特許第6296594号(P6296594)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6296594
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】振動発生装置
(51)【国際特許分類】
   B06B 1/04 20060101AFI20180312BHJP
【FI】
   B06B1/04 S
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-183105(P2013-183105)
(22)【出願日】2013年9月4日
(65)【公開番号】特開2015-47596(P2015-47596A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000177151
【氏名又は名称】日本電産セイミツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】赤沼 智弘
【審査官】 服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−343932(JP,A)
【文献】 特開2007−288896(JP,A)
【文献】 特開昭63−255091(JP,A)
【文献】 特開2011−097747(JP,A)
【文献】 特開平10−248230(JP,A)
【文献】 実開昭55−095682(JP,U)
【文献】 特開平7−288964(JP,A)
【文献】 特開昭50−022211(JP,A)
【文献】 特開2004−140902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B06B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
仮想中心軸を中心に回転可能に支持された保持体を一定の回転角度の範囲で往復回転運動させるモータと、
前記仮想中心軸に対して偏心した状態で前記保持体に保持されている錘と、
一方は前記保持体が回転する方向に、他方は前記保持体が回転する方向とは逆向きに前記保持体をそれぞれ付勢する一対のばねと、を備え、
前記ばねのばね定数、前記錘の質量、及び前記往復回転運動の振動数が、前記保持体を共振させる値にそれぞれ設定されていることを特徴とする振動発生装置。
【請求項2】
前記保持体は前記仮想中心軸が延びる方向に一致して延びるシャフトであり、
前記モータは、
その外郭をなすケーシングと、
該ケーシングの内部で前記シャフトよりもその半径方向の外側に配置されたコイルと、
前記シャフトの外周面に取り付けられた磁石と、を備え、
前記一対のばねが、前記コイル及び前記磁石よりも前記シャフトが延びる方向の外側に1つずつ配置されている、請求項1に記載の振動発生装置。
【請求項3】
前記モータが、高さが低い平坦な部材によって形成された前記保持体と、高さが低い平坦な磁性部材によって形成された磁石と、巻線を渦巻き状に巻いて高さが低い平坦に形成されたコイルと、を備え、
前記磁石と前記コイルとが前記磁石及び前記コイルの厚さ方向で対向して配置され、
一対の前記ばねが、前記回転往復運動の軌跡上で前記保持体の両側に配置されている、請求項1に記載の振動発生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動発生装置に関し、さらに詳しくは、錘を保持する保持体が一定の回転角度で往復回転運動して振動を発生させる振動発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
振動発生装置は、携帯電話、携帯端末及びタブレット式コンピュータ等の様々な電子機器に使用されている。例えば、携帯電話に内蔵された振動発生装置は、振動を発生させることによって使用者に着信を知らせている。また、タブレット型コンピュータに内蔵された振動発生装置は、画面に指やペンが接触したときに振動を発生させることによって、なすべき操作が確実に行われたかどうかを確認することができるようにしている。こうした振動発生装置は、これまでに様々な技術が提案されている。
【0003】
特許文献1に記載されている振動発生装置は、錘が直線状に往復運動して振動するリニア型の振動発生装置である。この振動発生装置は、ケーシングと、このケーシング内に固定され、電磁石を備えた固定子と、永久磁石を有する可動子と、この可動子を固定子に対して平行な方向に揺動可能に支持する弾性支持部材とを備えている。当該振動発生装置は、固定子に設けられた電磁石に電流を流すことによって磁界を発生させており、この磁界が可動子を直線状に往復運動させることよって振動を発生させている。
