(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1電極層および前記第2電極層を構成する材料は、前記光導波路から染み出した光を吸収し光励起キャリアを発生させる材料を含む、請求項1または請求項2に記載の光検出器。
【背景技術】
【0002】
現代の情報通信において、情報の伝達には光信号と電気信号の両方が使われる。そのため、電気信号から光信号へまたは光信号から電気信号へ変換されて情報が処理され伝搬していく。光信号で伝搬している情報を電気信号へ変換する場合、光デバイス中の光導波路を伝搬する光を検出する受光素子が必要である。
【0003】
これまで広く用いられてきた受光素子は、代表的には2種類の異なる元素を半導体にドープすることで形成されたpn接合を持つ半導体素子(フォトダイオード)である(たとえば、特開平05−087635号公報参照)。フォトダイオードに使われる半導体は、たとえば可視光に対してはシリコン、近赤外光に対してはゲルマニウムやインジウムガリウムヒ素等が挙げられる。
【0004】
しかし、単一元素半導体であるシリコンやゲルマニウム等を基板(プラットホーム)にして光導波路とフォトダイオードを作製することは、半導体の光学特性と光導波路の作製工程を考えると難しい。すなわち、フォトダイオードとして半導体を使う際はバンドギャップより大きなエネルギーを持つ波長の光を対象としなければならないのに対して、光導波路として半導体を使う場合はバンドギャップより小さいエネルギーを持つ波長を使わなければならないため、単一の半導体を用いてフォトダイオードと光導波路とを作製することは不可能である。また、光導波路と光検出器を結合したものとして、ショットキー接合を利用した光導波路用光検出器も提案されているが(特開平10−144950号公報、Goykhman, I., B. Desiatov, J. Khurgin, J. Shappir, and U. Levy, "Locally oxidized silicon surface-plasmon Schottky detector for telecom regime". Nano Letters, 2011. 11(6): p. 2219-2224.参照)、このような構造においてはショットキー接合を形成するために、光導波路自体が半導体でなければならないという制約がある。
【0005】
なお、III−V族化合物半導体などに代表される化合物半導体をプラットフォームにすると、当該化合物半導体の組成比を変えることで、実質的に同じ材料から光導波路と光検出器とを作り出すことは可能である。しかし、現状では化合物半導体を使うと価格が他の材料を使った場合に比べて割高となり、また大型の基板が得られにくいなどの改善すべき点が残っているため、当該化合物半導体を用いた光デバイスについてはハイエンド向けの製品となっている。またシリコンフォトニクスにおいては、シリコンとゲルマニウムの組合せからなる受光素子が実現されている。
【0006】
ここで、一般的な単一元素を基板として用いた半導体受光素子であるフォトダイオード(光検出器)は、上述のように光導波路と同じ材料で作られることはなく、別部材として準備され光導波路に組み込まれることになる。とくにポリマーをベースとする光デバイスの場合、フォトダイオードを光導波路を含む光デバイス内に設置するためのスペースを設けなければならない。さらに、光導波路における伝搬光をフォトダイオードに入射するためにカップラーやミラー等の光学構造が必要になる。
【0007】
たとえば、Shiraishi, T. Yagisawa, T. Ikeuchi, S. Ide, and K. Tanaka, "Cost-effective on-board optical interconnection using waveguide sheet with flexible printed circuit optical engine" in Optical Fiber Communication Conference and Exposition (OFC/NFOEC), 2011(非特許文献1)の
