮断されたとき二次側コイルに二次電圧を発生する点火コイルと、
外部接続された制御手段からの点火信号に応じて、電源から前記一次側コイルに流れる前記一次電流の通電ならびに遮断を行って前記二次電圧を発生させるスイッチ部と、
前記点火信号が示す通電時間の長さを検知する通電検知部と、
前記通電検知部の出力電圧に応じて前記スイッチ部を制御し前記一次電流の通電を停止させる通電停止部と、
を備え、
前記通電検知部は、
前記点火信号が示す通電時間に電荷を蓄積する充電回路と、前記蓄積した電荷を前記点火信号が示す遮断時間に放出する放電回路と、を備え、
前記放電回路は、前記充電回路が有する充電時の時定数よりも小さい放電時の時定数を有し、
前記蓄積した電荷が所定量を超えたとき前記通電停止部を稼動させる、
ことを特徴とする内燃機関用点火装置。
【請求項2】
前記充電回路は、
前記電荷を蓄積するコンデンサと、該コンデンサに直列接続された充電抵抗と、を有し、
前記放電回路は、
前記充電抵抗と前記コンデンサとの接続点にアノードが接続されたバイパスダイオードと、該バイパスダイオードのカソードに接続された放電抵抗と、を有し、
前記通電検知部は、
前記点火信号のレベルに応じて、前記充電抵抗を介して前記コンデンサに充電電流を流し、前記コンデンサから前記バイパスダイオードおよび前記放電抵抗を介して放電電流を流し、
前記通電停止部は、
前記コンデンサと前記充電抵抗との接続点に生じる前記通電検知部の出力電圧が所定値以上になったとき前記一次電流の通電を停止させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項3】
前記充電回路は、
前記点火信号が前記通電時間を示すハイレベルのとき前記充電電流を前記コンデンサに流し、
前記放電回路は、
前記点火信号が前記遮断時間を示すローレベルのとき前記放電電流を前記放電抵抗を介して前記制御手段または該内燃機関の接地電位の部位に流す、
ことを特徴とする請求項2に記載の内燃機関用点火装置。
【請求項4】
前記コンデンサと前記充電抵抗との充電時の時定数を1としたとき、前記コンデンサと前記放電抵抗との放電時の時定数が0.02以下となるように前記充電抵抗、前記放電抵抗および前記コンデンサの値を設定した、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の内燃機関用点火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関用点火コイルに備える点火装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特に、自動車等に搭載される内燃機関は頻繁に回転数が変化することから、点火行程で高電圧を発生する点火コイルも当該高電圧の発生間隔等を頻繁に変化させている。
そのため、この点火コイルに備えられている点火装置(イグナイタ)等の発熱も増減を繰り返し、当該点火装置を構成する回路素子などの損傷、もしくは劣化を早める可能性があり、点火動作についても誤動作を生じる可能性がある。
そこで、上記の発熱等による障害発生を防ぐため、点火装置内に電流制御回路や過熱検知回路を備えたものがある。
【0003】
上記の点火装置は、エンジンコントロールユニット(以下、ECUと記載する)からの点火信号に応じて動作するカウンタを備え、このカウンタを用いて所定時間以上の通電を検出するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
上記の長時間通電を検出する回路は、抵抗ならびにコンデンサを使用したCR回路によって構成されている。このようなCR回路は、時定数を有することから、内燃機関の運転状態、もしくは燃焼状態に応じて点火プラグに火花放電を長時間または複数回発生させるようにした場合には、当該点火装置の回路動作が対応できなくなる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−118855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内燃機関の燃焼状態を向上させるため、ECUから出力される高周波マルチ点火信号や多重点火信号に対して点火装置が追従して動作し、点火コイルに複数回あるいは所定期間継続する高電圧を発生させる既存技術がある。