【0004】
特許文献2に記載されている振動発生装置は、錘が保持された回転軸を回転させることにより振動を発生させるロータリー型の振動発生装置である。この振動発生装置は、モータと、その回転軸に対して偏心して保持された錘とを備えている。この振動発生装置は、錘が保持された回転軸が回転することによって振動を発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−179295号公報
【特許文献2】特開2002−263577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているリニア型の振動発生装置は、可動子の振幅を大きくした場合、可動子がケーシングの周壁面に衝突し、ノイズが発生してしまう。そのため、可動子の振幅はケーシングを構成する対向する周壁面同士の間隔に制約されてしてしまう。
【0007】
一方、特許文献2に記載されているロータリー型の振動発生装置は、モータの回転がばらついてしまうので、発生する振動にもばらつきが生じてしまう。また、ロータリー型の振動発生装置は、振動が発生するまでの起動時間を短くするめには錘を小さくすることが必要である。しかし、錘を小さくした場合、大きな振動を得ることが困難になる。これに対し、錘を大きくした場合、大きな振動を得ることは可能であるが、振動が発生するまでの起動時間が長くなる。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、振動特性を向上させることによって、必要な大きさの振動を短い起動時間且つ安定して発生させると共に、ノイズが発生しない振動発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る振動発生装置は、仮想中心軸を中心に回転可能に支持された保持体を一定の回転角度の範囲で往復回転運動させるモータと、前記仮想中心軸に対して偏心した状態で前記保持体に保持されている錘と、一方は前記保持体が回転する方向に、他方は前記保持体が回転する方向とは逆向きに前記保持体をそれぞれ付勢する一対のばねとを備え、前記ばねのばね定数、前記錘の質量、及び前記往復回転運動の振動数が、前記保持体を共振させる値にそれぞれ設定されていることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、錘を保持する保持体が仮想中心軸を中心に往復回転運動をするので、錘の重心を縦方向及び横方向の2方向に振動を発生させることができ且つ、保持体が振動発生装置の他の部品に衝突することを防止することができる。そのため、この発明は、錘及びばねを交換することによって振動量及び共振点の設計自由度を大きくすることができ且つ、振動発生装置からノイズが発生することを防止することができる。また、ばねのばね定数、錘の質量、及び往復回転運動の振動数が保持体を共振させる値にそれぞれ設定されているので、振動特性を向上させ、所望の強さの振動を安定して発生させることができる。さらに、前記コイルが前記保持体を前記往復回転運動させる駆動力が、前記錘の前記仮想中心軸に対する偏心量に応じて設定されているので、保持体が振動し始めるまでの起動時間を設計した通りの短時間に容易に設定することができる。
【0011】
本発明に係る振動発生装置において、前記保持体は前記仮想中心軸が延びる方向に一致して延びるシャフトであり、前記モータは、その外郭をなすケーシングと、該ケーシングの内部で前記シャフトよりもその半径方向の外側に配置されたコイルと、前記シャフトの外周面に取り付けられた磁石と、を備え、前記一対のばねが、前記コイル及び前記磁石よりも前記シャフトが延びる方向の外側に1つずつ配置されていることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、保持体は仮想中心軸が延びる方向に一致して延びるシャフトであり、このシャフトが往復回転運動される構造なので、簡素な構造のモータを利用することができる。また、一対のばねが、コイル及び磁石よりもシャフトが延びる方向の外側に1つずつ配置されているので、シャフトにバランスよく付勢力を与えることができる。
【0013】
