【実施例1】
【0024】
まず、本実施例1に係る聴覚補完システムについて説明する。
図1は、聴覚補完システムのシステム構成を示す図である。
図1に示すように、聴覚補完システムは、イヤピース10と、コアユニット20とを有する。
【0025】
イヤピース10は、利用者の耳穴に挿入することで装着される耳穴式の装置である。このイヤピース10は、本実施例で採用した耳穴式に限定されるものではなく、耳のひだに入れる耳ひだ式や耳に掛ける耳掛け式であっても良い。
【0026】
コアユニット20は、本発明の聴覚補完に係る処理等を行う本体装置であり、ブルートゥース(Bluetooth)(登録商標)や赤外線等の近距離通信によってイヤピース10と通信可能に接続される。コアユニット20は、利用者のポケットへの収納や、ストラップ等を用いた装着が可能である。
【0027】
利用者の就寝時など該利用者がイヤピース10を使用しない場合には、イヤピース10をポッドやクレイドル等に載置し、非接触で無線充電することができる。同様に、利用者の就寝時など該利用者がコアユニット20を使用しない場合には、コアユニット20をクレイドル等に載置し、非接触で無線充電することができる。なお、イヤピース10は、コアユニット20により非接触で無線充電することも可能である。
【0028】
イヤピース10及びコアユニット20は、それぞれ外部から到来する音を集音して音データを生成する。
【0029】
コアユニット20は、自装置で集音した音データから聴覚補完情報を生成する聴覚補完処理部23aを有している。具体的には、この聴覚補完処理部23aは、自装置で集音した音データから生活音データ、音方向データ及び話者感情データを含む聴覚補完情報を生成する。
【0030】
この生活音データは、自装置で集音した音データから、台所から聴こえるコトコト音などの生活音を抽出したデータである。生活音データは、あらかじめ登録された抽出対象となる生活音の周波数及びパターンを自装置で集音した音データから抽出することで生成される。
【0031】
音方向データは、自装置で集音した音データの到来方向を示すデータである。話者感情データは、自装置で集音した音データに含まれる音声から抽出した話者の感情に係るデータである。時系列的に見て話者の音声のトーンや声色が変化した場合には、話者の感情に起伏が生じたものと判定し、これを話者感情データとして抽出する。
【0032】
聴覚補完処理部23aは、生活音データをイヤピース10に送信するとともに、音方向データ及び話者感情データを自装置の表示部27aに表示制御する。
図1では、話者の感情を示す話者アイコンF1と、音声の到来方向を示す音声アイコンF2を表示部27aに表示した例を図示している。例えば、利用者自身の位置を表示部27aの中心とし、話者アイコンF1の相対位置と音声アイコンF2の表示角度により、話者の音声の到来方向を認識することができるとともに、話者アイコンF1の図柄によって話者の感情を推測することが可能となる。
【0033】
イヤピース10は、自装置で集音した音データからノイズを除去しつつ、この音データに含まれる音声帯域から音声を抽出する音声抽出部13aを有する。この音声抽出部13aは、自装置で集音した音データのうち、特に音声を効果的に聞き取ることができるよう調整されている。
【0034】
イヤピース10は、音声抽出部13aが出力した出力音データと、コアユニット20から受信した生活音データとを合成して出力する。このため、利用者は、音声だけでなく生活音も良好に聞き取ることができ、これにより台所作業を行う家族の行動を認識し、もって安心感や安らぎを感じることが可能となる。
【0035】
なお、コアユニット20から生活音データを受信しない場合には、音声抽出部13aが出力した出力音データがそのまま出力されるので、イヤピース10が単体の補聴器として動作する。なお、話者の感情をトーン信号などを使ってイヤピース10を介して音で出力することも可能である。
【0036】
次に、
図1に示したイヤピース10の内部構成について説明する。
図2は、
図1に示したイヤピース10の内部構成を示すブロック図である。
図2に示すように、イヤピース10は、マイク11、AD変換部12、制御部13、無線通信部14、電源部15、DA変換部16及びイヤホン17を有する。
【0037】
マイク11は、利用者に到来する音を集音し、アナログ信号として出力する集音手段である。AD変換部12は、マイク11が出力したアナログ信号をデジタル信号に変換し、制御部13に出力する。
【0038】
無線通信部14は、コアユニット20と無線通信を行う通信ユニットである。無線通信部14は、コアユニット20から生活音データ等の音データを受信し、制御部13に出力する。