前述のCR回路によって構成された長時間通電検知回路を点火装置に備えると、この回路の時定数が影響し、例えば、パルス信号の有意を示す信号レベルが短期間に複数回生じた場合や、長時間継続したときには正常な回路動作を行うことが難しくなる。
【0006】
詳しくは、CR回路を使用して前述の長時間通電検知回路を構成した場合、ECUから高周波マルチ点火信号や多重点火信号を入力すると、この信号電圧によってCR回路内のコンデンサに電荷が蓄積される。
よって、高周波マルチ点火信号や多重点火信号が、長時間通電検知回路等を備えた点火装置へ入力されると、上記の検知回路等が誤動作し、例えばセルフシャットオフ機能が稼動するという問題点がある。
これは、上記CR回路を構成するコンデンサの充電時間と放電時間の回路定数もしくは時定数が同一であるために発生する事象である。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みなされたもので、高周波マルチ点火や多重点火を行うための点火信号に対応して正常に動作すると共に、長時間の通電等による損傷を防ぐ内燃機関用点火装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る内燃機関用点火装置は、一次側コイルに流れる一次電流が遮断されたとき二次側コイルに二次電圧を発生する点火コイルと、外部接続された制御手段からの点火信号に応じて、電源から前記一次側コイルに流れる前記一次電流の通電ならびに遮断を行って前記二次電圧を発生させるスイッチ部と、前記点火信号が示す通電時間の長さを検知する通電検知部と、前記通電検知部の出力電圧に応じて前記スイッチ部を制御し前記一次電流の通電を停止させる通電停止部とを備え、前記通電検知部は、前記点火信号が示す通電時間に電荷を蓄積する充電回路と、前記蓄積した電荷を前記点火信号が示す遮断時間に放出する放電回路とを備え、前記放電回路は、前記充電回路が有する充電時の時定数よりも小さい放電時の時定数を有し、前記蓄積した電荷が所定量を超えたとき前記通電停止部を稼動させることを特徴とする。
【0009】
また、前記充電回路は、前記電荷を蓄積するコンデンサと、該コンデンサに直列接続された充電抵抗とを有し、前記放電回路は、前記充電抵抗と前記コンデンサとの接続点にアノードが接続されたバイパスダイオードと、該バイパスダイオードのカソードに接続された放電抵抗とを有し、前記通電検知部は、前記点火信号のレベルに応じて、前記充電抵抗を介して前記コンデンサに充電電流を流し、前記コンデンサから前記バイパスダイオードおよび前記放電抵抗を介して放電電流を流し、前記通電停止部は、前記コンデンサと前記充電抵抗との接続点に生じる前記通電検知部の出力電圧が所定値以上になったとき前記一次電流の通電を停止させることを特徴とする。
【0010】
また、前記充電回路は、前記点火信号が前記通電時間を示すハイレベルのとき前記充電電流を前記コンデンサに流し、前記放電回路は、前記点火信号が前記遮断時間を示すローレベルのとき前記放電電流を前記放電抵抗を介して前記制御手段または該内燃機関の接地電位の部位に流すことを特徴とする。
【0011】
また、前記コンデンサと前記充電抵抗との充電時の時定数を1としたとき、前記コンデンサと前記放電抵抗との放電時の時定数が0.02以下となるように前記充電抵抗、前記放電抵抗および前記コンデンサの値を設定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、点火コイルもしくは点火装置の発熱による損傷を防ぐとともに、ECU等から入力した高周波マルチ点火信号や多重点火信号に対応して動作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】この発明の実施例1による内燃機関用点火装置の概略構成を示す回路図である。
図2図1の内燃機関用点火装置の動作を示す説明図である。
図3】バイパスダイオードを備えていない内燃機関用点火装置の動作を示す説明図である。
図4】実施例2による内燃機関用点火装置の概略構成を示す回路図である。
図5】実施例3による内燃機関用点火装置の概略構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の一形態を図に基いて説明する。
(実施例1)