本発明に係る振動発生装置において、前記モータが、高さが低い平坦な部材によって形成された前記保持体と、高さが低い平坦な磁性部材によって形成された磁石と、巻線を渦巻き状に巻いて高さが低い平坦に形成されたコイルと、を備え、前記磁石と前記コイルとが前記磁石及び前記コイルの厚さ方向で対向して配置され、一対の前記ばねが、前記回転往復運動の軌跡上で前記保持体の両側に配置されていることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、用いられるモータの構造を、保持体を1方向に往復振動させるリニア型のモータと同様の構造にすることができるので、振動発生装置を高さが低い平坦な構造にすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、振動特性が向上されるので、振動発生装置が発生する振動の大きさを安定させることができる。また、振動が発生するまでに要する起動時間を短くすることができる。また、錘を異物に衝突させないで振動させることができるため、ノイズを発生させずに振動を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態の第1タイプの振動発生装置の平面図である。
図2図1に示した振動発生装置をシャフトが延びる方向に見た側面図である。
図3図1に示した振動発生装置に使用されているモータの縦断面図である。
図4図3のI−I断面の横断面図である。
図5】錘の軌跡を模式的に示した説明図である。
図6】錘の振動の強さと時間との関係をX方向とY方向とに分けて示したグラフである。
図7】本発明の第1実施形態の第2タイプの振動発生装置の縦断面図である。
図8】本発明の第2実施形態の振動発生装置の内部構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明の技術的範囲は、以下の記載や図面にのみ限定されるものではない。
【0018】
[基本構成]
本発明に係る振動発生装置1,100,200は、仮想中心軸Lを中心に回転可能に支持された保持体40,140,240を一定の回転角度の範囲で往復回転運動させるモータ10,110,210を備えている。また、振動発生装置1,100,200は、仮想中心軸Lに対して偏心した状態で保持体40,140,240に保持されている錘50,150,250と、一方は保持体40,140,240が回転する方向に、他方は保持体40,140,240が回転する方向とは逆向きに保持体40,140,240をそれぞれ付勢する一対のばね60,160,260とを備えている。ばね60,160,260のばね定数、錘50,150,250の質量、及び往復回転運動の振動数は、保持体40,140,240を共振させる値にそれぞれ設定されている。なお、「仮想中心軸L」とは、保持体40,140,240が往復回転運動をするときの中心であり、この往復回転運動の仮想した中心軸を意味する。
【0019】
本発明に係る振動発生装置1,100,200は、振動特性を向上させることによって、安定した大きさの振動を発生させることができ且つ、その振動を短い起動時間で発生させることができるというという特有の効果を奏する。また、本発明に係る振動発生装置1,100,200は、ノイズを発生させずに振動を発生させることができるという効果も奏する。
【0020】
こうした振動発生装置1,100,200は、錘を保持する保持体がシャフト40,140である第1実施形態と、錘を保持する保持体がシャフト以外の部材240である第2実施形態とに大別することができる。以下、本発明の詳細を実施形態ごとに説明する。
【0021】
[第1実施形態]
第1実施形態は、錘50,150を保持する保持体がシャフト40,140である形態である。この第1実施形態は、さらに、2つのタイプの振動発生装置1,100に分けることができる。第1タイプの振動発生装置1は、シャフト40が延びる方向の両端に錘50が取り付けられたタイプであり、第2タイプの振動発生装置100は、シャフト140が延びる方向の一端側にのみ錘150が取り付けられたタイプである。
【0022】
〈第1タイプの振動発生装置〉
第1タイプの振動発生装置1は、図1及び図2に示すように、モータ10と、モータ10のシャフト40の両端に保持された2つの錘50とを備えている。また、振動発生装置1は、錘50を保持するシャフト40の振動特性を向上させる一対のばね60を備えている。
【0023】
(モータ)
モータ10は、図3及び図4に示すように、その外郭をなす直方体のケーシング11を備えている。また、このモータ10は、後述する錘50が保持されるシャフト40と、このシャフト40に取り付けられている磁石30と、コイル26を有する固定子20とを、このケーシング11の内部に備えている。
【0024】
