特許第6296622号(P6296622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6296622
(24)【登録日】2018年3月2日
(45)【発行日】2018年3月20日
(54)【発明の名称】損傷部治療用組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20180312BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20180312BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20180312BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20180312BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20180312BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20180312BHJP
   C12N 5/0797 20100101ALN20180312BHJP
【FI】
   A61K35/28
   A61P17/02
   A61P1/02
   A61P19/08
   A61P25/28
   A61P27/02
   !C12N5/0797
【請求項の数】6
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2016-8932(P2016-8932)
(22)【出願日】2016年1月20日
(62)【分割の表示】特願2012-507105(P2012-507105)の分割
【原出願日】2011年3月25日
(65)【公開番号】特開2016-65106(P2016-65106A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2016年2月19日
(31)【優先権主張番号】61/437,697
(32)【優先日】2011年1月31日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/410,370
(32)【優先日】2010年11月5日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/317,713
(32)【優先日】2010年3月26日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】特願2011-37028(P2011-37028)
(32)【優先日】2011年2月23日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2010-267962(P2010-267962)
(32)【優先日】2010年12月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】上田 実
(72)【発明者】
【氏名】山田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】蛯沢 克己
(72)【発明者】
【氏名】山本 朗仁
(72)【発明者】
【氏名】酒井 陽
(72)【発明者】
【氏名】松原 弘記
(72)【発明者】
【氏名】服部 宇
(72)【発明者】
【氏名】杉山 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 崇徳
【審査官】 吉田 佳代子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/118795(WO,A1)
【文献】 ARCH.HISTOL.CYTOL.,2009年,VOL.72, NO.1,P.51-64
【文献】 Journal of Hard Tissue Biology,2015年,Vol.24, No.1,P.17-22
【文献】 CYTOTECHNOLOGY,2008年,VOL.58,P.173-179
【文献】 REPRODUCION, FERTILITY AND DEVELOPMENT,2010年,VOL.22,P.353-354,Article.394
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00−35/76
A61K 38/00−38/58
A61L 27/00−27/60
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯髄幹細胞を無血清培養することによって得られた幹細胞培養上清を含み、歯髄幹細胞を含まない損傷部治療用組成物を製造する方法であって、
以下のステップ(1)、(2')及び(3')を含む、損傷部治療用組成物の製造方法:
(1)歯髄細胞から接着性細胞を選抜するステップ;
(2')前記接着性細胞を、前記ステップ(1)に次ぐ培養において、更なる添加物を含まないDMEM/F12を用いて無血清培養するステップ;
(3')前記ステップ(2')の無血清培養の培養上清を回収するステップ。
【請求項2】
前記ステップ(2')が、更なる添加物を含まないDMEM/F12を用いて72時間、無血清培養するステップである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ステップ(1)が、以下のステップ(1')である、請求項1又は請求項2に記載の製造方法:
(1')歯髄細胞を、DMEM、IMDM、ハムF12培地及びRPMI1640培地から選ばれる1種又は2種以上からなる基本培地に成長因子が添加されてなる培地で一次培養し、次いで、DMEM、IMDM、ハムF12培地及びRPMI1640培地から選ばれる1種又は2種以上からなる基本培地に成長因子が添加されてなる培地で1回〜3回継代培養することにより、歯髄細胞から接着性細胞を選抜するステップ。
【請求項4】
前記損傷部治療用組成物が、皮膚の損傷、歯周組織の損傷、骨の損傷、脊髄損傷、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、又は神経細胞の障害を伴う網膜疾患のいずれかの治療に用いるための組成物である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
以下のステップ(4)を更に含む、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の製造方法:
(4)回収した培養上清に対して、遠心処理、濃縮、溶媒の置換、透析、凍結、乾燥、凍結乾燥、希釈、脱塩及び保存からなる群より選択される少なくとも1の処理を行うステップ。
【請求項6】
以下のステップ(a)及び(b)の少なくとも一方を更に含む、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の製造方法:
(a)回収した培養上清について、神経再生阻害物質の存在下での神経突起伸長作用の有無を確認するステップ;
(b)回収した培養上清について、神経細胞に対するアポプトーシス抑制作用の有無を確認するステップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、損傷部治療用組成物、及びこれを用いた治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の医療では治療困難な疾病に対する汎用的な代替技術として、幹細胞を利用した再生医療が注目されている。
幹細胞を用いた再生医療は、全ての難病にとっての新しい臨床プラットフォームにおける有望なツールである。胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、及び体性幹細胞を初めとする種々の幹細胞が報告されている。体性幹細胞のうち、骨髄、脂肪組織、皮膚、臍帯、胎盤等の種々の組織から単離される間葉系幹細胞(MSC)が皮膚再生における臨床的応用に特に用いられてきた。しかし、骨髄穿刺はドナーにとって侵襲性で有痛性の手技である。更に、骨髄幹細胞(BMSC)の数、増殖、及び分化能は年齢の進行と共に低下する
【0003】
再生医療の適用が可能な又は期待される疾病は多く、臨床応用に向けた数多くの研究が行われている。神経疾患、特に脊髄損傷などの難治性神経疾患は、再生医療による治療が期待される疾患の一つである。
【0004】
ヒト胎児やES細胞由来の神経幹細胞を用いた難治性神経疾患の移植治療(例えば特開2002−281962号公報)が現実性のある研究課題として認識されているが、倫理性や安全性に大きな問題を抱えており、実用的な「幹細胞源」については今も模索状態である(例えばKeirstead et al. Human embryonic stem cell-derived oligodendrocyte progenitor cell transplants remyelinate and restore locomotion after spinal cord injury. Journal of Neuroscience (2005) vol. 25 (19) pp. 4694;Okano et al. Neural stem cells and regeneration of injured spinal cord. Kidney international (2005),Vol.68, pp.1927-1931);Okada et al. Spatiotemporal recapitulation of central nervous system development by murine embryonic stem cell derived neural stem and progenitor cells. Stem Cells (2008) vol. 26 (12) pp. 3086-3098)。
【0005】
生体内幹細胞として骨髄や脂肪由来の幹細胞があるが(例えば国際公開第02/086108号パンフレット)、これらの幹細胞には幾つかの短所、即ち、(1)加齢とともに採取可能な幹細胞数が減少すること、(2)加齢における遺伝子変異の蓄積によって移植幹細胞の安全性が確保しにくいこと、(3)細胞増殖能が低いこと、(4)幹細胞採取には激しい生体侵襲を伴うこと(例えばGronthos et al. Postnatal human dental pulp stem cells (DPSCs) in vitro and in vivo. Proc Natl Acad Sci USA (2000) vol. 97 (25) pp. 13625-13630;Miura et al. SHED: stem cells from human exfoliated deciduous teeth. Proceedings of the National Academy of Sciences (2003) Vol.100, 5807-5812)などの短所がある。これらの問題点を解決する新しい難治性神経疾患治療用の幹細胞リソースの開発が重要である。
【0006】
医療廃棄物であるヒト脱落乳歯歯髄幹細胞(stem cells from exfoliated deciduous teeth; SHED)や智歯由来の永久歯歯髄幹細胞(dental pulp stem cells; DPSC)は、BMSCと同様な自己複製能及び多分化能を有する新規な幹細胞集団として同定された。
【0007】
これらの細胞は、神経系譜に近い性状を示す神経堤由来の細胞集団であり、神経細胞への分化誘導に高い反応性を示す(例えばMiura et al. SHED: stem cells from human exfoliated deciduous teeth. Proceedings of the National Academy of Sciences (2003) Vol.100, 5807-5812;Arthur et al. Adult human dental pulp stem cells differentiate toward functionally active neurons under appropriate environmental cues. Stem Cells (2008) vol. 26 (7) pp. 1787-1795)。SHEDやDPSCは、自己由来の組織幹細胞であるため、移植における安全性が高く、倫理的問題も極めて少ない。
しかしながら、従来のSHEDやDPSCの研究においては、断片的な神経細胞系譜の解析や、神経分化誘導したSHEDやDPSCをげっ歯類に移植し生着を観察した以上の知見はあきらかにされていない(例えばArthur et al. Adult human dental pulp stem cells differentiate toward functionally active neurons under appropriate environmental cues. Stem Cells (2008) vol. 26 (7) pp. 1787-1795;Huang et al. Putative dental pulp-derived stem/stromal cells promote proliferation and differentiation of endogenous neural cells in the hippocampus of mice. Stem Cells (2008) vol. 26 (10) pp. 2654-2663)。
【0008】
更にDPSCは、神経系疾患、心臓病等の全身性疾患用の細胞に基づく治療に使用される可能性を有すること及び虚血性疾患を軽減することが報告されている(Arthur et al. Adult human dental pulp stem cells differentiate toward functionally active neurons under appropriate environmental cues. Stem Cells (2008) vol. 26 (7) pp. 1787-1795;Gandia C, Arminan A, Garcia-Verdugo JM, et al. Human dental pulp stem cells improve left ventricular function, induce angiogenesis, and reduce infarct size in rats with acute myocardial infarction. Stem Cells 2008;26:638-645.;Iohara K, Zheng L, Wake H, et al. A novel stem cell source for vasculogenesis in schemia: subfraction of side population cells from dental pulp. Stem Cells 2008; 26:2408-2418.)。
また、近年の研究で、MSCが皮膚修復に寄与し得ることが示された。更に、種々の成長因子の外的応用による創傷治癒が広範に研究されている。しかし、成長因子を単回投与、複数回投与により使用すること又は相乗効果を期待して複数の因子と併用することの結果は未だ臨床的に確認されていない。
【0009】
更に、太陽に過剰に曝された老齢集団の処置は薬用化粧品及び皮膚科医にとって大きな焦点となっており、しわ等の光加齢した皮膚の一部の症状を処置するために種々の非侵襲性の処置及び局所的薬用化粧品が使用されてきている(Chung JH, Youn SH, Kwon OS, Cho KH, Youn JI, Eun HC. Regulations of collagen synthesis by ascorbic acid, transforming growth factor-beta and interferongamma in human dermal fibroblasts cultured in three-dimensional collagen gel are photoaging- and aging-independent. J Dermatol Sci 1997;15:188-200.;Fitzpatrick RE, Rostan EF. Reversal of photodamage with topical growth factors: a pilot study. J Cosmet Laser Ther 2003;5:25-34)。
加齢の原因のひとつである短波長紫外線(UVB)への暴露は、真皮において、ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)によるコラゲナーゼ産生を刺激し、コラゲナーゼ遺伝子の発現をアップレギュレートすることが知られている。これは、コラーゲンの分解並びに皮膚のしわ及び黄変として現れる変性弾性組織の沈着を誘導すると考えられている。
以前の研究において、MSCは、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、形質転換成長因子−ベータ(TGF−β)等の種々のサイトカインを産生することが示されている。近年、サイトカインの産生及び分泌がMSCの重要な機能として報告されており、MSCの多様な薬理学的作用が特に皮膚生物学において実証されている(Jettanacheawchankit S, Sasithanasate S, Sangvanich P, Banlunara W, Thunyakitpisal P. Acemannan stimulates gingival fibroblast proliferation; expressions of keratinocyte growth factor-1, vascular endothelial growth factor, and type I collagen; and wound healing. J Pharmacol Sci. 2009 Apr;109(4):525-531;Miura et al. SHED: stem cells from human exfoliated deciduous teeth. Proceedings of the National Academy of Sciences (2003) Vol.100, 5807-5812;Safavi SM, Kazemi B, Esmaeili M, Fallah A, Modarresi A, Mir M. Effects of low-level He-Ne laser irradiation on the gene expression of IL-1beta, TNF-alpha, IFN-gamma, TGF-beta, bFGF, and PDGF in rat's gingiva. Lasers Med Sci. 2008 Jul;23(3):331-335;Saygun I, Karacay S, Serdar M, Ural AU, Sencimen M, Kurtis B, Effects of laser irradiation on the release of basic fibroblast growth factor (bFGF), insulin like growth factor-1 (IGF-1), and receptor of IGF-1 (IGFBP3) from gingival fibroblasts, Lasers Med Sci. 2008 Apr;23(2):211-215)。例えば、MSCは多様な成長因子の産生を介して皮膚治癒効果を有することが報告されている(Minoru Ueda, The Use of fibroblasts, The Biochemical Society, 11-15, 2007、参照)。これらの成長因子はHDFを活性化し、HDFの増殖/移動を増加させ、HDFからのコラーゲン分泌を仲介した。MSCの分泌因子がHDFを酸化ストレスから保護することが示されたことで、MSCの抗酸化効果も実証された。局所成長因子の使用は、顔の光加齢の修復を刺激し、新たなコラーゲン合成、上皮肥厚、及び目に見えるしわが減少したより滑らかな皮膚の臨床的外観をもたらした(He H, Yu J, Liu Y, et al. Effects of FGF2 and TGFbeta1 on the differentiation of human dental pulp stem cells in vitro. Cell Biol Int 2008;32:827-834;Robey PG. Stem cells near the century mark. J Clin Invest 2000;105:1489-1491.)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、SHEDやDPSCのような歯髄幹細胞を用いてどのような医学的応用が可能であるかは、未だ明らかではなく、具体的な対象疾患も、全く知られていない。
本発明の課題は、歯髄幹細胞を利用した新規な治療手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の態様を含む。
[1] 歯髄幹細胞を無血清培養することによって得られた幹細胞培養上清を含み、歯髄幹細胞を含まない損傷部治療用組成物を製造する方法であって、
以下のステップ(1)、(2')及び(3')を含む、損傷部治療用組成物の製造方法:
(1)歯髄細胞から接着性細胞を選抜するステップ;
(2')前記接着性細胞を、前記ステップ(1)に次ぐ培養において、更なる添加物を含まないDMEM/F12を用いて無血清培養するステップ;
(3')前記ステップ(2')の無血清培養の培養上清を回収するステップ。
[2] 前記ステップ(2')が、更なる添加物を含まないDMEM/F12を用いて72時間、無血清培養するステップである、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記ステップ(1)が、以下のステップ(1')である、[1]又は[2]に記載の製造方法:
(1')歯髄細胞を、DMEM、IMDM、ハムF12培地及びRPMI1640培地から選ばれる1種又は2種以上からなる基本培地に成長因子が添加されてなる培地で一次培養し、次いで、DMEM、IMDM、ハムF12培地及びRPMI1640培地から選ばれる1種又は2種以上からなる基本培地に成長因子が添加されてなる培地で1回〜3回継代培養することにより、歯髄細胞から接着性細胞を選抜するステップ。
[4] 前記損傷部治療用組成物が、皮膚の損傷、歯周組織の損傷、骨の損傷、脊髄損傷、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、又は神経細胞の障害を伴う網膜疾患のいずれかの治療に用いるための組成物である、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 以下のステップ(4)を更に含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法:
(4)回収した培養上清に対して、遠心処理、濃縮、溶媒の置換、透析、凍結、乾燥、凍結乾燥、希釈、脱塩及び保存からなる群より選択される少なくとも1の処理を行うステップ。
[6] 以下のステップ(a)及び(b)の少なくとも一方を更に含む、[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法:
(a)回収した培養上清について、神経再生阻害物質の存在下での神経突起伸長作用の有無を確認するステップ;
(b)回収した培養上清について、神経細胞に対するアポプトーシス抑制作用の有無を確認するステップ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、歯髄幹細胞を利用した新規な治療手段、即ち、損傷部治療用組成物、及びその製造方法、並びに、損傷部治療用組成物を用いた損傷部治療方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ヘアレスマウスを用いた実験計画を説明する図である。しわはUVB照射により誘導した。
図2】種々の細胞タイプにおける形態、免疫分析及び増殖率を示す図である。(A-C)は、(A) BMSC, (B) DPSC,及び (C) SHED それぞれ示す(×40)。(D-F)は、幹細胞マーカーであるSTRO-1の免疫蛍光染色像を示す。(D) BMSC, (E) DPSC, 及び (F) SHED は、STRO-1陽性 (緑色). DAPI は核を視覚化するために使用した(青色)。(G) SHED, DPSCs, 及び BMSC の増殖率をBrdUを用いて評価した。バー: 標準偏差。有意差:*P < 0.05.