図1は、この発明の実施例1による内燃機関用点火装置の概略構成を示す回路図である。図示した点火装置1は、定電圧回路11、タイマ回路12、セルフシャットオフ回路15、スイッチ素子7を備えている。スイッチ素子7には、例えばIGBTが用いられる。
定電圧回路11は、入力端にバッテリ5の高電位側電極が接続されており、当該バッテリ5から供給された直流電圧を所定の直流電圧に変換して出力するように構成されている。この定電圧回路11の出力端は、セルフシャットオフ回路15に接続されている。
【0015】
また、前述のバッテリ5の高電位側電極は、点火コイル6の一次側コイル61の一端に接続されている。一次側コイル61の他端は、スイッチ素子7のコレクタ(スイッチ接点)に接続されている。なお、スイッチ素子7のエミッタは接地接続されている。
スイッチ素子7のゲート(制御端子)は、抵抗16を介してセルフシャットオフ回路15の出力端に接続されており、外部から点火装置1に入力した点火信号を、上記のセルフシャットオフ回路15を介して入力するように回路接続されている。また、スイッチ素子7のゲートには、当該スイッチ素子7を保護する抵抗17が接続されている。バッテリ5の低電位側電極は、接地接続されている。
点火コイル6の二次側コイル62は、一端を点火プラグ8の頭部(中心)電極に接続し、他端を点火プラグ8の外側電極と同様に接地接続している。
【0016】
タイマ回路12は、例えば抵抗12a(充電抵抗)とコンデンサ12bとを直列接続させたものであり、抵抗12aの一端を、外部(ECU等)からの点火信号の入力点に接続し、コンデンサ12bの一端を接地接続させている。抵抗12aの一端、即ち、当該点火装置1の点火信号の入力点には、抵抗13(放電抵抗)の一端が接続されており、当該抵抗13の他端は、セルフシャットオフ回路15の入力端と、バイパスダイオード14のカソードに接続されている。なお、コンデンサ12bの他端は接地接続されている。
【0017】
抵抗12aとコンデンサ12bとの接続点は、バイパスダイオード14のアノードに接続され、さらにセルフシャットオフ回路15を構成するコンパレータ151の入力端子(正入力端子)に接続されている。なお、コンパレータ151の反転入力端子には、定電圧回路11の出力電圧を抵抗15aおよび抵抗15bによって調整した電圧Vrefが入力されている。また、コンパレータ151の出力信号をトランジスタ153の制御端子(例えばベース)に供給するように、抵抗等を介してトランジスタ153のベースと、コンパレータ151の出力端子が接続されている。
【0018】
次に動作について説明する。
図2は、図1の内燃機関用点火装置の動作を示す説明図である。この図は、最上段に外部から入力した点火信号、その下段にセルフシャットオフ回路15を構成するコンパレータ151の出力電圧(出力信号)、その下段にコンデンサ12bの充電電圧、その下段にセルフシャットオフ回路15の動作状態、最下段に点火コイル6(一次側コイル61)に流れる一次電流を示したタイミングチャートである。
なお、ここで例示する点火信号は、ハイレベルとなっている期間が一次電流を通電する通電時間を示し、ローレベルとなっている期間が一次電流を遮断する遮断時間を示すものである。
【0019】
点火装置1の入力端に、電圧レベルが経時変化する点火信号を入力すると、タイマ回路12のコンデンサ12bは、この点火信号の電圧レベル変化に対応して充放電を繰り返す。
セルフシャットオフ回路15のコンパレータ151は、上記のように充放電を繰り返すコンデンサ12bの両端電圧と、定電圧回路11の出力電圧から生成された電圧Vrefとを比較し、コンデンサ12bの両端電圧が電圧Vrefを上回らない限り、トランジスタ153をオン状態とし、スイッチ素子7のゲートに各抵抗を介してプルアップ電圧を印加する。このプルアップ電圧を印加しているとき、セルフシャットオフ回路15は機能(図2等に示したセルフシャットオフ機能)がオフ状態であり、コンパレータ152を介してスイッチ素子7のゲートへ点火信号(スイッチ素子7を制御可能なレベルの点火信号)が入力される。
【0020】
セルフシャットオフ機能がオフ状態のとき、外部から入力した点火信号が有意を示す例えばハイレベルになると、コンパレータ152の出力信号等によってスイッチ素子7がオン状態に遷移し、一次側コイル61に一次電流が流れる。