ケーシング11の一端はその中心を外側に突出させて形成した軸受け保持部12を備えている。この軸受け保持部12は、内部に軸受け15が設けられる部分である。ケーシング11の他端は開放されており、エンドブラケット13によって閉鎖されている。エンドブラケット13は、その中央に軸受け保持部14を備え、軸受け保持部14の内側に軸受け16を有している。各軸受け保持部12,14に保持された軸受け15,16は、各軸受け保持部12,14の内面に保持される外周面とシャフト40を内部に挿入させる内周面とを備えている。2個の軸受け15,16は、内周面の内側にシャフト40を挿入させて、シャフト40を回転可能に支持している。これらの軸受け15,16は、例えば、メタルブッシュが用いられる。
【0025】
シャフト40は、錘50を保持する保持体を構成する部材であり、ケーシング11の長手方向に一致して延びるように配置されている。シャフト40の両側の一定長さの領域は、ケーシング11からそれぞれ突出している。シャフト40は、各軸受け保持部12,14に保持された軸受け15,16によって、当該軸受け15,16の内側でケーシング11に対して回転可能に支持されている。なお、シャフト40は、図1及び図3の仮想中心軸Lを中心に回転される。
【0026】
磁石30は円筒状に形成されており、中心にシャフト40が通される貫通穴31を備えている。磁石30はこの貫通穴31にシャフト40を通すことによって、シャフト40の外周面に取り付けられている。こうした磁石30は、その両側に配置された保持プレート35によってシャフト40に位置決めされて取り付けられている。ただし、磁石30のシャフト40への取り付けは特に限定がなく、例えば、接着剤やねじ止め等により行ってもよい。
【0027】
固定子20は、磁石30よりもシャフト40の半径方向の外側に配置されている。固定子20は、コア21と、巻線をコア21に巻き付けて形成されているコイル26とから構成されている。コア21は、上下に延びる一対の胴部23、胴部23の上部に形成されている一対の対向部24及び胴部23同士を接続している底部22により構成されており、胴部23及び対向部24がモータ10の幅方向において磁石30の両側に配置されている。コア21の胴部23は、ケーシング11の底面に配置された底部22の両端から上方に向けて直線状に延びて形成されている。対向部24は、胴部23の上端の位置で胴部23よりも内側に向けて折り曲げられて形成されている。対向部24の先端面25は、磁石30の外周面に対向している。そして、先端面25と磁石30の外周面との間には、一定の隙間が形成されている。
【0028】
コイル26を構成している巻線は、銅線又は銅合金線等の導伝線である。コイル26は、コア21の胴部23に巻線を巻くことにより形成された複数の巻線の層を有している。
【0029】
こうした構成のモータ10は、巻線に電流を流してコイル26の周囲に磁界を形成する。磁界は、磁石30が取り付けられたシャフト40を一定の回転角度の範囲で往復回転運動させる駆動力を与える。その際、シャフト40は、その半径方向の中央に位置する仮想中心軸Lを中心にして往復回転運動する。
【0030】
(錘)
錘50は、その横断面の形状が扇状又半円状等に形成されており、シャフト40に保持させる保持部51を備えている。この振動発生装置1はこうした錘50を2個備えており、2個の錘50はシャフト40が延びる方向の両側で錘50を1個ずつシャフト40に保持させている。錘50の保持部51は、その中央にシャフト40を通すための穴52を備えており、穴52に通されたシャフト40に固着されている。この実施形態では、保持部51とシャフト40との固着は保持部51をシャフト40に加締めて行われている。しかし、固着の方法は特に限定がなく、例えば、接着剤やねじ止め等によって行うこともできる。
【0031】
こうした錘50は、シャフト40の回転の中心をなす仮想中心軸Lに対して偏心した状態でシャフト40に保持される。すなわち、錘50の重心Gは、仮想中心軸Lからシャフト40の半径方向の外側に離れた位置に存在している。この錘50の重心Gと仮想中心軸Lとの間の距離が偏心量である。錘50は、シャフト40が延びる方向の両側でシャフト40に保持されているので、バランスよくシャフト40を往復回転運動させている。
【0032】
(ばね)
ばね60は、その外形が円錐台状に形成された円錐コイルばねである。このばね60は、線条のばね材が一端から他端に向かうにつれて半径が徐々に小さくなるように螺旋状に巻かれて形成されている。ばね60は、その内側にシャフト40を位置させた態様でモータ10のケーシング11と錘50とを連結している。ばね60の半径が大きく形成されている一端側はモータ10のケーシング11に取り付けられ、ばね60の半径が小さく形成されている他端側は錘50に取り付けられている。なお、ばね60とケーシング11との取り付けの方法、及びばね60と錘50との取り付けの方法は、特に限定がない。こうしたばね60は、ばね60の伸縮に伴って発生する捩りを利用し、シャフト40が回転された方向とは逆向きにシャフト40を付勢している。なお、ばね60は、円錐コイルばねを用いることには限定されず、外形が円筒状に形成されたコイルばねを用いてもよい。