図3】SH-CM 注入後のレプリカ解析によるしわの評価を示す図である。 (A) 処理群、(B) 100 %, SH-CM 処理群
図4】SH-CM 及びSHED 注入群の通常レベルにおけるしわの改善を示した図である。
図5】ヘマトキシリン−エオジン染色像を示した図である。(A)はSH-CM処理群、(B)はSHED注入群を示す。
図6】真皮の厚みを比較したグラフである。
図7】SH-CMのHDFの増殖における影響を示す図である。
図8】コラーゲンタイプI及びMMP1に対するSH-CMの影響を示したウェスタンブロッティング解析の図である。
図9】本発明の組成物を用いた骨再生のメカニズムを概念的に説明した図である。
図10】本発明の実施例3にかかる実験方法の概要を説明した図である。
図11】本発明の実施例3に用いたBIC値の計算を説明する図である。
図12】本発明の実施例3の結果を示す染色像である。
図13】本発明の実施例3の結果を説明する図である。
図14】本発明の実施例3の結果を説明する写真である。
図15】本発明の実施例3の臨床例の結果を説明するX線写真像である。
図16】本発明の実施例4の実験モデルを説明する図である。
図17】本発明の実施例4において用いられた処置様式を説明する写真である。
図18】本発明の実施例4において用いられた処置様式を説明する写真である。
図19】本発明の実施例4において用いられた処置様式を説明する図である。
図20】本発明の実施例4の結果として得られたセメント質の再生状態を説明する染色像である。上段はGFを用いた場合の図、下段はPRPを用いた場合の写真をそれぞれ示す。
図21】本発明の実施例4の結果を示すグラフである(N2-NC)。
図22】本発明の実施例4の結果を示すグラフである (N1-JE)。
図23】本発明の実施例4の臨床例における前処理を説明する写真である。
図24】本発明の実施例4の臨床例における処理の方法を説明する写真である。
図25】本発明の実施例4における臨床例の結果を示す写真である
図26】本発明の実施例5に係る脳梗塞の作製を説明する図である。
図27】本発明の実施例5における第I群、第II群及び第III群の鼻腔投与の開始後の障害スコアの変化を示すグラフである。
図28】本発明の実施例5における第I群、第II群及び第III群の鼻腔投与の開始後16日目の梗塞容積を説明するグラフである。
図29】培養上清の調製法を説明する概念図である。hSHED:ヒト乳歯歯髄幹細胞、hDPSC:永久歯歯髄幹細胞、hBMSC:ヒト骨髄間葉系幹細胞、hFibroblast:ヒト繊維芽細胞。
図30】神経突起伸長実験の結果を示す写真である(位相差顕微鏡像)。
図31】神経突起伸長実験の結果。神経突起を認める細胞の割合(左)と神経突起の長さ(右)を示したグラフである。
図32】神経突起伸長実験の結果を示す写真である(位相差顕微鏡像)。
図33】神経突起伸長実験の結果。神経突起を認める細胞の割合(左)と神経突起の長さ(右)を示したグラフである。
図34】アポプトーシス抑制実験(TUNEL法)の結果を示す写真である。
図35】アポプトーシス抑制実験(TUNEL法)の結果であり、歯髄幹細胞の培養上清によるアポプトーシス抑制効果を統計処理したグラフである。左はCSPG存在下でのアポプトーシス抑制効果を確認したグラフであり、右はMAG存在下でのアポプトーシス抑制効果を確認したグラフである。
図36】脊髄圧挫損傷モデル動物を用いた実験の結果を示すグラフである。SHED-CM:歯髄幹細胞培養上清投与群、BMSC-CM:骨髄間葉系幹細胞培養上清投与群、コントロール:PBS投与群。
図37】脊髄圧挫損傷モデル動物を用いた実験の結果を示す。コントロール群とSHED-CM群の脊髄の状態(上)と脊髄の重量の比較(下)を示す。
図38】脊髄圧挫損傷モデル動物を用いた実験の結果を示す。SHED-CM:歯髄幹細胞培養上清投与群、コントロール:PBS投与群。
図39】脊髄圧挫損傷モデル動物を用いた実験の結果を示す。SHED-CM:歯髄幹細胞培養上清投与群、コントロール:PBS投与群。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<損傷部治療用組成物>
本発明の損傷部治療用組成物は、幹細胞を培養することによって得られた幹細胞培養上清を含む、標的組織の損傷部を修復するための損傷部治療用組成物である。
また、本発明の損傷部治療方法は、標的組織の損傷部を修復又は回復するための損傷部治療方法であって、前記損傷部治療用組成物を、前記損傷部治療用組成物の標的組織を有する患者に、前記標的組織の損傷部を修復するために有効な量で投与することを含む損傷部治療方法である。
【0015】
本発明の発明者らは、ヒト乳歯歯髄幹細胞(SHED)由来の成長因子とヒト皮膚線維芽細胞(HDF)との関係を、創傷治癒へのSHEDの適用が推論として残されているときに、最初に研究した。SHEDはコラーゲン合成を高めることによって、及びHDFの増殖及び移動活性を活性化することによって、HDFに影響を与える。このことは、SHED又はSHED由来細胞上清(SH-CM)が光加齢の治療に使用できることを示唆している。結果は、SHED及びSH-CMが光加齢治療に構造的に適しているべきであることを示唆している。主として、分泌された成長因子又は細胞外マトリクスタンパク質と共に、SHEDはHDFの創傷治癒能を増強することに寄与している。各成長因子に対する中和抗体を用いた更なるメカニズムの研究は、創傷治癒過程におけるSHEDの可溶性因子の役割を明確化する。また、乳歯は子供の頃に自然に抜け落ち、通常はそのまま廃棄される。従って、乳歯歯髄幹細胞を利用することには、採取に伴う侵襲性の問題はもとより、利用する際の倫理的な問題もないという大きな利点がある。
【0016】
本発明によれば、幹細胞を培養して得られた幹細胞培養上清を損傷部治療用組成物の有効成分として用いる。当該幹細胞培養上清は、サイトカイン混合物が含まれているため、損傷部に適用されると、損傷部における細胞を増殖させ、その結果、損傷部を有する組織を修復することができる。本発明の一形態では、本発明で使用される幹細胞培養上清中のサイトカインの混合物が標的組織の内在性幹細胞に対する誘導シグナルとして作用することにより、前記内在性幹細胞が、分化し、増殖し得ると推論し得る。その結果、標的組織の損傷部での細胞の増殖及び、細胞外マトリクスの生成などが行われ得る。これらのことから、損傷部を有する組織は、標的組織の内在性幹細胞のこのような再生能に基づいて修復することができると考えられる。
【0017】
例えば、皮膚再生に関わる複数の成長因子がMSCから分泌されることで、SHED及びSHED由来成長因子がUVB誘導性光損傷を回復し得る。そこで、8週間のUVB照射措置により無毛マウスにしわを誘導し、SHED及びその細胞上清の皮下注射による抗しわ効果を調べた。更に、培養HDFにおけるSH−CMを更に用いることによって、パラクリン経路を介したしわ形成を改善する機構を調べた。
【0018】
本発明において「損傷部」とは、組織に物理的又は生理的に欠陥が生じて、本来の機能を発揮できなくなった組織上の部位を意味し、外傷のみならず、組織の物理的又は生理的欠陥に起因した傷害部、障害部又は疾患部も包含する概念として用いられる。
本発明において「修復」とは、標的組織における損傷によって失われた機能の一部又は全部が、損傷時における損傷部の機能と比較して維持又は回復していることを意味し、組織の機能が回復することのみならず、機能的な組織として再生することも広く包含する。機能が維持又は回復していることの評価については、損傷した組織において異なるが、外観、対象となる機能の程度を評価するために通常用いられるアッセイ等に基づいて行えばよい。
【0019】
本発明に用いられる体性幹細胞の例としては、真皮系、消化系、骨髄系、神経系等に由来する幹細胞が含まれるが、これらに限定されるものではない。真皮系の体性幹細胞の例としては、上皮幹細胞、毛包幹細胞等が含まれる。消化系の体性幹細胞の例としては膵臓(全般の)幹細胞、肝幹細胞等が含まれる。骨髄系の体性幹細胞の例としては、造血幹細胞、間葉系幹細胞等が含まれる。神経系の体性幹細胞の例としては、神経幹細胞、網膜幹細胞等が含まれる。本発明に用いられる体性幹細胞は、目的の処置を達成することができれば、天然のものであってもよく、遺伝子改変したものであってもよい。
【0020】
幹細胞の起源は、外胚葉、内胚葉、又は中胚葉に分類される。外胚葉起源の幹細胞は主に脳に存在し、神経幹細胞が含まれる。内胚葉起源の幹細胞は主に骨髄に存在し、血管幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞等が含まれる。中胚葉起源の幹細胞は主に臓器に存在し、肝幹細胞、膵臓幹細胞等が含まれる。
【0021】
本発明では、如何なる間葉系に由来し得る体性幹細胞も使用することが好ましく、より好ましくは歯髄に由来する体性幹細胞、最も好ましくはヒトの脱落した乳歯に由来する体性幹細胞を用いる。間葉系由来の体性幹細胞は、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、形質転換成長因子−ベータ(TGF−β)−1及び−3、TGF−α、KGF、HBEGF、SPARC等の種々のサイトカインを産生し得る。本発明では、幹細胞培養上清が少なくとも2つのサイトカインを含むことが好ましく、血管内皮増殖因子(VEGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、インシュリン様成長因子(IGF)、血小板由来成長因子(PDGF)及び形質転換成長因子−ベータ(TGF−β)からなる群より選択された2つ以上の組み合わせを含むことが更に好ましい。
【0022】
本発明に用いられるサイトカインの混合物は、幹細胞培養上清の一部として又は幹細胞培養上清から単離されたサイトカインの混合物として使用され得る。幹細胞培養上清から単離されたサイトカインの混合物中、サイトカインの一部を1又は複数の公知の対応するサイトカインで置き換えてもよい。
【0023】
本発明に用いられる幹細胞培養上清は、拒絶を避けるために、標的組織を有する同じ個体に由来する体性幹細胞の培養から得られることが好ましい。標的組織は、幹細胞培養上清を得るために用いられる体性幹細胞が由来する組織と同じであっても異なってもよい。
【0024】
本発明に用いられる幹細胞培養上清は、体性幹細胞の培養から得られる幹細胞培養上清に限定されず、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性癌腫細胞(EC細胞)等の培養から得られた幹細胞培養上清が含まれていてもよい。
【0025】
体性幹細胞の培養上清は、体性幹細胞を培養して得られる培養液であり、細胞そのものを含まない。従って、例えば培養後に細胞成分を分離除去することによって、本発明に使用可能な培養上清を得ることができる。各種処理(例えば、遠心処理、濃縮、溶媒の置換、透析、凍結、乾燥、凍結乾燥、希釈、脱塩、保存等)を適宜施した培養上清を用いることにしてもよい。
【0026】
幹細胞培養上清を得るための幹細胞は、常法により選別可能であり、細胞の大きさや形態に基づいて、又は接着性細胞として選別可能である。歯髄幹細胞の場合には、後述するように、脱落した乳歯や永久歯から採取した歯髄細胞から、接着性細胞又はその継代細胞として選別することができる。後述する中枢神経疾患治療用組成物の製造方法は、前記損傷部治療用組成物の製造方法としても好ましく適用され得る。歯髄幹細胞培養上清には、選別された幹細胞を培養して得られた培養上清を用いることができる。その他の幹細胞を用いる場合には、目的とする幹細胞を含みうる組織から、同様にして幹細胞を得ることによって、幹細胞培養上清を得ることができる。
【0027】
なお、「幹細胞の培養上清」は、幹細胞を培養して得られる細胞そのものを含まない培養液と定義される。本発明の組成物は「幹細胞の培養上清」を有効成分として含むものであり、その一態様では組成物全体としても細胞(細胞の種類は問わない)を含まない。当該態様の組成物はこの特徴によって、幹細胞自体は当然のこと、幹細胞を含む各種組成物と明確に区別される。この態様の典型例は、幹細胞を含まず、幹細胞の培養上清のみで構成された組成物である。
【0028】
幹細胞の培養液には基本培地、或いは基本培地に血清等を添加したもの等を使用可能である。但し、血清を含まない「歯髄幹細胞の培養上清」を調製するためには、全過程を通して或いは最後又は最後から数回の継代培養についは無血清培地を使用するとよい。尚、基本培地としてはDMEMの他、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(GIBCO社等)、ハムF12培地(HamF12)(SIGMA社、GIBCO社等)、RPMI1640培地等を用いることができる。二種以上の基本培地を併用することにしてもよい。混合培地の一例として、IMDMとHamF12を等量混合した培地(例えば商品名:IMDM/HamF12(GIBCO社)として市販される)を挙げることができる。また、培地に添加可能な成分の例として、血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清等)、血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)、ウシ血清アルブミン(BSA)、抗生物質、各種ビタミン、各種ミネラルを挙げることができる。
【0029】
幹細胞の培養には、通常用いられる条件をそのまま適用することができる。幹細胞培養上清の製造方法については、幹細胞の種類に応じて幹細胞の単離及び選抜工程を適宜調整する以外は、後述する中枢神経疾患治療用組成物の製造方法と同様とすればよい。幹細胞の種類に応じた幹細胞の単離及び選抜は、当業者であれば適宜行うことができる。
【0030】
本発明における標的組織は特に限定されず、その例としては皮膚、骨、歯周組織、脳等が含まれる。本発明の組成物は、そのような標的組織の修復に有効である。例として、本発明の組成物を用いた骨再生機構の概念図を図9に示す。
【0031】
本発明の組成物はまた、組織の損傷に関連する疾患の治療に有効である。このような疾患の例としては、脳梗塞、歯周病、脊髄損傷、皮膚潰瘍、骨粗鬆症等が挙げられる。換言すれば、本発明の組成物は、脳梗塞、歯周病、脊髄損傷、皮膚潰瘍、骨粗鬆症などの治療用組成物であって、体性幹細胞を培養することによって得られる幹細胞培養上清を含むものである。例えば、本発明の損傷部治療用組成物は、皮膚、歯周組織若しくは骨の損傷の治療、脳梗塞の治療、又は中枢神経疾患の治療などの損傷部治療のため組成物として用いられる。前記損傷部治療用組成物の投与量としては、治療上有効な量であればよい。前記損傷部治療用組成物は、幹細胞培養上清を有効成分とするため、治療に用いる際には前記損傷部治療用組成物の投与量を適宜調整すればよく、後述するように有効成分を濃縮して用いてもよい。
【0032】
適用される被検体の状態に応じて、期待される治療効果が維持されることを条件として、本発明の組成物に他の成分を追加的に使用することを妨げない。本発明において追加的に使用され得る成分の一例は以下の通りである。
(i)生体吸収性材料
有機系生体吸収性材料としてヒアルロン酸、コラーゲン、フィブリノーゲン(例えばボルヒール(登録商標))等を使用することができる。
【0033】
(ii)ゲル化材料
ゲル化材料は、生体親和性が高いものを用いることが好ましく、ヒアルロン酸、コラーゲン又はフィブリン糊等を用いることができる。ヒアルロン酸、コラーゲンとしては種々のものを選択して用いることができるが、本発明の組成物の適用目的(適用組織)に適したものを採用することが好ましい。用いるコラーゲンは可溶性(酸可溶性コラーゲン、アルカリ可溶性コラーゲン、酵素可溶性コラーゲン等)であることが好ましい。
【0034】
(iii)その他