この後、点火信号がローレベルに遷移すると、スイッチ素子7は点火信号に追従して急峻にオフ状態に遷移し、上記の一次電流を遮断する。一次電流が急峻に遮断されると、二次側コイル62に高電圧(二次電圧)が励起し、この高電圧が印加された点火プラグ8に火花放電が発生して内燃機関の点火行程が実施される。
【0021】
ここで、コンデンサ12bに供給される点火信号は、抵抗12aによって適当な電圧レベルに制限されたもの、もしくは適当な大きさの充電電流となるように調整されたものである。コンデンサ12bは、ECU等の制御手段から出力された点火信号がハイレベルのとき、前述のように抵抗12aによって制限された充電電流が流れて電荷を蓄積する。
また、当該点火信号がローレベルのとき、蓄積した電荷を放電して(図1に示した点火装置1では、後述するようにバイパスダイオード14および抵抗13を介して放電し)ECU等の接地電位部分(GND部分)に吸収させる。
【0022】
上記のように点火信号のレベル遷移に応じてコンデンサ12bが充放電を繰り返しているとき、点火信号が所定期間よりも長くハイレベルを維持すると(異常な点火信号が入力されると)、コンデンサ12bに蓄積された電荷が過多になり、当該コンデンサ12bの両端電圧が電圧Vrefを超えてしまう。すると、コンパレータ151から有意を示す信号がトランジスタ153へ出力される。例えばコンパレータ151の出力信号が、ローレベルから有意を示すハイレベルへ遷移すると、トランジスタ153がオフ状態になって前述のプルアップ電圧が印加されなくなる。
【0023】
プルアップ電圧の印加が停止すると、スイッチ素子7の制御端子電圧(図1に例示した回路ではゲート電圧)が降下し、スイッチ素子7も点火信号レベルに応じることなくオフ状態になり、一次側コイル61に流れていた一次電流が停止する。
即ち、セルフシャットオフ回路15の機能がオン状態になって当該点火装置1、点火コイル6および点火プラグ8による点火動作を停止させ、点火装置1や点火コイル6などが過剰に温度上昇することを防いでいる。
【0024】
ここで、内燃機関には、点火や燃焼が難しくなる高EGRや希薄混合気などによる運転を行うことがあり、例えば加速時などに燃焼効率等を高めるため、内燃機関の運転状態等に応じて高周波マルチ点火や多重点火を行うものがある。
このような点火動作を行うときには、通常の点火信号に比べて短い周期で有意のハイレベル(通電時間)を繰り返す高周波マルチ点火信号や、一次電流の通電時間が長くなる多重点火信号がECU等から出力される。具体的には、1回の点火行程において、通常の点火信号に比べて高周波マルチ点火信号および多重点火信号等は、ローレベルとなっている期間が短くなり、コンデンサ12bの放電時間が短くなる。
【0025】
図3は、抵抗13およびバイパスダイオード14を備えていない内燃機関用点火装置の動作を示す説明図である。この図は、図1の点火装置1と概ね同様な回路構成でバイパスダイオード14等を備えていない点火装置の動作に関するもので、図2と同様なタイミングチャートである。
前述のように、コンデンサ12bは、抵抗12aを介して点火装置1の入力端に接続されており、抵抗13およびバイパスダイオード14を備えていない場合には、コンデンサ12bの充電電流の経路と放電電流の経路が同一になり、即ち充電回路と放電回路のどちらも抵抗12aを含むものとなる。即ち、コンデンサ12bの充電動作と放電動作には、同一の時定数が影響する。
【0026】
このような回路に、通常の点火信号に比べてローレベルの期間(遮断時間)が短い点火信号(高周波マルチ点火信号や多重点火信号)が入力されると、コンデンサ12bは、当該点火信号がハイレベルとなっている期間(通電時間)に蓄積した電荷を十分に放電することができなくなる。
そして、点火信号のレベル遷移に応じて充放電を繰り返す度に、蓄積している電荷が増大して当該コンデンサ12bの両端電圧(図3の「充電電圧」)が上昇する。
充放電を繰り返すうちにコンデンサ12bの両端電圧が電圧Vrefを超えると、前述のようにセルフシャットオフ回路15が稼動し(オン状態になり)、コンパレータ151の出力信号によってプルアップ電圧の印加が遮断され、スイッチ素子7のスイッチ動作が停止して点火コイル6に一次電流が流れなくなる。
【0027】
