【文献】
Takahide Sakamoto,“Multi-Frequency Heterodyne System for All-Optical-Technology-Free Ultrafast Optical Waveform Measurement,33rd European Conference and Exhibition on Optical Communication - ECOC 2007,2007年
【文献】
坂本高秀,“超平坦光コムによる超高速光波形測定”,応用物理学会学術講演会講演予稿集,2008年 9月 2日,Vol.69th No.3,pp.1045
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記時間遅延調整手段(10)から出力される前記光信号列が入力する前記光混合器(30)と,前記光混合器(30)から出力される前記混合信号が入力する前記光検出器(40)は,それぞれ一つである
請求項1から請求項3のいずれかに記載の光検出装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように,現在,光物理現象の探求や,光デバイス開発のための光計測評価技術を目的とした超高速・超広帯域光信号の光計測は実現されている。しかし,これらの従来技術は,第二次高調波発生(SHG)や四光波混合(FWM)現象等に基づいた複雑な全光信号処理技術に依存しており,光通信ネットワークの実践的な適用は困難である。また,従来技術では,一つのハードウェアで,単一のチャネル信号の解析しか行えない。また,従来技術は,モード同期レーザ等の安定動作の難しい高度技術が必須である。さらに,これらの技術は,複雑かつ高価な技術であり,応用範囲は研究開発の用途に限られたものであった。
【0006】
また,広帯域でスペクトル効率の高い伝送を実現するために,光マルチキャリア伝送が注目されている。このような光マルチキャリア伝送は,複数のチャネルが多重化されたマルチキャリア光信号を利用する。しかし,光マルチキャリア伝送では,100GHz以上の総帯域幅に達する複数の光搬送波によって信号が伝送されるのに対し,従来のシングルチャネル検出器は電気的帯域幅が制限されているため,この広帯域の光信号を一括して検出することができなかった。このような超広帯域のマルチキャリア光信号を検出するためには,一般的に,この光信号を光学的に低速なサブチャネルへと多重分離する必要がある。例えば,マルチキャリア光信号に含まれる各サブチャネルを分波分離するための方法として,光高速フーリエ変換(FFT)又はこれと同等のフィルタ回路を用いることが考えられる。しかしながら,これらの光高速フーリエ変換(FFT)や光チャネル選択フィルタに関する技術は未だ研究開発段階にあり,現実的には光マルチキャリア伝送への応用は実現されていない。
【0007】
そこで,本発明は,複雑な全光信号処理技術や光高速フーリエ変換等に依存せずに,電気的帯域限界を超えた超広帯域光信号の一括計測を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者は,上記の従来技術の問題を解決する手段について鋭意検討した結果,検出対象である光信号と光周波数コム発生器から出力される光周波数コム(ローカルコム)とを光混合器において混合し,その混合信号を検出するという光多周波ミキシング検出技術を応用することとした。すなわち,本発者は,検出対象である光信号に時間遅延を与えて時間調整し,この時間調整された光信号列のそれぞれが,光混合器において光周波数コムと異なるタイミングで光混合されるように時間調整を行った上で,光信号列と光周波数コムとを光混合して,その混合信号を順次光検出するという構成を発案した。そして,本発明者は,上記知見に基づけば,複雑な全光信号処理技術や光高速フーリエ変換等に依存せずに,電気的帯域限界を超えた超広帯域光信号の一括計測が可能になることに想到し,本発明を完成させた。
【0009】
本発明の第1の側面は,光検出装置に関する。
本発明に係る光検出装置は,時間遅延調整手段10と,光周波数コム発生器20と,光混合器30と,光検出器40と,を備えている。
時間遅延調整手段10は,検出対象である光信号が入力され,この光信号の遅延時間を調整する。
光周波数コム発生器20は,光周波数コム(ローカルコム)を発生させる。
光混合器30は,時間遅延調整手段10から順次出力される時間調整された光信号列と,光周波数コム発生器20から出力される光周波数コム信号とを光混合する。
光検出器40は,光混合器30から出力される混合信号を検出する。
そして,上記の時間遅延調整手段10は,時間調整された光信号列のそれぞれが,光混合器30において光周波数コムと異なるタイミングで光混合されるように時間調整を行う。
【0010】
上記構成のように,本発明の光検出装置は,検出対象である光信号を時間遅延調整手段10に入力し,光混合器30に到達するタイミングの異なる複数の光信号列(周波数や強度は一定)を生成する。そして,光混合器30において,時間調整された光信号列のそれぞれに,同じ光周波数コムを順次混合していく。このとき,各光信号列が光混合器30に到達するタイミングは少しずつ異なっているため,各光信号列と光周波数コムの相対的な時間遅延(時間差)も少しずつ異なっている。ここで,光信号列と光周波数コムとが混合されると,光信号列の振幅と位相とが一致した部位にサンプリング点が形成されて,この光信号列のサンプリング点が光検出器で検出される。このようなサンプリング点における光検出を,複数の光信号列のそれぞれについて行う。このように,検出対象である光信号の全帯域をカバーすることのできる光周波数コムを発生させて,この光周波数コムを時間調整された光信号列のそれぞれに混合して光検出を順次行っていくことで,最終的には,検出対象である光信号の全体域について周波数や波形などの光情報を検出し,測定することができる。これにより,本発明の光検出装置は,電気的帯域限界を超えた超広帯域の光信号であっても,一括且つ連続的に光検出を行うことができる。