【0039】
制御部13は、デジタル信号処理を行うDSP(Digital Signal Processor)である。制御部13は、その内部に音声抽出部13a及び出力合成部13bを有する。音声抽出部13aは、AD変換部12が出力したデジタル信号からノイズ成分をフィルタリングし、音声に対応する周波数帯に増幅を行って出力音データを生成する音声抽出手段である。
【0040】
出力合成部13bは、音声抽出部13aが生成した出力音データと無線通信部14が受信した音データとを合成し、合成音データを生成する。なお、コアユニット20から音データを受信していない場合には、音声抽出部13aが生成した出力音データと合成音データとは同一となる。
【0041】
DA変換部16は、制御部13が出力したデジタル信号である合成音データをアナログ信号に変換する。イヤホン17は、DA変換部16の出力したアナログ信号により、利用者の耳に音を出力する音出力手段として機能する。
【0042】
電源部15は、制御部13及び無線通信部14に電力を供給する電源であり、この電源部15は、既に説明したようにポッド、クレイドル又はコアユニット20により無線充電可能である。
【0043】
図1に示したイヤピース10を単独で用いる場合には左右いずれかの耳に装着することとなるが、2つのイヤピース10を左右の耳にそれぞれ装着することとしてもよい。
【0044】
次に、
図1に示したコアユニット20の内部構成について説明する。
図3は、
図1に示したコアユニット20の内部構成を示すブロック図である。
図3に示すように、コアユニット20は、マイク21a、マイク21b、AD変換部22a、AD変換部22b、制御部23、無線通信部24、電源部25、記憶部26及びタッチパネルディスプレイ27を有する。
【0045】
マイク21a及びマイク21bは、利用者に到来する音を集音し、アナログ信号として出力する集音手段である。マイク21aとマイク21bとは、コアユニット20の筐体上の離隔した位置に設ける。AD変換部22aは、マイク21aが出力したアナログ信号をデジタル信号に変換し、制御部23に出力する。AD変換部22bは、マイク21bが出力したアナログ信号をデジタル信号に変換し、制御部23に出力する。
【0046】
無線通信部24は、イヤピース10や外部の装置と無線通信を行う通信ユニットである。無線通信部24は、制御部23が出力した音データをイヤピース10に送信する。
【0047】
記憶部26は、フラッシュメモリ等からなる記憶デバイスである。記憶部26は、コアユニット20の制御に関する制御データの格納、録音データの格納等に用いられる。
【0048】
タッチパネルディスプレイ27は、液晶ディスプレイ等からなる表示部27aと、タッチパネル等からなる操作部27bとを組み合わせた表示操作部である。なお、操作部27bとして物理的なボタン等を設けてもよい。
【0049】
制御部23は、デジタル信号処理を行うDSP(Digital Signal Processor)である。制御部23は、その内部に聴覚補完処理部23aと、イヤピース出力処理部23cと、録音管理部23dと、充電管理部23eと、通信管理部23fとを有する。
【0050】
聴覚補完処理部23aは、マイク21a及びマイク21bにより集音された音データから利用者の聴覚を補完する聴覚補完情報を生成する聴覚補完情報抽出手段である。その詳細については後述するが、聴覚補完処理部23aは、生成した聴覚補完情報のうち、生活音データ等の音データをイヤピース出力処理部23cに出力するとともに、音方向データ及び話者感情データ等を表示部27aへの表示制御に用いる。すなわち、音方向データ及び話者感情データ等については、表示部27aが報知手段として用いられることになる。また、生活音データ等の音データについては、イヤピース出力処理部23cによりイヤピース10に出力され、最終的にイヤホン17から出力されるので、イヤホン17が報知手段として機能することとなる。
【0051】
イヤピース出力処理部23cは、聴覚補完処理部23aが出力した音データをイヤピース10に出力する処理部である。具体的には、イヤピース出力処理部23cは、イヤピース10に出力すべき音データを合成し、合成した音データを無線通信部24によりイヤピース10に送信する。
【0052】
録音管理部23dは、マイク21a及びマイク21bが集音した音データを録音データとして記憶部26に格納し、利用者の操作に応じて再生や消去を行う処理部である。録音データの記憶部26への格納は常時行うことが好適である。