本発明による点火装置1は、前述のローレベル期間が短い点火信号を用いて点火動作を制御する場合、異常な点火信号を入力したときと同様にセルフカットオフ回路15が稼動することがないように、バイパスダイオード14および抵抗13を備えている。
ECU等から点火装置1へ入力されている点火信号が、ハイレベルとなっている期間にはECU等から抵抗12aを介してコンデンサ12bへ充電電流が流れる、上記の点火信号がローレベルへ遷移すると、上記の充電電流によって両端電圧が上昇したコンデンサ12bから放電電流が流れる。
【0028】
この放電電流は、高電位となっているコンデンサ12bの一端からバイパスダイオード14を順方向に流れ、抵抗13を介して点火信号がローレベルとなっている(低電位となっている)ECU等へ向かって流れ、当該ECU等の接地電位部分に吸収される。
即ち、充電電流は抵抗12aを流れ、放電電流はバイパスダイオード14を介して抵抗13を流れることになり、点火装置1はコンデンサ12bの充電電流回路と放電電流回路を各々分けて備えている。
【0029】
例えば、高周波マルチ点火信号や多重点火信号のように、1回の点火行程における通電時間(点火信号のハイレベル期間)が長くなり、これに対して遮断時間(点火信号のローレベル期間)が短くなる点火信号に基いて点火動作を制御する場合には、抵抗12aとコンデンサ12bとの時定数を「1」としたとき、例えば、抵抗13とコンデンサ12bとの時定数が「0.02以下」となるように、各素子の値を設定する。
このように、充電回路の時定数と放電回路の時定数とを異なる大きさに設定し、具体的には抵抗12aよりも抵抗13の抵抗値を小さく設定して点火信号がローレベルの期間にコンデンサ12bから電荷を十分放出することができるように回路構成する。
なお、コンデンサ12bは、正常な点火信号が入力されているときに、当該点火信号がハイレベルを維持している期間(通電時間)中は、抵抗12aを介した充電電流によって電荷の蓄積を継続する(充電状態を維持する)ことが可能な容量を有するものである。
【0030】
また、点火装置1は、ハイレベルが所定時間よりも長く継続する異常な点火信号を入力した場合には、前述のようにタイマ回路12のコンデンサ12bに電荷が蓄積され、両端電圧が電圧Vrefを超える。
このとき、ハイレベルの点火信号が入力されているため、バイパスダイオード14のカソード側は、アノード側よりも高電位となっており、バイパスダイオード14を介してコンデンサ12bからECU側へ電荷が放出される(放電電流が流れる)ことはない。
【0031】
ここまで説明したように、タイマ回路12に備えられたコンデンサ12bの充放電動作について、点火信号が示す通電時間に対応した時定数と、遮断時間に対応した時定数とを個別に設定すると、例えば、図2に示した期間Aにおいて、急峻に変動するサージ電圧が点火信号に印加された場合でも、期間Bに示したようにサージ変動に追従することなく、一次電流の通電と遮断を正常に行うことが可能になり、スイッチ素子7のスイッチ動作に障害が生じることを防ぐことができる。換言すると、正常な点火信号の態様に緻密に対応させることが可能になり、急峻な変動に影響されず、なおかつ異常に長い通電を検知して点火装置1等の保護を図ることができる。
【0032】
(実施例2)
図4は、実施例2による内燃機関用点火装置の概略構成を示す回路図である。ここでは実施例1で説明した点火装置1と同様あるいは相当する部分に同じ符号を使用して説明する。また、点火信号1と同様に接続構成された部分については重複説明を省略する。
点火装置2は、バッテリ5、点火コイル6、スイッチ素子7、点火プラグ8を点火装置1と同様に接続して構成されている。なお、スイッチ素子7の制御端子(ゲート端子)には、抵抗26の一端が接続されている。抵抗26の他端は、抵抗27の一端、ダイオード25bのカソードおよびコンデンサ25eの一端に接続されている。また、抵抗27の他端およびコンデンサ25eの他端は接地接続されている。
【0033】
タイマ回路22は、図1に示したタイマ回路12と同様に直列接続された抵抗12a(充電抵抗)とコンデンサ12b(図示省略)によって構成されており、抵抗12aとコンデンサ12bとの接続点にはバイパスダイオード24のアノードとトランジスタ25dの制御端子(ベース端子)が接続されている。このタイマ回路22の入力端、即ち抵抗12aの一端は、外部接続されるECU等から点火信号を入力するように接続構成されている。また、タイマ回路22の入力端には抵抗23(放電抵抗)の一端が接続されており、当該抵抗23の他端は、バイパスダイオード24のカソード、ダイオード25bのアノード、抵抗25cの一端が接続されている。
