特許第6296591号(P6296591)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6296591空間光通信装置用レドームおよび空間光通信装置用レドームを備えた光通信局
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6296591
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】空間光通信装置用レドームおよび空間光通信装置用レドームを備えた光通信局
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/112 20130101AFI20180312BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20180312BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20180312BHJP
【FI】
   H04B10/112
   G02B5/28
   G02B5/26
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-111453(P2013-111453)
(22)【出願日】2013年5月28日
(65)【公開番号】特開2014-232902(P2014-232902A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100082669
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 賢三
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100095061
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 恭介
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 守生
【審査官】 鴨川 学
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−034191(JP,A)
【文献】 特開2008−160115(JP,A)
【文献】 特開昭62−110339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/00−10/90
H04J 14/00−14/08
G02B 5/00− 5/136
G02B 5/20− 5/28
G02F 1/00− 1/125
G02F 1/21− 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間光通信を行う空間光通信装置を覆う半球状の透光性ドームに、予め定めた光通信用の波長帯域を透過させると共に可視光の波長帯域を反射させる機能性薄膜を形成し、通信光の波長λに対して、前記透光性ドームの透過波面精度をλ/10以下とすることを特徴とする空間光通信装置用レドーム。
【請求項2】
前記機能性薄膜は、Ta25およびSiO2を含む誘電体材料をイオンビームスパッタ法によりコーティングして形成した誘電体多層膜であることを特徴とする請求項1に記載の空間光通信装置用レドーム。
【請求項3】
前記請求項1又は請求項2に記載の空間光通信装置用レドームにて空間光通信装置の送受信範囲を覆ってなる空間光通信装置用レドームを備えた光通信局において、
空間光通信装置より出射した通信光が光学レドーム内を通過する際に生じる光路差を相殺して光学レドームの通過後に平面波となるように通信光の波面を補正する波面調整手段を設け、
前記波面調整手段により波面補正された通信光が光学レドームを透過すると直進性の高い平面波に戻ることで、通信光のビーム拡散を抑制するようにしたことを特徴とする空間光通信装置用レドームを備えた光通信局。
【請求項4】
前記波面調整手段は、空間光通信装置の出射面と光学レドームとの間、もしくは空間光通信装置内の光路上に配置した光学補正板であることを特徴とする請求項3に記載の空間光通信装置用レドームを備えた光通信局。
【請求項5】
前記波面調整手段は、空間光通信装置に付加したデフォーカス調整機能、或いはより高次の収差調整機能であることを特徴とする請求項3に記載の空間光通信装置用レドームを備えた光通信局。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間光通信装置が行う光通信に悪影響を及ぼすことなく外部環境から空間光通信装置を保護し温度安定化すると共に、背景光の影響を低減し空間光通信装置の通信方向を外部から不可視化できる空間光通信装置用レドームと、この空間光通信装置用レドームを備えた光通信局に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、レーダや通信用アンテナを外部環境から保護するためのカバーとしてレドームが用いられている。しかしながら、レドームは目的とする電波の周波数に応じた透過率や反射抑制を実現できるように設計されており、異なる周波数帯域の通信装置に転用することはできない。例えば、高周波帯であるマイクロ波やミリ波におけるアンテナ用には、それに対応したレドームが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−284287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたレドームは、20GHzを越える周波数帯のアンテナに好適であるものの、数百THzオーダーのレーザ光を用いた空間光通信装置用のレドームに転用できるものではない。
