特許第6296588号(P6296588)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6296588ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体パルプの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6296588
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体パルプの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 13/26 20060101AFI20180312BHJP
   D21D 1/00 20060101ALI20180312BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20180312BHJP
   D06M 13/17 20060101ALI20180312BHJP
   D06M 101/36 20060101ALN20180312BHJP
【FI】
   D21H13/26
   D21D1/00
   D06M15/55
   D06M13/17
   D06M101:36
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-67885(P2013-67885)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-189926(P2014-189926A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年3月10日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】横川 重宏
(72)【発明者】
【氏名】葛巻 英津子
(72)【発明者】
【氏名】久木野 敏
(72)【発明者】
【氏名】宮内 理治
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−335972(JP,A)
【文献】 特開平11−181679(JP,A)
【文献】 特開2012−207326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00−1/38
D21C 1/00−11/14
D21D 1/00−99/00
D21F 1/00−13/12
D21H 11/00−27/42
D21J 1/00−7/00
D06M 13/00−15/715
D01F 1/00−6/96
9/00−9/04
B29B 11/16
15/08−15/14
C08J 5/04−5/10
5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分率15〜200重量%に調整されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内に、硬化性エポキシ化合物および必要に応じて硬化剤(ただし、同一分子中にイミダゾール基とアルコキシシリル基とを有するイミダゾールシラン系化合物を含まない。)を浸透・含浸させてなる繊維を切断して短繊維とし、該短繊維を機械加工によりフィブリル化することを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体パルプの製造方法。
【請求項2】
請求項に記載の水分率15〜200重量%に調整されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内に、さらに下記一般式(I)で表される相溶化剤を、前記硬化性エポキシ化合物との合計量として0.1重量%以上10.0重量%以下浸透・含浸させてなる繊維を切断して短繊維とし、該短繊維を機械加工によりフィブリル化することを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体パルプの製造方法。
(化1)
−O−(AO)n−R ・・・・・(I)
(式中、R は炭素原子数1〜10のアルキル基、または炭素原子数1〜10のアルケニル基であり、Rは水素原子、または炭素原子数1〜5のアルキル基または炭素原子数1〜5のアルケニル基を示す。また、Aは炭素原子数2〜4のアルキレン基を、nはオキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数を表す1〜10の整数である。なお、−(AO)−においては、同一のオキシアルキレン基が付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していてもよい。)
【請求項3】
硬化性エポキシ化合物が、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルから選ばれる1種類または、2種類以上の混合物である、請求項またはに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体パルプの製造方法。