【0034】
抵抗25cの他端は、トランジスタ25dのコレクタに接続されている。トランジスタ25dは、例えばNPN型のバイポーラトランジスタであり、エミッタ接地されている。
また、ダイオード25bのアノードと抵抗25cとの接続点よりもバイパスダイオード24のカソードに寄せてダイオード25aのカソードが接続され、ダイオード25bのカソードとコンデンサ25eとの接続点よりも抵抗27と抵抗26の接続点に寄せてダイオード25aのアノードが接続されている。
【0035】
次に動作について説明する。
点火装置2は、通常の点火信号、高周波マルチ点火信号、多重点火信号などの正常な点火信号が入力されているとき、当該点火信号がハイレベルとなっている期間(通電時間)に、タイマ回路22の抵抗12aを介してコンデンサ12bに充電電流が流れ、当該コンデンサ12bに電荷を蓄積する。
コンデンサ12bが充電状態の期間は、抵抗12aとコンデンサ12bの接続点から電流出力がないことから、トランジスタ25dのベースに電流が流れない。そのため、当該トランジスタ25dはオフ状態を維持する。
このとき、外部から入力した点火信号は、抵抗23、ダイオード25b、および、抵抗26を介してスイッチ素子7の制御端子(ゲート端子)へ入力され、当該スイッチ素子7は点火信号に応じてオン状態とオフ状態を繰り返す。
【0036】
外部接続されたECU等からの点火信号ハイレベルになると、スイッチ素子7がオン状態となり、このレベルを維持している間、実施例1で説明したように一次側コイル61に一次電流が流れる。
次に、上記の点火信号がローレベルに遷移すると、電荷を蓄積したコンデンサ12bから放電電流が流れる。この放電電流は、ダイオード24を順方向に流れ、さらに低電位となっているECU側へ抵抗23を介して流れて当該ECU等の接地電位の部分に吸収される。
このとき、スイッチ素子7の制御端子も低電位に遷移し、当該スイッチ素子7はオフ状態に遷移して一次電流を遮断する。
一次電流が遮断されることによって、二次側コイル62に高電圧が発生し、点火プラグ8に放電火花が発生する。
【0037】
このように、外部から正常な点火信号が入力されているときには、当該点火信号がハイレベルになっている期間にタイマ回路22のコンデンサ12bに、抵抗12aを介して充電電流が流れ、当該点火信号がローレベルに遷移すると、当該ローレベルになっている期間にコンデンサ12bから電荷が放出され、ダイオード24および抵抗23を介して放電電流が流れる。
点火装置2は、正常な点火信号を入力したときには、上記のように動作するものであり、実施例1で説明したものと同様に、抵抗12aとコンデンサ12bとの時定数と、抵抗23とコンデンサ12bとの時定数が異なる値となるように定め、通常の点火信号、高周波マルチ点火信号、多重点火信号等に対応して正常か否かを識別可能に回路構成されたものである。具体的には、例えば、抵抗12aとコンデンサ12bとの時定数を「1」としたとき、抵抗23とコンデンサ12bとの時定数が「0.02以下」となるように、各素子の値を設定する。
【0038】
また、点火装置2は、ハイレベルが所定時間よりも長く継続する異常な点火信号を入力した場合には、タイマ回路22のコンデンサ12bに任意の量以上の電荷が蓄積され、コンデンサ12bとバイパスダイオード24のアノードとの接続点が高電位になる(コンデンサ12bの両端電圧が所定値よりも高い電圧になる)。
このときバイパスダイオード24のカソード側は、ハイレベルの点火信号が入力されているため高電位となり、バイパスダイオード24は順方向に電流が流れない状態となっている。即ち、バイパスダイオード24を介してコンデンサ12bからECU側へ電荷が放出されることはない(放電電流は流れない)。
【0039】
また、このとき電荷を蓄積しているコンデンサ12bとバイパスダイオード24との接続点は高電位となっていることから、当該接続点、即ちタイマ回路22の出力端からトランジスタ25dにベース電流が流れ、当該トランジスタ25dがオン状態になる。