製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることもできる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。抗生物質、pH調整剤、成長因子(例えば、上皮細胞成長因子(EGF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF))等を含有させることにしてもよい。
【0035】
本発明の組成物の最終的な形態は特に限定されない。形態の例は液体状(液状、ゲル状など)及び固体状(粉状、細粒、顆粒状など)である。
【0036】
本発明の他の態様は、また標的組織の損傷部を修復する方法と、損傷した組織を治療する方法も包含する。これらの方法は、前記幹細胞培養上清を、それぞれ標的組織の損傷部又は損傷した組織に、前述した幹細胞培養上清を投与することを含む。これより、損傷した部分を有する標的組織を効率よく修復することができる。特に、標的組織が脳である場合、脳梗塞の治療方法としても好ましく適用可能である。
【0037】
前記損傷部治療用組成物の投与方法及び投与経路としては、特に制限されない。例えば、前記損傷部治療用組成物を、非経口投与であることが好ましく、非経口投与としては、全身性投与であっても局所投与であってもよい。局所投与の例としては、目的組織への注入、塗布又は噴霧などを挙げることができる。前記損傷部治療用組成物の投与方法の例としては、静脈内投与、動脈内投与、門脈内投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、及び鼻腔内投与等を挙げることができる。中でも、鼻腔内投与等は、低侵襲性であり、好ましい。投与スケジュールとしては例えば一日一回〜数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、対象(レシピエント)の性別、年齢、体重、病態などを考慮することができる。
【0038】
投与方法の選択は、標的とする組織の種類、治療対象となる疾患の種類等に基づいて当業者により行うことができる。例えば、標的組織が頭部にある疾患の治療や損傷組織の修復等には、血液脳関門の通過を考慮する必要がなく、低侵襲性であることから、鼻腔内投与等を適用することが特に好ましい。例えば、標的組織が脳である場合には、鼻腔内投与が好ましく適用され得る。また、脳梗塞の治療に対して、鼻腔内投与が好ましく適用され得る。
【0039】
前記損傷部治療用組成物が投与される対象は、典型的には、標的組織に損傷を有するヒト患者であるが、ヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ等)への適用も想定される。
【0040】
また本発明の脳梗塞の治療方法は、上記幹細胞培養上清を鼻腔内投与して、脳の損傷部を修復すること、を含む。本治療方法によれば、脳梗塞により損傷を受けた領域を低侵襲性で且つ効果的に回復させることができる。
【0041】
<中枢神経疾患治療用組成物>
本発明の別の態様は、特に、中枢神経疾患治療用組成物及び中枢神経疾患治療方法を包含する。
本発明者らは上記背景の下で研究を進めた。そして、歯髄幹細胞が神経幹細胞マーカー、分化した神経細胞のマーカー、アストロサイトマーカー、及びオリゴデンドロサイトマーカーなど、全ての神経系譜マーカーを共発現する希有な細胞集団であること、歯髄幹細胞が脳由来神経栄養因子(BDNF; Brain-derived neurotrophic factor)を高発現することを明らかにするとともに、歯髄幹細胞が神経の再生を促すことを動物実験によって実証した(特願2010−92585号を参照)。
【0042】
以上のように、これまでは歯髄幹細胞(SHED、DPSC)の潜在能力に期待し、細胞としての有用性を様々な角度から検討してきた。研究を更に進展させる中で本発明者らは、これまでとは視点を大きく変え、歯髄幹細胞の培養上清に注目して各種実験を施行した。ここで、既知の事実ではあるが、末梢神経は損傷後に再生しやすいが、中枢神経(大脳や脊髄)が再生することはほとんどない。中枢神経の再生が起こらないもっと大きな理由は、「損傷後の中枢神経系に再生軸索の伸長を阻害する種々の因子が存在する」ためである。これまでに活性化アストロサイト由来コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)やミエリン関連糖タンパク質(MAG)といった神経再生阻害因子が同定されている。これらの阻害物質は細胞内蛋白RhoやROCKの活性化によって神経軸索の伸長を阻害し、アポプトーシス(アポトーシス)を引き起こす。神経再生阻害因子の存在下でもアポプトーシスを抑制し、軸索の伸長効果を発揮する薬剤は見いだされていない。本発明者らの解析の結果、歯髄幹細胞の培養上清は、損傷した中枢神経系の環境(即ち神経突起の伸長を阻害しアポプトーシスを引き起こす物質が存在する環境)でも、神経再生阻害物質の作用を抑え(阻害を解除し)、神経突起の伸長を促しアポプトーシスを抑制するという、驚くべき事実が明らかとなった。また、脊髄損傷モデル動物を用いて歯髄幹細胞の培養上清の効果を検証したところ、歯髄幹細胞の培養上清の投与が下肢運動機能の顕著な改善をもたらした。また、組織学的評価の結果、歯髄幹細胞の培養上清の投与が脊髄の形態変化及び神経損傷の拡大を抑制した。このように、歯髄幹細胞の培養上清による優れた再生・治療効果が動物実験によっても確認された。
【0043】
以上の通り、本発明者らの鋭意検討の結果、歯髄幹細胞の培養上清が中枢神経系の再生・治癒に極めて有効であるとの知見がもたらされた。以下に示す本発明は、主として当該知見に基づく。尚、歯髄幹細胞の培養上清は、事前の準備や保存の点において、歯髄幹細胞自体を用いる場合よりも有利であり、中枢神経系疾患の急性期や亜急性期の治療に特に適するといえる。また、細胞成分を含まず、免疫拒絶の問題を克服し得るという点においても、歯髄幹細胞の培養上清の有用性は極めて高い。
【0044】
本発明の本態様は以下を含む。
[1]歯髄幹細胞の培養上清を含むことを特徴とする、中枢神経疾患治療用組成物。
[2]神経再生阻害物質の存在下で神経突起伸長作用を示す、[1]に記載の中枢神経疾患治療用組成物。
[3]前記神経再生阻害物質が、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン又はミエリン関連糖タンパク質である、[2]に記載の中枢神経疾患治療用組成物。
[4]神経細胞に対するアポプトーシス抑制作用を示す、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の中枢神経疾患治療用組成物。
[5]歯髄幹細胞を含まない、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の中枢神経疾患治療用組成物。
[6]歯髄幹細胞を組み合わせてなる、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の中枢神経疾患治療用組成物。
[7]前記歯髄幹細胞が、採取後に分化誘導処理をしていない未分化型歯髄幹細胞であることを特徴とする、[6]に記載の中枢神経疾患治療用組成物。
[8]血清を含まない、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の中枢神経疾患治療用組成物。
[9]前記培養上清が、歯髄細胞の中の接着性細胞又はその継代細胞を培養して得た培養上清である、[1]〜[9]のいずれか一項に記載の中枢神経疾患治療用組成物。
[10]前記中枢神経疾患が、脊髄損傷、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、進行性核上性麻痺、ハンチントン病、多系統萎縮症、脊髄小脳変性症等の神経変性疾患、脳虚血、脳内出血又は脳梗塞による神経細胞の変性・脱落、及び神経細胞の障害を伴う網膜疾患からなる群より選択される疾患ないし病態である、[1]〜[9]のいずれか一項に記載の中枢神経疾患治療用組成物。
[11]以下のステップ(1)〜(3)を含む、中枢神経疾患治療用組成物の製造法:
(1)歯髄細胞から接着性細胞を選抜するステップ;
(2)前記接着性細胞を培養するステップ;
(3)培養上清を回収するステップ。
[12]血清を含まない培地を使用してステップ(2)を行う、[11]に記載の製造法。
[13]ステップ(3)において、継代培養後の培養上清が回収される、[11]又は[12]に記載の製造法。
[14]以下のステップ(4)を更に含む、[11]〜[13]のいずれか一項に記載の製造法:
(4)回収した培養上清に対して、遠心処理、濃縮、溶媒の置換、透析、凍結、乾燥、凍結乾燥、希釈、脱塩及び保存からなる群より選択される一以上の処理を行うステップ。
[15]以下のステップ(a)及び/又は(b)を更に含む、[11]〜[14]のいずれか一項に記載の製造法:
(a)回収した培養上清について、神経再生阻害物質の存在下での神経突起伸長作用の有無を確認するステップ;
(b)回収した培養上清について、神経細胞に対するアポプトーシス抑制作用の有無を確認するステップ。
[16]前記中枢神経疾患が、脊髄損傷、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、進行性核上性麻痺、ハンチントン病、多系統萎縮症、脊髄小脳変性症等の神経変性疾患、脳虚血、脳内出、又は脳梗塞による神経細胞の変性・脱落、及び神経細胞の障害を伴う網膜疾患からなる群より選択される疾患ないし病態である、[11]〜[15]のいずれか一項に記載の製造法。
[17][1]〜[10]のいずれか一項に記載の中枢神経疾患治療用組成物を中枢神経疾患患者に治療上有効量投与するステップを含む、中枢神経疾患の治療法。
[18]前記中枢神経疾患治療用組成物の投与と同時又は投与後に、歯髄幹細胞を前記中枢神経疾患患者に投与する、[17]に記載の治療法。
[19]前記歯髄幹細胞が、採取後に分化誘導処理をしていない未分化型歯髄幹細胞、又は採取後に神経系細胞へと分化誘導した分化誘導型歯髄幹細胞である、[18]に記載の治療法。
[20]前記中枢神経疾患治療用組成物の投与後に、神経系細胞へと分化誘導した多能性幹細胞を前記中枢神経疾患患者に投与する、[17]に記載の治療法。
[21]調製した歯髄幹細胞の培養上清が中枢神経系疾患治療用の有効成分として有効か否かを判定する方法であって、以下のステップ(a)及び/又は(b)を含む方法:
(a)前記培養上清について、神経再生阻害物質の存在下での神経突起伸長作用の有無を確認するステップ;
(b)前記培養上清について、神経細胞に対するアポプトーシス抑制作用の有無を確認するステップ。
【0045】
本発明の中枢神経疾患治療用組成物は歯髄幹細胞の培養上清を含むことを特徴とする。歯髄幹細胞は大別して2種類存在する。即ち、乳歯歯髄幹細胞と永久歯歯髄幹細胞である。本明細書では、慣例に従い、乳歯歯髄幹細胞のことをSHEDと略称し、永久歯歯髄幹細胞のことをDPSCと略称する。SHEDの培養上清及びDPSCの培養上清のいずれであっても、本中枢神経疾患治療用組成物を構成する培養上清として用いることができる。
【0046】
前記中枢神経疾患治療用組成物を次の特性、即ち「神経再生阻害物質の存在下で神経突起伸長作用を示すこと」によって特徴付けることができる。
末梢神経系と異なり、中枢神経系には神経再生阻害物質(神経突起伸長阻害因子)が存在する。中枢神経疾患の治療(主として神経再生)を図る上でこの点は重要であり、考慮を要する。上記特性を備える前記中枢神経疾患治療用組成物によれば、神経再生阻害物質の作用を抑え、神経の再生を促すことが可能となる。神経再生阻害物質の例はコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)及びミエリン関連糖タンパク質(MAG)である。前記中枢神経疾患治療用組成物が当該特性を備えるか否かは、例えば、神経細胞及び神経再生阻害物質(CSPG又はMAG)を用いたインビトロの実験(詳細は後述の実施例を参照)によって確認することができる(被検組成物とCSPG又はMAGの共存下で神経細胞を培養した場合に神経突起の伸長が観察されれば、被検組成物が当該特性を備えると判断できる)。
【0047】
前記中枢神経疾患治療用組成物を次の特性、即ち「神経細胞に対するアポプトーシス抑制作用を示すこと」によって特徴付けることもできる。
前記中枢神経疾患治療用組成物が当該特性を備えるか否かは、例えば、神経細胞を用いたインビトロの実験(詳細は後述の実施例を参照)によって確認することができる(被検組成物の存在下で神経細胞を培養した場合に、アポプトーシスによる細胞死が抑制されれば、被検組成物が当該特性を備えると判断できる)。尚、前記中枢神経疾患治療用組成物は好ましい態様において、当該特性と上記特性(神経再生阻害物質の存在下で神経突起伸長作用を示すこと)を併せもつ。
【0048】
本態様において用語「歯髄幹細胞の培養上清」とは、歯髄幹細胞を培養して得られる培養液であり、細胞成分(即ち歯髄細胞や歯髄幹細胞)を含まない。従って、例えば培養後に細胞成分を分離除去することによって、本発明に使用可能な培養上清を得ることができる。各種処理(例えば、遠心処理、濃縮、溶媒の置換、透析、凍結、乾燥、凍結乾燥、希釈、脱塩、保存等)を適宜施した培養上清を用いることにしてもよい。培養上清の処理方法の詳細は後述する。
【0049】
歯髄幹細胞は、歯髄細胞の中の接着性細胞として選別可能である。従って、脱落した乳歯や永久歯から採取した歯髄細胞の中の接着性細胞又はその継代細胞を培養して得られる培養上清を、「歯髄幹細胞の培養上清」として用いることができる。尚、「歯髄幹細胞の培養上清」の調製法の詳細については後述する。
【0050】
上記の通り、「歯髄幹細胞の培養上清」は、歯髄幹細胞を培養して得られる、細胞成分を含まない培養液と定義される。前記中枢神経疾患治療用組成物は「歯髄幹細胞の培養上清」を有効成分として含むものであるが、その一態様では組成物全体としても細胞(細胞の種類は問わない)を含まない。当該態様の組成物はこの特徴によって、歯髄幹細胞自体は当然のこと、歯髄幹細胞を含む各種組成物と明確に区別される。尚、この態様の典型例は、歯髄幹細胞の培養上清のみで構成された組成物である。
【0051】
一方、本態様の一実施形態は「歯髄幹細胞の培養上清」と「歯髄幹細胞」を組み合わせて用いる点に特徴を有する。好ましくは、乳歯歯髄幹細胞(SHED)を用いる。永久歯歯髄幹細胞(DPSC)に比べ、細胞の増殖能が高いからである。また、分化能もより高いと考えられるからである。さらには、SHEDのBDNF発現レベルは高く(特願2010−92585号を参照)、より高い治療効果を発揮し得ることもSHEDを用いる利点である。加えて、SHEDには、採取が簡単であるというメリットもある。
【0052】
近年、細胞を用いた再生医療の実現に向けた研究が数多くの研究グループによって進められている。細胞を利用する場合、生体から採取した細胞を培養、選択、処理などに施し、その後回収して移植物の成分とする。通常、一連の操作の過程で培養上清は廃棄或いは生理的緩衝液などに置換される。従って、最終的な移植物は培養上清を積極的に含むものではない。このことに鑑みれば、歯髄幹細胞の培養上清を必須有効成分とする点において、「歯髄幹細胞の培養上清」と「歯髄幹細胞」を組み合わせて用いる当該態様の組成物であっても、歯髄幹細胞自体の有用性に注目して歯髄幹細胞を有効成分に使用した組成物ないし剤などとは、文言上は勿論のこと実質的にも峻別される。
【0053】
当該実施形態の特徴は、「歯髄幹細胞の培養上清」と「歯髄幹細胞」を組み合わせて用いることである。ここでの「組み合わせて用いる」とは、「歯髄幹細胞の培養上清」と「歯髄幹細胞」が併用されることを意味する。典型的には、「歯髄幹細胞の培養上清」と「歯髄幹細胞」とを混合した配合剤として前記中枢神経疾患治療用組成物が提供されることになる。このような場合には、採取後に分化誘導をしていない(換言すれば未分化状態を維持させている)歯髄幹細胞(本明細書において「未分化型歯髄幹細胞」とも呼ぶ)を用いることが好ましい。この場合、前記中枢神経疾患治療用組成物は強い神経保護作用を発揮するため、急性期や亜急性期の中枢神経疾患(例えば脊髄損傷、脳梗塞等、激しい神経細胞の脱落・変性をともなう難治性神経疾患)への適用に特に適する。この実施形態で使用する歯髄幹細胞は、神経幹細胞マーカーであるネスチン(Nestin)陽性、神経幹細胞マーカーであるダブルコルチン(Doublecortin)陽性、神経細胞マーカーであるβ-IIIチューブリン陽性、神経細胞マーカーであるNeuN陽性、アストロサイトマーカーであるGFAP陽性、オリゴデンドロサイトマーカーであるCNPase陽性であり、且つBDNFを高発現する(特願2010−92585号を参照)。