図1には、ポリマーからなる光導波路を用いた光デバイスが開示されている。非特許文献1に開示された光デバイスでは、光導波路中の光をフォトダイオードに入射させるため、光導波路中に光学部材としてのミラーを設置している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0019】
<光検出器の構成>
図1〜
図3を参照して、本発明の実施形態に係る光検出器10を説明する。
図1〜
図3を参照して、光検出器10は、基板1と、光7を伝搬させる光導波路2と、第1電極層3と、誘電体層4と、第2電極層5とを備える。光導波路2は基板1の主表面上に形成されている。光導波路2は任意の材料により構成できるが、たとえばポリマーなどの樹脂により構成してもよい。光導波路2の断面形状(光の進行方向に対して垂直な方向における断面形状)は
図2に示すように四角形状であってもよいが、他の形状(たとえば丸型、楕円形状、台形状などの多角形状)など、任意の形状であってもよい。
【0020】
第1電極層3は基板1の主表面上から光導波路2の表面上にまで延在するように形成されている。
図3に示すように、第1電極層3の延在方向は、光導波路2の延在方向と交差する。誘電体層4は、第1電極層3上に形成されている。具体的には、誘電体層4は平面視において光導波路2と重なる領域に少なくとも形成されている。誘電体層4は、光導波路2に隣接する領域における第1電極層3の端面を覆うとともに基板1の主表面に到達するように形成されている。また、光導波路2から見て上記第1電極層3の端面が位置する側(第1の側)と反対側(第2の側)において、誘電体層4の端部の位置より光導波路2から遠い領域では、第1電極層3の上部表面が露出している。
【0021】
第2電極層5は、誘電体層4上に形成されている。第2の側において、誘電体層4の端面の位置と第2電極層5の端面の位置とは重なっている。一方、第1の側では第2電極層5は誘電体層4上から基板1の主表面上にまで延在している。第1電極層3、誘電体層4および第2電極層5から光検出部6が構成される。
【0022】
−材料について−
第1電極層3および第2電極層5の材料としては任意の金属を用いることができるが、たとえば第1電極層3の材料として金(Au)を用い、第2電極層5の材料としてチタン(Ti)を用いることができる。誘電体層4の材料としても任意の誘電体材料を用いることができるが、たとえばシリカ(二酸化珪素、SiO
2)を用いることができる。
【0023】
上述したように、可視光、すべての金属は近赤外光および赤外光を吸収できる。そのため、貴金属を含む遷移金属、アルミニウムなどの典型金属、窒化チタンなどの金属間化合物や黄銅などの合金を含めた数多くの物質を第1電極層3および第2電極層5の材料として使用することができる。たとえば、第2電極層5(上側)の金属の仕事関数と第1電極層3(下側)の金属の仕事関数との差が大きいと、赤外光のように相対的に長い波長の光に対しては本光検出器10の感度が小さくなり、逆に上記仕事関数の差が小さいと相対的に長波長の光に対しても高い感度を持たせることができる。
【0024】
また、中間層である誘電体層4を構成する材料の電子親和力が小さいと、一方の電極層において励起されたキャリア(光励起キャリア)は誘電体層4をトンネルして反対側の電極層に到達するため、得られる光誘起電流は相対的に小さくなる。一方、誘電体層4を構成する材料の電子親和力が大きいと、一方の電極層において励起されたキャリアは電極層−誘電体層間のエネルギーバリアを超えて反対側の電極層に到達できるため、得られる光誘起電流は相対的に大きくなる。電子親和力が小さい誘電体としてはシリカやアルミナ(酸化アルミニウム)などがあり、電子親和力が大きい誘電体としてはチタニア(酸化チタン)や酸化タンタルなどが挙げられる。
【0025】
−各層の膜厚について−
光導波路2に近い側にある第1電極層3(下側の金属薄膜)の膜厚は、光導波路2に伝播する光(つまり検出対象である光)の波長における、第1電極層3を構成する金属での光の侵入長以下であることが望ましい。なお、第2電極層5(上側の金属薄膜)の膜厚については特に制限はない。また、誘電体層4の膜厚は、薄いほど得られる光誘起電流が大きくなるため、光誘起電流を大きくする観点からは極力薄くすることが好ましい。一方、誘電体層4が緻密でない薄い誘電体膜となった場合には暗電流の原因になるため、誘電体層4に使用する誘電体膜については極力緻密な膜であることが好ましい。
【0026】