そのため、点火装置2に入力されたハイレベルの点火信号は、抵抗25cおよびトランジスタ25dを介して接地側へ吸収され、スイッチ素子7のゲート電圧は低下する。このとき、コンデンサ25e、ダイオード25a,25b、抵抗27等によって上記のゲート電圧は緩やかに下降し、スイッチ素子7に流れていた一次電流は緩やかに減少する。即ち、このときには二次側コイル62に高電圧を発生させない。
【0040】
(実施例3)
図5は、実施例3による内燃機関用点火装置の概略構成を示す回路図である。ここでは実施例1で説明した点火装置1と同様あるいは相当する部分に同じ符号を使用して説明する。また、点火装置1等と同様に接続構成された部分については重複説明を省略する。
点火装置3は、バッテリ5、点火コイル6、スイッチ素子7、点火プラグ8を点火装置1と同様に接続して構成されている。なお、スイッチ素子7の制御端子(ゲート端子)には、抵抗36の一端および抵抗37の一端が接続されている。抵抗36の他端は、セルフシャットオフ回路35の出力端に接続されている。また、抵抗37の他端は接地接続されている。
定電圧回路35は、バッテリ5の電源電力を用いて所定電圧を出力するもので、例えば、実施例1で説明した定電圧回路11と同様な直流電圧を生成する。
【0041】
タイマ回路32は、例えば、点火装置3に外部接続されたECU等からの点火信号のレベル遷移に応じて充放電を繰り返すように構成されており、実施例1で説明したタイマ回路12と同様に、抵抗12aとコンデンサ12bを直列接続(図示省略)させたものである。タイマ回路32の出力端(抵抗12aとコンデンサ12bの接続点)は、バイパスダイオード34のアノードおよびセルフシャットオフ回路35の入力端(抵抗を介してトランジスタ351のベース)に接続されている。
外部から点火信号が入力される点火装置3の入力端は、タイマ回路32の入力端(抵抗12aの一端)と抵抗33の一端の接続点であり、抵抗33の他端はバイパスダイオード34のカソードおよびコンパレータ43の正入力端子に接続されている。
【0042】
コンパレータ43の反転入力端子には、抵抗41および抵抗42の一端が接続されており、これら抵抗によって調整された電圧Vrefが入力されるように回路構成されている。なお、抵抗41の他端は定電圧回路31の出力電圧が供給されるように回路接続されており、抵抗42の他端は接地接続されている。
コンパレータ43の出力端子には、セルフシャットオフ回路35が接続されており、図5に例示した回路では、当該コンパレータ43の出力端子を抵抗36の他端に接続し、この接続点にセルフシャットオフ回路35がプルアップ電圧を印加するように構成されている。
【0043】
セルフシャットオフ回路35は、トランジスタ351、コンデンサならびに複数の抵抗によって構成されている。トランジスタ351は、例えばPNP型バイポーラトランジスタであり、エミッタに定電圧回路31の出力電圧が供給され、コレクタは抵抗等を介してコンパレータ43の出力端子と抵抗36との接続点に接続されている。
トランジスタ351のベースは、抵抗を介してタイマ回路32の出力端(抵抗12aとコンデンサ12bの接続点)に接続され、このタイマ回路32の出力信号に応じてベース電流が流れるように回路接続されている。
【0044】
次に動作について説明する。
点火装置3は、通常の点火信号、高周波マルチ点火信号、多重点火信号などの正常な点火信号が入力されているとき、前述の点火装置1と同様に、当該点火信号のハイレベル期間(通電時間)に、タイマ回路32の抵抗12a(充電抵抗)を介してコンデンサ12bに充電電流が流れ、当該コンデンサ12bに電荷を蓄積する。
また、点火信号のローレベル期間(遮断時間)に、コンデンサ12bからバイパスダイオード34および抵抗33(放電抵抗)を介して放電電流が流れ、当該コンデンサ12bに蓄積されていた電荷が放出される。
【0045】
ここで、セルフシャットオフ回路35のトランジスタ351は、ベースに接続されている複数の抵抗によって所定のバイアス電圧が印加されている。
上記のように、点火信号の信号レベルに応じてコンデンサ12bの充電ならびに放電が繰り返され、この充放電を繰り返しているときに当該コンデンサ12bの両端電圧、即ちタイマ回路32の出力端の電圧がトランジスタ351のベース電圧よりも低いときには、当該トランジスタ351のベース電流が流れる。
ベース電流が流れているトランジスタ351は、エミッタに定電圧回路31の出力電圧が供給されていることから、コレクタに接続された抵抗等を介してコンパレータ43の出力端子にプルアップ電圧を印加する。