【0053】
充電管理部23eは、コアユニット20及びイヤピース10の充電を管理する処理部である。充電管理部23eは、コアユニット20及びイヤピース10の充電量を監視し、必要に応じて利用者に報知する。また、充電管理部23eは、コアユニット20の充電を行ったクレイドルを識別し、当該クレイドルを特定するクレイドルIDを記憶部26に格納する。また、充電管理部23eは、イヤピース10が所定距離以内に所在している場合には、イヤピース10を充電する。
【0054】
通信管理部23fは、無線通信部24による通信状況を管理する処理部である。通信管理部23fは、イヤピース10との通信が途切れた場合に、利用者に対して報知を行う。また、通信管理部23fは、イヤピース10との通信が途切れた場合に、その時刻情報を記憶部26に格納する。GPS(Global Positioning System)等により位置情報を取得可能であれば、イヤピース10との通信が途切れた場所を記憶部26に格納してもよい。このようにイヤピース10との通信途絶時の情報を格納することにより、利用者がイヤピース10を紛失した際にイヤピース10を見つける手がかりを提供することができる。
【0055】
電源部25は、制御部23、無線通信部24、記憶部26及びタッチパネルディスプレイ27に電力を供給する電源であり、この電源部25は、既に説明したようにクレイドルにより無線充電可能である。
【0056】
次に、コアユニット20による音データの処理についてさらに説明する。
図4は、コアユニット20による音データの処理について説明するための説明図である。
図4に示すように、マイク21a及びマイク21bが集音した音データは、AD変換部22a及びAD変換部22bによりデジタル信号に変換された後、録音管理部23dに出力される。
【0057】
録音管理部23dは、マイク21a及びマイク21bが集音した音データを録音データとして記憶部26に格納するとともに、聴覚補完処理部23aに出力する。また、録音管理部23dは、記憶部26から録音データを読み出して、聴覚補完処理部23aに出力する録音再生が可能である。
【0058】
聴覚補完処理部23aは、方向識別部23a1、個人識別部23a2、感情識別部23a3、フィルタ選択部23a4、増幅部23a5、音声フィルタ23a6、生活音フィルタ23a7、車両走行音フィルタ23a8及び緊急車両音フィルタ23a9を有する。
【0059】
方向識別部23a1は、マイク21aが取得した音データ(AD変換部22aの出力)と、マイク21bが取得した音データ(AD変換部22bの出力)とを用いて音の到来方向を識別する。具体的には、方向識別部23a1は、マイク21aとマイク21bとがそれぞれ取得した音データにおける音の到来時間の差を算出し、算出した到来時間の差によって音の到来方向を識別する。方向識別部23a1は、識別した音の到来方向を示す音方向データを生成し、表示部27aの表示制御に用いる。
【0060】
個人識別部23a2は、マイク21aが取得した音データを用いて音声の話者を識別する。具体的には、個人識別部23a2は、マイク21aが取得した音データから音声の特徴パラメータを算出し、特徴パラメータが一致する音声を同一人物の音声であると識別する。音声の特徴パラメータの算出には、MFCC(Mel-Frequency Cepstrum Coefficient)等の任意の手法を用いることができる。
【0061】
個人識別部23a2は、話者を識別した場合には、話者に関する情報を話者識別データとして表示部27aの表示制御に用いる。また、特定の話者について音声の特徴パラメータと個人名とを対応付け、登録データとして記憶部26に格納しておけば、マイク21aが取得した音データから算出した特徴パラメータが登録データの特徴パラメータと一致した場合に、該登録データの個人名を表示することも可能である。
【0062】
感情識別部23a3は、マイク21aが取得した音データを用いて話者の感情を識別する。具体的には、感情識別部23a3は、マイク21aが取得した音データに含まれる音声の大きさ、高さ及びピッチの変化を検出し、検出した変化により話者の感情を識別する。話者が興奮して話すときの音声は、平静に話すときの音声に比べると音量が大きくなり、音域が高くなり、言葉が早口になる傾向がある。そこで、音声の大きさ、高さ及びピッチの変化を検出することにより、話者の感情の変化を推定できるのである。感情識別部23a3は、識別した話者の感情を示す話者感情データを生成し、表示部27aへの表示制御に用いる。
【0063】