【0054】
一方、例えば、「歯髄幹細胞の培養上清」を含有する第1構成要素と、「歯髄幹細胞」を含有する第2構成要素とからなるキットの形態で前記中枢神経疾患治療用組成物を提供することもできる。
この場合、第1構成要素を投与した治療対象(通常は中枢神経疾患の患者)に対して、第1構成要素の投与と同時又は投与後に第2構成要素が投与されることになる。第1構成要素と第2構成要素を同時に投与するという使用法は急性期や亜急性期の中枢神経疾患への適用に特に適する。急性期や亜急性期に適用された場合に高い治療効果が発揮されるように、第2構成要素の有効成分として未分化型歯髄幹細胞を用いることが好ましい。
尚、ここでの「同時」は厳密な同時性を要求するものではない。従って、両要素を混合した後に対象へ投与する等、両要素の投与が時間差のない条件下で実施される場合は勿論のこと、片方の投与後、速やかに他方を投与する等、両要素の投与が実質的な時間差のない条件下で実施される場合もここでの「同時」の概念に含まれる。
【0055】
急性期又は亜急性期に第1構成要素を投与し、その後(例えば3日〜1週後)に第2構成要素を投与するという使用法によれば、連続的且つ総合的な治療効果を期待できる。当該使用法が予定される場合には、第2構成要素の有効成分として、神経系細胞へと分化誘導した歯髄幹細胞(本明細書において「分化誘導型歯髄幹細胞」とも呼ぶ)を用いることが好ましい。ここでの用語「神経系細胞」は、運動ニューロン、ドーパミン産生細胞、各種中枢神経細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、シュワン細胞を包含する。いずれの神経系細胞へと分化誘導した歯髄幹細胞を用いるべきかについては、治療対象の疾患・病態を考慮して決定することができる。例えば、脊髄損傷の治療用であれば成熟型神経細胞やオリゴデンドロサイト又はシュワン細胞へと分化誘導した歯髄幹細胞を第2構成要素に使用するとよい。以下、神経系細胞への分化誘導法の例を示す。
【0056】
ドーパミン産生神経細胞への分化誘導には以下の2工程からなる方法を利用できる。第1工程では、ポリ-L-リジンでコートされたディッシュを用い、例えば12.5 U/ml Nystatin、N2 supplement、20ng/ml bFGF及び20ng/ml EGFを含んだDMED培地にて歯髄幹細胞を2〜3日間培養する。この工程により、歯髄幹細胞は神経幹細胞へと分化誘導される。第2工程では、第1工程後の細胞を例えばB27 supplement、1mM db-cAMP、0.5mM IBMX、200μMアスコルビン酸及び50ng/ml BDNFを含むNeurobasalTM培地にて6〜7日間培養する。誘導されたドーパミン産生神経細胞は、チロシンヒドロキシラーゼに対する抗体を用いて免疫染色にて確認することができる。以上の方法の他、bFGF存在下で培養した後に浮遊凝集培養系で培養する方法(Studer, L. et al.: Nat. Neurosci., 1: 290-295, 1998)、bFGF及びグリア細胞株の培養上清の存在下で培養する方法(Daadi, M. M. and Weiss, S. J.: Neuroscience, 19: 4484-4497, 1999.)、FGF8、Shh、bFGF及びアスコルビン酸等を利用した方法(Lee, S. H. et al.: Nat. Biotechnol., 18 : 675-679, 2000.)、骨髄間質細胞と共培養する方法(Kawasaki, H. et al.: Neuron, 28 : 31-40, 2000.)等、神経幹細胞又は胚性幹細胞をドーパミン産生神経細胞へと分化誘導させる方法として報告された各種方法を必要に応じて適宜修正した上で利用してもよい。
【0057】
アストロサイトへの分化誘導には以下の2工程からなる方法を利用できる。第1工程では、ポリ-L-オルニチンとフィブロネクチンを二重コートしたディッシュを用い、例えばN2 supplement及び10ng/ml bFGFを含むDMEM/F12培地にて歯髄幹細胞を4日間培養する。第2工程では、更に80ng/ml LIF、80ng/ml BMP2を加えた培地で3日間培養する。分化誘導されたアストロサイトは、GFAPに対する抗体を用いた免疫染色にて確認することができる。
【0058】
オリゴデンドロサイトへの分化誘導には以下の2工程からなる方法を利用できる。アストロサイトへの分化誘導と同様に第1工程では、ポリ-L-オルニチンとフィブロネクチンを二重コートしたディッシュを用い、例えばN2 supplement、10ng/ml bFGF及び0.5%FCSを含むDMEM/F12培地にて歯髄幹細胞を4日間培養する。この工程により歯髄幹細胞はオリゴデンドロサイト前駆細胞へと誘導される。続く第2工程では20ng/ml T3 (Triiodothyronine)、20ng/ml T4 (Thyroxine)及びN2 supplementを含むDMEM/F12培地にて4日間培養する。分化誘導されたオリゴデンドロサイトはO4に対する抗体を用いて確認することができる。
【0059】
第2構成要素の成分として、分化誘導型歯髄幹細胞に加えて又は代えて、神経系細胞へと分化誘導した多能性幹細胞を用いることもできる。多能性幹細胞の例は誘導多能性幹細胞(iPS細胞)及び胚性幹細胞(ES細胞)である。「誘導多能性幹細胞(iPS細胞)」とは、初期化因子の導入などにより体細胞をリプログラミングすることによって作製される、多能性(多分化能)と増殖能を有する細胞である。誘導多能性幹細胞はES細胞に近い性質を示す。iPS細胞は、これまでに報告された各種iPS細胞作製法によって作製することができる。また、今後開発されるiPS細胞作製法を適用することも当然に想定される。
【0060】
iPS細胞作製法の最も基本的な手法は、転写因子であるOct3/4、Sox2、Klf4及びc-Mycの4因子を、ウイルスを利用して細胞へ導入する方法である(Takahashi K, Yamanaka S: Cell 126 (4), 663-676, 2006; Takahashi, K, et al: Cell 131 (5), 861-72, 2007)。ヒトiPS細胞についてはOct4、Sox2、Lin28及びNonogの4因子の導入による樹立の報告がある(Yu J, et al: Science 318(5858), 1917-1920, 2007)。c-Mycを除く3因子(Nakagawa M, et al: Nat. Biotechnol. 26 (1), 101-106, 2008)、Oct3/4及びKlf4の2因子(Kim J B, et al: Nature 454 (7204), 646-650, 2008)、或いはOct3/4のみ(Kim J B, et al: Cell 136 (3), 411-419, 2009)の導入によるiPS細胞の樹立も報告されている。また、遺伝子の発現産物であるタンパク質を細胞に導入する手法(Zhou H, Wu S, Joo JY, et al: Cell Stem Cell 4, 381-384, 2009; Kim D, Kim CH, Moon JI, et al: Cell Stem Cell 4, 472-476, 2009)も報告されている。一方、ヒストンメチル基転移酵素G9aに対する阻害剤BIX-01294やヒストン脱アセチル化酵素阻害剤バルプロ酸(VPA)或いはBayK8644等を使用することによって作製効率の向上や導入する因子の低減などが可能であるとの報告もある(Huangfu D, et al: Nat. Biotechnol. 26 (7), 795-797, 2008; Huangfu D, et al: Nat. Biotechnol. 26 (11), 1269-1275, 2008; Silva J, et al: PLoS. Biol. 6 (10), e 253, 2008)。遺伝子導入法についても検討が進められ、レトロウイルスの他、レンチウイルス(Yu J, et al: Science 318(5858), 1917-1920, 2007)、アデノウイルス(Stadtfeld M, et al: Science 322 (5903), 945-949, 2008)、プラスミド(Okita K, et al: Science 322 (5903), 949-953, 2008)、トランスポゾンベクター(Woltjen K, Michael IP, Mohseni P, et al: Nature 458, 766-770, 2009; Kaji K, Norrby K, Pac a A, et al: Nature 458, 771-775, 2009; Yusa K, Rad R, Takeda J, et al: Nat Methods 6, 363-369, 2009)、或いはエピソーマルベクター(Yu J, Hu K, Smuga-Otto K, Tian S, et al: Science 324, 797-801, 2009)を遺伝子導入に利用した技術が開発されている。
【0061】
iPS細胞への形質転換、即ち初期化(リプログラミング)が生じた細胞はFbxo15、Nanog、Oct/4、Fgf-4、Esg-1及びCript等の多能性幹細胞マーカー(未分化マーカー)の発現などを指標として選択することができる。選択された細胞をiPS細胞として回収する。
【0062】
一方、数種のES細胞が公的機関によって提供され、或いは市販されている。マウスES細胞の例として、ES-E14TG2a細胞(ATCC)、ES-D3細胞等(ATCC)、H1細胞(理研バイオリソースセンター、つくば市、日本)、B6G-2細胞(理研バイオリソースセンター、つくば市、日本)、R1細胞(Samuel Lunenfeld Research Institute、トロント、カナダ)、マウスES細胞(129SV、カタログ番号R-CMTI-1-15、R-CMTI-1A)(大日本住友製薬株式会社、大阪、日本)、マウスES細胞(C57/BL6、カタログ番号R-CMTI-2A(大日本住友製薬株式会社、大阪、日本)を挙げることができる。サルES細胞については、京都大学再生医科学研究所付属幹細胞医学研究センターなどから入手可能である。ヒトES細胞については京都大学再生医科学研究所付属幹細胞医学研究センター、WiCell Research Institute(マディソン、米国)、ES Cell International Pte Ltd(シンガポール)などから入手可能である。ES細胞の樹立方法は確立されており、一部についてはルーチン化もされていることから、常法に従えば自ら目的のES細胞を樹立することも可能である。例えばマウスES細胞の樹立方法についてはNagy. A. et al. eds.: Manipulating the Mouse Embryo, A Laboratory Manual, Third Edition, Cold spring Harbor Laboratory Press, 2003、実験医学別冊 培養細胞実験ハンドブック(羊土社)等を参照することができる。サルES細胞の樹立方法であればSuemori H, Tada T, Torii R, et al., Dev Dyn 222, 273-279, 2001等を参照することができる。ヒトES細胞の樹立方法であればWassarman, P.M. et al.: Methods in Enzymology, Vol.365(2003)等を参照することができる。
【0063】
前記中枢神経疾患治療用組成物は血清を含まないことが好ましい。血清を含まないことでその安全性が高められる。例えば、血清を含まない培地(無血清培地)で歯髄幹細胞を培養することによって、血清を含まない培養上清を調製することができる。1回又は複数回の継代培養を行うことにし、最後又は最後から数回の継代培養を無血清培地で培養することによっても、血清を含まない培養上清を得ることができる。一方、回収した培養上清から、透析やカラムによる溶媒置換などを利用して血清を除去することによっても、血清を含まない培養上清を得ることができる。
【0064】
前記中枢神経疾患治療用組成物は中枢神経(脳や脊髄)疾患の治療に利用される。前記中枢神経疾患治療用組成物を適用可能な中枢神経疾患を例示すると、脊髄損傷、神経変性疾患(筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、進行性核上性麻痺、ハンチントン病、多系統萎縮症、脊髄小脳変性症等)、脳虚血や脳内出血等に伴う脳梗塞による神経細胞の変性・脱落、神経細胞の障害を伴う網膜疾患である。前記中枢神経疾患治療用組成物を適用すると、神経突起伸長作用及び/又は神経細胞に対するアポプトーシス抑制作用によって、中枢神経組織の再生・治癒が促される。このような機序に基づく治療が有効な疾患ないし病態であれば、その種類や原因(例えば、外傷や脳梗塞などによる一次的原因、感染、腫瘍などによる二次的原因)等の如何に拘わらず、本発明の対象疾患となり得る。
【0065】
脊髄損傷は外部からの衝撃や脊髄腫瘍又はヘルニアなどの内的要因によって脊髄が損傷した状態をいう。損傷の度合によって完全型(脊髄が途中で完全に切断された状態)と不完全型(脊髄が損傷又は圧迫を受けているものの脊髄の機能が部分的に維持されている状態)に分かれる。現在の医療技術では脊髄損傷を完全に回復させることはできず、新たな治療法の確立が切望されている。脊髄損傷は、再生医療の適用が期待される疾病の一つであり、骨髄、神経幹細胞、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞等の使用が検討されている。しかしながら、様々な問題から、決定的な治療技術の実現には至っていない。前記中枢神経疾患治療用組成物は、このような状況にあって高い治療効果を期待できる治療法を提供するものであり、その意義・価値は極めて高い。
【0066】
前記中枢神経疾患治療用組成物の適用可能な別の疾病・病態は、急性期や亜急性期の脳虚血、脳内出血等による神経細胞の変性・脱落によって生じる脳梗塞や、周産期の低酸素虚血が原因となって生じる新生児脳疾患である脳室周囲白質軟化症などである。脳虚血とは脳内の血液が不足し、脳に十分な酸素や栄養が供給されない状態である。脳虚血は神経細胞死、脳浮腫を引き起こし脳梗塞の原因となる。本発明の組成物は、このような脳虚血等に起因する神経細胞の破壊又はそれに伴う各種疾患の治療にも適用され得る。
【0067】
パーキンソン病、脊髄小脳変性症、アルツハイマー病、ハンチントン病、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺は、大脳、中脳および小脳領域における領域特異的な神経細胞の脱落変異によって引き起こされる難治性神経疾患である。前記中枢神経疾患治療用組成物はこれらの疾患における神経細胞の変性・脱落を抑制することで治療効果を発揮し得る。
【0068】
前記中枢神経疾患治療用組成物は神経細胞の障害を伴う網膜疾患にも適用可能である。網膜には大別して5種類の神経細胞、即ち、視細胞(錐体細胞、桿体細胞)双極細胞、水平細胞、アマクリン細胞及び神経節細胞が存在する。網膜に存在するこれらの神経細胞(1種又は2種以上)の障害が原因となる網膜疾患のみならず、これらの神経細胞(1種又は2種以上)の障害を呈する病態の網膜疾患(外傷性網膜剥離、網膜裂孔、網膜振盪症、視神経管骨折、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、網膜色素変性症、緑内障、コロイデレミア、レーベル先天盲、錐体ジストロフィ、家族性ドルーゼン、中心性輪紋状脈絡膜ジストロフィ、常染色体優性視神経萎縮など)における神経細胞死と脱落を前記中枢神経疾患治療用組成物が抑制することで、治療効果を発揮し得る。