【0011】
本発明の光検出装置において,時間遅延調整手段10は,時間ゲートスイッチ11と,ループ型光ファイバ遅延器12と,を有することが好ましい。
時間ゲートスイッチ11は,検出対象となる光信号のうちの所定時間領域内の光信号列を取得して光混合器30へと出力する。
ループ型光ファイバ遅延器12は,時間ゲートスイッチ11により取得されなかった光信号を循環させることで時間遅延を与えて再び時間ゲートスイッチ11に入力する。
【0012】
上記のように,時間ゲートスイッチ11とループ型光ファイバ遅延器12を用いることで,光信号列が光混合器30に到達するタイミングを適切に調整することができる。
【0013】
本発明の光検出装置において,光検出器は,混合信号に含まれる光信号列成分の周波数と光周波数コム成分の周波数の周波数差を検出して,当該周波数差を周波数とする電気信号を得るものであることが好ましい。
【0014】
上記構成のように,混合信号に含まれる光信号列成分と周波数コム成分の周波数差に基づいて電気信号を得ることにより,検出対象である光信号と比較して,高度に帯域圧縮された電気信号を得ることができる。このため,検出対象の光信号の帯域幅が光検出器によって検出可能な帯域幅の限界を超えている場合であっても,この光検出器によって帯域幅の広い光信号を一括して取得することができる。
【0015】
本発明に係る光検出装置において,時間遅延調整手段10から出力される光信号列が入力する光混合器30と,光混合器30から出力される混合信号が入力する光検出器40は,それぞれ一つであることが好ましい。
【0016】
超広帯域の光信号を検出する場合に,光混合器や,光検出器,光周波数コム発生器などをそれぞれ複数ずつ設けることで,光信号の全帯域をカバーすることも可能である。しかし,光混合器や光検出器等を複数個設けると,光検出装置の受信部分が大型化してしまう。そこで,本発明の光検出装置では,光混合器30と光検出器40とがそれぞれ1つずつ設けられた簡易な構成で,超広帯域の光信号の検出を実現することが好ましい。この点,本発明の光検出装置は,時間遅延調整手段10によって,光信号列が光混合器30に順番に導入されるようにタイミングを調整しているため,一つの光混合器30と光検出器40とによって,超広帯域の光信号を一括して取得することができる。
【0017】
本発明の第2の側面は,光検出方法に関する。
本発明に係る光検出方法は,
検出対象である光信号を時間遅延調整手段10に入力する工程と,
光周波数コム発生器20によって光周波数コムを発生させる工程と,
時間遅延調整手段10から順次出力される時間調整された光信号列と,光周波数コム発生器20から出力される光周波数コム信号とを,光混合器30において光混合する工程と,
光検出器40によって光混合器30から出力される混合信号を検出する工程と,を含む。
ここで,時間遅延調整手段10は,時間調整された光信号列のそれぞれが,光混合器30において光周波数コムと異なるタイミングで光混合されるように時間調整を行う。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば,複雑な全光信号処理技術や光高速フーリエ変換等に依存せずに,電気的帯域限界を超えた超広帯域光信号の一括計測を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0021】
[1.基本原理]
図1は,本発明に係る光検出装置及び光検出方法の原理を模式的に示している。また,
図2は,光検出装置の機能ブロックを示している。まず,
図1及び
図2を参照して,本発明の基本原理について説明する。
図2に示されるように,光検出装置100は,時間遅延調整手段10と,光周波数コム発生器20と,光混合器30と,光検出器40と,を備えている。
【0022】
時間遅延調整手段10には,検出対象である光信号が入力される。本発明の光検出装置100では,超広帯域の光信号を検出することが可能である。例えば,超広帯域の光信号の例としては,m値PSK信号や,m値QAM信号,その他のマルチキャリア信号が挙げられる。例えば,時間遅延調整手段10に入力される光信号の帯域は,光検出器40によって検出可能な帯域限界の2倍以上であってもよく,4倍,8倍,又は10倍以上であってもよい。このように,本発明の光検出装置100は,光検出器40の検出限界を超えた帯域を持つ光信号であっても,検出・測定することが可能である。
【0023】
図1及び
図2に示されるように,光信号は,時間遅延調整手段10に入力されると,時間遅延が与えられて,異なった時間で,時間遅延調整手段10から順次出力される。例えば,
図1に示した例では,時間遅延調整手段10から出力された複数組の光信号列は,それぞれ,t1,t2,…tnの時間遅延が与えられている。また,
図2に示されるように,時間遅延調整手段10の出力先には,光混合器30が設けられている。つまり,時間遅延調整手段10から出力された複数組の光信号列は,それぞれ,異なるタイミングで,光混合器30に到達する。
【0024】
図2に示されるように,光混合器30は,時間遅延調整手段10からの出力と光周波数コム発生器20からの出力とを光混合するものである。光周波数コム発生器20は,光周波数コム(ローカルコム)を連続的に発生させている。光周波数コムは,等間隔の周波数差を有する複数の光周波数成分により構成されている。このため,時間遅延調整手段10によって時間調整された複数組の光信号列は,光混合器30に到達すると,それぞれ異なるタイミングで光周波数コムと光混合される。このとき,各光信号列が光混合器30に到達するタイミングは少しずつ異なっているため,各光信号列と光周波数コムの相対的な時間遅延(時間差)も少しずつ異なっている。
【0025】
図1に示した原理では,各光信号列に光周波数コムを混合していくことで,各光信号列を波長領域で分解する。つまり,
図1に示したように,各光信号列を波長分解する場合には,ローカルコムの波長を時間に対してシフトさせることにより,光信号列のそれぞれについて異なる周波数成分をサンプリング検出していく。ローカルコムの波長をシフトさせることで,光信号列の全体域をカバーすることができる。複数の光信号列のそれぞれに光周波数コムが混合されていくこととなるが,