音声フィルタ23a6は、マイク21aが取得した音データ(AD変換部22aの出力)から、音声に対応する周波数帯を抽出して音声データとして出力するフィルタである。生活音フィルタ23a7は、マイク21aが取得した音データから、生活音に対応する周波数帯を抽出して生活音データとして出力するフィルタである。車両走行音フィルタ23a8は、マイク21aが取得した音データから、車両走行音に対応する周波数帯を抽出して車両走行音データとして出力するフィルタである。緊急車両音フィルタ23a9は、マイク21aが取得した音データから、緊急車両のサイレンに対応する周波数帯を抽出して緊急車両音データとして出力するフィルタである。なお、ここでは4種のフィルタを用いる場合を例示したが、任意のフィルタを追加することができる。
【0064】
フィルタ選択部23a4は、聴覚補完システムの利用状況に応じて各フィルタの使用可否を選択する状況判定手段として機能する。利用状況は、利用者の操作入力によっても決定可能であるが、充電管理部23eから最後に充電に使用したクレイドルのクレイドルIDを取得し、このクレイドルIDに応じて決定することもできる。
【0065】
図5は、フィルタの選択について説明するための説明図である。
図5(a)では、シーン種別「自宅」、シーン種別「運転中」、シーン種別「職場」、シーン種別「録音再生」の4つの利用状況について、各フィルタの使用可否を示している。
【0066】
シーン種別「自宅」では、音声フィルタ23a6がオフ(不使用)、生活音フィルタ23a7がオン(使用)、車両走行音フィルタ23a8がオフ、緊急車両音フィルタ23a9がオフとなっている。音声フィルタ23a6がオフであるのは、イヤピース10において音声抽出が行われているためである。従って、自宅で聴覚補完システムを使用する場合には、イヤピース10からは音声と生活音が強調されて出力されることとなる。
【0067】
シーン種別「運転中」では、音声フィルタ23a6がオフ、生活音フィルタ23a7がオフ、車両走行音フィルタ23a8がオン、緊急車両音フィルタ23a9がオンとなっている。音声フィルタ23a6がオフであるのは、イヤピース10において音声抽出が行われているためである。従って、運転中に聴覚補完システムを使用する場合には、イヤピース10からは音声、車両走行音及び緊急車両音が強調されて出力されることとなる。
【0068】
シーン種別「職場」では、音声フィルタ23a6がオフ、生活音フィルタ23a7がオフ、車両走行音フィルタ23a8がオフ、緊急車両音フィルタ23a9がオフとなっている。この場合には、フィルタの出力はイヤピース10に送信されないが、イヤピース10において音声抽出が行われているので、音声が強調されて出力されることとなる。
【0069】
シーン種別「録音再生」では、音声フィルタ23a6がオン、生活音フィルタ23a7がオフ、車両走行音フィルタ23a8がオフ、緊急車両音フィルタ23a9がオフとなっている。録音再生時には、イヤピース10で音声抽出が行うことができないため、コアユニット20で音声の抽出を行うのである。なお、録音再生を行う場合には、各フィルタのオンオフを利用者が個別に選択可能としてもよい。
【0070】
図5(b)は、クレイドルIDとシーン種別の対応関係を示す図である。
図5(b)では、クレイドルIDが「C001」であるクレイドルが自宅に設置されており、クレイドルIDが「C002」であるクレイドルが車両に設置されており、クレイドルIDが「C003」であるクレイドルが職場に設置されていることを示している。従って、最後に充電に使用したクレイドルのクレイドルIDが「C001」であれば、シーン種別を「自宅」と判定し、最後に充電に使用したクレイドルのクレイドルIDが「C002」であれば、シーン種別を「運転中」と判定し、最後に充電に使用したクレイドルのクレイドルIDが「C003」であれば、シーン種別を「職場」と判定することができる。
【0071】
なお、録音管理部23dが記憶部26から読み出した録音データを聴覚補完処理部23aに出力している場合には、最後に充電に使用したクレイドルのクレイドルIDに関わらず、シーン種別「録音再生」に決定される。
【0072】
図4に戻って説明を続ける。フィルタ選択部23a4は、決定したシーン種別に応じて「オン」に設定されたフィルタに、マイク21aが取得した音データを出力する。各フィルタは、マイク21aが取得した音データから所定の周波数帯を抽出し、増幅部23a5に出力する。
【0073】
増幅部23a5は、各フィルタの出力を合成して増幅し、イヤピース出力処理部23cに出力する。すなわち、増幅部23a5が出力する音データには、音声データ、生活音データ、車両走行音データ、緊急車両音データ等の強調音データが含まれることとなる。なお、各フィルタの出力に対する増幅率は、利用者の聴力の特性に合わせて個別に設定可能である。