【請求項4】
硬化性エポキシ化合物が未硬化の状態で含有される、請求項のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体パルプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、PPTAと略称する。)繊維複合体パルプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PPTAパルプは、PPTA繊維をフィブリル化した約1〜3mm長さの粒子であり、市販のTwaron(商品名;テイジンアラミドBV社製)、Kevlar(商品名;Du Pont社製)などが知られている。
【0003】
PPTAパルプの主要な用途は、当該パルプを水中に分散させた後に抄紙し、乾燥した紙にフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させ、加熱・加圧成形することで製造される摩擦材や絶縁材である。
【0004】
例えば、自動車用自動変速機の湿式多板クラッチでは、摩擦材中の気孔部に保持された潤滑油の浸み出しによって潤滑特性が発揮されるため、表面層に高度にフィブリル化したパルプが存在することで、良好な摩擦特性が発揮される。そして摩擦材においても、自動車用エンジンの高回転、高出力化傾向にあわせて、強度や耐熱性、耐久性の点で更なる改善が求められている。
【0005】
ところで、PPTAパルプの主たる製法は、アラミド重合体成形物(繊維またはフィルム)を機械的にフィブリル化する方法(以下、機械加工法という。)、あるいは、アラミド重合体溶液を高速攪拌している沈澱剤(N−メチル−2−ピロリドン)中へ導入する方法(以下、沈澱法という。)である。しかし、沈澱法では沈澱剤を使用するので、工業的製法としては経済的に不利益なものとなる。
【0006】
また機械加工法にも2通りあり、乾燥した連続繊維を短繊維に切断し該短繊維をフィブリル化する方法(例えば、特許文献1)と、乾燥した繊維ではなくPPTA溶媒溶液を紡糸して得られる湿潤状態の糸を用いる方法(例えば、特許文献2〜5)がある。
【0007】
特許文献1には、紡糸、乾燥してクラックが入った長繊維を製造し、該長繊維を切断した短繊維に機械的な剪断力を加え、フィブリル化する方法が開示されているが、この方式で製造したパルプは、フェノール樹脂等の含浸・浸透性が劣るため摩擦材としたときの強度面で課題がある。
【0008】
一方、特許文献2には、高度にフィブリル化したパルプ粒子(長さ約0.5〜3mm)を得るため、湿潤状態の糸(含水率5〜200重量%)を爆砕する方法;特許文献3には、湿潤状態の糸(含水率50重量%以上)に、発泡剤(アゾジカルボンアミド)を含浸させた後、発泡剤の分解温度以上の温度に加熱し、繊維内部からの破壊力によりフィブリル化する方法;特許文献4〜5には、高度にフィブリル化したPPTAパルプを得るため、湿潤状態(含水率は不明)のまま切断した短繊維を水に分散させた分散液を、リファイナー等を使用し高剪断力で機械的にフィブリル化する方法;が開示されている。しかし、これらのPPTAパルプは、フェノール樹脂等の含浸・浸透性および接着性が劣るため、性能面で課題がある。
【0009】
一方、特許文献6〜7には、水系エポキシ樹脂エマルジョン中にPPTAパルプを分散させ、次いでろ別、脱水することにより、エポキシ樹脂により表面処理されたPPTAを製造することが開示されているが、パルプを抄紙する際に表面処理したエポキシ樹脂が水中に溶出し、フェノール樹脂等の含浸・浸透性が劣るため摩擦材としたときの強度面で課題があり、抄紙排水のCOD値も高くなるため、環境面でも課題がある。
【0010】
また、硬化性エポキシ化合物を浸透・含浸させたPPTA繊維複合体を熱処理した繊維(水分率10重量%以下)を機械加工によりフィブリル化する方法も考えられる。しかしながら、この場合には、含浸させたエポキシ化合物が熱処理によって硬化した後に、フィブリル化するため、フェノール樹脂等を均一に含浸・浸透させることが困難であり、摩擦材としたきの強度面にやはり課題がある。しかも、熱処理をするので、工業的製法としては経済的に不利益なものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭63−190087号公報
【特許文献2】特開昭63−135515号公報
【特許文献3】特開昭63−249716号公報
【特許文献4】特開平6−41298号公報
【特許文献5】特開平8−337920号公報
【特許文献6】特開平6−166984号公報
【特許文献7】特開平7−243175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、環境にやさしく、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂の含浸・浸透性および接着性が良好で、強度や耐久性に優れる摩擦材を得ることが可能なポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体パルプの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題を解決するため、次の手段をとるものである。