図1に示されるように,これらの光信号列に混合される複数の周波数コムは,それぞれ,時間的にみると,少しずつ中心波長が異なっている。従って,光信号列と光周波数コムとが混合されると,光信号列と光周波数コムの振幅及び位相が一致した部位にサンプリング点が形成される。これにより,
図1に示されるように,各光信号列は,少しずつ異なる帯域においてサンプリング点が抽出される。また,すべての光信号列のサンプリング点を集積すると,測定対象となる超広帯域の光信号の全体域をカバーするものとなる。
【0026】
また,
図1に示されるように,一つの光信号列からは幾つかのサンプリング点のみが抽出されているため,光信号列ごとのサンプリング点をまとめると,その帯域は,元の光信号の帯域と比較して高度に圧縮されたものとなる。また,複数組の光信号列は,それぞれ,異なるタイミングで光検出器40に到達する。このため,光検出器30は,帯域圧縮された光信号列を順次検出していくことができる。つまり,光検出器30は,超広帯域の光信号を同時に検出する必要がなく,帯域圧縮された複数の光信号列を順番に連続的に検出していけば済むこととなる。このように,測定対象となる超広帯域の光信号は,時間遅延調整手段10と,光混合器30(光周波数コム発生器20)とを通過することで,波長領域で分解されて,且つ,高度に帯域圧縮された状態で,光検出器40に導入される。従って,超広帯域の光信号を検出する場合であっても,光検出器40としては,既存の低速の光検出器を用いることができる。
【0027】
その後,測定対象の光信号は光検出器40によって電気信号に変換される。光信号は,複数組の光信号列に分解され,且つ,帯域圧縮されたものであるが,電気信号に変換された後に,所定のアルゴリズムで解析することにより,分解・圧縮される前の状態(超広帯域の状態)に再構築される。再構築のためのアルゴリズムは適宜設計すればよい。再構築された超広帯域の電気信号は,その後,測定対象となる光信号の波形等を解析するための信号として用いられる。これにより,本発明の光検出装置100によれば,超広帯域の光信号の全帯域を連続的に一括取得し,その波形等の光情報を解析することができる。解析された波形等の情報は,公知のディスプレイ装置などに表示することができる。
【0028】
図3は,本発明に係る光検出装置及び光検出方法の応用例を模式的に示している。つまり,時間遅延調整手段10から順次出力される光信号列と光周波数コムを混合して,この光信号列を分解する方法としては,上記したように波長領域で分解する方法(
図1参照)の他に,時間領域で分解する方法と,時間−周波数領域で分解する方法が考えられる。この
図3では,特に,時間−周波数領域で分解する方法の例を示している。
【0029】
図3に示されるように,時間−周波数領域で分解する方法において,時間遅延調整手段10によって各光信号列が光混合器30に到達するタイミングを異ならせる点は,上記した波長領域で分解する方法(
図1参照)と同様である。他方,時間−周波数領域で分解する方法では,上記した波長領域で分解する方法とは異なり,光周波数コム(ローカルコム)の波長は,時間に対して固定されていてもかまわない。つまり,光周波数コムの波長は,常に一定であってもよい。ただし,時間−周波数領域で分解する方法では,各光信号列と混合される各光周波数コムの位相関係が,互い直交関係にあることが必要である。互いに直交関係にある光周波数コムとは,二つの光周波数コム間で多周波ミキシング(光混合)を行い,その光周波数コムの周波数間隔の半分の値以下の十分狭帯域なローパスフィルタを通した場合に,その出力レベルが0となる(限りなく0に近づく)関係を意味するといえる。
図4は,光周波数コムが直交した位相関係を持つ場合の例を示している。
図4の左側は,光周波数コムを構成する光周波数成分が2本である場合を示し,
図4の右側は,光周波数コムを構成する光周波数成分が3本である場合を示している。つまり,
図4の左側は,2本の光周波数成分で構成された2つの光周波数コムが,互いに位相直交関係にある状態を示している。また,
図4の右側は,3本の光周波数成分で構成された2つの光周波数コムが,それぞれ位相直交関係にある状態を示している。
【0030】
図3に示したように,各光信号列と混合される各光周波数コムの位相関係を互いに直交状態に維持することで,各光信号列を時間−周波数領域で分解することができる。このようにして,光信号列ごとに,複数のサンプリング点が得られる。サンプリングされた光信号列の帯域は,元の光信号の帯域と比較して高度に圧縮されたものとなる。また,複数組の光信号列は,それぞれ,異なるタイミングで光検出器40に到達する。このため,光検出器30は,帯域圧縮された光信号列を順次検出していくことができる。つまり,光検出器30は,超広帯域の光信号を同時に検出する必要がなく,帯域圧縮された複数の光信号列を順番に連続的に検出していけば済む。従って,超広帯域の光信号を検出する場合であっても,光検出器40としては,既存の低速の光検出器を用いることができる。
【0031】
[2.実施形態]
[2−1.実施形態の全体構成]
次に,
図5を用いて,本発明に係る光検出装置100の一実施形態について説明する。
図5は,上述した基本原理を利用した光検出装置100の構成を示している。
図5に示されるように,本実施形態では,検出対象の光信号として,マルチキャリア光信号が光検出装置100に入力される。
図5は,マルチキャリア光信号の例として,複数のQPSK信号を周波数軸上に等間隔で配置したOFDM(直交周波数分割多重:Orthogonal Frequency-Division Multiplexing)方式の信号を示している。本発明の光検出装置100は,OFDM−QPSK信号のような広帯域の光信号を検出することが可能である。
【0032】