【0069】
期待される治療効果が維持されることを条件として、本発明の組成物に他の成分を追加的に使用することを妨げない。本発明において追加的に使用され得る成分を以下に列挙する。
(i)生体吸収性材料
有機系生体吸収性材料としてヒアルロン酸、コラーゲン、フィブリノーゲン(例えばボルヒール(登録商標))等を使用することができる。
【0070】
(ii)ゲル化材料
ゲル化材料は、生体親和性が高いものを用いることが好ましく、ヒアルロン酸、コラーゲン又はフィブリン糊等を用いることができる。ヒアルロン酸、コラーゲンとしては種々のものを選択して用いることができるが、本発明の組成物の適用目的(適用組織)に適したものを採用することが好ましい。用いるコラーゲンは可溶性(酸可溶性コラーゲン、アルカリ可溶性コラーゲン、酵素可溶性コラーゲン等)であることが好ましい。
【0071】
(iii)その他
製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることもできる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等を用いることができる。抗生物質、pH調整剤、成長因子(例えば神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF))等を含有させることにしてもよい。
【0072】
前記中枢神経疾患治療用組成物の最終的な形態は特に限定されない。形態の例は液体状(液状、ゲル状など)及び固体状(粉状、細粒、顆粒状など)である。
【0073】
前記中枢神経疾患治療用組成物の製造方法は特に限定されないが、以下のステップ(1)〜(3)、即ち、(1)歯髄細胞から接着性細胞を選抜するステップ;(2)前記接着性細胞を培養するステップ;(3)培養上清を回収するステップ、を含む製造方法であることが好ましい。以下、ステップ毎に説明する。
【0074】
ステップ(1)では、歯髄細胞の中から、接着性細胞である歯髄幹細胞を選抜する。以下、歯髄細胞は、事前に生体から単離するなどして用意すればよい。本選抜ステップは、歯髄細胞の用意を含むものであってよい。歯髄細胞の用意から歯髄幹細胞の選抜に至るまでの一連の操作手順の具体例を示す。
【0075】
(a)歯髄の採取
自然に脱落した乳歯(又は抜歯した乳歯、或いは永久歯)をクロロヘキシジンまたはイソジン溶液で消毒した後、歯冠部を分割し歯科用リーマーにて歯髄組織を回収する。
【0076】
(b)酵素処理
採取した歯髄組織を基本培地(10%ウシ血清・抗生物質含有ダルベッコ変法イーグル培地)に懸濁し、2mg/mlのコラゲナーゼ及びディスパーゼで37℃、1時間処理する。5分間の遠心操作(5000回転/分)により酵素処理後の歯髄細胞を回収する。セルストレーナーによる細胞選別はSHEDやDPSCの神経幹細胞分画の回収効率を低下させるので原則、使用しない。
【0077】
(c)接着性細胞の選抜
細胞を4cc基本培地で再懸濁し、直径6cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種する。培養液(例えば、10%FCS含有DMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium))を添加した後、5%CO2、37℃に調整したインキュベータにて2週間程度培養する。培養液を除去した後、PBS等で細胞を1回又は数回洗浄する。この操作(培養液の除去及び細胞の洗浄)に代えて、コロニーを形成した接着性細胞(歯髄幹細胞)を回収することにしてもよい。この場合には例えば、0.05%トリプシン・EDTAにて5分間、37℃で処理し、ディッシュから剥離した細胞を回収する。
【0078】
ステップ(1)に続くステップ(2)では、選抜した接着性細胞を培養する。例えば、細胞を付着性細胞培養用ディッシュに播種し、5%CO2、37℃に調整したインキュベータにて培養する。必要に応じて継代培養を行う。例えば、肉眼で観察してサブコンフルエント(培養容器の表面の約70%を細胞が占める状態)又はコンフルエントに達したときに細胞を培養容器から剥離して回収し、再度、培養液を満たした培養容器に播種する。継代培養を繰り返し行ってもよい。例えば継代培養を1〜8回行い、必要な細胞数(例えば約1×107個/ml)まで増殖させる。尚、培養容器からの細胞の剥離は、トリプシン処理など常法で実施することができる。以上の培養の後、細胞を回収して保存することにしてもよい(保存条件は例えば-198℃)。様々なドナーから回収した細胞を歯髄幹細胞バンクの形態で保存することにしてもよい。
【0079】
培養液には基本培地、或いは基本培地に血清等を添加したもの等を使用可能である。但し、血清を含まない「歯髄幹細胞の培養上清」を調製するためには、全過程を通して或いは最後又は最後から数回の継代培養についは無血清培地を使用するとよい。尚、基本培地としてはDMEMの他、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)(GIBCO社等)、ハムF12培地(HamF12)(SIGMA社、GIBCO社等)、RPMI1640培地等を用いることができる。二種以上の基本培地を併用することにしてもよい。混合培地の一例として、IMDMとHamF12を等量混合した培地(例えば商品名:IMDM/HamF12(GIBCO社)として市販される)を挙げることができる。また、培地に添加可能な成分の例として、血清(ウシ胎仔血清、ヒト血清、羊血清等)、血清代替物(Knockout serum replacement(KSR)など)、ウシ血清アルブミン(BSA)、抗生物質、各種ビタミン、各種ミネラルを挙げることができる。
【0080】
ステップ(2)に続くステップ(3)では、上記の方法で選抜・培養した歯髄幹細胞の培養上清を回収する。例えば、スポイトやピペットなどで培養液を吸引して回収することができる。回収した培養上清はそのまま或いは一以上の処理を経た後に本発明の組成物の有効成分として使用される。ここでの処理として、遠心処理、濃縮、溶媒の置換、透析、凍結、乾燥、凍結乾燥、希釈、脱塩、保存(例えば、4℃、-80℃)を例示することができる。尚、後述の実施例に示す通り、歯髄幹細胞の培養上清は、複雑高度な精製をしなくとも、所期の作用(神経突起伸長作用及びアポプトーシス抑制作用)を示した。このことは、中枢神経疾患に有効な本発明の組成物を簡便な工程で製造できることを意味する。複雑な精製工程を要しないことは、精製に伴う活性の低下を回避できる点においても有利である。
【0081】
培養上清の品質を確認するために、回収した培養上清について、以下のステップ(a)又はステップ(b)、又はこれら両方を行うことにしてもよい。
(a)培養上清について、神経再生阻害物質の存在下での神経突起伸長作用の有無を確認するステップ
(b)培養上清について、神経細胞に対するアポプトーシス抑制作用の有無を確認するステップ
【0082】
ステップ(a)において肯定的な結果が得られた培養上清には、神経突起伸長作用による良好な治療効果を期待できる。同様にステップ(b)において肯定的な結果が得られた培養上清には、神経細胞に対するアポプトーシス抑制作用による良好な治療効果を期待できる。好ましくは、ステップ(a)とステップ(b)の両方を行い、いずれにおいても肯定的な結果が示された培養上清を本発明の組成物の有効成分として採用する。ステップ(a)及び(b)における確認方法については上述の通りである(本発明の第1の局面の欄)。尚、ステップ(a)及び(b)によれば、回収ないし調製された、或いは保存されていた培養上清の品質を確認することもできる。従って、これらのステップは、歯髄幹細胞の培養上清の品質判定法(即ち、中枢神経系疾患治療用の有効成分としての適合性を判定する手段)として、それ自体に高い有用性及び価値が認められる。
【0083】
<幹細胞培養上清の濃縮方法>
本発明に包含される損傷部治療用組成物及び中枢神経疾患の治療用組成物については、幹細胞培養上清に含まれる生理活性物質を製剤化することが可能である。これにより、例えば神経再生活性物質を製剤化することが可能となる。製剤化のための細胞培養上清の濃縮方法としては、この目的のための通常行われている方法を適用することができる。濃縮方法の例としては、例えば、以下の二つの方法を挙げることができる。
1. スピンカラム濃縮法
培養上清をAmicon Ultra Centrifugal Filter Units-10K(ミリポア社製)を用いて濃縮する(最大75倍濃縮)。具体的な操作手順は次の通りである。
(i) 培養上清(最大15ml)をAmicon Ultra Centrifugal Filter Units-10Kへ投入し、×4000gで約60分間遠心し、200μlまで濃縮する。
(ii) 上記チューブへ培養上清と同量の滅菌PBSを投入し、再度×4000gで約60分間遠心し、ベース溶液をPBSへ置換する。
(iii) 得られた溶液200μlをマイクロテストチューブへ回収し、濃縮幹細胞培養上清とする。
【0084】
2. エタノール沈殿濃縮法
培養上清をエタノール沈殿法を用いて濃縮する(最大10倍濃縮)。具体的な操作手順は次の通りである。
(i) 培養上清5mlに対し100%エタノール45mlを加え、混和し、-20℃で60分間放置する。
(ii) 4℃、×15000gで15分間遠心する。
(iii) 上澄みを除去し、90%エタノール10mlを加え、よく攪拌する。
(iv) 4℃、×15000gで5分間遠心する。
(v) 上澄みを除去し、得られたペレットを滅菌水500μlに溶解し、マイクロテストチューブへ回収し、濃縮幹細胞培養上清とする。
【0085】
<幹細胞培養上清の凍結乾燥方法>
また本発明における組成物における幹細胞培養上清は、凍結乾燥することもできる。これにより、良好な保存安定性が得られる。幹細胞培養上清の凍結乾燥方法としては、この目的のための通常行われている方法を適用することができる。凍結乾燥方法の例としては、例えば、以下の方法を挙げることができる。
(i) 上記方法で得られた幹細胞培養上清又は濃縮幹細胞培養上清を-80℃で2時間から半日凍結する。
(ii) 凍結後、サンプルチューブの蓋を開放し、凍結乾燥機へセットする。
(iii) 1〜2日間凍結乾燥を行う。
(iv) 得られたサンプルを凍結乾燥幹細胞培養上清とする(-80℃で保存可能)。
【0086】
本発明の更なる態様は、前記中枢神経疾患治療用組成物を中枢神経疾患患者に、治療上有効量投与するステップを含む、中枢神経疾患の治療法が提供される。目的の組織に送達される限りにおいて、本発明の組成物の投与経路は特に限定されない。例えば、局所投与により適用する。局所投与の例として、目的組織への注入又は塗布を挙げることができる。静脈内注射、動脈内注射、門脈内注射、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、又は腹腔内注射によって本発明の組成物を投与することにしてもよい。投与スケジュールとしては例えば一日一回〜数回、二日に一回、或いは三日に一回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、対象(レシピエント)の性別、年齢、体重、病態などを考慮することができる。本発明の組成物が投与される対象は、典型的には、中枢神経系疾患に罹患したヒト患者であるが、ヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ等)への適用も想定される。好ましくは、本発明の組成物の効果を最大限活かすように、急性期又は亜急性期の対象に対して本発明の組成物を投与する。
【0087】
本発明の一実施形態では、前記中枢神経疾患治療用組成物の投与と同時又は投与後に歯髄幹細胞を同一の対象に投与し、複合的ないし連続的な効果を発揮させてもよい。ここでの歯髄幹細胞として、採取後に分化誘導処理をしていない未分化型歯髄幹細胞又は採取後に神経系細胞へと分化誘導した分化誘導型歯髄幹細胞を用いることができる。但し、前記中枢神経疾患治療用組成物の投与と同時に歯髄幹細胞を投与する場合には、高い治療効果が発揮されるように未分化型歯髄幹細胞を投与することが好ましい。他方、前記中枢神経疾患治療用組成物の投与後に歯髄幹細胞を投与する場合には、神経系細胞へと分化誘導した歯髄幹細胞を使用するとよい。分化誘導型歯髄幹細胞に加えて又は代えて、神経系細胞へと分化誘導した多能性幹細胞(例えばiPS細胞やES細胞)を用いることにしてもよい。
【0088】
以下に本発明の実施例について説明するが、これに限定されるものではない。また実施例中の%は、特に断らない限り、重量(質量)基準である。
【実施例】
【0089】
[実施例1]
<材料及び方法>
(1)被験体及び細胞培養
8名の患者の臨床的に健康な抜歯された乳歯及び永久歯からヒト歯髄組織を得た。本実験プロトコールは名古屋大学倫理委員会の承認を受けている。SHED及びDPSCを、Proc Natl Acad Sci U S A 2000;97:13625-30又はProc Natl Acad Sci U S A 2003;100:5807-12に報告されているようにして単離及び培養した。
簡潔には、歯髄をゆっくりと取り、3mg/mLのI型コラゲナーゼ及び4mg/mLのディスパーゼの溶液中で37℃にて1時間消化した。70mmの細胞ストレーナ(Falcon; BD Labware, Franklin Lakes, NJ)を用いて濾過した後、20%の間葉系細胞成長サプリメント(Lonza Inc, Walkersville, MD)及び抗生物質(100U/mLのペニシリン、100mg/mLのストレプトマイシン、及び0.25mg/mLのアムホテリシンB;GIBCO社製)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;GIBCO, Rockville, MD)中で37℃、5%CO下にて細胞を培養した。一次培養後、約1×10細胞/cmで細胞を継代培養した。1〜3回継代した細胞を実験に用いた。ヒトBMMSCはロンザ社から購入し、メーカーの取扱説明書に従って培養した。
【0090】
(2)細胞増殖の分析
BrdU染色キットをメーカー(Invitrogen, Carlsbad, CA)の取扱説明書に従って用いてブロモデオキシウリジン(BrdU)を12時間取り込ませ、SHED、DPSC、及びBMSCの増殖速度を評価した(各群についてn=3)。実験は5回繰り返した。1元配置分散分析後にテューキー−クレイマー検定(Tukey−Kramer test)により統計的有意差を評価した。
【0091】
STRO−1の免疫蛍光のために、SHED、DPSC、及びBMSCを、3%パラホルムアルデヒドで固定した後、リン酸緩衝生理食塩水で2回リンスし、100mMのグリシンで20分間処理した。次いで、細胞を0.2%のトリトン−X(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)で30分間透過処理した後、5%のロバ血清及び0.5%のウシ血清アルブミンの混合物中で20分間インキュベートした。次に、細胞を一次抗体のマウス抗ヒトSTRO−1抗体(1:100;R&D, Minneapolis, MN)と一緒に1時間インキュベートし、二次抗体のヤギ抗マウス免疫グロブリンM−FITC抗体(1:500;Southern Biotech, Birmingham, AL)と一緒に30分間インキュベートし、ベクタシールドとDAPI(Vector Laboratories Inc, Burlingame, CA)を用いてマウントした。
【0092】
(3)動物実験(図1