【0033】
こうしたばね60は、必要なばね定数を有する円錐コイルばねを選定することによって、所望の共振を容易に発生させることができる。また、コイル26及び磁石30よりもシャフト40が延びる方向の外側に1つずつ配置されているので、シャフト40にバランスよく付勢力を与えている。
【0034】
以上の構成を備えた振動発生装置1は、コイル26に電流が流されたときにコイル26が磁界を形成する。磁石30を保持しているシャフト40は、その磁界の影響を受け、仮想中心軸Lを中心に一定の回転角度の範囲で往復回転運動する。錘50を、往復回転運動させることにより、振動発生装置は、錘を縦方向及び横方向の2方向に振動させることができる。また、往復回転振動は、錘50を保持するシャフト40が予想以上に回転した場合でも、錘50がケーシング11に衝突しないのでノイズが発生することがない。
【0035】
ばね60のばね定数、錘50の質量、及び往復回転運動の振動数は、シャフト40が共振して往復回転運動するように設定されている。そのため、この振動発生装置1は、シャフト40を安定した周波数、すなわち、共振する周波数で振動させることができる。また、振動発生装置1は、シャフト40の共振を利用して振動を発生させているので、シャフト40の振幅を所望の大きさに設定することができる。そのため、この発明は、錘及びばねを交換することによって振動量及び共振点の設計自由度を大きくすることができる。
【0036】
こうしたばね60のばね定数、錘50の質量、及び往復回転運動の振動数との間には、次の(1)式の関係がある。
=1/2π(k/m)1/2・・・・(1)
【0037】
ただし、fは周波数、kはばね60のばね定数、mは錘50の質量を表している。モータ10が、(1)式により求められる周波数でシャフト40を往復回転運動させた場合、シャフト40は共振するので、当該振動発生装置1は、安定した振動を発生させることができる。
【0038】
また、この振動発生装置1は、保持体を構成するシャフト40の共振を利用しているので、錘50が保持されたシャフト40が往復回転運動を開始するまでの起動時間を短くすることができる。シャフト40は、両側に配置されている2つのばね60により引っ張られる力又は押し付けられる力によって回転方向に付勢される力の均衡が保持されている。すなわち、付勢される力の均衡は、両側に配置されている2つのばね60が、シャフト40を左右両側から共に引っ張るか、若しくは、左右から共に押しつけることで均衡を保持している。そうした振動系では、シャフトが往復回転運動を開始するまでの起動時間は、共振の影響を受ける。この共振は、ばね定数を1つの要素として定まる現象であり、ばね定数が起動時間に影響を与える。具体的には、柔らかいばね(ばね定数の小さいばね)は起動時間が長くなるが、硬いばね(ばね定数の大きなばね)は起動時間を短くすることができる。
【0039】
図5は、錘50の振動の軌跡を模式的に示した図であり、(A)の状態を錘50の基準の状態とし、錘50が左右両側に90ずつ往復回転運度をし、(E)に示す基準の状態に再び戻るまでの錘50の状態を示している。なお、図5に示したように、錘50が振動する左右方向をX方向、X方向に直交する方向をY方向とする。
【0040】
錘50は、(A)の状態から右側に90度振れて(B)の状態に移動し、(B)の状態から左側に90度振れて(C)に示す基準の状態に戻っている。次に錘50は、(C)の状態から左側に90度振れて(D)の状態に移動し、(D)の状態から右側に90度振れて(E)に示す基準の状態に戻っている。この間、重心Gは、X方向に1サイクル振動し、Y方向に2サイクル振動する。また、図5に示すように、重心GのX方向の振幅は、Y方向の振幅の2倍である。なお、錘50が保持されているシャフト40の回転角度は、この図5に示すような180度であることには限定されない。回転角度は、発生させる振動の大きさに応じて適宜に設定すればよい。
【0041】
図6は、こうした振動発生装置1が発生させる振動の振動量の時間的な推移を示したグラフである。図6の横軸は時間を表し、縦軸は振動の強さとしての振動量を表している。また、図6の実線は、図5に示す重心GのX方向の振動を表し、破線は、図5に示す重心GのY方向の振動をそれぞれ表している。この図6に示すように、Y方向の振動の振動数は、X方向の振動の振動数の2倍になっている。また、Y方向の振動の振動量のピークは、X方向の振動量のピークの2倍になっている。なお、図6は、振動発生装置1の起動直後の状況を表していて、振動量は起動時から徐々に増加している。しかし、振動は、振動発生装置1を起動してからある程度の時間が経過した後にX方向の振動量及びY方向の振動量のピークが一定である定常振動状態になる。