図5に示されるように,本実施形態に係る光検出装置100は,時間遅延調整手段10と,光周波数コム発生器20と,光混合器30と,光検出器40と,ローパスフィルタ41,A/D(アナログ/デジタル)変換器42と,S/P(シリアル/パラレル)変換器43と,を有している。また,光周波数コム発生器20と,光混合器30と,光検出器40によって,光多周波ミキシング検出器が構成されている。
【0033】
測定対象のマルチキャリア光信号は,まず,時間遅延調整手段10に入力される。本実施形態において,時間遅延調整手段10は,時間ゲートスイッチ11とループ型光ファイバ遅延器12によって構成されている。時間ゲートスイッチ11は,入力されたマルチキャリア光信号のうちの所望の時間領域を取り出すものであり,必要とする時間領域の光信号を通過させて,残りの時間領域の光信号を通過させないように制御されている。このため,マルチキャリア光信号が時間ゲートスイッチ11に入力されると,時間ゲートスイッチ11は,このマルチキャリア光信号から所定時間領域内に属する光信号列を取得して後段の光混合器30へと送出する。他方,時間ゲートスイッチ11によって取得されなかったマルチキャリア光信号は,ループ型光ファイバ遅延器12に導入される。ループ型光ファイバ遅延器12は,例えば50m〜1000mのシングルモード光ファイバ(SMF)を多重にループさせた構成を有している。ループ型光ファイバ遅延器12に導入されたマルチキャリア光信号は,ループ構造内を循環することで所定時間の遅延が与えられて,再び時間ゲートスイッチ11に入力される。ループ内を循環したマルチキャリア信号が時間ゲートスイッチ11に入力されると,時間ゲートスイッチ11は,再度,このマルチキャリア光信号から所定時間領域内に属する光信号列を取得して後段の光混合器30へと送出する。他方,時間ゲートスイッチ11によって取得されなかったマルチキャリア光信号は,再びループ型光ファイバ遅延器12へと導入される。このようなループ循環を繰り返し行うことで,時間ゲートスイッチ11は,光混合器30へと出力する各光信号列の時間調整を行う。これにより,時間遅延調整手段10において,測定対象のマルチキャリア光信号は時間調整された複数組の光信号列に分解される。時間調整された複数組の光信号列は,それぞれ,光混合器30に到達するタイミングが異なるものとなる。なお,光信号の遅延器は,ループ型光ファイバ遅延器に限られず,公知の遅延器を適宜用いることができる。
【0034】
一方,光周波数コム発生器20は,光周波数コムを生成する。光周波数コムは,周波数間隔が等間隔に配置された複数の光周波数成分からなる信号である。光周波数コム発生器20によって生成された光周波数コムは,ローカルコムとも呼ばれる。光周波数コム発生器20によって生成された光周波数コムは,光混合器30に入力されて,時間遅延調整手段10によって時間調整された光信号列と光混合される。光周波数コム発生器20は,マッハツェンダ型光変調器を利用した構造であり,光強度が一定の平坦な光周波数コムを生成可能なものであることが好ましい。光検出装置100において,各光信号列を波長領域で分解する場合には,光周波数コム発生器20は,ローカルコムの波長を時間に対してシフトさせて,光信号列の全体域をカバーできるようにする(
図1参照)。他方,光検出装置100において,各光信号列を時間−周波数領域で分解する場合には,時間光周波数コム発生器20は,ローカルコムの波長を時間に対して一定としていてもよい(
図3参照)。ただし,時間−周波数領域での分解を行う際には,各光信号列と混合される各光周波数コムの位相関係が,互い直交関係にあることが好ましい。なお,光周波数コム発生器20は,その他公知のコム発生器によって構成することができる。光周波数コム発生器20の好ましい形態の詳細については後述する。
【0035】
上述ように,光混合器30の一方の入力ポートには,時間調整された複数組の光信号列が順番に入力され,光混合器30の他方の入力ポートには,光周波数コムが入力される。各光信号列は,光混合器30において光周波数コムと光混合されることで,波長領域又は時間−周波数領域においてサンプリングされる。また,複数組の光信号列は,それぞれ,時間調整手段10によって,光混合器30に到達するタイミングが少しずつ異なるように時間調整されている。このため,時間調整された光信号列はそれぞれ,光混合器30において光周波数コムと異なるタイミングで光混合される。その結果,複数組の光信号列は,それぞれ,光周波数コムによって異なる点でサンプリングされる。このように,測定対象の光信号と光周波数コムを混合して高帯域幅の光サンプリングを行う技術を,ここでは多周波ミキシング検出と称している。そして,光周波数コムが測定対象であるマルチキャリア光信号の全帯域幅をカバーするものであれば,各光信号列と光周波数コムを混合することで得られた各サンプリング点を集積することにより,マルチキャリア光信号の全体域を取得することが可能となる。各光信号列のサンプリング点を集積することで,測定対象であるマルチキャリア信号に含まれるサブキャリア(d
1,d
2,d
n)のそれぞれに対応したサブチャネル(Ch.1,Ch.2,Ch.n)を得ることが可能である。
【0036】
時間調整された光信号列と光周波数コムが光混合器30で混合されると,その混合信号は光検出器40に入力される。光検出器40は,光信号である混合信号から電子信号を生成する。本実施形態において,測定対象のマルチキャリア光信号は,QPSK信号によって形成されている。このため,光検出器40としては,QPSK信号を適切に復調することのできるバランスド検出器が用いられる。QPSK信号を復調するためのバランスド検出器は,公知のものを用いることができる。例えば,バランスド検出器は,光混合器30(90°ハイブリッドカプラ)から出力された混合信号のうち,I(In−phase)成分に対応した電気信号を得る第1のバランスド検波部40aと,Q(Quadrature)成分に対応した電気信号を得る第2のバランスド検波部40bを有する。第1のバランスド検波部40aは,混合信号のうち位相が0°の成分と位相が180°の成分とをバランスド検波して,光信号から電気信号に変換することで,I成分に対応した電気信号を得る。また,第2のバランスド検波部40bは,混合信号のうち位相が90°の成分と位相が−90°の成分とをバランスド検波して,光信号から電気信号に変換することで,Q成分に対応した電気信号を得る。