【0014】
(1)水分率15〜200重量%に調整されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内に、硬化性エポキシ化合物および必要に応じて硬化剤(ただし、同一分子中にイミダゾール基とアルコキシシリル基とを有するイミダゾールシラン系化合物を含まない。)を浸透・含浸させてなる繊維を切断して短繊維とし、該短繊維を機械加工によりフィブリル化することを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体パルプの製造方法。
【0015】
(2)上記(1)に記載の水分率15〜200重量%に調整されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内に、さらに下記一般式(I)で表される相溶化剤を、前記硬化性エポキシ化合物との合計量として0.1重量%以上10.0重量%以下浸透・含浸させてなる繊維を切断して短繊維とし、該短繊維を機械加工によりフィブリル化することを特徴とするポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体パルプの製造方法。
(化1)
−O−(AO)n−R ・・・・・(I)
(式中、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基、または炭素原子数1〜10のアルケニル基であり、Rは水素原子、または炭素原子数1〜5のアルキル基または炭素原子数1〜5のアルケニル基を示す。また、Aは炭素原子数2〜4のアルキレン基を、nはオキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数を表す1〜10の整数である。なお、−(AO)−においては、同一のオキシアルキレン基が付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していてもよい。)
【0016】
(3)硬化性エポキシ化合物が、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルから選ばれる1種類または、2種類以上の混合物である、上記(1)または(2)に記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体パルプの製造方法。
【0017】
(4)硬化性エポキシ化合物が未硬化の状態で含有される、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体パルプの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体パルプは、硬化性エポキシ化合物をポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内に浸透・含浸させた繊維複合体で形成されているため、硬化性エポキシ化合物を浸透・含浸させていないパルプに比べて熱硬化性樹脂との接着力が高く、抄造した紙状物に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグを硬化させて得られたプレートは、耐熱性、引張強さ、曲げ特性に優れている。そのため、車両や産業用機械のクラッチ板やブレーキ板に好適な長寿命、大クラッチ容量であって、自動車用エンジンの高回転や高出力化にも対応可能な摩擦材を提供できる。ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内に硬化性エポキシ化合物と相溶化剤を浸透・含浸させた繊維複合体から作製したパルプは、水分散性が良く抄紙性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体パルプ(以下、PPTA繊維複合体パルプと略称する。)の製造方法について詳細に説明する。
【0020】
本発明のPPTA繊維複合体パルプは、水分率15〜200重量%に調整されたPPTA繊維骨格内に、硬化性エポキシ化合物および必要に応じて硬化剤を含浸・浸透させてなる繊維を用いて製造される。前記PPTA繊維骨格内に、さらに、下記一般式(I)で表される相溶化剤を浸透・含浸させてなる繊維を用いても良い。
【0021】
本発明におけるポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)は、テレフタル酸とパラフェニレンジアミンを重縮合して得られる重合体であり、少量のジカルボン酸およびジアミンを共重合したものも使用することができ、かかる重合体および共重合体の数平均分子量は20,000〜25,000の範囲が好ましい。
【0022】