【0074】
イヤピース出力処理部23cは、聴覚補完処理部23aが出力した音データをイヤピース10に送信する。
【0075】
次に、音の到来方向の識別についてさらに説明する。
図6は、音の到来方向の識別について説明するための説明図である。マイク21aとマイク21bとは、コアユニット20の筐体上の離隔した位置に配置されているため、
図6(a)に示すように、音の到来時間に差が生じる。方向識別部23a1は、マイク21aへの音の到来時間とマイク21bへの音の到来時間との差分dTを算出する。
【0076】
図6(b)に示すように、差分dTが0より大きければ音の到来方向はマイク21a側であり、差分dTが0より小さければ音の到来方向はマイク21b側である。従って、マイク21a及びマイク21bの配置と、差分dTとによって、音の到来方向を識別することができるのである。
【0077】
次に、話者の感情の識別についてさらに説明する。
図7は、話者の感情の識別について説明するための説明図である。
図7に示すように、感情識別部23a3は、マイク21aが取得した音データに含まれる音声の大きさ、高さ及びピッチの変化を検出する。
【0078】
図7では、音声区間R2における音声は、音声区間R1における音声よりも振幅が大きく、音域が高く、ピッチが速くなっている。このため、感情識別部23a3は、音声区間R2における話者の感情が、音声区間R1における話者の感情よりも興奮した状態にあると推定する。この場合には、感情識別部23a3は、興奮した状態にあることを模式的に示す感情表示を表示部27aに表示制御する。
【0079】
また、音声区間R3における音声は、音声区間R1における音声よりも振幅が小さく、音域が低く、ピッチが遅くなっている。このため、感情識別部23a3は、音声区間R3における話者の感情が、音声区間R1における話者の感情よりも沈静した状態にあると推定する。この場合には、感情識別部23a3は、沈静した状態にあることを模式的に示す感情表示を表示部27aに表示制御する。
【0080】
次に、音データに対するフィルタリングについて説明する。
図8は、音データに対するフィルタリングについて説明するための説明図である。
図8(a)に示すように、音声フィルタ23a6は、マイク21aが出力する音データから音声に対応する周波数帯の音データを抽出する。
【0081】
同様に、生活音フィルタ23a7は生活音に対応する周波数帯の音データを抽出し、車両走行音フィルタ23a8は車両走行音に対応する周波数帯の音データを抽出し、緊急車両音フィルタ23a9は緊急車両のサイレンに対応する周波数帯の音データを抽出する。
【0082】
従って、フィルタ選択部23a4が音声フィルタ23a6及び生活音フィルタ23a7を選択した場合には、
図8(b)に示すように、増幅部23a5は、音声フィルタ23a6が抽出した周波数帯の音データと、生活音フィルタ23a7が抽出した周波数帯の音データとを合成して増幅することとなる。
【0083】
次に、コアユニット20による音データの処理手順について説明する。
図9は、コアユニット20による音データの処理手順を示すフローチャートである。コアユニット20は、マイク21a及びマイク21bの出力をAD変換部22a及びAD変換部22bによりデジタル信号に変換して取得する(ステップS101)。録音管理部23dは、マイク21a及びマイク21bが集音した音データを録音データとして記憶部26に格納する(ステップS102)。
【0084】
聴覚補完処理部23a内の方向識別部23a1は、マイク21a及びマイク21bの出力から音の到来時間の差を算出し、算出した到来時間の差によって音の到来方向を識別する(ステップS103)。
【0085】
聴覚補完処理部23a内の個人識別部23a2は、マイク21aの出力から音声の特徴パラメータを算出し、特徴パラメータが一致する音声を同一人物の音声であると識別する(ステップS104)。
【0086】
聴覚補完処理部23a内の感情識別部23a3は、マイク21aの出力に含まれる音声の大きさ、高さ及びピッチの変化を検出し、検出した変化により話者の感情を識別する(ステップS105)。
【0087】
聴覚補完処理部23aは、方向識別部23a1により識別した音の到来方向と、個人識別部23a2による話者の識別結果と、感情識別部23a3により識別した話者の感情とを表示部27aに表示制御する(ステップS106)。
【0088】