【0037】
本発明では,光信号と光周波数コムとを混合した光サンプリングによって光検出する光多周波ミキシング検出技術を利用することで,広帯域の光信号を,帯域圧縮して,低速のRF周波数を有する電気信号にダウンコンバートすることができる。つまり,光検出器40は,光混合器30に入力された光信号と周波数コムとの周波数差をとることで,この周波数差をRF周波数とした電気信号を得ることができる。光多周波ミキシング検出技術の詳細については後述する。
【0038】
光検出器40によって得られた電気信号は,ローパスフィルタ41によって不要なノイズ成分が除去された後,A/D変換器に入力されてデジタル信号へと変換される。デジタル信号は,S/P変換器によって,シリアル伝送からパラレル伝送に変換された後,各信号成分がMIMO検出器44へと入力される。例えば,MIMO検出器44には,マルチキャリア光信号の各サブキャリア(d
1,d
2,d
n)に対応した各サブチャネル(Ch.1,Ch.2,Ch.n)の電気信号が,パラレルに入力される。このようにして,マルチキャリア信号光信号から多重分離されたサブチャネルを得ることができる。MIMO検出器44においてサブチャネルを分離することで,受信信号に含まれるサブチャネル間の残留したクロストークをキャンセルすることができる。その後,各サブチャネルを解析することで,マルチキャリア光信号の波形や位相などの光情報の測定結果を得ることができる。
【0039】
次に,時間遅延調整手段10における好ましい時間遅延の設定について説明する。
図5に示されるように,測定対象のマルチキャリア信号は,光多周波ミキシング検出器(20,30,40)の前に,時間ゲート11とループ型光ファイバ遅延器12を備えた時間遅延調整手段10に入力される。時間ゲート11とループ型光ファイバ遅延器12により時間調整された光信号列は,異なるタイミングで,光多周波ミキシング検出器の光混合器30の入力ポートに到達する。
【0040】
ここで,各光信号列を時間−周波数領域で分解する場合には,時間調整されたそれぞれの光信号列に混合される光周波数コムの直交性を維持するために,ループ型光ファイバ遅延器12での時間遅延は,(m+i/n)/B[秒]に設定されていることが好ましい。Bは,多重化された光信号を構成する各サブチャネルのシンボルレート[sps:symbol/秒]である。mは,任意の整数である。nは,多重化されたサブチャネルの数である。iは,時間調整された光信号列の順番(順序番号)である。このような条件においては,時間調整されたi番目の光信号列と光周波数コム(ローカルコム)との相対的な時間遅延(時間差)は,i/(nB)で表される。結果として,時間調整された光信号は,互いに直交した位相関係を持つローカルコムを利用して,光検出器において多周波ミキシング検出される。
【0041】
上記の条件を満たすように,各光信号列に時間遅延を与えることで,各光信号列が適切なタイミングで光混合器30に到達するようになるため,ローカルコムを生成する光周波数発生器20の精密な制御が不要になる。例えば,光周波数発生器20からローカルコムを発生させるときに,このローカルコムの位相状態を逐次調整するような制御が不要になる。また,ローカルコムを構成する光周波数成分のそれぞれの位相は任意の位相であってもよく,必ずしも全ての光周波数成分の位相を揃える(例えばゼロとする)必要がない。このため,一つの光周波数発生器20のみによって十分に対応することができる。さらに,上記の条件を満たすように各光信号列に時間遅延を与え,時間調整された各光信号列にローカルコムを混合して光検出を行うことで,全ての光信号列の振幅と位相とを一括的に取得することができる。
【0042】
また,全てのサブチャネルは,デジタル信号処理を利用して,多周波ミキシング検出された光信号列にn×nの行列を適用することによって,n組の光信号列から多重分離して取得することができる。また,マルチキャリア光信号の種類(変調の種類)に応じて行列要素を適切に選択することで,この時間遅延調整手段10を有する光検出装置100は,nf[Hz]帯域幅内のどのような種類のマルチキャリア信号であっても検出することができる。また,サブチャネル間のクロストークをキャンセルするMIMO等化技術により,行列要素が適応的に更新されるというメリットもある。さらに,本発明の検出方式は,多重分離の際に光高速フーリエ変換(FFT)や光チャネル選択フィルタに依存するものではないため,波長検出性能が低い一般的な光検出器を用いて,超広帯域の光信号を一括的に検出することが可能である。
【0043】
[2−2.光周波数コム発生器]
続いて,光周波数コム発生器20の好ましい形態について具体的に説明する。
図6は,光周波数コム発生器20の概略図である。
図6に示されるように,本発明の光検出装置100において,光周波数コム発生器20は,マッハツェンダ型光変調器を利用したものであることが好ましい。このような光周波数コム発生器20は,例えば,特開2007−248660号に開示されたものを採用することができる。ただし,本発明に係る光検出装置100において,光周波数コム発生器20としては,光周波数コムを発生させることができるものであれば,公知のコム発生器を適宜採用することができる。
【0044】
図6に示されるように,光周波数コム発生器20は,導波路部分21と,駆動信号系22と,バイアス信号系23とを備えている。
導波路部分21は,入力部21aと,分岐部21bと,第1の導波路21cと,第2の導波路21dと,合波部21eと,出力部21fとを含む。まず,入力部21aに光信号が入力されて,光信号は分岐部21bにおいて分岐される。第1の導波路21cは,分岐部21bにおいて分岐された一方の光信号が伝搬し,第2の導波路21dは,分岐部21bにおいて分岐した他方の光信号が伝搬する。合波部21eでは,第1の導波路21cと第2の導波路21dから出力される光信号が合波され,合波された光信号は出力部21fから出力される。また,駆動信号系22は,第1の導波路21cを駆動する第1の駆動信号22aと,第2の導波路21dを駆動する第2の駆動信号22bとを生成する。また,バイアス信号系23は,第1の導波路21c及び第2の導波路21dに印加するバイアス信号23a,23bを生成する。