代表的なPPTA繊維は、PPTAを濃硫酸に溶解した粘調な溶液を、紡糸口金からせん断速度25,000〜50,000sec−1で吐出し、空気中に紡出した後、水中に紡糸し、水酸化ナトリウム水溶液で中和処理することにより製造される。この紡糸した繊維を100〜150℃で乾燥することにより、水分率が15〜200重量%に調整されたPPTA繊維が得られる。PPTA繊維の水分率が15重量%以上あれば、平衡水分率よりも高い水分を含有する乾燥前の状態であるため、結晶サイズが比較的小さくPPTA繊維結晶間の間隙が広いので、硬化性エポキシ化合物や相溶化剤を繊維骨格内に浸透・含浸させることが容易となる。また、水分率が200重量%以下であれば、繊維の巻き出しや巻き取り操作も容易である。好ましい水分率は30〜200重量%、さらに好ましい水分率は35〜70重量%である。
【0023】
含浸・浸透させる硬化性エポキシ化合物は、脂肪族エポキシ化合物、芳香環を有するエポキシ化合物のいずれも使用でき、これらを併用することもできる。
【0024】
脂肪族エポキシ化合物としては、グリセロール、ソルビトール、ポリグリセロールなどの多価アルコールのグリシジルエーテル化合物から選ばれる1種または、2種以上の混合物であることが好ましい。例えば、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらの化合物の中でも、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが特に好ましく用いられる。
【0025】
芳香環を有するエポキシ化合物としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂から選ばれる1種または、2種以上の混合物であることが好ましい。例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールC]などのグリシジルエーテル化物が挙げられる。これらの中でも、常温で液状の、ビスフェノールA、ビスフェノールFのグリシジルエーテル化物が特に好ましく用いられる。
【0026】
硬化剤としては、アミン化合物が好ましく、三級アミン化合物が特に好ましい。例えば、ジメチルオクチルアミン、ジメチルデシルアミン、ジメチルラウリルアミンや、脂肪族一級アミンにエチレンオキサイドを付加した長鎖アルキルポリオキシエチレン型三級アミンなどが挙げられる。
【0027】
相溶化剤は、硬化性エポキシ化合物と併用することでPPTA繊維複合体パルプの水への分散性を向上させる効果があり、下記一般式(I)で表されるグリコールエーテル系化合物が好ましく用いられる。Rの炭素数が大きくなると水溶性が低下するため水分率の高いPPTA繊維に浸透・含浸し難くなり、nが大きくなると高分子量化することによりPPTA繊維に浸透・含浸し難くなる。相溶化剤は、硬化性エポキシ化合物よりも親水性の化合物であることが望ましい。
(化2)
−O−(AO)n−R ・・・・・(I)
【0028】
上記一般式(I)において、Rは炭素原子数1〜10、好ましくは炭素原子数4〜8のアルキル基またはアルケニル基であり、Rは水素原子、または炭素原子数1〜5のアルキル基または炭素原子数1〜5のアルケニル基を示す。好ましくは、R は水素原子である。また、Aは炭素原子数2〜4のアルキレン基、好ましくは炭素原子数2〜3のアルキレン基であり、nはオキシアルキレン基(AO)の平均付加モル数を表す1〜10の整数、好ましくは2〜8である。なお、−(AO)−においては、同一のオキシアルキレン基が付加していても、2種類以上のオキシアルキレン基が付加していてもよい。
【0029】
一般式(I)で示される化合物の好ましい具体例としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリプロピレングリコール(n=3)グリセリルエーテルなどが挙げられる。これらのグリコールエーテル系化合物は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種類以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0030】
硬化性エポキシ化合物(硬化剤を含む)および相溶化剤のPPTA繊維骨格内への含浸量は、これらの合計量として、好ましくは0.1〜10.0重量%、より好ましくは0.2〜4.0重量%、さらに好ましくは0.2〜2.0重量%である。ここで、「含浸量」は、PPTA繊維の水分率を0%に換算したときの繊維重量に対する値である。硬化性エポキシ化合物のみの含浸量は、好ましくは0.1〜5.0重量%、より好ましくは0.2〜4.0重量%、さらに好ましくは0.2〜2.0重量%である。
【0031】
PPTA繊維骨格内には、その他の成分として、本発明の効果を阻害しない範囲で、油剤、非イオン界面活性剤などの浸透剤、シリコーン系化合物、フッ素系化合物、有機界面活性剤などの平滑剤、オキサゾリンや酸無水物などの樹脂改良剤、イソシアネート系のカップリング剤などが含有されていても良い。
【0032】
硬化性エポキシ化合物および相溶化剤をPPTA繊維に付与する方法は、特に限定されるものではなく、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法など公知の方法で良い。硬化性エポキシ化合物、硬化剤および相溶化剤を付与する順序は特に限定されるものではなく、段階的付与でも同時付与でも良いが、段階的付与では硬化性エポキシ化合物、相溶化剤の順に付与するのが工程面および性能面で好ましい。