5週齢の雌無毛マウス(Hos;HR−1)はSLC社(SLC Inc.)(日本、静岡)から提供された。全マウスを、気候制御された区域(22±1℃、湿度50%)に12/12hの光暗サイクルで収容した。動物は水及び固形飼料を自由に摂取でき、毎日観察された。UVB放射装置RMX−3W(Handok Biotech, Seoul, Korea)を用いてマウスの背中に1週間に5回、8週間照射を行った。10個の東芝社製SEランプからなる列を、UVB用のフィルター処理をせずに用いた(放射ピークは312nm付近であり、290〜320nmの照射がUVB全量の55%に相当する)。ランプから動物の背中までの距離は89cmとした。暴露中、動物はケージ中を自由に行動できた。照射線量は、最初の2週間は1MED(最小紅斑量;60mJ/cm)、3週目は2MED(120mJ/cm)、4週目は3MED(180mJ/cm)、5〜8週目は4MED(240mJ/cm)とした。全UVB線量は約115MED(6.9J/cm)であった。しわ誘導後5週間で、マウスの限定的な領域にSH−CM(100%)を皮下注射した。正の対照としてPBS懸濁SHED(4×10)を直接真皮に注射し、負の対照としてPBSのみで真皮を処置した。
【0093】
(4)SH−CMの調製
SHED(4×10細胞)をDMEM/F12(Invitrogen-Gibco-BRL, Grand Island, NY)無血清培地中で培養した。培養72時間後にSHEDの培養上清を回収し、300×gで5分間遠心し、0.22mmのシリンジフィルターを用いて濾過した。
【0094】
(5)皮膚レプリカ及び画像解析
しわ誘導時及び注射1週間後に、シリコーン系印象材フレックスタイム1(Flextime1;Heraeus Kulzer, New York, NY)を用いて背中の皮膚表面のネガ型レプリカを取った。同じ皮膚領域からしわのレプリカを得るために油性マーカーペンで皮膚に印を付けた。皮膚にSH−CM及びSHEDを最後に注射してから5週間後に、印をつけた領域から印象を取った。測定し易いように、全レプリカを1cm四方に切り、同じ印象材を用いて各レプリカの裏を平坦な面に加工した。208°の角度で光を当て、CCDカメラを用いてレプリカから画像を取り込んだ。ネガ型レプリカの画像を、しわ解析装置スキン・ビジオメーター(skin visiometer)SV 600(Courage & Khazaka, Cologne, Germany)を用いて観察した。皮膚のしわの評価に用いたパラメータは、数、深さ、面積である。
【0095】
(6)組織学
背中の皮膚(1cm×1cm)を10%ホルマリン中性緩衝溶液で固定し、ポリエステルワックス中に包埋し、6mmの切片を作製した。切片をヘマトキシリン&エオシン(H&E)にさらし、マッソン三色染色を行った。
【0096】
(7)HDF培養及びUVB照射線量
10%のウシ胎児血清、100U/mlのペニシリン、及び100mg/mlのストレプトマイシンを添加したDMEM中で、5%CO下、37℃にてHDFを培養した。無血清培地で24時間飢餓させた後、細胞をPBSで洗浄し、3〜4滴のPBSと一緒にUVBに暴露した。UVB照射は、UV光源(Waldmann, Schwenningen, Germany)を用いて行った。照射後すぐに、PBSを吸引して完全培地に置き換えた。UVB照射線量は、50〜250mJ/cmの範囲で試験し、最終的に、以降の実験用に70mJ/cmに固定した。
【0097】
(8)細胞増殖アッセイ
HDFを96ウェルプレート中に5×10細胞/ウェルの密度でプレーティングし、CCK−8キット(Dojindo, Gaithersburg, MD)を用いてHDFの増殖を測定した。無血清培地で24時間飢餓させた後、SH−CMと一緒に又はSH−CMなしで細胞を24時間連続培養し、UVB(70mJ/cm)に90秒間暴露した。次いで、UVB照射細胞を完全培地中で24時間培養して回収した。HDFを10mLのCCK−8溶液に入れ、3時間インキュベートした。マイクロプレートリーダー(TECAN, Gro¨ dig, Austria)を用いて450nmの吸収を測定した。各ウェルのOD値を、比較可能な標準曲線に基づき、相対的細胞数に変換した。
【0098】
(9)ウェスタンブロット解析
HDF(2×10細胞/ウェル)を24ウェルプレートに播種し、前述したように前処理を行った。次いで、細胞をRIPA緩衝液(50mMのTris−HCl、0.15MのNaCl、1mMのEDTA、1%のトリトンX−100、1%のSDS、50mMのNaF、1mMのNaVO、5mMのジチオスレイトール、1mg/mlのロイペプチン、及び20mg/mlのPMSF、pH 7.4)中で溶解させた。タンパク質50マイクログラムを8%SDS−ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動により分離した。タンパク質をPVDF膜に転写した。この膜を、I型コラーゲンに対する抗体(Santa Cruz, Saint Louis, MO)、マトリックスメタロプロテイナーゼ1(MMP−1)に対する抗体(Calbiochem, Darmstadt, Germany)と一緒にインキュベートした。次いで、膜を洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ−コンジュゲート抗ヤギIgG抗体(1:10,000、Santa Cruz, Saint Louis, MO)と一緒にインキュベートした。ブロットを免疫グロブリンウェスタン試薬と反応させ、X線フィルムにさらした。
【0099】
<結果>
(1)SHED、DPSC、及びBMSCの特徴解析
SHED及びDPSCはBMSCと同様な線維芽細胞の形態を示した(図2A〜C)。免疫蛍光の解析から、SHED、DPSC、及びBMSCがSTRO−1陽性細胞を含むことが示された(図2D〜F)。SHEDの増殖速度はDPSC及びBMSCよりも有意に速かった(図2G)。
【0100】
(2)UVにより誘導されたしわのSH−CMによる軽減
UV暴露期間中、マウスの皮膚の細かいしわを観察した。しかし、処置中、SH−CM処置群及びSHED注射群はPBS群よりもしわが少ないようであった(各群についてn=8)。レプリカの解析において、図3及び図4は、UVB照射で誘導された細かいしわがSH−CMの反復処置により軽減されたことを示している。SHED注射群もSH−CH群と同じ傾向を示した。本発明者らのグループがスキン・ビジオメーターSV 600でレプリカのしわのパラメータを測定したところ、天然レベル(100%)のSH−CMを注射した時にしわの全パラメータが有意に低下していた。しかし、SHED処置された皮膚はSH−CM群よりも高い有効性を示した。
【0101】
(3)組織学的観察
UVB照射無毛マウスは皮膚付属器に大きな変化を示し、UVB照射無毛マウスにおける真皮の厚さに対するSH−CMの影響を調べた。図5に、H&E染色による無毛マウスの皮膚の真皮厚さの組織学的測定を示す。図5に示されるように、コラーゲン線維が染色されており、SH-CM処理群(A)とSHED注入群(B)において顕著に高くなっている。真皮厚さの測定から、SHED注射群及びSH−CM処置群において有意な増加が示された(図6)。更に、膠原線維束の顕著な増加が両方の群において観察されたが、これは対照群では観察されなかった(図5)。
【0102】
(4)SH−CMによるHDFの増殖促進
SHEDによる皮膚のしわの改善に関して更にパラクリン機構を調べるために、SH−CMと一緒に一次培養したHDFで細胞増殖アッセイを行った。UVB照射はHDFの増殖を有意に低下させたが、SH−CMによる前処理はHDFに対して保護効果を示した(図7)。SH−CMは多様な成長因子を含み、成長因子の固有の特性は静止細胞の有糸分裂を開始させる能力である場合、本実験中でのSH−CMによる増殖促進はSHEDから分泌された成長因子が仲介するものであり得る。
【0103】
(5)I型コラーゲン及びMMP1の発現
SH−CM処置した無毛マウスにおいて真皮中のコラーゲン含有量が有意に増加していたことから、SH−CM処理後のHDF中におけるI型コラーゲン及びMMP1のタンパク質発現を調べた(図8)。UVB照射は明らかにI型コラーゲンの発現を低下させ、MMP1の発現を誘導していた。しかし、I型コラーゲンの発現はSH−CM前処理後に有意に増加し、一方、MMP1の発現はSH−CM前処理後に低下していた。これらの結果は、SH−CM処置した無毛マウスの真皮中のコラーゲン含有量増加が真皮線維芽細胞中におけるコラーゲン合成の刺激及びコラーゲン分解の抑制によってもたらされたことを示している。
【0104】
考察
SHEDの特徴を、組織工学及び再生医療で標準的な幹細胞源とみなされているDPSC及びBMSCと比較した。その結果、SHEDは高い増殖能を有し、細胞外マトリックスによって強化されることが示された。このことは、幹細胞に基づく治療にとって、SHEDは有用な源であることを示唆している。STRO−1陽性細胞がSHED、DPSC、及びBMMSC中で見られた。STRO−1は、高い成長・分化能を有する優勢な比率の骨幹細胞を含む骨髄細胞の亜集団及びコロニー形成単位の線維芽細胞集団上に存在するトリプシン耐性細胞表面抗原を認識することが知られている。高い増殖能は生後体性幹細胞の最も重要な特徴の1つである。BrdUを用いた増殖研究により、SHED、DPSC、及びBMSCのうちでSHEDが最も高い集団比率を示すことが明らかになった。以前に、SHEDは、この経路に関連するFGF、TGF−b、CTGF、NGF、BMP等の複数の成長因子を高レベルで発現することがマイクロアレイ解析により報告されている(S. Nakamura, Y.Yamada et al. Stem Cell Proliferation Pathways Comparison between Human Exfoliated Deciduous Teeth and Dental Pulp Stem Cells by Gene Expression Profile from Promising Dental Pulp, JOE, Vol.35, (11), 1536-1542, 2009)。FGF2は、組織再生及び創傷治癒中に多種類の細胞の増殖を促進し、細胞外マトリックスの生成を制御する作用をするサイトカインとして報告されている。
【0105】
VEGF、KGF、FGF等のパラクリン因子は皮膚再生に用いられ得、このことは、幹細胞移植も「細胞に基づく」サイトカイン療法であることを示唆している。重要なことは、HDFに対するUVBの負の影響を避けるために、成長因子を含む培養上清が用いられ得ることである。幹細胞療法の効果の少なくとも一部を仲介するパラクリン効果という概念は以前のデータと矛盾しない。細胞に基づくサイトカイン療法は創傷治癒に利点をもたらす。SHED由来成長因子によるケラチノサイト分化は、創傷閉鎖における再上皮化に寄与し得る。更に、SHED由来成長因子は、創傷治癒、組織再構築、及び植皮片形成に利点をもたらす。
【0106】
光加齢は、皮膚創傷との病理学的類似点を有する複雑なプロセスである。MSCはこのプロセス中で重要な役割を果たしており、ケラチノサイト、脂肪細胞、及び肥満細胞と相互作用する。また、MSCは、真皮乳頭層の繊維状のI型及びIII型コラーゲンが有意に減少している細胞外マトリックスタンパク質源でもあり、その減少が光加齢の臨床的重症度と深く関連していることが示されている。この減少は、MMPの作用を介したプロコラーゲン生合成の低下及び酵素的分解の増加の組合せによるものである。Fisher et al.は、インビボでUV照射がヒト皮膚中のMMP合成を誘導することを示した(Phipps RP, Borrello MA, Blieden TM. Fibroblast heterogeneity in the periodontium and other tissues, J Periodontal Res. 1997 Jan;32(1 Pt 2):159-165;Fisher GJ, Datta SC, Talwar HS, Wang ZQ, Varani J, Kang S, et al. Molecular basis of sun-induced premature skin ageing and retinoid antagonism. Nature 1996; 379:335-339]。MMPファミリーの中で、MMP1、MMP13、及び膜型MMP14はコラーゲン分解作用を示し、MMP2及びMMP9は真のエラスターゼであることが報告されている。MMPが仲介するコラーゲン及びエラスチンの破壊によって、光加齢した皮膚において生じる結合組織損傷の大部分が説明される(Tsukahara K, Nakagawa H, Moriwaki S, Takema Y, Fujimura T, Imokawa G. Inhibition of ultraviolet-B-induced wrinkle formation by an elastase-inhibiting herbal extract: implication for the mechanism underlying elastase-associated wrinkles. Int J Dermatol 2006;45:460-468)。
【0107】
本研究で、SH−CMが、HDF中で、UVBにより誘導されるI型コラーゲンの減少を抑制するだけでなく、UVBにより誘導されるMMP1の発現も低下させることが見出された。創傷治癒及び光損傷からの皮膚の若返りは、複雑であるが秩序的なプロセスであり、サイトカイン及び成長因子により組織化されている。そこで、これらのデータを本研究と組み合わせると、局所的サイトカイン放出が、SH−CM送達後に見られる有益なSHED若返り効果を仲介する重要な因子であり得ることが示唆される。SHEDの局所的送達は、循環している幹前駆細胞を傷害領域に戻すことでも治癒に寄与し得る。
【0108】
結論として、真皮創傷治癒へのSHEDの応用が推測の域に留まっていたところで、SHED由来成長因子とHDFの間の相互作用が初めて検討された。SHEDは、コラーゲン合成の増加並びにHDFの増殖及び移動の活性化によってHDFに影響を与える。このことから、SHED又はSH−CMが光加齢及び創傷治癒の処置に用いられ得ることが示唆される。本結果は、SHEDがMSCよりも性質的に真皮創傷治癒により適していることも示唆している。主に分泌型成長因子又はECMタンパク質と共に、SHEDはHDFの創傷治癒可能性の増加に寄与する。
【0109】
[実施例2]
(1)成長因子混合物(粉末)の調製
不死化ヒト間葉系幹細胞(MSC;Ronza Co., Ltd, USA)を成長因子(GF)混合物の調製に用いた。10%FSC含有DMEMを用いて細胞を2〜8代培養し、培養皿中の細胞コンフルエンスが80%の段階で上清(培養培地:CM)をサンプリングし、エタノールに加えた(CM:エタノール=1:9)。このCMを、−20℃で60分間インキュベートした後、スピン(4℃、1500rpm、15分間)して濃縮した。残ったCMを90%エタノール中で−20℃で洗浄した後、再度スピンした。
この濃縮されたCMを凍結乾燥することで、成長因子粉末を得た。
【0110】
(2)粉末中の成長因子
粉末中の各成長因子をウェスタンブロッティング法で解析した。検出された成長因子は以下の通りである:PDGF、VEGF、IGF、KGF、HGF、及びTGF。
【0111】
[実施例3]
<成長因子による骨再生の実験研究>
(1)方法
イヌ下顎骨中に、直径10mm、深さ10mmの4つの円筒形の欠損を形成した。
各欠損の中心にチタンインプラント(直径3.75mm)を挿入した。
インプラント周辺の空間に以下のような移植材料を詰めた:(1)PRP、(2)100%GF、(3)MSC(1×1,000,000)、及び(4)空の欠損(対照)(図10)。
【0112】
(2)結果
8週間後、イヌを安楽死させ、インプラントの付いた下顎骨を解剖した。組織学的標本を作製し、光学顕微鏡及び画像解析装置を用いてBIC(骨−インプラント接触部 (Bone - Implant Contact) )を計算した(図11)。
*BIC=インプラント表面と接触する骨部分の全長/インプラント表面の全長×100(%)
【0113】