【0045】
そして,駆動信号系22及びバイアス信号系23は,第1の駆動信号22a,第2の駆動信号22b,及びバイアス信号23a,23bが,下記式(I)を満たすように駆動することが好ましい。
ΔA+Δθ=π/2 (I)
【0046】
上記式(I)において,ΔA及びΔθは,それぞれ,ΔA≡(A
1−A
2)/2,及びΔθ≡(θ
1−θ
2)/2と定義される。A1及びA2は,それぞれ,第1の駆動信号22a及び第2の駆動信号22bの電極への入力時における第1の駆動信号22a及び第2の駆動信号22bに誘導される光位相シフト振幅を示している。θ
1及びθ
2は,それぞれ,第1の導波路21c及び第2の駆動信号22b内で光路長差及びバイアス信号により誘導される光位相シフト量を示している。
【0047】
すなわち,光周波数コム発生器20は,上記式(I)の条件を満たすように,第1の駆動信号22a,第2の駆動信号22b,及びバイアス信号23a,23bを駆動する駆動信号系22とバイアス信号系23とを具備するものである。そして,駆動の制御は,信号系に含まれるか信号系に取り付けられたコンピュータなどの制御部で制御すればよい。
【0048】
図6に示されるように,光周波数コム発生器20は,マッハツェンダ型光変調器を利用したものであり,原理的には,導波路と駆動信号を印加する電極とにより構成される2つの位相変調器を組み合わせた構造となっている。そして,上記式(I)を満たすように,駆動信号系22及びバイアス信号系23を駆動することにより,導波路部分21の合波部21eにおいて合波される2つの位相変調器からの光信号が互いに補い合うこととなる。このため,光周波数コム発生器20は,平坦なスペクトル特性を有する光周波数コムを安定的に得ることができる。
【0049】
また,光周波数コム発生器は,上記式(I)の代わりに,下記式(II)を満たすように駆動するものであってもよい。
ΔA=Δθ=π/4 (II)
【0050】
上記(II)において,ΔA及びΔθの定義は,上記(I)と同義である。このように,光周波数コム発生器20は,上記式(II)に従って,第1の駆動信号22a,第2の駆動信号22b,及びバイアス信号23a,23bを駆動する駆動信号系22とバイアス信号系23を具備するものであってもよい。式(II)のように駆動すれば,光周波数コム発生器は,平坦なスペクトル特性を有する光周波数コムを効率よく得ることができる。
【0051】
また,光周波数コム発生器は,上記(I)と(II)の式の定義において,第1の駆動信号22aの振幅(A
1)と第2の駆動信号22bの振幅(A
2)は,異なるものであることが好ましい。
【0052】
その他,上記光周波数コム発生器の具体的な設計理論や製造方法は,特開2007−248660号に開示されている。本発明の光検出装置において,この文献に開示された光周波数コム発生器の構成を適宜採用することができる。
【0053】
また,光周波数コムは,等間隔の周波数差を有する複数の光周波数成分により構成されている。また,光周波数コムは,平坦なスペクトル特性を持つこと,すなわち,それぞれの光周波数成分が等しい光強度を持つことが理想的である。他方,光周波数コムは,必ずしも,各光周波数成分の位相が全て一致している必要はない。つまり,光周波数コムを構成する各周波数成分は,任意の位相を有していてもよい。ここで,光周波数コムという概念には,各光周波数成分の位相が全て一致している光パルスが含まれる。光パルスは,光周波数コムの好ましい形態の一つである。光周波数コム発生器20は,このような光パルス(各光周波数成分の位相が全て一致している光周波数コム)を発生させるものであってもよい。
【0054】
光検出装置100において,各光信号列を波長領域で分解する場合には,光周波数コム発生器20は,ローカルコムの波長を時間に対してシフトさせて,光信号列の全体域をカバーできるようにする(
図1参照)。他方,光検出装置100において,各光信号列を時間−周波数領域で分解する場合には,時間光周波数コム発生器20は,ローカルコムの波長を時間に対して一定としていてもよい(
図3参照)。ただし,時間−周波数領域での分解を行う際には,各光信号列と混合される各光周波数コムの位相関係が,互い直交関係にあることが好ましい。
【0055】
[2−3.光多周波ミキシング検出器]
図7は,光検出器40の好ましい形態について具体的に説明する。本発明では,上述した光周波数コム発生器20,光混合器30,及び光検出器40によって,光多周波ミキシング検出器を実現している。ここにいう光多周波ミキシングとは,検出対象となる光信号と局所的に生成された光周波数コム(ローカルコム)とを混合(ホモダイン混合)することにより,波長領域又は時間−周波数領域で高帯域幅の光サンプリングを可能にする検出技術である。ここでは,連続波(CW)光源又はパルス光源の代わりに,局部発振器として,矩形スペクトル特性を有する光周波数コムを用いて,波長領域又は時間−周波数領域における光信号のサンプリング点を取ることとしている。光多周波ミキシング検出器において,超広帯域の光信号は,帯域圧縮されて,低速のRF周波数を有する電気信号にダウンコンバートされる。
【0056】
図7に示されるように,光多周波ミキシング検出に関するシステムは,光周波数コム発生器20と,光混合器30と,光検出器40(低速フォトダイオード)とを備える。また,このシステムは,さらに,包絡線検出器41と,RFローパスフィルタ42と,RF検出器43を備えていることが好ましい。
【0057】