【0033】
硬化性エポキシ化合物等を含浸させた後、PPTA繊維骨格内に硬化性エポキシ化合物をより浸透させるため、機械加工するまでの間に、PPTA繊維複合体を室温雰囲気下に保管して、エージング処理を行っても良い。ただし、エージング処理を行う際、機械加工によるフィブリル化を効率的に行うためにPPTA繊維複合体の表面上の水分が必要以上に蒸発しないよう、処置を施す必要がある。PPTA繊維複合体の水分量を低下させない方法としては特に限定されるものではないが、巻き上げられたPPTA繊維複合体を個装袋にて包装する、調湿された低温倉庫に保管する、霧状のミストを噴霧するなどの方法が挙げられる。これらの方法のうち、少なくとも一つの方法、あるいは複数の方法を用いても差し支えない。
【0034】
本発明のPPTA繊維複合体パルプは、水分率15〜200重量%に調整されたポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内に硬化性エポキシ化合物などを浸透・含浸させたPPTA繊維複合体を用いる以外は、従来の機械加工法を適用して製造することができる。具体的には、上記PPTA繊維複合体を1〜50mmの長さに切断して短繊維とし、該短繊維を破砕、すりつぶし、衝撃あるいは叩解のような機械的剪断力を加えフィブリル化する。
【0035】
本発明のPPTA繊維複合体パルプは、平均繊維長(重量加重平均)が約3mm以下の高度にフィブリル化したパルプで、熱処理を施していないため、硬化性エポキシ化合物が未硬化の状態で含有される。硬化性エポキシ化合物を浸透・含浸させていない従来のアラミドパルプと比べて、同等もしくはそれ以上のろ水度を有しており、潤滑油や粉体の保持性能に優れるものである。
【0036】
また、本発明のPPTA繊維複合体パルプは、原料となるPPTA繊維複合体が、水分率が平衡水分率よりも高い、すなわち繊維結晶間の間隙が広いPPTA繊維骨格内に硬化性エポキシ化合物を浸透・含浸させたものであるため、機械加工により生成したフィブリルの深部にも硬化性エポキシ化合物が付着していることより、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂などのマトリックス樹脂を均一に浸透・含浸させることができ、マトリックス樹脂に対する接着力が高いためマトリックス樹脂からの剥離や脱落が生じ難い。
【0037】
本発明のPPTA繊維複合体パルプは、パラアラミドパルプ紙、摩擦材、絶縁材の原料などとして有用である。
【実施例】
【0038】
以下に実施例をあげて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「%」及び「部」は特に断りのない限り、それぞれ「重量%」及び「重量部」を示す。
【0039】
(実施例1)
PPTA(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1000個有する口金からせん断速度30,000sec−1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理し、その後、110℃×15秒間熱処理をして、水分率35%のPPTA繊維(水分率0%換算のとき総繊度1,670dtex)を調製した。
【0040】
このPPTA繊維に、硬化性エポキシ化合物としてソルビトールポリグリシジルエーテルを40部、相溶化剤としてジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル60部を含有する薬剤原液を付与し、硬化性エポキシ化合物と相溶化剤をPPTA繊維に浸透・含浸させた後、ボビンに巻き取り、PPTA繊維複合体を製造した。含浸量(対絶乾繊維重量換算)は、硬化性エポキシ化合物が0.4%、相溶化剤が0.6%であった。
【0041】
得られたPPTA繊維複合体をロービングカッターで6mmに切断した。この含水PPTA繊維複合体短繊維の乾燥重量として200gを、60kgのイオン交換水に分散させ、シングルディスクリファイナーを用い3000rpmの条件でフィブリル化し、PPTA繊維複合体パルプを得た。JIS P8121−2号の方法により測定したパルプのろ水度は770mLであった。
【0042】
こうして得られた含水PPTA繊維複合体パルプの乾燥重量として25gを、パルプ離解装置を用いて3000rpmで4リットルの水に分散させ、次いで25cm角の角型シートマシーンにより、♯80メッシュの金網を用いて、常法に従って抄紙を行い、その後乾燥して25cm角、単位重量400g/m2 のパラアラミド紙を得た。
【0043】
次に、得られたパラアラミド紙を、レゾール型フェノール樹脂プレポリマーを等量のメタノールで希釈した樹脂液に浸漬させて、樹脂液を含浸させた後、60℃で20分間乾燥してプリプレグを得た。プリプレグを更に12.5cm角4枚に切り分け、1枚はそのまま、残り3枚は積層し、165℃、25MPaの加圧下で10分間処理し、硬化させ、0.6mmおよび1.8mm厚の12.5cm角のアラミドパルプ強化フェノール樹脂プレートを作成した。
【0044】