【0042】
このように振動発生装置1は、X方向及びY方向の2方向の振動を発生させている。そのため、当該振動発生装置1が用いられているデバイスの利用者は、1方向にしか振動が発生しない振動発生装置が用いられているデバイスよりも容易に振動の発生を覚知することができる。
【0043】
以上、ケーシング11の内部でコイル26がシャフト40よりもその半径方向の外側に配置され、磁石30がシャフト40の外周面に取り付けられた形態を例に説明した。しかし、特に図面には示していないが、フランジ付きモータのように、コイルと磁石とが逆に配置されていてもよい。すなわち、本発明は、保持体であるシャフトが、仮想中心軸が延びる方向に一致して延び、シャフトよりもその半径方向の外側に配置された磁石と、シャフトの外周面に取り付けられたコイルとを備えている振動発生装置にも適用することができる。
【0044】
〈第2タイプの振動発生装置〉
第2タイプの振動発生装置100は、図7に示すように、錘150がシャフト140の一端にのみ保持されたタイプである。この振動発生装置100は、モータ110と、このモータ110のシャフト140の一端に保持された1つの錘150と、錘150を保持するシャフト140の振動特性を向上させる2つのばね160とを備えている。
【0045】
(モータ)
このモータ110の基本的な構成は、第1タイプの振動発生装置1を構成するモータ10の基本構成と同様である。そのため、モータ10と同じ構成については、図面に同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0046】
モータ110は、図7に示すように、その外郭をなす直方体のケーシング11を備えている。また、このモータ110は、錘150が保持されるシャフト140と、このシャフト140に取り付けられている磁石30と、コイル26を有する固定子20とを、このケーシング11の内部に備えている。また、2つのばね160は、ケーシング11の内部に配置されている。
【0047】
シャフト140は、ケーシング11の長手方向に一致する方向に延びて配置されている。このシャフト140は、軸受け保持部12が形成されている一端側のみがケーシング11から突出し、他端側がエンドブラケット13の位置と同じ位置で止められている。
【0048】
磁石30は円筒状に形成されており、中心にシャフト140が通される貫通穴31を備えている。磁石30はこの貫通穴31にシャフト140を通すことによって、シャフト140の外周面に取り付けられている。
【0049】
固定子20は、磁石30よりもシャフト140の半径方向の外側に配置されている。固定子20は、コア21と、巻線をコア21に巻き付けて形成されているコイル26とから構成されている。コア21は、上下に延びる一対の胴部23、胴部23の上部に形成されている一対の対向部24及び胴部23同士を接続している底部22により構成されており、胴部23及び対向部24がモータ10の幅方向において磁石30の両側に配置されている。対向部24の先端面25は、磁石30の外周面との間に一定の隙間を隔てて対向している。
【0050】
(錘)
錘150は、その横断面の形状が扇状又半円状等に形成されており、シャフト140に保持させる保持部を備えている。なお、この保持部は図7には示されていないが錘50の保持部51と同様の構成を有している。この振動発生装置100はこうした錘150を1個のみ備えており、1個の錘150はモータ110から突出したシャフト140の部分に保持されている。
【0051】
(ばね)
ばね160は、線条のばね材が螺旋状に巻かれ、外形が細長い円筒状に形成されたコイルばねが用いられている。ばね160は、ケーシング11の内部に配置されており、ケーシング11の長手方向の両側にそれぞれ1個ずつ配置されている。錘150が配置されている一方側に設けられているばね160は、その一端が磁石30の保持プレート35に取り付けられ、他端がケーシング11に取り付けられている。エンドブラケット13が配置されている他方側のばね160は、一端がもう1つの保持プレート35に取り付けられ、他端がエンドブラケット13に取り付けられている。
【0052】