たとえば、第1電極層3の厚みとしては10nm以上50nm以下、より好ましくは20nm以上40nm以下とすることができる。また、誘電体層4の厚みとしては、5nm以上50nm以下、より好ましくは5nm以上20nm以下とすることができる。ただしこれらの数値は目安であり、最適値は検出光の波長と使用する金属と誘電体によって大きく変わる可能性がある。
【0027】
−光導波路に対しての光検出器の設置位置について−
図1に示した光検出器10では光検出部6が光導波路2に接しているが、光検出部6を設置する位置は1/eで定義される光導波路2のモード分布の内側であればよく、そのため光導波路2と光検出部6との間に間隙が配置されていてもよい。この場合も光検出部6での光検出は可能であるが、光検出部6が光導波路2に近いほど光誘起電流を大きくすることができる。
【0028】
また、上記光検出器10の第1電極層3および第2電極層5を構成するために必要な金属の薄膜、および誘電体層4を構成するために必要な誘電体の薄膜は、いずれも多結晶体でも良く、またドーピングやエッチング等の後処理も行なわなくても良い。そのため、光検出部6は公知のフォトリソグラフィー技術と薄膜作製技術とを用いて作製できる。この結果、必ずしもCMOSプロセスを使用しないポリマーなどの樹脂からなる光導波路2を含む光デバイスなどの電気光学装置の作製行程において、上述した光検出器10を容易に組み込むことが可能である。
【0029】
また、光検出器10を構成する金属(たとえば光検出部6の第1電極層3および第2電極層5を構成する、金やチタンといった金属)は、それぞれ基板1の主表面上に延在するように形成することで、そのまま電気配線として利用できる。このため、当該電気配線を介して外部電気回路と光検出器10とを接続でき、当該光検出器10を備える光デバイスなどの電気光学装置の作製プロセスを簡略化できる。
【0030】
また、上記光検出器10では、ショットキー接合を利用していないため、ポリマーやガラス等の絶縁体でできた光導波路2に対しても光検出器10を適用できる。このため、半導体導波路にしか使用できないショットキー接合型光検出器と比べて汎用性が高い。
【0031】
さらに、上記光検出器10の構造は、応答速度の遅延に繋がるRC遅延が小さい。そのため、光検出器10では原理上数十ギガヘルツの応答速度を実現でき、高速光通信デバイスへの適用にも対応できる。
【0032】
<光検出器の製造方法>
次に、
図4〜
図7を参照して、
図1に示した光検出器10の製造方法を説明する。
【0033】
図4に示すように、まず導波路作製工程(S10)を実施する。具体的には、まず2μmの厚みを有するシリコン酸化膜が表面に形成されたシリコン基板を準備する(工程S11)。当該シリコン基板を洗浄した後、シリコン酸化膜上に、光導波路2を構成する材料を塗布する(工程S12)。たとえば、当該材料としては樹脂材料(たとえばポリマー(フォトレジスト)を用い、当該樹脂材料をスピンコートするといった方法を用いることができる。たとえば、フォトレジストとしてSU−8(MicroChem社製)を用いる場合、基板の回転数を3000rpmとし、30秒スピンコートする。
【0034】
次に、塗布した樹脂を熱処理する(工程S13)。たとえば、上述したフォトレジストを塗布した場合には、加熱温度を摂氏100度とし、加熱時間を2分間とする(ベーク処理)。
【0035】
次に、樹脂をパターニングする(工程S14)。たとえば、上述したフォトレジストを用いる場合、当該フォトレジストにフォトマスクを介して紫外線を10秒露光し、パターンを形成する。
【0036】
次に、パターニングされた樹脂を再度熱処理する(工程S15)。具体的には、上述したフォトレジストを用いる場合、加熱温度を摂氏150度とし、加熱時間を2分間とする(ハードベーク)。
【0037】
次に、現像処理を行なう(工程S16)。具体的には、上述したフォトレジストを用いる場合、現像液にフォトレジストを1分浸して現像する。この結果、
図1に示すように基板1の主表面上(シリコン基板の表面に形成されたシリコン酸化膜上)に、樹脂からなる光導波路2(ポリマー導波路)を形成できる。当該光導波路2のサイズは任意に設定できるが、たとえば光導波路2の断面における高さを1.5μm、幅を平均6μmとすることができる。
【0038】
次に、