こうして得られた0.6mmのプレートからJIS K7162に記載の1BB引張試験片、1.8mmのプレートからJIS K7162に記載の曲げ試験片を切り出した。
【0045】
(実施例2)
相溶化剤を用いず、また、硬化性エポキシ化合物としてグリセロールポリグリシジルエーテル100部を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、PPTA繊維複合体を製造した。硬化性エポキシ化合物の含浸量(対絶乾繊維重量換算)は1.0%であった。このPPTA繊維複合体を用い、実施例1と同様の方法でPPTA繊維複合体パルプを得た。
実施例1で得たPPTA繊維複合体パルプの代わりに、上記で得たPPTA繊維複合体パルプを用いた他は、実施例1と同様の方法で試験片を得た。
【0046】
(実施例3)
相溶化剤を用いず、また、硬化性エポキシ化合物としてソルビトールポリグリシジルエーテル100部を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、PPTA繊維複合体を製造した。硬化性エポキシ化合物の含浸量(対絶乾繊維重量換算)は1.0%であった。このPPTA繊維複合体を用い、実施例1と同様の方法でPPTA繊維複合体パルプを得た。
実施例1で得たPPTA繊維複合体パルプの代わりに、上記で得たPPTA繊維複合体パルプを用いた他は、実施例1と同様の方法で試験片を得た。
【0047】
(実施例4)
硬化性エポキシ化合物としてグリセロールポリグリシジルエーテル100部、相溶化剤としてジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル150部を含有する薬剤原液を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、PPTA繊維複合体を製造した。硬化性エポキシ化合物の含浸量(対絶乾繊維重量換算)は1.0%、相溶化剤は1.5%であった。このPPTA繊維複合体を用い、実施例1と同様の方法でPPTA繊維複合体パルプを得た。
実施例1で得たPPTA繊維複合体パルプの代わりに、上記で得たPPTA繊維複合体パルプを用いた他は、実施例1と同様の方法で試験片を得た。
【0048】
(比較例1)
硬化性エポキシ化合物および相溶化剤を付与しない以外は、実施例1で調製した水分率35%のPPTA繊維(水分率0%換算のとき総繊度1,670dtex)を用い、実施例1と同様の方法でPPTA繊維パルプを得た。
実施例1で得たPPTA繊維複合体パルプの代わりに、上記で得たPPTA繊維パルプを用いた他は、実施例1と同様の方法で試験片を得た。
【0049】
(比較例2)
実施例1で得られた6mmの含水PPTA繊維複合体短繊維を、シングルディスクリファイナーでフィブリル化することなくそのまま実施例1と同様の方法で抄紙した紙は紙力が弱く、樹脂含浸後の乾燥時に亀裂が発生し、プリプレグを作成することができなかった。
【0050】
(比較例3)
PPTA(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1000個有する口金からせん断速度30,000sec−1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理し、その後、200℃×15秒間熱処理をして、水分率7%のPPTA繊維(水分率0%換算のとき総繊度1,670dtex)を調製した。
このPPTA繊維に実施例1と同様の方法で硬化性エポキシ並びに相溶化剤を付与した後、実施例1と同様の方法でPPT繊維複合体パルプを得た。更に実施例1と同様の方法で試験片を得た。
【0051】
<評価試験>
(1)水分率;試料約5gの重量を測定し、300℃×20分間の熱処理を行い、25℃、65%RHで5分間放置した後、再度重量を測定する。ここで使う水分率は[乾燥前重量−乾燥後重量]/[乾燥後重量]で得られるドライベース水分率である。
【0052】
(2)ろ水度;JIS−P8121−2号(パルプのカナダ標準ろ水度(Canadian Standard Freeness 又は CSF)により測定した。
【0053】
(3)重量平均繊維長;Op Test Equipment(CANADA)社製 HiRes Fiber Quality Analyzer により測定した。
【0054】
(4)引張強さ、引張破断伸び、曲げ強さ、曲げ弾性率;
作製した試験片を用い、JIS K7162号の方法により引張強さ、引張破断伸び、JIS K7017号の方法により曲げ強さ、曲げ弾性率を測定した。
【0055】
上記の実施例1〜4および比較例1で得たパルプ及び試験片について、上記の評価試験により評価した結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
表1より、本発明のPPTA繊維複合体パルプは、比較例1および比較例3のパルプに比べて、アラミドパルプ強化フェノール樹脂の引張強さ、曲げ強さおよび曲げ弾性率が優れていたことより、耐熱性、機械的強度および耐久性に優れる原料となり得ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体パルプは、アラミド紙や摩擦材、絶縁材などに好適に用いることができる。