図7に示されるように,光混合器30には,検出対象である光信号(ターゲット信号)と光周波数コム発生器20から出力された光周波数コム(ローカルコム)とが入力される。ここで,本発明の光検出装置100において,ターゲット信号は,時間遅延調整手段10によって,光混合器30に到達する時間が調整された光信号列であるということができる。つまり,本発明の光検出装置100では,検出対象である光信号が,まず時間遅延調整手段10に入力されて,光混合器30に到達するタイミングの異なる複数の光信号列(周波数や強度は一定)が生成される。そして,時間調整された光信号列のそれぞれは,光混合器30において,光周波数コムと順次混合されていくこととなる。
【0058】
光混合器30では,周波数f[Hz]の繰り返し率を有するターゲット信号が,周波数f−Δf[Hz]の周波数間隔を有するローカルコムと光混合される。ここで,Δfは任意に設定可能であるが,Δf<<fであることが好ましい。そして,ターゲット信号とローカルコムの混合波が光検出器40(フォトダイオード)によって検出されると,これらの混合波は周波数の低い中間周波数(IF)へダウンコンバートされる。ここで,ローカルコムはスペクトル的に強度が等しいものであるため,ターゲット信号の周波数成分毎のヘテロダイン変換効率は等しくなる。従って,ターゲット信号のスペクトルの複製がIF帯域において電気信号として生成されているが,この電気信号の周波数間隔は,ターゲット信号の周波数間隔から高度に圧縮されたΔfとなる。このように,光検出器40は,光混合器30で混合されたターゲット信号の周波数とローカルコムの周波数の周波数差を検出して,この周波数差をRF周波数とするIF信号を得ることができる。
【0059】
さらに,ローカルコムの各周波数モード間の位相差Δφiがゼロに設定されている場合,ターゲット信号の各周波数モード間の位相関係も維持される。また,光検出器40によって得られたIF信号は,包絡線検出器41に入力される。包絡線検出器41では,ターゲット信号の波形と類似性の高い包絡線を取り出すことができる。
【0060】
上記のように,IF信号の繰り返し率はΔfであり,このΔfは,元となるターゲット信号の繰り返し率fと較べて遥かに遅いものとなる。従って,ターゲット信号が光検出器40(低速のフォトダイオード)によって検出可能な帯域幅の限界を超えた超高速波形を有している場合であっても,光多周波ミキシング検出を利用することで,この光検出器40によって検出することが可能となる。さらに,この技術では,包絡線検波を行うことで,ターゲット信号とローカルコムとの光位相差の不確実性をキャンセルすることができるため,ターゲット信号やローカルコムの光位相を固定する必要がないというメリットがある。つまり,ターゲット信号やローカルコムを構成する光成分がどのような位相差を有する場合であっても,汎用的なフォトダイオードによって,振幅と位相差を一括して取得できる。ローカルコムは,完全な光パルス(各光周波数成分の位相が全て一致している光周波数コム)である必要ない。ローカルコムを構成する光周波数成分は,それぞれ任意の位相とすることができる。
【0061】
また,
図7に示されるように,光検出器40により取得されたIF信号は,ローパスフィルタ42を介して残留する不要なノイズ成分が除去された後,RF検出器43に入力される。RF検出器43は,IF信号の信号波形に基づいて,ターゲット信号の信号波形を復元する。特に,本発明の光検出装置100では,時間遅延調整手段10によって時間調整された複数の光信号列が,異なるタイミングで光混合器30に順次入力されて,光検出器40によってIF信号に変換される。このため,RF検出器43は,複数のターゲット信号の信号波形に基づいて,時間遅延調整手段10に入力された最初の光信号の信号波形を復元する。なお,時間調整された複数のターゲット信号から最初の光信号の信号波形を復元するアルゴリズムは,適宜設計することができる。
【0062】
ここで,ローカルコムを生成する光周波数コム発生器20は,以下の条件を満たすように駆動することが好ましい。(1)まず,ローカルコムを構成する各周波数成分は,互いに位相差がゼロ(Δφi=0)であり,周波数間隔が等間隔であることが好ましい。(2)また,ローカルコム信号を構成する各周波数成分は,光強度が全て等しいことが好ましい。(3)さらに,ローカルコム信号の中心周波数(波長)と周波数間隔は,柔軟に任意に制御可能であることが好ましい。このような条件を満たす光周波数コム発生器20としては,上述したマッハツェンダ型光変調器を利用した光周波数コム発生器20を用いることができる。つまり,マッハツェンダ型の光周波数コム発生器20は,電気光学超平坦周波数コム発生器として機能するものであり,多重周波数局部発振器として用いるのに適している。上述のとおり,マッハツェンダ型の光周波数コム発生器20は,スペクトルの平坦性が高い優れた光周波数コムを安定して生成することが可能であるとともに,得られる光周波数コムの中心周波数(波長)と周波数間隔とを柔軟に制御することができる。また,この光周波数コム発生器20によれば,サブテラヘルツの帯域幅を有する超平坦周波数コムを生成することも可能である。従って,ピコ秒周辺の時間分解能を発揮することも期待できる。
【0063】
上述したように,各光信号列を時間−周波数領域で分解する場合(
図3参照)には,時間調整されたそれぞれの光信号列に混合される光周波数コムの直交性を維持するために,ループ型光ファイバ遅延器12での時間遅延が,(m+i/n)/B[秒]に設定されていることが好ましい。このように時間遅延を設定することで,光周波数コムの各周波数モード間の位相差Δφiがゼロでない場合であっても,各光信号列に混合される光周波数コムそれぞれの直交関係が確保され,時間−周波数領域で分解が可能となる。その結果,光周波数コム発生器20から出力される光周波数コムの波長(中心波長)を,時間に対してシフトさせるといった操作が不要となる。
【0064】
また,上記のように,ローカルコムとしては,任意の位相差Δφiの値を持った光周波数コムを適用できるため,完全な光パルス(各光周波数成分の位相が全て一致している光周波数コム)を用いる必要がない。このため,本発明によれば,複雑な光パルスに依存せずに,より簡易な構成での光検出装置(オシロスコープ)を提供することができる。