図4に示すように、光検出器作製工程(S20)を実施する。具体的には、まず樹脂(たとえばポジ型のフォトレジスト)を、作製した光導波路2の上に塗布する(工程S21)。当該樹脂としてのフォトレジストは、たとえばShipley社製のS1818(登録商標)を用いることができる。上記フォトレジストを光導波路2の上に200μl程度滴下し、基板の回転数を3000rpmとして30秒スピンコートする。
【0039】
次に、塗布した樹脂を熱処理する(S22)。たとえば、上記フォトレジストを塗布した場合、加熱温度を摂氏100度とし、加熱時間を2分間とする(ベーク処理)。
【0040】
次に、樹脂をパターニングする(工程S23)。たとえば、上述したフォトレジストを用いる場合、当該フォトレジストにフォトマスクを介して紫外線を10秒露光し、パターンを形成する。
【0041】
次に、現像処理を行なう(工程S24)。具体的には、上述したフォトレジストを用いる場合、現像液にフォトレジストを1分浸して現像する。この結果、
図5に示すように、光導波路2と交差する方向に延びる溝12が形成されたフォトレジスト11を得ることができる。当該溝12は、後述するように光検出部6が形成される領域となる。溝12の幅(光導波路2の延在方向における第1電極層3、誘電体層4、第2電極層5の幅)は任意に設定できるが、たとえば5μmである。
【0042】
次に、第1電極層を形成する(工程S25)。具体的には、
図6に示した光導波路2の右側をシャドーマスク(図示せず)で覆い、マグネトロンスパッタ装置を用いて第1電極層3となるべき金属膜を形成する。この金属膜としては、たとえば厚みが20nmの金薄膜を形成する。この結果、
図6に示すように第1電極層3が形成される。
【0043】
次に、誘電体層を形成する(工程S26)。具体的には、上記工程S25で用いたシャドーマスクはそのままにして、
図7における光導波路2の左側も別のシャドーマスク(図示せず)で覆い、マグネトロンスパッタ装置を用いて誘電体層4となるべき誘電体薄膜を形成する。誘電体薄膜としては、たとえば厚みが10nmのシリカ薄膜を形成する。この結果、
図7に示すように誘電体層4が形成される。
【0044】
次に、第2電極層を形成する(工程S27)。具体的には、
図7における光導波路2の右側のシャドーマスクを外し、マグネトロンスパッタ装置を用いて第2電極層となるべき金属膜を形成する。この金属膜としては、たとえば厚み25nmのチタン薄膜を形成する。この結果、
図1および
図2に示すように第2電極層5が形成される。
【0045】
次に、後処理を実施する(工程S28)。具体的には、残っている左側の別のシャドーマスクを外して、アセトン中でフォトレジスト11を溶解する。この結果、
図1および
図2に示すような光検出部6を備える光検出器10を得ることができる。
【0046】
<光検出器の動作>
本実施形態に係る光検出器10では、光検出部6が金属-誘電体-金属という三層の薄膜が積層した構造になっている。そして、この三層構造の光検出部6が、光導波路2を覆うように光導波路2の両側面と上部表面とに直接触れている。また、異なる観点から言えば、光検出部を構成する第1電極層3が、光導波路2と接触するように形成されている。
【0047】
ここで、光導波路2を全反射しながら進む光は、全反射している光のうち染み出した光(たとえばエバネッセント光)が第1電極層3において金属に吸収され、
図8に示すように内部光子放出によって光励起キャリアを発生する。そして、第1電極層3において発生した光励起キャリアが誘電体層4を構成する誘電体によるエネルギー障壁をトンネルして、反対側の第2電極層5に達すると光誘起電流となる。この光誘起電流を検出することで、光導波路2を伝搬する光を検出することができる。
【0048】
なお、第1電極層3および誘電体層4の厚みを十分薄くしておくことで、染み出した光は第2電極層5にも到達し得る。この場合、第1電極層3と第2電極層5との両方で光吸収が起きる。このような場合には、光検出器10により外部検出される光誘起電流は、第2電極層5から第1電極層3に進んだキャリアと、その逆向きに(第1電極層3から第2電極層5に)進んだキャリアとの差になる。
【0049】
<光検出器を用いた電気光学装置の構成>
本実施形態に係る光検出器10を用いた電気光学装置の一例を、
図9を参照して説明する。