MSC(65.0)とGF(58.6)の間でのBICにおいて有意な差はなく、各BIC値は対照(26.4)及びPRP(44.2)よりもはるかに高かった。(図12及び13)。
【0114】
(3)結論
結論として、間葉系幹細胞に由来する成長因子は、骨再生に関して生きた幹細胞と同じ能力を有する。
【0115】
臨床例:56y、男性
上顎骨の大臼歯領域に2個のインプラントを設置してサイナスリフト法を行った。100%細胞ベースのGFとb−TCP(β−tricalcium phosphate)顆粒を副鼻腔に移植した。8週間後、移植部分は新しい骨で満たされており、X線観察により、インプラントと骨の間の骨結合が確認された(図14及び15)。
【0116】
[実施例4]
<成長因子による歯周組織再生の実験研究>
(1)方法
イヌ下顎骨の臼歯の遠位部分に2壁性の歯周欠損を作製した(図16)。各イヌの欠損を以下の方法又は手順で処置した(図17及び18)。
1)歯肉剥離掻爬手術(FO、対照)
2)GTR法
3)MSC(1×100,000)
4)GF(100%)
【0117】
(2)結果
手術から8週間後、臼歯及び歯肉の付いたイヌ下顎骨を解剖し、その組織学的標本を作成した。組織学的観察により、光学顕微鏡を用いてポケットの深さ(N−JE:上皮の下方成長の長さ)及び新たに形成されたセメント質の長さ(N−NC)を評価した。(図19)。これらのパラメータは、歯周病の改善評価に有用であった。新しいセメント質の長さは、GTR及び対照よりGF及びMSCではるかに長かった。更に、GF群及びMSC群は、GTR群及び対照群と比較してポケットの深さが顕著に改善されていた(図20〜22)。
【0118】
(3)結論
MSC由来成長因子は、歯周組織の再生に関してMSC自体と同じ能力を有する。
【0119】
症例報告:64y−女性
右下の犬歯の内側部分に深さ7mmの深い歯周欠損が見られた。100%GFとアテロコラーゲンスポンジを欠損部に詰めた(図23、24)。16週間後、新たに形成された歯周組織によって欠損は臨床的に修復されたようであった(図25)。
【0120】
前述した通り、サイトカイン療法は、安全性、安定性、操作の容易性、保存容易性、輸送容易性、及び低コストという点で幹細胞療法に勝る利点を有する。
[実施例5]
【0121】
脳梗塞への治療効果の確認
脳虚血モデル
全ての動物実験について動物実験委員会(名古屋大学医学部)の承認を受けた。300〜400gの雄の成獣スプレーグ・ドーリーラット(日本、静岡の日本エスエルシー株式会社)を用いた。動物に最初に5%イソフルラン(Abbott Laboratories, North Chicago)で麻酔をし、1.5%イソフルランを含む70%NOと30%Oの混合物を用いて麻酔下に維持した。加熱パッド上で直腸温度を37℃±0.5℃に維持した。永久局所脳虚血により、局所脳虚血を誘発した(pMCHO)(0日目)(図26)。火炎加熱で先端を丸めた4−0モノフィラメントナイロン縫合糸(Shirakawa, Tokyo, Japan)及びシリコーン(KE−200、Shin-Etsu Chemical, Tokyo, Japan)を、MCAの起源が塞がれるまで外頸動脈から内頸動脈中に進めた。閉塞後、レーザー−ドプラー血流計(Omega FLO−N1:Omega Wave Inc, Tokyo, Japan)を用いてMCA領域の局所脳血流を測定した。反応は、局所脳血流の減少が70%超の場合のみ陽性であるとみなして含めた。
【0122】
SH−CMの鼻腔内投与
pMCAOの72時間後(3日目)、ラットを再度5%イソフルラン(Abbott Laboratories, North Chicago)で麻酔し、1.5%イソフルランを含む70%NOと30%Oの混合物を用いて麻酔下に維持した。加熱パッド上で直腸温度を37℃±0.5℃に維持した。動物を無作為に3群に分け、SHED由来培養上清(SH−CM)を鼻腔内投与するか(n=1、16日目、屠殺=1)(I群)、生理食塩水のリン酸緩衝液(PBS)を鼻腔内投与するか(n=1、16日目、屠殺=1)(II群)、pMCAO操作だけを行った(n=5、16日目、屠殺=5)(III群)。SH−CMは、実施例1と同様に調製し、本実験に用いた。ラットを仰向けにし、巻いた4cm×4cmのガーゼで首を上げ、ハミルトンマイクロシリンジを用いて嗅覚経路でラット1頭当たり合計100μlを、1度に10μl、鼻腔を交互に変えながら、投与間隔2分で投与した。これらの手順中、口及び反対側の鼻腔は閉じておいた。鼻腔内投与は3日目〜15日目まで毎日行った。
【0123】
運動障害の評価
標準化された運動障害尺度に軽微な変更を加えて用い、1、3、6、9、12、及び15日目にラットを盲検的に調べた。以下のパラメータのそれぞれについてラットに1ポイントを付加した:尾を持って瞬間的に吊した時のストロークと対側の前肢の屈曲、テーブルから引張られた時の対側後肢の伸展、及び抵抗に対して麻痺側への回転。更に、歩こうとした時の麻痺側への旋回運動に対して1ポイント付加し、直径50cmの円から10秒以内に歩いて出られなかった場合は1ポイント付加し、円を20秒以内に出られなかった場合は2ポイントを付加し、円を60秒以内に出られなかった場合は3ポイントを付加した。更に、テーブルに上から押しつけた時、横方向に(laterally)押した時、及び横に(sideways)押した時に、ラットが麻痺した前肢を伸ばすことができなかった場合、それぞれ1ポイントを付加した。運動障害尺度は、各動物時点につき3回評価した。
【0124】
梗塞体積の評価
16日目のサンプルから得られた凍結切片をヘマトキシリン及びエオシンで染色した。Image J(ML、米国国立衛生研究所)を用いて、厚さ20mm、1.00mm間隔の12個の冠状切片における各梗塞面積を求めた。これら12個の冠状切片は全梗塞領域を網羅していた。梗塞面積を合計し、これらの面積に切片間の距離(1.00mm)を乗じることで、局所梗塞体積を計算し、その後、脳水腫の治療を行った。
【0125】
結果
運動機能の評価
早い段階では全群(I群、II群、及びIII群)が運動機能について高いスコアを示した(スコアは、1日目が8;9;8.2±0.45、3日目が8;9;8.6±0.89)。6日目に、6日後のI群における運動障害の漸進的向上がII群及びIII群と比較して顕著になり(6;9;8.2±0.84)、9日目にはII群及びIII群と比較してより顕著になった(5;8;8.8±1.0)(図27)。I群では12日目(4)及び15日目(3)において持続的改善が記録され、II群及びIII群では15日目において運動障害の持続的損傷(8を超えるスコア)が観察された(9;8.25±0.96)。
【0126】
梗塞体積の減少
梗塞体積は16日目にII群及びIII群(16日目、192.7mm、n=1;16日目、222.7mm、n=1)と比較してI群(16日目、54.3mm、n=1)において有意に減少していた(図28)。これらの結果は、SH−CMの鼻腔内投与が再生を促進したことを示唆している。
【0127】
このように、サイトカイン療法には、脳梗塞領域に対する良好な回復効果が認められ、脳梗塞の治療に有用であることがわかった。同様の結果は、他の複数のラットにおいても認められた。
また、サイトカイン療法では、鼻腔内投与を選択することにより侵襲性が低く、血管脳関門を通過して虚血部位に直接効果を発揮することがわかった。更に、乳歯幹細胞の培養上清には種々の栄養因子が含まれていると思われるため、栄養因子の単独投与よりも迅速な回復が期待される。
【0128】
[実施例6]
1.歯髄幹細胞の培養上清の調製
以下の手順に従って歯髄幹細胞(SHED及びDPSC)の培養上清を調製し(図29参照)、神経再生効果の検証実験に用いた。
(i) 歯髄幹細胞を血清(10%FBS)含有培地で、培養皿が70〜80%コンフルエントになるまで37℃、5%CO2下で培養する。
(ii) 70〜80%コンフルエントになったらPBSにて2回培養皿を洗浄し、無血清(0%FBS)培地へ培地交換する。
(iii) 48時間、37℃、5%CO2下で培養する。
(iv) 48時間経過した無血清培地を遠沈管へ回収する。
(v) 回収した無血清培地を1500回転で4〜5分遠心し、死細胞等の不純物を沈殿させる。
(vi) 遠心した遠沈管から不純物を吸引しないように、上澄みを新たな遠沈管へ回収する。
(vii) 回収した上澄みをさらに4℃、15000回転で1分間遠心し、再度不純物を沈殿させる。
(viii) 遠心した遠沈管から不純物を吸引しないように上澄みを再度新たな遠沈管へ回収する。
(ix) 得られた上澄みを歯髄幹細胞培養上清とする。
【0129】
2.In vitro解析に用いる神経系細胞
神経系細胞としてPC12細胞を使用した。当該細胞は、不死化株化されたラット副腎褐色細胞腫細胞である。神経栄養因子の一つであるNGF(nerve growth factor)を添加することで神経軸索様突起を伸長し、神経細胞様細胞へと分化することが知られており、様々なin vitroにおける神経系実験のモデル細胞として用いられている。
【0130】
3.歯髄幹細胞の培養上清の神経突起伸長効果及びアポプトーシス抑制効果(神経再生阻害物質を用いた神経突起伸長実験、アポプトーシス誘導実験)
歯髄幹細胞の培養上清の神経突起伸長効果及びアポプトーシス抑制効果を、神経再生阻害物質(神経突起伸長阻害因子)の存在下及び非存在下で調べた。神経再生阻害物質としてCSPG及びMAGを用いた。実験の操作手順は以下の通りである。
(1)神経突起伸長実験
(i) 細胞培養用ウェル(ポリ-L-リジンコート)へ神経再生阻害物質(CSPG又はMAG)を24時間、37℃の条件でコートする。
(ii) PC12細胞を神経再生阻害物質コーティングプレートへ播種し、歯髄幹細胞の培養上清で24時間培養する。比較対照群としては、無血清培地、繊維芽細胞の培養上清、骨髄間葉系幹細胞の培養上清を用いる。
(iii) PC12細胞の神経突起伸長を位相差顕微鏡写真で評価する。
【0131】
(2)アポプトーシス誘導実験
P12細胞を神経再生阻害物質コーティングプレートへ播種し、歯髄幹細胞の培養上清で24時間培養する。細胞のアポプトーシスをTUNEL法にて評価する。比較対照群としては、無血清培地、繊維芽細胞の培養上清、骨髄間葉系幹細胞の培養上清を用いる。
【0132】
神経再生阻害物質(CSPG、MAG)コーティングプレートにおいて、歯髄幹細胞の培養上清は他の対照群と比較して、強い神経突起伸長効果(図30〜33)及びアポプトーシス抑制効果(図34、35)を示した。また、歯髄幹細胞の培養上清は、PC12細胞の神経細胞様細胞分化に必須とされるNGFを添加しなくても(即ち、歯髄幹細胞の培養上清単独で)強い神経突起伸長効果を示した。
【0133】
即ち、図30に示されるように、神経再生阻害物質CSPGをコートしたディッシュ上であっても、PC12神経様細胞を歯髄幹細胞の培養上清で培養(24時間)すると、神経突起が伸長する(歯髄幹細胞の培養上清が突起伸長作用を示す)(図30参照)。骨髄間葉系幹細胞や皮膚由来線維芽細胞の培養上清、あるいはROCKの活性化を阻害するY27632を単独で加えてもこのような伸長作用は認められない。
また、図31に示されるように、神経再生阻害物質CSPGが存在する条件であっても、歯髄幹細胞の培養上清は、神経突起の伸長を示す細胞の割合を高め、より長い突起の形成を促進する。
【0134】
一方、図32に示されるように、神経再生阻害物質MAGをコートしたディッシュ上であっても、PC12神経様細胞を歯髄幹細胞の培養上清で培養(24時間)すると、神経突起が伸長する(歯髄幹細胞の培養上清が突起伸長作用を示す)。骨髄間葉系幹細胞や皮膚由来線維芽細胞の培養上清、あるいはROCKの活性化を阻害するY27632を単独で加えてもこのような伸長作用は認められない。
【0135】
図33に示されるように、神経再生阻害物質MAGが存在する条件であっても、歯髄幹細胞の培養上清は、神経突起の伸長を示す細胞の割合を高め、より長い突起の形成を促進する。
図34及び図35に示されるように、神経再生阻害物質MAGやCSPGをコートしたディッシュ上でPC12神経様細胞を24時間培養すると、ほぼ全ての細胞がアポプトーシスを起こす。歯髄幹細胞の培養上清は、このアポプトーシスをほぼ完全に抑制する。
【0136】
なお、図30における各記号は次のものを表す。PLL:ポリ-L-リジンコート、PLL+NGF:ポリ-L-リジンコート及びNGF(Nerve growth factor)添加、PLL/CSPG:ポリ-L-リジンコート及びCSPGコート、PLL/CSPG Y27632:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及びY27632添加、PLL/CSPG SHED-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及びSHEDの培養上清による培養、PLL/CSPG DPSC-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及びDPSCの培養上清による培養、PLL/CSPG BMSC-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及び骨髄間葉系幹細胞の培養上清による培養、PLL/CSPG Fibro-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及び繊維芽細胞の培養上清による培養。
【0137】
図31の各記号は次のものを表す。PLL:ポリ-L-リジンコート、PLL+NGF:ポリ-L-リジンコート及びNGF(Nerve growth factor)添加、PLL/CSPG:ポリ-L-リジンコート及びCSPGコート、PLL/CSPG+NGF:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及びNGF添加、PLL/CSPG+SHED-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及びSHEDの培養上清による培養、PLL/CSPG+NGF+SHED-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート、NGF添加及びSHEDの培養上清による培養、PLL/CSPG+DPSC-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及びDPSCの培養上清による培養、PLL/CSPG+NGF+DPSC-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート、NGF添加及びDPSCの培養上清による培養、PLL/CSPG+BMSC-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及び骨髄間葉系幹細胞の培養上清による培養、PLL/CSPG+NGF+BMSC-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート、NGF添加及び骨髄間葉系幹細胞の培養上清による培養、PLL/CSPG+Fibro-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及び繊維芽細胞の培養上清による培養、PLL/CSPG+NGF+Fibro-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート、NGF添加及び繊維芽細胞の培養上清による培養、PLL/CSPG+Y27632:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及びY27632添加、PLL/CSPG+NGF+Y27632:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート、NGF添加及びY27632添加。
【0138】