換言すると、コンデンサ12bに所定量以上の電荷が蓄積されない限り、コンパレータ43の出力端子にはプルアップ電圧が印加されている。
【0046】
コンパレータの反転入力端子には、前述のように電圧Vrefが入力されており、正入力端子には、外部(ECU等)から抵抗33を介して点火信号が入力されている。
コンパレータ43は、抵抗33を介して入力した点火信号がハイレベルとなって電圧Vrefを超えたとき、有意(通電時間)を示す所定電圧の出力信号を出力する。即ち、レベル変換された点火信号を出力する。
コンパレータ43から出力された点火信号は、抵抗36を介してスイッチ素子7の制御端子(ゲート端子)に入力される。コンパレータ43の出力端子と抵抗36の接続点には、セルフシャットオフ回路35の出力端が接続されている。この出力端から前述のプルアップ電圧が供給されることにより、コンパレータ43から出力された点火信号は、スイッチ素子7のスイッチ動作を駆動可能な信号レベルとなって、当該スイッチ素子7へ入力される。この点火信号を入力したスイッチ素子7は、実施例1で説明したものと同様にオン状態とオフ状態を繰り返し、一次電流の通電と遮断を行って点火コイル6に高電圧を発生させる。
【0047】
通電時間を示すハイレベルを、所定時間以上継続する異常な点火信号が外部から入力されると、コンデンサ12bに蓄積されている電荷が所定量以上に増大し、タイマ回路32の出力端の電位(コンデンサ12bの両端電圧)が高くなる。
このとき、抵抗33に入力している点火信号はハイレベルであるため、コンデンサ12bに蓄積されている電荷がいずれかの接地部位に吸収されず、即ち抵抗33に放電電流が流れずにコンデンサ12bの両端電圧が上昇する。コンデンサ12bから放電電流が流れないことから、タイマ回路32の出力端の電位はさらに高くなり、トランジスタ351のベースに供給されているバイアス電圧を上回り、当該トランジスタ351のベース電流が流れなくなる。
【0048】
上記のようにトランジスタ351のベース電流が流れなくなると、セルフシャットオフ回路35はプルアップ電圧の出力を停止し、スイッチ素子7の制御端子に入力される点火信号は、当該スイッチ素子7を駆動可能なレベル未満になる。
点火装置3は、プルアップ電圧の供給が停止すると、スイッチ素子7の制御端子に入力される電圧が低下し、当該スイッチ素子7はオフ状態になり、一次側コイル61に一次電流が流れないように電流経路を遮断する。なお、この一次電流を遮断するときには、二次側コイル62に高電圧が発生しないように、スイッチ素子7を導通状態から緩やかに遮断状態に遷移させ、一次電流を急峻に減少させないようにする。
【0049】
点火装置3は、上記のタイマ回路32に備えられたコンデンサ12bの充放電を、点火信号の電圧レベルに対応させて繰り返すことにより、当該点火信号の異常を検出するように構成されている。
また、前述の点火装置1および点火装置2と同様に、コンデンサ12bの充電回路と放電回路を別途設けており、充電回路の時定数と放電回路の時定数を異なる値に設定する。
なお、点火装置3においても、具体的には、例えば、抵抗12aとコンデンサ12bとの時定数を「1」としたとき、抵抗33とコンデンサ12bとの時定数が「0.02以下」となるように、各素子の値を設定する。
このように充電回路の時定数と放電回路の時定数を設定することによって、通常の点火信号、また、1回の点火行程において通常の点火信号よりも通電時間が長くなる高周波マルチ点火信号や多重点火信号についても、正常な点火信号と異常な点火信号(通電時間が所定時間よりも長くなるもの)とを識別できるようにしている。
【符号の説明】
【0050】
1,2,3点火装置
5バッテリ
6点火コイル
7スイッチ素子
8点火プラグ
11,31定電圧回路
12,22,32タイマ回路
12a,13,16,17抵抗
12bコンデンサ
14,24,34バイパスダイオード
15,35セルフシャットオフ回路
15a,15b抵抗
23,25c,26,27抵抗
25a,25bダイオード
25dトランジスタ
25eコンデンサ
33,36,37,41,42抵抗
43コンパレータ
61一次側コイル
62二次側コイル
151,152コンパレータ
153,351トランジスタ
図1
図2
図3
図4
図5