【0050】
ここで、上記光検出器10は第1電極層3および第2電極層5が金属でできているため、当該電気光学装置の他の素子などとの接続において、ワイヤーボンディング等のプロセスを必要とせず、上記第1電極層3または第2電極層5を延長して配線として利用することができる。このように第1電極層3または第2電極層5を延長して配線として利用し、当該配線を電気光学装置の他の素子や電気回路に直接接続することが可能である。このような構成とすることで、光検出器10を実装する場合に省スペース化を容易に行なうことができるとともに、製造プロセスも簡略化できる。このような利点は、光導波路で結ばれた光モジュールなどにおいて、特に有効である。
【0051】
図9を参照して、電気光学装置20は、基板1と、当該基板1の主表面上に実装されているレーザダイオード21、光変調器22a〜22d、光導波路2a〜2d、および光検出部6a〜6dとを主に備える。レーザダイオード21と光変調器22a〜22dとは、光導波路2a〜2dにより接続されている。光変調器22a〜22dから出力される光は光変調器22a〜22dの出側に接続された光導波路中を伝搬する。そして、光変調器22a〜22dの出側において、各光導波路に光検出部6a〜6dが設置されている。光検出部6a〜6dは、
図1および
図2に示した光検出器10における光検出部6と同様の構成を備える。
【0052】
レーザダイオード21には制御用の電極23、24が接続されている。また、光変調器22a〜22dのそれぞれにも制御用の電極25、26が接続されている。また、光検出部6a〜6dのそれぞれにも、電極27、28が接続されている。光検出部6a〜6dと電極27、28とを接続する配線は、光検出部6a〜6dを構成する第1電極層3および第2電極層5と同一レイヤにより構成されている。たとえば、電極27に接続された配線は、第1電極層3と同一レイヤにより構成され、電極28に接続された配線は第2電極層5と同一レイヤにより構成される。
【0053】
図9に示した電気光学装置では、光変調器22a〜22dによって変調された光信号を本光検出部6a〜6dによってモニターすることができる。そして、各光導波路に設置された光検出部6a〜6dは、上述のように第1電極層3および第2電極層5と同一レイヤの電極層によって、その他の光学素子と共に容易に外部電源などに接続することができる。
【0054】
図9に示した電気光学装置20では、光検出部6a〜6dが光導波路2a〜2dの外周部に直接設置されているため、ミラー等の光学素子を必要とせず、また光導波路2a〜2dを遮ることなく光検出できる。そのため、本実施形態による光検出器10の構造を用いることにより、多数の素子や光導波路が設置される光モジュールなどの電気光学装置の小型化を図ることができる。
【0055】
なお、
図1に示した光検出器10は、上述のような光変調器だけでなく光スイッチ、光センサーや増幅器等その他の光デバイスを含む光モジュールにおいても適用することができる。
【0056】
<光検出器の実施例>
光検出器の構成:
発明者は、
図1および
図2に示した構造の光検出器を試作した。試作した光検出器では、第1電極層3の材料を金(厚み20nm)、誘電体層4の材料をシリカ(厚み10nm)、第2電極層5の材料をチタン(厚み25nm)とした。光検出部6の幅(光導波路2の延在方向に沿った方向における幅)は約5μmとした。
【0057】
上記構成の光検出器では、光導波路2を光が伝搬して、金属コンタクト部分(光検出部6)で吸収が起こる際、金薄膜からなる第1電極層3の厚みが薄いために第2電極層5(チタン薄膜)でも光吸収が起きる。ここで、第1電極層3の金で励起された電子が第2電極層5に達するために超えなければならないエネルギー障壁のほうが、第2電極層5のチタンで励起された電子が第1電極層3に達するために超えなければならないエネルギー障壁より小さい。そのため、第1電極層3と第2電極層5との間でバイアスがかかっていない場合は、第1電極層3(金薄膜)から誘電体層4(シリカ)を超えて第2電極層5(チタン)に電子が達する確率のほうが、第2電極層5から第1電極層3に電子が達する確立より高い。そのため、光誘起電流は第1電極層3から第2電極層5へ流れる。
【0058】