図32において各記号は次のものを示す。PLL:ポリ-L-リジンコート、PLL+NGF:ポリ-L-リジンコート及びNGF(Nerve growth factor)添加、PLL/MAG:ポリ-L-リジンコート及びMAGコート、PLL/MAG Y27632:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及びY27632添加、PLL/MAG SHED-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及びSHEDの培養上清による培養、PLL/MAG DPSC-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及びDPSCの培養上清による培養、PLL/MAG BMSC-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及び骨髄間葉系幹細胞の培養上清による培養、PLL/MAG Fibro-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及び繊維芽細胞の培養上清による培養。
【0139】
図33において各記号は次のものを表す。PLL:ポリ-L-リジンコート、PLL+NGF:ポリ-L-リジンコート及びNGF(Nerve growth factor)添加、PLL/MAG:ポリ-L-リジンコート及びMAGコート、PLL/MAG+NGF:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及びNGF添加、PLL/MAG+SHED-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及びSHEDの培養上清による培養、PLL/MAG+NGF+SHED-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート、NGF添加及びSHEDの培養上清による培養、PLL/MAG+DPSC-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及びDPSCの培養上清による培養、PLL/MAG+NGF+DPSC-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート、NGF添加及びDPSCの培養上清による培養、PLL/MAG+BMSC-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及び骨髄間葉系幹細胞の培養上清による培養、PLL/MAG+NGF+BMSC-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート、NGF添加及び骨髄間葉系幹細胞の培養上清による培養、PLL/MAG+Fibro-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及び繊維芽細胞の培養上清による培養、PLL/MAG+NGF+Fibro-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート、NGF添加及び繊維芽細胞の培養上清による培養、PLL/MAG+Y27632:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及びY27632添加、PLL/MAG+NGF+Y27632:ポリ-L-リジンコート、MAGコート、NGF添加及びY27632添加。
【0140】
図34における各記号は次のものを表す。PLL:ポリ-L-リジンコート、PLL/CSPG:ポリ-L-リジンコート及びCSPGコート、PLL/CSPG SHED-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及びSHEDの培養上清による培養、PLL/CSPG DPSC-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及びDPSCの培養上清による培養、PLL/CSPG BMSC-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及び骨髄間葉系幹細胞の培養上清による培養、PLL/CSPG Fibro-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及び繊維芽細胞の培養上清による培養、PLL/CSPG+Y27632:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及びY27632添加、PLL:ポリ-L-リジンコート、PLL/MAG:ポリ-L-リジンコート及びMAGコート、PLL/MAG SHED-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及びSHEDの培養上清による培養、PLL/MAG DPSC-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及びDPSCの培養上清による培養、PLL/MAG BMSC-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及び骨髄間葉系幹細胞の培養上清による培養、PLL/MAG Fibro-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及び繊維芽細胞の培養上清による培養、PLL/MAG Y27632:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及びY27632添加。
【0141】
図35における各記号は次のものを表す。PLL:ポリ-L-リジンコート、PLL/CSPG:ポリ-L-リジンコート及びCSPGコート、PLL/CSPG SHED-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及びSHEDの培養上清による培養、PLL/CSPG DPSC-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及びDPSCの培養上清による培養、PLL/CSPG BMSC-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及び骨髄間葉系幹細胞の培養上清による培養、PLL/CSPG Fibro-CM:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及び繊維芽細胞の培養上清による培養、PLL/CSPG+Y27632:ポリ-L-リジンコート、CSPGコート及びY27632添加、PLL:ポリ-L-リジンコート、PLL/MAG:ポリ-L-リジンコート及びMAGコート、PLL/MAG SHED-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及びSHEDの培養上清による培養、PLL/MAG DPSC-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及びDPSCの培養上清による培養、PLL/MAG BMSC-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及び骨髄間葉系幹細胞の培養上清による培養、PLL/MAG Fibro-CM:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及び繊維芽細胞の培養上清による培養、PLL/MAG Y27632:ポリ-L-リジンコート、MAGコート及びY27632添加。
【0142】
以上のように、歯髄幹細胞の培養上清が神経再生阻害物質の作用を抑え、神経突起の伸長を促しアポプトーシスを抑制するという、驚くべき事実が明らかとなった。言い換えれば中枢神経系の再生ないし中枢枢神経疾患の治療に対して、歯髄幹細胞の培養上清が極めて有効であることが判明した。
【0143】
4.脊髄損傷モデル動物を用いた検証
(1)培養上清投与による下肢運動機能の改善
8週齢メスSDラットをペントバルビタールナトリウムによる全身麻酔下に第十胸椎を切除し、硬膜外からIHインパクターを用いて200kDynの力で圧挫損傷を加え、脊髄圧挫損傷モデルとした。圧挫損傷を与えた直後より、歯髄幹細胞培養上清(SHED-CM)、骨髄間葉系幹細胞培養上清(BMSC-CM)もしくはPBS(コントロール)を填入した完全埋め込み式マイクロインフュージョンポンプに連結したシリコンチューブを第十二胸椎下のくも膜下腔より挿入し、損傷部直上で流出するように設置した。24μl/日の流速で、と殺までの8週間、持続的に投与し、1週毎に下肢運動機能評価を行った。評価にはBasso-Beattie-Bresnahan(BBB)スコア(Basso DM, Beattie MS, Bresnahan JC. A sensitive and reliable locomotor rating scale for open field testing in rats. J. Neurotrauma., 1995:12:1-21.)を用いた。
【0144】
<BBBスコア>
0. 股関節・膝関節・足関節を全く動かせない。
1. 1〜2関節がわずかに動かせる。
2. 1関節のみ伸展できる。
3. 2関節のみ伸展できる。
4. 3関節全てをわずかに動かせる。
5. 2関節をわずかに動かし、1関節は伸展できる。
6. 1関節をわずかに動かし、2関節は伸展できる。
7. 3関節全て伸展できる。
8. 体重までは支えられないが、足底部を地に着き、這うことができる。
9. 時に下肢で体重を支え、這ったり歩いたりする。
10. ときどき(5〜50%)体重を支えて歩くことができるが、上下肢の協調性はない。
11. しばしば(50〜100%)体重を支えて歩くことができるが、上下肢の協調性はない。
12. ときどき(5〜50%)体重を支えて歩き、ときどき(5〜50%)上下肢の協調性を認める。
13. しばしば(50〜100%)体重を支えて歩き、しばしば(50〜100%)上下肢の協調性を認める。
14. しばしば足底部で体重を支え、上下肢の協調性を認める/常に足底部で体重を支えるが、両足の向きは外転している(筋力が弱いため)。
15. 上下肢の協調性を認め、ときどき(5〜50%)さっと踵を上げて歩く。ただし足首は外転している。
16. 上下肢の協調性を認め、しばしば(50〜100%)さっと踵を上げて歩く。ときに足の位置は中間位である。
17. 上下肢の協調性を認め、しばしば(50〜100%)さっと踵を上げて歩く。足の位置は中間位である。
18. 上下肢の協調性を認め、さっと踵を上げて歩く。足の位置は中間位である。
19. 上下肢の協調性を認め、さっと踵を上げて歩く。足の位置は中間位である。尻尾は下ろしている。
20. 上下肢の協調性を認め、さっと踵を上げて歩く。足の位置は中間位である。尻尾を上げている。
21. 上下肢の協調性を認め、さっと踵を上げて歩く。足の位置は中間位である。尻尾を上げてかつ、体重を支えることができる。
【0145】
下肢運動機能の改善効果をBBBスコアで比較した。その評価結果を図36に示す。歯髄幹細胞培養上清を投与した群(SHED-CM)は、スコア15(上下肢の協調性を認め、ときどき(5〜50%)さっと踵を上げて歩く。ただし足首は外転している)という、下肢運動機能の驚異的な改善・回復を示した。骨髄間葉系幹細胞培養上清(BMSC-CM)を投与した群もある程度の改善を示したが、その改善効果はSHED-CM群に遠く及ばない。
【0146】
(2)8週後の脊髄形態変化
SHEM-CM(又はBMSC-CM若しくはPBS)投与開始から8週目にラットをパラフォルムアルデヒド還流固定した。続いて、損傷部から頭尾側5mmで脊髄を切断し取り出した。Sham群、コントロール群、BMSC-CM群、SHED-CM群でその重量を比較した。
【0147】
投与開始から8週目に脊髄の形態変化を検討した。取り出した脊髄の状態を図37上に示す。また、脊髄の重量(質量)の比較を図37下に示す。SHED-CM処理群では損傷部位(epicenter)より尾側脊髄(caudal)の萎縮が抑制された(図37上)。即ち、SHED-CMの投与で損傷した脊髄の形態変化が抑制された。この結果に整合するようにSHEM-CM群では脊髄の重量も増加した(図37下)。
【0148】
(3)8週後の脊髄神経軸索
SHEM-CM(又はPBS)投与開始から8週目にラットをパラフォルムアルデヒド還流固定した。損傷部から頭尾側5mmで脊髄を切断し、取り出した。次に、脊髄をO.C.Tコンパウンドにて凍結包埋し、脊髄凍結切片スライドを作製した。脊髄凍結切片スライドをセロトニン(5-HT)に対する抗体と、神経軸索に対する抗体Neurofilament-M(NF-M)にて免疫染色を行った。
【0149】
投与開始から8週目に損傷部位及びその近傍を組織学的に検討した。免疫染色の結果を図38に示す。SHED-CMの持続微量投与で、損傷部位より尾側で総神経繊維(NF-M)の数が維持された。脳幹の縫線核(raphe nuclei)から脊髄に投射するセロトニン繊維の数も維持されていた。SHED-CMの投与で神経繊維の消失が抑制され、上位・脳幹で産生された神経伝達物質であるセロトニンが損傷部位より下位に輸送されていることが明らかとなった。
【0150】
(4)培養上清によるアポプトーシス抑制実験
コントロール群、SHED-CM群を脊髄圧挫損傷後24時間および1週間でパラフォルムアルデヒド還流固定した。損傷部から頭尾側5mmで脊髄を切断し、取り出した。取り出した脊髄をO.C.Tコンパウンドにて凍結包埋し、脊髄凍結切片スライドを作製した。脊髄凍結切片スライドを断片化されたDNAに特異的に反応するTUNEL、アストロサイト特異的抗体GFAP、神経細胞特異的抗体NeuN、オリゴデンドロサイト特異的抗体CNPaseにてそれぞれ二重免疫染色を行い、神経細胞、グリア細胞の細胞死を比較検討した。
【0151】
脊髄圧挫損傷後24時間及び1週間の時点で損傷部位及びその近傍における神経細胞死を評価した。結果を図39に示す。SHED−CMの持続微量投与は神経損傷直後に生じるアストロサイト、神経、オリゴデンドロサイトのアポプトーシス細胞死を抑制した。脊髄損傷では損傷後1週間後に、より拡大した領域でオリゴデンドロサイトのアポプトーシス死が観察される(二次損傷の拡大)。SHED-CMはこのアポプトーシス死も抑制することで神経損傷の拡大を抑制することが明らかとなった。
【0152】
これらのことから、本発明にかかる中枢神経疾患治療用組成物を適用可能な疾患として、脊髄損傷、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、進行性核上性麻痺、ハンチントン病、多系統萎縮症又は脊髄小脳変性症等の神経変性疾患、脳虚血、脳梗塞又は脳内出血等による神経細胞の変性・脱落、神経細胞の障害を伴う網膜疾患が想定される。
【0153】
従って、本発明によれば、幹細胞を培養することによって得られたサイトカインの混合物を含む幹細胞培養上清を用いるので、標的組織の内在性幹細胞を分化させ且つ増殖させることができる。その結果、損傷部での細胞の増殖と、細胞外マトリクスの生成などによって、標的組織の修復及び再生が行うことができる。
【0154】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
2010年3月26日に出願された米国仮出願第61/317,713号、2010年11月5日に出願された米国仮出願第61/410,370号、2010年12月1日に出願された日本国特許出願第2010−267962号、2011年1月31日に出願された米国仮出願第61/437,697号及び、2011年2月23日に出願された日本国特許出願第2011−037028号の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用されて取り込まれる。
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