こうしたばね160は、ばね160の伸縮に伴って発生する捩りを利用し、一方のばね160がシャフト140の回転方向に、他方のばね160がシャフト140の回転方向とは逆向きにそれぞれ付勢している。なお、ばね160は、シャフト140が回転される方向とは逆の方向にシャフト140を付勢することができる態様であれば、シャフト140及びケーシング11のいずれにも直接又は間接に取り付けることができる。こうしたばね160は、必要なばね定数を有するコイルばねを選定することによって、所望の共振振動を容易に発生させることができる。
【0053】
この振動発生装置100についても、モータ110が、(1)式により求められる周波数でシャフト140を往復回転運動させた場合、シャフト140は共振するので、当該振動発生装置100は、安定した振動を発生させることができる。また、振動発生装置100も振動発生装置1と同様に、シャフト140の共振を利用しているので、錘150が保持されたシャフト140が往復回転運動を開始するまでの起動時間を短くする。
【0054】
こうした第2タイプの振動発生装置100は、錘150がシャフト140の片側でシャフト140に保持されていると共に、ばね160がケーシング11の内部でケーシング11とシャフト140とを直接又は間接に連結しているので、振動発生装置100をコンパクトに形成することができる。
【0055】
なお、第2タイプの振動発生装置100についても、コイルと磁石とがこれとは逆に配置されていてもよい。すなわち、振動発生装置は、ケーシングの内部でシャフトよりもその半径方向の外側に配置された磁石と、シャフトの外周面に取り付けられたコイルとを備えるように構成してもよい。
【0056】
[第2実施形態]
第2実施形態の振動発生装置200は、保持体240がシャフト以外の部材で構成された形態である。この振動発生装置200は、外郭をなすケーシング211を備え、このケーシング211が外周部をなす周壁面211a,211b,211c,211dを有している。ケーシング211は、高さが低い平坦な直方体に形成されている。振動発生装置200は、こうしたケーシング211の内部に、モータ210と、モータ210を構成する保持体240に取り付けられた錘250とを備えている。また、振動発生装置200は、錘250が保持された保持体240の振動特性を向上させる一対のばね260を備えている。
【0057】
(モータ)
モータ210は、図8に示すように、錘250が保持される保持体であるバックヨーク240と、このバックヨーク240に取り付けられている2つの磁石230と、電流が流されることによって磁界を形成するコイル226とを備えている。
【0058】
保持体であるバックヨーク240は、扇状又は略扇状に形成されており、仮想中心軸Lから離れるにつれて拡幅している。このバックヨーク240は、頂部のやや内側にバックヨーク240の厚さ方向に貫通する穴を有しており、円柱状の支持棒215をこの穴に通している。支持棒215は、摩擦抵抗が小さい金属製の部材であり、仮想中心軸Lの位置に仮想中心軸Lと同じ向き(図8の紙面を貫く向き)に延びるようにしてケーシング211に固定されている。この支持棒215は、バックヨーク240がこの支持棒215を軸に回転されるようにバックヨーク240を支持している。
【0059】
磁石230は平坦なブロック状の磁性体である。磁石230は、2個用いられており、振動発生装置200の中心線CLに対して左右対称になるように配置されている。2個の磁石230の外側面は、バックヨーク240の側面の形状に一致するように形成されている。
【0060】
コイル226は、破線で図8に示している。コイル226は、巻線が渦巻き状に巻かれて平坦且つ楕円状に形成されている。このコイル226は、振動発生装置200の左右方向の中央で、その長軸が中心線CLの方向に一致するように配置されている。このコイル226と前述した磁石230とは、一定の隙間を隔てて磁石230及び当該コイル226の厚さ方向(図8の紙面を貫く方向)に重なり合うようにして配置されている。
【0061】
モータ210は、巻線に電流を流してコイル226の周囲に磁界を形成する。この磁界とバックヨーク240に取り付けられた磁石230の磁界とは、両者の間に形成される反発力と吸引力とによって、支持棒215を軸にして一定の回転角度の範囲でバックヨーク240を往復回転運動させる。
【0062】
(錘)
錘250は、その厚さがバックヨーク240の厚さと同じ寸法に形成されており、バックヨーク240の外端部でバックヨーク240に保持されている。バックヨーク240はその外端部に保持枠251を備えており、錘250はこの保持枠251の内側にはめ込まれて保持されている。そのため、錘250は、保持体であるバックヨーク240の仮想中心軸Lに対して偏心した状態に配置されている。
【0063】
(ばね)