【0065】
[3.実施例]
続いて,
図8〜
図11を参照して,本発明に係る光検出装置の実施例について説明する。
図8は,実施例に係る光検出装置の構成を示している。
図8に示された実施例は,
図5に示した光検出装置100の実施例に相当する。
【0066】
本実施例において,送信機側で,4チャネルの時間周波数領域多重(OTFDM:Orthogonal Time-Frequency Domain Multiplexing)信号を発生させた。OTFDM信号の通信速度は4×20Gb/sであった。ここで,「OTFDM信号」とは,OFDMと同等のスペクトル効率を有するマルチキャリア信号である[参考文献:Takahide Sakamoto, Orthogonal Time-Frequency Domain Multiplexing with Multilevel Signaling, Optics Express, Vol. 22, Issue 1, pp. 773-781 (2014) ]。本実施例では,マルチキャリア光信号の一例として,OTFDM信号を発生させて,このOTFDM信号をテスト信号として用いた。
【0067】
送信機側では,まず,光源から出力された連続光(CWレーザー)をマッハツェンダ変調器型の平坦光周波数コム発生器(MZ−FCG)に入力し,18×10GHzの光周波数コム信号を生成した。得られた光周波数コム信号は,後段のマッハツェンダ光変調器に入力され,QPSK形式の光変調が施された。QPSK形式の光変調は,2
15−1のパターン長を有する10ギガボーのシンボルレートであった。ここで,光周波数コム信号に含まれる全ての光成分(コムライン)は,同一のデータストリームで変調されていた。QPSK変調された光周波数コム信号は,40Gb/sの長方形通過帯域を有するバンドパスフィルタでフィルタリングされ,その後,OTFDM信号を生成する遅延ラインベースの4×OTFDMマルチプレクサに導かれた。本実施例では,このような構成によって,40GHzの帯域幅を有する80Gb/sのOTFDM−QPSK信号を生成した。
【0068】
他方,受信機側では,ループ支援型の光多周波ミキシング検出装置を構築した。上記のようにして生成された超広帯域のOTFDM−QPSK信号は,ループ部(時間遅延調整手段)に入力された。ループ部は,500mのシングルモード光ファイバ(SMF)と,光増幅器(EDFA)と,時間ゲートとして機能する超音波光スイッチ(AOMスイッチ)により構成した。検出対象であるOTFDM−QPSK信号は,AOMスイッチを経て,光ファイバのループ部(500m)に入力された。ループ部において,OTFDM−QPSK信号は,1μsのタイミングウィンドウで時間調整(タイムゲート)された後,SMのループ内を8回循環して再調整(時間遅延)された。再循環ループの後,8組の内の4組の光信号列(受信信号)が,100m+25i[ps]のタイミング遅延を与えられて,ハイブリッドカプラの信号ポートに入力された。
【0069】
一方で,上記したものとは別のマッハツェンダ変調器型の平坦光周波数コム発生器(MZ−FCG)を利用して,ローカルコムを生成した。このローカルコムは,ハイブリッドカプラのもう一方のポートに入力される。ローカルコムのコムラインの数は4つであり,これは,80Gb/sのOTFDM−QPSK信号の全帯域幅をカバーするものであった。本実施例における設定では,受信信号(OTFDM−QPSK信号)とローカルコムの間の相対的な光遅延は25i[ps]であり,この値は,マルチキャリアである受信信号とローカルコムの間の直交性を保証している。
【0070】
再循環された受信信号(OTFDM−QPSK信号)は,オフライン信号処理に基づいて,典型的なデジタルホモダイン受信機を使用して,ローカルコムとホモダイン混合された。また,QPSK信号を復調して光検出するために,ハイブリッドカプラの後段には,典型的なバランスド光検出器を実装した。n×nMIMO(4×4MIMO)は,受信信号に含まれるサブチャネル間の残留したクロストークをキャンセルするために実装した。
【0071】
図9(a)は,4×20Gb/sのOTFDM−QPSK信号の光スペクトルを示している。また,
図9(c)は,4つのコムライン数を有するローカルコムの光スペクトルを示している。また,
図10は,0.1nmで受信されたOSNRの関数として測定された,多重分離後のチャネルのビットエラーレート特性を示している。所要のOSNR@BER=10e−3は,11.5〜13.5dBであった。この値は,12dBの理論的に期待される所望のOSNRに近いものであった。
図10のように分散する理由は,多重化されたサブチャネルのパワーが不均衡であることが主な原因であると考えられる。
【0072】
また,本実施例では,光検出装置のチャネル選択能力を示すため,
図9(b)に示すように,異なる帯域幅を持つ複数のOTFDMバンドルを搬送するフレキシブルなグリッド信号を測定した。本実施例では,OTFDMバンドル間で4倍の波長帯域を測定した。
図11は,個別に検出された全てのサブチャネルについて測定したコンスタレーションを示している。
図11に示されるように,各サブチャンネルのコンスタレーションは明確に観察されている。従って,本実施例によれば,全てのチャンネルが正常に分離され,重大なクロストークも発生せずに復調されていることを確認することができた。
【0073】
以上のように,本実施例では,マルチキャリア光信号の全てのサブチャネルを同時に測定することが可能な,ループ支援型の並列コヒーレントマッチ検出器が実証された。つまり,本実施例の検出器によれば,4×20Gb/sのOTFDM−QPSK信号を分波して正確に検出することが可能であることが実験的に実証された。
【0074】
以上,本願明細書では,本発明の内容を表現するために,図面を参照しながら本発明の実施例の説明を行った。ただし,本発明は,上記実施例に限定されるものではなく,本願明細書に記載された事項に基づいて当業者が自明な変更形態や改良形態を包含するものである。