フィルタ選択部23a4は、利用者の操作入力、最後に充電に使用したクレイドルのクレイドルID、録音データの再生中であるか否か等によりシーン種別を決定し(ステップS107)、決定したシーン種別に応じたフィルタを選択する(ステップS108)。
【0089】
フィルタ選択部23a4により選択されたフィルタは、マイク21aの出力から所定の周波数帯を抽出し強調音データ(音声データ、生活音データ、車両走行音データ、緊急車両音データ等)として出力するフィルタリングを行う(ステップS109)。増幅部23a5は、各フィルタが出力した強調音データを合成して増幅する(ステップS110)。イヤピース出力処理部23cは、合成の結果得られた音データをイヤピース10に送信し(ステップS111)、処理を終了する。
【0090】
上述してきたように、本実施例1に係る聴覚補完システムは、コアユニット20のマイク21a及びマイク21bで集音した音データから音の到来方向や話者の感情等を聴覚補完情報として抽出し、表示部27aに表示制御することにより、利用者の聴覚を視覚によって効率的に補完し、もって利用者に対して快適な生活環境を提供することができる。
【0091】
また、生活音等についても対応する周波数帯の音データを抽出して増幅し、イヤピース10から出力することができるので、利用者は音声以外の音データについても聞き取ることが可能となり、もって利用者に対して快適な生活環境を提供することができる。
【0092】
また、聴覚補完システムが利用される際の周辺状況を判定し、周辺状況に応じた周波数帯の音データを抽出して増幅し、イヤピース10から出力することができるので、利用者は状況に応じて種々の音を聞き取ることが可能となる。
【0093】
また、コアユニット20はクレイドルにより無線充電可能であり、イヤピース10はポッド、クレイドル又はコアユニット20により無線充電可能である。イヤピース10はコアユニット20により無線充電可能であるため、外出先でポッドやクレイドルがない状況であってもイヤピース10の充電が可能である。
【実施例2】
【0094】
実施例1では、イヤピース10とコアユニット20とを有する聴覚補完システムにおいて聴覚補完を行う構成を示したが、本実施例2ではイヤピース単体で聴覚補完を行う構成について説明する。
【0095】
図10は、実施例2に係る聴覚補完装置であるイヤピース110の構成を示すブロック図である。
図10に示すように、イヤピース110は、マイク11と、AD変換部12と、制御部113と、電源部15と、DA変換部16と、イヤホン17とを有する。
【0096】
マイク11は、利用者に到来する音データを集音し、アナログ信号として出力する集音手段である。AD変換部12は、マイク11が出力したアナログ信号をデジタル信号に変換し、制御部113に出力する。
【0097】
制御部113は、デジタル信号処理を行うDSP(Digital Signal Processor)である。制御部113は、その内部にフィルタ選択部113a、音声フィルタ113b1、生活音フィルタ113b2、車両走行音フィルタ113b3、緊急車両音フィルタ113b4、増幅部113c及び充電管理部113dを有する。
【0098】
音声フィルタ113b1は、マイク11が取得した音データ(AD変換部12の出力)から、音声に対応する周波数帯を抽出して音声データとして出力するフィルタである。生活音フィルタ113b2は、マイク11が取得した音データから、生活音に対応する周波数帯を抽出して生活音データとして出力するフィルタである。車両走行音フィルタ113b3は、マイク11が取得した音データから、車両走行音に対応する周波数帯を抽出して車両走行音データとして出力するフィルタである。緊急車両音フィルタ113b4は、マイク11が取得した音データから、緊急車両のサイレンに対応する周波数帯を抽出して緊急車両音データとして出力するフィルタである。なお、ここでは4種のフィルタを用いる場合を例示したが、任意のフィルタを追加することができる。
【0099】
充電管理部113dは、イヤピース110の充電を管理する処理部である。充電管理部113dは、イヤピース110の充電量を監視し、必要に応じて利用者に報知する。また、充電管理部113dは、イヤピース110の充電を行った装置を識別し、当該装置を特定する装置IDをフィルタ選択部113aに出力する。
【0100】
フィルタ選択部113aは、イヤピース110の利用状況に応じて各フィルタの使用可否を選択する。利用状況は、利用者の操作入力によっても決定可能であるが、充電管理部113dが出力した装置IDに応じて決定することもできる。
【0101】