また、上述した光検出器10では、光導波路2を光が伝搬している状態で正のバイアスを印加すると光誘起電流が増大し、負のバイアスを印加していくと光誘起電流が減少して更に負のバイアスを印加していくと当該光誘起電流が負の値を示すようになる。
【0059】
測定結果:
上述した光検出器10について、光導波路を伝搬する光の波長を変えて、検出可能な光の波長について調べたところ、可視光から波長1064nmの光に対してまで光検出器10では感度があった。なお、第1電極層3および第2電極層5を構成する金属と、誘電体層4を構成する誘電体(絶縁体)との組合せを変えることによって、光検出器10において検出可能な光の波長範囲をより長波長側にまで広げることができる。
【0060】
また、今回作製した光検出器10はその表面積(光検出部6の専有面積)が小さいこと、第1電極層3の材料として仕事関数の大きな金を用いたこと、及びバンドギャップの大きなシリカを誘電体層4の材料として使用したこと、といった理由により、1Vのバイアスがかかった状態での感度は数十mA/W程度であった。ただし、第1電極層3または第2電極層5の材料として仕事関数の小さな金属を選択し、誘電体層4の材料としてバンドギャップの小さな絶縁体を選ぶことで、今回の試料と比べて少なくとも1桁以上の感度向上を図ることができると考えられる。
【0061】
上記のように、実施例に係る光検出器はデバイス自体を極めて小さくできる。さらに、本光検出器は光導波路2に直接接触するように(あるいは光導波路2と極めて小さな間隔を介して対向するように)設置して、光導波路2から染み出した光(たとえばエバネッセント光)を検出するため、従来のようにカップラー等の追加の光学構造は不要である。したがって、特にモノリシックでない光デバイス(光検出部6と光導波路2とが異なる材料によって構成される光デバイス)において、本実施形態に係る光検出器を適用することで、当該光デバイスの大幅な小型化や集積化を図ることができる。
【0062】
以下、上述した実施の形態と重複する部分もあるが、本発明の特徴的な構成を列挙する。
【0063】
本発明に従った光検出器10は、光導波路2から染み出した光を検出する光検出器であって、光導波路2に近接して配置された第1電極層3と、第1電極層3上に配置された誘電体層4と、誘電体層4上に配置された第2電極層5とを備える。
【0064】
このようにすれば、光導波路2から染み出した光(たとえばエバネッセント光や光導波路2の表面を透過した光など)を第1電極層3、誘電体層4、第2電極層5という積層構造を有する光検出部6で光誘起電流として検出できる。そのため、従来のように光導波路2中にミラーなどの光学部材を配置するといった構造が不要になるため、光検出器10の小型化(省スペース化)を図ることができる。また、光検出部6の構造自体も非常に単純であるため、容易な製造プロセスによって上記光検出器10を実現できる。なお、ここで光導波路2に隣接して配置された第1電極層3とは、光導波路2に接触して配置された第1電極層3のみではなく、光導波路2の表面から所定の間隔を隔てて配置された第1電極層3をも意味する。第1電極層3と光導波路2との間の距離は、光導波路2から染み出した光が第1電極層3に到達できる範囲であれば任意に設定できる。
【0065】
また、上記光検出器10を電気光学装置の一例である光デバイス(たとえば
図9に示す電気光学装置20)上に作製する場合、光検出器10は外部の電気回路と金属配線で繋がれる。そのため、光検出器10の構成部材自体が金属でできていると、光検出器10に使う金属(第1電極層3または第2電極層5)と配線に使う金属とを共用にすることでデバイス構造が単純になり、電気光学装置20の小型化および集積化を図ることができる。なお、すべての金属は可視光と近赤外光を吸収するため、半導体のようにバンドギャップによって使用波長の制限を受けることがない。すなわち、金属はブロードバンドな光検出用材料になるため、上記光検出器10は、第1電極層3および第2電極層5の材料を適宜選択することにより任意の波長範囲の光を検出することができる。
【0066】
上記光検出器10では、第1電極層3、誘電体層4および第2電極層5という、金属−誘電体−金属の三層の薄膜が積層した構造になっている。そして、この三層構造が光導波路2を覆うように、たとえば断面が四角形状の光導波路2の両側面と上部表面とに第1電極層3が直接触れるように構成してもよい。
【0067】