【0005】
なお、空間光通信装置用のレドームとして通信光の波長帯域で透明な素材を用い、一定以上の光透過率を実現できていれば、通信光の出射側と受信側との間にレドームが介在していても光通信を行うことは可能であるものの、空間光通信は、地上−航空機間や地上−衛星間といった超長距離の通信分野での利用が期待されており、レドームによって通信光の出射強度や受信強度が低下すると光通信の障害となる。
【0006】
また、セキュリティ上、光地上局がどの方向を指向しているかが分からないようにする必要がある場合がある。よって、透明なレドームでは、そのような用途に対応できないという問題が生ずる。
【0007】
そこで、本発明は、空間光通信装置が行う光通信に悪影響を及ぼすことなく外部環境から空間光通信装置を保護し温度安定化すると共に、背景光の影響を低減し空間光通信装置の通信方向を外部から不可視化できる空間光通信装置用レドームと、この空間光通信装置用レドームを備えた光通信局の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、請求項1に係る空間光通信装置用レドームは、空間光通信を行う空間光通信装置を覆う半球状の透光性ドームに、予め定めた光通信用の波長帯域を透過させると共に可視光の波長帯域を反射させる機能性薄膜を形成し、通信光の波長λに対して、前記透光性ドームの透過波面精度をλ/10以下とすることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載の空間光通信装置用レドームにおいて、前記機能性薄膜は、Ta25およびSiO2を含む誘電体材料をイオンビームスパッタ法によりコーティングして形成した誘電体多層膜であることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の空間光通信装置用レドームにて空間光通信装置の送受信範囲を覆ってなる空間光通信装置用レドームを備えた光通信局において、空間光通信装置より出射し通信光が光学レドーム内を通過する際に生じる光路差を相殺して光学レドームの通過後に平面波となるように通信光の波面を補正する波面調整手段を設け、前記波面調整手段により波面補正された通信光が光学レドームを透過すると直進性の高い平面波に戻ることで、通信光のビーム拡散を抑制するようにしたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に係る発明は、請求項3に記載の空間光通信装置用レドームを備えた光通信局において、前記波面調整手段は、空間光通信装置の出射面と光学レドームとの間、もしくは空間光通信装置内の光路上に配置した光学補正板であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に係る発明は、請求項3に記載の空間光通信装置用レドームを備えた光通信局において、前記波面調整手段は、空間光通信装置に付加したデフォーカス調整機能、或いはより高次の収差調整機能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る空間光通信装置用レドームによれば、通信光の波長λに対して、透光性ドームの透過波面精度をλ/10以下とし、機能性薄膜によって光通信用の波長帯域の光を選択的に透過させ、レドームが長距離光通信の障害になることを防ぐと共に、機能性薄膜によって可視光を全反射させることでレドーム外表面を鏡面とし、レドーム内部に配置された空間光通信装置の通信方向を外部から視認できなくする。
【0014】
また、本発明に係る空間光通信装置用レドームを備えた光通信局によれば、波面調整手段により波面補正された通信光が光学レドームを透過すると直進性の高い平面波に戻ることで、通信光のビーム拡散を抑制するので、光学レドームの存在によって通信光が拡散して光通信の実用距離が著しく減ぜられることを防ぎ、地上−航空機間や地上−衛星間といった長距離の光通信を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)は、空間光通信装置をレドーム内に収容した光通信局の概略構成図である。(b)は、空間光通信装置用レドームの縦断面図である。
図2】空間光通信装置用レドームの波長−透過率特性図である。
図3】(a)は、空間光通信装置からの出射光がレドームを透過する様子を示す説明図である。(b)は、空間光通信装置とレドームとの間に光学補正板を配置して波面補正した出射光がレドームを透過する様子を示す説明図である。(c)は、空間光通信装置内に光学補正板を配置して波面補正した出射光がレドームを透過する様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、添付図面に基づいて、本発明に係る空間光通信装置用レドームを備えた光通信局の実施形態につき説明する。なお、光通信局は、地上に固定して用いるものでも良いし、飛行機や衛星といった飛翔体に搭載して用いるものでも良い。
【0017】
図1(a)に示すのは、空間光通信装置用のレドームである光学レドーム1によって空間光通信装置2を覆った光通信局の概略構成で、例えば2軸ジンバルにて通信方向を全天自在に調整できる空間光通信装置2の光軸中心に対して、光学レドーム1の内面が必ず直交するように内面形状と配設位置を調整してある。しかし、空間光通信装置2に波面調整手段(後に詳述する)を設けた場合には、オフセットをかけて配置することもできる。なお、光学レドーム1の厚さを高い精度で均一に保持することにより、内面の曲率はそのまま外面の曲率となり、光学レドーム1の外部から空間光通信装置2に照射された光軸中心は光学レドーム1の外面に直交する。
【0018】