フィルタ選択部113aは、決定した利用状況に応じて選択されたフィルタに、マイク11が取得した音データを出力する。各フィルタは、マイク11が取得した音データから所定の周波数帯を抽出し、増幅部113cに出力する。
【0102】
増幅部113cは、各フィルタの出力を合成して増幅し、出力音データを生成する。増幅部113cが生成した出力音データは、DA変換部16によりアナログ信号に変換される。イヤホン17は、DA変換部16の出力したアナログ信号により、利用者の耳に音を出力することとなる。
【0103】
電源部15は、制御部113に電力を供給する電源であり、この電源部15は、実施例1と同様にポッドやクレイドル等により無線充電可能である。
【0104】
次に、イヤピース110による音データの処理手順について説明する。
図11は、イヤピース110による音データの処理手順を示すフローチャートである。イヤピース110は、マイク11の出力をAD変換部12によりデジタル信号に変換して取得する(ステップS201)。
【0105】
フィルタ選択部113aは、利用者の操作入力、若しくは、最後に充電に使用した装置の装置IDにより利用状況を決定し(ステップS202)、決定した利用状況に応じたフィルタを選択する(ステップS203)。
【0106】
フィルタ選択部113aにより選択されたフィルタは、マイク11の出力から所定の周波数帯を抽出するフィルタリングを行う(ステップS204)。増幅部113cは、各フィルタのフィルタリング結果を合成して増幅し、出力音データを生成する(ステップS205)。イヤピース110は、合成結果である出力音データをDA変換部16によりアナログ信号に変換し、イヤホン17から出力して(ステップS206)、処理を終了する。
【0107】
上述してきたように、本実施例2に係る聴覚補完装置であるイヤピース110は、マイク11で集音した音データから生活音等に対応する周波数帯の音データを抽出して増幅し、イヤホン17から出力するので、利用者は音声以外の音データについても聞き取ることが可能となる。
【0108】
また、聴覚補完装置が利用される際の周辺状況を判定し、その状況に応じた周波数帯の音データを抽出して増幅し、イヤホン17から出力することができるので、利用者は状況に応じて種々の音を聞き取ることが可能となる。
【実施例3】
【0109】
実施例1では、コアユニット20が自装置で集音した音データから聴覚補完情報を生成する構成を例示したが、イヤピースが集音した音データをコアユニットに送信し、コアユニットはイヤピースから受信した音データから聴覚補完情報を生成するよう構成してもよい。本実施例3では、コアユニットがイヤピースから受信した音データを用いて聴覚補完情報を生成する構成について説明する。
【0110】
図12は、実施例3に係る聴覚補完システムについて説明するための説明図である。
図12に示すように、実施例3に係る聴覚補完システムは、イヤピース210Rと、イヤピース210Lと、コアユニット220とを有する。
【0111】
イヤピース210Rは、利用者の右耳に装着される装置であり、イヤピース210Lは、利用者の左耳に装着される装置である。イヤピース210R及び210Lは、それぞれマイク及びイヤホンを内蔵しており、マイクにより集音した音データをコアユニット220に送信する。
【0112】
コアユニット220内部の聴覚補完処理部223aは、イヤピース210R及び210Lから受信した音データを用いて聴覚補完情報を生成する点が実施例1に示した聴覚補完処理部23aと異なる。聴覚補完処理部223aは、イヤピース210R及び210Lから受信した音データを用いて音方向データ及び話者感情データを含む聴覚補完情報を生成する。
【0113】
音方向データ及び話者感情データの生成については実施例1と同様であり、音方向データ及び話者感情データはコアユニット220の表示部27aに表示制御される。なお、音方向データの生成については、イヤピース210Rとイヤピース210Lとがそれぞれ取得した音データにおける音の到来時間の差を算出し、算出した到来時間の差によって音の到来方向を識別することとなる。
【0114】
このように、コアユニット220は、実施例1と同様に、音方向データ及び話者感情データ等を生成し、表示部27aに表示制御することができる。また、図示を省略したが、コアユニット220は、実施例1と同様に、生活音データ等の強調音データを生成してイヤピース210R及び210Lに送信することができ、イヤピース210R及び210Lは生活音データ等の強調音データをイヤホンから出力することができる。
【0115】
次に、
図12に示したイヤピース210Rの内部構成について説明する。