ここで、光導波路2を全反射しながら進む光は、全反射している光のうち染み出した光(たとえばエバネッセント光)が第1電極層3と光導波路2との接合部(たとえば第1電極層3が金属により構成される場合は金属コンタクトの部分)近傍で第1電極層3または第2電極層5を構成する金属層などの導電体に吸収され、内部光子放出によって光励起キャリアを発生する。そして、第1電極層3または第2電極層5のいずれか一方で発生した光励起キャリアが誘電体層4によるエネルギー障壁をトンネルして反対側の電極層(第1電極層3または第2電極層5のいずれか他方)に達すると光誘起電流となる。また、上側の第2電極層5と下側の第1電極層3との両方で光吸収が起きると、外部検出される光誘起電流は、第2電極層5から第1電極層3に到達したキャリアと、第1電極層3から第2電極層5へ逆向きに到達したキャリアとの差になる。
【0068】
上記光検出器10において、第1電極層3は光導波路2に接するように形成されていてもよい。第1電極層3の厚みは、光導波路2から染み出した光(たとえばエバネッセント光)の振幅が1/eになる長さである侵入長の2倍の長さ以下であることが好ましい。この場合、光導波路2から染み出した光によって第1電極層3中に励起されたキャリアが確実に誘電体層4まで到達させることができる。
【0069】
上記光検出器10において、第1電極層3および第2電極層5を構成する材料は、光導波路から染み出した光を吸収し光励起キャリアを発生させる導電性材料であればよい。この場合、光検出器10において当該光誘起キャリアに起因する光誘起電流を検出することで、光導波路から染み出した光を確実に検出できる。また、第1電極層3および第2電極層5を構成する材料は、金、アルミニウム、銅からなる群から選択される1種を含んでいてもよい。これらの材料は、回路基板などでの配線層の材料として一般的なものである。このため、上記第1電極層3または第2電極層5を構成する材料を、光検出器10が配置される電気光学装置20の配線層の材料として容易に利用することができる。そのため、光検出器10と配線層とを別工程で形成する場合より、光検出器10を備える装置の製造プロセスを簡略化できる。
【0070】
なお、第1電極層3および第2電極層5を構成する材料としては、他にも導電性酸化物や導電性有機ポリマーを用いることができる。また、誘電体層4を構成する材料としては、たとえば絶縁性のポリマー等の有機物を用いることができる。
【0071】
上記光検出器10において、第1電極層3は、光導波路2の側壁(光導波路2の延在方向に沿って延びる表面部分)に接するとともに、光導波路2の延びる方向に交差する方向に延在してもよい。また、光導波路2の上記側壁が互いに交差する方向に延びるように複数存在する場合、複数の側壁のそれぞれに接するように第1電極層3を形成してもよい。このようにすれば、光導波路2から染み出した光をより確実に第1電極層3に侵入させることができる。
【0072】
この発明に従った電気光学装置20は、
図9に示すように、基板1と、当該基板1上に配置された光導波路2と、上記光検出器(光検出部6a〜6d)と、配線層(光検出部6a〜6dと電極27、28とを接続する配線層)とを備える。光検出部6a〜6dは、光導波路2に隣接して配置される。配線層(たとえば
図9の光検出部6a〜6dと電極27、28とを接続する配線層)は、基板1上に配置される。配線層は、光検出部6a〜6dの第1電極層3および第2電極層5の少なくともいずれか一方と同一レイヤによって構成されている。この場合、配線層と第1電極層3および第2電極層5のいずれか一方とを同一工程により形成することができるので、配線層と第1電極層3または第2電極層5とを別工程で形成する場合より、電気光学装置20の製造プロセスを簡略化することができる。したがって、電気光学装置20の製造コストを低減できる。
【0073】
この発明に従った光検出器10の製造方法は、光導波路2を準備する工程(導波路作製工程(S10))と、光導波路2に隣接して第1電極層3を形成する工程と、第1電極層3上に誘電体層4を形成する工程と、誘電体層4上に第2電極層5を配置する工程とを備える。このようにすれば、上記光検出器10を容易に得ることができる。
【0074】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。