ばね260は、帯状のばね材をその長手方向の複数の位置で湾曲して形成したものであり、バックヨーク240の両側にそれぞれ1個ずつ配置されている。各ばね260は、ばね260の一端側を周壁面211aに固定する固定部261と、ばね260の他端側をバックヨーク240の側面に密接させる保持体支持部262と、固定部261と保持体支持部262との間の領域に位置する本体部263とから構成されている。固定部261は、ばね260の長手方向の一端側で直線状に伸びるように形成されている。また、保持体支持部262はばね260の他端側で直線状に延びるようにして形成されている。固定部261と保持体支持部262との間に位置する本体部263は、直線部分265,267と湾曲部分264,266,268とが組み合わされて構成されている。
【0064】
図8において、バックヨーク240よりも左側に本体部263が位置しているばね260は、固定部261がバックヨーク240よりも右側に位置する周壁面211bとバックヨーク240の左側面の位置との間を占めるように配置されている。本体部263は、固定部261から図8の下側に向けて延びる直線部分265と、バックヨーク240の斜めに延びる側面に対して平行をなすように斜めに延びる直線部分267と、円弧状に湾曲する湾曲部分268とを備えている。固定部261と下側に向けて延びる直線部分265とは湾曲部分264によって接続されている。また、下側に向けて延びる直線部分265と斜めに延びる直線部分267とは、湾曲部分266により接続されている。保持体支持部262はバックヨーク240の左側面に一致するように直線状に延びており本体部263の湾曲部分268に接続されている。なお、バックヨーク240よりも右側に本体部263が位置しているばね260は、本体部263が左側に配置されたばね260と同一の構造を有し、左右の向きが逆向きに配置されている。
【0065】
こうした振動発生装置200は、コイル226により形成される磁界と磁石230が形成する磁界との影響によって、バックヨーク240を、支持棒215を中心にして一定の回転角度の範囲で往復回転運動させる。その際、一方のばね260はバックヨーク240が回転する方向に、他方のばね260はバックヨーク240が回転する方向とは逆向きにバックヨーク240をそれぞれ付勢する。ばね260のばね定数、錘250の質量、及び往復回転運動の振動数は保持体を共振させる値にそれぞれ設定されているので、振動発生装置200は所望の振動量の振動を発生する。また、バックヨーク240を往復回転運動させるコイル226の駆動力が、錘250の仮想中心軸Lの位置に設けられた支持棒215に対する偏心量に応じて設定されているので、バックヨーク240が振動し始めるまでの起動時間を設計した通りの短時間に容易に設定することができる。
【0066】
この振動発生装置200についても、モータ210が、(1)式により求められる周波数でバックヨーク240を往復回転運動させた場合、バックヨーク240は共振するので、この振動発生装置200は、安定した振動を発生させることができる。また、振動発生装置200も振動発生装置1と同様に、バックヨーク240の共振を利用しているので、錘250が保持されたバックヨーク240が往復回転運動を開始するまでの起動時間を短くする。
【0067】
また、第2実施形態の振動発生装置200は、用いられるモータ210の構造を、保持体を1方向に往復振動させるリニア型のモータと同様の構造にすることができるので、振動発生装置200を平坦な構造にすることができる。また、ばね260が、帯状のばね材を湾曲することによって、周壁面211aに固定される固定部261と、保持体であるバックヨーク240の側面に密接させる保持体支持部262と、固定部261と保持体支持部262との間の領域に設けられた本体部263とから構成されているので、ばね260を組み込みやすい構造にすることができる。
【符号の説明】
【0068】
1,100,200 振動発生装置
10,110,210 モータ
11,211 ケーシング
12,14 軸受け保持部
13 エンドブラケット
15,16 軸受け
20 固定子
21 コア
22 底部
23 胴部
24 対向部
25 先端面
26,226 コイル
30,230 磁石
31 貫通穴
35 保持プレート
40,140 シャフト(保持体)
50,150,250 錘
51 保持部
52 穴
60,160,260 ばね
211a,211b,211c,211d 周壁面
215 支持棒
240 バックヨーク(保持体)
251 保持枠
261 固定部
262 保持体支持部
263 本体部
264,266,268 湾曲部分
265,267 直線部分
L 仮想中心軸
CL 中心線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8