図13は、
図12に示したイヤピース210Rの内部構成を示すブロック図である。
図13に示すように、イヤピース210Rは、マイク11、AD変換部12、制御部213、無線通信部214、電源部15、DA変換部16及びイヤホン17を有する。
【0116】
制御部213は、マイク11により集音され、AD変換部12によりデジタル信号に変換された音データを音声抽出部13aに出力するとともに、無線通信部214に出力する。無線通信部214は、制御部213が出力した音データをコアユニット220に送信するとともに、コアユニット220から生活音データ等の音データを受信して制御部213に出力する。
【0117】
その他の構成及び動作については実施例1に示したイヤピース10と同様であるので、同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。また、イヤピース210Lの内部構成も
図12に示したイヤピース210Rと同様であるので説明を省略する。
【0118】
次に、
図12に示したコアユニット220の内部構成について説明する。
図14は、
図12に示したコアユニット220の内部構成を示すブロック図である。
図14に示すように、コアユニット220は、制御部223、無線通信部224、電源部25、記憶部26及びタッチパネルディスプレイ27を有する。
【0119】
無線通信部224は、イヤピース210R及び210Lや外部の装置と無線通信を行う通信ユニットである。無線通信部224は、イヤピース210R及び210Lから受信した音データを制御部223に出力するとともに、制御部223が出力した音データをイヤピース210R及び210Lに送信する。
【0120】
制御部223は、その内部に聴覚補完処理部223aと、イヤピース出力処理部23cと、録音管理部23dと、充電管理部23eと、通信管理部23fとを有する。聴覚補完処理部223aは、イヤピース210R及び210Lにより集音された音データから利用者の聴覚を補完する聴覚補完情報を生成する点が実施例1と異なる。その他の構成及び動作については実施例1に示したコアユニット20と同様であるので、同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。
【0121】
上述してきたように、本実施例3に係る聴覚補完システムは、イヤピース210R及び210Lで集音した音データから音の到来方向や話者の感情等を聴覚補完情報として抽出し、表示部27aに表示制御することにより、利用者の聴覚を視覚によって効率的に補完し、もって利用者に対して快適な生活環境を提供することができる。
【0122】
また、生活音等についても対応する周波数帯の音データを抽出して増幅し、イヤピース210R及び210Lから出力することができるので、利用者は音声以外の音データについても聞き取ることが可能となり、もって利用者に対して快適な生活環境を提供することができる。
【0123】
また、聴覚補完システムが利用される際の周辺状況を判定し、周辺状況に応じた周波数帯の音データを抽出して増幅し、イヤピース210R及び210Lから出力することができるので、利用者は状況に応じて種々の音を聞き取ることが可能となる。
【0124】
なお、上記実施例1、2及び3に示した構成及び動作は、本発明を限定するものではなく、適宜変更して実施する事ができる。例えば、上記実施例1及び3では、イヤピースとコアユニットとが無線通信する構成を例示したが、イヤピースとコアユニットとを有線接続して通信するよう構成してもよい。
【0125】
また、上記実施例1及び3では、音の到来方向や話者感情を表示により報知する構成を例示したが、これらをイヤピースからの音出力により報知することもできる。音の到来方向を音により報知する場合には、左右のイヤピースのいずれかから信号音を出力すればよい。また、話者感情を音により報知する場合には、話者感情が平静であると識別したならば音声をそのまま出力し、話者感情が興奮状態や沈静状態にあると識別したならば識別結果に合わせた信号音を音声に重畳して出力すればよい。このように音の到来方向や話者感情の音出力による報知は、実施例2に示したように表示部を持たない構成でも利用することができる。
【0126】
また、上記実施例1及び3では、イヤピースにマイクや音声抽出部等を設け、イヤピース単体でも補聴器として利用可能となるよう構成した場合を例示したが、イヤピースが音出力のみを行う構成としてもよい。この場合には、コアユニットの音声フィルタを常にオン状態とし、イヤピースはコアユニットから受信した音データをそのまま出力することとなる。