上記光学レドーム1は、図1(b)に示すように、半球状の透光性ドームである半球ガラスドーム1aの外面に機能性薄膜1bを形成したものである。半球ガラスドーム1aは空間光通信装置2で用いる光通信の波長帯(1480nm〜1610nm)で高い光透過率を保持できるものであり、空間光通信装置2の大きさに合わせて設計・製作すれば良い。また、半球ガラスドーム1aの透過波面精度を高精度(例えば、λ/10以下とすると1.7dBの劣化に抑制できる)にすることにより、通信光の波長帯で波面の崩れを抑制し、光学レドーム1を通信光が透過することでの悪影響を極力軽減する。
【0019】
半球ガラスドーム1aの外面上に形成する機能性薄膜1bは、誘電体材料(例えば、Ta25、SiO2等)をイオンビームスパッタ法によりコーティングして形成したもので、図2に示すような波長−透過率特性を示す。すなわち、可視光線の帯域(380nm〜780nm)では全反射(透過率がほぼ0%)であり、通信光の帯域(1480nm〜1610nm)では全透過(透過率がほぼ100%)であるから、光通信の信号は高効率で透過し、可視光の光は反射して鏡面となるため、光通信に影響を与えることなく外部から内部を見えなくできる。なお、機能性薄膜1bの組成や比率等は特に限定されるものではなく、少なくとも可視光帯域での反射率が高く、通信光帯域での透過率が高いという機能を満たしていれば、如何様に形成しても構わない。
【0020】
上述したように、光学レドーム1で空間光通信装置2を覆った光地上局では、空間光通信装置2の通信方向を外部から不可視化できる。また、機能性薄膜1bによって可視光が光学レドーム1内に透過することはないので、空間光通信装置2を構成するレーザ通信機器に対しては、背景光等の外乱光の影響を低減できるというメリットもある。さらに、可視光から赤外光を含む周波数帯域の光を反射する機能性薄膜1bを用いることで、光学レドーム1内の昇温化を抑制できると共に、機器側への外部からの空気の流れを遮断しているので外気温度や大気ゆらぎ等の外乱を抑制できるという利点もある。
【0021】
なお、機能性薄膜1bを形成する光学コーティング手法はイオンビームスパッタ法に限定されるものではなく、半球ガラスドーム1aの面精度を保持できる均一な誘電体膜を形成できればよい。しかしながら、機能性薄膜1bを形成する光学コーティング手法としてイオンビームスパッタ法を用いれば、ターゲットに照射するイオンのエネルギーとイオン密度を個別に制御できることから、成膜条件をシビアに制御できるという利点がある。
【0022】
また、地上−航空機間や地上−衛星間の光通信用途である空間光通信装置2は屋外使用となるため、光学レドーム1も屋外で風雨に晒されることとなり、機能性薄膜1bが損傷を受けて剥離するなどの不具合が生じる可能性を考慮し、雨天時などはコンテナやクラムシェルドーム等で光学レドーム1をカバーすることが望ましい。或いは、外部環境の影響を受けないように機能性薄膜1bを半球ガラスドーム1aの内面側に形成しても良い。
【0023】
上述した構成の光学レドーム1を通信光(位相の揃った平面波)が透過するとき、曲面で厚みのある光学レドーム1の構造に起因して、ビーム中心とその周囲とで生ずる光路差によりビームが広がってしまい(図3(a)を参照)、地上−航空機間や地上−衛星間のような長距離通信では受信強度の低下につながるため問題となる。
【0024】
そこで、図3(b)に示すように、空間光通信装置2の光出射面と光学レドーム1との間に波面調整手段としての光学補正板3を配置して、光学レドーム1内を通過する際に生じる光路差を相殺して光学レドーム1の通過後に平面波となるように通信光の波面を補正し、補正された通信光が光学レドーム1を透過すると直進性の高い平面波に戻ることで、通信光のビーム拡散を抑制し、受信局(例えば、軌道上の通信衛星)にて光信号を高感度で受信できるようにした。逆に、光学レドーム1の外部(通信衛星)から送信されて、光学レドーム1の内部へ透過した通信光は拡散する波面になるが、光学補正板3を透過することで元の平面波に補正されるので、空間光通信装置2で受光する際にも光学補正板3は有効である。
【0025】
このように、波面調整手段として光学補正板3を用いれば、光学レドーム1の存在によって通信光が拡散して光通信の実用距離が著しく減ぜられることを防げる。また、空間光通信装置2とは別途に設けた光学補正板3を着脱自在な構成としておけば、光学レドーム1が無い光地上局で空間光通信装置2を用いる場合には、光学補正板3を取り外すことで対応できるというメリットがある。
【0026】
なお、波面調整手段は光学補正板3に限定されるものではなく、空間光通信装置2内に設けるようにしても良い。例えば、図3(c)に示すように、光学補正板3と同等の波面補正を行う波面調整手段4を空間光通信装置2内の光路上に設けたり、空間光通信装置2にデフォーカス調整機能や該デフォーカス調整よりも高次の収差調整機能を付加して波面調整手段として用いるようにしても良い。また、空間光通信装置2に波面調整手段4を設けて波面形状を任意に調整できる場合には、空間光通信装置2の光軸中心に対して光学レドーム1の内面が必ず直交する必要は無く、オフセットをかけて空間光通信装置2を配置することができる。
【0027】
以上、本発明に係る空間光通信装置用レドームを実施形態に基づき説明したが、本発明は、この実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない限りにおいて実現可能な全ての空間光通信装置用レドームを権利範囲として包摂するものである。
【符号の説明】
【0028】
1 光学レドーム(空間光通信装置用レドーム)
1a 半球ガラスドーム(透光性ドーム)
1b 機能性薄膜
2 空間光通信装置
3 光学補正板
4 波面調整手段
図1
図2
図3